説明

電気化学的酸化反応用の金属合金およびその製造方法

【課題】 本発明は、高度に合金化した担持または非担持白金−ルテニウム触媒を、対応する水和酸化物または水酸化物の同時析出とそれに続く還元によって製造する方法に関する。
【解決手段】 白金およびルテニウムの水和酸化物の同時析出は、一方は酸性、他方は塩基性としたこの2種類の金属の前駆体溶液を両水和酸化物が溶解できない中性に近いpHになるまで混合することで可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解酸化反応用の触媒に関し、特に、ダイレクトメタノール燃料電池のアノードの活性成分として好適な白金−ルテニウム二元合金に関する。
【背景技術】
【0002】
アノードにて純メタノールまたはメタノール水溶液の酸化が起こる膜式電気化学発電装置としてのダイレクトメタノール燃料電池(DMFC)が広く知られている。エタノールなどの他の軽質アルコールまたはシュウ酸などの酸化されやすい物質がダイレクト型燃料電池のアノードへの供給原料として使用できるが、本発明の触媒は、このようなあまり一般的ではない用途にも有用である。
【0003】
通常、水素(純粋もしくは混合物の状態)をアノード室で酸化させる他のタイプの低温度燃料電池と比較して、DMFCは、エネルギー密度の点で非常に有利で、かつ、水素よりも容易かつ迅速に充填できる液体燃料を使用することから、非常に魅力的である。その一方で、アルコール燃料の電解酸化は、反応速度が遅く、実利的な電流密度および電位で実行するには、精密に調整した触媒を要するという特徴がある。DMFCは、電解質としてイオン交換膜を用いており、こうした部材は100℃を大幅に超える温度には耐えられないため、温度条件が非常に厳しい。これがメタノールあるいは他のアルコール燃料の酸化速度にとっては非常にマイナスで、アノード用触媒を改良しようする試みは、少なくともこの20年間絶え間なく続けられてきた。
【0004】
当業者には周知であるが、軽質アルコールの酸化用の触媒物質としては、白金と他の貴金属との二元または三元複合物に由来するものが最適であり、とりわけ、触媒活性および安定性の点で白金−ルテニウム二元合金が好ましい。これらは既に触媒ブラックや担持触媒、例えば、活性炭担持触媒として使用されており、ほとんどの場合、電極構造、好ましくはイオン交換膜に接続するのに適したガス拡散電極構造に組み込まれている。
【0005】
しかしながら、白金とルテニウムを融合させて真の意味での合金とするのは非常に難しい。先行技術に開示されている典型的なPt:Ruが1:1の複合物でも、部分的に合金化された混合物しか得られないのが常である。先行技術による白金とルテニウムの二元複合物の製造方法は、通常はこの2種類の金属の適切な化合物の酸化物または水酸化物の混合粒子、あるいは金属コロイド粒子を炭素担体に共蒸着することから開始される。
【0006】
例えば、触媒を調製するひとつの実行可能な方法は、白金亜硫酸化合物HPt(SOOH(PSA)の調製を開示している米国特許3,992,512号の開示から開始される。すなわち、対応するRuSAを同様の経路で調製し、これら前駆体を過酸化水素と反応させ、炭素担体に吸着させてから還元する。このプロセスでは、硫黄および/または非晶質酸化物相を含む合金触媒が生成されることが多い。
【0007】
Bonnemann等が、有機溶剤中で界面活性剤を用いて外殻を安定化させたPtとRuの混合コロイド粒子を基にした方法を開示している(Angew.Chem.,Int.Ed.Engl.1991,30,804)。しかしながら、コロイド粒子を担体に吸着させた後に、界面活性剤を除去するために「反応アニーリング処理」が必要である。この処理は非常に複雑で、かつアニーリング中に発火する危険がある。従って、商業化に向いているとはいえない。
【0008】
Lee他によるJ.Electrochem.Soc,2002,149(10),A1299では、THF中で金属塩化物をLiBHを用いて還元して合金コロイド粒子を生成し、炭素上に堆積させるという新しい方法を開示している。この方法は、手順が複雑でかつ有毒な有機溶剤を使用することに加え、相当量の非晶相を有する触媒が生成される。
