説明

電気絶縁油組成物

【課題】適正な粘度を有し、外観が良好であり、酸化安定性に優れ、かつ製造コストを低減できる電気絶縁油組成物を提供すること。
【解決手段】(A)水素化精製鉱油及び/または合成油並びに(B)溶剤精製鉱油からなる基油を含有する、40℃における動粘度が5〜15mm2/sの電気絶縁油組成物であって、前記(B)溶剤精製鉱油が、40℃における動粘度が5〜100mm2/s、硫黄分が0.03〜0.8質量%であって、(B)成分の配合量が基油全量基準で0.5〜10質量%である電気絶縁油組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気絶縁油組成物に関し、さらに詳しくは比較的低粘度であって、流動性が良好であり、外観が良好であって、メンテナンスが容易であり、酸化安定性が良好で長期間使用でき、かつ低コストで製造可能な電気絶縁油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
電気絶縁油は、油入変圧器、ケーブル、コンデンサ等の種々の絶縁機器において使用される。このような電気絶縁油には基本的性能として電気絶縁性能が高いことが要求されるが、実際にそれを使用、管理する上では、それ以外に(i)比較的低粘度であること、(ii)外観が良好であること、(iii)酸化安定性が良好であることが要求される。
粘度が低すぎると揮発性が高くなり引火点が低下して取り扱いにおいて安全上問題になる場合がある。逆に高すぎると流動性が低く装置内で循環しにくくなるので冷却性能を低下させる。
電気絶縁油は十年以上長期間に渡り使用されることが多いため、長寿命であること、つまり酸化安定性が良好であることが要求される。特に大型変圧器の場合、トラブルが発生すると大規模な停電が起こり社会的な影響は計り知れないため、日本では電気絶縁油の保守管理、トラブル事前予知のための管理が徹底されている。このような状況の中で絶縁油の外観色相の確認は、定期点検で絶縁油試料を採取する際に絶縁油が正常であるか否か容易に点検できる有効な方法であり、絶縁油の劣化のおおよその目安になる。一般に絶縁油は劣化が進行すると色相が褐色になる。したがって、絶縁油の初期の外観色相で着色が多いことは状態を管理する上で支障を来たすので、電気絶縁油の外観色相は良好、すなわち無色透明に近いことが要求される。
また、電気絶縁油は通常白土処理仕上げをして製造されるので、白土の廃棄処理が必要となり環境負荷と同時にコスト高の要因になる。そのため、白土処理量を低減して良好な電気絶縁油を得ることが要求される。
【0003】
ところで、近年、特許文献1には、水素化精製鉱油及び/または合成炭化水素油にブライトストックを配合した電気絶縁油が開示されている。しかしながら、ブライトストックは高粘度であり、外観が黒色に近く、かつ極性化合物や不安定化合物等の不純物を多く含んでいる。そのため、電気絶縁油の粘度を適正にすること、外観を良好にすること、酸化安定性を良好にすることが困難であり、精製工程において大量の白土が必要になるという問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−220468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、適正な粘度を有し、外観が良好であり、酸化安定性に優れ、かつ製造コストを低減できる電気絶縁油組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、特定の基油を使用することで前記課題を解決できることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち本発明は、
1. (A)水素化精製鉱油及び/または合成油並びに(B)溶剤精製鉱油からなる基油を含有する、40℃における動粘度が5〜15mm2/sの電気絶縁油組成物であって、前記(B)溶剤精製鉱油が、40℃における動粘度が5〜100mm2/s、硫黄分が0.03〜0.8質量%であって、(B)成分の配合量が基油全量基準で0.5〜10質量%である電気絶縁油組成物、
2. 引火点が140℃以上、流動点が−27.5℃以下、JIS C 2101酸化安定性試験(120℃×75時間)におけるスラッジ発生量が0.4質量%以下、全酸価が0.6mgKOH/g以下であり、JIS C 2320の絶縁油の品質規格1種に該当する、前記1に記載の電気絶縁油組成物、
