説明

電池式機器のオーディオ信号の出力を制御するための方法及び回路

電池式機器のオーディオ信号の出力を制御するための方法及び制御回路が記載される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池式機器のオーディオ信号の出力を制御するための方法及び制御回路に関する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0002】
本発明の一実施形態によれば、電池式機器のオーディオ信号の出力を制御するための方法が提供される。この実施形態によれば、電池式機器の電池の充電状態が検出され、電池の検出された充電状態に応答してオーディオ信号のフィルタリングが調整される。
【0003】
電池式機器、特に、例えば携帯電話、携帯情報端末、MP3プレーヤのようなモバイルオーディオ再生機器、モバイルコンピュータなどといったモバイル機器の分野では、オーディオ信号がイヤホン又はスピーカを介して出力される。オーディオ信号は例えば音楽などを含むことができ、音楽はモバイル機器に記憶され、又はモバイル機器によって受信される。更に、オーディオ信号は、携帯電話の着信音を含むことも、携帯電話によりセルラネットワークを介して受信される音声を含むこともできる。特に、音楽がモバイル機器に組み込まれ得るスピーカを介して再生されるときには、スピーカのためのオーディオ信号を増幅する増幅器によって消費される電力は相当な量になる。また、モバイル機器のスピーカを介したオーディオ信号又は音声ファイルの出力は「遠距離再生(far field playback)」とも呼ばれ、モバイル機器に接続されたイヤホンを介したオーディオ信号の出力よりはるかに大量の電力を消費する。例えば、それぞれ8Ωずつの2台のスピーカを使用する携帯電話の電力消費の典型的な数値は、主にハード圧縮の現代的なポップミュージックからなる音楽資料が出力されるものと仮定すると、おおよそ(1.7V/8Ω)*2=0.72Wである。これは、最大定格2.4V RMSが与えられた場合に、携帯電話が例えば最大6.8Vまでのピークツーピークが可能であることを考慮に入れるときに極めて妥当な値である出力信号の1.7V RMS平均値を仮定したものである。例えば3.6Vで0.96Ahの容量を有する携帯電話の電池では、おおよそ4.8時間の再生時間が達成可能である。これにより携帯電話の待機時間及び通話時間は大幅に減少する。上記の一実施形態に従って説明する提案の方法は、オーディオ信号を適切にフィルタリングすることにより、30%或いはそれ以上の電池エネルギーの節約を可能にする。
【0004】
一実施形態によれば、フィルタリングは、電池の充電状態が低いほどオーディオ信号の低周波数域の減衰が高くなるように調整される。減衰される低周波数域の範囲は使用されるスピーカに左右される。携帯電話のようなモバイル機器において通常使用されるスピーカでは、これらの低周波数域は0Hzから800Hzまでの範囲内にある。しかしこの範囲はスピーカのサイズによって異なり得る。より小型のスピーカでは、低周波数域は0Hzから1000Hzまでの範囲内とすることができ、より大型のスピーカでは、低周波数域は400Hzから600Hzまでの範囲内とすることができる。低周波数域の減衰は、電池の充電状態に応じて、2dBから14dBまでの範囲内で選択され得る。電池の充電状態に応答してフィルタリングを調整することにより、特に低周波数域を減衰させることにより、大量の電池エネルギー節約を達成することができ、その一方で、満充電の電池では出力オーディオ信号の品質の低下が生じず、電池が空になるとごくわずかな品質低下が生じる。
【0005】
一実施形態によれば、電池充電状態について少なくとも3つの異なる充電状態範囲が定義され、3つの異なるフィルタリング設定が定義される。3つの異なるフィルタリング設定はそれぞれ3つの充電状態範囲のうちの異なる1つと関連付けられる。電池の現在の充電状態が少なくとも3つの充電状態範囲と比較され、電池の現在の充電状態が少なくとも3つの充電状態範囲のうちのどの充電状態範囲に対応するかが検出される。フィルタリングは、検出された充電状態範囲に対応する3つのフィルタリング設定のうちの少なくとも1つに従って調整される。それぞれが電池のある充電状態範囲と関連付けられているある数のフィルタリング設定を提供することにより、方法の実施態様を簡略化することができる。フィルタリング設定は電池式機器のフィルタを構成するための別々のデータファイルに記憶することができ、ソフトウェアベースのルーチンが電池電圧を監視し、どのフィルタリング設定がフィルタに適用されるべきか判断することができる。
【0006】
