説明

電池電極およびその製造方法

ペースト用テキスタイル、繊維、すなわちスクリムを有する電池電極が、電極グリッド(例えば、打抜グリッドまたはエキスパンドメタルグリッド)を電池電極で被覆し、結合された不織繊維網で形成されたペースト用テキスタイルで覆われて作製される。この網は、平均長さが20μmより大きい1つまたは複数の繊維から形成される。様々な実施形態において、網は1つまたは複数の紡いだ連続繊維から形成される。電池電極は連続プロセスで作製され、1枚のシートに複数のグリッドが形成され、それに電極用活物質が被覆され、次にスクリムで覆われた後に裁断されて個別の電極となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2009年2月26日に出願された米国仮特許出願第61/155,763号の優先権を主張するものであり、その開示全体が参照により本明細書中に取り込まれる。
【0002】
本発明は、電池(例えば、車両の始動、点灯、および点火用の電池、船舶用電池、商業用電池、産業用電池、ハイブリッド電気車両やマイクロハイブリッド車両で使用するための電池などの鉛蓄電池)の分野に関する。本発明は特に、ペースト用テキスタイルすなわちスクリムを含む電極または極板、または、別の形で、その上にペースト用テキスタイルすなわちスクリムを備える電極または極板に関する。
【背景技術】
【0003】
活物質がグリッドと電極または極板から剥離するのを防ぎ、および/または電池用の電極または極板の製造時に活物質を容易に扱えるようにするために、グリッド基板上に活物質を堆積した後にその支持体としてペースト用材料またはペースト紙を供給することは知られている。また、ポリエステル、ポリプロピレンやビスコースレーヨンでできたペースト用材料を紙の代わりに活物質中に埋め込んで、剥離や取り扱い上の問題を防止ないしは低減することも知られている。そのようなペースト紙や繊維では実現できない、ある種の利点(および/または特徴の組合わせ)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許公開第4342343号
【特許文献2】欧州特許公開第0109588号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
基本的利点およびその他の利点の概略
【0006】
本発明で開示するような電池、電極、および/またはペースト用テキスタイルすなわちスクリム等は、以下に述べる利点またはそれ以外の利点の任意の1つまたは複数を備えることが望ましい。
1.従来のペースト用材料よりも酸の輸送特性が改良されたペースト用テキスタイル
2.従来のペースト用材料よりも電極の活物質への接着性が勝れたペースト用テキスタイル
3.従来のペースト用材料よりも強化された毛管作用を可能とするペースト用テキスタイル
4.従来のペースト用材料よりも優れた極板の強度および/または完全性(integrity)を提供するペースト用テキスタイル
5.導電率と静電容量を向上させた電極
6.正極、負極の高速連続製造時に利用できるペースト用テキスタイル
7.従来のペースト用材料に比べて、フラッシュ乾燥および/またはオーブン乾燥の温度が低くてよい(200〜400°F)材料特性を持つペースト用テキスタイル
8.より高速の極板製造ラインで利用でき、生産ラインの中断と故障を低減するペースト用テキスタイル
9.極板の硬化と乾燥プロセスを短縮し、および/または硬化時間を短縮できる材料特性を有するペースト用テキスタイル
10.従来のペースト用材料に比べて酸化反応を強化するペースト用テキスタイル
11.活物質の保持性を増し、活物質の脱落を制限することにより、サイクル性能を改良したペースト用テキスタイル
12.サイクル用途において特定のガラスマットセパレータをなくせる、ペースト用テキスタイル
13.電極と電池の鉛の低減(例えば、薄いグリッドの使用により)を可能とするペースト用テキスタイル
14.より高いリザーブキャパシティ(“RC”)を実現する電極
15.より高いサイクル数または20時間率容量(C20容量)を実現する電極
16.ストップ/スタートやマイクロハイブリッド用途を含む種々の用途において、酸の層状化(ストラティフィケーション)を緩和するペースト用テキスタイル
17.電池の使用寿命を延ばすペースト用テキスタイル
18.空気中を浮遊する鉛粒子とそれ以外の露出鉛の生成を低減し、および/または鉛の空気中放出と、従来のペースト紙で多く見られた潜在的な火災リスク(例えばバグハウス火災)を低下させることにより、製造プロセスを改良するペースト用テキスタイル
19.電池電極における生成効率と活物質変換を向上させるペースト用テキスタイル
20.電池のスクラップを低減し(例えば、従来型のペースト用材料の使用に起因するキャストオンストラップ溶接干渉でスクラップ化する必要のある電池の数を減少させることにより)、および/またはスクラップの回収率を向上させる、ペースト用テキスタイル
21.上記の1つまたは複数の利点に繋がり、従来の電池製造システムおよびプロセスに接続して使用可能な、従来型ペースト用材料の置き替えまたは代替
22.従来型のペースト紙とガラスマットセパレータの両方の代わりとなるペースト用テキスタイル
23.リザーブキャパシティを改善するペースト用テキスタイル
24.材料コスト、処理速度、清浄度に関連する製造コストを低減するペースト用テキスタイル
25.スタッカのダウンタイムとメンテナンス遅延を低減した製造を可能とするペースト用テキスタイル
26.従来の鉛蓄電池が達成しうる水準よりも高いサイクル仕様の用途への鉛蓄電池の使用を可能とするペースト用テキスタイル
【課題を解決するための手段】
【0007】
一つの例示的実施形態は、グリッドと、グリッド上に与えられた活物質と、活物質上または活物質中に与えられたペースト用テキスタイルと、を備える電池電極に関し、ここで、ペースト用テキスタイルは、平均長さが20μmよりも大きい1つまたは複数の繊維を含んだ繊維網を含み、繊維は、一本当り約2デニールより大きい。
【0008】
別の例示的実施形態は、長さと幅のあるグリッドと、グリッド上に与えられた活物質と、活物質上または活物質中に与えられたペースト用テキスタイルと、を備える電池電極に関し、ここで、ペースト用テキスタイルは、グリッドの長さと幅の合計の約半分の平均長さを有する1つまたは複数の繊維を含む繊維網を含む。
【0009】
別の例示的実施形態は、周縁を有するグリッドと、グリッド上に与えられた活物質と、活物質上または活物質中に与えられたペースト用テキスタイルと、を備える電池電極に関し、ここで、ペースト用テキスタイルは、第1の端と第2の端を有する1つまたは複数の繊維を含んだ繊維網を含み、各繊維の第1の端は、グリッドの周縁付近に実質的に位置する。
【0010】
別の例示的実施形態は、電池電極の製造方法に関し、この方法は、鉛のシートを準備し、鉛シートを打ち抜いて1つまたは複数のグリッドを形成し、1つまたは複数のグリッドに活物質を付与し、紡いだ連続繊維でペースト用テキスタイルを形成し、1つまたは複数のグリッドのシート表面上にペースト用テキスタイルを付与し、その上に活物質とペースト用テキスタイルを備えた1つまたは複数のグリッドのシートを切断する、ことを含む。
