説明

電源装置の異常検出システム、異常検出装置及び異常検出方法

【課題】部品点数の増加を抑制した電源装置の異常検出システムを提供する。
【解決手段】本発明は、車両に搭載され、複数の蓄電素子が直列に接続された電源装置の異常検出システムである。異常検出システムは、蓄電素子の電圧を検出する電圧センサと、所定期間における少なくとも2つの蓄電素子それぞれの電圧変動量を算出し、蓄電素子間の電圧変動量を比較して蓄電素子の異常を検出する制御装置と、を含む。電圧センサによる検出値のみで電源装置の異常を検出でき、部品点数の削減を図ることができるとともに、誤検出を低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される電源装置の異常検出技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の二次電池の異常検出は、二次電池を流れる電流を検出する電流センサの検出値と、二次電池の電圧を検出する電圧センサの検出値とを用いている。例えば、充電中の二次電池の電圧が減少している場合に、二次電池の異常を検出している。
【0003】
特許文献2では、二次電池を構成する電池セル間の電圧差が所定値以上である場合に電池セルの異常を検出するとともに、二次電池のSOCが低残存領域の際には、異常検出を中止して誤検出を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−220168号公報
【特許文献2】特開2009−254165号公報
【特許文献3】特開2009−037962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、異常検出のために二次電池の電圧検出値及び電流検出値が必要となり、少なくとも電流センサ、電圧センサの各センサを備える必要がある。
【0006】
また、特許文献2のように単に電池セル間で電圧差を比較するだけでは、電圧検出時の状況や電池セルの状態によって異常検出の精度が低減してしまう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願第1の発明である車両に搭載される電源装置の異常検出システムは、直列に接続された複数の蓄電素子のうち少なくとも2つの蓄電素子の電圧値を電圧センサで測定し、所定期間における蓄電素子それぞれの電圧変動量を算出する。蓄電素子間の電圧変動量を比較することで、蓄電素子の異常を検出する。
【0008】
本願第1の発明によれば、電圧センサの検出値のみで蓄電素子の異常を検出できるので、電圧センサ以外の電流センサ等の機器類が不要となり、部品点数の増加を抑制できるとともに、所定期間における各電圧変動量を蓄電素子間で比較して蓄電素子の異常を検出しているので、電圧センサの電圧検出値を比較した異常検出に比べて誤検出を抑制でき、精度よく蓄電素子の異常を検出することができる。
【0009】
蓄電素子間での電圧変動量の比率を算出し、比率が所定の閾値を超える場合に蓄電素子の異常を検出することで、電流センサによる計測によらずに各蓄電素子に実際に流れた電流に対する蓄電素子間の抵抗倍率が所定の閾値を超えているか否かによって、蓄電素子の異常を検出することができる。
【0010】
各蓄電素子の電圧変動量として、一定の電圧挙動検出時間内に検出された最大電圧と最小電圧との電圧差、又は所定の時間間隔で検出された各電圧値の変化量を用いることができる。
【0011】
電源装置の温度及びSOCの少なくとも一方に応じて所定の閾値を変化させることができ、電源装置の温度を検出する温度センサをさらに含むように構成して、電源装置の温度とSOCに応じて予め設定された閾値の中から温度センサによって検出された温度及び電源装置のSOC情報に応じた閾値を選択し、比率が選択された閾値を超える場合に蓄電素子の異常を検出することができる。
【0012】
温度とSOCによって異なる蓄電素子の電圧(蓄電素子の抵抗)に対し、電源装置の温度とSOCに応じて異常検出を判定する基準値を変化させることで、異常検出精度を向上させることができる。
【0013】
直列に接続された1つの蓄電素子と他の2つの蓄電素子それぞれとを比較して、少なくとも一方の蓄電素子間での比較で異常が検出された場合に、蓄電素子の異常を検出するように構成できる。
【0014】
本願第2の発明である車両に搭載される電源装置の異常検出装置は、電圧センサによって検出される検出値を用いて直列に接続された複数の蓄電素子のうち少なくとも2つの蓄電素子の所定期間における蓄電素子それぞれの電圧変動量を算出する。蓄電素子間での電圧変動量を比較することで、蓄電素子の異常を検出する。
