説明

電波レンズ

【課題】 液晶使用量を低減して製作工程を簡素化できるとともに反射損失を低減できる電波レンズを提供する。
【解決手段】 本発明に係る電波レンズ1は、電波レンズ1は、電磁波の伝播方向に平行に配置される平板状の液晶セル11と液晶セル11と平行に配置される平板状のグランド電極12とを交互に積層して構成され、グランド電極12が電波入力辺12Fおよび電波出力辺12Rにテーパ状部を有し、液晶セル11は、それぞれ、上部液晶層111、制御電極112、誘電体薄膜113、および下部液晶層114を積層した構成を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電波レンズに係り、特に、液晶使用量を低減できるとともに反射損失を低減できる電波レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
通信衛星(CS)放送あるいは放送衛星(BS)放送を移動体で受信する場合、あるいはワイヤレスカメラから移動しながら大容量の情報を無線伝送する場合等には、受信アンテナの受信指向性を衛星またはワイヤレスカメラの方向に向ける、いわゆる追尾制御が必要となる。
【0003】
受信アンテナの受信指向性を制御する方法としては、受信アンテナの姿勢を機械的に制御する追尾装置を使用することが一般的であるが、追尾速度が低速であるだけでなく、装置が大規模となるため保守も面倒となる。
【0004】
そこで、追尾制御の保守を簡素化するために、電波の伝播方向を電気的に制御することができる電波レンズを使用し、指向性を電気的に制御する受信アンテナも実用化されている(特許文献1参照)。
【0005】
図5は、従来提案されている電波レンズの構成図であって、電波の進行方向を制御するために誘電異方性を有する液晶を使用している。
【0006】
即ち、上記提案に係る従来の電波レンズは、2枚のグランド電極23の間に短冊状に分割された制御電極22を配置し、グランド電極23と制御電極22の間に液晶層21を配置した液晶セルを積層した構成を有する。
【0007】
この構成により、制御電極22とグランド電極23の間に制御電源24から所定の制御電圧を印加して液晶層21内の液晶分子の配向方向を制御することにより、液晶の誘電率を制御し、電波レンズを伝播する電波の伝播方向を制御している。
【0008】
しかし、液晶分子の配向方向の制御電圧を実用的な観点から略100V以下とする必要があるので、電波の進行方向を制御するために液晶を使用する電波レンズにあっては、液晶層の厚さは100μm程度に制限される。
【0009】
ところで、受信アンテナの受信感度を確保するために、電波レンズの電波入射方向の開口の縦方向長さおよび横方向長さを、電波レンズを伝播する電波の少なくとも数波長とする必要がある場合が多い。例えば、ワイヤレスカメラシステムに適用する60GHz(波長5mm)帯用の電波レンズにあっては、開口の寸法を少なくとも5波長程度、即ち5×5mm=25mm程度とする必要がある。
【0010】
制御電極およびグランド電極は、25μm程度の厚さを有するポリイミドフィルムに5μm程度の厚さの導電体をエッチングして形成されたものが一般的であり、少なくとも30μmの厚さを有する。
【0011】
従って、60GHz帯用の電波レンズにあっては、260(=30+100+30+100)μmの厚さの液晶セルを100(≒25÷0.26)層積層することが必要となるので、液晶使用量が多くなるばかりでなく、製作工程が複雑なものとなっていた。
【0012】
液晶使用量を低減し製作工程を簡素化するためには、グランド電極を電波レンズとしての性能を損なわない限度で厚くすることが有効である。
【特許文献1】特開2003−185990号公報([0013]〜[0014]、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、グランド電極の厚さを厚くすると、電波入力辺から電波レンズに入射する電波がグランド電極により電波入射方向に反射されるという電波入力辺側反射損失が増加するだけでなく、電波レンズを伝播した電波がグランド電極により電波レンズ内に反射され電波出力辺から放射されないという電波出力辺側反射損失も増加し、電波レンズの効率が低下するという新たな課題が生じる。
【0014】
