説明

電気銅めっき方法

【解決手段】有機添加剤を含む硫酸銅めっき浴中で、浴電流密度を5A/L以下とし、硫酸銅めっき浴に金属銅をその浸漬面積をめっき浴の容量あたり0.001dm2/L以上として浸漬し、上記浸漬面積に対して0.01L/dm2・min以上のエアバブリングを施して電気銅めっきする。
【効果】ブラインドビアホール、トレンチ、インターポーザ用の孔などの銅めっきを充填して配線を構成する構造物を有するプリント基板やウェハ等の被めっき物に、硫酸銅めっき浴を用いて電気銅めっきする際において、硫酸銅めっき浴を用いて連続的に電気めっきするときに発生する、有機添加剤が酸化又は還元されて生成すると考えられる有機物を効率的に酸化分解させることができ、分解/変性有機生成物により発生する銅めっきの充填不良やボイドなどを可及的に低減することができ、長期にわたり安定して電気銅めっきができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫酸銅めっき浴を用いて、被めっき物を電気銅めっきする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント基板やウェハのパターンを形成する際、不溶解性アノード又は可溶性アノードを用いて硫酸銅電気めっきが施される。このプリント基板やウェハ用の硫酸銅めっき浴中には、ブライトナー、レベラー、促進剤、制御剤などと呼ばれる有機添加剤が含まれている。しかし、連続してめっきを行うなかで、当該有機添加剤が分解又は変性することによって、所望とする銅めっき皮膜や銅めっきの充填が得られないことが知られている。これは、めっき中に有機添加剤成分もアノードやカソードで、酸化及び還元反応を繰り返すうちに分解又は変性するためであると考えられている(以下、当該分解又は変性した化合物を分解/変性有機生成物ということがある)。硫酸銅電気めっきに関する先行技術としては、次のような先行技術が挙げられる。
【0003】
特開平3−97887号公報(特許文献1)
硫酸銅めっき浴中の銅イオンを補給するために、無通電の銅金属を配した別槽でエア攪拌を行って、金属銅を溶解させる。しかし、この公報中には、分解/変性有機生成物の問題についての対策は述べられていない。
【0004】
また、上記有機添加剤の問題を解決するために、次のような先行技術が提案されている。
【0005】
特開2003−55800号公報(特許文献2)
別槽で不溶性アノードを用いて空電解し、不溶性アノードから発生する酸素によって分解/変性有機生成物を酸化分解させて減少させている。しかし、連続してめっきを継続すると分解/変性有機生成物を十分に酸化分解するには時間がかかりすぎて、実用上問題点がある。
【0006】
特開2004−143478号公報(特許文献3)
別槽でエア攪拌を行うことで、硫酸めっき浴中の溶存酸素量を高め、当該溶存酸素によって、分解/変性有機生成物を酸化分解している。しかし、エア攪拌だけでは分解/変性有機生成物の酸化分解が不十分である。これに対してエア攪拌を強くすることも可能であるが、エア攪拌が強くなる程、大きな気泡がめっき槽へ返送されることが生じる。この大きな気泡がめっき槽に混入すると、被めっき物に当該気泡が付着し、無めっきなどのめっき不良を引き起こす。また、先にも述べたように、めっき浴中の溶存酸素は有機添加剤も分解する。そのため、めっき浴中の溶存酸素量を過大に増加させることは、不良有機物を増加させることにもなる。その結果、銅めっきの充填不良やめっき皮膜不良を引き起こし、また、補給する有機添加剤量が多くなってしまい、不経済となる。
【0007】
特開2005−187869号公報(特許文献4)
別槽に無通電の金属銅を設置して、当該金属銅にエア攪拌を行って、分解/変性有機生成物を分解することが開示されている。しかし、分解のためには多量の金属銅を設置する必要があるために不経済となる。また、めっき浴をエア攪拌するので、上述した特開2004−143478号公報の技術と同じ問題点を有する。
【0008】
【特許文献1】特開平3−97887号公報
【特許文献2】特開2003−55800号公報
【特許文献3】特開2004−143478号公報
