説明

電気負荷駆動回路

【課題】容量成分を有する電気負荷を効率よく且つ安定して駆動する。
【解決手段】異なる電圧値を発生する電源の各々にコンデンサが並列に設けられており、これらコンデンサと電気負荷との接続を切り換えることによって、電気負荷に電圧値を印加する。また、各コンデンサには、電気負荷を経由せずに電荷を放電させることの可能な放電経路が設けられている。電気負荷に印加する電圧波形によっては、個々のコンデンサが負荷に供給する電荷量よりも、負荷から回収する電荷量が上回ることがあり、その場合、コンデンサの端子電圧が上昇して、負荷を適切に駆動できなくなる。しかし、このような場合でも、過剰な電荷を放電回路から放出することで、端子電圧の上昇を回避することができるので、容量成分を有する電気負荷を、効率よく且つ安定して駆動することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容量成分を有する電気負荷に所定の電圧波形を印加して電気負荷を駆動する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
電圧を印加することによって駆動される電気負荷には、種々の電気負荷が知られているが、いわゆるピエゾ素子や液晶画面などのように、容量成分を有する電気負荷も数多く存在している。容量成分を有する電気負荷では、負荷に対して電荷を供給するに従って印加電圧が上昇し、逆に、負荷から電荷が放出されるに従って印加電圧が減少する。このため、容量成分を有する負荷を駆動する際にコンデンサを利用すれば、効率よく負荷を駆動することができる。すなわち、印加電圧を低下させる場合は、負荷に蓄えられていた電荷を回収してコンデンサに蓄えておく。そして印加電圧を上昇させる際には、コンデンサに蓄えておいた電荷を負荷に供給することによって印加電圧を上昇させる。こうすれば、電源から負荷に電力を供給しなくても、負荷の印加電圧を上昇させることができる。
【0003】
もちろん、負荷の印加電圧がコンデンサの端子電圧を越えると、コンデンサから電荷を供給することができなくなるから、コンデンサの端子電圧以上には、負荷の印加電圧を上昇させることはできない。そこで、端子電圧の異なる複数のコンデンサを設けておき、負荷に接続するコンデンサを次々と切り換えていくことで、できるだけ電源からの電力供給を受けることなく、容量成分を有する負荷を、効率良く駆動しようとする技術も提案されている(特許文献1)。
【0004】
提案されている技術では、電源と複数のコンデンサとを接続して、各コンデンサの端子電圧が、それぞれ異なる電圧値となるように、各コンデンサを予め充電しておく。そして、負荷の印加電圧を上昇させる場合には、端子電圧の低いコンデンサから端子電圧の高いコンデンサへと、負荷に接続するコンデンサを切り換えて行くことで、電源からは電力を供給することなく、負荷の印加電圧を上昇させることができる。また逆に、負荷の印加電圧を低下させる場合は、印加電圧よりも少しだけ低い端子電圧のコンデンサに負荷を接続して、負荷に溜まっている電荷をコンデンサに移し替えることで、負荷の印加電圧を低下させる。その結果、印加電圧がコンデンサの端子電圧まで低下したら、負荷に接続するコンデンサを、もう少し端子電圧の低いコンデンサに切り換える。このように次々とコンデンサを切り換えて負荷の電荷をコンデンサに移し替えることで、印加電圧を低下させることができる。その後、再び印加電圧を上昇させる際には、こうしてコンデンサに蓄えた電荷を利用することで、電源から電力を供給することなく、容量成分を有する負荷を効率よく駆動することが可能となる。
【0005】
