説明

電気絶縁用二軸配向ポリエステルフィルム

【課題】少量の共重合成分であってもデラミネーションやオリゴマーの抑制効果が高く、しかもポリエステル本来の高い機械的強度が維持され、特に使用温度が高くてもオリゴマーの表面析出が抑制された、電気絶縁用途に適した二軸配向ポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】ジオール成分の共重合成分として下記一般式(1)で示されるジヒドロキシ化合物


(R1は炭素数2から4のアルキレン基、R2、R3、R4、及びR5は水素または炭素数1から4のアルキル基、アリール基、アラルキル基であり、それぞれ同じであっても異なっていてもよい)
を全酸成分を基準として0.5〜10.0モル%含有する芳香族ポリエステルからなる電気絶縁用二軸配向ポリエステルフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気絶縁用途に適した二軸配向ポリエステルフィルムに関する。更に詳しくは、機械的強度、耐デラミネーション性に優れ、しかも高温での析出オリゴマー量の少ない電気絶縁用二軸配向ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルム、特にポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレンジカルボキシレートからなる二軸配向フィルムは、優れた機械的性質、耐熱性、耐薬品性などを有するため、磁気テープ、強磁性薄膜テープ、写真フィルム、包装用フィルム、電子部品用フィルム、電気絶縁フィルム、金属ラミネート用フィルム及び保護用フィルム等の素材として広く用いられている。電気絶縁材料としては、ポリエチレンテレフタレートフィルムが主として用いられてきたが、近年の性能向上に伴う電気機器の発熱量の増加により、耐熱性の高いポリエチレンナフタレンジカルボキシレートフィルム(特許文献1)や、フィルムの一部分にポリエチレンナフタレンジカルボキシレートが用いられたポリエステルフィルムも用いられるようになってきた(特許文献2)。
【0003】
モーター部材であるスロットやウエッジなどの電気絶縁用ポリエステルフィルムに求められる特性として、1)高温度に長時間さらされても機械特性が劣化して脆くなったり、絶縁破壊特性が低下しないこと、2)ウエッジやスロットにフィルムを曲げて挿入する際、あるいは挿入後、折り曲げた状態でフィルムが使用されてもデラミネーション(層間剥離)が生じないこと、3)フィルム表面及びフィルム中に存在する、モーター汚染の原因となる低分子量物(オリゴマー)が少ないことが挙げられる。ここでデラミネーション(層間剥離)とは、分子のスタッキング(積み重ね構造)が芳香族環の平面間で剥離することをいう。
【0004】
デラミネーションを抑制する方法の一例として、スロットやウェッジなどのモーター用部材に加工する時の加工温度を調整する方法(特許文献3)、フィルムの水分率を調整する方法(特許文献4)が開示されている。
【0005】
また、オリゴマーの表面析出を抑制する方法の一例として、分子配向を高くしてフィルム内からオリゴマーが表面に移行する速度を遅くする方法が知られている。しかしながらオリゴマー抑制の点からは分子配向が高い方が有効である反面、フィルムがデラミネーションを起こし易くなるという問題が生じる。また、デラミネーションを起こりにくくするために分子配向を小さくすると、オリゴマーの析出量が増大する傾向にあり、また熱劣化しやすくなる。
【0006】
そこで、デラミネーションおよびオリゴマーの表面析出の双方を抑制させる手法として、4,4’−ジフェニルジカルボン酸を共重合成分として用い、結晶融解熱を特定範囲にコントロールして適度な分子配向を持たせることにより、デラミネーションを抑制し、オリゴマーのフィルム表面析出速度を遅くさせることが特許文献5に開示されており、また特許文献6には共重合成分としてイソフタル酸を用い、結晶融解熱や面配向係数などをコントロールするが開示されている。しかしながら、イソフタル酸を共重合成分として用いた場合は密度を調整して熱劣化にも配慮する必要があり、また使用環境が高温の場合にオリゴマーの表面析出を抑えられないことがあった。また4,4’−ジフェニルジカルボン酸を共重合成分として用いた場合、ごく少量の共重合量ではデラミネーションやオリゴマーの抑制効果が得られにくいことがあった。そのため、少量の共重合成分であってもデラミネーションやオリゴマーの抑制効果が高く、しかもポリエステル本来の高い機械的強度が維持され、特に高温で使用する際、オリゴマーの表面析出が抑制された、電気絶縁用途に適したポリエステルフィルムが望まれている。
【0007】
【特許文献1】特開平01−232020号公報
【特許文献2】特開2002−273844号公報
【特許文献3】特開平06−335960号公報
【特許文献4】特開2002−219745号公報
【特許文献5】特開06−25441号公報
