電気透析装置
【課題】バイポーラ膜を用いない新しい方式の電離によって、中性塩から酸/アルカリを生成したり、或いは酸若しくはアルカリを濃縮・再生する装置を提供する。
【解決手段】本発明の一態様は、陽極と陰極との間にカチオン交換膜とアニオン交換膜とが交互に配列されて複数の室が形成されており、陽極とカチオン交換膜とで陽極室が画定され、これに隣接して、陽極側から、酸室;電離室;アルカリ室;並びに水解室;の順に配列された室の組が一つ若しくは二つ以上繰り返して配置され、最も陰極側の水解室が陰極室として画定されていることを特徴とする電気透析装置に関する。
【解決手段】本発明の一態様は、陽極と陰極との間にカチオン交換膜とアニオン交換膜とが交互に配列されて複数の室が形成されており、陽極とカチオン交換膜とで陽極室が画定され、これに隣接して、陽極側から、酸室;電離室;アルカリ室;並びに水解室;の順に配列された室の組が一つ若しくは二つ以上繰り返して配置され、最も陰極側の水解室が陰極室として画定されていることを特徴とする電気透析装置に関する。
【発明の詳細な説明】
【発明の属する技術分野】
【0001】
本発明は、電気透析法を利用して、塩水溶液から酸及びアルカリを分離して回収したり、或いは酸若しくはアルカリ水溶液から濃縮・精製された酸若しくはアルカリ水溶液を調製する装置に関する。
【従来の技術】
【0002】
各種工程から副生成物又は廃棄物として排出される中性塩や廃酸・廃アルカリを再利用する技術を開発することは、種々のプラントにおける大きな課題である。例えば、鉄鋼業のステンレス酸洗工程からは、相当量の鉄分を含んだ硝酸とフッ酸の混酸廃液が大量に発生するが、この混酸廃液は濃厚なため、前処理として固形分をろ過した後に拡散透析法を適用して、その大半を回収再利用している。また、半導体デバイスの製造工程からは、フッ酸及びバッファードフッ酸(NH4F+HF)の廃液が大量に発生する。このフッ素含有廃液は従来水酸化カルシウム(Ca(OH)2)を用いる凝集沈殿法により処理されてきたが、取り扱い性の悪い汚泥が大量に発生するという問題があった。フッ酸は資源としても限定され、価格も高く、排出規制も厳しいので、その回収・再利用が望まれている。
【0003】
また、半導体デバイス、液晶ディスプレーのフォトリソグラフィー工程からは有機アルカリ現像廃液が発生する。この有機アルカリ現像廃液は、現像液成分である水酸化テトラメチルアンモニウム(以下「TMAH」と略す)や水酸化トリメチルアンモニウム等の水酸化テトラアルキルアンモニウムなどの安定で無害化処理が困難な成分を含んでいる。これらの活性汚泥法による生物分解処理は大規模な処理施設を要してしまうので、現像液成分は、逆浸透膜法や蒸発法による濃縮減容後に燃焼法による処分をしていたが、この処分法はエネルギーコストが高いという問題点があり、現像液成分の回収・再利用が望まれている。
【0004】
また、加圧水型原子力発電所及び火力発電所の一部では給水系統の水質向上のためにpH調整剤として用いられたエタノールアミン(以下「ETA」と略す)が復水脱塩装置のイオン交換樹脂の再生排水中に含まれている。このETAは排水の化学的酸素要求量を増加させるため、回収・再利用が望まれているが、イオン交換樹脂の再生に用いられた多量の塩素イオンと共存しているため、直接の回収・再利用は困難である。
【0005】
これらの廃液から有用物質を回収して再利用するには、有用成分を分離・濃縮するか、不純物を除去する必要がある。有用成分の分離方法には、有用成分をそのまま直接分離する方法と、これを容易に回収可能な形態に転換してから分離する方法とがある。また、これらの回収・再利用の形態には、対象となる工場の中で回収・再利用を行うオンサイト型と、関連産業群と共同・連携して行うオフサイト型とがある。対象の有用物質をオンサイトで直接分離して回収・再利用する方法は、エネルギー変換過程が少なく、エネルギー効率的に最も優れた可能性をもつことは明らかである。
【0006】
廃液から酸・アルカリを直接分離・回収する方式としては、イオン交換膜を用いた手法が有効であり、具体的な方法としては拡散透析法及び電気透析法が知られている。
【0007】
拡散透析法は、イオン交換膜の両側の溶質濃度差を駆動力としてイオンを透析させる方法であり、省エネルギー型で、遊離している酸やアルカリの透析には使用できるが、中性塩を分解して回収することはできない。また、原理的に廃酸よりも高濃度な酸を得ることができない、水の浸透により透析廃液量の方が原液よりも増大する、透析廃液の中に相当量の廃酸、廃アルカリが残存する、分離率は膜面積に比例することから大きな設備が必要となる、などといった制約と欠点がある。
【0008】
陽イオン交換膜と陰イオン交換膜を交互に配列して構成した電気透析装置を用いる電気透析法は、イオン交換膜の両側の電位差を駆動力としてイオンを透析させる方法であり、中性塩の分解もでき且つ高濃度に濃縮することができるが、脱塩室と濃縮室とを交互に配列する従来の電気透析装置では、塩溶液から酸及びアルカリを生成しようとすると、透析した酸とアルカリとが濃縮室で再び混合してしまうため、酸とアルカリの分離生成には適用できない。
【0009】
また、フッ酸含有排水を電気透析法で処理する場合は、フッ素イオン(F-)が透析又は濃度拡散で陽極室に到達して、陽極の近傍に腐食性の高いフッ酸が濃縮されて、陽極が腐食するという問題がある。また、有機アルカリ含有排水を処理する場合においても有機アルカリ成分が電極室に到達すると電極反応で分解し、悪臭を放つ物質を生成したり、電極の寿命を短くするという問題が有る。このような電極室で起こる有害な電極反応による影響を回避して、高純度な酸及び又はアルカリを安定して回収するのは煩雑で非効率であった。
【0010】
電気透析法を用いてバッファードフッ酸廃液からフッ酸の回収を行う方法として、バッファードフッ酸と透析用に新たに調整した塩酸水溶液を脱塩室に交互に供給して、濃縮室から塩化アンモニウムと塩酸の混合水溶液とフッ酸水溶液を交互に取り出す方法が提案されているが、該方法では、塩酸水溶液の濃度調整が煩雑であるとともに、回収するフッ酸と同等モル数以上の塩酸を消費するという欠点があった。
【0011】
また、電気透析法を用いて溶解したフォトレジストを含む廃TMAH溶液からTMAHの回収を行う方法として、脱塩室及び濃縮室の両方に廃TMAH溶液を供給して、廃TMAH溶液よりもフォトレジスト成分の含有率が少ない濃厚TMAH溶液を濃縮室から回収する方法が提案されているが、この方法では、回収したTMAHを再利用するには純度が不十分であった。
【0012】
更に、電気透析法を用いて廃TMAH溶液からTMAHの濃縮回収を行う方法として、回収するTMAH溶液への不純物の混入を少なくするために陽極室及び陰極室にTMAH溶液を供給し、かつ、TMAHが陽極室で酸化されて生成する強いアミン臭を発する酸化分解生成物である不純物がイオン交換膜を透過して濃縮液中に混入しないように、両電極室中に別液室を設けて別液室中にもTMAH溶液を供給することにより、不純物の混入を抑制する方法が提案されているが、該方法には、別液室に供給するTMAH水溶液の調整が煩雑であること、不純物を生成する有害な電極反応が回避できていないこと、このため電極室及び別液室を循環するTMAH溶液は不純物が混入していて回収が不可能となるという欠点があった。
【0013】
塩水溶液から酸及びアルカリを分離生成する方法としては、バイポーラ膜を利用した電気透析法が知られており、例えば、陽イオン交換膜、バイポーラ膜及び陰イオン交換膜を順に複数枚配列させた三室式セル方式の方法などが提案されている。この三室セル方式を用いて、中性塩から酸/アルカリを生成する方法の概略を図1を参照しながら説明する。
【0014】
図1は、バイポーラ膜を使用した三室セル方式の酸/アルカリ生成装置の典型例の概念図である。バイポーラ膜とは、陽イオン交換膜と陰イオン交換膜とを接着等の手段によって貼り合わせて得られる、それぞれの面が異なるイオン交換性を有する複合膜である。図1に示す装置においては、電極の間に、陽極側から、バイポーラ膜AC(陽極側が陰イオン交換膜A、陰極側が陽イオン交換膜C)、陰イオン交換膜A、陽イオン交換膜C、及びバイポーラ膜ACを、この順番で配列し、この配列を複数回繰り返すことにより、両電極間に、複数の室を形成する。
【0015】
この装置を用いて、例えば水及び中性塩としてNaCl水溶液から、HCl及びNaOHを生成させる方法に関して説明する。両電極間に通電しながら、陽イオン交換膜Cとバイポーラ膜ACとで形成される室及びバイポーラ膜ACと陰イオン交換膜Aとで形成される室に、それぞれ水を導入し、陰イオン交換膜Aと陽イオン交換膜Cとで形成される室にNaCl水溶液を導入する。前者の水が導入される室が、それぞれアルカリ室、酸室と称され、後者の塩水溶液が導入される室が脱塩室と称される。脱塩室中に導入されたNaCl水溶液中に含まれるNa+イオン及びCl-イオンは、それぞれ陰極及び陽極に引かれ、それぞれ陽イオン交換膜C及び陰イオン交換膜Aを透過して、アルカリ室及び酸室に導かれる。一方バイポーラ膜ACにおいては、水が吸収作用によって膜中に吸収され、膜の境界面において電気分解してH+とOH-イオンとに解離する。この生成したイオンが、それぞれバイポーラ膜ACの陽イオン交換膜側及び陰イオン交換膜側を通って、それぞれ酸室及びアルカリ室中に導かれる。
【0016】
したがって、バイポーラ膜ACと陰イオン交換膜Aとにより形成される酸室においては、バイポーラ膜ACより導かれたH+イオンと、陰イオン交換膜Aを通して塩室から導かれたCl-イオンとが供給され、その結果、HCl溶液が生成する。一方、陽イオン交換膜Cとバイポーラ膜ACとにより形成されるアルカリ室においては、バイポーラ膜ACより導かれたOH-イオンと、陽イオン交換膜Cを通して塩室から導かれたNa+イオンとが供給され、その結果、NaOH溶液が生成する。このようにして、バイポーラ膜を利用する方法では水及び塩水溶液から、酸及びアルカリが生成される。
【0017】
このように、バイポーラ膜を利用する方法では、バイポーラ膜の中で水の解離反応を生じさせており、それまでのイオン交換膜利用技術が単に正負荷電によるイオンの選択透過を行ったものであるのに対して、膜そのものを反応の場として利用した新規な技術であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかしながら、このようなバイポーラ膜を用いた電気透析法を利用して、中性塩から酸・アルカリを生成する工業的なプロセスを構成するには次の課題がある。
【0019】
まず第1に、酸室及びアルカリ室に供給する液の調整である。一般に、電気透析で経済的に取り扱える溶液の電解質濃度は、0.5g/Lから5g/Lが望ましく、電解質濃度が0.1g/L以下では、当該室での電圧降下が著しく増大して実質的に運転が不可能になることが知られている。このため、酸室及びアルカリ室に供給する液として純水を使用して、酸及びアルカリを高純度で回収することはできなかった。従って、実際には、酸室及びアルカリ室への供給水としては、純水に回収対象の酸又はアルカリを予め加えて0.5g/L以上の濃度に調整しておく必要があり、その操作は煩雑であった。
【0020】
第2に、前述したように電極室の極液の調整に関する問題がある。通常の電気透析槽の極室では、プラスチック製のスペーサーを充填して水の流路を確保しているが、この極室に純水を供給したのでは、純水は絶縁体であるため、電流が流れない。このため、極室に電解質溶液を供給する必要があった。ところが、フッ素イオンを含有する液を極液として用いると、電極がフッ酸によって腐食してしまい、電極の耐久性、経済性に問題があると共に、回収液に電極から溶解した金属イオンが拡散して不純物として混入してしまうために、これを極液として循環使用する場合に問題があった。また、塩素イオンを含有する液を極液として用いようとすると、陽極で遊離塩素が生成してイオン交換膜を酸化劣化させてしまうという問題があった。このため、極室を構成するイオン交換膜には、酸化劣化に強いフッ素系膜を使用する必要があるが、フッ素系イオン交換膜は高価であり、外液濃度の影響が大で、寸法安定性が悪く、工業的な酸・アルカリの回収には使用しがたいという問題があった。また、有機アルカリを含有する液を極液として用いようとすると、前述のように電極反応で有害な酸化分解生成物が生じるという問題がある。これらの理由のため、極液の成分として用いられる電解質成分は水酸化ナトリウム等の無機アルカリ水溶液、硫酸などの酸水溶液又は硫酸ナトリウムなどの塩水溶液が用いられるが、運転中の電極室は脱塩室又は濃縮室のいずれかとして機能するため、極液の濃度が変化する。このため、極液には常に極液成分を補充したり、極液を一部抜き出して希釈する必要があり、運転中の極液成分の濃度の調整及び維持管理という煩雑な処理が必要であった。また、回収する成分と異なる電解質を極液に用いると回収液に不純物として混入してしまうという欠点があった。
【0021】
第3番目の問題は、バイポーラ膜そのものに関わる本質的な問題点である。バイポーラ膜法は、バイポーラ膜の拡散作用によって水(H2O)を吸収して膜の境界面において電気分解してH+イオンとOH-イオンとを生成するので、膜の特性から、膜内への水の供給には限界がある。バイポーラ膜を用いた透析装置においては、電流密度が増すと境界面領域からの水の解離が多くなって膜表面からの拡散による水の補給が間に合わなくなり、境界面が乾燥する。境界面の乾燥は、非可逆的な損傷をバイポーラ膜に与え、電圧の経時変化をもたらすことが知られている。また、バイポーラ膜は、境界面の僅かな特性の変化が電気抵抗の増大につながるので、高い電流密度を必要とする高濃度廃液の処理には適用しがたい。更に、高い電流密度での運転は、バイポーラ膜の境界における界面剥離や、水ぶくれ等の問題を発生させる可能性がある。
【0022】
このため、電気抵抗が上昇せず、長期に安定して運転可能なバイポーラ膜の開発が精力的に行われたが、塩型と再生型での膨張率が互いに異なる陽イオン交換膜と陰イオン交換膜とを接着してその境界面を安定して維持できるバイポーラ膜の開発は本質的に困難であった。
【0023】
したがって、バイポーラ膜を用いた電気透析によって中性塩から酸及びアルカリを生成させたり或いは酸若しくはアルカリを濃縮・精製する方式は、原理的には優れていたものの、工業的なプロセスでの採用は限定されたものであった。
【0024】
以上のように、半導体産業でのエッチング、洗浄等の工程で使用されたフッ酸廃液を、オンサイトで電気透析法を用いて直接回収・再利用する方法は、これまでなかった。
【0025】
