説明

電気駆動式作業機械

【課題】作業中にバッテリ残量が通常状態から低消費領域に減少した場合にも作業を安定に継続することができて、作業性に優れた電気駆動式作業機械を提供する。
【解決手段】アクチュエータの駆動中にバッテリ20のバッテリ残量が閾値を下回った場合にも、アクチュエータの駆動を停止するまではアクチュエータの最大出力を高い値に維持し、アクチュエータの駆動を停止した後にアクチュエータの最大出力を低い値に制限する。アクチュエータを駆動しての作業中にアクチュエータの最大出力がいきなり低い値に制限されないので、作業を安定に行えると共に、運転者に与える違和感を解消若しくは緩和することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッテリを駆動電源としてアクチュエータの主動力源である電動モータの駆動を行う電気駆動式作業機械に係り、特に、限られたバッテリ容量を有効利用して、作業量や稼働時間を延長する手段に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、油圧ポンプの駆動源として電動モータを搭載し、この電動モータに車載バッテリから電力を供給して、必要な油圧アクチュエータを駆動する電気駆動式作業機械が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の技術は、バッテリを搭載したショベルに関するものであって、バッテリからインバータを介して複数の電動モータに電力を供給し、これらの各電動モータにより油圧ポンプを駆動し、油圧ポンプから吐出される圧油をリンク機構に備えられたアクチュエータのシリンダに供給して、掘削などの作業を行なうものである。ショベルには、バッテリの残量(電源容量)を検出する手段が備えられており、この残量が減少して予め設定された閾値に達したことが検知されると、バッテリからの電力供給を制限してアクチュエータの作動を制限すると共に、その旨を知らせる警報を発する警報手段が設けられている。この閾値はショベルが自力で充電施設まで移動できる程度のバッテリ残量を表わすものであり、警報の発生と共にショベルを充電施設まで移動させることにより、ショベルが立ち往生するのを防止できるようにしている。
【0004】
この種のバッテリ搭載型の電気駆動式作業機械は、排ガスを全く排出せず、騒音及び振動も大幅に低減できるので、エンジン排気を行なうことができない地下での作業や騒音及び振動に規制が課される市街地での作業に適するほか、商用電源を利用するタイプの電気駆動式作業機械とは異なり、電源と電動モータとを電力ケーブルを介して接続する必要がないので、作業機械の移動や旋回が電源ケーブルに制限されないという長所を有する。
【0005】
ところで、ショベルなどの大型の作業機械を駆動するような大容量の出力を有するバッテリは、高価であるばかりでなく、エンジンの駆動に使用される軽油に比べて重量当たりのエネルギ出力も低いので、車載できる限られた容量のバッテリを如何に有効利用して作業量や稼働時間を延ばすかが大きな問題になる。
【0006】
特許文献2には、かかる課題を解決する手段として、バッテリ容量の増減を監視手段により監視し、この監視結果に基づいて予め設定した領域ごとに作業機器への出力の増減を制御して当該作業機器を駆動させる技術が開示されている。
【特許文献1】特開平11−107320号公報
【特許文献2】特開2004−189409号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2に開示の技術は、監視手段により監視されるバッテリ残量が予め設定された低消費領域又は停止領域になったとき、直ちに作業車両の駆動状態を出力低減状態又は出力停止状態に切り換えるので、作業中にバッテリ残量が通常状態から低消費領域に減少した場合、作業の途中で作業車両の駆動状態が急激に出力低減状態や出力停止状態に切り換わることになり、作業に支障を来したり、運転者に違和感を抱かせるおそれがある。
【0008】
