説明

電気化学素子電極の製造方法

【課題】 電極層の薄膜化が可能で、低抵抗な電気化学素子を与える電気化学素子電極を生産性よく製造する方法を提供する。
【解決手段】 少なくとも一表面の算術平均粗さ(Ra)が1μm以上である集電体の該表面上に電極材料を供給する工程、
および前記集電体と前記電極材料とを一対のロールで加圧して集電体上に電極層を形成する工程を含んでなり、
かつ前記電極層を形成する工程における成形速度が10m/分より速い速度である製造方法により電気化学素子電極を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気二重層キャパシタやリチウムイオン二次電池などの電気化学素子に、特に電気二重層キャパシタに好適に用いられる電気化学素子電極(本明細書では単に「電極」と言うことがある。)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
小型で軽量、且つエネルギー密度が高く、更に繰り返し充放電が可能な特性を活かして、リチウムイオン二次電池や電気二重層キャパシタなどの電気化学素子は、その需要を急速に拡大している。リチウムイオン二次電池は、エネルギー密度が比較的大きいことから携帯電話やノート型パーソナルコンピュータなどの分野で利用され、電気二重層キャパシタは、急激な充放電が可能なので、パソコン等のメモリバックアップ小型電源として利用されている。更に、電気二重層キャパシタは電気自動車用の大型電源としての応用が期待されている。また、高いエネルギー密度と充放電速度の両立を目指し、正極、負極の2つの電極のうち、一方にファラデー反応電極、もう一方に非ファラデー反応電極を使用するハイブリッドキャパシタも開発が進められている。また、金属酸化物や導電性高分子の表面の酸化還元反応(疑似電気二重層容量)を利用するレドックスキャパシタもその容量の大きさから注目を集めている。これら電気化学素子には、用途の拡大や発展に伴い、低抵抗化、高容量化、機械的特性の向上など、より一層の特性の改善が求められている。そのようななかで、電気化学素子の性能を向上させるために、電気化学素子電極を形成する方法についても様々な改善が行われている。
【0003】
電気化学素子電極は、例えば電極活物質等を含有する電極材料スラリーを集電体上に塗布し、乾燥することで得ることができる。しかしながら、この製造方法では乾燥工程に長時間を要してしまい、生産性が悪く、電極コストが高くなるという問題があった。
【0004】
生産性を向上し、電極コストを下げる解決方法として、特許文献1には定量フィーダーと、略水平に配置された一対のプレス用ロール又はベルトを用いた電気化学素子電極の製造方法が紹介されている。この文献によると集電体としてアルミニウムや白金等の金属を用い、1〜20m/分の速度で成形可能であるが、この方法では薄膜電極作製は困難で、低抵抗化に限界があった。
【0005】
【特許文献1】特開2007−005747号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、表面の算術平均粗さが1μm以上の集電体を使用することで、低抵抗で低コストの電気化学素子電極を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題に鑑み鋭意検討した結果、上記特許文献1開示の方法で用いられる集電体は、その表面粗度が算術平均粗さ(Ra)で0.5μmと小さいため、電極材料の集電体へのかかりが悪く、この集電体を用いての薄膜電極作製が困難であることを見出した。そして、特定の表面粗度の集電体を用いると、ロール成形することにより薄膜化が容易で、低抵抗の電気化学素子電極が得られることを見出した。本発明者らは、これらの知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0008】
