説明

電気炉電極昇降マストの冷却方法

【課題】 電気炉の電極を支持する電極支持梁を昇降させる昇降マストの頂部における冷却不良を防ぐ冷却方法を提供する。
【解決手段】 昇降マストの頂部3bのボックス構造の下部ボックス7を冷却した冷却水が頂部中央ボックス1に給水され、この冷却水が一番初めに頂部中央ボックス上面2に当たるように配管9を頂部中央ボックス上面2の近辺まで延ばして設け、冷却水の温度上昇が回避して頂部中央ボックス上面2を効果的に冷却し、頂部中央ボックス1が冷却水で満たされると頂部中央ボックス1から配管4を通って頂部周囲ボックス3へ冷却水を供給して冷却する。この場合、昇降マスト3aの頂部中央ボックス側面5の最上部に空気抜け孔6を設けて、昇降マストの頂部中央ボックス1の空気を抜いて頂部中央ボックス上面2まで冷却水を満たして効果的に冷却する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三相交流方式および直流方式の電気炉における電極昇降用マストの冷却方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に三相交流方式の電気炉は三本の黒鉛電極を、直流方式の電気炉は1本の黒鉛電極を、炉内に挿入し、予め炉内に装入されている鉄屑などの材料と電極との間にアークを発生させて材料を溶解させると共にその溶鋼を加熱するものである。
【0003】
そして、電気炉では炉内への黒鉛電極の挿入量を制御する必要があるため、その電極を把持する電極ホルダとそれと一体的に構成される電極支持梁とからなる電極支持装置が不可欠である。これらにおいて、三相交流方式電気炉に適用される電極支持装置の発明が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1を例にとると図3(側面図)および図4(平面図)に示すような構成を有している。
【0004】
これらの図において、1aは炉内へ挿入される黒鉛電極、2aは黒鉛電極1aを把持する電極ホルダ、10は電極支持梁、4aはターミナル、5aは前記ターミナル4aと炉用変圧器(図示せず)を接続したフレキシブルケーブルを示す。ここに、電極支持梁10は大電流供給用の銅やアルミニウム合金からなる導体で構成されており、電気炉の稼動時にはターミナル4aから電極支持梁10と電極ホルダ2aを介して黒鉛電極1aへ大電流が供給される。また、電極支持梁10は昇降マスト3aに支持されて、昇降マスト3aにより上下方向に駆動制御して、炉内への各黒鉛電極1aの挿入量を調整することにより、安定したアークを発生させるようになっている。
【0005】
なお、図4は三相交流アーク炉であるために、黒鉛電極1aが3本であり、必然的に電極ホルダ2aと電極支持梁10からなる電極支持装置も3台の構成になっているが、直流電気炉の場合は電極ホルダおよび電極支持装置はそれぞれ1台で足りる。
【0006】
電極ホルダおよび電極支持梁からなる電極支持装置は、稼動時において大電流が通電されると、その内部抵抗および誘導加熱により発熱し、また炉内から吹き上げる火焔やガス、さらには赤熱した電極からの輻射や熱伝導によって加熱される。同様に電極支持梁と昇降マストとの接触面および昇降マスト頂部も加熱される。こで、これらの熱変形および溶損を防止するために、これらは常に冷却する必要があり、通常は特許文献1に記載のように冷却水を冷却媒体とした通水方式で冷却される機能を持たせている。しかし、昇降マストは上下方向に駆動制御するため、通常は垂直構造であり、また冷却媒体となる冷却水の中には、空気の気泡が存在するため垂直構造である昇降マストに冷却水を通水すると冷却水より比重の軽い空気が上部に溜まって空気層となり、その空気層のために冷却不良となる。冷却不良となると昇降マストの上端が変形もしくは水漏れを起こすなどの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3678379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、電気炉の電極を支持して昇降させる昇降マストの頂部における冷却不良を防ぐ冷却方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するための手段である本発明の方法について、図面を参照して説明する。第1の発明の方法は、昇降マストの頂部を万遍なく冷却水で冷却するように、頂部中央ボックスとその周囲を取り囲む頂部周囲ボックスと頂部中央ボックスの下部に配設の下部ボックスからボックス構造を形成し、先ず、このボックス構造の昇降マストの頂部を冷却するために、下部ボックスに冷却水を給水して下部ボックスを水冷する。次いで、この下部ボックスを水冷した冷却水を頂部中央ボックスへの給水配管により頂部中央ボックスに給水する。この給水により頂部中央ボックス上面に溜まった空気を頂部中央ボックス側壁の最上部に開口した空気抜け孔から押しだしながら頂部中央ボックス上面まで冷却水を満たして頂部中央ボックスを水冷する。さらに、この頂部中央ボックスを水冷した冷却水を頂部中央ボックスから頂部周囲ボックスへ配設した給水配管により、頂部周囲ボックスに給水して頂部周囲ボックスを冷却する方法からなる、電気炉電極昇降マストの冷却方法である。
