説明

電池用活物質、非水電解質電池および電池パック

【課題】 優れた充放電サイクル性能を有する電池用活物質、この活物質を含み、優れた充放電サイクル性能を有する非水電解質電池、およびこの非水電解質電池を備えた電池パックを提供する。
【解決手段】 実施形態によれば、単斜晶系β型チタン複合酸化物を含む電池用活物質が提供される。単斜晶系β型チタン複合酸化物は、Mo及びWのうちの少なくとも一方からなる第1の元素を含み、かつ(1)式;B>Aを満足する。Aは、単斜晶系β型チタン複合酸化物の広角X線回折パターンにおける単斜晶系β型チタン複合酸化物の(110)面に帰属されるピークの強度である。Bは、この広角X線回折パターンにおける単斜晶系β型チタン複合酸化物の(002)面に帰属されるピークの強度である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電池用活物質、非水電解質電池および電池パックに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、単斜晶系β型構造を有するチタン酸化物は非水電解質電池用活物質として注目されている。実用されているスピネル型チタン酸リチウム(Li4Ti512)は、単位化学式あたりの挿入・脱離可能なリチウムイオンの数が3つである。このため、チタンイオン1つあたりに挿入・脱離可能なリチウムイオンの数は、3/5で、0.6が理論上の最大であった。これに対して、単斜晶系β型構造のチタン酸化物はチタンイオン1つあたりの挿入・脱離可能なリチウムイオンの数は、最大で1.0となる。このため、理論容量が約335mAh/gと高い。
【0003】
ところで、単斜晶系β型構造のチタン酸化物の粒子形状であるが、合成前駆体となるK2Ti49などが繊維粒状に成長しやすいため、その形状を反映して単斜晶系β型構造のチタン酸化物も繊維粒状に成り易い。このため、単斜晶系β型構造のチタン酸化物を含む負極を備えた非水電解質電池は、充放電サイクル性能が十分でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−184400号公報
【特許文献2】特開2008−124012号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】R. Marchand, L. Brohan, M. Tournoux, Material Research Bulletin 15, 1129 (1980)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
実施形態は、優れた充放電サイクル性能を有する電池用活物質、この活物質を含み、優れた充放電サイクル性能を有する非水電解質電池、およびこの非水電解質電池を備えた電池パックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態によれば、単斜晶系β型チタン複合酸化物を含む電池用活物質が提供される。単斜晶系β型チタン複合酸化物は、Mo及びWのうちの少なくとも一方からなる第1の元素を含み、かつ下記(1)式を満足する。
【0008】
B>A (1)
但し、Aは、単斜晶系β型チタン複合酸化物の広角X線回折パターンにおける単斜晶系β型チタン複合酸化物の(110)面に帰属されるピークの強度である。Bは、この広角X線回折パターンにおける単斜晶系β型チタン複合酸化物の(002)面に帰属されるピークの強度である。
【0009】
実施形態によれば、正極と、実施形態に係る電池用活物質を含む負極と、非水電解質と
を含む非水電解質電池が提供される。
【0010】
実施形態によれば、実施形態に係る電池用活物質を含む非水電解質電池を含む電池パックが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】単斜晶系β型チタン複合酸化物のTiO2(B)で表される結晶構造を示す模式図である。
【図2】第2の実施形態に係る扁平型非水電解質電池を示す断面図である。
【図3】図2のA部の拡大断面図である。
【図4】第3の実施形態に係る電池パックを示す分解斜視図である。
【図5】図4の電池パックのブロック図である。
【図6】実施例1のXRDパターンを示す図である。
【図7】比較例2のXRDパターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0013】
(第1の実施形態)
第1の実施形態によれば、単斜晶系β型チタン複合酸化物を含む電池用活物質が提供される。単斜晶系β型チタン複合酸化物は、Mo及びWのうちの少なくとも一方からなる第1の元素を含む。また、単斜晶系β型チタン複合酸化物は、下記(1)式を満足する。
【0014】
B>A (1)
但し、Aは、単斜晶系β型チタン複合酸化物の広角X線回折法で得られるパターンにおいて、単斜晶系β型チタン複合酸化物の(110)面に帰属されるピークの強度で、Bは、当該広角X線回折パターンにおいて単斜晶系β型チタン複合酸化物の(002)面に帰属されるピークの強度である。
【0015】
単斜晶系β型チタン複合酸化物は、TiO2(B)で表される結晶構造を有し、かつTi以外の元素(例えば第1の元素)を含む酸化物である。TiO2(B)で表される結晶構造は、主に空間群C2/mに属し、図1に例示されるようなトンネル構造を示す。TiO2(B)の詳細な結晶構造は、例えば、非特許文献に記載されている。
【0016】
図1に示すようにTiO2(B)で表される結晶構造は、チタンイオン53と酸化物イオン52が骨格構造部分51aを構成し、この骨格構造部分51aと空隙部分51bが規則的に配置された構造を有する。この空隙部分51bは、異原子種のインターカレート(挿入)のホストサイトとなることができる。TiO2(B)はまた、結晶表面にも異原子種を吸蔵放出可能なホストサイトが存在するといわれている。リチウムイオンがこれらのホストサイトに挿入・脱離することにより、TiO2(B)はリチウムイオンを可逆的に吸蔵・放出することができる。
【0017】
リチウムイオンが空隙部分51bに挿入されると、骨格を構成するTi4+がTi3+へと還元され、これによって結晶の電気的中性が保たれる。TiO2(B)は化学式あたり1つのTi4+を有するため、理論上、層間に最大1つのリチウムイオンを挿入することが可能である。このため、TiO2(B)で表される結晶構造を有する単斜晶系β型チタン複合酸化物は、リチウムイオンの吸蔵・放出後、構成元素としてリチウムを含むことがあるが、含まない場合もある。また、当該結晶構造を有する単斜晶系β型チタン複合酸化物は、335mAh/g以上の容量を得ることが可能である。
