説明

電流−電圧非直線抵抗体およびその製造方法

【課題】非直線抵抗特性に優れた電流−電圧非直線抵抗体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】電流−電圧非直線抵抗体10は、酸化亜鉛を主成分とし、副成分として少なくともビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)を含んだ混合物の焼結体20を備える。また、電流−電圧非直線抵抗体10における焼結体20は、焼結体20の所定の断面における、焼結体20の微細構造を主に構成する各酸化亜鉛粒子21の断面において、断面に亘って最長となる最長直線の長さ(L)と、この最長直線の中点で直交し、断面に亘る直交直線の長さ(S)との比(S/L)を平均した値が0.66以上となるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、避雷器やサージアブソーバ等の過電圧保護装置に適用される酸化亜鉛(ZnO)を主成分とする電流−電圧非直線抵抗体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、電力系統や電子機器回路には、異常な電圧から電力系統や電子機器を保護するため、避雷器やサージアブソーバ等の過電圧保護装置が設置されている。この過電圧保護装置には、通常電圧ではほぼ絶縁特性を示し、過電圧では低抵抗値を示す電流−電圧非直線抵抗体が多用されている。
【0003】
一般的な電流−電圧非直線抵抗体は、円盤状の焼結体と、この焼結体の側面に設けられた絶縁層と、両端面に設けられた電極とを備えている。電流−電圧非直線抵抗体を構成する焼結体は、酸化亜鉛(ZnO)を主成分としたセラミックス素子からなる。
【0004】
電流−電圧非直線抵抗体には、電圧の変化により電流値が大きく変化する非直線抵抗特性、長期に電圧を印加し続けても劣化が生じ難い寿命特性、雷サージや開閉サージ印加時に破壊されずにサージのエネルギを吸収するエネルギ耐量特性などが要求される。
【0005】
電流−電圧非直線抵抗体の焼結体は、酸化亜鉛(ZnO)を主成分とし、これに副成分として、Bi、Co、MnO、Sb、NiOが添加されたものを原料としている(例えば、特許文献1参照。)。焼結体は、これらの原料を水およびバインダとともに十分に混合し、スプレードライヤなどで造粒し、成形および焼結して作製される。そして、この焼結体の側面にフラッシュオーバを防止するための絶縁物質が塗布され、熱処理されて絶縁層が形成される。また、焼結体の両端面を研磨して電極を取り付けて、電流−電圧非直線抵抗体が得られる。
【0006】
近年、製造コストの削減や環境調和を目的に、変電機器の小型化が求められている。電流−電圧非直線抵抗体は、その優れた非直線抵抗特性により、避雷器に用いられている。その電流−電圧非直線抵抗体の抵抗値を向上させると、避雷器に積層される電流−電圧非直線抵抗体の枚数を削減することができ、避雷器の小型化を図ることができる。
【0007】
従来の電流−電圧非直線抵抗体を高抵抗化し、優れた非直線抵抗特性を得るために、例えば、Bi、Co、MnO、Sb、NiO等の副成分の含有を限定し、ZnOを主成分とした焼結体に含まれるBiの結晶相に限定する技術が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公平4−25681号公報
【特許文献2】特開2001−307909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
現在、電流−電圧非直線抵抗体に要求される非直線抵抗特性は、益々厳しくなっており、さらに優れた非直線抵抗特性を有する電流−電圧非直線抵抗体が求められている。
【0010】
そこで、本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、非直線抵抗特性に優れた電流−電圧非直線抵抗体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の一態様によれば、酸化亜鉛を主成分とし、副成分として少なくとも、Bi、Sbを含んだ混合物の焼結体を備える電流−電圧非直線抵抗体であって、前記焼結体の所定の断面における、前記焼結体の微細構造を主に構成する各酸化亜鉛粒子の断面において、断面に亘って最長となる最長直線の長さ(L)と、前記最長直線の中点で直交し、断面に亘る直交直線の長さ(S)との比(S/L)を平均した値が0.66以上となるように前記焼結体が構成されていることを特徴とする電流−電圧非直線抵抗体が提供される。
【0012】
また、本発明の一態様によれば、酸化亜鉛を主成分とし、副成分として少なくとも、Bi、Sb、Mn、Co、Niを含んだ混合物の焼結体を備える電流−電圧非直線抵抗体の製造方法であって、主成分である酸化亜鉛を85mol%以上含み、かつ副成分として、それぞれBi、Sb、Co、MnO、NiOに換算して、Biを0.3〜2.5mol%、Sbを0.2〜7mol%、Coを0.2〜3mol%、MnOを0.2〜6mol%、NiOを0.5〜5mol%含む混合物、および有機溶剤を湿式粉砕装置に投入し、少なくとも、酸化ビスマス粒子の平均粒径(X2)が0.8μm以下で、かつ当該酸化ビスマス粒子の粒度分布に基づく標準偏差(σ2)を前記酸化ビスマス粒子の平均粒径(X2)で除した値(σ2/X2)が0.3以下となるように前記混合物を粉砕しながら混合し、スラリーを作製する粉砕工程と、前記スラリーを噴霧して、所定の粒径の造粒粉を形成する造粒粉形成工程と、前記造粒粉に所定の圧力を負荷して所定の形状を有する成形体を形成する成形工程と、前記成形体を350〜500℃の第1の温度に加熱し、所定時間前記第1の温度を維持して前記有機溶剤を除去する第1の加熱工程と、前記有機溶剤が除去された成形体を1000〜1200℃の第2の温度に加熱し、所定時間前記第2の温度を維持して焼成する第2の加熱工程と、前記焼成された成形体を冷却する冷却工程とを具備することを特徴とする電流−電圧非直線抵抗体の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の電流−電圧非直線抵抗体によれば、非直線抵抗特性に優れている。また、本発明の電流−電圧非直線抵抗体の製造方法によれば、非直線抵抗特性に優れた電流−電圧非直線抵抗体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る電流−電圧非直線抵抗体の断面を示す図である。
