説明

電気脱塩装置の運転方法及び電気脱塩装置

【課題】電気脱塩装置を停止しても濃縮室に残存する高濃度のイオンが処理室に拡散逆流することがなく、処理液の液質の低下することのない電気脱塩装置の運転方法を提供する。
【解決手段】陰極と陽極との間にカチオン交換膜12とバイポーラ膜11によって区画された処理室13と濃縮室14とを有する。この濃縮室14にカチオン交換樹脂16が充填されていて、クエン酸ナトリウム水溶液を処理室13入口から導入して処理室13出口より流出するとともに、純水を濃縮室14入口から導入するとともに濃縮室14出口から流出させる。そして、電気透析装置による被処理液の処理の停止後に濃縮室14に純水を流通することによりカチオン交換樹脂16の再生運転を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、めっき液添加剤からカチオンを選択的に除去する等、被処理液からアニオン又はカチオンを除去する電気脱塩装置の運転方法に関する。また、本発明は、被処理液からアニオン又はカチオンを除去する電気脱塩装置に関する。
【背景技術】
【0002】
硫酸銅めっき浴は、硫酸銅及び硫酸を基本的な原材料とし、そこに還元剤、錯化剤、緩衝剤、光沢剤、平滑剤等の種々の添加剤を加えることにより装飾めっきやプリント配線板の配線形成を行っている。また、これらの添加剤の他に塩化物イオンも必要とする場合がある。これらをそれぞれ適量添加することで所望とする光沢性、平滑性、物性を備えためっき被膜を形成することができる。
【0003】
上記添加剤の代表的なものとしては、ビス(3−スルホプロピル)ジスルフィド2ナトリウム等のスルホン酸ナトリウム基(−SONa)を有するスルホン酸塩や、還元剤として次亜リン酸ナトリウム及び水素化ホウ素ナトリウム、錯化剤としてクエン酸塩、酒石酸塩及び乳酸塩、pH調整剤として酢酸塩、プロピオン酸塩、アンモニウム塩等、種々の強電解質の塩類がめっき浴には添加される。
【0004】
これらめっき浴の添加剤は、その形状安定性や運搬のしやすさからナトリウムやカリウムの塩化合物が用いられる場合が多いが、これらの添加剤における有効成分は対イオンである酸であるため、ナトリウムやカリウムは必要ではない。このため、対イオンのアニオンは有効成分として消費される一方、ナトリウムイオンやカリウムイオン等のカチオンは次第に蓄積されることになる。このようにしてめっき浴中に不要なカチオンが蓄積されると、めっき浴のバランスが崩れ、めっきのふくれ、はがれ等の外観不良が生じる。このため、他の薬剤の添加等による運転管理手法でめっき浴を制御できなくなると、排水として廃棄している。
【0005】
しかしながら、このめっき浴排水は、前述したカチオンだけでなく、酸、塩基等を多量に含んでいるので、排水としては環境負荷が非常に大きく、その環境負荷の低減が望まれている。そこで、めっき液添加剤からナトリウムやカリウム等の不要なカチオン成分をあらかじめ除去し、めっき浴に蓄積されるカチオンを少なくすることが種々検討されている。
【0006】
例えば、めっき液添加剤水溶液をカチオン交換樹脂で処理することにより、カチオンを選択的に除去することが考えられるが、カチオン交換樹脂は、そのイオン交換容量によって除去できるカチオンの量が決まっており、所定量のカチオンを除去すると破過してしまう。そのため、ある程度カチオンを吸着したらカチオン交換樹脂カラムを交換して樹脂を再生する必要があるが、めっき液添加剤水溶液はカチオン濃度が非常に高いので、短期間にカチオン交換樹脂カラムの交換が必要となり、非常に手間とコストがかかるという問題点がある。
【0007】
また、電気透析装置を用いることで、連続的にカチオンを除去しためっき液添加剤水溶液を得ることが考えられる。しかしながら、めっき液添加剤は強電解質であるので、これを電気脱塩装置で除去するためには印加する電流密度を上げる必要があり、そうすると水素イオンも移動してしまうため、本来移動させたいカチオンの移動が妨げられ、カチオン濃度を一定以下にすることができないという問題点がある。
