説明

電気式脱イオン水製造装置

【課題】電気式脱イオン水製造装置において、被処理水の良好な水質を確保し、陽極室または陰極室で生成される水素イオンまたは水酸化物イオンを有効利用する。
【解決手段】電気式脱イオン水製造装置は、陰極室E1と陰極側濃縮室C1の間に位置し、第2のアニオン交換膜a2を介して陰極側濃縮室と隣接し、第3のアニオン交換膜a3を介して陰極室と隣接し、少なくともアニオン交換体が充填され、被処理水が流通する副アニオン脱塩室S2、または陽極室E2と陽極側濃縮室C2の間に位置し、第2のカチオン交換膜c2を介して陽極側濃縮室と隣接し、第3のカチオン交換膜c3を介して陽極室と隣接し、少なくともカチオン交換体が充填され、被処理水が流通する副カチオン脱塩室S1の、少なくともいずれか一方の副脱塩室を有している。副脱塩室S1,S2に流入する被処理水と、副脱塩室に隣接する電極室E2,E1に流入する電極水の流入方向は同じである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気式脱イオン水製造装置に関し、特に電極室に電極水を通水させる構成に関する。
【背景技術】
【0002】
脱イオン水の製造装置として、イオン交換体に被処理水を通水して脱イオンを行う製造装置が知られている。この装置ではイオン交換体のイオン交換基が飽和して脱塩性能が劣化したときに、酸やアルカリといった薬剤によって再生を行う必要がある。すなわち、イオン交換基に吸着した陰イオンや陽イオンを、酸あるいはアルカリ由来のH+、OH-と置き換える処理が必要となる。近年、このような運転上の不利な点を解消するため、薬剤による再生が不要な電気式脱イオン水製造装置(以下、脱イオン水製造装置という場合がある。)が実用化されている。
【0003】
脱イオン水製造装置は、電気泳動と電気透析とを組み合わせた装置である。脱イオン水製造装置は、アニオン交換膜とカチオン交換膜との間にイオン交換体を充填し主脱塩室とし、アニオン交換膜及びカチオン交換膜の外側に各々濃縮室を設け、さらにその外側に陽極を備える陽極室と、陰極を備える陰極室と、を配置した装置である。
【0004】
脱イオン水製造装置により脱イオン水を製造するには、電極に直流電圧を印加した状態で主脱塩室に被処理水を通水する。被処理水中のイオン成分は脱塩室内のイオン交換体で吸着され、脱イオン化(脱塩)処理が行われる。脱塩室ではまた、印加電圧によって脱塩室のアニオン交換体とカチオン交換体の界面で水分解が起こり、水素イオンと水酸化物イオンが発生する(2H2O→H++OH-)。イオン交換体に吸着されたイオン成分はこの水素イオン及び水酸化物イオンと交換されて、イオン交換体から遊離する。遊離したイオン成分はイオン交換膜まで電気泳動し、イオン交換膜で電気透析されて、濃縮室を流れる水に排出される。このように、脱イオン水製造装置では、水素イオン及び水酸化物イオンが、イオン交換体を再生する酸、アルカリの再生剤として連続的に作用する。このため、薬剤による再生は基本的に不要であり、薬剤によるイオン交換体の再生を行わずに連続運転ができる。
【0005】
脱イオン水製造装置の陽極室と陰極室では、水の電気分解反応が生じ、この反応よっても水素イオンと水酸化物イオンとが生成される(2H2O→O2+4H++4e-/2H2O+2e-→H2+2OH-)。そこで、陽極室で生成される水素イオンと陰極室で生成される水酸化物イオンもイオン交換体の再生に利用しようとする試みがなされている。陽極室及び陰極室では豊富な水素イオンと水酸化物イオンとが生成されるため、これらを有効利用することができれば、脱イオン水製造装置の陽極・陰極間の印加電圧を低減し、使用電力量の低減を図ることが可能となる。
【0006】
特許文献1には、陽極室及び陰極室を主脱塩室として利用する脱イオン水製造装置が開示されている。陽極室には陽イオン交換体が、陰極室には陰イオン交換体が充填されている。このため、陽極室で発生した水素イオンが陽イオン交換体を再生し、陰極室で発生した水酸化物イオンが陰イオン交換体を再生することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3793229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
陽極室及び陰極室には、水の電気分解により生じたガス成分や酸化性物質が含まれている。このため、特許文献1に記載のように陽極室及び陰極室を主脱塩室として用いると、脱イオンした被処理水にこれらの物質が含まれる可能性がある。このような現象が生じると、機能材の酸化劣化などが進行し純水製造などの目的で脱イオン水製造装置を用いる場合に所望の水質が得られない可能性がある。
【0009】
本発明は、被処理水の良好な水質を確保可能であるとともに、陽極室または陰極室で生成される水素イオンと水酸化物イオンの少なくともいずれか一方をイオン交換体の再生に利用することで消費電力の低減が可能な電気式脱イオン水製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の電気式脱イオン水製造装置は、陽極室と陰極室とからなり各々を電極水が流通する一対の電極室と、一対の電極室の間に位置し、カチオン交換体及びアニオン交換体が充填され、被処理水が流通する主脱塩室と、一対の電極室の間に位置し、主脱塩室の陰極室側で、第1のカチオン交換膜を介して主脱塩室に隣接して位置する陰極側濃縮室と、一対の電極室の間に位置し、主脱塩室の陽極室側で、第1のアニオン交換膜を介して主脱塩室に隣接して位置する陽極側濃縮室と、を有している。電気式脱イオン水製造装置はまた、陰極室と陰極側濃縮室の間に位置し、第2のアニオン交換膜を介して陰極側濃縮室と隣接し、第3のアニオン交換膜を介して陰極室と隣接し、少なくともアニオン交換体が充填され、被処理水が流通する副アニオン脱塩室、または陽極室と陽極側濃縮室の間に位置し、第2のカチオン交換膜を介して陽極側濃縮室と隣接し、第3のカチオン交換膜を介して陽極室と隣接し、少なくともカチオン交換体が充填され、被処理水が流通する副カチオン脱塩室の、少なくともいずれか一方の副脱塩室を有している。副脱塩室に流入する被処理水と、副脱塩室に隣接する電極室に流入する電極水の流入方向は同じである。
【0011】
本発明によれば、陰極室と陰極側濃縮室の間に副アニオン脱塩室が設けられ、あるいは陽極室と陽極側濃縮室の間に副カチオン脱塩室が設けられ、あるいはこれらの両者が設けられている。陰極室で発生した水酸化物イオンは第3のアニオン交換膜を通って副アニオン脱塩室に移動する。副アニオン脱塩室では流入した被処理水のアニオン成分がアニオン交換体に吸着され、アニオン成分が吸着したアニオン交換体は、陰極室から移動してきた水酸化物イオンによって再生される。被処理水は主脱塩室にも流入し、アニオン成分がアニオン交換体に吸着される。主脱塩室では、主脱塩室内での水分解反応により水が水素イオンと水酸化物イオンとに解離するため、アニオン成分が吸着したアニオン交換体は、主脱塩室内で生成された水酸化物イオンによって再生される。