フッ酸の回収方法として、フッ酸廃液を粒状の炭酸カルシウムに接触させてフッ化カルシウムに転化させ、これを回収してフッ酸製造の原料として使用する方法が提案されている。この方法は、再利用可能な高純度フッ化カルシウムが得られる方法であるが、固体−液体反応のため反応速度が遅く、対象処理液としては濃厚フッ酸液に限定され、半導体工場から大量に発生する希薄フッ酸廃液の処理には適していないので希薄なフッ酸廃液処理のために従来の凝集沈殿法を併用する必要があり、併用した場合には全量凝集沈殿法で処理した場合の汚泥発生量の約1/3を削減できるに留まる;この反応の反応速度を高めるためには加温通水することが必要で、設備・運転コストが増大する;シリカ(SiO2)を含んだフッ酸廃液を処理しようとすると、フッ化カルシウム粒子にシリカも吸着してしまい、フッ化カルシウム粒子の再生利用が困難になる;バッファードフッ酸(HF+NH4F)のように高モル比のNH4Fを含む廃液を処理しようとすると、フッ酸からフッ化カルシウムへの転化率が低下するため多段階処理をしてアンモニアを分離する必要があり、装置が大きくなるとともに制御も煩雑になる;などといった制約と課題がある。
【0026】
以上のような現状下、希薄なフッ酸廃液からバッファードフッ酸を含む濃厚なフッ酸廃液まで処理できる省エネルギータイプのフッ酸回収法が望まれていた。一方、廃TMAH溶液からTMAHの回収・再利用においても、不純物を生成する有害な電極反応を回避して、TMAHを省エネルギーかつ高純度に回収する方法が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明者らは、このような問題点を考慮し、バイポーラ膜を用いない新しい方式の電離によって、かつ、電極での有害反応を回避することによって中性塩から酸/アルカリを高純度に生成したり、或いは酸若しくはアルカリを高純度に濃縮・再生する方法を提供すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明装置及び方法を見出した。
【0028】
本発明によれば、電気透析装置の極室に隣接して設けるバッファ室であって、第1のイオン交換膜、第2のイオン交換膜、該第1及び第2のイオン交換膜の間に位置づけられているイオン交換体から構成され、流体供給口と流体排出口とを具備する、バッファ室が提供される。
【0029】
また、本発明によれば、上記バッファ室を具備することを特徴とする電気透析装置が提供される。
【0030】
さらに、本発明によれば、上記バッファ室の流体供給口に純水を供給することを特徴とする電気透析法が提供される。
【0031】
本発明の一態様は、陽極と陰極との間にカチオン交換膜とアニオン交換膜とが交互に配列されて複数の室が形成されており、陽極とカチオン交換膜とで陽極室が画定され、これに隣接して、陽極側から、水又は酸水溶液が供給されてそこから酸濃度の高められた酸水溶液が回収される酸室;処理対象溶液が供給されてそこからイオン濃度が低められた処理液が回収される電離室;水又はアルカリ水溶液が供給されてそこからアルカリ濃度の高められたアルカリ水溶液が回収されるアルカリ室;並びに水が供給されて水素イオン及び水酸イオンが生成せしめられる水解室;の順に配列された室の組が一つ若しくは二つ以上繰り返して配置され、最も陰極側の水解室が陰極室として画定されていることを特徴とする電気透析装置に関する。
【0032】
以下、本発明の一態様に係る電気透析装置を図面を参照しながら詳細に説明する。図2は、本発明の一態様に係る電気透析装置の概略を示す。図2に示す装置においては、陽極+と陰極−との間にカチオン交換膜Cとアニオン交換膜Aとが交互に配列されて複数の室が形成されている。そして、電極とカチオン交換膜Cとで陽極室が構成され、これに隣接して、陽極側から順に、酸室(陽極側にカチオン交換膜、陰極側にアニオン交換膜)、電離室(陽極側にアニオン交換膜、陰極側にカチオン交換膜)、アルカリ室(陽極側にカチオン交換膜、陰極側にアニオン交換膜)、水解室(陽極側にアニオン交換膜、陰極側にカチオン交換膜)からなる室の組が形成され、この組が一つ又は二つ以上繰り返して配置され、最も陰極側に配置された水解室が陰極室として形成される。
【0033】
この装置を用いて、NaCl水溶液及び水から、HCl溶液及びNaOH溶液を生成する方法に関して、図2を参照しながら説明する。両電極間に通電しながら、極室、酸室、アルカリ室及び水解室にそれぞれ水を供給し、電離室にNaCl水溶液を供給する。水が供給される水解室においては、電気分解によって水がH+及びOH-イオンに電離される。電離されたH+イオンは、陰極に引かれて、カチオン交換膜Cを透過して隣接する酸室内に導かれる。一方、電離されたOH-イオンは、陽極に引かれて、アニオン交換膜Aを透過して隣接するアルカリ室内に導かれる。NaCl水溶液が供給される電離室においては、電気分解によってNaClがNa+イオンとCl-イオンとに電離される。電離されたNa+イオンは、陰極に引かれて、カチオン交換膜Cを透過して隣接するアルカリ室内に導かれ、一方、電離されたCl-イオンは、陽極に引かれて、アニオン交換膜Aを透過して隣接する酸室内に導かれる。また、陽極室では、電気分解によって水がH+及びOH-イオンに電離され、H+イオンは陰極に引かれてカチオン交換膜Cを透過して隣接する酸室内に導かれ、OH-イオンは陽極の表面上で反応して酸素を発生させる。一方、陰極室では、同様に電気分解によって水がH+及びOH-イオンに電離され、OH-イオンは陽極に引かれてアニオン交換膜Aを透過して隣接するアルカリ室内に導かれ、H+イオンは陰極の表面上で反応して水素を発生させる。
【0034】
以上に説明したようなイオンの移動が起こることにより、アルカリ室内では、Na+イオン及びOH-イオンが供給される結果としてNaOH溶液が生成され、一方酸室内では、H+イオン及びCl-イオンが供給される結果として、HCl溶液が生成される。このようにして、NaCl水溶液及び水から、NaOH溶液及びHCl溶液を生成・回収することができる。
【0035】
なお、酸室及びアルカリ室には、水に代えて酸水溶液又はアルカリ水溶液を供給すれば、当該室内での液の電気抵抗を低減させることができるので、運転電圧の上昇を抑制することができる。また、酸室及びアルカリ室から回収される酸水溶液及びアルカリ水溶液の少なくとも一部を、再び酸室及びアルカリ室にそれぞれ循環して供給すれば、運転電圧の上昇を抑制すると共に、得られる酸及びアルカリ水溶液の濃度をより高めることができるので好ましい。同様に、電離室から回収されるイオン濃度の低められた塩水溶液の少なくとも一部を、再び電離室に循環して供給することができる。更に、極室及び水解室から回収される水を再び極室及び水解室に再循環してもよい。
【0036】
上記の例は、NaCl水溶液及び水からNaOH溶液及びHCl溶液を生成する方法であるが、本発明に係る電気透析装置を用いて、電離室への流入液を適宜選択することによって、種々の酸/アルカリの組み合わせを生成・回収したり、或いは種々の酸若しくはアルカリ廃液から精製された酸若しくはアルカリ水溶液を調製することができる。例えば、塩水溶液として炭酸アンモニウム((NH4)2CO3)を用い、これを電離室に供給すると共に、酸室及びアルカリ室に水を供給し、水解室及び極室に水を供給して運転すれば、酸室からは炭酸(H2CO3)溶液が、アルカリ室からはアンモニア水(NH4OH)溶液が得られる。勿論、この場合には、酸室及びアルカリ室には、水に代えてそれぞれ炭酸溶液及びアンモニア溶液を供給してもよく、各室から排出される液を再び同じ室に循環して供給してもよい。更に、塩水溶液としてサリチル酸ナトリウム(NaC7H5O3)を本発明の電気透析装置で処理すれば、サリチル酸(C7H6O3)溶液と水酸化ナトリウム(NaOH)溶液とが得られる。
【0037】
更に、本発明の電気透析装置を用いて、例えば、廃塩酸水溶液から濃縮塩酸水溶液を生成させることができる。図3に、本発明の電気透析装置を用いて廃塩酸水溶液から濃縮塩酸水溶液を回収する方法の一例の概要を示す。図3に示す電気透析装置は、図2に示す装置と同様の膜配列及び室配列を有している。電離室には、塩酸廃液(希薄塩酸にナトリウム等の不純物が混入している)を供給する。電離室内では、電気分解によって塩素イオンCl-と水素イオンH+並びに不純物金属イオンM+(希薄塩酸の処理の場合にはNa+)が生成し、塩素イオンCl-は陽極に引かれ、アニオン交換膜を通して隣接する酸室へ導入され、水素イオンH+並びに金属イオンM+は陰極に引かれ、カチオン交換膜を通して隣接するアルカリ室へ導入される。そして、酸室では隣接する極室若しくは水解室からカチオン交換膜を通して導入されるH+イオンにより、塩酸HClが生成する。これにより、不純物イオン(上記の場合にはNa+)を除去した精製塩酸溶液を得ることができる。この場合においても、図3に示すように、各室からの排出液の少なくとも一部を再び同じ室に循環して供給するようにすれば、より効率的に処理を行うことができる。
【0038】
同様に廃TMAH溶液を本発明の図3に示す電気透析装置で処理すれば、精製TMAH溶液を得ることができる。この場合、電離室に廃TMAH水溶液を供給すればアルカリ室にTMAHが生成する。廃TMAH中に溶解しているフォトレジストはイオン交換膜を透過しないので供給液中に残存し、空気中から溶解してきた炭酸ガス成分等の陰イオンは酸室へ導入されるのでアルカリ室から精製TMAH溶液を得ることができる。
【0039】
なお、図3では、極室への水の供給は並列に供給する形態が示されているが、これは本発明の一実施形態の例示であり、陽極室に供給した水の出口水を陰極室に供給する、又は、陰極室に供給した水の出口水を陽極室に供給するといった直列に供給する形態、又は、陽極室、陰極室ともそれぞれ個別に循環系統を持つ形態も当然可能であり、本発明の範囲に含まれる。
【0040】
また、本発明の電気透析装置においては、陽極室をカチオン交換膜で二つに分割し陽極室とバッファ室に分離し、更に陰極室もアニオン交換膜で二つに分割し陰極室とバッファ室に分離しても良い。また、陽極室だけ又は陰極室だけを分割して、片側にだけバッファ室を設けることも可能である。このように、陽極室及び/又は陰極室を分割して、極室に隣接したバッファ室を配置することにより、それに隣接する酸室又はアルカリ室からイオン交換膜を濃度拡散して混入した物質をバッファ室で回収できるようになるので、これを電極室まで到達させること無く、電極の腐食や酸化生成物の生成などの有害な電極反応を防止できるという利点が得られる。例えば、半導体デバイスのウェットプロセスから排出されるフッ酸廃液(フッ酸(HF)とバッファードフッ酸(NH4F)との混合液)を図3に示す態様の電気透析装置によって処理しようとした場合、フッ酸イオン(F-)のようにイオン径の小さなイオンは、陽極室とそれに隣接する酸室とを区切るカチオン交換膜の異種イオン遮断性にも拘らず、濃度拡散によってカチオン交換膜を透過して陽極室内に混入してしまう。このため、陽極室内に混入したフッ酸イオンによって電極が腐食してしまうという問題がある。このような場合に、例えば陽極室を分割してバッファ室を形成すると、陽極室内へのフッ酸イオンの混入をより抑制することができ、その結果、電極の腐食を抑制することができる。
【0041】
図4に、極室を分割してバッファ室を形成した態様の電気透析装置を用いて、フッ酸廃液から精製フッ酸溶液を回収する方法の一例の概要を示す。図4に示す電気透析装置は、陽極室がカチオン交換膜で更に二つに分割されて陽極室とバッファ室が構成され、陰極室がアニオン交換膜で更に二つに分割されて陰極室とバッファ室が構成されていて、バッファ室に純水が循環して供給されている点のみが図3に示す電気透析装置と異なっている。このような電気透析装置の電離室にフッ酸廃液(フッ酸(HF)とバッファードフッ酸(NH4F)との混合液)を供給すると、電離室内では、電気分解によってフッ素イオンF-と水素イオンH+並びに不純物イオンM+(バッファードフッ酸の場合にはNH4+)が生成し、フッ素イオンF-は陽極に引かれ、アニオン交換膜を通して隣接する酸室へ導入され、水素イオンH+並びに不純物イオンM+は陰極に引かれ、カチオン交換膜を通して隣接するアルカリ室へ導入される。そして、酸室では隣接する極室若しくは水解室からカチオン交換膜を通して導入されるH+イオンにより、フッ酸HFが生成する。これにより、不純物イオン(上記の場合にはNH4+)を除去した精製フッ酸溶液を得ることができる。また、バッファ室に隣接する酸室においては、高い濃度のフッ酸水が循環しているため、イオン径の小さなフッ素イオンF-は濃度勾配によってカチオン交換膜を透過してバッファ室内に混入するが、ここでバッファ室水に溶解して排出されるので、陽極室内に混入することが避けられ、陽電極がフッ素イオンによって腐食するという問題を回避することができる。
【0042】
なお、図4に示す形態では、バッファ室に対して独立した純水循環系が形成されているが、極室及び水解室に対する純水循環系とバッファ室に対する純水循環系とを合体させて、極室、水解室及びバッファ室にそれぞれ並列に純水を循環して供給することもできるし、それぞれのバッファ室に対して個別に純水循環系を形成することもできる。また、陽極側バッファ室に供給した水の出口水を陰極側バッファ室に供給するか、又は陰極側バッファ室に供給した水の出口水を陽極側バッファ室に供給することもできる。
【0043】
本発明の電気透析装置に用いられるイオン交換膜としては、陽イオンと陰イオンを選択的に分離できるものであれば特に限定されずに使用でき、例えば、ネオセプタ[(株)トクヤマ製]、アシプレックス[旭化成工業(株)製]、セレミオン[旭硝子(株)製]等を挙げることができる。
【0044】
また、電極も一般の電気透析槽に用いられているものが使用でき、陽極としては、白金、ルテニウム、イリジウム等をチタン表面にコーティングした、いわゆる不溶性電極が好適に使用できる。また、陰極としては過電圧の低いSUS316、チタン白金コーティングが好適に使用できる。
【0045】
なお、本発明の電気透析装置においては、極室及び水解室にはイオン交換体が充填されていることが望ましい。極室及び水解室内にイオン交換体を充填することにより、イオンが室内を流れやすくなるので、これらの室に純水を供給しても、運転電圧の上昇を抑制することができる。また、水解室で行われる水の解離(水解)は、異なる電荷のイオン交換体が接触する箇所で容易に起こるので、水解室内にイオン交換体を充填して水解の発生場を形成することが望ましい。更に、酸室、アルカリ室、電離室、及びバッファ室においても、イオン交換体が充填されていることが好ましい。これらの室にもイオン交換体を充填することにより、各室でのイオンの移動速度が上昇して、運転効率が増大すると共に、酸室及びアルカリ室においては、イオン交換体を充填することにより、立ち上げ時の電圧を低減することができ、また電離室にイオン交換体を充填すれば、回収完了時の電圧低減と、処理水のイオン濃度のより一層の低減が可能である。更にバッファ室にイオン交換体を充填することにより、イオンの移動速度が上昇して運転電圧が低減するという利点が得られる。このように、室内にイオン交換体を充填することで、運転電圧を低減することによって、電力消費量を低減することができると共に、電気透析槽内部でのジュール熱による発熱のために処理液が高温になってしまうことも回避することができる。
【0046】
なお、極室に関しては、陽極室にカチオン交換体、陰極室にアニオン交換体を充填することが好ましい。また、バッファ室に関しては、陽極室に隣接するバッファ室にはカチオン交換体、陰極室に隣接するバッファ室にはアニオン交換体を充填することが好ましい。