【0008】
さらに、電極(陽極及び陰極)の間に複数のアニオン交換膜とカチオン交換膜とを交互に配列して脱塩室と濃縮室とを交互に形成し、脱塩室にイオン交換樹脂を充填した電気脱イオン装置を用いることが考えられる。しかしながら、この手法ではアニオンとカチオンとの両方をそれぞれのイオン交換膜を透過させることで分離する必要があるが、分子量が200を超えるような対イオンである酸は透過しにくく、酸やアルカリの収率が悪くなるという問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このようなめっき液添加剤のカチオンを除去することを目的として、本出願人は、陰極と陽極との間にカチオン交換膜とバイポーラ膜とで区画された脱塩室(処理室)と濃縮室とを有する電気透析装置と、前記電気透析装置の脱塩室に連通した被処理液の流路と、前記電気透析装置の濃縮室に連通したカチオン回収機構とを備えるめっき液添加剤のカチオン除去装置について先に提案した(特願2007−050559号)。
【0010】
この電気透析装置により、めっき液添加剤からカチオンを選択的に除去することが可能となったが、この電気透析装置では、濃縮室は区画されているものの濃縮室内のカチオン濃度が高いので、当該装置の運転を停止した場合には、逆拡散によりカチオンが濃縮室から脱塩室(処理室)へと戻り、運転再開後の処理液の液質を悪化させるおそれがあることがわかった。
【0011】
このような問題は、食品・医薬分野等の各種塩溶液からアルカリ又は酸を選択的に除去する場合にも生じる問題である。
【0012】
本発明は、上記課題を解決して、電気脱塩装置を停止しても濃縮室に残存する高濃度のイオンが処理室に拡散逆流することがなく、処理液の液質が低下することのない電気脱塩装置の運転方法を提供することを目的とする。また、本発明は、被処理液が高濃度イオン溶液である場合に上記運転方法を好適に行うことの可能な電気脱塩装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、第1に本発明は、陰極と陽極との間にカチオン交換膜及び/又はアニオン交換膜とバイポーラ膜とによって区画された処理室と濃縮室とを有し、前記濃縮室にイオン交換体が充填されていて、被処理液を前記処理室入口から導入して処理液を前記処理室出口より流出させるとともに、前記濃縮室入口からイオン回収水を導入するとともに前記濃縮室出口から流出させる電気脱塩装置の運転方法であって、前記電気脱塩装置による被処理液の処理の停止後に前記イオン交換体の再生運転を行うことを特徴とする電気脱塩装置の運転方法を提供する(請求項1)。
【0014】
ここで、本明細書におけるバイポーラ膜とは、カチオン交換膜とアニオン交換膜とが貼り合わさった構造を有する複合膜の一種である。このバイポーラ膜は、水の電気分解に用いる隔膜として、又は酸とアルカリとの中和生成物である塩の水溶液から酸とアルカリとを再生する際の分離膜等として従来から広く使用されている公知のイオン交換膜であり、種々の製造方法が提案されている。
【0015】
本発明においては、このようなバイポーラ膜を電気脱塩装置の陰極側にカチオン交換層面が位置し、陽極側にアニオン交換層面が位置するように濃縮室内に設置する。このようなバイポーラ膜内では、理論水電解電圧(0.83V)以上の電圧を印加することによって、水解離が発生するので電流が流れる。
【0016】
