説明

電気式脱イオン水製造装置及び脱イオン水の製造方法

【課題】被処理水の処理量を確保しつつ、スケール発生を防止でき、原水水質の変動に影響されずに高い水質の脱イオン水を得る(原水耐性)ことができる電気式脱イオン水製造装置及び脱イオン水の製造方法。
【解決手段】第一小脱塩室40と第二小脱塩室70が形成された脱塩室2セル型の電気式脱イオン水製造装置において、第一小脱塩室40には複数の脱塩区を設ける。さらに、任意の前記脱塩区を流通した被処理水を第二小脱塩室70に流通させる第一の通水手段と、第二小脱塩室70を流通した被処理水を他の脱塩区に流通させる第二の通水手段とを設けることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造分野、医薬品製造分野、原子力や火力等の発電分野、食品工業等の各種の産業又は研究施設で使用される、電気式脱イオン水製造装置及び脱イオン水製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、脱イオン水を製造する方法として、イオン交換樹脂に被処理水を通して脱イオンを行う方法が知られている。しかし、この方法ではイオン交換樹脂がイオンで飽和されたときに、薬剤によって再生処理を行う必要がある。近年、このような処理操作上の不利な点を解消するため、薬剤によるイオン交換体再生の必要がない、電気式脱イオン水製造装置(以下、EDIという)が実用化されている。このEDIは、電気泳動と電気透析を組み合わせた脱イオン水(純水)製造装置である。一般的なEDIは、陽極側に配置されたアニオン交換膜と陰極側に配置されたカチオン交換膜との間にイオン交換体が充填された脱塩室が設けられ、該脱塩室の両側に濃縮室が設けられたものである。このようなEDIでは、陰極と陽極との間に直流電圧を印加した状態で脱塩室に被処理水を通水することにより、被処理水中のイオン成分がイオン交換体で吸着される。そして、吸着されたイオン成分を電気泳動にて膜面までイオンを泳動させ、イオン交換膜にて電気透析して濃縮水中へと除去し、脱イオン水を製造する。
従来の典型的なEDIは、濃縮室を介して複数の脱塩室を積層し、その両端に陰極と陽極を配した構造である。
【0003】
これまでにも、EDIで得られる脱イオン水の水質向上や、省電力での不純物イオンの除去を目的として、種々の試みがなされてきた。脱塩室では、使用されるイオン交換体の充填方法や充填量が、要求される脱イオン水の水質によって決定されるため、脱塩室の電気抵抗を低減させるには限界があった。そこで、濃縮室の電気抵抗を低減させるための対策が採られることが多い。例えば、特許文献1では、濃縮室に電解質を添加供給して、濃縮室における電気抵抗を低減する方法が開示されている。
一方、特許文献2には、脱塩室がアニオン交換膜とカチオン交換膜との間に配置された中間イオン交換膜で区画され、2つの小脱塩室が形成された脱塩室2セル構造のEDIが開示されている。該EDIにおける脱イオン水の製造は、電圧を印加しながら一方の小脱塩室(第一小脱塩室)に被処理水を流入させ、次いで、該小脱塩室の流出水を他方の小脱塩室(第二小脱塩室)に流入させる(直列通水)と共に、濃縮室に濃縮水を流入させ被処理水中の不純物イオンを除去して、脱イオン水を得る。このような構造のEDIによれば、2つの小脱塩室のうち、少なくとも1つの小脱塩室に充填されるイオン交換体を例えばアニオン交換体のみ、又はカチオン交換体のみ等の単床形態、もしくはアニオン交換体とカチオン交換体の混床形態とすることができ、イオン交換体の種類毎に電気抵抗を低減し、かつ高い脱イオン性能を得るための最適な厚さに設定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−24374号公報
【特許文献2】特許第3385553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これまでの技術では、脱塩室内又は濃縮室内における電気抵抗を低減できるものの、イオン成分の除去やスケール発生防止が不十分であった。加えて、被処理水の原水水質の変動によって、得られる脱イオン水の水質が安定しないという問題があった。従来の脱塩室2室構造のEDIで高い水質の脱イオン水を得るために、上記の直列通水を繰返すと、脱塩室内の差圧が高くなり、被処理水の処理量の著しい低下を招き、実用的でない。
本発明は、被処理水の処理量を確保しつつ、スケール発生を防止でき、原水水質の変動に影響されずに高い水質の脱イオン水を得る(原水耐性)ことができるEDI及び脱イオン水の製造方法を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、従来のEDIにおけるイオン除去能力の低下、ならびにスケールの発生について鋭意検討した結果、次のような知見を得た。
従来の脱塩室2セル構造では、イオン交換体や中間イオン交換膜の配置によっては、第一小脱塩室と第二小脱塩室との間を、中間イオン交換膜を介して、シリカや炭酸、ナトリウム等のイオンが循環してしまい、濃縮室まで排出されにくいという問題があった。例えば、シリカが循環した場合には、被処理水から持ち込まれるシリカの量と、隣の脱塩室から持ち込まれるシリカの量が合算され、実際には被処理水から持ち込まれるシリカよりも、多くのシリカ量を処理することとなる。その結果、シリカを除去しきれずに、脱イオン水に漏洩したり、電気抵抗を極端に上昇させるといった問題に繋がっている。
【0007】
また、陰極側を第一小脱塩室とし、陽極側を第二小脱塩室とし、第一小脱塩室にカチオン交換体、第二小脱塩室にアニオン交換体を充填したような構造の場合、第一小脱塩室においてカチオン成分が除去されるに従い、被処理水のpHが酸性側に傾き、H濃度が高くなる。このため、Na、Ca2+、Mg2+等、除去対象のカチオン成分への電流効率が低下し、カチオン成分を一定濃度以下には低減できなくなる。そして、第二小脱塩室にはカチオン交換体が充填されていないため、そのまま脱イオン水にまで漏洩してしまうという問題があった。さらに、第二小脱塩室を構成するアニオン交換膜のカチオン成分除去能が100%ではないため、一旦濃縮室に移動したカチオン成分は、極微量ではあるものの、アニオン交換膜を介して第二小脱塩室に逆移動してしまう。そして、第二小脱塩室にカチオン交換体が充填されていないために、結果として脱イオン水に、カチオン成分が漏洩するという現象がある。
【0008】