【0018】
単斜晶系β型チタン複合酸化物は、Mo及びWのうちの少なくとも一方からなる第1の元素を含む。第1の元素が含まれることにより、酸化物の結晶子サイズが大きくなる等により結晶性が高まるため、寿命性能の向上に寄与する。第1の元素は、単斜晶系β型チタン複合酸化物中でTiと固溶体を形成していることが望ましい。第1の元素の含有量は、0.01質量%以上3質量%以下の範囲であることが好ましい。第1の元素の含有量を0.01質量%以上にすることにより、寿命改善効果を十分に得ることができる。また、第1の元素の含有量を3質量%以下にすることにより、不純物相の混入を少なくすることができ、単一相が得られやすくなるため、電極容量(特に初期容量)及び充放電サイクル時の容量維持率を向上することができる。より好ましい範囲は0.1質量%以上1質量%以下である。
【0019】
単斜晶系β型チタン複合酸化物は、(1)式を満たす。ここで、広角X線回折パターンにおいて、単斜晶系β型チタン複合酸化物の(110)面に帰属されるピークは、23.5〜25.5°近傍に現れる。また、広角X線回折パターンにおいて、単斜晶系β型チタン複合酸化物の(002)面に帰属されるピークは、27.5〜29.5°近傍に現れる。組み立てられた電池から活物質を抽出して測定する場合には、例えば以下の方法で抽出できる。放電状態で電池を解体し、電極(例えば負極)を取り出し、その活物質含有層を水中に浸漬することにより水中で失活させる。浸漬処理は、水素ガスの発生が認められなくなるまで行われ、通常、10分〜1時間行われる。その後、活物質含有層中の単斜晶系β型チタン複合酸化物を抽出する。抽出処理は、例えば、バインダーにポリフッ化ビニリデンを用いた場合には、N−メチル−2−ピロリドンなどで洗浄してバインダー成分を除去した後、適切な目開きのメッシュで導電剤を除去する。これらの成分が僅かに残存する場合は、大気中での加熱処理(例えば、250℃で30分など)によって除去すれば良い。
【0020】
B≦A、すなわち、ピーク強度Aがピーク強度Bと等しいか、ピーク強度Aがピーク強度Bよりも大きい場合には、単斜晶系β型チタン複合酸化物の(002)面への配向性が低い。このため、第1の元素の添加により結晶性を高めても、崩壊の起こり難い繊維状粒子凝集体を得られない。従って、充放電に伴う活物質の体積変化によって凝集体の崩壊が進むため、繊維状粒子間の集電ネットワークが早くに分断され、寿命性能が低下する。B>A、すなわち、ピーク強度Aがピーク強度Bよりも小さいと、単斜晶系β型チタン複合酸化物の(002)面への配向性が高い。このため、第1の元素の添加で結晶性を高めることにより、崩壊の起こり難い繊維状粒子凝集体を得ることができる。従って、充放電に伴う活物質の体積変化に起因する凝集体の崩壊を抑えることができるため、電池の寿命性能を向上することができる。
【0021】
単斜晶系β型チタン複合酸化物は、V、Nb及びTaからなる群より選ばれる少なくとも1種の第2の元素を含むことが好ましい。第2の元素を加えることによって、一次粒子の繊維長が短くなるため、電池の大電流性能を向上することができる。また、一次粒子の繊維長が短くなることで、活物質を二次粒子の形態にしやすくなり、粉体強度の高い二次粒子を得ることができる。粉体強度の高い二次粒子は、電極を製造する際のスラリー調製工程、スラリーを集電体に塗布する工程並びに圧延工程において崩壊し難く、一次粒子間の集電ネットワークが壊れ難い。また、充放電に伴う活物質の体積変化に対しても、二次粒子が崩壊し難い。これらの結果、電池の寿命性能を向上することができる。第2の元素のうち最も好ましいのはNbである。また、第2の元素は、単斜晶系β型チタン複合酸化物中でTiと固溶体を形成していることが望ましい。
【0022】
単斜晶系β型チタン複合酸化物の第2の元素の含有量は、0.01質量%以上10質量%以下の範囲であることが好ましい。第2の元素の含有量を0.01質量%以上にすることによって、繊維長が短い一次粒子が得られやすくなる。また、第2の元素の含有量を10質量%以下にすることによって、不純物相の混入を少なくすることができ、単一相が得られやすくなるため、電極容量(特に初期容量)と充放電サイクル時の容量維持率を向上することができる。
【0023】
単斜晶系β型チタン複合酸化物は、第1の元素の含有量が0.01質量%以上3質量%以下で、かつ第2の元素を0.01質量%以上10質量%以下含む繊維状粒子の凝集体(二次粒子)であることが望ましい。これにより、充放電サイクルの進行に伴う凝集体の崩壊をさらに少なくすることができるため、さらに優れた寿命性能を得ることができる。繊維状粒子は、平均繊維直径が1nm以上10μm以下であり、かつ繊維直径に対する繊維長の比(繊維長/繊維直径)が20以下であることが望ましい。平均繊維直径には、SEM観察により無作為に抽出した一次粒子10個の繊維直径の平均値を用いる。また、SEM観察により無作為に抽出した一次粒子10個について、繊維直径に対する繊維長の比(繊維長/繊維直径)を算出し、その平均値を繊維直径に対する繊維長の比(繊維長/繊維直径)とする。
【0024】
単斜晶系β型チタン複合酸化物の比表面積は、5m2/g以上50m2/g以下であることが好ましい。比表面積が5m2/g以上である場合には、リチウムイオンの吸蔵・脱離サイトを十分に確保することが可能になる。比表面積が50m2/g以下である場合には、工業生産上、扱い易くなる。
【0025】
第1の元素及び第2の元素の含有量は、ICP発光分光法によって測定できる。ICP発光分光法による元素含有量の測定は、例えば以下の方法で実行できる。放電状態で電池を解体し、電極(例えば負極)を取り出し、その活物質含有層を水中に浸漬することにより水中で失活させる。浸漬処理は、水素ガスの発生が認められなくなるまで行われ、通常、10分〜1時間行われる。その後、活物質含有層中の単斜晶系β型チタン複合酸化物を抽出する。抽出処理は、例えば、バインダーにポリフッ化ビニリデンを用いた場合には、N−メチル−2−ピロリドンなどで洗浄してバインダー成分を除去した後、適切な目開きのメッシュで導電剤を除去する。これらの成分が僅かに残存する場合は、大気中での加熱処理(例えば、250℃で30分など)によって除去すれば良い。抽出したチタン複合酸化物を容器に測り取った後、酸融解またはアルカリ融解して測定溶液を得る。この測定溶液を測定装置(例えばエスアイアイ・ナノテクノロジー社製:SPS−1500V)でICP発光分光を行なって第1の元素及び第2の元素の含有量を測定する。
