説明

電気化学装置

【課題】電気化学セルの電極と導電性接続部材とを接合するのに際して、1000°C未満の熱処理で十分な接合強度が得られるようにする。
【解決手段】電気化学セル6は、固体電解質6b、およびこの固体電解質6b上に設けられている一対の電極6a、6cを備えている。電極6cに対して導電性接続部材1が接合剤9によって電気的に接続されている。接合剤9が、スピネル結晶構造を有する遷移金属酸化物からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池などの電気化学装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セパレータと電気化学セルを積層し、スタック構造の集合電池を形成するためには、セパレータと固体電解質型燃料電池の単電池との間にガスを通し、単電池の電極に対して燃料や酸化剤を供給する必要がある。これと同時に、セパレータと単電池との間に導電性接続部材(インターコネクタ)を介在させることによって、単電池とセパレータとを電気的に直列接続する必要がある。このような導電性接続部材は、例えば燃料ガス通路に設置する場合には、還元性の燃料ガスに対して単電池の動作温度で安定でなければならない。また、燃料ガスが通過可能な隙間がなければならない。このような理由から、燃料ガス通路においては、いわゆるニッケルフェルトが一般的に使用されている。
【0003】
しかし、ニッケルフェルトを加圧した状態では通気性が低下し、発電効率が低下する傾向がある。このため、本出願人は、特許文献1において、金属メッシュを切り欠き加工して細長い舌片を形成し、この舌片を電気化学セルの電極に対して押圧し、導通を図ることを開示した。これによって、通気性を確保でき、また電気化学セルへの押しつけ荷重を均等にできる。
【0004】
こうしたスタック構造では、セルの空気極、燃料極と、導電性接続部材とを接合することによって、接合部分の強度を高くし、電気的導通を安定化することが望ましい。しかし、導電性接続部材は通常、融点の高い耐熱性金属からなり、電極は導電性の比較的高いセラミックスからなる。一般的にこれら異種材料を1000℃以下において高い機械的強度で接合することは難しい。
【0005】
たとえば、特許文献2では、インターコネクタとセルとを強固に接合する目的で、導電性セラミックスによって両者の接合を試みている。具体的には、La−Sr−Co−Fe系ペロブスカイト型複合酸化物を用いている。
【0006】
また、特許文献3では、銀粉体/銀合金とペロブスカイト型複合酸化物粉体との混合物によって、空気極用のコンタクト材料を形成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−265896号公報
【特許文献2】特開2005−339904号公報
【特許文献3】特開2005−50636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献2記載の接合剤では、十分な強度を発現させるために、1000°C以上の高温での熱処理が必要である。このような高温では、金属インターコネクタが酸化されてしまい、その抵抗が増加してしまう。一方、金属インターコネクタの酸化を防止するために、たとえば800〜900°Cの温度で熱処理すると、接合剤の焼結が十分に進まないため、所望の接合強度が得られず、セルの稼働中に接合部の破壊が生ずるおそれがある。
【0009】
また、特許文献3記載の接合剤では、低温での焼結性が向上し、金属インターコネクタの酸化による抵抗増加は抑制できる。しかし、銀は高価であるので、コストが高くなるという問題がある。
【0010】
本発明の課題は、電気化学セルの電極と導電性接続部材とを接合するのに際して、1000°C未満の熱処理で十分な接合強度が得られるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、固体電解質、およびこの固体電解質上に設けられている一対の電極を備えている電気化学セル、
電極に対して電気的に接続されている導電性接続部材、および
電極と導電性接続部材とを接合する接合剤を備えている電気化学装置であって、
接合剤が、スピネル結晶構造を有する遷移金属酸化物からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電気化学セルの電極と導電性接続部材とを接合するのに際して、1000°C未満の熱処理温度でも、十分に高い接合強度が得られることを発見した。しかも、接合剤のコストの上昇も抑制することできる。
【0013】
特許文献2、3において、ペロブスカイト型複合酸化物が使用されていたのは、空気極の材料としてランタンマンガナイト等のペロブスカイト型複合酸化物が使用されていたので、類似材料を選択していたからであり、またセラミックスとして比較的高い導電性を有していたからである。しかし、スピネル構造の遷移金属複合酸化物の場合には、ペロブスカイト型複合酸化物よりも低温で粒成長を起こし、粒子間ネックを形成しやすい。また、本発明の接合剤の電気抵抗は、ペロブスカイト型複合酸化物の電気抵抗より若干劣るものの、実用上は問題ないレベルにある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】セル6の電極6cとインターコネクタとの接合部分を拡大して示す断面図である。
【図2】電気化学セルを用いた発電装置を示す模式図である。
【図3】(a)は、空気極ディスクと金属ディスクとの接合体を示す正面図であり、(b)は、(a)の接合体を用いた接合強度の測定治具を示す正面図である。
【図4】第1実施形態に係る電気化学装置を示す模式図である。
【図5】第2実施形態に係る電気化学装置を示す模式図である。
【図6】接合強度評価用のサンプルの構成を示した模式図である。
【図7】図6に示したサンプルを引張試験に供する際の構成を示した模式図である。
【図8】第1実施形態に係る空気極と接合剤との接合部近傍の断面を電子放射型分析電子顕微鏡で1000倍に拡大して観察して得られた画像の一例である。
【図9】第1実施形態に係る空気極と接合剤との接合部近傍の断面を電子放射型分析電子顕微鏡で10000倍に拡大して観察して得られた画像の一例である。
【図10】第2実施形態に係る空気極と接合剤との接合部近傍の断面を電子放射型分析電子顕微鏡で1000倍に拡大して観察して得られた画像の一例である。
【図11】第2実施形態に係る空気極と接合剤との接合部近傍の断面を電子放射型分析電子顕微鏡で10000倍に拡大して観察して得られた画像の一例である。
【図12】図11に示す画像における反応相を含む一部の画像である。
【図13】図12に示す画像に対応する箇所について酸素のマッピングを行った結果を示す画像である。
【図14】図12に示す画像に対応する箇所についてマンガンのマッピングを行った結果を示す画像である。