【0011】
本発明によるシステムおよび方法の種々の実施形態におけるこれらおよびその他の特徴と利点は、本発明による種々の装置、構造、および/または方法の、さまざまな例示的実施形態の以下の詳細な記述において説明され、またはそれから明らかとなる。
【0012】
本発明によるシステムおよび方法のさまざまな例示的実施形態が、以下の図面を参照して詳細に記述される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】一つの例示的実施形態による電池を有する車両の等角図である。
【図2】一つの例示的実施形態による電池の一部の展開切欠き等角図である。
【図3】一つの例示的実施形態による打ち抜きグリッドと活物質を備える電池極板すなわち電極(例えば電池の正極板)の一部の正面切欠図である。
【図4】一つの例示的実施形態による打ち抜きグリッド(例えば正極グリッド)の正面図である。
【図5】一つの例示的実施形態による電池極板すなわち電極(例えば電池の負極板)とセパレータの等角展開切欠図である。
【図6】一つの例示的実施形態によるグリッドと活物質とペースト用テキスタイルすなわちスクリムとを備える電池極板すなわち電極(例えば電池の正極板)の正面切欠図である。
【図7】図6に示すペースト用テキスタイルを約10倍に拡大した詳細図である。
【図8】図7に示すペースト用テキスタイルの一部の詳細図である。
【図9】第2の例示的実施形態によるペースト用テキスタイルすなわちスクリムの10倍拡大図である。
【図10】図9に示すペースト用テキスタイルの一部の詳細図である。
【図11】第3の例示的実施形態によるペースト用テキスタイルすなわちスクリムの10倍拡大図である。
【図12】図11に示すペースト用テキスタイルの一部の詳細図である。
【図13】第4の例示的実施形態によるペースト用テキスタイルすなわちスクリムの10倍拡大図である。
【図14】図13に示すペースト用テキスタイルの一部の詳細図である。
【図15】第5の例示的実施形態によるペースト用テキスタイルすなわちスクリムの10倍拡大図である。
【図16】図15に示すペースト用テキスタイルの一部の詳細図である。
【図17】第6の例示的実施形態によるペースト用テキスタイルすなわちスクリムの10倍拡大図である。
【図18】図17に示すペースト用テキスタイルの一部の詳細図である。
【図19】第7の例示的実施形態によるペースト用テキスタイルすなわちスクリムの10倍拡大図である。
【図20】図19に示すペースト用テキスタイルの一部の詳細図である。
【図21】第8の例示的実施形態によるペースト用テキスタイルすなわちスクリムの10倍拡大図である。
【図22】図21に示すペースト用テキスタイルの一部の詳細図である。
【図23】一つの例示的実施形態によるペースト用テキスタイルすなわちスクリムを含む電極を利用した電池のストップスタートサイクル容量を、従来型のペースト紙を含む電極の場合と比較したグラフである。
【図24】正極(一つの例示的実施形態によるペースト用テキスタイルすなわちスクリムを含む)と従来型のポリエチレンセパレータを備える電池と、正極(従来型ペースト紙を含む)と従来型のガラスマットセパレータを備える電池の繰り返しリザーブキャパシティのサイクルを比較したグラフである。
【図25】正極(一つの例示的実施形態によるペースト用テキスタイルすなわちスクリムを含む)と従来型のポリエチレンセパレータを備える電池と、正極(従来型ペースト紙を含む)と従来型のガラスマットセパレータを備える電池のリザーブキャパシティを比較したグラフである。
【図26】正極(一つの例示的実施形態によるペースト用テキスタイルすなわちスクリムを含む)と従来型のポリエチレンセパレータを備える電池と、正極(従来型ペースト紙を含む)と従来型のガラスマットセパレータを備える電池のC20容量を比較したグラフである。
【図27】正極(一つの例示的実施形態によるペースト用テキスタイルすなわちスクリムを含む)と従来型のポリエチレンセパレータを備える電池と、正極(従来型ペースト紙を含む)を備える高サイクル設計の電池とのライフサイクルテスト結果を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図面は必ずしも寸法通りとなっていないことを理解されたい。場合によっては、本発明を理解するのに不必要な、または他の詳細の読み取りを難しくする細部は省略した。本発明はここに図示した特定の実施形態に必ずしも限定されるものではないことは勿論であることを理解されたい。
【0015】
図1には、一つの例示的実施形態による電池100を含む車両140が示されている。車両140は自動車として示されているが、さまざまな他の実施形態によれば、車両には、特にオートバイ、バス、RV車、ボートなどを含む多岐にわたる車両が含まれてもよい。一実施形態によれば、車両140は移動目的に内燃エンジン(図示せず)を利用する。
【0016】
図1の電池100は、車両140および/または様々な車両システムの始動や運転に必要な動力の少なくとも一部を提供するように構成されている(例えば、始動(starting)、照明(lighting)、点火(ignition)システム(“SLI”)など)。さらに、様々な例示的実施形態によれば電池100は車両を含まない種々の用途に利用することが可能であり、それらのすべての用途は本発明の範囲内であることが意図されていることを理解されたい。
【0017】
図1に示す電池100は、任意の種類の二次電池(例えば、充電可能な電池)を含んでよい。一つの例示的実施形態によれば、電池100は鉛蓄電池を含む。鉛蓄電池の様々な実施形態は、密封型(例えばメンテナンスフリー型)か非密封型(例えば液式型)かのいずれかである。
【0018】
一つの例示的実施形態による電池100が図2に示されている。様々な実施形態において、電池100は電解液を含む容器すなわち筐体110の分離された隔室に備えられたセル要素を幾つか含んでいる。この図は自動車への用途に関するものであり、12〜16枚の極板104、105のグループがそれぞれのスタック107を構成し、そのスタック6つが標準的な自動車用12V電池を形成している。この明細書を読めば、個別の極板104、105の寸法と数と、特定のスタック107における極板104、105の寸法と数と、電池100を構成するスタック107の数とは、所望の最終利用目的によって大きく変化することが、当業者には明らかであろう。
【0019】
様々な実施形態において、電池の筐体110は箱状の基体すなわち容器を含み、かつ少なくとも部分的にはモールド成形可能な樹脂でできている。複数のスタック107、つまり極板のブロックが、鉛蓄電池の容量に応じて直列に接続され、通常は硫酸水溶液である電解液と共に、電池の容器つまり筐体110の中に収納される。
【0020】
