説明

電波状況管理システム、電波状況測定方法及び電波状況管理装置

【課題】電測車走行による電波状況測定を行うことなく、実際の通信における使用感を把握することが可能な電波状況管理システム及び、電波状況測定方法を提供する。
【解決手段】移動無線通信システムにおいて、移動通信端末から通常の通信信号に通信品質情報と位置情報を付加して基地局装置に送信し、それらの情報基づいて電波状況を地図情報に関連づけて管理し、必要に応じて読み出して表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波状況管理システム及び電波状況測定方法に関し、詳しくは、電測車等を走行させることなく電波状況測定情報の収集を行う電波状況測定方法及び電波状況管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
陸上移動無線システム(Land Mobile Radio:LMR)では、車載型、携帯型、ショルダー型の可搬型の他にも、固定・半固定式のもの等、各種の移動通信端末(これらを含めて「移動通信端末」と総称する)が使用されているが、近年、電波の有効利用や装置の小型化等の観点等からデジタル化が進められている。
デジタル無線通信システムでは、伝達すべきデータをフレーム単位で送受信を行うが、送信機側で各フレームの所定位置に特定の信号配列パターンを有する同期信号(フレーム同期ワード:Frame Sync Word以下「FSW」と略称する)を配置して送信し、受信機側では、検波出力信号中の上記フレーム同期ワードを検出することにより同期を確立する。
また、人工衛星を利用した位置検出装置も小型化され、携帯電話等の移動通信端末にも組み込まれるようになり、車両搭載無線機や作業者が携行する無線機にGPSユニットを搭載し、夫々の位置を把握する各種システムが構築されている。
【0003】
ところで、業務用無線システムの新規導入には、相当の設備費用が必要であり、既存のサービスの提供を受ける場合であっても、加入費用の他、移動通信端末の購入やリース費用等を要する場合が多いので、システム導入の効果を確認した上で導入の可否を判断することが理想的である。しかし、通信領域の全てにおいて雑音無く高い通信品質を希望して導入したシステムが、ユーザの希望に反したものである場合は、システム提供側もユーザ側も対応に窮することになる。
特に、都心の高層ビルが建ち並ぶ地域や山岳が多い地域では、随所に電波が届かない電波不感地帯が存在するので、電波不感地帯が含まれる虞のある領域では、電波状況の把握は不可欠である。
そのために従来から、システム導入に先立って無線通信システムによってカバーしたい無線通信エリア内の電波伝搬状態を把握するために、各種の測定器とアンテナ設備を積み込んだ電測車を走行させて、詳細な電波伝搬測定を行っていた。
【0004】
図5は、ユーザが無線通信システムの導入や、通信サービスへの加入を希望する場合の対応例を示すフローチャートである。図5に示す例では、ユーザから無線通信システムの問い合わせがあると(S31)、ユーザの希望や通信サービス地域を聞き、希望を満たすと考えられるシステムやサービス加入を説明する(S32)。この時点で、ユーザの了解を得られれば、既存の通信サービスでカバーされる場合は、実際の通信システムを使用して使用感を試すための仮運用やデモンストレーション走行による通信を行い(S33)、その結果を踏まえて導入の可否を判断する(S34)。
しかし、既存の通信サービス範囲に、ユーザが希望する通信領域が含まれていない場合や、全く異なる通信サービスを希望する場合は、仮運用やデモンストレーションの実施が不可能であるので、実際のサービス予定領域において、電測車を走行させて電測実験を行い(S35)、その結果を踏まえて導入の可否を判断していた(S34)。
【0005】
しかし電測実験を行う方法では、時間と手間を要し、迅速な判断やシステム提案が不可能であったので、従来から特許文献1や特許文献2に記載されたような方法や手段が提案されている。
特許文献1に記載されたものは、ノート型の可搬型コンピュータと、これに接続した送受信機、GPS位置検出装置、アンテナ等を電測車に備え、移動しながら基地局装置からの電波を受信するとともに、電界強度情報を取得し、GPSにより検出した位置情報に基づいて、表示した地図情報上に電界強度情報を移動通信端末側である電測車において記録するものである。この方法によれば、比較的簡単な設備によって、電界強度情報を地図上に関連付けたデータを入手可能である。
【0006】