【0009】
上記の欠点に加え、これら先行技術の方法は、望ましい特性を有する触媒が得られないことがあり、また、他にも制約を受けることがある。当技術分野では周知だが、メタノール酸化用の好ましいPtRu合金を得るには、この2種類の元素が原子スケールで十分混合されている必要がある。例えば、PSAおよびRuSAの酸化は遅く、また、不完全なプロセスであって、多少の硫黄を含む混合水和酸化物が生成される。加えて、この混合水和酸化物を還元するには高い温度が必要で、これが相分離を誘発しやすい。LiBHを用いたTHF中での還元もまた、不完全なプロセスであることがわかっている。この有機溶剤中で外殻を安定させたコロイドを用いる方法では、全金属担持量が30%未満の触媒しか生成できない。一般に、メタノールを酸化させる用途では、60%超の担持量が必要である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、メタノールおよび他の有機燃料の酸化に対して高い触媒活性を示す高度に合金化した白金−ルテニウム複合物を得る方法を提供することである。本発明の別の目的は、CO存在下での水素ガス、例えばPEM燃料電池に用いられる改質ガス中の水素ガスの酸化に対して高い活性を有する触媒を提供することである。本発明の更に別の目的は、軽質有機分子の酸化を高効率に行える電気化学プロセスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
一態様として、本発明は、白金およびルテニウムの前駆錯体から合金化した白金−ルテニウム触媒を製造する方法であって、酸性(pH<7)溶液中の一方の錯体を塩基性(pH>7)溶液中の他方の錯体に(またはその逆)ゆっくりと添加する中和工程を含む方法から構成される。この混合プロセスでは、混合物のpHが、両錯体が溶解していられない値へと徐々に移行することとなる。換言すれば、pHが4〜10の範囲で不溶性の水和酸化物または水酸化物が生成される。これにより、金属水酸化物/酸化物の沈殿物が、完全に混合した状態で同時に生成される。別の態様として、これに続く還元によって、2種類の金属元素の原子スケールでの混合が達成される。
【0012】
第3の態様として、本発明は、水和水酸化物/酸化物の同時析出とそれに続く水和水酸化物/酸化物の還元によって得られた白金−ルテニウム合金化触媒を備えた燃料電池のアノード室におけるメタノールまたは他の燃料を酸化させる電気化学プロセスから構成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
白金およびルテニウムは、混合金属錯体の酸性溶液に水酸化物イオンを導入すると、瞬時に水和ルテニウム酸化物が生成され、その一方で水和白金酸化物がそれよりも遥かに緩やかな速度で生成されるという化学的性質を有する。そのため、この混合水和酸化物前駆体においては相分離が不可避で、還元後には分相したPtおよびRuが生じる。この問題を解決するため、本発明は新しい化学プロセスに着目している。この方法では、白金の独特な化学的性質を利用している。白金酸HPt(OH)は、KCO、NaCO、KOH、NaOH溶液などの高pH(塩基性)溶液には可溶でK2−xPt(OH)あるいはNa2−xPt(OH)を生じるが、中性溶液には溶解しない。溶液のpHが低下すると、水和白金酸化物の析出が誘発される。本発明によるこの混合水和酸化物の同時生成の重要な点は、pHを低下させる酸性化剤としてRu化合物を用いることにある。
【0014】
この方法では、この2種類の金属錯体が溶解するpHの異なる溶液(Ruは酸性、Ptは塩基性)を混合し、両者がともに不溶となって同時析出が起こるように、最終的にpHが4と10の間、より好ましくは4と8.5の間になるようにする。好ましい実施態様では、酸性のRuCl溶液をPtIV(HO)(OH)またはPtIV(OH)、およびKCO(NaCO、KOH、NaOHなどの他の塩基性物質を用いてもよい)を含む溶液に添加することで中和反応を起こさせる。
