説明

電源用筐体、パルス電源

【課題】従来の種々の問題を解決する電源用筐体を提供する。
【解決手段】本発明の電源用筐体は、電源回路を設置する底板と、前記底板の周縁に前記底板に垂直に設けられた側面板と、前記底板と前記側面板で囲まれた空間を覆うように設けられた天板とを備え、前記底板と前記側面板と前記天板とが互いに溶接又はロウ付けされて構成されるモノコック構造の箱状であること特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電源用筐体と、これを用いたパルス電源(例:電子加速器向けのパルスクライストロン電源、癌治療器の電子線加速器向けのパルス電源、レーダー用のパルス電源、パルスレーザーのパルス電源)に関する。
【背景技術】
【0002】
クライストロン用のパルス電源としては、従来、非特許文献1や非特許文献2に記載のものが知られている。
【0003】
非特許文献1には、キャビネット型のパルス電源が記載されている。このタイプのパルス電源では、フレーム構造にパネルをネジ止めして製作されたキャビネット内にパルス電源回路が収められている。また、このタイプのキャビネットでは、電源回路のメンテナンスのために前面と背面に開閉可能な扉を設ける場合が多い。
【0004】
また、非特許文献2には、浴槽型の筐体を用いたパルス電源が記載されている。このタイプのパルス電源では、フレーム構造にパネルを溶接して形成された浴槽型の筐体に絶縁油を満たし、この中に天板から吊るされた台座上に配置されたパルス電源回路を挿入し、天板をタンクにボルトで固定している。絶縁油は、空気よりも優れた絶縁特性を有しているので、浴槽型の筐体を用いたパルス電源は、比較的高い絶縁性を有している。
【非特許文献1】H. Baba et al., "Pulsed Modulator for C-band Klystron", APAC98, The First Asian Particle Accelerator Conference, KEK, Tsukuba, Japan, March 23-27, 1998
【非特許文献2】稲垣隆宏、他、「C-band クライストロン用 コンパクト密閉型変調器電源の大電力試験」、第28回、線形加速器研究会、東海村、茨城県、7月30日〜8月1日、2003年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
キャビネット型のパルス電源は、以下の問題点を有している。
(1)フレーム構造と扉パネルとの電気的な接続が完全でなく、パルス電源回路が発生するノイズが外部にリークする。
(2)回路の発熱を空気により除去する方式が一般的であり、高電圧部が静電集塵機として機能し、回路の端子に集められたホコリがコロナ放電により炭化し、この炭化層を伝ってリーク電流が流れたり表面のフラッシュオーバー放電が引き起こされたりする。
(3)外気の取り入れ口のフィルターがホコリにより目詰まりするため、これを定期的に掃除する必要がある。
(4)大型の排気ファンを必要とするため、ファンに無駄な電力を供給する必要があり且つファンの寿命管理を行う必要がある。
(5)十分な絶縁距離を確保するため、キャビネットが大型化し、製造コストが高くなる。また、トラック輸送のコストが大きくなる。また、トラックの輸送中にフレームが変形しやすく、内部のネジの緩み等の問題が生じる。
【0006】
また、浴槽型の筐体を用いたパルス電源は、以下の問題点を有している。
(1)回路をいったん台座上に組み上げ、この台座を天板から吊り下げるため、筐体内部の構造物が多くなり、吊り下げ荷重が大きくなる。
(2)吊り下げ構造は、その基本的な構造上、機械強度が弱くなりやすく、自重によって台座が歪む等により内部の回路部品に対して不要なストレスを与える。
(3)トラック輸送時に天板より吊り下げられた構造体が、振り子振動をするために、輸送用の補強が必要となり、現地到着後にいったん開封して補強を取り除く等の作業が必要である
(4)筐体の中に吊り下げられた回路は、内部の回路のグラウンドが天板でしか確保されず、パルス電源の動作時に不要な共振モードを示し、パルス波形を歪める。