様々な実施形態において、電池100は前壁、側壁、後壁、底壁を有する隔室を備えている。様々な実施形態において、側壁と側壁の間に5つのセルパーティションすなわち仕切りが設けられて、6つの隔室が形成されており、これが通常の12Vの自動車用電池である。他の実施形態では、パーティションと隔室の数が変わって、異なる電圧の電池を形成する。様々な実施形態において、各隔室内には極板のブロックつまりスタック107があり、極板のブロックつまりスタック107には、それぞれが少なくとも1つの耳(lug)103を有する1つまたは複数の正極板104と負極板105と、各正極板104と負極板105の間に配置されて設けられたセパレータ106がある。様々な例示的実施形態において、正極板104と負極板105には、耳103が取り付けられたグリッド101と102が含まれていて、そこにはそれぞれ正極用または負極用の活物質すなわちペーストが被覆されている。
【0021】
筐体110にはカバー111が備えられ、様々な実施形態では、カバー111に、電解液をセルに追加し供用できるようするための端子ブッシュと注入チューブとが含まれる。注入チューブから電解液が漏れ出るような望ましくない状況を防止し、かつ電気化学反応において生成されるガスを排出するために、電池には1つまたは複数の注入口キャップおよび/またはベントキャップアセンブリも含まれていてもよい。
【0022】
少なくとも1つの正極端子108と負極端子109が電池の上部または前部付近にある。これらの端子108、109は一般的に、電池のデザインに依存して電池筐体110のカバー111、および/または前面から突き出た部分を含んでいる。様々な実施形態において、端子108、109は、酸の漏洩を防ぐための端子シールアセンブリ(図示せず)を通して延びている。当分野で周知の上部、側部、またはコーナ部への構成を含め、様々な端子構成が可能であることは理解されるであろう。
【0023】
図2には通常のキャストオンストラップ112も示されており、これは極板セットのそれぞれの耳部を電気的に接続するのに十分な長さを有する長方形の細長い本体部と、丸い先端を持ち上方向に延伸する部材とを含んでいる。図2には、負極端子に接続されるキャストオンストラップ接合用の耳部も示されている。図2に示すように、様々な実施形態に従って、キャストオンストラップは、端部隔室においてそれぞれの耳部と接続する本体部と、カバーの上に突き出る一体形成された端子とを含んでいる。
【0024】
各セル要素すなわちチャプタは、少なくとも1つの正極板104と、少なくとも1つの負極板105と、各正極板104と負極板105との間に位置するセパレータ106とを含む。セパレータ106は極板間に設けられ、短絡や、電池100内での反応中に望ましくない電流が生成されることを防止する。
【0025】
正極板104と負極板105は、その製造方法により種々のタイプに分類することができる。一例として、ペースト型電極を図3〜5に示す。様々な実施形態において、ペースト型電極は、グリッド基板と、その基板上に付与される電気化学的な活物質すなわち“ペースト”116とを含む。グリッドは、基板の機械的強度を増すために僅かにカルシウムを含む軟性合金でできていてもよい。
【0026】
図3〜5を参照すると、正極板104と負極板105はそれぞれ、電気化学的活物質116を支持する鉛および/または鉛合金のグリッド113および/または115を含む。グリッド113および/または115は、電流の担い手である、正または負の活物質すなわちペースト116の間の電気的接触を提供する。グリッド113および/または115はまた、電池極板104および/または105の製造時に、堆積またはその他の方法で付与される電気化学的活物質116(例えばペースト)を支持するための基板としての役目もする。
【0027】
詳細を以下で述べるように、鉛蓄電池のグリッド作製の周知の技術としては、(1)ブックモールド方式重力鋳造などのバッチ工程と、(2)ストリップエクスパンション、ストリップスタンピング、連続鋳造、連続鋳造後の圧延などの連続工程、とがある。これらの工程で製造されるグリッドは、それぞれの工程に固有な特徴的な性質を持ち、鉛蓄電池における挙動が異なる傾向がある。これは、特にペースト処理工程に関して言える。グリッドとしては、従来または最近の任意のグリッド製造工程により製造されたものを利用できることは理解されるであろう。そして本発明はここに開示したグリッドの設計に限定されるものではない。
【0028】
様々な実施形態において、少なくともグリッドのうち、あるものは打抜グリッド113である。図3は活物質つまりペースト116を備えた打抜グリッド113(例えば正極板用のグリッド)の一つの例示的実施形態である。図4は図3の打抜グリッドであり、活物質を取り除いた状態を示している。様々な実施形態において、打抜グリッド113は、上枠要素、第1の側枠要素、第2の側枠要素、および底枠要素を含む枠を備えている。さまざまな実施形態において、打抜グリッド113は、電流を発生させる活物質つまりペースト116を保持する空間領域を画定するグリッドワイヤ114を含んでいる。様々な実施形態において、集電用の耳103が上枠要素と一体になっている。図3〜4では耳103は上枠要素の中心から外れているように描かれているが、そのかわりに耳103が中心にあってもよいし、または、第1の側枠要素または第2の側枠要素のいずれかの近くにあってもよい。上枠要素は、少なくとも耳の直下部分が拡大された導電部分を持っていて、耳へ向かう電流を最適化するようになっていてもよい。
【0029】
底枠要素には1つまたは複数の下に延びる脚(図示せず)が形成されていて、打抜グリッドのその他の部分を電池容器の底から離すようになっていてもよい。様々な実施形態において、グリッドワイヤ114のうち少なくともあるものは、底から上に向かう長さ方向に沿って断面積が増えるか傾斜のついた形状となっていて、底部から上部に向かって増加する生成電流が通りやすくなるようにワイヤ114の電流搬送容量が最適化されている。第1の側枠要素と第2の側枠要素との間のワイヤ114の幅と間隔は、打抜グリッド113の幅方向にわたって実質的に電位が等しい点が存在するように前もって決められる。電気化学的ペーストを支え、および/またはペーストのペレットが形成されるようにするために、さまざまな実施形態においては打抜グリッド113に、上枠要素および/または底枠要素と平行で等間隔に離れた水平方向のワイヤも含まれている。ただし、図3〜4に示すように、水平ワイヤのうち少なくともあるものは上枠要素および/または底枠要素に対して等間隔でも平行でもないかもしれない。
【0030】
色々な種類の打抜グリッドの形状が用いられる。例えば、米国特許第5,582,936号、第5,989,749号、第6,203,948号、第6,274,274号、第6,921,611号、第6,953,641号、および米国特許出願第10/996,168号、第11/086,525号、第10/819,489号、第60/904,404号を参照されたい。これらはすべて参照によりその全体がここに組み込まれるものとする。無限の数のグリッド設計が利用可能であり、従って、以下の説明は本発明を、説明のために示した図3〜5のグリッド設計に限定することを意図するものではないことは理解されたい。
【0031】