また、陽極側を第一小脱塩室とし、陰極側を第二小脱塩室とし、第一小脱塩室にアニオン交換体、第二小脱塩室にカチオン交換体を充填したような構造の場合、第一小脱塩室においてアニオン成分が除去されるに従い、被処理水のpHがアルカリ側に傾き、OH濃度が高くなる。このため、Cl、HCO、CO2−、SiO(シリカは、特別な形態をとることが多いため、一般のイオンとは異なった表示とする)等、除去対象のアニオン成分への電流効率が低下し、アニオン成分を一定濃度以下には低減できなくなる。そして、第二小脱塩室にはアニオン交換体が充填されていないため、そのまま脱イオン水にまで漏洩してしまうという問題があった。さらに、第二小脱塩室を構成するカチオン交換膜のアニオン成分除去能が100%ではないため、一旦濃縮室に移動したアニオン成分は、極微量ではあるものの、カチオン交換膜を介して、第二小脱塩室に逆移動してしまう。そして、第二小脱塩室にアニオン交換体が充填されていないために、結果として脱イオン水に、アニオン成分が漏洩するという現象がある。
【0009】
また、脱塩室を中間イオン交換膜で分割していない1セル構造のEDIにおいて、脱塩室に複数種のイオン交換体を積層して充填した場合、次のような問題があった。積層されたカチオン交換体の単床形態のイオン交換層、アニオン交換体の単床形態のイオン交換層、カチオン交換体とアニオン交換体の混床形態のイオン交換層では、それぞれ電気抵抗が大きく異なる。このため、より電気抵抗の低いイオン交換層にしか電気が流れず、電気抵抗の高いイオン交換層でのイオン除去率が極端に低下するという現象がある。
加えて、アニオン交換膜とカチオン交換体との接点で発生したHは、カチオン交換体の再生に寄与するが、OHは濃縮室に移動してしまい、何の機能も果たさないという問題がある。この現象について、図5を用いて説明する。図5は、1セル構造のEDIの脱イオンモジュール220の模式図である。図5の通り、脱イオンモジュール220は、陰極側のカチオン交換膜222と、陽極側のアニオン交換膜230との間に脱塩室224が形成され、脱塩室224の両側に濃縮室234が形成され、図示されない陰極室と陽極室との間に配置されている。脱塩室224には、アニオン交換体が充填された脱塩層224aと、カチオン交換体が充填された脱塩層224bとが形成されている。被処理水を脱塩室224に通水すると、アニオン交換膜230と、脱塩層224bのカチオン交換体との界面では、脱塩室224側にH、濃縮室234側にOHが発生する。脱塩室224側に発生したHは、脱塩層224bのカチオン交換体の再生に寄与するが、濃縮室234側で発生したOHは、脱塩室224中のいずれのイオン交換体の再生にも寄与しない。同様に、カチオン交換膜222と脱塩層224aに充填したアニオン交換体との界面で発生したOHは、脱塩層224aのアニオン交換体の再生に寄与するが、濃縮室234側で発生したHは、脱塩室224中のいずれのイオン交換体の再生にも寄与しない。
【0010】
さらに、従来のEDIでは、脱塩室から濃縮室へと移動したCa2+、Mg2+等の硬度成分が、他の脱塩室から移動したOHやHCOと反応することで、水に難溶性のスケールとなって析出する。スケールが析出すると、イオン成分移動や、被処理水の流れを妨げ、脱イオン水の水質や運転電圧に悪影響を及ぼすことがある。スケールは、脱塩室と濃縮室との配置によって、硬度成分がOHと接触しやすい場合に、顕著に発生する。
本発明は、以上の知見を基になされたものである。
【0011】
即ち、本発明のEDIは、陰極側のカチオン交換膜と陽極側のアニオン交換膜とで区画され、被処理水を流通する脱塩室が設けられ、前記カチオン交換膜又は前記アニオン交換膜を介して前記脱塩室の両側に、濃縮水を流通する濃縮室が設けられ、前記脱塩室は、前記カチオン交換膜と前記アニオン交換膜との間に配置された中間イオン交換膜によって、その厚さ方向に区画された第一小脱塩室と第二小脱塩室が形成され、前記第一小脱塩室は、複数の脱塩区で形成されていることを特徴とする。
前記第一小脱塩室の任意の前記脱塩区を流通した被処理水を前記第二小脱塩室に流通する第一の通水手段と、前記第二小脱塩室を流通した被処理水を他の前記脱塩区に流通する第二の通水手段とが設けられていることが好ましく、前記第一小脱塩室は、前記アニオン交換膜と前記中間イオン交換膜との間にアニオン交換体が単床形態で充填されて形成され、前記第二小脱塩室は、前記カチオン交換膜と前記中間イオン交換膜との間にカチオン交換体が単床形態で充填されて形成されていることがより好ましく、前記第二小脱塩室は、被処理水が前記の任意の脱塩区側から前記の他の脱塩区側に沿って流通するように制御されていることがさらに好ましい。
前記濃縮室は、濃縮水の流れ方向が前記第二小脱塩室の被処理水の流れと向流に制御されていることが好ましく、前記中間イオン交換膜は、カチオン交換膜、アニオン交換膜、カチオン交換膜及びアニオン交換膜の両方を配置した複式膜又はバイポーラ膜であることが好ましい。
【0012】
本発明の脱イオン水の製造方法は、前記の電気式脱イオン水製造装置を用いた脱イオン水の製造方法であって、被処理水を任意の前記脱塩区に流通させた後、前記第二小脱塩室に流通させ、さらに他の前記脱塩区に流通させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、被処理水の処理量を確保しつつ、スケール発生を防止でき、原水水質の変動に影響されずに高い水質の脱イオン水を得る(原水耐性)ことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態にかかる脱イオンモジュールの斜視図である。
【図2】本発明の実施形態にかかるEDIの模式図である。
【図3】本発明の実施形態にかかる脱イオンモジュールの模式図である。
【図4】本発明の実施形態にかかる脱イオンモジュールの斜視図である。
【図5】従来の1セル構造のEDIの脱イオンモジュールの模式図である。
【図6】比較例に用いたEDIの脱イオンモジュールの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下の本発明のEDIの一例を図1〜2を用いて説明する。図1は、本発明の一実施形態を説明する脱イオンモジュール2の斜視図である。図2は、本発明の一実施形態を説明するEDI1の模式図である。なお、説明の便宜上、脱イオンモジュール2の各構成部材は一定間隔を空けて図示しており、実際の脱イオンモジュール2では各構成部材が密着している。
【0016】
EDI1は、複数の脱イオンモジュール2が、濃縮室20を介して隣接するように、陰極室12と陽極室82との間に設けられたものである。
脱イオンモジュール2は、陽極10側から順に配置されたアニオン交換膜30と、枠体41と、中間イオン交換膜60と、枠体71と、カチオン交換膜80とで概略構成されている。脱イオンモジュール2には、被処理水流入ライン4と、脱イオン水流出ライン6とが接続されている。
【0017】
アニオン交換膜30には、通水孔32、33、34が形成されている。通水孔32には、被処理水流入ライン4が接続されている。通水孔33と34には、配管35が接続されている。
