説明

電池システム

【課題】電解液電池を含み−30℃以下の低温においても始動し得る電池システムを提供する。
【解決手段】固体電解質が、式:Li[式中、MはGe、Sb、Si、C、Sn、B、Al、Ga、In、Ti、Zr、VおよびNbから選ばれる元素であり、x、yおよびzは原子比を示し、x+my+5z=8(mはMの原子価である。)を満足する。]の組成を有し、CuKα線を用いたX線回折測定における2θ=29.58°±0.50°の位置にピークを有し、前記2θ=29.58°±0.50°のピークの回折強度をIとし、2θ=27.33°±0.50°の位置のピークの回折強度をIとした場合に、I/Iの値が0.50未満である硫化物固体電解質を含む固体電池と、電解質として電解液を含む電解液電池とを組み合わせた電池システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池システムに関し、さらに詳しくは電解液電池と特定の硫化物固体電解質を含む固体電池とを組み合わせることによって電解液電池が作動困難な低温においても始動し得る電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電解液電池、例えば電解液リチウム電池は高電圧および高エネルギー密度を有することから多くの分野で使用されている。このため、電解液電池のさらなる性能向上が求められている。
電解液電池の性能に関連して、低温下での電解液の粘度上昇により電解液のイオン伝導度が低下するため、従来は電解液に混合溶媒を用いて特性の維持が図られてきた。しかし、混合溶媒による特性の維持には限界があり、低温下でのイオン伝導度の低下を抑制し得る技術の検討がされている。
一方、電解液を用いない固体電池が提案され、固体電池に用いられる固体電解質についても性能向上が必要であり、さまざまな検討がされている。
【0003】
例えば、非特許文献1には、Li(4−x)Ge(1−x)の組成を有する結晶質のLiイオン伝導体である硫化物固体電解質が記載されている。そして、具体例として前記式においてx=0.75の時にLiイオン伝導度が最も高くなること、そしてそのLiイオン伝導は25℃において2.2x10−3S/cmであることが示されている。
【0004】
また、特許文献1には、高温で機能する固体電池と低温で機能する電解液電池とを並列に接続した電源装置が記載されている。そして、具体例としてプロピレンカーボネートにリチウム塩を溶かした電解液を使用した電解液電池とポリエチレンオキサイドにリチウム塩を溶かした高分子固体電解質を使用した固体リチウム電池とを並列に接続した電源装置では、2つの固体電解質を並列に接続した電源装置では0℃で放電容量が大幅に低下するのに比べて電解液電池にほぼ等しく0℃未満の温度での放電容量が改善された結果が示されている。
【0005】
さらに、特許文献2には、リチウム複合酸化物を活物質として含む正極と、黒鉛を活物質として含む負極と、電解質としてLiPFを有機溶媒に溶解した電解液と、セパレーターとを備えた非水電解液リチウム二次電池において、有機溶媒として、エチレンカーボネート(x%)、ジメチルカーボネート(y%)およびエチルメチルカーボネート(z%)の割合(体積%)が、0≦x≦35、10≦y≦85、5≦z≦80である非水電解液リチウム二次電池の低温放電特性向上方法が記載されている。そして、具体例として電解液の組成比の選択によっては0℃でも放電容量が0V程度に低下し得ること、そして最適な組成比により−20℃で放電容量は約45%程度低下するものの−20℃〜80℃の温度範囲で動作し得る非水電解液リチウム二次電池が得られることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−282154号公報
【特許文献2】特開2004−342626号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Journal of the Electrochemical Society,148(7)A742−A756(2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、これら公知の技術によれば、電解液電池を含み0℃以下の低温において始動し得る電池システムを得ることは困難であった。
