説明

電波吸収体の製造方法

【課題】対象建造物への重量負担や施工性の問題を招来することなく容易に電波吸収性能を制御すること。
【解決手段】金属フレーム1の表面において所定の間隔を確保した位置に複数の発泡ウレタン樹脂22を縞状に配置した後に、発泡ウレタン樹脂22の相互間に硬化性を有した液状の電波吸収材料21を塗布し、その後、発泡ウレタン樹脂22を除去して、電波吸収材料21の表面及び相互間にそれぞれ耐候性を有した上塗り材料であるポリウレタン樹脂材を塗布することにより、互いの間に間隔をもって金属フレーム1の表面に電波吸収材料21を縞状に配置した電波吸収層20を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波吸収体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、電波の乱反射に起因した種々の障害を防止するため、ビルや高所建造物に電波吸収体を設けることが行われている。また、近年では、無線LANや携帯電話の普及も著しく増加しているため、室内外での電波の乱反射による通信品質への影響を防止する目的で電波吸収体が多く適用されるようになっている。
【0003】
この種の電波吸収体としては、例えば電波吸収材料としてフェライト磁性体を利用したものが用いられる。この電波吸収体によれば、電波がフェライト磁性体に入射すると、このフェライト磁性体を透過する間に電波が減衰損失することになる。これにより、電波が乱反射することに起因した電波障害を抑制することが可能となり、また無線LANや携帯電話の通信品質を確保することができるようになる(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
上記以外の電波吸収体としては、電波吸収材料として三角錐等の立体形状のものやシート状のもの、あるいは塗装を前提とした液状タイプのものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−115346号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、フェライト磁性体を利用した電波吸収体にあっては、フェライト磁性体の重量が嵩むため、適用対象への重量負担や施工性の点で好ましいものとはいえない。また、立体形状のものは、デザイン等の外観品質に与える影響が大きいため、電波暗室等の室内に用いるのが一般的であり、建造物外部への適用は著しく制限される虞れがある。
【0007】
一方、シート状の電波吸収材料や液状タイプの電波吸収材料を利用した電波吸収体では、比較的軽量となるため、フェライト磁性体を利用したものに比べて重量負担や施工性の点で有利となる。しかしながら、これらシート状の電波吸収材料や液状タイプの電波吸収材料を利用した電波吸収体においては、吸収対象となる電波の中心周波数、吸収量、吸収対象周波数帯域等の電波吸収性能をその成分や厚さによって制御しているのが現状である。すなわち、成分や厚さのみが電波吸収性能を決定する場合のパラメータであり、吸収対象となる電波に合致した中心周波数、吸収量、吸収対象周波数帯域を設定することが困難である。
【0008】
本発明の目的は、上記実情に鑑みて、対象建造物への重量負担や施工性の問題を招来することなく容易に電波吸収性能を制御することのできる電波吸収体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1に係る電波吸収体の製造方法は、基材の表面において互いに所定の間隔を確保した位置に、基材の表面から吸収すべき電波の周波数帯域に応じた高さだけ突出する態様で間隔保持部材を格子状に配置する工程と、基材の表面に硬化性を有した液状の電波吸収材料を塗布する工程と、基材の表面から間隔保持部材を除去する工程と、電波吸収材料の表面及び相互間にそれぞれ耐候性を有した上塗り材料を塗布する工程とを含むことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の請求項2に係る電波吸収体の製造方法は、基材の表面において互いに所定の間隔を確保した位置に、比誘電率が空気と同