【特許文献1】特開2003−285441号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、提案されている技術では、電圧を印加して負荷を駆動しているうちにコンデンサの端子電圧が次第に上昇してしまい、負荷を適切に駆動することが困難になる場合があった。すなわち、例えば、あるコンデンサを負荷に接続して電荷を回収しながら、印加電圧を低下させている途中で、今度は印加電圧を上昇させることになったとする。この場合、負荷に印加する電圧を上昇させるために、より端子電圧の高いコンデンサ(または電源)に切り換えるので、印加電圧の低下時に負荷に接続されていたコンデンサには、一方的に電荷が蓄えられることになる。従って、このようなことが繰り返されるとコンデンサの電荷量が増加し、それに伴って端子電圧が上昇してしまう。このように、負荷に印加する電圧の波形によっては、コンデンサに蓄えられる電荷量が、コンデンサが放出する電荷量を上回ってしまい、その結果として、コンデンサの端子電圧が上昇してしまうことが起こり得る。
【0007】
この発明は、従来の技術が有する上述した課題を解決するためになされたものであり、複数のコンデンサを切り換えながら、容量成分を有する電気負荷を効率よく且つ安定して駆動することを可能とする技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題の少なくとも一部を解決するために、本発明の電気負荷駆動回路は次の構成を採用した。すなわち、
容量成分を有する電気負荷を駆動する電気負荷駆動回路であって、
発生する電圧値が互いに異なる複数の電源と、
前記電源の各々に対して並列に設けられた複数のコンデンサと、
前記複数のコンデンサと前記電気負荷との接続を切り換えることによって、該電気負荷に印加する電圧値を切り換える電圧値切換手段と、
前記各々のコンデンサに対して個別に設けられ、該コンデンサに蓄えられた電荷を、前記電気負荷を経由させることなく放電可能な放電経路と、
前記放電経路から放電される電荷量を制御する放電制御手段と
を備えることを要旨とする。
【0009】
このような本発明の電気負荷駆動回路においては、異なる電圧値を発生する電源の各々にコンデンサが並列に設けられており、各コンデンサの端子電圧はそれぞれ異なる電圧値となっている。そして、これらコンデンサと電気負荷との接続を切り換えることによって、電気負荷に電圧値を印加する。すなわち、高い端子電圧のコンデンサを電気負荷に接続すれば、電気負荷には高い電圧が印加され、逆に低い端子電圧のコンデンサを接続すれば、電気負荷には低い電圧が印加される。また、各コンデンサには、電気負荷を経由せずに電荷を放電させることの可能な放電経路が設けられており、各放電経路で放電する電荷量を制御することが可能となっている。
【0010】
電気負荷は容量成分を有しているから、コンデンサを切り換えた直後は、電気負荷にはそれまでの印加電圧がかかった状態となっている。従って、高い端子電圧のコンデンサに接続されて高い印加電圧がかかっていた状態から、低い端子電圧のコンデンサに切り換えると、電圧差によって電気負荷からコンデンサの方に電荷が流れ込み、それとともに電気負荷の印加電圧が低下して、最終的にはコンデンサの端子電圧と同じ電圧値(すなわち、コンデンサの端子電圧が印加された状態)となる。一方、電気負荷に低い電圧が印加されている状態から、コンデンサの端子電圧まで印加電圧を上昇させる際には、コンデンサに蓄えられた電荷を電気負荷に供給する。従って、コンデンサから電気負荷への電荷の供給と、電気負荷からの電荷の回収とが、長い目で見て釣り合っていれば、大きな問題は生じない。しかし、電気負荷に印加する電圧波形によってはバランスが崩れてしまい、コンデンサに蓄えられた電荷量が増加して、端子電圧が上昇してしまうことも起こり得る。このような場合でも、本発明の電気負荷駆動回路には、コンデンサ毎に放電経路が設けられているので、過剰な電荷を、電気負荷を経由せずに放電することで、各コンデンサの端子電圧が上昇してしまうことがない。このため、複数のコンデンサを切り換えながら、容量成分を有する負荷を、効率よく且つ安定して駆動することが可能となる。
【0011】
このような本発明の電気負荷駆動回路においては、コンデンサの端子電圧を検出して、その結果に基づいて、コンデンサから放電する電荷量を制御するようにしてもよい。
【0012】
こうすれば、コンデンサの端子電圧が上昇した場合には直ちに電荷を放出して端子電圧を下げることができ、また、電荷を放出しすぎて端子電圧が下がり過ぎてしまうことも回避することができる。その結果、正確な電圧波形を供給して電気負荷を適切に駆動することが可能となる。