【0018】
枠体41には、2つの開口部が形成されている。該開口部の1つには、アニオン交換体が充填され、第一の脱塩区42が形成されている。他の開口部には、アニオン交換体が充填され、第二の脱塩区44が形成されている。第一の脱塩区42と第二の脱塩区44とで、小脱塩室40が形成されている。
【0019】
枠体41には、通水孔51、52、53、54、55が形成されている。枠体41には、通水孔51と第一の脱塩区42とを連通する通水路56と、通水孔53と第一の脱塩区42とを連通する通水路58とが形成されている。枠体41には、通水孔52と第二の脱塩区44とを連通する通水路57と、通水孔54と第二の脱塩区44とを接続する通水路59とが形成されている。
【0020】
中間イオン交換膜60には、通水孔62、63、64が形成されている。
【0021】
枠体71には、1つの開口部が形成されている。該開口部には、カチオン交換体が充填され、第二小脱塩室70が形成されている。そして、第一小脱塩室40と、中間イオン交換膜60を介して第一小脱塩室40と隣接する第二小脱塩室70とで、脱塩室39が形成されている。
【0022】
枠体71には、通水孔72、73、74、75が形成されている。枠体71には、通水孔72と第二小脱塩室70とを連通する通水路76と、通水孔73と第二小脱塩室70とを連通する通水路77とが形成されている。加えて、通水孔72、73、通水路76、77は、被処理水が第二小脱塩室70を第一の脱塩区42側から、第二の脱塩区44側に沿って流通するように形成されている。
【0023】
カチオン交換膜80には、通水孔82、83、84が形成されている。通水孔82と83とには、配管85が接続されている。通水孔84には、脱イオン水流出ライン6が接続されている。
【0024】
「第一の通水手段」は、通水孔53、63、72、74、82、83、通水路58、76、配管85とで構成されている。「第二の通水手段」は、通水孔33、34、52、55、62、73、通水路57、77、配管35とで構成されている。
【0025】
濃縮室20は、脱イオンモジュール2の両側に枠体21が配置され、枠体21の開口部にアニオン交換体が単床形態で充填され形成されたものである。濃縮室20には、濃縮水流入ライン22と濃縮水流出ライン24とが接続されている。
【0026】
陽極室12は、陽極10側から順に陽極10と、枠体11と、仕切膜14とが配置され、枠体11の開口部にイオン交換体が充填され形成されたものである。陽極室12には、電極水流入ライン16と電極水流出ライン18とが接続されている。陰極室92は、陽極10側から順に仕切膜94と、枠体91と、陰極90とが配置され、枠体91の開口部にイオン交換体が充填され形成されたものである。陰極室82には、電極水流入ライン96と電極水流出ライン98とが接続されている。陽極10及び陰極90は、それぞれ図示されない電源と接続されている。
【0027】
イオン交換膜としては、大別すると、原料モノマー液を補強体に含浸させた後に重合させ、全体を均質に形成した均質膜と、イオン交換樹脂を溶解成型可能なポリオレフィン系樹脂と共に粉砕成型した不均質膜の2種類がある。本実施形態におけるアニオン交換膜30、カチオン交換膜80は、いずれも特に限定されず、EDIの製造の簡便さや、被処理水の水質、脱イオン水に求める水質、処理量等に応じて選択することができる。
【0028】
本実施形態における中間イオン交換膜60は、アニオン交換膜である。中間イオン交換膜60は、アニオン交換膜30と同様である。
【0029】
第一の脱塩区42に充填するアニオン交換体としては、イオン交換樹脂、イオン交換繊維、モノリス状多孔質イオン交換体等が挙げられ、中でも最も汎用的なイオン交換樹脂が好適に用いられる。アニオン交換樹脂の種類は特に限定されず、強塩基性アニオン交換樹脂、弱塩基性アニオン交換樹脂等が挙げられる。例えば、市販品としてアンバーライト(商品名、ローム・アンド・ハース社製)等が挙げられる。
第二の脱塩区44に充填するアニオン交換体は、第一の脱塩区42に充填するアニオン交換体と同様である。
【0030】
第二小脱塩室70に充填するカチオン交換体としては、イオン交換樹脂、イオン交換繊維、モノリス状多孔質イオン交換体等が挙げられ、中でも最も汎用的なイオン交換樹脂が好適に用いられる。カチオン交換樹脂の種類は特に限定されず、強酸性カチオン交換樹脂、弱酸性カチオン交換樹脂等が挙げられる。例えば、市販品としてアンバーライト(商品名、ローム・アンド・ハース社製)等が挙げられる。
【0031】
枠体41は、被処理水が漏洩しない材質であれば特に限定されず、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ABS、ポリカーボネート、ノリル等の樹脂製の枠体を挙げることができる。
枠体41の厚さは特に限定されることなく、所望する第一小脱塩室40の厚さに応じて設定することができる。例えば、第一小脱塩室40の厚さは、8〜20mmが好ましい。8mm未満であると被処理水の滞留時間が十分に確保できず脱イオン水の水質が低下するおそれがある。20mmを超えると、脱イオンモジュール2の成形が困難になる傾向となる。
【0032】
枠体71の材質は、枠体41と同様である。枠体71の厚さは、第二小脱塩室70の厚さに応じて設定できる。例えば、第二小脱塩室70の厚さは、8〜20mmが好ましい。
ここで、第一小脱塩室40と第二小脱塩室70とは、同じ厚さであってもよいし、異なる厚さであってもよい。第二小脱塩室70の厚さは、第二小脱塩室70の体積が第一の脱塩区42の体積と同等以上となるように設定される。かかる厚さとすることで、第二小脱塩室70での通水差圧の上昇が抑制できるためである。
【0033】
陽極10は、陽極として機能を発揮するものであれば特に限定されないが、電極水中にClが存在する場合には、陽極には塩素発生が起きるため、耐塩素性能を有するものが好ましい。例えば、白金、パラジウム、イリジウム等の貴金属、あるいは前記貴金属をチタン等に被覆した網状あるいは板状の電極を挙げることができる。
陰極90は、陰極としての機能を発揮するものであれば特に限定されず、例えば、板状のステンレスや網状のステンレス、又は、白金、パラジウム、イリジウム等の貴金属、あるいは前記貴金属をチタン等に被覆した網状あるいは板状の電極を挙げることができる。
【0034】
枠体11の材質は、枠体41と同様である。枠体11の厚さは、陽極室12に求める厚さに応じて決定できる。陽極室12の厚さは、例えば、0.3〜4mmとされる。
陽極室12に充填されるイオン交換体は、イオン交換樹脂、イオン交換繊維、モノリス状多孔質イオン交換体等が挙げられ、最も汎用的なイオン交換樹脂が好適に用いられる。イオン交換体の充填形態は、被処理水の水質等を勘案して決定でき、例えば、アニオン交換体の単床形態、カチオン交換樹脂の単床形態もしくはアニオン交換体とカチオン交換体との混床形態又は複床形態が挙げられる。