また特許文献2には、携帯端末と、移動体通信網と、移動体通信網に接続された電波測定システムとからなる電波状況測定システムが提案されている。
このシステムは、公衆通信回線システムの携帯電話機(移動通信端末)から送信される電波の電界強度を、移動体通信網の基地局において精密に制御管理する機能を利用したものである。即ち、必要に応じて電波測定システムから移動体通信網に電測開始/終了メッセージを送出すると、移動体通信網のうち、必要な地域の基地局の管理データ情報、例えば、携帯端末に対する送信電力制御データや携帯端末における基地局送信電波の電界強度情報等、を電波測定システムに返送する。携帯端末は、基地局からの電測指示に応じて、内蔵したGPS利用の位置検出装置により検出した位置情報や、上述した基地局装置からの電波の電界強度情報等を返送するものである。
【0007】
以上説明した例では、電波状況測定を行う場合は、例えば図6に示すように、基地局装置から電波状況測定のためのポーリングデータ11を送信し、移動通信端末がこれに応答信号12を返送すると、更に、基地局装置から電波状況測定用データ13を送信し、移動通信端末はその電波状況測定用データ13を受信中に電界強度の測定や誤り訂正処理によるビットエラー率算出を行い、その結果を電波状況データ14として基地局装置に送信する。
このシステムによれば、正確な電波状況を把握することが可能で、不感地帯対策のための基地局設置計画等に利用可能となる。
【特許文献1】特開平10−261993号公報
【特許文献2】特開2003−204296公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、以上説明したような従来の電波状況測定方法では、夫々以下のような欠点が存在した。
特許文献1に記載された方法では、ノート型等の可搬型コンピュータと、これに接続した送受信機、GPS位置検出装置、アンテナ等を電測車に備え、移動しながら基地局装置からの電波を受信するもので、実際の通信とは別の作業として電測実験を行うものである。従って、ユーザが実際の使用感を確認することができない。理想的には、出来る限り実際の使用感が把握できることが好ましい。更に、電測実験は一回程度実施したうえで、電波状況を判断するのが通常であり、季節や気象状態が異なる夫々の状況において電測実験を行うことは経済的にも、時間的にも困難であり、結局、異なった電波環境における実際の使用感を推測できる程度の詳細な電測データを得ることは不可能であった。
また特許文献2記載の方法では、公衆通信回線としての携帯電話システムにおける携帯電話機(移動通信端末)からの送信電波の電界強度を、移動体通信網の基地局において精密に制御管理する機能を利用したものであることから、公衆通信網を提供する通信事業者程度の大規模な設備の存在が前提となったシステムであるので、一般的な業務用無線通信システム導入に際して利用することは困難であった。また、特許文献1記載のシステムによって、収集した携帯通信網に関する電測データを利用可能であるとしても、ユーザが携帯電話とは異なる、実際に導入使用予定の無線システムの使用感を理解できるものではなかった。
【0009】
本発明は、このような従来の電波状況測定手段における問題点を解決するためになされたものであって、無線通信システムが目的とする通常の通信信号に、検出した通信品質情報と位置情報、必要に応じて実際の通話音声データを付加して送信するとともに、それらを位置情報に関連付けて記憶する手段を備えることによって、実際の通信における使用感を明確に把握することが可能な電波状況管理システム及び、電波状況測定方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明はかかる課題を解決するために、請求項1記載の電波状況管理システムは、基地局装置と、位置情報検出機能をもった複数の移動通信端末とを含む無線システムにおいて、上記移動通信端末は、基地局装置から送信された信号の通信品質情報を検出する通信品質検出手段と、この無線通信システムが目的とする通常の通信信号に検出した通信品質情報と位置情報とを付加して基地局装置に対して送信する手段とを備え、基地局装置は、移動通信端末から送信される信号より位置情報と通信品質情報とを検出する手段と、それらの情報に基づいて無線通信エリア内の各地の電波状況を地図情報に関連づけて管理する電波状況管理手段と、を備えたことを特徴とする。