【0013】
また、上述した本発明の電気負荷駆動回路においては、次のようにしても良い。すなわち、予め電圧波形を記憶しておき、この電圧波形に基づいて、複数のコンデンサと電気負荷との接続を切り換えるとともに、この電圧波形に基づいて、各コンデンサから放電経路を介して放電される電荷量を制御することとしてもよい。
【0014】
電気負荷に印加する電圧波形が予め定まっている場合には、各コンデンサに蓄えられる電荷量も予め見積もっておくことが可能であり、いつ、どれだけの電荷を放電すべきかについても予測することができる。従って、このようにして、印加しようとする電圧波形に基づいて予測された電荷量が放電されるように制御することによっても、各コンデンサでの端子電圧が上昇することを回避して、正確な電圧波形で電気負荷を駆動することが可能となる。
【0015】
また、上述した本発明の電気負荷駆動回路においては、各コンデンサに対して設けられ放電経路の少なくとも一つは、他のコンデンサに電荷を放出可能な放電経路としても良い。
【0016】
あるコンデンサで電荷が過剰な場合でも、他のコンデンサでは電荷が不足している場合が起こり得る。このような場合、電荷が過剰なコンデンサの放電経路が、電荷が不足したコンデンサに電荷を放出可能に構成されていれば、過剰な電荷を他のコンデンサに供給することができるので、電源から電荷を供給する必要がない。その結果、より一層効率よく電気負荷を駆動することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下では、上述した本願発明の内容を明確にするために、次のような順序に従って実施例を説明する。
A.電気負荷駆動回路の構成:
B.電気負荷の駆動方法:
C.変形例:
C−1.第1変形例:
C−2.第2変形例:
C−3.第3変形例:
【0018】
A.電気負荷駆動回路の構成 :
図1は、本実施例の電気負荷駆動回路100の構成を示す説明図である。図示するように、本実施例の電気負荷駆動回路100は、複数の電源110a,110b,110cを備えており、これらは互いに異なる電圧値を発生している。また、各電源110a,110b,110cには、コンデンサ120a,120b,120cが、電源と並列に接続されており、コンデンサの端子電圧が低下すると、直ぐに電源から電荷が供給されるようになっている。各コンデンサ120a,120b,120cの端子電圧は、それぞれスイッチSWa,SWb,SWcを介して電気負荷200に接続可能となっている。また、スイッチSWgを介して、グランドを電気負荷200に接続することも可能となっている。これらスイッチSWa,SWb,SWc,SWgは、切換制御部130によって制御されており、各スイッチのON/OFFを制御することで、電気負荷200に印加する電圧を切り換えることが可能となっている。切換制御部130は、コンピュータや、ロジック回路などによって構成されており、ROMによって構成される電圧波形記憶部132から読み出した電圧波形に関する情報に基づいて、スイッチSWa,SWb,SWc,SWgのON/OFFを切り換えている。
【0019】
また、図1に示されるように、本実施例の電気負荷駆動回路100では、各コンデンサ120a,120b,120cの端子をグランドに接続して、コンデンサに溜まった電荷を放電するための放電回路142a,142b,142cが、コンデンサ毎に設けられている。図示した例では、これら放電回路142a,142b,142cには、スイッチが組み込まれており、放電制御部140でスイッチを制御することによって、各コンデンサから放電される電荷量を制御することが可能となっている。尚、放電制御部140も、切換制御部130と同様に、コンピュータや、ロジック回路などによって構成することができる。
【0020】
電気負荷200は、容量成分を有する電気負荷であれば、種々の負荷を用いることも可能である。例えば、インクジェットプリンタの噴射ヘッドのように、アクチュエータとしてピエゾ素子を用いた電気機器や、液晶画面や有機EL(エレクトロルミネッセンス)画面などのように、多数の画素を駆動するための微細な配線が縦横に張り巡らされた電気機器などは、大きな容量成分を有していることから、これらを好適に用いることができる。