本発明は、かかる従来技術の問題を解消するためになされたものであり、その目的は、作業中にバッテリ残量が通常状態から低消費領域に減少した場合にも作業を安定に継続することができて、作業に支障を来したり、運転者に違和感を抱かせにくい、作業性に優れた電気駆動式作業機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するため、第1に、アクチュエータと、アクチュエータの主動力源である電動モータと、電動モータの駆動電源であるバッテリとを搭載した電気駆動式作業機械において、前記バッテリのバッテリ残量を検出するバッテリ残量検出手段と、当該バッテリ残量検出手段により検出されたバッテリ残量が予め定められた閾値を下回ったか否かを判定するバッテリ残量判定手段と、当該バッテリ残量判定手段の判定結果に応じて前記アクチュエータの最大出力を変更する出力制御手段とを備え、前記出力制御手段は、前記アクチュエータの駆動中に、前記バッテリ残量検出手段にて検出されたバッテリ残量が前記閾値を下回ったと前記バッテリ残量判定手段により判定された場合、前記アクチュエータの駆動を停止するまでは、前記アクチュエータの最大出力を高い値に維持し、前記アクチュエータの駆動を停止した後に、前記アクチュエータの最大出力を低い値に制限することを特徴とする。
【0010】
かかる構成によると、出力制御手段は、アクチュエータの駆動中にバッテリ残量が閾値を下回った場合にも、アクチュエータの駆動を停止するまではアクチュエータの最大出力を高い値に維持し、アクチュエータの駆動を停止した後にアクチュエータの最大出力を低い値に制限するので、アクチュエータを駆動しての作業中にアクチュエータの最大出力が低い値に制限されることがなく、作業を安定に行えると共に、運転者に与える違和感を解消若しくは緩和することができる。
【0011】
本発明は第2に、前記第1の電気駆動式作業機械において、前記バッテリ残量検出手段は、前記バッテリ残量として、前記バッテリのバッテリ電圧を検出することを特徴とする。
【0012】
ショベルなどの作業機械は、稼働状況に応じてバッテリにかかる負荷が大きく変動するので、搭載されたバッテリの電源容量を計測して、仮に十分な電源容量があると判定された場合にも、バッテリにかかる負荷が大きく、したがって電圧降下が大きい場合には、十分なバッテリ出力が得られない場合を生じ得る。また、このことから、バッテリの電源容量を十分に利用することも難しい。これに対して、バッテリ残量としてバッテリ電圧を計測すると、バッテリにかかる負荷に応じた電圧降下を考慮してアクチュエータの最大出力を変更するための閾値を設定することができるので、常にバッテリ残量に応じた適正な出力を得ることができ、アクチュエータを設定された最大出力(最大トルク又は最大速度)の範囲内で正常に動作させることができる。また、負荷時の電圧降下を考慮して適正な閾値を設定できることから、バッテリの電源容量を無駄なく十分に利用できて、作業量や稼働時間の延長を図ることができる。
【0013】
本発明は第3に、前記第1の電気駆動式作業機械において、前記バッテリ残量検出手段は、前記バッテリ残量として、前記バッテリに残存している電源容量を検出することを特徴とする。
【0014】
上述のように、バッテリに残存している電源容量を基準としてアクチュエータの出力制限を行うと、バッテリ電圧を基準とする場合に比べて効率が低下するが、作業を安定に行えて、運転者に与える違和感を解消若しくは緩和できる点では同一の効果を奏することができる。
【0015】
本発明は第4に、前記第1の電気駆動式作業機械において、前記バッテリ残量判定手段に前記閾値を多段階又は無段階に設定し、当該バッテリ残量判定手段は、前記バッテリ残量検出手段により検出されたバッテリ残量が前記多段階又は無段階に設定された閾値のどの段階にあるのかを判定し、前記出力制御手段は、前記バッテリ残量判定手段の判定結果に応じて前記アクチュエータの最大出力を変更することを特徴とする。
【0016】
かかる構成によると、バッテリ残量の減少に応じてアクチュエータの最大出力を段階的又は無段階的に制限することができるので、アクチュエータの出力制限をより厳密に行うことができて、より一層適格に電源容量の有効利用を図ることができる。
【0017】