3. 組成物全量基準で0.6質量%以下の白土を用いて白土処理された電気絶縁油組成物であって、引火点が140℃以上、流動点が−27.5℃以下、JIS C 2101酸化安定性試験(120℃×75時間)におけるスラッジ発生量が0.2質量%以下、全酸価が0.4mgKOH/g以下であり、JIS C 2320の絶縁油の品質規格1種に該当する、前記1に記載の電気絶縁油組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、適正な粘度を有し、外観が良好であり、酸化安定性に優れ、かつ製造コストを低減できる電気絶縁油組成物が得られる。この電気絶縁油組成物は、長期間使用してもスラッジの発生が少なく、さらに劣化確認が容易であり、実用性能に優れるとともに、環境に負荷をかけずに製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の電気絶縁油組成物においては、(A)水素化精製鉱油及び/または合成油並びに(B)溶剤精製鉱油からなる基油を用いる。
(A)成分として用いられる水素化精製鉱油を製造するための原油としては特に制限なく使用することができ、例えばパラフィン系原油、ナフテン系原油等が挙げられる。
本発明において用いられる水素化精製鉱油は、例えば上記原油の常圧蒸留後の残油を減圧蒸留し、得られた減圧留出油を水素化精製処理したものが挙げられる。また、前記水素化精製処理の他に、脱ろう処理、脱れき処理等の従来公知の精製プロセスを適宜組み合わせて製造してもよい。
ここで、前記水素化精製処理とは、(1)水素化分解による多環化合物の開環及び側鎖の脱アルキル化、(2)異性化、(3)ヘテロ原子を含む炭化水素からの該へテロ原子の除去等が起きるような比較的過酷な条件での水素化処理をいう。
【0009】
(A)成分として用いられる合成油としては、具体的には、ポリα−オレフィン、(ポリブテン、1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマーなど)、ポリブテン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、アルキルジフェニルアルカン(アルキルジフェニルエタン、アルキルフェニルキシリルエタン、ベンジルトルエンなど)、アルキルビフェニルなどの炭化水素系合成油;ジエステル(ジトリデシルグルタレート、ジ2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ2−エチルヘキシルセパケートなど)、ポリオールエステル(トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンベラルゴネート、ペンタエリスリトール2−エチルヘキサノエート、メンタエリスリトールベラルゴネートなど)、ポリオキシアルキレングリコール、ポリフェニルエーテルなどの含酸素合成油;シリコーン油、パーフルオロアルキルエーテルなどが挙げられる。
【0010】
本発明において用いられる水素化精製鉱油や合成油は、40℃における動粘度は5〜30mm2/sが好ましく、7〜20mm2/sがより好ましい。40℃における動粘度が上記範囲内であることで、好ましい動粘度を有する絶縁油組成物が得られる。引火点は、130〜280℃が好ましく、140〜200℃がより好ましい。流動点は、−27.5℃以下が好ましく、−35.0℃以下がより好ましい。全酸価は0.01mgKOH/g以下が好ましい。
【0011】
本発明において用いられる水素化精製鉱油は、環分析(n−d−M法)における全芳香族分(%CA)は、3〜15%が好ましく、6〜12%がより好ましい。硫黄分は、0.05%以下が好ましく、0.02%以下がより好ましい。
【0012】
本発明においては、前記水素化精製鉱油を一種用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また前記合成油を一種用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。さらには、水素化精製鉱油一種以上と合成油一種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0013】
(B)成分として用いられる溶剤精製鉱油を製造するための原料油としては、特に制限なく使用することができ、例えばパラフィン系原油、ナフテン系原油等が挙げられる。
前記溶剤精製鉱油は、例えば前記原油の常圧蒸留後の残油を減圧蒸留し、得られた減圧留出油を溶剤抽出処理したものが挙げられる。また、前記溶剤抽出処理の他に、脱ろう処理、脱れき処理、水素化仕上げ等の従来公知の精製プロセスを適宜組み合わせて製造してもよい。