等となる間隔保持部材を縞状に配置する工程と、間隔保持部材の相互間に硬化性を有した液状の電波吸収材料を塗布する工程と、基材の表面から間隔保持部材を除去する工程と、電波吸収材料の表面及び相互間にそれぞれ耐候性を有した上塗り材料を塗布する工程とを含むことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の請求項3に係る電波吸収体の製造方法は、基材の表面全域にシート状を呈する電波吸収材料、もしくは硬化性を有した液状の電波吸収材料を配置する工程と、基材の表面において所定の間隔を確保した位置から電波吸収材料を除去する工程と、基材の表面に配置された電波吸収材料の表面及び相互間にそれぞれ耐候性を有した上塗り材料を塗布する工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電波吸収層において電波吸収材料が縞状に配置されるため、その板厚方向のみならず、電波吸収材料の幅方向寸法が、吸収対象となる電波の周波数を決定する場合のパラメータとなる。これにより、電波吸収層を設計する場合の自由度が大幅に向上し、吸収対象となる電波の中心周波数、吸収量、吸収対象周波数帯域等の電波吸収性能を容易に制御することが可能となる。しかも、シート状を呈する電波吸収材料、もしくは硬化性を有した液状の電波吸収材料を適用しているため、対象建造物への重量負担や施工性の問題を招来する虞れもない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態1である電波吸収体の製造方法によって製造した電波吸収体の構成を示す概念図である。
【図2】図1に示した電波吸収体の製造工程を示す断面図である。
【図3】図2の斜視図である。
【図4】図1に示した電波吸収体においてシミュレーションを実施し、電波の周波数と電波吸収性能との関係を示したグラフである。
【図5】図1に示した電波吸収体の変形例を示す概念図である。
【図6】図5に示した電波吸収体の製造工程を示す断面図である。
【図7】図6の斜視図である。
【図8】本発明の実施の形態2である電波吸収体の製造方法によって製造した電波吸収体の構成を示す正面概念図である。
【図9】図8におけるA−A線断面図である。
【図10】図8に示した電波吸収体の製造工程を示す断面斜視図である。
【図11】図8に示した電波吸収体の変形例を示す概念図である。
【図12】図11に示した電波吸収体の製造工程を示す断面斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に添付図面を参照して、本発明に係る電波吸収体の製造方法の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0015】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1である電波吸収体の製造方法によって製造した電波吸収体10を示したものである。ここで例示する電波吸収体10は、地上波テレビ放送用の鉄塔が反射源となる電波障害を抑制するためのもので、鉄塔を構成する金属フレーム1の表面に電波吸収層20及び上塗り層30を備えている。
【0016】
電波吸収層20は、鉄塔の金属フレーム1を基材とし、この金属フレーム1の表面に所定の厚さとなるように電波吸収材料21を配置することによって構成したものである。電波吸収材料21としては、吸収すべき電波の周波数に応じて比誘電率及び比透磁率を適宜調整したもので、例えば硬化性を有した液状のエポキシ樹脂材にナノ結晶合金(軟磁性材料)を混入したものを適用することができる。電波吸収材料21と金属フレーム1の表面との間には、これらの間の付着性を向上させるために下塗り層40が設けてある。下塗り層40としては、例えば硬化性を有したエポキシ樹脂材等の接着剤を適用することができる。
【0017】
図1からも明らかなように、この電波吸収層20を構成する電波吸収材料21は、金属フレーム1の表面において互いの間に間隔を確保する位置に縞状に配置してある。それぞれの縞を構成する電波吸収材料21は、全長に亘って均一な幅を有しており、互いの間に確保した間隔の幅が均一となる態様で金属フレーム1の表面に設けてある。
