説明

電気化学的疲労センサシステムおよび方法

【課題】基材中の成長亀裂に関する疲労状態を、非破壊にて、かつ簡便に測定する方法、および電気化学的センサ装置を提供すること。
【解決手段】装置は、ステンレス製メッシュから形成される電極を含み、接着剤層を塗布された下面および接着剤層に接着された剥離紙を有し、接着剤層は、接着剤層からの剥離紙の分離で露出され、基材に接着剤層を接触させることにより、装置を基材に固定し、更に電解液を含むと共に基材に部分的に囲まれるキャビティを形成して、接着剤は、電解液のキャビティからの漏出を防ぐために、装置の底面と基材との間を密封し、基材がサイクル荷重を受けるときに、基材における成長亀裂の疲労状態は基準電極および基材との間に測定電流に従って判断される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学的疲労センサ装置、およびそれを用いたシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図1は、従来技術である、電気化学的疲労センサ(EFS)装置10の概念図を示す。EFS装置10は、疲労亀裂が活発に成長しているかどうかを判断するための非破壊疲労亀裂検査方法を行うために用いられる。例えば、EFS装置10は、検査対象の検査検体あるいは構造体の疲労危険箇所に適用される。EFS装置10は、電解液12、センサ14、および構造体(基材16)とセンサ14との間に一定の分極電圧を印加するための定電位電解装置(図示せず)から構成される。
【0003】
EFS装置10は、電気化学的原理で作動する。構造体は、検査する表面に保護用の不動態皮膜を生成するため、陽極に分極される。構造体および電極の間の分極電圧は、セルに直流基本電流を生じる。EFSによって検査されている構造体がサイクル(繰り返し)応力を受ける場合、セルを流れる電流は機械的な応力状態の変動に対する複雑な関係によって変動する。従って、交流電流は、直流基本電流に重畳される。構造体中の疲労損傷の状態のみならず、構造体の材料および負荷状況に基づき、セルの過渡電流は、疲労損傷の状態に関する情報を提供する。
【0004】
構造体のEFS検査の間に引き起こされる電気化学的状態は、材料の表面に安定な不動態酸化皮膜を生じるように設計されている。サイクル荷重の間、疲労プロセスは、非常に微細なスケールの微小可塑、および変形局部化を引き起こす。サイクル滑りおよび不動態化プロセスの相互作用は、不動態皮膜の一時的かつ繰り返しの変質を引き起こす。これらの変質は、分解および再不動態化プロセスを含め、過渡電流を引き起こす。
【0005】
EFS過渡電流は複雑であり、金属およびEFS電解液の界面の電気二重層におけるサイクル変化に関係し、通常、機械的な応力のそれと同一周波数を持つが、検査される個別の金属に応じて複雑な位相関係を有する加えて、サイクルすべりによる金属表面上の酸化皮膜の破壊は、可塑効果がサイクルにおける引っ張りおよび圧縮のいずれのときも発生するので、弾性電流の2倍の周波数を有する過渡電流の追加成分を引き起こす。疲労損傷は、度重なるサイクルおよび亀裂形成と共に進行し、亀裂は、バックグラウンド微小可塑は発生するが、未だ亀裂は形成されてない疲労サイクルにおける別の部分で局部可塑を誘発する。亀裂により誘発された可塑は、その結果、高調波成分を過渡EFS電流に導入する。これらの各種の電流成分の解析および較正によって、疲労亀裂成長が測定できる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
現存のEFS装置は、図1に示すように、多数の欠点を有する。例えば、既知のEFS装置は、基材に取り付けると共に電解液で満たすために扱いが容易でない。既知のEFS装置は感度も低く、そのEFS装置に生成されるEFS信号を分析する信号処理技術も不十分に見える。本発明は、従来技術のこれらの欠点を解消することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、基材における成長亀裂の疲労状態を測定する方法に関する。電気化学的センサ装置は、ステンレス鋼メッシュから形成される電極を含み、この電気化学的装置は、基材に接触させる下面を有する。下面は、接着剤層を塗布され、剥離紙が接着剤層に接着されている。剥離紙は接着剤層から分離され、接着剤層を露出する。電気化学的センサ装置は、接着剤層を基材に接触させることにより基材に固定し、これによって、基材に部分的に囲まれる電解液キャビティを形成する。接着剤は、電解液のキャビティからの漏出を防ぐために、装置の下面と基材との間を密封し、キャビティは、電解液を充填される。基材がサイクル荷重を受けるとき、基材における成長亀裂の疲労状態は、基準電極および基材の間の測定電流によって判断される。
