説明

電気絶縁ケーブル

【課題】 ケーブルのコア材と被覆層との間で水が走るのを防止できるのと同時に、被覆層を簡単に剥がしてコア材を容易に取出すことができる電気絶縁ケーブルを提供する。
【解決手段】 ハウジング内部に封止した車輪速センサ素子と、ハウジング外部のECUとの電気的な接続を、電気絶縁ケーブル1を介して行うセンサケーブル装置であって、電気絶縁ケーブル1は、導体111及びこれを覆う絶縁被覆層112からなるコア材11と、このコア材11を覆う被覆層12と、この被覆層12を覆うシース13とを備えるとともに、コア材11との界面である被覆層12の外周面に電気絶縁ケーブル1の長さ方向に沿って間欠的に粉体14を塗布している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆層内部の気密性を確保しながら同時に被覆層を容易に剥ぎ取ることができる電気絶縁ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
近時、カーエレクトロニクス化の進展に伴い、アンチロックブレーキシステム(ABS)など各種の制御システムが自動車に搭載されるようになってきている。
例えば、このABSの場合、車輪の近傍に車輪の回転速度を検出する速度センサが取付けられており、その速度センサで発生した電気信号をケーブルでECU(Electric Control Unit)に伝送し、このECUで演算処理した電気信号をケーブルでアクチュエータに伝送してアクチュエータを作動させる方法が採られている。
【0003】
上記の速度センサは自動車の走行中に被水する環境で使用されるため、車輪速センサ自身はもとより、センサとケーブルの接続部にも防水性が要求される。図5は、センサ及びケーブルとの接続部の防水性を確保する構造を備えたセンサケーブル装置の従来例を示している(特許文献1)。図5に示すセンサケーブル装置110は、ハウジング材樹脂を射出成形してハウジング105を形成する際に、センサ106を封止すると同時にケーブル100の端末部分を包み込んで、ハウジング105とケーブル100の外被とを熱融着させたものである。
【特許文献1】特許第3428391号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1のようにハウジングとケーブルを熱融着させても、コア材とシースとの間や、コア材と被覆層との間に水が万一浸入してこの部分に水が走れば、ハウジング内やECUに水が浸入する恐れがある。そこで、これらの層を密着性のある樹脂で形成するなど、ケーブル内部を水が走らないようにするための対策を講じる必要がある。
【0005】
その反面、ケーブルからコア材を剥き出して外部の電子部品などとの接続作業(口出し作業)を行う場合には、コア材と被覆層との間が強固に固着されていると、その口出し作業が困難である。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、ケーブルのコア材と被覆層との間で水が走るのを防止できるのと同時に、容易に被覆層を剥がしてコア材を取り出すことができる電気絶縁ケーブル及びセンサケーブル装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は下記手段により解決することができる。
1.導体及びそれを覆う絶縁層からなるコア材と、このコア材を覆う被覆層とを備える電気絶縁ケーブルであって、前記コア材と前記被覆層との界面に、前記被覆層を剥ぎ取りやすくするための剥離性付与手段が前記電気絶縁ケーブルの長さ方向に沿って間欠的に設けられていることを特徴とする電気絶縁ケーブル。
2.前記剥離性付与手段が粉体であることを特徴とする上記1に記載の電気絶縁ケーブル。
3.導体及びそれを覆う絶縁層からなるコア材と、このコア材を覆う被覆層とを備える電気絶縁ケーブルであって、前記コア材と前記被覆層との界面に、接着剤が前記電気絶縁ケーブルの長さ方向に沿って間欠的に塗布されていることを特徴とする電気絶縁ケーブル。
4.前記被覆層を覆うシースを備え、前記シースの外周面上に、前記剥離性付与手段又は前記接着剤が設けられている箇所を確認できる表示手段が設けられていることを特徴とする上記1〜3のいずれかに記載の電気絶縁ケーブル。
【発明の効果】
【0008】