方法の別の実施形態によれば、オーディオ信号が出力されるのがスピーカを介してかそれともイヤホンを介してかが検出される。出力信号が出力されるのがスピーカを介してかそれともイヤホンを介してかの検出に応じて、フィルタリングが調整される。スピーカはイヤホンとは異なる特性を有し得るため、フィルタリングはそれに応じて調整される必要がある。更に、電池の検出された充電状態に応答したオーディオ信号のフィルタリングは、オーディオ信号がスピーカを介して出力されるときのエネルギー消費だけに大きく影響を及ぼすことになる。オーディオ信号がイヤホンを介して出力されるときには、電池の検出された充電状態に応答したオーディオ信号のフィルタリングは不要とすることができる。というのは、イヤホンに供給する増幅器の電力消費はスピーカに供給する増幅器と比べてはるかに少ないエネルギーしか消費しないからである。
【0007】
別の実施形態によれば、方法は更に、電池の検出された充電状態に応答してオーディオ信号のダイナミックレンジ圧縮を調整することを含む。ダイナミックレンジ圧縮のための圧縮器がオーディオ信号をフィルタリングするためのフィルタと組み合わせて使用されるとき、電力を節約するために低周波数域が減衰される場合に、中周波数域及び高周波数域がそれに応じて増幅され、低周波数域の低下の利益が減少することが圧縮器に伝わる可能性もある。これは特に、圧縮器がフィルタの後に位置する場合に生じ得る。したがって、電池の検出された充電状態に応答して、よって、オーディオ信号の調整されたフィルタリングに応答してダイナミックレンジ圧縮を適切に調整することにより所望の電池エネルギーの節約が可能になる。
【0008】
本発明の別の実施形態によれば、電池式機器のオーディオ信号の出力を制御するための方法が提供される。方法は以下のステップを含む。電池式機器の電池の充電状態が検出される。電池の検出された充電状態に応答して、オーディオ信号のダイナミックレンジ圧縮が調整される。一般に、ダイナミックレンジ圧縮は、より高レベルのオーディオ信号についての利得低減を含み得る。ダイナミックレンジ圧縮の調整は、電池の充電状態が低下しているときにより高レベルのオーディオ信号についての利得低減が低くなるように達成することができる。加えて、電池の検出された充電状態に応答したオーディオ信号のフィルタリングも調整することができる。前述のように、特に、電池の検出された充電状態に応答したダイナミックレンジ圧縮とオーディオ信号のフィルタリングとの調整の組み合わせは、出力オーディオ信号のオーディオ品質に大きな影響を及ぼさずに電池エネルギーの節約を実現する。
【0009】
一実施形態によれば、電池について少なくとも3つの異なる充電状態範囲を定義することができ、少なくとも3つの異なるダイナミックレンジ圧縮設定を定義することができる。少なくとも3つのダイナミックレンジ圧縮設定はそれぞれ少なくとも3つの充電状態範囲のうちの異なる1つと関連付けられる。この実施形態によれば、電池の現在の充電状態が少なくとも3つの充電状態範囲のうちのどの充電状態範囲に対応するかが判定される。次いでダイナミックレンジ圧縮が、検出された充電状態範囲に対応する少なくとも3つのダイナミックレンジ圧縮設定のうちの1つに従って設定される。
【0010】
方法の別の実施形態によれば、方法は更に、オーディオ信号が出力されるのがスピーカを介してかそれともイヤホンを介してかの検出を含む。オーディオ信号が出力されるのがスピーカを介してかそれともイヤホンを介してかの検出に基づいて、ダイナミックレンジ圧縮が更に調整される。この実施形態は、スピーカとイヤホンの個別的特性にそれぞれ合わせたダイナミックレンジ圧縮の最適な調整を可能にする。
【0011】
本発明の別の実施形態によれば、電池式機器のオーディオ信号の出力を制御するための制御回路が提供される。制御回路は、電池式機器の電池の充電状態を検出するための電池入力と、オーディオ信号をフィルタリングするためのオーディオフィルタを制御するためのフィルタ制御出力とを備える。制御回路は、電池の検出された充電状態に応答してオーディオフィルタを制御するように適合される。
【0012】
制御回路は、オーディオフィルタを、電池の充電状態が低いほどオーディオ信号の低周波数域の減衰が高くなるように調整するように適合させることができる。低周波数域には0Hzから800Hzまでの範囲を定義することができる。
【0013】
一実施形態によれば、例えば、制御回路のソフトウェアにおいて、電池についての少なくとも3つの異なる充電状態範囲とオーディオフィルタについての少なくとも3つの異なる設定が定義される。少なくとも3つのオーディオフィルタ設定はそれぞれ少なくとも3つの充電状態範囲のうちの異なる1つと関連付けられる。制御回路は、電池の現在の充電状態がどの充電状態範囲に対応するか検出し、オーディオフィルタに、検出された充電状態範囲に対応するオーディオフィルタ設定を提供するように適合される。