エキスパンドメタルグリッド115(例えば負極板用のグリッド)の一つの例示的実施形態を図5に示す。様々な実施形態において、エキスパンドメタルグリッドは、当業界において周知のように、1つのパターン(例えば図5に示すようなダイアモンドパターンなど)をしていて、底枠要素と、耳と一体の上枠要素とを有している。
【0032】
図3〜5を参照すると、グリッドワイヤの断面はグリッドの製造プロセスにより変わり得る。しかし、電池ペーストの接着性を改善するために、様々な実施形態においてグリッドワイヤが機械的に整形または再仕上げされることがある。好適なペースト接着特性が与えられる形状でありさえすれば、いかなる数のグリッドワイヤ形状が使用されてもよいことは理解されるであろう。例えば、ワイヤの断面は、略楕円形、略長方形、略ダイアモンド形、略菱形、略六角形、および/または略八角形を含む任意の断面形状であってよい。電池グリッドにおいて、各グリッドワイヤ部分が異なる断面構成となっていてもよいし、あるいは各グリッドワイヤ部分が同一ないしは類似の断面構成となっていてもよい。ただし、各グリッドワイヤ部分が同一の断面形状となっていることが好ましい。必要に応じて、グリッドは、垂直ワイヤ要素のみ、または水平ワイヤ要素のみ、または垂直と水平の両方のワイヤ要素を変形されることもある。
【0033】
活物質すなわちペースト116は、一般的に鉛ベースの材料(例えば、電池の充電/放電の異なる段階において、一酸化鉛PbO、二酸化鉛PbO、鉛Pb、硫酸鉛PbSOなど)であり、それが貼り付け、堆積、またはそれ以外の方法でグリッド上に付与される。ペーストの組成は、当技術分野で周知のように、必要とする電力、コスト、電池の使用環境などにより決定される。様々な実施形態において、鉛蓄電池の活物質116は、鉛酸化物と硫酸と水を混合して準備される。鉛酸化物は硫酸と反応して、1、3、および/または4塩基性の鉛硫化物を形成する。繊維やエキスパンダ等の、乾式添加物が活物質に添加されてもよい。例えば様々な実施形態において、微粉化されたカーボン(例えば油煙やカーボンブラック)、バリウム硫化物、および種々のリグニン等のエキスパンダが活物質中に含まれてもよい。様々な実施形態において、その混合物を乾燥した後に水を再添加して所望の粘稠度のペーストを形成する。
【0034】
正極グリッド上に与えられた活物質(例えば、二酸化鉛[PbO])は、通常微粒子状になっており、従って、電解液が、正極板上の二酸化鉛微粒子を通って拡散、浸透することができる。負極板の活物質である、スポンジ状の鉛は通常多孔質で反応性が高く、従って電解液は、負極板上のスポンジ鉛を通って拡散、浸透することができる。
【0035】
次に図6を参照すると、これはグリッド101と活物質116とペースト用テキスタイル、繊維、すなわちスクリム120とを含む電池極板すなわち電極の切欠き図であるが、様々な実施形態においては、ペースト用テキスタイル、繊維、すなわちスクリム120は、グリッド101上に付与された活物質116の表面の内部または上部に設けることができる。様々な実施形態によるペースト用テキスタイルすなわちスクリム120が、拡大されて図7〜22に示されている。様々な実施形態において、ペースト用テキスタイルすなわちスクリム120は、接着された、不織布網を含んでもよい。より具体的には、ペースト用テキスタイルすなわちスクリム120は、繊維が点結合された、不織布網を含んでもよい。点結合は、ペースト用スクリム材料の活物質への接着性を改善する効果がある。ただし、ペースト用テキスタイルが不織布である必要はなく、織物、ゆるい織物、編み物などであってもよいことは理解されたい。また、ペースト用テキスタイルは接着されなくてもよい。様々な実施形態において、ペースト用テキスタイルすなわちスクリム120は、湿式の漉き処理を利用して製造される。
【0036】
様々な実施形態において、ペースト用テキスタイルすなわちスクリム120は、厚さが0.06mm〜5mm、好ましくは0.06mm〜0.5mm、もっと好ましくは0.06mm〜0.25mmである。しかしながら、当業者であれば理解されるように、ペースト用テキスタイルの厚さは、意図する用途と、コールドクランキングアンペア、サイクリングすなわち20時間率容量、またはリザーブキャパシティ等の、電池の所望の性質とに部分的に依存する。
【0037】
様々な実施形態において、ペースト用テキスタイルすなわちスクリム120は、従来のペースト紙の代わりに使用されてもよい。別の実施形態において、ペースト用テキスタイル(例えば不織布材料すなわちスクリム)が従来のペースト紙に積層、またはそれ以外の方法で付与されて、そのようなペースト紙を利用する電極、またはそのようなペースト紙を利用する電極を用いた電池の、特性および性質を改良する。前述したものよりもさらに薄いペースト用テキスタイルすなわちスクリムが、ペースト紙に積層、結合、またはそれ以外の方法で付与されて利用されてもよいことも理解されるであろう。
【0038】
様々な実施形態において、ペースト用テキスタイルは従来のペースト紙または材料と共に、またはそれに加えて使用されてもよい。例えば、様々な実施形態において、ペースト用テキスタイルすなわちスクリムは、正極のみに関して従来のペースト用材料の代わりに利用されてもよい。他の様々な実施形態において、ペースト用テキスタイルすなわちスクリムは、負極のみに関して従来のペースト紙の代わりに利用されてもよい。ペースト用テキスタイルすなわちスクリムが1つの種類の電極(例えば正極または負極)だけに関して従来のペースト紙の代わりに用いられ、そして、従来のペースト紙または材料が、もう一方の種類の電極に関して用いられる場合は、ペースト用テキスタイルすなわちスクリム120と従来のペースト紙または材料との視覚的な違いが、製造時に正極と負極との区別を容易にし、電極の混同と不注意による誤認識(例えば、負極を正極とする、またその逆の取り違え)を減らすことができる。
【0039】
複数の種類の電極(例えば、正極と負極)に関して、ペースト用テキスタイルすなわちスクリムを従来のペースト紙の代わりに用いる様々な実施形態において、1つの電極(例えば正極)に関して用いられるペースト用テキスタイルがもう一方の種類の電極((例えば負極)に用いられるペースト用テキスタイルとは(例えば異なる着色または彩色により)視覚的に異なっていてもよく、正極と負極との識別を容易にし、それによりそれらの電極の混同や不注意による誤認識を減少させることが可能である。
【0040】
様々な実施形態において、ペースト用テキスタイルすなわちスクリム120は、約0.15〜約2.0オンス/平方ヤード(約4.25〜56.7g/m)の重量範囲すなわち密度範囲を有する。ここで厚さの場合と同様に、ペースト用テキスタイルの好適な重量すなわち密度範囲は、意図する適用方法と、コールドクランキングアンペア、サイクリングすなわち20時間率容量、またはリザーブキャパシティ等の所望の性能特性とに部分的に依存する。様々な実施形態において、重量範囲または密度の選択は、ペースト用テキスタイルと、本来のままの活物質との間の結合の性質も変化させる可能性もある。様々な実施形態において、重量または密度範囲は、従来の製造工程と、電極を従来の電池製造の工程、システムおよび装置を利用して容易かつ経済的に製造しなければならないという制約とに依存する。
