説明

電気絶縁油用基剤

炭素数8〜20の高級脂肪酸と、炭素数6〜14の分岐脂肪族1価アルコールとのエステル化物からなる電気絶縁油用基剤、またはパーム油由来混合脂肪酸および/または大豆油由来混合脂肪酸と、炭素数1〜5の脂肪族1価アルコールまたは炭素数6〜14の分岐脂肪族1価アルコールとのエステル化物からなる電気絶縁油用基剤。本発明によれば、粘度、流動性、化学的安定性等に優れ、電気絶縁油の電気特性を充分発揮し得る電気絶縁油用基剤を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、電気絶縁油用基剤に関し、さらに詳述すると、エネルギー・環境問題に対応し得る安全性に優れた脂肪酸を原料とした電気絶縁油用基剤に関する。
【背景技術】
変圧器、ケーブル、遮断器、コンデンサー等の絶縁、冷却などの目的で使用される電気絶縁油として、古くから大豆油、菜種油、ヒマシ油などの植物油が使用されてきた。
その後、重質原油を真空蒸留によって所定の留分に分け、硫酸、アルカリ、水洗、白土処理などによって精製された鉱油系絶縁油や、ジフェニル,シリコーン,フタル酸エステルなどの合成化合物系絶縁油が使用されるようになった。
しかしながら、鉱油系絶縁油は、引火性が高いため、安全性等の点で問題があるだけでなく、エネルギー問題や環境問題から、今後その使用が困難になる可能性がある。
一方、合成化合物系絶縁油も、引火性が高い、高価であるなどの問題を有しており、特に、フタル酸エステルは、内分泌撹乱作用の疑いが指摘されている。
なお、PCBが使用された時期もあったが、安全性、毒性、環境汚染等に大きな問題を有しているため、電気機器への使用は禁止された。
このような経緯から、安全性に優れる大豆油、菜種油、ヒマシ油等の天然植物油を電気絶縁油として活用することが再び期待されている。しかし、例えば大型変圧器のように電気絶縁油の対流で内部を冷却する方式の機器に植物油を適用する場合には、植物油の粘度が高いこと、および流動点が高いことが欠点となる。このため、これらの植物油を電気絶縁油として使用する場合、従来、鉱油系や合成化合物系の絶縁油と混合していた。
しかし、鉱物系や合成化合物系の絶縁油を混合したのでは、これらの絶縁油に由来する上記問題点を根本的に解決することにはならない。
そこで、近年、菜種油,とうもろこし油,紅花油などの植物油の低級アルコールエステル化物を電気絶縁油に使用することが提案されている(特開平9−259638号公報、特開平11−306864号公報、特開2000−90740号公報)。
しかし、これらの絶縁油も、低粘度化、低流動点化という点で不充分であるのみならず、酸素や熱に対する安定性も不充分であり、絶縁油として実用上問題なく使用できるものとは言えず、さらなる改良が必要とされている。
しかも、上記各文献において、植物油として使用される菜種油、とうもろこし油、紅花油は、世界的な生産量および生産地などを考慮した場合、再生可能資源としての原料植物油として必ずしも適当とは言えず、この点からも、幅広い植物油を絶縁油として使用することが望まれている。
【発明の開示】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、粘度、流動性、化学的安定性等に優れ、電気絶縁油としての電気特性を充分発揮し得る、脂肪酸を原料とする電気絶縁油用基剤を提供することを目的とする。
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、炭素数8〜20の高級脂肪酸と、炭素数6〜14の分岐脂肪族1価アルコールとのエステル化物、またはパーム油由来混合脂肪酸および/または大豆油由来混合脂肪酸と、炭素数1〜5の脂肪族1価アルコールまたは炭素数6〜14の分岐脂肪族1価アルコールとのエステル化物が、粘度、流動性、化学的安定性等に優れ、電気絶縁油としての電気特性を充分に発揮し得るとともに、これらのエステル化物が従来の鉱物系や化学合成系電気絶縁油に代替可能な、エネルギー・環境問題にも適応し得る安全性に優れたものであることを見いだし、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、
1.炭素数8〜20の高級脂肪酸と、炭素数6〜14の分岐脂肪族1価アルコールとのエステル化物からなることを特徴とする電気絶縁油用基剤、