【0047】
本発明の電気透析装置において、極室、水解室、酸室、アルカリ室、電離室、バッファ室に充填することのできるイオン交換体としては、例えば、従来の電気透析装置や電気脱塩装置において広く用いられているイオン交換樹脂ビーズを用いることができる。このような目的で用いることのできるイオン交換樹脂ビーズとしては、当該技術において公知の、ポリスチレンをジビニルベンゼンで架橋したビーズなどを基材樹脂として用いて製造したものを用いることができる。例えば、スルホン基を有する強酸性カチオン交換樹脂を製造する場合には、上記の基材樹脂を硫酸やクロロスルホン酸のようなスルホン化剤で処理してスルホン化を行い、基材にスルホン基を導入することによって、強酸性カチオン交換樹脂を得る。また、例えば4級アンモニウム基を有する強塩基性アニオン交換樹脂を製造する場合には、基材樹脂をクロロメチル化処理した後、トリメチルアミンのような3級アミンを反応させて4級アンモニウム化を行うことにより、強塩基性アニオン交換樹脂を得る。このような製造方法は当該技術において周知であり、またこのような手法によって製造されたイオン交換樹脂ビーズは、例えば、Dowex MONOSPHERE 650C(ダウケミカル)、Amberlite IR-120B(ローム&ハース)、Dowex MONOSPHERE 550A(ダウケミカル)、Amberlite IRA-400(ローム&ハース)などの商品名で市販されている。
【0048】
また、本発明の電気透析装置において、極室、バッファ室、水解室、酸室、アルカリ室、電離室に充填することのできるイオン交換体としては、織布、不織布等の繊維基材にイオン交換基を導入したイオン交換繊維材料を用いることもできる。この場合には、斜交網材料等で形成されるスペーサーを併用して、室内での液の流路を確保することが好ましい。また、イオン交換体として、斜交網材料等で形成されるスペーサーにイオン交換基を導入したイオン伝導スペーサーを用いることもできるし、更には、イオン交換繊維材料とイオン伝導スペーサーとを組み合わせて、極室、バッファ室、水解室、酸室、アルカリ室、電離室等に充填することもできる。
【0049】
例えば、本発明の電気透析装置の極室においては、陽極室のカチオン交換膜と陽極板との間の極液流路にカチオン伝導スペーサーを1枚又は複数枚、陰極室のアニオン交換膜と陰極板との間の極液流路にアニオン伝導スペーサーを1枚又は複数枚充填することができる。このように、極室にイオン伝導スペーサーを充填することにより、極室に対して純水を供給しても安定して運転を行うことができる。同様にバッファ室についても、陽極室に隣接するバッファ室においてはカチオン伝導スペーサーを1枚又は複数枚、陰極室に隣接するバッファ室においてはアニオン伝導スペーサーを1枚又は複数枚充填することができる。
【0050】
また、本発明の電気透析装置の水解室においては、カチオン交換膜側にカチオン交換繊維材料、アニオン交換膜側にアニオン交換繊維材料を対向して装填し、その間にイオン伝導性を付与したイオン伝導スペーサーを装填することが好ましい。このように水解室にイオン交換繊維材料とイオン伝導スペーサーとを装填することにより、イオン伝導スペーサーと異種の電荷を有するイオン交換繊維材料との接触面積が大きくなり、水解の反応場が広くなって反応をマイルドに、即ち電圧を低く保持することが可能になる。なお、この場合、イオン交換繊維材料の間に装填するイオン伝導スペーサーとしては、カチオン伝導スペーサーを1枚又は複数枚充填すると、水解電圧が低くなるので好ましい。また、イオン伝導スペーサーとしてアニオン伝導スペーサーを1枚又は複数枚充填してもよく、或いはカチオン交換繊維材料側にカチオン伝導スペーサーをアニオン交換繊維材料側にアニオン伝導スペーサーをそれぞれ充填することもできる。
【0051】
水の解離(水解)は、H2O⇔H++OH-という平衡反応が左から右へ移行する反応であり、低電圧で発生するH+イオンとOH-イオンが水解室に充填されたイオン交換体を伝導して電流を運ぶので、水解室には高純度な純水を供給することができる。高純度な純水を水解室に供給することにより、水解室から不純物イオンが除去されて酸室又はアルカリ室に混入することなく、水解室からはH+イオンだけが酸室に、OH-イオンだけがアルカリ室に供給される。
【0052】
水解を起こす反応の場である異種のイオン交換体の接触面積は大きい方が電圧降下が小さいことが実験の結果判明しているが、カチオン伝導スペーサーとアニオン伝導スペーサーとを接触させた場合には接触面積が小さいので電圧降下が大きい。しかし、イオン伝導スペーサーとイオン交換繊維材料とを接触させた場合には密着して接触することができるので、電圧降下がイオン伝導スペーサー同士の場合よりも小さくなる。とりわけ、カチオン伝導スペーサーとアニオン交換繊維材料とを接触させる場合が、アニオン伝導スペーサーとカチオン交換繊維材料とを接触させる場合よりも電圧降下が小さくなることが分かった。しかしながら、この理由については理論的には解明されていない。
【0053】
本発明の電気透析装置の電離室、酸室及びアルカリ室においては、例えば、カチオン交換膜側にカチオン伝導スペーサーを、アニオン交換膜側にアニオン伝導スペーサーを対向して装填することができる。また、カチオン交換膜側にカチオン交換繊維材料を、アニオン交換膜側にアニオン交換繊維材料を対向して装填し、その間の処理液流路に流路を確保するためのスペーサーを装填してもよい。更には、カチオン交換膜側にカチオン交換繊維材料を、アニオン交換膜側にアニオン交換繊維材料を対向して装填し、その間の処理液流路にイオン伝導性を付与したイオン伝導スペーサーを装填することが好ましい。このような構成を採用すると、酸室、アルカリ室においては、イオン交換膜全体を利用してイオン伝導を行うことにより、運転電圧の低減と膜の長寿命化が可能になり、また、電離室においては、イオン交換面積が大きくなるので、イオン除去率が向上すると共に、槽を小型化することが可能になる。
【0054】
本発明の電気透析装置の水解室、電離室、酸室及びアルカリ室にイオン伝導スペーサーを装填する場合には、イオン交換膜とイオン伝導スペーサーとの間にイオン交換繊維材料を配置することが望ましい。イオン交換膜とイオン交換繊維材料とが直接接触するとその個所を介してイオンが集中的に伝導して、特に高電流密度で運転した場合にはその部分のイオン交換膜の劣化を早めることになってしまう。ここで、イオン交換膜とイオン伝導スペーサーとの間にイオン交換繊維材料を介在させれば、イオン交換繊維材料は細かい繊維でできているので、イオン交換膜の全面に密着してイオン交換膜の全面がイオンの伝導に寄与することになり、イオン交換膜を局所的に劣化させることなく、且つ電気抵抗が低減されることにより、当該室における電圧降下が小さくなり、その結果、運転電圧の上昇を抑制することができる。
【0055】
また、本発明の電気透析装置の電離室にイオン交換繊維材料のみを装填すると、液は繊維材料の間の空間を勢いよく流れてしまうので、液からイオンを分離する効率が大幅に低下してしまう。これを防ぐためには繊維材料を電離室内に密に充填しなければならなくなり、液が流れる際の抵抗が大きくなり、液の流入圧力を高く保持する必要が出てくる。このため、電離室にイオン交換繊維材料を装填する場合には、カチオン交換膜側にカチオン交換繊維材料を、アニオン交換膜側にアニオン交換繊維材料を装填し、その間にスペーサーを装填することが好ましい。このようにスペーサーを配置することにより、室内に導入された液流が乱流を形成しながら分散されて流れ、その際に、カチオンはカチオン交換繊維材料に、アニオンはアニオン交換繊維材料にそれぞれ捕捉されるので、液中のイオン性物質が高効率で分離される。更に、スペーサーとしてイオン伝導性を付与したイオン伝導スペーサーを装填すると、液中のイオン性物質の除去が進み、処理液が純水に近くなっても電流が流れやすく、運転電圧の上昇を大きく軽減することが可能になる。
【0056】
本発明の電気透析装置においては、酸室及びアルカリ室においても、カチオン交換膜側にカチオン交換繊維材料を、アニオン交換膜側にアニオン交換繊維材料を対向して装填し、その間の液流路にイオン伝導性を付与したイオン伝導スペーサーを装填することによって、運転電圧を軽減することができる。このため、酸又はアルカリの回収液として純水を使用するが可能であり、予め回収する酸やアルカリの成分で調整した希酸溶液や希アルカリ溶液を用意する必要がなく、運転操作が容易になる。また、回収する酸やアルカリに、回収液に由来する不純物を混入させることなしに回収することができる。
【0057】
なお、電離室、酸室及びアルカリ室に装填するイオン伝導スペーサーは、1枚でも複数枚でもよく、イオン交換機能の異なるカチオン伝導スペーサーとアニオン伝導スペーサーとを任意に組み合わせて配置することができる。被処理水の種類、回収する酸又はアルカリの種類、不純物濃度などの諸条件に応じて、イオン伝導スペーサーの組み合わせを選択することによって、種々の条件に合致した電気透析装置を形成することができる。例えば、各室内において、カチオン交換繊維材料に隣接してカチオン伝導スペーサーを、アニオン交換繊維材料に隣接してアニオン伝導スペーサーを配置することができる。また、カチオン伝導スペーサーを2枚配置しても、アニオン伝導スペーサーを2枚配置してもよい。更に、各室毎に配置するイオン伝導スペーサーの組み合わせを変えることもできる。
【0058】
例えば、本発明者らの実験により、電離室においては、カチオン交換膜側にカチオン交換繊維材料を、アニオン交換膜側にアニオン交換繊維材料を対向して装填し、その間にカチオン伝導スペーサーのみを2枚配置する場合が最も電圧降下が少なく、また、両イオン交換繊維材料の間にアニオン伝導スペーサーのみを1枚又は複数枚電離室に組み込むと、被処理液中に残存するアニオンの濃度を減少させることができることが分かった。また、酸室及びアルカリ室においては、カチオン交換膜側にカチオン交換繊維材料を、アニオン交換膜側にアニオン交換繊維材料を対向して装填し、その間の流路においては、カチオン交換繊維材料側にカチオン伝導スペーサーをアニオン交換繊維材料側にアニオン伝導スペーサーを配置した場合と、カチオン伝導スペーサーを2枚配置した場合とが、電圧降下が少なく好適に適用することができることが分かった。しかしながら、上記のような組み合わせを採用した場合に何故低電圧化が達成されるかについては、理論的には解明されていない。
【0059】
上記において説明したような本発明の電気透析装置において用いることのできるイオン交換繊維材料としては、高分子繊維基材にイオン交換基をグラフト重合法によって導入したものが好ましく用いられる。高分子繊維よりなるグラフト化基材は、ポリオレフィン系高分子、例えばポリエチレンやポリプロピレンなどの一種の単繊維であってもよく、また、軸芯と鞘部とが異なる高分子によって構成される複合繊維であってもよい。用いることのできる複合繊維の例としては、ポリオレフィン系高分子、例えばポリエチレンを鞘成分とし、鞘成分として用いたもの以外の高分子、例えばポリプロピレンを芯成分とした芯鞘構造の複合繊維が挙げられる。かかる複合繊維材料に、イオン交換基を、放射線グラフト重合法を利用して導入したものが、イオン交換能力に優れ、厚みが均一に製造できるので、本発明において用いられるイオン交換繊維材料として好ましい。イオン交換繊維材料の形態としては、織布、不織布などを挙げることができる。
【0060】
また、本発明の電気透析装置において用いられるスペーサーとしては、ポリオレフィン系高分子製樹脂、例えば、従来公知の電気透析槽において使用されているポリエチレン製の斜交網(ネット)で構成されるものが好ましく用いられる。更に、イオン伝導スペーサーとしては、これらの材料を基材として、これに、放射線グラフト重合法を用いてイオン交換機能を付与したものが、イオン伝導性に優れ、被処理水の分散性に優れているので、好ましい。なお、放射線グラフト重合法とは、高分子基材に放射線を照射してラジカルを形成させ、これにモノマーを反応させることによってモノマーを基材中に導入するという技法である。
【0061】
放射線グラフト重合法に用いることができる放射線としては、β線、ガンマ線、電子線等を挙げることができるが、本発明においてはガンマ線や電子線を好ましく用いる。放射線グラフト重合法には、グラフト基材に予め放射線を照射した後、グラフトモノマーと接触させて反応させる前照射グラフト重合法と、基材とモノマーの共存下に放射線を照射する同時照射グラフト重合法とがあるが、本発明においては、いずれの方法も用いることができる。また、モノマーと基材との接触方法により、モノマー溶液に基材を浸漬させたまま重合を行う液相グラフト重合法、モノマーの上記に基材を接触させて重合を行う気相グラフト重合法、基材をモノマー溶液に浸漬した後モノマー溶液から取り出して気相中で反応を行わせる含浸気相グラフト重合法などを挙げることができるが、いずれの方法も本発明において用いることができる。
【0062】
これら繊維基材及びスペーサー基材に導入するイオン交換基としては、特に限定されることなく種々のカチオン交換基又はアニオン交換基を用いることができる。例えば、カチオン交換基としては、スルホン基などの強酸性カチオン交換基、リン酸基などの中酸性カチオン交換基、カルボキシル基、フェノール性水酸基などの弱酸性カチオン交換基、アニオン交換基としては、第1級〜第3級アミノ基などの弱塩基性アニオン交換基、第4アンモニウム基などの強塩基性アニオン交換基を用いることができ、或いは、上記カチオン交換基及びアニオン交換基の両方を併有するイオン交換体を用いることもできる。
【0063】
これらの各種イオン交換基は、これらのイオン交換基を有するモノマーを用いてグラフト重合、好ましくは放射線グラフト重合を行うか、又はこれらのイオン交換基に転換可能な基を有する重合性モノマーを用いてグラフト重合を行った後に当該基をイオン交換基に転換することによって、繊維基材又はスペーサー基材に導入することができる。この目的で用いることのできるイオン交換基を有するモノマーとしては、アクリル酸(AAc)、メタクリル酸、スチレンスルホン酸ナトリウム(SSS)、メタリルスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸ナトリウム、ビニルスルホン酸ナトリウム、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライド(VBTAC)、ジエチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリルアミドなどを挙げることができる。例えば、スチレンスルホン酸ナトリウムをモノマーとして用いて放射線グラフト重合を行うことにより、基材に直接、強酸性カチオン交換基であるスルホン基を導入することができ、また、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライドをモノマーとして用いて放射線グラフト重合を行うことにより、基材に直接、強塩基性アニオン交換基である第4級アンモニウム基を導入することができる。また、イオン交換基に転換可能な基を有するモノマーとしては、アクリロニトリル、アクロレイン、ビニルピリジン、スチレン、クロロメチルスチレン、メタクリル酸グリシジル(GMA)などが挙げられる。例えば、メタクリル酸グリシジルを放射線グラフト重合によって基材に導入し、次に亜硫酸ナトリウムなどのスルホン化剤を反応させることによって強酸性カチオン交換基であるスルホン基を基材に導入したり、又はクロロメチルスチレンをグラフト重合した後に、基材をトリメチルアミン水溶液に浸漬して4級アンモニウム化を行うことによって、強塩基性アニオン交換基である第4級アンモニウム基を基材に導入することができる。