【特許文献4】特開2005−187869号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、ブラインドビアホールやトレンチなどの銅めっきを充填する構造物を有するプリント基板やウェハ等の被めっき物に、硫酸銅めっき浴を用いて電気銅めっきする際において、硫酸銅めっき浴を用いて連続的に電気めっきするときに発生する、有機添加剤が酸化又は還元されて生成した分解/変性有機生成物を効率的に酸化分解させることができ、分解/変性有機生成物により発生する銅めっきの充填不良やボイドなどを可及的に低減することでき、生産性が高いままで長期にわたり安定してめっきができる電気銅めっき方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記問題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、基本的に有機添加剤の分解/変性有機生成物量は浴電流密度(A/L)が多くなると増える傾向にあることが判明し、この分解/変性有機生成物のめっきへの影響は、めっき槽内での制御が効果的であることを知見した。そこで、電気銅めっきが行われているめっき槽内の環境を制御すること、即ち、アノード及びカソード(被めっき物)を浸漬しためっき槽と同じ槽の硫酸銅めっき浴中に、金属銅を無通電状態で浸漬してこの金属銅に対してエアバブリングし、このエアバブリングの際、エアバブリングの量を所定量に制御して、所定のめっき速度を維持しつつ、めっき槽内の硫酸銅めっき浴中の分解/変性有機生成物を効率よく酸化分解することで、分解/変性有機生成物により発生する銅めっきの充填不良やボイドなどを可及的に低減することができ、長期にわたり安定してめっきができることを見出し、本発明をなすに至った。
【0011】
即ち、本発明は、以下の電気銅めっき方法を提供する。
[1] 有機添加剤を含む硫酸銅めっき浴中で、アノードとして可溶性アノード又は不溶性アノードを用い、被めっき物をカソードとして、上記被めっき物に銅を電気めっきする方法であって、
浴電流密度を5A/L以下とし、
金属銅を、上記アノード及びカソードが浸漬されためっき槽中の硫酸銅めっき浴の、上記アノードとカソードとの間の領域並びにアノード及びカソードの近傍領域から離間した領域に浸漬して、浸漬された金属銅の近傍を酸化分解領域とし、
上記金属銅の浸漬面積をめっき浴の容量あたり0.001dm2/L以上とし、
上記酸化分解領域に上記浸漬面積に対して時間当たり0.01L/dm2・min以上のエアバブリングを施すことにより、
上記金属銅を銅イオンとして溶解させつつ、電気銅めっきの際に上記有機添加剤の酸化又は還元反応により分解又は変性して生成した分解/変性有機生成物を、上記金属銅表面において、上記アノードとカソードとの間に印加される電流から独立した非電解酸化作用によって酸化分解させながら電気めっきすることを特徴とする電気銅めっき方法。
[2] 上記有機添加剤が窒素含有有機化合物、硫黄含有有機化合物及び酸素含有有機化合物から選ばれる1種以上であることを特徴とする[1]記載の電気銅めっき方法。
[3] 上記金属銅を、気泡拡散防止手段により、該気泡拡散防止手段の内外をめっき浴が移動可能に包囲して隔離し、上記気泡拡散防止手段で包囲した内側にエアバブリングすることを特徴とする[1]又は[2]記載の電気銅めっき方法。
[4] 上記めっき槽以外に別槽を設けて、該別槽にめっきに必要な銅イオンを供給し、該別槽から上記めっき槽に上記銅イオンを補給することを特徴とする[1]、[2]又は[3]記載の電気銅めっき方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ブラインドビアホール、トレンチ、インターポーザ用の孔などの銅めっきを充填して配線(層間接続配線を含む)を構成する構造物を有するプリント基板やウェハ等の被めっき物に、硫酸銅めっき浴を用いて電気銅めっきする際において、硫酸銅めっき浴を用いて連続的に電気めっきするときに発生する、有機添加剤が酸化又は還元されて生成すると考えられる有機物(分解/変性有機生成物)を効率的に酸化分解させることができ、分解/変性有機生成物により発生する銅めっきの充填不良やボイドなどを可及的に低減することができ、めっきラインを停止することなく長期にわたり安定して電気銅めっきができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について更に詳述する。
本発明の電気銅めっき方法は、有機添加剤を含む硫酸銅めっき浴中で、被めっき物に対して浴電流密度を5A/L以下(0A/Lは含まない)、特に0.001〜1A/L、とりわけ0.01〜0.3A/Lの条件で銅を連続的に電気銅めっきする電気銅めっきにおいて特に効果的である。浴電流密度とは、電気銅めっき時に、めっき槽(被めっき物に電気めっき処理をするめっき本槽及びオーバーフロー槽)内に収容される硫酸銅めっき浴容量1Lに対して与えられる総電流量をいう。例えば、めっき槽の容量が100Lで、陰極電流密度が1A/dm2、被めっき面積が20dm2である場合には、浴電流密度は、0.2A/Lとなる。浴電流密度を上記範囲とすると、特にブラインドビアホールに十分なめっき充填性を確保する上で効果的である。