【0012】
陽極室で発生した水素イオンは第3のカチオン交換膜を通って副カチオン脱塩室に移動する。副カチオン脱塩室では流入した被処理水のカチオン成分がカチオン交換体に吸着され、カチオン成分が吸着したカチオン交換体は、陽極室から移動してきた水素イオンによって再生される。主脱塩室では、カチオン成分が吸着したカチオン交換体は、主脱塩室内での水分解反応により生成された水素イオンによって再生される。
【0013】
このようにして、主脱塩室内での水分解反応により生成される水素イオン及び水酸化物イオンに加えて、陰極室で発生した水酸化物イオンまたは陽極室で発生した水素イオンの少なくともいずれか一方をイオン交換体の再生に有効利用することが可能となる。しかも、陽極室及び陰極室は、被処理水が流入する副カチオン脱塩室あるいは副アニオン脱塩室と、第3のカチオン交換膜あるいは第3のアニオン交換膜によって仕切られているので、陽極室及び陰極室に含まれるガス成分や酸化性物質によって被処理水の水質が悪化することが防止される。
【0014】
また、電極室に隣接して副脱塩室が設けられている構成では、電極水に含まれるイオン成分が隣接する副脱塩室に移動し、カチオン成分及びアニオン成分が除去された被処理水を汚染する可能性がある。電極水に含まれるイオン成分は、電極室に入ると陽極室と陰極室との間の電位によって、隣接する副脱塩室に移動する。このイオン成分の移動は、電極水が電極室に入るとすぐに生じ、多くのイオン成分は電極室の入口付近で副脱塩室に移動すると考えられる。本実施態様によれば、副脱塩室に流入する被処理水と、副脱塩室に隣接する電極室に流入する電極水の流入方向が同じである。すなわち、副アニオン脱塩室が設けられている場合は、副アニオン脱塩室を流れる被処理水とこれに隣接する陰極室を流れる電極水の流れの向きが同じである。同様に、副カチオン脱塩室が設けられている場合は、副カチオン脱塩室を流れる被処理水とこれに隣接する陽極室を流れる電極水の流れの向きが同じである。この構成のために、副脱塩室に移動するイオン成分の多くは副脱塩室の入口近傍に流入する。このためイオン成分は副脱塩室で十分に除去され、最終的に濃縮室を通って系外に排出される。このように、副脱塩室と電極室の流れの向きを揃えることによっても、処理水の水質が悪化することが防止される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、被処理水の良好な水質を確保可能であるとともに、陽極室または陰極室で生成される水素イオンと水酸化物イオンの少なくともいずれか一方をイオン交換体の再生に利用することで消費電力の低減が可能な電気式脱イオン水製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係る脱イオン水製造装置の概略構成図である。
【図2】電極水の流れ方向が副脱塩室の流れ方向と同一である構成と、異なる構成とを示す、脱イオン水製造装置の部分図である。
【図3A】本発明の他の実施形態に係る脱イオン水製造装置の概略構成図である。
【図3B】本発明の他の実施形態に係る脱イオン水製造装置の概略構成図である。
【図3C】本発明の他の実施形態に係る脱イオン水製造装置の概略構成図である。
【図3D】本発明の他の実施形態に係る脱イオン水製造装置の概略構成図である。
【図3E】本発明の他の実施形態に係る脱イオン水製造装置の概略構成図である。
【図3F】本発明の他の実施形態に係る脱イオン水製造装置の概略構成図である。
【図3G】本発明の他の実施形態に係る脱イオン水製造装置の概略構成図である。
【図3H】本発明の他の実施形態に係る脱イオン水製造装置の概略構成図である。
【図3I】本発明の他の実施形態に係る脱イオン水製造装置の概略構成図である。
【図3J】本発明の他の実施形態に係る脱イオン水製造装置の概略構成図である。
【図3K】本発明の他の実施形態に係る脱イオン水製造装置の概略構成図である。
【図3L】本発明の他の実施形態に係る脱イオン水製造装置の概略構成図である。
【図3M】本発明の他の実施形態に係る脱イオン水製造装置の概略構成図である。
【図3N】本発明の他の実施形態に係る脱イオン水製造装置の概略構成図である。
【図3O】本発明の他の実施形態に係る脱イオン水製造装置の概略構成図である。
【図3P】本発明の他の実施形態に係る脱イオン水製造装置の概略構成図である。
【図3Q】本発明の他の実施形態に係る脱イオン水製造装置の概略構成図である。
【図3R】本発明の他の実施形態に係る脱イオン水製造装置の概略構成図である。
【図3S】本発明の他の実施形態に係る脱イオン水製造装置の概略構成図である。
【図4】比較例に係る脱イオン水製造装置の概略構成図である。
【図5】実施例及び比較例の脱イオン水製造装置の性能を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の電気式脱イオン水製造装置のいくつかの実施形態について説明する。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態に係る脱イオン水製造装置の概略構成図である。脱イオン水製造装置1は、陽極4を備える陽極室E2と陰極5を備える陰極室E1とからなる一対の電極室E1,E2の間に、主脱塩室Dと、主脱塩室Dの両側に位置する一対の濃縮室C1,C2と、濃縮室C1と陰極室E1の間に位置する副アニオン脱塩室S2と、濃縮室C2と陽極室E2の間に位置する副カチオン脱塩室S1とが設けられ、これらの各室がイオン交換膜a1〜a3,c1〜c3で仕切られている。以下の説明では、陰極側で主脱塩室Dと隣接する濃縮室を陰極側濃縮室C1、陽極側で主脱塩室Dと隣接する濃縮室を陽極側濃縮室C2と呼ぶ。
【0019】
陰極側濃縮室C1は第1のカチオン交換膜c1を介して主脱塩室Dに隣接し、陽極側濃縮室C2は第1のアニオン交換膜a1を介して主脱塩室Dに隣接している。副カチオン脱塩室S1は、第2のカチオン交換膜c2を介して陽極側濃縮室C2と隣接し、第3のカチオン交換膜c3を介して陽極室E2と隣接している。副アニオン脱塩室S2は、第2のアニオン交換膜a2を介して陰極側濃縮室C1と隣接し、第3のアニオン交換膜a3を介して陰極室E1と隣接している。
【0020】
主脱塩室Dは、第1のカチオン交換膜c1と隣接する主カチオン脱塩室D1と、第1のアニオン交換膜a1と隣接する主アニオン脱塩室D2と、を有している。主カチオン脱塩室D1と主アニオン脱塩室D2は、中間イオン交換膜3を介して互いに隣接している。