かくして本発明によれば、少なくとも一表面の算術平均粗さ(Ra)が1μm以上である集電体の該表面上に電極材料を供給する工程、および前記集電体と前記電極材料とを一対のロールで加圧して集電体上に電極層を形成する工程を含んでなり、かつ前記電極層を形成する工程における成形速度が10m/分より速い速度である電気化学素子電極の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電極層の薄膜化が可能で、低抵抗な電気化学素子を与える電気化学素子電極を大量に効率よく製造できる。本発明の製造方法で得られる電気化学素子電極は、低抵抗で低コストなので電気二重層キャパシタや二次電池等いろいろな用途に好適に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に用いる電極材料は、電気化学素子電極を得るために使用されるものであり、具体的には、電極活物質および結着剤を必須成分とし、必要に応じさらに導電材、分散材およびその他の添加剤などを含有することができる。
【0011】
電極活物質は、電極内で電子の受け渡しをする物質であり、具体的には主としてリチウムイオン二次電池用活物質や、電気二重層キャパシタ用活物質が挙げられる。
【0012】
リチウムイオン二次電池用活物質には、正極用、負極用がある。リチウムイオン二次電池の正極用の電極活物質としては、LiCoO、LiNiO、LiMnO、LiMn、LiFePO、LiFeVOなどのリチウム含有複合金属酸化物;TiS、TiS、非晶質MoSなどの遷移金属硫化物;Cu、非晶質VO・P、MoO、V、V13などの遷移金属酸化物;が例示される。さらに、ポリアセチレン、ポリ−p−フェニレンなどの導電性高分子が挙げられる。リチウムイオン二次電池の負極用の電極活物質としては、例えば、アモルファスカーボン、グラファイト、天然黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、及びピッチ系炭素繊維などの炭素質材料;ポリアセン等の導電性高分子などが挙げられる。
【0013】
リチウムイオン二次電池の電極に使用する電極活物質は球形の粒子に整粒されたものが好ましい。粒子の形状が球形であると、電極成形時により高密度な電極が形成できる。また、重量平均粒径分布は、1μm程度の細かな粒子と3〜8μmの比較的大きな粒子の混合物や、0.5〜8μmにブロードな粒径分布を持つ粒子が好ましい。粒径が50μm以上の粒子は篩い分けなどにより除去して用いるのが好ましい。電極活物質のASTM D4164で規定されるタップ密度は特に制限されないが、正極では2g/cm以上、負極では0.6g/cm以上のものが好適に用いられる。
【0014】
電気二重層キャパシタ用の電極活物質としては、通常、炭素の同素体が用いられる。炭素の同素体の具体例としては、活性炭、ポリアセン、カーボンウィスカ及びグラファイト等が挙げられ、これらの粉末または繊維を使用することができる。電気二重層キャパシタ用の好ましい電極活物質は活性炭であり、具体的にはフェノール系、レーヨン系、アクリル系、ピッチ系、又はヤシガラ系等の活性炭を挙げることができる。
【0015】
電気二重層キャパシタ用の電極活物質の比表面積は、30m/g以上、好ましくは500〜5,000m/g、より好ましくは1,000〜3,000m/gであることが好ましい。
【0016】
電気二重層キャパシタ用の電極活物質の重量平均粒径は、0.1〜100μm、好ましくは1〜50μm、更に好ましくは5〜20μmの粉末が好ましい。この範囲の重量平均粒径の活物質を用いると、電気二重層キャパシタ用電極の薄膜化が容易で、静電容量も高くできる。
【0017】
これらの電極活物質は、電気化学素子の種類に応じて、単独でまたは二種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0018】
結着剤とは、電極活物質や導電材などを結着させることができる化合物である。例えば、フッ素系重合体、ジエン系重合体、アクリレート系重合体、ポリイミド、ポリアミド、ポリウレタン等の高分子化合物が挙げられ、好ましくはフッ素系重合体、ジエン系重合体、及びアクリレート系重合体が挙げられる。
【0019】
フッ素系重合体はフッ素原子を含む単量体単位を含有する重合体である。フッ素系重合体中のフッ素を含有する単量体単位の割合は通常50重量%以上である。フッ素系重合体の具体例としては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素樹脂が挙げられ、ポリテトラフルオロエチレンが好ましい。
