説明

電波環境判定機能を有する無線送信局

【課題】無線LANシステムにおいて、データの送信効率を高める。
【解決手段】送信局は、送信の成功回数、失敗回数、その時のデータレート、及び送信開始まで待ち回数の履歴を保持している。送信成功時のデータレートにより電波環境が{WS}にあることを、平均失敗確率により送信局の対応する領域が「隠れ端末」の影響下にあることを、そして、送信待ち回数とデータレートの関係により、領域が「さらされ端末」の影響下にあることを判定し、それぞれの場合に最適な送信モードを選択する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IEEEの802.11の規格で規定されている無線LANシステムにおける電波環境を検出し、当該環境下における最適な特性を送信局に与える方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、無線LANに代表される無線周波数(RF)を介してネットワークを形成する方式が一般化している。この方式では、許認可の対象外の“非ライセンス”帯域、例えば2.4GHz帯(802.11b、802.11g)、あるいは5GHz帯(802.11a)の周波数を使用する。“非ライセンス帯域”を用いるといっても各送信局が何等の制限も受けずに送信を開始したのでは送信データが輻輳してしまい、正常の交信を果たすことはできない。そのため、802.11規格では以下の様な簡便な管理方法を採用している。
【0003】
すなわち、競合通信モードでは送信データを有している局、すなわち送信動作を行いたい局は一定期間(DIFS:Distributed Inter Frame Space)キャリアの有無を観察し、キャリアが存在しない場合、つまり特定の領域内でチャネルが空いている時、に限って直ちにパケットを送信する。チャネル内にキャリアがある場合、既に他の送信局によりキャリアが占有されていずれかの受信局との間で交信が開始されている様な場合は、一端待機動作に移った後、再度DIFS時間待機、キャリアを観察する。キャリアが空であることを確認した後、他の送信待ち局との競合を避けるために、乱数表により作成した待ち時間をカウンタにセットしこのカウンタがゼロになった後に交信を開始する。送信待ち局それぞれで異なる値がカウンタにセットするため、次に送信可能となる局をランダムに選択することができるので、特定の局のみが集中して送信、あるいは、特定の局がひたすら待機状態に入るのを防ぐことができる。ランダムカウンタで選ばれた局のみが送信を開始する。
【0004】
一方、この送信局と対応する受信局では、全ての送信データを受信後送信局に対して、データが正常に受信できた場合にはACKを、データに異常があった場合にはNCKを返信する。NCKが返信された場合には、送信局は次の送信機会においてデータの変調レート(伝送速度)を低下させて再度送信を行う。ACK/NCKの返信をもって一つのトランザクションが終了し、DIFS時間経過後に他の送信局(セットされる乱数、あるいはチャネル内の送信待ち局数によっては、再度同じ送信局が選択される場合もある)による送信が開始される。この様に、802.11規格では、送信局の衝突(複数の局が送信を開始してしまう減少)回避を保証するものではないが、その可能性を低くした(CA:Collision Avoidance)CSMA/CA方式を採用している。
【0005】
しかしながら、上記CSMA/CAは、動的な送信/受信局間の受動的なプロトコルであるが故に、送信局/受信局が含まれる領域内には種々の通信阻害要因が誘起され、両者の間の電波環境に影響が及ぼし、交信状態を悪化させてしまう。その代表的なものは(1)送信−受信局間に物理的な電波障害物が置かれる場合、(2)領域内に複数の送信局が存在してしまう場合、そして(3)領域が他の送信局からの電波にさらされてしまう場合である。(2)の場合を一般に「衝突端末」、あるいは「さらし端末」と、(3)の場合を「隠れ端末」と呼ぶ場合が多い。
【0006】
下記特許文献1は、「衝突端末」の課題解決方法を開示し、また802.11規格のオプションの一つとして規定されているRTS/CTS信号によるハンドシェークプロトコルが(3)の「隠れ端末」に対する解決方法として知られている。
【0007】