【0035】
枠体91の材質は、枠体41と同様である。枠体91の厚さは、陰極室92に求める厚さに応じて決定できる。陰極室92の厚さは、陽極室12の厚さと同様である。陰極室92に充填するイオン交換体は、陽極室12に充填するイオン交換体と同様である。
【0036】
仕切膜14は、イオン交換膜であれば特に限定されず、被処理水の水質や、EDI1の運転条件等を考慮して選択することができる。例えば、カチオン交換膜又はアニオン交換膜を選択することができる。仕切膜94は、仕切膜14と同様である。
【0037】
濃縮室20に充填するアニオン交換体は、第一の脱塩区42に充填するアニオン交換体と同様である。
枠体21の材質は枠体41と同様である。枠体21の厚さは、濃縮室20に求める厚さに応じて決定できる。濃縮室20の厚さは、例えば、3〜10mmとされる。
【0038】
次に、EDI1を用いた脱イオン水の製造方法について説明する。本発明の脱イオン水の製造方法は、工業用水や井水の濁質成分を除濁膜にて除去し、さらに逆浸透(RO)膜にて処理した水等を被処理水として脱イオン処理し、脱イオン水を得るものである。
【0039】
まず、電極水流入ライン16から陽極室12に電極水を流し、電極水流入ライン96から陰極室92に電極水を流すと共に、陽極10と陰極90との間に、直流電圧を印加する。陽極室12に流入した電極水は、上昇流で、陽極室12のイオン交換体内を拡散しながら流通する。この間、電極水は陽極10から発生したCl、O等を取り込んで、電極水流出ライン18から流出する。陰極室90に流入した電極水は、上昇流で、陰極室150のイオン交換体内を拡散しながら流通する。この間、電極水は陰極90から発生したH等を取り込んで、電極水流出ライン98から流出する。
【0040】
電極水は、例えば、被処理水と同じ水源の水、脱イオン水や純水等が挙げられる。陽極室10への電極水の供給量は、印加電圧等に応じて決定することが好ましい。例えば、5〜200L/h、好適には30〜100L/hの範囲で決定される。電極水の供給量が少なすぎると、発生したO、Clガスを充分に排出することが困難となり、電極水の供給量が多すぎると、回収率が低下するため、好ましくない。陰極室150への電極水の供給量は、陽極室10への電極水の供給量と同様である。
印加する電流は、被処理水の水質やEDI1の規模等を勘案して決定される。
【0041】
次いで、濃縮水流入ライン22から濃縮室20に、第二小脱塩室70の被処理水と向流になるように濃縮水を流す。濃縮室20に流入した濃縮水は、それぞれの濃縮室20を流通する。この間、濃縮水は、第一小脱塩室40から移動してきたアニオン成分又は第二小脱塩室70から移動してきたカチオン成分を取り込み、濃縮水流出ライン24から流出する。
【0042】
濃縮水は、例えば、被処理水と同じ水源の水、脱イオン水や純水等が挙げられる。
EDI1への濃縮水の供給量は、EDI1の能力、被処理水の水質や処理量を勘案して決定できる。濃縮水の供給量が少なすぎると、各濃縮室に移動したイオンの濃度拡散にむらが生じ、例えば、アニオン交換膜30面の濃度分極層が厚くなり、スケール発生のおそれがある。一方、濃縮水の供給量が多すぎると、脱イオン水の回収率が低下するため好ましくない。
【0043】
このような観点から、例えば、EDI1への濃縮水供給量は、好ましくは下記(1)式で表される濃縮倍率が3〜20となるように設定される。なお、下記(1)式による濃縮倍率は、被処理水と濃縮水とに同一の原水を用いて、かつ、被処理水中のイオン成分が全て濃縮室20に移行すると仮定し定義付けられる。
【0044】
濃縮倍率=(EDIへの被処理水供給量+EDIへの濃縮水供給量)÷EDIへの濃縮水供給量 ・・・(1)
【0045】
被処理水を被処理水流入ライン4から脱イオンモジュール2に供給する。脱イオンモジュール2への被処理水の供給量は、EDI1の能力や被処理水の水質を勘案して決定することができる。被処理水の供給量は、好ましくは、第一の脱塩区42における空間速度(SV)がSV=30〜300L/L・h−1となるように調整される。SVが高すぎると、イオン除去性能が低下したり、SVの増加と共に発生する通液速度(LV)の増加によって通水差圧が高くなり、脱イオンモジュール2の破損を招いたり、運転上の困難を起こしたりするので好ましくない。一方、SVが低すぎると、各脱イオンモジュールへの流量分配が適切に行われず、脱イオン処理が充分な脱イオンモジュールと、脱イオン処理が不充分な脱イオンモジュールとが生じ、EDI1全体としての性能に悪影響を与える場合がある。
【0046】
なお、SVは、イオン交換体の単位体積(L)に対して1時間に流通させる流量(L)であり、L/L・h−1で表される(以降において同じ)。また、LVとは、単位面積当たりの流量であり、m/hで表される線速度である。
【0047】
脱イオンモジュール2に供給された被処理水は、通水孔32、51、通水路56を順に流通し、第一の脱塩区42に流入する。第一の脱塩区42に流入した被処理水は、第一の脱塩区42のアニオン交換体内を拡散しながら下降流で流通する。この間、被処理水中のCl、HCO等のアニオン成分は、アニオン交換体に吸着される。吸着されたアニオン成分は、陽極10に引き寄せられ、アニオン交換膜30を透過して濃縮室20へ移動する。濃縮室20に移動したアニオン成分は、濃縮室20のアニオン交換体内を流通することで速やかにアニオン交換膜30から離れ、濃縮水に取り込まれる。ここで、第一の脱塩区42では、アニオン成分の除去が進むと、被処理水のpHがアルカリ性側に移行して、アニオン成分の競合イオンであるOHの濃度が高くなる。このため、アニオン成分に対する電流効率が低下し、被処理水中のアニオン成分の濃度は、一定濃度以下に到達しにくくなる。この結果、第一の脱塩区42を流通した被処理水は、ある程度のアニオン成分が残存した状態となる。
【0048】
第一の脱塩区42を流通した被処理水は、通水路58、通水孔53、63、74、83、配管85、通水孔82、72、通水路76を順に流通し、第二小脱塩室70に流入する。第二小脱塩室70に流入した被処理水は、第一の脱塩区42側から第二の脱塩区44側に沿って流通する。この間、被処理水中のNa、Ca2+等のカチオン成分は、カチオン交換体に吸着される。吸着されたカチオン成分は、陰極90に引き寄せられ、カチオン交換膜80を透過して濃縮室20へ移動する。ここで、第二小脱塩室70に流入した被処理水は、pHがアルカリ性側に移行しているため、カチオン成分の競合イオンであるH濃度が低い。このため、カチオン成分の除去は、良好に行われる。
なお、第二小脱塩室70を流通した段階で、被処理水のpHは中性領域となっている。
