説明

電気化学キャパシタ

【課題】 有機系電解液を用いた電気化学キャパシタにおいて、充放電特性及び静電容量を高めるために好適な細孔構造を有する分極性電極を採用した電気化学キャパシタ、及び分極性電極用活性炭の製造方法を提供する。
【解決手段】 活性炭を含む組成物を成形してなる分極性電極と、有機系電解液と、を用いた電気化学キャパシタであって、前記活性炭は、(直径40〜100nmの細孔容量)/(BJH全細孔容量)が0.1以上であることを特徴とする電気化学キャパシタ。および、活性炭材料を含炭酸ガス低温プラズマ処理する分極性電極用活性炭の製造方法であって、前記含炭酸ガスプラズマ処理は、プラズマ印加電力が60〜100W、プラズマ処理時間が10〜30分であることを特徴とする分極性電極用活性炭の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性炭、その製造方法、及びこの活性炭を用いて成形され、特に高電流充放電特性に優れた電気化学キャパシタ(特に、電気二重層キャパシタ)用分極性電極に関する。
【背景技術】
【0002】
電気二重層キャパシタを含む電気化学キャパシタ(以下キャパシタ)は、高出力密度と優れたサイクル特性を示すエネルギー貯蔵デバイスであり、ハイブリッド自動車・燃料電池自動車の補助電源や通電加熱触媒(EHC)電源への応用にむけ高容量化が期待され、そのためには高充放電電流でのキャパシタ特性の向上が不可欠である。
【0003】
キャパシタの高容量化に関する研究開発はこれまで様々行われているが(例えば、特許文献1)、高充放電電流に対応するハイパワーキャパシタ電極の技術開発はこれまで主に電流取出部の低抵抗化または電極の存在しないデスボリュームの低減(例えば、特許文献2)等のキャパシタユニットとしての技術開発が主流であった。電極材料である炭素組成物の技術開発による高充放電電流キャパシタ特性の向上としてはたとえば特許文献3などに見られる。
【0004】
ハイブリッド自動車・燃料電池自動車の補助電源や通電加熱触媒(EHC)電源へのキャパシタの適用には、高充放電電流、特に25mA/平方センチメートル以上、好ましくは50mA/平方センチメートル以上の高充放電電流におけるキャパシタ電極静電容量増大が必要である。
【0005】
プラズマ処理を用いる類似技術としては、特許文献4、5が挙げられるが、これらは窒素ガスもしくはフッ素化合物を用いたものである上、高充放電電流特性の向上については触れられていない。
【0006】
電気二重層キャパシタ電極静電容量は活性炭の表面積の大きさに依存する。活性炭の表面積はほとんどが有するミクロ孔によるものであり、電解質イオンは活性炭粒子内部のミクロ孔で電気二重層を形成する。しかし高充放電電流時においては活性炭粒子内部のミクロ孔には電解質イオンが到達できず静電容量の低下が起こる。
【0007】
活性炭粒子内部の細孔へと電解質イオンを到達させるためにはその細孔が粒子外の電解液に通じている必要があるが、通常の活性炭はしばしばインクボトル型の細孔構造を有しており(図1の左図)、特に高電流充放電において電解質イオンの移動を妨げる。
【0008】
そのため活性炭は高い比表面積、多くのミクロ孔を有し、活性炭内部に通じるメソ孔およびマクロ孔を有していることが望まれる。しかしメソ孔およびマクロ孔が増大すると、活性炭は炭素部分の減少から来る密度の低下を示し、電極の単位体積あたりの静電容量の低下と電極の電気伝導性の低下を導くため好ましくない。
【0009】
高電流充放電において大きな静電容量を発揮するには、インクボトル構造を有さず、つまり粒子の表面付近において大きな開口部を有しそれに連続してミクロ細孔を有する構造が求められる。またその大きな開口部(メソ孔、マクロ孔)は必要最小限の量であることが求められる。
【0010】
メソ細孔をもつ炭素系細孔体としてカーボンエアロジェルが知られているが、カーボンエアロジェルのメソ孔径は30nm程度であり、比表面積、細孔容量共に活性炭を下回り、電気二重層キャパシタ電極としての要求特性を十分に満足していない。
【0011】
また活性炭素繊維に対してメソ孔を導入し、静電容量の向上をした例として、特許文献6が挙げられるが、酸化剤や高温での処理を必要とする。
【0012】
