説明

電池用セパレータ及びその製造方法ならびにそれからなる電池

【課題】
高温使用時でも収縮せず、単体でもセパレータとしての性能を備えている層を含むセパレータを具備することにより、高温環境下及び高温にさらされた後でも、高い放電性能を保持できるアルカリ一次電池用セパレータを提供する。
【解決手段】
セルロース系ポリマーを含み、繊維直径が10〜1000nmのナノファイバーよりなるシートと、耐アルカリ性繊維で構成された湿式不織布よりなる基材とが積層一体化されているアルカリ電池用セパレータであって、前記セルロースポリマーを含むナノファイバーよりなるシートが以下(1)、(2)を共に満足することを特徴とするアルカリ電池用セパレータ。
(1)ナノファイバーの積層量が0.1〜10.0g/mであること、
(2)アルカリ湿潤状態下150℃で60分処理時にシート形態を保持し、かつ収縮率が5%以下であること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリマンガン電池、水銀電池、酸化銀電池、空気亜鉛電池等のアルカリ一次電池に好適な耐熱性のある電池用セパレータ、及びその製造方法、ならびに該電池用セパレータを具備してなるアルカリ一次電池に関するものであり、さらに詳細には耐アルカリ性繊維を含む湿式不織布に、特定のナノレベルの耐熱性を有する超極細繊維を積層させたアルカリ一次電池用セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯用オーディオ、携帯用ビデオ、携帯電話等、ポータブル機器の需要の伸びが著しく、また、ポータブル機器の小型化が進んでいる。アルカリ電池は高信頼性が期待でき、小型軽量化が可能なので、各種ポータブル用機器に広く使われるようになってきている。ポータブル機器を小型化するには、機器を形成する各素子を高密度に実装する必要があり、そのため、各素子の熱を放熱しきれず、機器内部が高温となり、電池の使用環境も高温になりやすい状況となる。
【0003】
また、上記した機器は今後更に多機能化されることが予想され、それに伴い機器の消費電力の増大も予想される。そうするとアルカリ電池は、理論電圧が低いので単一セルでは電圧が不足し、直列に複数のセルを組み合わせて使用することが多い。その場合、電池をまとめて一つのケースに納めることが多く、放熱が非常にしにくい構造となり、電池の環境温度が高くなることに拍車をかける。
【0004】
一般にアルカリ一次電池には、正極活物質と負極活物質を隔離するためセパレータが用いられている。このセパレータには、
(1)正極活物質と負極活物質の内部短絡を防止すること、
(2)十分な起電反応を生じさせるために高い電解液吸液性を有し、イオン伝導性が良好で電気抵抗が低いこと、
(3)電池内部に組み込まれた際の占有率が小さく、正極活物質・負極活物質等の量を増やせる(電池使用可能時間を長くできる)こと、
などの様々な性能が要求される。
また近年は前記のように、過酷な環境下での使用も増加してきている。過酷な環境下として想定されるのが高温時であり、電池内部温度が100℃以上に上昇する場合もある。この様な場合、(4)として、セパレータ自体への耐熱性が必要となってくる。
【0005】
一般的な電池としての性能を改良する技術としては、セパレータとしての基本性能である耐薬品性、親水性、機械的性能等に優れるポリビニルアルコール系繊維を用い、さらに電解液吸液性等を高めるためにセルロース系繊維等を併用した電池用セパレータが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。また正極活物質と負極活物質との内部短絡を防止するために、耐アルカリ性繊維として、ポリビニルアルコール系繊維とセルロース系繊維を叩解し、繊維密度の高い緻密層と密度の低い保液層(粗層)を組み合せた二層構造の電池用セパレータが提案されている(例えば、特許文献2参照。)。しかしながら、特許文献1、2においては一般的な使用条件でのアルカリ電池としての基本性能は向上しているが、ポータブル機器等に求められる性能を得るためには十分ではない。また、耐熱性の面でも、構成されている繊維が湿熱高温時に耐えられず収縮もしくは溶けてしまうため、特許文献1、2によるセパレータでは、正極・負極活物質を隔離することができず、結果として電池からの電力の供給が停止してしまう。さらに悪いケースとしては、極材が短絡することにより、異常発熱が発生し電池自体の崩壊による周囲への強アルカリ電解液による汚染も発生する場合がある。
【0006】
上記の問題を回避すべく、非水系のリチウム電池等では、耐熱性の芳香族ポリアミドからなる多孔フィルムや繊維等で種々検討されている(例えば、特許文献3〜4参照。)。しかし、本発明でのターゲットであるアルカリ電池への使用では、耐熱性は優れるものの、アルカリの保液性が劣り、通常の電池としての性能を十分に得ることはできない。
【0007】
また、層状粘土鉱物を0.01重量%以上の割合で含有するポリビニルアルコール繊維を使用することにより、アルカリ電池用セパレータの耐熱性を向上させる試みがなされている(例えば、特許文献5参照。)。しかし、ポリビニルアルコール繊維のみの耐熱性改善では不十分であり、電池性能に必要な保液性を確保する場合、結果として、吸液性の高い繊維の使用が必須となり、併用した繊維の耐熱性まで確保できないため、耐熱性としては不十分となってしまう。
【0008】
一方、紙または不織布とセロファンフィルムを併用したものが採用されている。しかし、該セパレータは吸液性能に劣り、吸液量を確保するには紙基材を多くする必要がある。そのため、電池内部でのセパレータの占有率が増え、正極・負極活物質の量が制限され、さらにセロファンフィルムを使用すること、及び紙基材を多くしたことによって極間距離が長くなり、内部抵抗の上昇を招き、結果的に大容量の放電性能が得られなくなるという問題があった。
【0009】
さらには、ナノレベルの繊維を用いた電池用セパレータも提案されている(例えば、特許文献6〜7参照。)。しかし、特許文献6、7のようにナノレベルの繊維によりデンドライトに起因した内部短絡防止には効果を発揮するものの、繊維の微細な毛管現象による電解液の保持にのみ依存し繊維自体が液を保持しておらず、また積層させる基材についても電解液の保持に特化したものではない。そのため放電末期になると液枯れが発生しやすく、結果的に使用期間が短くなるという問題があった。
