説明

電波吸収シートおよびその設置方法

【課題】ETCシステムなどのDSRC(専用狭域通信)システムにおける断面略円形状の長尺構造物60の周囲に該長尺構造物60を覆うように設置される電波吸収シートについて、設置作業およびメンテナンス作業を容易化できるようにする。
【解決手段】電波吸収シート10を、可撓性を有していて所定周波数の電波を吸収するシート本体30と、このシート本体30を断面湾曲状に保持する保持体20とを備えたものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ETC(Electronic Toll Collection)システムにおける料金所のキャノピーの支柱などの長尺構造物の周囲に該長尺構造物を覆うように設置される電波吸収シートに関し、特にその設置作業を容易化する対策に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、ETCシステムにおける料金所では、路側機から発せられた電波が周辺構造物により乱反射するのを抑えるべく、特許公報1に記載されているように、粉体状の損失材料を樹脂などのバインダで固形化されてなる電波吸収層と、その一方の面に積層された電波反射層とを有してなる電波吸収体が構造物の表面に該表面を覆うように設置される。
【0003】
その際に、料金所のブース上方に配置されているキャノピーの下面などを平面状に覆う場合には、特許公報2に記載されているように、電波吸収ボードが用いられる。
【0004】
そして、キャノピーの丸パイプ状の支柱などの長尺構造物を曲面状に覆う場合には、特許公報3に記載されているように、曲げ加工がしやすいように比較的薄く(例えば、2mm程度)て可撓性を有する電波吸収シートが用いられており、そのような電波吸収シートは長尺構造物を囲繞するように設置される。
【0005】
上記電波吸収シートの具体的な設置方法としては、長尺構造物の周囲に該長尺構造物を覆うように下地材を設置してその下地材上に電波吸収シートを貼着したり、又は長尺構造物の断面形状が滑らかな曲面の場合には、下地材は使用せず、長尺構造物の表面に直接に電波吸収シートを貼着するようになされる。
【特許文献1】特開2004−146611号公報(第3〜5頁、図1)
【特許文献2】特開平11−044018号公報(第2,3頁、図1)
【特許文献3】特開2003−234593号公報(第3,4頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、電波吸収シートは、可撓性を有するといえども腰がかなり強いため、見栄え良く曲面状に設置するのは困難であって熟練を要するという問題がある。
【0007】
また、直接に長尺構造物に貼着する場合には、メンテナンス性が良くないという問題もある。
【0008】
本発明は斯かる諸点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、ETCシステムなどのDSRC(Dedicated Short Range Communication 〔専用狭域通信〕)システムにおける長尺構造物の周囲に設置される電波吸収シートについて、設置作業およびメンテナンス作業に手間が掛からないようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成すべく,本発明では、電波吸収シートを予め断面湾曲状に曲げて保持体に保持させておき、それを長尺構造物の周囲に設置するようにした。
【0010】
具体的には、本発明では、長尺構造物の周囲に該長尺構造物を覆うように設置される電波吸収シートを前提としている。
【0011】
そして、可撓性を有していて、所定周波数の電波を吸収するシート本体と、このシート本体を断面湾曲状に保持する保持体とを備えているものとする。
【0012】
尚、上記の構成において、保持体を、長尺構造物における長さ方向の少なくとも一部を囲繞可能な管材が周方向において複数に分割されてなるものとし、その上で、シート本体を、上記保持体に積層状態に保持させるようにすることができる。この場合、保持体を、上記管材が周方向において略等分に2分割されてなるものとしてもよい。
【0013】
また、シート本体は、接着剤(例えば、弾性マスチック接着剤など)により保持体に貼着されていてもよいし、止着具(例えば、ビスやリベットなど)により保持体に止着されていてもよい。
【0014】
さらに、シート本体としては、該シート本体の一方の面に入射された電波の一部を透過させつつ減衰させる電波吸収層と、この電波吸収層の長尺構造物側に位置するように該電波吸収層に積層されていて、該電波吸収層を透過した上記一部の電波を反射する電波反射層とを有するものとすることができる。
【0015】