【0014】
制御回路は更に、オーディオ信号が出力されるのがスピーカを介してかそれともイヤホンを介してか検出するための入力も備えることができる。制御回路は、この検出に応答してオーディオフィルタを更に制御するように適合させることができる。
【0015】
別の実施形態によれば、制御回路は更に、圧縮器を制御するための圧縮器制御出力を備える。圧縮器は、オーディオ信号のダイナミックレンジ圧縮を調整するように構成することができる。制御回路は、電池の検出された充電状態に基づいて圧縮器を制御する。
【0016】
本発明の更に別の実施形態によれば、電池式機器のオーディオ信号の出力を制御するための制御回路が提供される。制御回路は、電池式機器の電池の充電状態を検出するための電池入力と、オーディオ信号のダイナミックレンジ圧縮を調整するための圧縮器を制御するための圧縮器制御出力とを備える。制御回路は電池の検出された充電状態に応答して圧縮器を制御する。
【0017】
圧縮器のダイナミックレンジ圧縮はより高レベルのオーディオ信号についての利得低減を含み得る。圧縮器は制御回路によって、電池の充電状態が低下するときにより高レベルのオーディオ信号についての利得低減が低くなるように制御される。代替として、圧縮器のダイナミックレンジ圧縮は、より低レベルのオーディオ信号についての利得増強を含んでいてもよい。この場合、制御回路は圧縮器を、電池の充電状態が低いほどより低レベルのオーディオ信号についての利得増強が低くなるように制御するように適合される。
【0018】
一実施形態によれば、制御回路において、電池について少なくとも3つの異なる充電状態範囲が定義され、圧縮器について少なくとも3つの異なるダイナミックレンジ圧縮設定が定義される。少なくとも3つのダイナミックレンジ圧縮設定はそれぞれ少なくとも3つの充電状態範囲のうちの異なる1つと関連付けられる。制御回路は、電池の現在の充電状態が少なくとも3つの充電状態範囲のうちのどの充電状態範囲に対応するか検出し、圧縮器において、検出された充電状態範囲に対応する少なくとも3つのダイナミックレンジ制御設定のうちの当該設定を設定するように適合される。
【0019】
制御回路は更に、オーディオ信号が出力されるのがスピーカを介してかそれともイヤホンを介してか検出するための入力を備えることができる。制御回路は、オーディオ信号が出力されるのがスピーカを介してかそれともイヤホンを介してか判定するこの検出に応答して、圧縮器を更に制御することもできる。
【0020】
一実施形態によれば、制御回路は更に、オーディオフィルタを制御するためのフィルタ制御出力を備える。オーディオフィルタはオーディオ信号をフィルタリングするように適合される。制御回路は、電池の検出された充電状態に応答してオーディオフィルタを制御する。
【0021】
本発明の別の実施形態によれば、モバイル機器が提供される。モバイル機器は、モバイル機器によって出力されるべきオーディオ信号を提供するように構成されたオーディオ信号源を備える。オーディオ信号源からのオーディオ信号は、モバイル機器によって出力されるべき復号MP3信号又は他の任意の種類の音楽若しくは音声信号を含むことができる。モバイル機器は更に、モバイル機器にエネルギーを供給するための電池を備える。モバイル機器は更に、オーディオ信号をフィルタリングするように構成されたオーディオフィルタと、オーディオ信号のダイナミックレンジ圧縮を調整するように構成された圧縮器とを備える。オーディオフィルタは、オーディオ信号を音響信号として発するスピーカ又はイヤホンの特性に合わせてオーディオ信号を適合させるように適合させることができる。圧縮器は、オーディオ信号の利得及び/又は減衰を、圧縮器に入力されるオーディオ信号のレベルの関数として制御するのに使用することができる。更に、モバイル機器は、電池入力、フィルタ制御出力、及び圧縮器制御出力を有する制御回路を備える。電池入力は、電池の充電状態を検出するために電池に結合される。フィルタ制御出力は、オーディオフィルタを制御するために、例えば、オーディオフィルタのフィルタリング特性を調整するなどのためにオーディオフィルタに結合される。圧縮器制御出力は、圧縮器を制御するために、例えば、ダイナミックレンジ圧縮特性を調整するなどのために、圧縮器に結合される。制御回路は、電池の検出された充電状態に応答してオーディオフィルタ及び圧縮器を制御するように適合される。
【0022】
前述のモバイル機器は、オーディオデータを出力するときにより長い動作時間を提供する。というのは、モバイル機器の増幅器の電力消費が、電池の検出された充電状態に応答してオーディオフィルタ及び圧縮器を制御することにより低減されるからである。モバイル機器は、携帯電話、携帯情報端末、モバイルオーディオ再生機器又はモバイルコンピュータとすることができる。