上記発明(請求項1)によれば、電気脱塩装置の処理室にめっき液添加剤等の有機酸塩や無機酸塩の水溶液を供給することにより、被処理液中のナトリウムイオンやカリウムイオン等のカチオンがカチオン交換膜から排出されるか、又はスルホン酸イオンやクエン酸イオン等の有機酸、無機酸又は炭酸イオン等のアニオンがアニオン交換膜から排出されることで除去される。また、これら除去対象のイオンの対イオンであるアニオン又はカチオンはバイポーラ膜により透過せず、そのまま残存することになる。このようにして、被処理液からカチオン又はアニオンを選択的に除去することができる。しかも、バイポーラ膜内では水の解離が起こるため処理室内には水素イオン、又は水酸化物イオンが補充され、イオンバランスも保たれることになる。一方、濃縮室には、処理室中のカチオン又はアニオンが濃縮されることになる。したがって、電気脱塩装置の運転を停止した時点では、濃縮室は除去対象となるカチオン又はアニオン濃度が高いので、濃縮室から処理室へのこれらイオンの逆拡散が起こることで、運転再開時には処理室内における除去対象となるカチオン又はアニオン濃度が高くなり、このことが処理液の液質の低下の原因となっていた。そこで、本発明においては、前記電気透析装置による被処理液の処理の停止後、濃縮室のイオン交換体の再生運転を行い、濃縮室内の残留イオン濃度を低下させ、濃縮室から処理室へイオンの逆拡散を抑制することで処理室内をイオン的に清浄に保つことができる。これにより運転再開時の処理液の液質の低下を防止することが可能となる。
【0017】
上記発明(請求項1)においては、前記電気脱塩装置における前記イオン交換体の再生運転方法が、前記被処理液の処理の停止後に、前記濃縮室に前記イオン回収水を流通する方法であるのが好ましい(請求項2)。
【0018】
上記発明(請求項2)によれば、被処理液の処理を停止した後に濃縮室にイオン回収水を流通しながら、処理時と同じように電流をかけて一定時間保持することで、濃縮室のイオン交換体が再生され濃縮室内の残留イオン濃度が低下するので、濃縮室から処理室へイオンの逆拡散を抑制し、処理室内をイオン的に清浄に保つことができる。
【0019】
上記発明(請求項2)においては、前記イオン回収水を1〜3時間流通するのが好ましい(請求項3)。かかる発明(請求項3)によれば、濃縮室のイオン交換体を十分に再生して濃縮室内の残留イオン濃度が大幅に低下するので、濃縮室から処理室へイオンの逆拡散が防止され、処理室内をイオン的に清浄に保つことができる。
【0020】
また、上記発明(請求項1〜3)においては、前記電気脱塩装置における前記イオン交換体の再生運転方法が、前記電気脱塩装置による被処理液の処理の停止後に、当該電気脱塩装置に微弱な電流を流し続ける方法であるのが好ましい(請求項4)。
【0021】
上記発明(請求項4)によれば、被処理液の処理を停止した後に電気脱塩装置により微弱な電流を印加することで、濃縮室のイオン交換体が再生され濃縮室内の残留イオン濃度が低下するので、濃縮室から処理室へのイオンの逆拡散を抑制し、処理室内をイオン的に清浄に保つことができる。
【0022】
さらに第2に本発明は、陰極と陽極との間にカチオン交換膜又はアニオン交換膜とバイポーラ膜とによって区画された処理室と濃縮室とを有し、前記濃縮室にイオン交換体が充填されているとともに、前記処理室に被処理液の流通を妨げないスペーサーが配置されていることを特徴とする電気脱塩装置を提供する(請求項5)。
【0023】
上記発明(請求項5)によれば、電気脱塩装置の処理室に有機酸塩又は無機酸塩の水溶液からなるめっき液添加剤等の被処理液を供給することにより、被処理液中のナトリウムイオンやカリウムイオン等のカチオンがカチオン交換膜から排出されるか、又はスルホン酸イオンやクエン酸イオン等の有機酸、無機酸又は炭酸イオン等のアニオンがアニオン交換膜から排出されることで除去される。また、これら除去対象のイオンの対イオンであるアニオン又はカチオンはバイポーラ膜により透過せず、そのまま残存することになる。このようにして、被処理液からカチオン又はアニオンを選択的に除去することができる。しかも、バイポーラ膜内では水の解離が起こるため処理室内には水素イオン、又は水酸化物イオンが補充され、イオンバランスも保たれることになる。
【0024】