【0010】
【特許文献1】特開平6−163024号公報
【特許文献2】特開平10−092411号公報
【特許文献3】特開昭59−14494号公報
【特許文献4】特開2001−23600号公報
【特許文献5】特開平9−320564号公報
【特許文献6】特開2005−264420号公報
【特許文献7】特開2006−244804号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、上記したような問題点を鑑み、高温使用時でも収縮せず、単体でもセパレータとしての性能を備えている層を含むセパレータを具備することにより、高温環境下及び高温にさらされた後でも、高い放電性能を保持できるアルカリ一次電池用セパレータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、耐アルカリ性繊維を用いた湿式不織布に、一定の剥離強力を保持したアルカリ湿潤下で耐熱性の高いセルロース系ポリマーをナノレベルまで細くした繊維状物を積層させることにより、高温時及び高温環境後の使用でもセルロース系ナノファイバーが層として存在しているので、基材層の形態が変化しても吸液層として機能するため性能低下がなく、さらにナノレベルの微細孔化及びセルロース系ポリマーの高吸液により、現行のアルカリ電池セパレータ以上の性能を発揮することが可能であり、かつ基材としても耐アルカリ性があり、吸液性が高い繊維で構成することにより放電末期の電池性能低下を抑制できることを見出した。
【0013】
すなわち本発明は、セルロース系ポリマーを含み、繊維直径が10〜1000nmのナノファイバーよりなるシートと、耐アルカリ性繊維で構成された湿式不織布よりなる基材とが積層一体化されているアルカリ電池用セパレータであって、前記セルロースポリマーを含むナノファイバーよりなるシートが以下(1)、(2)を共に満足することを特徴とするアルカリ電池用セパレータである。
(1)ナノファイバーの積層量(坪量)が0.1〜10.0g/mであること、
(2)アルカリ湿潤状態下150℃で60分処理時にシート形態を保持し、かつ収縮率が5.0%以下であること。
【0014】
そして本発明は、好ましくはセルロース系ポリマーを含むナノファイバーよりなるシートの35%KOH水溶液含浸時の繊維分吸液量が2.0〜20.0g/gである上記のアルカリ電池用セパレータであり、より好ましくはセルロース系ポリマーを含むナノファイバーシートと耐アルカリ性繊維で構成された湿式不織布よりなる基材との剥離強力が0.1〜10.0g/10mmである上記のアルカリ電池用セパレータである。
【0015】
さらに本発明は、好ましくはセルロース系ナノファイバーがセルロースを溶剤に直接溶解させた紡糸原液により紡糸されたセルロース繊維であるか、あるいは溶剤にセルロース誘導体を溶解させた紡糸原液により紡糸されたセルロース誘導体繊維である上記のアルカリ電池用セパレータである。
【0016】
また本発明は、基材を構成する耐アルカリ性繊維の一部が有機溶剤系セルロース系繊維、天然セルロース系繊維もしくはそのマーセル化処理品、あるいはポリビニルアルコール系繊維である上記のアルカリ電池用セパレータである。
【0017】
そして本発明は積層一体化されたシートの通気度が0.1〜10cc/cm/sec、かつ35%KOH水溶液含浸時の繊維分吸液量が1.0〜3.0g/gである上記のアルカリ電池用セパレータである。
【0018】
また本発明は、(A)ポリマーを溶解させることのできる溶媒にポリマーを溶解させた溶解液を調製する工程、(B)前記溶解液を用いて静電紡糸法によりナノファイバーを基材布帛に積層乃至は複合する工程、を備えていることを特徴とする上記のアルカリ電池用セパレータである。
そして本発明は、上記のアルカリ電池用セパレータを使用した電池である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、高温時での性能低下を回避でき、さらに電解液の吸液性を高め、電解液を長時間保持し、デンドライトの成長を抑制することで内部短絡を防止し、セパレータ自身の電気抵抗も低く、電解液吸液後の厚さを抑制することで電池内の正・負極合剤の容量も増やすことを可能とした電池用セパレータを得ることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明について詳細に説明する。
電池用セパレータにおいて、内部短絡防止のためには、きめ細かい空隙を有することが重要である。この空隙を実現するための繊維径としては、直径が10〜1000nm、好ましくは30〜800nm、さらに好ましくは100〜500nmのナノファイバーを基材に積層させる。直径が1000nmより大きな繊維では、繊維間の空隙も大きくなり、内部短絡防止の効果が著しく低下してしまう。繊維径が小さいほど空隙が小さくなるのでより好ましいが、10nm以下であると空隙が小さすぎて内部抵抗が上昇し、逆に電池性能を低下させてしまう。
なお、本発明における繊維径とは、5000倍で撮影した繊維集合体の電子顕微鏡写真から得られる繊維の横断面における直径を意味し、無作為に50本抽出してその繊維径を定規で計測した数値により算出した平均値である。
【0021】
本発明のナノファイバーを構成するポリマーは、アルカリ湿潤下での耐熱性の点及び電池反応時のイオンが移動するために必要な電解液の保液性の点からセルロース系ポリマーであることが重要である。
本発明にて用いられるセルロース系ポリマーを含むナノファイバーはアルカリ湿潤下での高温時において寸法安定性に優れ、電解液の保液性の指標である繊維分吸液量も良好なものとなる。セルロース系ポリマーを含むナノファイバー層の形態変化挙動の判断として、耐圧密閉容器内に電池に使用される電解液に近いアルカリ条件で150℃×60分処理後の形態変化及び面積収縮率で判断できる。
前記アルカリ処理後のセルロース層の面積収縮率は5.0%以下であることが必要であり、好ましくは3.0%以下−5.0%以上である。5.0%よりも収縮が大きいと正極と負極の隔離が不十分となり短絡してしまう可能性が高くなってしまう。逆に伸張方向である−5.0%より大きくなると、ナノファーバー層に目付ムラが発生し、遮蔽性を確保できず、短絡を発生してしまう可能性がある。
【0022】