【0008】
別の見地によれば、本発明は、基材における成長亀裂の疲労状態を測定するための電気化学的センサ装置に関する。システムは、実質的に電解液を透過しないステンレス鋼メッシュから形成される基準電極を含む。基準電極は、基材の側を向く下面、および基材の反対側を向く上面を有する。少なくとも一つの開口がメッシュ材に設けられ、この少なくとも一つの開口は電解液が基準電極を流れることができるのに十分な大きさである。第1電解液キャビティは、基材および基準電極の下面との間に形成される。第2電解液キャビティは、基準電極の上面および装置のカバーとの間に形成される。電解液注入口は、第1電解液キャビティの壁に形成され、排出口は、第2電解液キャビティの壁に形成される。基材がサイクル荷重を受けるとき、センサは基準電極および基材の間の電流を測定する。
【0009】
更に別の見地によれば、本発明は、基材において疲労が疑われる箇所における成長亀裂の疲労状態を測定するための方法に関する。第1基準電極を含む第1電気化学的センサ装置が提供され、第2基準電極を含む第2電気化学的センサ装置も提供される。第1電気化学的センサ装置は、基材において疲労が疑われる箇所に位置決めされ、基材がサイクル荷重を受けるときに、第1基準電極および基材間の第1電流信号を測定する。第2電気化学的センサ装置は、基材において疲労亀裂がありそうでない箇所に位置決めされ、基材がサイクル荷重を受けるときに、第2基準電極および基材間の第2電流信号を測定する。疲労が疑われる箇所における成長亀裂の疲労状態は、第1および第2の電流信号からの情報を比較することによって判断される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図2A〜2Cは、本発明に基づくEFS装置100を示す。センサは、一つの実施形態において、ステンレス鋼304から作られるメッシュである基準電極110を含む。センサは、一つの実施形態において、圧感接着剤を両面に塗布した発泡体から各々作られる切片120、130を含む。一つの実施形態において、切片120、130の各々は、5.08cm(2インチ)x 5.08cm(2インチ)平方、あるいは、それより小さい、面積を有する。剥離紙(図示せず)は、切片120の下面122上の接着剤に付着される。電解液注入口150は、切片120の壁に形成される。電解液注入口150は、注入チューブ160(例えば、プラスチック製ストロー)に結合される。排出口170は、切片130の壁に形成される。排出口170は、排出チューブ180(例えば、プラスチック製ストロー)に結合される。EFS装置100は、透明カバープレート190も含む。EFS装置100は、切片130の上面134に塗布されている接着剤にカバープレート190を接触させること、切片130の下面132に塗布されている接着剤に電極110の上面114を接触させること、および切片120の上面124に塗布されている接着剤に電極110の下面112を接触させること、により組み付けられる。
【0011】
一旦組み付けられると、EFS装置100は、基材における成長亀裂の疲労状態を測定するために基材に取り付ける準備完了である。上述の通り、切片120の下面122は、接着剤層を塗布され、剥離紙が接着剤層に接着している。基材にEFS装置100を取り付けるために、剥離紙を切片120の下面122の接着剤層から剥がし、切片120の下面122上の接着剤層を露出させる。EFS装置100は、次に接着剤層を基材に接触させることにより基材に固定され、これにより、下面を基材に、側面を切片120の壁に、および上面を電極110にそれぞれ囲まれる下部電解液キャビティを形成する。接着剤は、下部電解液キャビティからの電解液の漏出を防ぐため、切片120の下面122と基材とを密封する。EFS装置100は、下面を電極110に、側面を切片130の壁に、および上面を透明カバー190にそれぞれ囲まれる上部電解質キャビティも含む。一つの実施形態において、電極110を形成するために用いるステンレス鋼メッシュは、電解液を実質的に通さない。少なくとも一つの開口116(図2Cに示される)が、メッシュ材の中に設けられ、開口116は電解液が基準電極110を流れることができるのに十分な大きさである。