【0018】
電波吸収層20において電波吸収材料21の相互間となる部位には、それぞれ間隔保持部材22が配設してある。間隔保持部材22は、比誘電率が空気とほぼ同等となる材料、例えば発泡性ウレタン樹脂によって構成したものである。
【0019】
上塗り層30は、電波吸収層20に所望の耐候性を確保するもので、電波吸収層20の表面全域を覆う態様で設けてある。上塗り層30を構成する上塗り材料としては、例えばポリウレタン樹脂材を適用することができる。
【0020】
図2は、鉄塔の金属フレーム1に電波吸収体10を製造する工程を示した断面図、図3はその斜視図である。すなわち、電波吸収体10を構成する場合には、まず、金属フレーム1の表面に下塗り層40となるエポキシ樹脂材を塗布する。
【0021】
次に、エポキシ樹脂材からなる下塗り層40を介して金属フレーム1の表面に発泡性ウレタン樹脂から成る間隔保持部材22を一定の間隔で縞状に配置する。
【0022】
しかる後、間隔保持部材22に覆着する態様で電波吸収材料21を塗布し、その表面を間隔保持部材22の表面と合致させる。
【0023】
最後に、これら間隔保持部材22の表面及び電波吸収材料21の表面にポリウレタン樹脂材を塗布して上塗り層30を形成すれば、金属フレーム1の表面に電波吸収体10が構成されることになる。
【0024】
上述した製造工程において、間隔保持部材22の厚さ、並びに間隔保持部材22の相互間に確保する間隔の寸法は、吸収すべき電波の周波数帯域に応じて適宜設定したものとなる。具体的には、これらの寸法を適宜調整することによって等価誘電率及び等価透磁率を制御し、Q値を小さくすることにより、一定レベル以上の電波吸収性能が広範囲の周波数帯域で得られるように、間隔保持部材22の厚さ、並びに間隔保持部材22の相互間に確保する間隔の寸法を設定する。
【0025】
図4は、図2の製造工程に従って製造した電波吸収体においてシミュレーションを実施し、電波の周波数と電波吸収性能との関係を示したグラフである。図4において太線は、電波吸収層を構成する電波吸収材料の空隙率、つまり電波吸収層の表面積に対する間隔保持部材の表面積の割合が1%、図4において破線は、電波吸収材料の空隙率が2%のものである。一方、図4において細線は、連続した電波吸収材料によって電波吸収層を構成した(空隙率=0)比較例となる従来の電波吸収体のものである。尚、いずれの電波吸収体においても電波吸収層の基材からの厚さは同一であり、例えば3mmである。
【0026】
同図4からも明らかなように、細線で示した比較例においては電波吸収性能のピーク値が12dBであり、10dB以上の電波吸収性能を得ることのできる電波の周波数が400〜650MHzとなる。
【0027】
これに対して空隙率1%及び2%確保した本発明の電波吸収体によれば、電波吸収性能のピーク値が13dB、14dBと共に向上しているばかりでなく、10dB以上の電波吸収性能を得ることのできる電波の周波数も大幅に拡大している。さらに、電波吸収性能がピークとなる周波数も電波吸収材料の空隙率に応じて、つまり電波吸収材料の間隔に応じて変化している。
【0028】
従って、上述した電波吸収体10を鉄塔に適用すれば、電波吸収層20において広帯域及び様々な周波数に亘る電波を吸収することが可能となる。これにより、施工コストが増大する事態や、電波吸収体10を設ける建造物への耐荷重の問題を招来することなく、広帯域及び様々な周波数に亘る電波に起因した電波障害を抑制することが可能となる。
【0029】
尚、上述した実施の形態1では、電波吸収層20の厚さが3mm、空隙率が1%もしくは2%となる電波吸収体10を例示しているが、必ずしもこれらの数値に限定されない。例えば、電波吸収層20の厚さとしては0.01〜30mm程度の範囲で構成しても良いし、空隙率に関しては50%以下の如何なる値に設定しても構わない。但し、電波吸収材料21と間隔保持部材22とで構成される縞の1サイクルは、電波吸収性能を考慮した場合、吸収すべき電波の波長に対して1/5以上に設定する必要がある。
【0030】
