説明

電源装置、画像形成装置および電源制御方法

【課題】 本発明は、電子写真方式の画像形成プロセスにおいて用いられる帯電装置への誤出力が緩和された電源装置、該電源装置を備える画像形成装置、および該電源装置が実行する電源制御方法を提供すること。
【解決手段】本実施形態の電源装置は、目標の電圧出力値に応じたデューティ比でスイッチング素子を駆動して、交流信号を出力するスイッチング回路92と、スイッチング回路92の後段に設けられる結合容量素子74と、結合容量素子を介して入力される交流信号を昇圧して、帯電装置に高圧交流を出力する変圧手段80と、電源電圧Vddの投入に応答して結合容量素子74を充電する充電手段76,78と、スイッチング回路92が出力を開始させる前に結合容量素子74が所定量まで充電されるように、スイッチング素子68,70の駆動を制御する制御手段100を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式の画像形成プロセスにおいて用いられる帯電装置の電源装置に関し、より詳細には、帯電装置への誤出力が緩和された電源装置、該電源装置を備える画像形成装置、および該電源装置が実行する電源制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来よりローラ帯電方式の電子写真方式の画像形成プロセスでは、帯電装置のローラ表面の均一な帯電電位を実現するため、直流電圧に交流電圧を重畳するAC・DC重畳方式が好適に採用されている。また近年、高い増幅効率を得るために、アナログアンプに代えてD級アンプが用いられるようになり(特許文献1)、上述した帯電装置に高圧交流バイアスを供給するための交流高圧電源装置においてもD級アンプが採用されている。これにより、増幅効率が向上され、発熱量が低減され、ひいては画像形成装置の消費電力を低減し、さらに、アナログアンプの場合に必要であったアンプの放熱板を不要とすることができる。
【0003】
しかしながら、従来のD級アンプを用いた交流高圧電源装置では、この交流高圧電源装置のドライブ回路へ電源電圧を投入した直後の1回目のD級アンプの駆動時に誤出力が発生してしまうという問題があった。誤出力が発生すると、その大きさによっては帯電装置で放電を発生させてしまい、感光体に放電履歴を残し、画像中に色帯や白帯を発生させてしまう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記D級アンプを用いた交流高圧電源の誤出力の原因を検討してみると、D級アンプを駆動させた際に、回路構成中の電圧トランス一次側に接続されるAC結合コンデンサに突入電流が発生し、この突入電流が電圧トランスに流れ込むことに起因して、誤出力を発生させていることが解った。
【0005】
コンデンサの突入電流に関連して、例えば、特開平5−76103号公報(特許文献2)は、フィルタコンデンサと並列に整流器を設けて、比較的低圧の制御回路の交流電源を用いて整流器を介してインバータに並列に接続されるフィルタコンデンサを予め充電しておくことにより、起動後のフィルタコンデンサへの過大な突入電流を抑制する技術を開示している。特許文献2の技術は、この構成によって、高圧主回路側の回路構成を簡素化しようというものである。
【0006】
しかしながら、上記特許文献2の技術は、上述したようにインバータに並列に挿入されるフィルタコンデンサを予め充電することにより、フィルタコンデンサへの過大な突入電流を抑制しようとするものである。したがって、仮に上記特許文献2の技術を画像形成装置に適用してみたところで、交流高圧電源装置の誤出力を緩和できるというものではない。また上記特許文献2の技術は、別電源でフィルタコンデンサを充電する構成を採用するものであり、仮に画像形成装置に適用する場合には、別途の余分な電源が必要となってしまう。
【0007】
また、回路構成中の電圧トランス一次側に接続されるAC結合コンデンサを予め充電しようとしても、D級アンプの駆動前の画像を劣化させない程度に充分な充電の完了を保証し得る知見はこれまで存在せず、依然として充電不足によりコンデンサへの突入電流を許容値以下に抑えられない可能性への懸念は残されたままである。また、D級アンプでは、0V出力時にも電力消費が発生するため、0V出力時はD級アンプ回路を停止しているが、あまり充分すぎる時間を確保すると、プリントのパフォーマンスに影響を与えてしまう。
【0008】
したがって、依然として、必要最小限の待ち時間で上記D級アンプを用いた交流高圧電源の誤出力を緩和し、画像形成プロセスにおける画像劣化を好適に回避することができる技術の開発が望まれていた。
【0009】