2.パーム油由来混合脂肪酸および/または大豆油由来混合脂肪酸と、炭素数1〜5の脂肪族1価アルコールまたは炭素数6〜14の分岐脂肪族1価アルコールとのエステル化物からなることを特徴とする電気絶縁油用基剤、
3.流動点降下剤をさらに含むことを特徴とする1または2の電気絶縁油用基剤を提供する。
本発明によれば、鉱油系や化学合成系電気絶縁油に代替可能であり、エネルギー・環境に対する負荷を低減でき、しかも安全性に優れた電気絶縁油用基剤を提供することができる。この電気絶縁油用基剤は、低粘度および低流動点を有しているのみならず、酸素、熱に対する化学的安定性に優れ、耐劣化性に優れたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明に係る第1の電気絶縁油用基剤は、炭素数8〜20の高級脂肪酸と、炭素数6〜14の分岐脂肪族1価アルコールとのエステル化物からなることを特徴とする。
ここで、電気絶縁油用基剤とは、変圧器,ケーブル,遮断器,コンデンサー等の絶縁、冷却などの目的で使用される電気絶縁油の主成分となる材料を意味する。
電気絶縁油には絶縁破壊電圧が高いこと、体積抵抗率が高いこと、誘電正接が小さいこと、誘電率が適当な値をとること、粘度が低く冷却特性に優れること、酸素、熱に対する安定性に優れ化学的に安定なこと、金属に対する腐食性がないこと、熱による膨張係数が小さく揮発分が少ないこと、流動点が低く液体状態の温度範囲が十分広いこと、不純物を含まないこと等が求められる。また、漏洩時における安全性をも考慮し、引火点が高いこと、生分解性が良いこと、生物や環境への悪影響が少ないこと等も求められる。
上記第1の電気絶縁油用基剤における炭素数8〜20の高級脂肪酸としては、例えば、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エライジン酸、アラキン酸、アラキドン酸等が挙げられ、これらは1種単独でまたは2種以上混合して用いることができる。
この場合、炭素数が8未満であると、得られたエステル化物の電気特性が悪化する可能性が高い。一方、炭素数が21以上であると、得られたエステル化物の粘度が高くなるため、電気絶縁油の冷却特性が低下する虞がある。
なお、上記炭素数8〜20の高級脂肪酸は、エネルギー・環境負荷を低減するという点から、再生可能資源であるヤシ油、パーム核油、大豆油、パーム油などの植物油由来のものであることが好ましい。また、高級脂肪酸は、飽和脂肪酸でも不飽和脂肪酸でもよいが、化学的に安定であることから、飽和高級脂肪酸が好適である。
炭素数6〜14の分岐脂肪族1価アルコールとしては、例えば、2−エチルブチルアルコール、2−エチルペンチルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、2−エチルオクチルアルコール、2−エチルラウリルアルコール、2−ブチルブチルアルコール、2−ブチルオクチルアルコール、2−ヘキシルヘキシルアルコール、2−ヘキシルオクチルアルコール、3−エチルヘキシルアルコール、3−エチルオクチルアルコール、3−エチルラウリルアルコール、イソデシルアルコール、イソトリデシルアルコール等が挙げられ、これらは1種単独でまたは2種以上混合して用いることができる。
ここで、炭素数が15以上の分岐脂肪族1価アルコールや、2価以上の多価アルコールの場合、これらを用いて得られるエステル化物の粘度が高まるため、電気絶縁油の冷却特性が悪化する虞がある。また、ベンジル基,フェニル基等の芳香族基を持つアルコールは、人体に有害である可能性が高く、安全性という点から好ましくない。さらに、炭素数6〜14の直鎖1価アルコールは、これを用いて得られるエステル化物の流動点低下能に劣る。
炭素数8〜20の高級脂肪酸と炭素数6〜14の分岐脂肪族1価アルコールとのエステル化物とは、これらの高級脂肪酸とアルコールとのエステル化物であれば、特に限定されるものではないが、カプリル酸イソトリデシル、カプリン酸イソトリデシル、ラウリン酸2−エチルヘキシル、ラウリン酸イソトリデシル、ミリスチン酸2−エチルヘキシル、ミリスチン酸イソトリデシル、ステアリン酸2−エチルヘキシル、ステアリン酸イソトリデシル、オレイン酸2−エチルヘキシル、オレイン酸イソトリデシル、リノール酸2−エチルヘキシル、リノール酸イソトリデシル、リノレン酸イソトリデシル、リノレン酸2−エチルヘキシル、およびこれらの2種以上の混合物等を用いることが好ましく、これらを用いることで、電気絶縁油としての電気特性に優れたものとなる。
