説明

電池外装用包材並びに2次電池

【課題】成形および絞り加工された場合でも、耐電解液性、耐フッ酸性、密着性の低下の少ない、電池外装用包材および、該電池外装用包材を有する2次電池を提供する。
【解決手段】アルミニウム箔14の一方の面に内層11を有し、他方の面に外層16を有する電池外装用包材10において、前記アルミニウム箔14と前記内層11との間、および/または、前記アルミニウム箔14と前記外層16との間に、脆性緩和成分を含有する耐食保護層13を有することを特徴とする電池外装用包材10と、該外装用包材を備えた2次電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池等の電池外装用包材並びに前記電池用包材を有する2次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パソコン、携帯電話などの携帯端末装置、ビデオカメラ、衛星などに用いられる電池として、超薄型化、小型化の可能なリチウムイオン電池が盛んに開発されている。このようなリチウムイオン電池に用いる包材として、従来の電池用包材として用いられている金属製の缶とは異なり、軽量で電池の形状を自由に選択できるという利点から、多層フィルム(例えば耐熱性基材層/アルミニウム箔層/熱融着性フィルム層のような構成)を袋状にしたものが用いられるようになってきた。
【0003】
リチウムイオン電池は、電池内容物として正極材、負極材と共に、炭酸プロピレン、炭酸エチレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチルなどの浸透力を有する非プロトン性の溶媒に、電解質(リチウム塩)を溶解した電解液、もしくは該電解液を含浸させたポリマーゲルからなる電解質層を含んでいる。このような浸透力を有する溶媒がシーラントとなる熱融着性フィルム層を通過すると、アルミニウム箔層と熱融着性フィルム層間のラミネート強度が低下し、最終的には電解液が漏れ出すといった問題があった。また、電解質であるリチウム塩としてはLiPF、LiBFなどの塩が用いられるが、これらの塩は水分との加水分解反応によりフッ酸を発生するので、金属面の腐食や多層フィルムの各層間のラミネート強度の低下を引き起こすことがあった。アルミニウム箔を用いることで、包材の表面からの水分浸入はほぼ遮断されるが、リチウムイオン電池用包材は多層フィルムをヒートシールによって貼り合わせた構造をしており、シーラントとなる熱融着性フィルム層のシール部端面から浸入する水分によってリチウム塩の加水分解が懸念されている。そのため、アルミニウム箔層と熱融着性フィルム層との層間密着強度を強め、内容物耐性(耐電解液性や耐食性(特に耐フッ酸性))を持たせることが必要であった。以下、上記内容物耐性を得るための層を耐食保護層と表記する。
【0004】
さらに近年は、リチウムイオン電池を包装するリチウムイオン電池用包材への要求機能が高まっており、電解液に敢えて水分を添加して、フッ酸を発生させた状況化での加速試験が行われ始めている。具体的には、短冊状にした包材サンプルに、予め数千ppmの水を滴下し、85℃で電解液浸漬処理を行い、フッ酸の発生を促進させた環境下での試験などである。さらに、リチウムイオン電池は携帯型のモバイルに使用されることが多く、その使用環境が、例えば、真夏の車内などでは60〜70℃の高温下になる場合もあり、このような高温環境においても、リチウムイオン電池用包材には電解液に対する耐性を付与する必要があった。
【0005】
特許文献1〜3に示すように、リチウムイオン電池用包材の耐電解液性、耐フッ酸性の向上が検討されているが、近年はモバイル用などの小型化の用途だけでなく、例えば自動車などの大型化の用途も進むと考えられており、特に自動車用途となると従来以上の耐電解液性、耐フッ酸性の向上が求められている。
【0006】
一方で、このリチウムイオン電池のさらなる高エネルギー密度化のために多層フィルムを冷間成型して凹部を形成し、電池内容物をより多く収納する方法がとられている。近年では、効率的に多層フィルム内に内容物を収納するために、片面だけでなく両面に凹部となるように冷間成型し、貼り合わせることにより体積を増加させ、エネルギー密度を増加させる方法も行われている。しかしながら、凹部に成型された多層フィルムは、金型での成型加工時に延伸率の高い部位である辺や角に破断が起こりやすい。そのため、特許文献4に示すように、破断を起こさず成型深さの向上させる方法が検討されている。また、一般的に、多層フィルムに成型加工を行った場合、成形加工を行った部分の耐食性が劣化すると言われている。成形時の加工深さが増加するのに伴い、耐食性の劣化はより顕著となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−243928号公報
【特許文献2】特開2004−42477号公報
【特許文献3】特開2004−142302号公報