【図15】図12に示す画像に対応する箇所についてコバルトのマッピングを行った結果を示す画像である。
【図16】図12に示す画像に対応する箇所についてストロンチウムのマッピングを行った結果を示す画像である。
【図17】図12に示す画像に対応する箇所についてランタンのマッピングを行った結果を示す画像である。
【図18】燃料極に固定されたLCを含んで構成される導電部がLSMからなる最外層を有さない場合において、導電部とインターコネクタとが接合剤により接合された様子を示した模式図である。
【図19】燃料極に固定されたLCを含んで構成される導電部がLSMからなる最外層を有する場合において、導電部とインターコネクタとが接合剤により接合された様子を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(電気化学セル)
電気化学セルは、電気化学的反応を実行するためのセルを意味している。例えば、電気化学セルは、酸素ポンプ、高温水蒸気電解セルである。高温水蒸気電解セルは、水素の製造装置に使用でき、また水蒸気の除去装置に使用できる。また、電気化学セルは、NOx、SOxの分解セルとして使用できる。この分解セルは、自動車、発電装置からの排ガスの浄化装置として使用できる。この場合には、固体電解質膜を通して排ガス中の酸素を除去するのと共に、NOxを電解して窒素と酸素とに分解し、この分解によって生成した酸素をも除去できる。また、このプロセスと共に、排ガス中の水蒸気が電解されて水素と酸素とを生じ、この水素がNOxをN2へと還元する。また、好適な実施形態では、電気化学セルが、固体電解質形燃料電池である。
【0016】
一対の電極は、陰極および陽極である。また、一方のガス、他方のガスは、それぞれ、還元性ガスであってよく、酸化性ガスであってよい。
【0017】
固体電解質層の材料は特に限定されず、イットリア安定化ジルコニア又はイットリア部分安定化ジルコニアであってよい。また、NOx分解セルの場合には、酸化セリウムも好ましい。
【0018】
陽極の材質は、ランタンを含有するペロブスカイト型複合酸化物であることが好ましく、ランタンマンガナイト又はランタンコバルタイトであることが更に好ましく、ランタンマンガナイトが一層好ましい。ランタンコバルタイト及びランタンマンガナイトは、ストロンチウム、カルシウム、クロム、コバルト、鉄、ニッケル、アルミニウム等をドープしたものであってよい。また、パラジウム、白金、ルテニウム、白金−ジルコニアサーメット、パラジウム−ジルコニアサーメット、ルテニウム−ジルコニアサーメット、白金−酸化セリウムサーメット、パラジウム−酸化セリウムサーメット、ルテニウム−酸化セリウムサーメットであってもよい。
【0019】
陰極の材質としては、ニッケル、パラジウム、白金、ニッケル−ジルコニアサーメット、白金−ジルコニアサーメット、パラジウム−ジルコニアサーメット、ニッケル−酸化セリウムサーメット、白金−酸化セリウムサーメット、パラジウム−酸化セリウムサーメット、ルテニウム、ルテニウム−ジルコニアサーメット等が好ましい。
【0020】
電気化学セル間に、別体のセパレータを挟むこともできる。この場合には、セパレータの材質は、一方のガスおよび他方のガスに対して安定な材質で有れば良いが、例えば、ランタンを含有するペロブスカイト型複合酸化物であることが好ましく、ランタンクロマイトであることが更に好ましい。また金属セパレータの場合は、インコネル、ニクロムなどのニッケル基合金、ヘンズアロイなどのコバルト基合金、ステンレスなどの鉄基合金がある。還元性ガスに対して安定な材質としては、ニッケルおよびニッケル基合金がある。1000℃以下で作動する固体酸化物形燃料電池で使用される金属セパレータとしては、ZMG232L(日立金属(株)の商品名)が挙げられる。
【0021】
(導電性接続部材)
本発明の導電性接続部材の材質は、この部材が曝露されるガスに対して、電気化学セルの稼働温度において安定な材質である必要がある。具体的には、白金、銀、金、パラジウムやインコネル、ニクロムなどのニッケル基合金、ヘンズアロイなどのコバルト基合金、ステンレスなどの鉄基合金、ニッケルが好ましい。
【0022】
(接合剤)
接合剤は、スピネル結晶構造を有する遷移金属酸化物からなる。
スピネル構造の酸化物は、ABの組成式で示される酸化物であり、結晶中に、AサイトとBサイトという二つのサイトを持つ。スピネル構造の結晶は、等軸晶系であり、八面体の結晶である。
【0023】
また、本発明では、このスピネル構造の酸化物のAサイトとBサイトとを占める各金属元素が、いずれも遷移金属から選択される。ここで遷移金属は、以下のものが好ましい。
クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛
【0024】
好ましくは、Aサイト、Bサイトを占める金属元素が貴金属を除く遷移金属である。更に好ましくは、Aサイト、Bサイトを示す各金属元素が、以下から選択される。
Aサイト:鉄、マンガン、コバルト、銅、ニッケルおよび亜鉛
Bサイト:クロム、コバルト、マンガンおよび鉄
【0025】
特に好ましくは、金属元素Aが、マンガン、銅、ニッケルおよび亜鉛からなる群より選ばれた一種以上の金属元素であり、Bが、コバルト、マンガンおよび鉄からなる群より選ばれた一種以上の金属元素である。
【0026】
また、Aサイト、Bサイトは、一部が、前記した主金属元素以外のトープ金属元素によって置換されていてよい。このようなドープ金属元素としては、全ての金属元素と両性元素が含まれる。
【0027】
また、ドープ金属元素の置換割合(mol%)は、ドープを行う場合には、20mol%以下が好ましく、10mol%以下が更に好ましい。
【0028】
本発明で用いる接合剤は、所望の導電性を有している。具体的には、700℃〜1000℃の範囲で、1S/cm〜500S/cmである。
【0029】
(スタックの例)
本発明を適用するべき電気化学セルのスタックは、特に限定されない。ここでは、図1、2の例を参照しつつ説明する。電気化学セル6は、空気極6c、固体電解質6b、燃料極6aからなる。燃料極と空気極とを入れ換えてもよい。セル6と導電性接続部材1とを、金属製の空気極インターコネクタ5A、燃料極インターコネクタ5Bによって挟み、スタックを作製する。
【0030】
この時、空気極インターコネクタ5Aとセル6との間、燃料極インターコネクタ5Bとセル6との間に、それぞれ、通気性を有する導電性接続部材1を挿入する。そして、図1に示すように、各導電性接続部材1の先端部3を、セル6の各電極6a、6cに対して、本発明の接合剤9によって接合し、これによって導電性接続部材をセルに対して固定し、かつ電気的な導通を図る。
【0031】
(スタックの製法)
まずセラミックスからなる電気化学セルを製造する。セルの製法は特に限定されない。次いで、セル6の電極と導電性接続部材1との間に、本発明の接合剤の材料を設置し、接合する。そして、上下のインターコネクタ5A、5Bの間に、セル6、導電性接続部材をはさみ、加圧してスタックを形成する。次いで水素雰囲気下でスタックを加熱し、燃料極を還元し、発電可能な状態とする。この加圧機構は特に限定されない。例えば、ボルト等の締結部材、バネ等の付勢機構であってよい。