【0064】
なお、上記の繊維基材及び/又はスペーサー基材にカチオン交換基を導入する場合には少なくともスルホン基を、アニオン交換基を導入する場合には少なくとも第4級アンモニウム基を導入することが好ましい。これは、流入水として純水を用いる場合には、処理水のpHが中性領域であり、したがって存在するイオン交換基がこの領域でも解離しているスルホン基や第4級アンモニウム基でなければ電圧が高くなってしまい、所定の性能を発揮することが困難になる可能性があるからである。勿論、弱酸性のカチオン交換基であるカルボキシル基や、弱塩基性のアニオン交換基である第3級アミノ基やより低級のアミノ基が、イオン交換繊維材料及び/又はイオン伝導スペーサーに同時に存在していてもよいが、イオン交換繊維材料の場合には、スルホン基及び第4級アンモニウム基が、それぞれ中性塩分解容量として0.5〜3.0meq/gの範囲、イオン伝導スペーサーの場合には、スルホン基及び第4級アンモニウム基が、それぞれ中性塩分解容量として0.5〜2.0meq/gの量で存在することが好ましい。なお、イオン交換容量はグラフト率を変化させることによって増減させることができ、グラフト率が大きいほど、イオン交換容量が大きくなる。
【0065】
本発明に係る電気透析装置の各室の厚さは、2.0〜10mmが好ましく、低電圧や高流量などを考慮すると、2.5〜3.5mmが特に好ましい。この室の中に、種々のイオン交換繊維材料やイオン伝導スペーサーを充填して数多くの実験を行った結果、良好で安定な処理水質を得るためには、繊維材料基材としては、厚さが0.1〜1.0mm、目付が10〜100g/m2、空隙率が50〜98%、繊維径が10〜70μmの不織布基材が好ましく、またスペーサー基材としては厚さが0.3〜1.5mmの範囲が好ましいことが分かった。
【0066】
本発明の電気透析装置において用いるスペーサーの形状としては、斜交網が適している。スペーサーネットの具備すべき条件として、被処理水が乱流を起こしながら分散して流れ易いこと、ネットとイオン交換繊維材料とが十分に密着することができること、溶出物や粒子の発生が少ないこと、圧力損失が小さいこと、不織布の変形や圧密化が起こらないよう不織布に密着すること、などが挙げられる。このような条件を具備する基材としては、例えば図5に示されるような斜交網材料が好適であるが、このような形状に限定される訳ではない。網の厚さとしては、0.3〜1.5mmの範囲であれば、処理流量を大きくとることができ圧力損失が小さいので好適である。全体としてこの範囲内であれば複数枚のスペーサーネットを装填することができる。
【0067】
本発明の電気透析装置においては、好ましくは2.5〜10mmの厚さの各室の中に、イオン交換繊維材料及びイオン伝導スペーサーを適宜挟み込むのであるが、各々の材料の厚さを合計した値は、各室の厚さを超える場合が普通である。それぞれの材料の厚さは、流量、圧力損失、処理水質、電圧などを考慮して、適宜決定することができる。
【0068】
本発明の好ましい態様において、各室中に装填するスペーサーの形状、各材料の厚さについても、上記と同様であり、流量、圧力損失、濃縮水の分散性などを考慮して適宜決定することができる。
【0069】
本発明の電気透析装置において、各室を構成するのに用いることができる枠体の材料は、例えば、硬質塩化ビニール、ポリプロピレン、ポリエチレン、及びEPDM等が、容易に入手可能で、加工が容易で、かつ形状安定性に優れているので好適であるが、これらに特に限定されるものではなく、電気透析槽の枠体として当該技術において使用されている任意の材料を用いることができる。
【実施例】
【0070】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0071】
実施例1
イオン交換不織布の製造
表1に、本実施例においてイオン交換不織布の製造に使用した基材不織布の仕様を示す。この不織布は、芯がポリプロピレン、鞘がポリエチレンから構成される複合繊維を熱融着によって不織布にしたものである。
【0072】
【表1】
【0073】
表1に示した不織布に、ガンマ線を、窒素雰囲気下で照射した後、メタクリル酸グリシジル(GMA)溶液に浸漬して反応させ、グラフト率175%を得た。次に、このグラフト処理済不織布を、亜硫酸ナトリウム/イソプロピルアルコール/水の混合液中に浸漬して反応させ、スルホン化を行った。得られたイオン交換不織布のイオン交換容量を測定したところ、中性塩分解容量が2.82meq/gの強酸性カチオン交換不織布が得られたことが分かった。
【0074】
一方、上記のようにガンマ線を照射した不織布を、クロロメチルスチレン(CMS)溶液に浸漬して反応させたところ、148%のグラフト率が得られた。このグラフト処理済不織布を、トリメチルアミン10%水溶液中に浸漬して反応させ、4級アンモニウム化を行った。得られたイオン交換不織布は、中性塩分解容量が2.49meq/gの強塩基性アニオン交換不織布であった。
【0075】
イオン伝導スペーサーの製造
表2に、本実施例においてイオン伝導スペーサーの製造に使用した基材斜交網の仕様を示す。
【0076】
【表2】
【0077】
表2に示した斜交網基材に、N2雰囲気下でガンマ線を照射した後、スチレンスルホン酸ナトリウム(SSS)/ジメチルホルムアミド(DMF)/水の混合液中に浸漬して反応させ、グラフト率160%を得た。イオン交換容量を測定したところ、中性塩分解容量が1.05meq/gの強酸性カチオン伝導スペーサーが得られた。
【0078】
表2に示す斜交網基材に上記と同様の照射を行い、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライド(VBTAC)/ジメチルアクリルアミド(DMAA)/水の混合液中に浸漬して反応させてグラフト率130%を得た。このスペーサーは、中性塩分解容量が0.82meq/gの強塩基性アニオン伝導スペーサーであった。
【0079】
通水試験
上記で得られたイオン交換不織布及びイオン伝導スペーサー並びに市販のイオン交換膜を用いて、図3に示す構成の電気透析装置を形成した。カチオン交換膜としては、株式会社トクヤマ製のカチオン交換膜(商品名:CMB)を、アニオン交換膜としては株式会社トクヤマ製のアニオン交換膜(商品名:AHA)をそれぞれ用いた。酸室、電離室、アルカリ室、水解室及び極室の寸法はそれぞれ35×220mm×厚さ3mmであった。陽極室には上記で得られたカチオン伝導スペーサーを4枚、陰極室には上記で得られたアニオン伝導スペーサーを4枚充填した。酸室においては、陽極側から順に、上記で得られたカチオン交換不織布、カチオン伝導スペーサーを1枚、アニオン伝導スペーサーを1枚、アニオン交換不織布を充填し、アルカリ室においては陽極側から順に、上記で得られたカチオン交換不織布、カチオン伝導スペーサーを1枚、アニオン伝導スペーサーを1枚、アニオン交換不織布を充填し、水解室においては陽極側から順に、上記で得られたアニオン交換不織布、カチオン伝導スペーサーを2枚、カチオン交換不織布を充填し、電離室においては陽極側から順に、上記で得られたアニオン交換不織布、カチオン伝導スペーサーを2枚、カチオン交換不織布を充填した。
【0080】
この装置を用いて、図3に示すように各室からの回収水をそれぞれ同じ室に全量循環して希薄塩酸水の処理を行った。循環は、電離室に関しては15Lのタンクを介して、他の室に関しては1.3Lのタンクを介して行った。運転開始時の各室への供給水は、電離室が塩酸0.53重量%水溶液であり、極室、水解室、酸室、アルカリ室が抵抗値16.8MΩの純水であった。運転は定電流運転(2.6A/dm2)で行った。循環液中の塩酸の濃度測定を、導電率測定(予め検量線を作成)又は水酸化ナトリウムを用いた中和滴定によって行った。電離室への供給液(循環液)及び酸室への供給液(循環液)中に含まれる塩酸の全量(モル数)の経時変化を図6に、運転電圧の経時変化を図7に示す。1000分運転後の電離室への供給液(循環液)及び酸室への供給液(循環液)の塩酸濃度は、それぞれ、0.03重量%、5.4重量%であった。
【0081】
図6及び図7により、本発明の電気透析装置を用いて、希薄な塩酸溶液から塩酸の回収を効率よく行うことができ、10倍に濃縮することができたことが分かる。処理水の塩酸濃度は0.03重量%まで減少できた。極室、水解室、酸室、アルカリ室への初期供給水として高純度な純水を用いたにもかかわらず、運転初期においても低電圧で運転することができた。
【0082】
実施例2
実施例1と同様の装置を用いて、同様に希薄TMAH溶液の処理を行った。運転開始時の各室への供給水は、電離室がTMAH0.13重量%水溶液であり、極室、水解室、酸室、アルカリ室が抵抗値16.8MΩの純水であった。循環は、電離室に関しては5Lのタンクを介して、他の室に関しては0.5Lのタンクを介して行った。運転は定電流運転(2.6A/dm2)で行った。循環液中のTMAHの濃度測定を、導電率の測定(予め検量線を作成)又は塩酸を用いた中和滴定によって行った。電離室への供給液(循環液)及びアルカリ室への供給液(循環液)中に含まれるTMAHの全量(モル数)の経時変化を図8に、運転電圧の経時変化を図9に示す。100分運転後の電離室への供給液(循環液)及びアルカリ室への供給液(循環液)のTMAH濃度は、それぞれ、0.01重量%、1.1重量%であった。
【0083】
図8及び図9により、本発明の電気透析装置を用いて、0.13重量%と希薄なTMAH溶液からTMAHの回収を効率よく行うことができ、約10倍に濃縮することができたことが分かる。処理水のTMAH濃度は0.01重量%まで減少できた。極室、水解室、酸室、アルカリ室への初期供給水として高純度な純水を用いたにもかかわらず、運転初期においても低電圧で運転することができた。
【0084】
実施例3
実施例2と同じ装置を用いて、実施例1より濃厚なTMAH溶液の処理を行った。運転開始時の各室への供給水は、電離室がTMAH0.66重量%水溶液であり、極室、水解室、酸室、アルカリ室が抵抗値16.8MΩの純水であった。循環は、電離室に関しては5Lのタンクを介して、他の室に関しては0.5Lのタンクを介して行った。運転は定電流運転(2.6A/dm2)で行った。循環液中のTMAH濃度の測定を実施例2と同様に行った。電離室への供給液(循環液)及びアルカリ室への供給液(循環液)中に含まれるTMAHの全量(モル数)の経時変化を図10に、運転電圧の経時変化を図11に示す。300分運転後の電離室への供給液(循環液)及びアルカリ室への供給液(循環液)のTMAH濃度は、それぞれ、0.01重量%、6.1重量%であった。
【0085】
図10及び図11により、本発明の電気透析装置を用いて、TMAH溶液からTMAHの回収を効率よく行うことができ、約10倍に濃縮することができたことが分かる。処理水のTMAH濃度は0.01重量%まで減少できた。極室、水解室、酸室、アルカリ室への初期供給水として高純度な純水を用いたにもかかわらず、運転初期においても低電圧で運転することができた。
[発明の効果]
本発明に係る電気透析装置によれば、従来のバイポーラ膜を用いた電気透析法における不具合を生じさせることなく、安定した運転電圧で、酸廃液の精製処理、アルカリ廃液の精製処理、または、塩溶液からの酸・アルカリの生成を効率よく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】図1は、従来のバイポーラ膜を用いた電気透析法によって塩化ナトリウム水溶液と水から塩酸及び水酸化ナトリウムを生成する方法の概念を示す図である。
【図2】図2は、本発明の一態様に係る電気透析装置によって、塩化ナトリウム水溶液と水とから塩酸及び水酸化ナトリウムを生成する方法の概念を示す図である。
【図3】図3は、本発明の一態様に係る電気透析装置によって、塩酸廃液から精製塩酸水を得る方法の概念を示す図である。
【図4】図4は、本発明の他の態様に係る電気透析装置によって、フッ酸廃液から濃縮フッ酸水を得る方法の概念を示す図である。
【図5】図5は、本発明の電気透析装置において好ましく用いることのできる斜交網基材の構造を示す図である。
【図6】図6は、本発明の実施例1の通水実験における回収塩酸水及び被処理液中の塩酸量の変化を示すグラフである。
【図7】図7は、本発明の実施例1の通水実験における運転電圧の変化を示すグラフである。
【図8】図8は、本発明の実施例2の通水実験における回収TMAH水及び被処理液中のTMAH量の変化を示すグラフである。
【図9】図9は、本発明の実施例2の通水実験における運転電圧の変化を示すグラフである。
【図10】図10は、本発明の実施例3の通水実験における回収TMAH水及び被処理液中のTMAH量の変化を示すグラフである。
【図11】図11は、本発明の実施例3の通水実験における運転電圧の変化を示すグラフである。
【発明の属する技術分野】
【0001】
本発明は、電気透析法を利用して、塩水溶液から酸及びアルカリを分離して回収したり、或いは酸若しくはアルカリ水溶液から濃縮・精製された酸若しくはアルカリ水溶液を調製する装置に関する。
【従来の技術】
【0002】
各種工程から副生成物又は廃棄物として排出される中性塩や廃酸・廃アルカリを再利用する技術を開発することは、種々のプラントにおける大きな課題である。例えば、鉄鋼業のステンレス酸洗工程からは、相当量の鉄分を含んだ硝酸とフッ酸の混酸廃液が大量に発生するが、この混酸廃液は濃厚なため、前処理として固形分をろ過した後に拡散透析法を適用して、その大半を回収再利用している。また、半導体デバイスの製造工程からは、フッ酸及びバッファードフッ酸(NH4F+HF)の廃液が大量に発生する。このフッ素含有廃液は従来水酸化カルシウム(Ca(OH)2)を用いる凝集沈殿法により処理されてきたが、取り扱い性の悪い汚泥が大量に発生するという問題があった。フッ酸は資源としても限定され、価格も高く、排出規制も厳しいので、その回収・再利用が望まれている。
【0003】
また、半導体デバイス、液晶ディスプレーのフォトリソグラフィー工程からは有機アルカリ現像廃液が発生する。この有機アルカリ現像廃液は、現像液成分である水酸化テトラメチルアンモニウム(以下「TMAH」と略す)や水酸化トリメチルアンモニウム等の水酸化テトラアルキルアンモニウムなどの安定で無害化処理が困難な成分を含んでいる。これらの活性汚泥法による生物分解処理は大規模な処理施設を要してしまうので、現像液成分は、逆浸透膜法や蒸発法による濃縮減容後に燃焼法による処分をしていたが、この処分法はエネルギーコストが高いという問題点があり、現像液成分の回収・再利用が望まれている。