【0026】
次に、実施形態に係る電池用活物質の製造方法を説明する。
【0027】
まず、例えば出発原料に、Ti源としてアナターゼ型TiO2、K源としてK2OやK2CO3、Mo源としてK2MoO4、W源としてK2WO4を用いる。目的のチタン酸アルカリ化合物に合わせて出発原料を所定比率で混合し、スプレードライなどで繊維状一次粒子の凝集粒子とし、熱処理を施すことでチタン酸アルカリ化合物を得ることができる。このとき、K2MoO4やK2WO4はフラックスとして機能して、より結晶性の高い活物質が得られる(いわゆるフラックス法)。熱処理温度は、900〜1200℃であることが好ましい。K2MoO4やK2WO4が溶融する温度が約900℃であるためである。結晶性の高い繊維が得られるより好ましい温度は1000〜1150℃である。フラックス法で合成する場合、繊維長が長くなる傾向があるため、第2の元素を含有させることが好ましい。
【0028】
チタン酸アルカリ化合物は、純水で十分に水洗してチタン酸アルカリ化合物から不純物を取り除いた後、酸処理をしてアルカリカチオンをプロトンに交換する。チタン酸カリウム中のカリウムイオンは結晶構造を崩さずにプロトンとの交換が可能である。酸処理によるプロトン交換は、例えば出発原料に濃度1Mの塩酸を加えて攪拌することによってなされる。酸処理は充分にプロトン交換が完了するまで行われることが望ましい。プロトン交換時には、溶液にアルカリ性溶液を添加してpHを調整してもよい。プロトン交換の完了後、再び純水で水洗する。
【0029】
プロトン交換を終了した生成物を水洗・乾燥することにより、中間生成物であるプロトン交換体を得る。つづいて、プロトン交換体を加熱処理することにより、第1の元素を含み、かつ(1)式を満足する単斜晶系β型チタン複合酸化物を製造する。
【0030】
好ましい加熱温度は、300℃〜500℃である。加熱温度を300℃未満にすると、結晶性が著しく低下し、電極容量、充放電効率、繰り返し特性が低下する。一方、加熱温度が500℃を超えると、アナターゼ相またはルチル相のような不純物相が生成され、容量が低下する虞がある。より好ましい加熱温度は、350℃〜400℃である。
【0031】
また、電池用活物質には、単斜晶系β型チタン複合酸化物と併せて、例えばスピネル型チタン酸リチウム(Li4Ti512)のような他の活物質を用いることができる。
【0032】
実施形態に係る電池用活物質は、負極のみならず、正極にも用いることができ、いずれに適用しても優れた寿命性能を得ることができる。すなわち、優れた寿命性能は粉体強度を高めることで得られる効果であり、負極に用いても正極に用いてもその効果は変わらない。したがって、実施形態に係る電池用活物質は正極にも負極にも用いることができ、同様な効果を得ることができる。
【0033】
実施形態に係る電池用活物質を正極に用いる場合、負極の活物質は金属リチウム、リチウム合金、またはグラファイト、コークスなどの炭素系材料を用いることができる。
【0034】
第1の実施形態によれば、Mo及びWのうちの少なくとも一方からなる第1の元素を含み、かつ(1)式を満足する単斜晶系β型チタン複合酸化物を含むため、活物質の崩壊を抑制することができ、寿命性能を向上することができる。また、当該単斜晶系β型チタン複合酸化物は、結晶性が高いことから、リチウムイオンの拡散性に優れるため、初期容量及び大電流性能にも優れている。
【0035】
(第2の実施形態)
第2の実施形態によると、外装部材と、外装部材内に収納される正極と、外装部材内に収納される負極と、外装部材内に充填される非水電解質とを含む非水電解質電池が提供される。負極は、第1の実施形態に係る活物質を含む。また、負極は、正極と空間的に離間している。負極を正極と空間的に離間させるため、例えば正極と負極の間にセパレータを配置することができる。
【0036】
以下、外装部材、負極、正極、セパレータおよび非水電解質について詳細に説明する。
【0037】
1)外装部材
外装部材は、厚さ0.5mm以下のラミネートフィルムから形成される。また、外装部材は厚さ1.0mm以下の金属製容器が用いられる。金属製容器は、厚さ0.5mm以下であることがより好ましい。
【0038】
外装部材の形状は、扁平型(薄型)、角型、円筒型、コイン型、ボタン型等が挙げられる。外装部材は、電池寸法に応じて、例えば携帯用電子機器等に積載される小型電池用外装部材、二輪乃至四輪の自動車等に積載される大型電池用外装部材が挙げられる。
【0039】
ラミネートフィルムは、樹脂層間に金属層を介在した多層フィルムが用いられる。金属層は、軽量化のためにアルミニウム箔若しくはアルミニウム合金箔が好ましい。樹脂層は、例えばポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の高分子材料を用いることができる。ラミネートフィルムは、熱融着によりシールを行って外装部材の形状に成形することができる。
【0040】
金属製容器は、アルミニウムまたはアルミニウム合金等から作られる。アルミニウム合金は、マグネシウム、亜鉛、ケイ素等の元素を含む合金が好ましい。合金中に鉄、銅、ニッケル、クロム等の遷移金属が含まれる場合、その量は100質量ppm以下にすることが好ましい。
【0041】
2)負極
負極は、集電体と、この集電体の片面または両面に形成され、活物質、導電剤および結着剤を含む負極活物質含有層(負極材料層)とを備える。活物質には、第1の実施形態に係る電池用活物質が用いられる。
【0042】
導電剤は、活物質の集電性能を高め、集電体との接触抵抗を抑える。導電剤の例は、アセチレンブラック、カーボンブラック、黒鉛を含む。
【0043】
結着剤は、活物質と導電剤を結着できる。結着剤の例は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素系ゴム、スチレンブタジエンゴムを含む。
【0044】
負極活物質含有層中の活物質、導電剤および結着剤は、それぞれ70質量%以上96質量%以下、2質量%以上28質量%以下および2質量%以上28質量%以下の割合で配合することが好ましい。導電剤の量を2質量%以上にすることにより、負極活物質含有層に優れた集電性能を付与することができる。また、結着剤の量を2質量%以上にすることにより、負極活物質含有層と集電体の結着性を高くすることができる。一方、導電剤および結着剤はそれぞれ28質量%以下にすることが高容量化を図る上で好ましい。