【0032】
ここで,導電性接続部材1とセル6の電極6a、6cを接合する段階では、以下の方法をとることができる。
(1) スピネル型複合酸化物の粉末を含むペーストを、セルの電極と導電性接続部材との間に介在させ、両者に接触させる。この状態で加熱処理することで、スピネル型複合酸化物からなる接合剤9を生成させ、接続部材とセル電極とを接合する。
(2) 金属元素Aの酸化物と金属元素Bの酸化物とを、スピネル酸化物の比率となるように混合して混合粉末を製造する。この混合粉末を含むペーストを、セルの電極と導電性接続部材との間に介在させ、両者に接触させる。この状態で加熱処理することで、スピネル型複合酸化物からなる接合剤9を生成させ、接続部材とセル電極とを接合する。
(3) 金属元素Aの金属粉末と金属元素Bの金属粉末とを、スピネル酸化物の比率となるように混合して混合粉末を製造する。この混合粉末を含むペーストを、セルの電極と導電性接続部材との間に介在させ、両者に接触させる。この状態で加熱処理することで、スピネル型複合酸化物からなる接合剤9を生成させ、接続部材とセル電極とを接合する。
【0033】
導電性接合剤を生成させる加熱段階においては、加熱温度は、電気化学セルのスタックについて必要な接合強度を得るという観点から、500°C以上が好ましく、700°C以上が更に好ましい。また、金属製のセパレータ、導電性接続部材の酸化劣化を防止するという観点から、980°C以下が好ましく、900°C以下が更に好ましい。
【0034】
導電性接合剤を生成させる加熱段階においては、雰囲気は、大気雰囲気・還元雰囲気のどちらでもよいが、大気雰囲気であることが更に好ましい。
【0035】
導電性接合剤ペースト中には、必要に応じて、バインダー、溶媒および他の添加剤を添加することができる。
【0036】
こうしたバインダーとしては、メチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)を例示できる。
【0037】
こうした溶媒としては、エタノール、ブタノール、テルピネオール、アセトン、キシレン、トルエンを例示できる。
【0038】
他の添加剤としては、分散剤、可塑剤等があげられる。
【実施例1】
【0039】
[接合強度の評価]
図3(a)、(b)に示す組み立て体を利用することで、本発明例および比較例の導電性接合剤のセル電極に対する接合強度を評価した。
【0040】
(接合用ペーストの製造)
遷移金属1の酸化物粉末と遷移金属2の酸化物粉末とを、表1に示すモル比率で秤量し、ポットミルで24時間、混合および粉砕し、スラリーを得た。得られたスラリーを80℃のオーブンで乾燥させた後、大気雰囲気、800℃で1時間焼成し、スピネル型複合酸化物を合成した。合成されたスピネルを再度ポットミルで粉砕し、平均粒径0.5μmの複合酸化物粉末を得た。この粉末に、バインダーとしてエチルセルロース、溶剤としてテルピネオールを添加して接合用のペーストとした。
【0041】
また、遷移金属1の金属粉末と遷移金属2の金属粉末とを、表1に示すモル比率で秤量し、バインダーとしてエチルセルロース、溶剤としてテルピネオールを添加して乳鉢で混合し、接合用のペーストとした。
【0042】
【表1】

【0043】
比較例として、平均粒径0.5μmのLa0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8に、バインダーとしてエチルセルロース、溶剤としてテルピネオールを添加して接合用のペーストとした。La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8は、燃料電池の空気極材料としてよく用いられる材料であり、比較的低温でも焼結する材料である。
【0044】
(試験用空気極ディスクの作製)
燃料電池の空気極として用いられているLa0.75Sr0.2MnOを一軸プレスで成型し、大気中、1200℃で2時間焼成して緻密体を作製した。得られた緻密体をφ20mm、厚み2mmのディスクに加工し、試験用のディスク11とした(図3(a))。
【0045】
実際の燃料電池セルの空気極を模擬するため、平均粒径0.5μmのLa0.75Sr0.2MnO粉末と8mol%イットリア安定化ジルコニア粉末を重量比1:1で混合し、バインダーとしてエチルセルロース、溶剤としてテルピネオールを加えペースト状にした。得られたペーストを、先に作製した空気極ディスク表面にφ10mmで印刷し、大気中1200℃で1時間焼成し、模擬空気極6cを形成した。
【0046】
(金属ディスクの作製)
高Cr含有(22%Cr)のフェライト系ステンレス材料をφ10mm、厚さ0.5mmの円形に加工し、金属ディスク10とした。
【0047】
(試験サンプルの作製)
作製した空気極ディスク11上の空気極6c表面と金属ディスク10の表面とに、接合用ペースト9を塗布し、両者を張り合わせ、100℃で1時間乾燥させた。その後、大気中、900℃で1時間焼成して両試験片を接合した(図3(a))。
【0048】
(評価方法)
図3(b)に示すような金属治具13を接着剤12で空気極ディスク11および金属ディスク10に対して接着し、引張試験により、各接合体の接合強度を求めた。各接合体について、n=5で試験し、接合強度の平均値を求めた。結果を表2に示す。
【0049】
【表2】

【0050】
従来のペロブスカイト材料であるLa0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8に比べて、種々のスピネル材料を用いた実施例1〜5においては、電極と金属との接合強度が著しく向上した。すなわち、本発明により、金属インターコネクタと電極とをより強固に接合することが可能であることを確認した。
【0051】
[発電試験]
図2に模式的に示すようにして、燃料極を基板とする固体酸化物形セルを作製した。
(燃料極基板の作製)
平均粒径1μmの酸化ニッケル粉末50重量部とイットリア安定化ジルコニア(8YSZ、TZ-8Y:東ソー)50重量部を混合し、バインダーとしてポリビニルアルコール(PVA)を添加してスラリーを作製した。このスラリーをスプレードライヤーで乾燥および造粒し、燃料極基板用粉末を得た。この造粒粉末を金型プレス成形法により成形し、直径120mm、厚さ1.5mmの円板を得た。その後、電気炉で空気中1400℃で円板を3時間焼成し、燃料極基板6aを得た。
【0052】
(固体電解質膜の形成)
8mol%イットリア安定化ジルコニア粉末に水とバインダーを加え、ボールミルで16時間混合した。得られたスラリーを、前記の燃料極基板上に塗布、乾燥し、電気炉で空気中1400℃で2時間共焼結して電解質厚さ10μmの燃料極/固体電解質焼結体を作製した。
【0053】