【0004】
また、加圧水型原子力発電所及び火力発電所の一部では給水系統の水質向上のためにpH調整剤として用いられたエタノールアミン(以下「ETA」と略す)が復水脱塩装置のイオン交換樹脂の再生排水中に含まれている。このETAは排水の化学的酸素要求量を増加させるため、回収・再利用が望まれているが、イオン交換樹脂の再生に用いられた多量の塩素イオンと共存しているため、直接の回収・再利用は困難である。
【0005】
これらの廃液から有用物質を回収して再利用するには、有用成分を分離・濃縮するか、不純物を除去する必要がある。有用成分の分離方法には、有用成分をそのまま直接分離する方法と、これを容易に回収可能な形態に転換してから分離する方法とがある。また、これらの回収・再利用の形態には、対象となる工場の中で回収・再利用を行うオンサイト型と、関連産業群と共同・連携して行うオフサイト型とがある。対象の有用物質をオンサイトで直接分離して回収・再利用する方法は、エネルギー変換過程が少なく、エネルギー効率的に最も優れた可能性をもつことは明らかである。
【0006】
廃液から酸・アルカリを直接分離・回収する方式としては、イオン交換膜を用いた手法が有効であり、具体的な方法としては拡散透析法及び電気透析法が知られている。
【0007】
拡散透析法は、イオン交換膜の両側の溶質濃度差を駆動力としてイオンを透析させる方法であり、省エネルギー型で、遊離している酸やアルカリの透析には使用できるが、中性塩を分解して回収することはできない。また、原理的に廃酸よりも高濃度な酸を得ることができない、水の浸透により透析廃液量の方が原液よりも増大する、透析廃液の中に相当量の廃酸、廃アルカリが残存する、分離率は膜面積に比例することから大きな設備が必要となる、などといった制約と欠点がある。
【0008】
陽イオン交換膜と陰イオン交換膜を交互に配列して構成した電気透析装置を用いる電気透析法は、イオン交換膜の両側の電位差を駆動力としてイオンを透析させる方法であり、中性塩の分解もでき且つ高濃度に濃縮することができるが、脱塩室と濃縮室とを交互に配列する従来の電気透析装置では、塩溶液から酸及びアルカリを生成しようとすると、透析した酸とアルカリとが濃縮室で再び混合してしまうため、酸とアルカリの分離生成には適用できない。
【0009】
また、フッ酸含有排水を電気透析法で処理する場合は、フッ素イオン(F-)が透析又は濃度拡散で陽極室に到達して、陽極の近傍に腐食性の高いフッ酸が濃縮されて、陽極が腐食するという問題がある。また、有機アルカリ含有排水を処理する場合においても有機アルカリ成分が電極室に到達すると電極反応で分解し、悪臭を放つ物質を生成したり、電極の寿命を短くするという問題が有る。このような電極室で起こる有害な電極反応による影響を回避して、高純度な酸及び又はアルカリを安定して回収するのは煩雑で非効率であった。
【0010】
電気透析法を用いてバッファードフッ酸廃液からフッ酸の回収を行う方法として、バッファードフッ酸と透析用に新たに調整した塩酸水溶液を脱塩室に交互に供給して、濃縮室から塩化アンモニウムと塩酸の混合水溶液とフッ酸水溶液を交互に取り出す方法が提案されているが、該方法では、塩酸水溶液の濃度調整が煩雑であるとともに、回収するフッ酸と同等モル数以上の塩酸を消費するという欠点があった。
【0011】
また、電気透析法を用いて溶解したフォトレジストを含む廃TMAH溶液からTMAHの回収を行う方法として、脱塩室及び濃縮室の両方に廃TMAH溶液を供給して、廃TMAH溶液よりもフォトレジスト成分の含有率が少ない濃厚TMAH溶液を濃縮室から回収する方法が提案されているが、この方法では、回収したTMAHを再利用するには純度が不十分であった。
【0012】
更に、電気透析法を用いて廃TMAH溶液からTMAHの濃縮回収を行う方法として、回収するTMAH溶液への不純物の混入を少なくするために陽極室及び陰極室にTMAH溶液を供給し、かつ、TMAHが陽極室で酸化されて生成する強いアミン臭を発する酸化分解生成物である不純物がイオン交換膜を透過して濃縮液中に混入しないように、両電極室中に別液室を設けて別液室中にもTMAH溶液を供給することにより、不純物の混入を抑制する方法が提案されているが、該方法には、別液室に供給するTMAH水溶液の調整が煩雑であること、不純物を生成する有害な電極反応が回避できていないこと、このため電極室及び別液室を循環するTMAH溶液は不純物が混入していて回収が不可能となるという欠点があった。
【0013】
塩水溶液から酸及びアルカリを分離生成する方法としては、バイポーラ膜を利用した電気透析法が知られており、例えば、陽イオン交換膜、バイポーラ膜及び陰イオン交換膜を順に複数枚配列させた三室式セル方式の方法などが提案されている。この三室セル方式を用いて、中性塩から酸/アルカリを生成する方法の概略を図1を参照しながら説明する。
【0014】
図1は、バイポーラ膜を使用した三室セル方式の酸/アルカリ生成装置の典型例の概念図である。バイポーラ膜とは、陽イオン交換膜と陰イオン交換膜とを接着等の手段によって貼り合わせて得られる、それぞれの面が異なるイオン交換性を有する複合膜である。図1に示す装置においては、電極の間に、陽極側から、バイポーラ膜AC(陽極側が陰イオン交換膜A、陰極側が陽イオン交換膜C)、陰イオン交換膜A、陽イオン交換膜C、及びバイポーラ膜ACを、この順番で配列し、この配列を複数回繰り返すことにより、両電極間に、複数の室を形成する。
【0015】
この装置を用いて、例えば水及び中性塩としてNaCl水溶液から、HCl及びNaOHを生成させる方法に関して説明する。両電極間に通電しながら、陽イオン交換膜Cとバイポーラ膜ACとで形成される室及びバイポーラ膜ACと陰イオン交換膜Aとで形成される室に、それぞれ水を導入し、陰イオン交換膜Aと陽イオン交換膜Cとで形成される室にNaCl水溶液を導入する。前者の水が導入される室が、それぞれアルカリ室、酸室と称され、後者の塩水溶液が導入される室が脱塩室と称される。脱塩室中に導入されたNaCl水溶液中に含まれるNa+イオン及びCl-イオンは、それぞれ陰極及び陽極に引かれ、それぞれ陽イオン交換膜C及び陰イオン交換膜Aを透過して、アルカリ室及び酸室に導かれる。一方バイポーラ膜ACにおいては、水が吸収作用によって膜中に吸収され、膜の境界面において電気分解してH+とOH-イオンとに解離する。この生成したイオンが、それぞれバイポーラ膜ACの陽イオン交換膜側及び陰イオン交換膜側を通って、それぞれ酸室及びアルカリ室中に導かれる。
【0016】
したがって、バイポーラ膜ACと陰イオン交換膜Aとにより形成される酸室においては、バイポーラ膜ACより導かれたH+イオンと、陰イオン交換膜Aを通して塩室から導かれたCl-イオンとが供給され、その結果、HCl溶液が生成する。一方、陽イオン交換膜Cとバイポーラ膜ACとにより形成されるアルカリ室においては、バイポーラ膜ACより導かれたOH-イオンと、陽イオン交換膜Cを通して塩室から導かれたNa+イオンとが供給され、その結果、NaOH溶液が生成する。このようにして、バイポーラ膜を利用する方法では水及び塩水溶液から、酸及びアルカリが生成される。
【0017】
このように、バイポーラ膜を利用する方法では、バイポーラ膜の中で水の解離反応を生じさせており、それまでのイオン交換膜利用技術が単に正負荷電によるイオンの選択透過を行ったものであるのに対して、膜そのものを反応の場として利用した新規な技術であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかしながら、このようなバイポーラ膜を用いた電気透析法を利用して、中性塩から酸・アルカリを生成する工業的なプロセスを構成するには次の課題がある。
【0019】
まず第1に、酸室及びアルカリ室に供給する液の調整である。一般に、電気透析で経済的に取り扱える溶液の電解質濃度は、0.5g/Lから5g/Lが望ましく、電解質濃度が0.1g/L以下では、当該室での電圧降下が著しく増大して実質的に運転が不可能になることが知られている。このため、酸室及びアルカリ室に供給する液として純水を使用して、酸及びアルカリを高純度で回収することはできなかった。従って、実際には、酸室及びアルカリ室への供給水としては、純水に回収対象の酸又はアルカリを予め加えて0.5g/L以上の濃度に調整しておく必要があり、その操作は煩雑であった。
【0020】
第2に、前述したように電極室の極液の調整に関する問題がある。通常の電気透析槽の極室では、プラスチック製のスペーサーを充填して水の流路を確保しているが、この極室に純水を供給したのでは、純水は絶縁体であるため、電流が流れない。このため、極室に電解質溶液を供給する必要があった。ところが、フッ素イオンを含有する液を極液として用いると、電極がフッ酸によって腐食してしまい、電極の耐久性、経済性に問題があると共に、回収液に電極から溶解した金属イオンが拡散して不純物として混入してしまうために、これを極液として循環使用する場合に問題があった。また、塩素イオンを含有する液を極液として用いようとすると、陽極で遊離塩素が生成してイオン交換膜を酸化劣化させてしまうという問題があった。このため、極室を構成するイオン交換膜には、酸化劣化に強いフッ素系膜を使用する必要があるが、フッ素系イオン交換膜は高価であり、外液濃度の影響が大で、寸法安定性が悪く、工業的な酸・アルカリの回収には使用しがたいという問題があった。また、有機アルカリを含有する液を極液として用いようとすると、前述のように電極反応で有害な酸化分解生成物が生じるという問題がある。これらの理由のため、極液の成分として用いられる電解質成分は水酸化ナトリウム等の無機アルカリ水溶液、硫酸などの酸水溶液又は硫酸ナトリウムなどの塩水溶液が用いられるが、運転中の電極室は脱塩室又は濃縮室のいずれかとして機能するため、極液の濃度が変化する。このため、極液には常に極液成分を補充したり、極液を一部抜き出して希釈する必要があり、運転中の極液成分の濃度の調整及び維持管理という煩雑な処理が必要であった。また、回収する成分と異なる電解質を極液に用いると回収液に不純物として混入してしまうという欠点があった。
【0021】
第3番目の問題は、バイポーラ膜そのものに関わる本質的な問題点である。バイポーラ膜法は、バイポーラ膜の拡散作用によって水(H2O)を吸収して膜の境界面において電気分解してH+イオンとOH-イオンとを生成するので、膜の特性から、膜内への水の供給には限界がある。バイポーラ膜を用いた透析装置においては、電流密度が増すと境界面領域からの水の解離が多くなって膜表面からの拡散による水の補給が間に合わなくなり、境界面が乾燥する。境界面の乾燥は、非可逆的な損傷をバイポーラ膜に与え、電圧の経時変化をもたらすことが知られている。また、バイポーラ膜は、境界面の僅かな特性の変化が電気抵抗の増大につながるので、高い電流密度を必要とする高濃度廃液の処理には適用しがたい。更に、高い電流密度での運転は、バイポーラ膜の境界における界面剥離や、水ぶくれ等の問題を発生させる可能性がある。
【0022】
このため、電気抵抗が上昇せず、長期に安定して運転可能なバイポーラ膜の開発が精力的に行われたが、塩型と再生型での膨張率が互いに異なる陽イオン交換膜と陰イオン交換膜とを接着してその境界面を安定して維持できるバイポーラ膜の開発は本質的に困難であった。
【0023】
したがって、バイポーラ膜を用いた電気透析によって中性塩から酸及びアルカリを生成させたり或いは酸若しくはアルカリを濃縮・精製する方式は、原理的には優れていたものの、工業的なプロセスでの採用は限定されたものであった。
【0024】
以上のように、半導体産業でのエッチング、洗浄等の工程で使用されたフッ酸廃液を、オンサイトで電気透析法を用いて直接回収・再利用する方法は、これまでなかった。
【0025】
フッ酸の回収方法として、フッ酸廃液を粒状の炭酸カルシウムに接触させてフッ化カルシウムに転化させ、これを回収してフッ酸製造の原料として使用する方法が提案されている。この方法は、再利用可能な高純度フッ化カルシウムが得られる方法であるが、固体−液体反応のため反応速度が遅く、対象処理液としては濃厚フッ酸液に限定され、半導体工場から大量に発生する希薄フッ酸廃液の処理には適していないので希薄なフッ酸廃液処理のために従来の凝集沈殿法を併用する必要があり、併用した場合には全量凝集沈殿法で処理した場合の汚泥発生量の約1/3を削減できるに留まる;この反応の反応速度を高めるためには加温通水することが必要で、設備・運転コストが増大する;シリカ(SiO2)を含んだフッ酸廃液を処理しようとすると、フッ化カルシウム粒子にシリカも吸着してしまい、フッ化カルシウム粒子の再生利用が困難になる;バッファードフッ酸(HF+NH4F)のように高モル比のNH4Fを含む廃液を処理しようとすると、フッ酸からフッ化カルシウムへの転化率が低下するため多段階処理をしてアンモニアを分離する必要があり、装置が大きくなるとともに制御も煩雑になる;などといった制約と課題がある。
【0026】
以上のような現状下、希薄なフッ酸廃液からバッファードフッ酸を含む濃厚なフッ酸廃液まで処理できる省エネルギータイプのフッ酸回収法が望まれていた。一方、廃TMAH溶液からTMAHの回収・再利用においても、不純物を生成する有害な電極反応を回避して、TMAHを省エネルギーかつ高純度に回収する方法が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明者らは、このような問題点を考慮し、バイポーラ膜を用いない新しい方式の電離によって、かつ、電極での有害反応を回避することによって中性塩から酸/アルカリを高純度に生成したり、或いは酸若しくはアルカリを高純度に濃縮・再生する方法を提供すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明装置及び方法を見出した。
【0028】
本発明によれば、電気透析装置の極室に隣接して設けるバッファ室であって、第1のイオン交換膜、第2のイオン交換膜、該第1及び第2のイオン交換膜の間に位置づけられているイオン交換体から構成され、流体供給口と流体排出口とを具備する、バッファ室が提供される。
【0029】
また、本発明によれば、上記バッファ室を具備することを特徴とする電気透析装置が提供される。
【0030】
さらに、本発明によれば、上記バッファ室の流体供給口に純水を供給することを特徴とする電気透析法が提供される。
【0031】
本発明の一態様は、陽極と陰極との間にカチオン交換膜とアニオン交換膜とが交互に配列されて複数の室が形成されており、陽極とカチオン交換膜とで陽極室が画定され、これに隣接して、陽極側から、水又は酸水溶液が供給されてそこから酸濃度の高められた酸水溶液が回収される酸室;処理対象溶液が供給されてそこからイオン濃度が低められた処理液が回収される電離室;水又はアルカリ水溶液が供給されてそこからアルカリ濃度の高められたアルカリ水溶液が回収されるアルカリ室;並びに水が供給されて水素イオン及び水酸イオンが生成せしめられる水解室;の順に配列された室の組が一つ若しくは二つ以上繰り返して配置され、最も陰極側の水解室が陰極室として画定されていることを特徴とする電気透析装置に関する。