【特許文献4】特許第3567230号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、脆性緩和成分が含有されている耐食保護層を形成することにより、成形および絞り加工された場合でも、耐電解液性、耐フッ酸性、密着性の低下の少ない、電池外装用包材および、該電池外装用包材を有する2次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち、請求項1に記載の発明は、
アルミニウム箔の一方の面に内層を有し、他方の面に外層を有する電池外装用包材において、前記アルミニウム箔と前記内層との間、および/または、前記アルミニウム箔と前記外層との間に、脆性緩和成分を含有する耐食保護層を有することを特徴とする電池外装用包材である。
【0010】
請求項2に記載の発明は、前記脆性緩和成分が、熱可塑性エラストマー、熱硬化性エラストマーまたはこれらの混合物であることを特徴とする請求項1に記載の電池外装用包材である。
【0011】
請求項3に記載の発明は、前記耐食保護層における前記脆性緩和成分の含有量が、重量比で5〜50%であることを特徴とする請求項1または2に記載の電池外装用包材である。
【0012】
請求項4に記載の発明は、前記耐食保護層の被膜重量が、5mg/m2以上1000mg/m2以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の電池外装用包材である。
【0013】
請求項5に記載の発明は、前記耐食保護層が、3価クロムを用いた化成処理層であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の電池外装用包材である。
【0014】
請求項6に記載の発明は、前記アルミニウム箔が、厚さ15〜150μmの軟質アルミ箔であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の電池外装用包材である。
【0015】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜6のいずれかに記載の外装用包材を備えた2次電池である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、成形および絞り加工された場合でも、耐電解液性、耐フッ酸性、密着性の低下の少ない電池外装用包材およびこれを備えてなる2次電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の電池外装用包材の一例を示す断面図である。
【図2】本発明の電池外装用包材の他の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について詳細に説明する。
図1は、本発明の電池外装用包材の第1の実施形態例を示す断面図である。図1に示す電池外装用包材10は、アルミニウム箔14の一方の面に、内層(シーラント層)11を有し、前記アルミニウム箔14と内層11との間に、内層11側から接着層X12、耐食保護層13がこの順で設けられている。また、アルミニウム箔14の他方の面には、接着層Y15および外層16が順次設けられている。
【0019】
<耐食保護層>
図1に示す例の耐食保護層13は、アルミニウム箔14と接着層X12とを強固に密着させると共に、アルミニウム箔14を、電解液から発生するフッ酸から保護するために設けられる。
また本発明では、図2に示すように、アルミニウム箔14と内層11との間、および、アルミニウム箔14と外層16との間に、耐食保護層13を形成することもできる。通常、電解液等が接するのは内層11側のみであるが、外装用包材が破れた場合での被害拡大を抑えるためや、外層16側の密着性を向上するために外層16側にも耐食保護層13を形成することは有用である。
耐食保護層13の形成方法としては、耐食性能、コスト等の観点から、化成処理が好ましい。また、脆性緩和成分を皮膜中に含有させることが容易な、塗布型化成処理がより好ましい。
【0020】
化成処理等により得られる耐食保護層13は、クロム等の耐食元素の酸化物、フッ化物、シアン化物等の金属塩、および上記と添加物であるリン酸との化合物、さらに素地であるアルミニウムと上記金属塩やリン酸との化合物等で構成されるのが一般的である。これらの被膜は硬くて脆い場合が多く、成形加工により、延伸された場合に破壊され、亀裂が入り性能劣化する。これにより耐電解液性、耐フッ酸性が低下してしまう。
上記課題を解決するためには、本発明に示す脆性緩和成分の添加が有効である。脆性緩和成分の添加により耐食保護層13の脆性が低下し、成形加工により延伸された場合においても、耐食保護層13が塑性変形を起こしたり、添加した弾性成分が変形したりすることにより応力を緩和し、耐食保護層13の破壊(亀裂)を抑止することができる。成形加工を行っても耐食保護層13の破壊(亀裂)が抑制されるため、耐電解液性、耐フッ酸性の低下を抑止できる。
【0021】