請求項2記載の電波状況管理システムは、基地局装置と位置情報検出機能をもった複数の移動通信端末とを含む無線システムにおいて、移動通信端末は、自局の端末識別情報又は送信電力情報を記憶したメモリと、この無線通信システムが目的とする通常の通信信号に位置情報と自局の端末識別情報又は送信電力情報を付加して基地局装置に対して送信する手段とを備え、基地局装置は、移動通信端末から送信される信号より位置情報と移動通信端末識別情報又は送信電力情報とを検出する手段と、移動通信端末から着信する信号の通信品質情報を検出する通信品質検出手段と、上記位置情報と通信品質情報とに基づいて無線通信エリア内の各地の電波状況を地図情報に関連づけて管理する電波状況管理手段とを備えたことを特徴とする。
【0011】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の電波状況管理システムにおいて、上記無線システムが車両運行管理システム機能を備え、定期的に又は必要に応じて基地局装置から各移動通信端末に対して少なくとも位置情報の返送を要求するポーリングを行い、移動通信端末はこの要求に応答する信号に、通信品質情報、位置情報、端末識別情報、送信電力情報、音声信号のうち所要のものを付加して基地局装置に対して送信する手段を備えたことを特徴とする。
請求項4記載の発明は電波状況測定方法に関するもので、基地局装置と、複数の車両に搭載された位置検出機能を備えた移動通信端末、又は複数の作業者が携行する位置検出機能を備えた移動通信端末とを含み、上記基地局装置は定期的に又は必要に応じて移動通信端末に対して少なくとも位置情報の返送を要求するポーリングを行うことによって車両運行管理又は作業者管理を行う無線通信システムの電波状況測定方法において、上記移動通信端末が、前記ポーリング信号を受信したとき受信電界強度情報及びビットエラー情報を取得する処理と、この受信電界強度情報及びビットエラー情報を基地局装置に対して送信する処理と、基地局装置が、移動通信端末から送信された上記受信電界強度情報及びビットエラー情報を検出する処理と、これら受信電界強度情報及びビットエラー情報に基づいて無線通信エリア内の各地の電波状況を地図情報に関連づけた電波状況管理処理を行う処理と、必要に応じて無線通信エリア内の前記電波状況を表示する電波状況管理表示する処理と、を含むことを特徴とする。
【0012】
請求項5記載の電波状況測定方法は、基地局装置と、複数の車両に搭載された位置検出機能を備えた移動通信端末、又は複数の作業者が携行する位置検出機能を備えた移動通信端末とを含み、上記基地局装置は定期的に又は必要に応じて移動通信端末に対して少なくとも位置情報の返送を要求するポーリングを行うことによって車両運行管理又は作業者管理を行う無線通信システムにおいて、上記移動通信端末が、前記ポーリング信号を受信したとき自局の端末識別情報又は送信電力情報を基地局装置に対して送信する処理と、上記基地局装置が、移動通信端末から送信された電波を受信して電界強度情報とビットエラー情報の少なくとも一方を検出する処理と、移動通信端末から送信された上記端末識別情報又は送信電力情報を検出する処理と、これらの情報に基づいて無線通信エリア内の各地の電波状況を地図情報に関連づけた電波状況管理処理を行う処理と、必要に応じて無線通信エリア内の前記電波状況を表示する電波状況管理表示する処理と、を含むことを特徴とする。
請求項6記載の発明は電波状況管理装置に関するもので、無線基地局装置と移動通信端末とを含む無線通信システムにおける電波状況管理装置において、地図情報に、送信電力情報、季節情報、気象情報、時刻情報の所要のものとともに実測した電界強度等の通信品質情報又は通話音声データを関連づけた電波状況データベースと、上記地図情報の所望領域、送信電力情報、季節情報、気象情報、時刻情報の少なくとも一つを指定する地図領域指定手段と、指定事項に関連した電波状況情報を表示する表示装置と、を備え、上記電波状況データベースには、請求項1乃至5記載の電波状況管理システム又は電波状況測定方法によって取得した電波状況情報を記憶したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1記載の発明は、以上のように構成しまたは制御するので、夫々以下のような効果が得られる。
請求項1記載の電波状況管理システムは、無線通信システムが本来の目的とする通常の通信信号に、検出した通信品質情報と位置情報とを付加して基地局装置に対して送信し、基地局装置は、移動通信端末より送信される信号から位置情報と通信品質情報とを検出するとともに、それらの情報に基づいて無線通信エリア内の各地の電波状況を地図情報に関連づけて管理するように構成したので、電波状況測定専用のデータを送信する必要が無く、全体の通信量を減少させることができるとともに、実際の運用状態での電測結果や通信品質情報を取得可能である。また、ユーザがデモンストレーションを希望すれば、実際に即した使用感を確認することができる。