【0032】
以下、本発明の一態様に係る電気透析装置を図面を参照しながら詳細に説明する。図2は、本発明の一態様に係る電気透析装置の概略を示す。図2に示す装置においては、陽極+と陰極−との間にカチオン交換膜Cとアニオン交換膜Aとが交互に配列されて複数の室が形成されている。そして、電極とカチオン交換膜Cとで陽極室が構成され、これに隣接して、陽極側から順に、酸室(陽極側にカチオン交換膜、陰極側にアニオン交換膜)、電離室(陽極側にアニオン交換膜、陰極側にカチオン交換膜)、アルカリ室(陽極側にカチオン交換膜、陰極側にアニオン交換膜)、水解室(陽極側にアニオン交換膜、陰極側にカチオン交換膜)からなる室の組が形成され、この組が一つ又は二つ以上繰り返して配置され、最も陰極側に配置された水解室が陰極室として形成される。
【0033】
この装置を用いて、NaCl水溶液及び水から、HCl溶液及びNaOH溶液を生成する方法に関して、図2を参照しながら説明する。両電極間に通電しながら、極室、酸室、アルカリ室及び水解室にそれぞれ水を供給し、電離室にNaCl水溶液を供給する。水が供給される水解室においては、電気分解によって水がH+及びOH-イオンに電離される。電離されたH+イオンは、陰極に引かれて、カチオン交換膜Cを透過して隣接する酸室内に導かれる。一方、電離されたOH-イオンは、陽極に引かれて、アニオン交換膜Aを透過して隣接するアルカリ室内に導かれる。NaCl水溶液が供給される電離室においては、電気分解によってNaClがNa+イオンとCl-イオンとに電離される。電離されたNa+イオンは、陰極に引かれて、カチオン交換膜Cを透過して隣接するアルカリ室内に導かれ、一方、電離されたCl-イオンは、陽極に引かれて、アニオン交換膜Aを透過して隣接する酸室内に導かれる。また、陽極室では、電気分解によって水がH+及びOH-イオンに電離され、H+イオンは陰極に引かれてカチオン交換膜Cを透過して隣接する酸室内に導かれ、OH-イオンは陽極の表面上で反応して酸素を発生させる。一方、陰極室では、同様に電気分解によって水がH+及びOH-イオンに電離され、OH-イオンは陽極に引かれてアニオン交換膜Aを透過して隣接するアルカリ室内に導かれ、H+イオンは陰極の表面上で反応して水素を発生させる。
【0034】
以上に説明したようなイオンの移動が起こることにより、アルカリ室内では、Na+イオン及びOH-イオンが供給される結果としてNaOH溶液が生成され、一方酸室内では、H+イオン及びCl-イオンが供給される結果として、HCl溶液が生成される。このようにして、NaCl水溶液及び水から、NaOH溶液及びHCl溶液を生成・回収することができる。
【0035】
なお、酸室及びアルカリ室には、水に代えて酸水溶液又はアルカリ水溶液を供給すれば、当該室内での液の電気抵抗を低減させることができるので、運転電圧の上昇を抑制することができる。また、酸室及びアルカリ室から回収される酸水溶液及びアルカリ水溶液の少なくとも一部を、再び酸室及びアルカリ室にそれぞれ循環して供給すれば、運転電圧の上昇を抑制すると共に、得られる酸及びアルカリ水溶液の濃度をより高めることができるので好ましい。同様に、電離室から回収されるイオン濃度の低められた塩水溶液の少なくとも一部を、再び電離室に循環して供給することができる。更に、極室及び水解室から回収される水を再び極室及び水解室に再循環してもよい。
【0036】
上記の例は、NaCl水溶液及び水からNaOH溶液及びHCl溶液を生成する方法であるが、本発明に係る電気透析装置を用いて、電離室への流入液を適宜選択することによって、種々の酸/アルカリの組み合わせを生成・回収したり、或いは種々の酸若しくはアルカリ廃液から精製された酸若しくはアルカリ水溶液を調製することができる。例えば、塩水溶液として炭酸アンモニウム((NH4)2CO3)を用い、これを電離室に供給すると共に、酸室及びアルカリ室に水を供給し、水解室及び極室に水を供給して運転すれば、酸室からは炭酸(H2CO3)溶液が、アルカリ室からはアンモニア水(NH4OH)溶液が得られる。勿論、この場合には、酸室及びアルカリ室には、水に代えてそれぞれ炭酸溶液及びアンモニア溶液を供給してもよく、各室から排出される液を再び同じ室に循環して供給してもよい。更に、塩水溶液としてサリチル酸ナトリウム(NaC7H5O3)を本発明の電気透析装置で処理すれば、サリチル酸(C7H6O3)溶液と水酸化ナトリウム(NaOH)溶液とが得られる。
【0037】
更に、本発明の電気透析装置を用いて、例えば、廃塩酸水溶液から濃縮塩酸水溶液を生成させることができる。図3に、本発明の電気透析装置を用いて廃塩酸水溶液から濃縮塩酸水溶液を回収する方法の一例の概要を示す。図3に示す電気透析装置は、図2に示す装置と同様の膜配列及び室配列を有している。電離室には、塩酸廃液(希薄塩酸にナトリウム等の不純物が混入している)を供給する。電離室内では、電気分解によって塩素イオンCl-と水素イオンH+並びに不純物金属イオンM+(希薄塩酸の処理の場合にはNa+)が生成し、塩素イオンCl-は陽極に引かれ、アニオン交換膜を通して隣接する酸室へ導入され、水素イオンH+並びに金属イオンM+は陰極に引かれ、カチオン交換膜を通して隣接するアルカリ室へ導入される。そして、酸室では隣接する極室若しくは水解室からカチオン交換膜を通して導入されるH+イオンにより、塩酸HClが生成する。これにより、不純物イオン(上記の場合にはNa+)を除去した精製塩酸溶液を得ることができる。この場合においても、図3に示すように、各室からの排出液の少なくとも一部を再び同じ室に循環して供給するようにすれば、より効率的に処理を行うことができる。
【0038】
同様に廃TMAH溶液を本発明の図3に示す電気透析装置で処理すれば、精製TMAH溶液を得ることができる。この場合、電離室に廃TMAH水溶液を供給すればアルカリ室にTMAHが生成する。廃TMAH中に溶解しているフォトレジストはイオン交換膜を透過しないので供給液中に残存し、空気中から溶解してきた炭酸ガス成分等の陰イオンは酸室へ導入されるのでアルカリ室から精製TMAH溶液を得ることができる。
【0039】
なお、図3では、極室への水の供給は並列に供給する形態が示されているが、これは本発明の一実施形態の例示であり、陽極室に供給した水の出口水を陰極室に供給する、又は、陰極室に供給した水の出口水を陽極室に供給するといった直列に供給する形態、又は、陽極室、陰極室ともそれぞれ個別に循環系統を持つ形態も当然可能であり、本発明の範囲に含まれる。
【0040】
また、本発明の電気透析装置においては、陽極室をカチオン交換膜で二つに分割し陽極室とバッファ室に分離し、更に陰極室もアニオン交換膜で二つに分割し陰極室とバッファ室に分離しても良い。また、陽極室だけ又は陰極室だけを分割して、片側にだけバッファ室を設けることも可能である。このように、陽極室及び/又は陰極室を分割して、極室に隣接したバッファ室を配置することにより、それに隣接する酸室又はアルカリ室からイオン交換膜を濃度拡散して混入した物質をバッファ室で回収できるようになるので、これを電極室まで到達させること無く、電極の腐食や酸化生成物の生成などの有害な電極反応を防止できるという利点が得られる。例えば、半導体デバイスのウェットプロセスから排出されるフッ酸廃液(フッ酸(HF)とバッファードフッ酸(NH4F)との混合液)を図3に示す態様の電気透析装置によって処理しようとした場合、フッ酸イオン(F-)のようにイオン径の小さなイオンは、陽極室とそれに隣接する酸室とを区切るカチオン交換膜の異種イオン遮断性にも拘らず、濃度拡散によってカチオン交換膜を透過して陽極室内に混入してしまう。このため、陽極室内に混入したフッ酸イオンによって電極が腐食してしまうという問題がある。このような場合に、例えば陽極室を分割してバッファ室を形成すると、陽極室内へのフッ酸イオンの混入をより抑制することができ、その結果、電極の腐食を抑制することができる。
【0041】
図4に、極室を分割してバッファ室を形成した態様の電気透析装置を用いて、フッ酸廃液から精製フッ酸溶液を回収する方法の一例の概要を示す。図4に示す電気透析装置は、陽極室がカチオン交換膜で更に二つに分割されて陽極室とバッファ室が構成され、陰極室がアニオン交換膜で更に二つに分割されて陰極室とバッファ室が構成されていて、バッファ室に純水が循環して供給されている点のみが図3に示す電気透析装置と異なっている。このような電気透析装置の電離室にフッ酸廃液(フッ酸(HF)とバッファードフッ酸(NH4F)との混合液)を供給すると、電離室内では、電気分解によってフッ素イオンF-と水素イオンH+並びに不純物イオンM+(バッファードフッ酸の場合にはNH4+)が生成し、フッ素イオンF-は陽極に引かれ、アニオン交換膜を通して隣接する酸室へ導入され、水素イオンH+並びに不純物イオンM+は陰極に引かれ、カチオン交換膜を通して隣接するアルカリ室へ導入される。そして、酸室では隣接する極室若しくは水解室からカチオン交換膜を通して導入されるH+イオンにより、フッ酸HFが生成する。これにより、不純物イオン(上記の場合にはNH4+)を除去した精製フッ酸溶液を得ることができる。また、バッファ室に隣接する酸室においては、高い濃度のフッ酸水が循環しているため、イオン径の小さなフッ素イオンF-は濃度勾配によってカチオン交換膜を透過してバッファ室内に混入するが、ここでバッファ室水に溶解して排出されるので、陽極室内に混入することが避けられ、陽電極がフッ素イオンによって腐食するという問題を回避することができる。
【0042】
なお、図4に示す形態では、バッファ室に対して独立した純水循環系が形成されているが、極室及び水解室に対する純水循環系とバッファ室に対する純水循環系とを合体させて、極室、水解室及びバッファ室にそれぞれ並列に純水を循環して供給することもできるし、それぞれのバッファ室に対して個別に純水循環系を形成することもできる。また、陽極側バッファ室に供給した水の出口水を陰極側バッファ室に供給するか、又は陰極側バッファ室に供給した水の出口水を陽極側バッファ室に供給することもできる。
【0043】
本発明の電気透析装置に用いられるイオン交換膜としては、陽イオンと陰イオンを選択的に分離できるものであれば特に限定されずに使用でき、例えば、ネオセプタ[(株)トクヤマ製]、アシプレックス[旭化成工業(株)製]、セレミオン[旭硝子(株)製]等を挙げることができる。
【0044】
また、電極も一般の電気透析槽に用いられているものが使用でき、陽極としては、白金、ルテニウム、イリジウム等をチタン表面にコーティングした、いわゆる不溶性電極が好適に使用できる。また、陰極としては過電圧の低いSUS316、チタン白金コーティングが好適に使用できる。
【0045】
なお、本発明の電気透析装置においては、極室及び水解室にはイオン交換体が充填されていることが望ましい。極室及び水解室内にイオン交換体を充填することにより、イオンが室内を流れやすくなるので、これらの室に純水を供給しても、運転電圧の上昇を抑制することができる。また、水解室で行われる水の解離(水解)は、異なる電荷のイオン交換体が接触する箇所で容易に起こるので、水解室内にイオン交換体を充填して水解の発生場を形成することが望ましい。更に、酸室、アルカリ室、電離室、及びバッファ室においても、イオン交換体が充填されていることが好ましい。これらの室にもイオン交換体を充填することにより、各室でのイオンの移動速度が上昇して、運転効率が増大すると共に、酸室及びアルカリ室においては、イオン交換体を充填することにより、立ち上げ時の電圧を低減することができ、また電離室にイオン交換体を充填すれば、回収完了時の電圧低減と、処理水のイオン濃度のより一層の低減が可能である。更にバッファ室にイオン交換体を充填することにより、イオンの移動速度が上昇して運転電圧が低減するという利点が得られる。このように、室内にイオン交換体を充填することで、運転電圧を低減することによって、電力消費量を低減することができると共に、電気透析槽内部でのジュール熱による発熱のために処理液が高温になってしまうことも回避することができる。
【0046】
なお、極室に関しては、陽極室にカチオン交換体、陰極室にアニオン交換体を充填することが好ましい。また、バッファ室に関しては、陽極室に隣接するバッファ室にはカチオン交換体、陰極室に隣接するバッファ室にはアニオン交換体を充填することが好ましい。
【0047】
本発明の電気透析装置において、極室、水解室、酸室、アルカリ室、電離室、バッファ室に充填することのできるイオン交換体としては、例えば、従来の電気透析装置や電気脱塩装置において広く用いられているイオン交換樹脂ビーズを用いることができる。このような目的で用いることのできるイオン交換樹脂ビーズとしては、当該技術において公知の、ポリスチレンをジビニルベンゼンで架橋したビーズなどを基材樹脂として用いて製造したものを用いることができる。例えば、スルホン基を有する強酸性カチオン交換樹脂を製造する場合には、上記の基材樹脂を硫酸やクロロスルホン酸のようなスルホン化剤で処理してスルホン化を行い、基材にスルホン基を導入することによって、強酸性カチオン交換樹脂を得る。また、例えば4級アンモニウム基を有する強塩基性アニオン交換樹脂を製造する場合には、基材樹脂をクロロメチル化処理した後、トリメチルアミンのような3級アミンを反応させて4級アンモニウム化を行うことにより、強塩基性アニオン交換樹脂を得る。このような製造方法は当該技術において周知であり、またこのような手法によって製造されたイオン交換樹脂ビーズは、例えば、Dowex MONOSPHERE 650C(ダウケミカル)、Amberlite IR-120B(ローム&ハース)、Dowex MONOSPHERE 550A(ダウケミカル)、Amberlite IRA-400(ローム&ハース)などの商品名で市販されている。
【0048】
また、本発明の電気透析装置において、極室、バッファ室、水解室、酸室、アルカリ室、電離室に充填することのできるイオン交換体としては、織布、不織布等の繊維基材にイオン交換基を導入したイオン交換繊維材料を用いることもできる。この場合には、斜交網材料等で形成されるスペーサーを併用して、室内での液の流路を確保することが好ましい。また、イオン交換体として、斜交網材料等で形成されるスペーサーにイオン交換基を導入したイオン伝導スペーサーを用いることもできるし、更には、イオン交換繊維材料とイオン伝導スペーサーとを組み合わせて、極室、バッファ室、水解室、酸室、アルカリ室、電離室等に充填することもできる。
【0049】
例えば、本発明の電気透析装置の極室においては、陽極室のカチオン交換膜と陽極板との間の極液流路にカチオン伝導スペーサーを1枚又は複数枚、陰極室のアニオン交換膜と陰極板との間の極液流路にアニオン伝導スペーサーを1枚又は複数枚充填することができる。このように、極室にイオン伝導スペーサーを充填することにより、極室に対して純水を供給しても安定して運転を行うことができる。同様にバッファ室についても、陽極室に隣接するバッファ室においてはカチオン伝導スペーサーを1枚又は複数枚、陰極室に隣接するバッファ室においてはアニオン伝導スペーサーを1枚又は複数枚充填することができる。