【0014】
めっきの生産性を上げるためには、浴電流密度を上げることでめっき速度を上げてめっきすることが最も有効であるが、めっき速度を高くした場合、従来、硫酸銅めっき浴を用いて連続的に電気めっきするときに発生する有機添加剤が酸化又は還元されて生成した有機物(分解/変性有機生成物)を有効に低減することができなかった。本発明では、このような高いめっき速度での電気銅めっきにおいて、めっき浴中の分解/変性有機生成物を高い効率で低減できるため、析出するめっき皮膜やめっき充填部に欠陥を生じさせることなく、また、求められる特性を落とすことなく、めっきラインを短期間で停止せずに連続的に電気銅めっきすることができる。
【0015】
本発明において、硫酸銅めっき浴は、有機添加剤を含むものであり、有機添加剤としては、電気硫酸銅めっき浴に添加されるブライトナー、レベラー、促進剤、制御剤などと呼ばれる有機添加剤であり、電気硫酸銅めっき浴に添加される従来公知の、窒素含有有機化合物、硫黄含有有機化合物、酸素含有有機化合物などが挙げられる。
【0016】
本発明において対象とする有機添加剤及びその硫酸銅めっき浴中の濃度の例を以下に挙げる。例えば、ビアフィルめっきやダマシンで公知の第3級アミン化合物や第4級アンモニウム化合物などの窒素含有有機化合物の場合、0.01〜1000mg/L、ビアフィルめっきやダマシンで公知のビス(3−スルホプロピル)ジスルフィド(二ナトリウム塩)(SPS)、3−メルカプトプロパン−1−スルホン酸(ナトリウム塩)(MPS)等のジスルフィドなどの硫黄含有有機化合物の場合、0.001〜100mg/L、ビアフィルめっきやダマシンで公知のポリエチレングリコールなどのポリエーテル系有機添加物等の酸素含有有機化合物の場合、0.001〜5000mg/Lであることが好ましい。
【0017】
一方、硫酸銅めっき浴としては、例えば、硫酸銅を硫酸銅5水塩として30〜300g/L、硫酸を30〜300g/L含むものが好適に用いられる。また、硫酸銅めっき浴は、塩素イオン(Cl-)を5〜200mg/Lで含むものであることが好ましい。なお、硫酸銅めっき浴のpHは、通常2以下(0〜2)として用いられる。
【0018】
本発明においては、アノードとして可溶性アノード又は不溶性アノード(例えば、チタン上に酸化イリジウムをコーティングしたアノード等)を用い、被めっき物をカソードとしてこの被めっき物上に電気銅めっきが施される。なお、陰極電流密度は、通常0.1〜10A/dm2、特に0.3〜3A/dm2、とりわけ0.5〜2A/dm2とすることが好適である。また、電気銅めっき中は、硫酸銅めっき浴を循環攪拌、機械攪拌等の攪拌を行うことが好ましい。更には、カソードに対してのエア攪拌を併用することが好ましい。これら硫酸銅めっき浴の循環攪拌、機械攪拌等は、後述する酸化分解装置付近のめっき浴の更新を促し、分解/変性有機生成物の分解を促進する。一方、カソードに対してのエア攪拌は、めっき不良が生じないようカソード表面のめっき浴を更新するためにも併用することが好ましい。
【0019】
そして、このめっき槽(アノード及びカソードが浸漬されためっき本槽及びオーバーフロー槽)の硫酸銅めっき浴中に、無通電状態の金属銅を、金属銅の浸漬面積が上記めっき浴容量(めっき本槽及びオーバーフロー槽を含めためっき槽内に収容されるめっき浴の容量)あたり0.001dm2/L以上、特に0.01〜1dm2/Lとなるように浸漬する。
【0020】
この場合、金属銅にはアノードとカソードとの間に印加される電気めっきの電流は印加せず、無通電状態で浸漬される(即ち、溶解性アノードではない)。浸漬面積が0.001dm2/Lを下回ると、めっき槽内の環境を高いめっき効率に保てたとしても、電気銅めっきの際に有機添加剤の酸化又は還元反応により分解又は変性して生成した分解/変性有機生成物が蓄積し、めっき性能が維持できず、めっき皮膜のボイドやめっきの充填不良を抑制できない。なお、金属銅は、無酸素銅、低酸素銅などと呼ばれるもの以外にも、若干量(例えば100〜1000ppm程度)のリンを含む含リン銅でもよい。
【0021】
金属銅を浸漬する方法としては、銅板を吊り下げる等の方法も採用できるが、ある程度の浸漬面積を確保するためには、小径球状の金属銅(金属銅ボール)を用いることが好ましく、このような金属銅ボールは、めっき浴中で溶解や腐蝕を引き起こさない材質(例えば、Tiやステンレス等であり、無通電での浸漬状態で溶解や腐蝕が起こらない材質)で形成された網状の収容容器に収容して、この収容容器ごとめっき浴に浸漬すればよい。