【特許文献6】特開2001−76536号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、かかる従来技術の課題を解消し、少量の共重合成分であってもデラミネーションやオリゴマーの抑制効果が高く、しかもポリエステル本来の高い機械的強度が維持され、特に使用温度が高くてもオリゴマーの表面析出が抑制された、電気絶縁用途に適した二軸配向ポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、芳香族ポリエステルの共重合成分として特定のフルオレン化合物を少量用いた場合に、機械的強度の低下が少ないと同時にフルオレン骨格面がフィルム厚み方向に配列するためにデラミネーション(層間剥離)を生じにくくさせる効果が発現し、しかも芳香族ポリエステルのガラス転移点が高くなる結果、高温領域でもオリゴマーのフィルム内部からフィルム表面への拡散速度が遅くなり、使用温度が高くても表面析出するオリゴマー量を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明によれば、本発明の目的は、ジオール成分の共重合成分として下記一般式(1)で示されるジヒドロキシ化合物
【化1】

(R1は炭素数2から4のアルキレン基、R2、R3、R4、及びR5は水素または炭素数1から4のアルキル基、アリール基、アラルキル基であり、それぞれ同じであっても異なっていてもよい)
を全酸成分を基準として0.5〜10.0モル%含有する芳香族ポリエステルからなる電気絶縁用二軸配向ポリエステルフィルムによって達成される。
【0011】
また、本発明の電気絶縁用二軸配向ポリエステルフィルムは、その好ましい態様として、芳香族ポリエステルの主たる成分がポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレンナフタレンジカルボキシレートであること、一般式(1)で示されるジヒドロキシ化合物が、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンであること、耐デラミネーション性がフィルム乾燥後において10%以下であること、180℃、10分熱処理によってフィルム表面に析出する長径0.1μm以上の析出オリゴマー数が0.0034mm2あたり30個以下であること、の少なくともいずれか一つを具備するものも包含する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ポリエステル本来の機械的強度を維持しながら耐デラミネーション性及び高温での析出オリゴマー特性に優れる電気絶縁用途に適した二軸配向ポリエステルフィルムを提供することができ、その工業的価値は極めて高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳しく説明する。
<芳香族ポリエステル>
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムを構成する芳香族ポリエステルは、芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体とから合成される飽和ポリエステルであり、ジオール成分における共重合成分として下記一般式(1)で示されるジヒドロキシ化合物
【化2】

(R1は炭素数2から4のアルキレン基、R2、R3、R4、及びR5は水素または炭素数1から4のアルキル基、アリール基、アラルキル基であり、それぞれ同じであっても異なっていてもよい)
を全酸成分を基準として0.5〜10.0モル%含有することが必要である。
【0014】
芳香族ポリエステルを形成する芳香族ジカルボン酸成分としては、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸が例示され、ジオール成分として、例えばエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,6−ヘキサンジオールが例示される。本発明の芳香族ポリエステルは、主成分として具体的にポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ(1,4−シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレート、ポリトリメチレンナフタレンジカルボキシレートが例示され、特に機械特性の点からポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートが好ましく、さらに耐熱性の点でポリエチレンナフタレンジカルボキシレートが好ましい。ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートは、ジカルボン酸成分としてナフタレンジカルボン酸が用いられ、ジオール成分としてエチレングリコールが用いられる。ナフタレンジカルボン酸は、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸を挙げることができ、これらの中で2,6−ナフタレンジカルボン酸が好ましい。
なお本発明における「主成分」とは、芳香族ポリエステルを構成する全繰返し単位の少なくとも90モル%、好ましくは少なくとも95モル%を意味し、また上限として高々99.5モル%を意味する。
【0015】
本発明は、芳香族ポリエステルの共重合成分として特定のフルオレン化合物を少量用いた場合に、フルオレン骨格面がフィルム厚み方向に配列するためにデラミネーション(層間剥離)を生じにくくさせ、またフィルムのガラス転移点が高くなる結果、オリゴマーのフィルム内部からフィルム表面への拡散を遅くさせることから製膜条件を特にコントロールしなくても抽出されるオリゴマー量を抑制できる点に特徴があり、かかる共重合成分として以下の化合物を用いることが必要である。