【0023】
前述の実施形態の特徴は、適切な場合には、相互に組み合わされ得ることを理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
以下で、図面を参照して本発明の例示的実施形態を説明する。
【0025】
【図1】本発明の一実施形態によるモバイル機器を示すブロック図である。
【0026】
【図2】本発明の一実施形態によるオーディオ信号の出力を制御するための方法を示す流れ図である。
【0027】
【図3】本発明の一実施形態による第1のダイナミックレンジ圧縮設定を示す図である。
【0028】
【図4】本発明の一実施形態による第1のオーディオフィルタ設定を示す図である。
【0029】
【図5】本発明の一実施形態による第2のダイナミックレンジ圧縮設定を示す図である。
【0030】
【図6】本発明の一実施形態による第2のオーディオフィルタ設定を示す図である。
【0031】
【図7】本発明の一実施形態による第3のダイナミックレンジ圧縮設定を示す図である。
【0032】
【図8】本発明の一実施形態による第3のオーディオフィルタ設定を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下で、本発明の例示的実施形態を詳細に説明する。以下の説明は本発明の原理を例示するために行うにすぎず、限定を意味するものとみなすべきではないことを理解すべきである。そうではなく、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ定義され、以下の例示的実施形態によって限定されるべきものではない。
【0034】
また、例示的実施形態の以下の詳細な説明では、図面若しくは本明細書の説明において示す機能ブロック間、機器間、構成要素間又は他の物理的若しくは機能的ユニット間の直接的な接続又は結合が、間接的な接続又は結合によっても実施することができるはずであることも理解すべきである。
【0035】
更に、本明細書で説明する様々な例示的実施形態の特徴は、特に言及しない限り、相互に組み合わせることができることを理解すべきである。
【0036】
図1に本発明によるモバイル機器1の一実施形態を示す。モバイル機器1は、オーディオ信号源2、オーディオフィルタ3、圧縮器4、スイッチ5、スピーカ6、イヤホンコネクタ7、制御部8、及び電池9を備える。モバイル機器1は、モバイル機器1の(不図示の)内蔵メモリから再生され、又はモバイル機器1によって無線周波数で受信される、例えば音楽などのオーディオ信号を出力する機能を備える携帯電話とすることができる。更に、モバイル機器1は、携帯情報端末、モバイルオーディオ再生機器又はモバイルコンピュータ又は他の任意の種類の電池式モバイル機器とすることもできる。
【0037】
オーディオ信号源2からのオーディオ信号はオーディオフィルタ3及び圧縮器4を経てスイッチ5に渡される。オーディオフィルタ3は電気音響変換器、例えばスピーカ6やイヤホンコネクタ7に接続されるイヤホンなどの特性に従ってオーディオ信号源2からのオーディオ信号を適合させるのに使用することができる。圧縮器4は、ダイナミックレンジ圧縮によってフィルタリングされたオーディオ信号のレベルを制御するのに使用することができる。スイッチ5は、フィルタリングされ、圧縮されたオーディオ信号をスピーカ6に、又はイヤホンコネクタ7に選択的に渡す。イヤホンコネクタ7には(不図示の)イヤホンを接続することができる。図1には1台のスピーカ6だけが示されているが、モバイル機器1は複数のスピーカ6、例えばステレオオーディオ信号を出力するための2台のスピーカを備えていてもよい。
【0038】
また圧縮器4は、接続される電気音響変換器、例えばスピーカ6やイヤホンコネクタ7に接続されるイヤホンなどの必要に応じてフィルタリングされたオーディオ信号を増幅するための増幅器も備えることができる。
【0039】
制御回路8は、電池入力10、フィルタ制御出力11、圧縮器制御出力12、及び入力13を経て、それぞれ、電池9、オーディオフィルタ3、圧縮器4、及びスイッチ5に接続される。電池入力10を経て制御回路8は電池9に結合され、電池9の充電状態を検出するように適合される。フィルタ制御出力11を経て制御回路8はオーディオフィルタ3に結合され、オーディオフィルタ3のフィルタ特性を調整するように適合される。制御回路8は、例えば、オーディオフィルタ3を構成するために異なる情報ブロックが記憶されるメモリを備えるディジタルコントローラやプロセッサなどとすることができる。制御回路8からオーディオフィルタ3に提供される情報ブロックに応じて、オーディオフィルタ3のフィルタ特性が調整される。圧縮器制御出力12を経て制御部8は圧縮器4に結合される。オーディオフィルタ3の調整と同様に、圧縮器4は圧縮器制御出力12を介して構成することができる。特に、圧縮器4の動的圧縮制御特性を構成することができる。フィルタ特性及びダイナミックレンジ圧縮特性の詳細については図3から図8との関連で説明する。
