説明

電流センサ

【課題】コアの磁気特性のばらつきの影響を排除して被検出電流の検出精度を高め、また、動作の高速化を図る。
【解決手段】電流センサ1は、コア11と、コア11に巻回されたコイル12と、各ピーク時における電流の大きさがコア11を飽和する電流の大きさを超える三角波の励磁信号をコイル12に印加する励磁回路13と、励磁信号の印加によりコア11が飽和した時点とコア11がその後いったん非飽和となり再び飽和した時点との時間差に基づいて被検出電流を検出する検出回路14とを備えている。検出回路14は、励磁信号の印加によりコイル12に生じる誘導起電力を示す検出信号を出力する検出処理部15を備え、検出処理部15は、反転増幅器21と、励磁回路13と反転増幅器21との間に接続された抵抗23と、反転増幅器21の出力端子と入力端子との間を接続する帰還経路24とを有し、帰還経路24の途中にコイル12が接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検出物を流れる被検出電流を検出する電流センサに関する。
【背景技術】
【0002】
電流センサは、磁界の強さおよび方向を検出することにより、被検出物を流れる被検出電流の大きさおよび向きを検出することができるセンサである。電流センサは、軟磁性コアに巻回された励磁コイルに交流電流を流すことで周期的にコアを磁気飽和させ、被検出電流によって生じる磁界の影響を受けて変化するコアの磁気飽和の態様を検出することで、被検出物を流れる被検出電流を検出する。
【0003】
現在、フラックスゲートセンサを含む様々なタイプの電流センサが普及している。これらの電流センサは、いずれも励磁コイルに交流電流を流して周期的にコアを磁気飽和させる構成は共通しているが、被検出電流によって生じる磁界の影響を受けて変化するコアの磁気飽和の態様を検出する方法がそれぞれ異なる。
【0004】
例えば、下記の特許文献1には、電流センサを適用した漏電検出器が記載されている。この漏電検出器は、環状の磁性材料からなる磁気検知素子に1次励振巻線と2次検出巻線を巻回し、1次励振巻線に励磁信号を印加することにより磁気検知素子が充分に飽和されるように磁気検出素子を励磁し、2次検出巻線に生じる電圧に含まれる偶数次高調波の振幅の大きさに基づいて漏電電流の大きさを検出する。
【0005】
また、下記の特許文献2には、電流センサを適用した電流検出装置が記載されている。この電流検出装置は、保持力が小さく磁気ヒステリシス曲線が角形を示す鉄心に交流励磁コイルと検出コイルを巻回し、磁気ヒステリシス曲線の飽和領域まで磁界の正負両方向に同一条件で交流励磁しておき、鉄心の近傍を通る導体を流れる被検出電流により生ずる磁界が加わることにより、鉄心の磁束が反転する位相を変化させ、その変化分から被検出電流の値を求める。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開昭59−92532号公報
【特許文献2】特開平5−10980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、コアの磁気特性は、コアの寸法誤差または周囲の温度等によってばらつく。上述した特許文献1に記載の漏電検出器において、コア(磁気検知素子)の磁気特性のばらつきによりコアが飽和する磁界の強さまたは飽和磁束密度がばらつくと、このばらつきのために、2次検出巻線から得られる偶数次高調波の振幅の大きさが変動し、この結果、漏電電流の検出精度が低下してしまう。
【0008】
また、上述した特許文献2に記載の電流検出装置においては、コア(鉄心)の磁気特性のばらつきによりコアの磁束が反転する磁界の強さ(特許文献2の図2中のH、H)がばらつくと、このばらつきのために、コアの磁束が反転する位相の変化分(特許文献2の図4または図5中のt−t)が変動し、この結果、被検出電流値の検出精度が低下してしまう。
【0009】
このように、特許文献1、2に記載のいずれの技術によっても、コアの磁気特性のばらつきに起因して被検出電流の検出結果が変動してしまい、被検出電流の検出精度を高めることが困難である。これに対し、本出願の発明者が開発した電流センサは、コアの磁気特性のばらつきに起因する被検出電流の検出結果の変動を防止することができる。
【0010】
すなわち、当該電流センサは、コアと、コアに巻回されたコイルと、各ピーク時における電流の大きさがコアを飽和する電流の大きさを超える三角波の励磁信号をコイルに印加する励磁手段と、励磁信号の印加によりコアが飽和した時点とコアがその後いったん非飽和となり再び飽和した時点との時間差に基づいて被検出電流を検出する検出手段とを備えている。当該電流センサによれば、コアの磁気特性のばらつきによりコアが飽和する磁界の強さまたは飽和磁束密度がばらついても、このばらつきによって、励磁信号の印加によりコアが飽和した時点とコアがその後いったん非飽和となり再び飽和した時点との時間差は変動しない。そして、この時間差に基づいて被検出電流を検出するので、コアの磁気特性のばらつきに起因する被検出電流の検出結果の変動を排除することができる。
【0011】
ところが、当該電流センサには次のような問題がある。すなわち、当該電流センサの検出手段は、具体的には、励磁信号の印加によりコイルに生じる誘導起電力を示す検出信号を取り出し、この検出信号がそのピークから振幅の中間に向かって変化する間に当該検出信号の出力値の絶対値が所定の基準値に達する点である検出点を検出し、検出信号において連続する2つの検出点間の時間差に基づいて被検出電流を検出する。この点につき、実際に当該電流センサを試作して実験をしたところ、振幅が十分に大きい検出信号を得られず、また、検出信号の波形がなまってしまうことが判明した。