【0049】
また、中間イオン交換膜60とカチオン交換体との接点では、水分解によりOHとHとが生じる。水分解により生じたOHは、中間イオン交換膜60を透過して第一小脱塩室40に移動し、第一小脱塩室40のアニオン交換体の再生に利用される。水分解により生じたHは、第二小脱塩室70のカチオン交換体の再生に利用される。
ここで、第一の脱塩区42で除去されたアニオン成分の中でも、HCO、CO2−は濃縮室20内でガス化して、カチオン交換膜80を透過し、第二小脱塩室70に移動してくることがある。このため、再度、アニオン成分の除去を、第二の脱塩区44にて行う。
【0050】
第二小脱塩室70を流通した被処理水は、通水路77、通水孔73、62、55、34、配管35、通水孔33、通水孔52、通水路57を順に流通し、第二の脱塩区44に流入する。第二の脱塩区44に流入した被処理水は、第二の脱塩区44のアニオン交換体内を拡散しながら流通する。この間、被処理水中のアニオン成分がアニオン交換体に吸着される。吸着されたアニオン成分は、陽極10側に引き寄せられ、アニオン交換膜30を透過して濃縮室20へ移動する。
【0051】
ここで、第一の脱塩区44に流入した被処理水は、第一の脱塩区42で予めアニオン成分の大部分が除去されているため、アニオン成分の除去が進んでも中性領域のpHが維持される。このため、残存しているアニオン成分を良好に除去できる。被処理水は、第一の脱塩区44を流通し、脱イオン水となる。脱イオン水は、通水路59、通水孔54、64、75、84を順に流通し、脱イオン水流出ライン6から流出する。
【0052】
上述のとおり、EDI1では、被処理水を第一の脱塩区40に流通させてアニオン成分を除去した後、被処理水を第二小脱塩室70に流通させてカチオン成分を除去し、さらに第二小脱塩室70を流通した被処理水を第二の脱塩区44に流通させて、再度、アニオン成分を除去している。このため、被処理水中のアニオン成分及びカチオン成分が高度に除去された脱イオン水を製造できる。
【0053】
加えて、第一の脱塩区42を流通した被処理水を第二小脱塩室70に流通させるため、脱イオンモジュール2内における通水差圧の上昇を抑制できる。通水差圧の上昇を抑制することで、各第二小脱塩室での被処理水の滞留時間を十分なものとし、カチオン成分を良好に除去できる。さらに、通水差圧の上昇を抑制することで、EDI1での被処理水の処理量を低減することなく、高い水質の脱イオン水を安定的に製造できる。
【0054】
中間イオン交換膜60と第二小脱塩室70のカチオン交換体との接点で生じたOHとHとは、それぞれ第一小脱塩室40のアニオン交換体、第二小脱塩室70のカチオン交換体の再生に寄与するため、電流効率の面で無駄が少ない。この点について、図3を用いて説明する。図3は、脱イオンモジュール2におけるイオンの流れを説明する模式図である。図3に示すように、被処理水を第二小脱塩室70に流通させると、中間イオン交換膜60と第二小脱塩室70のカチオン交換体との接点(界面)では、第一小脱塩室40側にOH、第二小脱塩室70側にHが発生する。第一小脱塩室40側に発生したOHは、第一小脱塩室40のアニオン交換体の再生に寄与する。アニオン交換体の再生に当たって余剰となったOHは、濃縮室20に移動する。第二小脱塩室70側に発生したHは、第二小脱塩室70のカチオン交換体の再生に寄与する。カチオン交換体の再生に当たって余剰となったHは、濃縮室20に移動する。
【0055】
第一小脱塩室40には、アニオン交換体が単床形態で充填され、第二小脱塩室70には、カチオン交換体が単床形態で充填されている。このため、各第一小脱塩室及び各第二小脱塩室では、電流の偏りが防止され、電流効率の向上が図れる。
【0056】
一般に、高濃度のOHと、Ca2+、Mg2+等の硬度成分とが存在すると、スケールが発生しやくなる。第二の脱塩区44に流入した被処理水は、第一の脱塩区42を流通した際にHCO、CO、Cl等の大部分が除去されている。このため、濃縮室20には、第二の脱塩区44から濃縮室20に移動するアニオン成分の多くがOHである。また、第二小脱塩室70では、被処理水の上流側において、カチオン成分の内の硬度成分が除去される。即ち、濃縮室20へは、第二の脱塩区44からOHが高濃度で移動し、第二小脱塩室70の上流側から高濃度の硬度成分が移動する。このため、EDI1では、第二小脱塩室70での被処理水の流通方向を第一の脱塩区42側から第二の脱塩区44側とすることで、濃縮室20の同じ領域で高濃度のOHと高濃度の硬度成分とが存在することを防止できる。こうして、濃縮室20でのスケール発生の抑制が図れる。
【0057】
濃縮室20には、アニオン交換体が単床形態で充填されているため、アニオン交換膜30面にはアニオン交換体層が形成されている。このため、第一小脱塩室40から濃縮室20に移動したアニオン成分は、速やかにアニオン交換膜30面から離れ濃縮室20のアニオン交換体内を移動する。一方、第二小脱塩室70から濃縮室20に移動した硬度成分等のカチオン成分は、濃縮水中を移動する。このように、濃縮室20をアニオン交換体の単床形態とすることで、濃縮室20内では、高濃度のアニオン成分と高濃度のカチオン成分とが接触する領域がないので、スケール発生の防止が図れる。
【0058】
濃縮水の流通方向を第二小脱塩室70の被処理水の向流とすることで、濃縮室20に移動してくる硬度成分を効果的に排出し、スケール発生を防止できる。
【0059】
このように、本発明によれば、従来の脱塩室2セル構造のEDIを利用し、被処理水の処理量を確保しつつ、スケール発生を防止しつつ、原水水質の変動に影響されずに高い水質の脱イオン水を得ることができる。さらに、EDI1は、1つの脱イオンモジュール2内で、3処理を行うことができるため、複数の脱イオンモジュール2を多段で用いるよりも、省スペース化が図れる。
【0060】
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではない。
上述の実施形態では、第二小脱塩室70における被処理水の流通方向が、第一の脱塩区42側から第二の脱塩区44側とされている。しかしながら、本発明はこれに限定されず、例えば、図4に示すように、第二小脱塩室70における被処理水の流通方向が、第一小脱塩室40における被処理水の流通方向と同じ方向であってもよい。このような、被処理水の流通方法について、図4を用いて説明する。図4は、脱イオンモジュール100の斜視図である。説明の便宜上、脱イオンモジュール100の各構成部材は一定間隔を空けて図示されているが、実際の脱イオンモジュール100は各部材が密着している。
【0061】
脱イオンモジュール100は、陽極側から順に配置されたアニオン交換膜30、枠体141、中間イオン交換膜60、枠体171、カチオン交換膜80とで概略構成されたものである。脱イオンモジュール100には、被処理水流入ライン4と脱イオン水流出ライン6とが接続されている。