【0041】
様々な実施形態において、ペースト用テキスタイル120は主として繊維またはマイクロファイバで構成される。様々な実施形態において、繊維またはマイクロファイバは、ポリエステル、ポリプロピレン、ビスコースレーヨン、ポリアミド(例えばナイロン)等の、1つまたは複数の熱可塑性樹脂から造られる。
【0042】
様々な実施形態において、ペースト用テキスタイル120は紡がれた連続繊維から造られる。紡がれた連続繊維を利用することで、酸の輸送と、ペースト用テキスタイル120の活物質116への接着が改良される。さらに、連続単繊維を使用することで、そのような繊維で形成されたペースト用テキスタイル120は、繊維が概して面内にある、つまりペースト用テキスタイルすなわちスクリム120の面と平行になるために、向上した機械的性質を示す。
【0043】
しかしながら、当業者であれば、ペースト用テキスタイルは、短繊維またはカット繊維を含む複数の繊維で作られ得ることが理解されるであろう。様々な実施形態において、短繊維またはカット繊維は長さが異なり、通常1.5mm〜15mmの範囲の長さを有する。しかしながら、繊維は任意の好適な長さであってもよいことは理解されたい。しかし、様々な実施形態において、短繊維またはカット繊維の平均長さは、20μmよりも大きい。
【0044】
様々な実施形態において、繊維またはマイクロファイバは通常丸い断面形状をしている。様々な実施形態において、繊維の直径は10μm〜25μmである。様々な実施形態において、繊維は、一本当りのデニールが1〜10、好ましくは2〜4の範囲にある。様々な例示的実施形態において、繊維は、約2より大きく、10以下のデニールを有する。別の実施形態においては、繊維は、約2より大きく、4以下のデニールを有する。様々な実施形態において、繊維の表面はほぼ平滑であり、テキスチャはほとんどないか、全くない。他の様々な実施形態において、繊維は他の断面形状を有する。
【0045】
繊維はまた、混紡すなわち複数の成分を含んでもよい。例えば、繊維が種々の共重合体の混紡となっていてもよい。様々な実施形態において、繊維は2成分の芯鞘型繊維でできている。他の実施形態では、繊維はホモ重合体つまり単独重合体である。ある実施形態において、繊維またはマイクロファイバは、カーボンベースである(即ち、純カーボンであるかまたは、カーボンブラック、黒鉛、膨張黒鉛、ナノチューブ、ナノファイバ、アセチレンブラック、及びそれらの派生物を無制限に含む他のタイプのカーボンを含む)。繊維またはマイクロファイバは、純カーボンおよび/または他のタイプのカーボン、または、任意の割合の純カーボンおよび/または他のタイプのカーボン、でできていてもよい。
【0046】
様々な実施形態において、ペースト用テキスタイルすなわちスクリムは、化成時に活物質の変換を助ける、二酸化チタン(TiO)、黒鉛、カーボンブラックなどを含む1つまたは複数の添加物と共に装着される。様々な実施形態において、ペースト用テキスタイル、材料、スクリム、および/または繊維は化学的に処理される。様々な実施形態において、ペースト用テキスタイルまたは繊維は、カーボン処理すなわち含浸されてもよい。様々な実施形態において、ペースト用テキスタイルまたは繊維は、二酸化チタン(TiO)、シリカ、粘土、タルク、酸化物などのつや消し剤で処理されてもよい。つや消し剤で処理することにより、ペースト用テキスタイルまたは繊維には、表面粗さ、またはテキスチャが出てきて、活物質への付着が改善され、および/またはペースト用テキスタイルまたは繊維の濡れ性が改善される。さらに、ペースト用テキスタイルまたは繊維は、濡れ性を強化するために、水溶性シリコンなどの界面活性剤または湿潤剤を含んでもよい。
【0047】
様々な実施形態において、ペースト用スクリムすなわちテキスタイルは、単一の連続繊維から網を生成し、それを所望の形と寸法に切断して形成される。そのような実施形態において、網から切断された後のペースト用テキスタイルの繊維の平均長さは、ペースト用テキスタイルの長さと幅の平均にほぼ等しい。様々な実施形態において、ペースト用スクリムすなわちテキスタイルは、電池電極上で1工程で化成されてもよいし、別工程で化成しておいてそれを次の工程で電極板状に被覆してもよい。ペースト用テキスタイルすなわちスクリムが電極板状で化成される実施形態においては、ペースト用テキスタイルすなわちスクリムは、ペーストの付与されたグリッドシートまたは、シートが個々のペースト付きグリッドすなわち極板に切断される前の極板に供給される。
【0048】
再び図5を参照すると、様々な実施形態において、1つまたは複数の電池セパレータ106が正極と負極との間の電導を遮断するために用いられる。セパレータ材料は一般的には微小孔性であり、正極および負極からイオンが貫通できる。自動車電池用のセパレータは一般的には連続体として形成されて巻き取られている。それを図5に示すように折曲げて、1つまたは複数の端部に沿って密封して袋状としてその中に電極(例えば図5に示すように負極板、または図2に示すように正極板)を入れる。
【0049】
様々な実施形態において、セパレータ材料は通常、ほぼ均一な厚さと、ほぼ均一な微細孔分布を有する。微細孔が分布していることにより、運転時に全体として均一な電流密度が確保され、その結果電極の均一な充放電と電池効率の最大化の達成が支援される。セパレータ106は通常1つまたは複数のリブ(例えば図5に示されているような)を含み、セパレータの剛性を上げる役目を果たす。
【0050】
様々な例示的実施形態において、繊維スクリム布は、従来のペースト紙とセパレータ(例えばガラスマットセパレータ)の両方を1枚のシート状物質で置き換える。一つの例示的実施形態に従って構成される電池は、従来の基本的電池(baseline batteries)に比べてリザーブキャパシティが顕著に改良される。電池の環境条件下で分解するペースト紙をなくすことで、材料コストが減少し、製造スピードが向上し、かつ製造工程の清浄度が向上する(例えばペースト紙からの塵がなくなる)。ガラスマットセパレータをなくすことで、製造装置のダウンタイムとメンテナンスによる遅延が減少する。
【0051】
従来の鉛蓄電池は、マイクロハイブリッド車のサイクル仕様に対応できない。しかし、本実施形態に従う、従来のペースト紙とセパレータを繊維スクリム布で置き換えた鉛蓄電池は、従来の鉛蓄電池では対応できないマイクロハイブリッド車用のスタートストップ用途などの高サイクル仕様下での運転が可能である。
【0052】
セパレータ材料は種々の材料(例えば、ポリオレフィン、ゴム、フェノールーホルムアルデヒド レゾルシノール、ガラスマット、微小孔性PVC、および焼結PVC)で構成される。様々な実施形態において、セパレータ106は分子量の大きいポリオレフィンから成る微小孔性シートで構成される。使用されるポリオレフィンの例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレンープロピレン共重合体、エチレンーブテン共重合体、プロピレン−ブテン共重合体、およびエチレンープロピレン−ブテン共重合体、などがある。