【0040】
最後に、制御回路8は、スイッチ5の現在のスイッチ状態に関する情報を受け取るために入力13を経てスイッチ4に結合される。
【0041】
図2に、一実施形態による制御回路8の動作を詳細に表す流れ図を示す。制御回路8の動作は、ブロック20で、例えば、オーディオ信号の出力がモバイル機器1のユーザによりオーディオ信号源2において開始されるときに開始する。
【0042】
ブロック21で制御部8はスイッチ5の現在の状態を判定する。スイッチ5がオーディオ信号を圧縮器4からイヤホンコネクタ7に渡すように設定されている場合、オーディオフィルタ3及び圧縮器4は、制御回路8により、イヤホンコネクタ7に接続されたイヤホンに合わせて適合されているオーディオフィルタ及び圧縮器構成データのセットに従って構成される(ブロック22)。制御回路8が、スイッチ5が圧縮され、フィルタリングされたオーディオ信号をスピーカ6に渡すように構成されていると判定する場合、制御回路8は電池9の現在の充電状態を判定する(ブロック23)。
【0043】
この実施形態によれば、以下の3つの異なる充電状態範囲が定義される。第1の充電状態範囲「満(FULL)」は、例えば、電池9がその最大容量の67%から100%までの範囲内で充電されていることを表示する。第2の充電状態範囲「中(MEDIUM)」は、例えば、その最大容量の34%から66%までの範囲内の電池9の充電状態を表示する。第3の充電状態範囲「低(LOW)」は、その最大容量の0%から33%までの範囲内の電池9の充電状態を表示する。次に電池9の検出された充電状態が3つの充電状態範囲、「満」、「中」、及び「低」と比較される(ブロック24、26、28)。
【0044】
電池9の現在の充電状態が「満」の範囲に該当する場合(ブロック24)、圧縮器4のダイナミックレンジ圧縮及びオーディオフィルタ3のフィルタリングは制御回路8により第1の設定に従って構成される(ブロック25)。図3にダイナミックレンジ圧縮についてのこの第1の設定を示し、図4にフィルタリングについてのこの第1の設定を示す。図4には、X軸上に周波数が、Y軸上にオーディオフィルタ3のフィルタ設定の減衰の大きさが示されている。図4のグラフから分かるように、第1の設定では、800Hz前後の周波数のフィルタリングが生じ、これは、例えば携帯電話などにおいて使用されるスピーカのような小型スピーカ用のフィルタを設計するときに一般的なものである。図3には、第1の設定に従って圧縮器4によって行われるダイナミックレンジ圧縮を表すグラフが示されている。X軸は圧縮器4へのオーディオ信号入力の入力レベルを表示し、Y軸は圧縮器4からのオーディオ信号の対応する出力レベルを表示する。文字a、b、c、d、e、f、g、及びhによって表示されるグラフは、第1の設定における圧縮器4の伝達関数を表示するものである。図示のように、この伝達関数は非線形であり、より高い入力レベルを低減し、よってより低い入力レベルを強調する。そのようなダイナミックレンジ圧縮は、オーディオ信号が、携帯電話において使用されるような小型スピーカによって出力されるときに一般に使用される。ブロック25で第1の設定に従ってオーディオフィルタ3及び圧縮器4を構成した後で、方法は前述ブロック21から続行される。
【0045】
電池9の現在の充電状態が「満」の範囲内に入らない場合には、ブロック26で、電池9の現在の充電状態が「中」の範囲内に入るかどうかが検査される。現在の電池充電状態がこの範囲内に入る場合(例えば、電池が現在、その最大容量の34%から66%までを含む場合など)には、オーディオフィルタ3及び圧縮器4は、ブロック27に表示するように、第2の設定に従って構成される。この第2の設定によるフィルタリング特性及びダイナミックレンジ圧縮の伝達関数は、それぞれ、図6及び図5に示されている。図6に示すフィルタ関数は、図4の特性と比べておおよそ6dBのおおよそ100Hzから800Hzまでの範囲内の低周波数域の減衰又はフィルタリングを与える。これは、低周波数域のより少ない、又は低音域のより少ないオーディオ信号の音をもたらすが、このオーディオ信号を増幅するときに相当な量のエネルギーを節約することになる。図5に、第2の設定によるダイナミックレンジ圧縮の伝達関数を示す。図5の伝達関数は、点a、b、c、d、e、f、g、及びhを通るグラフによって表示される。図示のように、第2の設定の伝達関数は「よりまっすぐ」になっている。ブロック27で第2の設定に従ってフィルタリング及びダイナミックレンジ圧縮を調整した後で、図2の方法は前述のブロック21から続行される。