請求項2記載の電波状況管理システムは、移動通信端末は、自局の移動通信端末識別情報又は送信電力情報を記憶したメモリと、無線通信システムが目的とする通常の通信信号に位置情報と自局識別情報又は送信電力情報を付加して基地局装置に対して送信し、基地局装置は、移動通信端末から送信される信号から位置情報と移動通信端末識別情報又は送信電力情報とを検出するように構成したので、電波状況測定専用のデータを送信する必要が無く、全体の通信量を減少させることができる。また、移動通信端末から端末識別情報を受信したときは、端末識別情報に関連付けて記憶した送信電力情報を読み出すことができるので、移動通信端末から送信電力情報を送信することなく電波状況データを得ることが出来る。
【0014】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の電波状況管理システムにおける無線システムが、車両運行管理システム機能を備えた場合に、その機能をそのまま利用できるので、移動通信端末は無線通信システム本来の通信目的とする通信信号に、通信品質情報、位置情報、移動通信端末識別情報、送信電力情報、通話音声データのなかから所要のものを付加して基地局装置に対して送信する手段を備えることによって、本発明を実施することが可能である。特に、実際の通話音声をデータ化して記録しておけば、電界強度測定値や通信品質表示のみでは得られない通話感覚を体験することが可能である。また、電波状況測定専用のデータを送信する必要が無いので、全体の通信量を減少させることができる。
請求項4記載、請求項5記載の発明は、無線基地局装置と、複数の移動通信端末とを含む、所要の機能を備えた無線通信システムにおいて、移動通信端末が請求項1又は2記載の移動通信端末の機能を処理機能として備え、また基地局装置が、請求項1又は2記載の基地局装置の機能を処理機能として備えたものであるので、それらの処理を実施可能なようにプログラムを作成することが可能である。従って、所用のコンピュータ機能を内蔵している基地局装置や移動通信端末であれば、これらのプログラムをインストールすることによって、ソフトウエア的に上述した本発明を実施可能であり、同様の効果を得ることが出来る。
【0015】
請求項6記載の電波状況管理装置は、請求項1乃至5記載の電波状況管理システム又は電波状況測定方法によって取得した、送信電力情報、季節情報、気象情報、時刻情報等の通信品質情報又は実際の通話音声データ等を地図情報に関連づけた電波状況情報をデータベースに記憶したので、それら情報を指定する地図領域を指定すれば、指定した地図領域とそれに関連した電波状況情報を表示装置に表示することが出来る。従って、ユーザが無線システムを導入する地域の電波状況測定情報を指定して、表示画面に希望する領域の電波状況を表示すれば、ユーザや顧客に対し正確な電波状況を説明することができる。特に、実際の通話音声の一部を聞くことが出来ので、使用感を把握する上で有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載される構成要素、種類、組み合わせ、形状、その相対配置などは特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する主旨ではなく単なる説明例に過ぎない。
図1は本発明の基本的な考え方を説明するためのシステム概要図である。図1において、左側の(a)乃至(c)は、従来の電波状況管理システム及び電波状況管理方法による基地局装置(Station)Stと移動通信端末(Mobile)Moとの間の通信を示し、(d)は本発明における基地局装置Stと移動通信端末Moとの間の通信を示している。この例に示す無線システムの本来の目的は、複数の運送用車両夫々に、図1(a)に示すように移動通信端末Moを搭載し、夫々の運行状態を把握するために定期的に又は必要に応じて、基地局装置Stから各車両の移動通信端末Moを順次呼出して、その時点における位置情報や運行目的等の業務情報を返送させる処理(以下、ポーリングと呼ぶ)を行い、収集した情報をディスプレイに表示することによって、業務の状況等を管理する場合を示している。
【0017】
このような無線システムにおいて、電波状況測定を行う場合は、図1(b)に示すように、基地局装置Stから各車両の移動通信端末Moに対し、電波状況測定用データ(電波状況測定要求信号)を送信する。この信号を受信した移動通信端末Moは、その時点における位置情報と、予め設定した電波状況情報について検出し、それらの情報を基地局装置Stに返送する。