【図2】酸化亜鉛(ZnO)を主成分とし、副成分として少なくともビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)を含んだ混合物の焼結体の所定の断面における微細構造モデルを説明するための図である。
【図3】試料1〜試料4における非直線抵抗特性試験の結果を示す図である。
【図4】試料1〜試料4における非直線抵抗特性試験の結果を示す図である。
【図5】試料1〜試料4における非直線抵抗特性試験の結果を示す図である。
【図6】試料1〜試料4における非直線抵抗特性試験の結果を示す図である。
【図7】試料1〜試料4における非直線抵抗特性試験の結果を示す図である。
【図8】試料5〜試料11における非直線抵抗特性試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施の形態について図面を参照して説明する。
【0016】
図1は、本発明に係る電流−電圧非直線抵抗体10の断面を示す図である。
【0017】
図1に示すように、本発明に係る電流−電圧非直線抵抗体10は、酸化亜鉛(ZnO)を主成分とし、副成分として少なくともビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)を含んだ混合物の焼結体20を備えている。また、電流−電圧非直線抵抗体10は、焼結体20の側面を被覆する絶縁層30と、焼結体20の上下面に形成された電極40を備えている。
【0018】
焼結体20は、焼結体20の所定の断面における、焼結体20の微細構造を主に構成する通電成分である各酸化亜鉛粒子の断面において、断面に亘って最長となる最長直線の長さ(L)と、この最長直線の中点で直交し、断面に亘る直交直線の長さ(S)との比(S/L)を平均した値が0.66以上となるように構成されている。
【0019】
ここで、上記した最長直線の長さ(L)および直交直線の長さ(S)について説明する。
【0020】
図2は、酸化亜鉛(ZnO)を主成分とし、副成分として少なくともビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)を含んだ混合物の焼結体20の所定の断面における微細構造モデルを説明するための図である。
【0021】
図2に示すように、焼結体20の断面には、主成分である酸化亜鉛粒子21と、その酸化亜鉛粒子21を取り囲むように、スピネル型粒子22、酸化ビスマス粒子23および気孔24とが存在する。なお、スピネル型粒子22は、アンチモン酸亜鉛(ZnSb12)が主成分である。このような微細構造の焼結体20において、電気が流れる部分は、酸化亜鉛粒子21のみであり、その他のスピネル型粒子22、酸化ビスマス粒子23および気孔24は、電気的絶縁成分であり、導電に寄与しない。そのため、電流は、酸化亜鉛粒子21のみを流れる。また、酸化亜鉛粒子21は、一定の抵抗値、すなわち直線抵抗特性を有し、酸化亜鉛粒子21どうしの界面である酸化亜鉛粒界が非直線抵抗特性を有している。そのため、電流−電圧非直線抵抗体は、非直線抵抗特性を有する。直線抵抗である酸化亜鉛粒子21と非直線抵抗である酸化亜鉛粒界の抵抗を比較すると、電流値が非常に高いインパルス電流領域においても、酸化亜鉛粒界の方が高抵抗である。なお、非直線抵抗特性とは、電圧が低い場合には抵抗値が高く、所定の電圧以上になると急激に抵抗値が低下する特性をいう。
【0022】
図2に示すように、視野内の各酸化亜鉛粒子の断面において、断面に亘って最長となる最長直線の長さ(L)と、この最長直線の中点で直交し、断面に亘る直交直線の長さ(S)とをそれぞれ測定し、各酸化亜鉛粒子の断面について、S/Lの値を求める。そして、各酸化亜鉛粒子の断面について求められたS/Lを算術平均して、平均された全体としてのS/Lが得られる。この平均されたS/Lの値(以下、平均S/Lという)が0.66以上になるように、焼結体20が構成されている。
【0023】
なお、最長直線の長さ(L)および直交直線の長さ(S)の測定では、まず、焼結体20の内部を切り出し、その切り出した試料を鏡面研摩する。続いて、粒子を識別しやすくするために、焼結体20の鏡面研摩面を、例えば、塩酸溶液などでエッチングし、観察面に微小な凹凸を形成する。そして、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、最長直線の長さ(L)および直交直線の長さ(S)を測定する。なお、SEMによる観察においては、反射電子像にて観察することで、観察写真の色あいにより、酸化亜鉛粒子、スピネル型粒子、酸化ビスマス粒子、気孔などを識別することができる。
【0024】
最長直線の長さ(L)および直交直線の長さ(S)の測定において、各試料について、異なる視野で数箇所のSEM写真を、例えば1000倍の倍率で撮り、例えば900〜1000個の酸化亜鉛粒子の断面における、最長直線の長さ(L)および直交直線の長さ(S)を測定する。そして、各酸化亜鉛粒子の断面におけるS/Lを算術平均して、平均S/Lを求める。