本発明のセルロース系ナノファイバーを構成するセルロースの重合度は特に制限されないが、100〜2000であることが望ましい。本発明にいうセルロースの重合度はJIS P−8101−1994に準拠して王研式粘度計を用いて測定される平均重合度である。重合度が100未満であるとナノファイバーの強度が不足し、シート表面からナノファイバーが脱落しやすくなる。また、重合度が2000を超えると溶媒への溶解が不均一になるばかりでなく、粘度が高すぎるため均一なナノファイバーの作成が困難となってしまう。
【0023】
本発明のセルロース系ナノファイバーは、セルロース系ポリマーを直接溶剤に溶解させた紡糸原液を用いたり、あるいはセルロース誘導体を溶解させた紡糸原液を用いて、後述する紡糸方法により製造することができる。このときナノファイバー化の紡糸原液として使用する溶剤は、溶解機構によってセルロースが誘導体を形成して溶解し、それらが分解することによりセルロースが再生する手法であっても、誘導体を形成せずに溶解し紡糸原液として使用できる手法でも同様に作成できる。
【0024】
セルロース系ポリマーを溶解させた紡糸原液を用いてナノファイバーを製造する方法としては、直接セルロースを溶媒に溶解し紡糸原液とするが、溶媒としてはとしてはN−メチルモルホリン−N−オキサイドを使用する手法や、塩化リチウム/N,N−ジメチルアセトアミドを使用する手法や、セルロースを物理処理したものを水酸化ナトリウムに溶解する手法などででも同様にナノファイバー化したセルロースを得ることができる。
【0025】
一方、セルロース誘導体を溶解させた紡糸原液を用いてナノファイバーを製造する方法としては、セルロース付加化合物であるアルカリセルロース、銅アンモニアセルロースや、セルロースエステルである硝酸セルロース、酢酸セルロース、酢酸−プロピオン酸セルロース、酢酸−酪酸セルロース、セルロ−スキサントゲン酸塩や、セルロースエーテルであるメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースを使用し、各誘導体に適した溶媒に溶解後、セルロース誘導体ナノファイバーを得る手法が挙げられる。このうちセルロースエステルは、そのままであるとアルカリ電解液中で鹸化され、電解液中に遊離酸が生じて不純物となるため、電池に組み込むまでにアルカリ鹸化を施しセルロースとすればよい。これらセルロース誘導体の重合度、置換度は特に制限されず、どれも好適に使用できる。
【0026】
セルロース誘導体としては、セルロース付加化合物であるアルカリセルロース、銅アンモニアセルロースや、セルロースエステルである硝酸セルロース、酢酸セルロース、酢酸−プロピオン酸セルロース、酢酸−酪酸セルロース、セルロ−スキサントゲン酸塩や、セルロースエーテルであるメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースを使用し、各誘導体に適した溶媒に溶解後、セルロース誘導体ナノファイバーを得る手法が挙げられる。このうちセルロースエステルは、そのままであるとアルカリ電解液中で鹸化され、電解液中に遊離酸が生じて不純物となるため、電池に組み込むまでにアルカリ鹸化を施しセルロースとすればよい。これらセルロース誘導体の重合度、置換度は特に制限されず、どれも好適に使用できる。
【0027】
また、本発明の効果を損なわない範囲であれば、繊維にセルロース系ポリマー以外のポリマーや他の添加剤を含んでいてもよいが、繊維性能等の点からはセルロース系ポリマーの含有量を30質量%以上/繊維、特に50質量%以上/繊維とするのが好ましい。
【0028】
次に本発明のナノファイバーの製造方法について説明する。まず、セルロース系ポリマーを溶解させることのできる溶媒に溶解させた溶解液を調製する。溶媒としては、水に有機溶剤、アルカリ、酸を加えたもの、あるいは有機溶剤を用い、これにセルロース系ポリマーを溶解し、均一に粒状ゲル物を無くして溶解したものを紡糸原液とする。
次に上記紡糸原液を用いて、静電紡糸法によりセルロース系繊維を基材布帛に積層ないしは複合することが好ましい。静電紡糸の方法としては特に制限はなく、紡糸原液を供給できる導電性部材に高電圧を印加することで、接地した対極側にナノファイバーを堆積させる方法をとることが好ましい。この方法により、原液供給部から吐出された紡糸原液が帯電分裂され、ついで電場により液滴の一点からファイバーが連続的に引き出され、分割された繊維が多数拡散する。セルロース系ポリマーの濃度が10%以下であっても、溶媒は繊維形成と細化の段階で乾燥しやすく、原液供給部より数cm〜数十cm離れた、設置された捕集ベルトあるいはシートに堆積する。堆積と共に半乾燥繊維は微膠着し、繊維間の移動を防止し、新たな微細繊維が逐次堆積し、緻密なシートが得られる。
【0029】
以下、図1に示す装置により、本発明のナノファイバー複合方法を簡単に説明する。図1において、セルロース系ポリマーを溶解した紡糸原液は、定量ポンプ1より計量送液され、分配整流ブロック2により均一な圧力と液量となるように分配され口金部3に送られる。口金部では中空針状の1ホール毎に突出させた口金4が取付けられ、電気絶縁部5によって電気が口金部3全体に洩れるのを防止している。導電材料で作られた突出した口金4は無端コンベアからなる形成シート引取り装置7の進行方向に直角方向に多数並列に垂直下向きに取付けられ、直流高電圧発生電源の一方の出力端子を該突出した口金4に取付け、各突出口金4は導線により印加を可能にしている。形成シート引取り装置の無端コンベアにはアースをとった導電性部材8が取付けられ、印加された電位が中和できるようになっている。口金部3より突出口金4に圧送された紡糸原液は帯電分裂され、次いで電場により液滴の1点からファイバーが連続的に引き出され分割された繊維が多数拡散し、半乾燥の状態で形成シート引取り装置7に取付けられた導電性部材上に堆積し、該膠着が進行し、シートと引取り装置により移動され、その移動と共に次の突出口金の微細繊維の堆積を受け、次々と堆積を繰り返しながら緻密かつ均一なシート状物が形成される。
なお、このとき製造されるナノファイバーの繊維径はセルロース系ポリマーの原液濃度、口金4と形成シート引取り装置7との間の距離(極間距離)、口金4に印加される電圧等の条件により所定の繊維径に制御することができる。
【0030】