【0021】
主カチオン脱塩室D1には少なくともカチオン交換体が充填され、主に被処理水中のカチオン成分(Na+、Ca2+、Mg2+等)が除去される。カチオン交換体としては、イオン交換樹脂、イオン交換繊維、モノリス状多孔質イオン交換体等が挙げられ、最も汎用的なイオン交換樹脂が好適に用いられる。カチオン交換体の種類としては、弱酸性カチオン交換体、強酸性カチオン交換体等が挙げられる。主カチオン脱塩室D1にはアニオン交換体がさらに充填されていてもよい。主カチオン脱塩室D1に充填するイオン交換体の充填形態としては、カチオン交換体の単床形態、カチオン交換体とアニオン交換体との混床形態または複床形態が挙げられる。
【0022】
主アニオン脱塩室D2には少なくともアニオン交換体が充填され、主に被処理水中のアニオン成分(Cl-、CO32-、HCO3-、SiO2(シリカは、特別な形態をとることが多いため、一般のイオンとは異なった表示とする。)等)が除去される。アニオン交換体としては、イオン交換樹脂、イオン交換繊維、モノリス状多孔質イオン交換体等が挙げられ、最も汎用的なイオン交換樹脂が好適に用いられる。アニオン交換体の種類としては、弱塩基性アニオン交換体、強塩基性アニオン交換体等が挙げられる。主アニオン脱塩室D2にはカチオン交換体がさらに充填されていてもよい。主アニオン脱塩室D2に充填するイオン交換体の充填形態としては、アニオン交換体の単床形態、アニオン交換体とカチオン交換体との混床形態または複床形態が挙げられる。
【0023】
中間イオン交換膜3は、被処理水の水質、脱イオン水に求められる水質、主カチオン脱塩室D1または主アニオン脱塩室D2に充填するイオン交換体の種類等を勘案して選択することができる。中間イオン交換膜3は、アニオン交換膜もしくはカチオン交換膜の単一膜、または、アニオン交換膜とカチオン交換膜の両方を備えた複合膜のいずれであってもよい。
【0024】
このように主脱塩室Dが主カチオン脱塩室D1と主アニオン脱塩室D2の2つの小脱塩室に区画され、各々の外側に濃縮室が隣接する構成(主脱塩室2室構成)は、被処理水の多段処理が可能であり、脱イオン性能の向上に効果的である。しかも主カチオン脱塩室D1と主アニオン脱塩室D2との間に濃縮室を設ける必要がないため、陽極・陰極間の印加電圧が抑えられ、消費電力が下がり運転費の低減を図ることが可能である。
【0025】
主脱塩室Dは、従来公知の主脱塩室1室構成であってもかまわない。主脱塩室1室構成では、主脱塩室にはカチオン交換体とアニオン交換体とが充填され、一つの脱塩室でカチオン除去とアニオン除去が行われる。カチオン交換体とアニオン交換体は混床形態または複床形態で充填されることが望ましい。主脱塩室1室構成は構造が単純であり、要求水質によってはこのような構成を採用することもできる。
【0026】
陰極側濃縮室C1は、主カチオン脱塩室D1から排出されるカチオン成分及び副アニオン脱塩室S2から排出されるアニオン成分を取り込み、それらを系外に放出するために設けられている。陽極側濃縮室C2は、主アニオン脱塩室D2から排出されるアニオン成分及び副カチオン脱塩室S1から排出されるカチオン成分を取り込み、それらを系外に放出するために設けられている。濃縮室C1,C2には濃縮室供給水が流入し、濃縮室供給水はカチオン成分及びアニオン成分を含んだ濃縮水となって、濃縮室C1,C2から排出される。脱イオン水製造装置1の電気抵抗を抑えるために、濃縮室C1,C2にイオン交換体が充填されていてもよい。
【0027】
副カチオン脱塩室S1は主カチオン脱塩室D1と同様の構成を有しているが、カチオン交換体だけが単床充填されている。
【0028】
副アニオン脱塩室S2は主アニオン脱塩室D2と同様の構成を有しているが、アニオン交換体だけが単床充填されている。
【0029】
陽極室E2は陽極4を収容している。陽極4は金属の網状体あるいは板状体からなっている。被処理水にCl-を含む場合、陽極4に塩素が発生する。このため、陽極4には耐塩素性能を有する材料を用いることが望ましく、一例として、白金、パラジウム、イリジウム等の金属、あるいはチタンをこれらの金属で被覆した材料が挙げられる。
【0030】
陰極室E1は陰極5を収容している。陰極5は、金属の網状体あるいは板状体からなっており、例えばステンレス製の網状体あるいは板状体を用いることができる。
【0031】
陽極室E2及び陰極室E1には電極水が流入する。後述するように、これらの電極水は電極近傍での電気分解により、水素イオン及び水酸化物イオンを発生させる。脱イオン水製造装置1の電気抵抗を抑えるために、陽極室E2及び陰極室E1にはイオン交換体が充填されていることが好ましい。イオン交換体が充填されることで、後述する水素イオンの副カチオン脱塩室S1への移動及び水酸化物イオンの副アニオン脱塩室S2への移動が円滑に行われる。
【0032】
陽極室E2及び陰極室E1に充填するイオン交換体としては、イオン交換樹脂、イオン交換繊維、モノリス状多孔質イオン交換体等が挙げられ、最も汎用的なイオン交換樹脂が好適に用いられる。陽極室E2には弱酸性カチオン交換体、強酸性カチオン交換体等のカチオン交換体が単床充填される。陰極室E1には、弱塩基性アニオン交換体、強塩基性アニオン交換体等のアニオン交換体が単床充填される。これによって、上述の通り、水素イオンの副カチオン脱塩室S1への移動及び水酸化物イオンの副アニオン脱塩室S2への移動が円滑に行われる。
【0033】
各電極室E1,E2、主カチオン脱塩室D1、主アニオン脱塩室D2、各濃縮室C1,C2、副カチオン脱塩室S1及び副アニオン脱塩室S2は各々、開口部を備えた板状部材である枠体2の内部に設けられている。図1では、枠体2は一体的に示されているが、実際には部屋毎に別々の枠体を備え、枠体同士が互いに密着して設けられている。枠体2は絶縁性を有し、被処理水が漏洩しない素材であれば特に限定されず、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ABS、ポリカーボネート、m−PPE(変性ポリフェニレンエーテル)等の樹脂を挙げることができる。
【0034】
各部屋同士の連絡、あるいは被処理水や濃縮室供給水、電極水等の供給、排出用にいくつかの流路U1〜U5,L1〜L5が設けられている。
【0035】