特に、酸化や熱に対する化学安定性を高めることを考慮すると、二重結合を持たない飽和高級脂肪酸由来のエステル化物を用いることがより好ましく、上述したエステル化物の中でも、特に、カプリル酸イソトリデシル、カプリン酸イソトリデシル、ラウリン酸2−エチルヘキシル、ラウリン酸イソトリデシル、ミリスチン酸2−エチルヘキシル、ミリスチン酸イソトリデシルを好適に用いることができる。
上記エステル化物は、公知の種々のエステル化法を用いて製造することができ、例えば、(1)炭素数8〜20の高級脂肪酸と炭素数6〜14の分岐脂肪族1価アルコールとを酸またはアルカリの存在下で反応してエステル化させる方法、(2)炭素数8〜20の高級脂肪酸エステル化物と炭素数6〜14の分岐脂肪族1価アルコールとを酸またはアルカリの存在下で反応してエステル交換させる方法、(3)先にパーム油,大豆油,ヤシ油およびパーム核油などの植物油と炭素数6〜14の分岐脂肪族1価アルコールとを酸またはアルカリの存在下で反応してエステル交換させ、蒸留等により分留する方法などにより製造することができる。この場合、高級脂肪酸(エステル)として、食用で用いられた植物油の廃油、廃酸、廃脂肪酸エステルを再利用することもできる。
本発明に係る第2の電気絶縁油基剤は、パーム油由来混合脂肪酸および/または大豆油由来混合脂肪酸と、炭素数1〜5の脂肪族1価アルコールまたは炭素数6〜14の分岐脂肪族1価アルコールとのエステル化物からなることを特徴とするものである。
これらのパーム油および大豆油は、世界的な生産量および生産地から見て、菜種油、とうもろこし油、紅花油などよりも、再生可能資源として優れた原料植物油である。
ここで、パーム油由来混合脂肪酸および/または大豆油由来混合脂肪酸とは、それらの植物油を構成している脂肪酸の混合組成物を意味し、具体的には、パーム油の場合、ラウリン酸が痕跡、ミリスチン酸が1〜3質量%、パルミチン酸が40〜50質量%、ステアリン酸が2〜5質量%、オレイン酸が35〜45質量%、リノール酸が5〜15質量%、およびその他の成分である。大豆油の場合、パルミチン酸が7〜12質量%、ステアリン酸が2〜5.5質量%、オレイン酸が20〜50質量%、リノール酸が35〜60質量%、リノレン酸が2〜13質量%、およびその他の成分である。
なお、パーム油はパルミチン酸の含有量が多いため、蒸留等によりパルミチン酸を除去し、炭素数18中心のパーム油由来混合脂肪酸組成を形成してもよい。この場合、その組成は、パルミチン酸1質量%以下、ステアリン酸5〜15質量%、オレイン酸65〜85質量%、リノール酸7〜20質量%、その他の成分となる。
上記炭素数1〜5の1価脂肪族アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、i−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、i−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、n−ペンチルアルコール、i−ペンチルアルコール、tert−ペンチルアルコール、およびこれらの2種以上の混合物等が挙げられる。
また、上記炭素数6〜14の分岐脂肪族1価アルコールとしては、第1の電気絶縁油用基剤で例示したものを用いることができる。
これらの中でも、炭素数1〜5の1価脂肪族アルコールが、パーム油由来混合脂肪酸および/または大豆油由来混合脂肪酸エステル化物の粘度を低下させて電気絶縁油の冷却特性を改善し、かつ電気特性も満足することから、好適に用いられる。
なお、炭素数6以上の直鎖脂肪族アルコール、炭素数15以上の分岐脂肪族1価アルコール、2価アルコールおよび多価アルコールを用いると、得られるエステル化物の粘度を上昇させ、電気絶縁油の冷却特性を悪化させる可能性が高い。
本発明に係る第2の電気絶縁油用基剤のエステル化物も、公知の種々のエステル化法により製造することができ、例えば、(1)パーム油および/または大豆油と炭素数1〜5の1価脂肪族アルコールまたは炭素数6〜14の分岐脂肪族1価アルコールとを、酸またはアルカリの存在下で反応してエステル交換させる方法、(2)パーム油または大豆油の加水分解により得られるパーム油混合脂肪酸および/または大豆油混合脂肪酸と、炭素数1〜5の1価脂肪族アルコールまたは炭素数6〜14の分岐脂肪族1価アルコールとを酸またはアルカリの存在下で反応しエステル化させる方法等を用いることができる。