次に本発明でナノファイバーと積層させる基材について説明する。基材としては、耐アルカリ性に優れる合成繊維および/またはフィブリル化可能な耐アルカリ性セルロース繊維を用いて、湿式法にて抄造された不織布であることが必要である。耐アルカリ性に優れる合成繊維としては、PVA系繊維、エチレンービニルアルコール系共重合体繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリアミド繊維、ポリプロピレン/ポリエチレン複合繊維、ポリプロピレン/エチレンービニルアルコール系共重合体複合繊維、ポリアミド/変性ポリアミド複合繊維から選択された1種又は複数のものを使用することができる。中でも電解液との親和性(濡れ性)に優れるPVA系繊維を主体繊維および/またはバインダー繊維に使用することが好ましい。
【0031】
本発明において、PVA系繊維を主体繊維として使用する場合には、水中溶解温度90℃以上、特に100℃以上の繊維であることが好ましく、具体的には平均重合度1000〜5000、ケン化度95モル%以上のビニルアルコール系ポリマーからなる繊維が好適に挙げられる。該ビニルアルコール系ポリマーは他の共重合成分により共重合されていてもかまわない。耐水性等の点から共重合量は20モル%以下であることが好ましく、特に10モル%以下であることがより好ましい。また、アセタール化等の処理が施されていてもかまわない。
【0032】
該PVA系繊維はビニルアルコール系ポリマーのみから構成されている必要はなく、他のポリマーを含んでいても構わないし、他のポリマーとの複合紡糸繊維、混合紡糸繊維(海島繊維)であっても構わない。電解液吸液性の点からはビニルアルコール系ポリマーを30質量%以上、特に50質量%以上、さらには80質量%以上含むPVA繊維を用いることが好ましい。該繊維の繊度は、セパレート性、薄型化の点から3.3dtex以下、特に1.5dtex以下であるのが好ましく、抄紙性の点から0.01dtex以上、さらに0.07dtex以上であるのが好ましい。
繊維長は単繊維繊度に応じて適宜設定すればよいが、抄紙性等の点から繊維長0.5〜10mm、特に1〜5mmとするのが好ましい。
【0033】
本発明の電池用セパレータを構成する不織布に使用する耐アルカリ性セルロース繊維としては、レーヨン繊維(ポリノジックレーヨン繊維、有機溶剤系セルロース繊維を含む)、アセテート系繊維、マーセル化天然パルプ(木材パルプ、コットンリンターパルプ、麻パルプ等)が挙げられる。
これらはフィブリル化も可能であり、1種あるいは2種以上を水に分散させ、ビーター、ディスクリファイナー、あるいは高速叩解機等の製紙用叩解機で所定の濾水度まで叩解しても使用することができる。フィブリル化して耐アルカリ性セルロース繊維を用いる場合は、叩解の程度がCSFの値で0〜700ml、好ましくは0〜550mlの範囲とし、該フィブリル化可能な耐アルカリ性セルロース繊維の配合量を0〜70質量%、さらには20〜60質量%の範囲とすることが好ましい。耐アルカリ性セルロース繊維の含有量が70質量%を越えると、セパレータのコシ強力が弱くなり、電池の搬送や携帯時の振動・落下による衝撃によってセパレータ自体が座屈し、内部短絡を生じる恐れがある。なお、ここでいう濾水度とは、CSF(カナダ標準形濾水度;Canadian Standard Freeness)で、JIS P8121に規定のカナダ標準形の方法で測定した値である。
【0034】
本発明に用いるバインダーとしては、耐アルカリ性、電解液吸液性の点からPVA系バインダーが用いられる。形態としては、繊維状、粉末状、溶液状のものがあるが、湿式抄造によってセパレータを抄造する場合は、繊維状バインダーであることが好ましい。繊維状バインダーを用いた場合は、乾燥前の持ち込み水分をコントロールすることにより、バインダーを完全に溶解させず、繊維形態を残したままバインダー繊維と主体繊維の交点のみを点接着させることができるため、電解液吸液性の低下、電池内部抵抗の上昇を招くことなくセパレータの強力を保持することができるので、繊維状バインダーを使用することが好ましい。
【0035】
繊維状バインダーとして、PVA系バインダー繊維を用いる場合、その水中溶解温度としては60〜90℃であることが好ましく、より好ましくは70〜90℃の範囲であることが好ましい。
また平均重合度は500〜3000、ケン化度97〜99モル%のPVA系ポリマーから構成された繊維が好適に使用される。勿論、他のポリマーとの複合紡糸繊維、混合紡糸繊維(海島繊維)であっても構わない。電解液吸液性、機械的性能等の点からはビニルアルコール系ポリマーを30質量%以上、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上含むPVA系バインダー繊維を用いることが好ましい。繊度は水分散性、他成分との接着性、ポアサイズ等の点から0.01〜3dtexであるのが好ましく、繊維長は1〜5mmであるのが好ましい。勿論、上記繊維以外の他の繊維を配合しても構わない。またバインダー繊維の配合量は5〜30質量%であることが好ましい。バインダー繊維の配合量が5質量%未満の場合、電池組立工程に必要なセパレータの引張強力が得られない。一方、30質量%を越える場合には、電解液吸液性が劣ったり、不織布内の繊維間の細孔を塞ぐため電気抵抗を上昇させる等の問題が生じるため好ましくない。
【0036】
次に本発明の電池用セパレータに使用する不織布の製造方法について説明する。上記した耐アルカリ性合成繊維および/またはフィブリル化可能な耐アルカリ性セルロース繊維を所定の濾水度に叩解し、これに耐アルカリ性繊維およびPVA系繊維のバインダーを添加混合して原料としたものを用いて、湿式法にて不織布化することにより本発明の電池用セパレータに使用する不織布が得られる。湿式法での不織布化については特に限定されないが、例えば一般の湿式抄紙機を用いることにより効率的に所望の不織布を製造することができる。用いる抄き網としては、円網、短網、及び長網等が挙げられ、通常の抄紙方法で抄紙することができる。また場合によっては、異種の網を組み合せ、抄紙しても構わない。その後、湿式法にて得られた不織布を接触型(例えば、ヤンキー型)乾燥機で乾燥させ、本発明の電池用セパレータに使用する不織布を得る。
【0037】