また、下塗り層40、上塗り層30、間隔保持部材22を構成する材料、並びに電波吸収材料21に関しても、実施の形態1のものに限らず、要求される電波吸収性能に応じて適宜変更しても構わない。この場合においても、電波吸収材料21が互いの間に間隔を確保する態様で配置してあれば、電波吸収材料21の幅方向寸法が電波吸収性能を決定するためのパラメータとなるため、実施の形態1と同様に、電波吸収層20を設計する場合の自由度が大幅に向上し、吸収できる電波の周波数制御及びその広帯域化を図ることができるようになる。
【0031】
また、上述した実施の形態1では、電波吸収材料21の相互間に間隔保持部材22を配置するようにしているが、必ずしも間隔保持部材22を配置する必要はない。例えば図5に示す変形例の電波吸収体100では、電波吸収材料121の相互間に上塗り層130を構成する部材を配置するようにしている。変形例で適用する上塗り層130は、実施の形態1で示したものと同様に、電波吸収層120に所望の耐候性を確保するもので、例えばポリウレタン樹脂材を適用することができる。
【0032】
図6は、図5に示した電波吸収体100を鉄塔の金属フレーム1に製造する工程を示した断面図、図7はその斜視図である。すなわち、電波吸収体100を構成する場合には、まず、金属フレーム1の表面に下塗り層140となるエポキシ樹脂材を塗布する。
【0033】
次に、エポキシ樹脂材からなる下塗り層140を介して金属フレーム1の表面に発泡性ウレタン樹脂から成る間隔保持部材122を一定の間隔で縞状に配置する。
【0034】
しかる後、間隔保持部材122に覆着する態様で硬化性を有した液状の電波吸収材料121を塗布し、その表面を間隔保持部材122の表面と合致させる。
【0035】
塗布した電波吸収材料121が硬化した段階で間隔保持部材122をすべて除去し、電波吸収材料121の相互間に間隔を確保する。
【0036】
最後に、電波吸収材料121の表面及び相互間にポリウレタン樹脂材を塗布して上塗り層130を形成すれば、金属フレーム1の表面に図5に示した変形例の電波吸収体100が構成されることになる。
【0037】
上記のように構成した変形例の電波吸収体100においても、互いの間に間隔を確保する態様で電波吸収材料121が配置してあるため、電波吸収材料121の幅方向寸法が電波吸収性能を決定するためのパラメータとなるため、実施の形態1と同様に、電波吸収層120を設計する場合の自由度が大幅に向上し、吸収できる電波の周波数制御及びその広帯域化を図ることができるようになる。
【0038】
尚、図6においては間隔保持部材122として発泡性ウレタン樹脂からなるものを適用しているが、必ずしも発泡性ウレタン樹脂を適用する必要はなく、電波吸収材料121を塗布した場合に電波吸収材料121を縞状に分断できるものであれば、如何なるものを適用しても構わない。但し、電波吸収材料121に対して剥離性に富んだものであることが好ましい。
【0039】
(実施の形態2)
図8及び図9は、本発明の実施の形態2である電波吸収体の製造方法によって製造した電波吸収体200を示したものである。ここで例示する電波吸収体200も、実施の形態1と同様に、地上波テレビ放送用の鉄塔が反射源となる電波障害を抑制するためのもので、鉄塔を構成する金属フレーム1の表面に電波吸収層220及び上塗り層230を備えている。尚、図8においては、上塗り層230を省略しているが、電波吸収層220の表面全域を覆う態様で上塗り層230が設けてある。
【0040】
電波吸収層220は、鉄塔の金属フレーム1を基材とし、この金属フレーム1の表面に当該電波吸収層220が吸収すべき電波の周波数帯域に応じた厚さt(図9参照)となるように電波吸収材料221を配置することによって構成したものである。この電波吸収層220の厚さは、例えば1〜5mmである。電波吸収材料221としては、吸収すべき電波の周波数に応じて比誘電率及び比透磁率を適宜調整したもので、例えば硬化性を有した液状のエポキシ樹脂材にナノ結晶合金(軟磁性材料)を混入したものを適用することができる。電波吸収材料221と金属フレーム1の表面との間には、これらの間の付着性を向上させるために下塗り層240が設けてある。下塗り層240としては、例えば硬化性を有したエポキシ樹脂材等の接着剤を適用することができる。