【0062】
アニオン交換膜30には、通水孔131、132が設けられている。通水孔131には被処理水流入ライン4が接続され、通水孔132には脱イオン水流出ライン6が接続されている。枠体141には、2つの開口部が形成され、該開口部にアニオン交換体が充填され第一の脱塩区42と第二の脱塩区44とが形成されている。第一の脱塩区42と第二の脱塩区44とで、第一小脱塩室40が形成されている。枠体141には、通水孔151、152、153、154が形成されている。枠体141には、通水孔151と第一の脱塩区42とを連通する通水路156と、通水孔153と第一の脱塩区42とを連通する通水路158とが、被処理水を下降流で流通させるように、形成されている。また、枠体141には、通水孔152と第二の脱塩区44とを連通する通水路157と、通水孔154と第二の脱塩区44とを連通する通水路159とが、被処理水を下降流で流通させるように、形成されている。中間イオン交換膜60には、通水孔162、163が形成されている。
【0063】
枠体171には、1つの開口部が形成され、該開口部にカチオン交換体が充填され第二小脱塩室70が形成されている。枠体171には、通水孔172、173、174、175が形成されている。枠体171には、通水孔172と第二小脱塩室70とを連通する通水路176と、通水孔175と第二小脱塩室70とを連通する通水路177とが、被処理水を下降流で流通させるように、形成されている。カチオン交換膜80には、通水孔181、182、183、184が形成されている。通水孔181と183とには、配管185が接続されている。通水孔182と184とには、配管186が接続されている。
【0064】
次いで、脱イオンモジュール100における被処理水の流通経路を説明する。まず、被処理水流入ライン4から脱イオンモジュール100に被処理水を供給する。供給された被処理水は、通水孔131、151、通水路156を順に経由し、第一の脱塩区42に流入する。第一の脱塩区42に流入した被処理水は、第一の脱塩区42内を流通した後、通水路158、通水孔153、163、174、183、配管185、通水孔181、通水孔172、通水路176を順に流通し、第二小脱塩室70に流入する。第二小脱塩室70に流入した被処理水は、第二小脱塩室70内を第一小脱塩室40と略同方向で流通した後、通水路177、通水孔175、184、配管186、通水孔182、173、162、152、通水路157を順に流通し、第二の脱塩区44に流入する。第二の脱塩区44に流入した被処理水は、第二の脱塩区44内を流通し、脱イオン水となる。脱イオン水は、通水路159、通水孔154、132を順に流通し、脱イオン水流出ライン6から流出する。
【0065】
また、あるいは、第二小脱塩室70における被処理水の流通方向は、第一小脱塩室40における被処理水の流通方向と向流であってもよい。第二小脱塩室70における被処理水の流通方向は、EDIの規模や、被処理水の性状等を勘案して決定することができる。例えば、被処理水中の硬度成分の濃度が高い場合や、被処理水中のアニオン成分の濃度が高い場合には、第二小脱塩室70における被処理水の流通方向を第一の脱塩区42側から第二の脱塩区44側とすることが好ましい。
【0066】
上述の実施形態では、3つの脱イオンモジュール2を有するEDIとされている。しかしながら、本発明のEDIは、例えば、脱イオンモジュール2の数が4つ以上であってもよいし、脱イオンモジュール2の数が2つ以下であってもよい。
【0067】
上述の実施形態では、2つの脱塩区により第一小脱塩室40が形成されているが、例えば、3つ以上の脱塩区により第一小脱塩室40が形成されていてもよい。
【0068】
上述の実施形態では、中間イオン交換膜60がアニオン交換膜である。本発明はこれに限定されず、中間イオン交換膜60の種類は、被処理水の水質、脱イオン水に求める水質等を勘案して選択することができる。中間イオン交換膜60としては、アニオン交換膜の他、カチオン交換膜の単一膜、アニオン交換膜とカチオン交換膜との両方を配置した複合膜又はバイポーラ膜等が挙げられる。ただし、被処理水がアニオン成分を多く含む場合、中間イオン交換膜60は、アニオン交換膜の単一膜が好ましい。中間イオン交換膜60をアニオン交換膜の単一膜とすることで、第二小脱塩室70を流通する被処理水中のアニオン成分(Cl、HCO、CO2−、SiO等)を第一小脱塩室40に移動させることで、アニオン成分を高度に除去できるためである。
【0069】
上述の実施形態では、第一小脱塩室40がアニオン交換体の単床形態であるが、例えば、カチオン交換体の単床形態、アニオン交換体とカチオン交換との混床形態又は複床形態であってもよい。ただし、上述の実施形態のように第一小脱塩室40が陽極10側に形成されている場合には、アニオン交換体の単床形態もしくはアニオン交換体とカチオン交換との混床形態又は複床形態が好ましく、アニオン交換体の単床形態がより好ましい。
【0070】
上述の実施形態では、第二小脱塩室70がカチオン交換体の単床形態であるが、例えば、アニオン交換体の単床形態、アニオン交換体とカチオン交換体との混床形態又は複床形態であってもよい。ただし、上述の実施形態のように第二小脱塩室70が陰極側に形成されている場合には、カチオン交換体の単床形態もしくはアニオン交換体とカチオン交換との混床形態又は複床形態が好ましく、カチオン交換体の単床形態がより好ましい。
【0071】
上述の実施形態では、アニオン交換膜と中間イオン交換膜との間に形成された小脱塩室を第一小脱塩室とし、カチオン交換膜と中間交換膜との間に形成された小脱塩室を第二小脱塩室としている。しかしながら、本発明は、これに限定されず、例えば、アニオン交換膜と中間イオン交換膜との間に形成された小脱塩室を第二小脱塩室とし、カチオン交換膜と中間交換膜との間に形成された小脱塩室を第一小脱塩室としてもよい。第一小脱塩室及び第二小脱塩室が形成される位置は、被処理水の水質等を勘案して決定できる。
なお、カチオン成分に比べて、アニオン成分が不純物として多く含まれる水を被処理水とする場合には、アニオン交換膜と中間イオン交換膜との間に形成された小脱塩室を第一小脱塩室とし、カチオン交換膜と中間交換膜との間に形成された小脱塩室を第二小脱塩室とすることが好ましい。
【0072】
上述の実施形態では、第一の通水手段が、脱イオンモジュール2に形成された通水孔、通水路と、脱イオンモジュール2に設けられた配管により構成されている。しかしながら、第一の通水手段は、例えば、脱イオンモジュール2の外部に設けられた配管により構成されていてもよい。また、第二の通水手段は、第一の通水手段と同様に、脱イオンモジュール2の外部に設けられた配管により構成されていてもよい。