【0025】
上記したように、焼結体20の所定の断面における各酸化亜鉛粒子の断面の平均S/Lが0.66以上となるように焼結体20を構成することで、電流−電圧非直線抵抗体10における通電パスが短縮化される。通電パスが短縮化されると、高電流域において電極40間の抵抗値が低くなり、非直線抵抗特性が向上する。この通電パスは、酸化亜鉛粒子21の粒成長を均一化することで微細構造が均一になり短縮化する。
【0026】
ここで、酸化亜鉛粒子21は、均一に焼結反応をすると、粒子形状は球状に近づき、その断面形状は円に近づく。また、平均S/Lは、酸化亜鉛粒子21の粒成長の均一性を示す指標となる。そこで、平均S/Lが0.66以上になる焼結体20では、酸化亜鉛粒子21の粒成長が均一化し、通電パスが短縮化される。そのため、平均S/Lが0.66以上になる焼結体20を備える電流−電圧非直線抵抗体10では、優れた非直線抵抗特性が得られる。
【0027】
また、本発明に係る電流−電圧非直線抵抗体10では、焼結体20の所定の断面における各酸化ビスマス粒子23の断面積を平均した値(以下、平均断面積という)(X1)が1.15μm以下に構成され、かつ各酸化ビスマス粒子23の断面積の分布に基づく標準偏差(σ1)を各酸化ビスマス粒子23の平均断面積(X1)で除した値(σ1/X1)が0.95以下に構成されている。ここで、(σ1/X1)は、酸化ビスマス粒子23のばらつきを示す指標として用いている。
【0028】
各酸化ビスマス粒子23の断面積は、上記した、各酸化亜鉛粒子21の断面においてS/Lを測定する場合と同様に、焼結体20の内部を切り出し、その切り出した試料に対して鏡面研摩処理、エッチング処理などを施す。そして、各試料について、異なる視野で数箇所のSEM写真を、例えば1000倍の倍率で撮り、例えば900〜1000個の酸化ビスマス粒子23の面積を画像処理により求める。そして、その求められた面積を算術平均して、各酸化ビスマス粒子23の平均断面積(X1)を求める。また、標準偏差(σ1)は、上記した各酸化ビスマス粒子23の断面積の分布に基づいて求められる。
【0029】
ここで、各酸化ビスマス粒子23の平均断面積(X1)を1.15μm以下に構成し、各酸化ビスマス粒子23の断面積の分布に基づく標準偏差(σ1)を各酸化ビスマス粒子23の平均断面積(X1)で除した値(σ1/X1)を0.95以下に構成することで、焼結体20において、酸化ビスマス粒子23が均一に分散する。これによって、焼結体20の微細構造が均一化し、通電パスが短縮化され、優れた非直線抵抗特性が得られる。
【0030】
また、本発明に係る電流−電圧非直線抵抗体10の焼結体20を形成するための混合物は、酸化亜鉛を主成分とし、副成分として少なくとも、Bi、Sbを含んでいる。
【0031】
Bi、Sbは、それぞれBi、Sbに換算して、Biを0.3〜2.5mol%、Sbを0.2〜7mol%含むように含有されることが好ましい。なお、主成分である酸化亜鉛は、85mol%以上含まれることが好ましい。
【0032】
Biの含有量をBiに換算して0.3〜2.5mol%とすることが好ましいのは、Biは、酸化亜鉛粒子21の粒成長を促進する効果があるが、含有量が0.3mol%未満では、焼結が十分に促進されず、緻密な焼結体が得られないからである。また、含有量が2.5mol%を超えると、酸化亜鉛粒子21が過剰に大きくなり、抵抗値が低下するからである。
【0033】
Sbの含有量をSbに換算して0.2〜7mol%とすることが好ましいのは、Sbは、酸化亜鉛とスピネル型粒子を形成して焼結中の酸化亜鉛粒子の粒成長を抑制し、均一化する働きを有するが、含有量が0.2mol%未満では、酸化亜鉛粒子21が過剰に大きくなり、抵抗値が低下するからである。また、含有量が7mol%を超えると、酸化亜鉛粒子の粒成長が抑制され、焼結が十分に促進されないからである。
【0034】
主成分である酸化亜鉛が85mol%以上含まれることが好ましいのは、酸化亜鉛の含有量が85mol%よりも小さい場合には、通電部である酸化亜鉛の全体に対する比率が小さくなり、非直線性に悪影響を与えるからであるからである。
【0035】
また、混合物に副成分として含有される成分はBi、Sbのみに限られるものではない。副成分として、さらに、例えば、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)などを含有してもよい。
【0036】
この場合、Co、Mn、Niは、それぞれCo、MnO、NiOに換算して、Coを0.2〜3mol%、MnOを0.2〜6mol%、NiOを0.5〜5mol%含むように含有されることが好ましい。この場合においても、主成分である酸化亜鉛は、85mol%以上含まれることが好ましい。
【0037】
Coの含有量をCoに換算して0.2〜3mol%とすることが好ましいのは、Coは、主にスピネル型粒子中に固溶して非直線抵抗特性を大きく向上させるために有効な成分であるが、含有量が0.2mol%未満の場合には、この非直線抵抗特性を向上させる効果を十分に得ることができないからである。また、含有量が3mol%を超える場合にも、非直線抵抗特性を向上させる効果を十分に得ることができないからである。
【0038】
Mnの含有量をMnOに換算して0.2〜6mol%とすることが好ましいのは、MnOは、主にスピネル型粒子中に固溶して非直線抵抗特性を大きく向上させるために有効な成分であるが、含有量が0.2mol%未満の場合には、この非直線抵抗特性を向上させる効果を十分に得ることができないからである。また、含有量が6mol%を超える場合にも、非直線抵抗特性を向上させる効果を十分に得ることができないからである。
【0039】