【0046】
ブロック26で、電池9の現在の充電状態が「中」の範囲内に入らないと判定される場合、ブロック28で制御回路8により、電池9の充電状態が前述の「低」の範囲内に入るかどうかが判定される。電池9の現在の充電状態が「低」範囲内に入る場合、即ち、電池9の現在の充電状態が、例えば、電池9の最大容量の0%から33%までの範囲内にある場合、オーディオフィルタ3及び圧縮器4はブロック29で第3の設定に従って調整される。第3の設定によるオーディオフィルタ3のフィルタリング特性及び圧縮器4の伝達関数は、それぞれ、図8及び図7に示されている。図8から分かるように、第1及び第2の設定のフィルタリング(図4及び図6)と比べて低周波数域のより強いフィルタリングが生じている。これは低音域のより一層少ない音をもたらすが、より一層多くのエネルギーを節約することになる。圧縮器4のダイナミックレンジ圧縮の伝達関数は、図7に示す点aから点hまでを通るグラフによって表示される。第3の設定による伝達関数は線形であり、これはダイナミックレンジ圧縮が生じないことを意味する。ブロック29で第3の設定に従ってオーディオフィルタ3及び圧縮器4を設定した後で、図2の方法は前述のブロック21から続行される。
【0047】
ブロック28で、現在の電池充電状態が「低」の範囲内に含まれないことが検出された場合、方法は前述のブロック21から続行される。
【0048】
特に、圧縮器4が図1に示すようにオーディオフィルタ3の後に位置する場合に、ダイナミックレンジ圧縮が例えば図3に示すように活動化されるときに、低周波数域が例えば図8に示すように電力を節約するために減衰される場合には、圧縮器4はそれに応じて中周波数域及び高周波数域を増幅することになり、そのために低周波数域の低減のエネルギー節約の利益が低下する可能性もあることに留意すべきである。したがって、圧縮器4の伝達関数は図5ではよりまっすぐであり、図7では線形である。
【0049】
前述の方法は、基本的に、オーディオフィルタ3及び圧縮器4に3つの異なる構成設定を使用することによって非常に容易に実施することができる。制御回路8内の簡単なソフトウェアベースのルーチンが電池9の充電状態又は電圧を監視し、設定のうちのどれがオーディオフィルタ3及び圧縮器4によって使用されるべきか決定することができる。
【0050】
ある設定から別の設定への移行は、電池寿命を維持するために音設定が変更されていることをユーザに表示するモバイル機器のユーザとダイアログと組み合わせることもできるはずである。
【0051】
以上では例示的実施形態を説明したが、別の実施形態では様々な改変が実施されてもよい。例えば、圧縮器4及びオーディオフィルタ3のための設定の数は、前述の3つの設定と異なっていてもよい。また、2つの異なる設定や、電池9の対応する数の充電状態範囲に対応する3より大きい数の異なる設定が使用されてもよい。更に、例えば、1つの圧縮器が低周波数域用であり1つ又は2つの圧縮器が高周波数域用であるなど、電池の充電状態又は電圧に応じて連係して働く2つ以上の異なる周波数ベースの圧縮器4が使用されてもよい。
【0052】
図を参照して以上で説明した実施形態は、それぞれ、専用のチップにおいて実現することもでき、前述の実施形態の任意の組み合わせを、これらの実施形態の機能及び特性を組み合わせた1つのチップ内で実現することもできる。更に、前述の実施形態は、携帯電話において使用することができるだけでなく、電池を含み、オーディオ信号を出力するように適合されている他の任意の種類の電池式機器又は電池式モバイル機器においても使用することができる。また、前述のすべての実施形態は、添付の特許請求の範囲によって定義されるように本発明によって包含されるべきものとみなされることも理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池式機器のオーディオ信号の出力を制御するための方法であって、
前記電池式機器の電池の充電状態を検出すること、及び
前記電池の前記検出された充電状態に応じて前記オーディオ信号のフィルタリングを調整すること
を含む、方法。
【請求項2】
前記フィルタリングが、前記電池の前記充電状態が低いほど前記オーディオ信号の低周波数域の減衰が高くなるように調整される、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記低周波数域が0Hzから800Hzまでの範囲内にある、