【0012】
EFS装置100が上述のように基材に固定された後、電解液が注入チューブ150を介して装置に、例えばポンプ等により、注入される。電解液は、最初に下部電解液キャビティを充填する。下部電解液キャビティが充填された後も、電解液は注入チューブ150を介して注入され、電解液は開口116を介して下部電解液キャビティから上部電解液キャビティに流入する。この工程は、上部電解液キャビティも充填される(例えば、電解液が排出チューブ180から流出し始める)まで続く。充填工程を完了すると、チューブ160、180が塞がれ、電極110の両側112、114は電解液によって覆われる。充填工程の間、EFS装置100の内部は、装置が電解液で満ちており、気泡がないことを確実にするため、透明カバー190を通して視覚的に観察される。一つの実施形態において、EFS装置100を充填するために使用する電解液は、以下である。
1.2MHBO+0.3MNa・10HO+0.24MNaMoO・2H
当業者にとって、他の電解液処方を用いることもできることは、明らかである。
【0013】
EFS装置100が設置され、充填された後、上述の通り、電極110および基材の間の電流を測定するために、定電位電解装置(図示せず)が、基準電極110および基材に結合される。基材がサイクル荷重を受けるとき、基材の成長亀裂の疲労状態は、基準電極110および基材の間の測定電流(EFS信号)に従って判断することができる。
【0014】
本発明のEFS技術は、非常に小さい亀裂(0.0127cm(0.005インチ))を検出する能力を有することと同様に疲労亀裂成長を検出することの可能性を提供するという点で、他の非破壊評価方法に勝るいくつかの利点を提供する。図3は、入り込み(イントルージョン)および突き出し(エクストルージョン)を形成する転位(ディスロケーション)蓄積のプロセスを示す。このような、亀裂成長の初期段階における、入り込みおよび突き出し並びに亀裂の形成は、本発明の電気化学的疲労センサで検出できる。
【0015】
実験室において、純粋な正弦関数の負荷が疲労試験サンプルに印加されるときに、二つの著しく目立つ周波数がEFS信号に含まれることが判明した。図4に示すように、0.025cm(0.01インチ)の成長亀裂を有する標本に関するEFSデータの高速フーリエ変換(FFT)は、1hzおよび2hzの周波数成分を含む。この1hz成分は弾性変形に起因し、2hz成分は局部塑性変形に起因する。亀裂が成長し亀裂成長率が増加すると、2hzの第2高調波の強度が増大する。高荷重状態であって疲労亀裂発生前の状態において、印加されている高荷重によって引き起こされる局部可塑は、同様の第2高調波を生じる。亀裂によって引き起こされる可塑、および荷重によって引き起こされる可塑を区別するために、二次的な基準センサが、用いられる。一次的および二次的センサの同時使用は、差動的EFSといわれる。
【0016】
本発明に基づく差動的EFSは、2台のEFSセンサ100を、一つは基準(R)として、一つは基材上の疲労が疑われる位置における成長亀裂の疲労状態を決定するための亀裂計測(M)センサとして、用いる。第1EFS装置100(例えば、Mセンサ装置)は、基材上で疲労が疑われる箇所に位置決めされ、基材がサイクル荷重を受けるとき、Cセンサ装置内の基準電極および基材間の第1電流信号が測定される。第2EFS装置100(例えば、Rセンサ装置)は、基材上で疲労亀裂があり得ない箇所に位置決めされ、基材がサイクル荷重を受けるとき、基準センサ装置内の基準電極および基材間の第2電流信号が測定される。疲労が疑われる箇所における成長亀裂の疲労状態は、第1および第2の電流信号からの情報を比較することによって判断される。より詳しくは、2つの信号を処理している使用信号を亀裂の存在を判断するために比較してもよい。図5は、M測定センサが、基準信号より大きな強度のピーク(亀裂の存在を示す)を提供することを示している。
【0017】