【0050】
また、本発明の電気透析装置の水解室においては、カチオン交換膜側にカチオン交換繊維材料、アニオン交換膜側にアニオン交換繊維材料を対向して装填し、その間にイオン伝導性を付与したイオン伝導スペーサーを装填することが好ましい。このように水解室にイオン交換繊維材料とイオン伝導スペーサーとを装填することにより、イオン伝導スペーサーと異種の電荷を有するイオン交換繊維材料との接触面積が大きくなり、水解の反応場が広くなって反応をマイルドに、即ち電圧を低く保持することが可能になる。なお、この場合、イオン交換繊維材料の間に装填するイオン伝導スペーサーとしては、カチオン伝導スペーサーを1枚又は複数枚充填すると、水解電圧が低くなるので好ましい。また、イオン伝導スペーサーとしてアニオン伝導スペーサーを1枚又は複数枚充填してもよく、或いはカチオン交換繊維材料側にカチオン伝導スペーサーをアニオン交換繊維材料側にアニオン伝導スペーサーをそれぞれ充填することもできる。
【0051】
水の解離(水解)は、H2O⇔H++OH-という平衡反応が左から右へ移行する反応であり、低電圧で発生するH+イオンとOH-イオンが水解室に充填されたイオン交換体を伝導して電流を運ぶので、水解室には高純度な純水を供給することができる。高純度な純水を水解室に供給することにより、水解室から不純物イオンが除去されて酸室又はアルカリ室に混入することなく、水解室からはH+イオンだけが酸室に、OH-イオンだけがアルカリ室に供給される。
【0052】
水解を起こす反応の場である異種のイオン交換体の接触面積は大きい方が電圧降下が小さいことが実験の結果判明しているが、カチオン伝導スペーサーとアニオン伝導スペーサーとを接触させた場合には接触面積が小さいので電圧降下が大きい。しかし、イオン伝導スペーサーとイオン交換繊維材料とを接触させた場合には密着して接触することができるので、電圧降下がイオン伝導スペーサー同士の場合よりも小さくなる。とりわけ、カチオン伝導スペーサーとアニオン交換繊維材料とを接触させる場合が、アニオン伝導スペーサーとカチオン交換繊維材料とを接触させる場合よりも電圧降下が小さくなることが分かった。しかしながら、この理由については理論的には解明されていない。
【0053】
本発明の電気透析装置の電離室、酸室及びアルカリ室においては、例えば、カチオン交換膜側にカチオン伝導スペーサーを、アニオン交換膜側にアニオン伝導スペーサーを対向して装填することができる。また、カチオン交換膜側にカチオン交換繊維材料を、アニオン交換膜側にアニオン交換繊維材料を対向して装填し、その間の処理液流路に流路を確保するためのスペーサーを装填してもよい。更には、カチオン交換膜側にカチオン交換繊維材料を、アニオン交換膜側にアニオン交換繊維材料を対向して装填し、その間の処理液流路にイオン伝導性を付与したイオン伝導スペーサーを装填することが好ましい。このような構成を採用すると、酸室、アルカリ室においては、イオン交換膜全体を利用してイオン伝導を行うことにより、運転電圧の低減と膜の長寿命化が可能になり、また、電離室においては、イオン交換面積が大きくなるので、イオン除去率が向上すると共に、槽を小型化することが可能になる。
【0054】
本発明の電気透析装置の水解室、電離室、酸室及びアルカリ室にイオン伝導スペーサーを装填する場合には、イオン交換膜とイオン伝導スペーサーとの間にイオン交換繊維材料を配置することが望ましい。イオン交換膜とイオン交換繊維材料とが直接接触するとその個所を介してイオンが集中的に伝導して、特に高電流密度で運転した場合にはその部分のイオン交換膜の劣化を早めることになってしまう。ここで、イオン交換膜とイオン伝導スペーサーとの間にイオン交換繊維材料を介在させれば、イオン交換繊維材料は細かい繊維でできているので、イオン交換膜の全面に密着してイオン交換膜の全面がイオンの伝導に寄与することになり、イオン交換膜を局所的に劣化させることなく、且つ電気抵抗が低減されることにより、当該室における電圧降下が小さくなり、その結果、運転電圧の上昇を抑制することができる。
【0055】
また、本発明の電気透析装置の電離室にイオン交換繊維材料のみを装填すると、液は繊維材料の間の空間を勢いよく流れてしまうので、液からイオンを分離する効率が大幅に低下してしまう。これを防ぐためには繊維材料を電離室内に密に充填しなければならなくなり、液が流れる際の抵抗が大きくなり、液の流入圧力を高く保持する必要が出てくる。このため、電離室にイオン交換繊維材料を装填する場合には、カチオン交換膜側にカチオン交換繊維材料を、アニオン交換膜側にアニオン交換繊維材料を装填し、その間にスペーサーを装填することが好ましい。このようにスペーサーを配置することにより、室内に導入された液流が乱流を形成しながら分散されて流れ、その際に、カチオンはカチオン交換繊維材料に、アニオンはアニオン交換繊維材料にそれぞれ捕捉されるので、液中のイオン性物質が高効率で分離される。更に、スペーサーとしてイオン伝導性を付与したイオン伝導スペーサーを装填すると、液中のイオン性物質の除去が進み、処理液が純水に近くなっても電流が流れやすく、運転電圧の上昇を大きく軽減することが可能になる。
【0056】
本発明の電気透析装置においては、酸室及びアルカリ室においても、カチオン交換膜側にカチオン交換繊維材料を、アニオン交換膜側にアニオン交換繊維材料を対向して装填し、その間の液流路にイオン伝導性を付与したイオン伝導スペーサーを装填することによって、運転電圧を軽減することができる。このため、酸又はアルカリの回収液として純水を使用するが可能であり、予め回収する酸やアルカリの成分で調整した希酸溶液や希アルカリ溶液を用意する必要がなく、運転操作が容易になる。また、回収する酸やアルカリに、回収液に由来する不純物を混入させることなしに回収することができる。
【0057】
なお、電離室、酸室及びアルカリ室に装填するイオン伝導スペーサーは、1枚でも複数枚でもよく、イオン交換機能の異なるカチオン伝導スペーサーとアニオン伝導スペーサーとを任意に組み合わせて配置することができる。被処理水の種類、回収する酸又はアルカリの種類、不純物濃度などの諸条件に応じて、イオン伝導スペーサーの組み合わせを選択することによって、種々の条件に合致した電気透析装置を形成することができる。例えば、各室内において、カチオン交換繊維材料に隣接してカチオン伝導スペーサーを、アニオン交換繊維材料に隣接してアニオン伝導スペーサーを配置することができる。また、カチオン伝導スペーサーを2枚配置しても、アニオン伝導スペーサーを2枚配置してもよい。更に、各室毎に配置するイオン伝導スペーサーの組み合わせを変えることもできる。
【0058】
例えば、本発明者らの実験により、電離室においては、カチオン交換膜側にカチオン交換繊維材料を、アニオン交換膜側にアニオン交換繊維材料を対向して装填し、その間にカチオン伝導スペーサーのみを2枚配置する場合が最も電圧降下が少なく、また、両イオン交換繊維材料の間にアニオン伝導スペーサーのみを1枚又は複数枚電離室に組み込むと、被処理液中に残存するアニオンの濃度を減少させることができることが分かった。また、酸室及びアルカリ室においては、カチオン交換膜側にカチオン交換繊維材料を、アニオン交換膜側にアニオン交換繊維材料を対向して装填し、その間の流路においては、カチオン交換繊維材料側にカチオン伝導スペーサーをアニオン交換繊維材料側にアニオン伝導スペーサーを配置した場合と、カチオン伝導スペーサーを2枚配置した場合とが、電圧降下が少なく好適に適用することができることが分かった。しかしながら、上記のような組み合わせを採用した場合に何故低電圧化が達成されるかについては、理論的には解明されていない。
【0059】
上記において説明したような本発明の電気透析装置において用いることのできるイオン交換繊維材料としては、高分子繊維基材にイオン交換基をグラフト重合法によって導入したものが好ましく用いられる。高分子繊維よりなるグラフト化基材は、ポリオレフィン系高分子、例えばポリエチレンやポリプロピレンなどの一種の単繊維であってもよく、また、軸芯と鞘部とが異なる高分子によって構成される複合繊維であってもよい。用いることのできる複合繊維の例としては、ポリオレフィン系高分子、例えばポリエチレンを鞘成分とし、鞘成分として用いたもの以外の高分子、例えばポリプロピレンを芯成分とした芯鞘構造の複合繊維が挙げられる。かかる複合繊維材料に、イオン交換基を、放射線グラフト重合法を利用して導入したものが、イオン交換能力に優れ、厚みが均一に製造できるので、本発明において用いられるイオン交換繊維材料として好ましい。イオン交換繊維材料の形態としては、織布、不織布などを挙げることができる。
【0060】
また、本発明の電気透析装置において用いられるスペーサーとしては、ポリオレフィン系高分子製樹脂、例えば、従来公知の電気透析槽において使用されているポリエチレン製の斜交網(ネット)で構成されるものが好ましく用いられる。更に、イオン伝導スペーサーとしては、これらの材料を基材として、これに、放射線グラフト重合法を用いてイオン交換機能を付与したものが、イオン伝導性に優れ、被処理水の分散性に優れているので、好ましい。なお、放射線グラフト重合法とは、高分子基材に放射線を照射してラジカルを形成させ、これにモノマーを反応させることによってモノマーを基材中に導入するという技法である。
【0061】
放射線グラフト重合法に用いることができる放射線としては、β線、ガンマ線、電子線等を挙げることができるが、本発明においてはガンマ線や電子線を好ましく用いる。放射線グラフト重合法には、グラフト基材に予め放射線を照射した後、グラフトモノマーと接触させて反応させる前照射グラフト重合法と、基材とモノマーの共存下に放射線を照射する同時照射グラフト重合法とがあるが、本発明においては、いずれの方法も用いることができる。また、モノマーと基材との接触方法により、モノマー溶液に基材を浸漬させたまま重合を行う液相グラフト重合法、モノマーの上記に基材を接触させて重合を行う気相グラフト重合法、基材をモノマー溶液に浸漬した後モノマー溶液から取り出して気相中で反応を行わせる含浸気相グラフト重合法などを挙げることができるが、いずれの方法も本発明において用いることができる。
【0062】
これら繊維基材及びスペーサー基材に導入するイオン交換基としては、特に限定されることなく種々のカチオン交換基又はアニオン交換基を用いることができる。例えば、カチオン交換基としては、スルホン基などの強酸性カチオン交換基、リン酸基などの中酸性カチオン交換基、カルボキシル基、フェノール性水酸基などの弱酸性カチオン交換基、アニオン交換基としては、第1級〜第3級アミノ基などの弱塩基性アニオン交換基、第4アンモニウム基などの強塩基性アニオン交換基を用いることができ、或いは、上記カチオン交換基及びアニオン交換基の両方を併有するイオン交換体を用いることもできる。
【0063】
これらの各種イオン交換基は、これらのイオン交換基を有するモノマーを用いてグラフト重合、好ましくは放射線グラフト重合を行うか、又はこれらのイオン交換基に転換可能な基を有する重合性モノマーを用いてグラフト重合を行った後に当該基をイオン交換基に転換することによって、繊維基材又はスペーサー基材に導入することができる。この目的で用いることのできるイオン交換基を有するモノマーとしては、アクリル酸(AAc)、メタクリル酸、スチレンスルホン酸ナトリウム(SSS)、メタリルスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸ナトリウム、ビニルスルホン酸ナトリウム、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライド(VBTAC)、ジエチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリルアミドなどを挙げることができる。例えば、スチレンスルホン酸ナトリウムをモノマーとして用いて放射線グラフト重合を行うことにより、基材に直接、強酸性カチオン交換基であるスルホン基を導入することができ、また、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライドをモノマーとして用いて放射線グラフト重合を行うことにより、基材に直接、強塩基性アニオン交換基である第4級アンモニウム基を導入することができる。また、イオン交換基に転換可能な基を有するモノマーとしては、アクリロニトリル、アクロレイン、ビニルピリジン、スチレン、クロロメチルスチレン、メタクリル酸グリシジル(GMA)などが挙げられる。例えば、メタクリル酸グリシジルを放射線グラフト重合によって基材に導入し、次に亜硫酸ナトリウムなどのスルホン化剤を反応させることによって強酸性カチオン交換基であるスルホン基を基材に導入したり、又はクロロメチルスチレンをグラフト重合した後に、基材をトリメチルアミン水溶液に浸漬して4級アンモニウム化を行うことによって、強塩基性アニオン交換基である第4級アンモニウム基を基材に導入することができる。
【0064】
なお、上記の繊維基材及び/又はスペーサー基材にカチオン交換基を導入する場合には少なくともスルホン基を、アニオン交換基を導入する場合には少なくとも第4級アンモニウム基を導入することが好ましい。これは、流入水として純水を用いる場合には、処理水のpHが中性領域であり、したがって存在するイオン交換基がこの領域でも解離しているスルホン基や第4級アンモニウム基でなければ電圧が高くなってしまい、所定の性能を発揮することが困難になる可能性があるからである。勿論、弱酸性のカチオン交換基であるカルボキシル基や、弱塩基性のアニオン交換基である第3級アミノ基やより低級のアミノ基が、イオン交換繊維材料及び/又はイオン伝導スペーサーに同時に存在していてもよいが、イオン交換繊維材料の場合には、スルホン基及び第4級アンモニウム基が、それぞれ中性塩分解容量として0.5〜3.0meq/gの範囲、イオン伝導スペーサーの場合には、スルホン基及び第4級アンモニウム基が、それぞれ中性塩分解容量として0.5〜2.0meq/gの量で存在することが好ましい。なお、イオン交換容量はグラフト率を変化させることによって増減させることができ、グラフト率が大きいほど、イオン交換容量が大きくなる。
【0065】
本発明に係る電気透析装置の各室の厚さは、2.0〜10mmが好ましく、低電圧や高流量などを考慮すると、2.5〜3.5mmが特に好ましい。この室の中に、種々のイオン交換繊維材料やイオン伝導スペーサーを充填して数多くの実験を行った結果、良好で安定な処理水質を得るためには、繊維材料基材としては、厚さが0.1〜1.0mm、目付が10〜100g/m2、空隙率が50〜98%、繊維径が10〜70μmの不織布基材が好ましく、またスペーサー基材としては厚さが0.3〜1.5mmの範囲が好ましいことが分かった。
【0066】