【0053】
様々な実施形態において、セパレータ106は少なくとも1つの可塑剤も含む。可塑剤は、水溶性であっても水に不溶であってもよい。使用される可塑剤の例としては、有機エステル、エポキシ化合物、リン酸塩エステル、炭化水素材料、および低分子量ポリマ、等がある。
【0054】
様々な実施形態において、セパレータ106は不活性充填剤材料も含有する。充填剤は、水溶性であっても水に不溶であってもよい。ただし、充填剤の第1の役割は、任意の可塑剤を吸収し、組成を保持して、可塑剤に溶融されないようにすることである。好適な充填剤は、微粉化された乾燥シリカである。ただし、その他の充填剤(例えば、カーボンブラック、炭塵、黒鉛、金属の酸化物と水酸化物、金属炭酸塩、ミネラル、ゼオライト、沈降金属ケイ酸塩、アルミナシリカゲル、木粉、木質繊維と樹皮製品、ガラス粒子、バリウム硫酸塩・無機塩・酢酸塩・硫酸塩・リン酸塩・硝酸塩・炭酸塩などの塩、および/またはこれらの組合わせなど)も利用できる。また、充填剤の濡れ性を向上させるために、既知または最新開発の湿潤剤(例えば、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、スルホコハク酸ジオクチルナトリウム、イソクチルフェニルポリエトキシエタノールなど)も利用可能であることを理解されたい。
【0055】
様々な実施形態において、セパレータ106は安定剤または酸化防止剤を含んでいる。様々な実施形態において、従来の安定剤または、4,4’−チオビス(6−tert−ブチル−m−クレゾール)(“Santonox”)や 2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール (“Ionol”) 等の酸化防止剤を用いてもよい。
【0056】
セパレータに1つまたは複数のリブが設けられている場合、リブは幾つかの既知または最新開発のポリマ組成(例えば、セパレータと同一組成、その他のポリオレフィン、塩化ポリビニル、および/またはそれらの充填組成、発泡組成など)でできていてもよい。リブは何通りもの方法で提供されてもよい。例えば、リブは押出(シートと一体で、または個別に)で形成されてもよい。リブはまた、溝切またはエンボス加工で形成されてもよい。リブが個別に成形される場合、加熱シールや接着剤による方法を含む、当技術分野において周知の任意の方法でシートまたはベース網に接着あるいはその他の結合が行なわれる。
【0057】
図5には特定のリブ構成が示されているが、当業者であれば、グリッド設計、極板設計、および/または電池に少なくとも部分的に依存して、任意の種類のリブ形状を利用してもよいことがわかるであろう。
【0058】
セパレータ106の厚さは、それが使われる電池100の種類によって変わってくる。一般的に、基体網の厚さは、1〜50ミリインチ(”ミル”)(約0.025mm〜約1.27mm)の範囲である。鉛蓄電池の場合、好適な厚さは一般的に10〜40ミル(約0.25mm〜約1.02mm)の範囲である。各リブの高さは、極板間隔の仕様により大きく変化する。通常、基体から5〜200ミル(約0.13mm〜約5.08mm)の高さとなっており、好適な範囲は10〜100ミル(約0.25mm〜約2.54mm)である。
【0059】
種々の材料間の電気化学ポテンシャルを利用して電気を発生させる様々な化学反応が研究され、商業的に実装されてきた。一般的に、Besenhard,J.O.編、「電池材料ハンドブック(Handbook of Battery Materials)」、Wiley−VCH Verlag GmbH、Weinheim、Germany、1999、およびLinden,D.編、「電池ハンドブック(Handbook of Batteries)」第2版、McGraw Hill Inc.、New York、N.Y.、199を参照されたい。両者の開示内容を本願に引用して援用する。
【0060】
鉛蓄電池の極板は従来、鉛合金のグリッド材料などの導電性の支持体に活物質すなわちペーストを塗布して作製される。極板はその製造方法によって分類することができる。例えば、電池極板製造の一方法では、先ず炉中で鉛を溶融し、次にその溶融鉛合金をストリップ鋳造機に供給する。ストリップ展伸工程において、一般的には鋳造または鍛造された鉛のストリップが穿孔され、ストリップ面の上下に拡げられて、次に引き伸ばされてダイアモンド形状のグリッドが形成される。様々な実施形態において、巻き取り機にストリップが巻き取られて、鉛合金ストリップのコイルが保管されてその後の使用に備えられる。様々な実施形態において、ストリップは圧延されてもよい。電池のグリッド材料を形成するために、様々な実施形態において、ストリップがエキスパンダに供給されて、そこでコイルストリップを裁断、溝入れ、展伸を行なってグリッドが形成される。
【0061】
グリッド材料は、他の既知または最新開発のプロセスを利用して製造されてもよい。例えば、上述したように、鋳造工程(例えば、溶融合金を鋳型に注入することによる)、打抜工程、または連続圧延によって形成されてもよい。グリッドまたは極板の製造時に、グリッドワイヤは(ペーストの接着を改善するために)再仕上げまたは再成形されてもよい。
【0062】
次に展伸されたストリップすなわちワイヤグリッド材料上に、活物質すなわちペーストが塗布されるか、別の方法(例えば、従来の糊付装置により貼り付ける方法)で付与される。様々な実施形態において、ペースト用テキスタイル、繊維すなわちスクリム、またはペースト紙などの1つまたは複数のペースト用材料が活物質の片面または両面に付与される。様々な実施形態において、ペースト用材料またはペースト紙が連続工程により提供されてもよい。
【0063】
様々な実施形態において、グリッド材料と、活物質つまりペーストと、ペースト用材料(例えばペースト用テキスタイルすなわちスクリム)が、ストリップが極板に切断される分割機に供給される。ストリップを切断することにより、ペースト用テキスタイルすなわちスクリムを形成している連続繊維も複数の繊維に切断される。その平均長さは、ストリップから切断される極板面の長さと幅の和の約半分である。ストリップから切断された極板は、電池極板のペーストの平坦でない部分を平滑化するために平坦化されるか、別の方法で修正されてもよい。様々な実施形態において、極板は、フラッシュ乾燥のために(例えば、コンベヤに載って)炉を通り抜けた後に、使用するまで積み重ねられてもよい。従来、フラッシュ乾燥は開放式のガスフレームまたは炉を利用して行なわれ、極板は、例えば、約260℃(約500°F)の通常の送風乾燥炉で10〜15秒の乾燥が行なわれる。しかし様々な実施形態において、ペースト用テキスタイルすなわちスクリムを含む電極または極板は、それより低い温度で乾燥されてもよい(例えば、約93〜約205℃(約200〜約400°F)。乾燥後、電池極板は、当業者には周知の化学処理を受ける。ペーストが塗布された極板は、次に一般的に高温高湿下で長時間硬化させて、遊離した鉛の酸化を進め、それ以外に極板の結晶構造を調整する。