【0022】
この金属銅には、エアバブリングが施される。この場合、金属銅へのエアバブリングが金属銅近傍以外に拡散することを防止するために、めっき浴中で溶解や腐蝕を引き起こさない材質(例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン等であり、pH2以下の条件で溶解や腐蝕を起こさない材質)で形成された網状、布状等のバッグなどの気泡拡散防止手段により、この気泡拡散防止手段の内外をめっき浴が移動可能に包囲して隔離することができる。その場合、エアノズルのエア吹出口を気泡拡散防止手段の内側に配置して、気泡拡散防止手段で包囲した内側にエアバブリングが施されるようにすれば、この金属銅に対するエアバブリングを一定の小域内に納めることができ、この金属銅周辺に局部的酸素飽和領域を形成し、めっき槽内のめっき浴全体に高い酸化分解作用を及ぼしてカソード(被めっき物)近傍の有用な有機添加剤までを過剰に酸化分解させることなく、めっき不良を引き起こすことを防止することができる。また、気泡拡散防止手段を用いることは、金属銅の溶解に伴って生成するおそれのあるスライム等の不純物も気泡拡散防止手段で保持して、その拡散を防止することができる点においても優れている。
【0023】
金属銅を浸漬する手段の一例を図1,2に示す。図1(A)は、金属銅(金属銅ボール)1が、例えばチタン等のめっき浴中で溶解や腐蝕を引き起こさない材質で形成された網状の収容容器2に収容された金属銅収容体10を示しており、収容容器2の上部には、後述するめっき槽の壁に掛合するように形成されたL字状のフック3が設けられている。図1(B)は、4つの金属銅収容体10を1単位として集合させ(集合数は4つに限定されず、1つでも、また2,3又は5つ以上集合させてもよい)、金属銅収容体10間に、2本のエアノズル11(本数は限定されず、1本又は3本以上でもよい)が設けられた酸化分解装置20を示している。なお、図1(B)の場合、4つの金属銅収容体10と2本のエアノズル11は、めっき浴中で溶解や腐蝕を引き起こさない材質(例えばポリプロピレン製)で形成された網状のバッグなどの気泡拡散防止手段12の(この図の場合かご状網)が、固定手段(図示せず)により金属銅収容体10に固定され、4つの金属銅収容体10と2本のエアノズル11が、この気泡拡散防止手段12の内外をめっき浴が移動可能に包囲されて隔離されている。
【0024】
この酸化分解装置20は、例えば図2に示されるように、金属銅収容体10のフック3をめっき槽30の側壁上部に掛合させることにより、めっき槽内に懸垂させて、金属銅1をめっき浴bに浸漬させることができる。そして、エアノズル11から流量制御装置(例えばバルブ、流量計など(いずれも図示せず))を用い、金属銅1の下方から、所定量のエア(空気)を吹出させて、金属銅1の近傍にエア(空気)の気泡を供給して、金属銅1と接触させる。この場合、気泡拡散防止手段12によりその外側に気泡が流出することがほとんどないようになっている。
【0025】
また、金属銅へのエアバブリングがめっきに影響を与えることを避けるために、金属銅は、めっき領域(電気めっきにおける電気化学作用が直接及ぶ領域(特に、アノードとカソードとの間の領域))以外の領域に浸漬される。更に、カソード(被めっき物)の搬送路以外の領域であることが好ましい。具体的には、例えば図3〜6に示されるように浸漬させることができる。
【0026】
図3には垂直連続搬送式めっき槽の場合の一例が示されており、被めっき物sの移動方向(図中、矢印方向)に沿って、被めっき物sの表裏面(被めっき面)に各々対向するように2つの不溶性アノード40が設けられている。図3において、上記アノード及びカソードの間の領域はaで示され、この場合、各々の不溶性アノード40の被めっき物sの移動方向両端外方であり、カソード(被めっき物)sの搬送路を避けた位置に、酸化分解装置20が2つずつ計4つ設けられている。この位置はバイポーラ現象が生じない領域にあたる。
【0027】
また、図4にはDip式めっき槽の場合の一例が示されており、被めっき物sの表裏面(被めっき面)に対向するように2つの不溶性アノード40が設けられている。図4においては、上記アノード及びカソードの間の領域はaで示され、この場合、2つのアノード40の水平方向一端外方に、酸化分解装置20が1つ設けられている。この設置場所は、バイポーラ現象は生じない領域にあたる。
【0028】