次いで得られた不織布に、前記したナノファイバーを積層する。積層させる量は、坪量0.1〜10.0g/mであることが必要であり、0.2〜5.0g/mの範囲で積層することが好ましい。該ナノファイバーの積層量が坪量0.1g/m未満であると、針状のデンドライトによる内部短絡を十分に防止することができなくなる。逆にナノファイバーの積層量が坪量10.0g/mを越えると、セパレータ自体のインピーダンス(抵抗値)が高くなり、電池性能が劣る。また電解液吸液後のセパレータが厚くなり、電池内部でのセパレータの占有率が多くなるため、正・負極剤の容量が制限されることで、重放電の放電性能が得られなくなる。また、上記セパレータは必要に応じて熱プレスまたは冷間プレスによって目的とする厚さに調整することも可能である。
【0038】
本発明の積層一体化されたシートからなるアルカリ電池用セパレータにおいて、デンドライトによる内部短絡がより高度に防止できる空隙範囲の指標として、通気度が0.1〜10.0cc/cm/secであることが好ましく、より好ましくは1.0〜5.0cc/cm/secである。通気度が10.0cc/cm/secより大きいと空隙が大きくなりすぎ、酸化亜鉛の針状のデンドライトによる内部短絡を防止することができなく、電池性能および電池寿命の低下を防止することができず、0.1cc/cm/sec未満の場合は、イオンの通過性が悪く内部抵抗が上昇してしまい、電池性能を満足させることができない。
【0039】
本発明に使用する基材については、ナノファイバー層が遮蔽性を確保するため、吸液性さえ損なわなければよく、高温下でシート形態を保持できなくても、或いは収縮してしまったとしてもかまわない。よって、セルロース層と基材との剥離強力が好ましくは0.1〜10.0g/10mm、より好ましくは1.0g〜5.0g/10mmであると、基材の収縮時にセルロース層がついていかず、セルロース層のみで隔離が可能となる。剥離強力が0.1g/10mm以下であると電池組み立て時に層間剥離を起こし、電池としての組み立てが困難になってしまう。一方10.0g/10mm以上であると、基材の収縮に追随してしまい、正極と負極の隔離が不十分となってしまう。
基材部分のみ収縮したとしても、セルロース層で隔離は可能であり、電解液の保持についても、セルロース層の保液性の高さにより、基材部分で保持している電解液の移動により十分賄えられる。
【0040】
また、本発明の積層一体化されたシートからなるアルカリ電池用セパレータは、繊維自体が高い吸液性を有する点も大きな特長である。電池寿命の向上はシートを構成している繊維自体の吸液性能に左右される。仮にシート自体の保液量が高くても、繊維自体が保持していない場合は、部分的な液枯れが発生しやすく、その部分が内部短絡の原因となる。この指標は35%KOH水溶液含浸時の繊維分吸液量で判断できる。具体的には該繊維分吸液量は1.0〜3.0g/gであることが好ましく、より好ましくは1.2〜2.0g/gである。該繊維分吸液量が1.0g/g未満であると、シートを構成している繊維の吸液量が不足し、液枯れによる電池寿命の低下を生じやすい。逆に該繊維分吸液量が3.0g/gを越えると、吸液後の厚みが厚くなり、極材の量が制限されてしまうため、結果として電池性能を低下させてしまう。
【0041】
積層シート全体での繊維分吸液量も影響が大きいが、ナノファイバー層自体の繊維分吸液量も電池性能に大きく影響する。35%KOH水溶液含浸時の繊維分吸液量としては2.0〜20.0g/gであることが好ましく、より好ましくは4.0〜15.0g/gである。2.0g/g未満であるとナノファイバー層自体が保持している電解液の液枯れが発生し、内部抵抗上昇の原因となってしまう。一方、20.0g/gよりも大きいと、繊維の膨潤が大きすぎ、結果としてシートの空隙を塞いでしまい、内部抵抗が上昇し、十分な電池性能が得られなくなってしまう。
【0042】
上記したように、電池を高性能化および長寿命化するためには、正・負極剤の容量を増やし、セパレータの占有率を少なくすることが好ましく、具体的にはセパレータの電解液吸液後の厚さは0.08〜0.30mmであることが好ましく、0.08〜0.25mmであることが好ましい。
また、十分な起電反応を生じさせるために、イオン伝導性が良好でセパレータ自身のインピーダンスの小さいものが好ましい。電池寿命の基準として、特に液切れ状態時の電気抵抗値を3.5Ω以下とすることが好ましく、特に0.5〜3.0Ωとすることがより好ましい。
【0043】
本発明のアルカリ電池用セパレータを用いることで、強負荷放電性能にも耐えうる高性能を有し、かつ長寿命であるアルカリ電池を得ることができる。アルカリ電池内のセパレータ形状は特に制限されず、クロストリップ(十字構造有底円筒状セパレータ)、ラウンドストリップ(筒捲円筒状セパレータ)、スパイラル(螺旋捲き構造セパレータ)等が挙げられる。特に、本発明のアルカリ電池用セパレータをアルカリ電池に組み込む際には、ナノファイバー面が正極側に面するように配置することが好ましい。
【0044】
該アルカリ電池を構成する極剤は、負極活物質として酸化亜鉛、電解液として40質量%の水酸化カリウム水溶液、ゲル化剤、亜鉛粉末から構成されるゲル状物を用いることができる。亜鉛粉末は、水銀、カドミウム、鉛が添加されていないものを使用することが望ましい。特に該亜鉛粉末中にビスマス、インジウム、カルシウムおよびアルミニウムから選ばれた少なくとも一種を含有した亜鉛合金粉末が好適に使用される。一方、正極には二酸化マンガンと黒鉛を主構成材料とした正極合剤を用いることができる。また、強負荷放電性能に優れるアルカリ電池に優れるアルカリ電池に使用されているオキシ水酸化ニッケルを含有させた正極合剤を使用することが好ましい。なお、強負荷放電特性とその保存性能の優位性を確保する観点から、二酸化マンガンとオキシ水酸化ニッケルのより好ましい含有比率は、二酸化マンガン:オキシ水酸化ニッケル=80:20〜40:60(質量部)である。
【0045】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により何等限定されるものではない。なお以下の実施例において、各物性値は以下の方法により測定したものである。
【0046】
[水中溶解温度 ℃]
400ccの水(20℃)に試料繊維を2.6g投入し、昇温速度1℃/分、攪拌速度280rpmの条件で攪拌しながら昇温して、繊維が完全に溶解したときの温度を水中溶解温度として測定した。
【0047】
[濾水度(CSF) ml]
JIS P8121「パルプの濾水度試験方法」に準じてカナダ標準濾水度を測定した。
[坪量 g/m
JIS P8124「紙のメートル坪量測定方法」に準じて測定した。
【0048】
[厚さ mm]