(5)吊り下げられた回路全体を筐体の上面から出し入れする必要から、筐体の上面には大きな開口部が必要となり、筋交などの補強を入れることができず、開口部が菱形に変形しやすく、フレームのボルト用タップ穴と天板のボルト穴が合わない場合がある。
(6)台座を吊るすために用いられる支柱や浴槽を形成するために用いられるフレームが筐体内に存在しているので、その分だけ、筐体内のスペースの有効活用が妨げられ、その結果、筐体が大型化する。
【0007】
このように、従来のパルス電源は、多くの問題を有している。これらの問題の多くは、電源回路を収容する筐体の構造に起因しているため、これらの問題を解決する電源用筐体が望まれている。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、従来の種々の問題を解決する電源用筐体を提供するものである。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0009】
本発明の電源用筐体は、電源回路を設置する底板と、前記底板の周縁に前記底板に垂直に設けられた側面板と、前記底板と前記側面板で囲まれた空間を覆うように設けられた天板とを備え、前記底板と前記側面板と前記天板とが互いに溶接又はロウ付けされて構成されるモノコック構造の箱状であること特徴とする。
【0010】
本発明の筐体は、前記底板と前記側面板と前記天板とが互いに溶接又はロウ付けされて構成されるモノコック構造であるので、筐体内部にフレームや柱が存在せず、内部のスペースを有効に広く使用できる。従って、本発明の筐体を使用すれば、電源の小型化が可能になる。また、本発明の筐体は、モノコック構造であるので、外力を全体に逃がして受けるため、外力による歪みが小さく、構造強度が高い。このため、内部にパルス電源回路等の重量の大きい回路を配置したまま、トラック輸送を行うことができる。また、本発明の筐体は、内部のスペースを完全に密閉することができるので、電磁ノイズリークを極めて小さくすることができる。
【0011】
また、本発明の筐体では、電源回路は、底板に取り付けられるので、浴槽型のパルス電源において電源回路を吊り下げることに起因して生じていた種々の問題が解決される。また、本発明の筐体では、絶縁油を内部に満たすことができるので、キャビネット型のパルス電源において空冷であることに起因して生じていた種々の問題が解決される。
【0012】
以上より、本発明によれば、従来の種々の問題を解決する新発想の電源用筐体が提供される。
以下、本発明の種々の実施形態を例示する。
【0013】
前記側面板は、窓部を備え、前記窓部を塞ぎかつ前記側面板に着脱可能に取り付けられた窓パネルをさらに備え、前記側面板と前記窓パネルの間に前記窓部を取り囲むオイルシール部材が設けられていてもよい。この場合、筐体の側面から筐体内部にアクセスが可能になり、メンテナンス性が向上する。また、筐体が歪むと内部のオイルが漏れる場合があるが、本発明の筐体は、モノコック構造であるため外力による歪みが小さくオイル漏れが生じにくい。
【0014】
前記窓パネルは、前記窓パネルの周縁に均等間隔に配置されたボルトで前記側面板に取り付けられてもよい。この方法で窓パネルを取り付けると、窓パネルと側面板が確実に密着し、オイル漏れがさらに生じにくい。
【0015】
前記側面板は、前記窓部を取り囲むように設けられたO−リング用の溝を有し、
前記オイルシール部材は、前記溝に設置されたO−リングからなってもよい。この場合、オイル漏れがさらに生じにくい。
【0016】
前記オイルシール部材は、平板状のゴムガスケットからなってもよい。この場合、前記窓部に溝加工を行う必要がないという利点がる。
【0017】
前記側面板は、鉄板からなり且つ前記窓部を取り囲むようにフライス加工がなされていてもよい。この場合、加工面が非常に平坦になり、オイル漏れがさらに生じにくい。また、この場合、平板状のゴムガスケットからなるオイルシール部材でオイル漏れを防ぐことが容易である。
【0018】
前記窓パネルの内側面に取り付けられた冷却部をさらに備えてもよい。この場合、窓パネルを外すと冷却部も一緒に外れるので、内部の電源回路へのアクセス性が向上する。また、窓パネルは面積が大きいので、ここに冷却部を設置することによって効率的な冷却が可能になる。
【0019】
