説明

電気絶縁性組成物および絶縁電線

【課題】フッ素ゴムに匹敵する耐熱性、機械的特性などの特性を有し、かつ、フッ素ゴムに比べ価格の安い電気絶縁性組成物、およびそのような電気絶縁性組成物を用いた絶縁電線を提供する。
【解決手段】(A)テトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体100重量部に対し、(B)エチレン−プロピレン共重合体および/またはエチレン−プロピレン−ジエン共重合体を10〜80重量部含有する電気絶縁性組成物、およびこれを用いた絶縁電線である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性に優れた電気絶縁性組成物、およびこれを用いた絶縁電線に関する。
【背景技術】
【0002】
テトラフルオロエチレン−プロピレン系共重合体に代表されるフッ素ゴムは、耐熱性、耐油性、耐薬品性、耐老化性、耐候性、電気絶縁性などに優れており、電線の被覆材料として用いられている。
【0003】
しかしながら、フッ素ゴムは非常に高価であるため、モータリード線や自動車などのエンジン周りの配線用電線など、200℃を超えるような過酷な高温環境下で使用される特殊な電線の被覆にその用途が限られている。
【0004】
このため、フッ素ゴムに匹敵する耐熱性などの特性を有しながら、フッ素ゴムに比べ価格の安い電気絶縁材料が求められてきている。
【0005】
従来、この種の目的のためには、ベースとなる高分子材料に他の安価な汎用の高分子材料を組み合わせたり、あるいは、嵩増しのため無機充填剤などの添加剤を添加する手法が用いられており、上記フッ素ゴムについても、同様の手法が考えられる。
【0006】
フッ素ゴムに他のゴムや樹脂を併用した電気絶縁材料は、例えば、テトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体とフッ化ビニリデンとエチレン系ポリマーを併用した組成物など、これまでにも種々提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0007】
しかしながら、いずれも耐熱性や機械的特性などが低下しており、未だ、フッ素ゴムに匹敵する特性を備えたものは得られていない。
【特許文献1】特開平6−9844号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこのような従来技術の課題に対処してなされたもので、フッ素ゴムに匹敵する耐熱性、機械的特性などの特性を有し、かつ、フッ素ゴムに比べ価格の安い電気絶縁性組成物、およびそのような電気絶縁性組成物を用いた絶縁電線を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の目的を達成するため鋭意研究を重ねた結果、フッ素ゴムとしてテトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体を用い、これに、エチレン−プロピレン共重合体およびエチレン−プロピレン−ジエン共重合体の少なくとも1種を特定の割合で配合した場合に、テトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体に他のゴムを配合することによる耐熱性などの特性低下がほとんど見られないことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本願の請求項1に記載の発明の電気絶縁性組成物は、(A)テトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体100重量部に対し、(B)エチレン−プロピレン共重合体および/またはエチレン−プロピレン−ジエン共重合体を10〜80重量部含有することを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1記載の電気絶縁性組成物において、(A)成分100重量部に対し、(B)成分を20〜50重量部含有することを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2記載の電気絶縁性組成物において、(B)成分は、少なくともエチレン−プロピレン−ジエン共重合体を含むことを特徴とする。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれか1項記載の電気絶縁性組成物において、(A)成分100重量部に対し、さらに、(C)補強性充填剤を5〜30重量部含有することを特徴とする。
【0014】
請求項5に記載の発明は、請求項4記載の電気絶縁性組成物において、(C)成分は、MTカーボンブラック、MAFカーボンブラックおよび酸化チタンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする。
【0015】
請求項6に記載の発明は、請求項4または5記載の電気絶縁性組成物において、(C)成分は、少なくとも酸化チタンを含むことを特徴とする。
【0016】
本願の請求項7に記載の発明の絶縁電線は、請求項1乃至6のいずれか1項記載の電気絶縁性組成物からなる被覆を有することを特徴とする。
【0017】
請求項8に記載の発明は、請求項7記載の絶縁電線において、前記電気絶縁性組成物が架橋されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、フッ素ゴムに匹敵する耐熱性、機械的特性などの特性を有し、かつ、フッ素ゴムに比べ価格の安い電気絶縁性組成物、およびそのような電気絶縁性組成物を用いた絶縁電線を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0020】
本発明で用いられる(A)成分のテトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体は、例えば、テトラフルオロエチレンとプロピレンを低温乳化重合することにより得られ、第3成分として、共重合可能なモノマー、例えば、エチレン、イソブチレン、アクリル酸およびそのアルキルエステル、メタクリル酸およびそのアルキルエステル、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロペン、クロロエチルビニルエーテル、クロロトリフルオロエチレン、パーフルオロアルキルビニルエーテルなどの1種以上を適当量含んでいてもよい。この(A)成分のテトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0021】