脱イオン水製造装置1の下部に位置する流路L1は、一端が被処理水の供給側に接続され、他端側では途中で分岐して、主カチオン脱塩室D1と副カチオン脱塩室S1とに接続されている。脱イオン水製造装置1の上部に位置する流路U1は、主カチオン脱塩室D1と副カチオン脱塩室S1とに接続され、途中で合流し、渡り配管Yの一端に接続している。渡り配管Yの他端は脱イオン水製造装置1の下部に位置する流路L2に接続されており、流路L2は、途中で分岐して、主アニオン脱塩室D2と副アニオン脱塩室S2とに接続されている。脱イオン水製造装置1の上部に位置する流路U2は、主アニオン脱塩室D2と副アニオン脱塩室S2とに接続され、途中で合流し、被処理水の排出側に接続されている。
【0036】
脱イオン水製造装置1の上部に位置する流路U3は濃縮室供給水の供給側に接続され、他端側では途中で分岐して、陰極側濃縮室C1と陽極側濃縮室C2とに接続されている。脱イオン水製造装置1の下部に位置する流路L3は、陰極側濃縮室C1と陽極側濃縮室C2とに接続され、途中で合流し、濃縮水の排出側に接続されている。図1では、流路U1〜U3,L1〜L3は、図示の都合上枠体2の外側に位置しているが、これらの流路U1〜U3,L1〜L3は、枠体2に内蔵されているのが有利である。
【0037】
陽極室E2には流路L4,U4が接続しており、電極水は陽極室E2の下部に接続された流路L4から陽極室E2に流入し、陽極室E2の上部に接続された流路U4を通って陽極室E2から排出される。陰極室E1には流路L5,U5が接続しており、電極水は陰極室E1の下部に接続された流路L5から陰極室E1に流入し、陰極室E1の上部に接続された流路U5を通って陰極室E1から排出される。すなわち、副脱塩室S1,S2に流入する被処理水と、副脱塩室S1,S2に隣接する電極室E2,E1に流入する電極水の流入方向は同じである。具体的には、副カチオン脱塩室S1に流入する被処理水と、副カチオン脱塩室S1に隣接する陽極室E2に流入する電極水の流入方向は同じであり、副アニオン脱塩室S2に流入する被処理水と、副アニオン脱塩室S2に隣接する陰極室E1に流入する電極水の流入方向は同じである。
【0038】
次に、引き続き図1を参照して、被処理水の流れと脱イオンの原理について説明する。
【0039】
あらかじめ、濃縮室C1,C2に、流路U3から濃縮室供給水を供給し、流路L3から排出するようにしておく。電極室E1には、流路L5から電極水を供給し、流路U5から排出させておく。同様に、電極室E2には、流路L4から電極水を供給し、流路U4から排出させておく。陽極4、陰極5間には所定の電圧を印加しておく。この状態で、被処理水を流路L1から、主カチオン脱塩室D1及び副カチオン脱塩室S1に並列に流入させる。被処理水は、主カチオン脱塩室D1及び副カチオン脱塩室S1で、カチオン成分が除去される。
【0040】
具体的には、Na+等のカチオン成分は、主カチオン脱塩室D1で、主カチオン脱塩室D1に充填されたカチオン交換体に吸着される。主カチオン脱塩室D1では、水分解反応によって水が水素イオン(以下、H+という。)と水酸化物イオン(以下、OH-という。)とに解離する反応が、連続的に進行している。H+はカチオン交換樹脂に吸着したNa+等のカチオン成分と交換され、主カチオン脱塩室D1に充填されたカチオン交換体が再生される。除去されたNa+等のカチオンは陽極4、陰極5間の電位によって陰極5側に引き寄せられ、第1のカチオン交換膜c1を通過して陰極側濃縮室C1に流入し、系外に放出される。
【0041】
副カチオン脱塩室S1では、Na+等のカチオン成分は、副カチオン脱塩室S1に充填されたカチオン交換体に吸着される。陽極室E2では、電気分解反応(2H2O→O2+4H++4e-)によって水から酸素ガスとH+とが生成される反応が、連続的に進行している。酸素ガスは陽極室E2内を上昇し、電極水とともに脱イオン水製造装置1の外へ排出される。H+は第3のカチオン交換膜c3を通って副カチオン脱塩室S1に流入する。副カチオン脱塩室S1に流入したH+は、カチオン交換体に吸着したカチオン成分と交換され、カチオン交換体が再生される。除去されたNa+等のカチオン成分は陽極4、陰極5間の電位によって陰極5側に引き寄せられ、第2のカチオン交換膜c2を通過して陽極側濃縮室C2に流入し、系外に放出される。
【0042】
このようにしてNa+等のカチオン成分が除去された被処理水は流路U1で合流し、渡り配管Yを通って流路L2に流入する。流路L2に流入した被処理水は、主アニオン脱塩室D2及び副アニオン脱塩室S2に並列に流入する。被処理水は、主アニオン脱塩室D2及び副アニオン脱塩室S2で、アニオン成分が除去される。
【0043】
具体的には、Cl-等のアニオン成分は、主アニオン脱塩室D2で、主アニオン脱塩室D2に充填されたアニオン交換体に吸着される。主アニオン脱塩室D2では、主カチオン脱塩室D1で生じているのと同様の水分解反応によってOH-が連続的に発生している。OH-はアニオン交換樹脂に吸着したCl-等のアニオン成分と交換され、アニオン交換体が再生される。除去されたCl-等のアニオン成分は陽極4、陰極5間の電位によって陽極4側に引き寄せられ、第1のアニオン交換膜a1を通過して陽極側濃縮室C2に流入し、系外に放出される。
【0044】
副アニオン脱塩室S2では、Cl-等のアニオン成分は、副アニオン脱塩室S2に充填されたアニオン交換体に吸着される。陰極室E1では、電気分解反応(2H2O+2e-→H2+2OH-)によって水から水素ガスとOH-とが生成される反応が、連続的に進行している。水素ガスは陰極室E1内を上昇し、電極水とともに脱イオン水製造装置1の外へ排出される。OH-は第3のアニオン交換膜a3を通って副アニオン脱塩室S2に流入し、アニオン交換体に吸着したアニオン成分と交換され、アニオン交換体が再生される。除去されたCl-等のアニオン成分は陽極4、陰極5間の電位によって陽極4側に引き寄せられ、第2のアニオン交換膜a2を通過して陰極側濃縮室C1に流入する。主アニオン脱塩室D2及び副アニオン脱塩室S2でアニオン成分が除去された被処理水は流路U2で合流し、脱イオン水となって脱イオン水製造装置1の外へ排出される。
【0045】
流路U3を通って陰極側濃縮室C1及び陽極側濃縮室C2に供給される濃縮室供給水は、主カチオン脱塩室D1、主アニオン脱塩室D2、副カチオン脱塩室S1及び副アニオン脱塩室S2から排出されるカチオン成分及びアニオン成分を取り込み、脱イオン水製造装置1の下部に位置する流路L3を通って脱イオン水製造装置1の外へ排出される。
【0046】
このようにして、被処理水は、主カチオン脱塩室D1及び副カチオン脱塩室S1でカチオン成分を除去され、主カチオン脱塩室D1のカチオン交換体は主カチオン脱塩室D1で生成されたH+により再生され、副カチオン脱塩室S1のカチオン交換体は陽極室E2で生成されたH+により再生される。同様にして、被処理水は、主アニオン脱塩室D2及び副アニオン脱塩室S2でアニオン成分を除去され、主アニオン脱塩室D2のアニオン交換体は主アニオン脱塩室D2で生成されたOH-により再生され、副アニオン脱塩室S2のアニオン交換体は陰極室E1で生成されたOH-により再生される。従って、電極室(陰極室E1及び陽極室E2)で発生し、従来は利用されることなく捨てられていたH+及びOH-をイオン交換体の再生に有効利用することができる。