同様に活性炭にメソ孔を導入した例として特許文献3が挙げられるが、これは水系電解液における電気二重層キャパシタの例である。有機系電解液では電解質イオンの大きさは水系電解液と比較して2〜4倍になるため有機系電解液を利用した電気二重層キャパシタにおいてはより大きなメソ細孔を導入する必要がある。水系電解液に比べて有機系電解液による電気二重層キャパシタの印加可能電圧は約3倍であり、蓄積できる電荷量(印加電圧の2乗に比例)も高い。しかしながら、有機系電解液の電気二重層キャパシタの充放電特性及び静電容量を高めるためには、分極性電極が有機系電解液に特有の細孔構造を有する必要がある。
【0013】
他の従来技術として、特許文献7、8が挙げられる。特許文献7には、(メソ孔容積)/(全細孔容積)=0.02〜0.35にすることが記載されている(請求項1等参照)。特許文献8には、(メソ孔容量)/(全細孔容量)=25%〜50%にすることが記載されている(請求項3等参照)。しかしながら、いずれの文献でも「メソ孔」は、直径が2〜50nmの細孔であり、直径40〜100nmの細孔の存在比率については着目していない。
【0014】
【特許文献1】特開平11−008167号公報
【特許文献2】特開2000−200738号公報
【特許文献3】特開2006−229069号公報
【特許文献4】特開2003−092235号公報
【特許文献5】特開2004−002105号公報
【特許文献6】特開2005−060877号公報
【特許文献7】特開2003−282369号公報
【特許文献8】特開2004−221523号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上記問題点を解決し、有機系電解液を用いた電気化学キャパシタにおいて、充放電特性及び静電容量を高めるために好適な細孔構造を有する分極性電極を採用した電気化学キャパシタ、及び分極性電極用活性炭の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するため、本発明は以下の構成を有する。
活性炭を含む組成物を成形してなる分極性電極と、有機系電解液と、を用いた電気化学キャパシタであって、
前記活性炭は、(直径40〜100nmの細孔容量)/(BJH全細孔容量)が0.1以上である
ことを特徴とする電気化学キャパシタ。
【0017】
本発明の構成によれば、上記条件の活性炭を分極性電極に採用することで、比較的大きな有機系電解液の電解質イオンでも十分に活性炭の細孔内に侵入することができ、充放電特性及び静電容量を高めるために好適な細孔構造を有する分極性電極を得ることができる。(直径40〜100nmの細孔容量)/(BJH全細孔容量)が0.1以上の条件は、市販の活性炭では実現されておらず(表1参照)、本発明による含炭酸ガス低温プラズマ処理をしないとこの条件は達成できない。この条件は、市販の活性炭に比べて、細孔入り口の直径が40〜100nmである細孔の割合が高いことを示している。これは、プラズマ処理により表面が削られて、市販の活性炭にあるようなボトルネックが削られているためと考えられる(図1の右図参照)。本発明の条件にした活性炭を、有機系電解液の電気二重層キャパシタに用いることで、未処理の活性炭を用いたものに比べて静電容量が1.5倍程度向上する(表2参照)。これは、直径が40〜100nmの細孔の存在比率が高いことで、有機系電解液の電解質イオンと分極性電極との反応性が高まるためと考えられる。なお、(直径40〜100nmの細孔容量)及び(BJH全細孔容量)はいずれもBJH法(後述)により測定されたものである。
【0018】
また、本発明は以下の構成を有する。
活性炭材料を含炭酸ガス低温プラズマ処理する分極性電極用活性炭の製造方法であって、
前記含炭酸ガスプラズマ処理は、プラズマ印加電力が60〜100W、プラズマ処理時間が10〜30分である
ことを特徴とする分極性電極用活性炭の製造方法。
【0019】
本発明の条件で活性炭を処理することにより、上述のような市販の活性炭には無い細孔構造を得ることができ、充放電特性及び静電容量を高めるために好適な細孔構造を有する分極性電極を得ることができる。
【0020】
また、好ましい実施態様として以下のものが有り得る。
前記電気化学キャパシタは、電気二重層キャパシタである。
前記活性炭は、含炭酸ガス低温プラズマ処理されたものである。
前記(直径40〜100nmの細孔容量)/(BJH全細孔容量)は、窒素吸脱着法により測定されたものである。
【発明の効果】
【0021】
上記構成を採用したことにより、本発明は、有機系電解液を用いた電気化学キャパシタにおいて、充放電特性及び静電容量を高めるために好適な細孔構造を有する分極性電極を得ることができ、それにより、充放電特性及び静電容量が高い電気化学キャパシタを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態の一例について説明する。なお、本発明において、活性炭材料とは、「炭酸ガス存在下での低温プラズマ処理が施される活性炭の材料」を意味し、「炭酸ガス存在下での低温プラズマ処理が施された活性炭」と区別している。