従って、本発明の目的は、電解液電池を含み0℃以下の低温においても始動し得る電池システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、前記目的を達成することを目的として鋭意検討を行った結果、電解液に混合溶媒を用いることによりある程度の低温特性の向上は図り得るが、電解液の粘度低下に伴うイオン伝導度低下の本質的解決には至っていないことを見出し、さらに検討を行って本発明を完成した。
従って、本発明は、固体電解質が、式:Li[式中、MはGe、Sb、Si、C、Sn、B、Al、Ga、In、Ti、Zr、VおよびNbから選ばれる元素であり、x、yおよびzは原子比を示し、x+my+5z=8(mはMの原子価である。)を満足する。]の組成を有し、CuKα線を用いたX線回折測定における2θ=29.58°±0.50°の位置にピークを有し、前記2θ=29.58°±0.50°のピークの回折強度をIとし、2θ=27.33°±0.50°の位置のピークの回折強度をIとした場合に、I/Iの値が0.50未満である硫化物固体電解質を含む固体電池と、電解質として電解液を含む電解液電池とを組み合わせた電池システムに関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電解液電池を含み0℃以下、例えば−30℃以下の低温において始動し得る電池システムを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明の実施態様の電池システムの模式図である。
【図2】図2は、本発明の実施態様の電池システムに用いる固体電池に適用され得る固体電解質の一例の特性を示すX線回折スペクトルである。
【図3】図3は、本発明に適用し得ない固体電解質の特性を示すX線回折スペクトルである。
【図4】図4は、本発明の実施態様における固体電解質および本発明に適用し得ない固体電解質の拡散係数の温度依存性を比較して示すグラフである。
【図5】図5は、本発明の実施態様における固体電解質および本発明に適用し得ない固体電解質のLiイオン伝導度の温度依存性を比較して示すグラフである。
【図6】図6は、実施例および比較例で得られた全固体電池のcole−coleプロット(25℃)を示すグラフである。
【図7】図7は、実施例および比較例で得られた全固体電池のアレニウスプロットを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
特に、本発明において、以下の実施態様を挙げることができる。
1)前記固体電池と前記電解液電池とが並列に接続されている前記電池システム。
2)前記固体電解質が、−30℃で5×10−4S/cm以上のLiイオン伝導度を有する前記電池システム。
3)前記固体電解質が、式:Li(4−a)(1−a)[式中、MはGe、SiおよびCから選ばれる元素であり、aは0.4≦a≦0.8を満足する。]の組成を有する前記電池システム。
4)前記固体電池が、電解液電池を加熱するためにヒーターに接続されている前記電池システム。
【0013】
本発明においては、固体電解質が、式:Li[式中、MはGe、Sb、Si、C、Sn、B、Al、Ga、In、Ti、Zr、VおよびNbから選ばれる元素であり、x、yおよびzは原子比を示し、x+my+5z=8(mはMの原子価である。)を満足する。]の組成を有し、CuKα線を用いたX線回折測定における2θ=29.58°±0.50°の位置にピークを有し、前記2θ=29.58°±0.50°のピークの回折強度をIとし、2θ=27.33°±0.50°の位置のピークの回折強度をIとした場合に、I/Iの値が0.50未満である硫化物固体電解質を含む固体電池と、電解質として電解液を含む電解液電池とを組み合わせた電池システムであることが必要であり、これによって前記固体電解質が0℃以下、例えば−30℃以下の低温において高いLiイオン伝導度を有すことによって、組合せた電池全体として0℃以下、例えば−30℃以下の低温において始動し得る。
【0014】
以下、図1〜図5を参照して本発明の実施の形態を詳説する。
本発明の実施態様の電池システム1は、図1に示すように、本発明における固体電解質を含む固体電池2と、電解質として電解液を含む電解液電池3とが並列に接続され、前記電解液電池3に備えられた温度デンサ4によって検出された電解液電池の温度が電池ECS5に送られて、予めインプットされた電解液の温度とイオン伝導度との関係から前記電解液電池3の温度を上昇させる必要があると判断される場合は、電解液電池3を電池ECS5からの指示に基いて熱6を加えて暖気させるために前記固体電解質を含む固体電池7がヒーター8に接続されている。
図1においては電解液電池と固体電池とは並列に接続されているが、直列に接続されていてもよい。