本発明は、上記従来技術に鑑みてなされたものであり、本発明は、画像形成処理のパフォーマンスを維持しつつ、D級アンプ方式の高圧電源の誤出力を緩和し、電子写真方式等の帯電装置を使用する画像形成プロセスにおける画像劣化を好適に防止することが可能な電源装置、該電源装置を備える画像形成装置、該電源装置において実現される電源制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するために、目標の電圧出力値に応じたデューティ比でスイッチング素子を駆動して、交流信号を出力するスイッチング回路と、交流信号を昇圧して帯電装置に高圧交流を出力する変圧手段との間に設けられる結合容量素子を、電源電圧の投入に応答して充電する充電手段と、スイッチング回路が出力を開始させる前に結合容量素子が所定量まで充電されるようにスイッチング素子の駆動を制御する制御手段とを備える電源装置を提供する。ここで、所定量までの充電とは、結合容量素子にかかる電圧が許容の電圧偏差の範囲内に到達した状態をいう。結合容量素子は、伝送される交流信号の直流成分を遮断して変圧手段に出力する素子である。
【0011】
また本発明では、上記制御手段は、電源電圧の投入に応答して結合容量素子の充電が開始されてから装置時定数に応じた時間が経過した後にスイッチング素子の駆動を開始させることができる。この装置時定数に応じた時間は、結合容量素子の静電容量と、充電手段を構成する抵抗素子の抵抗値とによって求めることができる。また時定数に応じた時間は、結合容量素子にかかる電圧が許容の電圧偏差の範囲内に到達するまでの充電時間、または充電時間に結合容量素子の静電容量の公差に応じたマージンを加えた時間としてもよい。
【0012】
さらに本発明では、上記制御手段は、結合容量素子の充電状態に因る誤出力の大きさがパッシェンの法則に従った放電開始電圧以下となる時間(時定数に応じた時間)を求めることができる。この誤出力の大きさは、上記スイッチング素子が駆動開始される直前までに到達する結合容量素子にかかる電圧と、ゼロ出力時の結合容量素子にかかる電圧との電圧差に上記変圧手段の変圧比を乗算したものに相当する。また本発明では、結合容量素子の充電状態に因る誤出力の大きさがパッシェンの法則に従った大気圧に応じた放電開始電圧以下となる時間(前記時定数に応じた時間)を求めることができる。これらの最適な時間は、予め計算されて記憶装置に記憶しておくことができる。また、パッシェンの法則によって計算される放電開始電圧以下に誤出力を抑えるように高圧電源装置の部品の公差を決定してもよい。
【0013】
さらに本発明では、充電手段を構成する抵抗素子の抵抗値を、目標の電圧出力値がゼロの場合のデューティ比に応じた抵抗値の組み合わせから構成することができ、結合容量素子は、充電手段を構成する抵抗素子のこれらの抵抗値に応じて電源電圧を分圧して充電される。また本発明では、抵抗素子の抵抗値および結合容量素子の静電容量を、電源電圧の投入からスイッチング素子の駆動を開始させるまでの時間に応じた値に設定することができる。充電手段は、さらに、電源電圧と結合容量素子の一端とを接続する第1の抵抗素子、および結合容量素子の上記一端と接地点とを接続する第2の抵抗素子から構成することができる。
【0014】
さらに本発明では、上記スイッチング回路は、電源電圧への導通を制御するハイサイド・スイッチング素子と、接地電圧への導通を制御するロウサイド・スイッチング素子と、ハイサイド・スイッチング素子を駆動するハイサイド・ドライブ回路と、ロウサイド・スイッチング素子を駆動するロウサイド・ドライブ回路と、ハイサイド・ドライブ回路およびロウサイド・ドライブ回路を制御する出力制御回路とを含むことができる。さらに上記スイッチング回路は、ハイサイド・スイッチング素子およびロウサイド・スイッチング素子の出力側に接続され、後段に結合容量素子が設けられるローパスフィルタを含むことができる。
【0015】
また本発明によれば、上述した特徴を有する電源装置と、電源装置から供給される高圧交流を受ける帯電装置とを備える画像形成装置が提供される。さらに本発明によれば、上記電源装置において実現される電源制御方法が提供される。本発明の電源制御方法は、充電手段が、電源電圧の投入に応答して結合容量素子を充電するステップと、制御手段が、スイッチング回路が出力を開始させる前に結合容量素子が所定量まで充電されるように、スイッチング回路を制御するステップと、スイッチング回路が、目標電圧出力値に応じたデューティ比でスイッチング素子を駆動して、交流信号を出力するステップと、変圧手段が、結合容量素子を介して入力される交流信号を昇圧して、帯電装置に高圧交流を出力するステップとを含む。
【発明の効果】
【0016】