【0015】
本願第3の発明である車両に搭載される電源装置の異常検出方法は、電圧センサによって検出される検出値を用いて直列に接続された複数の蓄電素子のうち少なくとも2つの蓄電素子の所定期間におけるそれぞれの電圧変動量を算出するステップと、蓄電素子間の電圧変動量を比較して蓄電素子の異常を検出ステップと、を含む。
【0016】
電圧変動量を算出するステップは、一定の電圧挙動検出時間内に検出された最大電圧と最小電圧との電圧差、又は所定の時間間隔で検出された各電圧値の変化量を電圧変動量として算出することができる。
【0017】
異常を検出するステップは、蓄電素子間での電圧変動量の比率を算出して、比率が所定の閾値を超える場合に蓄電素子の異常を検出することができ、上記異常検出方法は、電源装置の温度及びSOCの少なくとも一方に応じて所定の閾値を変化させるステップをさらに含むことができる。所定の閾値を変化させるステップは、電源装置の温度を検出する温度センサによって検出される検出値と電源装置のSOC情報に基づいて、電源装置の温度とSOCに対して予め設定された閾値の中から該当する閾値を選択するように構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】組電池の異常検出システムの構成を示す図である。
【図2】正常な単電池の電圧挙動,抵抗異常の単電池の電圧挙動の一例を示す図である。
【図3】正常な単電池の電圧挙動,抵抗異常の単電池の電圧挙動の一例を示す図である。
【図4】組電池の温度及びSOCに応じた閾値マップの一例を示す図である。
【図5】組電池の異常検出動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0020】
(実施例1)
本発明の実施例1である組電池(電源装置に相当する)の異常検出システムについて説明する。図1は、本実施例の組電池の異常検出システムの構成を示す図である。
【0021】
組電池10は、直列に接続された複数の単電池(蓄電素子に相当する)11を有する。単電池11としては、ニッケル水素電池やリチウムイオン電池といった二次電池を用いることができる。また、二次電池の代わりに、電気二重層キャパシタ(コンデンサ)を用いることができる。組電池10を構成する単電池11の数は、要求出力などに基づいて、適宜設定することができる。また、組電池10は、並列に接続された複数の単電池11を含んでいてもよい。
【0022】
本実施例の組電池10は、車両に搭載することができる。車両としては、ハイブリッド自動車や電気自動車がある。ハイブリッド自動車は、車両を走行させるための動力源として、組電池10に加えて、エンジン又は燃料電池を備えている。電気自動車は、車両の動力源として、組電池10のみを備えている。
【0023】
組電池10の正極端子及び負極端子は、昇圧コンバータ23と接続されている。システムメインリレーSMR−B,SMR−Gがコントローラ30からの制御信号を受けて、オン(接続状態)およびオフ(遮断状態)の間で切り替わることで、組電池10と昇圧コンバータ23との接続が制御される。
【0024】
昇圧コンバータ23は、組電池10の出力電圧を昇圧して、昇圧後の電力をインバータ23に出力する。また、昇圧コンバータ23は、インバータ24の出力電圧を降圧して、降圧後の電力を組電池10に出力する。昇圧コンバータ23は、例えば、チョッパ回路で構成することができる。昇圧コンバータ23は、コントローラ30からの制御信号を受けて動作する。
【0025】
インバータ24は、昇圧コンバータ23から出力された直流電力を交流電力に変換して、交流電力をモータ・ジェネレータ(MG)25に出力する。モータ・ジェネレータ25としては、例えば、三相交流モータを用いることができる。また、インバータ24は、モータ・ジェネレータ25から出力された交流電力を直流電力に変換して、直流電力を昇圧コンバータ23に出力する。
【0026】
モータ・ジェネレータ25は、インバータ24からの交流電力を受けて、車両を走行させるための運動エネルギを生成する。モータ・ジェネレータ25は、車輪と接続されており、モータ・ジェネレータ25によって生成された運動エネルギは、車輪に伝達される。車両を減速させたり、停止させたりするとき、モータ・ジェネレータ25は、車両の制動時に発生する運動エネルギを電気エネルギ(交流電力)に変換する。モータ・ジェネレータ25によって生成された交流電力は、インバータ24に出力される。これにより、回生電力を組電池10に蓄えることができる。
【0027】