【0016】
該共重合成分として、下記一般式(1)で示されるジヒドロキシ化合物(以下、BHF成分と称することがある)
【化3】

(R1は炭素数2から4のアルキレン基、R2、R3、R4、及びR5は水素または炭素数1から4のアルキル基、アリール基、アラルキル基であり、それぞれ同じであっても異なっていてもよい)
が挙げられ、例えば、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−エチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジエチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−プロピルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジプロピルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソプロピルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジイソプロピルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−n−ブチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジ−n−ブチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソブチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジイソブチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−(1−メチルプロピル)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ビス(1−メチルプロピル)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジフェニルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−ベンジルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジベンジルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(3−ヒドロキシプロポキシ)フェニル]フルオレン9,9−ビス[4−(4−ヒドロキシブトキシ)フェニル]フルオレンが挙げられ、これらは単独または2種類以上を組み合わせて使用しても良い。これらの中でも9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンが、耐デラミネーション性及びオリゴマー特性の面から好ましい他、溶融重合時の反応性の高さや成形性の点でも好ましい。
9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンは、例えば、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンにエチレンオキサイドを付加して得られる。
【0017】
上述のBHF成分の含有量は、芳香族ポリエステルの全酸成分を基準として0.5〜10.0モル%である。またBHF成分の含有量は、機械的強度、耐デラミネーション性、オリゴマー特性のそれぞれのバランスが優れている点で、0.5〜5.0モル%の範囲であることが好ましい。BHF成分の含有量が上限を超える場合、フィルムの機械的強度が低下する。特にBHF成分が20モル%以上ではフィルム製膜時に破断が生じることがある。一方、BHF成分の含有量が下限に満たない場合、電気絶縁用途に適した十分な耐デラミネーション性やオリゴマー特性の改良効果が得られない。
【0018】
本発明の芳香族ポリエステルは、従来から知られている方法、例えばジカルボン酸とジオールの反応で直接低重合度ポリエステルを得る方法、またはジカルボン酸の低級アルキルエステルとジオールとをエステル交換法によって製造することができる。例えば、所定の割合の2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン及びエチレングリコールとをエステル交換反応させた後に、重合触媒の存在下で重合反応を行う方法で得ることができる。
【0019】
エステル交換触媒としては、例えばナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、ストロンチウム、チタン、ジルコニウム、マンガン、コバルトを含む化合物の1種または2種以上を用いることができる。また重合触媒としては、三酸化アンチモン、五酸化アンチモンのようなアンチモン化合物、二酸化ゲルマニウムで代表されるようなゲルマニウム化合物、テトラエチルチタネート、テトラプロピルチタネート、テトラフェニルチタネートまたはこれらの部分加水分解物、蓚酸チタニルアンモニウム、蓚酸チタニルカリウム、チタントリスアセチルアセトネートのようなチタン化合物を用いることができる。
エステル交換反応を経由して重合を行う場合は、重合反応前にエステル交換触媒を失活させる目的でトリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリ−n−ブチルホスフェート、正リン酸等のリン化合物を添加することができる。