特許文献1では、特定の送信局がカバーする領域内に新たな送信局が設定された際の両者の間の通信確立方法を開示する。特許文献2では、異なる送信局がカバーする領域の重複領域においてそれぞれの送信局が同じキャリア周波数で通信を行った場合のデータの衝突を回避する方法について開示する。特許文献3では、「隠れ端末」が存在する場合の通信スループットを顕著に低下させない方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−166378号公報
【特許文献2】特開2006−279253号公報
【特許文献3】特開2008−042922号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記種々の要因の影響を受ける電波環境下で交信を行う送信局−受信局では、現在の電波環境がいずれの状態にあるのかを知ることは重要である。一般に、送信局と受信局とではその電波環境は必ずしも同様ではなく、また、送信局が受信局の現在の電波慣用を把握することは容易ではない。現在の電波環境に合わせてその送信モード(例えば、送信電力、データ変調速度)を調整することができれば、その電波環境下で最適な条件で交信することが可能となる。受信局が、現在の電波環境を送信局に通知するハンドシェークモードも想定されるが、この種のプロトコルは現在一般に普及している無線機器には実装されていない。
【0010】
さらに、このような方法では、そもそも電波環境が悪い条件化で情報を交換することを前提としているため、情報交換そのものが環境に左右されていることになり、信頼性のある対処方法とは言い難い。また、集合住宅のような場合に、所有者の異なる機器の電波が重複しており、このことが容易に干渉を引き起こしてします。スペクトラムアナライザ等の測定器により電波環境を測定するのは、機器そのものが高価であり、かつ、その様な機能を送信局あるいは受信局に備えるのは、802.11規格の意図する簡便性と相容れない面がある。
【0011】
そこで、本発明は送信局、受信局に新たな構成を追加することなく、現在の電波環境を推定できる方法を提供し、かつ、その方法を具備する局の構成を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係わる送信局は、電波環境に合わせて送信データレートを可変にして受信局に対して交信する送信局であって、この送信局は交信のデータレート及びその時の交信成功回数と失敗回数、そして交信開始までの待ち回数の履歴を保持しており、これら履歴に基づいて現在の電波環境を判定し、その環境に応じて送信データレート、送信出力、一回の送信で送るデータのサイズ、及びキャリアを検知する際の閾値を調整することを特徴とする。
【0013】
送信局はまず、0.9×Rsh+0.1×Rsl(Rsh:高いデータレートでの送信成功確率、Rsl:低データレートでの送信成功確率)を第1の所定値と比較し現在の電波環境が送信局と受信局との間に電波障害物が介在している状態か否かを判定する。そして、障害物の介在が否定された場合に、0.5×|Rlm−Rlh|+0.5×|Rlm−Rll|(Rlm:平均の送信失敗率、Rlh:高いデータレート時の送信失敗確率、Rll:低いデータレート時の送信失敗確率)の値が第2の所定値を下回る時に、対象とする受信局がキャリアセンス領域の外に置かれた他の送信局(「隠れ端末」)の影響を被っているか否かを判定する。さらに、他の送信局の影響を被っている時には、送信成功回数、送信失敗回数および送信待ち回数の合計に対する送信待ち回数の割合を第3の所定値と、影響を被っていない時には第3の所定値より小さい第4の所定値とを比較し、送信待ち回数の割合がそれぞれの所定値を上回っている時に、キャリアセンス領域内に他の送信局(「さらし端末」)が存在している状況にあると判定する。
【0014】
本発明の無線送信局では、前記各判定結果に基づきその送信電力、キャリアの受信感度、一回のトランザクションで送信するデータの長さ(パケットサイズ)を適切に変更することができるので、送信効率を向上させることができる。また、この判定機能は送信局のみに備えることができ、受信局の構成を判定機能に合わせて変更する必要がないので、既存の無線システムに安価に導入することが可能となる。さらに、物理的な電波障害物があると判断された時にのみ、送信出力を増大させるので、周囲の無線機器、環境に対して不用な干渉を与えることが少ない。
【0015】
また、「隠れ端末」が存在すると判定された時にだけ受信感度をあげる、あるいは受信感度を低下させることができる。また、各種判定に基づいて、必要な時にのみ一回のトランザクションで送信するデータの大きさを短くする。電波環境によっては、受信感度の調整はむしろ性能劣化に直結する場合も想定されるが、本発明に係わる送信局では、電波環境を判定した上で必要に応じてこの調整を行うために、送信局の性能劣化を齎すことはない。
