説明

電気接触子の製造方法

【課題】台金の急激な温度上昇を抑制して、台金が必要以上に加熱されるのを防止でき、台金の変形や特性の劣化のない電気接触子を効率よく製造することができる、電気接触子の製造方法を提供する。
【解決手段】治具50によって接点3及び台金1を重ね合わせて支持し、台金1の、接点3とは反対側の面に、所定速度で回転しかつ治具50に対して進退動作する回転ツール22を回転させながら押し込んで、回転ツール22と台金1との摩擦熱により、接点3と台金1とを固相拡散接合又は液相拡散接合させた後、回転ツール22を台金3から後退させて電気接触子を製造する。そして、回転ツール22を回転させながら押し込む押し込み工程と、押し込みを停止して回転させながらその位置に保持する保持工程とを、接点3と台金1との接合が完了するまで、複数回繰り返す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、電磁開閉器や電磁接触器、回路遮断器に用いられる、電気接触子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、電磁開閉器や電磁接触器等の電気接触子は、可動側接点と固定側接点とが接離して、電気回路が開閉することにより、電気的接続のON,OFF動作がなされるようになっている。これらの各接点は、所定形状をなした可動側台金及び固定側台金にそれぞれ接合されて、支持されている。
【0003】
従来、台金と接点とを接合させるにあたり、溶接による接合や、機械的な手段による接合などが行われていた。
【0004】
機械的な手段による接合としては、例えば、かしめ方法やクラッド方法などが挙げられるが、機械的な手段による接合では、接点と台金の接合面積を十分確保しにくいので、電流容量が小さいものに限られる傾向があった。
【0005】
これに対し、溶接による接合であれば、接点と台金の接合面積を十分確保できる。このため、電流容量が大きなものに対しては、溶接による接合が用いられる傾向にある。
【0006】
溶接方法としては、例えば、超音波溶接、抵抗加熱ろう付、抵抗スポットろう付、抵抗スポット溶接、炉中ろう付、高周波加熱ろう付などが挙げられる。これらの溶接方法のうち、比較的小型の接点(例えば、4.6mm角の面積)の接合では、超音波溶接、抵抗スポット溶接などが一般的に用いられている。
【0007】
しかしながら、超音波溶接の場合、接点及び台金の材質の組み合わせによっては、接点と台金との接合性が変わり、接合強度のばらつきが生じてしまうことがあった。接点と台金との接合強度にばらつきが発生すると、接点の電気的開閉寿命に影響が及ぶ。
【0008】
また、抵抗スポット溶接では、極めて短時間で大電流を流して接合するために、接合面積が大きくなるほど接合強度がばらつき易いという問題があった。
【0009】
ところで、金属部材同士を接合するための接合方法として、近年、摩擦攪拌接合という接合技術が用いられつつある。摩擦攪拌接合は、先端にピンを突設したツールを、回転させながら接合すべき部材同士の接合部に押し込み、摩擦熱で部材を加熱・軟化させつつ、ピンでツール周囲の部材を攪拌して塑性流動を生じさせて、この塑性流動を介して部材同士を接合させる方法である。
【0010】
この種の摩擦攪拌接合を行うための装置として、下記特許文献1には、先端部に、軸線に沿って突出するピンを有する接合ツールと、接合ツールをその軸線まわりに回転させる回転用モータと、接合ツールをその軸線方向に移動させる移動用モータとを有し、回転用モータで接合ツールを回転させながら、移動用モータで接合ツールをその軸線方向に移動させ、重ねられた被接合物の所定の接合点に、ピンを押しつけ、摩擦熱でピン周囲の被接合物を加熱、軟化させてピンを挿入し、回転するピンで接合点付近の被接合物を攪拌し、被接合物を接合点で一体化させた後、移動用モータで接合ツールを軸線に沿って引き抜くことによって、被接合物を接合点でスポット接合する接合装置が開示されている。
【特許文献1】特開2001−314982号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記の摩擦攪拌接合では、ツール周囲の部材を攪拌して塑性流動を生じさせて、この塑性流動を介して部材同士を接合させるため、これを台金と接点との接合に利用しようとすると、台金が変形、軟化してしまうという問題があった。
【0012】
また、上記特許文献1の接合装置では、接合ツールが高速回転しつつ被接合物の所定深さまで押し込まれるようになっているので、これを台金及び接点の接合に用いた場合、台金の温度が急上昇して必要以上に加熱され、変形したり特性が劣化したりするおそれが生じる。