【0047】
陽極室E2及び陰極室E1におけるH+及びOH-の生成効率は高いため、電位が低くても十分な量のH+及びOH-が副カチオン脱塩室S1及び副アニオン脱塩室S2に移動する。このため、電極間の印加電圧を抑え、脱イオン水製造装置1の運転費用を低減することができる。
【0048】
また、本実施形態では、副カチオン脱塩室S1及び副アニオン脱塩室S2が新たな脱塩室として設けられているが、それに伴い新たな濃縮室を追加する必要がない。つまり、陽極側濃縮室C2と陽極室E2の間に単に副カチオン脱塩室S1を設け、陰極側濃縮室C1と陰極室E1の間に単に副アニオン脱塩室S2を設けるだけでよいので、相対的に濃縮室の数を減らすことができる。これは装置サイズ及び装置コストを抑えるだけでなく、印加電圧及び運転費用の低減にもつながる。
【0049】
本実施形態では被処理水を主カチオン脱塩室D1及び副カチオン脱塩室S1に並列に流入させ流出させており、同様に被処理水を主アニオン脱塩室D2及び副アニオン脱塩室S2に並列に流入させ流出させている。この構成は、特に装置の処理容量が大きい場合に有利である。以下、主カチオン脱塩室D1を例として説明すると、処理容量を増やすためには、後述の実施形態のように主カチオン脱塩室D1を複数個設け、これらを並列に接続する形式が一般的である。しかし、並列接続された主カチオン脱塩室D1と副カチオン脱塩室S1とを直列に接続する場合、複数の主カチオン脱塩室D1を通る被処理水の総流量と副カチオン脱塩室S1を通る被処理水の流量とを一致させる必要がある。副カチオン脱塩室S1は陽極室E2に隣接している必要があり、原理的に1個しか設けることができないためである。このため、主カチオン脱塩室D1の総流量が増えた場合、主カチオン脱塩室D1の総流量と同じだけの流量を1つの副カチオン脱塩室S1で処理する必要がある。副カチオン脱塩室S1のサイズを変えずに通水流量を増やすと、通水差圧、すなわち副カチオン脱塩室S1で生じる圧力損失が通水流量に比例して増加する。従って、装置の処理容量を増やそうとしても、副カチオン脱塩室S1の通水差圧の観点から大きな制約が生じる。
【0050】
以上より、副カチオン脱塩室S1の通水流量を増やすためには、電圧印加方向における副カチオン脱塩室S1の幅を広げる以外に現実的な方法がない。しかし、並列接続された主カチオン脱塩室D1と副カチオン脱塩室S1とを直列に接続する場合、主カチオン脱塩室の総幅と副カチオン脱塩室S1の幅がともに増えるため、装置の幅は処理容量の増加比率を上回る比率で増える。この結果、陰極と陽極の離隔距離が増加し、装置サイズの増加だけでなく、陽極・陰極間の印加電位の増加を招き、運転費用への影響が避けられない。
【0051】
本実施形態では、主カチオン脱塩室D1と副カチオン脱塩室S1に被処理水を並列に流入させ流出させているため、副カチオン脱塩室S1の通水流量は主カチオン脱塩室D1の通水流量に依存しない。換言すれば、被処理水は副カチオン脱塩室S1と主カチオン脱塩室D1とに分配されるので、副カチオン脱塩室S1の通水差圧の増加を容易に回避することができる。また、主カチオン脱塩室D1と副カチオン脱塩室S1とを並列接続することで、これらを直列接続する場合と比べて、装置全体の通水差圧も抑制できる。しかも、被処理水の増加に応じて副カチオン脱塩室S1のサイズを大きくする必要もないため、陽極・陰極間の印加電圧も抑制できる。このことは、主脱塩室を多数個配置する脱イオン水製造装置において、特に大きなメリットとなる。以上については主アニオン脱塩室D2及び副アニオン脱塩室S2に関しても全く同様である。
【0052】
また、本実施形態では前述の通り、副脱塩室S1,S2に流入する被処理水と、副脱塩室S1,S2に隣接する電極室E2,E1に流入する電極水の流入方向が同じである。この構成の効果について図2を参照して説明する。図2(a)は、比較例の脱イオン水製造装置の、陽極室E2から陽極側濃縮室C2までの部分を取り出して示す部分構成図であり、図2(b)は、同様の範囲を取り出して示す、本実施形態の部分構成図である。これらの図で、太い白抜き矢印は各室を通る電極水、被処理水等の流れる方向を示している。
【0053】
図2(a)を参照すると、電極水には陽イオン成分(Na+を例として示す。)が含まれており、電極水が陽極室E2に流入すると、陽イオン成分は陽極4、陰極5間の電位によって陰極5側に引き寄せられ、第3のカチオン交換膜c3を通って副カチオン脱塩室S1に移動する。しかし、陽極室E2の電極水と副カチオン脱塩室S1の被処理水は互いに反対方向に流れており(向流)、このことは、陽極室E2における電極水の流入位置が、副カチオン脱塩室S1における被処理水の排出位置と隣接する位置関係にあることを意味する。このため、副カチオン脱塩室S1に移動した陽イオン成分は副カチオン脱塩室S1で除去されることなく、副カチオン脱塩室S1からそのまま排出される。この結果、電極水に含まれていた陽イオン成分が被処理水に混入し、被処理水の水質が劣化する。
【0054】
これに対して、図2(b)を参照すると、陽極室E2の電極水と副カチオン脱塩室S1の被処理水は同じ方向に流れているため、陽極室E2における電極水の流入位置は、副カチオン脱塩室S1における被処理水の流入位置と隣接している。このため、副カチオン脱塩室S1に移動した陽イオン成分は副カチオン脱塩室S1で被処理水に含まれている陽イオン成分とともに除去され、陽極側濃縮室に排出される。これによって、電極水に含まれる陽イオン成分による被処理水の水質の劣化が抑制される。以上は、Cl-等の陰イオン成分についても全く同様である。
【0055】
このように、本実施形態では、副脱塩室と電極室とが隣接することによって生じる可能性のある被処理水の水質低下を、効果的に抑制することができる。
【0056】
被処理水の水質の劣化は、電極水に含まれるイオン成分をあらかじめ調整しておくことによって一層抑制される。具体的には、電極室E1,E2に供給される電極水の比抵抗値(電極室E1,E2の入口における比抵抗値)を0.2MΩ・cm以上かつ18.2MΩ・cm以下となるように調整しておくことが好ましい。
【0057】
図3A〜3Sには主脱塩室と副脱塩室の様々な配置パターンを示している。これらの図では濃縮室に接続されるラインの図示は省略している。各室の符号は上述の実施形態における符号に対応し、追加の濃縮室は符号C3で示している。「m」はイオン交換膜を示し、カチオン交換膜またはアニオン交換膜のいずれでもよい。図中の符号X,Y,Zは、符号Xで示したラインの端部同士、符号Yで示したラインの端部同士、及び符号Zで示したラインの端部同士がそれぞれ接続されていることを意味している。