脆性緩和成分としては、熱可塑性エラストマー、熱硬化性エラストマーまたはこれらの混合物である高分子材料が挙げられる。
熱可塑性エラストマーとしては、例えばスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、ポリブタジエン系熱可塑性エラストマー、ポリイソプレン系熱可塑性エラストマー、フッ素ゴム系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
熱硬化性エラストマーとしては、例えばポリイソプレンゴム、ポリブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ポリクロロプレンゴム、ニトリルゴム(アクリロニトリル−ブタジエンゴム;NBR)、エチレン−プロピレンゴム等のジエン系合成ゴム、エチレン−プロピレンゴム、ブチルゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴム、エピクロルヒドリンゴム等の非ジエン系合成ゴム、および天然ゴム等が挙げられる。
【0022】
耐熱性の観点からは熱硬化性エラストマーが望ましいが、一方でハンドリング性、塗工時の溶媒(水および有機溶剤)への相溶性等を考慮すると、熱可塑性エラストマーがより好適である。上記性能はトレードオフの関係で有る場合が多いので、求められる電池外装用包材の性能に応じて適宜選定することができる。また、上記特性を得るために、前記脆性緩和成分の内、複数を組み合わせ使用することもでき、前記脆性緩和成分を合成、重合することもできる。
【0023】
耐食保護層13における脆性緩和成分の含有量は、重量比で5〜50%であることが好ましい。脆性緩和成分の比率が5%未満の場合は、脆性緩和成分の量が少なすぎ、成形加工時の応力を十分に緩和することが出来ず、結果として脆性緩和成分を添加しなかった場合と同様に、耐食保護層13に破壊(亀裂)が発生してしまう。一方で、脆性緩和成分の比率が50%を越える場合には、耐食保護層13の化成皮膜成分の量が少なくなり、そもそもの耐食性が低下してしまう。
【0024】
耐食保護層13の皮膜重量としては、5〜1000mg/m2であることが好ましい。皮膜重量の下限値が上記値より小さくなると、アルミニウム箔の表面を均一に覆うことが難しく塗工ムラが発生しやすくなる。膜厚均一性が低下し、局所的に密着性や耐フッ酸性が損なわれたり、成型時に延伸された際にピンホール等が発生しやすくなったりしてしまう。一方、乾燥皮膜量の上限値が上記値より大きくなると、乾燥が不十分になりやすく、皮膜内にて厚み方向での性能に偏りが生じてしまう。結果として、やはり密着性や耐フッ酸性が損なわれる。
【0025】
耐食保護層13は3価クロムを用いた化成処理層であるであることが望ましい。化成処理の耐食元素としては3価クロム、6価クロム、チタン、ジルコニウム等が挙げられるが、安全性の観点から6価クロムの使用は難しく、チタン、ジルコニウム等では、耐食性能がクロムより劣ってしまうため、3価クロムの使用がより好適である。
【0026】
<アルミニウム箔層>
アルミニウム箔の材質としては、一般の軟質アルミニウム箔を用いることができるが、さらなる耐ピンホール性、及び成形時の延展性を付与させる目的で、鉄を含むアルミニウム箔を用いるのが好ましい。鉄の含有量はアルミニウム箔100質量%中、0.1〜9.0質量%が好ましく、0.5〜2.0質量%がより好ましい。鉄の含有量の下限値が上記値より少ないと耐ピンホール性、延展性を十分に付与させることができず、一方、上限値が上記値よりも多いと柔軟性が損なわれる。また、図1に示すアルミニウム箔14の厚さは、バリア性、耐ピンホール性、加工性を考慮して9〜200μmが好ましく、15〜150μmがより好ましい。
【0027】
アルミニウム箔は、密着性、耐フッ酸性の観点から、前処理を行うことが望ましい。前処理としては、脱脂、酸洗浄、アルカリ洗浄等を行うことができる。前処理としては、大きく区分するとウェットタイプとドライタイプが挙げられる。ウェットタイプでは、酸洗浄やアルカリ洗浄などが挙げられる。酸洗浄に使用する酸としては、例えば、硫酸、硝酸、塩酸、フッ酸などの無機酸が挙げられ、これら酸は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、アルミニウム箔のエッチング効果を向上させるという観点から、必要に応じてFeイオンやCeイオンなどの供給源となる各種金属塩を配合しても構わない。アルカリ洗浄に使用するアルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウムなどの強エッチングタイプが挙げられる。また、弱アルカリ系や界面活性剤を配合したものを用いてもよい。これらの脱脂は浸漬法やスプレー法で行われる。
ドライタイプの方法の一つとして、アルミニウムを焼鈍処理する工程で、脱脂処理を行う方法が挙げられる。