【0013】
したがって、本発明の目的は、台金の急激な温度上昇を抑制して、台金が必要以上に加熱されるのを防止でき、台金の変形や特性の劣化のない電気接触子を効率よく製造することができる、電気接触子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本発明の電気接触子の製造方法の第1は、
治具によって接点及び台金を重ね合わせて支持し、
前記台金の前記接点とは反対側の面の前記接点に対応する位置に、所定速度で回転しかつ治具に対して進退動作する回転ツールを回転させながら押し込んで、
前記回転ツールと前記台金との摩擦熱により、前記接点と前記台金とを固相拡散接合又は液相拡散接合させた後、
前記回転ツールを前記台金から後退させる電気接触子の製造方法であって、
前記回転ツールを回転させながら押し込む押し込み工程と、押し込みを停止して回転させながらその位置に保持する保持工程とを、前記接点と前記台金との接合が完了するまで、複数回繰り返すことを特徴とする。
【0015】
上記発明によれば、回転ツールの押し込み工程においては、強い摩擦熱が発生して温度が上昇するが、回転ツールの保持工程においては、温度上昇が停止又は緩やかになる。その結果、押し込み工程で発生した摩擦熱が、保持工程において台金と接点との接合面に効果的に伝熱される。このように押し込み工程と保持工程を繰り返すと、回転ツールによって発生する摩擦熱が台金と接点との接合面等に伝達される前に、台金が局部的に必要以上に加熱されて、変形したり、特性が劣化したりすることを防止できる。
【0016】
また、回転ツールの回転数を高めて、押し込み工程での加熱速度を高めた場合でも、保持工程において温度上昇を停止又は緩やかにできるので、温度調整がしやすくなると共に、台金と接点との接合面への伝熱効率を高めることができ、できるだけ少ないエネルギーで迅速な接合を可能にすることができる。
【0017】
更に、回転ツールの回転数を高めることができるので、押し込み時の押圧力が低くても大きな摩擦熱を発生させて押し込むことが可能となるので、台金の変形も少なくすることができる。
【0018】
本発明の電気接触子の製造方法においては、前記台金と接点との接合面の温度が所定温度範囲に維持されるように、前記押し込み工程及び前記保持工程のそれぞれの時間や繰り返し回数を設定することが好ましい。
【0019】
これによれば、押し込み工程及び保持工程のそれぞれの時間や繰り返し回数を上記のように設定することにより、台金と接点との接合が完了するまで、台金と接点との接合に必要な温度が維持されるようにすることができ、それによって接合速度を高めることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、回転ツールの押し込み工程で温度が上昇しても、保持工程で、温度上昇が停止又は緩やかになり、摩擦熱を台金と接点との接合面に効果的に伝熱させることができるので、摩擦熱が台金と接点との接合面等に伝達される前に、台金が必要以上に加熱されることによる変形や特性劣化を防止できる。
【0021】
また、回転ツールの回転数を高めて、押し込み工程での加熱速度を高めた場合でも、保持工程において温度上昇を停止又は緩やかにできるので、温度調整がしやすくなると共に、台金と接点との接合面への伝熱効率を高めることができ、できるだけ少ないエネルギーで迅速な接合を可能にすることができる。
【0022】
更に、回転ツールの回転数を高めることができるので、押し込み時の押圧力が低くても大きな摩擦熱を発生させて押し込むことが可能となるので、台金の変形も少なくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面を参照して、本発明の電気接触子の製造方法について説明する。
【0024】
この電気接触子の製造方法は、台金1と接点3とを接合させてなる電気接触子を製造することを目的としたものである。
【0025】
図1(a),(b)に示すように、この実施形態における台金1は、接点3が接合される一側部1aと、該一側部1aに連結すると共に湾曲した形状をなす中間部1cと、該中間部1cに連結された幅広の他側部1bとからなっている。この実施形態の場合、台金1の一側部1aの下面側に、四角形状をなした接点3が接合されるようになっている。それに対応して、台金1の一側部1aの上面側から、後述する回転ツール22が押し込まれるようになっている(図1(a)参照)。
【0026】
なお、台金1としては、例えば、全体として帯状に伸びていて、その両側部が中間部に対して外方に折り曲げられた形状などであってもよく(この場合、両側部にそれぞれ接点が接合されることとなる)、特に限定されるものではない。