請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記電池について少なくとも3つの異なる充電状態範囲が定義され、少なくとも3つの異なるフィルタリング設定が定義され、前記少なくとも3つのフィルタリング設定がそれぞれ前記少なくとも3つの充電状態範囲のうちの異なる1つと関連付けられ、
前記電池の現在の充電状態が前記少なくとも3つの充電状態範囲のうちのどの充電状態範囲に対応するか検出すること、及び
前記検出された充電状態範囲に対応する前記少なくとも3つのフィルタリング設定のうちの1つに従って前記フィルタリングを調整すること
を更に含む、
請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記オーディオ信号が出力されるのがスピーカを介してかそれともイヤホンを介してか検出すること、及び
前記オーディオ信号が出力されるのが前記スピーカを介してかそれとも前記イヤホンを介してかの前記検出に応じて前記フィルタリングを更に調整すること
を更に含む、
請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記電池の前記検出された充電状態に応じて前記オーディオ信号のダイナミックレンジ圧縮を調整することを更に含む、
請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
電池式機器のオーディオ信号の出力を制御するための方法であって、
前記電池式機器の電池の充電状態を検出すること、及び
前記電池の前記検出された充電状態に応じて前記オーディオ信号のダイナミックレンジ圧縮を調整すること
を含む、方法。
【請求項8】
前記ダイナミックレンジ圧縮がより高レベルの前記オーディオ信号についての利得低減を含み、前記ダイナミックレンジ圧縮が、前記電池の前記充電状態が低いほどより高レベルの前記オーディオ信号についての前記利得低減が低くなるように設定される、
請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記電池について少なくとも3つの異なる充電状態範囲が定義され、少なくとも3つの異なるダイナミックレンジ圧縮設定が定義され、前記少なくとも3つのダイナミックレンジ圧縮設定がそれぞれ前記少なくとも3つの充電状態範囲のうちの異なる1つと関連付けられ、
前記電池の現在の充電状態が前記少なくとも3つの充電状態範囲のうちのどの充電状態範囲に対応するか検出すること、及び
前記検出された充電状態範囲に対応する前記少なくとも3つのダイナミックレンジ圧縮設定のうちの1つに従って前記ダイナミックレンジ圧縮を調整すること
を更に含む、
請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
前記オーディオ信号が出力されるのがスピーカを介してかそれともイヤホンを介してか検出すること、及び
前記オーディオ信号が出力されるのが前記スピーカを介してかそれとも前記イヤホンを介してかの前記検出に応じて前記ダイナミックレンジ圧縮を更に調整すること
を更に含む、
請求項7〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記電池の前記検出された充電状態に応じて前記オーディオ信号のフィルタリングを調整すること
を更に含む、
請求項7〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
電池式機器のオーディオ信号の出力を制御するための制御回路であって、
前記電池式機器の電池の充電状態を検出するための電池入力と、
前記オーディオ信号をフィルタリングするためのオーディオフィルタを制御するためのフィルタ制御出力と、
を備え、
前記電池の前記検出された充電状態に応じて前記オーディオフィルタを制御するように構成されている、制御回路。
【請求項13】
前記オーディオフィルタを、前記電池の前記充電状態が低いほど前記オーディオ信号の低周波数域の減衰が高くなるように調整するように構成されている、
請求項12に記載の制御回路。
【請求項14】
前記低周波数域が0Hzから800Hzの範囲内にある請求項13に記載の制御回路。
【請求項15】
前記電池について少なくとも3つの異なる充電状態範囲が定義され、前記オーディオフィルタについての少なくとも3つの異なる設定が定義され、前記少なくとも3つの設定がそれぞれ前記少なくとも3つの充電状態範囲のうちの異なる1つと関連付けられ、
前記電池の現在の充電状態が前記少なくとも3つの充電状態範囲のうちのどの充電状態範囲に対応するか検出し、
前記オーディオフィルタに、前記検出された充電状態範囲に対応する前記少なくとも3つの設定のうちの前記設定を提供する