【発明の効果】
【0016】
無線システムにおいて送信局が本発明に係わる電波環境推定機能を持つことにより、送信効率を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】電波環境の阻害要因を示す図であり、図1(A)は物理的な障害により電波強度が弱められる{WS}の状態を、図1(B)は、領域内に複数の送信待ちの「さらされ端末」のある{CS}の状態を、図1(C)は領域内に他の送信局(隠れ端末)の影響下にある受信局の存在する{HT}の状態を示す。
【図2】電波環境が{WS}、{CT}、{HT}の何れであるかを判定するフローを示す図である。
【図3】{CT}と交信待ち回数の関係を{HT}をパラメータとして示したものである。
【図4】本発明に係わる送信局の内部構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。なお図の説明において、同一の構成については同一の番号を付し、重複する説明を省略する。また、以下の説明では送信局をアクセスポイント(AP)、受信局をステーション(STA)として説明するが、本発明はこの組み合わせに制限されない。送信−受信機能を有する802.11規格に準拠する無線通信に遍く適用可能である。
【0019】
まず、電波状況により送信局と受信局との間の交信環境を阻害する要因について図を参照しつつ詳しく説明する。図1(A)は送信局と受信局との間に電波を物理的に遮断する物体が挿入された状況である。この場合、受信局に到達する電波の強度自体が弱められるので、両者の間ではデータレートを準じ低下させて交信を試みる。結果的に通信が確立したとしてもその等価的な通信速度は低下してしまう。
【0020】
図1(B)では、ある一つのAPにカバーされる領域内に送信待ち局が多数存在する状況を示している。これら送信待ち局に対応する受信局が領域外にあったとしても、領域内ではキャリアを共有しているため、一の送信局にとってはキャリアを割り当てられる時間(確立するトランザクション数)が減少してしまい、等価的に通信速度が低下してしまう。
【0021】
図1(C)では、送信局が受信局に向けて交信を確立しようとしても、対象とする受信局は、送信局の通信可能領域外の他の局(隠れ端末)からの交信を受信してしまうために、本来確立したい送信局−受信局間の交信状態が影響を受けてしまう場合を示す。隠れ端末としては、802.11規格に準拠する他の送信局の場合もあるし、あるいは、家庭内に設置されている電子レンジ等の電気機器からの不要電波の場合もある。
【0022】
802.11規格はジャンク帯域を採用するために実質的に無管理下で通信が行われる。上記種々の要因を、管理局を設け、この局の管理の元に全ての局を統制して克服するシステムは802.11規格に馴染まない。各局単独で判定し、当該判定基づき送信条件を変更することができれば通信速度の低下を抑制することが可能となる。
【0023】
802.11規格では、個々の送信局と受信局との間で、パケット単位でハンドシェークモード交信を行っている。なお、パケットをフレーム、あるいはトランザクションと呼ぶ場合もあるが、以下の説明では便宜的に全て「パケット」を使用する。送信局から特定の受信局に向けて交信リンクを確立した後、送信されたパケットについて受信局は正常に受信できた場合にはACKを、正常受信できなかった場合にはNCKを返す。また、送信局から受信局側への送信のみならず受信局から送信局への上記返信についても正常/異常の場合が想定される。そのため、送信局では規定パケットを送信した後所定時間が経過してもなおACT/NCKいずれも返信されない場合には異常があったと判断する。この様に送信局側では各パケットについて交信の正常、異常を常に観測している。本発明に係る方法においては、AP側でさらに送信時のデータレートをも記録しておく。
【0024】
次に、上記の様な電波環境を特定する方法について、図2のフロー図を参照しつつ説明する。まず、送信/受信局間に物理的な遮蔽物が介在することにより、STA側で受信感度が低下するためにデータレートを低下させなければならない図1(A)に示される場合(以後{WS:Weak Signal}とする)について説明する。
【0025】
(1){WS}について以下の式により計算される値を第1の閾値(TH1)と比較する:
現在値 = 0.9×Rsh+0.1×Rsl (1)
ここで、