【0027】
台金1、接点3の金属材料としては、特に限定されない。台金1としては、回転ツール22を押し込みやすい金属材料(押込んで少なからず塑性流動が発生する金属材料)を好ましく用いることができ、Cu又はCu系合金などはその代表的なものとして挙げられる。接点3としては、Ag系合金、Ag-酸化系合金、W系合金、Cd系合金などを好ましく用いることができる。
【0028】
図1(a),(b)に示すように、この製造方法では、治具50によって接点3と台金1とを重ね合わせて支持する。治具50は、台金1の形状に対応して、台金1の一側部1aを支持する第1支持部51aと、それよりも高く隆起して、台金1の他側部1bを支持する第2支持部51bとからなる基台部51を有している。
【0029】
この基台部51には、台金1を所定位置に位置決め保持する保持凹部52が形成されている。図1(b)に示すように、この保持凹部52は、第1支持部51aに形成され、台金1の一側部1aを収容保持する第1凹部52aと、第2支持部51bに形成され、台金1の他側部1bを収容保持する第2凹部52bとを有している。また、第1凹部52aの底部には、接点3が嵌め込まれる嵌合凹部53が形成されている。
【0030】
そして、基台部51の嵌合凹部53に接点3を嵌め込むと共に、その上に台金1を重ね合わせて配置し、台金1の両側部1a,1bを基台部51の両凹部52a,52bに挿入し保持させる。次いで、台金1の他側部1bをボルトBによって第2支持部51bに締め付け固定することにより、台金1が基台部51から浮かないように押え付けられて、台金1と接点3とを重ね合わせて支持することができる。
【0031】
治具50の材料としては、セラミックス又はステンレスが好ましく用いられる。これらの材料は耐熱性が高く、熱伝導度が低いので、回転ツール22の先端面が、台金1上を回転する際に生じる摩擦熱が、治具50に伝熱されにくくなる。このため、摩擦熱を、台金1と接点3との接触面に効率良く伝熱させることができ、後述する台金1と接点3との接合を迅速に行うことが可能となる。
【0032】
治具50によって重ね合わされた接点3及び台金1は、例えば、図2に示す製造装置10にセットされて、該製造装置10によって接合される。
【0033】
図2(a)の製造装置の概略構成図を参照して説明すると、この製造装置10は、台金1及び接点3を重ね合わせて支持する治具50が固定される固定盤12と、該固定盤12から垂設した柱部14と、該柱部14に昇降手段16を介して昇降可能に支持されたツール支持筒18と、該ツール支持筒18の下方に固定チャック20を介して固定された回転ツール22とを有している。
【0034】
前記ツール支持筒18の上方には、回転手段24が配置されており、その回転軸が固定チャック20を介して前記回転ツール22に連結されている。したがって、回転ツール22は、昇降手段16により、治具50に対して進退可能に昇降動作すると共に、回転手段24により所定速度で回転動作するように構成されている。
【0035】
また、前記昇降手段16には、図示しない制御手段が設けられており、これにより回転ツール22の台金1に対する押し込み位置が制御され、後述する回転ツール22の押し込み工程と、押し込み停止後その位置で保持する保持工程とがなされるようになっている。
【0036】
上記回転ツール22は、図2(b)に示すように、先端に向かって次第に縮径した円柱状をなし、その先端面が平坦な円形状となっている。そして、この回転ツール22は、台金1の接点3とは反対側の面(すなわち、接点3に当接していない面)の、接点3に対応する位置で回転することにより、台金1の上面と回転ツール22の先端面との間に摩擦熱を生じさせつつ、台金1内に押し込まれるようになっている。なお、回転ツール22の先端面の大きさは、接点3の全面積をカバーできる外径で形成されていることが好ましい。
【0037】
上記回転ツールの形状は、例えば、図2(c)に示す形状のものでもよい。同図に示す回転ツール22aは、平坦な先端面25の中央から、所定高さで突出すると共に、前記先端面25よりも小径の突起26を有している。この回転ツール22aは、突起26が台金1内部に埋もれて摩擦熱を発生させるようになっているので、台金1の板厚が大きい場合に特に有効である。台金1の板厚が大きいと、接合面に摩擦熱を伝熱するため回転ツールの押込量が多くなるので、台金1が塑性変形することがあるが、先端面25に突起26を設けることで、回転ツールの突起26がより深く押し込まれて接合面に伝熱されるので、台金1の塑性変形をできるだけ抑えることができる。
【0038】
次に、上記製造装置10を用いた場合における、本発明の電気接触子の製造方法の第一の実施形態について説明する。