Niの含有量をNiOに換算して0.5〜5mol%とすることが好ましいのは、NiOは、主にスピネル型粒子中に固溶して非直線抵抗特性を大きく向上させるために有効な成分であるが、含有量が0.5mol%未満の場合には、この非直線抵抗特性を向上させる効果を十分に得ることができないからである。また、含有量が5mol%を超える場合にも、非直線抵抗特性を向上させる効果を十分に得ることができないからである。
【0040】
また、本発明に係る電流−電圧非直線抵抗体10の焼結体20を形成するための混合物に、副成分として含まれるBiは、酸化ビスマス粒子として含まれる。この酸化ビスマス粒子の平均粒径(X2)は、0.8μm以下であることが好ましい。また、この酸化ビスマス粒子の粒度分布に基づく標準偏差(σ2)を酸化ビスマス粒子の平均粒径(X2)で除した値(σ2/X2)が0.3以下となるように酸化ビスマス粒子が構成されることが好ましい。ここで、(σ2/X2)は、酸化ビスマス粒子のばらつきを示す指標として用いている。
【0041】
なお、粉体である酸化ビスマス粒子の平均粒径は、例えば、焼結体20を作製する工程で、加圧形成により形成される成形体の底面をSEMによって観察し、得られたSEM写真から測定することができる。例えば、各試料について、異なる視野で数箇所のSEM写真を、例えば1000倍の倍率で撮り、成形体の底面に存在する、例えば900〜1000個の酸化ビスマス粒子の面積を画像処理により求める。そして、その求められた面積に相当する円の直径を各酸化ビスマス粒子の粒径とする。そして、各酸化ビスマス粒子の粒径を算術平均して、酸化ビスマス粒子の平均粒径(X2)とする。また、標準偏差(σ2)は、上記した各酸化ビスマス粒子の粒度分布に基づいて求められる。
【0042】
混合物に含まれる酸化ビスマス粒子の平均粒径(X2)が0.8μm以下であることが好ましいのは、平均粒径(X2)が0.8μmを超えると、焼結が不均一になり、通電パスが長くなり、非直線抵抗特性が悪化するからである。なお、混合物に含まれる酸化ビスマス粒子の平均粒径は、小さいほど好ましいが、混合物を粉砕する際の作製上の限界により、酸化ビスマス粒子の平均粒径の下限値は、0.05μm程度となる。
【0043】
また、酸化ビスマス粒子の粒度分布に基づく標準偏差(σ2)を酸化ビスマス粒子の平均粒径(X2)で除した値(σ2/X2)が0.3以下であることが好ましいのは、σ2/X2が0.3を超えると、焼結が不均一になり、通電パスが長くなり、非直線抵抗特性が悪化するからである。
【0044】
焼結体20の側面を被覆する絶縁層30は、例えば、電気絶縁材料であるガラスなどの無機絶縁物などで構成される。この絶縁層30は、焼結体20の側面に、例えば、上記した電気絶縁材料を塗布や吹き付けし、熱処理を施すことで形成される。なお、絶縁層30の厚さは、その絶縁性能および機械的強度の観点から、0.03〜0.5mm程度に形成されることが好ましい。
【0045】
焼結体20の上下面に形成された電極40は、例えば、電気導電性を有する、アルミニウムなどの金属材料で構成される。電極40は、焼結体20の上下面に、例えば、上記した導電性材料を溶射などすることで形成される。なお、電極40の厚さは、電極40の導電性、密着強度の観点から、0.03〜0.4mm程度に形成されることが好ましい。
【0046】
ここで、本発明に係る電流−電圧非直線抵抗体10は、例えば、直径が20〜150mm、厚さが1〜50mmの円柱状の形状を有している。なお、電流−電圧非直線抵抗体10の形状は、これに限られるものではない。
【0047】
次に、本発明に係る電流−電圧非直線抵抗体10の製造方法について説明する。
【0048】
まず、主成分である酸化亜鉛を85mol%以上含み、かつ副成分として、それぞれBi、Sb、Co、MnO、NiOに換算して、Biを0.3〜2.5mol%、Sbを0.2〜7mol%、Coを0.2〜3mol%、MnOを0.2〜6mol%、NiOを0.5〜5mol%含むように秤量する。
【0049】
続いて、秤量された混合物、およびこの混合物の含有率が35〜60重量%となるような量の純水とポリビニルアルコールなどの有機バインダを湿式粉砕装置に投入し、少なくとも、酸化ビスマス粒子の平均粒径(X2)が0.8μm以下で、かつこの酸化ビスマス粒子の粒度分布に基づく標準偏差(σ2)を酸化ビスマス粒子の平均粒径(X2)で除した値(σ2/X2)が0.3以下となるように混合物を粉砕しながら混合し、スラリーを作製する。
【0050】
ここで、湿式粉砕装置として、例えば、ジルコニアビーズを粉砕および混合のために用いた循環方式の装置などが用いられる。なお、ジルコニアビーズの粒径、ベッセル内のビーズ充填率、攪拌用ロータの周速、循環流量、混合時間などは適宜変更可能である。
【0051】
続いて、作製されたスラリーを回転円盤方式または加圧ノズル方式により、噴霧して造粒して造粒粉を作製する。ここで、造粒粉の粒径は50〜150μmとすることが好ましい。なお、この際の粒径は、例えば、前述した湿式のレーザ回折法を用いた粒度分布測定装置などを用いて測定される。ここで、造粒粉の粒径を50〜150μmとするのが好ましいのは、金型への充填性に優れているからである。
【0052】
得られた造粒粉を、例えば油圧式のプレス成形機によって、円柱状に成形し、成形体を作製する。
【0053】
続いて、この成形体を350〜500℃の温度に加熱し、この温度に、例えば、1〜5時間維持して有機溶剤を除去する。
【0054】
続いて、成形体を、1000〜1200℃の温度に加熱し、この温度に、例えば、2時間以上維持して焼成する。なお、焼成は、有機溶剤を除去する温度(350〜500℃)から一旦常温に冷却した後に焼成温度まで加熱して行ってもよいし、有機溶剤を除去する温度(350〜500℃)から焼成温度に加熱して行ってもよい。また、焼成は、例えば、トンネル式の連続炉を使用して、アルミナやムライトなどの耐火物容器に成形体を設置して行われる。また、焼成温度までの加熱速度は、被焼成物内の温度均一性と焼成プロセスリードタイムの観点から、50〜200℃/時であることが好ましい。