sh=高いデータレートでの送信成功確率(≦1.0)、
sl=低いデータレートでの送信成功確率(≦1.0)、
である。
【0026】
そして、第1の閾値として0.1を採用し、上記現在値が第1の閾値TH1よりも小さい場合、交信成功の絶対確率が常に小さい状態にあるとして、現在の電波環境が{WS}の状態にあると推定する。現在値が第1の閾値TH1よりも大きい場合には、その他の状態にあるとみなす。一般に、受信局に到達する電波強度が弱い場合には、送信局はデータレートを順次低下させて交信を試みる。
【0027】
ここで、高いデータレートとしては、802.11規格で制定されている54Mbpsを、低いデータレートしては9Mbpsを設定する。電波環境が悪く、送信局が順次データレートを低下させると、上記式においてRsl≫Rshの状況が生まれ現在値は低下する。
【0028】
次の表は{WS}の状況を示すシミュレーション結果である。
【0029】
【表1】

送信が成功するにせよ、失敗するにせよ送信自体が、9Mbpsまでデータレートを低下させなければ成立しない状況を示している。この時の式(1)による現在値は、
現在値 =0.9×(0/1175)+0.1×(1052/1175)
=0.0895
と計算される。
【0030】
(2)次に、上記{WS}の状況にはないが、すなわち、現在値>第1閾値(0.1)の状態にあるが、送信局/受信局間の交信リンクが電波環境の影響を受け等価的な伝送速度が低下する場合を考える。この環境は、
(2−1)特定の送信局で規定される領域内に対し送信待ち状態の送信局が多数存在することにより、特定の送信局に割り当てられる通信パケットが相対的に減少する場合(以後この環境を{CT:Collision Terminal}、「さらし端末」とする);および、
(2−2)対象の送信局が交信しようとする、あるいは実際に交信している特定の受信局が、この送信局からは検知できない他の送信局の電波の影響を受けるために、正規の交信が影響を受けてしまう場合(以後この状態を{HT:Hidden Terminal}、「隠れ端末」とする)がある。
【0031】
この場合は以下に説明する方法により、現在値と第2の閾値(TH2)を比較することで、上記{CT}、{HT}を判別することが可能となる。
現在値=0.5×|Rlm−Rlh|+0.5×|Rlm−Rll| (2)
ここで、
lm=平均の送信失敗確率(≦1.0)
lh=高いデータレート時の送信失敗確率(≦1.0)、
ll=低いデータレート時の送信失敗確率(≦1.0)、
である。
【0032】
第2の閾値(TH2)を0.5に設定し、上記現在値が第2の閾値TH2を比較する。現在値が0.5を上回る場合は、送信失敗率がデータレートについて強い依存性を示す場合であり、0.5を下回る場合には送信失敗率がデータレートにほとんど依存しない場合に相当する。
【0033】
ここで、{CT}と{HT}の場合の交信状態について考える。{CT}の場合には、領域内に多数の送信待ち局が存在するために、特定の送信局に割り当てられる交信可能時間は減少する。しかしながら、送信局−受信局間には電波障害となるものは存在しないため、交信におけるデータレートそのものを低下させる必要がない。すなわち、低データレートでの送信そのものが行われないので、上記式において、高データレート時の送信失敗率Rlhのみが増加する。
【0034】
一方{HT}の場合には、受信局における電波環境が悪化するので、送信局との間の交信リンクにおけるデータレートを低下させないと、両者間の交信リンクが確立されない。すなわち、上記式において、データレートに拘わらず送信失敗の割合が増加するので現在値が第2の閾値(TH2=0.5)よりも低下してしまう。次表は{HT}状態にあるときの送信確率のシミュレーション結果である。なお、本シミュレーションでは送信待ち(Busy)の回数も合わせて示す。
【0035】
【表2】

この時の上記現在値は、
現在値=0.5×|0.356−0.353|+0.5×|0.356−0.368|
=0.0135<0.5
と計算される。
【0036】
すなわち、上記第2式に基づく検定により、電波環境が少なくとも{HT}にあることを判定することができる。次に特定すべきは、環境が{HT}と同時に{CT}の状態でもあるのか、あるいは、{HT}単独の状態にあるのかを判定することである。本発明ではこれを次の方法で検知する。
【0037】