(空気極の形成)
空気極として、平均粒径0.5μmのLa0.75Sr0.2MnO粉末と8mol%イットリア安定化ジルコニア粉末を重量比1:1で混合しエチルセルロース、溶剤としてテルピネオールを加え、ペースト状にした。このペーストをスクリーン印刷で成膜・乾燥後1200℃で1時間で焼き付け、燃料極6a/固体電解質6b/空気極6cのセル6を作製した。
【0054】
(導電性接続部材の作製)
通気性を有する導電性接続部材1として、燃料極側にはNiメッシュ、空気極側にはフェライト系ステンレスメッシュを用いた。これらの各メッシュをレーザー加工することによって、舌状の切り目を入れ、その後、舌片をプレス加工することによって突起形状を付与した。舌片3の飛び出し高さは、セルの反りを吸収するため1.0mmとした。
【0055】
(接合)
作製したセル6の空気極6c表面と導電性接続部材1の舌片3に実施例1の接合用ペーストを塗布し、両者を張り合わせた。また、インターコネクタ5Aの表面にも実施例1の接合用ペーストを塗布し、インターコネクタ5Aと導電性接続部材1を接合した。セル6の燃料極6a表面とインターコネクタ5Bの表面にはNiペーストを塗布し、導電性接続部材1を間に挟んで張り合わせた。その後、100℃で1時間乾燥させたのちに、大気中、900℃で1時間焼成して接合し、スタックを得た。比較例として、平均粒径0.5μmのLa0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8に、バインダーとしてエチルセルロース、溶剤としてテルピネオールを添加した接合用のペーストを作製した。同様に大気中900℃で1時間焼成、接合してスタックを得た。
【0056】
(性能評価)
性能評価をするため電気炉に前記スタックをセットし、燃料極6a側に窒素ガス,空気極6c側にエアーを流しながら、800℃まで昇温し、800℃に達した時点で燃料極6a側に水素ガスを流して還元処理を行った。3時間の還元処理後、スタックの電流−電圧特性評価と内部抵抗解析を実施した。
【0057】
この結果、本発明の導電性接合剤を用いたスタックでは最大出力密度は0.31W/cmであり、オーミック抵抗は0.30Ω・cmであった。一方、比較例を用いたスタックでは最大出力密度が0.10W/cmであり、オーミック抵抗は2.0Ω・cmであった。
【0058】
すなわち、従来のペロブスカイト材料であるLa0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8に比べて、本発明は金属インターコネクタと電極とをより強固に接合することが可能になり、発電出力の向上とオーミックな内部抵抗を低減することができることを確認した。
【0059】
(固体酸化物形燃料電池の空気極とインターコネクタとの接合)
固体酸化物形燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell:SOFC)のセル(単電池)は、固体電解質と、固体電解質と一体的に配置された燃料極と、固体電解質と一体的に配置された空気極とを備えている。このSOFCのセルに対して、燃料極に燃料ガス(水素ガス等)を供給するとともに空気極に酸素を含むガス(空気等)を供給することにより、下記(1)、(2)式に示す化学反応が発生する。これにより、燃料極と空気極との間に電位差が発生する。この電位差は、固体電解質の酸素伝導度に基づく。
(1/2)・O+2e−→O2− (於:空気極) …(1)
+O2−→HO+2e− (於:燃料極) …(2)
【0060】
SOFCでは、通常、燃料極と空気極のそれぞれに集電用の導電性接続部材(以下、インターコネクタと呼ぶ。)が接合剤により接合・固定され、それぞれのインターコネクタを介して前記電位差に基づく電力が外部に取り出される。以下、特に、空気極とインターコネクタとの接合に着目する。
【0061】
従来、空気極とインターコネクタとを接合して空気極とインターコネクタとを電気的に接続する接合剤として、高価なPt材料が用いられてきた。コスト低減のため、Pt材料の代替材料として、メタル系では銀系材料、セラミック系では導電性セラミック材料が考えられる。上述したように、本発明者は、この導電性セラミック材料として、スピネル型結晶構造を有する遷移金属酸化物(例えば、MnCo、CuMn)に注目している。
【0062】
係るスピネル系材料が接合剤として用いられる場合、空気極の接合部とインターコネクタの接合部との間にその接合剤の前駆体であるペーストが介在した状態でペーストが焼成される。これにより、焼結体である接合剤によって空気極とインターコネクタとが接合され且つ電気的に接続される。ここで、空気極側のインターコネクタの材料として、通常、フェライト系SUS材料等が使用される。フェライト系SUS材料は、高温下にて酸化によりその表面にクロミア(Cr)が形成され易い。クロミア(Cr)の電気抵抗は非常に大きい。
【0063】
従って、インターコネクタにおける接合剤との界面にクロミア(Cr)が形成され、そのクロミア(Cr)の膜が成長すると、SOFC全体としての電気抵抗が増大し、SOFC全体としての出力が低下し易くなる。クロミア(Cr)は、温度が高いほどより形成され易い。以上より、接合剤の前駆体であるペーストの焼成時にてインターコネクタにおける接合剤との界面にクロミア(Cr)が形成されることを抑制するためには、このペーストの焼成が比較的低い温度でなされる必要がある。
【0064】
このように比較的低い温度で接合剤の前駆体であるペーストの焼成がなされる場合において、焼結体である接合剤として、以下の2つが要求される。
1.十分に緻密化されて高い導電率が得られること(電気抵抗が小さいこと)。
2.高い接合強度が得られること。
【0065】
ところで、SOFCの空気極の材料として、空気極にて発生する上記(1)式に示す化学反応の反応速度を高める観点からは、活性の高いランタンストロンチウムコバルトフェライト(LSCF)等を使用することが有効である。従って、空気極をLSCF層のみで構成し、このLSCF層とインターコネクタとがスピネル系材料の接合剤により接合される構成(以下、「第1実施形態」と呼ぶ。)が考えられる。本発明者は、この構成よりも、空気極と接合剤との間での接合強度が大きい構成(以下、「第2実施形態」と呼ぶ。)を見出した。以下、このことについて説明する。
【0066】
図4は、SOFCのセル100の空気極140がLSCF層のみからなる上記第1実施形態に係るセル100(のLSCF層)とインターコネクタ200との接合体(電気化学装置)を示す。図4に示すように、この第1実施形態では、セル100は、燃料極110と、燃料極110の上に積層された電解質120と、電解質120の上に積層された反応防止層130と、反応防止層130の上に積層された空気極140と、からなる積層体である。このセル100を上方からみた形状は、例えば、1辺が1〜10cmの正方形である。或いは、長辺が5〜30cmで短辺が3〜15cmの長方形、又は直径が10cmの円形である。