【0015】
図1においては、電解液電池は1つのみが図示されているが、電解液電池の個数は任意の複数個であり得て、複数個の電解液電池を並列又は直列に接続して用い得る。
前記実施態様の電池システムによれば、低温環境下、例えば0℃以下、例えば−30℃以下であっても、本発明における固体電池に含まれる固体電解質のLiイオン伝導度が高いので、低温下で電解液電池の温度が上昇して始動し得る温度に達したと判断されるまで固体電池のみで放電し、電解液電池の温度が上昇したら電解液電池と固体電池とで放電し得る。
なお、電解液電池の温度が上昇した場合、ECSからの指示によって固体電池6と接続されたヒーター7による電解液電池の暖気は止められる。
【0016】
本発明の実施態様の電池システムにおける固体電池に用いられる固体電解質は、式:Li[式中、MはGe、Sb、Si、C、Sn、B、Al、Ga、In、Ti、Zr、VおよびNbから選ばれる元素であり、x、yおよびzは原子比を示し、x+my+5z=8(mはMの原子価である。)を満足する。]の組成を有し、且つ、図2に示すように、CuKα線を用いたX線回折測定における2θ=29.58°±0.50°の位置にピークを有し、前記2θ=29.58°±0.50°のピークの回折強度をIとし、2θ=27.33°±0.50°の位置のピークの回折強度をIとした場合に、I/Iの値が0.50未満である硫化物固体電解質である。
そして、前記の硫化物固体電解質は、Liイオン伝導度が、好適には−30℃において10−3S/cm以上であり、−70℃において10−4S/cm以上であり得る。
従って、前記固体電解質を適用した固体電池は−70℃以上で使用し得る。
【0017】
これに対して、従来公知の硫化物固体電解質は、前記式で示される組成を有するものであっても、図3に示すように、CuKα線を用いたX線回折測定における2θ=29.58°±0.50°の位置にピークを有し、前記2θ=29.58°±0.50°のピークの回折強度をIとし、2θ=27.33°±0.50°の位置のピークの回折強度をIとした場合に、I/Iの値が0.50以上である固体電解質である。
そして、前記従来公知の硫化物固体電解質は、Liイオン伝導度が、室温においては10−3S/cm以上であるが、−73℃における値は測定されていないが、曲線の傾きから10−7S/cm以下であり得る。
【0018】
本発明における前記の固体電解質として、好適には式:Li(4−a)(1−a)[式中、MはGe、SiおよびCから選ばれる元素であり、xは0.4≦a≦0.8を満足する。]の組成を有し、且つ、CuKα線を用いたX線回折測定における2θ=29.58°±0.50°の位置にピークを有し、前記2θ=29.58°±0.50°のピークの回折強度をIとし、2θ=27.33°±0.50°の位置のピークの回折強度をIとした場合に、I/Iの値が0.50未満である硫化物固体電解質が挙げられ、好適には前記式において0.4≦aを満たすもの、特に0.5≦aを満たすものが好ましく、また、a≦0.8を満たすものが好ましい。
【0019】
前記の硫化物固定電解質の製造方法を、前記式:Li(4−a)(1−a)においてM=Geの場合について説明する。
LiS、PおよびGeSを不活性ガス雰囲気下で混合し、得られた混合物を真空下に固相反応により結晶質材料を得て、得られた結晶質材料をミルで混合、粉砕した後、400〜700℃程度の温度で加熱することによって得ることができる。
前記式Li(4−a)Ge(1−a)においてxを前記好適な範囲とするために、前記3種の化合物の割合(モル比)を適宜選択し得る。
【0020】
前記の製造方法において、結晶質材料を粉砕した後、再度加熱する工程を加えることによって、前記結晶質材料の結晶性をさらに高めることが可能となり、CuKα線を用いたX線回折測定における2θ=29.58°±0.50°の位置にピークを有し、前記2θ=29.58°±0.50°のピークの回折強度をIとし、2θ=27.33°±0.50°の位置のピークの回折強度をIとした場合に、I/Iの値が0.50未満である硫化物固体電解質を得ることができる。
【0021】
前記の製造方法を適用し、M=Sb、Si、C、Sn、B、Al、Ga、In、Ti、Zr、V又はNbである場合も同様にして本発明における硫化物固定電解質を得ることができる。すなわち、各元素の原子価を考慮して前記式Li(4−a)(1−a)において0.4≦a、特に0.5≦aを満たし、また、a≦0.8を満たすLiS、Pおよび各元素の硫化物からこれらの元素を含む硫化物固体電解質を得ることができる。