【0023】
本発明において、活性炭材料は、炭素質材料を炭化、賦活して得られるものが望ましい。炭素質材料としては、木材、鋸屑、木炭、ヤシ殻等の果実殻、果実種等の植物系、泥炭、亜炭、褐炭、無煙炭等の石炭、石油ピッチ、石炭ピッチ等のピッチ、コークス、コールタール、石油タール等のタール、石油蒸留残渣等の鉱物、木綿、レーヨン等のセルロース系繊維、フェノール樹脂、ポリビニルアルコール等の合成ポリマー等の公知の材料が用いられ、これらの炭素質材料を炭化、賦活することによって活性炭材料が得られる。炭素質材料は加熱乾留により炭化され、その後、薬剤賦活、あるいは水蒸気、炭酸ガス、酸素ガス、燃焼排ガス、これらの混合ガスによるガス賦活法によって活性炭材料とすることができる。このようにして得られる活性炭材料の形状は、特に制限はなく任意の形態を採ることができる。
【0024】
次に活性炭材料に含炭酸ガス低温プラズマ処理を施す。ここでいう「低温」とは、20℃〜450℃、好ましくは50〜300℃の条件下で実施されることを意味する。含炭酸ガス低温プラズマ処理は、希釈剤としては不活性ガスやメタン等が用いられる。不活性ガスとしてはアルゴンガス、窒素ガス等が好適に用いられる。炭酸ガス:希釈剤の混合比としては、容量比で1:9〜9:1が好ましく、より好ましくは5:5〜8:2である。
【0025】
炭酸ガスのプラズマ雰囲気に対する濃度は10体積%〜90体積%、好ましくは50体積%〜80体積%の範囲であることが望ましい。10体積%以下では本発明の効果が充分に得られず、90体積%以上では充分なプラズマ出力が得られず好ましくない。プラズマ印加電力は、60〜100Wが好ましい。プラズマ印加電力が5Wより低いと本発明の効果が充分に得られず、一方、100Wよりも高いと燃焼に近い反応が生じ好ましくない。
【0026】
プラズマ処理装置は、ガス供給口とガス排出口とを有する反応容器内に高周波電源と接続する電源と、この電極に対向して用けられた支持台上に活性炭材料がセットされる。このプラズマ処理装置において、含炭酸ガス低温プラズマ処理の場合、ガス供給口から希釈剤によって希釈された炭酸ガスが導入される。低温プラズマ処理時において反応容器内は、1〜140Paが好ましく、より好ましくは10〜120Pa、さらに好ましくは20〜100Paである。反応容器内の減圧条件が1Paよりも低いと反応容器内の気体分子存在数が少なく、プラズマ発生効率が低下するおそれがあり、一方、140Paよりも高いと電子の平均自由行程が小さくなり、プラズマ発生効率が低下するおそれがある。
【0027】
炭酸ガス存在下における熱賦活処理では700℃以上の高温が必要であるが、本発明では50℃〜300℃の低温で実施するのが望ましく、炭素材料の高温燃焼による重量減少を抑制できる。プラズマ処理時間は10〜30分が好ましい。5分未満では本発明の効果が十分に得られず、200分以上では過剰のプラズマ処理により活性炭伝導度が低下し、活性炭の強度も低下し好ましくない。
【0028】
上記したプラズマ処理によって得られる活性炭は、炭酸ガス存在下でのプラズマ処理の実施により、比表面積が増大する。得られる活性炭のBET比表面積は1500m/g以上3300m/g以下、より好ましくは2000m/g以上3300m/g以下の範囲であることが望ましい。BET比表面積に関しては1500m/g未満ではプラズマ処理によって得られる活性炭を用いて成形されるキャパシタ電極が充分な静電容量を得ることが出来ず、BET比表面積が3300m/gを超えると活性炭そのものの密度が低下し、相対的に電極材の密度低下からキャパシタの単位体積あたりの静電容量が低下する問題があるため好ましくない。
【0029】
活性炭の細孔はその直径が2nm以下のものをミクロ孔、2〜50nmのものをメソ孔、50nm以上のものをマクロ孔と称している。ミクロ細孔容量についてはBET法により、メソ孔(2〜50nm)、マクロ孔(2〜200nm)及び直径40〜100nmの細孔の細孔容量についてはBJH法により解析を行った。
【0030】