又は他の方法として図1(c)に示すように、基地局装置Stから各車両の移動通信端末Moに対し、電波状況測定用データ(電波状況測定要求信号)を送信すると、移動通信端末Moは、その時点における位置情報と、予め設定した電波状況情報について検出するが、その情報を基地局装置Stに返送することなく、移動通信端末Moのメモリに記憶しておき、後刻それらの情報を収集する方法もある。
【0018】
しかしながら、このような従来の方法では、種々の問題があったことは既に説明したとおりである。そこで、本発明では、図1(d)に示すように、通信システム本来の目的とする通信のなかで、常に、又は、必要に応じて、電波状況測定を実施するように構成し、あるいは制御するものである。
なお、一般的に、電界強度と云うときは、文字通り電波信号のレベル(強さ)を指し、電波状況と云うときは、実際に使用する状態に即した受信側の通信品質を指すものとする。例えば、データ通信におけるビットエラー率や信号対雑音比(S/N)等が電波状況に類するもので、受信地点の外来雑音の有無や電波伝搬を遮る雨や霧の存在等の電波環境によって左右されるものである。しかし、本発明では、電波状況情報には電界強度値も含まれるものとし、電波状況情報として、電界強度値、ビットエラー率、S/N値あるいはその他の値を使用してもよいものとする。
【0019】
なお、実施形態では、基地局Stがポーリングをするという前提になっているが、実際の使用状況では基地局Stからのポーリングなしに移動局Moが任意に送信する場合がある。即ち、移動局Moが、設定された距離を移動した場合、設定されたエリアに入った場合、設定された時間が経過した場合、状態が変わったとき場合、等の条件が満たされた場合、基地局Stに通常データを送る。以上のような条件で基地局Stからのポーリングなしに移動局Moからデータを送信する場合には、基地局Stの送信波の電測データを付加して基地局Stに送ることはできないが、基地局側で移動局Moの送信波を電測することはできる(片側のみの電測)。
【0020】
図2は、本発明による電波状況測定方法の一実施例を示すフローチャートである。この図では、右側に基地局装置St、左側に移動通信端末Moを示し、両者間の信号のやりとりを示している。電波状況測定に際して、基地局装置Stから各車両の移動通信端末Moに対し、運行管理用のポーリング処理を行うためのポーリングデータを付して送信する(S1)。
このポーリングは管理対象である車両等について行われ、対象とする車両に搭載している移動通信端末Moの識別情報、返送すべき情報を指定する信号等が含まれている。返送すべき情報としては、運行管理対象によって異なるが、例えば、位置情報の他、荷主、目的地、その日の移動ルート情報等の業務日報情報が考えられる。そして、本発明では、移動通信端末Moが、これらのポーリングデータを受信すると(S2)、基地局装置Stからの電波を受信中に、その電界強度データを取得し、メモリに記憶する(S3)。
続いて、基地局装置Stの電波受信中もしくは受信終了後に、基地局装置Stからの電波受信におけるエラー訂正処理を行い(S4)、それらのエラー訂正処理情報からエラー訂正ビット数(Eb1)を求め、同様にメモリに記憶し(S5)、必要な他の応答信号に付して、位置情報とともに記憶した電界強度データとエラー訂正ビット数(Eb1)を基地局装置Stに返送する(S6)。
【0021】
この応答信号を受信した基地局装置Stでは(S7)、位置情報やその他の運行管理用データを処理して通信システム本来の目的とする運行管理を行うとともに(S8)、同時に返送された電界強度データとエラー訂正ビット数(Eb1)に基づいて電波状況管理を行う(S9)。
以上の処理は、一つの移動通信端末Moについて、周期的に実施することによって、通信管理領域内の電波状況情報を収集しても良いが、複数の移動通信端末Moの全て、又は所要のものについて順次実施すれば、より詳細な多くの電波状況情報を収集することが可能である。このようにして収集した電波状況情報は、移動通信端末Moの位置情報に基づいて、通信管轄内の地図情報と関連付けてメモリしておく。
なお、この例では、電波状況情報として電界強度データとエラー訂正ビット数(Eb1)を使用したが、電界強度データとエラー訂正ビット数(Eb1)のいずれか一方のみでもよい。また、電波状況管理においては、取得した電波状況情報を、例えば、季節情報、気象情報、時間情報等とともに、通信管轄内の地図情報と関連付けてメモリしておけば、より一層詳細なデータが蓄積される。