【0021】
図2は、容量成分を有する代表的な電気負荷として、インクジェットプリンタの噴射ヘッド250の内部構造を示した説明図である。図示されるように、噴射ヘッド250の内部には、インクを溜めておく小さな複数のインク室252が設けられており、各インク室252の底面には、微細なインクノズル256が形成されている。また、各インク室252の壁面(図示した例では天井部分)には、ピエゾ素子254が設けられている。何れかのピエゾ素子に電圧を印加すると、そのピエゾ素子が変形してインク室252の壁面(図示した例では天井)を変形させる。その結果、インク室252内のインクが押し出されるようにして、インクノズル256からインク滴として吐出されることになる。
【0022】
図3は、ピエゾ素子254に印加する電圧波形を例示した説明図である。インクジェットプリンタの噴射ヘッド250では、図3に示した様な台形状の電圧波形(時間とともに電圧が上昇し、その後降下して元の電圧値に戻る波形)をピエゾ素子254に印加することによって、インク滴を吐出している。このような電圧波形が印加されると、先ず初めにピエゾ素子254が収縮してインク室252にインクが吸い込まれる。その後、ピエゾ素子254が伸張してインク室252内のインクを押し出すことにより、インクノズル256からインク滴が吐出される。その後、初期の状態に戻る。このような動作を繰り返しながら、インク滴を吐出することによって印刷用紙上に画像を印刷する。以上の説明から明らかなように、噴射ヘッド250では、ピエゾ素子254に印加する電圧波形が変われば、インク室252に吸い込まれるインク量やインク室252から押し出すインク量が変化し、その結果として、吐出するインク滴の大きさが変化する。従って、インクジェットプリンタでは、吐出しようとするインク滴の大きさに応じて、種々の電圧波形を使い分けていることが通常である。
【0023】
B.電気負荷の駆動方法 :
図4は、本実施例の電気負荷駆動回路100が電気負荷200を駆動する方法を示した説明図である。ここでは、図4(a)に示すような電圧波形を、電気負荷200に印加するものとする。尚、本実施例の電気負荷駆動回路100には、3つの電源110a,110b,110cが設けられているが、それぞれの電源110a、電源110b、電源110cは、Va、Vb,Vc(但し、0<Va<Vb<Vc)の電圧を発生しているものとする。
【0024】
図4(b)には、切換制御部130で各スイッチSWa,SWb,SWc,SWgを切り換える様子が示されている。例えば、印加しようとする電圧は、初めは0V(GND)であるから、スイッチSWgをON(他のスイッチは全てOFF)にしておく。次に、スイッチSWgをOFFにして、スイッチSWaをONにすれば、コンデンサ120a(図1中でCaと表示したコンデンサ)が接続されて、電気負荷200には電圧Vaが印加される。そして、所定の時間が経過したら、スイッチSWaをOFFにして、スイッチSWbをONする。すると、今度はコンデンサ120b(図1中でCbと表示したコンデンサ)が接続されて、電気負荷200には電圧Vbが印加される。このようにして、次々とスイッチSWa,SWb,SWc,SWgを切り換えることによって、図4(a)に示すような電圧波形を電気負荷200にいんかすることができる。
【0025】
図4(c)には、このようにしてスイッチSWa,SWb,SWcを切り換えることに伴って、各コンデンサと電気負荷200との間で電荷をやり取りする様子が示されている。例えば、電気負荷200の印加電圧が0Vの時には電荷のやり取りはないが、印加電圧を0V(GND)からVaに上昇させるためにスイッチSWaをONにした場合には、コンデンサCaから電気負荷200に電荷が供給される。すなわち、電気負荷200の容量成分にコンデンサCaからの電荷が供給されることで、電気負荷200の印加電圧が上昇したことになる。図4(c)には、印加電圧を0VからVaに上昇させる際に、コンデンサCaから電気負荷200に向かって電荷が流入している様子が、白抜きの矢印によって示されている。