ように更に構成されている、
請求項12〜14のいずれか1項に記載の制御回路。
【請求項16】
前記オーディオ信号が出力されるのがスピーカを介してかそれともイヤホンを介してか検出するための入力を更に備え、
前記オーディオ信号が出力されるのが前記スピーカを介してかそれとも前記イヤホンを介してかの前記検出に応じて前記オーディオフィルタを更に制御するように構成されている、
請求項12〜15のいずれか1項に記載の制御回路。
【請求項17】
前記オーディオ信号のダイナミックレンジ圧縮を調整する圧縮器を制御するための圧縮器制御出力を更に備え、前記電池の前記検出された充電状態に応じて前記圧縮器を制御するように更に構成されている、
請求項12〜16のいずれか1項に記載の制御回路。
【請求項18】
電池式機器のオーディオ信号の出力を制御するための制御回路であって、
前記電池式機器の電池の充電状態を検出するための電池入力と、
前記オーディオ信号のダイナミックレンジ圧縮を調整するための圧縮器を制御するための圧縮器制御出力と
を備え、
前記電池の前記検出された充電状態に応じて前記圧縮器を制御するように構成されている、制御回路。
【請求項19】
前記圧縮器の前記ダイナミックレンジ圧縮がより高レベルの前記オーディオ信号についての利得低減を含み、
前記圧縮器を、前記電池の前記充電状態が低いほどより高レベルの前記オーディオ信号についての前記利得低減が低くなるように制御するように構成されている、
請求項18に記載の制御回路。
【請求項20】
前記電池について少なくとも3つの異なる充電状態範囲が定義され、前記圧縮器についての少なくとも3つの異なる設定が定義され、前記少なくとも3つの設定がそれぞれ前記少なくとも3つの充電状態範囲のうちの異なる1つと関連付けられ、
前記電池の現在の充電状態が前記少なくとも3つの充電状態範囲のうちのどの充電状態範囲に対応するか検出し、
前記圧縮器に、前記検出された充電状態範囲に対応する前記少なくとも3つの設定のうちの前記設定を提供する
ように更に構成されている、
請求項18又は19に記載の制御回路。
【請求項21】
前記オーディオ信号が出力されるのがスピーカを介してかそれともイヤホンを介してか検出するための入力を更に備え、前記オーディオ信号が出力されるのが前記スピーカを介してかそれとも前記イヤホンを介してかの前記検出に応じて前記圧縮器を更に制御するように構成されている、
請求項18〜20のいずれか1項に記載の制御回路。
【請求項22】
前記オーディオ信号をフィルタリングするためのオーディオフィルタを制御するためのフィルタ制御出力を更に備え、前記電池の前記検出された充電状態に応じて前記オーディオフィルタを制御するように更に構成されている、
請求項18〜20のいずれか1項に記載の制御回路。
【請求項23】
モバイル機器によって出力されるべきオーディオ信号を提供するように構成されたオーディオ信号源と、
モバイル機器にエネルギーを供給するように構成された電池と、
前記オーディオ信号をフィルタリングするように構成されたオーディオフィルタと、
前記オーディオ信号のダイナミックレンジ圧縮を調整するように構成された圧縮器と、
制御回路と、
を備え、
前記制御回路は、
前記電池の充電状態を検出するために前記電池に結合された電池入力と、
前記オーディオフィルタを制御するために前記オーディオフィルタに結合されたフィルタ制御出力と、
前記圧縮器を制御するために前記圧縮器に結合された圧縮器制御出力と、
を備え、
前記電池の前記検出された充電状態に応じて前記オーディオフィルタ及び前記圧縮器を制御するように構成される、
モバイル機器。
【請求項24】
携帯電話、携帯情報端末、モバイルオーディオ再生機器、及びモバイルコンピュータを含むグループの中から選択される機器である、
請求項23に記載のモバイル機器。
【請求項25】
前記制御回路が請求項12〜22のいずれか1項に記載の制御回路である、
請求項23又は24に記載のモバイル機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2012−530431(P2012−530431A)
【公表日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−515360(P2012−515360)
【出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際出願番号】PCT/EP2009/008847
【国際公開番号】WO2010/145683
【国際公開日】平成22年12月23日(2010.12.23)
【出願人】(502087507)ソニーモバイルコミュニケーションズ, エービー (823)
【Fターム(参考)】