このとき、高イオン濃度の液体を被処理液とする場合には、処理室内部にイオン交換体を充填しなくても電気が通る。そこで、セル間を狭く保持して処理室内にメッシュ等のスペーサーを挟むことで、電気脱塩装置の構造を簡易化することができる。さらに、このようにセル間を狭く保持して処理室内にメッシュ等のスペーサーを挟むことで、イオンの逆拡散が起こっても立ち上がり(正常化)を早くすることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の電気脱塩装置の運転方法によれば、電気脱塩装置による被処理液の処理の停止後も濃縮室のイオン交換体の再生運転を行い濃縮室内の残留イオン濃度を低下させることで、濃縮室から処理室へイオンの逆拡散を抑制し、処理室内をイオン的に清浄に保つことができ、これにより運転再開時の処理液の液質の低下を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る電気脱塩装置を備えためっき液添加剤のカチオン除去装置を示す概略系統図である。
【0027】
本実施形態に係るカチオン除去装置は、被処理液としてめっき液添加剤であるクエン酸ナトリウム水溶液からNaを除去するナトリウム除去装置である。なお、本明細書中及び図中においては、便宜上、クエン酸ナトリウムを「RCOONa」と、クエン酸を「RCOOH」と、クエン酸イオンを「RCOO」と表すことがある。
【0028】
本実施形態におけるクエン酸ナトリウム水溶液のナトリウム除去装置は、クエン酸ナトリウム(RCOONa)水溶液貯槽1と、電気脱塩装置2と、クエン酸(RCOOH)水溶液貯槽4とを備えてなる。
【0029】
RCOONa水溶液貯槽1は、図示しない送液ポンプと保護フィルタ7とを有する流路3により電気脱塩装置2の処理室13に連通しており、この流路3はさらに処理室13からクエン酸(RCOOH)水溶液貯槽4に連通している。
【0030】
また、電気脱塩装置2の濃縮室14には、図示しない送液ポンプを備えた流路としてのカチオン回収機構たるナトリウム(Na)イオン回収機構5が連通している。なお、電気脱塩装置2の陽極室Cには、流路6が連通していて、水解離により生じた水酸イオンが酸化されて酸素ガスが発生する。
【0031】
上述したようなナトリウム除去装置において、電気脱塩装置2は、図2及び図3に示すように電極(陽極,陰極)の間に、バイポーラ膜11とカチオン交換膜12とを、交互に配列して処理室13と濃縮室14とを交互に形成してなる。バイポーラ膜11は、陰極側すなわち処理室13に面するようにカチオン交換層11A側が位置しており、陽極側すなわち濃縮室14に面するようにアニオン交換層11B側が位置している。なお、電気脱塩装置2の両端には、陽極とバイポーラ膜11とで区画された陽極室(図示せず)と、陰極とバイポーラ膜11とで区画された陰極室(図示せず)とが形成されている。
【0032】
ここで、本発明において用いるバイポーラ膜11及びカチオン交換膜12としては、従来公知のものを適宜使用することができ、それぞれ塩の分離、水解離に有効な膜を選択すればよい。バイポーラ膜11としては、カチオン交換層11Aとアニオン交換層11Bとを有し、水解離することができるものであればよい。また、カチオン交換膜12としてはカチオンを透過可能なもので、スルホン基(−SOH)のような酸性を示す官能基を含むものであれば従来のいかなる膜でもよい。
【0033】
処理室13には、メッシュスペーサーを挿入するか、イオン交換体を充填する。イオン交換体を充填した方が、より電圧が低くなり、また濃度分極が緩和されるので脱塩効率は良好である。しかしながら、RCOONa水溶液が高濃度で、イオン濃度が高い場合には、イオン交換体を充填しなくても十分に電気が通る。したがって、処理室13及び濃縮室14を狭く形成することで電気脱塩装置2の構造を簡易化してもよい。
【0034】
また、濃縮室14には、イオン交換体を充填する。このイオン交換体は、従来公知のものでよく、イオン交換樹脂やイオン交換繊維、又は任意の基材に放射線、電子線グラフト重合した後にイオン交換基を導入することにより製造したイオン交換体でよい。その中では、安価なコストで入手可能なイオン交換樹脂が好ましい。
【0035】