【0064】
従来のポリオレフィン製の電池セパレータは、一般的には、高分子量のポリオレフィンと不活性充填物質、および/または可塑剤の混合物を混練し、その混合物をシート状に成形し、その後不活性充填剤および/または可塑剤の一部を溶剤を使ってシートから抽出するという工程によって製造される。
【0065】
硬化の後、極板は電池に組み立てられる。それぞれの電池極板がグループ分けされて集められ、セパレータ材料で包まれるか、差し込まれるか、他の方法で分離されるかして、全体で極板の組が出来上がる。例えば、普通の電池の設計では、電池の中の1枚置きの極板(例えば、それぞれの負極板)が袋状の電池セパレータの中に挿入される。袋は、電池セットの中で、袋の中の極板と隣接する極板とのセパレータとして作用する。極板の組は容器の中で組み立てられて、電池が構成される。
【0066】
組立時に、正電極の耳同士が一緒に結合され、また負電極の耳同士が一緒に結合される。これは、一般的に、組み立てられた電池の積層体を取り上げて、逆さにし、モールド中に準備された溶融鉛の中に耳を浸すことにより形成される、キャストオンストラップ法を用いて達成される。電流が電池全体を流れるようにするために、複数の積層体のキャストオンストラップが一緒に結合される。さらに、カバーまたはケースの外に延びる端子電極が設けられて、自動車の電気システム、あるいはこの電池の電力を使おうとする他のシステムとの電気接続が可能となる。
【0067】
様々な実施形態において、カバーを含む電池の筐体が電池セルを包含するように設けられる。様々な実施形態において、電池カバーにある注液口を通して電池筐体を電解液で満たすために、電池の筐体は、酸性の電解液中に浸漬される。電池筐体に電解液を満たした後、電池は電解液から取出される。残留した電解液の被膜や、埃やその他の塵が洗浄除去されて、電池を出荷に備える。電池筐体の外表面を洗浄する前に、注液口は栓をされて、電池筐体内に洗浄液が入らないようにする。
【0068】
最初の洗浄に続いて、電池に通電して電気化学的な処理が行なわれ、これは、硫酸鉛または塩基性の硫酸鉛を二酸化鉛(正極)または鉛(負極)に変換するためである。このプロセスを“化成”プロセスと呼ぶ。
【0069】
本発明を以下の実施例で更に説明する。この実施例は説明を目的とするものであり、制限するためのものではない。
【実施例1】
【0070】
スタートストップ用の鉛蓄電池が、上記の方法で製造された電極を用いて組み立てられた。より具体的には、正極は、打抜グリッド(PowerFrame(登録商標)グリッド)と活物質と図7及び8に示すペースト用テキスタイルすなわちスクリムとを含んでいた。ペースト用テキスタイルは、円形断面でほぼ平滑なテキスチャを有する、PETの連続単独重合体で構成された。このペースト用テキスタイルは、繊度が0.5オンス/平方ヤード(約17.0g/m)で厚さが4.3ミル(約0.11mm)の点結合タイプであった。マイクロファイバの直径は約12〜16μmであり、繊維のデニールは一本当り約2.2であった。
【0071】
組み立てられた電池のストップ/スタートのサイクル特性を、同様な構成の負極とポリエチレンセパレータと、打抜グリッド(PowerFrame(登録商標)グリッド)と活物質とその上の従来型のペースト紙とを有する正極とを備える電池のストップ/スタートのサイクル特性に対比してテストした。2つの電池のストップ/スタートのサイクル容量を比較したグラフを図23に示す。
【実施例2】
【0072】
上記の製法による電極を用いた、改良型の浸漬式鉛蓄電池を組み立てた。より具体的には、正極は、打抜グリッド(PowerFrame(登録商標)グリッド)と活物質と図7及び8に示すペースト用テキスタイルすなわちスクリムとを含んでいた。ペースト用テキスタイルは、円形断面でほぼ平滑なテキスチャを有する、PETの連続単独重合体で構成された。このペースト用テキスタイルは、繊度が0.5オンス/平方ヤード(約17.0g/m)で厚さが4.3ミル(約0.11mm)の点結合タイプであった。マイクロファイバの直径は約12〜16μmであり、繊維のデニールは一本当り約2.2であった。
【0073】
完成した鉛蓄電池の繰り返しリザーブキャパシティサイクル試験をして、グリッドと活物質は同じであるが正極はペースト用テキスタイルの代わりにペースト紙を用い、セパレータのガラスマットは高サイクル用途の一般的標準品を用いた電池の繰り返しリザーブキャパシティサイクルとの比較を行なった。2つの電池の繰り返しリザーブキャパシティサイクルを比較したグラフを図24に示す。さらに図25、26には、2つの電池のリザーブキャパシティ時間と、アンペア−時間単位で示したC20容量との棒グラフをそれぞれに示す。図27には、2つの電池のEN 50% DODライフサイクル試験を比較した棒グラフを示す。
【0074】
本明細書において使用されている、“略”、“約”、“実質的に”、およびこれに類似の用語は、本開示の主題に関わる当業者による一般的かつ許容された用法に調和する、広範な意味を有することが意図される。本開示を精査する当業者であれば、これらの用語は、記述されかつ特許請求されるある特徴を、与えられた正確な数値の範囲に制限することなしに記述可能とすることが意図されていることを、理解できるであろう。従って、これらの用語は、記述されかつ特許請求される主題に関する、僅かな、あるいは重大でない修正または変更が、添付の特許請求の範囲に述べる本発明の範囲内であるとみなされることを指示するものと解釈されるべきである。
【0075】
本説明における相対位置に関する参照(例えば、“上”と“下”)は、種々の要素を図中における配置として識別するために用いられているに過ぎないことに留意されたい。特定の部品の方向は、それの実際の適用に大きく依存していることが認識されるべきである。
【0076】
本開示において、”連結された”という用語は、2つの部材を直接的または間接的に互いに結合することを意味している。そのような結合は、本質的に静的であっても、本質的に動的であってもよい。そのような結合は、2つの部材または2つの部材と任意の追加的な中間部材が、相互に1つの結合体として形成されるか、または2つの部材または2つの部材と任意の追加的な中間部材が、相互に接続されることによって実現される。そのような結合は、本質的に永続性のものであってもよいし、本質的に取り外し可能または解放可能であってもよい。
【0077】
本開示において、”電気的に結合された”という用語は、2つ以上の部材を、その部材間に電流が形成されるように直接的または間接的に互いに接続または結合していることを意味している。そのような電気的な結合は、本質的に静的であっても、本質的に動的であってもよい。そのような電気的な結合は、2つの部材または2つの部材と任意の追加的な中間部材が、相互に1つの結合体として形成されるか、または2つの部材または2つの部材と任意の追加的な中間部材が、相互に接続されることによって実現される。そのような電気的な結合は、本質的に永続性のものであってもよいし、本質的に取り外し可能または解放可能であってもよい。
【0078】