【0045】
集電体は、1.0Vよりも貴である電位範囲において電気化学的に安定であるアルミニウム箔またはMg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu、Siのような元素を含むアルミニウム合金箔であること好ましい。
【0046】
負極は、例えば活物質、導電剤および結着剤を汎用されている溶媒に懸濁してスラリーを調製し、このスラリーを集電体に塗布し、乾燥し、その後、プレスを施すことにより作製される。負極はまた活物質、導電剤および結着剤をペレット状に形成して負極活物質含有層とし、これを集電体上に形成することにより作製されてもよい。
【0047】
3)正極
正極は、集電体と、この集電体の片面または両面に形成され、活物質、導電剤および結着剤を含む正極活物質含有層(正極材料層)とを備える。
【0048】
活物質は、例えば酸化物、ポリマー等を用いることができる。
【0049】
酸化物は、例えばリチウムを吸蔵した二酸化マンガン(MnO2)、酸化鉄、酸化銅、酸化ニッケルおよびリチウムマンガン複合酸化物(例えばLixMn24またはLixMnO2)、リチウムニッケル複合酸化物(例えばLixNiO2)、リチウムコバルト複合酸化物(LixCoO2)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(例えばLiNi1-yCoy2)、リチウムマンガンコバルト複合酸化物(例えばLixMnyCo1-y2)、スピネル型リチウムマンガンニッケル複合酸化物(LixMn2-yNiy4)、オリビン構造を有するリチウムリン酸化物(例えばLixFePO4、LixFe1-yMnyPO4、LixCoPO4)、硫酸鉄(例えばFe2(SO43)、またはバナジウム酸化物(例えばV25)を用いることができる。ここで、x、yは0<x≦1、0≦y≦1であることが好ましい。
【0050】
ポリマーは、例えばポリアニリンやポリピロールのような導電性ポリマー材料、またはジスルフィド系ポリマー材料を用いることができる。イオウ(S)、フッ化カーボンもまた活物質として使用できる。
【0051】
好ましい活物質は、正極電圧が高いリチウムマンガン複合酸化物(例えばLixMn24)、リチウムニッケル複合酸化物(例えばLixNiO2)、リチウムコバルト複合酸化物(例えばLixCoO2)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(例えばLixNi1-yCoyO2)、スピネル型リチウムマンガンニッケル複合酸化物(例えばLixMn2-yNiy4)、リチウムマンガンコバルト複合酸化物(例えばLixMnyCo1-y2)、またはリチウムリン酸鉄(例えばLixFePO4)が挙げられる。ここで、x、yは0<x≦1、0≦y≦1であることが好ましい。
【0052】
さらに好ましい活物質は、リチウムコバルト複合酸化物またはリチウムマンガン複合酸化物である。これらの活物質は、イオン伝導性が高いため、第1の実施形態に係る活物質からなる負極活物質との組み合わせにおいて、正極活物質中のリチウムイオンの拡散が律速段階になり難い。このため、前記活物質は第1の実施形態に係る活物質からなる負極活物質との適合性に優れる。
【0053】
導電剤は、活物質の集電性能を高め、集電体との接触抵抗を抑える。導電剤の例は、アセチレンブラック、カーボンブラック、黒鉛などの炭素質物を含む。
【0054】
結着剤は、活物質と導電剤を結着させる。結着剤の例は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素系ゴムを含む。
【0055】
正極活物質含有層中の活物質、導電剤および結着剤は、それぞれ80質量%以上95質量%以下、3質量%以上18質量%以下および2質量%以上17質量%以下の割合で配合することが好ましい。導電剤は、3質量%以上の量にすることにより上述した効果を発揮することができる。導電剤は、18質量%以下の量にすることにより高温保存下での導電剤表面での非水電解質の分解を低減することができる。結着剤は、2質量%以上の量にすることにより十分な正極強度が得られる。結着剤は、17質量%以下の量にすることにより、正極中の絶縁材料である結着剤の配合量を減少させ、内部抵抗を減少できる。
【0056】
集電体は、例えばアルミニウム箔、またはMg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu、Siのような元素を含むアルミニウム合金箔であることが好ましい。
【0057】
正極は、例えば活物質、導電剤および結着剤を汎用されている溶媒に懸濁してスラリーを調製し、このスラリーを集電体に塗布し、乾燥し、その後、プレスを施すことにより作製される。正極はまた活物質、導電剤および結着剤をペレット状に形成して正極活物質含有層とし、これを集電体上に形成することにより作製されてもよい。
【0058】
4)非水電解質
非水電解質は、例えば電解質を有機溶媒に溶解することにより調製される液状非水電解質、または液状電解質と高分子材料を複合化したゲル状非水電解質が挙げられる。
【0059】
液状非水電解質は、電解質を0.5M以上2.5M以下の濃度で有機溶媒に溶解することが好ましい。
【0060】
電解質の例は、過塩素酸リチウム(LiClO4)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)、六フッ化砒素リチウム(LiAsF6)、トリフルオロメタスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)、ビストリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム[LiN(CF3SO22]のリチウム塩、またはこれらの混合物を含む。電解質は、高電位でも酸化し難いものであることが好ましく、LiPF6が最も好ましい。
【0061】