具体的には、処理室13にはカチオン交換体としてのカチオン交換樹脂15が充填されているのが好ましい。これにより電気脱塩装置2の電圧が低くて済み、しかも処理室13中のナトリウム(カチオン)の濃度分極が抑制されるので、ナトリウムイオンをさらに効率的に除去することができる。また、濃縮室14には、イオン交換体としてのカチオン交換樹脂16、又はカチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂との混合樹脂が充填されているのが好ましい。
【0036】
次にこのような構成を有するカチオン除去装置の運転方法について説明する。RCOONa水溶液貯槽1から流路3を経由して電気脱塩装置2の処理室13にRCOONa水溶液を通水する。
【0037】
このとき電気脱塩装置2には、所定の直流電圧を印加し電流を流しているので、処理室13内ではナトリウムイオンなどのカチオンが陰極側に移動し、カチオン交換膜12を通過して濃縮室14に排出される。
【0038】
また、バイポーラ膜11内では下記式(1)の水解離が生じるが、処理室13ではバイポーラ膜11はカチオン交換層11A側が面しているので、水素イオンが処理室13内に供給される。
O → OH + H ・・・(1)
【0039】
また、対イオンであるクエン酸イオン(RCOO)は陽極側へ移動するが、バイポーラ膜11の処理室13側がカチオン交換層11Aであるので、通過することができず、処理室13内に残存する。そして、この結果、処理室13内で得られるクエン酸(RCOOH)水溶液が処理液としてクエン酸(RCOOH)水溶液貯槽4に貯留される。
【0040】
このとき、図示しないナトリウムイオンセンサ等により処理液のナトリウムイオン濃度を測定し、処理室13で除去しきれなかったナトリウムイオンを計測する。そして、例えば、図1中に破線で示すようにRCOOH水溶液貯槽4からRCOONa水溶液貯槽1への流路を設けておくことで、残留ナトリウムイオン濃度が高い場合には、RCOOH水溶液貯槽4からRCOONa水溶液貯槽1に処理液を環流して、所望とするナトリウムイオンン濃度の処理液が得られるまで循環させればよい。
【0041】
また、流路3の処理室13の出口側にカチオン交換樹脂等のカチオン除去機能を備えたイオン交換器を設けて、処理水のポリッシングを行うことで、ナトリウムイオンの除去率を向上させてもよい。
【0042】
一方、濃縮室14には、ナトリウムイオン回収機構5により図示しない純水貯槽に貯留された純水(被処理水であるRCOONa水溶液よりイオン濃度の低い水)をイオン回収水として通水する。この濃縮室14には処理室13から排出されたナトリウムイオンが流入してくる。
【0043】
また、バイポーラ膜11内では上記式(1)の水解離が生じ、濃縮室14には、バイポーラ膜11のアニオン交換層11B側が面しているので、水酸イオンが濃縮室14内に供給される。この結果、濃縮室14からは水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液が排出される。
【0044】
なお、図示しない陽極室は、陽極とバイポーラ膜11とで区画されており、陽極室には、アニオン交換層11Bが面しているので、水酸化物イオン(OH)のみが陽極室内に供給されるが、この水酸化物イオンは、陽極で酸化されて酸素ガス(O)として外部環境に排出される。
【0045】
一方、図示しない陰極室は、陰極とバイポーラ膜11とで区画されており、陰極室側がカチオン交換層11Aであるので、水素イオン(H)のみが供給されるが、この水素イオンは、陰極で還元されて水素ガス(H)として外部環境に排出される。
【0046】
上述したようなクエン酸ナトリウム水溶液からのナトリウムイオンの選択的除去方法においては、電気脱塩装置2において印加する電圧及び電流を制御することにより、処理液のpHを管理して、処理液としてのクエン酸(RCOOH)水溶液におけるクエン酸とナトリウムとの比率を制御することが好ましい。電気脱塩装置2で処理した処理液を図示しないpHセンサのデータに基づき制御することで、所望の組成のめっき液添加剤を得ることができる。
【0047】