また、上記構成の電波吸収シートを設置する方法としては、上記長尺構造物に対し、複数の電波吸収シートを該複数の電波吸収シートのシート本体が上記長尺構造物における長さ方向の少なくとも一部を略全周に亘って囲繞するように配置し、しかる後、上記複数の電波吸収シートを結束して該複数の電波吸収シートを設置するようにすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、電波吸収シートは、保持体に断面湾曲状に保持されており、そのように構成された電波吸収シートを長尺構造物の周囲に設置することで、該長尺構造物をシート本体により覆うことができるので、現場での電波吸収シートの曲げ加工作業および長尺構造物に対する接着作業が不要であり、よって、長尺構造物に対する電波吸収シートの設置作業のみならず、その取外メンテナンス作業をも容易化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に係る実施形態を、図面に基づいて説明する。
【0018】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る電波吸収シートの全体構成を示す斜視図であり、この電波吸収シート10は、ETCシステムの料金所におけるブース上方のキャノピーを支持する断面円形状の支柱60の周囲に該支柱60を覆うように設置される。
【0019】
本実施形態では、上記の電波吸収シート10は、半円形状断面を有する保持体20と、この保持体20の外周側表面に積層されていて、断面半円形状に保持されたシート本体30とを備えてなる。
【0020】
具体的には、上記の保持体20は、比較的軽量の材料からなる丸パイプを長さ方向に亘って径方向に半割りにしたものであり、その丸パイプの内径寸法は、支柱60の外径寸法よりも少しだけ大き目である。尚、上記丸パイプの材料としては、ステンレス合金,アルミニウム合金,塩化ビニル樹脂など、公知のものから使用条件などに応じて適宜採用することができる。
【0021】
図2に拡大して示すように、上記のシート本体30は、可撓性を有していて、所定周波数の電波を吸収するものであり、該シート本体30に入射された電波の一部を透過させつつ減衰させる電波吸収層31と、この電波吸収層31の支柱60側(同図の下側)に位置するように該電波吸収層31に積層されていて、該電波吸収層31を透過した電波を反射する電波反射層32とを有する他、電波吸収層31における電波反射層32とは反対の側(同図の上側)に積層されていて、電波を透過させる不燃層33を有する。
【0022】
電波吸収層31の基本組成は、カルボニル鉄などの損失材料の粉末が、塩素化ポリエチレンなどのバインダで結合されてなっている。電波反射層32は、PET(Poly Ethylene Terephthalate )フィルムなどの担体32aにアルミニウム合金箔などの金属箔32bが担持されてなっており、金属箔32bが電波吸収層31に接合する状態に積層されている。不燃層33は、不燃性を有する化粧ガラスクロスからなっている。これら3層31〜33は、互いに重ね合わされた状態で例えばプレス熱圧着によりシート状に形成されている。また、本実施形態では、シート本体30は、弾性マスチック接着剤などの接着剤により保持体20に貼着されている。
【0023】
次に、上記のように構成された電波吸収シート10を支柱60の周囲に該支柱60を覆うように設置する作業手順について説明する。
【0024】
先ず、2つの電波吸収シート10,10を各電波吸収シート10の保持体20が支柱60に対面しつつ該2つの電波吸収シート10,10が支柱60における長さ方向の一部を全周に亘って囲繞する状態に配置する。しかる後、2つの電波吸収シート10,10を上記の状態に保持しつつ、例えばステンレスバンドのような結束バンド40を用いて2つの電波吸収シート10,10を結束する。具体的には、例えば、電波吸収シート10の長さ方向寸法が1m程度である場合には、1組の電波吸収シート10,10当り3箇所以上で結束することが好ましい。これにより、2つの電波吸収シート10,10を、該2つの電波吸収シート10,10のシート本体30,30が支柱60における長さ方向の一部を全周に亘って覆うように設置することができる。そして、以上の作業を支柱60における長さ方向の所要範囲に亘って繰り返すことにより、支柱60に対する電波吸収シート10,10,…の設置作業が終了することとなる。尚、電波吸収シート10,10間の隙間に対しては、その隙間に例えばシリコーン系のシーリング材を充填して該隙間をシールするようにしてもよい。
【0025】
したがって、本実施形態では、ETCシステムにおける料金所のキャノピーを支える断面円形状の支柱60の周囲に該支柱60を囲繞するように設置される電波吸収シート10,10,…として、内径寸法が支柱60の外径寸法よりも大きい丸パイプを長さ方向に亘って半割にした断面半円形状の保持体20にシート本体30を断面半円形状に保持させたものを予め作製しておき、2つの電波吸収シート10,10を支柱60の長さ方向の一部が全周に亘って囲繞されるように組み合わせて結束することで、支柱60に対し電波吸収シート10,10,…を設置することができるので、従来のように電波吸収シートを現場にて曲げ加工しつつ接着剤により支柱60に貼着するように場合に比べて、電波吸収シート10の設置作業を容易化することができるのみならず、メンテナンスの際には、該当する電波吸収シート10を容易に取り外すことができる。