本発明においては、本発明の効果を阻害しない範囲で、上記テトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体以外のフッ素ゴムを少なくとも1種併用することができる。併用するフッ素ゴムとしては、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−ペンタフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−ペンタフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレン共重合体などのフッ化ビニリデン系共重合体などが挙げられる。
【0022】
本発明で用いられる(B)成分のエチレン−プロピレン共重合体およびエチレン−プロピレン−ジエン共重合体は、それぞれ特に限定されるものではなく、市販されているもののなかから1種以上を適宜選択して使用することができる。この(B)成分の含有量は、(A)成分のテトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体100重量部に対して、10〜80重量部であり、好ましくは20〜50重量部である。(B)成分の含有量が(A)成分100重量部に対して10重量部に満たないと、十分なコストダウンを図ることができず、逆に80重量部を超えると、耐熱性、耐油性、機械的特性などが低下する。
【0023】
本発明の効果を得るうえでは、この(B)成分は、少なくともエチレン−プロピレン−ジエン共重合体を含有していることが好ましく、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体が(B)成分全体の50重量%以上であるとより好ましく、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体のみの使用は特に好ましい。
【0024】
本発明の電気絶縁性組成物には、引張強さなどの機械的強度を向上させる目的で、(C)補強性充填剤を配合することができる。補強性充填剤としては、MTカーボンブラック、MAFカーボンブラック、酸化チタンなどが挙げられ、なかでも粒径の小さい酸化チタンが補強効果に優れることから好ましい。酸化チタンは白色であり、明色配合が可能であるという利点も有する。この(C)成分の補強性充填剤は、ポリマー成分100重量部に対して、5〜30重量部配合することが好ましく、10〜25重量部配合することがより好ましい。補強性充填剤の配合量がポリマー成分100重量部に対して5重量部に満たないと、添加による効果が十分に得られず、また、30重量部を超えると、耐熱性、耐油性などが低下する。
【0025】
また、本発明の電気絶縁性組成物には、ポリエチレンワックス、ステアリン酸ナトリウムなどの加工助剤や、脂肪族炭化水素樹脂混合物などの分散剤を配合することができる。このような加工助剤や分散剤を配合することにより、ポリマーのブレンドに伴う機械的強度や耐熱性などの特性の低下が抑制されるとともに、押出成形時の加工性を向上させることができる。具体的には、加工助剤として、AC−617A(商品名、ハネウェル社製;ポリエチレンワックス)などが使用される。また、分散剤として、ULTRA−LUBE790(商品名、パフォーマンスアディティブス社製;脂肪酸エステル/特殊潤滑剤混合物)などが使用される。加工助剤は、ポリマー成分100重量部に対して、0.5〜2重量部配合することが好ましく、分散剤は、ポリマー成分100重量部に対して、0.5〜2重量部配合することが好ましい。
【0026】
さらに、本発明の電気絶縁性組成物には、この種の組成物に一般に配合される、難燃剤、着色剤、ワックスなどの滑剤、老化防止剤などの各種添加剤を、本発明の効果を阻害しない範囲で必要に応じて配合することができる。
【0027】
本発明の電気絶縁性組成物は、通常、架橋して用いられ、その手段としては、架橋剤を用いた化学架橋、電線線などの放射線による架橋などの任意の方法を用いることができる。化学架橋に用いる架橋剤としては、有機過酸化物が好ましく、例えば、1,3−ビス−(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼンなどが使用される。また、このような架橋剤とともに、トリアリルイソシアヌレートなどの架橋助剤を併用することが好ましい。有機過酸化物は、ポリマー成分100重量部に対して、0.5〜2重量部配合することが好ましく、また、架橋助剤は、ポリマー成分100重量部に対して、0.5〜10重量部配合することが好ましい。
【0028】
本発明の電気絶縁性組成物は、上記したような(A)テトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体、(B)エチレン−プロピレン共重合体および/またはエチレン−プロピレン−ジエン共重合体、並びに、必要に応じて配合される各種成分とを、オープンロール、バンバリーミキサ、ニーダなどによって十分に混練することにより製造することができる。(C)成分の補強性充填剤、加工助剤、分散剤などの添加剤は、(A)および(B)成分をそれぞれ素練りする際に予め混合しておいてもよい。
【0029】
このようにして得られた電気絶縁性組成物を、通常の電線製造用押出成形機により導体外周に押出被覆するかもしくは押出被覆後架橋して絶縁層を形成することによって、本発明の絶縁電線が得られる。導体の材質や外径などは特に限定されるものではなく、用途に応じて適宜定められる。また、導体外周に被覆する絶縁層の層厚も特に限定されるものではない。
【実施例】
【0030】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0031】
実施例1〜5、比較例1〜3
表1に示す材料を用い、表2に示す配合割合で電気絶縁性組成物を製造した。すなわち、各配合成分をオープンロールを用いて十分に混練して電気絶縁性組成物を得た。次いで、得られた電気絶縁性組成物を、汎用の電線製造用押出成形機を用いて、1.8mmφの軟銅撚線導体(37本/0.26mmφ)上に0.6mm厚に押出被覆し、約200℃で加熱架橋させて絶縁層を形成し、外径3.0mmの絶縁電線を製造した。
【0032】
【表1】