【0015】
RuCI+HPt(OH)+KCO
→Ru(HO)(OH)+Pt(HO)(OH)
→RuxHO+PtO・yH
【0016】
RuClxHOの溶液は解離のためpHは約1.5である。
RuCl(HO)→RuCl(HO)(OH)+H
【0017】
析出した水和RuOと水和PtOは、炭素基質、好ましくはバルカンXC−72やケッチェンブラックなどの高表面積導電性カーボンブラックに吸着させることができる。吸着した混合酸化物粒子は、その場でホルムアルデヒド、ギ酸、ホウ化水素、亜リン酸塩などの還元剤によって吸着合金へと還元することができる。この還元は、ろ過し、高温下で水素または水素/不活性ガス混合物の気流中で乾燥した後に行うこともできる。
【0018】
上述した手順は、Pt/Ru原子比率が1以下のPtRu合金触媒に対して効果的である。Pt/Ru原子比率が1を超える触媒の場合は、最終的な溶液のpHが高すぎて混合水和酸化物の析出がうまくいかない可能性がある。この場合は、RuCl溶液を白金酸+KCO溶液に添加している最中に酢酸などの酸をRuCl溶液に添加して過剰なKCOを中和することが好ましい。
【0019】
RuClの白金酸+KCOへの添加は、本発明の方法の好ましい一実施態様に過ぎない。本発明の一部であるもう一つの方法では、同様の混合水和酸化物混合物を逆のやり方で、すなわち、Ru化合物を塩基性溶液に溶解し、例えばRuClと次亜塩素酸イオンを水酸化ナトリウム溶液中で反応させてRuO−2溶液を調製し、白金酸をゆっくり添加して中和反応を起こさせることによって生成する。
【実施例】
【0020】
実施例1
80%PtRu担持ケッチェンブラックECカーボン(ライオン株式会社(日本)製):
80%PtRu担持ケッチェンブラックECカーボンを以下のようにして調製した。超音波コーンを用いて8gのケッチェンブラックECカーボンを280mlの脱イオン水に5分間分散させた。27.40gのKCOを2720mlの脱イオン水に溶解した。32.94gのヘキサヒドロキシ白金酸二水素HPt(OH)(白金酸またはPTAともいう)(Pt約64%)をこのKCO溶液に加熱・撹拌しながら添加し、完全に溶解させた。続いて、上記のケッチェンブラックスラリーをこのPTA+KCO溶液に加えた。この混合物を30分間沸騰させた後、26.76gのRuCl・xHO(Ru約40.82wt%)を500mlの脱イオン水に溶解したRuCl溶液を約15ml/分の割合でスラリーに添加した。スラリーを沸点温度にて30分間撹拌した。19.2mlの37wt%ホルムアルデヒドを100mlに希釈したものを5ml/分の割合でスラリーに添加した。30分間、温度を沸点に維持した。スラリーをろ過し、1リットルの脱イオン水で5回洗浄した。この触媒ケーキを80℃、真空下で乾燥した。最終サンプルは、1時間ボールミルにかけた。
【0021】
実施例2
60%PtRu担持ケッチェンブラックECカーボン(ライオン株式会社(日本)製):
60%PtRu担持ケッチェンブラックECカーボンを以下のようにして調製した。シルバーソンミキサーを用いて20gのケッチェンブラックECカーボンを750mlの脱イオン水に15分間分散させた。25.69gのKCOを2250mlの脱イオン水に溶解した。このKCO溶液に、30.88gのPTAを加熱・撹拌しながら溶解した。続いて、このPTA+KCO溶液に上記ケッチェンブラックスラリーを加えた。この混合物を30分間沸騰させた後、25.08gのRuCl・xHOを500mlの脱イオン水に溶解したRuCl溶液を約15ml/分の割合でスラリーに添加した。スラリーを沸点温度にて30分間撹拌した。18.0mlの37wt%ホルムアルデヒドを脱イオン水で100mlに希釈したものを5ml/分の割合でスラリーに添加した。30分間、温度を沸点に維持した。スラリーをろ過し、1リットルの脱イオン水で5回洗浄した。この触媒ケーキを80℃、真空下で乾燥した。最終サンプルは1時間ボールミルにかけた。
【0022】
実施例3
原子比率1:1のPtRuブラック:
PtRuブラックを以下のようにして調製した。25.69gのKCOを3000mlの脱イオン水に溶解した。このKCO溶液に、30.88gのPTAを加熱・撹拌しながら溶解した。この混合物を30分間沸騰させた後、25.08gのRuCl・xHOを500mlの脱イオン水に溶解したRuCl溶液を約15ml/分の割合でこのKCO+PTA溶液に添加した。沈殿液を沸点温度にて30分間撹拌した。この沈殿液に、18.0mlの37wt%ホルムアルデヒドを100mlに希釈したものを5ml/分の割合で添加した。30分間、温度を沸点に維持した。沈殿液をろ過し、1リットルの脱イオン水で5回洗浄した。この触媒ケーキを80℃、真空下で乾燥した。最終サンプルは1時間ボールミルにかけた。
【0023】
実施例4
原子比率1:3のPtRuブラック:
PtRuブラックを以下のようにして調製した。14.97gのKCOを1000mlの脱イオン水に溶解した。このKCO溶液に、6.12gのPTAを加熱・撹拌しながら溶解した。この混合物を30分間沸騰させた後、14.91gのRuCl・xHOを400mlの脱イオン水に溶解したRuCl溶液をこのKCO+PTA溶液に約15ml/分の割合で添加した。沈殿液を沸点温度にて30分間撹拌した。この沈殿液に、6.35gの37wt%ホルムアルデヒドを100mlに希釈したものを5ml/分の割合で添加した。30分間、温度を沸点に維持した。沈殿液をろ過し、1リットルの脱イオン水で5回洗浄した。この触媒ケーキを80℃、真空下で乾燥した。最終サンプルは1時間ボールミルにかけた。
【0024】
実施例5
原子比率1:2のPtRuブラック:
PtRuブラックを以下のようにして調製した。12.54gのKCOを1000mlの脱イオン水に溶解した。このKCO溶液に7.67gのPTAを加熱・撹拌しながらに溶解した。この混合物を30分間沸騰させた後、12.47gのRuCl・xHOを400mlの脱イオン水に溶解したRuCl溶液を約15ml/分の割合でこのKCO+PTA溶液に添加した。沈殿液を沸点にて30分間撹拌した。この沈殿液に、6.13gの37wt%ホルムアルデヒドを100mlに希釈したものを5ml/分の割合で添加した。30分間、温度を沸点に維持した。沈殿液をろ過し、1リットルの脱イオン水で5回洗浄した。この触媒ケーキを80℃、真空下で乾燥した。最終サンプルは1時間ボールミルにかけた。
【0025】
実施例6
原子比率2:1のPtRuブラック:
PtRuブラックを以下のようにして調製した。10.32gのKCOを1250mlの脱イオン水に溶解した。このKCO溶液に、12.41gのPTAを加熱・撹拌しながら溶解した。この混合物を30分間沸騰させた後、5.04gのRuCl・xHOと5.00gの酢酸(99.9%)を250mlの脱イオン水に溶解したRuCl溶液を約10ml/分の割合でこのKCO+PTA溶液に添加した。沈殿液を沸点温度にて30分間撹拌した。この沈殿液に6.8gの37wt%ホルムアルデヒドを100mlに希釈したものを5ml/分の割合で添加した。30分間、温度を沸点に維持した。沈殿液をろ過し、1リットルの脱イオン水で5回洗浄した。この触媒ケーキを80℃、真空下で乾燥した。最終サンプルは1時間ボールミルにかけた。
【0026】
実施例7
原子比率3:1のPtRuブラック:
PtRuブラックを以下のようにして調製した。11.08gのKCOを1250mlの脱イオン水に溶解した。このKCO溶液に13.32gのPTAを加熱・撹拌しながら溶解した。この混合物を30分間沸騰させた後、3.61gのRuCl・xHOと6.60gの酢酸(99.9%)を脱イオン水250mlに溶解したRuCl溶液を約10ml/分の割合でこのKCO+PTA溶液に添加した。沈殿液を沸点温度にて30分間撹拌した。この沈殿液に、5.76gの37wt%ホルムアルデヒドを100mlに希釈したものを5ml/分の割合で添加した。30分間、温度を沸点に維持した。沈殿液をろ過し、1リットルの脱イオン水で5回洗浄した。この触媒ケーキを80℃、真空下で乾燥した。この最終サンプルは、1時間ボールミルにかけた。
【0027】
実施例8
30%PtRu担持バルカンXC−72:
30%PtRu担持バルカンXC−72を以下のようにして調製した。シルバーソンミキサーを用いて70gのバルカンXC−72を2.5リットルの脱イオン水に15分間分散させた。25.69gのKCOを500mlの脱イオン水に溶解した。30.88gのPTAをこのKCO溶液に加熱・撹拌しながら溶解した。続いて、このKCO+PTA溶液を上記のカーボンブラックスラリーに加えた。この混合物を30分間沸騰させた後、25.08gのRuCl・xHOを500mlの脱イオン水に溶解したRuCl溶液を約15ml/分の割合でスラリーに添加した。スラリーを沸点温度にて30分間撹拌した。18.0mlの37wt%ホルムアルデヒドを100mlに希釈したものを5ml/分の割合でスラリーに添加した。30分間、温度を沸点に維持した。スラリーをろ過し、1リットルの脱イオン水で5回洗浄した。この触媒ケーキを80℃、真空下で乾燥した。最終サンプルは、1時間ボールミルにかけた。
【0028】
実施例9
40%PtRu担持バルカンXC−72:
40%PtRu担持バルカンXC−72を以下のようにして調製した。シルバーソンミキサーを用いて48gのバルカンXC−72を1.48リットルの脱イオン水に15分間分散させた。27.40gのKCOを500mlの脱イオン水に溶解した。32.94gPTAをこのKCO溶液に加熱・撹拌しながら溶解した。続いて、このKCO+PTA溶液を上記のカーボンブラックスラリーに加えた。この混合物を30分間沸騰させた後、26.76gのRuCl・xHOを500mlの脱イオン水に溶解させたRuCl溶液を約15ml/分の割合でスラリーに添加した。スラリーを沸点温度にて30分間撹拌した。19.2mlの37wt%ホルムアルデヒドを100mlに希釈したものを5ml/分の割合でスラリーに添加した。30分間、温度を沸点に維持した。スラリーをろ過し、1リットルの脱イオン水で5回洗浄した。この触媒ケーキを80℃、真空下で乾燥した。最終サンプルは、1時間ボールミルにかけた。
【0029】
比較例10
先行技術Iによる30%PtRu担持バルカンXC−72:
比較参照サンプルとしての30%PtRu担持バルカンXC−72を以下のようにして調製した。テフロン被覆容器で10リットルの脱イオン水を512mlの40g/lルテニウム亜硫酸(HRu(SOOH)および197.6mlの200g/l白金亜硫酸(HPt(SOOH)と撹拌しながら混合した。この溶液のpHを希釈したアンモニア溶液で4.0に調整した。この溶液に140gのバルカンXC−72炭素担体を撹拌しながら添加した。このスラリーに1000mlの30%Hを2〜4ml/分の割合でゆっくりと添加した。添加終了後、スラリーを室温で1時間撹拌し、pHを4.0に調整した。次いで、600mlの30%Hを更に添加した。このスラリーを、pHを4.0に維持しつつ更に1時間撹拌した。スラリーの温度を70℃にし、pHを4.0に維持したまま1時間70℃に保った。この高温の触媒スラリーをろ過し、1.0リットルの高温の脱イオン水で洗浄した。この触媒を125℃で15時間乾燥し、Hを用いて230℃で還元した。
【0030】
比較例11
先行技術Iによる60%PtRu担持バルカンXC−72:
60%PtRu担持バルカンXC−72を以下のようにして調製した。テフロン被覆容器で10リットルの脱イオン水を512mlの40g/lルテニウム亜硫酸および197.6mlの200g/l白金亜硫酸と撹拌しながら混合した。この溶液のpHを希釈したアンモニア溶液で4.0に調整した。この溶液に40gのバルカンXC−72炭素担体を撹拌しながら添加した。このスラリーに1000mlの30%Hを2〜4ml/分の割合でゆっくりと添加した。添加終了後、スラリーを室温で1時間撹拌し、pHを4.0に調整した。次いで600mlの30%Hを更に添加した。このスラリーを、pHを4.0に維持しつつ更に1時間撹拌した。スラリーの温度を70℃にし、pHを4.0に維持したまま1時間70℃に保った。この高温の触媒スラリーをろ過し、1.0リットルの高温の脱イオン水で洗浄した。この触媒を125℃で15時間乾燥し、Hを用いて230℃で還元した。
【0031】
比較例12
先行技術IIによる30%PtRu担持バルカンXC−72:
バルカン30%PtRu担持XC−72を以下のようにして調製した。35gのバルカンXC−72を1.0リットルのアセトンに激しく撹拌しながら10分間懸濁させた。別の5リットル平底フラスコで、21.9gのPt(acac)および22.2gのRu(acac)(acac=アセチルアセトネート)を1.5リットルのアセトンに溶解した。次いで、このカーボン分散液をこのフラスコでPt/Ru溶液と混合した。フラスコを水槽を用いて25℃に維持しつつ、生じた混合物を30分間撹拌した。こうして得られたスラリーを30分間超音波処理し、次いでフラスコを60℃の水槽に入れて蒸発させた。アセトンは凝縮器で回収した。乾燥触媒ケーキを粉砕して微粉末にし、これを筒状の反応器に入れ、PtおよびRu前駆体が完全に分解するようにアルゴン気流中で300℃に加熱した。最後にこの触媒を15%H/Ar気流中で3時間還元した。
【0032】
図面の詳細な説明とサンプルの特性
上記実施例で得られた12種類の触媒をX線回折(XRD)分析にかけた。表1は、その特性の概要をまとめたものである。X線拡大分析に基づき、シェラーの式を用いて微結晶サイズを計算した。通常、Pt含有率の高いPtRu合金は、純粋な白金に近い面心結晶を有する。すなわち、ルテニウム原子が単に白金原子と置換されて格子定数の減少を生じている。合金相の組成は、その合金が、単にピークの位置がずれ、形状がわずかに変わっているだけで同じXRDパターンを有していれば、220ピークの位置から計算できる。計算した「原子スケールでのXRDによるPt:Ru比」がバルクPt:Ru比に非常に近ければ、この触媒は良質な合金であると判断される。そうでなければ、結晶質であれ非晶質であれ、相当量の金属単相が存在していると推定される。実施例4および5に対応するサンプルは、白金含有量よりもルテニウム含有量が多いため、他のサンプルとは異なるXRDパターンを有する。これは、本発明による5種類の触媒に対応するXRDスペクトルを示した図1に明確に現れている。曲線はそれぞれ、実施例4のPtRuのサンプル(101)、実施例5のPtRuのサンプル(102)、実施例3のPtRuのサンプル(103)、実施例6のPtRuのサンプル(104)、実施例7のPtRuのサンプル(105)に関する。前駆体としてPTAおよびRuClを用いた実施例1〜3および6〜8では、ほぼ完全なPtRu合金が形成された。
【0033】
一方、サンプル9の2種類の比率(原子スケール比およびバルク比)の比較的大きな差は、相当な金属単相が存在していることを示唆するものである。サンプル9のXRDグラフの220ピークには、ショルダーがあると考えられる。また、このデータによると、微結晶サイズは金属担持量とはほぼ無関係であることがわかる。実施例10は、計算したPt:Ru比がバルク比の50:50からかなり離れていることから、合金の性質としては劣っている。サンプル10および11のXRDスペクトルは、相当量のルテニウム金属単相(2θ46のピークが広がってショルダーとなっていることからわかるように)および非晶質RuO相を示している。EDAX分析でも、バックグラウンドレベルの3〜4倍程度の硫黄(おそらくは前駆体の亜硫酸塩錯体に由来)の量を示している。これらが以下に述べるように、サンプル10および11の低いRDE性能の要因となっている。Pt(acac)およびRu(acac)を用いて調製した比較例12の触媒は、原子スケールでのXRDによるPt:Ru比とバルクPt:Ru比が非常に近いにも関わらず、XRDスペクトルに示すように、相当量の非晶相とおそらくは金属単相を有している。
【0034】
こうしたことが、本発明(以下のRDE試験参照)における触媒と比較して性能が劣る要因であろう。通常、金属ブラック触媒は、小さいサイズでの制御が難しい。本発明で調製したPtRuブラック触媒では、結晶の大きさは全て2.4〜3.2nmの範囲である。これは、本発明においては、結晶の大きさの制御がいずれもうまく行われていることを示している。また、本発明の触媒では、原子スケールPt:Ru比がいずれもバルク比に非常に近く、最小限度の金属単相しか含まない非常に均質な合金が形成されていることを示している。