【0022】
このようにして収集した電波状況情報は、新たな無線システムの導入を希望する顧客の求めに応じて、必要な地域のデータを適宜読み出し、ディスプレイに地図情報とともに電波状況情報を表示して、実際の、通信状態をイメージしてもらうことができる。なお、電波状況情報の一部としてポーリング時の基地局装置Stのオペレータと移動通信端末Moの操作者との実際の通話の一部をデジタル化して記憶しておけば、表示した地図上の移動通信端末Moの位置を示すポインタの移動を見ながら、同時にその時点における実際の通話音声を聞くことが出来るので、無線システムの使用感を実際に体験することが可能となる。
又は、実際の通話に代えて、移動通信端末Mo側から予め設定した内容の、あるいはその時点の場所名や時刻を表わす音声合成信号を返送信号に含める方法とすれば、移動通信端末Moの作業者の負担を軽減することが可能である。
【0023】
なお、以上のような電波状況測定を行う場合の基地局装置Stと移動通信端末Moの信号の授受は、例えば図3に示すように、基地局装置Stから通常の通信において行われるポーリングデータ要求信号1の送信に呼応して、移動通信端末Moから、位置情報の他、荷主、目的地、その日の移動ルート情報等の業務日報情報等の通常の通信目的に応じた応答信号2と、それに続く電波状況測定データ(電界強度データとエラー訂正ビット数)3が送信される。
このときのエラー訂正ビット数の検出処理については、デジタル無線通信において、通常、誤り訂正処理が付加されていて、移動通信端末Moと基地局装置Stの双方で誤り訂正処理が行われるので、その処理結果を流用すれば新たな処理を追加することにはならない場合が多い。
もし、誤り訂正処理が基地局装置Stにおいてのみなされるシステムであれば、このデータを基地局装置Stで取得するように変形してもよい。また、誤りビット率の計算を行う場合、使用する無線システムにおいて本来行われている処理を利用することなく、電波状況測定において独自に行うことも可能であるが、この場合、通常デジタル無線システムにおいて使用されるフレーム同期ワード(Frame Sync Word)を利用することも可能である。周知のとおり、デジタル通信では、各フレームの所定位置に、比較的検出容易な特定の信号配列パターンを有する同期信号を配置して送信し、受信機側では、検波出力信号中の上記フレーム同期ワードを検出することにより同期を確立するので、そのフレーム同期ワードを検出して、誤りビット率を計算すれば効率的である。
【0024】
図4は、以上のようにして収集した電波状況測定データを利用した電波状況管理装置の制御例を示すフローチャートである。図4において、顧客から無線システム導入の相談を受けると(S10)、ユーザへの一般的なシステム説明の後(S11)、ユーザが希望する使用エリア等の特定(S12)、携帯型か、車載型か、その他の無線機であるか等、送信電力の設定を含む無線通信システムの選定を行う(S13)。S12のユーザ使用エリア情報と、S13の無線通信システムの選定情報は種々の電波状況測定データを記録した管理データベースに伝達されており(S14)、該当するデータが読み出され(S15)、ディスプレイに表示される(S16)。このとき、季節、時間帯、雨天・晴天等の、各種状況別にデータの編集をしておけば、ユーザの希望に応じた状況に置ける電波状況を表示することができる。
更に、上述したように、実際の通話音声を記憶しておけば、地図上の位置を表示するポインタの移動に合わせて、その位置における通話音声を再生してスピーカから出力することにより、より一層実際の使用感に近いデモンストレーションを体験することが可能であろう。
【0025】
また、ユーザが他の無線通信システムや違った領域でのデモを希望する場合は、無線システムの変更(S17、Yes)を行い、上記S12に戻って、新たな使用エリアの特定(S12)と、異なる送信電力の無線システムの選定(S13)を行って、同様の処理を繰返す。
このような方法によれば、より実際の使用感に近い電波状況を把握することが可能となる。
なお、電波状況管理データとして、全国各地に構築されている各種の無線通信システムにおいて測定したデータを収集できれば、より一層便利なものとなる。例えば、特許文献2に開示されているような携帯電話通信網、全国のMCA(マルチ・チャネル・アクセス)システムにおける電波状況測定データ、パーソナル無線システム、アマチュア無線システム、消防無線等々、夫々の各地のデータを共通のフォーマットでデータ化して互いに利用可能にすれば、全国に亘ってユーザの希望に応えることも可能となるであろう。
【0026】