有機溶媒の例は、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ビニレンカーボネートのような環状カーボネート;ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、メチルエチルカーボネート(MEC)のような鎖状カーボネート;テトラヒドロフラン(THF)、2メチルテトラヒドロフラン(2MeTHF)、ジオキソラン(DOX)のような環状エーテル;ジメトキシエタン(DME)、ジエトキシエタン(DEE)のような鎖状エーテル;またはγ−ブチロラクトン(GBL)、アセトニトリル(AN)、スルホラン(SL)を含む。これらの有機溶媒は、単独または混合溶媒の形態で用いることができる。
【0062】
高分子材料の例は、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリエチレンオキサイド(PEO)を含む。
【0063】
好ましい有機溶媒は、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)およびジエチルカーボネート(DEC)からなる群のうち、少なくとも2つ以上を混合した混合溶媒、またはγ−ブチロラクトン(GBL)を含む混合溶媒である。
【0064】
5)セパレータ
セパレータは、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、セルロース、もしくはポリフッ化ビニリデン(PVdF)を含む多孔質フィルム、または合成樹脂製不織布が挙げられる。好ましい多孔質フィルムは、ポリエチレンまたはポリプロピレンから作られ、一定温度において溶融し、電流を遮断することが可能であるために安全性を向上できる。
【0065】
次に、実施形態に係る非水電解質電池(例えば外装部材がラミネートフィルム製容器からなる扁平型非水電解質電池)を図2、図3を参照してより具体的に説明する。図2は、扁平型非水電解質電池の断面図、図3は図1のA部の拡大断面図である。なお、各図は発明の説明とその理解を促すための模式図であり、その形状や寸法、比などは実際の装置と異なる個所があるが、これらは以下の説明と公知の技術を参酌して適宜、設計変更することができる。
【0066】
扁平状の捲回電極群1は、2枚の樹脂層の間にアルミニウム箔を介在したラミネートフィルムからなる袋状外装部材2内に収納されている。扁平状の捲回電極群1は、外側から負極3、セパレータ4、正極5、セパレータ4の順で積層した積層物を渦巻状に捲回し、プレス成型することにより形成される。最外殻の負極3は、図3に示すように負極集電体3aの内面側の片面に負極活物質含有層3bを形成した構成を有する。その他の負極3は、負極集電体3aの両面に負極活物質含有層3bを形成して構成されている。正極5は、正極集電体5aの両面に正極活物質含有層5bを形成して構成されている。
【0067】
捲回電極群1の外周端近傍において、負極端子6は最外殻の負極3の負極集電体3aに電気的に接続され、正極端子7は内側の正極5の正極集電体5aに電気的に接続されている。これらの負極端子6および正極端子7は、袋状外装部材2の開口部から外部に延出されている。例えば液状非水電解質は、袋状外装部材2の開口部から注入されている。袋状外装部材2の開口部を負極端子6および正極端子7を挟んでヒートシールすることにより捲回電極群1および液状非水電解質を完全密封している。
【0068】
負極端子は、例えばリチウムイオン金属に対する電位が0.6V以上3.0V以下の範囲における電気的安定性と導電性とを備える材料を用いることができる。具体的には、アルミニウムまたはMg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu、Si等の元素を含むアルミニウム合金が挙げられる。負極端子は、負極集電体との接触抵抗を低減するために、負極集電体と同様の材料であることが好ましい。
【0069】
正極端子は、リチウムイオン金属に対する電位が3.0〜5.0Vの範囲における電気的安定性と導電性とを備える材料を用いることができる。具体的には、アルミニウムまたはMg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu、Si等の元素を含むアルミニウム合金が挙げられる。正極端子は、正極集電体との接触抵抗を低減するために、正極集電体と同様の材料であることが好ましい。
【0070】
第2の実施形態によれば、第1の実施形態に係る活物質を含む負極を備えているため、初期容量、大電流性能及び寿命性能に優れた非水電解質電池を実現することができる。
【0071】
(第3の実施形態)
第3の実施形態によると、非水電解質電池を単電池として含む電池パックが提供される。非水電解質電池の数は、一つまたは複数にすることができる。非水電解質電池を複数備える場合、電池間が直列または並列に電気的に接続されている。
【0072】
次に、実施形態に係る電池パック図4および図5を参照して具体的に説明する。単電池は、図2に示す扁平型非水電解液電池が使用される。
【0073】
複数の単電池21は、外部に延出した負極端子6および正極端子7が同じ向きに揃えられるように積層され、粘着テープ22で締結することにより組電池23を構成している。これらの単電池21は、図5に示すように互いに電気的に直列に接続されている。
【0074】
プリント配線基板24は、負極端子6および正極端子7が延出する単電池21側面と対向して配置されている。プリント配線基板24には、図5に示すようにサーミスタ25、保護回路26および外部機器への通電用端子27が搭載されている。なお、組電池23と対向する保護回路基板24の面には組電池23の配線と不要な接続を回避するために絶縁板(図示せず)が取り付けられている。
【0075】
正極側リード28は、組電池23の最下層に位置する正極端子7に接続され、その先端はプリント配線基板24の正極側コネクタ29に挿入されて電気的に接続されている。負極側リード30は、組電池23の最上層に位置する負極端子6に接続され、その先端はプリント配線基板24の負極側コネクタ31に挿入されて電気的に接続されている。これらのコネクタ29,31は、プリント配線基板24に形成された配線32,33を通して保護回路26に接続されている。
【0076】
サーミスタ25は、単電池21の温度を検出するために用いられ、その検出信号は保護回路26に送信される。保護回路26は、所定の条件で保護回路26と外部機器への通電用端子27との間のプラス側配線34aおよびマイナス側配線34bを遮断できる。所定の条件とは、例えばサーミスタ25の検出温度が所定温度以上になったときである。また、所定の条件とは単電池21の過充電、過放電、過電流等を検出したときである。この過充電等の検出は、個々の単電池21もしくは単電池21全体について行われる。個々の単電池21を検出する場合、電池電圧を検出してもよいし、正極電位もしくは負極電位を検出してもよい。後者の場合、個々の単電池21中に参照極として用いるリチウム電極が挿入される。図4および図5の場合、単電池21それぞれに電圧検出のための配線35を接続し、これら配線35を通して検出信号が保護回路26に送信される。