【0020】
ジエン系重合体は、共役ジエンの単独重合体もしくは共役ジエンを含む単量体混合物を重合して得られる共重合体、またはそれらの水素添加物である。前記単量体混合物における共役ジエンの割合は通常40重量%以上、好ましくは50重量%以上、より好ましくは60重量%以上である。ジエン系重合体の具体例としては、ポリブタジエンやポリイソプレンなどの共役ジエン単独重合体;カルボキシ変性されていてもよいスチレン・ブタジエン共重合体(SBR)などの芳香族ビニル・共役ジエン共重合体;アクリロニトリル・ブタジエン共重合体(NBR)などのシアン化ビニル・共役ジエン共重合体;水素化SBR、水素化NBRなどが挙げられる。
【0021】
アクリレート系重合体は、アクリル酸エステルおよび/またはメタクリル酸エステルの単独重合体またはこれらを含む単量体混合物を重合して得られる共重合体である。前記単量体混合物におけるアクリル酸エステルおよび/またはメタクリル酸エステルの割合は通常40重量%以上、好ましくは50重量%以上、より好ましくは60重量%以上である。アクリレート系重合体の具体例としては、アクリル酸2−エチルヘキシル・メタクリル酸・アクリロニトリル・エチレングリコールジメタクリレート共重合体、アクリル酸2−エチルヘキシル・メタクリル酸・メタクリロニトリル・ジエチレングリコールジメタクリレート共重合体、アクリル酸2−エチルヘキシル・スチレン・メタクリル酸・エチレングリコールジメタクリレート共重合体、アクリル酸ブチル・アクリロニトリル・ジエチレングリコールジメタクリレート共重合体、およびアクリル酸ブチル・アクリル酸・トリメチロールプロパントリメタクリレート共重合体などの架橋型アクリレート系重合体;エチレン・アクリル酸メチル共重合体、エチレン・メタクリル酸メチル共重合体、エチレン・アクリル酸エチル共重合体、およびエチレン・メタクリル酸エチル共重合体などのエチレンとアクリル酸(またはメタクリル酸)エステルとの共重合体;上記エチレンとアクリル酸(またはメタクリル酸)エステルとの共重合体にラジカル重合性単量体をグラフトさせたグラフト重合体;などが挙げられる。なお、上記グラフト重合体に用いられるラジカル重合性単量体としては、例えば、メタクリル酸メチル、アクリロニトリル、メタクリル酸などが挙げられる。その他に、エチレン・アクリル酸共重合体、エチレン・メタクリル酸共重合体などのエチレンとアクリル酸(またはメタクリル酸)との共重合体等が結着剤として使用できる。
【0022】
結着剤は、その形状によって特に制限はないが、結着性が良く、また、作製した電極の静電容量の低下や充放電の繰り返しによる劣化を抑えることができるため、粒子状であることが好ましい。粒子状の結着剤としては、例えば、ラテックスのごとき分散型結着剤の粒子が水に分散した状態のものや、このような分散液を乾燥して得られる粉末状のものが挙げられる。
【0023】
粒子状の結着剤の数平均粒径は、格別な限定はないが、通常は0.0001〜100μm、好ましくは0.001〜10μm、より好ましくは0.01〜1μmである。結着剤の数平均粒径がこの範囲であるときは、少量の結着剤の使用でも優れた結着力を電極層に与えることができる。ここで、数平均粒径は、透過型電子顕微鏡写真で無作為に選んだ結着剤粒子100個の径を測定し、その算術平均値として算出される個数平均粒径である。粒子の形状は球形、異形、どちらでもかまわない。
【0024】
これら結着剤は単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。この結着剤の使用量は、電極活物質100重量部に対して、通常は0.1〜50重量部、好ましくは0.5〜20重量部、より好ましくは1〜10重量部の範囲である。
【0025】