【0067】
燃料極110(アノード電極)は、酸化ニッケルNiOとイットリア安定化ジルコニアYSZとから構成される多孔質の板状の焼成体である。この燃料極層110は、以下のように製造された。即ち、NiO粉末60重量部とYSZ粉末40重量部が混合され、この混合物にバインダーとしてポリビニルアルコール(PVA)が添加されてスラリーが作製された。このスラリーがスプレードライヤーで乾燥・造粒され、燃料極用の粉末が得られた。この粉末が金型プレス成形法により成形され、その後、電気炉で空気中にて1400℃で3時間焼成されて、燃料極110が製造された。燃料極110の厚さT1は0.3〜3mmである。セル100の各構成部材の厚さのうち燃料極110の厚さが最も大きく、燃料極110は、セル100の支持基板として機能している。
【0068】
電解質120は、YSZから構成される緻密な薄板状の焼成体である。この電解質120は、以下のように燃料極110の上に形成された。即ち、YSZ粉末に水とバインダーが加えられ、この混合物がボールミルで24時間混合されてスラリーが作製された。このスラリーが、燃料極110上に塗布・乾燥され、電気炉で空気中にて1400℃で2時間共焼結されて、燃料極110上に電解質120が形成された。電解質120の厚さT2は3〜30μmである。なお、燃料極110の上に後に電解質120となる膜を形成するに際し、テープ積層法、印刷法等が用いられてもよい。
【0069】
反応防止層130は、セリアからなる緻密な薄板状の焼成体である。セリアとしては、具体的には、GDC(ガドリニウムドープセリア)、SDC(サマリウムドープセリア)等が挙げられる。この反応防止層130は、以下のように電解質120の上に形成された。即ち、GDC粉末に水とバインダーが加えられ、この混合物がボールミルで24時間混合されてスラリーが作製された。このスラリーが、電解質120上に塗布・乾燥され、電気炉で空気中にて1350℃で1時間焼成されて、電解質120上に反応防止層130が形成された。反応防止層130の厚さT3は3〜20μmである。なお、電解質120の上に後に反応防止層130となる膜を形成するに際し、テープ積層法、印刷法等が用いられてもよい。また、反応防止層130が共焼結により形成されてもよい。
【0070】
なお、反応防止層130は、SOFCの作動中のセル100内において、電解質120内のYSZと空気極140内のストロンチウムとが反応して電解質120と空気極140との間の電気抵抗が増大する現象の発生を抑制するために、電解質120と空気極140との間に介装されている。
【0071】
空気極140(カソード電極)は、ランタンストロンチウムコバルトフェライトLSCFからなる多孔質の薄板状の焼成体である。即ち、空気極140はLSCF層のみからなる。ランタンストロンチウムコバルトフェライトの化学式は、下記(3)式にて表される。具体的な組成の一例としては、La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8が挙げられる。
【0072】
La1−xSrCo1−yFe3−δ …(3)
【0073】
上記(3)式において、xの範囲は、0.05〜0.6であり、更に好ましくは、0.2〜0.5である。yの範囲は、0.5〜0.95であり、更に好ましくは、0.6〜0.85である。δは0を含む微小値である。
【0074】
この空気極140は、以下のように反応防止層130の上に形成された。即ち、LSCF粉末に水とバインダーが加えられ、この混合物がボールミルで24時間混合されてスラリーが作製された。このスラリーが、反応防止層130上に塗布・乾燥され、電気炉で空気中にて1000℃で1時間焼成されて、反応防止層130上に空気極140が形成された。空気極140の厚さT4は5〜50μmである。
【0075】
インターコネクタ200は、フェライト系SUS材料からなる導電性接続部材である。インターコネクタ200は、フェライト系SUS材料を機械加工等により所定の形状に加工することにより作製された。このインターコネクタ200が複数準備された。各インターコネクタ200の接合部とセル100の空気極140(即ち、LSCF層)の接合部とが、接合剤300により接合され且つ電気的に接続されている。
【0076】
接合剤300は、スピネル型結晶構造を有する遷移金属酸化物から構成される焼成体であり、例えば、MnCo、CuMn等から構成される。この接合剤300による接合は以下のように達成された。MnCoの場合を例にとって説明する。先ず、マンガンMnの金属粉末とコバルトCoの金属粉末とが1:2のモル比率で秤量され混合された。この混合物に、バインダーとしてエチルセルロース、溶剤としてテルピネオールが加えられ、この混合物が乳鉢で混合されて接合用のペーストが作製された。セル100の空気極140(即ち、LSCF層)の表面とインターコネクタ200の接合部とにこの接合用ペーストが塗布され、空気極140とインターコネクタ200とが貼り合わされた。その後、このペーストが100℃で1時間乾燥された後、空気中にて850℃で1時間焼成されることで、焼結体である接合剤300が形成される。この接合材300により、空気極140とインターコネクタ200とが接合され且つ電気的に接続される。接合剤300の層の厚さTAは20〜500μmである。
【0077】
なお、上記の例では、接合用ペーストは、スピネル系材料を構成する各金属の粉末を出発原料として作製されているが、予め合成されたスピネル系材料の粉末を出発原料として作製されてもよい。この場合、所定の手順にて合成されたスピネル系材料(MnCo)がポットミルで粉砕され、スピネル系材料の粉末が得られる。この粉末に、バインダーとしてエチルセルロース、溶剤としてテルピネオールが添加されて接合用のペーストが作製され得る。そして、このペーストを用いて空気極140とインターコネクタ200とが貼り合わされ、このペーストが100℃で1時間乾燥される。その後、空気中にて1000℃で1時間焼成されることで、焼結体である接合剤300が形成され得る。
【0078】
これに対し、図5は、上記第2実施形態に係るセル100とインターコネクタ200との接合体(電気化学装置)を示す。この第2実施形態は、空気極140がLSCF層であるベース層141と最外層142との2層からなる点、並びに、最外層142とインターコネクタ200とが接合剤300により接合されている点のみが、上記第1実施形態(空気極140がLSCF層(ベース層141に相当)のみからなり且つLSCF層とインターコネクタ200とが接合剤300により接合されている。)と異なる。
【0079】
最外層142は、マンガンを含むペロブスカイト構造を有する多孔質の薄板状の焼成体である。最外層142は、例えば、ランタンストロンチウムマンガナイトLSM、ランタンマンガナイトLM等から構成される。最外層142を構成する物質の化学式は、下記(4)式にて表される。具体的な組成の一例としては、La0.8Sr0.2MnO、LaMnOが挙げられる。