最後に、上述の実施形態に対してその広い発明概念から逸脱することなく変更を行うことができることは、当業者によって言うまでもないことである。したがって、本発明は開示された特定の実施形態に限定されるものではなく、添付の請求項によって規定されるように、本発明の精神と範囲の中における変更を含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】従来技術の基づく電気化学的疲労センサ装置の概念図である。
【図2A】本発明に基づくEFS装置の等角図である。
【図2B】図2Aに示すEFS装置の分解図である。
【図2C】図2Bに示すEFS装置の上面図である。
【図3】亀裂発生プロセスの初期を示す略図である。
【図4】本発明に基づく、0.025cm(0.01インチ)の成長亀裂に関するEFS装置のデータのFFTを示す。
【図5】本発明のEFS技術に基づいた、基準EFS装置および亀裂を計測しているEFS装置からの両信号の比較を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材における成長亀裂の疲労状態を判断する方法であって、
(a)ステンレス鋼メッシュから形成される電極を含むと共に前記基材と接触する下面を有し、前記下面には接着剤層が塗布され、更に前記接着剤層に剥離紙が接着されている電気化学的センサ装置を準備する手順と、
(b)前記剥離紙を前記接着剤層から分離して、前記接着剤層を露出させる手順と、
(c)前記接着剤層を前記基材に接触させることにより前記電気化学的センサ装置を前記基材に固定して、その結果前記基材によって部分的に囲まれる電解液キャビティを形成し、前記接着剤が前記キャビティからの電解液の漏出を防ぐために前記装置の底面と基材を密封する手順と、
(d)前記キャビティに前記電解液を充填する手順と、
(e)前記基材がサイクル荷重を受けているとき、前記基準電極と前記基材の間の測定電流に従って前記基材の前記成長亀裂の前記疲労状態を判断する手順とを含む方法。
【請求項2】
基材における成長亀裂の疲労状態を判断する電気化学的センサ装置であって、
(a)電解液に対して実質的に不透過性であるステンレス鋼メッシュ材料によって形成されると共に、前記基材の側を向く下面および前記基材の反対側を向く上面を有し、電解液が流れることができるのに十分な大きさであるである少なくとも一つの開口を有する基準電極と、
(b)前記基材および前記基準電極の下面との間に形成される第1電解液キャビティと、
(c)前記基準電極の上面および前記装置のカバーとの間に形成される第2電解液キャビティと、
(d)前記第1電解液キャビティの壁に形成された電解液注入口と、
(e)前記第2電解液キャビティの壁に形成された排出口と、
(f)前記基材がサイクル荷重を受けるとき、前記基準電極と前記基材との間の電流を測定するセンサと、を含む電気化学的センサ装置。
【請求項3】
基材上で疲労が疑われる箇所における成長亀裂の疲労状態を判断する方法であって、
(a)第1基準電極を含む第1電気化学的センサ装置を準備する手順と、
(b)第2基準電極を含む第2電気化学的センサ装置を準備する手順と、
(c)前記基材上で前記疲労が疑われる箇所に前記第1電気化学的センサ装置を位置決めし、前記基材がサイクル荷重を受けるとき、前記第1基準電極と前記基材との間の第1電流信号を測定する手順と、
(d)前記基材上で疲労亀裂が有り得ない箇所に前記第2電気化学的センサ装置を位置決めし、前記基材がサイクル荷重を受けるとき、前記第2基準電極と前記基材との間の前記第2電流信号を測定する手順と、
(e)前記第1および第2の電流信号からの情報を比較することによって、前記疲労が疑われる箇所における成長亀裂の疲労状態を評価する手順とを含む方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2009−510431(P2009−510431A)
【公表日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−533327(P2008−533327)
【出願日】平成18年5月16日(2006.5.16)
【国際出願番号】PCT/US2006/018833
【国際公開番号】WO2007/040651
【国際公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【出願人】(508095131)マテリアル テクノロジーズ インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】