上記構成によれば、スイッチング素子を駆動する部分への電源供給が開始されスイッチング回路が出力を開始する前に、充電手段により結合容量素子が予め所定量まで充電されるため、結合容量素子による変圧手段への突入電流が緩和され、高圧帯電出力の誤出力が防止され、ひいては誤出力による画像品質の劣化を好適に回避することができる。またその際のスイッチング素子を駆動する部分への電源供給を開始するタイミングは、画質劣化を引き起こさない結合容量素子の充電レベルを考慮して定められるため、プリントのパフォーマンスの低下を最小限なものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施形態のレーザプリンタにおける高圧電源制御に関連するハードウェア構成を示す模式図。
【図2】本実施形態の高圧電源内の回路構成を示す回路図。
【図3】本実施形態の制御基板の機能構成を示すブロック図。
【図4】(A)パッシェンの法則に従った大気圧とギャップ距離の積と放電開始電圧の関係を示すグラフ、および(B)充電開始からのカップリングコンデンサに印加される電圧の時間変化を示すグラフ。
【図5】本実施形態の制御基板および高圧電源において実行される高圧電源制御フローを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明の実施形態は、以下の実施形態に限定されるものではない。なお、以下の実施形態では、電源装置を備える画像形成装置の例として、レーザプリンタを用いて説明する。
【0019】
図1は、本実施形態のレーザプリンタにおける高圧電源制御に関連するハードウェア構成を模式的に示す図である。図1に示すハードウェア構成は、制御基板10と、高圧電源20と、帯電装置30とを含む。高圧電源20は、電子写真方式の画像形成プロセスを実施するレーザプリンタのプリンタエンジンに備えられる帯電装置30に高圧帯電出力を供給する装置である。
【0020】
制御基板10は、主電源からの電力供給を受けて、電源電圧を高圧電源20に供給するともに、各種信号線を介して高圧電源20と接続し、その動作を制御している。図1には、制御基板10および高圧電源20を接続する接続線として、制御基板10から高圧電源20へ電源電圧を供給する電源電圧供給線と、目標の電圧出力値などの出力値を伝送する出力値制御信号線と、高圧電源20内のD級アンプ回路の動作を制御するD級アンプ駆動信号線とが示されている。
【0021】
制御基板10は、上記出力値制御信号線を介して帯電交流出力の電圧値および周波数値を指定する信号を伝送し、高圧電源20が出力する帯電交流出力の特性を制御する。なお図1では、一本の実線により出力値制御信号線を表示しているが、特にこれに限定されるものではなく上記帯電交流出力の電圧値および周波数値をそれぞれ異なる信号線を介して伝送してもよい。また制御基板10は、上記D級アンプ駆動信号線を介して、高圧電源20内のD級アンプ回路の駆動の停止および開始を制御する信号を伝送し、高圧電源20内のD級アンプ回路の動作を制御する。高圧電源20内のD級アンプ回路は、高圧出力が0Vである時(以下、ゼロ出力時と参照する。)でも一定の電力消費をするため、ゼロ出力時には、上記D級アンプ駆動信号線を介してD級アンプ回路を一旦停止させて、消費電力の低減を図ることが一般的である。
【0022】
高圧電源20は、その内部構成に起因して誤出力を発生させる蓋然性を有するが、誤出力が発生してしまうと、その誤出力を受けて帯電装置30に過剰な電圧が印加される。そして、放電電圧を超える過剰な電圧が帯電装置30に印加された場合、感光体ドラム40の帯電面42に放電履歴を残してしまう可能性がある。図1に示す帯電装置30は、芯金32、導電層34、表層36および図示しないギャップコロからなる帯電ローラとして構成されており、感光体ドラム40の帯電面42に非接触配置される。この帯電装置30と感光体ドラム40との間のニップ部には、所定の距離dのギャップが設けられており、帯電装置30は、高圧電源20から高圧帯電出力の供給を受けて、近接放電によって感光体ドラム40を均質に帯電させている。この非接触方式の帯電装置30において放電が開始する放電開始電圧は、一般にはパッシェンの法則に従い、このギャップの距離dおよび大気圧pの関数となる。誤出力がこの放電開始電圧を超えてしまうと、画像品質を劣化させてしまう。
【0023】
本実施形態では、この誤出力を緩和するために、詳細については後述するが、制御基板10は、D級アンプ回路駆動信号を介して高圧電源20内のD級アンプ回路の駆動開始のタイミングを制御し、これにより高圧電源20の誤出力を緩和する。その際、好適には、上記パッシェンの法則に従う上記放電開始電圧に応じて、D級アンプ回路の駆動開始のタイミングを決定することができる。
【0024】