ここで、前記水素化仕上げとは、通常、比較的低圧で水添処理が行われ、色相改善等を目的に行われるものであり、前記水素化精製処理とは異なるものである。本発明においては、以下に示すように特定の動粘度を示すような減圧留出油を用いて溶剤精製を行うことで、その留分に含まれる硫黄化合物等を利用して酸化安定性を向上させる。
【0014】
前記溶剤精製鉱油は、40℃における動粘度が5〜100mm2/sである。5mm2/s未満であると、揮発性が高くなりすぎて、安全上問題が生じるおそれがあり、100mm2/sを超えると、電気絶縁油組成物の粘度調製が困難になるという問題や不純物が多く含まれることによって発生する色相、安定性、白土処理量等に関する問題が生じやすくなる。当該観点から、40℃における動粘度はより好ましくは、5〜50mm2/s、特に好ましくは9〜15mm2/sである。
前記溶剤精製鉱油は、硫黄分が0.03〜0.8質量%である。0.03質量%未満または0.8質量%を超えると酸化安定性が低下しやすくなる。当該観点から、硫黄分は好ましくは0.1〜0.7質量%、より好ましくは、0.3〜0.6質量%である。なお、上記のように溶剤精製鉱油は動粘度および精製方法によって限定されたものであり、特定の硫黄化合物が電気絶縁油組成物に含まれることになる。このため、本発明の電気絶縁油組成物は優れた酸化安定性を示す。
【0015】
前記溶剤精製鉱油は、引火点は、130〜280℃が好ましく、140〜220℃がより好ましい。流動点は、−5℃以下が好ましく、−10℃以下がより好ましい。全酸価は0.01mgKOH/g以下が好ましい。
【0016】
本発明においては、溶剤精製鉱油を一種用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明の電気絶縁油組成物における基油は、前記水素化精製鉱油及び/または合成油〔(A)成分〕並びに前記溶剤精製鉱油〔(B)成分〕からなり、(B)成分の配合量は、基油全量基準で0.5〜10質量%である。0.5質量%未満であると、酸化安定性が低下し、10質量%を超えると、流動点が高くなる。当該観点から、配合量はより好ましくは1〜7質量%であり、特に好ましくは2〜4質量%である。
このように、本発明の電気絶縁油組成物は、ブライトストックのような高粘度の油を使用するものではない。このため、低粘度で無色の電気絶縁油組成物が得られ、さらに後述するように白土処理量を低下することができる。
本発明の電気絶縁油組成物における基油の配合量は、組成物全量基準で、通常80〜100質量%、好ましくは、90〜100質量%、特に好ましくは100質量%である。
【0017】
本発明の電気絶縁油組成物は上記成分の他に添加剤を配合してもよい。添加剤としては、フェノール系酸化防止剤、窒素系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤等の酸化防止剤やベンゾトリアゾール等の金属不活化剤、ポリアルキルメタクリレートなどの流動点降下剤が挙げられる。
【0018】
本発明の電気絶縁油組成物は、40℃における動粘度は、5〜15mm2/sであり、好ましくは5.0〜10.0mm2/sである。5mm2/s未満であると、揮発性が高くなり、引火点が低下し、安全上問題が生じる場合がある。15mm2/sを越えると、流動性が低く、装置内で循環しにくくなるので冷却性能に影響を与えることになる。引火点は、通常140℃以上、好ましくは150℃以上である。引火点が140℃以上であることで安全性に優れる。流動点は、通常−27.5℃以下、好ましくは−35℃以下である。流動点が−27.5℃以下であることで低温条件下でも優れた性能を発揮する。JIS C 2101酸化安定性試験(120℃×75時間)におけるスラッジ発生量は、通常0.4%以下、好ましくは0.1%以下である。全酸価は、通常0.6mgKOH/g以下、好ましくは0.3mgKOH/g以下である。なお、本発明の電気絶縁油組成物は、JIS C 2320の絶縁油の品質規格1種に該当することが好ましい。
【0019】
本発明の電気絶縁油組成物を製造する際は、従来公知の方法により白土処理を行ってもよい。白土処理を行うことでさらに優れた特性を有する電気絶縁油組成物が得られる。従来、白土処理を行った後に残る廃白土には多大な処理費用を要すると共に、環境への負荷が大きいという問題があった。本発明の電気絶縁油組成物においては白土処理を行う場合であっても少量で優れた特性を有する電気絶縁油組成物が得られる。
【0020】