【0012】
検出信号の振幅が小さいと、検出信号のピークと振幅の中間との間の幅が小さくなるため、検出信号のピークから振幅の中間に向かって変化する間に当該検出信号の出力値の絶対値が所定の基準値に達する点(検出点)を高精度に検出することが難しくなる。その上、検出信号の波形がなまると、検出信号のピークが不明確になるため、上記所定の基準値を、検出信号の振幅の中間に接近した値に設定する必要があり、この結果、検出信号にノイズが乗ると、検出点の誤検出が生じるおそれがある。このように、当該電流センサにおいては、検出信号における検出点の検出精度が低いことに起因して被検出電流の検出精度を高めることが難しいという問題がある。
【0013】
さらに、検出信号の振幅が小さく、しかも波形がなまる場合、検出信号の周期を短くすると、検出信号のピークがさらに不明確になり、または検出信号の振幅がさらに小さくなり、検出点の検出がより一層難しくなる。このため、当該電流センサにおいては、その動作速度を上げることが困難であるという問題がある。
【0014】
本発明は例えば上述したような問題に鑑みなされたものであり、本発明の第1の課題は、コアの磁気特性のばらつきの影響を排除して被検出電流の検出精度を高めることができる電流センサを提供することにある。
【0015】
本発明の第2の課題は、動作の高速化を図ることができる電流センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述した課題を解決するために、本発明の第1の電流センサは、被検出物を流れる被検出電流を検出する電流センサであって、コアと、前記コアに巻回されたコイルと、各ピーク時における電流の大きさが前記コアを飽和する電流の大きさを超える三角波、疑似三角波または正弦波の励磁信号を前記コイルに印加する励磁回路と、前記励磁信号の印加により前記コアが飽和した時点と前記コアがその後いったん非飽和となり再び飽和した時点との時間差に基づいて前記被検出電流を検出する検出回路とを備え、前記検出回路は、前記励磁信号の印加により前記コイルに生じる誘導起電力を示す検出信号を出力する検出処理部と、前記検出信号のピーク、または前記検出信号においてそのピークから振幅の中間に向かって変化する間に前記検出信号の出力値の絶対値が所定の基準値に達する点を検出点とすると、前記検出信号において連続する2つの前記検出点間の時間差を示す出力信号を出力する出力処理部とを備え、前記検出処理部は、反転増幅器と、前記励磁回路の内部に設けられ、または前記励磁回路と前記反転増幅器の入力端子との間を接続する経路の途中に接続されたインピーダンス要素と、前記反転増幅器の出力端子と前記入力端子との間を接続する帰還経路とを備え、前記帰還経路の途中に前記コイルが接続されていることを特徴とする。
【0017】
本発明の第1の電流センサによれば、検出信号の振幅を大きくすることができ、検出点の検出精度を高めることができる。また、検出信号の振幅が大きくなることにより、波形のなまりが検出点の検出に与える影響が小さくなり、この点によっても、検出点の検出精度を高めることができる。また、検出信号の振幅の中間とピークとの間の電圧値が大きくなるので、検出点を検出するための上記所定の基準値と検出信号の振幅の中間との間の電圧を大きくとることができ、すなわち、上記所定の基準値を検出信号の振幅の中間から十分に離すことができる。したがって、たとえ検出信号にノイズが乗ったとしても、そのノイズの振幅が上記所定の基準値に届き難く、それゆえ、ノイズにより検出点の誤検出が生じることを防止することができる。このように検出点の検出精度を高めることで、被検出電流の検出精度を高めることができる。
【0018】
さらに、検出信号の振幅が大きいので、検出信号の周期を短くしても、検出信号のピークが不明確にならず、また、検出点を高精度に検出するのに十分な振幅を維持することができる。したがって、電流センサの高い検出精度を維持しつつ、電流センサの動作を高速化することができる。
【0019】
上記課題を解決するために、本発明の第2の電流センサは、上述した本発明の第1の電流センサにおいて、前記反転増幅器は演算増幅器であり、前記反転増幅器の入力端子は前記演算増幅器の反転入力端子であることを特徴とする。
【0020】
本発明の第2の電流センサによれば、被検出電流の検出精度が高く、動作が高速な電流センサを容易に実現することができる。
【0021】
上記課題を解決するために、本発明の第3の電流センサは、上述した本発明の第1または第2の電流センサにおいて、前記励磁信号は三角波であることを特徴とする。
【0022】
本発明の第3の電流センサによれば、検出信号の波形を、ピークがはっきりと現れた鋭い波形とすることができる。これにより、検出点の検出精度を高め、したがって被検出電流の検出精度を上げることができ、さらに、電流センサの動作の高速化を図ることができる。
【0023】
上記課題を解決するために、本発明のセンサユニットは、上述した本発明の第1の電流センサを形成するためのセンサユニットであって、コアと、前記コアに巻回されたコイルと、各ピーク時における電流の大きさが前記コアを飽和する電流の大きさを超える三角波、疑似三角波または正弦波の励磁信号を前記コイルに印加する励磁回路と、前記励磁信号の印加により前記コイルに生じる誘導起電力を示す検出信号を出力する検出処理部と、前記検出処理部は、反転増幅器と、前記励磁回路の内部に設けられ、または前記励磁回路と前記反転増幅器の入力端子との間を接続する経路の途中に接続されたインピーダンス要素と、前記反転増幅器の出力端子と前記入力端子との間を接続する帰還経路とを備え、前記帰還経路の途中に前記コイルが接続されていることを特徴とする。