本発明の電気透析装置において用いるスペーサーの形状としては、斜交網が適している。スペーサーネットの具備すべき条件として、被処理水が乱流を起こしながら分散して流れ易いこと、ネットとイオン交換繊維材料とが十分に密着することができること、溶出物や粒子の発生が少ないこと、圧力損失が小さいこと、不織布の変形や圧密化が起こらないよう不織布に密着すること、などが挙げられる。このような条件を具備する基材としては、例えば図5に示されるような斜交網材料が好適であるが、このような形状に限定される訳ではない。網の厚さとしては、0.3〜1.5mmの範囲であれば、処理流量を大きくとることができ圧力損失が小さいので好適である。全体としてこの範囲内であれば複数枚のスペーサーネットを装填することができる。
【0067】
本発明の電気透析装置においては、好ましくは2.5〜10mmの厚さの各室の中に、イオン交換繊維材料及びイオン伝導スペーサーを適宜挟み込むのであるが、各々の材料の厚さを合計した値は、各室の厚さを超える場合が普通である。それぞれの材料の厚さは、流量、圧力損失、処理水質、電圧などを考慮して、適宜決定することができる。
【0068】
本発明の好ましい態様において、各室中に装填するスペーサーの形状、各材料の厚さについても、上記と同様であり、流量、圧力損失、濃縮水の分散性などを考慮して適宜決定することができる。
【0069】
本発明の電気透析装置において、各室を構成するのに用いることができる枠体の材料は、例えば、硬質塩化ビニール、ポリプロピレン、ポリエチレン、及びEPDM等が、容易に入手可能で、加工が容易で、かつ形状安定性に優れているので好適であるが、これらに特に限定されるものではなく、電気透析槽の枠体として当該技術において使用されている任意の材料を用いることができる。
【実施例】
【0070】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0071】
実施例1
イオン交換不織布の製造
表1に、本実施例においてイオン交換不織布の製造に使用した基材不織布の仕様を示す。この不織布は、芯がポリプロピレン、鞘がポリエチレンから構成される複合繊維を熱融着によって不織布にしたものである。
【0072】
【表1】
【0073】
表1に示した不織布に、ガンマ線を、窒素雰囲気下で照射した後、メタクリル酸グリシジル(GMA)溶液に浸漬して反応させ、グラフト率175%を得た。次に、このグラフト処理済不織布を、亜硫酸ナトリウム/イソプロピルアルコール/水の混合液中に浸漬して反応させ、スルホン化を行った。得られたイオン交換不織布のイオン交換容量を測定したところ、中性塩分解容量が2.82meq/gの強酸性カチオン交換不織布が得られたことが分かった。
【0074】
一方、上記のようにガンマ線を照射した不織布を、クロロメチルスチレン(CMS)溶液に浸漬して反応させたところ、148%のグラフト率が得られた。このグラフト処理済不織布を、トリメチルアミン10%水溶液中に浸漬して反応させ、4級アンモニウム化を行った。得られたイオン交換不織布は、中性塩分解容量が2.49meq/gの強塩基性アニオン交換不織布であった。
【0075】
イオン伝導スペーサーの製造
表2に、本実施例においてイオン伝導スペーサーの製造に使用した基材斜交網の仕様を示す。
【0076】
【表2】
【0077】
表2に示した斜交網基材に、N2雰囲気下でガンマ線を照射した後、スチレンスルホン酸ナトリウム(SSS)/ジメチルホルムアミド(DMF)/水の混合液中に浸漬して反応させ、グラフト率160%を得た。イオン交換容量を測定したところ、中性塩分解容量が1.05meq/gの強酸性カチオン伝導スペーサーが得られた。
【0078】
表2に示す斜交網基材に上記と同様の照射を行い、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライド(VBTAC)/ジメチルアクリルアミド(DMAA)/水の混合液中に浸漬して反応させてグラフト率130%を得た。このスペーサーは、中性塩分解容量が0.82meq/gの強塩基性アニオン伝導スペーサーであった。
【0079】
通水試験
上記で得られたイオン交換不織布及びイオン伝導スペーサー並びに市販のイオン交換膜を用いて、図3に示す構成の電気透析装置を形成した。カチオン交換膜としては、株式会社トクヤマ製のカチオン交換膜(商品名:CMB)を、アニオン交換膜としては株式会社トクヤマ製のアニオン交換膜(商品名:AHA)をそれぞれ用いた。酸室、電離室、アルカリ室、水解室及び極室の寸法はそれぞれ35×220mm×厚さ3mmであった。陽極室には上記で得られたカチオン伝導スペーサーを4枚、陰極室には上記で得られたアニオン伝導スペーサーを4枚充填した。酸室においては、陽極側から順に、上記で得られたカチオン交換不織布、カチオン伝導スペーサーを1枚、アニオン伝導スペーサーを1枚、アニオン交換不織布を充填し、アルカリ室においては陽極側から順に、上記で得られたカチオン交換不織布、カチオン伝導スペーサーを1枚、アニオン伝導スペーサーを1枚、アニオン交換不織布を充填し、水解室においては陽極側から順に、上記で得られたアニオン交換不織布、カチオン伝導スペーサーを2枚、カチオン交換不織布を充填し、電離室においては陽極側から順に、上記で得られたアニオン交換不織布、カチオン伝導スペーサーを2枚、カチオン交換不織布を充填した。
【0080】
この装置を用いて、図3に示すように各室からの回収水をそれぞれ同じ室に全量循環して希薄塩酸水の処理を行った。循環は、電離室に関しては15Lのタンクを介して、他の室に関しては1.3Lのタンクを介して行った。運転開始時の各室への供給水は、電離室が塩酸0.53重量%水溶液であり、極室、水解室、酸室、アルカリ室が抵抗値16.8MΩの純水であった。運転は定電流運転(2.6A/dm2)で行った。循環液中の塩酸の濃度測定を、導電率測定(予め検量線を作成)又は水酸化ナトリウムを用いた中和滴定によって行った。電離室への供給液(循環液)及び酸室への供給液(循環液)中に含まれる塩酸の全量(モル数)の経時変化を図6に、運転電圧の経時変化を図7に示す。1000分運転後の電離室への供給液(循環液)及び酸室への供給液(循環液)の塩酸濃度は、それぞれ、0.03重量%、5.4重量%であった。
【0081】
図6及び図7により、本発明の電気透析装置を用いて、希薄な塩酸溶液から塩酸の回収を効率よく行うことができ、10倍に濃縮することができたことが分かる。処理水の塩酸濃度は0.03重量%まで減少できた。極室、水解室、酸室、アルカリ室への初期供給水として高純度な純水を用いたにもかかわらず、運転初期においても低電圧で運転することができた。
【0082】
実施例2
実施例1と同様の装置を用いて、同様に希薄TMAH溶液の処理を行った。運転開始時の各室への供給水は、電離室がTMAH0.13重量%水溶液であり、極室、水解室、酸室、アルカリ室が抵抗値16.8MΩの純水であった。循環は、電離室に関しては5Lのタンクを介して、他の室に関しては0.5Lのタンクを介して行った。運転は定電流運転(2.6A/dm2)で行った。循環液中のTMAHの濃度測定を、導電率の測定(予め検量線を作成)又は塩酸を用いた中和滴定によって行った。電離室への供給液(循環液)及びアルカリ室への供給液(循環液)中に含まれるTMAHの全量(モル数)の経時変化を図8に、運転電圧の経時変化を図9に示す。100分運転後の電離室への供給液(循環液)及びアルカリ室への供給液(循環液)のTMAH濃度は、それぞれ、0.01重量%、1.1重量%であった。
【0083】
図8及び図9により、本発明の電気透析装置を用いて、0.13重量%と希薄なTMAH溶液からTMAHの回収を効率よく行うことができ、約10倍に濃縮することができたことが分かる。処理水のTMAH濃度は0.01重量%まで減少できた。極室、水解室、酸室、アルカリ室への初期供給水として高純度な純水を用いたにもかかわらず、運転初期においても低電圧で運転することができた。
【0084】
実施例3
実施例2と同じ装置を用いて、実施例1より濃厚なTMAH溶液の処理を行った。運転開始時の各室への供給水は、電離室がTMAH0.66重量%水溶液であり、極室、水解室、酸室、アルカリ室が抵抗値16.8MΩの純水であった。循環は、電離室に関しては5Lのタンクを介して、他の室に関しては0.5Lのタンクを介して行った。運転は定電流運転(2.6A/dm2)で行った。循環液中のTMAH濃度の測定を実施例2と同様に行った。電離室への供給液(循環液)及びアルカリ室への供給液(循環液)中に含まれるTMAHの全量(モル数)の経時変化を図10に、運転電圧の経時変化を図11に示す。300分運転後の電離室への供給液(循環液)及びアルカリ室への供給液(循環液)のTMAH濃度は、それぞれ、0.01重量%、6.1重量%であった。
【0085】
図10及び図11により、本発明の電気透析装置を用いて、TMAH溶液からTMAHの回収を効率よく行うことができ、約10倍に濃縮することができたことが分かる。処理水のTMAH濃度は0.01重量%まで減少できた。極室、水解室、酸室、アルカリ室への初期供給水として高純度な純水を用いたにもかかわらず、運転初期においても低電圧で運転することができた。
[発明の効果]
本発明に係る電気透析装置によれば、従来のバイポーラ膜を用いた電気透析法における不具合を生じさせることなく、安定した運転電圧で、酸廃液の精製処理、アルカリ廃液の精製処理、または、塩溶液からの酸・アルカリの生成を効率よく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】図1は、従来のバイポーラ膜を用いた電気透析法によって塩化ナトリウム水溶液と水から塩酸及び水酸化ナトリウムを生成する方法の概念を示す図である。
【図2】図2は、本発明の一態様に係る電気透析装置によって、塩化ナトリウム水溶液と水とから塩酸及び水酸化ナトリウムを生成する方法の概念を示す図である。
【図3】図3は、本発明の一態様に係る電気透析装置によって、塩酸廃液から精製塩酸水を得る方法の概念を示す図である。
【図4】図4は、本発明の他の態様に係る電気透析装置によって、フッ酸廃液から濃縮フッ酸水を得る方法の概念を示す図である。
【図5】図5は、本発明の電気透析装置において好ましく用いることのできる斜交網基材の構造を示す図である。
【図6】図6は、本発明の実施例1の通水実験における回収塩酸水及び被処理液中の塩酸量の変化を示すグラフである。
【図7】図7は、本発明の実施例1の通水実験における運転電圧の変化を示すグラフである。
【図8】図8は、本発明の実施例2の通水実験における回収TMAH水及び被処理液中のTMAH量の変化を示すグラフである。
【図9】図9は、本発明の実施例2の通水実験における運転電圧の変化を示すグラフである。
【図10】図10は、本発明の実施例3の通水実験における回収TMAH水及び被処理液中のTMAH量の変化を示すグラフである。
【図11】図11は、本発明の実施例3の通水実験における運転電圧の変化を示すグラフである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気透析装置の極室に隣接して設けるバッファ室であって、第1のイオン交換膜、第2のイオン交換膜、該第1及び第2のイオン交換膜の間に位置づけられているイオン交換体から構成され、流体供給口と流体排出口とを具備する、バッファ室。
【請求項2】
前記極室は陽極室であり、前記第1及び第2のイオン交換膜はカチオン交換膜であり、前記イオン交換体はカチオン交換体である、請求項1に記載のバッファ室。
【請求項3】
前記カチオン交換体は、カチオン交換樹脂ビーズ、カチオン伝導スペーサー、及び/又はカチオン交換繊維材料である、請求項2に記載のバッファ室。
【請求項4】
前記極室は陰極室であり、前記第1及び第2のイオン交換膜はアニオン交換膜であり、前記イオン交換体はアニオン交換体である、請求項1に記載のバッファ室。
【請求項5】
前記アニオン交換体は、アニオン交換樹脂ビーズ、アニオン伝導スペーサー、及び/又はアニオン交換繊維材料である、請求項4に記載のバッファ室。
【請求項6】
前記流体供給口と前記流体排出口との間に配管を設けて流体循環系を構成する、請求項1〜5のいずれか1項に記載のバッファ室。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のバッファ室を具備することを特徴とする電気透析装置。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のバッファ室の流体供給口に純水を供給することを特徴とする電気透析法。
【請求項1】
電気透析装置の極室に隣接して設けるバッファ室であって、第1のイオン交換膜、第2のイオン交換膜、該第1及び第2のイオン交換膜の間に位置づけられているイオン交換体から構成され、流体供給口と流体排出口とを具備する、バッファ室。
【請求項2】
前記極室は陽極室であり、前記第1及び第2のイオン交換膜はカチオン交換膜であり、前記イオン交換体はカチオン交換体である、請求項1に記載のバッファ室。
【請求項3】
前記カチオン交換体は、カチオン交換樹脂ビーズ、カチオン伝導スペーサー、及び/又はカチオン交換繊維材料である、請求項2に記載のバッファ室。
【請求項4】
前記極室は陰極室であり、前記第1及び第2のイオン交換膜はアニオン交換膜であり、前記イオン交換体はアニオン交換体である、請求項1に記載のバッファ室。
【請求項5】
前記アニオン交換体は、アニオン交換樹脂ビーズ、アニオン伝導スペーサー、及び/又はアニオン交換繊維材料である、請求項4に記載のバッファ室。
【請求項6】
前記流体供給口と前記流体排出口との間に配管を設けて流体循環系を構成する、請求項1〜5のいずれか1項に記載のバッファ室。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のバッファ室を具備することを特徴とする電気透析装置。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のバッファ室の流体供給口に純水を供給することを特徴とする電気透析法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−7655(P2007−7655A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−271496(P2006−271496)
【出願日】平成18年10月3日(2006.10.3)
【分割の表示】特願2002−114717(P2002−114717)の分割
【原出願日】平成14年4月17日(2002.4.17)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年10月3日(2006.10.3)
【分割の表示】特願2002−114717(P2002−114717)の分割
【原出願日】平成14年4月17日(2002.4.17)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]