本実施形態の制御基板10は、上述したD級アンプ回路駆動信号等の各種制御信号を生成する中央演算ユニット(CPU)12と、各種設定値、制御プログラムなどを記憶するROM(Read Only Memory)14とを含み、高圧電源20内のD級アンプ回路の駆動の開始タイミング等を制御している。制御基板10は、ROM14から制御プログラムや設定値等を読み出し、CPU12の作業空間を提供する図示しないメモリ上に展開することにより、詳細を後述する高圧電源制御を実現している。なお、制御基板10および高圧電源20が、本実施形態の電源装置50を構成する。
【0025】
以下、図2〜図5を参照しながら、高圧電源の誤出力を緩和する高圧電源制御の詳細について説明する。図2は、本実施形態の高圧電源20内の回路構成を示す回路図である。図2に示すように、本実施形態の高圧電源20は、出力制御回路60と、ハイサイド・ドライブ回路62と、ロウサイド・ドライブ回路64と、ハイサイドのトランジスタ68と、ロウサイドのトランジスタ70とを含み、D級アンプ方式の高圧電源回路を構成している。
【0026】
高圧電源20は、さらに、制御基板10からの出力値制御信号線に接続される制御信号入力端子88を含み、帯電交流出力の電圧値および周波数値を指定する制御基板10からの制御信号を出力制御回路60に入力する。出力制御回路60は、入力される制御信号に従って、目標の電圧出力値に対応するオン・デューティの比でハイサイドおよびロウサイドのドライブ回路62,64を動作させ、狙いの電圧出力値となるように制御する。ハイサイド・ドライブ回路62およびロウサイド・ドライブ回路64は、それぞれ、出力制御回路60から指定されるオン・デューティで、トランジスタ68,70を駆動し、その導通および非導通を制御する。
【0027】
ハイサイドのトランジスタ68は、例えばP型のMOSFETが用いられ、ゲート端子にドライブ回路62からの制御電圧が入力され、一端で電源電圧Vddと、他の一端で出力側と接続する。ハイサイドのトランジスタ68は、ハイサイド・ドライブ回路62の駆動により、上記指定のオン・デューティで電源電圧−出力側間の導通・非導通を切り替える。ロウサイド・トランジスタ70は、例えばN型のMOSFETが用いられ、ゲート端子にドライブ回路64からの制御電圧が入力され、一端で接地電圧と、他の一端で出力側と接続する。ロウサイド・トランジスタ70は、ロウサイド・ドライブ回路64の駆動により、指定のオン・デューティで接地電圧−出力側管の導通・非導通を切り替える。これらトランジスタ68,70のスイッチング動作により、その導通・非導通の切り替えに応じた信号が出力側に生成される。
【0028】
トランジスタ68,70の出力側には、ローパスフィルタ72およびカップリングコンデンサ74を介してトランス80が接続されている。上記トランジスタ68,70のスイッチング動作によって生成された信号がローパスフィルタ72を通過することにより、高圧帯電出力に対応する波形の交流信号となり、後段のトランス80の一次側に入力される。ローパスフィルタ72と、トランス80との間に設けられたカップリングコンデンサ74は、伝送される交流信号の直流成分を遮断し、交流成分をトランス80の一次側に入力する。トランス80は、所定の変圧比に応じて、入力される交流信号を昇圧して高圧出力端子90に出力し、本実施形態の変圧手段を提供する。高圧出力端子90は、帯電装置30に接続されており、これにより帯電装置30による帯電が行われる。
【0029】
上述した出力制御回路60、ドライブ回路62,64、トランジスタ68,70、ローパスフィルタ72を、スイッチング動作を通じて交流信号を生成してトランス80に出力する前段部分の回路としてまとめ、スイッチング回路92と参照する。またカップリングコンデンサ74が、本実施形態のスイッチング回路の後段に設けられる結合容量素子を提供する。なお、本実施形態のスイッチング回路92は、PWM変調方式のD級アンプ方式の高圧電源回路の前段部分を構成しているが、その他、パルス密度変調、デルタシグマ変調方式を採用してもよい。
【0030】
上述したように、高圧電源20内のD級アンプ方式では、ゼロ出力時でも一定の電力消費するため、本実施形態では、電源電圧制御回路82を設けてゼロ出力の待機時のドライブ回路62,64への電力供給を停止する。この電源電圧制御回路82は、駆動信号入力端子86および電源電圧入力端子84と接続し、制御基板10から伝送されるD級アンプ回路駆動信号に従って、制御基板10から供給される電源電圧Vddと、ドライブ回路62,64の電源電圧Vdとの接点を開閉する。制御基板10は、D級アンプ回路駆動信号を発生させることで、ドライブ回路62,64への電源電圧の通電および遮断を制御する。
【0031】
待機状態から所定の電圧出力値の高圧帯電出力を開始する際には、まず電源電圧制御回路82の接点を切り替えて、ハイサイド・ドライブ回路62およびロウサイド・ドライブ回路64への電力供給を行う。ドライブ回路62,64に電力供給が開始されると、ドライブ回路62,64は、ゼロ出力に対応するオン・デューティ比で、ドライブ回路62,64を駆動し、トランジスタ68,70は、そのオン・デューティ比で導通および非導通を切り替え始める。そして、目標の電圧出力値を0Vから徐々に、所望の出力値まで増加させることとなる。