【0080】
La1−xAEMn1−y+z3−δ …(4)
【0081】
上記(4)式において、AEは、Ca,Sr,Baから選択される少なくとも1種類の元素である。Bは、Cr,Fe,Co,Niから選択される少なくとも1種類の元素である。xの範囲は、0.05〜0.4であり、更に好ましくは、0.1〜0.3である。yの範囲は、0〜0.2であり、更に好ましくは、0〜0.05である。zの範囲は、0〜0.2であり、更に好ましくは、0.05〜0.15である。δは0を含む微小値である。
【0082】
最外層142は、以下のようにベース層141の上に形成された。以下、LSMの場合を例にとって説明する。即ち、LSM粉末に水とバインダーが加えられ、この混合物がボールミルで24時間混合されてスラリーが作製された。このスラリーが、ベース層141上に塗布・乾燥され、電気炉で空気中にて1000℃で1時間共焼結されて、ベース層141上に最外層142が形成された。空気極140において、ベース層141の厚さT41は5〜50μmであり、最外層142の厚さT42は5〜50μmである。
【0083】
なお、上記の例ではベース層141がLSCF層の1層から構成されているが、ベース層141が複数の層から構成されてもよい。例えば、ベース層141が、反応防止層130の上に積層されたLSCF層(空気極)と、そのLSCF層の上に積層された(即ち、LSCF層と最外層(LSM層)142との間に介装された)ランタンストロンチウムコバルタイトLSC(La0.8Sr0.2CoO)層(集電層)との2層から構成されてもよい。更に、LSC層と最外層(LSM層)142との間にLSCF層(熱応力緩衝層)が介装されてもよい(即ち、ベース層141が3層から構成されてもよい)。また、空気極の材料として、LSCFに代えて、LSC、ランタンストロンチウムフェライトLSF(La0.8Sr0.2FeO)、ランタンニッケルフェライトLNF(LaNi0.6Fe0.4)等が使用されてもよい。
【0084】
上述したように、本発明者は、上記第1実施形態に対して上記第2実施形態が、空気極140と接合剤300との間での接合強度が大きいことを見出した。以下、このことを確認した試験Aについて説明する。
【0085】
(試験A)
試験Aでは、上記第1実施形態に対して、接合剤300の材質、及び空気極140の構成(材質、積層数)の組み合わせが異なる複数のサンプルが作製され、上記第2実施形態に対して、接合剤300の材質、及びベース層141の構成(材質、積層数)の組み合わせが異なる複数のサンプルが作製された。具体的には、表3に示すように、8種類の水準(組み合わせ)が準備された。そして、各水準に対して5つのサンプルが作製された。表3において、最外層がないもの(水準1,3,5,7)が上記第1実施形態に対応し、最外層があるもの(水準2,4,6,8)が上記第2実施形態に対応する。
【0086】
【表3】

【0087】
図6に示すように、これらのサンプルでは、インターコネクタ200及び接合剤300が共に、上方からみた形状がセル100を上方からみた形状と同じ板状とされた。即ち、上方からみた形状が同じ空気極140(最外層142)とインターコネクタ200とが接合面の全域に亘って接合剤300により接合されている。なお、図6は上記第2実施形態に対応するサンプルの構成を示しているが、上記第1実施形態に対応するサンプルの構成も同様である。
【0088】
これらのサンプルにおいて、燃料極110(NiO−YSZ)の厚さT1は500μm、電解質120(3YSZ)の厚さT2は5μm、反応防止層130(GDC)の厚さT3は5μm、空気極140(LSCF)の厚さT4(ベース層141の厚さT41)は30μm、最外層142(LSM)の厚さT42は20μm、接合剤300の厚さTAは200μm、インターコネクタ200の厚さTBは450μmで一定とされた。また、これらのサンプルを上方からみた形状は、直径が30cmの円形とされた。最外層142の材質として、LSM(La0.8Sr0.2Mn0)が用いられた。また、接合剤300は、スピネル系材料を構成する各金属の粉末を出発原料として作製された。
【0089】
図7に示すように、各サンプルの上下面に対して、引張試験用の治具がエポキシ樹脂によりそれぞれ貼り付けられた。エポキシ樹脂としては、接着力が大きいスリーボンド社の熱硬化型エポキシ系接着剤(商品名:TB2222P)が用いられた。このように接着力が大きいエポキシ樹脂が用いられたのは、接合剤300による接合部位の接合強度よりも高い接合強度を得るためである。エポキシ樹脂を硬化するための条件(接着条件)は、100℃で60分とされた。
【0090】
上下の治具を上下方向に引き離す力が加えられることで、各サンプルに対して上下方向に引っ張り力が加えられた。そして、接合剤300による接合部位が破壊する際の引っ張り力の大きさ(以下、「引張強度」と呼ぶ。)が計測された。ここで、各サンプルにおいて、破壊される接合部位(最弱部位)は、空気極140(第1実施形態では空気極140、第2実施形態では最外層142)と接合剤300との間の接合部位であった。この結果を表4に示す。
【0091】
【表4】

【0092】
表4から理解できるように、第2実施形態(最外層あり)の方が第1実施形態(最外層なし)よりも引張強度が大きい傾向がある。即ち、第2実施形態の方が第1実施形態よりも、空気極140と接合剤300との間での接合強度が大きいということができる。なお、上記第1、第2実施形態間において、電気抵抗に対して特段の差異はない。
【0093】
以下、最外層142の厚さT42と、接合剤層の厚さTAについて付言する。本発明者は、上記第2実施形態において、引張強度を確保する上で好ましい最外層142の厚さT42の範囲、及び接合剤層の厚さTAの範囲について検討するため、試験Bを行った。以下、試験Bについて説明する。
【0094】
(試験B)
試験Bでは、上記第2実施形態に対して、最外層142の厚さT42、及び接合剤層の厚さTAの組み合わせが異なる複数のサンプルが作製された。具体的には、表5に示すように、15種類の水準(組み合わせ)が準備された。そして、各水準に対して5つの図6に対応するサンプルが作製された。
【0095】
【表5】

【0096】
これらのサンプルにおいて、燃料極110(NiO−YSZ)の厚さT1は500μm、電解質120(3YSZ)の厚さT2は5μm、反応防止層130(GDC)の厚さT3は5μm、空気極140のベース層141の厚さT41は30μm、インターコネクタ200の厚さTBは450μmで一定とされた。また、これらのサンプルを上方からみた形状は、直径が30cmの円形とされた。最外層142の材質として、LSM(La0.8Sr0.2Mn0)が用いられた。また、接合剤300は、スピネル系材料を構成する各金属の粉末を出発原料として作製された。スピネル系材料としては、MnCoが用いられた(なお、CuMnを用いても同様の結果が得られることが確認されている)。