また、脱脂処理としては、上記の他にも、フレーム処理やコロナ処理などが挙げられる。さらには特定波長の紫外線を照射して発生する活性酸素により、汚染物質を酸化分解・除去するような脱脂処理も挙げられる。
【0028】
<接着層X>
図1に示す接着層X12は、ポリオレフィン系樹脂、酸変性ポリオレフィン系樹脂が望ましい。酸変性ポリオレフィン系樹脂としては、ポリオレフィン樹脂に無水マレイン酸などをグラフト変成させた酸変成ポリオレフィン樹脂が好ましい。ポリオレフィン樹脂としては、例えば、低密度、中密度、高密度のポリエチレン;エチレン−αオレフィン共重合体;ホモ、ブロック、またはランダムポリプロピレン;プロピレン−αオレフィン共重合体などが挙げられる。これらポリオレフィン樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、上述した樹脂を有機溶媒に分散させたディスパージョンタイプを用いてもよく、これにより各種接着に有効な添加剤や、イソシアネート化合物またはその誘導体、およびシランカップリング剤を配合することが可能になる。また、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、アクリルポリオールを主剤としたポリウレタン系接着剤を用いることもできる。接着層X12の厚さは1〜40μmが好ましい。
【0029】
<内層(シーラント層)>
図1に示す内層(シーラント層)11を構成する成分としては、ポリオレフィン樹脂または、ポリオレフィン樹脂に無水マレイン酸などをグラフト変成させた酸変成ポリオレフィン樹脂が挙げられる。ポリオレフィン樹脂としては、接着層Xの説明において先に例示した各種ポリオレフィン樹脂の中から、1種以上を選択して使用してもよい。
また、内層(シーラント層)11は単層フィルムであっても、複数の層を積層させた多層フィルムであってもよい。必要とされる機能に応じて、例えば、防湿性を付与するという点ではエチレン−環状オレフィン共重合体やポリメチルペンテンなどの樹脂を介在させた多層フィルムを用いてもよい。さらに、内層(シーラント層)11は各種添加剤、例えば、難燃剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、酸化防止剤、光安定剤、粘着付与剤などを配合してもよい。内層(シーラント層)11の厚さは、10〜100μmが好ましく、20〜50μmがより好ましい。
【0030】
<接着剤層Y>
外層側の接着層Y15としては、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、アクリルポリオールを主剤としたポリウレタン系接着剤が好ましい。図1に示す接着層Y15の厚さは、1〜10μmが好ましく、3〜7μmがより好ましい。
【0031】
<外層>
図1に示す外層16は、リチウムイオン電池等の製造時のシール工程における耐熱性付与、加工や流通の際に起こりうるピンホール対策という目的で設けるものであり、絶縁性を有する樹脂層を用いのが好ましい。そのような樹脂層としては、例えば、ポリエステルフィルム、ポリアミドフィルム、ポリプロピレンフィルムなどの延伸または未延伸フィルムを、単層または2層以上積層した多層フィルムとして使用することができる。成形性、耐熱性、耐ピンホール性、絶縁性を向上させるという点で、延伸ポリアミドフィルムや延伸ポリエステルフィルムが好適である。
外層16の厚さは、6〜40μmが好ましく、10〜25μmがより好ましい。また、内層11と同様に、各種添加剤、例えば、難燃剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、酸化防止剤、光安定剤、粘着付与剤などを配合してもよく、液漏れ時の対策として、PET等の電解液に不溶な樹脂をラミネートしたり、前述の電解液に不要な樹脂成分をコーティングしたりしても良い。
【0032】
<リチウムイオン電池用包材の製造方法>
次に、図1に示す本発明の電池外装用包材10の製造方法について記載するが、これに限定されない。
【0033】
(アルミニウム箔への耐食保護層の積層工程)
前記脆性緩和成分を含有した化成処理液を、アルミニウム箔14へ塗工し、乾燥・硬化を行い、耐食保護層13を形成させる。塗工方法としては、公知の方法が用いられるが、例えば、グラビアコーター、グラビアリバースコーター、ロールコーター、リバースロールコーター、ダイコーター、バーコーター、キスコーター、コンマコーターなどが挙げられる。なお、上述したように、アルミニウム箔層13は、未処理のアルミニウム箔を用いてもよく、ウェットタイプまたはドライタイプにて前処理を施したアルミニウム箔を用いてもよい。また、図2の様に、アルミニウム箔14の両面に耐食保護層13を形成することも可能である。
【0034】
(外層とアルミニウム箔層との積層工程)