【0032】
ゼロ出力時のカップリングコンデンサ74の左側一端の電圧は、オン・デューティ比α(%)に応じて、Vdd×α/100となる。すなわち、ドライブ回路62,64に電力供給が開始されてゼロ出力を開始した直後から、Vdd×α/100の電圧がカップリングコンデンサ74に印加されることとなる。なんら手当をしなければ、高圧電源20自体に電源電圧Vddが供給される前は、カップリングコンデンサ74の充電電位は0Vであるため、電源電圧が供給された後1回目にゼロ出力でドライブ回路62,64に電力供給を開始した直後に、カップリングコンデンサ74の充電電位がVdd×α/100となるように電源電圧Vddからトランジスタ68、ローパスフィルタ72のインダクタLを経由して、カップリングコンデンサ74に突入電流が発生する。この突入電流は、トランス80の一次側に流れるため、トランス80の二次側から高圧帯電出力の誤出力を発生させる。
【0033】
そこで本実施形態では、抵抗素子76および抵抗素子78を設け、D級アンプ回路駆動信号によりドライブ回路62,64に電力が供給される前に、電源電圧Vddを分圧してカップリングコンデンサ74を予め充電しておくよう制御する。抵抗素子76および抵抗素子78は、それぞれ、抵抗値Rおよび抵抗値Rを有し、電源電圧および接地電圧とカップリングコンデンサ74の左側一端とを接続し、本実施形態の充電手段を構成する。スイッチング回路92の出力が開始される前にカップリングコンデンサ74を予め充電しておく構成により、突入電流を緩和し、ひいては高圧帯電出力の誤出力を防止することができる。
【0034】
以下、図3を参照しながら、上述した制御を実現するための制御基板10側の機能構成について説明する。図3は、本実施形態の制御基板10の機能構成を示すブロック図である。図3に示すように、本実施形態の制御基板10は、上述した制御基板10−高圧電源20間の接続線が接続される電源電圧出力端子104、駆動信号出力端子106および制御信号出力端子108と、各種出力端子に出力するための制御信号を発生させる信号生成部100とを含む。信号生成部100は、スイッチング回路92が出力を開始させる前にカップリングコンデンサ74が満充電されるようにトランジスタ68,70の駆動を制御する本実施形態の制御手段を提供する。
【0035】
信号生成部100は、主電源の電源電圧出力と電源電圧出力端子との接点の開閉を制御して、高圧電源20への電源電圧の供給を制御する。これとともに信号生成部100は、電源電圧の供給によってカップリングコンデンサ74が充分に充電された後に高圧電源20のドライブ回路62,64への電力供給が行われるように、電源電圧の供給を開始してから所定の充電時間の経過を待ってD級アンプ回路駆動信号をONの信号レベルに設定する。ここで、ONの信号レベルは、電源電圧制御回路82のVddとVdの接点を閉じ、ドライブ回路62,64に電力供給を開始させる信号レベルである。
【0036】
カップリングコンデンサ74の充電時間は、回路のRC時定数に応じた時間であり、より具体的には抵抗素子76および抵抗素子78の抵抗値Rおよび抵抗値R、カップリングコンデンサ74の静電容量Cにより定められる。所定の電圧偏差〔%〕における充電時間は、おおよそ下記式(1)で計算することができ、1%の電圧偏差(つまり99%充電)の場合は、−ln(電圧偏差/100)=4.6である。
【0037】
【数1】

【0038】
したがって、本実施形態の信号生成部100は、高圧電源20に電源電圧Vddの供給を開始させた時点から、所望の電圧偏差〔%〕に到達するまでの充電時間τが経過した後にD級アンプ回路制御信号をONに設定する。これにより、ドライブ回路62,64に電力が供給される前に、所望の電圧偏差〔%〕内でカップリングコンデンサ74を充電することができる。なお、本実施形態において、所与のレベルまでカップリングコンデンサ74が充電された状態、すなわちカップリングコンデンサ74に印加される電圧が、許容される電圧偏差の範囲内に到達した状態を満充電された状態とする。
【0039】
また上述したように、ゼロ出力を開始した直後からVdd×α/100の電圧がカップリングコンデンサ74に印加されるため、カップリングコンデンサ74の充電電位がVdd×α/100となるように抵抗値Rおよび抵抗値Rを決定することが好ましい。つまり、所望のパフォーマンスに応じて許容されるRC時定数を考慮しつつ、R2/(R1+R2)=α/100となるように抵抗値R、抵抗値Rを決定することが好ましい。なお、オン・デューティ比αは、図2に示した出力制御回路60の回路乗数により決定されるものである。
【0040】