本発明の電気絶縁ケーブルは、ケーブルのコア材とこれを被覆する被覆層との間に、剥離性を付与する粉体や接着剤を塗布しない領域が間欠的に設けられているので、その領域を利用して被覆層を剥き取ってコア材を容易に取り出すことができ、口出し作業が容易になる。また、コア材と被覆層との間に水が浸入した場合でも、粉体を塗布しない領域や接着剤を塗布する領域があるのでその間を水が走るのを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の好適な実施形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係るセンサケーブル装置10を示すものである。このセンサケーブル装置10は、電気絶縁ケーブル1と、電気絶縁ケーブル1の一端側に接続されている車輪速センサ素子2を備えている。図1では、センサケーブル装置10の電気絶縁ケーブル1の他端側に、演算処理部であるECU(Electronic Control Unit)3を接続した状態を示している。
【0010】
図2は、本実施形態に係る電気絶縁ケーブル1の構成を示す断面図である。図2に示すように、電気絶縁ケーブル1は、コア材11と、コア材11を覆う被覆層12と、この被覆層12を覆うシース13とを備えており、コア材11を2本束ねてその周りに被覆層12およびシース13を順に積層した構造となっている。コア材11と被覆層12との界面であるコア材11の外周面には、電気絶縁ケーブル1の長さ方向に沿って間欠的に粉体14が塗布されている。
【0011】
2本のコア材11は、互いにその長手方向で撚り合わされており、電気絶縁ケーブル1の屈曲に対する柔軟性を向上させている。
各コア材11は、導体111及びこれを覆う絶縁層112からなる。導体111には細径に延伸された銅または銅合金などの線材が用いられている。絶縁層112は、例えばポリ塩化ビニルや難燃ポリエチレン等の絶縁体を用いて形成されている。
なお、コア材11の1本の直径は1.0mm以上2.0mm以下に設定されているとよく、1.7mmが好ましい例である。
【0012】
被覆層12は、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)、ウレタンエラストマー等の樹脂を用いて形成することができる。中でも、EVAは前述の絶縁層112に対する接着性が高いので、コア材11と被覆層12との気密性を高めることができ、好ましい。
被覆層12の厚みは、0.3mm〜1.5mmの範囲内で設定することができる。
【0013】
上記のように被覆層12にEVA等の接着性の高い樹脂を用いた場合、コア材11と被覆層12と強固に固着されてしまい、電気絶縁ケーブル1とECU等との接続作業を行う際に被覆層12の剥き出し作業が困難となる場合がある。
そこで、本実施形態では、コア材11と被覆層12の界面に剥離性を付与するために粉体14を電気絶縁ケーブル1の長さ方向に沿って間欠的に塗布している。
【0014】
すなわち、図3に示すように、電気絶縁ケーブル1の長さ方向に沿ってコア材11上に粉体14を塗布する領域(粉体領域α)と粉体を塗布しない領域(非粉体領域β)とを交互に形成している。粉体領域αでは、コア材11と被覆層12との密着性が小さいので、容易にコア材11から被覆層12を引き剥がすことができる。また、非粉体領域βではコア材11と被覆層12との密着性が高く、それより先へ水が走ることを阻止できるので、コア材11と被覆層12との間に外部から水が浸入したときにその水が先端まで走る、といったトラブルを阻止することができる。粉体領域α及び非粉体領域βの設置長さは、被覆層12の剥ぎ取り作業が容易に、かつ、確実に行える必要最小限の長さを確保しておけばよい。一例として、粉体領域αの一箇所あたりの長さは50〜5000mmが好ましく、また、粉体領域βの一箇所あたりの長さは5〜500mmが好ましい。
【0015】
粉体14としては、例えばタルク(滑石(含水ケイ酸マグネシウム)を粉末状にしたもの)等、コア材11と被覆層12との剥離性を付与するものを用いるのがよい。
図3に示すようにコア材11上に粉体領域α及び非粉体領域βを形成するには、例えば、初めにコア材11の全長に亘って粉体14を塗布しておいてから、一定速度で送り出す際に、適宜手段を用いて一定時間間隔でコア材11にエアーを吹き付けることにより、塗布してある粉体14を間欠的に取り除くようにすれば、効率的に形成することができる。
【0016】
シース13(図2)に用いる材料としては、特に限定されないが、柔軟性と機械的な強度とを併せ持ち、被覆層12との間を水が走るのを防止するために、被覆層12との間での密着性が高い材料が好適である。また、後述するようにハウジング21(図1)とシース表面とを熱融着させる場合は、ハウジング21との熱融着に適した材料を用いることが好適である。このような特性を有する材料としては、例えば、ポリウレタンエラストマーとポリエステルエラストマーのブレンド品等の化合物を使用することができる。