【0024】
本発明のセンサユニットによれば、当該センサユニットに、前記出力処理部等の信号処理回路を接続することにより、上述した本発明の第1ないし第3のいずれかの電流センサを形成することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、コアの磁気特性のばらつきの影響を排除して被検出電流の検出精度を高め、また、動作の高速化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施形態による電流センサを示す回路図である。
【図2】本発明の実施形態による電流センサにおけるコアの磁気特性を示す特性線図である。
【図3】本発明の実施形態による電流センサにおいて、被検出電流が流れていない場合のコアの磁界の強さ、検出信号の電圧および出力パルス信号のレベルを示すタイミングチャートである。
【図4】本発明の実施形態による電流センサにおいて、被検出電流が流れている場合のコアの磁界の強さ、検出信号の電圧および出力パルス信号のレベルを示すタイミングチャートである。
【図5】本発明の実施形態による電流センサにおいて、コアの磁気特性が変化した場合のコアの磁界の強さおよび出力パルス信号のレベルを示すタイミングチャートである。
【図6】比較例による励磁回路および検出処理部を示す回路図である。
【図7】比較例による検出信号波形、本実施形態による検出信号波形、および理想の検出信号波形を示す波形図である。
【図8】本発明の実施形態による電流センサにおいて出力処理部の他の例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。図1は本発明の実施形態による電流センサを示している。図1において、本発明の実施形態による電流センサ1は、例えば被検出物としての導線61を流れる被検出電流の大きさおよび向きを検出する電流センサである。電流センサ1は、コア11と、コア11に巻回されたコイル12と、コイル12に励磁信号を印加する励磁回路13と、被検出電流を検出する検出回路14とを備えている。そして、検出回路14は、コイル12を流れる電流を検出信号として出力する検出処理部15と、検出処理部15から出力された検出信号に対して所定の信号処理を行い、被検出電流の大きさおよび向きを示す出力パルス信号を出力する出力処理部16とを備えている。
【0028】
図2はコア11の磁気特性を示すB−H曲線を示している。図2に示すように、コア11の磁気特性はヒステリシスを有する。また、コア11において、磁界の強さが正方向において増加して一定値Ha1に達したときに磁束密度が飽和磁束密度Baとなり、コア11が図2中の点P1で飽和する。コア11が点P1で飽和した後、磁界の強さが正方向において減少し、0に達した後、負方向において増加する。この過程において、磁界の強さがHa2に達する点P2でコア11が非飽和となる。また、コア11がいったん点P2で非飽和となってから点P3で飽和するまでの間、磁界の強さと磁束密度との関係がほぼ線形であり、磁界の強さの変化に比例して磁束密度が変化する。それゆえ、図2中のB−H曲線において点P2から点P3までの間は実質的にみて傾きを有する直線である。そして、コア11において、磁界の強さが一定値−Ha1に達したときに磁束密度が飽和磁束密度−Baとなり、コア11が点P3で飽和する。コア11が点P3で飽和した後、磁界の強さが負方向において減少し、0に達した後、正方向において増加する。この過程において、磁界の強さが−Ha2に達する点P4でコア11が非飽和となる。また、コア11がいったん点P4で非飽和となってから点P1で飽和するまでの間において、磁界の強さと磁束密度との関係がほぼ線形であり、それゆえ、図2中のB−H曲線において点P4から点P1までの間は実質的にみて傾きを有する直線である。
【0029】
なお、磁界の強さが一定値に達したときに、磁束密度が正側(負側)の飽和磁束密度から負側(正側)の飽和磁束密度へ瞬時に変化する磁気特性を有するコアを、コア11として利用することも可能であるが、図2に示すように、磁界の強さが一定の区間P2−P3(P4−P1)で変化する間において、磁束密度が正側(負側)の飽和磁束密度Ba(−Ba)から負側(正側)の飽和磁束密度−Ba(Ba)へ磁界の強さに比例して漸次変化する磁気特性を有するコアを、コア11として利用することもできる。
【0030】
コア11は、図2に示すような磁気特性を有する磁性材料、例えばアモルファス金属により形成されている。また、コア11は、図1に示すように、真円の円形であり環状であることが望ましいが、楕円形の環状、あるいは陸上競技が行われるトラックのように互いに平行な2本の直線とそれらをつなぐ2本の曲線とを有する形状でもよい。また、製造の容易性を考慮してコア11を四角形の環状とすることもできる。また、被検出電流が流れる導線61がコア11の中心を貫くように、コア11と導線61との位置関係が設定されている。
【0031】
図1に示す励磁回路13は、励磁信号をコイル12に印加する回路であり、例えば、励磁信号を生成する発振回路と、発振回路により生成された励磁信号を電流増幅する電流増幅回路とを備えている。励磁信号は、交流信号であり、各ピーク時における電流の大きさがコア11を飽和する電流の大きさを超える信号である。また、励磁信号は、連続する2つのピーク間における電流の変化が1次変化(リニア)であることが望ましく、具体的には三角波であることが望ましい。