リチウムイオン二次電池の正極や、電気二重層キャパシタの電極に用いられる電極材料には、導電材を含有していることが好ましい。導電材とは、導電性を有し、電気二重層を形成し得る細孔を有さない粒子状の炭素の同素体からなり、電気化学素子電極の導電性を向上させるものである。導電材の具体例としては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、及びケッチェンブラック(アクゾノーベルケミカルズベスローテンフェンノートシャップ社の登録商標)などの導電性カーボンブラック;天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛;が挙げられる。これらの中でも、導電性カーボンブラックが好ましく、アセチレンブラックおよびファーネスブラックがより好ましい。
【0026】
導電材の重量平均粒径は、電極活物質の重量平均粒径よりも小さいことが好ましく、通常0.001〜10μm、好ましくは0.05〜5μm、より好ましくは0.01〜1μmの範囲である。導電材の粒径がこの範囲にあると、より少ない使用量で高い導電性が得られる。
【0027】
これらの導電材は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
導電材の量は、電極活物質100重量部に対して、通常0.1〜50重量部、好ましくは0.5〜15重量部、より好ましくは1〜10重量部の範囲である。導電材の量がこの範囲にある電極を使用すると電気化学素子の容量を高く且つ内部抵抗を低くすることができる。
【0029】
電極材料にはその他に分散材を含有していることが好ましい。分散材とはスラリーの溶媒に溶解させて用いられ、電極活物質、導電材等を溶媒に均一に分散させる作用をさらに有するものである。例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース系ポリマー、ならびにこれらのアンモニウム塩またはアルカリ金属塩;ポリアクリル酸(またはメタクリル酸)ナトリウムなどのポリアクリル酸(またはメタクリル酸)塩;ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド;ポリビニルピロリドン、ポリカルボン酸、酸化スターチ、リン酸スターチ、カゼイン、各種変性デンプン、キチン、キトサン誘導体などが挙げられる。これらの分散材は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。中でも、セルロース系ポリマーが好ましく、カルボキシメチルセルロースまたはそのアンモニウム塩もしくはアルカリ金属塩が特に好ましい。
【0030】
これら分散材は単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。分散材の使用量は、格別な限定はないが、電極活物質100重量部に対して、通常は0.1〜10重量部、好ましくは0.5〜5重量部、より好ましくは0.8〜2重量部の範囲である。分散材を用いることで、スラリー中の固形分の沈降や凝集を抑制できる。また、噴霧乾燥時のアトマイザーの詰まりを防止することができるので、噴霧乾燥を安定して連続的に行うことができる。
【0031】
その他の添加剤としては、例えば、界面活性剤がある。界面活性剤としては、アニオン性、カチオン性、ノニオン性、ノニオニックアニオンなどの両性の界面活性剤が挙げられるが、中でもアニオン性若しくはノニオン性の界面活性剤で熱分解しやすいものが好ましい。これら添加剤は単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0032】
界面活性剤の量は、格別な限定はないが、電極活物質100重量部に対して0〜50重量部、好ましくは0.1〜10重量部、より好ましくは0.5〜5重量部の範囲である。
【0033】
本発明に使用される電極材料は、上記電極活物質および結着剤を必須成分として、必要に応じて導電材、分散材、その他の添加剤を含有してなる。好適に用いられる電極材料は上記成分を含有する粒子形状のもの(以下、複合粒子ということがある。)である。この複合粒子は、通常、電極活物質および結着剤を少なくとも含有し、前記電極活物質及び導電材が結着剤によって結着されてなるもので構成されている。
【0034】
本発明に用いる複合粒子の重量平均粒径は、通常は0.1〜1,000μm、好ましくは5〜500μm、より好ましくは10〜100μmの範囲である。
【0035】