更に、図5には垂直連続搬送式めっき槽の場合の別の一例が示されており、図3の場合と酸化分解装置20の位置が異なる。図5において、上記アノード及びカソードの間の領域はaで示され、この場合、酸化分解装置20が、不溶性アノード40のカソードsと対向する面の背面とめっき槽の槽壁との間に5つずつ計10設けられている。この場合、アノード40やカソード(被めっき物)sに近いことで引き起こされるバイポーラ現象を抑制するため、酸化分解装置20とアノード40及びカソード(被めっき物)sとの間に遮蔽板21が設けられている。
【0029】
一方、図6には垂直連続搬送式めっき槽の場合の他の一例が示されており、図3の場合とアノード40の形状及び数が異なる。図6において、上記アノード及びカソードの間の領域はaで示され、この場合、円柱状の不溶性アノード40の被めっき物sの移動方向両端外方であり、カソード(被めっき物)sの搬送路を避けた位置に、酸化分解装置20が2つずつ計4つ設けられている。また、アノード40やカソード(被めっき物)sに近いことで引き起こされるバイポーラ現象を抑制するため、酸化分解装置20とアノード40及びカソード(被めっき物)sとの間に遮蔽板21が設けられている。なお、図3〜6中、301はめっき本槽、bはめっき浴である。なお、上記例ではめっき本槽に金属銅(酸化分解装置)を設置したものを示したが、金属銅(酸化分解装置)をオーバーフロー槽に設置することも可能である。
【0030】
本発明においては、浸漬された金属銅の表面及びその周辺領域、特に気泡拡散防止手段で包囲された領域を酸化分解領域とし、上記酸化分解領域に上記浸漬面積に対して1分当たり0.01L以上、特に0.1〜2L(即ち、0.01L/(dm2・min)以上、特に0.1〜2L/(dm2・min))のエアバブリングを施す。このエアバブリングにより、金属銅を銅イオンとして溶解させつつ、電気銅めっきの際に有機添加剤の酸化又は還元反応により分解又は変性して生成した分解/変性有機生成物が、金属銅表面においてアノードとカソードとの間に印加される電流から独立した非電解酸化作用によって酸化分解される。
【0031】
この分解作用は、特に限定されるものではないが、金属銅表面の溶存酸素濃度が飽和した状態で金属銅に分解/変性有機生成物が吸着し、この吸着した分解/変性有機生成物が金属銅と共に溶解する際に、金属銅(又はその表面酸化により生成した酸化銅)の触媒的作用によって、分解/変性有機生成物が酸化分解されるものと考えられる。理論的には、この分解作用は、金属銅の浸漬面積を大きくし、エアバブリング量を多くすることで効果を上げることができるが、金属銅の過剰溶出という観点から、特に、建浴後のめっき浴を連続して使用して、より多くのめっきを析出させる場合において、金属銅の上記浸漬面積、上記エアバブリング量を制御することによって、めっき浴中の銅濃度上昇という特に銅めっきの充填不良を防止できると考えられる。
【0032】
本発明においては、建浴後のめっき浴を例えば20日間以上停止することなく連続してめっきすることが可能であり(即ち、生産性を高くでき)、必要な成分を適宜補給しながら連続してめっき浴を使用することができる。通常の電気めっき方法ではめっき浴の性能を復活させるために定期的に休止させたり、ダミーめっきを実施したりすることが必要となるが、本発明においては、これらの操作をすることなく長期間連続してめっきすることが可能である。
【0033】
また、本発明においては、浸漬された金属銅の表面及びその周辺領域、特に気泡拡散防止手段で包囲された領域を酸化分解領域とし、上記所定の割合の銅が溶解するように、酸化分解領域に集中的に所定量のエアバブリングを施すため、この酸化分解領域の溶存酸素量を飽和に近い状態とできることから、めっき浴中の溶存酸素をより効率的に酸化分解反応に利用することができる。この点においても、上述した気泡拡散防止手段は、特に有効に機能する。
【0034】
更に、本発明においては、この金属銅の溶解により生成した銅イオンが、めっきの特性に好ましくない影響を与える1価の銅イオン(Cu+)であったとしても、上記溶存酸素飽和の雰囲気中で直ちに更に酸化されて2価の銅イオン(Cu2+)となるので、1価の銅イオンの影響も少ない。
【0035】
上記硫酸銅めっき浴の各成分は、連続して電気銅めっきをすることにより減少した成分を、必要に応じて補給液の添加など従来公知の方法で補給して、めっきを継続することができる。また、可溶性アノードの場合、当該可溶性アノードからめっきに必要な銅イオンを補給することができる。一方、不溶性アノードを使用した場合は、めっき槽以外に別槽を設けて、別槽にめっきに必要な銅イオンを供給し、別槽からめっき槽に銅イオンを補給する方法を用いることができる。具体的には、別槽において酸化銅(CuO)をエア攪拌や機械攪拌などを用いて溶解し、溶解が完了した後、エアバブリングを停止し、別槽とめっき槽との間を循環させる方法により補給することができる。