本発明は、以上説明した例に限らず、種々の変形が可能である。
例えば、移動通信端末Mo側の電波状況測定データを、都度基地局装置St側に返送する代わりに、移動通信端末Moのメモリに記憶しておき、後日、蓄積したデータを収集することもできる。後日の収集方法は、移動通信端末Moの着脱式メモリを回収する方法や、業務時間終了後の所要時間に、基地局装置Stからのポーリングによって収集する方法が考えられる。
また、逆に、電界強度測定や誤り訂正検出を基地局装置Stにおいて実施してもよい。このとき、移動通信端末Moからの送信電力情報が必要である場合は、移動通信端末Moから送信電力情報を付加して送信する。又は、移動通信端末Moの送信電力が固定である場合は、移動通信端末Mo識別情報を送信し、基地局装置Stにおいて、端末識別情報と送信電力情報を関連づけて記憶したデータテーブルに基づいて移動通信端末Moの送信電力情報を知るようにしてもよい。移動通信端末Mo識別情報は、通常何等かの形で管理されているから特別に付加する必要はない場合が多い。
【0027】
なお、通常の通信(無線システムが本来の目的とする通信)の全てについて、上述した電波状況測定を行う場合に限定する必要はなく、必要に応じて、基地局装置Stから電波状況測定要信号を送信し、その信号を受信した場合に所要の測定データを通常の通信データに付加して送信するものであってもよい。また、電波状況測定要求信号を送信した後、一定時間に限って、あるいは、解除信号が送信されるまでの間、電波状況測定データを返送し、又は、記憶するように構成することもできる。
また更に、移動通信端末MoにGPSを備えることにより、又はセルラー無線システムのセル基地局への位置登録機能による位置検出手段等により、自局の位置情報を持っている場合、基地局装置Stから、特定の範囲に位置する移動通信端末Moについて電波状況測定情報を返送するように指示信号を送信することも可能である。即ち、以上説明した方法は、基地局装置Stから各移動通信端末を特定してポーリング処理を行ったが、特定位置範囲を指定する情報を付して、応答信号返送を要求し、移動通信端末Moでは、自局が常に更新維持している位置情報、あるいは要求信号を受信したとき取得する位置情報と比較して、一致する時には電波状況情報と自局識別情報、正確な位置情報を返送する。
【0028】
本発明による電波状況測定方法や電波状況管理装置の制御方法をコンピュータが制御可能なOSに従ってプログラミングすることにより、そのOSを備えたコンピュータであれば同じ処理方法により制御することができ、このようなプログラムをコンピュータが読み取り可能な形式で記録媒体に記録すれば、記録媒体を持ち運ぶことにより何処でもプログラムを稼動することができる。
また、プログラムを格納する記録媒体としては半導体媒体(例えば、ROM、不揮発性メモリカード等)、光媒体(例えば、DVD、MO、MD、CD等)、磁気媒体(例えば、磁気テープ、フレキシブルディスク等)等のいずれであってもよく、また、ロードしたプログラムを実行することにより上述した実施形態の機能が実現されるだけでなく、そのプログラムの指示に基づき、オペレーティングシステムあるいは他のアプリケーションプログラム等と共同して処理することによって上述した実施形態の機能が実現される場合も含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の基本的な考え方を説明するシステム概要図。
【図2】本発明による電波状況測定方法の一実施例を示すフローチャート。
【図3】本発明による電波状況測定方法における信号の一実施例を示す図。
【図4】本発明に係る電波状況管理装置の制御例を示すフローチャート。
【図5】従来の移動通信システム導入にいたるまでの対応例を示すフローチャート。
【図6】従来の電波状況測定方法における信号の一例を示す図。
【符号の説明】
【0030】
1 ポーリングデータ、2 応答信号、3 電波状況データ(電波状況情報)、Mo 移動通信端末、St 基地局装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基地局装置と、位置情報検出機能をもった複数の移動通信端末とを含む無線システムにおいて、前記移動通信端末は、基地局装置から送信された信号の通信品質情報を検出する通信品質検出手段と、当該無線通信システムが目的とする通常の通信信号に検出した通信品質情報と位置情報とを付加して基地局装置に対して送信する手段とを備え、