【0032】
検出処理部15は、励磁信号の印加によりコイル12に生じる誘導起電力を示す信号を検出信号として出力する回路である。検出処理部15は、演算増幅器21と、励磁回路13と演算増幅器21の反転入力端子との間を接続する入力経路22の途中に接続された抵抗23と、演算増幅器21の出力端子と反転入力端子との間を接続する帰還経路24とを備え、帰還経路24の途中には、コア11に巻回されたコイル12が接続されている。励磁回路13において生成された励磁信号は入力経路22を介して演算増幅器21の反転入力端子に入力される。そして、演算増幅器21の出力端子から検出信号が出力される。検出処理部15は、抵抗23の抵抗値をR1とし、コイル12のインピーダンスをZとすると、|Z/R1|の増幅率を有する反転増幅回路と同等の構成を有している。
【0033】
出力処理部16は、検出信号において連続する2つの検出点間の時間差に対応するパルス幅を有する出力パルス信号を生成する回路である。検出点とは、検出処理部15から出力された検出信号において、検出信号の振幅の中間を0とした場合に、検出信号のピークから振幅の中間に向かって変化する間に当該検出信号の出力値の絶対値が所定の基準値に達する点である。検出信号において連続する2つの検出点間の時間差は、励磁信号の印加によってコア11が飽和した時点とコア11がその後いったん非飽和となり再び飽和した時点との時間差に相当する。そして、この時間差は、導線61を流れる被検出電流の大きさおよび向きに応じて変化する。したがって、出力パルス信号のパルス幅は、導線61を流れる被検出電流の大きさおよび向きを示す。出力処理部16は、検出信号の振幅の中間よりも正側に位置する検出点を検出する比較回路31と、検出信号の振幅の中間よりも負側に位置する検出点を検出する比較回路32と、正側の検出点において立ち上がり、負側の検出点において立ち下がる出力パルス信号を生成するネガティブエッジトリガのフリップフロップ回路33とを備えている。検出処理部15から出力された検出信号は比較回路31、32にそれぞれ入力される。そして、フリップフロップ回路33から出力パルス信号が出力される。
【0034】
図3は、電流センサ1において、導線61に被検出電流が流れていない場合のコア11の磁界の強さ、検出信号の電圧および出力パルス信号のレベルを示すタイミングチャートである。
【0035】
図3において、コア11に励磁信号を印加すると、励磁信号に応じてコア11における磁界の強さが特性線S1のように変化する。このとき、コア11における磁界の強さは励磁信号の電流の大きさに比例する。励磁信号は三角波なので、コア11における磁界の強さも三角波を描くように変化する。また、励磁信号において各ピーク時における電流の大きさがコア11を飽和する電流の大きさを超える。このため、励磁信号の印加によりコア11は次に述べるように飽和、非飽和を繰り返す。
【0036】
すなわち、図3において、時点t0から時点t1に達する直前までの間、励磁信号においてその三角波の波形に沿って電流が正方向において増加すると、これに応じて磁界の強さが正方向において増加する。そして、時点t1において磁界の強さが一定値Ha1に達すると、コア11が飽和する。
【0037】
続いて、時点t1から時点t2に達する直前までの間、励磁信号において電流が正方向においてさらに増加し、ピークに達した後、正方向において減少すると、これに応じ、磁界の強さも正方向において増加し、ピークに達した後、正方向において減少する。そして、時点t2において磁界の強さがHa2に達したとき、コア11が非飽和の状態となる。
【0038】
続いて、時点t2から時点t3に達する直前までの間、励磁信号において電流が正方向においてさらに減少し、0に達した後、負方向において増加すると、これに応じ、磁界の強さも正方向において減少し、0に達した後、負方向において増加する。そして、時点t3において磁界の強さが一定値−Ha1に達したとき、コア11が飽和する。
【0039】
続いて、時点t3から時点t4に達する直前までの間、励磁信号において電流が負方向においてさらに増加し、ピークに達した後、負方向において減少すると、これに応じ、磁界の強さも負方向において増加し、ピークに達した後、負方向において減少する。そして、時点t4において磁界の強さが−Ha2に達したとき、コア11が非飽和の状態となる。
【0040】
続いて、時点t4から時点t5に達する直前までの間、励磁信号において電流が負方向においてさらに減少し、0に達した後、正方向において増加すると、これに応じ、磁界の強さも負方向において減少し、0に達した後、正方向において増加する。続いて、時点t5から時点t9直前までの間およびそれ以降においても、時点t1から時点t5直前までの間と同様に、コア11の飽和、非飽和が繰り返される。
【0041】
図3において、コア11における磁界の強さが特性線S1のように変化すると、これに応じて、コイル12に流れる電流の大きさが変化し、この結果、検出信号S2の電圧が変化する。
【0042】
すなわち、時点t0から時点t1に達する直前までの間、磁界の強さの増加に伴って検出信号S2の電圧が増加する。そして、時点t1においてコア11が飽和したとき、コア11の飽和によりコイル12に電流が流れなくなるので、検出信号S2の交流成分が0になり、検出信号S2の電圧は0となる。しかも、コア11は磁界の強さが一定値Ha1に達した時点で直ちに飽和するので、時点t1で磁界の強さが一定値Ha1に達すると、検出信号S2の電圧が直ちに0になる。この結果、時点t1における検出信号S2の波形は時間軸に対してほぼ垂直となる。