【0010】
第2の発明の方法は、下部ボックスを水冷した冷却水を頂部中央ボックスへの給水配管により頂部中央ボックスに給水する方法は、頂部中央ボックスへの給水配管を頂部中央ボックス上面近辺まで延ばすものとする。このようにすることで、下部ボックスから給水された冷却水が直接に頂部中央ボックス上面に当たるように給水する方法からなる、請求項1の手段の電気炉電極昇降マストの冷却方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法の電気炉電極昇降マストの冷却方法により、次のような効果が奏される。第1の手段の発明では、昇降マストの頂部中央ボックスに溜まった空気が効率的に抜けるので、頂部中央ボックス上面まで冷却水が満たされることから、頂部中央ボックス上面を効果的に冷却できる。第2の手段の発明では、昇降マストの頂部中央ボックスは下部ボックスから冷却水が給水されるので、通常は頂部中央ボックスは下面から冷却水が溜まり始め、最後に上面が冷却水で満たされて冷却されることとなる。しかし、この方法では冷却水が溜まる間に冷却水の温度が上がるため、最後に上面は温度が上昇した水で冷却されて冷却効率が悪い。そこで第2の手段の発明では、下部ボックスから給水された冷却水が一番初めに頂部中央ボックス上面に当たるように配管したので、頂部中央ボックス内に給水された冷却水が頂部中央ボックス上面に達したときの温度上昇が回避でき、昇降マストの頂部中央ボックス上面が効果的に冷却できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】昇降マストおよび電極支持梁側面図(昇降マストの部分は断面図)
【図2】昇降マスト頂部断面図(図1のA-A矢視断面図)
【図3】電極支持装置の側面図
【図4】三相交流アーク炉の電極支持装置の平面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明を実施するための形態を、図1から図4を用いて説明する。一般に電気炉は、黒鉛電極1aを炉内に挿入し、予め炉内に装入されている鉄屑などの材料と黒鉛電極1aとの間にアークを発生させて鉄屑などの材料を溶解させ溶鋼とすると共に、その溶鋼を加熱するものである。そして、電気炉では炉内への黒鉛電極1aの挿入量を制御する必要があるため、その黒鉛電極1aを把持する電極ホルダ2aとそれと一体的に構成される電極支持梁10とからなる電極支持装置が不可欠である。電極支持梁10は、昇降マスト3aの上端に結合されており、昇降マスト3aが上下方向に駆動制御され、炉内への黒鉛電極1aの挿入量を調整することにより、安定したアークを発生させるようになっている。
【0014】
電極支持装置は、電気炉の稼動時において大電流が通電されると、電極支持装置の内部抵抗および誘導加熱により発熱し、また炉内から吹き上げる火焔やガス、さらには赤熱した黒鉛電極1aからの輻射や熱伝導によって加熱される。同様に電極支持梁10と昇降マスト3aとの接触面および昇降マスト頂部3bも加熱される。そこで、これらの部材の熱変形および溶損を防止するために常に冷却する必要があり、冷却水を冷却媒体とした通水方式で冷却機能を持たせている。しかし、昇降マスト3aにおいては、上記したように、昇降マスト3aを上下方向に駆動制御するため、昇降マスト3aは通常では垂直構造であり、また冷却媒体となる冷却水の中には、空気の気泡が存在するため垂直構造である昇降マスト頂部3bに冷却水を通水すると、冷却水より比重の軽い空気が上部に溜まり、その空気の層により冷却不良となる。冷却不良となると昇降マスト3aの上端の変形もしくは水漏れなどを起こすなどの問題があった。
【0015】
本発明では、昇降マストの頂部3bは万遍なく冷却するためにボックス構造となっており、その頂部中央ボックス1が冷却水で満たされると頂部中央ボックス1から配管4を通って頂部周囲ボックス3へ冷却水が供給される。一方、その昇降マスト3aの頂部中央ボックス側面5の最上部に空気抜け孔6を設けることにより、昇降マストの頂部中央ボックス1にたまった空気が抜け、頂部中央ボックス上面2まで冷却水が満たされ中央ボックス上面2を効果的に冷却できる。
【0016】
また、昇降マスト3aの頂部中央ボックス1は下部ボックス7から給水される。下部ボックス7から給水された頂部中央ボックス1は、もし、下部ボックス7からの配管9が頂部中央ボックス下面8に開口されていると、この頂部中央ボックス下面8から冷却水が溜まり始め、最後に頂部中央ボックス上面2が冷却されることとなる。このようになると、冷却水が溜まる間に冷却水の温度が上がって、温度の上昇した冷却水により頂部中央ボックス上面2が冷却されることとなるため、頂部中央ボックス上面2の冷却不良の原因となっていた。そこで、本発明の手段では、下部ボックス7から給水された冷却水が一番初めに頂部中央ボックス上面2に当たるように配管9を頂部中央ボックス上面2の近辺まで延ばして設けるものとする。このようにすることで、冷却水の温度上昇が回避でき、昇降マスト3aの頂部中央ボックス上面2を効果的に冷却することができる。