【0035】
【表1】

【0036】
回転円盤電極(RDE)によって触媒性能の試験を行った。各担持または非担持触媒16.7mgを50mlのアセトンと混合して希釈触媒インクを調製した。このインクを直径6mmのガラス状炭素回転電極の先端に4回、合計20μl塗布した。電極を、1Mメタノールを含む50℃の0.5MのHSO溶液に入れた。白金の対極とHg/HgSOの参照電極をガムリ製定電位電解装置に回転子(パインインスツルメント製)、回転円盤電極(パーキンエルマー製)とともに接続した。回転数1600RPMで電位走査(10mV/s)をかけ、溶解したメタノールの酸化を示す水平部を記録した。曲線の上昇部をメタノール酸化に対する活性の程度として用いた。この上昇部の立ち上がりが負の大きい値で生じる方が、触媒は活性が高い。
【0037】
図2は、PTA+RuClを用いた方法で調製した30%PtRu(1:1)触媒が、30%触媒の中ではメタノール酸化に対する電気化学的活性が最も高いことを示している。(201)は実施例8で調製した本発明の触媒に対応する走査結果を示し、曲線(202)と(203)は、それぞれ実施例12と10の先行技術のサンプルに対応する。
【0038】
図3は、担持量60%PtRu(1:1)では、本発明の方法に従って調製した触媒が、亜硫酸を用いた方法で調製した触媒(非常に低い性能しか得られない)よりも性能が高いことを示している。(210)は実施例2のサンプルについての走査結果であり、(211)は実施例11のサンプルについての走査結果である。
【0039】
同じ傾向が、図4に示すようにPtRuブラック(原子比率1:1)でも観察された。(220)は実施例3のサンプルについての走査結果であり、(221)は亜硫酸ルートで得られた非担持PtRuブラックの記録されている走査結果である。
【0040】
図5は、Pt:Ruの比率がメタノール酸化率に大きく影響することを示している。触媒活性は、Pt:Ruの比率とともに劇的に増加する。実施例6(230)によるPt:Ru比が2:1の触媒の触媒活性は、ピーク電流からすると実施例3(232)のPt:Ru比が1:1の触媒の約3倍である。しかし、Pt:Ru比が3:1の実施例7の触媒(231)は、Pt:Ru比が2:1の場合(230)と同じ程度の活性を示している。Pt:Ru比が1未満の触媒は、Pt:Ru比が1以上の触媒よりも活性が低い。例えば、(233)は実施例5のPtRuの走査結果であり、(234)は実施例4のPtRuの走査結果である。これらのデータから、Pt:Ru触媒は、Pt:Ru比が2:1前後のときに質量活性(グラム当たりの電流)が最大になることがわかる。
【0041】
上記の記述は本発明を制限するものではなく、本発明はその範囲を逸脱することなく種々の実施形態で実施されるものであり、またその範囲は添付の請求項にのみ規定されるものである。本出願の記述および請求項における「からなる」およびそのバリエーションである「から構成されている」、「から構成された」などの語は、他の構成要素または追加成分の存在を除外するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】図1は、本発明の方法に従って調製した5種類の触媒についてのXRDスペクトルを示す。
【図2】図2は、市販のサンプルと比較した本発明の3種類の30%PtRu担持触媒のメタノール酸化率を示す。
【図3】図3は、市販のサンプルと比較した本発明の3種類の60%PtRu担持触媒のメタノール酸化率を示す。
【図4】図4は、先行技術による2種類の同様な触媒と比較した本発明の1:1PtRuブラック触媒のメタノール酸化率を示す。
【図5】図5は、原子比率の異なる数種類のPtRuブラックのメタノール酸化率を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金前駆体を含む第一の溶液とルテニウム前駆体を含む第二の溶液であって、前記2種類の溶液の一方は塩基性で他方は酸性である第一および第二の溶液を調製すること、およびpHが4と10の間の最終溶液を得て白金およびルテニウムの水和酸化物および/または水酸化物を同時に析出させるまで前記第一の溶液と前記第二の溶液を混合することからなる、合金化された白金−ルテニウム触媒の製造方法。