【0043】
続いて、時点t1から時点t2に達する直前までの間は、コア11が飽和しているので、検出信号S2の電圧は0を維持する。続いて、時点t2から時点t3に達する直前までの間は、コア11が非飽和の状態であるので、磁界の強さが正方向において減少し、0に達した後、負方向において増加するのに伴って、検出信号S2の電圧は負方向に増加する。そして、時点t3においてコア11が飽和したとき、コア11の飽和によりコイル12に電流が流れなくなるので、検出信号S2の電圧が0になる。しかも、コア11は磁界の強さが一定値−Ha1に達した時点で直ちに飽和するので、時点t3で磁界の強さが一定値−Ha1に達すると、検出信号S2の電圧が直ちに0になる。この結果、時点t3における検出信号S2の波形は時間軸に対してほぼ垂直となる。
【0044】
続いて、時点t3から時点t4に達する直前までの間は、コア11が飽和しているので、検出信号S2の電圧は0を維持する。続いて、時点t4から時点t5に達する直前までの間は、コア11が非飽和の状態であるので、磁界の強さが負方向において減少し、0に達した後、正方向において増加するのに伴って、検出信号S2の電圧は正方向に増加する。続いて、時点t5から時点t9直前までの間およびそれ以降においても、時点t1から時点t5直前までの間と同様に検出信号S2の電圧が変化する。
【0045】
図3において、検出信号S2は出力処理部16に入力され、出力処理部16により、検出信号S2において連続する2つの検出点間の時間差に対応するパルス幅Wを有する出力パルス信号S3が生成される。
【0046】
ここで、検出信号S2の振幅の中間(電圧0)よりも正側に位置するピークから振幅の中間に向かって変化する間に検出信号S2の電圧(出力値)が所定の基準値Vr1に達する点が正側の検出点Dpである。検出点Dpが位置する時点は、励磁信号の印加によってコア11が飽和した時点であり、例えば時点t1、t5である。また、検出信号S2の振幅の中間よりも負側に位置するピークから振幅の中間に向かって変化する間に検出信号S2の電圧が所定の基準値Vr2に達する点が正側の検出点Dnである。検出点Dnが位置する時点は、飽和していたコア11がその後いったん非飽和となり再び飽和した時点であり、例えば時点t3、t7である。なお、基準値Vr1と基準値Vr2は、検出信号S2の振幅の中間からそれぞれ正側と負側に同じ大きさ離れている。すなわち、本実施形態においては、検出信号S2の振幅の中間が電圧0なので、基準値Vr1の絶対値と基準値Vr2の絶対値とが等しくなる。
【0047】
出力処理部16において、比較回路31は、検出信号S2の電圧が、検出信号S2の振幅の中間から振幅の正側のピークに向かって変化する間に、基準値Vr1に達した時点で立ち上がり、検出信号S2の電圧が、検出信号S2の振幅の正側のピークから振幅の中間に向かって変化する間に基準値Vr1に達した時点、すなわち検出点Dpに対応する時点で立ち下がるパルス信号を生成する。また、比較回路32は、検出信号S2の電圧が、検出信号S2の振幅の中間から振幅の負側のピークに向かって変化する間に基準値Vr2に達した時点で立ち上がり、検出信号S2の電圧が、検出信号S2の振幅の負側のピークから中間に向かって変化する間に基準値Vr2に達した時点、すなわち検出点Dnに対応する時点で立ち下がるパルス信号を生成する。そして、ネガティブエッジトリガのフリップフロップ回路33は、比較回路31により生成されたパルス信号の立ち下がりによりセットされ、比較回路32により生成されたパルス信号の立ち下がりによりリセットされる。この結果、フリップフロップ回路33は、検出点Dpでセットされ、検出点Dnでリセットされることとなり、それゆえ、フリップフロップ回路33からは、検出信号S2において連続する2つの検出点Dp、Dn間の時間差に対応するパルス幅Wを有する出力パルス信号S3が出力される。
【0048】
図4は、電流センサ1において、導線61に被検出電流が流れている場合のコア11の磁界の強さ、検出信号の電圧および出力パルス信号のレベルを示すタイミングチャートである。
【0049】
図4において、励磁信号の印加によりコア11における磁界の強さが三角波を描くように変化している間に、導線61に被検出電流が流れ、これにより磁界(外部磁界)が生じると、コア11において、励磁信号の印加による磁界の強さに、導線61に被検出電流が流れることにより生じる磁界の強さが加わる。この結果、コア11における磁界の強さを示す特性線S1が、導線61を流れる被検出電流の大きさおよび向きに応じて正方向(上方向)または負方向(下方向)にシフトする。図4は、導線61に被検出電流が流れたことにより、コア11における磁界の強さを示す特性線S1が負方向にシフトした状態を示している。
【0050】
コア11における磁界の強さを示す特性線S1が負方向にシフトすると、コア11が飽和するタイミングが変化する。コア11が飽和するタイミングが変化すると、検出信号S2において、検出点Dpが位置する時点が例えば図3中の時点t1から図4中の時点t11に変化すると共に、検出点Dnが位置する時点が図3中の時点t3から図4中の時点t13に変化する。この結果、出力パルス信号S3のパルス幅Wが変化する。
【0051】