細孔構造の測定は、窒素吸脱着法により行う。窒素吸脱着法はサンプルを真空下に置き、ある気圧で窒素ガスを導入し、各気圧での吸着量をデータとして得るものである。その結果をBET法、BJH法などで解析するが、BET法は気圧が低いところの吸着現象を解析する方法で、ここで得られる細孔容量は「サンプルが窒素分子に一層で覆われた時の吸着している窒素の量」である。BJH法はこれに対してより気圧が高いところでの吸着現象を解析するもので「細孔内部での窒素の毛管凝縮現象を基にした解析」法である。
【0031】
活性炭のようなミクロ孔が豊富な物質に対しては、BET法の細孔容積はミクロ孔の細孔容量を示し、BJH法の細孔容量はメソ〜マクロ孔の細孔容量をそれぞれ示す。なお、BJH法は、メソ孔及びマクロ孔の解析法としてIUPACで推奨されている。BJH法の解析により2〜200nmの細孔径の範囲における細孔容量の分布曲線が得られる。ここから特定の細孔径範囲(例えば、40〜100nm径)を持つ細孔容量を求める。また、2〜200nmの細孔容量の和を「BJH全細孔容量」としている。
【0032】
上記のプラズマ処理によって得られる活性炭はプラズマ処理前後でBET比表面積に大きな変化を生じず、BJH法メソ細孔容量が増大する。その結果から新たに細孔を生じたのではなく、既存の細孔が拡張されたと言える。その一方でBET全細孔容量に変化が見られないことからミクロ孔容量からメソ孔への拡張が起きたのではないと言える。これらの結果から活性炭材料が元来有していたインクボトル状細孔のネック部分が破壊され粒子の表面付近において大きな開口部を活性炭が得られたことが分かった(図1参照)。
【0033】
BJH法による細孔容量(40-100nmの細孔直径を持つ細孔)の全細孔容量に対する比は0.1以上になるのが好ましい。これより小さい場合において活性炭は未だ多くのインクボトル状細孔を有しており、電極の単位体積あたりの静電容量の低下と電極の電気伝導性の低下を導くため好ましくない。
【0034】
上記のようにして得られる活性炭と、導電材、結合材から電気化学キャパシタ用分極性電極が得られる。該分極性電極は、例えば、前記活性炭と導電材とポリテトラフルオロエチレン等の結合材とをアルコールの存在下で混練してシート状に成形し、乾燥した後導電性接着剤等を介して集電体と接合させることによって得られる。また、該活性炭と導電材と結合材と溶媒を混合してスラリーとし、集電体金属箔の上にコートし、乾燥して集電体と一体化された電極を得ることもできる。
【0035】
導電材としては、カーボンブラック、天然黒鉛、人造黒鉛、酸化チタン、酸化ルテニウム等の粉末が用いられる。これらのうち、少量でも導電性を向上させる効果が大きいことから、カーボンブラックの1種であるケッチェンブラック又はアセチレンブラックを使用するのが好ましい。
【0036】
分極性電極中のカーボンブラック等の導電材の配合量は、導電性を向上させられるように、該活性炭との合計量中5質量%以上、特には10質量%以上配合するのが好ましい。また、該活性炭の配合割合が減ると分極性電極の容量が減るため分極性電極中の導電材の配合量は5〜40質量%、特に10〜30質量%とするのが好ましい。
【0037】
スラリーに混合する結合材は、例えばポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、フルオロオレフィン/ビニルエーテル共重合体架橋ポリマー、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、又はポリアクリル酸等が使用できる。分極性電極中の結合材の含有量は、活性炭、カーボンブラック等の炭素材料と結合材との合計量中0.5〜20質量%とするのが好ましい。結合材の量が0.5質量%未満であると電極の強度が不足し、20質量%超であると電気抵抗の増大や容量の低下が起きるためである。電極の容量と強度のバランスから、結合材の配合量は0.5〜10質量%とするのがより好ましい。
【0038】
本発明において、上述の分極性電極を正極、負極の両極に用いて電気二重層キャパシタを構成することができるが、負極のみを分極性電極とし正極として金属酸化物等の電池活物質を主体とする非分極性電極を用いたり、正極のみを非分極性電極とし負極にリチウム金属、リチウム合金、又はリチウムイオンを可逆的に吸蔵、放出しうる炭素材料を主成分とする非分極性電極を用いたりすることもできる。
【0039】
これらの電気二重層キャパシタのうち、負極にリチウムイオンを可逆的に吸蔵、放出しうる炭素材料を用い、正極に上述の分極性電極を用いた電気二重層キャパシタは、充放電サイクル耐久性と安全性に優れており、作動電圧を高くでき、かつ容量が大きいという特徴があり特に好ましい。
【0040】