種々の例示的実施形態に示した電池および/または電池部品の構成および配置は、説明のためだけであることに留意することが重要である。本開示においては本発明の僅か数例の実施形態を詳細に記述したに過ぎないが、この開示を精査する当業者であれば、ここに開示した主題の新規性のある教示および利点から著しく乖離することなしに、多くの修正
(例えば、サイズ、寸法、構造、種々の要素の形状および割合、パラメータ値、取付方法、材料の使用方法、色、方向などの変更)が可能であることは容易に理解できるであろう。例えば、一体的に形成されているように示されている要素が複数の部品または要素で構成されてもよいし、複数の部品として示されている要素が一体的に形成されていてもよいし、インタフェースの操作が逆転もしくは違うものに変更されてもよいし、構造および/または部材の長さまたは幅、あるいはシステムのコネクタまたはその他の要素が変更されてもよいし、および/または要素間に与えられる調節位置の性質または数が(例えば、係合するスロットの数や係合するスロットの寸法や係合の種類などの変更により)変更されてもよい。任意の工程あるいは方法のステップの順序もしくは順番が、別の実施形態で変更あるいは再配列されてもよい。本発明の精神と範囲から外れることなしに、種々の例示的実施形態の設計、動作条件、および配置に関して、その他の代替、修正、変更、省略を行うことが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリッドと、
前記グリッド上に与えられた活物質と、
前記活物質上または活物質中に与えられたペースト用テキスタイルと、
を備え、
前記ペースト用テキスタイルは、平均長さが20μmよりも大きい1つまたは複数の繊維を含んだ繊維網を含み、
前記繊維は、一本当り約2デニールより大きいことを特徴とする、電池電極。
【請求項2】
長さと幅を有するグリッドと、
前記グリッド上に与えられた活物質と、
前記活物質上または活物質中に与えられたペースト用テキスタイルと、
を備え、
前記ペースト用テキスタイルは、前記グリッドの長さと幅の合計の約半分の平均長さを有する1つまたは複数の繊維を含む繊維網を含むことを特徴とする、電池電極。
【請求項3】
周縁を有するグリッドと、
前記グリッド上に与えられた活物質と、
前記活物質上または活物質中に与えられたペースト用テキスタイルと、
を備え、
前記ペースト用テキスタイルは、第1の端と第2の端を有する1つまたは複数の繊維を含んだ繊維網を含み、
前記各繊維の第1の端は、前記グリッドの前記周縁付近に実質的に位置することを特徴とする、電池電極。
【請求項4】
前記繊維の平均長さは1.5mm〜15mmである、請求項1に記載の電池電極。
【請求項5】
殆どの前記繊維の第2の端は、前記グリッドの周縁付近に実質的に位置している、請求項1〜4に記載の電池電極。
【請求項6】
前記繊維網は点結合された不織布である、請求項1〜5のいずれかに記載の電池電極。
【請求項7】
前記ペースト用テキスタイルは厚さが0.06mm〜5mmである、請求項1〜6のいずれかに記載の電池電極。
【請求項8】
前記ペースト用テキスタイルは厚さが0.06mm〜0.50mmである、請求項7に記載の電池電極。
【請求項9】
前記ペースト用テキスタイルは厚さが0.06mm〜0.25mmである、請求項8に記載の電池電極。
【請求項10】
前記ペースト用テキスタイルは約0.15〜約2.0オンス/平方ヤード(約5.1〜約67.8g/m)の範囲の密度を有する、請求項1〜9のいずれかに記載の電池電極。
【請求項11】
前記繊維はマイクロファイバである、請求項1〜10のいずれかに記載の電池電極。
【請求項12】
前記繊維は10μm〜25μmの直径を有する、請求項1〜11のいずれかに記載の電池電極。
【請求項13】
前記繊維は一本当り10デニール以下である、請求項1〜12のいずれかに記載の電池電極。
【請求項14】
前記繊維は一本当り4デニール以下である、請求項13に記載の電池電極。
【請求項15】
前記繊維はカーボンを含む、請求項1〜14のいずれかに記載の電池電極。
【請求項16】
前記繊維は、カーボンブラック、黒鉛、膨張黒鉛、ナノチューブ、ナノファイバ、アセチレンブラックから成る群の内の1つまたは複数の形態のカーボンを含む、請求項1〜15のいずれかに記載の電池電極。
【請求項17】
前記ペースト用テキスタイルは、二酸化チタン、黒鉛、カーボンブラック、膨張黒鉛、ナノチューブ、ナノファイバ、アセチレンブラックから成る群の少なくとも1つを含む1つまたは複数の添加物を含む、請求項1〜16のいずれかに記載の電池電極。
【請求項18】
前記繊維は1つまたは複数の熱可塑性樹脂を含む、請求項1〜17のいずれかに記載の電池電極。
【請求項19】
前記繊維は、ポリエステル、ポリプロピレン、ビスコースレーヨン、ポリアミドから成る群の少なくとも1つを含む、請求項1〜18のいずれかに記載の電池電極。
【請求項20】
鉛シートを準備し、
前記鉛シートを打ち抜いて1つまたは複数のグリッドを形成し、
前記1つまたは複数のグリッドに活物質を付与し、
紡いだ連続繊維でペースト用テキスタイルを形成し、
前記1つまたは複数のグリッドのシート表面上に前記ペースト用テキスタイルを付与し、
その上に活物質とペースト用テキスタイルを備えた前記1つまたは複数のグリッドのシートを切断する、
ことを含む、電池電極の製造方法。
【請求項21】
前記ペースト用テキスタイルを、二酸化チタン、カーボンブラック、黒鉛、膨張黒鉛、ナノチューブ、ナノファイバ、アセチレンブラックから成る群の内の1つまたは複数の物質で処理することを更に含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記ペースト用テキスタイルを、つや消し剤で処理することを更に含む、請求項20〜21のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
前記ペースト用テキスタイルをペースト紙に結合することを更に含む、請求項20〜22のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公表番号】特表2012−519357(P2012−519357A)
【公表日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−552016(P2011−552016)
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際出願番号】PCT/US2009/065108
【国際公開番号】WO2010/098796
【国際公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(508205992)ジョンソン コントロールズ テクノロジー カンパニー (7)
【氏名又は名称原語表記】Johnson Controls Technology Company
【住所又は居所原語表記】912 East 32nd Street Holland, MI 49423 USA
【Fターム(参考)】