出力パルス信号S3のパルス幅Wの変化量および変化の方向は、コア11における磁界の強さを示す特性線S1のシフト量およびシフト方向に対応し、特性線S1のシフト量およびシフト方向は、導線61に流れた被検出電流の大きさおよび向きに対応するので、出力パルス信号S3のパルス幅Wまたはパルスデューティ比から、導線61に流れた被検出電流の大きさおよび向きを認識することができる。
【0052】
図5は、電流センサ1において、導線61に被検出電流が流れていない状態で、コア11の磁気特性が変化した場合のコア11の磁界の強さ、および出力パルス信号のレベルを示すタイミングチャートである。図5中の上段の特性線S1は、励磁回路13により三角波の励磁信号が印加されたコア11における磁界の強さを示し、図3中の上段に示すものと同じである。図5中の中段の出力パルス信号S3は、コア11が飽和する磁界の強さがHa1、−Ha1である場合に出力処理部16から出力される出力パルス信号であり、図3中の下段に示すものと同じである。図5中の下段の出力パルス信号S31は、コア11の磁気特性が変化し、コア11が飽和する磁界の強さがHb1、−Hb1となった場合に出力処理部16から出力される出力パルス信号である。
【0053】
コア11の磁気特性は、コア11の寸法誤差や周囲の温度の変化等によってばらつく。例えば、コア11の周囲の温度の変化によって、図2中の二点鎖線で示すようにコア11の磁気特性が変化し、このため、コア11が飽和する磁界の強さがHa1、−Ha1からHb1、−Hb1にそれぞれずれたとする。コア11が飽和する磁界の強さがこのようにずれると、図5に示すように、三角波の励磁信号の励磁によってコア11が飽和する時点がずれる。例えば、正側でコア11が飽和する時点が時点t1から時点t21にずれ、負側でコアが飽和する時点が時点t3から時点t23にずれる。また、同様に、正側でコア11が飽和する時点が時点t5から時点t25にずれ、負側でコアが飽和する時点が時点t7から時点t27にずれる。
【0054】
しかしながら、Ha1からHb1へのずれ量と−Ha1から−Hb1へのずれ量とが同等である場合には、励磁信号が三角波であるため、正側でコア11が飽和する時点のずれ方向およびずれ量と、負側でコア11が飽和する時点のずれ方向およびずれ量とは等しくなる。この結果、検出点Dpと検出点Dnとの間の時間差は、コア11の磁気特性に変化が生じていない場合と生じている場合とで変わらず、それゆえ、出力パルス信号S3(S31)におけるパルス幅Wは、コア11の磁気特性に変化が生じていない場合と生じている場合とで変わらない。すなわち、コア11の寸法誤差や周囲の温度の変化等によって、コア11の磁気特性が変化しても、励磁信号の印加によってコア11が飽和した時点とコア11がその後いったん非飽和となり再び飽和した時点との時間差は変化しない。
【0055】
したがって、コア11の磁気特性の変化によってコア11が飽和する磁界の強さが正側で正方向に増加し、かつ負側で負方向に同等量増加した場合でも、または、コア11の磁気特性の変化によってコア11が飽和する磁界の強さが正側で正方向に減少し、かつ負側で負方向に同等量減少した場合でも、導線61を流れる被検出電流の検出に誤差は生じない。すなわち、コア11の磁気特性がコア11の寸法誤差や周囲の温度の変化等によってばらついても、このコア11の磁気特性のばらつきは、導線61を流れる被検出電流の検出に影響しない。このように、本発明の実施形態による電流センサ1によれば、コア11の磁気特性のばらつきのために、被検出電流の検出精度が低下することを防止することができる。
【0056】
図6は比較例による励磁回路および検出処理部を示し、図7は比較例による検出信号波形、本実施形態による検出信号波形、および理想の検出信号波形を示している。これより、比較例による検出処理部から出力される検出信号よりも、本実施形態による電流センサ1の検出処理部15から出力される検出信号の方が振幅が大きく、波形を全体的に見た場合に波形のなまりが少ないことを説明する。
【0057】
図6に示す比較例による検出処理部41は、励磁回路13から出力される三角波の励磁信号の印加によりコイル12に生じる誘導起電力を示す信号を検出信号として出力する回路である。検出処理部41においては、抵抗42と、コア11に巻回されたコイル12とが図6に示すように接続されている。そして、図6中の電圧VOUTが検出信号として取り出される。なお、励磁信号の波形、コア、コイルは、検出処理部41と検出処理部15とで共通である。
【0058】
図7に示すように、比較例による検出処理部41から出力される検出信号Scは、振幅が小さく、波形のなまりの程度が大きいため、ピークが不明確である。一方、本発明の実施形態による電流センサ1における検出処理部15から出力される検出信号S2は、検出信号Scと比較して、振幅が大きく、また、振幅が大きいため、検出信号S2を全体的に見ると波形のなまりの程度が小さい。そして、ピークが明確である。そして、検出信号Scの波形と検出信号S2の波形を比較すると、検出信号S2の波形の方が検出信号Scの波形よりも理想的な検出信号Sdの波形に近いことがわかる。なお、理想的な検出信号Sdの波形は、のこぎり波状であり、ピークから振幅の中間に向けての変化の軌跡が時間軸に対して完全に垂直な直線である。それゆえ、ピークと検出点とが時間的に完全に一致している。
【0059】
ここで、本発明の実施形態による電流センサ1における検出信号S2の振幅が、比較例における検出信号Scの振幅よりも大きくなる点について説明する。
【0060】