本発明は第5に、前記第1の電気駆動式作業機械において、前記出力制御手段は、前記バッテリ残量検出手段にて検出されたバッテリ残量が前記閾値を下回ったと前記バッテリ残量判定手段により判定された回数をカウントし、前記カウントの回数が増加するに従って前記アクチュエータの最大出力を段階的に低い値に制限することを特徴とする。
【0018】
アクチュエータを駆動すると、バッテリに負荷がかかって電圧降下が起こり、アクチュエータの駆動を停止すると、バッテリにかかっていた負荷が除かれて電圧上昇が起こる。そして、バッテリ電圧は、このような電圧変動が起こるごとに低下する。したがって、電圧降下の累積回数をカウントし、この回数が増加するに応じてアクチュエータの最大出力を段階的に低い値に制限すると、アクチュエータ駆動限界電圧を超えてアクチュエータが駆動されることを防止できるので、作業機械の正常な動作を保障することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によると、出力制御手段は、アクチュエータの駆動中にバッテリ残量が閾値を下回った場合にも、アクチュエータの駆動を停止するまではアクチュエータの最大出力を高い値に維持し、アクチュエータの駆動を停止した後にアクチュエータの最大出力を低い値に制限するので、アクチュエータを駆動しての作業中にアクチュエータの最大出力が低い値に制限されることがない。よって、作業を安定に行えると共に、運転者に与える違和感を解消若しくは緩和することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
〈第1実施形態〉
以下、本発明に係る電気駆動式作業機械の第1実施形態を、バッテリ式電動ショベルを例にとって説明する。
【0021】
図1は実施形態に係るバッテリ式電動ショベルの充電時の状態を示す図であって、1はバッテリ式電動ショベル、2はバッテリ式電動ショベル1に充電用の電力を供給する電源供給部を示している。バッテリ式電動ショベル1は、上部旋回体10と、下部走行体11と、ブーム12a、アーム12b及びバケット12cを有するフロント部材12と、上部旋回体10の内部に搭載されたバッテリ20とを含んで構成される。一方、外部電源供給部2は、商用の高圧電源や発電機などの外部電源21と、バッテリ20と外部電源21とを接続する電力ケーブル21aとから構成される。
【0022】
ブーム12aは、一端が上部旋回体10にピン結合されており、このピン結合部を中心として垂直な面内で回転する。アーム12bは、一端がブーム12aの先端部にピン結合されており、このピン結合部を中心として垂直な面内で回転する。バケット12cは、一端がアーム12bの先端部にピン結合されており、このピン結合部を中心として垂直な面内で回転する。これらの各フロント部材12a,12b,12cは、各フロント部材毎に備えられた図示しないブーム用油圧シリンダ、アーム用用油圧シリンダ及びバケット用油圧シリンダを伸縮することによって回転動作するようになっており、運転者は、運転室に備えられた操作レバー等を操作し、これら各油圧シリンダを適宜伸縮することにより、掘削や積み込み等の所要の作業を行う。
【0023】
上部旋回体10と下部走行体11との間には、旋回用電動モータ106(図2参照)によって回転される旋回輪13が設けられており、運転者は運転室に備えられた操作レバー等を操作して旋回用電動モータ106を駆動し、これにより旋回輪13を旋回することによって、上部旋回体10を下部走行体11上で回転する。また、下部走行体11には、図示しない走行用油圧モータによって駆動される走行履帯11aが設けられており、運転者は運転室に備えられた操作レバー等を操作して走行用油圧モータを駆動し、これにより走行履帯11aを駆動することによって、バッテリ式電動ショベル1を前方又は後方に走行させる。なお、走行履帯11a及びこれを駆動する走行用油圧モータは、下部走行体11の左右両側にそれぞれ備えられる。
【0024】
バッテリ式電動ショベル1には、前記各油圧シリンダ及び走行用油圧モータ(本明細書では、これらを総称して「油圧アクチュエータ」ということがある。)に圧油を供給する油圧ポンプ102及びこれを駆動する電動モータ103(図2参照)とが搭載されており、バッテリ20は、この電動モータを含む車載電気機器の電源として用いられる。
【0025】