本発明の芳香族ポリエステルは、溶融重合後これをチップ化し、加熱減圧下または窒素などの不活性気流中において更に固相重合を施してもよい。
【0020】
芳香族ポリエステルの固有粘度は0.50dl/g〜0.90dl/gであることが好ましい。芳香族ポリエステルの固有粘度は、下限が0.52dl/g以上であることがより好ましく、0.53dl/g以上であることが特に好ましい。また芳香族ポリエステルの固有粘度の上限は、より好ましくは0.85dl/g以下、特に好ましくは0.80dl/g以下である。固有粘度が下限に満たない場合、溶融押出後のフィルムが脆くなり、フィルム製膜工程において切断が多発することがある。また固有粘度が上限を超える場合、溶融粘度が高いため溶融押出が困難であり、また重合時間が長く不経済である。
【0021】
また二軸配向フィルムに製膜した後の固有粘度は0.45〜0.80dl/gであることが好ましく、下限はより好ましくは0.47dl/g以上、特に好ましくは0.50dl/g以上であり、上限はより好ましくは0.75dl/g以下、特に好ましくは0.70dl/g以下である。なお、固有粘度はo−クロロフェノールを溶媒として用いて、35℃で測定した値である。
【0022】
<他添加剤>
本発明の二軸配向ポリステルフィルムは、フィルム製造時及び電気絶縁用途への加工工程における滑り性、巻取り性を付与する目的で、芳香族ポリエステル以外に、発明の効果を損なわない範囲で不活性粒子を含有しても良い。不活性粒子として、例えば、炭酸カルシウム、シリカ、タルク、クレーなどの無機粒子、架橋シリコーン樹脂、架橋ポリスチレン、架橋アクリル樹脂粒子等のごとき耐熱性の高いポリマーよりなる微粒子、硫酸バリウム、酸化チタンなどの顔料を挙げることができる。不活性粒子を含有させる場合、不活性粒子の平均粒径は、0.01〜5μmの範囲が好ましく、フィルム全重量に対して0.01〜5重量%、より好ましくは0.01〜1重量%の範囲で含有されることが好ましい。
また本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、必要に応じてごく少量の紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、光安定剤、熱安定剤を含んでいてもよく、また易接着性、滑り性、帯電防止性、離型性などのフィルム表面特性向上のためにコーティング層を設けることができる。
【0023】
<耐デラミネーション性>
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、フィルム乾燥後の耐デラミネーション性が10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましい。フィルム乾燥後の耐デラミネーション性は、かかる範囲内であればより小さいことが好ましく、下限は0%以上である。ここで、フィルム乾燥後の耐デラミネーション性とは、特にポリエチレンナフタレンジカルボキシレートフィルムは、空気の乾燥する冬季にデラミネーションが発生し易いことから、次に述べる方法に従ってフィルムを乾燥し、耐デラミネーション性を評価したものである。
すなわち、本発明におけるフィルム乾燥後の耐デラミネーション性は、デラミテスターとして(株)小田原エンジニアリング製モータ加工機のウェッジ加工部分を使用し、フィルムを105度に設定したオーブン中で5時間乾燥させてから、加工速度2個/秒の速度で200個ウェッジの加工を行い、加工後のウェッジの折り目におけるデラミ発生数をカウントして、下記式よりデラミネーション発生率(%)を求めたものである。一つのウェッジのサイズは、12mm×80mm(フィルム長手方向が80mm)である。
デラミネーション発生率(%)=[(デラミ発生ウェッジ個数)/200]×100
かかる耐デラミネーション特性は、芳香族ポリエステルの共重合成分としてBHF成分を用いることによってデラミネーション(層間剥離)が生じにくくなる。耐デラミネーション性が上限を超える場合、ウエッジ加工時にフィルム面に平行に層状剥離が発生し、本来のフィルム厚みを保てない製品の発生が多発することがある。
【0024】
<析出オリゴマー数>
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、180℃、10分熱処理によってフィルム表面に析出する長径0.1μm以上の析出オリゴマー数が0.0034mm2あたり30個以下であることが好ましく、20個以下であることがより好ましい。本発明における抽出オリゴマー数とは、フィルムを180℃の温度雰囲気下で10分間熱処理を行い、日立製作所株式会社製の電界放出形走査電子顕微鏡(FE−SEM)(型番S−4700)を用いて1万倍の倍率でフィルム表面を観察し、0.0034mm2の測定面積において観察される長径0.1μm以上の析出オリゴマー数を指す。析出オリゴマーは楕円または円形状であり、円形の場合は長径を直径と読み替えることができる。
析出オリゴマー数が上限を超える場合、モーター汚染が生じることがある。一方、析出オリゴマー数はより少ない方が好ましく、下限は0個である。かかる析出オリゴマー数は、芳香族ポリエステルの共重合成分としてBHF成分を用いることによって芳香族ポリエステルのガラス転移点が高くなる結果、使用温度が高い電気絶縁用途に用いた場合にオリゴマーのフィルム内部からフィルム表面への拡散速度が遅くなり抑制されるものである。