図6中の比較例による検出処理部41において、入力電圧をVINとし、出力電圧をVOUTとし、抵抗42の抵抗値をR0とし、コイル12のインピーダンスをZとすると、下記の数式(1)が成り立つ。
【数1】

ここで、図7に示すように、検出信号Scの振幅がピークに達した時点tにおける入力電圧VINをVIAとし、時点tにおける出力電圧VOUTをVOAとし、時点tにおけるコイル12のインピーダンスZをZLAとする。また、検出信号Scの振幅がその中間に位置する時点tにおける入力電圧VINをVIBとし、時点tにおける出力電圧VOUTをVOBとし、時点tにおけるコイル12のインピーダンスZをZLBとする。この場合、検出信号Scの振幅の大きさを示すVOA/VOBは下記の数式(2)により求めることができる。
【数2】

IA≒VIBとすると、数式(2)の右辺は下記の数式(3)に示すようになる。
【数3】

LB<ZLAなので、数式(3)の右辺における(R0+ZLB)/(R0+ZLA)は1より小さい値となる。したがって、比較例による検出処理部41におけるVOA/VOBは、ZLA/ZLBよりも小さい値となる。
【0061】
これに対し、図1中の本発明の実施形態による検出処理部15において、抵抗23の抵抗値がR1であるので、入力電圧をVINと出力電圧をVOUTとの関係は下記の数式(4)に示す通りである。
【数4】

ここで、比較例の場合と同様に、検出信号S2の振幅がピークに達した時点tにおける入力電圧VIN、出力電圧VOUT、コイル12のインピーダンスZをそれぞれVIA、VOA、ZLAとし、検出信号Scの振幅がその中間に位置する時点tにおける入力電圧VIN、出力電圧VOUT、コイル12のインピーダンスZをそれぞれVIB、VOB、ZLBとする。すると、検出信号S2の振幅の大きさを示すVOA/VOBは下記の数式(5)により求めることができる。
【数5】

IA≒VIBとすると、数式(5)の右辺は下記の数式(6)に示すようになる。
【数6】

このように、本発明の実施形態による検出処理部15におけるVOA/VOBはZLA/ZLBとなる。結果として、本発明の実施形態による検出処理部15におけるVOA/VOBの方が、比較例による検出処理部41におけるVOA/VOBよりも大きい。このことから、本実施形態による検出信号S2の振幅の方が、比較例による検出信号Scの振幅よりも大きくなることがわかる。
【0062】
検出信号の振幅が小さいと、検出信号の振幅の中間とピークとの間の電圧が小さいので、検出点を検出するための基準値Vr1、Vr2と検出信号の振幅の中間との間の電圧を大きくとることができない。すなわち、基準値Vr1、Vr2を検出信号Scの振幅の中間から十分に離すことができない。したがって、図7に示す検出信号Scのように、検出信号ScにノイズNが乗ると、そのノイズNの振幅が基準値Vr1または基準値Vr2に届き易く、このため、ノイズNにより検出点の誤検出が生じることがある。
【0063】
これに対し、検出信号の振幅が大きくなると、検出信号の振幅の中間とピークとの間の電圧が大きくなるので、検出点を検出するための基準値Vr1、Vr2と検出信号の振幅の中間との間の電圧を大きくとることができ、すなわち、基準値Vr1、Vr2を検出信号の振幅の中間から十分に離すことができる。したがって、図7に示す検出信号S2のように、たとえ検出信号S2にノイズNが乗ったとしても、そのノイズNの振幅が基準値Vr1または基準値Vr2に届き難く、それゆえ、ノイズNにより検出点の誤検出が生じることを防止することができ、検出点の検出精度を高めることができる。
【0064】
また、検出信号Scのように振幅が小さいと、検出信号の周期を短くすると、検出信号のピークがさらに不明確になり、検出点の検出を高精度に行うことが困難になる。これに対し、検出信号S2のように振幅が十分に大きいと、検出信号の周期を短くしても、検出信号の明確なピークを維持することができ、検出点の検出を高精度にかつ容易に行うことができる。したがって、電流センサ1の動作を高速化することができる。
【0065】
以上説明した通り、本発明の実施形態による電流センサ1によれば、コア11の磁気特性のばらつきに起因する被検出電流の検出精度の低下を防止することができることに加え、検出信号における検出点の検出精度を高めることができ、被検出電流の検出精度を高めることができる。また、本発明の実施形態による電流センサ1によれば、その動作速度の高速化を図ることができる。
【0066】
なお、上述した実施形態では、検出処理部15において演算増幅器を用いたが、これに代えて他の反転増幅器ないし反転増幅回路を用いることができる。また、励磁信号の波形が三角波である場合を例に挙げたが、これに代えて、疑似三角波または正弦波の励磁信号を用いることができる。もっとも、三角波の励磁信号を用いることにより、検出信号の波形のなまりを少なくすることができ、鋭く明確なピークを持った検出信号を生成することができ、被検出電流の検出精度を高めることができる。また、図1中の抵抗23は、励磁回路13の内部にこの抵抗23に代わるインピーダンス要素が存在し、その結果、抵抗23を設けなくても適切な検出信号を生成することができる場合には、省略することができる。また、検出処理部15において検出信号に直流のバイアス電圧を付加してもよい。
【0067】
また、上述した実施形態では、検出信号の振幅の中間が0である場合に、検出信号のピークから振幅の中間に向かって変化する間に当該検出信号の出力値の絶対値が所定の基準値に達する点を検出点としたが、本発明はこれに限らない。検出信号の振幅のピークを検出点としてもよい。
【0068】