【0022】
本発明における前記固体電解質は、図4に示すように、室温において、従来公知の固体電解質であるLi11、αLiPS、βLiPS、γLiPSと比較して10〜1000倍程度の拡散係数を有し、0℃以下、例えば−30℃以下の低温においてこれらの材料に比べて低温特性が極めて良いことが理解される。
また、図5に示すように、従来公知の固体電解質は室温以上の温度では比較的高いLiイオン伝導度を示すが、温度の低下とともにLiイオン伝導度が大幅に低下すること、これに比べて本発明における固体電解質は0℃以下、例えば−30℃以下、特に−73℃の低い温度においても比較的高いLiイオン伝導度を維持していることが理解される。
【0023】
また、図5から、従来の電解液の一例であるエチレンカーボネートおよびプロピレンカーボネートの混合溶媒を含む電解液では、温度低下に伴い、粘度上昇、凍結などの影響で−30℃付近からLiイオン伝導度極端に低下することが理解される。電解液の場合、Liイオンの対イオンも同時に動くことから実際のLiイオンの動く量は図5に示す量の半分である。図5では1種類の電解液について示されているが、他の電解液についても同様の現象が起こり得る。
【0024】
これに対して、本発明における固体電解質は、温度が低下しても高いLiイオン伝導度を有し、且つ移動するのはLiイオンのみであり得るので、Liイオン伝導度が電解液と同じ場合でも、正味の電荷移動量は倍に相当し得る。
【0025】
本発明の電池システムにおける前記固体電池は、主要な構成材としての正極、本発明における固体電解質および負極から構成される。
前記正極は、正極集電体に積層された正極活物質を含む正極形成用材料層を有し得る。
前記正極集電体は、例えば、アルミニウム、ニッケル又はステンレスなどの金属材料によって構成され得る。
【0026】
前記の正極を形成するために用いられる正極形成用材料としては、一般的な固体電池における正極に用いられるものと同様とすることができ、例えば、少なくとも正極活物質を有し、通常はさらに固体電解質、必要に応じてさらにLiイオン伝導性向上材、バインダーを有する正極合剤とすることができる。
前記正極活物質としては、特に制限はなく、例えばLiCoO、LiMn、LiNiMn、LiVO、LiCrO、LiFePO、LiCoPO、LiNiO、LiNi1/3Co1/3Mn1/3等を挙げることができ、なかでもLiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiCoOが好適に挙げられる。
前記固体電解質としては、前述の固体電解質が挙げられる。
【0027】
前記Liイオン伝導性向上材としては、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック又はケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、フラーレン等を単独で又は2種以上を組み合わせた炭素材料を挙げることができる。
前記バインダーとしては、例えば、ポリアニリン、ポリチオフェンスチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリレート、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)などの高分子材料が挙げられる。
【0028】
固体電解質層の膜厚としては、短絡することなく所望のエネルギー密度を有するものとすることができるものであれば良く、例えば0.1μm〜100μmの範囲内であり、なかでも0.1μm〜50μmの範囲内の薄層であることが好ましい。また、上記固体電解質層の形成方法としては、例えば、粉末の固体電解質を一軸圧縮成形する方法等を挙げることができる。
【0029】
前記負極は、前記正極が形成されていない固体電解質層の表面に形成され得る。
このような負極を形成するために用いられる負極形成用材料としては、例えば、少なくとも負極活物質を有し、通常はさらに固体電解質が含有され、必要に応じてさらにバインダー、導電化材およびLiイオン伝導性向上材を有する負極合剤とすることができる。
【0030】
前記負極活物質としては、特に制限はなく、例えば金属系活物質およびカーボン系活物質を挙げることができる。前記金属系活物質としては、例えばIn、Al、Si、Sn等を挙げることができる。また、前記金属系活物質は、LiTi12等の無機酸化物系活物質であっても良い。一方、カーボン系活物質としては、例えば黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、グラファイト、例えば高配向性グラファイト(HOPG)、ハードカーボンおよびソフトカーボン等を挙げることができる。中でも特に、黒鉛粒子を好適に挙げられる。黒鉛粒子(例えばグラファイト)は、電荷担体としてのリチウムイオンを好適に吸蔵することができるため導電性に優れる。