【0055】
焼成温度(1000〜1200℃)の維持時間経過後、焼成された成形体を冷却する。なお、冷却する際の冷却速度は、被焼成物内の温度均一性と焼成プロセスリードタイムの観点から、100〜200℃/時であることが好ましい。この冷却工程を経て、焼結体20が得られる。
【0056】
冷却された成形体である焼結体20の側面に、前述した無機絶縁物を塗布または吹き付け、400〜500℃の温度で、1〜5時間熱処理して、絶縁層30を形成する。
【0057】
さらに、焼結体20の上下両端面を研磨し、この研磨面に、前述した導電性材料を、例えば溶射などして、電極40を形成する。
【0058】
なお、絶縁層30を形成する工程および電極40を形成する工程を行う順番は、特に限定されるものではなく、いずれを先に行ってもよい。
【0059】
このように、上記した工程を経ることで、電流−電圧非直線抵抗体10が作製される。
【0060】
上記したように、電流−電圧非直線抵抗体10を作製することで、優れた非直線抵抗特性を有する電流−電圧非直線抵抗体を得ることができる。
【0061】
次に、本発明に係る電流−電圧非直線抵抗体10が優れた非直線抵抗特性を有することを以下に具体的に説明する。
【0062】
(酸化亜鉛粒子の断面における平均S/Lの影響)
ここでは、焼結体20の所定の断面における、各酸化亜鉛粒子21の断面において、断面に亘って最長となる最長直線の長さ(L)と、この最長直線の中点で直交し、断面に亘る直交直線の長さ(S)との比(S/L)を平均した平均S/Lが非直線抵抗特性に及ぼす影響について説明する。
【0063】
まず、主成分として酸化亜鉛(ZnO)を用いた。副成分として、酸化ビスマス(Bi)を0.6mol%、酸化マンガン(MnO)、酸化コバルト(Co)をそれぞれ1.5mol%、三酸化アンチモン(Sb)、酸化ニッケル(NiO)をそれぞれ2.5mol%、水酸化アルミニウム(Al(OH))水溶液をアルミニウムイオン(Al3+)に換算して0.005mol%添加するように調整した。なお、残部は、酸化亜鉛である。
【0064】
上記したように調整した混合物、およびこの混合物の含有率が40質量%となるように調整された、純水および有機バインダの結合材を循環方式の湿式粉砕装置に投入した。湿式粉砕装置において、ジルコニアビーズの粒径(3mm、0.5mm、0.3mm)、混合時間(0.3時間、0.5時間、1.5時間)を異ならせることにより、4種類のスラリーを得た。なお、ポンプ流量は、15L/分で一定とした。
【0065】
続いて、各スラリーをスプレードライヤで、粒径が100μmとなるように噴霧造粒した。得られた造粒粉を、油圧式のプレス成形機によって、直径が81mm、厚さが30mmの円柱状の成形体とした。
【0066】
続いて、この成形体を500℃の温度に加熱し、この温度に1時間維持して有機溶剤である有機バインダなどを除去した。
【0067】
続いて、成形体の温度を一旦常温まで冷却した後、成形体を1150℃の焼成温度に加熱し、この温度に2時間維持して焼成した。また、焼成温度にするまでの加熱速度を100℃/時とした。
【0068】
焼成温度(1150℃)の維持時間経過後、焼成された成形体を冷却した。なお、冷却する際の冷却速度を100℃/時程度とした。この冷却工程を経て、焼結体を得た。
【0069】
得られた4種類の焼結体の所定の断面における、各酸化亜鉛粒子の断面において、断面に亘って最長となる最長直線の長さ(L)と、この最長直線の中点で直交し、断面に亘る直交直線の長さ(S)とを測定した。そして、各酸化亜鉛粒子の断面における最長直線の長さ(L)と直交直線の長さ(S)の比(S/L)を求め、各酸化亜鉛粒子の断面におけるS/Lを算術平均して平均S/Lを求めた。
【0070】
具体的には、まず、焼結体の内部を切り出し、その切り出した試料を鏡面研摩し、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察するための試料を作製した。ここで、焼結体の鏡面研摩面を、粒子を識別しやすくするために、0.5%塩酸溶液でエッチングし、観察面に微小な凹凸を形成した。SEMによる観察においては、反射電子像にて観察することで、観察写真の色あいにより、酸化亜鉛粒子、スピネル型粒子、酸化ビスマス層、気孔を識別した。
【0071】
続いて、各試料について、異なる視野10箇所のSEM写真を1000倍の倍率で撮り、それぞれの写真において、各酸化亜鉛粒子の断面において、断面に亘って最長となる最長直線の長さ(L)、およびこの最長直線の中点で直交し、断面に亘る直交直線の長さ(S)を測定した。そして、最長直線の長さ(L)と直交直線の長さ(S)との比(S/L)を各酸化亜鉛粒子(1000個程度)の断面について求め、それらを算術平均して平均S/Lを求めた。
【0072】
続いて、各焼結体の側面に、ガラスフリットを塗布し、500℃の温度で、1時間熱処理して、絶縁層を形成した。さらに、各焼結体の上下両端面を研磨し、この研磨面に、アルミニウムを溶射して電極を形成し、4種類の電流−電圧非直線抵抗体を得た。ここで、得られた4種類の電流−電圧非直線抵抗体をそれぞれ試料1〜試料4とする。なお、各試料をそれぞれ25ピース作製した。
【0073】
次に、試料1〜試料4について非直線抵抗特性を評価した。
【0074】
非直線抵抗特性の評価において、1mAの商用周波の交流電流を通電したときの電圧であるバリスタ電圧(V1mA)と、8×20μsインパルス電流を10kA流したときの電圧(V10kA)とを測定し、これらの比(V10kA/V1mA)を非直線性係数として評価した。この非直線性係数の値が小さいほど、非直線抵抗特性が優れていることを示す。なお、バリスタ電圧(V1mA)をJEC0202−1994に準じて測定した。