さらに、本実施形態のように電気脱塩装置2の上流側に保護フィルタ7を設けるのが好ましい。これにより、電気脱塩装置2の誤動作や運転条件の変動、又は処理対象となるめっき液添加剤の変更等によりpH等が急激に変動し、有機酸塩又は無機酸塩が酸性塩として析出したとしても、電気脱塩装置2にこれらの析出物が混入しないようになっている。この保護フィルタ7孔径は、0.45μm〜100μmであるのが好ましく、特に0.2μm〜50μmが好ましい。
【0048】
次に、電気脱塩装置2の運転停止時の操作について説明する。
前述したとおり、濃縮室14内には、水酸イオン及びナトリウムイオンが高濃度で存在している。したがって、クエン酸ナトリウム水溶液の処理を停止すると電気的吸引力が解除されるので、濃縮室14内と処理室13内とのイオン濃度格差によりカチオン交換膜12を介して濃縮室14から処理室13へのナトリウムイオンの逆拡散が起こり、処理室13内にナトリウムイオンが存在することになる。このことが運転再開時のクエン酸ナトリウム水溶液からクエン酸溶液を得る際の液質の低下の原因となっていた。そこで、本実施形態においては、クエン酸ナトリウム水溶液の供給を停止した直後又は運転再開前に濃縮室14へ純水を供給しながら電気脱塩装置2を運転する。これにより濃縮室14にさらなるナトリウムイオンが供給されることなく、濃縮室14内のカチオン交換樹脂16が電気的に再生されるとともに、濃縮室14内の残留ナトリウムイオンが排出されるので、濃縮室14から処理室13へナトリウムイオンの逆拡散を抑制し、処理室13内をイオン的に清浄に保つことができる。また、長時間停止した後に上記再生運転を行う場合には、処理室13へのナトリウムイオンの逆拡散は起こるが、再生運転により再度濃縮室14に排出されるので、再開時には処理室13内をイオン的に清浄にすることができる。
【0049】
これにより運転再開時に処理室13でクエン酸ナトリウム水溶液からクエン酸溶液を得る際の液質の低下を防止することが可能となる。
【0050】
上記クエン酸ナトリウム水溶液の供給を停止した後における濃縮室14内のカチオン交換樹脂16の再生運転は、1〜3時間程度行うのが好ましい。これにより、カチオン交換樹脂16を十分に再生することができる。なお、3時間を超えて再生運転を行ってもそれ以上の効果の向上が得られず、経済的でない。
【0051】
また、クエン酸ナトリウム水溶液の濃度が低く、濃縮室14内の残留ナトリウムイオン濃度が低い場合には、電気脱塩装置2によるクエン酸ナトリウム水溶液の処理の停止後に微弱な電流を流し続けてもよい。これにより、処理室13内のイオン交換体及び濃縮室14内のカチオン交換樹脂16の再生運転を行うことができる。なお、この場合に、濃縮室14内に純水を流通しながら微弱な電流を流し続けてもよいし、濃縮室14内に純水を流通することなく微弱な電流を流し続けてもよい。
【0052】
また、これとは逆にクエン酸ナトリウム水溶液の濃度が高い場合には、処理室13内部にカチオン交換樹脂を充填しなくても電気が通り、ナトリウムの除去は行える。このような場合には、処理室13及び濃縮室14のセル間を狭く保持して、濃縮室14にメッシュ等のスペーサーを挟むことでイオン除去率を確保し、かつ逆拡散を起こりにくくすることができ、さらに仮に起こったとしてもセル間を狭く保持することで、処理室13からナトリウムイオンの排出速度を向上させ、運転再開時のクエン酸ナトリウム水溶液からクエン酸溶液を得る際の液質の回復までに要する時間を短縮することができる。
【0053】
上述したような本実施形態に係るカチオン除去装置によれば、クエン酸ナトリウム水溶液からナトリウムイオンだけを選択的に除去した処理液を調製し、これをめっき液添加剤としてめっき浴に添加することができるので、めっき浴に当該添加剤に起因したカチオンが溜まるのを抑制することができ、めっき浴の交換頻度を減少させることができる。
【0054】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0055】