【0039】
すなわち、図1(a),(b)に示すように、治具50により接点3と台金1とを重ね合わせて支持した後、これを製造装置10の固定盤12の所定位置に配置固定する。その後、回転ツール22を所定速度で回転させながら、台金1に向けて押し込んでいく。そして、回転ツール22の先端面が台金1に接触すると、回転ツール22と台金1との間に摩擦熱が生じ、更に、回転ツール22が回転しながら押し込まれていくことにより、図1(a)の矢印Hに示すように、前記摩擦熱が台金1を通って接点3と台金1との接合面S(図1(a)の部分拡大図参照)に伝達されて、この接合面Sが加熱される。
【0040】
こうして台金1と接点3との接触面に高温の熱と加圧力が付与され、台金1と接点3との接合面Sにおいて固相拡散接合がなされて、固相拡散接合部が生成され、この固相拡散接合部を介して、台金1と接点3とが互いに接合される。ここで、固相拡散接合とは、原子の拡散を利用して接合する拡散接合の一つで、接合面間を溶融させずに、固相状態で接合する方法である。
【0041】
上記のように、回転ツール22の押し込みにより、台金1と接点3とが固相拡散接合されるが、この製造方法では、回転ツール22の押し込み作業が次のように行われる。すなわち、回転ツール22を回転させながら押し込む押し込み工程と、回転ツール22の押し込みを停止すると共に、同回転ツール22を回転させながら、その位置に保持する保持工程とを、接点3と台金1との接合が完了するまで、複数回繰り返してなされる。
【0042】
図3を併せて説明すると、まず、図3(a)に示すように、回転ツール22を、台金1に深さH1だけ押し込んだ後(押し込み工程)、その位置で回転ツール22を回転させつつ、その位置で所定時間保持する(保持工程)。同様にして、図3(b)に示すように、H1の状態から回転ツール22を深さH2だけ押し込んだ後、回転させつつ所定時間保持する。更に、図3(c)に示すように、H2の状態から所望の押し込み深さH3まで回転ツール22を押し込んだ後、回転状態で所定時間保持し、その後、回転ツール22を上昇(後退)させることにより、接点3と台金1との接合が完了する。この実施形態では、押し込み工程と保持工程とが、3回繰り返されるようになっている。
【0043】
上記のように押し込み工程と保持工程とを繰り返す製造方法によれば、回転ツール22の押し込み工程では、強い摩擦熱が発生して温度が上昇するが、回転ツール22の保持工程では、温度上昇が停止するか又は緩やかになる。その結果、押し込み工程で発生した摩擦熱が、保持工程において台金1と接点3との接合面S(図1(a)参照)に効果的に伝熱される。このように押し込み工程と保持工程を繰り返すと、回転ツール22によって発生する摩擦熱が台金1と接点3との接合面Sに伝達される前に、台金1が局部的に必要以上に加熱されて、変形したり、特性が劣化したりすることを防止できる。
【0044】
また、回転ツール22の回転数を高めて、押し込み工程での加熱速度を高めた場合でも、保持工程において温度上昇を停止又は緩やかにできるので、温度調整がしやすくなると共に、台金1と接点3との接合面Sへの伝熱効率を高めることができ、できるだけ少ないエネルギーで迅速な接合を可能にすることができる。
【0045】
更に、回転ツール22の回転数を高めることができるので、押し込み時の押圧力が低くても大きな摩擦熱を発生させて押し込むことが可能となるので、台金1の変形も少なくすることができる。
【0046】
上述した台金1と接点3とを、迅速に接合できる点について、図4を参照して詳述する。この図4には、台金1の接点3に当接していない面に、回転ツール22を回転しつつ押し込んだときの、経過時間(横軸)と加圧力(縦軸)との関係が示されている。
【0047】
同図4には、押し込み工程と保持工程とを繰り返して、回転ツール22を所定の押し込み深さまで押し込む、本発明の製造方法による実施例の波形と、一度の押し込み工程で、回転ツール22を所定の押し込み深さまで押し込む、比較例の波形が示されている。
【0048】
本発明の製造方法による実施例の場合、図4に示すように、回転ツール22の押し込み工程と保持工程とが3回繰り返される。
【0049】
すなわち、回転ツール22が台金1に押し込まれていき、前記のように押し込み・保持工程が繰り返されると、その加圧力は、1,2回目の工程時においては、押し込み工程時に上昇し保持工程で一定となり、3回目の押し込み工程時に、所定のピークP1を超えた後下降に転じ、所定深さまで回転ツール22が押し込まれて停止する。すると、加圧力はピークP2を境にして更に下降する。
【0050】