耐食保護層13を形成したアルミニウム箔14と、外層16とを貼り合わせる。貼り合わせの方法としては、ドライラミネーション、ノンソルベントラミネーション、ウエットラミネーションなどの手法を用い、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、アクリルポリオールを主剤としたポリウレタン系接着剤にて両者を貼り合わせ、外層16/接着層Y15/アルミニウム箔層14/耐食保護層13からなる積層体を作成する。
【0035】
(内層の積層工程)
前記積層体上に内層(シーラント層)11を積層する。積層の方法としては、樹脂を押出して用いる方法と、ディスパージョンとして塗工する方法が挙げられる。押出して用いる場合は、前記積層体の耐食保護層13上に接着層X12を押出ラミネートし、さらにインフレーション法またはキャスト法により得られる内層(シーラント層)11を積層して、リチウムイオン電池等の外装用包材10を製造する。なお、耐食保護層13はこの押出ラミネーションの際にインラインで設けてもよい。また、インフレーション法またはキャスト法にて、接着層X12と内層(シーラント層)11とで多層フィルムを作成し、該多層フィルムを積層体上に熱ラミネーションにより積層させることも可能である。
ディスパージョンとして塗工する場合は、酸変性ポリオレフィン系樹脂のディスパージョンを用意し、前記積層体の耐食保護層13上に塗工する。その後、酸変性ポリオレフィン系樹脂の融点以上の温度で溶媒を飛ばし、樹脂を溶融軟化させて、焼き付けを行った後、内層(シーラント層)11を熱ラミネーションなどの熱処理により積層させて、電池外層用包材10を製造する。
また、接着剤を用いて積層する場合は、外層とアルミニウム層との積層と、同様の材料を用いることができる。
塗工方法としては、アルミニウム箔層への耐食保護層13の積層工程の説明で先に例示した各種塗工方法が挙げられる。
【実施例】
【0036】
以下に本発明の実施例を示すが、これに限定されるわけではない。
【0037】
以下に試験例に用いた共通の条件を示す。
【0038】
<アルミニウム箔>
アルミニウム箔14としては、焼鈍処理(300℃、4日間)した軟質アルミニウム箔8079材(厚さ40μm)を用いた。焼鈍脱脂を行った以外は、特別な脱脂は行わなかった。
【0039】
<耐食保護層>
表1に耐食保護層形成のために用いた薬液の固形分比率を示す。耐食保護層には、以下の様な構成を用いた。
(1)脆性緩和成分
「熱可塑性エラストマー」
A-1:ポリスチレン-ポリ(エチレン/ブチレン)ブロック-ポリスチレン(クラレ製:セプトンS4033)をトルエン溶解し、乳化したラテックス
「熱可硬化エラストマー」
A-2:クロロスルフォン化ポリエチレンゴムの水系ラテックス(住友精化製:CSM-200)
(2)フッ化クロム(III)
(3)リン酸
上記成分を表1の固形分比率なるよう水溶媒に溶かし込み塗布液を作成した。基材への濡れ性等を考慮して、アルコール等の有機溶媒を添加しても良い。また、乾燥塗布量を調整するために塗布液の濃度を調整することができる。本発明では、乾燥塗布量を100mg/m2に設定した。
【実施例1】
【0040】
前記アルミニウム箔の両面に、表1の実施例1の組成の耐食保護層をマイクログラビア法のリーバースコートにより形成した。乾燥温度は150℃とした。
次いで、アルミニウム箔層の、耐食保護層とは反対側の面に、ドライラミネート手法により、接着層Y15を用いて外層16を設けた。これらを押出ラミネート機の巻出し部に、内層(シーラント層)11をサンド基材部にセットし、接着層X12を加工条件290℃、80m/分、20μmの厚みでサンドラミネートして、耐食保護層13上に接着層X12を介して、内層(シーラント層)11を積層させた。その後、熱圧着(熱処理)を施し、電池外装用包材を作製した。
接着層Y15としてはポリウレタン系接着剤(三井化学ポリウレタン社製:A525/A50)を用い、外層16としては、2軸延伸ナイロンフィルム(出光石油化学社製:G100)を用い、内層(シーラント層)11としては、未延伸ポリプロピレンフィルム(二村化学工業製:FCZK)を用い、接着層X12としては、無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(三井化学社製:アドマー)を用いた。
【実施例2】
【0041】
耐食保護層13の形成に用いる化成処理液中の各成分の種類及び固形分比率を表1に示すように変更した以外は実施例1と同様にして、電池外装用包材を得た。
[比較例1〜3]
【0042】
耐食保護層13の形成に用いる化成処理液中の各成分の種類及び固形分比率を表1に示すように変更した以外は実施例1と同様にして、電池外装用包材を得た。
【0043】
【表1】

【0044】
<評価>
得られた電池外装用包材にて以下に示すような電解液評価を行った。
(耐有機溶媒製、耐フッ酸性の密着評価)
エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート/ジメチルカーボネート=1/1/1の溶液にLiPFが1.5Mになるように調整した後、水を1500ppmになるよう添加して電解液を作成した。