【0031】
前記バインダーとしては、一般的なリチウムイオン二次電池の負極に使用されるバインダーと同様のものであり得て、前記の正極の構成要素におけるバインダーとして機能し得る各種のポリマー材料を好適に挙げられる。
前記導電化材としては、炭素材料、リチウムと合金化し難い金属、導電性高分子材料等が挙げられ、炭素材料が好適である。前記炭素材料としては、グラファイト、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、フラーレン等を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、Liイオン伝導性向上材としては、上述した正極形成用材料に用いられる材料と同様のものが挙げられる。
【0032】
前記負極には通常負極集電体が積層されている。
前記負極集電体としては、銅、または銅を主成分とする合金が挙げられる。負極集電体の形状は、固体電池の形状等に応じて異なり得るため特に制限はなく、棒状、板状、シート状、箔状、メッシュ状等の種々の形態であり得る。車両搭載用高出力電源として用いられる固体電池の負極の集電体としては、厚さが5〜100μm程度の銅箔が好適に用いられる。
【0033】
本発明における固体電池は、主要構成材として正極と固体電解質層と負極とが積層された発電要素を有するものであるが、通常、前記発電要素および集電体を含む単電池の周囲を覆う外装体、取り出し電極を有するものであり得る。
【0034】
前記外装体としては、前記固体単電池の周囲を覆うことができるものであれば特に限定するものではない。
前記外装体の材料としては、絶縁性を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば、エポキシ樹脂、ポリブタジエン樹脂等、セラミック等が挙げられる。
前記取り出し電極としては、導電性を有するものからなるものであれば良く、全固体電池に一般的に用いられるものと同様とすることができる。
このような取り出し電極の材料としては、具体的には、ステンレス(SUS)等を挙げることができる。
また、形状としては、箔状およびリード状等を挙げることができる。
【0035】
固体電池の形状としては、例えば、コイン型、ラミネート型、円筒型および角型等を挙げることができる。
また、本発明の固体電池の製造方法は、本発明における固体電解質を用いることを除いては一般的な固体電池の製造方法と同様の方法を用いることができる。例えば、正極層を構成する材料、固体電解質層を構成する材料、および負極層を構成する材料を順次プレスすることにより本発明における固体電池を製造し得る。
【0036】
本発明における電解質として電解液を含む電解液電池としては、任意の電解液電池、例えば公知の電解液電池を用い得る。
本発明により、本発明における固体電解質として前記硫化物固体電解質を含む固体電池と、電解質として電解液を含む電解液電池とを組み合わせた電池システムとすることによって、電解液電池を含み−30℃以下の低温において始動し得る。
【実施例】
【0037】
以下、本発明の実施例を示す。
以下の実施例は単に説明するためのものであり、本発明を限定するものではない。
なお、以下の各例において電解質の物性測定は以下に示す方法によって行った。なお、以下の測定方法および測定装置は例示であって当業者が同等と考える測定方法法および測定装置も同様に用い得る。
1)X線回折測定方法
任意に選択された固体電解質についてCuKα線を用いて、以下の装置を用いて測定を行った。
線回折測定装置:リガク社、MiniFlexII
2)拡散係数の測定方法:Li試料中のLiの拡散を中性子ラジオグラフィーで測定することができる。
【0038】
3)Liイオン伝導度の測定:
アルゴン雰囲気のグローブボックス内で、試料の適量を秤量し、ポリエチレンテレフタレート管(内径:10mm、外径:30mm、高さ:20mm)に入れ、上下から炭素工具鋼S45Cアンビル粉末成型治具で挟んだ。次に、一軸プレス機を用いてプレス(110MPa)し、直径10mmのペレットを成型した。次いで、ペレットの両面に、金粉末を約15mgずつ乗せて、均一にペレット表面に堆積し、プレス(550MPa)して成型し、ペレットをアルゴン雰囲気を維持できる密閉式電気化学セルに入れた。