なお、前記ピークP1での加圧力の変動は、台金1と接点3との接合面Sが固相拡散接合されるときに、軟化した部分が生じるために起こるものである。
【0051】
一方、回転ツール22を一度で所定の押し込み深さまで押し込む比較例の場合は、回転ツール22が台金1に押し込まれていくと、それに伴って加圧力が上昇し、所定のピークP1´に達した後、加圧力が下降していき、所定深さまで押し込まれて停止すると、ピークP2´を境にして加圧力が更に下降していく。
【0052】
上記2つの波形を比較すると、実施例では、2回目のピークP2の前後の加圧力変動が小さいのに対し、比較例では、ピークP2´の前後の加圧力変動が極めて大きい。ピーク前後の加圧力変動が大きいということは、台金1と接点3との接合面における、組成変化が未だなされているということであって、接合が未完了となっている。すなわち、比較例の場合、ピークP2を過ぎた後に接合が完了するということになる(この接合が完了する領域を、図4中、F2として示す)。
【0053】
これに対して、実施例の場合は、ピーク前後の加圧力変化が極めて少なく、ピークP2を超えたときには、既に台金1と接点3との接合が完了しており、ピークP1を過ぎた直後に接合が完了しているものといえる(この接合が完了する領域を、図4中、F1として示す)。
【0054】
すなわち、本発明の製造方法による実施例では、比較例に比べて、各接合完了域F1,F2の開示時間の差異の分だけ、台金1と接点3との接合が早く終了するようになっており、台金1と接点3とを迅速に接合することが可能となっている。その理由としては、上述したように、本発明の製造方法では、台金1の変形や特性劣化なしに、回転ツール22の回転数を極めて高くすることができるので、大きな摩擦熱を発生させて押し込むことが可能であるためである。
【0055】
ところで、この製造方法においては、回転ツール22の押し込み工程後の保持工程により、台金1の温度上昇が抑制されるようになっているので、回転ツール22の回転数を高めることが可能となっている。
【0056】
このときの回転ツール22の回転数は、台金1の材質、厚さ、更には幅などによって異なるが、例えば、台金1がCuであって、その厚さが1.5〜2.5mmである場合には、回転ツール22の回転数は、3000r/min以上であり、特に、5000〜15000r/minであることが好ましい。
【0057】
上記のように、回転ツール22の回転数を高めて、押し込み工程での加熱速度を高めた場合でも、保持工程において温度上昇を停止又は緩やかにできるので、温度調整がしやすくなると共に、台金1と接点3との接合面への伝熱効率を高めることができ、できるだけ少ないエネルギーで迅速な接合を可能にすることができる。
【0058】
また、この製造方法においては、台金1と接点3との接合面Sの温度が所定温度範囲に維持されるように、前記押し込み工程及び前記保持工程のそれぞれの時間や繰り返し回数を設定されている。これによれば、押し込み工程及び保持工程のそれぞれの時間や繰り返し回数を上記のように設定することにより、台金1と接点3との接合が完了するまで、台金1と接点3との接合に必要な温度が維持されるようにすることができ、それによって接合速度を高めることができる。
【0059】
なお、本発明における、押し込み工程と保持工程とは、少なくとも2回繰り返すことが必要であり、特に、上記実施形態のように、押し込み工程と保持工程とを、3回繰り返すことが好ましい。この場合、1回目の押し込み工程・保持工程においては、製品形状の寸法ばらつき等を吸収して、2回目以降の押し込み深さを正確に設定するという意味合いがあり、2回目の押し込み工程・保持工程で、しっかりと押し込み深さを確保し、3回目の押し込み・保持工程は、全体的な押し込み深さを調整する意味合いがある。
【0060】
なお、上記実施形態では、回転ツール22を用いて、接点3と台金1とを固相拡散接合により接合させたが、両者を液相拡散接合によって接合させてもよい。液相拡散接合とは、接合すべき部材の接合面間を一時的に溶融・液化させ、液相状態で接合する方法である。
【0061】
例えば、接点3と台金1との間に、回転ツール22の摩擦熱によって、溶融可能なインサート金属を介在させておき、回転ツール22を回転させながら台金1に押し込む方法である。この方法によれば、回転ツール22の押し込み工程で生じた摩擦熱によって、前記インサート金属が溶融して、接点3と台金1とを液相拡散接合によって互いに接合させることができる。
【0062】
上記の接点3と台金1との間にインサート金属を介在させる方法としては、例えば、接点3と台金1との間にろう材を介在させる方法や、接点3と台金1の少なくとも一方の接合面にめっき層を形成させる方法等を採用することができる。