例えば、上記実施形態においては、めっき液添加剤としてクエン酸ナトリウムの場合について説明してきたが、有機酸又は無機酸の塩であれば、同様に塩に由来するカチオンを除去できることはいうまでもなく、スルホン酸ナトリウム基(−SONa)を有するナトリウム塩や、次亜リン酸ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム、酒石酸ナトリウム、又はこれらの酸基のカリウム塩等を水溶液として同様に処理することができる。
【0056】
また、電気脱塩装置2としては、図2及び図3に示すような構成のものに限らず、図4に示すように一対のバイポーラ膜11間にアニオン交換膜12Aとカチオン交換膜12Bとを配置して3室を1ユニットとする構成とし、中央を処理室13、陽極側をアニオン濃縮室14A、陰極側をカチオン濃縮室14Bとした構成としてもよい。この場合には処理室13からは純水が、アニオン濃縮室14Aからはクエン酸(RCOOH)水溶液が、カチオン濃縮室14Bからは水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液が排出されるので、アニオン濃縮室14Aの排出水を処理液として利用すればよい。
【0057】
さらにまた、上記実施形態において、カチオンを除去する場合を例に説明してきたが、アニオン交換膜とバイポーラ膜とで処理室13及び濃縮室14を構成することで、同様に有機酸イオン、塩素イオン、炭酸イオン等のアニオンを選択的に除去することもできる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は、下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0059】
〔実施例1〕
[1]電気脱塩装置
電気脱塩装置2のイオン交換膜及びイオン交換体として以下のものを用いた。
(1)カチオン交換膜12:ネオセプタ(登録商標)CMB(アストム社製)
(2)バイポーラ膜11:ネオセプタ(登録商標)BP−1E(アストム社製)
(3)処理室13に充填したカチオン交換樹脂:SK1B(三菱化学社製)
(4)濃縮室14に充填したカチオン交換樹脂:SK1B(三菱化学社製)
【0060】
実施例1で使用した電気脱塩装置2の仕様は以下の通りである。
(1)脱塩室の室数:1室
(2)ナトリウムイオンの透過できるカチオン交換膜12の総膜面積:1.7dm
(3)脱塩室:100mLのカチオン交換樹脂を充填
【0061】
[2]試験条件及び結果
図1及び図2に示す装置において、クエン酸ナトリウム(RCOONa)水溶液(濃度:2.2g/L)を用い、電気脱塩装置2の処理室13の入り口側ナトリウムイオン濃度600ppm、印加する電流密度33mA/cm、LV(線速度)4m/hの条件で、クエン酸ナトリウム水溶液からのナトリウムの除去処理を6時間行った。このとき濃縮室14には純水をLV(線速度)4m/hの条件で流通させた。
【0062】
その後、電気脱塩装置2の運転を一旦停止し、24時間後に処理室13にクエン酸ナトリウム水溶液を流通させず、濃縮室、陽極室及び陰極室に純水を流通させながら同様に電気脱塩装置2を2時間運転してイオン交換樹脂の再生運転を行った。
【0063】
その後、クエン酸ナトリウム水溶液からのナトリウムの除去処理を再開した。
このクエン酸ナトリウム水溶液からのナトリウムの除去処理の間の電気脱塩装置2の出口から回収されるクエン酸水溶液におけるナトリウムイオン濃度の変化を測定した。
結果を図5に示す。
【0064】
〔比較例1〕
前記実施例1において、イオン交換樹脂の再生運転を行わずに、24時間停止後に直ちにクエン酸ナトリウム水溶液からのナトリウムの除去処理を再開した以外は同様にしてクエン酸ナトリウム水溶液の処理を行った。
【0065】
このクエン酸ナトリウム水溶液からのナトリウムの除去処理の間の電気脱塩装置2の出口から回収されるクエン酸水溶液におけるナトリウムイオン濃度の変化を測定した。
結果を図5にあわせて示す。