白土処理を行う場合は、通常組成物全量基準で、0.6質量%以下の白土を使用すればよく、好ましくは0.2〜0.5質量%である。このような白土処理を行うことでさらに優れた電気絶縁油組成物が得られ、好ましいものとして、例えば、引火点が140℃以上、流動点が−27.5℃以下、JIS C 2101酸化安定性試験(120℃×75時間)におけるスラッジ発生量が0.2質量%以下、全酸価が0.4mgKOH/g以下の電気絶縁油組成物が挙げられる。
【実施例】
【0021】
次に、本発明を実施例により具体的に説明するが、これらの実施例になんら制限されるものではない。
水素化精製鉱油、溶剤精製鉱油として以下の油A〜Eを使用した。
油A:水素化精製パラフィン系鉱油
油B:水素化精製ナフテン系鉱油
油C:溶剤精製パラフィン系鉱油
油D:溶剤精製パラフィン系鉱油
油E:溶剤精製パラフィン系鉱油(ブライトストック)
【0022】
第1表にこれらの油の性状を示す。なお、この性状は以下の測定法により得られたものである。
動粘度(40℃、100℃)、粘度指数:JIS K 2283に準拠して測定した。
密度:JIS K 2249に準拠して測定した。
引火点:JIS K 2265(クリーブランド開放式)に準拠して測定した。
屈折率:JIS K 0062に準拠して測定した。
流動点:JIS K 2269に準拠して測定した。
酸価:JIS K 2501に準拠して測定した。
硫黄分:JIS K2541に準拠して測定した。
環分析:ASTM D−3238 環分析(n−d−M法)により測定した。
【0023】
【表1】

【0024】
上記の油を使用して、第2表−1、第2表−2に示す配合により絶縁油組成物を調製し、以下の試験を行った。試験結果を第3表に示す。
【0025】
動粘度(40℃、100℃):JIS K 2283に準拠して測定した。
引火点:JIS K 2265(クリーブランド開放式)に準拠して測定した。
流動点:JIS K 2269に準拠して測定した。
酸価:JIS K 2501に準拠して測定した。
色相:JIS K 2580(セイボルト)およびASTMD−1500(ASTM)に準拠して測定した。
電気特性:JIS C 2101に準拠して測定した。
酸化安定性:JIS C 2101に準拠し、120℃で75時間後のスラッジ量(質量%)と全酸価(mgKOH/g)を測定した。
【0026】
【表2】

【0027】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明によれば、適正な粘度を有し、外観着色が低減化され、酸化安定性、電気特性に優れ、製造時の白土処理量を低減化できる電気絶縁油組成物が得られる。この電気絶縁油組成物は、長期間使用してもスラッジの発生が少なく、さらに劣化確認が容易であり、実用性能に優れる。また、上記のように本発明の電気絶縁油組成物はその製造時の精製段階において白土処理量を低減化でき環境負荷が小さい電気絶縁油組成物である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)水素化精製鉱油及び/または合成油並びに(B)溶剤精製鉱油からなる基油を含有する、40℃における動粘度が5〜15mm2/sの電気絶縁油組成物であって、
前記(B)溶剤精製鉱油が、40℃における動粘度が5〜100mm2/s、硫黄分が0.03〜0.8質量%であって、(B)成分の配合量が基油全量基準で0.5〜10質量%である電気絶縁油組成物。
【請求項2】
引火点が140℃以上、流動点が−27.5℃以下、JIS C 2101酸化安定性試験(120℃×75時間)におけるスラッジ発生量が0.4質量%以下、全酸価が0.6mgKOH/g以下であり、JIS C 2320の絶縁油の品質規格1種に該当する、請求項1に記載の電気絶縁油組成物。
【請求項3】
組成物全量基準で0.6質量%以下の白土を用いて白土処理された電気絶縁油組成物であって、引火点が140℃以上、流動点が−27.5℃以下、JIS C 2101酸化安定性試験(120℃×75時間)におけるスラッジ発生量が0.2質量%以下、全酸価が0.4mgKOH/g以下であり、JIS C 2320の絶縁油の品質規格1種に該当する、請求項1に記載の電気絶縁油組成物。

【公開番号】特開2010−251072(P2010−251072A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−98336(P2009−98336)
【出願日】平成21年4月14日(2009.4.14)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】