【0017】
本発明の実施例を図面に基づいて説明する。図1から図3において、一般に電気炉は、黒鉛電極1aを炉内に挿入し、予め炉内に装入されている鉄屑などの材料と黒鉛電極1aとの間にアークを発生させて材料を溶解させて溶鋼とすると共に、その溶鋼を加熱するものである。
【0018】
ところで、電気炉では炉内への黒鉛電極1aの挿入量を制御する必要がある。このために、その黒鉛電極1aを把持する電極ホルダ2aとそれと一体的に構成される電極支持梁10とからなる電極支持装置が不可欠な装置として電気炉の近辺に立設されている。電極支持梁10は、昇降マスト3aの上端に結合されており、電極支持梁10を安定して支持するために、電極支持梁10の直下の昇降マスト3aの上部とその上の頂部中央ボックス1の周囲に設けられた頂部周囲ボックス3の下面との間は、リブ11で補強されている。このようにリブ11で上部が補強された昇降マスト3aが上下方向に駆動制御され、炉内への黒鉛電極1aの挿入量を調整している。さらに、この昇降マストの上端に結合されている電極支持梁の下部の頂部中央ボックスの周囲に配置されている頂部周囲ボックスの下面と、昇降マストの上部側壁はリブで補強されている。上記した昇降マストと同様に、このリブにも熱負荷がかかるため、冷却水で冷却できるように、リブ内部に空洞を設けて給排水を配管し熱変形および溶接割れを防止できるようにする。
【0019】
昇降マスト頂部3bの内部は、頂部中央ボックス1とその周囲を取り囲む頂部周囲ボックス3と頂部中央ボックス1の下部に配設の下部ボックス7から形成されてボックス構造になっており、これらの頂部中央ボックス1、頂部周囲ボックス3、下部ボックス7は水冷されている。頂部中央ボックス1は、その側面壁の最上部に空気抜け孔6を設けて内部の空気を給水とされた冷却水に置換されて十分に排出でき、また下部ボックス7からの配管9の開口を頂部中央ボックス上面2の近辺に設けており、さらに、頂部中央ボックス1から頂部周囲ボックス3への冷却水を給水する配管4を有している。
【0020】
上記の構成からなる実施例によれば、昇降マスト頂部3bの冷却が本発明の手段の方法により改善されて、昇降マスト3aと電極支持梁10との接触面の変形および水漏れが未然に回避できる。
【符号の説明】
【0021】
1 頂部中央ボックス
2 頂部中央ボックス上面
3 頂部周囲ボックス
4 頂部周囲ボックスへの給水配管と兼用の頂部中央ボックスの排水配管
5 頂部中央ボックス側面
6 空気抜け孔
7 下部ボックス
8 頂部中央ボックス下面
9 頂部中央ボックスへの給水配管(下部ボックスの排水配管)
10 電極支持梁
11 リブ
1a 黒鉛電極
2a 電極ホルダ
3a 昇降マスト
3b 昇降マスト頂部
4a ターミナル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気炉の電極を支持する電極支持梁を昇降させる昇降マストの頂部に設けられた頂部中央ボックスとその周囲を取り囲む頂部周囲ボックスと頂部中央ボックスの下部に配設の下部ボックスからボックス構造に形成した昇降マストの頂部を水冷するために、下部ボックスに冷却水を給水して下部ボックスを水冷し、下部ボックスを水冷した冷却水を頂部中央ボックスへの給水配管により頂部中央ボックスに給水し、この給水により頂部中央ボックス上面に溜まった空気を頂部中央ボックス側壁の最上部に開口した空気抜け孔から押しだしながら頂部中央ボックス上面まで冷却水を満たして頂部中央ボックスを水冷し、この頂部中央ボックスを水冷した冷却水を頂部中央ボックスから頂部周囲ボックスへ配設した給水配管により頂部周囲ボックスに給水して頂部周囲ボックスを冷却することを特徴とする電気炉昇降マストの冷却方法。
【請求項2】
下部ボックスを水冷した冷却水を頂部中央ボックスへの給水配管により頂部中央ボックスに給水する方法は、頂部中央ボックスへの給水配管を頂部中央ボックス上面近辺まで延ばして下部ボックスから給水された冷却水が直接に頂部中央ボックス上面に当たるように給水する方法からなることを特徴とする請求項1に記載の電気炉電極昇降マストの冷却方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−117792(P2012−117792A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−270528(P2010−270528)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【出願人】(000180070)山陽特殊製鋼株式会社 (601)
【Fターム(参考)】