なお、パーム油の場合は、パーム油と1価脂肪族アルコールとをエステル交換させた後、蒸留等によりパルミチン酸エステル部分を分離して炭素数18を主成分とする混合脂肪酸エステルとしてもよい。
また、食用で用いられたパーム油および/または大豆油の廃油、廃混合脂肪酸、廃混合脂肪酸エステルを再利用し、これらを、炭素数1〜5の1価脂肪族アルコールまたは炭素数6〜14の分岐脂肪族1価アルコールと酸またはアルカリの存在下で反応させ、エステル化またはエステル交換させてエステル化物を得ることもできる。
この場合、ライオン(株)製パステルM182(パルミチン酸メチルを分別除去したパーム油由来混合脂肪酸メチルエステル)、当栄ケミカル(株)製TOENOL3120(大豆油由来混合脂肪酸メチルエステル)、当栄ケミカル(株)製TOENOL4120(大豆油由来混合脂肪酸n−ブチルエステル)等を好適に用いることができる。
以上で説明した第1および第2の電気絶縁油における各エステル化物は、電気特性を改善するため、アルコール除去、グリセリン分離、無機成分除去、中和、水洗、蒸留、白土処理、脱気処理等の精製を行うことが好ましい。特に、エステル化物の酸価と含水率が高い場合、電気特性が悪化する傾向にあることから、少なくとも酸価低減を目的とした活性白土/活性アルミナ等での吸着処理および水分低減を目的とした脱気処理を行うことが好ましい。
活性白土/活性アルミナ吸着処理は、遊離脂肪酸や酸触媒等を除去するために行うものであり、例えば、エステル化物に活性白土および/または活性アルミナを添加し、遊離脂肪酸等を吸着させた後、濾過により活性白土および/または活性アルミナを除去する方法により行われる。
具体的には、Mg、Al、Si等を主成分とする無機合成吸着剤であるキョーワードシリーズ(キョーワード100、200、300、400、500、600、700、1000、2000等、協和化学工業(株)製)や、トミターADシリーズ(トミターAD100、500、600、700等、富田製薬(株)製)を、エステル化物100質量部に対して0.01〜5質量部加え、20〜160℃で10分間〜10時間、大気下、窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気下または減圧条件下で吸着処理するのが好ましい。この操作によりエステル化物の酸価を0.0001〜0.01mgKOH/g以下、好ましく0.0001〜0.005mgKOH/g以下に低減させることができ、その結果、エステル化物の電気特性を著しく高めることができる。
脱気処理はエステル化物中の水分、空気を除去するために行うものであり、具体的には窒素置換後、20〜160℃、10分間〜10時間、真空度0.1kPa〜80kPaにより減圧留去する。この際、トルエン,ケロシン,イソプロピルアルコール,エタノール,ピリジンなどの水と共沸する化合物を、エステル化物中の水分に対し0.1〜3モル添加して共沸を行ってもよい。これらの操作によりエステル化物中の水分は0.1〜100ppm以下、好ましくは0.1〜50ppm以下に低減される。
脱気処理後、エステル化物が再び水分を吸収しないように、窒素雰囲気下で、または乾燥空気下で保存することが好ましい。また、モレキュラーシーブス4A(純正化学(株)製)等の脱水剤を、エステル化物100質量部に対し、0.1〜30質量部添加して保存するのもよい。モレキュラーシーブス4A等の脱水剤の作用により、長期間、含水量0.1〜50ppm以下の状態を維持することができる。
上記エステル化物は、これ自体単独でも電気絶縁油として使用することができるが、これに酸化防止剤、流動点降下剤、流動帯電防止剤等の添加剤を配合して使用することもできる。
特に、エステル化物の流動点を低下させるために、流動点降下剤を用いることが好ましい。流動点降下剤としては、例えば、アルキルメタクリレート系ポリマーおよび/またはアルキルアクリレート系ポリマー等が挙げられ、特に、重量平均分子量が5千〜50万程度で、炭素数1〜20の直鎖および/または分岐鎖アルキル基のポリアルキルメタクリレートおよび/またはアルキルアクリレート系ポリマーを好適に用いることができる。