【0041】
図8及び図9からも明らかなように、この電波吸収層220を構成する電波吸収材料221は、金属フレーム1の表面において互いの間に間隔を確保する位置に、図8において上下方向及び左右方向に配置してある。電波吸収材料221は、それぞれ同一の幅(図8において左右方向)と長さ(図8において上下方向)とを有する直方体を成している。この電波吸収材料221の幅及び長さは、吸収すべき電波の周波数帯域に応じて適宜設定してある。そして、電波吸収材料221は、互いの間に確保した間隔の幅が、図8において上下方向及び左右方向にそれぞれ均一となる態様で金属フレーム1の表面に設けてある。
【0042】
電波吸収層220において電波吸収材料221の相互間となる部位には、間隔保持部材222が配設してある。間隔保持部材222は、比誘電率が空気とほぼ同等となる材料、例えば発泡性ウレタン樹脂によって構成したものである。この間隔保持部材222は、電波吸収層220と同一の厚さを有するもので、格子状に形成してある。
【0043】
上塗り層230は、電波吸収層220に所望の耐候性を確保するもので、電波吸収層220の表面全域を覆う態様で設けてある。上塗り層230を構成する上塗り材料としては、例えばポリウレタン樹脂材を適用することができる。
【0044】
図10は、鉄塔の金属フレーム1に電波吸収体200を製造する工程を示したものである。すなわち、電波吸収体200を構成する場合には、まず、金属フレーム1の表面に下塗り層240となるエポキシ樹脂材を塗布する。
【0045】
次に、エポキシ樹脂材からなる下塗り層240を介して金属フレーム1の表面に発泡性ウレタン樹脂から成る格子状の間隔保持部材222を配置する。
【0046】
しかる後、金属フレーム1の表面に硬化性を有した液状の電波吸収材料221を塗布し、その表面を間隔保持部材222の表面と合致させる。この方法としては、金属フレーム1の表面に硬化性を有した液状の電波吸収材料221を間隔保持部材222の表面を越えるまで散布し、散布した電波吸収材料221が硬化した段階で、間隔保持部材222の表面を越えた部分を除去すると良い。または、金属フレーム1の表面に硬化性を有した液状の電波吸収材料221を、その表面が間隔保持部材222の表面と合致するように塗布しても良い。尚、この方法に用いる塗布手段としては、スプレーガン等の噴霧器や、刷毛等を用いると良い。
【0047】
最後に、間隔保持部材222の表面及び電波吸収材料221の表面にポリウレタン樹脂材を塗布して上塗り層230を形成すれば、金属フレーム1の表面に電波吸収体200が構成されることになる。
【0048】
上記のように構成した実施の形態2の電波吸収体200においても、互いの間に間隔を確保する態様で電波吸収材料221が配置してあるため、実施の形態1と同様に、電波吸収材料221の幅方向(図8において左右方向)寸法が電波吸収性能を決定するためのパラメータとなる。さらに、上記のように構成した実施の形態2の電波吸収体200においては、電波吸収材料221の幅方向のみならず、長さ方向(図8において上下方向)も電波吸収性能を決定するためのパラメータとなる。このため、電波吸収層220を設計する場合の自由度が、実施の形態1と比較して大幅に向上し、吸収できる電波の周波数制御及びその広帯域化を図ることができるようになる。
【0049】
従って、上述した電波吸収体200を鉄塔に適用すれば、電波吸収層220において広帯域及び様々な周波数に亘る電波を吸収することが可能となる。これにより、施工コストが増大する事態や、電波吸収体200を設ける建造物への耐荷重の問題を招来することなく、広帯域及び様々な周波数に亘る電波に起因した電波障害を抑制することが可能となる。
【0050】
しかも、上記のように構成した実施の形態2の電波吸収体200においては、間隔保持部材222における金属フレーム1の表面から突出する高さを電波吸収層220が備えるべき厚さt(図10参照)と同一に設定してあるとともに、間隔保持部材222を配置した後に電波吸収材料221を塗布してある。このため、電波吸収材料221を塗布する際、電波吸収材料221の厚さの管理が正確になるとともに、施工が容易となる。
【0051】