上部旋回体10には、電力ケーブル21aを接続するための図示しない外部電源接続口が設けられており、この外部電源接続口に外部電源供給源2の電力ケーブル21aを接続することにより、外部電源供給源2の外部電源21をバッテリ20の充電装置に接続できる。電力ケーブル21aは、外部電源接続口に対して着脱可能に構成されており、外部電源接続口に電力ケーブル21aが接続されたときには、充電装置を介してバッテリ20が外部電源21によって充電可能となり、バッテリ充電量が所定量以上になった後においては、このバッテリ20が前記各アクチュエータの駆動電源となる。
【0026】
図2は実施形態に係るバッテリ式電動ショベル1に搭載される電源管理部の構成を示すシステムブロック図であり、この図から明らかなように、本例の電源管理部は、制御装置100と、バッテリ20と、バッテリ電圧を計測するバッテリ電圧計測装置22と、バッテリ電圧を含む必要な情報を運転者に表示する表示装置101と、下部走行体11を駆動する走行用油圧モータ並びにブーム12aを駆動するブーム駆動用油圧シリンダ、アーム12bを駆動するアーム駆動用油圧シリンダ及びバケット12cを駆動するバケット駆動用油圧シリンダに圧油を供給する油圧ポンプ102と、油圧ポンプ102を駆動する第1電動モータ103と、第1電動モータ103に交流電流を供給する第1インバータ104と、下部走行体11に対して上部旋回体10を旋回させる旋回用電動モータ(第2電動モータ)106と、第2電動モータ106に交流電流を供給する第2インバータ107と、外部電源21が接続されるバッテリ20の充電装置108と、制御装置100からの制御信号によりバッテリ式電動ショベル1の駆動電源をバッテリ20又は外部電源21若しくはこれらの双方に切り換える電源切換部109とからなる。
【0027】
制御装置100は、図2及び図3に示すように、運転者がバッテリ式電動ショベル1の起動・スタート・停止のために操作する図示しないキースイッチから出力されるキースイッチ信号SD1、運転者が作業を実行するために操作する操作レバーから出力されるレバー操作量信号SD2、運転者が操作レバーの誤操作を防止するために操作するロックレバーから出力されるロックレバー信号SD3、バッテリ電圧計測装置22から出力されるバッテリ残量信号SD4、及び電力ケーブル21aが外部電源接続口に接続されたときに充電装置108から出力される外部電源接続信号SD5を入力する入力部110と、表示装置101に表示する表示データ信号SC1、第1及び第2のインバータ104,107に印加するアクチュエータ指令信号SC2,SC3、及び電源切換部109に印加する電源切換信号SC4を出力する出力部120と、バッテリ電圧計測装置22により計測されたバッテリ電圧に基づいてバッテリ20の残量(バッテリ残量)を判定すると共に、判定されたバッテリ残量に応じて、前記各油圧アクチュエータの最大出力(最大トルク又は最大速度等)を変更する判定・制御部130と、バッテリ残量の閾値とバッテリ残量が当該閾値以上である場合の前記各アクチュエータの最大出力とバッテリ残量が当該閾値以下である場合の前記各アクチュエータの最大出力とを記憶したROM140と、判定・制御部130にて実行される処理のプログラムが記憶されたRAM150とから主に構成されている。制御装置100には、図2及び図3に示すように、例えば24Vの制御装置電源VSが供給駆動される。
【0028】
ROM140には、図4に示すように、バッテリ20について、バッテリ残量に応じた無負荷時のバッテリ電圧の変化と最大負荷時のバッテリ電圧の変化とが記憶されており、これらの各データには、アクチュエータ駆動限界電圧V0以上の所定の電圧値に、閾値が設定されている。本例においては、図4に示すように、アクチュエータ駆動限界電圧V0よりも高い値に第1の閾値である下限電圧V1が設定され、当該下限電圧V1よりも高い値に第2の閾値である復帰電圧V2が設定されている。
【0029】
また、このROM140には、図5に示すように、バッテリ電圧の変化に応じたアクチュエータの最大出力の変化が記憶されている。本例においては、図5に示すように、下限電圧V1が、負荷時におけるバッテリ20の最大電圧値よりも30%低下した値に設定されており、負荷時におけるバッテリ電圧が下限電圧V1を下回った場合に、アクチュエータの最大出力を100%から40%に低下する。