また、上述した実施形態では、図1に示すように、比較回路31、32およびフリップフロップ回路33を備えた出力処理部16を採用したが、本発明はこれに限らない。本発明の出力処理部として、検出信号において連続する2つの検出点間の時間差を検出、測定、または算出することができる他の手段を採用することができる。例えば、図1中の比較回路31、32から出力されたパルス信号をマイクロコンピュータに入力し、マイクロコンピュータにより、検出信号における連続する2つの検出点間の時間差を検出してもよい。また、図1中の出力処理部16に代えて、図8に示すデジタル信号処理手段を適用した出力処理部51を採用してもよい。すなわち、出力処理部51は、検出処理部15から出力された検出信号を、A/D(アナログ/デジタル)コンバータ52によりデジタル信号に変換した後、デジタル信号処理ユニット53において、当該デジタル信号を用いて、連続する2つの検出点間の時間差を算出する。デジタル信号処理ユニット53は、例えば、デジタル化された検出信号の波形におけるエッジ判定を行う飽和エッジ判定回路54と、飽和エッジ判定回路54によるエッジ判定の結果に基づいて検出信号に対応するデジタル信号におけるデューティ比を算出するデューティ算出回路55とを備えている。
【0069】
また、上述した実施形態では、励磁回路13、検出処理部15および出力処理部16を備えた電流センサ1を例にあげて説明したが、本発明を適用した製品を製造する場合、励磁回路、検出処理部および出力処理部が一体的組み込まれた電流センサを1製品として製造してもよいし、励磁回路および検出処理部が一体的組み込まれたセンサユニットを1製品として製造してもよい。後者の場合には、当該センサユニットを購入した者が出力処理部を用意し、当該購入したセンサユニットと出力処理部とを接続することで、本発明の電流センサを実現することができる。
【0070】
また、上述した実施形態では、導線61を流れる被検出電流を検出する電流センサ1を例にあげたが、本発明はこれに限らない。本発明の電流センサは、その構造上、電流の検出だけでなく、磁界の検出にも広く適用することができる。
【0071】
また、本発明は、請求の範囲および明細書全体から読み取ることのできる発明の要旨または思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う電流センサもまた本発明の技術思想に含まれる。
【符号の説明】
【0072】
1 電流センサ
11 コア
12 コイル
13 励磁回路
14 検出回路
15 検出処理部
16、51 出力処理部
21 演算増幅器
22 入力経路
23 抵抗
24 帰還経路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検出物を流れる被検出電流を検出する電流センサであって、
コアと、
前記コアに巻回されたコイルと、
各ピーク時における電流の大きさが前記コアを飽和する電流の大きさを超える三角波、疑似三角波または正弦波の励磁信号を前記コイルに印加する励磁回路と、
前記励磁信号の印加により前記コアが飽和した時点と前記コアがその後いったん非飽和となり再び飽和した時点との時間差に基づいて前記被検出電流を検出する検出回路とを備え、
前記検出回路は、
前記励磁信号の印加により前記コイルに生じる誘導起電力を示す検出信号を出力する検出処理部と、
前記検出信号のピーク、または前記検出信号においてそのピークから振幅の中間に向かって変化する間に前記検出信号の出力値の絶対値が所定の基準値に達する点を検出点とすると、前記検出信号において連続する2つの前記検出点間の時間差を示す出力信号を出力する出力処理部とを備え、
前記検出処理部は、
反転増幅器と、
前記励磁回路の内部に設けられ、または前記励磁回路と前記反転増幅器の入力端子との間を接続する経路の途中に接続されたインピーダンス要素と、
前記反転増幅器の出力端子と前記入力端子との間を接続する帰還経路とを備え、
前記帰還経路の途中に前記コイルが接続されていることを特徴とする電流センサ。
【請求項2】
前記反転増幅器は演算増幅器であり、前記反転増幅器の入力端子は前記演算増幅器の反転入力端子であることを特徴とする請求項1に記載の電流センサ。
【請求項3】
前記励磁信号は三角波であることを特徴とする請求項1または2に記載の電流センサ。
【請求項4】
請求項1に記載の電流センサを形成するためのセンサユニットであって、
コアと、
前記コアに巻回されたコイルと、
各ピーク時における電流の大きさが前記コアを飽和する電流の大きさを超える三角波、疑似三角波または正弦波の励磁信号を前記コイルに印加する励磁回路と、
前記励磁信号の印加により前記コイルに生じる誘導起電力を示す検出信号を出力する検出処理部と、
前記検出処理部は、
反転増幅器と、
前記励磁回路の内部に設けられ、または前記励磁回路と前記反転増幅器の入力端子との間を接続する経路の途中に接続されたインピーダンス要素と、
前記反転増幅器の出力端子と前記入力端子との間を接続する帰還経路とを備え、
前記帰還経路の途中に前記コイルが接続されていることを特徴とするセンサユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−96848(P2013−96848A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−240113(P2011−240113)
【出願日】平成23年11月1日(2011.11.1)
【出願人】(390005049)ヒロセ電機株式会社 (383)
【Fターム(参考)】