本発明は、上記記載の電源用筐体と、パルス電力を出力するパルス電源回路と、前記パルス電力を昇圧するパルストランスとを備え、前記パルス電源回路及び前記パルストランスは、それぞれ前記筐体内に配置されているパルス電源も提供する。パルス電源回路とパルストランスは、何れも大きなノイズを発生させるが、本発明のパルス電源では、これら2つが1つの筐体内に配置され且つこの筐体が電磁ノイズリークを極めて小さくできるモノコック構造の筐体であるので、電磁ノイズリークを極めて小さくすることができる。
【0020】
前記電源用筐体は、前記パルス電源回路を収容するパルス電源回路収容部と、前記パルストランスを収容するパルストランス収容部とを備え、前記パルス電源回路収容部と前記パルストランス収容部は、開口を有する隔壁で仕切られており、前記パルス電源回路及び前記パルストランスは、前記開口を通じて電気的に接続されていてもよい。この隔壁は、パルストランスから発生する超音波の衝撃波をパルス電源回路に伝えないためのものである。パルス電源回路にはサイラトロン管など衝撃に弱い部品があるからである。また、隔壁は、筐体の強度を増し、窓部のフライス加工に伴う応力に耐え、筐体の変形を最小限としている。さらに、重量物であるクライストロンを支持する骨格の役割を担っている。
【0021】
前記パルストランスによって昇圧されたパルス電力が供給されるクライストロンをさらに備え、前記クライストロンは、前記筐体上に設置されてもよい。クライストロンは重量が大きいので,非特許文献1や2に記載の筐体の上には載せることができなかったが、本発明の筐体は、モノコック構造であって強度が強いのでクライストロンを筐体上に配置することができる。
【0022】
ここで示した種々の実施形態等は、互いに組み合わせることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下,本発明の一実施形態を図面を用いて説明する。図面や以下の記述中で示す内容は,例示であって,本発明の範囲は,図面や以下の記述中で示すものに限定されない。
【0024】
本発明の電源用筐体は、電源回路を収容するために利用されるものである。収容される電源回路の種類は、特に限定されず、例えば、交流電源やパルス電源等の何れであってもよい。また、パルス電源の種類も特に限定されず、例えば、電子加速器向けのパルスクライストロン電源、癌治療器の電子線加速器向けのパルス電源、レーダー用のパルス電源、パルスレーザーのパルス電源等の何れであってもよい。
【0025】
以下の実施形態では、パルス電力を出力するパルス電源回路と、パルス電力を昇圧するパルストランスとが筐体内部に設置され且つクライストロンが筐体上に設置されるパルス電源用の筐体を例に挙げて説明を進める。
【0026】
1.電源用筐体の構成
図1〜図5を用いて本発明の一実施形態の電源用筐体の構成について説明する。図1(a),(b)は、本実施形態の電源用筐体の構造を示し、図1(a)は、斜視図であり、図1(b)は、断面図である。図2(a),(b)は、それぞれ、図1(a),(b)から窓パネルを外した状態を示す斜視図及び断面図である。図3(a),(b)は、それぞれ、窓パネル周辺を拡大した斜視図及び断面図である。図4(a)及び(b)は、それぞれ、窓パネルの外側面及び内側面を示す。図5(a)及び(b)は、それぞれ、パルス電源回路、パルストランス及びクライストロンの取り付け状態を示す斜視図及び断面図である。
【0027】
本実施形態の電源用筐体10は、電源回路を設置する底板1と、底板1の周縁に底板1に垂直に設けられた側面板3と、底板1と側面板3で囲まれた空間を覆うように設けられた天板5とを備え、底板1と側面板3と天板5とが互いに溶接又はロウ付けされて構成されるモノコック構造の箱状である。
【0028】
筐体10は、底板1と側面板3と天板5とが互いに溶接又はロウ付けされて構成されるモノコック構造であるので、筐体10の内部にフレームや柱が存在せず、内部のスペースを有効に広く使用できる。従って、筐体10を使用すれば、電源の小型化が可能になる。また、筐体10は、モノコック構造であるので、外力を全体に逃がして受けるため、外力による歪みが小さく、構造強度が高い。このため、内部にパルス電源回路等の重量の大きい回路を配置したまま、トラック輸送を行うことができる。また、筐体10は、内部のスペースを完全に密閉することができるので、電磁ノイズリークを極めて小さくすることができる。