【0066】
図5から明らかなように、実施例1の電気脱塩装置の運転方法では、電気脱塩装置の出口におけるナトリウムイオン濃度は、運転停止前後でほとんど変化が見られなかったのに対し、イオン交換樹脂の再生運転を行わなかった比較例1では、再開後ナトリウムイオン濃度の上昇が認められ、液質が悪化しているのが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の電気脱塩装置の運転方法及び電気脱塩装置は、例えば、銅/コバルトめっき液等のめっき浴の添加剤の処理、食品・医療分野の各種塩溶液からの酸又はアルカリを除去する際の安定運転に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の一実施形態に係る電気脱塩装置の運転方法に適用可能なめっき液添加剤のカチオン除去装置を示す概略系統図である。
【図2】前記めっき液添加剤のカチオン除去装置の電気脱塩装置を示す概略図である。
【図3】前記電気脱塩装置におけるイオンの流れを示す概略図である。
【図4】本発明の他の実施形態に係るめっき液添加剤のカチオン除去装置の電気脱塩装置におけるイオンの流れを示す概略図である。
【図5】実施例1及び比較例1における処理液のナトリウムイオン濃度の変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0069】
1…クエン酸ナトリウム水溶液(被処理液)貯槽
2…電気脱塩装置
4…クエン酸水溶液(処理液)貯槽
11…バイポーラ膜
11A…カチオン交換層
11B…アニオン交換層
12…カチオン交換膜
12A…アニオン交換膜
12B…カチオン交換膜
13…処理室
14…濃縮室
14A…アニオン濃縮室
14B…カチオン濃縮室
16…カチオン交換樹脂(イオン交換樹脂)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陰極と陽極との間にカチオン交換膜及び/又はアニオン交換膜とバイポーラ膜とによって区画された処理室と濃縮室とを有し、前記濃縮室にイオン交換体が充填されていて、被処理液を前記処理室入口から導入して処理液を前記処理室出口より流出させるとともに、前記濃縮室入口からイオン回収水を導入するとともに前記濃縮室出口から流出させる電気脱塩装置の運転方法であって、
前記電気脱塩装置による被処理液の処理の停止後に前記イオン交換体の再生運転を行うことを特徴とする電気脱塩装置の運転方法。
【請求項2】
前記電気脱塩装置における前記イオン交換体の再生運転方法が、前記被処理液の処理の停止後に、前記濃縮室に前記イオン回収水を流通する方法であることを特徴とする請求項1に記載の電気脱塩装置の運転方法。
【請求項3】
前記イオン回収水を1〜3時間流通することを特徴とする請求項2に記載の電気脱塩装置の運転方法。
【請求項4】
前記電気脱塩装置における前記イオン交換体の再生運転方法が、前記電気脱塩装置による被処理液の処理の停止後に、当該電気脱塩装置に微弱な電流を流し続ける方法であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の電気脱塩装置の運転方法。
【請求項5】
陰極と陽極との間にカチオン交換膜又はアニオン交換膜とバイポーラ膜とによって区画された処理室と濃縮室とを有し、
前記濃縮室にイオン交換体が充填されているとともに、
前記処理室に被処理液の流通を妨げないスペーサーが配置されていることを特徴とする電気脱塩装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−18289(P2009−18289A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−184836(P2007−184836)
【出願日】平成19年7月13日(2007.7.13)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】