【0025】
<製膜方法>
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、基本的には公知の、或は従来から用いられている製膜方法で製造することができる。例えば、ポリエステル樹脂のチップを十分に乾燥させた後、融点(Tm)〜(Tm+70)℃の温度で溶融押出し、キャスティンクドラム上で急冷して未延伸フィルムとし、次いで該未延伸フィルムを逐次または同時二軸延伸し、熱固定する方法で製造することができる。二軸延伸は逐次二軸延伸が好ましく、延伸倍率は2.5〜5.5倍、より好ましくは2.5〜4.0倍、延伸温度は(Tg−10)〜(Tg+60)℃の範囲が好ましい。熱固定は(Tg+60)〜(Tm−10)℃の範囲で緊張下又は制限収縮下で熱固定するのが好ましい。また同時二軸延伸の場合、上記の延伸温度、延伸倍率、熱固定温度等を適用することができる。特に延伸倍率を2.5〜4.0倍の範囲内で行うことによって本発明の範囲の耐デラミネーション性を得ることができる。
【0026】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムの厚みは特に限定されないが、0.5〜400μmの範囲、さらに好ましくは25〜380μm、特に好ましい範囲は150〜350μmである。また、該二軸配向ポリエステルフィルムは単層フィルムであっても、積層フィルムであってもよい。
【0027】
本発明によれば、本発明の上記二軸配向ポリエステルフィルムは電気絶縁用フィルムなどに好適に使用され、特に冬場のような乾燥しやすい時期であってもモータのウエッジやスロットのようなフィルムを折り曲げて使用する用途にかかる電気絶縁フィルムを挿入する際にデラミネーションが発生しにくく、また発熱量の多い電子機器のような使用温度が高い電子機器の電気絶縁用フィルムとして用いた場合に抽出されるオリゴマーが少なく、モーター汚染が生じにくいという特徴を有する。
【実施例】
【0028】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、各特性値は以下の方法で測定した。また、実施例中の部および%は、特に断らない限り、それぞれ重量部および重量%を意味する。
(1)共重合成分の共重合量
フィルムサンプルを重水素化トリフルオロ酢酸に溶解し、1H−NMRにより定量した。
(2)固有粘度
o−クロロフェノールを溶媒として用い、35℃で測定した。
(3)耐デラミネーション性(デラミテスター法)
(株)小田原エンジニアリング製モータ加工機のウェッジ加工部分をデラミテスターとして使用した。フィルムサンプルを105度に設定したオーブン中にて5時間乾燥させた後にウェッジの加工を実施した。一つのウェッジのサイズは、12mm×80mm(フィルム長手方向が80mm)であり、加工速度2個/秒の速度で200個加工した。加工後のウェッジの折り目でのデラミ発生数をカウントし、下記式よりデラミネーション発生率(%)を求めた。
デラミネーション発生率(%)=[(デラミ発生ウェッジ個数)/200]×100
(4) 析出オリゴマー量
30mm×30mmのフィルムサンプルをガラス板に載せ、ガラス板ごとステンレスのケースに入れてオーブン内に静置して180℃の温度雰囲気下で10分間熱処理を行い、自然冷却した。その後、日立製作所株式会社製の電界放出形走査電子顕微鏡(FE−SEM)(型番S−4700)を用いて1万倍の倍率でフィルム表面を観察し、0.0034mm2の測定面積において観察される長径0.1μm以上の析出オリゴマー数を測定した。析出オリゴマーは楕円または円形状であり、円形の場合は長径を直径と読み替えることができる。
【0029】
[実施例1]
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル100部、エチレングリコール96.3部および9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン3.6部に、エステル交換触媒として酢酸マンガン四水塩0.03部を使用し、滑剤として平均粒径0.3μmの球状シリカ微粒子を組成物の重量を基準として0.1重量%含有するように添加して、常法に従ってエステル交換反応をさせた後、トリエチルホスホノアセテート0.042部を添加し、実質的にエステル交換反応を終了させた。ついで、三酸化アンチモン0.024部を添加し、引き続き高温、高真空化で常法にて重合反応を行い、固有粘度0.60dl/gのポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート(PEN)共重合体を得た。
このPEN共重合体を175℃で5時間乾燥させた後、押出機に供給し、溶融温度300℃で溶融し、ダイスリットより押出し後、表面温度55℃に設定したキャスティングドラム上で冷却固化させて未延伸フィルムを作成した。
この未延伸フィルムを140℃で連続製膜方向(縦方向)に3.0倍延伸する。その後、140℃で幅方向(横方向)に2.8倍に逐次に二軸延伸し、さらに245℃で10秒間熱固定処理し、厚み250μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られた二軸配向ポリエステルフィルムの評価結果を表1に示す。本フィルムは耐デラミネーション性、機械強度に優れ、しかも析出オリゴマーが少ないため、電気絶縁用フィルムとして非常に優れていた。