本発明は、従来の課題を解決するためになされたものであって、液晶使用量を低減して製作工程を簡素化するとともに反射損失を低減できる電波レンズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
第1の発明に係る電波レンズは、電磁波の伝播方向に平行に配置される平板状の液晶セルと前記液晶セルと平行に配置される平板状のグランド電極とを交互に積層して構成される電波レンズであって、前記グランド電極が電磁波入力辺および電磁波出力辺にテーパ状部を有する構成を有している。
【0016】
この構成により、グランド電極を厚くして液晶使用量を低減できるだけでなく、反射損失を低減できることとなる。
【0017】
第2の発明に係る電波レンズは、前記液晶セルが、平板状の制御電極と、前記制御電極の両面に配置される液晶層とを含む構成を有している。
【0018】
この構成により、1つの制御電極により2つの液晶層の誘電率を制御できることとなる。
【0019】
第3の発明に係る電波レンズは、前記液晶セルの厚さと前記グランド電極の厚さの和が、前記液晶層を通過する電磁波の半波長以下である構成を有している。
【0020】
この構成により、電波レンズの性能を損なわない範囲でグランド電極を厚くできることとなる。
【0021】
第4の発明に係る電波レンズは、前記液晶セルが、前記液晶セルの前記電磁波の伝播方向側辺に配置されるスペーサを含む構成を有している。
【0022】
この構成により、電波レンズの剛性が高くなることとなる。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、グランド電極の電磁波入力辺および電磁波出力辺にテーパ部を設けることにより、グランド電極を厚くして液晶使用量を低減できるとともに反射損失を低減できる電波レンズを提供することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明に係る電波レンズの実施形態について、図面を用いて説明する。
【0025】
なお、実施形態においては、電波レンズを伝播する電磁波は、ミリ波帯の電波であるとする。
【0026】
図1は、本発明に係る電波レンズの斜視図であって、電波レンズ1は、電磁波の伝播方向に平行に配置される平板状の液晶セル11と液晶セル11と平行に配置される平板状のグランド電極12とを交互に積層して構成され、グランド電極12が電波入力辺12Fおよび電波出力辺12Rにテーパ状部を有する。
【0027】
なお、電波は矢印A(−Z軸)方向に伝播し、矢印B(+Y軸)方向に直線偏波されているものとする。
【0028】
図2は電波レンズ1の一部の分解斜視図、図3は電波レンズ1の一部のU−U断面図であって、液晶セル11は、それぞれ、上部液晶層111、制御電極112、誘電体薄膜113、および下部液晶層114を積層した構成を有する。
【0029】
なお、液晶セル11の電波伝播方向両側辺には、上部液晶層111、制御電極112、誘電体薄膜113、および下部液晶層114が圧縮力により変形するのを防止するために、電波伝播方向(矢印A方向)に延伸するスペーサ115および116が配置されている。
【0030】
グランド電極12は、平板状の導電体であっても、表面が導電体で覆われた中空または中実の誘電体であってもよい。
【0031】
グランド電極12が導電体で覆われた誘電体である場合には、導電体の厚さは電波レンズを伝播する電波の表皮深さの5倍程度であればよく、60GHz用の電波レンズであれば、表皮深さは0.27μm(ただし、導電体の導電率=5.8×107S/m)であるので、導電体の厚さは1.35μm程度であればよい。
【0032】
制御電極112は、電波の伝播方向(−Z方向)に延伸する短冊状電極が電波の伝播方向の直交方向(X方向)に複数並列配置された構成を有し、例えばポリイミドフィルムである誘電体薄膜113上に導電体をエッチングすることにより形成される。
【0033】
グランド電極12と制御電極112の間には直流電圧が印加されるが、短冊状電極ごとに異なる電圧を印加できる構成となっている。
【0034】
上部液晶層111および下部液晶層114は、紙、布、繊維等の液晶含浸材に液晶分子を含浸させたものである。
【0035】