【0029】
また、筐体10では、電源回路は、底板に取り付けられるので、浴槽型のパルス電源において電源回路を吊り下げることに起因して生じていた種々の問題が解決される。また、筐体10では、絶縁油を内部に満たすことができるので、キャビネット型のパルス電源において空冷であることに起因して生じていた種々の問題が解決される。
【0030】
本実施形態では、底板1及び天板5は、長方形の板状であり、側面板3は、長方形の各辺に一枚ずつ全部で4枚設けられている。4枚の側面板3をそれぞれ第1〜第4側面板3a〜3dと呼ぶ。底板1、側面板3及び天板5の材質は、特に限定されず、例えば、鉄やステンレスなどの金属からなる。但し、側面板3の材質は、後述するように絶縁油の漏れを防止する観点から鉄が好ましい。また、同様の理由により、天板5の材質も鉄からなることが好ましい。また、さびを防止するために、底板1、側面板3及び天板5は、メッキ(例:ニッケルメッキ)がなされていることが好ましい。底板1、側面板3及び天板5の厚さは、特に限定されず、また、好ましい厚さは、筐体10のサイズによって異なるが、後で述べるように加工歪を小さくするために大きい肉厚が好ましく、例えば、5〜50mmであり、具体的には例えば5,10,15,20,25,30,35,40,45,50mmである。底板1、側面板3及び天板5の厚さは、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。また、底板1、側面板3及び天板5の厚さは、互いに同じであっても異なっていてもよい。底板1、側面板3及び天板5の各辺の長さは、特に限定されないが、一例では、0.1〜5mであり、具体的には例えば0.1,0.2,0.5,1,2,3,4,5mである。各辺の長さは、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。各辺の長さは、互いに同じであっても異なっていてもよい。底板1、側面板3及び天板5の面積は、特に限定されないが、一例では、0.01〜25m2であり、具体的には例えば0.01,0.04,0.25,1,5,10,20,25m2である。底板1、側面板3及び天板5の面積は、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。底板1、側面板3及び天板5の面積は、互いに同じであっても異なっていてもよい。
【0031】
側面板3は、窓部7を備えている。窓部7は、側面板3に着脱可能に取り付けられた窓パネル9によって塞がれている。従って、窓パネル9を取り外すことによって筐体10の側面から筐体10内部へアクセスして電源回路のメンテナンスを行うことが容易である。窓パネル9の材質は、特に限定されないが、例えば、鉄やステンレスなどの金属からなる。
【0032】
側面板3と窓パネル9の間には、窓部7を取り囲むオイルシール部材が設けられている。本実施形態では、図3(a),(b)に示すように、オイルシール部材は、O−リング11であり、側面板3には、窓部7を取り囲むようにO−リング用の溝13が設けられており、O−リング11は、溝13に配置されている。オイルシール部材としては、ガスケット(例:平板形状のゴムガスケット)を用いてもよく、この場合、溝13は不要である。窓パネル9は、窓パネル9の周縁に均等間隔に配置されたボルト15で側面板3に取り付けられている。側面板3は、窓部7を取り囲むように複数のタップ穴4を有しており、窓パネル9は、タップ穴4に対応する位置にボルト穴8を有しており、ボルト15は、ボルト穴8を通ってタップ穴4に挿入される。これによって、窓パネル9が側面板3に取り付けられる。
【0033】
筐体10を製作するに際して側面板3と窓パネル9の間の隙間から筐体10内部に充填される絶縁油が漏れることが懸念された。側面板3と窓パネル9の間にオイルシール部材を設けてもそれだけでは絶縁油の漏れを防ぐことが難しいと考えられていたからである。このような状況において、本発明者は、側面板3と窓パネル9とをぴったりと合わせれば絶縁油の漏れを防ぐことができると考えた。そして、窓部7を取り囲むように側面板3のフライス加工を行うことによって、側面板3が最初から有する歪みや溶接又はロウ付けの際に生じる歪みを除去して側面板3の表面を平坦にすることを考えた。