これらアルキルメタクリレート系ポリマーおよび/またはアルキルアクリレート系ポリマーの使用量は、エステル化物100質量部に対して0.01〜5質量部、好ましくは0.01〜3質量部である。使用量が、0.01質量部未満であると、低温流動性を効果的に発揮し得ない可能性が高い。一方、5質量部を超えると、エステル化物が高粘度化する可能性が高い。
具体的には、ポリヘプチルアクリレート、ポリヘプチルメタクリレート、ポリノニルアクリレート、ポリノニルメタクリレート、ポリウンデシルアクリレート、ポリウンデシルメタクリレート、ポリトリデシルアクリレート、ポリトリデシルメタクリレート、ポリペンタデシルアクリレート、ポリペンタデシルメタクリレート、ポリヘプタデシルアクリレート、ポリヘプタデシルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリプロピルアクリレート、ポリプロピルメタクリレート等が挙げられる。エステル化物の流動点低下効果およびハンドリング性に優れていることから、アクルーブ100シリーズ(132、133、136、137、138、146、160、三洋化成工業(株)製)が、好適に用いられる。
本発明の電気絶縁油用基剤においては、エステル化物を構成する所定のアルコールに替えて、当該アルコールのアルキレンオキシド付加体を用いることもできる。このようなアルコールのアルキレンオキシド付加体のエステル化物を用いることで、流動点を一層低下させることができる。なお、本発明においては、上記エステル化物とアルキレンオキシドが付加された脂肪酸エステル誘導体とを混合して電気絶縁油用基剤とすることもできる。
アルキレンオキシドとしては、例えば、エチレンオキシド,プロピレンオキシド,および/またはこれらの混合物を、アルコールに対し1〜5モル、好ましくは1〜3モル付加させたアルコールのアルキレンオキシド付加体が挙げられる。
具体的には、エステル化物に、例えば、アルミニウムやマグネシウムなどの金属酸化物を主体とした触媒等を用いて、アルキレンオキシドを挿入反応させるか、脂肪酸または脂肪酸エステル化物にアルコールのアルキレンオキシド付加体をエステル化/交換反応させることによって得ることができる。
なお、本発明の第1および第2の電気絶縁油用基剤は相溶性に優れるため、その他の電気絶縁油と混合して使用することも可能である。使用可能なその他の電気絶縁油としては、例えば、アルキルベンゼン、アルキルインダン、ポリブテン、ポリ−α−オレフィン、フタル酸エステル、ジアリールアルカン、アルキルナフタレン、アルキルビフェニル、トリアリールアルカン、ターフェニル、アリールナフタレン、1,1−ジフェニルエチレン、1,3−ジフェニルブテン−1、1,4−ジフェニル−4−メチル−ペンテン−1、シリコーン油、鉱油、植物油等が挙げられる。
これらその他の電気絶縁油の中でも、エネルギー・環境に対する負荷の低減および安全性を考慮した場合、植物油またはシリコーン油を用いることが好ましく、また、低粘度化および低流動点化を考慮した場合、鉱油を用いることが好ましい。
本発明の電気絶縁油用基剤とその他の電気絶縁油との混合割合は、本発明の電気絶縁油用基剤(エステル化物)が相溶性に優れるため、任意の割合で混合することが可能であるが、低粘度化を図りつつ、環境負荷などを低減することを考慮すると、本発明のエステル化物100質量部に対し、その他の電気絶縁油が300質量部以下であることが好ましい。
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
なお、以下の実施例および比較例において、酸価、水分、動粘度、流動点および引火点は、下記の方法により測定した値である。また、酸化安定性試験は、下記(6)記載の方法により行った。
(1)酸価:JIS K1557電位差測定法に準拠した方法により求めた。
(2)水分:JIS K0068カールフィッシャー法に準拠した方法により求めた。
(3)動粘度:JIS K2283に準拠した方法により求めた。
(4)流動点:JIS K2269に準拠した方法により求めた。
(5)引火点:JIS K2265クリーブランド開放式に準拠した方法により求めた。
(6)酸化安定性:JIS C2101電気絶縁油試験法の酸化安定性試験に準拠した方法により行った。
【実施例1】