【0030】
以下、本実施形態に係るバッテリ式電動ショベル1の動作を、図6及び図7に基づいて説明する。
【0031】
バッテリ式電動ショベル1が駆動停止状態にある場合(図6のステップS1)において、運転者が運転室に設置されたキー穴に起動キーを挿入して廻閾スイッチをOFF状態からON状態にすると、制御装置用電源VSから制御装置100から補助電源電圧が供給されて稼動(ON)状態となり、また、制御装置100は表示装置101に電源電圧を供給してそれを稼動状態にする。この状態から起動キーをさらに廻してキースイッチをスタート状態にすると、このキースイッチからキースイッチ信号SD1が制御装置100に供給される。これを受けて、制御装置100は電源切換部109に切換制御信号SC4を出力し、バッテリ20からインバータ104,107に電動モータ103,106の駆動電源電圧が供給されるように電源切換部109を切り換える。これにより、バッテリ20からの直流電源電圧が電源切換部109を介して各インバータ104,107に供給され、操作レバーの操作によるバッテリ式電動ショベル1が作業可能な稼動状態となる(図6のステップS2)。
【0032】
なお、この状態で運転者が起動キーから手を離すとキースイッチがON状態となるが、稼動状態はそのまま維持される。また、稼動状態で、起動キーの操作により、キースイッチをON状態からOFF状態にすると、キースイッチから制御装置100にキースイッチ信号SD1が供給されなくなるので、制御装置100は電源切換部109に切換制御信号SC4を送って、これをOFF(開いた)状態に切り換える。これにより、各インバータ104,107への電力の供給がなくなり、操作レバーを操作してもバッテリ式電動ショベル1の作業が行なわれない停止状態となる(図6のステップS3)。また、これに伴って、制御装置用電源VSから制御装置100への補助電源電圧の供給も終了する。
【0033】
バッテリ式電動ショベル1が稼動状態にある場合において、運転者により操作レバーが操作されると、操作レバーの操作量に応じたレバー操作量信号SD2が制御装置100に供給される。これにより、制御装置100は、操作された操作レバーに該当するインバータ104,107にアクチュエータ指令信号SC2,SC3を送り、その操作量に応じた動作を行なわせる。また、ロックレバーが操作されると、ロックレバー信号SD3が制御装置100に供給され、制御装置100はこれを受けて電源切換部109に切換制御信号SC4を出力し、これをOFF状態にする。これにより、キースイッチがON状態の稼動状態にありながら、レバー操作をしても油圧アクチュエータが動作しないロック状態になり、不用意或いは意図しないレバー操作によるバッテリ式電動ショベル1の不正な動作を防止することができる。
【0034】
インバータ104,107は、バッテリ20或いは外部電源21が接続されているときには、充電装置108からの直流電源電圧を交流電圧に変換し、これに接続された電動モータ103,106の交流電源電圧を作成するものであって、制御装置100からのアクチュエータ指令信号SC2,SC3に応じて、動作がON,OFF制御されるとともに、操作レバーの操作量に応じて交流電源電圧のデューティ比や極性が制御される。これにより、各電動モータ103,106の回転速度及び回転方向が制御される。油圧ポンプ102は、電動モータ103の回転速度に応じた圧力の圧油を吐出し、油圧アクチュエータを操作レバーの操作方向に応じた方向に、その操作量に応じた速度で駆動する。各油圧アクチュエータの最大出力(最大トルク又は最大速度)は、電動モータ103の回転速度、ひいては電動モータ103に供給される電源電圧値によって規制される。同様に、旋回輪13の最大出力(最大速度)は、電動モータ106の回転速度、ひいては電動モータ106に供給される電源電圧値によって規制される。
【0035】