液晶分子は米粒状の形状であり、高い周波数の電波に対する液晶の長軸方向の誘電率は短軸方向の誘電率より大きいという誘電率異方性を有するので、制御電極112とグランド電極12との間に発生する電界により液晶の配向方向を制御することにより上部液晶層111および下部液晶層114の誘電率を制御することができることとなる。
【0036】
液晶としては、誘電率異方性の大きいネマティック液晶、コレステリック液晶、スメティック液晶、または、これらの混合液晶を使用することができる。
【0037】
なお、上部液晶層111および下部液晶層114は、含浸材を使用せず、液晶だけで構成してもよいが、この場合は、グランド電極12、制御電極112、および誘電体薄膜113の液晶との接触面に配向膜を形成し、制御電圧が印加されていないときの液晶分子の配向方向を揃えることが必要となる。
【0038】
上部液晶層111および下部液晶層114は、液晶分子の配向方向を制御する制御電圧が実用上支障のない約100Vとなるように、厚さdを100μmとしている。
【0039】
また、誘電体薄膜113の厚さは25μm程度、短冊状制御電極112の厚さは5μm程度とするのが現実的である。
【0040】
従って、本実施形態にあっては、液晶セル11の厚さLは、[数1]によって算出される。
【0041】
【数1】

【0042】
電波の伝播方向を直角に偏向した場合にもグレーティングローブが発生することなく、電波の伝播方向を正確に制御するためには、液晶セル11の積層ピッチを処理対象の電波の半波長λ/2以下とすることが必要である。
【0043】
即ち、グランド電極12の厚さをHとすれば、[数2]を満たす必要がある。
【0044】
【数2】

【0045】
従って、60GHz帯用の電波レンズであれば、波長λは5ミリメートルであるので、グランド電極12の厚さHは[数3]により決定することができる。
【0046】
【数3】

【0047】
即ち、本発明に係る電波レンズにあっては、グランド電極12の厚さHを液晶セル11の厚さLの約10倍程度とすることができる。
【0048】
しかし、グランド電極12の電波入力辺12Fを電波伝播方向に垂直な面とすると、電波レンズに入射する電波がグランド電極12の電波入力辺12Fで反射される電波入力辺側反射損失が増加することを回避できない。
【0049】
さらに、グランド電極12の電波出力辺12Rを電波伝播方向に垂直な面とすると、液晶セル11を伝播した電波と自由空間との間の整合がとれず、グランド電極12の電波出力辺12Rで反射される電波出力辺側反射損失が増加することも回避できない。
【0050】
そこで、本発明に係る電波レンズにあっては、グランド電極12の電波入力辺12Fおよび電波出力辺12Rにテーパ部を設けて、テーパ部をホーンアンテナとして機能させ、反射損失を低減させている。なお、テーパの形状は、直線テーパに限定されることはなく、放物線のような曲線テーパ、あるいは、階段状テーパであってもよい。
【0051】
図4は、グランド電極12の電波入力辺12Fおよび電波出力辺12Rのテーパ部の具体的設計例であって、テーパ角を16度とし、液晶セル11をテーパ部後端から0.9ミリメートルに配置した場合を示す。なお、図4は、液晶セルの厚さを強調して描いている。
【0052】
図4の設計例によれば、電波の周波数が60GHzであるときにテーパ部の反射係数は0.02程度に抑制され、電波レンズの入力面に到達した電波の約98%を液晶セルに導くこと、および液晶セル11を通過した電波の約98%を空中に放出することが可能となり、反射損失を低減することができる。
【0053】
以下本発明に係る電波レンズの動作を説明する。
【0054】
電波レンズ1の電波入力面に到達した電波は、グランド電極12の電波入力辺12Fに形成されたテーパ部により収束され、液晶セル11の上部液晶層111および下部液晶層114内を伝播する。
【0055】
上部液晶層111および下部液晶層114の上下に配置されている制御電極112とグランド電極12との間には直流電圧が印加されているが、上部液晶層111および下部液晶層114内の液晶分子は直流電圧に応じて配向方向が変化するので、上部液晶層111および下部液晶層114の誘電率は制御電圧によって制御されることとなる。
【0056】