【0036】
図7には、不溶性アノードを用いた場合のめっき本槽301とオーバーフロー槽302とからなるめっき槽30と、別槽50との間でめっきに必要となる銅イオンの供給方法の概略が示されている。例えば、めっき槽30との間の循環(循環ポンプ(図示せず))を停止した状態で、別槽50に酸化銅を投入して酸化銅を溶解させる。この場合、エア攪拌器51、機械攪拌器52により酸化銅の溶解を促進させる。そして、別槽50で酸化銅の溶解が完了した後、エア攪拌器51、機械攪拌器52を停止し、別槽50内のめっき浴bから気泡がなくなるまでの所定時間経過後、各種有機添加剤などを所定量補給し、循環ポンプ(図示せず)を稼動させて、めっき槽30(オーバーフロー槽302)と別槽50との間でめっき浴bの循環を開始してめっきに必要な銅イオンをめっき槽に供給する。なお、図7において、40はアノード、sは被めっき物(カソード)である。
【0037】
この場合、互いに連通する2つのオーバーフロー槽を設け、めっき浴を別槽へ送る側のめっき浴の取り出しを一のオーバーフロー槽から、めっき浴を別槽からめっき槽に送る側のめっき浴の返送先を他のオーバーフロー槽とし、上記他のオーバーフロー槽からめっき本槽にめっき浴を移送することによりめっき浴を循環させることも好ましい。
【0038】
本発明において、めっき温度は、通常20〜30℃が好適である。また、めっき浴自体の攪拌のために、従来公知のめっき攪拌手段、例えばポンプ等を使用した噴流攪拌又は循環攪拌、パドル、カソードロッキング等の機械攪拌などを用いることが好ましい。これはめっき槽内のめっき浴を攪拌することで、上記酸化分解領域への分解/変性有機生成物の運搬が効率化し、上記酸化分解領域のめっき浴が置換し、酸化分解作用を効率化させるためである。これとは別に、被めっき物に対してエア攪拌を行うことも好ましい。被めっき物へのエア攪拌の目的は被めっき物表面におけるめっき浴の更新を促し、めっき不良やめっき充填不良を抑制するためである。このように、被めっき物へのエア攪拌は、分解/変性有機生成物の酸化分解作用とは別の目的に使用されるものであり、被めっき物へはカソードとして電流が印加されているため電気めっき作用によって金属銅が析出するが、当該析出した銅めっきは、溶解して分解/変性有機生成物を酸化分解する作用はほとんど起きないと考えられる。
【0039】
本発明においては、被めっき物としてプリント基板、ウェハ、特にブラインドビアホールやトレンチなど電気銅めっきを充填して埋め込み配線が形成される構造物を少なくとも有するプリント基板、ウェハなどの上に配線パターンなどを形成するための電気銅めっきに適用することができる。また、本発明においては硫酸銅めっき浴中の有機添加剤の1種をプレディップ法により予め被めっき物に吸着させた後、プレディップした有機添加剤を含む又は含まない硫酸銅めっき浴による電気銅めっき方法にも適用することができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0041】
[実施例1]
被めっき物として、φ80−深さ35μmのブラインドビアホールを有するプリント基板を用意した。このプリント基板に対して公知の前処理、触媒処理、化学銅めっきを施した後、下記硫酸銅めっき浴を用いて下記ランニングめっき条件にて基板を順次入れ替えて連続で電気銅めっきを施した。なお、酸化分解装置20としては図1(B)の装置を用い、図3に示す位置に設置した。電気銅めっき中、公知の濃度分析方法で各種成分を測定し、銅イオンは図6に示す別槽50において酸化銅を溶解し、ポンプによってめっき槽30に循環補給し、その他成分は必要によりオーバーフロー槽302へ所定量補給した。この電気銅めっき浴で条件を変えて連続電解を行い1回/日、めっき浴状態を確認するためにブラインドビアホールへの評価めっきを行った。この時、めっき浴の状態を正確に把握するために評価めっき条件は一定とした。なお、めっき本槽301とオーバーフロー槽302に収容されるめっき浴容量は200Lとし、めっき浴に浸漬されている被めっき物の被めっき面積を50dm2とした。ブラインドビアホールのめっき充填性を評価した結果を表1に示す。
【0042】
〔硫酸銅めっき浴〕
硫酸銅5水塩:200g/L
硫酸:50g/L
塩素:50mg/L
第4級アミン化合物:10mg/L
ビス(3−スルホプロピル)ジスルフィド(二ナトリウム塩)(SPS):5mg/L
PEG:500mg/L