また、カップリングコンデンサ74には、実際上、製品毎に容量にバラツキがあるため、他の実施形態では、信号生成部100は、上述した充電時間τにさらに容量の公差に応じたマージンを加えた時間の経過を待った後にD級アンプ回路制御信号をONに設定することができる。このようにマージンを設けることで、カップリングコンデンサ74の容量のバラツキを許容しつつ、スイッチング回路92が出力し始める前にカップリングコンデンサ74の満充電を確保することができる。
【0041】
また、電子写真方式のプリントエンジンの帯電装置30では、放電が発生する電圧レベルの誤出力が発生してしまうと、感光体ドラムに放電履歴が残留してしまい、画像の品質に重大な影響を与える。例えばプラス放電の場合には画像に色帯が発生してしまい、逆にマイナス放電の場合には画像に白帯が発生してしまう。したがって、放電を発生する電圧レベルの誤出力は許容できない。しかしながら、逆の観点からは、所定の閾値を超えなければ放電が発生しないため、放電が発生しない程度の誤出力を許容することができるともいえる。そこで、他の実施形態では、この放電を発生させない電圧レベルの誤出力を許容することで、公差の大きい安価な部品を使用することもできる。
【0042】
さらに他の実施形態では、放電を発生させない誤出力の電圧レベルに対応する電圧偏差を許容することで、満充電とみなす充電レベルを許容範囲内で引き下げることにより、電源電圧供給から駆動開始までのタイムラグを低減し、プリントタイムを短縮化することができる。以下、放電を発生させない誤出力の電圧レベルに対応する電圧偏差を許容する他の実施形態について、詳細に説明する。
【0043】
放電が発生する電圧レベルは、一般にはパッシェンの法則に従い、帯電装置30と感光体ドラム40とのニップ部のギャップの距離dと、レーザプリンタが設置される環境の大気圧pとの関数で表すことができ、パッシェンの法則に従う放電開始電圧VBreakDownは、下記式(2)で表される。なお、下記式(2)中、BおよびCは、それぞれ定数である。図4(A)は、パッシェンの法則に従った大気圧pとギャップ距離dの積と放電開始電圧の関係を示すグラフである。図4(A)に示すように、大気圧pとギャップ距離dとの積に対して放電開始電圧VBreakDownを求めることができる。
【0044】
【数2】

【0045】
また充電開始からt秒後のカップリングコンデンサ74の電圧Vc(t)は、下記式(3)で表すことができる。図4(B)は、充電開始からの電圧Vc(t)の時間変化を示すグラフである。図4(B)に示すように、カップリングコンデンサ74の電圧Vcは、時定数に応じてVdd×R/(R+R)へ収束するように変化する。
【0046】
【数3】

【0047】
トランス80の変圧比を1:mとすると、t秒後に電源電圧制御回路82の接点を閉じた場合に発生する誤出力の大きさは、概ねt秒後にVc(t)と、ゼロ出力時のカップリングコンデンサ74にかかる電圧Vdd×α/100との電圧差に変圧比を乗算したものとなり、(Vc(t)−Vdd×α/100)×mで表される。したがって、他の実施形態では、(Vc(τ)−Vdd×α/100)×m<VBreakDownとなる時間τを計算し、その計算された時間τ経過した後に、D級アンプ回路制御信号をONに設定する。この条件を満たす時間τは、誤出力がVBreakDownとなる電圧偏差に対応する充電時間τに相当する。これにより、ドライブ回路62,64に電力が供給される前に、放電開始電圧に対応する電圧偏差内でカップリングコンデンサ74の充電を確保することができ、プリントタイムを短縮化しつつ、画像品質の劣化を防止することができる。なお、部品の公差を考慮して上記時間τにマージンを加えてもよいことは言うまでもない。
【0048】
また、上記時間τは、制御基板10のCPU12で計算する構成としてもよいが、予め設計計算にて求めてROM14などのメモリに記憶させておくことで、CPU12の計算負荷を軽減することもできる。また、パッシェンの法則に従うと、放電開始電圧VBreakDownは、大気圧pに依存するため、図3に示すように、制御基板10に大気圧センサ102を設け、この大気圧センサ102の測定値に応じて放電開始電圧VBreakDown(p)を計算し、(Vc(τ)−Vdd×α/100)×m<VBreakDown(p)となる時間τを計算してもよい。この実施形態では、大気圧に応じた最適な充電時間が計算され、レーザプリンタが設置される場所、大気圧の変化に対応して、放電を発生しない最適な時間でD級アンプの駆動を開始することができるため、画像品質およびプリントタイムの観点から環境に適合した動作が可能となる。
【0049】