【0073】
上述の実施形態では、濃縮室20がアニオン交換体の単床形態とされている。しかしながら、濃縮室に充填されるイオン交換体は、アニオン交換体の単床形態に限定されず、例えば、カチオン交換体の単床形態、アニオン交換体とカチオン交換体との混床形態又は複床形態であってもよい。また、濃縮室20にはイオン交換体を充填せず、スペーサ等を配置してもよい。ただし、濃縮室20でのスケール発生防止の観点からは、アニオン交換体を単床形態で充填することが好ましい。
【0074】
上述の実施形態では、濃縮室20における濃縮水の流通方向が、第二小脱塩室70における被処理水の向流とされている。しかしながら、本発明はこれに限定されず、例えば、全ての濃縮室における濃縮水の流通方向が、第二小脱塩室70における被処理水と同方向であってもよいし、各濃縮室で異なっていてもよい。
【0075】
上述の実施形態では、陽極室12にイオン交換体を充填しているが、例えば、イオン交換体を充填せずに、スペーサ等を配置してもよい。陰極室92も同様に、イオン交換体を充填せずに、スペーサ等を配置してもよい。
【0076】
上述の実施形態では、陽極室12及び陰極室152の電極水の流通方向が、上昇流とされている。しかしながら、本発明はこれに限定されず、例えば、陽極室12及び陰極室92における電極水の流通方向が、下降流であってもよいし、陽極室12と陰極室92とで電極水の流通方向が異なっていてもよい。
【0077】
上述の実施形態では、第一の脱塩区42から第二小脱塩室70、次いで第二の脱塩区44の順に被処理水が流通する、3段処理とされている。しかしながら、本発明はこれに限定されず、例えば、2つ以上の脱イオンモジュール2を設けた場合には、3段処理の前段又は後段でさらに他の脱塩室に被処理水を流通させてもよい。ただし、EDIのコンパクト化ならびに通水差圧の上昇を抑え、脱イオン水を効率的に生産する観点から、上述の実施形態のように3段処理とすることが好ましい。
【実施例】
【0078】
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明するが、実施例に限定されるものではない。
<導電率・比抵抗>
水質評価には導電率ならびに比抵抗を用いた。不純物を全く含んでいない水の場合、25℃の水における導電率の理論値は0.055μS/cm、比抵抗の理論値は18.2MΩ・cmとなる。脱イオン水の水質は、比抵抗が18.2MΩ・cmに近づき、かつ高ければ高いほど水質としては清浄であると評価できる。脱イオン水の水質評価は、比抵抗をもって行った。
導電率は、導電率計(873CC、FOXBORO社製)を用いて測定した。また、比抵抗は、比抵抗計(873RS、FOXBORO社製)を用いて測定した。
【0079】
<シリカ濃度>
EDIの処理性能の一指標となるシリカ濃度を測定することにより、水質評価を行った。シリカ濃度は、分光光度計(U−3010、株式会社日立ハイテクノロジー製)を用い、モリブデン青吸光光度法により測定した。
【0080】
脱塩室差圧=P2−P1 ・・・(2)
【0081】
(実施例1)
下記仕様により、脱イオンモジュールを図4に示す脱イオンモジュール100とした以外は、図2に示すEDI1と同様に、3つの脱イオンモジュールを設けたEDI−Aを製造した。このEDI−Aは、第一小脱塩室における被処理水の流通方向と、第二小脱塩室における被処理水の流通方向とが、共に下降流で制御されたものである。
EDI−Aを用い、下記運転条件にて脱イオン水の製造を1600時間、連続で行った。運転開始1600時間後に、得られた脱イオン水の比抵抗、シリカ濃度を測定した。その結果を表1に示す。
なお、被処理水の硬度は、原子吸光分光光度計(SpectrAA、VARIAN社製)での測定値であり、全炭酸濃度は湿式紫外線酸化TOC分析計(900型、SIEVERS社製)での測定値である。
【0082】
<EDI−A仕様>
(1)カチオン交換膜:株式会社アストム製
(2)中間イオン交換膜:株式会社アストム製アニオン交換膜
(3)アニオン交換膜:株式会社アストム製
(4)第一の脱塩区:幅100mm×高さ140mm×厚さ8mm
(5)第二の脱塩区:幅100mm×高さ140mm×厚さ8mm
(6)第二小脱塩室:幅100mm×高さ140mm×厚さ8mm
(7)第一の脱塩区の充填イオン交換体:アニオン交換樹脂(ローム・アンド・ハース社製)単床形態
(8)第二の脱塩区の充填イオン交換体:アニオン交換樹脂(ローム・アンド・ハース社製)単床形態
(9)第二小脱塩室の充填イオン交換体:カチオン交換樹脂(ローム・アンド・ハース社製)単床形態
(10)濃縮室充填イオン交換体:アニオン交換樹脂(ローム・アンド・ハース社製)単床形態
(11)被処理水の通水順序:第一の脱塩区→第二小脱塩室→第二の脱塩区
(12)濃縮水の流通方向:第二小脱塩室における被処理水の流通方向と向流
(13)電極水の流通方向:陽極室、陰極室共に上昇流。
【0083】
<運転条件>
(1)被処理水:工業用水を逆浸透膜装置で処理して得た水
(2)被処理水の導電率:5.8μS/cm
(3)被処理水の比抵抗:0.17MΩ・cm
(4)被処理水中のシリカ濃度:604μg/L
(5)被処理水中硬度:0.3mgCaCO/L
(6)被処理水中全炭酸濃度:6.9mgCO/L
(7)被処理水供給量:0.3m/h
(8)濃縮水供給量:0.1m/h
(9)電極水供給量:10L/h
(10)運転電流値:1.5A
【0084】
(実施例2)
脱イオンモジュールを図1の脱イオンモジュール2と同様のものとした以外は、実施例1と同様の仕様にてEDI−Bを得た。このEDI−Bは、第二小脱塩室における被処理水の流通方向が、第一の脱塩区側から第二の脱塩区側に沿うようにしたものである。
EDI−Bを用い、実施例1と同様の条件で脱イオン水の製造を行った。運転開始1600時間後に、得られた脱イオン水の比抵抗、シリカ濃度を測定した。その結果を表1に示す。
【0085】
(比較例1)
脱イオンモジュールを図6の脱イオンモジュール300と同様のものとした以外は、実施例1と同様の仕様にてEDI−Cを得た。脱イオンモジュール300は、陽極側から順に配置されたアニオン交換膜30、枠体341、中間イオン交換膜60、枠体371、カチオン交換膜80とで概略構成されたものである。脱イオンモジュール300には、被処理水流入ライン4と脱イオン水流出ライン6とが接続されている。
【0086】
アニオン交換膜30には、通水孔332、334が設けられている。通水孔332には被処理水流入ライン4が接続され、通水孔334には脱イオン水流出ライン6が接続されている。枠体341には、1つの開口部が形成され、該開口部にアニオン交換体が単床形態で充填され第一小脱塩室340が形成されている。枠体341には、通水孔352、353、354が形成されている。枠体341には、通水孔352と第一小脱塩室340とを連通する通水路356と、通水孔353と第一小脱塩室340とを連通する通水路357とが形成されている。中間イオン交換膜60には、通水孔362、363が形成されている。