【0043】
〔ランニングめっき条件〕
基板1枚あたりのめっき時間:60min(ブラインドビアホール以外の表面パターン配線のめっき膜厚:20μmとなる設定時間)
浴電流密度(A/L):表中に示されるとおり
金属銅浸漬面積(dm2/L):表中に示されるとおり
エアバブリング量(L/(dm2・min)):表中に示されるとおり
アノード:不溶性アノード(Umicore社製プラチノード187(メッシュ:N type))
なお、めっき浴の循環攪拌、被めっき物へのエア攪拌を実施した。
【0044】
〔評価めっき条件(ブラインドビアホールへのめっき条件)〕
電流密度:1.5A/dm2
めっき時間:60min(ブラインドビア以外の表面パターン配線のめっき膜厚:20μmとなる設定時間)
【0045】
〔評価方法〕
ブラインドビアホールでのDimpleをクロスセクションで断面確認し、Dimpleの深さが10μm以上のものを「不可」とし、10μmを下回るものを「可」とした。
【0046】
[実施例2]
アノードを可溶性アノード(Ti製バスケットに含リン銅ボールを収容し、PP製バックを被せたもの)に変更した以外は、実施例1と同様にして電気銅めっきを実施し、実施例1と同様にブラインドビアホールのめっき充填性を評価した。結果を表1に示す。
【0047】
[比較例1]
使用する電気めっき装置を、めっき本槽とは異なる分解槽を有する図8に示されるような装置とし、分解槽中に酸化分解装置を浸漬してバブリングし、金属銅の浸漬面積を、電気めっき槽、分解槽及び別槽中のめっき浴の合計容量に対しての浸漬面積とした以外は実施例1と同様にして電気銅めっきを実施し、実施例1と同様にブラインドビアホールのめっき充填性を評価した。結果を表1に示す。なお、図8において、20は酸化分解装置、60は分解槽である。他は図7と同一の符号を付して説明を省略する。
【0048】
[比較例2]
金属銅の浸漬面積及びエアバブリング量を表1に示されるように変更した以外は、比較例1と同様にして電気銅めっきを実施し、実施例1と同様にブラインドビアホールのめっき充填性を評価した。結果を表1に示す。
【0049】
[比較例3]
酸化分解装置を用いず、エアバブリングも実施しなかった以外は、実施例1と同様にして電気銅めっきを実施し、実施例1と同様にブラインドビアホールのめっき充填性を評価した。結果を表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
実施例1と比較例3とを比較すると、評価結果が「不可」となる時期が比較例3の方が早いことがわかる。これは、分解/変性有機生成物がブラインドビアホールのめっき充填性に悪影響を及ぼしているためと考えられる。また、実施例1と比較例1とでは、めっき浴容量に対する金属銅の浸漬面積もエアバブリング量も同じであり、分解/変性有機生成物の酸化分解をめっき槽以外で行ったことだけが異なる。実施例1と比較例1の評価結果から、めっき槽内のめっき環境を基準として管理することが重要であることがわかる。更には、比較例2では金属銅の浸漬面積が大きいが、エアバブリングがないため分解/変性有機生成物の酸化分解が不十分となっている。実施例1の方が長期安定してめっき充填性が保たれており、このことから、めっき充填性を保つためには、めっき槽内での分解/変性有機生成物の酸化分解が確実であり、効率的であることがわかる。
【0052】
[実施例3〜5]
浴電流密度(ここでは、被めっき面積を50dm2に固定せず、浴電流密度を指標とした。)、金属銅の浸漬面積及びエアバブリング量を表2に示されるように変更した以外は、実施例1と同様にして電気銅めっきを実施し、実施例1と同様にブラインドビアホールのめっき充填性を評価した。結果を表2に示す。
【0053】
[実施例6]
第4級アミン化合物の代わりに第3級アミン化合物を用いた以外は、実施例1と同様にして電気銅めっきを実施し、実施例1と同様にブラインドビアホールのめっき充填性を評価した。結果を表2に示す。
【0054】
[実施例7]
アノードを可溶性アノード(Ti製バスケットに含リン銅ボールを収容し、PP製バックを被せたもの)に変更した以外は、実施例5と同様にして電気銅めっきを実施し、実施例1と同様にブラインドビアホールのめっき充填性を評価した。結果を表2に示す。
【0055】
【表2】

【0056】
実施例3〜5及び7の評価結果から、陰極電流密度、被めっき面積を様々に変化させて浴電流密度を変化させても、長期間安定してめっき充填性を保つことができることがわかる。また、実施例6においては、有機添加剤として第3級アミンを用いても長期間安定してめっき充填性を保てることがわかる。