電源用筐体の材質としてステンレス板が一般的に用いられるので、本発明者は、側面板3としてステンレス板を用いることを最初に考えた。しかし、ステンレス板にフライス加工を施すと加工時に発生する摩擦熱によってステンレス板に歪みが生じて、結局、ステンレス板の表面を平坦にできないことが分かった。このような状況において、本発明者は、電源用筐体の材質としては通常は用いられない肉厚の鉄板を用いることを思い付いた(電源用筐体を肉厚の鉄板で製作することは、電源分野の当業者の常識外のことである。)。そして、鉄板にフライス加工を施したときに発生する摩擦熱は、ステンレス板の場合よりもかなり少なく、また肉厚が大きいため、摩擦熱による鉄板の歪みが極めて小さくなることが分かった。このような経緯により、鉄板からなる側面板3に対してフライス加工を施すことによって、側面板3と窓パネル9をぴったりと合わせることに成功し、絶縁油の漏れを防ぐことが可能になった。なお、側面板3の材質は鉄が好ましいが、鉄板にフライス加工を施した場合と同程度の表面精度が確保できるのであれば、鉄以外であってもよい(表面精度が確保できるのであればステンレスであってもよい。)。また、筐体10は、内部に絶縁油10を充填しない用途に利用可能であり、その場合、側面板3の材質は特に限定されない。なお、フライス加工は、少なくとも窓部5の周囲の領域に対して行えばよく、窓部5の周囲の領域のみに行ってもよく、側面板3の全面に対して行ってもよい。
【0034】
窓パネル9の内側面には、冷却部17が取り付けられている。この場合、窓パネル9を外すと冷却部17も一緒に外れるので、内部の電源回路へのアクセス性が向上する。また、窓パネル9は面積が大きいので、ここに冷却部17を設置することによって効率的な冷却が可能になる。冷却部17は、後述する隔壁27にも取り付けられている。
【0035】
冷却部17の構成は、筐体10内の絶縁油を冷却可能なものであれば特に限定されない。冷却部17は、一例では、図4(a),(b)に示すように、金属(例:銅)板17aにロウ付けされた金属(例:銅)パイプ17bで構成される。金属板17aは、省略可能である。金属パイプ17bの両端は、それぞれ、窓パネル9の外側面に溶接されたスウェージロック17cに接続されており、スウェージロック17cを通じて金属パイプ17b内に冷却水が導入される。
【0036】
天板5には、窓部7と、クライストロン設置部19が設けられている。窓部7には窓パネル9が設置される。図5(a),(b)に示すように、クライストロン設置部19には、クライストロン20が設置される。クライストロン設置部19は、本実施形態では、開口部19aと、開口部19aの周囲のタップ穴19bとで構成される。クライストロン20は、一例では、ボルト穴20aを有するフランジ部20bを間に挟んで電力入力部20cを備えている。クライストロン20は、開口部19aを通じて電力入力部20cを筐体10内に挿入した状態で、ボルト穴20aを通ってタップ穴19bに挿入されるボルト15で天板5に固定される。従来の電源用筐体は、構造強度が低いので重量物であるクライストロン20を筐体上に配置することができなかったが、筐体10は、モノコック構造であるので構造強度が高く、筐体10上にクライストロン20を配置することが可能になった。
【0037】
筐体10内部には、図5(a),(b)に示すように、パルス電源回路22を収容するパルス電源回路収容部21と、パルストランス24を収容するパルストランス収容部23が設けられる。パルストランス収容部23は、クライストロン設置部19直下に設けられる。パルス電源回路22とパルストランス24は、何れも大きなノイズを発生させるが、これら2つを同じ筐体10内に配置することによって、電磁ノイズリークを極めて小さくすることができる。
【0038】