得られたセパレータの5ヶ所を標準環境下(20℃×65%RH)に4時間以上放置した後、PEACOCK Dial−Thickness Gauge H Type(φ10mm×180g/cm)にて測定した。
【0049】
[剥離強力 g/10mm]
長さ100mm×巾10mmの試料を長さ方向に50mmまで2層を剥離させ、引張試験機(インストン社製)により剥離時の荷重を測定し、その波形の平均値を剥離強力とした。
【0050】
[アルカリ湿潤下における面積収縮率 %]
50mm×50mmの試料を、50メッシュのステンレス製金網に挟み、反転式高速染色機(東亜精機製)の耐圧容器にKOH35%水溶液100mlと一緒に投入し、150℃で60分加熱後、取り出した試料の縦と横の収縮率を測定し、面積収縮率を求めた。
【0051】
[通気度 cc/cm/sec]
フラジール通気度試験機(東洋精機製作所製)にて測定した。
[繊維分吸液量 g/g]
50mm×50mmの試料を35%KOH水溶液(20℃)に浴比1:100の条件で30分浸漬し、30秒間自然液切りした後、遠心脱水(3,000rpm×10分)後の質量を測定して、下記の式により算出した。
繊維分吸液量(g/g)=(W2−W1)/W1
W1=試料の質量 W2=遠心脱水後の質量
※ナノファイバー層の繊維分吸液量については、基材の繊維分吸液量を求め、積層シートより減じることにより算出した。
【0052】
[インピーダンス(抵抗値) Ω]
試料を上記トータル吸液量、及び繊維分吸液量測定時と同じ方法で、35%KOH水溶液(20℃)に30分浸漬し、保液十分な状態(30秒液切りした状態)と、同一試料を遠心脱水(3,000rpm×10分)後の液切れ状態とし、20℃×65%RHの測定雰囲気下にてインピーダンス測定器(国洋電気工業社製「KC−547 LCR METER」)で厚さを一定(0.100mm)にして測定した。
【0053】
[電池性能評価]
電池性能評価方法として、単三サイズのアルカリ乾電池を作製し、その組立直後、および高温保存(80℃で3日間保存)後における放電性能を比較した。放電性能は、環境温度20℃において、3.9Ω負荷で1日5分間ずつの間欠放電したときに終止電圧0.9Vに至るまでの放電時間で評価した。セパレータを組込み、正極剤に二酸化マンガンと黒鉛混合物を使用したアルカリ電池について性能を評価したものは、比較例5で得られた電池における組立直後および高温保存後での放電時間をそれぞれ100としたときの相対値で示した。組立直後および高温保存後での放電時間の相対値が100以上であれば長寿命かつ内部短絡せず、耐酸化劣化していないと判断し、100以上105未満であれば○、105以上であれば◎、また100未満では×と判断した。
なお、電池作製方法は実施例1にて詳細に記述する。
【0054】
[実施例1]
(1)PVA系主体繊維(株式会社クラレ製「VPB102×5」;1.1dtex×5mm)35質量%、PVA系バインダー繊維(株式会社クラレ製「VPB105−1」;1.1dtex×3mm、水中溶解温度70℃)15質量%、マーセル化LBKP(広葉樹系パルプ)50質量%を加えて混合して原料とし、これを長網抄紙機にて抄紙し、ヤンキー型乾燥機にて乾燥して坪量36.0g/m、厚さ0.12mmの湿式不織布基材を得た。
(2)次にナノファイバー層を形成する。まず溶解槽にあらかじめ開繊したパルプ(ウエスタンパルプ、重合度DP=621、ALICELL社製)を入れ、80℃に加熱して1時間放置した。またこれとは別に90℃に加熱したN−メチルモルホリン−N−オキサイド水和物液に溶液安定剤として没食子酸−n−プロピルをパルプに対して0.25重量%及び界面活性剤としてラウリル硫酸ナトリウムを0.25重量%となる割合で添加し、攪拌溶解した溶液を調整した。次いで該溶液を上記溶解槽内の加熱されたパルプに振りかけ、溶解槽の蓋をして窒素置換を行い、30分間放置してパルプを十分に膨潤させ、溶解槽設置の攪拌機で1時間攪拌してパルプを完全に溶解させた。その後溶解槽の温度を100℃に昇温し、攪拌を停止して4時間放置し十分に脱泡を行い、紡糸原液を作成した。
得られた紡糸原液を用い、図1の紡糸装置にて静電紡糸を行った。口金4として内径が0.9mmのニードルを使用した。また、口金4と形成シート引取り装置7との間の距離(極間距離)は8cmとした。さらに、形成シート引取り装置7に前記(1)で得られた湿式不織布基材を巻き付けた。次いでコンベア速度0.1m/分、原液を所定の供給量で口金から押し出し、口金に20kV印加電圧を与えてシリンダー上の不織布上に繊維径が250nmのナノファイバーを坪量で1.0g/mになるよう積層させた。得られた積層シートの性能を表1に示す。
【0055】
(3)さらに電池評価のために、二酸化マンガン94.3質量%、黒鉛粉末4.8質量%、および電解液である40質量%のKOH水溶液0.93質量%からなる正極剤をミキサーで均一に混合した。なお、二酸化マンガンは粒径20〜50μm、黒鉛粉末は粒径10〜25μmの範囲のものを分級した。次いで、上記方法で調製した正極剤を短筒状のペレットに圧縮成型した。
(4)一方、負極合剤としては、ゲル化剤であるポリアクリル酸ナトリウム1質量%、40質量%のKOH水溶液33質量%、亜鉛合金粉末66質量%、さらにケイ素元素濃度が亜鉛粉末に対して50ppmになるようにケイ酸カリウムを添加したゲル状の負極剤を用いた。なお、亜鉛合金粉末として、亜鉛粉末に対しビスマスを200質量%、インジウムを500質量%、およびアルミニウムを30質量%添加したものを用いた。
(5)得られた正極合剤ペレット、ゲル状負極合剤、および得られたセパレータと底紙(株式会社クラレ製「CSBI」)を用いて、セパレータがラウンドストリップ(筒捲円筒状セパレータ)型構造となるように電池を組み立て、放電テストを実施した。結果を表1に示す。
【0056】
[実施例2]
ナノファイバー製造用セルロース系ポリマーの原液濃度を11質量%、図1における口金4と形成シート引取り装置7との間の距離(極間距離)を7cmに変更すること以外は実施例1と同様の条件によりシートを得た。得られた積層シートの性能および電池性能評価結果を表1に示す。
【0057】
[実施例3]
ナノファイバー積層量を0.2g/mに変更すること以外は実施例1と同様の条件によりシートを得た。得られた積層シートの性能および電池性能評価結果を表1に示す。
【0058】
[実施例4]
ナノファイバー積層量を4.8g/mに変更すること以外は実施例1と同様の条件によりシートを得た。得られた積層シートの性能および電池性能評価結果を表1に示す。