【0097】
そして、試験Aと同様、図7に示すように、各サンプルの上下面に対して、引張試験用の治具がエポキシ樹脂によりそれぞれ貼り付けられ(接着条件は試験Aの場合と同じ)、試験Aと同じ手順で引張強度が計測された。ここで、各サンプルにおいて、破壊される接合部位(最弱部位)は、最外層142と接合剤300との間の接合部位であった。この結果を表5に示す。表5に示す各水準の引張強度の値は、対応する5つのサンプルについての平均値である。
【0098】
表5から理解できるように、引張強度を確保する上で、最外層142の厚さT42は5〜50μmであることが好ましく、接合剤層の厚さTAは20〜500μmであることが好ましい。
【0099】
(空気極と接合剤との接合部の特徴)
以下、空気極140と接合剤300との接合部(接合領域)の特徴について付言する。図8、図9はそれぞれ、第1実施形態における空気極140(LSCF相)と接合剤300(MnCo相)との接合部近傍の断面を電子放射型分析電子顕微鏡(FE−EPMA)で1000倍、10000倍に拡大して観察して得られた画像の一例である。図10、図11はそれぞれ、第2実施形態における空気極の最外層142(LSM相)と接合剤300(MnCoO相)との接合部近傍の断面を電子放射型分析電子顕微鏡(FE−EPMA)で1000倍、10000倍に拡大して観察して得られた画像の一例である。
【0100】
図10、図11に丸印で示すように、第2実施形態では、最外層142(LSM相)と接合剤(MnCo相)との接合部における最外層142(LSM相)側に、MnCo相とLSM相とが反応した相(以下、「反応相」と呼ぶ。)が見られる。図10に示すように、この反応相は、LSM相の内部にも見られる。
【0101】
図12は、図11に示す画像における反応相(丸印を参照)を含む一部の画像である。図12に示す画像に対応する箇所について元素分析(元素マッピング)が行われた。図13〜図17はそれぞれ、O(酸素)のマッピング、Mn(マンガン)のマッピング、Co(コバルト)のマッピング、Sr(ストロンチウム)のマッピング、及び、La(ランタン)のマッピングを行った結果を示す。図13〜図17において、画像の白黒色は元素濃度を表し、白黒色が薄い方(白色の方)が元素濃度が大きく、白黒色が濃い方(黒色の方)が元素濃度が小さいことを示す。なお、これらの画像、及び分析結果は、日本電子株式会社製の電界放射型分析電子顕微鏡(JXA−8500F)を用いて取得された。
【0102】
図13〜図17から理解できるように、反応相では、La、Sr、MnのみならずCoが含まれている。即ち、接合剤(MnCo)内のCo原子の一部がLSM相内(接合部におけるLSM相側、及びLSM相の内部)に進入する現象が見られる。この現象は、1000℃で熱処理済の空気極140(ベース層141+最外層142)とインターコネクタ200との間に上述の「接合用のペースト」が介在した状態で同ペーストが850℃で熱処理される際に発生したものと推測される。
【0103】
一方、図8、図9から理解できるように、第1実施形態では、接合剤(MnCo)内のCo原子の一部がLSCF相内に進入する現象が見られない。以上のことから、「接合剤(MnCo)内のCo原子の一部が接合部におけるLSM相側に進入する現象」が、第2実施形態が第1実施形態よりも空気極140と接合剤300との間での接合強度が大きいことに大きく貢献しているものと考えられる。なお、「接合剤(MnCo)内のCo原子の一部がLSM相の内部に進入する現象」は、LSM相そのものの強度向上に貢献しているものと推測される。
【0104】
以上、空気極140(前記「第1導電性接続部材」に対応)とインターコネクタ200(前記「第2導電性接続部材」、及び前記「導電性接続部材」に対応)とが「スピネル型結晶構造を有する遷移金属酸化物(MnCo、CuMn等)」を含んだ接合剤300により接合される場合において、空気極が「Mnを含むペロブスカイト構造」を有する最外層142(LSM,LM等)を有する場合(第2実施形態、図5を参照)、同最外層を有さない場合(第1実施形態、図4を参照)に比して、空気極140と接合剤300との間での接合強度が大きいことを説明した。
【0105】
これに対し、図18、図19に示すように、燃料極110に固定され且つ燃料極110と電気的に接続されたランタンクロマナイトLCを含んで構成される導電部150(端子電極、前記「第1導電性接続部材」に対応)とインターコネクタ200(前記「第2導電性接続部材」、及び前記「導電性接続部材」に対応)とが、「スピネル型結晶構造を有する遷移金属酸化物(MnCo、CuMn等)」を含んだ接合剤300により接合される場合についても、全く同様の結果が得られることが判明している。
【0106】
即ち、図18に示すように、導電部150がLC層のみからなり且つLC層とインターコネクタ200とが接合剤300により接合される場合に比して、図19に示すように、導電部150がLC層からなるベース層151と「Mnを含むペロブスカイト構造」を有する最外層152(LSM層、LM層等)との2層からなり且つ最外層152(LSM層、LM層等)とインターコネクタ200とが接合剤300により接合される場合、導電部150と接合剤300との間での接合強度が大きいことが判明している。加えて、この場合も、引張強度を確保する上で、最外層152の厚さT52が5〜50μmであることが好ましく、接合剤層の厚さTCが20〜500μmであることが好ましいことが判明している。
【0107】
ランタンクロマナイトLCの化学式は、下記(5)式にて表される。下記(5)式において、AEは、Ca,Sr,Baから選択される少なくとも1種類の元素である。Bは、Co,Ni,V,Mg,Alから選択される少なくとも1種類の元素である。xの範囲は、0〜0.4であり、更に好ましくは、0.05〜0.2である。yの範囲は、0〜0.3であり、更に好ましくは、0.02〜0.22である。zの範囲は、0〜0.1であり、更に好ましくは、0.02〜0.05である。δは0を含む微小値である。
【0108】
La1−xAECr1−y+z3−δ …(5)
【0109】
なお、図18、図19に示すように、燃料極側の端子電極としてLCが用いられるのは、端子電極の一端(内側)が還元雰囲気に曝され且つ他端(外側)が酸化雰囲気に曝されることに基づく。酸化・還元の両雰囲気で安定な導電性セラミックスとしては、現状では、LCが最も優れている。
【0110】
以上より、一般に、第1導電性接続部材と第2導電性接続部材とが「スピネル型結晶構造を有する遷移金属酸化物(MnCo、CuMn等)」を含んだ接合剤により接合される場合、第1導電性接続部材が「Mnを含むペロブスカイト構造」を有する最外層(LSM層、LM層等)を有する限りにおいて、第1導電性接続部材(のベース層)の材質にかかわらず、同最外層を有さない場合に比して、第1導電性接続部材と接合剤との間での接合強度が大きい、ということができる。