【0026】
また、印加電圧をVaからVbに少々させるためにスイッチSWbをONにした場合には、今度はコンデンサCbから電気負荷200に電荷が供給される。その後、スイッチSWcをONにしたときも同様に、コンデンサCcから電気負荷200に電荷が供給される。このように電気負荷200の印加電圧を上昇させる場合は、コンデンサから電気負荷200に対して電荷が供給される。
【0027】
続いて、電気負荷200の印加電圧をVcからVbに低下させるためには、図4(b)に示されるように、スイッチSWcをOFFにして、スイッチSWbをONにすることにより、コンデンサCbと電気負荷200とを接続する。スイッチを切り換えた直後は電気負荷200の印加電圧はVcであり、また、コンデンサCbの端子電圧はVbである。従って、電気負荷200に蓄えられていた電荷がコンデンサCbに向かって流入する。図4(c)には、印加電圧をVcからVbに低下させる際に、電気負荷200からコンデンサCbに向かって電荷が流入している様子が、斜線を付した矢印によって示されている。
【0028】
更に、電気負荷200の印加電圧をVbからVaに低下させる際には、スイッチSWbをOFFにして、スイッチSWaをONにする。すると、電気負荷200に蓄えられていた電荷がコンデンサCaに向かって流入する。このように電気負荷200の印加電圧を低下させる際には、電気負荷200からコンデンサに向かって電荷が流れ込む。尚、図4では、電気負荷200からコンデンサに電荷が流入する部分には、斜線を付して表示されている。
【0029】
図4(d)には、個々のコンデンサに注目して、各コンデンサが電気負荷200と電荷をやり取りする様子が示されている。例えば、コンデンサCaについては、初めに印加電圧を0VからVaに上昇させる際に、電気負荷200に対して電荷を供給するが、その後は、常に電気負荷200から電荷を受け取っている。また、コンデンサCbについては、電気負荷200に電荷を供給する場合と、電荷を受け取る場合とが同じような割合で発生している。更にコンデンサCcについては、常に電気負荷200に対して電荷を供給している。
【0030】
コンデンサCbについては、電荷の供給と電荷の受取とがほぼ同じような割合で行われているので、長い目で見ればコンデンサCbに蓄えられている電荷の増減は僅かとなる。従って、コンデンサCbの容量を大きくしておけば、端子電圧の変動は事実上、無視できる程度に抑制することができる。また、コンデンサCcについては、電気負荷200に対して一方的に電荷を供給しているので、コンデンサCcに蓄えられた電荷は、電気負荷200を駆動すればするほど減少していくが、電源110c(図1中で電源Cと表示した電源)から電荷の供給を受けることができる。このため、コンデンサCcについても端子電圧が大きく変動することはない。これに対してコンデンサCaは、初めに電荷を供給した後は、一方的に電気負荷200から電荷を受け取るだけなので、蓄えられている電荷が、電気負荷200を駆動するほど増加していく。その結果、コンデンサCaの端子電圧が次第に上昇していき、電気負荷200を適切に駆動することが困難となってしまう。
【0031】
図5は、電気負荷200を駆動することによってコンデンサの端子電圧が上昇する様子を示した説明図である。図5(a)には、印加しようとする電圧波形が示されている。コンデンサCa,Cb,Ccを切り換えながら、このような電圧波形を印加すると、図4を用いて前述したように、コンデンサCaに蓄えられる電荷が増加していき、それに伴ってコンデンサCaの端子電圧が次第に上昇していく。その結果、図5(b)に示すように、電圧Vaを印加すべき部分の電圧波形が次第に上昇してしまい、適切な電圧波形を印加することができなくなってしまう。
【0032】
本実施例の電気負荷駆動回路100では、このようなことを回避するために、各コンデンサに放電回路が設けられている。図5(b)に示した電圧波形では、印加電圧をVbからVaに低下させるために、電気負荷200とコンデンサCaとを接続している間に端子電圧が上昇しているから、この期間、放電回路142aを作動させてコンデンサCaから電荷をグランドに逃がしてやる。こうすれば、コンデンサCaに過剰に電荷が溜まることを回避することができる。その結果、図5(c)に示したように、コンデンサCaの端子電圧を上昇させることなく、電気負荷200を駆動することができる。