【0026】
尚、上記の実施形態では、電波吸収シート10により支柱60の長さ方向における一部を全周に亘って囲繞する際に、各々、断面半円形状をなす2つの電波吸収シート10,10を用いるようにしているが、各々、断面略円弧状をなす3つ以上の電波吸収シート10,10,…を用いるようにしてもよい。
【0027】
また、上記の実施形態では、電波吸収シート10の断面を半円形状とするようにしているが、その断面形状は、支柱60の外表面の断面形状や作業性などに応じて適宜設定することができる。
【0028】
また、上記の実施形態では、支柱60の長さ方向における一部を全周に亘って囲繞するように配置した複数の電波吸収シート10を結束するのに、結束バンド40を使用するようにしているが、結束バンド40以外では、例えばUボルトなど、公知の結束具を適宜採用して使用することができる。
【0029】
さらに、上記の実施形態では、周波数が5.8GHzである電波を吸収対象とするETCシステムにおけるブース上方のキャノピーを支える長尺構造物としての断面円形状の支柱60に電波吸収シート10を設置する場合について説明しているが、本発明は、支柱60以外の長尺構造物に適用することができるのは勿論、種々の周波数の電波を使用するDSRCシステムにおける種々の長尺構造物に対する設置にも適用することができる。
【0030】
(実施形態2)
図5は、本発明の実施形態2に係る電波吸収シートの全体構成を示しており、この電波吸収シート10も、ETCシステムにおける料金所のキャノピー支柱60に設置される。
【0031】
本実施形態では、シート本体30は、実施形態1の場合では接着剤により保持体20に貼着されるのに代えて、ブラインドリベット50により保持体20に止着されている。
【0032】
具体的には、シート本体30の長さ方向の複数箇所(図示する例では3箇所)の各周方向両端部と、それに対応する保持体20の部位とに、それぞれ下孔30a,20aが設けられている。そして、それら下孔30a,20aにブラインドリベット50を挿通し、その軸部先端部を半径方向外方に膨出させることで、シート本体30を保持体20に止着するようになっている。尚、その他の部分は実施形態1の場合と同じであるので説明は省略する。
【0033】
また、上記構成の電波吸収シート10を支柱60に設置する際に、例えば保持体20の内周面の曲率半径r1が、支柱60の外周面の曲率半径r2よりも大き目(r1>r2)であって、そのままでは電波吸収シート10の設置状態が不安定になるという場合には、保持体20と支柱60との間の隙間を十分に埋めることのできる程度の厚さ寸法T(>r1−r2)を有するゴムシートなどの緩衝材70を併用する。また、その緩衝材70の厚さ寸法Tが大き過ぎて電波吸収シート10,10間に周方向の隙間が生じる場合には、その隙間に例えばシリコーン系のシーリング材80を充填して該隙間をシールする。
【0034】
したがって、本実施形態によっても、実施形態1の場合と略様の効果を奏することができる。
【0035】
尚、上記の実施形態では、ブラインドリベット50のみを用いるようにしているが、ブラインドリベット50と接着剤とを併用するようにしてもよいし、さらには、ブラインドリベット50以外の止着具(例えば、ビスなど)を用いるようにすることもできる。
【実施例】
【0036】
ここで、ETCシステムにおいて使用される5.8GHzの電波を吸収対象とするシート本体30の一実施例を説明する。
【0037】
先ず、シート本体30の電波吸収層31を構成するための電波吸収層用シートとしては、先ず、塩素化ポリエチレンにカルボニル鉄を38vol%の割合で混合し、さらに必要に応じて種々の添加剤を混合して混練する。混練作業は、70〜130℃に加熱しつつ10分〜1時間に亘って行う。その後、公知の成形方法(例えば、ロール圧延加工など)により、シート状に成形する。その際、層厚tはt=1.85±0.03〔単位:mm〕とする。層厚のばらつきは、電波吸収特性に敏感に影響するので、そのようなばらつきは極力抑えるように配慮する必要がある。尚、ロール圧延加工の場合の加工条件の一例としては、ロール温度hをh=100〜150〔単位:℃〕、圧力pをp=0.1〜2.0〔単位:MPa〕とすることが挙げられる。
【0038】
シート本体30の電波反射層32を構成するための電波反射層用シートには、厚さ寸法tがt=25〔単位:μm〕である担体32aとしてのPETフィルムと、このPETフィルムに担持される厚さ寸法tが同じくt=25〔μm〕である金属箔32bとしてのアルミニウム合金箔とを有するものを用いる。
【0039】
