説明

電池構成材料

【課題】リチウムイオン二次電池用負極炭素材料の高性能化すなわち高容量であり、かつ金属およびその他の不純物を含まない高純度品を、安価にかつ省エネルギー性を考慮して提供する。
【解決手段】原料としてキシレン樹脂を選定し、不活性雰囲気中にて550〜750℃で4時間焼成を行って低温焼成炭素を得る。当該低温焼成炭素は、焼成温度550℃においては、面間隔0.405nm、結晶子長0.74nmの縮合多環炭化水素であり、リチウムイオン二次電池負極材料として、680mAh/gの容量を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池負極材料、電気二重層キャパシター電極材料およびその他の電池構造電極材料に使用される高純度の炭素および当該炭素の製造法に関する。
【0002】
リチウムイオン二次電池においては、金属酸化物リチウム塩を正極とし、本発明の炭素粉末を各種の結着剤および主として炭素系電子伝導剤とを混合したものを負極とし、ここに電解液は電解質と非プロトン溶剤からなりたっているか、若しくは電解質と高分子、若しくは電解液と高分子と非プロトン溶剤からなりたっており、正極と負極との中間に分離膜を介在させて構成したリチウムイオン二次電池である。
【0003】
近年、電子機器のポータブル化、コードレス化が急速に進んでおり、これらの駆動用電源として小型軽量で、高エネルギー密度を要する二次電池への要望が高い。このような点で、非水系二次電池、特にリチウムイオン二次電池は、とりわけ高電圧、高エネルギー密度を有する電池として期待が大きい。
【0004】
特に、最近LiCoO2,LiNiO2などのリチウム複合酸化物を正極活物質とし負極活物質に炭素材料を用いた電池系が、高エネルギー密度のリチウムイオン二次電池として注目を集めている。この電池系の特徴は、電池電圧が高いことと、正負極ともにインターカーレーション反応を利用していることである。すでに、LiCoO2を正極に、黒鉛系炭素材料を負極に用いた電池が商品化されている。このようなリチウムイオン二次電池の場合には、充放電反応を均一に行なうことが重要な要素であり、多くの場合、正極も負極も金属箔の集電体に活物質を含む合剤層を塗布したシート状の極板を用いている。また集電体の素材は、電池に使用される場合の各々の作動電位で電気化学的に安定であるという理由で正極の集電用金属箔にはアルミニウム、負極の集電用金属箔には銅などが使用されている。
【背景技術】
【0005】
高純度で高黒鉛化度の炭素としてはピッチコークスを粉砕したものが用いられ、また高純度の高黒鉛化黒鉛には天然黒鉛から金属などの不純物を除去、精製し、粉砕したものが使用される。一般には製品化されているものは天然黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ、ミルド化黒鉛化繊維などのグラファイト系材料がリチウムイオン二次電池用負極材料として開発され実用化がすすめられている。
同時に一層の低価格化および高性能化に向けて精力的な研究が進められている。
しかしながら、現在においてもリチウムイオン二次電池が本来有する特性を充分に発現しておらず、性能面でも必ずしも満足すべきレベルに達していない。
リチウムイオン電池負極用炭素は、黒鉛化度の高いソフトカーボン、低黒鉛化度のソフトカーボン、高温焼成ハードカーボンおよび低温焼成炭素がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
炭素負極の先ず改良するべきは、高性能化でありその内容として、まずは高容量化であり、そのための工程に使用するエネルギーの低減および作製された炭素が高純度であって金属およびその他の不純物を原料面および工程面から低減する必要がある。
【0007】
上記の高容量化等のために、例えばメソカーボンマイクロビーズにホウ素を添加する技術が開発されている。ピッチ溶融時に生成するメソフェーズの制御により、粒子径や形状および結晶子は配向性を制御可能であるがメソフェーズピッチ系黒鉛は極めて高温でも黒鉛化されないために高容量化が維持出来ない。そのためにホウ素を添加して高容量を維持するという技術である。
【0008】
また鱗片状黒鉛の形状的課題を解決するために、鱗片状黒鉛の表面をタールピッチ被覆して約千度程度にて焼成することによりピッチ被覆黒鉛を形成させて高容量を維持しながら電解液の分解抑制を可能にする開発もされている。
【0009】
さらに高容量化のためにメソフェーズピッチ系炭素繊維が開発されており、タールピッチを400℃前後の温度で加熱溶融して得られるメソフェーズピッチを紡糸する工程で繊維断面方向の結晶子の配向性を制御することが出来、したがって繊維端と側面に結晶子端が露出した黒鉛材料を得ることが出来る。
【0010】
しかしながら、リチウムイオン二次電池負極材料としての炭素の高性能化のためには、高容量化および高純度化および原料から製造する工程を得て生成されて得られる炭素に至る工程の省エネルギーも重要な課題である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者達は鋭意研究した結果、すでに商品として製造されており純度、分子量さらには金属等の不純物や毒性等が既知である素材を原料にすることを考慮しながら高容量化および製造工程の省エネルギーのために低温焼成炭素を新規に開発した。