【0077】
正極端子7および負極端子6が突出する側面を除く組電池23の三側面には、ゴムもしくは樹脂からなる保護シート36がそれぞれ配置されている。
【0078】
組電池23は、各保護シート36およびプリント配線基板24と共に収納容器37内に収納される。すなわち、収納容器37の長辺方向の両方の内側面と短辺方向の内側面それぞれに保護シート36が配置され、短辺方向の反対側の内側面にプリント配線基板24が配置される。組電池23は、保護シート36およびプリント配線基板24で囲まれた空間内に位置する。蓋38は、収納容器37の上面に取り付けられている。
【0079】
なお、組電池23の固定には粘着テープ22に代えて、熱収縮テープを用いてもよい。この場合、組電池の両側面に保護シートを配置し、熱収縮テープを周回させた後、熱収縮テープを熱収縮させて組電池を結束させる。
【0080】
図4、図5では単電池21を直列接続した形態を示したが、電池容量を増大させるためには並列に接続しても、または直列接続と並列接続を組み合わせてもよい。組み上がった電池パックをさらに直列、並列に接続することもできる。
【0081】
また、電池パックの態様は用途により適宜変更される。電池パックの用途は、大電流を取り出したときに優れたサイクル特性を示すものが好ましい。具体的には、デジタルカメラの電源用や、二輪乃至四輪のハイブリッド電気自動車、二輪乃至四輪の電気自動車、アシスト自転車等の車載用が挙げられる。特に、車載用が好適である。
【0082】
プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)およびジエチルカーボネート(DEC)からなる群のうち、少なくとも2つ以上を混合した混合溶媒、またはγ−ブチロラクトン(GBL)を含む非水電解質を用いることによって、高温特性の優れた非水電解質電池を得ることができる。このような非水電解質電池を複数有する組電池を備えた電池パックは、特に車載用に好適である。
【0083】
第3の実施形態によれば、第2の実施形態に係る非水電解質電池を含むため、初期容量、大電流性能及び寿命性能に優れた電池パックを実現することができる。
【実施例】
【0084】
以下、本発明の実施例を説明する。なお、本発明の主旨を超えない限り、以下に記載される実施例に限定されるものでない。
【0085】
(実施例1)
<単斜晶系β型チタン複合酸化物の作製>
まず、モリブデン酸カリウム(K2MoO4)、炭酸カリウム(K2CO3)、とアナターゼ型二酸化チタン(TiO2)を混合してスプレードライ法で繊維状粒子の凝集粒子を作製した後、1000℃で24時間焼成し、純水で洗浄して平均粒径が約10μmの凝集粒子状のプロトン交換前駆体(K2(Ti,Mo)49)を得た。得られたプロトン交換前駆体を1Mの塩酸溶液中に投入し、25℃の環境下で12時間攪拌して、プロトン交換体を得た。
【0086】
得られたプロトン交換体を大気中で350℃、3時間の焼成を施すことによりチタン複合酸化物を合成した。合成したチタン複合酸化物の平均粒径は9.6μmの球状凝集粒子であり、比表面積は12.8m2/gであった。
【0087】
得られたチタン複合酸化物について、以下の条件で広角X線回折を実施した。その結果、図6に示すX線回折パターンが得られ、JCPDS:46−1237に帰属されるTiO2(B)結晶構造を有する単斜晶系β型チタン複合酸化物であることが確認された。
【0088】
また、図6に示すX線回折パターンの24.989°に現れたピークの強度を(110)面に帰属されるピークの強度Aとし、28.638°に現れたピークの強度を(002)面に帰属されるピークの強度Bとしたところ、B>Aの関係が成立していた。
【0089】
<測定方法>
試料を直径25mmの標準ガラスホルダーに詰め、広角X線回折法で測定を行った。以下に測定装置および条件を示す。
【0090】
(1)X線回折装置:Bruker AXS 社製;D8 ADVANCE(封入管型)
X線源:CuKα線(Niフィルター使用)
出力 :40kV,40mA
スリット系:Div. Slit;0.3°
検出器:LynxEye(高速検出器)
(2)スキャン方式:2θ/θ連続スキャン
(3)測定範囲(2θ):5〜100°
(4)ステップ幅(2θ):0.01712°
(5)計数時間:1秒間/ステップ。
【0091】
得られたチタン複合酸化物のMo濃度をICP発光分光法によって測定した。その結果、Mo濃度は0.2質量%であることが確認された。
【0092】
また、SEM観察によって得られたチタン複合酸化物は繊維状粒子(一次粒子)が凝集した球状粒子(二次粒子)であることを確認した。撮影したSEM像において、無作為に抽出した一次粒子10個の平均繊維直径が0.5μmであった。また、SEM観察により無作為に抽出した一次粒子10個それぞれについて、繊維直径に対する繊維長の比(繊維長/繊維直径)を算出し、その平均値である20を求める(繊維長/繊維直径)比とした。
【0093】
<電極の作製>
得られたチタン複合酸化物粉末90質量%と、導電剤としてアセチレンブラック5質量%と、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)5質量%をN−メチルピロリドン(NMP)に加えて混合してスラリーを調製した。このスラリーを厚さ15μmのアルミニウム箔からなる集電体の両面に塗布し、乾燥した。その後、プレスすることにより電極密度が2.0g/cm3の負極を作製した。
【0094】
<液状非水電解質の調製>
エチレンカーボネート(EC)およびエチルメチルカーボネート(EMC)を1:2の体積比率で混合して混合溶媒とした。この混合溶媒に電解質であるLiPF6を1M溶解することにより液状非水電解質を調製した。
【0095】
<ビーカーセルの製造>
作製した電極を作用極とし、対極及び参照極にリチウム金属を用いたビーカーセルを作製し、上述の液状非水電解質を注入してビーカーセルを完成させた。
【0096】
(実施例2)
<単斜晶系β型チタン複合酸化物の作製>