図7(a)に示すように、バッテリ20のバッテリ電圧は、バッテリ式電動ショベル1の稼働時間の経過とともに低下する。アクチュエータを操作したときのバッテリ電圧が、制御装置100のROM140に記憶された下限電圧V1以上に維持されている場合、判定・制御部130はアクチュエータに出力制限をかけず、第1電動モータ103及び第2電動モータ106の出力を、図7(c)に示す通常出力、即ち、バッテリ20の充電量が満杯(100%)である場合と同じ出力に維持する(図6のステップS21)。これにより、油圧アクチュエータ及び旋回輪13は、その定格である最大トルク及び最大速度で運転することが可能になる。これに対して、アクチュエータを操作したときのバッテリ電圧が、アクチュエータの操作中に下限電圧V1以下に低下した場合、判定・制御部130は、アクチュエータの操作が停止されるまでは第1電動モータ103及び第2電動モータ106の出力を通常出力のまま維持し、アクチュエータの操作が停止されるのを待って、第1電動モータ103及び第2電動モータ106の出力を、図7(c)に示す制限出力、即ち、制御装置100のROM140に記憶された40%まで低下する(図6のステップS22)。これにより、バッテリ式電動ショベル1の駆動を確保することができ、バッテリ式電動ショベル1の頓挫を防止できると共に、バッテリ20の電源容量を無駄なく利用することができて、作業量や稼働時間を延長することができる。また、バッテリ20のバッテリ電圧がROM140に設定されたアクチュエータ駆動限界電圧V0に達した場合、判定・制御部130は、アクチュエータの操作中であっても、直ちに第1電動モータ103及び第2電動モータ106の出力を、アクチュエータ駆動限界電圧V0に見合った値に制限する(図6のステップS22)。これにより、誤作動などの不具合の発生を防止することができる。
【0036】
なお、第1電動モータ103及び第2電動モータ106の出力を制限出力まで低下した場合には、これを運転者に報知するため、制御装置100から表示装置101に表示データ信号SC1を出力して、その旨を表示装置101に表示する。これにより、出力の低下に対して運転者が違和感を覚えにくくなるので、モータ出力に応じた適切な運転を行いやすくなる。
【0037】
バッテリ式電動ショベル1の上部旋回体10に設けられた外部電源接続口に外部電源21の電力ケーブル21aが接続されると、外部電源21から電力ケーブル21aを介して充電装置108に交流電圧が供給され、ここで直流電圧に変換される。この直流電圧は、電源切換部109を介してバッテリ20に供給される。これにより、バッテリ20が充電される。この電源切換部109は、制御装置100からの切替制御信号SC4によってON,OFF制御される。また、電力ケーブル21aが外部電源接続口に接続され、充電装置108に外部電源21から交流電圧が供給されて充電用の直流電圧が生成されると、充電装置108はこれを検出して、電力ケーブル21aが外部電源接続口に接続されたことを示す外部電力接続信号SD5を発生し、制御装置100に供給する。
【0038】
制御装置100は、充電装置108からの外部電源接続信号SD5を取り込んで、外部電源接続口に電力ケーブル21aが接続されたか否かを常時監視している。外部電源接続口に電力ケーブル21aが接続された状態で、運転室に設置された図示しない充電操作スイッチを操作すると、充電スイッチ信号SD6が制御装置13に供給される。制御装置100は、この充電スイッチ信号SD6を基に切換制御信号SC4を発生して電源切換部109をON(閉じた)状態にする。これにより、充電装置108によって自動的にバッテリ20の充電が行なわれる。
【0039】
なお、この充電操作スイッチは、指先で押した状態でこの指先を離すと、元の状態に復帰するが、この押し込み操作されたことによるONまたはOFFの情報が、保持されているモメンタリスイッチであり、この充電操作スイッチが操作される毎に、制御装置100からの充電スイッチ信号SD6により、電源切換部109がON,OFFと交互に切り替わる。
【0040】
また、制御装置100は、常時バッテリ20のバッテリ残量を検出しており、外部電源21による充電中にバッテリ20の充電量が満杯(100%のバッテリ残量)になったことを検出すると、切替制御信号SC4を生して電源切換部109をOFF状態にする。これにより、バッテリ2の充電が自動的に終了する。電力ケーブル21aを外部電源接続口から取り外したときにも、制御装置100は、外部電源接続信号SD5によってこれを検出して切替制御信号SC4を発生し、電源切換部109をOFF状態にする。