【0033】
放電回路142から放出する電荷量は、種々の方法によって制御することが可能である。最も単純には、図6(a)に例示したように、コンデンサの端子電圧が目標電圧となるように、フィードバック制御を行いながら、放出する電荷量を制御することができる。あるいは、より簡便には、比較的大きな抵抗値の固定抵抗と、ON/OFFスイッチとをコンデンサの両端子に接続しておいてもよい。そして、印加電圧の低下時に、そのコンデンサに電気負荷200が接続される時にだけ、ON/OFFスイッチをONにしてもよい。こうすれば、コンデンサに電荷が流れ込む時にだけ少しずつ電荷を放出して、コンデンサに過剰に電荷が溜まることを回避することができる。
【0034】
更には、図5(c)に例示したように、十分に大きな抵抗値を介して、コンデンサの両端子を接続するようにしても良い。この場合、コンデンサに蓄えられた電荷が、常に少しずつ放出されることになるが、電気負荷200に印加する電圧波形が決まっていて、コンデンサに蓄えられる電荷量を見積もることができる場合には、適切な抵抗値を選択しておくことで、コンデンサに過剰に電荷が溜まることを回避することができる。その結果、複数のコンデンサを切り換えながら、常に安定して、効率よく電気負荷200を駆動することが可能となる。
【0035】
C.変形例 :
上述した本実施例の電気負荷駆動回路100には、幾つかの変形例が存在する。以下では、それらの変形例について簡単に説明する。
【0036】
C−1.第1変形例 :
上述した実施例では、印加電圧の低下時で、コンデンサに電気負荷200が接続されている時に、そのコンデンサの放電回路142を作動させるものとして説明した。しかし、放電回路142を作動させて電荷を放出するタイミングは、このようなタイミングに限られるものではない。
【0037】
例えば、図7(a)に例示したように、ゆっくりとした電圧波形を印加する場合などには、1つのコンデンサに長い時間、電気負荷200を接続することがある。このような場合には、電気負荷200に接続されている期間の一部の期間だけ、放電回路142を作動させるようにしても良い。このとき、コンデンサに多くの電荷が流れ込むのは、スイッチが切り換えられてコンデンサに電気負荷200が接続されてから暫くの間であるから、この期間だけ、放電回路142を作動させるようにしても良い。
【0038】
また、コンデンサが電気負荷200に接続される前に放電回路142を作動させて、コンデンサの電荷を予め放出してから、電気負荷200に接続しても良い。あるいはコンデンサが電気負荷200に接続されている間は放電回路142を作動させずに、電気負荷200が切断された後に、放電回路142を作動させて、過剰に溜まった電荷を放出することとしても良い。図7(b)には、このような場合が例示されている。このように、コンデンサが電気負荷200に接続されていないタイミングで放電回路142を作動させることとすれば、放電回路142が作動したことによってコンデンサの端子電圧が変動し、その影響で、電気負荷200に印加される電圧が変動する事態を回避することができる。
【0039】
あるいは、図7(c)に例示したように、放電回路142がONの期間と、放電回路142がOFFの期間との比率を変えることによって、電荷の放出量を制御することとしても良い。すなわち、放電回路142がONの期間の比率が増えるほど電荷の放出量は多くなり、逆に、ONの比率が減るほど電荷の放出量は減少する。従って、コンデンサの端子電圧を検出して、その結果に応じて、ON/OFFの比率を制御することとしても良い。あるいは、印加する電圧波形が決まっている場合は、各コンデンサに蓄積される電荷量は見積もることができるから、見積もられた電荷量に応じた比率で、放電回路142のON/OFFを制御することとしても良い。
【0040】
C−2.第2変形例 :