(3)送信局では上記検定と同時に、自身に送信可能状態が割り当てられるまでの回数、等価的には送信待ち回数、を計数している。そして、この待ち回数を判定することにより、環境が{CT}の状態にあるのか否かを判定する。この時{HT}の状態との重複の有無に留意する必要がある。すなわち、{HT}の状態にある時には、自身の相手局が「隠れ端末」の影響によりそのデータレートを低下させる必要があることに加え、{CT}の受信局についても「隠れ端末」の影響を受けデータレートを低下させなければならい点である。「隠れ端末」の影響を倍加されて受けていることになる。
【0038】
本発明においては、待ち回数の頻度について二種の所定値(第3の所定値、TH3;第4の所定値、TH4)を設定することにより上記二つの状態を判定する。第2のステップで{HT}状態には無いと判定された時に第3の所定値TH3を0.1に設定し、待ち回数頻度についてこの第3の所定値より大きければ{CT}環境下にあると判定し、この所定値より小さければ{CT}状態にはなく、かつ、{HT}状態にも無いと判定する。
【0039】
一方、第2のステップで{HT}状態にあると判定された時には、第4の所定値TH4として0.5を設定する。自身の待ち回数頻度がこの値よりも小さい時には、{HT}状態にはあるものの{CT}状態にはないと判定し、他方、この所定値よりも待ち頻度が大きい時は、{HT}状態にありかつ{CT}状態でもある、と判定する。以上の様にして、現在の電波環境が、{WS}にあるのか、{HT}、{CT}の輻輳状態にあるのかを判定することができる。
【0040】
図3は、本発明に係わる電波環境判定方法を検証するために、幾つかの条件を仮定しシミュレーションを行った結果である。図3においては、送信待ち回数について{CT}と{HT}の関係を示したものである。待ち回数は{CT}、{HT}双方の影響を受ける。{HT}が0から2台に増加すると、2台の{CT}が存在する場合には75%、4台では14%のそれぞれ待ち回数が増加するものの6台の{CT}が存在する場合には、逆に3%減少する。これは、この例の様に多数の{CT}が存在する場合には、{HT}の存在は通信環境をもはや律速せず、ほぼ{CT}のみによって決定されることを意味する。
【0041】
図4は、送信局であるAP(アクセスポイント)が、本発明に係わる電波環境判定機能を持つ場合のブロック図の一例である。APは、入出力I/Fとして、有線I/F−ICと無線I/F−ICとを備える。これら二つのI/Fはスイッチに接続されており、一方のI/Fから受信したパケットを他方のI/Fに中継する。一方、制御系として、本発明に係わる判定方法を備えるアルゴリズムおよび待ち回数、交信成功時のデータレート、等を蓄えるメモリとを有する。このアルゴリズムを適宜プロセッサ内に呼び出し、実行することで現在の無線LANの電波環境を判定することができる。
【0042】
そして、例えば、現在の電波環境が{WS}状態にあると判定された場合には、無線I/F−ICに対して現在の電波出力を高める様指示することで、交信データレートを高い値に維持しつつ受信局との間の交信リンクを確立することができる。また、現在の電波環境が{HT}の状態にあると判定された場合には、無線I/F−ICに対してその電波受信感度を高める様に指示し、周囲の送信局の発するキャリアの検知能力を拡大させる。これにより「隠れ端末」が、対象の送信局からは「隠れ端末」ではなくなり、対象の受信局での電波干渉の影響を軽減することができる様になる。あるいは、1トランザクションで送信するデータの大きさを小さくし、すなわち、パケット長を短くし、受信局での電波干渉の影響を軽減することも可能である。
【0043】
また、802.11規格中でオプションとして設定されているRTS/CTS(Request To Send/Clear To Send)機能を受信局との間に設定することで、「隠れ端末の影響を回避することが可能である。但し、当該RTS/CTS機能は対応する受信局の連鎖によりキャリアセンス領域を徒に拡大する場合もあるので、その運用には注意が必要である。
【0044】
さらに、{CT}環境にあると判定された場合には、無線I/F−ICに対してその電波受信感度を弱めてキャリア検知領域を狭く設定し、{CT}の台数の軽減を図る。あるいは、1トランザクションで送信するデータのサイズを長くし、一度送信チャネルを確保した場合には、できるだけ多くのデータを送信するモードに自身を設定することでも、{CT}の影響を回避することができる。
【0045】