【0012】
焼成温度1000℃以下、具体的には300℃から800℃で焼成された炭素前駆体というべき低温焼成炭素は、例えば700℃で焼成されたメソカーボンマイクロビーズは、750mAh/gの可逆容量を持つことが報告されており、フェノール樹脂の低温焼成物は、ポリアセンとして価値ある850mAh/gの容量が報告されている。このような低温焼成炭素の充電放電曲線の特徴として電気二重層キャパシター的な電位挙動を示している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
発明者達は、上記の高性能化、特に高容量化のために原料としてキシレン樹脂を選定した。三菱ガス化学社製キシレン樹脂前駆体ニカノールを選定して製造原料とした。
【0014】
上記三菱ガス化学社製キシレン樹脂前駆体ニカノールのレゾール型キシレン樹脂前駆体を原料とした。
【0015】
原料を磁器製トレイーに入れ、不活性雰囲気(窒素ガス)中にて550℃乃至750度にて4時間焼成を行った。
【0016】
焼成された焼成炭素前駆体をボールミルにて粉砕し、篩により粒度を選別した。
【0017】
得られた炭素前駆体を分析したところ、焼成温度550度においては、面間隔0.405nmの結晶子0.74nmである縮合多環炭化水素であった。
【0018】
得られた炭素前駆体を分析したところ、焼成温度650℃においては、面間隔0.397nmの結晶子1.00nmである縮合多環炭化水素であった(技術文献1)。
【技術文献1】
【0019】
The structural analysis of various hydro−graphene species,Synthetic Metals 145(2004)31−36
【0020】
上記炭素前駆体をリチウムイオン二次電池負極材料として実験を行った。
先ず、上記炭素前駆体を結着剤としてPVDFを使用した場合には溶剤としてNメチルピロリドン(NMP)を使用し、導電剤アセチレンブラックを混合して負極材料を調整した。上記炭素前駆体の結着剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)および/またはスチレンブタジエンゴム(SBR)を使用する場合には溶剤として水を使用した。ただし、使用される結着剤についてはここに説明した各種高分子に限定されるものではない。
得られた負極活物質と導電剤と結着剤との混合液をスクリーン印刷方式やロールコーター方式により銅箔に塗布した。
【0021】
対極にはリチウム金属を使用し、電解液として各種電解質/非プロトン溶剤配合液を使用し、ポリエチレン製またはポリプロピレン製またはグラスウール製等の分離膜を用いて、リチウム金属/分離膜/炭素前駆体を積層してリチウムイオン電池構造を作製した。
【0022】
本発明で用いられる正極活物質としては、例えば、LiCoO2,LiNiO2,LiMn2O4等のリチウム酸化物、TiO2,MnO2,MoO3,V2O5等のカルコゲン化合物のうちの一種、あるいは複数種が組合せて用いることが出来る。
【0023】
本発明で使用する活物質が含有された塗布液の具体的な調整方法について説明する。先ず、上記に挙げたような材料から適宜に選定された結着剤と粉末状負極活物質とを水、軽溶剤等の溶媒からなる分散媒体中に入れ更に必要に応じて導電剤を混合させた組成物を、従来公知のホモジナイザー、ボールミル、サンドミル、ロールミル等の分散機を用いて混合分散することにより調製する。
【0024】
この活物質塗布液を前記金属箔集電体の面上に、各種塗布方法を用いて乾燥厚みで10−200ミクロンメートル、好ましくは50−180ミクロンメートルの範囲で塗布した後、加熱乾燥させる。
【0025】
更に、上記のようにして塗布および乾燥処理により形成された塗布層の均質性をより向上させるために、当該塗布層に金属ロール、加熱ロール、シートプレス機等を用いてプレス処理を施し、本発明の電極板を形成することが好ましい。更に、上記の電極板を用いて電池の組み立て工程に移る前に、電極板の活物質層中の水分を除去するために、更に加熱処理や減圧処理等を行なうことが好ましい。
【0026】
以上のようにして作製した本発明の負極の非水電解液二次電池用電極板を用いて、例えば、リチウム系二次電池を作製する場合には、電解液として、溶質のリチウム塩を有機溶剤に溶解させた非水電解液が用いられる。非水電解液を形成する溶質のリチウム塩としては、例えば、LiCLO4,LiBF4,LiPF6,LiAsF6,LiCl,LiBr等の無機リチウム塩、およびLiB(C6H5)4,LiN(SO2CF3)2,LiC(SO2CF3)3,LiOSO2CF3,LiOSO2C2F5,LiOSO2C3F7,LiOSO2C4F9,LiOSO2C5F11,LiOSO2C6F13,LiOSO2C7F15等の有機リチウム塩が使用される。
【0027】