ラウリン酸と2−エチルヘキサノールとをp−トルエンスルホン酸を触媒としてエステル交換した後、未反応の2−エチルヘキサノールを回収し、さらに中和、湯洗、脱水処理を施し、ラウリン酸2−エチルヘキシルエステルを得た。
このラウリン酸2−エチルヘキシルエステル100質量部に対し、無機合成吸着剤(キョーワード500SH、協和化学工業(株)製)を2.5質量部添加し、真空度2.7kPaの減圧下、110℃で2時間吸着処理を施した後、濾過により吸着剤を除去した。
得られた電気絶縁油用基剤Aは、酸価0.002mgKOH/g、水分44ppm、動粘度4.9mm/s、流動点−45℃であった。電気絶縁油用基剤Aを、水分を吸収しないようモレキュラーシーブス4A(純正化学(株)製)を入れて窒素雰囲気下にて保存したところ、水分が6ppmまで低下し、この状態を1か月間維持できた。
【実施例2】
パーム油とメタノールとを水酸化ナトリウム存在下でエステル交換反応した後、グリセリンを除去し、パーム油由来混合脂肪酸メチルエステルを得た。得られたエステル化物をさらに多段蒸留することによりパルミチン酸メチルエステルを除去し、C18(ステアリン酸/オレイン酸/リノール酸)留分中心のパーム油由来混合脂肪酸メチルエステル(商品名:パステルM182、ライオン(株)製、酸価0.18mgKOH/g、水分120ppm、動粘度4.6mm/s、流動点7.5℃)を得た。
このパステルM182と2−エチルヘキサノールとをエステル交換し、パーム油由来混合脂肪酸2−エチルヘキシルエステル(酸価0.016mgKOH/g、水分100ppm、動粘度8.0mm/s、流動点−20℃)を得た。
その後、実施例1と同様に酸価、水分低減を行った。得られた電気絶縁油用基剤Bは、酸価0.001mgKOH/g、水分9ppm、動粘度8.0mm/s、流動点−20℃であった。電気絶縁油用基剤Bを、水分を吸収しないようモレキュラーシーブス4A(純正化学(株)製)を入れて窒素雰囲気下にて保存したところ、水分9ppmの状態を1か月間維持できた。
【実施例3】
実施例2で得られた電気絶縁油用基剤B100質量部に対し、流動点降下剤(アクルーブ138、三洋化成工業(株)製)1.5質量部を添加して電気絶縁油用基剤Cを調製した。得られた電気絶縁油用基剤Cは動粘度8.3mm/s、流動点−35℃であった。
【実施例4】
大豆油由来混合脂肪酸メチルエステル(TOENOL3120、当栄ケミカル(株)製、酸価0.15mgKOH/g、水分339ppm、動粘度4.6mm/s、流動点−5℃)100質量部に対し、流動点降下剤(アクルーブ132、三洋化成工業(株)製)1.0質量部を添加した。その後、実施例1と同様に酸価、水分低減を行った。得られた電気絶縁油用基剤Dは、酸価0.0029mgKOH/g、水分27ppm、動粘度5.0mm/s、流動点−25℃であった。
【実施例5】
実施例2で得られたパステルM182とイソトリデシルアルコール(Exxal 13、エクソン化学製)とをエステル交換し、パーム油由来混合脂肪酸イソトリデシルエステル(酸価0.04mgKOH/g、水分100ppm、動粘度14.0mm/s、流動点−20℃)を得た。その後、実施例1と同様に酸価、水分低減を行った。得られた電気絶縁油用基剤Eは、酸価0.002mgKOH/g、水分40ppm、動粘度14.0mm/s、流動点−20℃であった。電気絶縁油用基剤Eを、水分を吸収しないようモレキュラーシーブス4A(純正化学(株)製)を入れて窒素雰囲気下にて保存したところ、水分が6ppmまで低下し、この状態を1か月間維持できた。
【実施例6】
ラウリン酸メチルエステル(商品名:パステルM12、製造会社:ライオン)とイソトリデシルアルコール(商品名:Exxal 13、製造会社:エクソン化学)とをエステル交換し、ラウリン酸イソトリデシルエステル(酸価0.02mgKOH/g、水分100ppm、動粘度9.4mm/s、流動点−40℃)を得た。その後、実施例1と同様に酸価、水分低減を行った。得られた電気絶縁油用基剤Fは、酸価0.003mgKOH/g、水分72ppm、動粘度9.4mm/s、流動点−40℃であった。電気絶縁油用基剤Fを、水分を吸収しないようモレキュラーシーブス4A(純正化学(株)製)を入れて窒素雰囲気下にて保存したところ、水分が7ppmまで低下し、この状態を1か月間維持できた。
【実施例7】