【0087】
枠体371には、1つの開口部が形成され、該開口部にカチオン交換体が単床形態で充填され、第二小脱塩室70が形成されている。枠体371には、通水孔372、373、374が形成されている。枠体371には、通水孔372と第二小脱塩室70とを連通する通水路376と、通水孔374と第二小脱塩室70とを連通する通水路377とが形成されている。カチオン交換膜80には、通水孔382、383が形成されている。通水孔382と383とには、配管385が接続されている。
【0088】
脱イオン水は、次のように製造した。まず、被処理水を被処理水供給ライン4から脱イオンモジュール300に供給する。供給された被処理水を通水孔332、352、通水路356の順に流通させ、第一小脱塩室340に流入させた。第一小脱塩室340を流通した被処理水を通水路357、通水孔353、362、373、383、配管385、通水孔382、372、通水路376の順に流通させ、第二小脱塩室70に流入させた。被処理水を第二小脱塩室に流通させて脱イオン水とし、該脱イオン水を通水路377、通水孔374、363、354、334の順に流通させ脱イオン水流出ライン6から流出させた。
なお、第一小脱塩室340における被処理水の流通方向と、第二小脱塩室70における被処理水の流通方向とは、共に下降流とした。
【0089】
被処理水の流通経路以外は、実施例1と同様の条件で、EDI−Cを用いて脱イオン水の製造を行った。運転開始1600時間後に、得られた脱イオン水の比抵抗、シリカ濃度を測定した。その結果を表1に示す。
【0090】
【表1】

【0091】
表1に示すとおり、被処理水を第一の脱塩区→第二小脱塩室→第二の小脱塩区の順に流通させ、脱イオン処理した実施例1は、比抵抗が14.4MΩ・cm、シリカ濃度が12μg/Lという高い水質の脱イオン水を得た。さらに第二小脱塩室における被処理水の流通方向が、第一の脱塩区側から第二の脱塩区側に向かうように制御された実施例2では、比抵抗17.5MΩ・cm、シリカ濃度1.4μg/Lという、さらに高い水質の脱イオン水が得られた。
実施例1の脱イオン水より実施例2の脱イオン水の方が高い水質となった原因は、次のように推測できる。実施例1では、第二小脱塩室の上流側と第二の脱塩区とが対向した配置である。このため、濃縮室では、アニオン交換膜等にスケールとして析出しないまでも、硬度成分とOHとの化合物等が生成され、電流効率が若干低下したと考えられる。一方、実施例2では、第二小脱塩室の上流側と第二の脱塩区とが対向していないため、硬度成分とOHとの化合物等の生成の程度はさらに少なくなり、電流効率の低下が起こらない。このため、実施例1では、実施例2よりも水質が低下したものと推測する。
【0092】
第一小脱塩室に脱塩区を形成しないEDI−Cを用いた比較例1は、比抵抗2.8、シリカ濃度230μg/Lという低い水質の脱イオン水を得た。このことから、第一小脱塩室に脱塩区を形成したEDIを用いて、被処理水を多段処理することで、高い水質の脱イオン水が得られることが判った。
【符号の説明】
【0093】
1 電気式脱イオン水製造装置
2、100、220、300 脱イオンモジュール
10 陽極
20、234 濃縮室
30、230 アニオン交換膜
39、224 脱塩室
40、340 第一小脱塩室
42 第一の脱塩区
44 第二の脱塩区
70 中間イオン交換膜
80、222 カチオン交換膜
90 陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陰極側のカチオン交換膜と陽極側のアニオン交換膜とで区画され、被処理水を流通する脱塩室が設けられ、
前記カチオン交換膜又は前記アニオン交換膜を介して前記脱塩室の両側に、濃縮水を流通する濃縮室が設けられ、
前記脱塩室は、前記カチオン交換膜と前記アニオン交換膜との間に配置された中間イオン交換膜によって、その厚さ方向に区画された第一小脱塩室と第二小脱塩室が形成され、
前記第一小脱塩室は、複数の脱塩区で形成されていることを特徴とする、電気式脱イオン水製造装置。
【請求項2】
前記第一小脱塩室の任意の前記脱塩区を流通した被処理水を前記第二小脱塩室に流通する第一の通水手段と、前記第二小脱塩室を流通した被処理水を他の前記脱塩区に流通する第二の通水手段とが設けられていることを特徴とする、請求項1に記載の電気式脱イオン水製造装置。
【請求項3】
前記第一小脱塩室は、前記アニオン交換膜と前記中間イオン交換膜との間にアニオン交換体が単床形態で充填されて形成され、前記第二小脱塩室は、前記カチオン交換膜と前記中間イオン交換膜との間にカチオン交換体が単床形態で充填されて形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の電気式脱イオン水製造装置。
【請求項4】
前記第二小脱塩室は、被処理水が前記の任意の脱塩区側から前記の他の脱塩区側に沿って流通するように制御されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の電気式脱イオン水製造装置。
【請求項5】
前記濃縮室は、濃縮水の流れ方向が前記第二小脱塩室の被処理水の流れと向流に制御されていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の電気式脱イオン水製造装置。
【請求項6】
前記中間イオン交換膜は、カチオン交換膜、アニオン交換膜、カチオン交換膜及びアニオン交換膜の両方を配置した複式膜又はバイポーラ膜であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の電気式脱イオン水製造装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかの電気式脱イオン水製造装置を用いた脱イオン水の製造方法であって、被処理水を任意の前記脱塩区に流通させた後、前記第二小脱塩室に流通させ、さらに他の前記脱塩区に流通させることを特徴とする、脱イオン水の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−576(P2011−576A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−147976(P2009−147976)
【出願日】平成21年6月22日(2009.6.22)
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)
【Fターム(参考)】