原料に、タングステン酸カリウム(K2WO4)、炭酸カリウム(K2CO3)及びアナターゼ型二酸化チタン(TiO2)を用いる以外は実施例1と同様にしてチタン複合酸化物を合成した。
【0097】
得られたチタン複合酸化物について、広角X線回折を実施した結果、JCPDS:46−1237に帰属されるTiO2(B)結晶構造を有する単斜晶系β型チタン複合酸化物であることが確認された。
【0098】
また、X線回折パターンの24.980°に現れたピークの強度を(110)面に帰属されるピークの強度Aとし、28.631°に現れたピークの強度を(002)面に帰属されるピークの強度Bとしたところ、B>Aの関係が成立していた。
【0099】
得られたチタン複合酸化物のW濃度をICP発光分光法によって測定した。その結果、W濃度は0.3質量%であることが確認された。
【0100】
また、SEM観察によって得られたチタン複合酸化物が繊維状粒子(一次粒子)が凝集した球状粒子(二次粒子)であることを確認した。撮影したSEM像において、無作為に抽出した一次粒子10個の平均繊維直径が0.5μmであった。また、実施例1と同様にして繊維直径に対する繊維長の比(繊維長/繊維直径)を求めたところ、20であった。
【0101】
(実施例3〜10、比較例1)
原料のモリブデン酸カリウム(K2MoO4)、或いはタングステン酸カリウム(K2WO4)の配合比を変える以外は実施例1と同様にしてチタン複合酸化物を合成した。得られたチタン複合酸化物について、広角X線回折を実施した結果、JCPDS:46−1237に帰属されるTiO2(B)結晶構造を有する単斜晶系β型チタン複合酸化物であることが確認された。また、実施例3〜10のX線回折パターンについては、B>Aの関係が成立していた。
【0102】
得られたチタン複合酸化物の添加濃度をICP発光分光法によって測定した。結果を表1に示す。
【0103】
また、SEM観察によって得られたチタン複合酸化物は繊維状粒子(一次粒子)が凝集した球状粒子(二次粒子)であることを確認した。撮影したSEM像において、無作為に抽出した一次粒子10個の平均繊維直径が0.5μmであった。また、実施例1と同様にして繊維直径に対する繊維長の比(繊維長/繊維直径)を求めたところ、20であった。
【0104】
(実施例11〜13)
原料に、タングステン酸カリウム(K2WO4)、酸化ニオブ(Nb25)、炭酸カリウム(K2CO3)及びアナターゼ型二酸化チタン(TiO2)を用いる以外は実施例1と同様にしてチタン複合酸化物を合成した。
【0105】
得られたチタン複合酸化物について、広角X線回折を実施した結果、JCPDS:46−1237に帰属されるTiO2(B)結晶構造を有する単斜晶系β型チタン複合酸化物であることが確認された。また、X線回折パターンについては、B>Aの関係が成立していた。
【0106】
得られたチタン複合酸化物の添加濃度をICP発光分光法によって測定した。結果を表1に示す。
【0107】
また、SEM観察によって得られたチタン複合酸化物は繊維状粒子(一次粒子)が凝集した球状粒子(二次粒子)であることを確認した。撮影したSEM像において、無作為に抽出した一次粒子10個の平均繊維直径が0.5μmであった。アスペクト比(繊維長/繊維直径)を実施例1と同様にして測定したところ、実施例11で15、実施例12及び実施例13で10であった。
【0108】
(実施例14、15)
原料の酸化ニオブ(Nb25)の変わりに酸化バナジウム(V25)または酸化タンタル(Ta25)を用いる以外は、実施例12と同様にしてチタン複合酸化物を合成した。
【0109】
得られたチタン複合酸化物について、広角X線回折を実施した結果、JCPDS:46−1237に帰属されるTiO2(B)結晶構造を有する単斜晶系β型チタン複合酸化物であることが確認された。また、X線回折パターンについては、B>Aの関係が成立していた。
【0110】
得られたチタン複合酸化物の添加濃度をICP発光分光法によって測定した。結果を表1に示す。
【0111】
また、SEM観察によって得られたチタン複合酸化物は繊維状粒子(一次粒子)が凝集した球状粒子(二次粒子)であることを確認した。撮影したSEM像において、無作為に抽出した一次粒子10個の平均繊維直径が0.5μmであった。アスペクト比(繊維長/繊維直径)を実施例1と同様にして測定したところ、いずれも10であった。
【0112】
(比較例2)
<チタン複合酸化物の作製>
まず、酸化モリブデン(MoO2)、炭酸カリウム(K2CO3)及びアナターゼ型二酸化チタン(TiO2)を混合してスプレードライ法で凝集粒子を作製した後、800℃で24時間焼成し、純水で洗浄して平均粒径が約10μmの凝集粒子状のプロトン交換前駆体(K2(Ti,Mo) 49)を得た。得られたプロトン交換前駆体を1Mの塩酸溶液中に投入し、25℃の環境下で12時間攪拌して、プロトン交換体を得た。
【0113】
得られたプロトン交換体を大気中で350℃、3時間の焼成を施すことによりチタン複合酸化物を合成した。得られたチタン複合酸化物について、実施例1と同様な条件で広角X線回折を実施した。その結果、図7に示す広角X線回折パターンが得られ、JCPDS:46−1237に帰属されるTiO2(B)結晶構造を有する単斜晶系β型チタン複合酸化物であることが確認された。
【0114】
また、図7に示すX線回折パターンの24.980°に現れたピークの強度を(110)面に帰属されるピークの強度Aとし、28.631°に現れたピークの強度を(002)面に帰属されるピークの強度Bとしたところ、B<Aの関係が成立していた。
【0115】
得られたチタン複合酸化物の添加濃度をICP発光分光法によって測定した。結果を表1に示す。
【0116】
得られたチタン複合酸化物を用いて比較例1と同様のビーカーセルを作製し、同様の充放電サイクル試験を行った。結果を表1に示す。
【0117】
(比較例3)
酸化モリブデン(MoO2)の代わりに酸化タングステン(WO3)を用いる以外は比較例2と同様にしてチタン複合酸化物を合成した。得られたチタン複合酸化物の広角X線回折測定を実施したところ、図7と類似するX線回折パターンとなり、JCPDS:46−1237に帰属されるTiO2(B)結晶構造を有する単斜晶系β型チタン複合酸化物であることが確認された。比較例3も比較例2と同様にピーク強度はB<Aであった。
【0118】
得られたチタン複合酸化物の添加濃度をICP発光分光法によって測定した。結果を表1に示す。
【0119】
得られたチタン複合酸化物を用いて比較例1と同様のビーカーセルを作製し、同様の充放電サイクル試験を行った。結果を表1に示す。