例えば、上部液晶層111および下部液晶層114の誘電率が電波の伝播方向に向かって左側ほど大きく右側ほど小さくなるように制御電圧を印加すると、上部液晶層111および下部液晶層114の左側を伝播する電波の伝播速度は遅く、右側を伝播する電波の伝播速度は速くなり、電波の等位相面は左側に傾くので、電波の伝播方向は左方に屈折する。
【0057】
逆に、誘電率が左側ほど小さく右側ほど大きくなるように制御電圧を印加すると、電波の伝播方向は右方に屈折することとなる。
【0058】
また、上部液晶層111および下部液晶層114の誘電率が上方の液晶セルほど大きく下方の液晶セルほど小さくなるように制御電圧を印加すると、上方の液晶セルを伝播する電波の伝播速度は遅く、下方の液晶セルを伝播する電波の伝播速度は速くなり、電波の等位相面は上方に傾くので、電波の伝播方向は上方に屈折する。
【0059】
逆に、誘電率が上方の液晶セルほど小さく下方の液晶セルほど大きくなるように制御電圧を印加すると、電波の伝播方向は下方に屈折することとなる。
【0060】
即ち、本発明に係る電波レンズにあっては、グランド電極12を厚くして液晶使用量を低減できるだけでなく、グランド電極12の電波入力辺12Fおよび電波出力辺12Rにテーパ部を形成してホーンアンテナとして機能させることにより電波レンズ1の反射損失を低減することが可能となる。
【0061】
さらに、本発明に係る電波レンズにあっては、上部液晶層111、制御電極112、誘電体薄膜113および下部液晶層114の両側をスペーサ115および116で保護することができるので、電波レンズ1の剛性を高めることが可能となり、液晶セル11の変形を防止して電波の伝播方向を正確に制御できることとなる。
【0062】
また、所定の開口幅の電波レンズを構成するための液晶セル11とグランド電極12の積層数は少なくなり、製作工数を簡略化することもできる。
【0063】
即ち、本発明に係る電波レンズの実施形態によれば、グランド電極の厚さと液晶セルの厚さの和は2.5mmであるので、積層数は10(=25÷2.5)となり、液晶使用量を低減できる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
以上のように、本発明に係る電波レンズは、液晶使用量を低減して製作工程を簡略化できるとともに反射損失を低減できるという効果を有し、ミリ波素子等として有効である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明に係る電波レンズの実施形態の斜視図
【図2】本発明に係る電波レンズの液晶セルの分解斜視図
【図3】本発明に係る電波レンズの断面図
【図4】テーパ部の具体的設計例を示す断面図
【図5】従来の電波レンズの斜視図
【符号の説明】
【0066】
1 電波レンズ
11 液晶セル
12 グランド電極
111 上部液晶層
112 制御電極
113 誘電体薄膜
114 下部液晶層
115、116 スペーサ
12F 電波入力辺
12R 電波出力辺

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波の伝播方向に平行に配置される平板状の液晶セルと前記液晶セルと平行に配置される平板状のグランド電極とを交互に積層して構成される電波レンズであって、
前記グランド電極が、電磁波入力辺および電磁波出力辺にテーパ状部を有することを特徴とする電波レンズ。
【請求項2】
前記液晶セルが、
平板状の制御電極と、
前記制御電極の両面に配置される液晶層とを含む請求項1に記載の電波レンズ。
【請求項3】
前記液晶セルの厚さと前記グランド電極の厚さの和が、前記液晶層を通過する電磁波の半波長以下である請求項2に記載の電波レンズ。
【請求項4】
前記液晶セルが、
前記液晶セルの前記電磁波の伝播方向側辺に配置されるスペーサを含む請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電波レンズ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−19610(P2007−19610A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−196276(P2005−196276)
【出願日】平成17年7月5日(2005.7.5)
【出願人】(000004352)日本放送協会 (2,206)
【Fターム(参考)】