パルス電源回路22は、図示しない外部端子を通じて電力の供給を受け、パルス電力を出力する機能を有する。パルス電源回路22の構成は、特に限定されないが、一例では、電力を蓄積する蓄電部(例:キャパシタとコイルで構成されるPFN回路)と、蓄積した電力を放出するスイッチ部(例:サイラトロン)とで構成される。パルストランス24は、パルス電源回路22からのパルス電力を昇圧してケーブル26を通じてクライストロン20に供給する。パルス電源回路22とパルストランス24は、筐体10に接地される。
【0039】
パルス電源回路22とパルストランス24は、それぞれ、底板1に固定される。固定方法は、特に限定されず、ボルトで固定してもよく、接着剤等で固定してもよい。底板1にはタップ穴を設けておいたりボルト立てをしておくことによってパルス電源回路22とパルストランス24の固定を容易にしておくことが好ましい。
【0040】
パルス電源回路収容部21とパルストランス収容部23との間には、開口25を有する隔壁27が設けられている。隔壁27は、パルストランス24から発生する超音波の衝撃波をパルス電源回路22に伝えないためのものである。パルス電源回路22にはサイラトロン管など衝撃に弱い部品があるからである。また、隔壁27は、筐体10の強度を増し、窓部7のフライス加工に伴う応力に耐え、筐体10の変形を最小限としている。さらに、重量物であるクライストロン20を支持する骨格の役割を担っている。隔壁27の開口25には、パルス電源回路22とパルストランス24とを電気的に接続するケーブル29が通される。
【0041】
筐体10内部は絶縁性と放熱性の向上のために絶縁油で満たされる。隔壁27には、オイルチャネル31が設けられており、パルス電源回路収容部21とパルストランス収容部23の間での絶縁油の移動が確保されている。
【0042】
2.電源用筐体の製造方法
次に、図6〜図8を用いてを用いて上記実施形態の筐体10の製造方法の一例について説明する。図6は、溶接又はロウ付け前の底板1、側面板3及び隔壁25を示す斜視図である。図7は、溶接又はロウ付け後の底板1、側面板3及び隔壁25と、溶接又はロウ付け前の天板5を示す斜視図である。図8は、溶接又はロウ付け後の底板1、側面板3、天板5及び隔壁25を示す斜視図である。
【0043】
まず、図6に示す形状に加工された底板1、側面板3及び隔壁25を準備する。加工の方法は、特に限定されないが、例えば、プラズマ溶断又はレーザー溶断である。
次に、図6の矢印の方向に従って、底板1、側面板3及び隔壁25を組み合わせて溶接又はロウ付けして図7に示すような上側が開いた箱型にする。
次に、底板1と側面板3で囲まれた空間を覆うように天板5を設置して溶接して図8に示す構造を得る。
溶接又はロウ付けの際に熱によって板材が歪むので、この歪みを除去するために、側面板3及び天板5の表面(少なくとも窓部7の周辺)をフライス加工する。上述したように、電源用筐体に通常用いられるステンレス板ではフライス加工時の発熱によって歪みの除去が難しいが、電源分野の技術常識に反して、側面板3及び天板5を鉄板にすることによって発熱を抑え、表面の歪みの除去に成功した。
次に、タップ穴4及び19bと、Oリング11用の溝13を形成し、図2(a),(b)に示す構造を得る。
次に、メッキを行う。メッキは、さび防止を防止して、内部に収める電源回路と筐体10との電気的接触を確保するために行う。
次に、窓パネル9を取り付け、図1(a),(b)に示す構造を得て、筐体10が完成する。
【0044】
以上の実施形態で示した種々の特徴は,互いに組み合わせることができる。1つの実施形態中に複数の特徴が含まれている場合,そのうちの1又は複数個の特徴を適宜抜き出して,単独で又は組み合わせて,本発明に採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】図1(a),(b)は、本発明の一実施形態の電源用筐体の構造を示し、図1(a)は、斜視図であり、図1(b)は、断面図である。
【図2】図2(a),(b)は、それぞれ、図1(a),(b)から窓パネルを外した状態を示す斜視図及び断面図である。
【図3】図3(a),(b)は、それぞれ、窓パネル周辺を拡大した斜視図及び断面図である。
【図4】図4(a)及び(b)は、それぞれ、窓パネルの外側面及び内側面を示す。
【図5】図5(a)及び(b)は、それぞれ、パルス電源回路、パルストランス及びクライストロンの取り付け状態を示す斜視図及び断面図である。