前記基地局装置は、移動通信端末から送信される信号より位置情報と通信品質情報とを検出する手段と、それらの情報に基づいて無線通信エリア内の各地の電波状況を地図情報に関連づけて管理する電波状況管理手段とを備えたことを特徴とする電波状況管理システム。
【請求項2】
基地局装置と位置情報検出機能をもった複数の移動通信端末とを含む無線システムにおいて、前記移動通信端末は、自局の端末識別情報又は送信電力情報を記憶したメモリと、当該無線通信システムが目的とする通常の通信信号に位置情報と自局の端末識別情報又は送信電力情報を付加して基地局装置に対して送信する手段とを備え、
前記基地局装置は、移動通信端末から送信される信号より位置情報と移動通信端末識別情報又は送信電力情報とを検出する手段と、移動通信端末から着信する信号の通信品質情報を検出する通信品質検出手段と、前記位置情報と通信品質情報とに基づいて無線通信エリア内の各地の電波状況を地図情報に関連づけて管理する電波状況管理手段とを備えたことを特徴とする電波状況管理システム。
【請求項3】
前記無線システムが車両運行管理システム機能を備え、定期的に又は必要に応じて前記基地局装置から各移動通信端末に対して少なくとも位置情報の返送を要求するポーリングを行い、前記移動通信端末はこの要求に応答する信号に、通信品質情報、位置情報、端末識別情報、送信電力情報、音声信号のうち所要のものを付加して基地局装置に対して送信する手段を備えたことを特徴とする請求項1又は2記載の電波状況管理システム。
【請求項4】
基地局装置と、複数の車両に搭載された位置検出機能を備えた移動通信端末、又は複数の作業者が携行する位置検出機能を備えた移動通信端末とを含み、前記基地局装置は定期的に又は必要に応じて移動通信端末に対して少なくとも位置情報の返送を要求するポーリングを行うことによって車両運行管理又は作業者管理を行う無線通信システムの電波状況測定方法において、
前記移動通信端末が、前記ポーリング信号を受信したとき受信電界強度情報及びビットエラー情報を取得する処理と、この受信電界強度情報及びビットエラー情報を基地局装置に対して送信する処理と、
前記基地局装置が、移動通信端末から送信された前記受信電界強度情報及びビットエラー情報を検出する処理と、これら受信電界強度情報及びビットエラー情報に基づいて無線通信エリア内の各地の電波状況を地図情報に関連づけた電波状況管理処理を行う処理と、必要に応じて無線通信エリア内の前記電波状況を表示する電波状況管理表示する処理と、を含むことを特徴とする電波状況測定方法。
【請求項5】
基地局装置と、複数の車両に搭載された位置検出機能を備えた移動通信端末、又は複数の作業者が携行する位置検出機能を備えた移動通信端末とを含み、前記基地局装置は定期的に又は必要に応じて移動通信端末に対して少なくとも位置情報の返送を要求するポーリングを行うことによって車両運行管理又は作業者管理を行う無線通信システムにおいて、
前記移動通信端末が、前記ポーリング信号を受信したとき自局の端末識別情報又は送信電力情報を基地局装置に対して送信する処理と、
前記基地局装置が、移動通信端末から送信された電波を受信して電界強度情報とビットエラー情報の少なくとも一方を検出する処理と、移動通信端末から送信された前記端末識別情報又は送信電力情報を検出する処理と、これらの情報に基づいて無線通信エリア内の各地の電波状況を地図情報に関連づけた電波状況管理処理を行う処理と、必要に応じて無線通信エリア内の前記電波状況を表示する電波状況管理表示する処理と、を含むことを特徴とする電波状況測定方法。
【請求項6】
無線基地局装置と移動通信端末とを含む無線通信システムにおける電波状況管理装置において、地図情報に、送信電力情報、季節情報、気象情報、時刻情報の所要のものとともに実測した電界強度等の通信品質情報又は通話音声データを関連づけた電波状況データベースと、前記地図情報の所望領域、送信電力情報、季節情報、気象情報、時刻情報の少なくとも一つを指定する地図領域指定手段と、指定事項に関連した電波状況情報を表示する表示装置と、を備え、前記電波状況データベースには、請求項1乃至5記載の電波状況管理システム又は電波状況測定方法によって取得した電波状況情報を記憶したことを特徴とする電波状況管理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−16948(P2009−16948A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−173332(P2007−173332)
【出願日】平成19年6月29日(2007.6.29)
【出願人】(000003595)株式会社ケンウッド (1,981)
【Fターム(参考)】