【0120】
得られた実施例及び比較例のビーカーセルに対して、45℃環境において、充電電圧3Vの1C充電/放電電圧1Vの1C放電の充放電を100回繰返す充放電サイクル試験を行った。初回放電容量に対する100回目の放電容量の比率、すなわち放電維持率(%)を下記表1に示す。
【表1】

【0121】
表1における実施例1〜2及び比較例1〜3の比較により、実施例1〜2の二次電池は、比較例1〜3の二次電池に比べて優れた充放電サイクル性能を有することがわかる。比較例2,3のように第1の元素を含有していても、B<Aであると、充放電サイクル時の容量維持率が、第1の元素を含まず、かつピーク強度がB<Aであるチタン複合酸化物を用いた比較例1よりも低下する。ピーク強度がB<Aであると、第1の元素を添加しても充放電サイクル時の容量維持率は改善されないことが分かった。比較例2で用いたKを含まない酸化モリブデンや、比較例3で用いたKを含まない酸化タングステンは、K2MoO4やK2WO4と異なり、フラックスとして機能し難い。また、比較例2,3では、焼成温度(熱処理温度)が900℃未満の800℃である。比較例2,3の合成は、固相反応に基づくため、結晶成長した繊維が得られず、ピーク強度の関係がB<Aになったと推測される。
【0122】
また、実施例1と実施例3〜6の比較により、第1の元素としてMoを用いる場合、Mo含有量が0.01質量%以上3質量%以下の実施例1,3〜5の容量維持率が、Mo含有量が3質量%を超える実施例6に比して高いことがわかる。
【0123】
実施例2と実施例7〜10の比較により、第1の元素としてWを用いる場合、W含有量が0.01質量%以上3質量%以下の実施例2,7〜9の容量維持率が、W含有量が3質量%を超える実施例10に比して高いことがわかる。
【0124】
さらに、実施例1と実施例11〜15の比較により、実施例11〜15のように第2の元素を含むことにより、より一層優れた充放電サイクル性能を有することがわかる。
【0125】
(比較例4、5)
実施例1及び比較例1において、プロトン交換体の熱処理温度を700℃、3時間とする以外は同様の手法によりチタン複合酸化物を合成した。得られたチタン複合酸化物について、X線回折測定を実施した結果、いずれもアナターゼ型に帰属されるチタン複合酸化物であることが確認された。
【0126】
(比較例6、7)
実施例1及び比較例1において、プロトン交換体の熱処理温度を1000℃、3時間とする以外は同様の手法によりチタン複合酸化物を合成した。得られたチタン複合酸化物について、X線回折測定を実施した結果、いずれもルチル型に帰属されるチタン複合酸化物であることが確認された。
【0127】
比較例4〜7の電池に対して、45℃環境において、充電電圧3Vの1C充電/放電電圧1Vの1C放電を繰り返す充放電サイクル試験を行った。その結果を以下の表2に示す。ルチル型の比較例6、7は両者とも初回充電で容量が得られなかった(充電不能)。また、アナターゼ型の比較例4,5はいずれも初回の充放電はできたものの、充放電10回で容量がほぼ0となってしまい、100回後の容量は0であった。単斜晶系β型以外のチタン複合酸化物においては、比較例4〜7に示すように、充放電サイクル性能向上の効果は得られなかった。
【表2】

【0128】
以上述べた少なくとも一つの実施形態の活物質によれば、Mo及びWのうちの少なくとも一方からなる第1の元素を含み、かつ(1)式を満足する単斜晶系β型チタン複合酸化物を含むため、寿命性能を向上することができる。
【0129】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0130】
1…捲回電極群、2…外装部材、3…負極、4…セパレータ、5…正極、6…負極端子、7…正極端子、21…単電池、24…プリント配線基板、25…サーミスタ、26…保護回路、37…収納容器、51a…骨格構造部分、51b…空隙部分、52…酸化物イオン、53…チタンイオン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mo及びWのうちの少なくとも一方からなる第1の元素を含み、かつ下記(1)式を満足する単斜晶系β型チタン複合酸化物を含むことを特徴とする電池用活物質。
B>A (1)
但し、Aは、前記単斜晶系β型チタン複合酸化物の広角X線回折パターンにおける前記単斜晶系β型チタン複合酸化物の(110)面に帰属されるピークの強度で、Bは、前記広角X線回折パターンにおける前記単斜晶系β型チタン複合酸化物の(002)面に帰属されるピークの強度である。
【請求項2】
前記単斜晶系β型チタン複合酸化物は、V、Nb及びTaからなる群より選ばれる少なくとも1種の第2の元素を含むことを特徴とする請求項1記載の電池用活物質。
【請求項3】
前記単斜晶系β型チタン複合酸化物の前記第1の元素の含有量は、0.01質量%以上3質量%以下の範囲であることを特徴とする請求項1または2記載の電池用活物質。
【請求項4】
前記単斜晶系β型チタン複合酸化物の前記第2の元素の含有量は、0.01質量%以上10質量%以下の範囲であることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載の電池用活物質。
【請求項5】
前記単斜晶系β型チタン複合酸化物は、繊維状粒子の凝集体であり、前記繊維状粒子は、平均繊維直径が1nm以上10μm以下であり、かつ繊維直径に対する繊維長の比(繊維長/繊維直径)が20以下であることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載の電池用活物質。
【請求項6】
正極と、
請求項1〜5いずれか1項記載の電池用活物質を含む負極と、
非水電解質と
を含むことを特徴とする非水電解質電池。
【請求項7】
請求項6記載の非水電解質電池を含むことを特徴とする電池パック。
【請求項8】
前記非水電解質電池の電圧が検知可能な保護回路をさらに含むことを特徴とする請求項7記載の電池パック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−62183(P2013−62183A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200873(P2011−200873)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】