また、下塗り層240、上塗り層230、間隔保持部材222を構成する材料、並びに電波吸収材料221に関しても、実施の形態2のものに限らず、要求される電波吸収性能に応じて適宜変更しても構わない。この場合においても、電波吸収材料221が互いの間に間隔を確保する態様で配置してあれば、電波吸収材料221の幅方向(図8において左右方向)寸法及び長さ方向(図8において上下方向)寸法が電波吸収性能を決定するためのパラメータとなるため、実施の形態1と同様に、電波吸収層220を設計する場合の自由度が大幅に向上し、吸収できる電波の周波数制御及びその広帯域化を図ることができるようになる。
【0052】
また、上述した実施の形態2では、それぞれ同一の幅(図8において左右方向)と長さ(図8において上下方向)とを有する直方体の電波吸収体221を例示しているが、必ずしも直方体でなくても良い。例えば、金属フレーム1に対して固定する面が平行四辺形を成す板状に電波吸収体221を構成しても良い。
【0053】
また、上述した実施の形態2では、電波吸収材料221の相互間に間隔保持部材222を配置するようにしているが、必ずしも間隔保持部材222を配置する必要はない。例えば図11に示す変形例の電波吸収体300では、電波吸収材料321の相互間に上塗り層330を構成する部材を配置するようにしている。変形例で適用する上塗り層330は、実施の形態2で示したものと同様に、電波吸収層320に所望の耐候性を確保するもので、例えばポリウレタン樹脂材を適用することができる。
【0054】
図12は、図11示した電波吸収体300を鉄塔の金属フレーム1に製造する工程を示したものである。すなわち、電波吸収体300を構成する場合には、まず、金属フレーム1の表面に下塗り層340となるエポキシ樹脂材を塗布する。
【0055】
次に、エポキシ樹脂材からなる下塗り層340を介して金属フレーム1の表面に発泡性ウレタン樹脂から成る格子状の間隔保持部材322を配置する。
【0056】
しかる後、金属フレーム1の表面に硬化性を有した液状の電波吸収材料321を塗布し、その表面を間隔保持部材322の表面と合致させる。この方法としては、金属フレーム1の表面に硬化性を有した液状の電波吸収材料321を間隔保持部材322の表面を越えるまで散布し、散布した電波吸収材料321が硬化した段階で、間隔保持部材322の表面を越えた部分を除去すると良い。または、金属フレーム1の表面に硬化性を有した液状の電波吸収材料321を、その表面が間隔保持部材322の表面と合致するように塗布しても良い。尚、この方法に用いる塗布手段としては、スプレーガン等の噴霧器や、刷毛等を用いると良い。
【0057】
その後、間隔保持部材322を除去し、電波吸収材料321の相互間に間隔を確保する。
【0058】
最後に、電波吸収材料321の表面及び相互間にポリウレタン樹脂材を塗布して上塗り層330を形成すれば、金属フレーム1の表面に図11に示した変形例の電波吸収体300が構成されることになる。
【0059】
上記のように構成した変形例の電波吸収体300においても、互いの間に間隔を確保する態様で電波吸収材料321が配置してあるため、実施の形態1と同様に、電波吸収材料321の幅方向(図8において左右方向)寸法が電波吸収性能を決定するためのパラメータとなる。さらに、上記のように構成した変形例の電波吸収体300においても、電波吸収材料321の幅方向のみならず、長さ方向(図8において上下方向)も電波吸収性能を決定するためのパラメータとなる。このため、電波吸収層320を設計する場合の自由度が、実施の形態1と比較して大幅に向上し、吸収できる電波の周波数制御及びその広帯域化を図ることができるようになる。
【0060】
しかも、上記のように構成した変形例の電波吸収体300においても、間隔保持部材222における金属フレーム1の表面から突出する高さを電波吸収層320が備えるべき厚さt(図12参照)と同一に設定してあるとともに、間隔保持部材322を配置した後に電波吸収材料321を塗布してある。このため、電波吸収材料321を塗布する際、電波吸収材料321の厚さの管理が正確になるとともに、施工が容易となる。
【0061】