得られたペレットを用いて、周波数応答解析装置FRA(Frequency Response Analyzer)として、ソーラトロン社製のインピーダンス・ゲインフェーズアナライザー(solartron 1260)を用い、交流電圧〜、周波数範囲、積算時間0.2秒、温度:100〜−73℃の範囲で、高周波領域から測定を開始した。測定ソフトにはZplotを用い、解析ソフトにはZviewを用いて測定を行った。
【0039】
実施例1
1)固体電解質の合成
LiS(日本化学工業社)とP(アルドリッチ社)とGeS(高純度化学研究所)とを出発原料とし、式:Li(4−x)(1−x)においてx=2/3となる割合で各成分を秤量し、真空下に固相反応により結晶質材料を得て、得られた結晶質材料をミルで混合、粉砕した後、550℃で8時間加熱することによって硫化物固体電解質(形状:粉末)を得た。
【0040】
得られた固体電解質についてCuKα線を用いたX線回折測定を行った。
2θ=29.58°±0.50°のピークの回折強度をIとし、2θ=27.33°±0.50°の位置のピークの回折強度をIとして、I/I=0であった。
また、室温(25℃)でのLiイオン伝導度=1.2x10−2S/cmであった。
また、100〜−73℃でのLiイオン伝導度の温度依存性を図5に示す。
【0041】
2)全固体電池の作製
正極合剤
LiNbOでコートしたLiCoO(戸田工業社)と、上記固体電解質とを質量比で70:30に秤量し、試験管ミキサーにより混合し、正極合剤を作製した。
負極合剤
LiTi12と上記固体電解質とアセチレンブラック(電気化学工業社)とを27.3:63.6:9.1の質量比で秤量し、メノウ混合し、負極合剤を作製した。
電池
上記固体電解質を65mg取り、マコール製のシリンダー中に入れ、両端を1ton/cmでプレスし、電解質層を形成した。次に、上記正極合剤を16mg取り、電解質層の上に入れ1ton/cmでプレスした。次に、上記負極合剤を40mg取り、上記電解質層の正極とは反対側に入れ4ton/cmでプレスして全固体電池を作製した。
電池の両端をSUS製のピンではさみ、集電体とした。
【0042】
比較例1
LiS(日本化学工業)、P(アルドリッチ)を75:25のモル比で秤量しメノウ混合した後、ジルコニア製のポット(45mL)に1g取り、ZrOボール(φ10を10個)にて遊星型ボールミル(フリッチュP7)により370rpm、40時間処理し、固体電解質である75LiS−25Pガラスを得た。この電解質のイオン伝導度は室温で4x10−4S/cmであった。
電解質を75LiS−25Pに変えた他は実施例1と同様にして、全固体電池を作製した。
【0043】
交流インピーダンスの測定
上記実施例1および比較例1で作製した全固体電池を充放電電装置(東陽テキニカ製)により2.6〜1Vの範囲で低電流充放電を1サイクル行い、その後、電流充電により2.6Vに調整した。
2.6Vに電圧調整後、電池の交流インピーダンスを測定することで電池の抵抗を、−30℃〜60℃の範囲で測定を行った。測定にはソーラトロン社製のインピーダンスゲインフェーズアナライザー(solatoron 1260)を用いた。
測定の度にガルバノスタティック(0.01mA/cm)により低電流充電を行い、抵抗の電圧依存性を排した。
交流インピーダンス測定によりcole−coleプロットを得た。
得られた結果を図6に示す。
抵抗値としては、図6中のR1の値を採用した。
抵抗値R1の温度依存性を図7に示す。
図7から、イオン伝導度の高い固体電解質を用いた方が電池の抵抗が小さいことがわかる。また、低温においてもその抵抗値は小さく、イオン伝導に適した結晶構造を有する固体電解質を全固体電池に用いると、低温での出力の向上ができることが分った。
【0044】
自己拡散係数Dと伝導度σ(Liイオン伝導度)との間には、以下のNernst−Einsteinの式で示される関係が成立することが知られている。
σ=[(fn(Ze))/(kT)]D
[k:ボルツバン定数、T:絶対温度、f:関係係数、n:キャリア濃度、Z:価数、e:電気素量、σ:伝導度、D:拡散係数]
上記式より、分子動力学計算手法を用いたシミュレーション結果が実験と整合する結果が得られた。
以上より、分子動力学計算手法を用いたシミュレーヨン結果が実験と整合する結果が得られた。また、構造を固定したモデルを用いていることから、伝導度には構造が深く関与していることが分かる。
【0045】
比較例2〜18