非分極性電極の主材料である、リチウムイオンを吸蔵、放出しうる炭素材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛、黒鉛化メソカーボン小球体、黒鉛化ウィスカー、気相成長させた黒鉛化炭素繊維、フルフリルアルコール樹脂の焼成品、ノボラック樹脂の焼成品が好ましく使用できる。
【0041】
電極の集電体は電気化学的、化学的に耐食性のある導電体であればよい。低温プラズマ処理によって得られる活性炭を主成分とする電極の集電体としては、ステンレス鋼、アルミニウム、チタン、タンタル、ニッケル等が用いられる。なかでも、ステンレス鋼とアルミニウムが性能と価格の両面で好ましい集電体である。リチウムイオンを吸蔵させた炭素材料を主成分とする非分極性電極の集電体としては、ステンレス鋼、銅又はニッケルが好ましく使用できる。
【0042】
また、集電体の形状は箔でもよいし、二次元構造を有するニッケルやアルミニウムの発泡金属やステンレス鋼のネットやウールでもよい。
【0043】
本発明の電気化学キャパシタの電解液は特に限定されるものでなく、従来公知あるいは周知の非水系電解液を使用できる。溶媒としては、電気化学的に安定なプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、γ―ブチロラクトン、スルホラン、3−メチルスルホラン、1,2−ジメトキシエタン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、又はジメチルカーボネートから選ばれる1種以上からなる溶媒が好ましい。
【0044】
本発明において正極と負極の間に介装されるセパレータとしては、例えばポリプロピレン繊維不織布、ガラス繊維不織布等が好適に使用できる。
【0045】
本発明の電気化学キャパシタは、一対のシート状電極の間にセパレータを介して電解液とともに金属ケースに収容したコイン型、一対の正極と負極を間にセパレータを介して巻回してなる巻回型、多数の電極がセパレータを介して積み重ねられた積層型等いずれの構成もとることができる。
【0046】
本発明の低温プラズマ処理によって得られる活性炭は処理前後でのBET比表面積や全細孔容量の変化から、新しく細孔が形成されたのではなく活性炭粒子の表面側のみが削られたといえる。これにより活性炭材料が有していた細孔構造からボトルネックを有さない細孔構造に変えたといえる。この活性炭を用いて成形されるキャパシタ電極は、高充放電電流、特に25mA/平方センチメートル以上、好ましくは50mA/平方センチメートル以上の高充放電電流におけるキャパシタ電極静電容量を大幅に向上させることができる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例によってさらに詳細に説明する。
本発明において、静電容量は次の方法により測定した。到達電圧3.0Vまで電極表面積あたり15mA/平方センチメートル、25mA/平方センチメートル及び50mA/平方センチメートルでそれぞれ定電流充電し、充電電流と同じ電流値で定電流放電する。その際1.8Vから1.5Vまでの放電傾きより静電容量を求めた。
【0048】
[実施例1]
以下に本発明における低温二酸化炭素プラズマ処理方法を示す。活性炭材料粉末(関西熱化学、商品名MSP−20)をプラズマCVD装置(Samco製、商品名BP−1)にて処理をした。炭酸ガス及びアルゴンガスを総流量50ml/分で流し、67Paに減圧後、室温にて低温プラズマ処理を10分間施した。炭酸ガス濃度は80体積%とした。プラズマ印加電力を70Wとした。この活性炭の窒素吸脱着測定の結果を表1に示した。
以下に本発明における電気二重層キャパシタ用電極の作成法を示す。プラズマ処理を施した活性炭粉末およびカーボンブラック(電気化学工業、商品名AB−3)、ポリテトラフルオロエチレン粉末(ダイキン、商品名F−104)を重量比8:1:1で取り、エタノール0.3mlを加えながら混練した。混練物を0.1g採り、直径16mmのペレット形成器を用いて10メガパスカルで圧縮成型し、330℃で5時間真空焼成し、直径16mm、厚さ0.6mmの成形電極を作製した。
成形電極およびセパレータを電解液中にて40分間脱気した後、コイン型2端子セルにて定電流充放電試験測定を行った。セパレータにはガラス繊維濾紙(ADVANTEC、商品名GA−55)、電解液には濃度1モル/Lのトリエチルメチルアンモニウムテトラフルオロボレート/プロピレンカーボネート溶液を用いた。この電気二重層キャパシタの静電容量測定の結果を表2に示す。
【0049】
[比較例1−1]