【図6】図6は、溶接又はロウ付け前の底板、側面板及び隔壁を示す斜視図である。
【図7】図7は、溶接又はロウ付け後の底板、側面板及び隔壁と、溶接又はロウ付け前の天板を示す斜視図である。
【図8】図8は、溶接又はロウ付け後の底板、側面板、天板及び隔壁を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0046】
1:底板 3:側面板 3a〜3d:第1〜第4側面板 4:タップ穴 5:天板 7:窓部 8:ボルト穴 9:窓パネル 10:電源用筐体 11:O−リング 13:溝 15:ボルト 17:冷却部 17a:金属板 17b:金属パイプ 17c:スウェージロック 19:クライストロン設置部 19a:開口部 19b:タップ穴 20:クライストロン 20a:ボルト穴 20b:フランジ部 20c:電力入力部 21:パルス電源回路収容部 22:パルス電源回路 23:パルストランス収容部 24:パルストランス 25:開口 26:ケーブル 27:隔壁 29:ケーブル 31:オイルチャネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源回路を設置する底板と、前記底板の周縁に前記底板に垂直に設けられた側面板と、前記底板と前記側面板で囲まれた空間を覆うように設けられた天板とを備え、前記底板と前記側面板と前記天板とが互いに溶接又はロウ付けされて構成されるモノコック構造の箱状であること特徴とする電源用筐体。
【請求項2】
前記側面板は、窓部を備え、
前記窓部を塞ぎかつ前記側面板に着脱可能に取り付けられた窓パネルをさらに備え、
前記側面板と前記窓パネルの間に前記窓部を取り囲むオイルシール部材が設けられている請求項1に記載の筐体。
【請求項3】
前記窓パネルは、前記窓パネルの周縁に均等間隔に配置されたボルトで前記側面板に取り付けられる請求項2に記載の筐体。
【請求項4】
前記側面板は、前記窓部を取り囲むように設けられたO−リング用の溝を有し、
前記オイルシール部材は、前記溝に設置されたO−リングからなる請求項2又は3に記載の筐体。
【請求項5】
前記オイルシール部材は、平板状のゴムガスケットからなる請求項2又は3に記載の筐体。
【請求項6】
前記側面板は、鉄板からなり且つ前記窓部を取り囲むようにフライス加工がなされている請求項2〜5の何れか1つに記載の筐体。
【請求項7】
前記窓パネルの内側面に取り付けられた冷却部をさらに備える請求項2〜6の何れか1つに記載の筐体。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか1つに記載の電源用筐体と、パルス電力を出力するパルス電源回路と、前記パルス電力を昇圧するパルストランスとを備え、前記パルス電源回路及び前記パルストランスは、それぞれ前記筐体内に配置されているパルス電源。
【請求項9】
前記電源用筐体は、前記パルス電源回路を収容するパルス電源回路収容部と、前記パルストランスを収容するパルストランス収容部とを備え、前記パルス電源回路収容部と前記パルストランス収容部は、開口を有する隔壁で仕切られており、前記パルス電源回路及び前記パルストランスは、前記開口を通じて電気的に接続されている請求項8に記載のパルス電源。
【請求項10】
前記パルストランスによって昇圧されたパルス電力が供給されるクライストロンをさらに備え、前記クライストロンは、前記筐体上に設置される請求項8又は9に記載のパルス電源。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−141196(P2009−141196A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−317104(P2007−317104)
【出願日】平成19年12月7日(2007.12.7)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年8月1日 日本加速器学会・リニアック技術研究会発行の「第4回日本加速器学会年会 第32回リニアック技術研究会 アブストラクト」に発表
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】