【0041】
第1実施形態に係るバッテリ式電動ショベルは、アクチュエータの駆動中にバッテリ残量が閾値を下回った場合にも、アクチュエータの駆動を停止するまではアクチュエータの最大出力を高い値に維持し、アクチュエータの駆動を停止した後にアクチュエータの最大出力を低い値に制限するので、アクチュエータを駆動しての作業中にアクチュエータの最大出力がいきなり低い値に制限されることがなく、作業を安定に行えると共に、運転者に与える違和感を解消若しくは緩和することができる。
【0042】
〈第2実施形態〉
第2実施形態に係るバッテリ式電動ショベルは、図8及び図9に示すように、バッテリ電圧が所定の閾値よりも低下した場合に、測定されたバッテリ電圧が減少するに従って、アクチュエータの最大出力を無段階的に小さくすることを特徴とする。なお、図示は省略するが、測定されたバッテリ電圧が減少するに従って、アクチュエータの最大出力を段階的に小さくすることも勿論可能である。
【0043】
本例のバッテリ式電動ショベルは、制御装置100のROM140(図3参照)にバッテリ電圧に応じた複数の閾値を設定し、計測されたバッテリ電圧が前記多段階又は無段階に設定された閾値のどの段階にあるのかを判定・制御部130にて判定し、判定・制御部130が、バッテリ残量判定手段の判定結果に応じてアクチュエータの最大出力を変更することにより実施できる。その他については、第1実施形態に係るバッテリ式電動ショベルと同じであるので、説明を省略する。
【0044】
第2実施形態に係るバッテリ式電動ショベルは、バッテリ残量の減少に応じてアクチュエータの最大出力を段階的又は無段階的に制限するので、アクチュエータの出力制限をより厳密に行うことができて、より一層適格に電源容量の有効利用を図ることができる。
【0045】
〈第3実施形態〉
第3実施形態に係るバッテリ式電動ショベルは、図10に示すように、バッテリ電圧が所定の閾値よりも低下した回数をカウントし、カウント数が増加するに従ってアクチュエータの最大出力を段階的に低い値に制限することを特徴とする。
【0046】
即ち、図10(a)に示すように、バッテリ電圧は、アクチュエータの駆動時にはバッテリに負荷がかかって電圧降下が起こり、アクチュエータの駆動を停止すると、バッテリにかかっていた負荷が除かれて電圧上昇が起こる。そして、負荷を取り除いた後のバッテリ電圧は、このような電圧変動が起こる毎に徐々に低下してゆく。そこで、図10(b)に示すように、下限電圧V1を超える電圧降下の累積回数をカウントし、この回数が増加するに応じて、図10(c)に示すように、アクチュエータの最大出力を段階的に低い値に制限することにより、アクチュエータ駆動限界電圧を超えてアクチュエータが駆動されることを防止できるので、作業機械の正常な動作を保障することができる。
【0047】
本例のバッテリ式電動ショベルは、図11に示すように、制御装置100に下限電圧V1を超える電圧降下の累積回数をカウントするカウンタ160を備えると共に、ROM140にカウンタ160によりカウントされた下限電圧V1を超える電圧降下の累積回数に応じたアクチュエータの出力制限を記憶することにより実施できる。その他については、第1実施形態に係るバッテリ式電動ショベルと同じであるので、説明を省略する。
【0048】
第3実施形態に係るバッテリ式電動ショベルは、バッテリ残量が減少して下限電圧V1を下回る頻度が上がるほどアクチュエータの出力制限が強くなって最大出力が減少するが、これに伴ってバッテリ20の負担も軽減されていき、電圧降下も少なくなるので、アクチュエータの正常な動作を保障することができる。
【0049】
なお、前記各実施形態においては、バッテリ式電動ショベルを例にとって説明したが、本発明の要旨はこれに限定されるものではなく、任意のバッテリ式電動作業機械に応用することができる。
【0050】
また、前記各実施形態においては、バッテリ残量として、バッテリ20のバッテリ電圧を検出したが、かかる構成に換えて、バッテリ20に残存している電源容量を検出することもできる。この場合には、バッテリ電圧計測手段22(図2参照〕については、省略することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】実施形態に係るバッテリ式電動ショベルの構成図である。