【0030】
[実施例2〜5]
9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンの共重合量を表1に記載した通りに変更したこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0031】
[比較例1]
9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンを添加しなかったこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。表1に示した評価結果の通り、電気絶縁用フィルムとして必要な耐デラミネーション性が悪かった。そのためフィルム加工の際にデラミネーションが発生することにより加工生産性が低下した。
【0032】
[比較例2]
9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンの共重合量を表1に記載した通りに変更したこと以外は実施例1と同様の操作を行った。製膜時にフィルムの破断が多発し、二軸配向フィルムを得ることができなかった。
【0033】
[実施例6、比較例3]
テレフタル酸ジメチル100部、エチレングリコール60部、表1の共重合量の9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンに、エステル交換触媒として酢酸マンガン四水塩0.03部を使用し、滑剤として平均粒径0.3μmの球状シリカ微粒子を組成物の重量を基準として0.1重量%含有するように添加して、常法に従ってエステル交換反応をさせた後、トリエチルホスホノアセテート0.042部を添加し、実質的にエステル交換反応を終了させた。ついで、三酸化アンチモン0.024部を添加し、引き続き高温、高真空化で常法にて重合反応を行い、固有粘度0.60dl/gのポリエチレンテレフタレート(PET)共重合体を得た。
このPET共重合体を170℃で3時間乾燥させた後、押出機に供給し、溶融温度280℃で溶融し、ダイスリットより押出し後、表面温度25℃に設定したキャスティングドラム上で冷却固化させて未延伸フィルムを作成した。
この未延伸フィルムを95℃で連続製膜方向に3.0倍延伸する。その後、120℃で幅方向に2.8倍に逐次に二軸延伸し、さらに230℃で10秒間熱固定処理し、厚み250μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られた二軸配向ポリエステルフィルムの評価結果を表1に示す。本実施例のフィルムは比較例3のフィルムに対し、耐デラミネーション性に優れ、かつ析出オリゴマーが少なく、また機械強度も高いことから電気絶縁用フィルムとして優れていた。
【0034】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明における二軸配向ポリエステルフィルムは、機械的強度が維持され、耐デラミネーション性に優れ、かつ使用温度が高くてもオリゴマーの表面析出が少ないことから、電気絶縁用フィルムとしてモーター部材であるスロットやウエッジに好適に使用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジオール成分の共重合成分として下記一般式(1)で示されるジヒドロキシ化合物
【化1】

(R1は炭素数2から4のアルキレン基、R2、R3、R4、及びR5は水素または炭素数1から4のアルキル基、アリール基、アラルキル基であり、それぞれ同じであっても異なっていてもよい)
を全酸成分を基準として0.5〜10.0モル%含有する芳香族ポリエステルからなることを特徴とする電気絶縁用二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項2】
芳香族ポリエステルの主成分がポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレンナフタレンジカルボキシレートである請求項1に記載の電気絶縁用二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項3】
一般式(1)で示されるジヒドロキシ化合物が、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンである請求項1または2に記載の電気絶縁用二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項4】
耐デラミネーション性がフィルム乾燥後において10%以下である請求項1〜3のいずれかに記載の電気絶縁用二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項5】
180℃、10分熱処理によってフィルム表面に析出する長径0.1μm以上の析出オリゴマー数が0.0034mm2あたり30個以下である請求項1〜4のいずれかに記載の電気絶縁用二軸配向ポリエステルフィルム。

【公開番号】特開2007−314717(P2007−314717A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−148114(P2006−148114)
【出願日】平成18年5月29日(2006.5.29)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】