また、シース13の材料に難燃剤を適宜配合させることで、自動車用ケーブル等に要請される難燃性を付与してもよい。
【0017】
シース13には、粉体領域αを外部から簡単に確認できるようにするため、図1に示すように粉体14の塗布部分に対応する外周面上に着色部15が設けられている。このようにケーブル表面に粉体14が塗布してある部分を表示することで、この部分での端末加工を容易に行うことができる。粉体領域αの位置を表示するには、シース表面を着色するほかに、文字等を印字してもよいし、マーク等を刻印してもよい。一例として、粉体領域の長さを所定の長さとし、それらの間隔を所定の間隔とする。エアーで間欠的に粉体を取り除く場合、エアーを吹き付ける位置からマーキング箇所までの距離と線速によりエアーを吹き付けてない箇所(粉体領域α)がマーキング箇所に到達する時刻が分かる。粉体領域αがマーキング箇所を追加する間、その箇所をマーキングする。
【0018】
以上説明したように、本実施形態の電気絶縁ケーブルでは、コア材11上に粉体14を塗布する粉体領域αと非粉体領域βを設けるようにしている。つまり、コア材11と被覆層12との界面に粉体14を塗布した粉体領域αを間欠的に設けることにより、その粉体領域では剥離性を高めることができるので、被覆層12を容易に除去できる。一方、非粉体領域βを間欠的に設けることで、同時に気密性も高めることができる。従って、仮にコア材11と被覆層12との界面に水が進入しても、その非粉体領域βの部分で食い止めることができる。
【0019】
車輪速センサ素子2(図1)は、車輪の近傍にABS用などとして設置するものであって、電磁ピックアップ方式のものやホール素子を用いたセンサなどが使用されている。車輪速センサ素子2は、被水する虞のある車輪の近傍に設置するため、気密状態に保持することが必要である。従って、この車輪速センサ素子2は、電気絶縁ケーブル1の口出しされた導体111と電気的に接続させた後、ハウジング21を形成する適宜の樹脂で封止する。
【0020】
この際、ハウジング樹脂材料を射出成形して車輪速センサ素子2を封止すると同時に、電気絶縁ケーブル1の端末部の外周を包み込んで、ハウジング21とシース13の外周面131を熱融着させている。ハウジング21をこのように形成することで、ハウジング21とケーブル1との間には十分な気密性を確保することができる。
なお、ハウジング樹脂材料には、BTB(ポリブチレンテレフタレート)などのポリエステル樹脂や6,12−ナイロンなどのポリアミド樹脂が用いることができる。
【0021】
次に、本実施形態に係るセンサケーブル装置10の車両への取付け方法について説明する。
このセンサケーブル装置10を車両に取付けるには、まず、ハウジング21で封止された車輪速センサ素子2を車輪の近傍の所定位置に設置する。一方、電気絶縁ケーブル1の他端側を車両内の別の場所に設置してあるECU3と接続するため、電気絶縁ケーブル1の適切な長さをどの程度にするかを決定する。そして、電気絶縁ケーブル1の表面には粉体領域α(図3)に対応する部分が着色部15により表示されているので、その長さに対応する着色部15で電気絶縁ケーブル1を切断する。
【0022】
次に、その切断した電気絶縁ケーブル1の他端部分から口出し作業を行うために、シース13及び被覆層12を適当な長さ剥ぎ取る。この剥ぎ取り作業では、剥離性を付与した粉体領域αで行うことができるので、シース13被覆層12の剥ぎ取り作業を容易に行うことができる。最後に、口出しされた電気絶縁ケーブル1の他端部の絶縁層112を剥がして剥き出しにした導体111とECU3とを接続する。
【0023】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態に係る電気絶縁ケーブルを備えたセンサケーブル装置について説明する。
本実施形態のセンサケーブル装置の電気絶縁ケーブルは、第1の実施形態におけるコア材11の外周面に粉体14を間欠的に塗布する代わりに、コア材の外周面に接着剤を電気絶縁ケーブルの長さ方向に沿って間欠的に塗布する。
【0024】
本実施形態によれば、第1の実施形態の電気絶縁ケーブル1と同様に、接着剤を塗布していない非接着剤領域から被覆層を容易に剥ぎ取ることができる。また、仮にコア材と被覆層との間に水が進入したとしても、接着剤を塗布する接着剤領域でそれより先へ水が走ることも、同時に阻止できる。