1)公知の硫化物固体電解質の物性測定
従来公知の固体電解質であるLi11、αLiPS、βLiPSおよびγLiPSと拡散係数の測定を行った。結果をまとめて図4に示す。
また、これらの25℃でのLiイオン伝導度を以下に示す。
Li11:3.2x10−3S/cm
βLiPS:5.0x10−4S/cm
γLiPS:3.0x10−7S/cm
得られた固体電解質について測定した1327〜−73℃での拡散係数を他の結果とともに図4に示す。
2)公知の電解質および電解液の伝導度の測定
公知の電解質および電解液の伝導度を測定した。結果をまとめて図5に示す。
【0046】
図4および図5から、本発明における固体電解質は室温〜−73℃、特に0〜−73℃、特に−30〜−73℃において、高いLiイオン伝導度を有し得て、この固体電解質を用いた固体電池は0℃以下、例えば−30℃以下の温度、好適には−73℃以上で作動し得て、電解液電池とこの固体電解質を含む全固体電池とを並列に接続して組み合わせた電池シッステムによれば電解液電池が作動困難な低温においても始動し得ることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明によって、電解液電池と特定の硫化物固体電解質を含む固体電池とを組み合わせることによって電解液電池が作動困難な低温においても始動し得る電池システムを得ることができる。
【符号の説明】
【0048】
1 本発明の実施態様の電池システム
2 本発明における固体電解質を含む固体電池
3 電解質として電解液を含む電解液電池
4 温度センサ
5 電池ECS
6 熱
7 本発明における固体電解質を含む固体電池
8 ヒーター
曲線1:Li10GeP12固体電解質
曲線2:ガラス−セラミック電解質Li7P3S11
曲線3:有機電解質1M LiPF/EC−PC(50:50 vol.%)
曲線4:ガラス電解質LiS−SiS−LiPO
曲線5:イオン液体電解質1M LiP/EMIBF
曲線6:ドープされたLi
曲線7:Li3.25Ge0.250.75
曲線8:ゲル電解質1M LiPF+PVDF−HFP(10wt%)
曲線9:LiSiCON:Li14Zn(GeO
曲線10:Li
曲線11:La0.5Li0.5TiO
曲線12:LiPON
曲線13:Li−βAlumina
曲線14:Li3.6Si0.60.4
曲線15: ガラス電解質LiS−P
曲線16:分子電解質PEO−LiClO(10wt.%TiO
曲線17:高分子電解質LiN(CFSO/(CHCHO)(n=8)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質が、式:Li[式中、MはGe、Sb、Si、C、Sn、B、Al、Ga、In、Ti、Zr、VおよびNbから選ばれる元素であり、x、yおよびzは原子比を示し、x+my+5z=8(mはMの原子価である。)を満足する。)]の組成を有し、CuKα線を用いたX線回折測定における2θ=29.58°±0.50°の位置にピークを有し、前記2θ=29.58°±0.50°のピークの回折強度をIとし、2θ=27.33°±0.50°の位置のピークの回折強度をIとした場合に、I/Iの値が0.50未満である硫化物固体電解質を含む固体電池と、電解質として電解液を含む電解液電池とを組み合わせた電池システム。
【請求項2】
前記固体電池と前記電解液電池とが並列に接続されている請求項1に記載の電池システム。
【請求項3】
前記固体電解質が、−30℃で5×10−4S/cm以上のLiイオン伝導度を有する請求項1又は2に記載の電池システム。
【請求項4】
前記固体電解質が、式:Li(4−a)(1−a)[式中、MはGe、SiおよびCから選ばれる元素であり、aは0.4≦a≦0.8を満足する。]の組成を有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の電池システム。
【請求項5】
前記固体電池が、電解液電池を加熱するためにヒーターに接続されている請求項1〜4のいずれか1項に記載の電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−41749(P2013−41749A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−177919(P2011−177919)
【出願日】平成23年8月16日(2011.8.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】