【0075】
図3は、試料1〜試料4における非直線抵抗特性試験の結果を示す図である。なお、図3の横軸には、平均S/Lが示されている。
【0076】
図3に示すように、平均S/Lが大きくなるに伴って、非直線性係数(V10kA/V1mA)が小さくなることがわかった。特に、平均S/Lが0.66以上では、すでに非直線性係数が1.5よりも小さくなり、優れた非直線抵抗特性が得られることがわかった。
【0077】
なお、避雷器の仕様上、非直線性係数が1.5よりも小さな酸化亜鉛素子を用いた場合に、優れた非直線抵抗特性を有する避雷器が得られる。そのため、非直線性係数が1.5よりも小さいときに、優れた非直線抵抗特性が得られるとした。
【0078】
(酸化ビスマス粒子の平均断面積(X1)、および酸化ビスマス粒子の断面積の分布に基づく標準偏差(σ1)の影響)
ここでは、焼結体20の所定の断面における各酸化ビスマス粒子23の断面積を平均した平均断面積(X1)が非直線抵抗特性に及ぼす影響について説明する。さらに、各酸化ビスマス粒子23の断面積の分布に基づく標準偏差(σ1)を酸化ビスマス粒子23の平均断面積(X1)で除した値(σ1/X1)が非直線抵抗特性に及ぼす影響について説明する。
【0079】
ここでは、前述した平均S/Lの影響を説明する際に作製した4種類の焼結体(試料1〜試料4)を使用した。したがって、これらの4種類の焼結体のそれぞれは、上記した平均S/Lに基づく非直線抵抗特性を有している。
【0080】
酸化ビスマス粒子の平均断面積(X1)を測定する際、前述した各酸化亜鉛粒子の断面を観察する方法と同様の方法で、酸化亜鉛粒子、スピネル型粒子、酸化ビスマス層、気孔を識別した。
【0081】
そして、各試料について、異なる視野10箇所のSEM写真を1000倍の倍率で撮り、それぞれの写真において、各酸化ビスマス粒子23(1000個程度)の面積をプラニメータを用いた画像処理により求めた。そして、その求められた面積を算術平均して、各酸化ビスマス粒子23の平均断面積(X1)を求めた。
【0082】
また、上記した画像処理による解析データの、各酸化ビスマス粒子23の断面積の分布に基づいて、標準偏差(σ1)を求めた。さらに、この標準偏差(σ1)を酸化ビスマス粒子の平均断面積(X1)で除して(σ1/X1)を求めた。
【0083】
次に、試料1〜試料4について非直線抵抗特性を評価した。
【0084】
図4および図5は、試料1〜試料4における非直線抵抗特性試験の結果を示す図である。なお、図4の横軸には、酸化ビスマス粒子23の平均断面積(X1)が示されている。図5の横軸には、各酸化ビスマス粒子23の断面積の分布に基づく標準偏差(σ1)を酸化ビスマス粒子23の平均断面積(X1)で除した値(σ1/X1)が示されている。
【0085】
ここでは、試料1〜試料4を用いて非直線抵抗特性を評価しているので、非直線性係数(V10kA/V1mA)は、前述した平均S/Lの影響を説明する際に説明した試料1〜試料4における非直線性係数(V10kA/V1mA)と同じである。
【0086】
図4に示すように、酸化ビスマス粒子23の平均断面積(X1)が小さくなるに伴って、非直線性係数(V10kA/V1mA)が小さくなることがわかった。特に、酸化ビスマス粒子23の平均断面積(X1)が1.15μm以下では、すでに非直線性係数が1.5よりも小さくなり、優れた電流−電圧非直線特性が得られることがわかった。
【0087】
また、図5に示すように、(σ1/X1)が小さくなるに伴って、非直線性係数(V10kA/V1mA)が小さくなることがわかった。特に、(σ1/X1)が0.95以下では、すでに非直線性係数が1.5よりも小さくなり、優れた電流−電圧非直線特性が得られることがわかった。
【0088】
(混合物に副成分として含まれる酸化ビスマス粒子の平均粒径(X2)、および酸化ビスマス粒子の粒度分布に基づく標準偏差(σ2)の影響)
ここでは、電流−電圧非直線抵抗体10の焼結体20を形成するための混合物に、副成分として含まれる酸化ビスマス粒子の平均粒径(X2)が非直線抵抗特性に及ぼす影響について説明する。さらに、この酸化ビスマス粒子の粒度分布に基づく標準偏差(σ2)を酸化ビスマス粒子の平均粒径(X2)で除した値(σ2/X2)が非直線抵抗特性に及ぼす影響について説明する。
【0089】
酸化ビスマス粒子の平均粒径(X2)は、前述した平均S/Lの影響を説明する際に作製した、4種類のスラリーからなる造粒粉をそれぞれ加圧形成して得られた、直径が81mm、厚さが30mmの円柱状の4種類の成形体を用いて測定された。なお、成形体では、加圧形成により、造粒粉の形状は変形するが、それに含まれる各混合物自体は、変形しない。
【0090】
具体的には、成形体の底面の異なる視野10箇所のSEM写真を1000倍の倍率で撮り、それぞれの写真において、各酸化ビスマス粒子(1000個程度)の面積をプラニメータを用いた画像処理により求めた。
【0091】
そして、求められた各酸化ビスマス粒子の面積に相当する円の直径を各酸化ビスマス粒子の粒径とした。そして、各酸化ビスマス粒子の粒径を算術平均して、酸化ビスマス粒子の平均粒径(X2)とした。
【0092】
また、各酸化ビスマス粒子の粒度分布に基づいて、標準偏差(σ2)を求めた。さらに、この標準偏差(σ2)を酸化ビスマス粒子の平均粒径(X2)で除して(σ2/X2)を求めた。
【0093】
次に、試料1〜試料4について非直線抵抗特性を評価した。
【0094】