【0057】
[比較例4〜6]
浴電流密度、金属銅の浸漬面積及びエアバブリング量を表3に示されるように変更した以外は、実施例1と同様にして電気銅めっきを実施し、実施例1と同様にブラインドビアホールのめっき充填性を評価した。結果を表3に示す。
【0058】
[比較例7]
浴電流密度、金属銅の浸漬面積及びエアバブリング量を表3に示されるように変更した以外は、実施例2と同様にして電気銅めっきを実施し、実施例1と同様にブラインドビアホールのめっき充填性を評価した。結果を表3に示す。
【0059】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】金属銅をめっき浴に浸漬する手段の一例を示す図であり、(A)は金属銅を収容した金属銅収容体、(B)は金属銅収容体、エアノズル及び気泡拡散防止手段を集合させた酸化分解装置を示す斜視図である。
【図2】酸化分解装置により金属銅をめっき浴に浸漬させた状態の一例を示す断面図である。
【図3】垂直連続搬送式のめっき槽における金属銅を備える酸化分解装置のめっき浴中の浸漬位置の一例を示す概略平面図である。
【図4】Dip式めっき槽における金属銅を備える酸化分解装置のめっき浴中の浸漬位置の例を示す概略平面図である。
【図5】垂直連続搬送式のめっき槽における金属銅を備える酸化分解装置のめっき浴中の浸漬位置の別の一例を示す概略平面図である。
【図6】垂直連続搬送式のめっき槽における金属銅を備える酸化分解装置のめっき浴中の浸漬位置の他の一例を示す概略平面図である。
【図7】別槽を設けて銅イオン補給する方法を説明するためのめっき装置の概略構成図である。
【図8】比較例で用いためっき本槽とは異なる分解槽を有するめっき装置の概略構成図である。
【符号の説明】
【0061】
1 金属銅(金属銅ボール)
2 収容容器
3 フック
10 金属銅収容体
11 エアノズル
12 気泡拡散防止手段
20 酸化分解装置
21 遮蔽板
30 めっき槽
301 めっき本槽
302 オーバーフロー槽
40 不溶性アノード
50 別槽
51 エア攪拌器
52 機械攪拌器
60 分解槽
b めっき浴
s 被めっき物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機添加剤を含む硫酸銅めっき浴中で、アノードとして可溶性アノード又は不溶性アノードを用い、被めっき物をカソードとして、上記被めっき物に銅を電気めっきする方法であって、
浴電流密度を5A/L以下とし、
金属銅を、上記アノード及びカソードが浸漬されためっき槽中の硫酸銅めっき浴の、上記アノードとカソードとの間の領域並びにアノード及びカソードの近傍領域から離間した領域に浸漬して、浸漬された金属銅の近傍を酸化分解領域とし、
上記金属銅の浸漬面積をめっき浴の容量あたり0.001dm2/L以上とし、
上記酸化分解領域に上記浸漬面積に対して時間当たり0.01L/dm2・min以上のエアバブリングを施すことにより、
上記金属銅を銅イオンとして溶解させつつ、電気銅めっきの際に上記有機添加剤の酸化又は還元反応により分解又は変性して生成した分解/変性有機生成物を、上記金属銅表面において、上記アノードとカソードとの間に印加される電流から独立した非電解酸化作用によって酸化分解させながら電気めっきすることを特徴とする電気銅めっき方法。
【請求項2】
上記有機添加剤が窒素含有有機化合物、硫黄含有有機化合物及び酸素含有有機化合物から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1記載の電気銅めっき方法。
【請求項3】
上記金属銅を、気泡拡散防止手段により、該気泡拡散防止手段の内外をめっき浴が移動可能に包囲して隔離し、上記気泡拡散防止手段で包囲した内側にエアバブリングすることを特徴とする請求項1又は2記載の電気銅めっき方法。
【請求項4】
上記めっき槽以外に別槽を設けて、該別槽にめっきに必要な銅イオンを供給し、該別槽から上記めっき槽に上記銅イオンを補給することを特徴とする請求項1、2又は3記載の電気銅めっき方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−41070(P2009−41070A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−207440(P2007−207440)
【出願日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【出願人】(000189327)上村工業株式会社 (101)
【Fターム(参考)】