【0063】
なお、上記ろう材としては、銀ろう、りん銅ろうなどを好適に用いることができ、めっき層としては、銀系、金系、錫系、ニッケル系、クロム系、亜鉛系等の各種めっきを好適に用いることができる。
【実施例】
【0064】
本発明の電気接触子の製造方法によって、所定の品質を満足する電気接触子を製造した。そのときの製造条件を確認した。併せて比較例の電気接触子も製造し、そのときの製造条件を確認した。
【0065】
(実施例)
図1に示す治具50に接点3及び台金1を支持して、図2に示す製造装置10にセットし、回転ツール22の回転数を8000r/minとして、台金1に対して0.25mmの押し込み深さまで押し込むことにより電気接触子を製造した。
【0066】
このときの回転ツール22の動作は、初めに0.08mmの深さまで押し込んだ後0.2sec保持し、その後、0.12mmの深さまで押し込んだ後0.2sec保持し、最後に0.25mの深さまで押し込んだ。すなわち、3回の押し込み・保持工程を行った。
【0067】
(比較例)
回転ツール22の回転数を2000r/minとし、回転ツール22を、0.25mmの押し込み深さまで一度に押し込んだ以外は、前記実施例と同じ条件で、電気接触子を製造した。
【0068】
(結果)
上記の製造条件によって、両者とも所定の品質を満足する電気接触子を製造することができた。このとき、実施例の製造においては、比較例の製造に比べて、その接合完了時間を、およそ1sec近くも短縮することができた。
【0069】
この短縮化は、電気接触子の製造個数が多いほど大きな効果を生み、例えば、電気接触子を一日当たり数万回製造する場合には、その製造時間を数万秒も短縮することができ、製造コストの大幅な低減が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の電気接触子の製造方法に用いられる台金及び接点を示しており、(a)は(b)のA−A矢示線から見た場合における説明図、(b)は平面図である。
【図2】同電気接触子の製造方法に用いられる製造装置を示し、(a)は該製造装置の概略構成図、(b)は回転ツールの形状の一例を示す部分拡大図、(c)は回転ツールの形状の他の例を示す部分拡大図である。
【図3】同電気接触子の製造方法による製造工程を示しており、(a)は第1押し込み・保持工程の説明図、(b)は第2押し込み・保持工程の説明図、(c)は第3押し込み・保持工程の説明図である。
【図4】同電気接触子の製造方法による実施例及び比較例の、回転ツールを台金に押し込むときの経過時間と加圧力との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0071】
1 台金
1a 一側部
1b 他側部
1c 中間部
3 接点
10 製造装置
12 固定盤
14 柱部
16 昇降手段
17 水平移動手段
18 ツール支持筒
20 固定チャック
22,22a 回転ツール
24 回転手段
25 先端面
26 突起
50 治具
51 基台部
51a 第1支持部
51b 第2支持部
52 保持凹部
52a 第1凹部
52b 第2凹部
53 嵌合凹部
B ボルト
S 接合面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
治具によって接点及び台金を重ね合わせて支持し、前記台金の前記接点とは反対側の面の前記接点に対応する位置に、所定速度で回転しかつ治具に対して進退動作する回転ツールを回転させながら押し込んで、前記回転ツールと前記台金との摩擦熱により、前記接点と前記台金とを固相拡散接合又は液相拡散接合させた後、前記回転ツールを前記台金から後退させる電気接触子の製造方法であって、
前記回転ツールを回転させながら押し込む押し込み工程と、押し込みを停止して回転させながらその位置に保持する保持工程とを、前記接点と前記台金との接合が完了するまで、複数回繰り返すことを特徴とする電気接触子の製造方法。
【請求項2】
前記台金と接点との接合面の温度が所定温度範囲に維持されるように、前記押し込み工程及び前記保持工程のそれぞれの時間や繰り返し回数を設定する請求項1記載の電気接触子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−17720(P2010−17720A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−177574(P2008−177574)
【出願日】平成20年7月8日(2008.7.8)
【出願人】(508296738)富士電機機器制御株式会社 (299)
【Fターム(参考)】