図6および図7は、試料1〜試料4における非直線抵抗特性試験の結果を示す図である。なお、図6の横軸には、酸化ビスマス粒子の平均粒径(X2)が示されている。図7の横軸には、各酸化ビスマス粒子の粒度分布に基づく標準偏差(σ2)を酸化ビスマス粒子の平均粒径(X2)で除した値(σ2/X2)が示されている。
【0095】
ここでは、試料1〜試料4を用いて非直線抵抗特性を評価しているので、非直線性係数(V10kA/V1mA)は、前述した平均S/Lの影響を説明する際に説明した試料1〜試料4における非直線性係数(V10kA/V1mA)と同じである。
【0096】
図6に示すように、酸化ビスマス粒子の平均粒径(X2)が小さくなるに伴って、非直線性係数(V10kA/V1mA)が小さくなることがわかった。特に、酸化ビスマス粒子の平均粒径(X2)が0.8μm以下では、すでに非直線性係数が1.5よりも小さくなり、優れた非直線抵抗特性が得られることがわかった。
【0097】
また、図7に示すように、(σ2/X2)が小さくなるに伴って、非直線性係数(V10kA/V1mA)が小さくなることがわかった。特に、(σ2/X2)が0.3以下では、すでに非直線性係数が1.5よりも小さくなり、優れた非直線抵抗特性が得られることがわかった。
【0098】
(焼結体の焼成温度の影響)
ここでは、電流−電圧非直線抵抗体10の焼結体20を形成するための焼成温度が非直線抵抗特性に及ぼす影響について説明する。
【0099】
ここでは、前述した平均S/Lの影響を説明する際に作製した試料のうち、試料4を構成する焼結体20を形成する際の焼成温度を変えて、非直線抵抗特性を調べた。焼成温度は、950、1000、1050、1100、1150、1200、1250℃の7条件で行った。
【0100】
試料4の焼結体20を形成するための成形体を500℃の温度に加熱し、この温度に1時間維持して有機溶剤を除去した。
【0101】
続いて、成形体の温度を一旦常温まで冷却した後、成形体を上記した焼成温度に加熱し、この温度に、2時間維持して焼成した。また、焼成温度までの加熱速度は、100℃/時とした。
【0102】
以後の作製方法は、前述した平均S/Lの影響を説明する際に作製した電流−電圧非直線抵抗体10の場合と同じである。
【0103】
上記した作製方法により7種類の電流−電圧非直線抵抗体10(試料5〜試料11)を得た。なお、各試料をそれぞれ3ピース作製した。
【0104】
次に、試料5〜試料11について非直線抵抗特性を評価した。なお、非直線抵抗特性の評価における実験条件や実験方法は、前述した平均S/Lの影響を調べる際の実験条件や実験方法と同じとした。
【0105】
図8は、試料5〜試料11における非直線抵抗特性試験の結果を示す図である。なお、図8の横軸には、焼成温度が示されている。
【0106】
図8に示すように、焼成温度が950℃の場合(試料5)、非直線性係数(V10kA/V1mA)が1.5よりも大きく、非直線抵抗特性に劣ることがわかった。これは、焼結体20が緻密化していないことが原因と考えられる。また、焼成温度が1250℃の場合(試料11)、非直線性係数(V10kA/V1mA)が1.5よりも大きく、非直線抵抗特性に劣ることがわかった。
【0107】
一方、焼成温度が1000〜1200℃の場合(試料6〜試料10)、非直線性係数(V10kA/V1mA)が1.5よりも小さく、優れた非直線抵抗特性が得られることがわかった。
【0108】
(混合物の各組成成分の含有量の影響)
ここでは、酸化亜鉛(ZnO)を主成分とし、副成分としてビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)を含んだ混合物の各組成成分の含有量が、非直線抵抗特性に及ぼす影響について説明する。
【0109】
表1には、試料12〜試料46の電流−電圧非直線抵抗体における、混合物の組成成分および非直線性係数(V10kA/V1mA)を示す。なお、表1において、*印は、本発明の範囲外である試料を示すための符号であり、この符号が付された試料は、比較例である。
【0110】
【表1】

【0111】
まず、酸化亜鉛(ZnO)を主成分とし、副成分としてビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)を含んだ混合物の各組成成分の含有量を、表1に示す試料12〜試料46の値となるように調整した。
【0112】
上記したように調整した混合物、およびこの混合物の含有率が40質量%となるように調整された、純水および有機バインダの結合材を循環方式の湿式粉砕装置に投入した。湿式粉砕装置において、直径が0.3mmのジルコニアビーズを用い、ポンプ流量を15L/分、混合時間を0.5時間として粉砕および混合を行った。
【0113】
ここで、湿式粉砕装置において、副成分として含まれる酸化ビスマス粒子の平均粒径(X2)を0.8μm以下、かつこの酸化ビスマス粒子の粒度分布に基づく標準偏差(σ2)を酸化ビスマス粒子の平均粒径(X2)で除した値(σ2/X2)が0.3以下となるように酸化ビスマス粒子を粉砕した。
【0114】
この湿式粉砕装置における粉砕および混合処理によって、均一に混合されたスラリーを得た。
【0115】
続いて、各スラリーをスプレードライヤで、粒径が100μmとなるように噴霧造粒した。得られた造粒粉を、油圧式のプレス成形機によって、直径が81mm、厚さが30mmの円柱状の成形体とした。
【0116】
続いて、この成形体を500℃の温度に加熱し、この温度に1時間維持して有機溶剤である有機バインダなどを除去した。
【0117】
続いて、成形体の温度を一旦常温まで冷却した後、成形体を1150℃の焼成温度に加熱し、この温度に2時間維持して焼成した。また、焼成温度にするまでの加熱速度を100℃/時とした。
【0118】
焼成温度(1150℃)の維持時間経過後、焼成された成形体を冷却した。なお、冷却する際の冷却速度を100℃/時程度とした。この冷却工程を経て、焼結体を得た。