この際に使用される有機溶媒としては、環状エステル類、鎖状エステル類、環状エーテル類、鎖状エーテル類等挙げられる。環状エステル類としては、例えば、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ガンマブチロラクトン、ビニレンカーボネート、2−メチルーガンマブチロラクトン、アセチルーガンマブチロラクトン、ガンマバレロラクトン等挙げられる。
【0028】
鎖状エステル類としては、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルエチルカ−ボネート、プロピオン酸アルキルエステル、マロン酸ジアルキルエステル、酢酸アルキルエステル等が挙げられる。
【0029】
環状エーテル類としては、例えばテトラハイドロキノン、アルキルテトラハイドロフラン、ジアルキルテトラハイドロフラン、アルコキシテトラハイドロフラン、ジアルコキシテトラハイドロフラン、1,3−ジオキソラン、アルキルー1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキソラン等が挙げられる。
鎖状エーテル類としては、例えば、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、ジエチルエーテル、エチレングリコールジアルキルエ−テル、ジエチレングリコールジアルキルエーテル、トリエチレングリコールジアルキルエーテル、テトラエチレングリコールジアルキルエーテル等が挙げられる。
【実施例】
【0030】
当該実施例を説明する。
【実施例1】
【0031】
三菱ガス化学社製キシレン樹脂前駆体ニカノールのレゾール型前駆体を原料として、窒素雰囲気中にて温度650℃にて4時間焼成した。焼成された炭素前駆体をボールミル粉砕機で粉砕し、篩を使用して微粒子を選定しリチウムイオン電池負極活物質の供試材料とした。
【実施例2】
【0032】
電池構造の構成材料を以下とした。これら構成材料で電池を構成し充電放電試験を行った。
負極:炭素前駆体92.4wt%、結着剤:PVDF7.6wt%
溶剤:NMP
対極:リチウム金属
電解液:EC/DEC/LiPF6(1vol/1vol/1モル/L)
分離膜:グラスファイバー
初期充電放電サイクル試験条件
対極に対し0.71mA/cm2の定電流充電放電サイクル試験を行った。
初期充電放電サイクル試験の測定結果から、
放電容量:1040mAh/g, 充電容量:680mAh/gであった。
【実施例3】
【0033】
当該実施例3を説明する。
実施例3 電池構造の構成材料を以下とした。これら構成材料で電池を構成し、充放電試験を行った。
負極:実施例1と同じ650℃焼成の炭素前駆体 85.0wt%、
導電剤:アセチレンブラック 7.0wt%
結着剤:PVDF8.0wt%
溶剤: NMP
対極:リチウム金属
分離膜:グラスファイバー
電解液:EC/DMC/LiPF6(1vol/1vol/1モル/L)
初期充放電サイクル特性試験条件
対極に対し0.71mAh/cm2の定電流充放電サイクル試験を行った。
初期充放電サイクル試験の測定結果から、
放電容量720mAh/g, 充電容量680mAh/gであった。
【発明の効果】
【0034】
市場に供給されている低価格の汎用樹脂原料(キシレン樹脂レゾール型前駆体)を550℃乃至750℃の温度範囲で窒素雰囲気において焼成して得られる重合した炭素前駆体を粉砕し、篩により分級して得られる炭素前駆体粉末は、リチウムイオン二次電池負極材料として極めて高容量である680mAh/gを示した。原料が精製されているために金属等不純物含有量が低減することが出来、目的の炭素材料を製造する温度は、1000℃以下の低温の熱処理工程であり省エネルギーである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キシレン樹脂前駆体を不活性雰囲気で300℃乃至800℃に加熱重合して得られる炭素前駆体を特徴とするリチウムイオン二次電池用電極材料
【請求項2】
キシレン樹脂前駆体を不活性雰囲気で300℃乃至800℃に加熱重合して得られる炭素前駆体を特徴とする電気二重層キャパシター用電極材料
【請求項3】
キシレン樹脂前駆体がレゾール型キシレン樹脂前駆体である請求項1および請求項2
【請求項4】
キシレン樹脂前駆体がノボラック型キシレン樹脂前駆体である請求項1および請求項2
【請求項5】
請求項3のキシレン樹脂前駆体にフェノール類またはロジンまたは脂肪酸または乾性油またはアルキッド樹脂を含有した請求項1および請求項2
【請求項6】
請求項4のキシレン樹脂前駆体にフェノール類またはロジンまたは脂肪酸または乾性油またはアルキッド樹脂を含有した請求項1および請求項2
【請求項7】
請求項1に記載されたリチウムイオン二次電池用電極材料の製造方法
【請求項8】
請求項2に記載された電気二重層キャパシター用電極材料の製造方法

【公開番号】特開2008−66259(P2008−66259A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−274478(P2006−274478)
【出願日】平成18年9月8日(2006.9.8)
【出願人】(502435889)学校法人長崎総合科学大学 (20)
【Fターム(参考)】