図5は、本実施形態の制御基板10および高圧電源20において実行される高圧電源制御フローを示すフローチャートである。図5に示す制御は、ステップS100から開始され、制御基板10の信号生成部100は、ステップS101では、上述した充電時間τの値を取得し、タイマにその充電時間τを設定し、ステップS102で、電源電圧の供給を開始させる。充電時間τは、CPU12が計算することで取得してもよく、予め計算された値をROM14等から読み出して取得してもよい。
【0050】
高圧電源20に電源電圧Vddが投入されると、高圧電源20では、ステップS103で、抵抗素子76,78を介してカップリングコンデンサ74の充電が開始される。ステップS104では、制御基板10の信号生成部100は、上記設定された時間が経過するまで(NOの間)待ち受ける。ステップS104で、設定時間経過したと判断された場合(YES)には、ステップS105で、信号生成部100は、D級アンプ回路駆動信号をONレベルに設定する。高圧電源20では、その信号を受けて電源電圧制御回路82の接点が閉じられ、ドライブ回路62,64に電力が供給される。
【0051】
ステップS106では、信号生成部100は、出力値制御信号をONレベルに設定する。高圧電源20では、これを受けて出力制御回路60が、ゼロ出力に対応するオン・デューティ比αでドライブ回路62,64の駆動を開始させ、ステップS107で、ゼロ出力から所望の高圧出力レベルまで目標の電圧出力値を増大させる通常制御へ移行する。
【0052】
上述した実施形態によれば、D級アンプ方式の高圧電源回路において、トランジスタ68,70を駆動するドライブ回路62,64への電源供給が開始される前に、抵抗素子76,78により電源電圧Vddを分圧してカップリングコンデンサ74を予め充電する。スイッチング回路92が出力を開始する前にカップリングコンデンサ74を満充電する構成により、トランス80の一次側への突入電流が緩和され、高圧帯電出力の誤出力を緩和し、ひいては誤出力に起因する画像品質の劣化を好適に回避することができる。
【0053】
またドライブ回路62,64への電源供給を開始するタイミングは、画質劣化を引き起こさないカップリングコンデンサ74の充電レベルを考慮して定められるため、プリントのパフォーマンスの低下を最小限なものとすることができる。特に、帯電装置30が放電を発生させない放電開始電圧未満の誤出力を許容することにより、画質を劣化させることなくプリントタイムを短縮することが可能となる。
【0054】
なお、上述した実施形態では、タイマにより所定の時間τが経過した後にD級アンプ回路駆動信号をONレベルに設定するものとして説明したが、コスト上許容されるのであれば、カップリングコンデンサ74の両端の電圧を充分な精度で計測する構成とし、上記許容の電圧偏差に対応する所定の電圧レベルとなったことを契機として、D級アンプ回路駆動信号をONレベルに設定する構成としてもよい。
【0055】
以上説明してきたように、本実施形態によれば、画像形成処理のパフォーマンスを維持しつつ、D級アンプ方式の高圧電源の誤出力を緩和し、電子写真方式等の帯電装置を使用する画像形成プロセスにおける画像劣化を好適に防止することが可能な電源装置、該電源装置を備える画像形成装置、該電源装置において実現される電源制御方法を提供することができる。
【0056】
これまで本発明の実施形態について説明してきたが、本発明の実施形態は上述した実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0057】
10…制御基板、12…CPU、14…ROM、20…高圧電源、30…帯電装置、32…芯金、34…導電層、36…表層、40…感光体ドラム、42…帯電面、50…電源装置、60…出力制御回路、62…ハイサイド・ドライブ回路、64…ロウサイド・ドライブ回路、68,70…トランジスタ、72…ローパスフィルタ、74…カップリングコンデンサ、76,78…抵抗素子、80…トランス、82…電源電圧制御回路、84…電源電圧入力端子、86…駆動信号入力端子、88…制御信号入力端子、90…高圧出力端子、92…スイッチング回路、100…信号生成部、102…大気圧センサ、104…電源電圧出力端子、106…駆動信号出力端子、108…制御信号出力端子
【先行技術文献】
【特許文献】
【0058】
【特許文献1】特許第3632428号明細書
【特許文献2】特開平 5− 76103号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標の電圧出力値に応じたデューティ比でスイッチング素子を駆動して、交流信号を出力するスイッチング回路と、
前記スイッチング回路の後段に設けられる結合容量素子と、
前記結合容量素子を介して入力される前記交流信号を昇圧して、帯電装置に高圧交流を出力する変圧手段と、
電源電圧の投入に応答して前記結合容量素子を充電する充電手段と、