また、上述した実施例および変形例では、各電源が発生する電圧は、電圧差がほぼ等しいものとして説明した。しかし、各電源の発生する電圧は、必ずしも等しい電圧差に設定されている必要はなく、更には、発生する電圧が変更可能であってもよい。
【0041】
図8には、電源110b(図1中に示した電源B)の発生する電圧値Vbと、電源110c(図1中に示した電源C)の発生する電圧値Vcとの電圧差が、他の電源間の電圧差(例えば、VaとVbとの電圧差、あるいはGNDとVaとの電圧差)よりも広く設定された電圧波形を用いて、電気負荷200を駆動する様子が例示されている。例えば、インクジェットプリンタでは、インク室252に一旦、吸い込んだインクを押し出すことによってインク滴を吐出しているから(図2および図3を参照)、インクをたくさん吸い込んで大きなインク滴を吐出するために、ピエゾ素子254に印加する電圧値を高い電圧値に変更する場合などに、こうしたことが起こり得る。
【0042】
図8(a)に示すような電圧波形を電気負荷200に印加する場合も、図4の電圧波形を印加する場合と同様にして、スイッチSWa,SWb,SWc,SWgを切り換えることによって電圧を印加することができる。従って、図4(d)を用いて前述したように、コンデンサ120bについては、電気負荷200に電荷を供給する期間と、電気負荷200から電荷を受け取る期間とがほぼ同じ比率で発生する。しかし、図8(a)に示したように、印加電圧を電圧値Vaから電圧値Vbに上昇させるときの電圧差よりも、電圧値Vcから電圧値Vbに低下させるときの電圧差の方が大きいので、コンデンサ120bが供給する電荷よりも受け取る電荷の方が多くなってしまう。その結果、図8(b)に太い実線で示したように、コンデンサ120bの端子電圧が次第に上昇して、正しい電圧波形を印加することができなくなってしまう。
【0043】
しかし、このような場合にも、コンデンサ120bに設けられた放電回路142bを動作させて、コンデンサ120bの過剰な電荷を放出すれば、端子電圧の上昇を回避して適切な電圧波形を印加することが可能となる。
【0044】
C−3.第3変形例 :
上述した実施例および変形例では、何れの放電回路142も、コンデンサ120に溜まった電荷をグランドに放出するものとして説明した。しかし、グランドに放出するのではなく、端子電圧の低い他のコンデンサに電荷を放出するようにしても良い。
【0045】
図9は、コンデンサに溜まった過剰な電荷を他のコンデンサに放出する第3実施例の電気負荷駆動回路を例示した説明図である。図示した例では、コンデンサ120cに過剰な電荷が溜まった場合には、放電回路142cを介してコンデンサ120bに放出することが可能であり、コンデンサ120bの電荷が過剰になった場合には、放電回路142bを介してコンデンサ120aに電荷を放出することができる。また、各放電回路142a,142b,142cには、それぞれにスイッチが設けられており、放電制御部140によって各放電回路142a,142b,142cの動作を制御することが可能となっている。
【0046】
このようにすれば、たとえ電荷が不足して端子電圧が低下したコンデンサが発生した場合でも、端子電圧が高い他のコンデンサから過剰な電荷を供給することで、電荷の不足を補って端子電圧の低下を回避することができる。こうして他のコンデンサから電荷を供給することができれば、電源から電荷を供給する必要がないので、電気負荷200を駆動する際の電力効率をより一層改善することが可能となる。
【0047】
また、図9に示すように、各放電回路に抵抗を挿入して、それら抵抗を直列に接続しておけば、次のようなメカニズムによって各コンデンサの端子電圧を安定化させ、その結果、より正確な電圧波形を電気負荷200に印加することができる。すなわち、全ての放電回路142a,142b,142cのスイッチをONにすると、各放電回路内の抵抗が直列に接続されることになるので、コンデンサ120cの端子電圧(Vc)とGNDとの電圧差が各抵抗によって分圧されることになる。従って、それぞれの抵抗の抵抗値(若しくは抵抗値の比率)を適切に設定しておき、所定のタイミングで全ての放電回路142a,142b,142cのスイッチを一斉にONにすることで、各コンデンサの端子電圧を適切な電圧値に修正することとしてもよい。