【図2】実施形態に係る電源管理部のシステムブロック図である。
【図3】第1実施形態に係る制御装置の構成図である。
【図4】第1実施形態に係る制御装置に設定される閾値の説明図である。
【図5】第1実施形態に係る制御装置に設定される出力制限の説明図である。
【図6】バッテリ電圧の変動に伴う出力制限の状態遷移図である。
【図7】第1実施形態に係る制御装置で実行される出力制限方式を示す図である。
【図8】第2実施形態に係る制御装置に設定される出力制限の説明図である。
【図9】第2実施形態に係る制御装置で実行される出力制限方式を示す図である。
【図10】第3実施形態に係る制御装置で実行される出力制限方式を示す図である。
【図11】第3実施形態に係る制御装置の構成図である。
【符号の説明】
【0052】
1 バッテリ式電動ショベル
2 電源供給部
10 上部旋回体
11 下部走行体
12 フロント部材
13 旋回輪
20 バッテリ
21 外部電源
21a 電力ケーブル
22 バッテリ電圧計測装置
100 制御装置
101 表示装置
102 油圧ポンプ
103 第1電動モータ
104 第1インバータ
106 旋回用(第2)電動モータ
107 第2インバータ
108 充電装置
109 電源切換部
110 入力部
120 出力部
130 判定・制御部
140 ROM
150 RAM
160 カウンタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクチュエータと、アクチュエータの主動力源である電動モータと、電動モータの駆動電源であるバッテリとを搭載した電気駆動式作業機械において、
前記バッテリのバッテリ残量を検出するバッテリ残量検出手段と、当該バッテリ残量検出手段により検出されたバッテリ残量が予め定められた閾値を下回ったか否かを判定するバッテリ残量判定手段と、当該バッテリ残量判定手段の判定結果に応じて前記アクチュエータの最大出力を変更する出力制御手段とを備え、
前記出力制御手段は、前記アクチュエータの駆動中に、前記バッテリ残量検出手段にて検出されたバッテリ残量が前記閾値を下回ったと前記バッテリ残量判定手段により判定された場合、前記アクチュエータの駆動を停止するまでは、前記アクチュエータの最大出力を高い値に維持し、前記アクチュエータの駆動を停止した後に、前記アクチュエータの最大出力を低い値に制限することを特徴とする電気駆動式作業機械。
【請求項2】
前記バッテリ残量検出手段は、前記バッテリ残量として、前記バッテリのバッテリ電圧を検出することを特徴とする請求項1に記載の電気駆動式作業機械。
【請求項3】
前記バッテリ残量検出手段は、前記バッテリ残量として、前記バッテリに残存している電源容量を検出することを特徴とする請求項1に記載の電気駆動式作業機械。
【請求項4】
前記バッテリ残量判定手段に前記閾値を多段階又は無段階に設定し、当該バッテリ残量判定手段は、前記バッテリ残量検出手段により検出されたバッテリ残量が前記多段階又は無段階に設定された閾値のどの段階にあるのかを判定し、前記出力制御手段は、前記バッテリ残量判定手段の判定結果に応じて前記アクチュエータの最大出力を変更することを特徴とする請求項1に記載の電気駆動式作業機械。
【請求項5】
前記出力制御手段は、前記バッテリ残量検出手段にて検出されたバッテリ残量が前記閾値を下回ったと前記バッテリ残量判定手段により判定された回数をカウントし、前記カウントの回数が増加するに従って前記アクチュエータの最大出力を段階的に低い値に制限することを特徴とする請求項1に記載の電気駆動式作業機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−197515(P2009−197515A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−41822(P2008−41822)
【出願日】平成20年2月22日(2008.2.22)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】