【0119】
続いて、各焼結体の側面に、ガラスフリットを塗布し、500℃の温度で、1時間熱処理して、絶縁層を形成した。さらに、各焼結体の上下両端面を研磨し、この研磨面に、アルミニウムを溶射して電極を形成し、35種類の電流−電圧非直線抵抗体を得た。ここで、得られた35種類の電流−電圧非直線抵抗体をそれぞれ試料12〜試料46とする。なお、各試料をそれぞれ10ピース作製した。
【0120】
次に、試料12〜試料46について非直線抵抗特性を評価した。なお、非直線抵抗特性の評価における実験条件や実験方法は、前述した平均S/Lの影響を調べる際の実験条件や実験方法と同じとした。
【0121】
表1には、試料12〜試料46における非直線抵抗特性試験の結果は示されている。なお、表1に示された非直線性係数(V10kA/V1mA)は、各試料における10ピースの結果を算術平均した値である。
【0122】
表1に示すように、本発明に係る電流−電圧非直線抵抗体においては、いずれも、非直線性係数(V10kA/V1mA)が1.5より小さくなることがわかった。
【0123】
以上の結果から、主成分である酸化亜鉛を85mol%以上含み、かつ副成分として、それぞれBi、Sb、Co、MnO、NiOに換算して、Biを0.3〜2.5mol%、Sbを0.2〜7mol%、Coを0.2〜3mol%、MnOを0.2〜6mol%、NiOを0.5〜5mol%含む混合物の焼結体を備える、本発明に係る電流−電圧非直線抵抗体10では、優れた非直線抵抗特性が得られることがわかった。
【0124】
以上、本発明を一実施の形態により具体的に説明したが、本発明はこれらの実施の形態にのみ限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【符号の説明】
【0125】
10…電流−電圧非直線抵抗体、20…焼結体、21…酸化亜鉛粒子、22…スピネル型粒子、23…酸化ビスマス層、24…気孔、30…絶縁層、40…電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化亜鉛を主成分とし、副成分として少なくとも、Bi、Sbを含んだ混合物の焼結体を備える電流−電圧非直線抵抗体であって、
前記焼結体の所定の断面における、前記焼結体の微細構造を主に構成する各酸化亜鉛粒子の断面において、断面に亘って最長となる最長直線の長さ(L)と、前記最長直線の中点で直交し、断面に亘る直交直線の長さ(S)との比(S/L)を平均した値が0.66以上となるように前記焼結体が構成されていることを特徴とする電流−電圧非直線抵抗体。
【請求項2】
前記焼結体の所定の断面における各酸化ビスマス粒子の断面積を平均した値(X1)が1.15μm以下であり、かつ前記各酸化ビスマス粒子の断面積の分布に基づく標準偏差(σ1)を前記各酸化ビスマス粒子の断面積を平均した値(X1)で除した値(σ1/X1)が0.95以下であることを特徴とする請求項1記載の電流−電圧非直線抵抗体。
【請求項3】
前記混合物の副成分がBi、Sb、Mn、Co、Niからなり、それぞれBi、Sb、Co、MnO、NiOに換算して、Biを0.3〜2.5mol%、Sbを0.2〜7mol%、Coを0.2〜3mol%、MnOを0.2〜6mol%、NiOを0.5〜5mol%含み、主成分である酸化亜鉛を85mol%以上含むことを特徴とする請求項1または2記載の電流−電圧非直線抵抗体。
【請求項4】
前記焼結体を形成するための前記混合物に、副成分として含まれる酸化ビスマス粒子の平均粒径(X2)が0.8μm以下であり、当該酸化ビスマス粒子の粒度分布に基づく標準偏差(σ2)を前記酸化ビスマス粒子の平均粒径(X2)で除した値(σ2/X2)が0.3以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の電流−電圧非直線抵抗体。
【請求項5】
前記焼結体を形成する際の焼結温度が、1000〜1200℃であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の電流−電圧非直線抵抗体。
【請求項6】
酸化亜鉛を主成分とし、副成分として少なくとも、Bi、Sb、Mn、Co、Niを含んだ混合物の焼結体を備える電流−電圧非直線抵抗体の製造方法であって、
主成分である酸化亜鉛を85mol%以上含み、かつ副成分として、それぞれBi、Sb、Co、MnO、NiOに換算して、Biを0.3〜2.5mol%、Sbを0.2〜7mol%、Coを0.2〜3mol%、MnOを0.2〜6mol%、NiOを0.5〜5mol%含む混合物、および有機溶剤を湿式粉砕装置に投入し、少なくとも、酸化ビスマス粒子の平均粒径(X2)が0.8μm以下で、かつ当該酸化ビスマス粒子の粒度分布に基づく標準偏差(σ2)を前記酸化ビスマス粒子の平均粒径(X2)で除した値(σ2/X2)が0.3以下となるように前記混合物を粉砕しながら混合し、スラリーを作製する粉砕工程と、
前記スラリーを噴霧して、所定の粒径の造粒粉を形成する造粒粉形成工程と、
前記造粒粉に所定の圧力を負荷して所定の形状を有する成形体を形成する成形工程と、
前記成形体を350〜500℃の第1の温度に加熱し、所定時間前記第1の温度を維持して前記有機溶剤を除去する第1の加熱工程と、
前記有機溶剤が除去された成形体を1000〜1200℃の第2の温度に加熱し、所定時間前記第2の温度を維持して焼成する第2の加熱工程と、
前記焼成された成形体を冷却する冷却工程と
を具備することを特徴とする電流−電圧非直線抵抗体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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