続いて、電池外装用包材の一方を100×15mmサイズの短冊状に切り取り、評価用のサンプルIとした。サンプルIは、電解液を充填した内容量250mlのテフロン(登録商標)容器に浸漬した。もう一方は300mm×190mmに切り取り、サンプルの上半分に冷間成形を行った。冷間成形の条件を以下に示す。パンチの形状は100mm×150mm、パンチコーナーR(RCP)は1.5mm、パンチ肩R(RP)は0.75mm、ダイ肩R(RD)は0.75mmを使用した。成形深さは5mmとした。冷間成形後、中央部から半分に折りたたみ、左右2辺をヒートシールした後、真空中で電解液を注入し、その後上辺をヒートシールし、パウチ状態とし、サンプルIIとした。ヒートシール条件は195℃、0.3MPa、3secとした。
サンプルIおよびサンプルIIを、85℃にて、1日・1週間・4週間保管した。サンプルIはその後電解液から取り出し、サンプルIIはパウチを切り開きサンプルIと同様な100×15mmの短冊状に切り出し、成形によって延伸された部分の剥離強度を、以下の基準にて評価した。
◎:デラミネーションせず、ラミネート強度が剥離困難、またはシーラント層の破断レベルである。
○:デラミネーションは起こらないが、ラミネート強度が剥離可能レベル(100gf/15mm以上、クロスヘッドスピードが300mm/分)である。
×:デラミネーションによる浮きが確認できる。
結果を表2に示した。
【0045】
【表2】

【0046】
(評価結果)
表2が示すように本発明の実施例1では、テスト1週間後まで剥離困難であり、成型時の耐食性劣化は確認されなかった。また、実施例2では、成形によってわずかに耐食性の劣化があったものの、実施例1と同様に1週間後でも剥離困難であった。実施例の構成を用いることで、成形時の耐食性劣化を抑制し、耐電解液性、耐フッ酸性、密着性の良好な電池外装用包材を得ることが出来た。
一方で、比較例1、3では成形無しにて、1日まで剥離不能であったが、成形を行った場合は1日以降でデラミネーションが発生してしまった。また、比較例3では成形前では1週間までデラミネーションが発生しなかったが、成形後では全てにおいてデラミネーションが発生しており、耐食性の劣化が激しかった。このように、本発明の範囲外の構成である比較例では、成形を行った際の耐食性劣化が激しく、リチウムイオン電池等の電池外装用包材として用いた場合に、成形した部分においてデラミネーションが発生しやすく、信頼性が低くなってしまった。
【0047】
このように、本発明によれば、耐食保護層に脆性緩和成分を含有させることにより、成形および絞り加工された場合でも、耐電解液性、耐フッ酸性、密着性の低下の少ない電池外装用包材を得ることができる。
【符号の説明】
【0048】
10、20:電池外装用包材
11:内層(シーラント層)
12:接着層X
13:耐食保護層
14:アルミニウム箔
15:接着層Y
16:外層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム箔の一方の面に内層を有し、他方の面に外層を有する電池外装用包材において、前記アルミニウム箔と前記内層との間、および/または、前記アルミニウム箔と前記外層との間に、脆性緩和成分を含有する耐食保護層を有することを特徴とする電池外装用包材。
【請求項2】
前記脆性緩和成分が、熱可塑性エラストマー、熱硬化性エラストマーまたはこれらの混合物であることを特徴とする請求項1に記載の電池外装用包材。
【請求項3】
前記耐食保護層における前記脆性緩和成分の含有量が、重量比で5〜50%であることを特徴とする請求項1または2に記載の電池外装用包材。
【請求項4】
前記耐食保護層の被膜重量が、5mg/m2以上1000mg/m2以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の電池外装用包材。
【請求項5】
前記耐食保護層が、3価クロムを用いた化成処理層であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の電池外装用包材。
【請求項6】
前記アルミニウム箔が、厚さ15〜150μmの軟質アルミ箔であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の電池外装用包材。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の外装用包材を備えた2次電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−129404(P2011−129404A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−287470(P2009−287470)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】