【0033】
上記各実施例および各比較例で得られた絶縁電線の絶縁層について、下記に示す方法でその特性を評価した。
【0034】
[引張強さ、伸び、硬さ]
各絶縁電線の絶縁層の引張強さ(MPa)および伸び(%)を、JIS C 3005に準じて、標線20mm、引張速度500mm/minの条件で測定した。また、JIS K 6253に準じてJIS−A硬度を測定した。
[耐熱性]
250℃で96時間熱老化させた後、各絶縁電線の絶縁層の引張強さ(MPa)および伸び(%)を、JIS C 3005に準じて、標線20mm、引張速度500mm/分の条件で測定し、引張強さ残率(%)および伸び残率(%)を求めた。
[耐油性]
120℃で18時間浸油した後、各絶縁電線の絶縁層の引張強さ(MPa)および伸び(%)を、標線20mm、引張速度500mm/分の条件で測定し、引張強さ残率(%)および伸び残率(%)を求めた。
【0035】
これらの結果を表2下欄に示す。
【表2】

【0036】
表2に示した結果からも明らかなように、本発明に係る実施例では、ベースのポリマー成分としてフッ素ゴムのみを用いた比較例1、2と比べてすべての評価項目でさほど遜色のない評価が得られた。一方、併用ゴム成分(エチレン−プロピレン−ジエン共重合体)を過剰配合した比較例3では、比較例1、2に比べすべての評価項目で特性の低下が認められ、特に耐熱性が大きく低下していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)テトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体100重量部に対し、(B)エチレン−プロピレン共重合体および/またはエチレン−プロピレン−ジエン共重合体を10〜80重量部含有することを特徴とする電気絶縁性組成物。
【請求項2】
(A)成分100重量部に対し、(B)成分を20〜50重量部含有することを特徴とする請求項1記載の電気絶縁性組成物。
【請求項3】
(B)成分は、少なくともエチレン−プロピレン−ジエン共重合体を含むことを特徴とする請求項1または2記載の電気絶縁性組成物。
【請求項4】
ポリマー成分100重量部に対し、さらに、(C)補強性充填剤を5〜30重量部含有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の電気絶縁性組成物。
【請求項5】
(C)成分は、MTカーボンブラック、MAFカーボンブラックおよび酸化チタンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項4記載の電気絶縁性組成物。
【請求項6】
(C)成分は、少なくとも酸化チタンを含むことを特徴とする請求項4または5記載の電気絶縁性組成物。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項記載の電気絶縁性組成物からなる被覆を有することを特徴とする絶縁電線。
【請求項8】
前記電気絶縁性組成物が架橋されていることを特徴とする請求項7記載の絶縁電線。

【公開番号】特開2007−119515(P2007−119515A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−309464(P2005−309464)
【出願日】平成17年10月25日(2005.10.25)
【出願人】(306013120)昭和電線ケーブルシステム株式会社 (218)
【Fターム(参考)】