【0025】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施し得るものである。例えば、第1、第2の実施形態では、被覆層12の外周にさらにシース13を有する構成を示したが、シース13を備えていない構成であってもよい。
【実施例】
【0026】
次に、本発明の実施例について説明する。
本実施例では、例えば第1の実施形態に用いた電気絶縁ケーブル1と同じ構造を有する電気絶縁ケーブル1を80〜100cmの長さ用意する。一例として、粉体のある部分の長さを480mmとし、粉体のない部分の長さを20mmとし、粉体のある部分とない部分をそれそれ2箇所設ける。一方、比較例として、実施形態1に用いたものと同様の構成の電気絶縁ケーブルであって同じ長さを有するものであるが、電気絶縁ケーブルの長さ方向に沿って間欠的ではなく、電気絶縁ケーブルの全長に亘って隙間なく粉体14を塗布した構造の電気絶縁ケーブル5を用意する。そして、双方の電気絶縁ケーブル1、5の一端面から、それぞれ、一定圧力の空気圧を吹き付けたときに、電気絶縁ケーブル1、5内での空気の通過状態を調べる比較実験を行った。
すなわち、図4に示すように、双方の電気絶縁ケーブル1、5の一端面から5.00×10Pa(大気圧の約5倍)の空気圧を送り込むとともに、双方の電気絶縁ケーブル1、5の他端を水槽6内の水に浸漬して、この他端から出る空気量を調べた。
【0027】
その結果、粉体14が全長に亘ってほぼ均等に塗布してある比較例の電気絶縁ケーブル5では、毎分0.3ccの空気がコア材11と被覆層12との間を通過して他端面から噴出していることが検出された。一方、本実施形態の電気絶縁ケーブル1では、内部での空気の通過をほぼ防げる(通過量ほぼゼロ)ことが確認された。これにより、本実施例のように非粉体領域βを間欠的に形成することで、気密性を確保できるとの知見が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る電気絶縁ケーブルを備えたセンサケーブル装置を示す構成図である。
【図2】図1におけるI−I線矢視断面図である。
【図3】第1の実施形態に係る電気絶縁ケーブル部分を示す破断図である。
【図4】本発明の実施例と比較例との比較実験を説明する説明図である。
【図5】従来のセンサケーブル装置の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0029】
1 電気絶縁ケーブル
10 センサケーブル装置
11 コア材
111 導体
112 絶縁層
12 被覆層
13 シース
14 粉体(剥離性付与手段)
2 車輪速センサ素子(センサ)
21 ハウジング
3 ECU(electronic control unit)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体及びそれを覆う絶縁層からなるコア材と、このコア材を覆う被覆層とを備える電気絶縁ケーブルであって、
前記コア材と前記被覆層との界面に、前記被覆層を剥ぎ取りやすくするための剥離性付与手段が前記電気絶縁ケーブルの長さ方向に沿って間欠的に設けられていることを特徴とする電気絶縁ケーブル。
【請求項2】
前記剥離性付与手段が粉体であることを特徴とする請求項1に記載の電気絶縁ケーブル。
【請求項3】
導体及びそれを覆う絶縁層からなるコア材と、このコア材を覆う被覆層とを備える電気絶縁ケーブルであって、
前記コア材と前記被覆層との界面に、接着剤が前記電気絶縁ケーブルの長さ方向に沿って間欠的に塗布されていることを特徴とする電気絶縁ケーブル。
【請求項4】
前記被覆層を覆うシースを備え、前記シースの外周面上に、前記剥離性付与手段又は前記接着剤が設けられている箇所を確認できる表示手段が設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の電気絶縁ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−269892(P2008−269892A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−109565(P2007−109565)
【出願日】平成19年4月18日(2007.4.18)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】