実施例1おいて、プラズマ処理を施していない活性炭粉末を使用した以外は、実施例1と同様に行った。窒素吸脱着測定の結果を表1に示し、静電容量の結果を表2に示す。表2中、増大率とはプラズマ処理していない活性炭を基準にしてその増大率を示している。
【0050】
[比較例1−2]〜[比較例1−4]
プラズマ処理を施していない市販の活性炭粉末についての、窒素吸脱着測定の結果を表1に示す。比較例1−2は商品名「白鷺特製」、比較例1−3は商品名「RP−15」、比較例1−4は商品名「catlerBFG」の市販の活性炭である。
【0051】
[比較例2−1]
実施例1においてプラズマ処理を120分施した以外は実施例1と同様に行った。窒素吸脱着測定の結果を表1に示し、静電容量測定の結果を表2に示す。
【0052】
[比較例2−2]
実施例1においてプラズマ印加電力を10Wとした以外は実施例1と同様に行った。窒素吸脱着測定の結果を表1に示し、静電容量測定の結果を表2に示す。
【0053】
[比較例2−3]
実施例1においてプラズマ処理を120分、プラズマ印加電力を10Wとした以外は実施例1と同様に行った。窒素吸脱着測定の結果を表1に示し、静電容量の結果を表2に示す。
【0054】
【表1】


【表2】

【0055】
表1から明らかなように、実施例1の活性炭の細孔容量比(細孔直径40-100nm)は0.120であり、他の比較例に比べて際立って高いことがわかる。なお、細孔容量比(細孔直径40-100nm)=(直径40〜100nmの細孔容量)/(BJH全細孔容量)である。この細孔容量比(細孔直径40-100nm)は、他の未処理の市販の活性炭(比較例1−1〜比較例1−4)や、他のプラズマ処理条件による活性炭(比較例2−1〜比較例2−3)では実現できないことがわかる。
【0056】
また、表2からわかるように、実施例1の活性炭を分極性電極に用いた電気二重層キャパシタは、未処理の比較例1−1の活性炭を用いたものに比べて、静電容量が1.43〜1.64倍(電流密度15〜50mA/平方センチメートル)となり、高い性能を有することがわかる。これは、実施例1の活性炭の細孔容量比(細孔直径40-100nm)が0.1以上であり、有機系電解液に好適な直径40-100nmの細孔が多いためである。
【0057】
以上、本発明の実施形態の一例を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇において各種の変更が可能であることは言うまでもない。

【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】活性炭の細孔構造を表す図。左図はプラズマ処理前、右図はプラズマ処理後。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性炭を含む組成物を成形してなる分極性電極と、有機系電解液と、を用いた電気化学キャパシタであって、
前記活性炭は、(直径40〜100nmの細孔容量)/(BJH全細孔容量)が0.1以上である
ことを特徴とする電気化学キャパシタ。
【請求項2】
前記電気化学キャパシタは、電気二重層キャパシタである
ことを特徴とする請求項1記載の電気化学キャパシタ。
【請求項3】
前記活性炭は、含炭酸ガス低温プラズマ処理されたものである
ことを特徴とする請求項1または2記載の電気化学キャパシタ。
【請求項4】
前記含炭酸ガス低温プラズマ処理は、プラズマ印加電力が60〜100W、プラズマ処理時間が10〜30分である
ことを特徴とする請求項3記載の電気化学キャパシタ。
【請求項5】
前記(直径40〜100nmの細孔容量)/(BJH全細孔容量)は、窒素吸脱着法により測定されたものである
ことを特徴とする請求項1〜4いずれか記載の電気化学キャパシタ。
【請求項6】
活性炭材料を含炭酸ガス低温プラズマ処理する分極性電極用活性炭の製造方法であって、
前記含炭酸ガスプラズマ処理は、プラズマ印加電力が60〜100W、プラズマ処理時間が10〜30分である
ことを特徴とする分極性電極用活性炭の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−114356(P2010−114356A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−287561(P2008−287561)
【出願日】平成20年11月10日(2008.11.10)
【出願人】(304023318)国立大学法人静岡大学 (416)
【Fターム(参考)】