【請求項2】
白金前駆体を含む第一の溶液は塩基性で、KCO、NaCO、KOH、NaOHのうちの少なくとも一種を含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記白金前駆体が白金酸である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
第二の溶液は酸性で、前記ルテニウム前駆体はRuClである、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
第二の溶液は、更に酸、特に酢酸を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
ルテニウム前駆体を含む第二の溶液はRuO−2イオンを含む塩基性溶液であり、第一の溶液は白金酸の酸性溶液である請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記RuO−2イオンを含む塩基性溶液は、RuClと次亜塩素酸イオンを水酸化ナトリウム溶液中で反応させて得られるものである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記2種類の溶液の少なくとも一方は懸濁させた炭素粉末を含む、請求項1から7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記炭素粉末は導電性カーボンブラックである請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記析出させた白金およびルテニウムの水和酸化物および/または水酸化物を、引き続き前記最終溶液に還元剤を添加して還元させる、請求項1から9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記還元剤は、ホルムアルデヒド、ギ酸、ホウ化水素、亜リン酸塩からなる群から選択される請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記析出させた白金およびルテニウムの水和酸化物および/または水酸化物を、ろ過および乾燥後に、水素を含む気流中で高温にて還元させる、請求項1から9のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
請求項1から12のいずれかに記載の方法によって得られる合金化した白金−ルテニウム触媒。
【請求項14】
Pt:Ruの原子比率が1より大きい、特に2以上である、請求項13に記載の触媒。
【請求項15】
請求項13または14に記載の触媒を組み込んだガス拡散電極構造。
【請求項16】
請求項15に記載のガス拡散電極からなる電解酸化プロセス用電池、特に燃料電池。
【請求項17】
請求項16の電池を用いることを特徴とする有機分子の電解酸化プロセス。
【請求項18】
前記有機分子はメタノールまたは他のアルコールからなる請求項17に記載のプロセス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2008−506513(P2008−506513A)
【公表日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−520727(P2007−520727)
【出願日】平成17年7月8日(2005.7.8)
【国際出願番号】PCT/EP2005/007435
【国際公開番号】WO2006/008001
【国際公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(504335714)ペメアス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (4)
【氏名又は名称原語表記】PEMEAS GMBH
【Fターム(参考)】