本発明に好適な複合粒子は、微小圧縮試験機によって荷重速度0.9mN/secで最大荷重9.8mNまで圧縮したときの粒径変位率が通常5〜70%、好ましくは20〜50%である。粒径変位率は、複合粒子の圧縮前の粒径D0に対する、圧縮による粒径の減少量(ΔD=D0−D1)の割合(=ΔD/D0×100)である。なお、D1は荷重を掛けているときの粒径で荷重量に応じて変化する値である。
【0036】
また、本発明に好適に用いられる複合粒子は、微小圧縮試験機によって荷重速度0.9mN/secで最大荷重9.8mNまで圧縮したときの、単位秒あたりの粒径変位率変化量が好ましくは25%以下、より好ましくは10%以下、特に好ましくは7%以下である。単位秒あたりの粒径変位率変化量は、荷重速度0.9mN/secで荷重が増えていったときの粒径変位率の単位秒あたりの変化量である。微小圧縮試験機によって測定される最大荷重9.8mNまで圧縮したときの粒径変位率は、複合粒子の形状維持力を示すために必要な数値である。該粒径変位率が小さ過ぎると、加圧によってもほとんど複合粒子が変形しないので、粒子同士の接触面積が小さく、導電性が高くならない。一方、粒径変位率が大き過ぎると、複合粒子が圧壊し、複合粒子中に形成された導電材及び電極活物質によるネットワークが壊れ、導電性が低下する。また、単位秒あたりの粒径変位率変化量は、圧壊の有無を判断する一指標である。圧壊が起きると、粒径が急激に小さくなるので、単位秒あたりの粒径変位率変化量が25%を超える。圧壊によって、複合粒子中に形成された導電材及び電極活物質によるネットワークが壊れ、導電性が低下する。最大荷重9.8mNまで圧縮したときの粒径変位率が5〜70%である複合粒子は、適度な柔らかさを持つので、粒子同士の接触面積が大きい。そして、圧壊しないので、導電材及び電極活物質のネットワークが維持される。
【0037】
これら複合粒子は単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0038】
本発明に使用される集電体とは、集電機能を有する電極基体である。材料としては、例えば、金属、炭素、導電性高分子などを用いることができ、好適には金属が用いられる。金属としては、通常、アルミニウム、白金、ニッケル、タンタル、チタン、ステンレス鋼、銅、その他の合金等が使用される。これらの中で導電性、耐電圧性の面からアルミニウムまたはアルミニウム合金を使用するのが好ましい。
【0039】
本発明に使用される集電体は、その少なくとも一表面の算術平均粗さ(Ra)が1μm以上であり、成形性と密着性を高められるので、特に好ましくは1μm以上2μm以下である。集電体の表面と裏面のRaの差は、通常3μm以下、両面での電極層厚さのばらつきを小さくできるので好ましくは1μm以下である。
【0040】
本発明に使用される集電体は、通常シート状であり、その厚さは、使用目的に応じて適宜選択されるが、高い強度と低抵抗とを両立するとの観点から、好ましくは10〜100μm、より好ましくは50〜100μmである。
【0041】
本発明では、上記の表面粗さを有する集電体上の該表面上に上記電極材料を供給する。電極材料を供給する工程で用いられるフィーダーは、特に限定されないが、複合粒子を定量的に供給できる定量フィーダーであることが好ましい。ここで、定量的に供給できるとは、かかるフィーダーを用いて電極材料を連続的に供給し、一定間隔で供給量を複数回測定し、その測定値の平均値mと標準偏差σmから求められるCV値(=σm/m×100)が4以下であることをいう。本発明に用いられる定量フィーダーは、CV値が好ましくは2以下である。定量フィーダーの具体例としては、テーブルフィーダー、ロータリーフィーダーなどの重力供給機、スクリューフィーダー、ベルトフィーダーなどの機械力供給機などが挙げられる。これらのうちロータリーフィーダーが好適である。
【0042】
次いで、前記集電体と供給された電極材料とを一対のロールで加圧して、集電体上に電極層を形成する。この工程では、必要に応じ加温された前記電極材料が、一対のロールでシート状の電極層に成形される。供給される複合粒子の温度は、好ましくは40〜160℃、より好ましくは70〜140℃である。この温度範囲にある電極材料を用いると、プレス用ロールの表面で電極材料の滑りがなく、電極材料が連続的かつ均一にプレス用ロールに供給されるので、膜厚が均一で、電極密度のばらつきが小さい、電気化学素子電極用シートを得ることができる。