【0059】
[実施例5]
PVA系主体繊維(株式会社クラレ製「VPB102×5」;1.1dtex×5mm)35質量%、有機溶剤系レーヨン繊維(レンチング社製「テンセル」;1.7dtex×2mm50質量%、PVA系バインダー繊維(株式会社クラレ製「VPB105−1×3」;1.1dtex×3mm、水中溶解温度70℃)15質量%とを混合して原料とし、これを短網−円網にて2層抄き合せを行い、ヤンキー型乾燥機にて乾燥し、坪量36.0g/m、厚さ0.12mmの湿式不織布基材を得た。
上記以外は実施例1と同様に条件によりシートを得た。得られた積層シートの性能および電池性能評価結果を表1に示す。
【0060】
[実施例6]
ナノファイバー製造用セルロース系ポリマーを酢酸セルロース(セルロースジアセテート、和光純薬製)を10質量%となるようにDMF中に投入し溶解し紡糸原液とすること以外は実施例1と同様の条件によりシートを得、更に1規定NaOHメタノール溶液中で50℃下30分浸漬することで、酢酸セルロースをアルカリ鹸化してセルロースナノファイバーとした。得られた積層シートの性能および電池性能評価結果を表1に示す。
【0061】
[実施例7]
ナノファイバー製造用セルロース系ポリマーの原液濃度を12質量%、図1における口金4と形成シート引取り装置7との間の距離(極間距離)を7cmに変更すること以外は実施例1と同様の条件によりシートを得た。得られた積層シートの性能および電池性能評価結果を表2に示す。
【0062】
[実施例8]
ナノファイバー製造用PVA系ポリマーの原液濃度を7質量%、図1における口金4と形成シート引取り装置7との間の距離(極間距離)を10cm、電圧を22kVに変更すること以外は実施例1と同様の条件によりシートを得た。得られた積層シートの性能および電池性能評価結果を表2に示す。
【0063】
[実施例9]
PVA系主体繊維(株式会社クラレ製「VPB102×5」;1.1dtex×5mm)35質量%、LBKP(広葉樹系パルプ)50質量%、PVA系バインダー繊維(株式会社クラレ製「VPB105−1×3」;1.1dtex×3mm、水中溶解温度70℃)15質量%とを混合して原料とし、これを短網−円網にて2層抄き合せを行い、ヤンキー型乾燥機にて乾燥し、坪量36.0g/m、厚さ0.12mmの湿式不織布基材を得た。
上記以外は実施例1と同様に条件によりシートを得た。得られた積層シートの性能および電池性能評価結果を表2に示す。
【0064】
[実施例10]
PVA系主体繊維(株式会社クラレ製「VPB102×5」;1.1dtex×5mm)35質量%、LBKP(広葉樹系パルプ)50質量%、PE/PP芯鞘バインダー繊維(株式会社ダイワボウ製「NBF(H)」;1.7dtex×5mm)15質量%とを混合して原料とし、これを短網−円網にて2層抄き合せを行い、ヤンキー型乾燥機にて乾燥し、坪量36.0g/m、厚さ0.13mmの湿式不織布基材を得た。
上記以外は実施例1と同様に条件によりシートを得た。得られた積層シートの性能および電池性能評価結果を表2に示す。
【0065】
[実施例11]
基材としては実施例10と同様なものを、ナノファイバー層としては実施例6と同様なものを用い、これ以外は実施例1と同様に条件によりシートを得た。得られた積層シートの性能および電池性能評価結果を表2に示す。
【0066】
[比較例1]
(1)実施例1と同じく、PVA系主体繊維(株式会社クラレ製「VPB102×5」;1.1dtex×5mm)35質量%、PVA系バインダー繊維(株式会社クラレ製「VPB105−1」;1.1dtex×5mm、水中溶解温度70℃)15質量%、マーセル化LBKP(広葉樹系パルプ)50質量%を加えて混合して原料とし、これを短網−円網抄紙機にて2層抄き合わせ抄紙を行い、ヤンキー型乾燥機にて乾燥し、坪量36.0g/m、厚さ0.12mmの湿式不織布基材を得た。
(2)次にナノファイバー層を形成する。まずPVAポリマー(株式会社クラレ製「KM−118」;重合度1780、ケン化度98モル%、マレイン酸2モル%変性)を10質量%となるように水に投入後、90℃で攪拌溶解し、完全溶解したものを常温まで冷却して紡糸原液を得た。得られた紡糸原液を用い、図1の紡糸装置にて静電紡糸を行った。口金4として内径が0.9mmのニードルを使用した。また、口金4と形成シート引取り装置7との間の距離(極間距離)は8cmとした。さらに、形成シート引取り装置7に前記(1)で得られた湿式不織布基材を巻き付けた。次いでコンベア速度0.1m/分、原液を所定の供給量で口金から押し出し、口金に20kV印加電圧を与えてシリンダー上の不織布上に繊維径が250nmのナノファイバーを坪量で1.0g/mになるよう積層させた。得られた積層シートの性能を表3に示す。
表3に示すように、得られた積層シートは、通常の電池としての使用では問題ないが、高温条件下ではナノファイバー層が溶けてしまい、遮蔽性を確保できなかった。
【0067】
[比較例2]
ナノファイバー製造用セルロース系ポリマーの原液濃度を14質量%、図1における口金4と形成シート引取り装置7との間の距離(極間距離)を8cmに変更すること以外は実施例1と同様の条件によりシートを得た。得られた積層シートは、繊維分の吸液量は満足するものの、繊維径が太く、また内部短絡防止の傾向の指標である通気度も大きいため、実際の電池性能評価でも良好な結果は得られなかった。
【0068】
[比較例3]
ナノファイバー積層量を0.05g/mに変更すること以外は実施例1と同様の条件によりシートを得た。得られた積層シートはナノファイバー量が少なすぎて内部短絡を防止させるほどの通気度にはならなかった。
【0069】
[比較例4]
ナノファイバー製造用ポリマーをポリアクリロニトリル(PANと称す。三菱レイヨン社製、分子量15000)を10質量%となるようにジメチルホルムアミド中に投入し溶解し紡糸原液とすること以外は実施例1と同様の条件によりシートを得た。得られた積層シートの性能および電池性能評価結果を表3に示す。
得られた積層シートは、ナノファイバー層と基材層が剥離しやすく、また性能面でもナノファイバー層の繊維分吸液量が低いため、電池放電末期の状態であった。さらに液枯れ後の抵抗値でも高抵抗化が見られ、実際の電池評価でも電池寿命が短かった。
【0070】
[比較例5]