以上は、本発明に係わる判定アルゴリズムが送信局に搭載されており、その判定に基づき送信局を現在の電波環境に対応させる方法について説明したが、本発明に係わるアルゴリズムは送信局のみならず、受信局に搭載することにより受信局の状態を制御することにも用いることが可能である。例えば{WS}と判断された場合には、受信局での受信感度を上げることでデータレートの低下を抑制できる。
【符号の説明】
【0046】
1・・・キャリアセンス領域、10・・・アクセスポイント、21・・・メモリ、22・・・プロセッサ、23・・・スイッチ、24・・・有線I/F。25・・・無線I/F。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波環境に合わせて送信データレートを可変にして受信局に対して交信する送信局において、
該送信局は交信のデータレート及び当該データレートでの交信成功回数と失敗回数、および交信開始までの待ち回数の履歴を保持しており、
前記履歴により、前記データレート、送信パワー、送信データのパケットサイズ、及び受信感度を調整する、
ことを特徴とする無線交信システムの送信局。
【請求項2】
0.9×Rsh+0.1×Rsl(Rsh:高いデータレートでの交信成功確率、Rsl:低いデータレートでの交信成功確率)の値と、第1の所定値を比較し、現在の電波環境が{WS}の状態であるか否かを判定する、請求項1に記載の送信局。
【請求項3】
{WS}の状態ではないと判定された場合においてさらに、0.5×|Rlm−Rlh|+0.5×|Rlm−Rll|(Rlm:平均の送信失敗率、Rlh:高データレート時の送信失敗率、Rll:低データレート時の送信失敗率)の値が第2の所定値を下回る時に前記電波環境が{HT}の状態であると判定する、請求項2に記載の送信局。
【請求項4】
{HT}の状態ではないと判定された場合において、さらに、送信成功回数、送信失敗回数、送信待ち回数の総計に対する送信待ち回数の割合が第3の所定値を上回る時に、現在の電波環境が{CT}の状態であると判定する、請求項3に記載の送信局。
【請求項5】
{HT}の状態であると判定された場合において、さらに、送信成功回数、送信失敗回数、送信待ち回数の総計に対する送信待ち回数の割合が第4の所定値を上回る時に、現在の電波環境が{CT}の状態であると判定する、請求項3に記載の送信局。
【請求項6】
電波環境に合わせて送信データレートを可変にして受信局に対して交信する無線送信局であって、
0.9×Rsh+0.1×Rsl(Rsh:高いデータレートでの交信成功確率、Rsl:低いデータレートでの交信成功確率)の値と、第1の所定値を比較し、現在の電波環境が{WS}の状態であるか否かを判定し、
前記比較の結果、{WS}の状態ではないと判定された場合においてさらに、0.5×|Rlm−Rlh|+0.5×|Rlm−Rll|(Rlm:平均の送信失敗確率、Rlh:高いデータレート時の送信失敗確率、Rll:低いデータレート時の送信失敗確率)の値が第2の所定値を下回る時に前記電波環境が{HT}にあると判定し、さらに、
送信成功回数、送信失敗回数、送信待ち回数の総計に対する送信待ち回数の割合が{HT}の状態ではないと判定された場合においては第3の所定値を上回る時に、前記送信待ち回数の割合が{HT}の状態であると判定された場合においては第4の所定値を上回る時に、現在の電波環境が{CT}の状態であると判定する、無線送信局。
【請求項7】
前記第3の所定値は前記第4の所定値より小さい、請求項6に記載の無線送信局。
【請求項8】
前記{WS}の状態であると判定した時に送信出力を増加する、請求項6に記載の無線送信局。
【請求項9】
前記{HT}の状態であると判定した時に受信感度を高める、請求項6に記載の無線送信局。
【請求項10】
前記{HT}の状態であると判定した時に、一回の交信で送信するデータの長さを短く設定する、請求項6に記載の無線送信局。
【請求項11】
前記{CT}の状態であると判定した時に、受信感度を弱める請求項6に記載の無線送信局。
【請求項12】
前記{CT}の状態であると判定した時に、一回の交信で送信するデータの長さを長く設定する、請求項6に記載の無線交信局。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−98739(P2010−98739A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−238913(P2009−238913)
【出願日】平成21年10月16日(2009.10.16)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】