【0043】
成形時の温度は、通常0〜200℃であり、結着剤の融点またはガラス転移温度(結着剤が融点およびガラス転移温度の両方を有するときは、ガラス転移温度。以下同じ。)より高いことが好ましく、融点またはガラス転移温度より20℃以上高いことがより好ましい。
【0044】
ロールを用いる場合の成形速度は、ロールの回転速度で調整することができ、10m/分より速く、好ましくは35〜70m/分である。またプレス用ロール間のプレス線圧は、通常0.2〜30kN/cm、好ましくは0.5〜10kN/cmである。
【0045】
本発明の製法では、前記一対のロールの配置は特に限定されないが、略水平または略垂直に配置されることが好ましい。略水平に配置する場合は、前記多孔化集電体を一対のロール間に連続的に供給し、該ロールの少なくとも一方に電極材料を供給することで、多孔化集電体とロールとの間隙に電極材料が供給され、加圧により電極層を形成できる。略垂直に配置する場合は、前記多孔化集電体を水平方向に搬送させ、該集電体上に電極材料を供給し、電極材料層を形成する。供給された電極材料層を必要に応じブレード等で均した後、該集電体を一対のロール間に供給し、加圧により電極層を形成できる。この場合において、一対のロール間に供給される電極材料層の厚さは、(前記一対のロールのロール間隙)/(集電体厚さ+電極材料層厚さ)で表される値で、成形性に優れるとの観点から、通常0.01〜1であり、好ましくは0.1〜0.5である。
【0046】
成形した成形体の厚みのばらつきを無くし、密度を上げて高容量化をはかるために、必要に応じて更に後加圧を行っても良い。後加圧の方法は、ロールによるプレス工程が一般的である。ロールプレス工程では、2本の円柱状のロールをせまい間隔で平行に上下にならべ、それぞれを反対方向に回転させて、その間に電極をかみこませ加圧する。ロールは加熱又は冷却等、温度調節しても良い。
【実施例】
【0047】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。また、部および%は、特に記載のない限り重量基準である。
【0048】
(集電体表面の算術平均粗さ(Ra)の測定)
集電体表面の算術平均粗さ(Ra)は、キーエンス(株)社製ナノスケールハイブリッド顕微鏡(VN−8000)を用いて、5mm×5mmの範囲について粗さ曲線を描き(多孔化集電体に関しては、穴あき部を除外)、下式の算出法により求める。Lは測定長さ(5mm)、xは平均線から測定曲線までの偏差である。
【0049】
【数1】

【0050】
(電極層厚さの測定)
電極層厚さは集電体の両面に電極層を形成した後に、渦電流式変位センサ(センサヘッド部EX−110V、アンプユニット部EX−V02:キーエンス社製)を用いて測定する。2cm間隔で各電極層の厚さを測定し、それらの平均値を電極層の厚さとする。
【0051】
(内部抵抗の測定)
電気化学キャパシタについて、600mAの定電流で充電を開始し、所定の充電電圧に達したらその電圧を保って定電圧充電とし、5分間定電圧充電を行った時点で充電を完了する。次いで、充電終了直後に定電流15mAで0Vに達するまで放電を行う。この充放電操作を3サイクル行い、3サイクル目の放電後0.1秒後の電圧からR=ΔV/Iの関係より算出する。
【0052】
実施例1
電極活物質(比表面積2000m/g及び重量平均粒径5μmの活性炭)100部、導電材(アセチレンブラック「デンカブラック粉状」;電気化学工業(株)製)5部、分散型結着剤(数平均粒径0.15μm、ガラス転移温度−40℃の架橋型アクリレート系重合体の40%水分散体:「AD211」;日本ゼオン(株)製)7.5部、分散材(カルボキシメチルセルロースの1.5%水溶液「DN−800H」:ダイセル化学工業(株)製)93.3部、及びイオン交換水231.8部をT.K.ホモミクサー(特殊機化工業(株)製)で攪拌混合して、固形分25%のスラリーを得る。次いで、スラリーをスプレー乾燥機(大川原化工機(株)製ピン型アトマイザー付)を用いて150℃の熱風で噴霧乾燥し、重量平均粒径60μmの球状の複合粒子を得る。