アクリル主体繊維(PAN繊維。三菱レイヨン社製「ボンネルMVP」;1.0dtex×6mm)85質量%、PVA系バインダー繊維(株式会社クラレ製「VPB105−1」;1.1dtex×3mm、水中溶解温度70℃)15質量%とを混合し、これを短網−円網抄紙機にて2層抄き合わせを行い、ヤンキー型乾燥機にて乾燥し、坪量36.0g/m、厚さ0.13mmの湿式不織布基材を得た。
上記以外は実施例1と同様の条件によりシートを得た。得られた積層シートの性能および電池性能評価結果を表3に示す。
得られた積層シートは基材の主体繊維が耐アルカリ性繊維でないため、基材部分の繊維分吸液量が低く、かつ積層シートとしての繊維分吸液量が不足し、電池放電末期の状態であった。また液枯れ後の抵抗値でも高抵抗化が見られ、実際の電池評価でも電池寿命が短かった。
【0071】
[比較例6]
実施例10で得られたシートに再度130℃でヤンキー型乾燥機にて熱処理を行った。得られた積層シートの性能および電池性能評価結果を表3に示す。
得られたシートはナノファイバー層と基材の接着が強固で、アルカリ含浸後も接着は維持されているが、基材の熱収縮とともにナノファイバー層も追随してくようなものとなるため、面積収縮率が11.3%であり、熱処理後の遮蔽性も得られなかった。
【0072】
[比較例7]
実施例1と同じく、PVA系主体繊維(株式会社クラレ製「VPB102×5」;1.1dtex×5mm)35質量%、PVA系バインダー繊維(株式会社クラレ製「VPB105−1」;1.1dtex×3mm、水中溶解温度70℃)15質量%、マーセル化LBKP(広葉樹系パルプ)50質量%を加えて混合して原料とし、これを短網−円網抄紙機にて2層抄き合わせ抄紙を行い、ヤンキー型乾燥機にて乾燥し、坪量36.8g/m、厚さ0.13mmの湿式不織布基材を得た。該不織布基材に対し、ナノファイバーを積層せずに評価したところ、吸液量は確保できるものの内部短絡を防止させるほどの通気度にはならなかった。また耐熱評価後にシート形態を保てず、熱処理後の遮蔽性を得られるものにはならなかった。得られた積層シートの性能および電池性能評価結果を表3に示す。
【0073】
【表1】

【0074】
【表2】

【0075】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明によれば、高温時での性能低下を回避でき、さらに電解液の吸液性を高め、電解液を長時間保持し、デンドライトの成長を抑制することで内部短絡を防止し、セパレータ自身の電気抵抗も低く、電解液吸液後の厚さを抑制することで電池内の正・負極合剤の容量も増やすことを可能とした電池用セパレータを得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】不織布よりなる基材に積層乃至は複合するナノファイバーを製造する装置を示す模式図。
【符号の説明】
【0078】
1 ギャーポンプ
2 分配整流ブロック
3 口金部
4 口金
5 電気絶縁部
6 直流高電圧発生電源
7 形成シート引取装置
8 導電性部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース系ポリマーを含み、繊維直径が10〜1000nmのナノファイバーよりなるシートと、耐アルカリ性繊維で構成された湿式不織布よりなる基材とが積層一体化されているアルカリ電池用セパレータであって、前記セルロースポリマーを含むナノファイバーよりなるシートが以下(1)、(2)を共に満足することを特徴とするアルカリ電池用セパレータ。
(1)ナノファイバーの積層量(坪量)が0.1〜10.0g/mであること、
(2)アルカリ湿潤状態下150℃で60分処理時にシート形態を保持し、かつ収縮率が5.0%以下であること。
【請求項2】
セルロース系ポリマーを含むナノファイバーよりなるシートの35%KOH水溶液含浸時の繊維分吸液量が2.0〜20.0g/gである請求項1記載のアルカリ電池用セパレータ。
【請求項3】
セルロース系ポリマーを含むナノファイバーシートと耐アルカリ性繊維で構成された湿式不織布よりなる基材との剥離強力が0.1〜10.0g/10mmである請求項1または2記載のアルカリ電池用セパレータ。
【請求項4】
セルロース系ナノファイバーがセルロースを溶剤に直接溶解させた紡糸原液により紡糸されたセルロース繊維である請求項1〜3のいずれかに記載のアルカリ電池用セパレータ。
【請求項5】
セルロース系ナノファイバーが溶剤にセルロース誘導体を溶解させた紡糸原液により紡糸されたセルロース誘導体繊維である請求項1〜3のいずれかに記載のアルカリ電池用セパレータ。
【請求項6】
基材を構成する耐アルカリ性繊維の一部が有機溶剤系セルロース系繊維である請求項1〜3のいずれかに記載のアルカリ電池用セパレータ。
【請求項7】
基材を構成する耐アルカリ性繊維の一部が天然セルロース系繊維もしくはそのマーセル化処理品である請求1〜3のいずれかに記載のアルカリ電池用セパレータ。
【請求項8】
基材を構成する耐アルカリ性繊維の一部がポリビニルアルコール系繊維である請求項1〜4のいずれかに記載のアルカリ電池用セパレータ。
【請求項9】
積層一体化されたシートの通気度が0.1〜10cc/cm/sec、かつ35%KOH水溶液含浸時の繊維分吸液量が1.0〜3.0g/gである請求項1〜8のいずれかに記載のアルカリ電池用セパレータ。
【請求項10】
(A)ポリマーを溶解させることのできる溶媒にポリマーを溶解させた溶解液を調製する工程、(B)前記溶解液を用いて静電紡糸法によりナノファイバーを基材布帛に積層乃至は複合する工程、を備えていることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のアルカリ電池用セパレータ。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載のアルカリ電池用セパレータを使用した電池。

【図1】
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【公開番号】特開2008−234898(P2008−234898A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−70253(P2007−70253)
【出願日】平成19年3月19日(2007.3.19)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】