【0048】
以上、本実施例の電気負荷駆動回路について説明したが、本発明は上記すべての実施例あるいは変形例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施することが可能である。
【0049】
例えば、各電源とコンデンサとの間にスイッチを設けておき、必要な場合にだけスイッチを接続して、電源からコンデンサに電荷を供給するようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本実施例の電気負荷駆動回路の構成を示す説明図である。
【図2】容量成分を有する電気負荷であるインクジェットプリンタの噴射ヘッドの内部構造を示した説明図である。
【図3】噴射ヘッド内のピエゾ素子に印加する電圧波形を例示した説明図である。
【図4】本実施例の電気負荷駆動回路が電気負荷を駆動する方法を示した説明図である。
【図5】電気負荷を駆動することによってコンデンサの端子電圧が上昇する様子を示した説明図である。
【図6】コンデンサが放出する電荷量を制御する方法を例示した説明図である。
【図7】第1変形例の電気負荷駆動回路でコンデンサが放出する電荷量を制御する方法を例示した説明図である。
【図8】第2変形例の電気負荷駆動回路が電気負荷を駆動する様子を例示した説明図である。
【図9】第3実施例の電気負荷駆動回路を例示した説明図である。
【符号の説明】
【0051】
100…電気負荷駆動回路、 110a,110b,110c…電源、
120a,120b,120c…コンデンサ、 130…切換制御部、
132…電圧波形記憶部、 140…放電制御部、
142a,142b,142c…放電回路、 200…電気負荷、
250…噴射ヘッド、 252…インク室、 254…ピエゾ素子、
256…インクノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容量成分を有する電気負荷を駆動する電気負荷駆動回路であって、
発生する電圧値が互いに異なる複数の電源と、
前記電源の各々に対して並列に設けられた複数のコンデンサと、
前記複数のコンデンサと前記電気負荷との接続を切り換えることによって、該電気負荷に印加する電圧値を切り換える電圧値切換手段と、
前記各々のコンデンサに対して個別に設けられ、該コンデンサに蓄えられた電荷を、前記電気負荷を経由させることなく放電可能な放電経路と、
前記放電経路から放電される電荷量を制御する放電制御手段と
を備える電気負荷駆動回路。
【請求項2】
請求項1に記載の電気負荷駆動回路であって、
前記放電制御手段は、前記コンデンサの端子電圧を検出して、該検出結果に基づいて、前記放電される電荷量を制御する手段である電気負荷駆動回路。
【請求項3】
請求項1に記載の電気負荷駆動回路であって、
前記電気負荷に印加するべき電圧波形を記憶している電圧波形記憶手段を備え、
前記電圧値切換手段は、前記電圧波形に基づいて、前記複数のコンデンサと前記電気負荷との接続を切り換える手段であり、
前記放電制御手段は、前記電圧波形に基づいて、前記放電経路から放電される電荷量を制御する手段である電気負荷駆動回路。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3の何れか一項に記載の電気負荷駆動回路であって、
前記各々のコンデンサに対して設けられ前記放電経路の少なくとも一つは、該コンデンサに蓄えられた電荷を、他のコンデンサに放電可能な経路である電気負荷駆動回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−104195(P2010−104195A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−275234(P2008−275234)
【出願日】平成20年10月27日(2008.10.27)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】