【0053】
定量フィーダー(ニッカ株式会社製、ニッカスプレーK−V)を用い各フィーダーの供給速度70g/分で、ロールプレス機(押し切り粗面熱ロール;ヒラノ技研工業(株)製)のプレス用ロール(ロール温度120℃、プレス線圧4kN/cm)に供給する。プレス用ロール間に厚さ50μmでRa=2.5μmのエッチドアルミ箔を挿入し、定量フィーダーから供給された複合粒子をエッチドアルミ箔の両面に付着させ、成形速度15m/分で加圧成形し、平均片面厚さ280μm、平均片面密度0.50g/cmの電気化学素子電極を得る。
【0054】
(測定用セルの作製)
上記の電気化学素子電極を、電極層が形成されていない集電体部分を縦2cm×横2cmを残し、電極層が形成されている部分を縦5cm×横5cmになるように切り抜く。これに縦7cm×横1cm×厚み0.01cmのアルミからなるタブ材を未塗工部に超音波溶接して測定用電極を作製する。測定用電極は、正極10組、負極11組を用意し、160℃で40分間乾燥する。セパレータとして厚さ35μmのセルロース/レーヨン混合不織布を用いて、正極集電体、負極集電体の端子溶接部がそれぞれ反対側になるよう配置し、正極、負極の対向面が20層になるように、また積層した電極の最外部の電極が負極となるように積層する。最上部と最下部はセパレータを配置させて4辺をテープ留めし、正極集電体の端子溶接部(10枚)、負極集電体の端子溶接部(11枚)をそれぞれ超音波溶接する。
【0055】
上記積層電極を外装ラミネートフィルムで覆い三辺を融着後、電解液としてプロピレンカーボネートにホウフッ化テトラエチルアンモニウムを1.4モル/リットルの濃度に溶解した溶液を真空含浸させた後、残り一辺を融着させ、フィルム型キャパシタを作製する。得られるフィルム型キャパシタについて各特性を測定する。結果を表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
実施例2
集電体として厚さ50μmでRa=1.5μmのエッチドアルミ箔を使用する以外は実施例1と同様にして電気化学素子電極およびフィルム型キャパシタを作製する。
【0058】
実施例3
成形速度を40m/分にする以外は実施例2と同様にして電気化学素子電極およびフィルム型キャパシタを作製する。
【0059】
比較例1
集電体として厚さ50μmでRa=0.5μmのエッチドアルミ箔を使用する以外は実施例1と同様にして電気化学素子電極およびフィルム型キャパシタを作製する。
【0060】
比較例2
集電体として厚さ50μmでRa=0.5μmのエッチドアルミ箔を使用する以外は実施例3と同様にして電気化学素子電極の製造を行うと、集電体への造粒粒子の掛かりが悪いため、ロール間隙部に複合粒子が食い込まず、電極の作成ができない。結果を表1に示す。
【0061】
算術平均粗さ(Ra)が1μm未満の集電体を使用する比較例の製造方法では、未成形部が発生して均一な電極が得られなかったり、成形速度が速くなると成形自体が不可能になる。一方、Raが1μm以上の集電体を使用する実施例の製造方法では、比較例のような問題は起きず、安定して電極が製造でき、実施例2、3のように成形速度を速くすることで薄膜電極が得られ、低抵抗化が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一表面の算術平均粗さ(Ra)が1μm以上である集電体の該表面上に電極材料を供給する工程、
および前記集電体と前記電極材料とを一対のロールで加圧して集電体上に電極層を形成する工程を含んでなり、
かつ前記電極層を形成する工程における成形速度が10m/分より速い速度である電気化学素子電極の製造方法。
【請求項2】
前記電気化学素子電極の厚さが300μm以下である請求項1記載の製造方法。

【公開番号】特開2009−253168(P2009−253168A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−101834(P2008−101834)
【出願日】平成20年4月9日(2008.4.9)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】