前記スイッチング回路が出力を開始させる前に前記結合容量素子が所定量まで充電されるように、前記スイッチング素子の駆動を制御する制御手段と
を含む、電源装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記電源電圧の投入に応答して前記結合容量素子の充電が開始されてから、前記結合容量素子の静電容量と、前記充電手段を構成する抵抗素子の抵抗値とによって求められる時定数に応じた時間が経過した後に、前記スイッチング回路の駆動を制御する駆動信号をON信号レベルに設定する、請求項1に記載の電源装置。
【請求項3】
前記時定数に応じた時間は、前記結合容量素子にかかる電圧が許容の電圧偏差の範囲内に到達するまでの充電時間、または前記充電時間に前記結合容量素子の静電容量の公差に応じたマージンを加えた時間である、請求項2に記載の電源装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記結合容量素子の充電状態に因る誤出力の大きさがパッシェンの法則に従った放電開始電圧以下となる前記時定数に応じた時間を求める、請求項2〜3のいずれか1項に記載の電源装置。
【請求項5】
前記電源装置は、大気圧センサを含み、前記制御手段は、前記結合容量素子の充電状態に因る誤出力の大きさが、パッシェンの法則に従った大気圧に応じた放電開始電圧以下となる前記時定数に応じた時間を求める、請求項2〜4のいずれか1項に記載の電源装置。
【請求項6】
前記結合容量素子は、前記充電手段を構成する抵抗素子の抵抗値に応じて電源電圧を分圧して充電される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の電源装置。
【請求項7】
前記充電手段を構成する抵抗素子の抵抗値が、前記目標の電圧出力値がゼロの場合のデューティ比に応じた抵抗値の組み合わせからなり、前記抵抗素子の抵抗値および前記結合容量素子の静電容量は、電源電圧の投入から前記スイッチング素子の駆動を開始させるまでの時間に応じた値を有する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の電源装置。
【請求項8】
前記時間は、予め計算されて記憶装置に記憶されている、請求項1〜7に記載の電源装置。
【請求項9】
前記充電手段は、前記電源電圧と前記結合容量素子の一端とを接続する第1の抵抗素子と、前記結合容量素子の前記一端と接地点とを接続する第2の抵抗素子とから構成される、請求項1〜8のいずれか1項に記載の電源装置。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の電源装置と、前記電源装置から供給される高圧交流出力を受ける帯電装置とを備える、画像形成装置。
【請求項11】
スイッチング回路と、前記スイッチング回路の後段に設けられる結合容量素子と、前記結合容量素子を介して前記スイッチング回路から交流信号が入力される変圧手段と、前記結合容量素子に接続される充電手段と、制御手段とを含む電源装置が実行する方法であって、
電源電圧の投入に応答して前記充電手段が前記結合容量素子を充電するステップと、
前記制御手段が、前記スイッチング回路が出力を開始させる前に前記結合容量素子が所定量まで充電されるように、スイッチング回路を制御するステップと、
前記スイッチング回路が、目標電圧出力値に応じたデューティ比でスイッチング素子を駆動して、前記交流信号を出力するステップと、
前記変圧手段が、前記結合容量素子を介して入力される前記交流信号を昇圧して、帯電装置に高圧交流を出力するステップと
を含む、電源制御方法。
【請求項12】
前記制御するステップは、前記制御手段が、前記充電手段が前記結合容量素子の充電を開始してから、前記結合容量素子の静電容量と、前記充電手段を構成する抵抗素子の抵抗値とによって求められる時定数に応じた時間が経過した後に、前記スイッチング回路の駆動を制御する駆動信号をON信号レベルに設定するサブステップを含む、請求項11に記載の電源制御方法。
【請求項13】
前記制御するステップは、前記制御手段が、前記結合容量素子の充電状態に因る誤出力の大きさがパッシェンの法則に従った放電開始電圧以下となる前記時定数に応じた時間を求めるサブステップをさらに含む、請求項11または12に記載の電源制御方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−123172(P2011−123172A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−279408(P2009−279408)
【出願日】平成21年12月9日(2009.12.9)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】