【符号の説明】
【0111】
1…インターコネクタ、6…電気化学セル、6a、6c…電極、6b…固体電解質、9…接合剤、10…金属ディスク、11…空気極ディスク、100…セル、110…燃料極、120…電解質、130…反応防止層、140…空気極、141…ベース層、142…最外層、150…導電部、151…ベース層、152…最外層、200…インターコネクタ、300…接合剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質、およびこの固体電解質上に設けられている一対の電極を備えている電気化学セル、
前記電極に対して電気的に接続されている導電性接続部材、および
前記電極と前記導電性接続部材とを接合する接合剤を備えている電気化学装置であって、
前記接合剤が、スピネル結晶構造を有する遷移金属酸化物からなることを特徴とする、電気化学装置。
【請求項2】
前記遷移金属酸化物がABの組成式を有しており、Aが、鉄、マンガン、コバルト、銅、ニッケルおよび亜鉛からなる群より選ばれた一種以上の金属元素であり、Bが、クロム、コバルト、マンガンおよび鉄からなる群より選ばれた一種以上の金属元素であることを特徴とする、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の電気化学装置を製造する方法であって、
前記遷移金属酸化物の粉末を含むペーストを、前記電極と前記導電性接続部材との間に介在させ、加熱処理することによって、前記接合剤を生成させることを特徴とする、電気化学装置の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の電気化学装置を製造する方法であって、
前記遷移金属酸化物を構成する各金属元素の各酸化物粉末の混合物を含むペーストを、前記電極と前記導電性接続部材との間に介在させ、加熱処理することによって、前記接合剤を生成させることを特徴とする、電気化学装置の製造方法。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載の電気化学装置を製造する方法であって、
前記遷移金属酸化物を構成する各金属元素の各粉末の混合物を含むペーストを、前記電極と前記導電性接続部材との間に介在させ、加熱処理することによって、前記接合剤を生成させることを特徴とする、電気化学装置の製造方法。
【請求項6】
第1導電性接続部材と、
前記第1導電性接続部材とは別体の第2導電性接続部材と、
前記第1、第2導電性接続部材を接合するとともに前記第1、第2導電性接続部材を電気的に接続する接合剤と、
を備えた電気化学装置であって、
前記接合剤が、スピネル型結晶構造を有する遷移金属酸化物を含んでいて、
前記第1導電性接続部材における前記接合剤と接合する最外層が、マンガンを含むペロブスカイト構造を有することを特徴とする電気化学装置。
【請求項7】
固体電解質と、前記固体電解質と一体的に配置されるとともに燃料ガスと接触して前記燃料ガスを反応させる燃料極と、前記固体電解質と一体的に配置されるとともに酸素を含むガスと接触して前記酸素を含むガスを反応させる空気極とを備えた固体酸化物形燃料電池のセルと、
導電性接続部材と、
前記空気極と前記導電性接続部材とを接合するとともに前記空気極と前記導電性接続部材とを電気的に接続する接合剤と、
を備えた電気化学装置であって、
前記接合剤が、スピネル型結晶構造を有する遷移金属酸化物を含んでいて、
前記空気極における前記接合剤と接合する最外層が、マンガンを含むペロブスカイト構造を有することを特徴とする電気化学装置。
【請求項8】
請求項7に記載の電気化学装置において、
前記空気極における前記最外層を除くベース層は、化学式La1−xSrCo1−yFe(ただし、xの範囲:0.2〜0.5、yの範囲:0.6〜0.85)で表わされるランタンストロンチウムコバルトフェライトからなる電気化学装置。
【請求項9】
固体電解質と、前記固体電解質と一体的に配置されるとともに燃料ガスと接触して前記燃料ガスを反応させる燃料極と、前記固体電解質と一体的に配置されるとともに酸素を含むガスと接触して前記酸素を含むガスを反応させる空気極とを備えた固体酸化物形燃料電池のセルと、
導電性接続部材と、
前記燃料極に固定され且つ前記燃料極と電気的に接続された化学式La1−xCaCr1−y+z(ただし、B:Co,Ni,Alから選択される少なくとも1種類の元素、xの範囲:0.05〜0.2、yの範囲:0.02〜0.22、zの範囲:0.02〜0.05)で表わされるランタンクロマナイトからなる導電部と前記導電性接続部材とを接合するとともに前記導電部と前記導電性接続部材とを電気的に接続する接合剤と、
を備えた電気化学装置であって、
前記接合剤が、スピネル型結晶構造を有する遷移金属酸化物を含んでいて、
前記導電部における前記接合剤と接合する最外層が、マンガンを含むペロブスカイト構造を有することを特徴とする電気化学装置。
【請求項10】
請求項6乃至請求項9の何れか一項に記載の電気化学装置において、
前記最外層は、化学式La1−xSrMnO(ただし、xの範囲:0.1〜0.3)で表わされるランタンストロンチウムマンガナイトからなる電気化学装置。
【請求項11】
請求項6乃至請求項10の何れか一項に記載の電気化学装置において、
前記最外層の厚さは、5〜50μmである電気化学装置。
【請求項12】
請求項6乃至請求項11の何れか一項に記載の電気化学装置において、
前記接合剤は、MnCo、及びCuMnのうちの1つを含む電気化学装置。
【請求項13】
請求項6乃至請求項12の何れか一項に記載の電気化学装置において、
前記最外層と前記導電性接続部材との間に介装された前記接合剤の層の厚さが20〜500μmである電気化学装置。
【請求項14】
請求項6乃至請求項9の何れか一項に記載の電気化学装置において、
前記最外層は、化学式La1−xSrMnO(ただし、xの範囲:0.1〜0.3)で表わされるランタンストロンチウムマンガナイトからなり、前記接合剤は、MnCoを含んでいて、
前記最外層と前記接合剤との接合部における前記最外層側に、La、Sr、Mn、及びCoを含む部分が存在する、電気化学装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図18】
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【図19】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2011−65975(P2011−65975A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−242686(P2009−242686)
【出願日】平成21年10月21日(2009.10.21)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】