【0058】
図3Aは他の配置パターンとの対比のために図1に示す配置パターンを簡略化して示したものであり、説明は省略する。図3B以降の各実施形態における各室の構成や各室に充填されるイオン交換体は図1に示す実施形態と同様である。
【0059】
図3Bは、主アニオン脱塩室を流出した被処理水が主カチオン脱塩室に流入する実施形態を示している。各室の配置パターンは図3Aと同様であり、流路構成だけが異なっている。被処理水はまず主アニオン脱塩室D2及び副アニオン脱塩室S2に並列で流入し、アニオン成分が除去される、その後被処理水は、主カチオン脱塩室D1及び副カチオン脱塩室S1に並列で流入し、カチオン成分が除去される。
【0060】
図3Cは、図3Aに示す実施形態において副カチオン脱塩室を省略した実施形態を示している。被処理水は、全量が主カチオン脱塩室D1に流入し、カチオン成分が除去される。その後被処理水は、主アニオン脱塩室D2及び副アニオン脱塩室S2に並列で流入し、アニオン成分が除去される。副カチオン脱塩室が設けられていないため、隣接する陽極室E2の電極水の向きはどちらでも構わない。従って、陽極室E2の電極水の向きは図示を省略している。
【0061】
図3Dは、図3Aに示す実施形態において副アニオン脱塩室を省略した実施形態を示している。被処理水はまず主カチオン脱塩室D1及び副カチオン脱塩室S1に並列で流入し、カチオン成分が除去される。その後被処理水は、全量が主アニオン脱塩室D2に流入し、アニオン成分が除去される。副アニオン脱塩室が設けられていないため、隣接する陰極室E1の電極水の向きはどちらでも構わない。従って、陰極室E1の電極水の向きは図示を省略している。
【0062】
図3Eは、主脱塩室が2以上設けられ、かつ副カチオン脱塩室と副アニオン脱塩室がともに設けられた実施形態を示している。主脱塩室D,D’と濃縮室C1〜C3が交互に設けられており、主脱塩室Dの陰極側と陽極側に各々濃縮室C1,C2が、主脱塩室D’の陰極側と陽極側に各々濃縮室C2,C3が隣接している。主脱塩室Dにとっては、濃縮室C1が陰極側濃縮室であり、濃縮室C2が陽極側濃縮室となる。主脱塩室D’にとっては、濃縮室C2が陰極側濃縮室であり、濃縮室C3が陽極側濃縮室となる。
【0063】
主脱塩室Dは主カチオン脱塩室D1と主アニオン脱塩室D2とを有し、主カチオン脱塩室D1の陰極側に第1のカチオン交換膜c1が、主アニオン脱塩室D2の陽極側に第1のアニオン交換膜a1が位置している。同様に、主脱塩室D’は主カチオン脱塩室D1’と主アニオン脱塩室D2’とを有し、主カチオン脱塩室D1’の陰極側に第1のカチオン交換膜c1’が、主アニオン脱塩室D2’の陽極側に第1のアニオン交換膜a1’が位置している。
【0064】
副アニオン脱塩室S2が第3のアニオン交換膜a3を介して陰極室E1に隣接しており、第2のアニオン交換膜a2を介して濃縮室C1に隣接している。副カチオン脱塩室S1が第3のカチオン交換膜c3を介して陽極室E2に隣接しており、第2のカチオン交換膜c2を介して濃縮室C3に隣接している。
【0065】
被処理水は、各主脱塩室D,D’の主カチオン脱塩室D1,D1’と副カチオン脱塩室S1とに並列に流入する。これらの部屋でカチオン成分が除去された被処理水は同様にして、各主脱塩室D,D’の主アニオン脱塩室D2,D2’と副アニオン脱塩室S2とに並列に流入し、アニオン成分が除去される。各濃縮室C1〜C3には濃縮室供給水が並列に供給され、各濃縮室C1〜C3からは、カチオン成分とアニオン成分を含んだ濃縮水が並列に排出される。
【0066】
主脱塩室の数は本実施形態では2つであるが、必要に応じ所望の数の主脱塩室を設置し、装置の処理容量を増加させることができる。
【0067】
図3Fは、図3Eに示す実施形態において、被処理水をまず主アニオン脱塩室D2,D2’と副アニオン脱塩室S2とに流入させ、その後主カチオン脱塩室D1,D1’と副カチオン脱塩室S1とに並列に流入させる実施形態を示している。
【0068】
図3Gは、図3Eに示す実施形態において、副カチオン脱塩室を省略した実施形態を示している。被処理水は、全量が主脱塩室D,D’の各主カチオン脱塩室D1,D1’に流入し、カチオン成分が除去される。その後被処理水は、主脱塩室D,D’の各主アニオン脱塩室D2,D2’及び副アニオン脱塩室S2に並列で流入し、アニオン成分が除去される。副カチオン脱塩室が設けられていないため、隣接する陽極室E2の電極水の向きはどちらでも構わない。従って、陽極室E2の電極水の向きは図示を省略している。
【0069】
図3Hは、図3Gとは逆に、主アニオン脱塩室を流出した被処理水が主カチオン脱塩室に流入する実施形態を示している。具体的には、被処理水は、主脱塩室D,D’の各主アニオン脱塩室D2,D2’及び副アニオン脱塩室S2に並列で流入し、アニオン成分が除去される。その後被処理水は、全量が主脱塩室D,D’の各主カチオン脱塩室D1,D1’に流入し、カチオン成分が除去される。
【0070】
図3Iは、図3Eに示す実施形態において、副アニオン脱塩室を省略した実施形態を示している。被処理水は、主脱塩室D,D’の各主カチオン脱塩室D1,D1’及び副カチオン脱塩室S1に並列で流入し、カチオン成分が除去される。その後被処理水は、全量が主脱塩室D,D’の各主アニオン脱塩室D2,D2’に流入し、アニオン成分が除去される。副アニオン脱塩室が設けられていないため、隣接する陰極室E1の電極水の向きはどちらでも構わない。従って、陰極室E1の電極水の向きは図示を省略している。
【0071】
図3Jは、図3Iとは逆に、主アニオン脱塩室を流出した被処理水が主カチオン脱塩室に流入する実施形態を示している。具体的には、被処理水は、全量が主脱塩室D,D’の各主アニオン脱塩室D2,D2’に流入し、アニオン成分が除去される。その後被処理水は、主脱塩室D,D’の各主カチオン脱塩室D1,D1’及び副カチオン脱塩室S1に並列で流入し、カチオン成分が除去される。
【0072】
図3Kは、図3Aに示す実施形態において、被処理水が副アニオン脱塩室S2、主カチオン脱塩室D1、主アニオン脱塩室D2、副カチオン脱塩室S1の順に直列に流通する実施形態を示している。図示は省略するが、被処理水が流入する順序はこれに限定されず、どのような順番で流通しても構わない。前述したように、このような実施形態は主脱塩室が多数設置される場合には不利となる面もあるが、主脱塩室の数が限られている場合には大きなデメリットとはならない。逆に、本実施形態では副カチオン脱塩室S1及び副アニオン脱塩室S2を主カチオン脱塩室D1、主アニオン脱塩室D2の前処理室または後処理室として利用できるので、被処理水の水質を一層向上させることが可能である。