カプリル酸メチルエステル(パステルM8、ライオン(株)製)とイソトリデシルアルコール(Exxal 13、エクソン化学製)とをエステル交換し、カプリル酸イソトリデシルエステル(酸価0.03mgKOH/g、水分100ppm、動粘度5.9mm/s、流動点−50℃以下)を得た。その後、実施例1と同様に酸価、水分低減を行った。得られた電気絶縁油用基剤Gは、酸価0.005mgKOH/g、水分57ppm、動粘度5.9mm/s、流動点−50℃以下であった。電気絶縁油用基剤Gを、水分を吸収しないようモレキュラーシーブス4A(純正化学(株)製)を入れて窒素雰囲気下にて保存したところ、水分が4ppmまで低下し、この状態を1か月間維持できた。
[比較例1〜4]
とうもろこし油(比較例1)、鉱油(比較例2)、ラウリン酸メチルエステル(パステルM12、ライオン(株)製)(比較例3)、菜種油n−オクチルアルコールエステル(比較例4)をそのまま電気絶縁油用基剤とした。
[比較例5〜9]
ミリスチン酸メチルエステル(パステルM14、ライオン(株)製、凝固点18.5℃)(比較例5)、パルミチン酸メチルエステル(パステルM16、ライオン(株)製、凝固点31℃)(比較例6)、パルミチン酸ブチルエステル(パステルB−16、ライオン(株)製、凝固点20℃)(比較例7)、ステアリン酸メチルエステル(パステルM180、ライオン(株)製、凝固点40℃)(比較例8)、ステアリン酸ブチルエステル(パステルB−18、ライオン(株)製、凝固点23℃)(比較例9)は、融点が高く常温では固体であるため、電気絶縁油用基剤としては不適であった。
上記各実施例および比較例1〜4について、原料油およびその構成脂肪酸、原料アルコール、動粘度、流動点、引火点、酸価並びに水分を表1にまとめて示した。

また、上記実施例1〜7および比較例1〜4で得られた電気絶縁油用基剤について、絶縁破壊電圧、誘電率、体積抵抗率および誘電正接を測定し、電気絶縁油としての電気特性を評価した。その結果を表2に示す。
なお、絶縁破壊電圧、誘電率、体積抵抗率および誘電正接は、JIS C2101電気絶縁油試験に準拠した方法により求めた。

表1および表2に示されるように、実施例1〜7の電気絶縁油用基剤A〜Gは、比較例1〜4のそれと比べて、低流動点、低粘度を示すとともに、高引火点を有し安全性に優れているのみならず、各種の電気特性も実用上充分な値を示していることがわかる。
[実施例8〜12、比較例5,6]
表3に示される各電気絶縁油用基剤について、初期酸価、およびJIS C2101電気絶縁油試験法の酸化安定性試験後(120℃、75時間後)の全酸価(mgKOH/g)を測定した。結果を併せて表3に示す。

表3に示されるように、実施例8,10,11の電気絶縁油用基剤A,F,Gは、二重結合を有しない飽和脂肪酸エステルを電気絶縁油用基剤としているが、鉱油と同程度の酸化安定性を示していることがわかる。
また、実施例9,12の電気絶縁油用基剤は、パーム油由来脂肪酸エステルであるが、比較例5の菜種油由来脂肪酸エステルよりも酸化安定性に優れていることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数8〜20の高級脂肪酸と、炭素数6〜14の分岐脂肪族1価アルコールとのエステル化物からなることを特徴とする電気絶縁油用基剤。
【請求項2】
パーム油由来混合脂肪酸および/または大豆油由来混合脂肪酸と、炭素数1〜5の脂肪族1価アルコールまたは炭素数6〜14の分岐脂肪族1価アルコールとのエステル化物からなることを特徴とする電気絶縁油用基剤。
【請求項3】
流動点降下剤をさらに含むことを特徴とする請求の範囲第1項または第2項記載の電気絶縁油用基剤。

【国際公開番号】WO2005/022558
【国際公開日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【発行日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513427(P2005−513427)
【国際出願番号】PCT/JP2004/012032
【国際出願日】平成16年8月16日(2004.8.16)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【出願人】(501383635)株式会社日本AEパワーシステムズ (168)
【Fターム(参考)】