シート本体30の不燃層33を構成するための不燃層用シートには、ユニチカグラスファイバー株式会社製のガラスクロスである「コーテッドガラスK(商品名)」を用いる。この商品は、ガラスクロスの両面がそれぞれ塩化ビニル樹脂フィルムで被覆されてなるものであり、建築基準法第2条第9号に規定される不燃材料(準認定番号:不燃(個)第1445号)である。厚さ寸法tは、不燃性を確保しつつ電波吸収層31による電波吸収特性を十分に発揮させる観点からすると、t=20〜500〔単位:μm〕であることが好ましく、より好ましいのはt=20〜100〔μm〕である。
【0040】
そして、上記の電波吸収層用シートに対する電波反射層用シートおよび不燃層用シートの積層一体化は、例えば100〜150℃に加熱しつつ、0.1〜2MPaの圧力でもってプレスする熱圧着により行うようにしてもよいし、接着剤を介在させて又は接着剤のみにより行うようにしてもよい。尚、電波反射層用シートおよび不燃層用シートの積層一体化は、同時に行ってもよいし、順に行ってもよい。
【0041】
次に、上記のようにして得られたシート本体30の電波(周波数:5.8GHz)に対する電波吸収特性を測定するテストを行った。テストの要領は、図7に示すように、シート本体30に対する入射角度θが、0.0°≦θ≦47.5°であるときの吸収特性〔単位:dB〕と、47.5°<θ≦50.0°であるときの吸収特性とを計測した。その結果は、次表1に示すとおりである。
【0042】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】図1は、本発明の実施形態1に係る電波吸収シートの全体構成を示す斜視図である。
【図2】図2は、電波吸収シートの要部を拡大して示す部分断面図である。
【図3】図3は、支柱に対し電波吸収シートを設置する際の途中の状態を示す斜視図である。
【図4】図4は、支柱に対し電波吸収シートが設置された状態を示す側面図である。
【図5】図5は、本発明の実施形態2に係る電波吸収シートの全体構成を示す図1相当図である。
【図6】図6は、電波吸収シートの設置状態を模式的に示す断面図である。
【図7】図7は、本発明の実施例に係る電波吸収シートの電波反射特性を調べるために行ったテストの要領を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0044】
10 電波吸収シート
20 保持体
30 シート本体
31 電波吸収層
32 電波反射層
50 ブラインドリベット(止着具)
60 支柱(長尺構造物)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺構造物の周囲に該長尺構造物を覆うように設置される電波吸収シートであって、
可撓性を有し、所定周波数の電波を吸収するシート本体と、
上記シート本体を断面湾曲状に保持する保持体とを備えていることを特徴とする電波吸収シート。
【請求項2】
請求項1に記載の電波吸収シートにおいて、
保持体は、長尺構造物における長さ方向の少なくとも一部を囲繞可能な管材が周方向において複数に分割されてなり、
シート本体は、上記保持体に積層状態に保持されていることを特徴とする電波吸収シート。
【請求項3】
請求項2に記載の電波吸収シートにおいて、
保持体は、管材が周方向において略等分に2分割されてなることを特徴とする電波吸収シート。
【請求項4】
請求項1に記載の電波吸収シートにおいて、
シート本体は、接着剤により保持体に貼着されていることを特徴とする電波吸収シート。
【請求項5】
請求項1に記載の電波吸収シートにおいて、
シート本体は、止着具により保持体に止着されていることを特徴とする電波吸収シート。
【請求項6】
請求項1に記載の電波吸収シートにおいて、
シート本体は、該シート本体に入射された電波の一部を透過させつつ減衰させる電波吸収層と、上記電波吸収層の長尺構造物側に位置するように該電波吸収層に積層され、該電波吸収層を透過した上記一部の電波を反射する電波反射層とを有することを特徴とする電波吸収シート。
【請求項7】
請求項1に記載の電波吸収シートを長尺構造物の周囲に該長尺構造物を覆うように設置する電波吸収シートの設置方法であって、
上記長尺構造物に対し、複数の上記電波吸収シートを該複数の電波吸収シートのシート本体が上記長尺構造物における長さ方向の少なくとも一部を略全周に亘って囲繞するように配置し、
しかる後、上記複数の電波吸収シートを結束して該複数の電波吸収シートを設置することを特徴とする電波吸収シートの設置方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−239211(P2009−239211A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−86753(P2008−86753)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000003263)三菱電線工業株式会社 (734)
【Fターム(参考)】