【0073】
図3Lは、図3Aに示す実施形態において、主アニオン脱塩室D2及び副アニオン脱塩室S2から流出した被処理水を電極水として利用する実施形態を示している。具体的には、被処理水は主カチオン脱塩室D1及び副カチオン脱塩室S1に流入し、カチオン成分が除去される。その後被処理水は、主アニオン脱塩室D2及び副アニオン脱塩室S2に流入し、アニオン成分が除去される。この結果、被処理水は、カチオン成分とアニオン成分とが効率的に除去された水質となっている。このような被処理水の一部を電極水として陽極室E2及び陰極室E1に流入させることで、陽極室E2から副カチオン脱塩室S1へのカチオン成分の移行、及び陰極室E1から副アニオン脱塩室S2へのアニオン成分の移行を一層抑制することができる。
【0074】
さらに、図3Mに示すように、図3Lの実施形態において、電極水(被処理水)を陰極室E1と陽極室E2とに直列に流通させることもできる。図示の例では、主アニオン脱塩室D2及び副アニオン脱塩室S2から流出した被処理水の一部を電極水として陰極室E1に流入させ、陰極室E1から流出した電極水をさらに陽極室E2に流入させている。電極水(被処理水)は陽極室E2に先に流入させ、その後に陰極室E1に流入させてもよい。本実施形態は、電極水の回収効率を上げるために有効である。
【0075】
図3L,3Mに示す実施形態は被処理水を電極水として利用する実施形態の一例として示したものであり、この他にも様々な変形形態が可能である。例えば、図3A〜3K、3N〜3Sに示す各実施形態は本実施形態と組み合わせて実施することができる。主アニオン脱塩室D2または副アニオン脱塩室S2のいずれか一方だけから取水し、電極水として利用することもできる。主カチオン脱塩室D1及び副カチオン脱塩室S1(または、いずれか一方)から流出した被処理水の一部または全量を陽極室E2に供給することもできる。
【0076】
さらに、主脱塩室内における被処理水の流通方向については、副脱塩室と異なり電極室の電極水の流通方向による制約を受けないため、主カチオン脱塩室への被処理水の流入方向と主アニオン脱塩室への被処理水の流入方向とを互いに反対向き(向流)とすることも可能である。図3C、3D,3G,3H、3I,3Jの各形態について、主カチオン脱塩室D1または主アニオン脱塩室D2における被処理水の流通方向をダウンフロー(下向き)にした変形形態を各々、図3N〜3Sに示す。これらの形態では、副カチオン脱塩室S1または副アニオン脱塩室S2のいずれか一方が設けられていない。副カチオン脱塩室S1が設けられていない場合は(図3N,3P,3Q)、主アニオン脱塩室D2への被処理水は上向きに流通するが、主カチオン脱塩室D1(図3P,3Qの形態ではさらに主カチオン脱塩室D1’)への被処理水は下向きに流通する。副アニオン脱塩室S2が設けられていない場合(図3O,3R,3S)は、主カチオン脱塩室D1への被処理水は上向きに流通するが、主アニオン脱塩室D2(図3R,3Sの形態ではさらに主アニオン脱塩室D2’)への被処理水は下向きに流通する。
【0077】
このように、主カチオン脱塩室D1における被処理水の流れ方向と主アニオン脱塩室D2における被処理水の流れ方向とが向流の関係になっていると、陽極・陰極間を流れる電流が均等化されやすいというメリットが生じる。すなわち、主カチオン脱塩室D1においても主アニオン脱塩室D2においても、イオン成分は脱塩室の入口側でより多く除去されるため、イオン成分が吸着した樹脂層部分は、脱塩室の入口側に形成されやすい。主カチオン脱塩室D1における被処理水の流れ方向と主アニオン脱塩室D2における被処理水の流れ方向とが同じ方向を向いていると、このイオン成分が吸着した樹脂層部分は脱塩室の同じ側(上向き流の場合は脱塩室の下側、下向き流の場合は脱塩室の上側)に集中する。イオン成分が吸着した樹脂層部分は電気抵抗が高く電流が流れにくいため、結果的に陽極・陰極間を流れる電流がイオン成分の吸着が少ない脱塩室の出口側に集中してしまい、局所的に電流密度が高まり、装置の性能が制約される。図3N〜3Sに示す実施形態では、イオン成分が吸着した樹脂層部分が主カチオン脱塩室D1と主アニオン脱塩室D2とで、互いに反対側の位置に形成されやすいため、電流が脱塩室の流路長に対してより均等に流れ(分配され)、装置の性能の向上につながる。
【0078】
(実施例)
図1に示す構成の脱イオン水製造装置(実施例)と、図4(比較例)に示す脱イオン水製造装置を用いて、本発明の効果を確認した。図4の見方は図3A〜3Sと同様で、図中の符号Xは、符号Xで示したラインの端部同士が接続されていることを意味している。比較例は、各室の構成は図1に示す実施例と同じで、電極水の流れる方向が異なっている。比較例では、電極水は副カチオン脱塩室S1及び副アニオン脱塩室S2を流れる被処理水と逆方向(向流)に流れる。これに対して、実施例では前述の通り、電極水は副カチオン脱塩室S1及び副アニオン脱塩室S2を流れる被処理水と同じ方向に流れる。また、実施例では被処理水は各脱塩室を上向きに流れるのに対し、比較例では各脱塩室を下向きに流れる。
【0079】
実施例及び比較例における脱イオン水製造装置の仕様、通水流量、供給水の仕様等は以下のとおりである。なお、CERはカチオン交換樹脂、AERはアニオン交換樹脂の略である。
・陰極室E1:寸法100×300×4mm AER充填
・陽極室E2:寸法100×300×4mm CER充填
・主カチオン脱塩室D1:寸法100×300×8mm CER単床
・主アニオン脱塩室D2:寸法100×300×8mm AER単床
・副カチオン脱塩室S1:寸法100×300×8mm CER単床
・副アニオン脱塩室S2:寸法100×300×8mm AER単床
・濃縮室:寸法100×300×4mm(2室とも) AER単床(2室とも)
・処理水流量:50L/h
・濃縮水流量:5L/h
・電極水流量:10L/h
・脱塩室供給水(被処理水):一段RO透過水6±1μS/cm
・濃縮室供給水:一段RO透過水6±1μS/cm
・電極室供給水:脱塩室処理水
・印加電流値:1A
実施例及び比較例の装置について、1000時間の運転を行い、処理水質の経時変化を比較した。結果を図5に示す。
【0080】
実施例では、良好な処理水質が得られ、運転時間によらず安定した特性を示すことが確認された。これは電極室から副脱塩室へのイオン成分の移動が抑制された効果であると考えられる。
【符号の説明】
【0081】
1 脱イオン水製造装置
2 枠体
3 中間イオン交換膜
4 陽極
5 陰極
D,D’ 主脱塩室
D1,D1’ 主カチオン脱塩室
D2,D2’ 主アニオン脱塩室
S1 副カチオン脱塩室