尚、図12においては間隔保持部材322として発泡性ウレタン樹脂からなるものを適用しているが、必ずしも発泡性ウレタン樹脂を適用する必要はなく、電波吸収材料321を塗布した場合に電波吸収材料321を格子状に分断できるものであれば、如何なるものを適用しても構わない。但し、電波吸収材料321に対して剥離性に富んだものであることが好ましい。
【0062】
さらに、上述した実施の形態1、2及びそれらの変形例では、いずれも適用対象となる鉄塔の金属フレーム1を基材として電波吸収体10,100,200,300を構成するようにしているが、適用対象に対して基材を別個に設けるようにしてももちろん良い。
【0063】
またさらに、上述した実施の形態1、2及びそれらの変形例では、テレビ放送に適用される電波を適用対象として説明を行っているが、適用対象がテレビ電波に限定されないのはいうまでもなく、無線LANや携帯電話の通信品質を向上させるための電波吸収体としてももちろん適用することが可能である。
【0064】
また、上述した実施の形態1、2及びそれらの変形例では、いずれも硬化性を有した液状の電波吸収材料を適用したものを例示しているが、予めシート状に構成した電波吸収材料を適用しても構わない。
【0065】
さらに、上述した実施の形態1、2及びそれらの変形例では、予め基材の表面において所定の間隔を確保した位置に電波吸収材料を配置するようにしているが、基材の表面全域に一旦電波吸収材料を配置した後、基材の表面において所定の間隔を確保した位置から電波吸収材料を除去するようにしても良い。
【符号の説明】
【0066】
1 金属フレーム(基材)
10 電波吸収体
20 電波吸収層
21 電波吸収材料
22 間隔保持部材
30 上塗り層
40 下塗り層
100 電波吸収体
120 電波吸収層
121 電波吸収材料
122 間隔保持部材
130 上塗り層
140 下塗り層
200 電波吸収体
220 電波吸収層
221 電波吸収材料
222 間隔保持部材
230 上塗り層
240 下塗り層
300 電波吸収体
320 電波吸収層
321 電波吸収材料
322 間隔保持部材
330 上塗り層
340 下塗り層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面において互いに所定の間隔を確保した位置に、基材の表面から吸収すべき電波の周波数帯域に応じた高さだけ突出する態様で間隔保持部材を格子状に配置する工程と、
基材の表面に硬化性を有した液状の電波吸収材料を塗布する工程と、
基材の表面から間隔保持部材を除去する工程と、
電波吸収材料の表面及び相互間にそれぞれ耐候性を有した上塗り材料を塗布する工程と
を含むことを特徴とする電波吸収体の製造方法。
【請求項2】
基材の表面において互いに所定の間隔を確保した位置に、比誘電率が空気と同等となる間隔保持部材を縞状に配置する工程と、
間隔保持部材の相互間に硬化性を有した液状の電波吸収材料を塗布する工程と、
基材の表面から間隔保持部材を除去する工程と、
電波吸収材料の表面及び相互間にそれぞれ耐候性を有した上塗り材料を塗布する工程と
を含むことを特徴とする電波吸収体の製造方法。
【請求項3】
基材の表面全域にシート状を呈する電波吸収材料、もしくは硬化性を有した液状の電波吸収材料を配置する工程と、
基材の表面において所定の間隔を確保した位置から電波吸収材料を除去する工程と、
基材の表面に配置された電波吸収材料の表面及び相互間にそれぞれ耐候性を有した上塗り材料を塗布する工程と
を含むことを特徴とする電波吸収体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−119690(P2012−119690A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−266934(P2011−266934)
【出願日】平成23年12月6日(2011.12.6)
【分割の表示】特願2007−280773(P2007−280773)の分割
【原出願日】平成19年10月29日(2007.10.29)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】