S2 副アニオン脱塩室
C1 陰極側濃縮室
C2 陽極側濃縮室
E1 陰極室
E2 陽極室
a1〜a3 第1〜第3のアニオン交換膜
c1〜c3 第1〜第3のカチオン交換膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極室と陰極室とからなり、各々を電極水が流通する一対の電極室と、
前記一対の電極室の間に位置し、カチオン交換体及びアニオン交換体が充填され、被処理水が流通する主脱塩室と、
前記一対の電極室の間に位置し、前記主脱塩室の前記陰極室側で、第1のカチオン交換膜を介して前記主脱塩室に隣接して位置する陰極側濃縮室と、
前記一対の電極室の間に位置し、前記主脱塩室の前記陽極室側で、第1のアニオン交換膜を介して前記主脱塩室に隣接して位置する陽極側濃縮室と、
前記陰極室と前記陰極側濃縮室の間に位置し、第2のアニオン交換膜を介して前記陰極側濃縮室と隣接し、第3のアニオン交換膜を介して前記陰極室と隣接し、少なくともアニオン交換体が充填され、被処理水が流通する副アニオン脱塩室、または前記陽極室と前記陽極側濃縮室の間に位置し、第2のカチオン交換膜を介して前記陽極側濃縮室と隣接し、第3のカチオン交換膜を介して前記陽極室と隣接し、少なくともカチオン交換体が充填され、被処理水が流通する副カチオン脱塩室の、少なくともいずれか一方の副脱塩室と、を有し、
前記副脱塩室に流入する被処理水と、前記副脱塩室に隣接する前記電極室に流入する電極水の流入方向が同じである、電気式脱イオン水製造装置。
【請求項2】
被処理水が、前記主脱塩室と前記副アニオン脱塩室、または前記主脱塩室と前記副カチオン脱塩室に並列に流入し流出するようにされている、請求項1に記載の電気式脱イオン水製造装置。
【請求項3】
前記電極水は、前記主脱塩室または前記副脱塩室の少なくともいずれか一方から流出した被処理水である、請求項1または2に記載の電気式脱イオン水製造装置。
【請求項4】
前記電極水は、前記陰極室と前記陽極室とを直列で流通するようにされている、請求項3に記載の電気式脱イオン水製造装置。
【請求項5】
前記電極水の前記電極室の入口における比抵抗値が0.2MΩ・cm以上かつ18.2MΩ・cm以下である、請求項1から4のいずれか1項に記載の電気式脱イオン水製造装置。
【請求項6】
前記主脱塩室は、前記第1のカチオン交換膜と隣接し少なくともカチオン交換体が充填される主カチオン脱塩室と、前記第1のアニオン交換膜と隣接し中間イオン交換膜を介して前記主カチオン脱塩室と隣接する、少なくともアニオン交換体が充填される主アニオン脱塩室と、を有している、請求項1から5のいずれか1項に記載の電気式脱イオン水製造装置。
【請求項7】
前記副カチオン脱塩室または前記副アニオン脱塩室のいずれか一方が設けられておらず、前記主カチオン脱塩室への被処理水の流入方向と前記主アニオン脱塩室への前記被処理水の流入方向とが互いに反対向きである、請求項6に記載の電気式脱イオン水製造装置。
【請求項8】
前記副アニオン脱塩室を備え、
前記主脱塩室は2以上設けられ、該主脱塩室と濃縮室とが、該濃縮室が両端に位置するように交互に位置しており、
前記副アニオン脱塩室は、前記第2のアニオン交換膜を介して最も陰極側の前記濃縮室と隣接している、請求項1から7のいずれか1項に記載の電気式脱イオン水製造装置。
【請求項9】
前記副カチオン脱塩室を備え、
前記主脱塩室は2以上設けられ、該主脱塩室と濃縮室とが、該濃縮室が両端に位置するように交互に位置しており、
前記副カチオン脱塩室は、前記第2のカチオン交換膜を介して最も陽極側の前記濃縮室と隣接している、請求項1から7のいずれか1項に記載の電気式脱イオン水製造装置。
【請求項10】
前記副アニオン脱塩室及び前記副カチオン脱塩室を備え、
前記主脱塩室は2以上設けられ、該主脱塩室と濃縮室とが、該濃縮室が両端に位置するように交互に位置しており、
前記副アニオン脱塩室は、前記第2のアニオン交換膜を介して最も陰極側の前記濃縮室と隣接し、前記副カチオン脱塩室は、前記第2のカチオン交換膜を介して最も陽極側の前記濃縮室と隣接している、請求項1から7のいずれか1項に記載の電気式脱イオン水製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図3E】
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【図3F】
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【図3G】
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【図3H】
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【図3I】
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【図3J】
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【図3K】
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【図3L】
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【図3M】
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【図3N】
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【図3O】
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【図3P】
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【図3Q】
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【図3R】
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【図3S】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−88085(P2011−88085A)
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−244356(P2009−244356)
【出願日】平成21年10月23日(2009.10.23)
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)
【Fターム(参考)】