電圧監視IC20は、電圧センサ21を含んで構成される。電圧センサ21は、組電池10を構成する直列に接続された各単電池11に設けられ、単電池11それぞれの電圧を検出する。電圧監視IC20は、コントローラ30に接続され、電圧センサ21によって検出された各検出値をコントローラ30に出力する。
【0028】
温度センサ22は、組電池10の温度を検出する。温度センサ22は、コントローラ30に接続され、検出結果をコントローラ30に出力する。なお、温度センサ22は、電圧監視IC20に含まれるように構成することができ、例えば、組電池10の電圧及び温度を検出する監視ICとして構成できる。
【0029】
コントローラ30は、組電池10の充放電制御を行う制御装置である。コントローラ30は、車両出力要求に基づいて負荷に組電池10の電力を出力する放電制御、車両が減速したり、停止したりする際の車両制動時における回生電力を組電池10に充電する充電制御を行う。
【0030】
SOC(State of Charge)は、組電池10の満充電容量に対する現在充電容量の割合を示すものであり、コントローラ30は、組電池10のSOCを管理するために、電圧センサ21による検出結果を用いて組電池10のSOCを算出したり特定する処理を行い、記憶部32に組電池10の充放電履歴やSOC情報を記憶して管理することができる。
【0031】
組電池10のSOCは、組電池10のOCV(Open Circuit Voltage)から特定することができる。SOC及びOCVは対応関係にあるため、この対応関係を予め求めておけば、OCVからSOCを特定することができる。組電池10のOCVは、電圧センサ21によって検出された組電池10の電圧(CCV:Closed Circuit Voltage)から算出することができる。組電池10のSOCと共に、組電池10を構成する直列に接続された単電池11それぞれのSOCを算出することもでき、本実施例のコントローラ30は、組電池10全体のSOCと各単電池11それぞれのSOCを管理することができる。
【0032】
コントローラ30は、電圧センサ21によって検出された検出値を用いて組電池10の異常検出を行う異常検出部31と記憶部32を含んで構成される。本実施例の異常検出部31を含むコントローラ30は、組電池10の異常検出を行う制御装置として機能する。なお、異常検出部31は、コントローラ30とは別途の制御装置として構成することもでき、コントローラ30に対して外的に又は内的に設けることができる。
【0033】
次に、本実施例の組電池10の異常検出について説明する。異常検出は、異常検出部31によって遂行される。異常検出部31は、組電池10の電圧を検出する電圧センサ21によって検出される電圧検出値を用いて当該組電池10の異常を検出する異常検出装置として機能する。また、異常検出部31及び組電池10の電圧を検出する電圧センサ21は、組電池10の異常検出システムを構成する。
【0034】
異常検出部31は、車両のイグニッションスイッチがオフからオンに切り替わり、システムメインリレーSMR−B,SMR−Gがオンされてコントローラ30によって充放電制御が開始された後に、組電池10の異常検出処理を行う。異常検出部31は、組電池10を構成する直列に接続された複数の単電池11のうち、少なくとも2つの単電池11について電圧センサ21で検出された電圧挙動から所定期間における電圧変動値を算出し、算出された各電圧変動値を単電池11間で比較して、電圧変動値の比率が基準値(閾値)を超える場合、単電池11の異常(組電池10の異常)を検出する。
【0035】
図2に示すように、単電池11に異常が発生した場合、正常時の電圧挙動(太線で示した電圧挙動)と異なる電圧挙動(点線で示した電圧挙動)が検出される。本実施例では、電圧センサ21によって検出された単電池11間の各電圧値を比較するのではなく、直列に接続された単電池11それぞれの所定期間における電圧変動値を比較して、単電池11の異常を検出する。
【0036】
ある計測点、例えば、時間tにおける単電池11それぞれで検出された電圧値を比較すると、一方の単電池11に異常が発生している場合でも同じ電圧値が検出されたり、電圧値の差分が小さく検出される場合があるため、単電池11の異常を精度よく検出できないことがある。具体的には、図2の例において点線と太線とが重なる個所に相当する時点の電圧検出値は、正常な単電池11及び異常な単電池11それぞれで同じ電圧が検出されてしまい、単電池11の異常を的確に検出できない。
【0037】
一方で、電圧センサ21で検出される電圧検出値は、単電池11のSOCによって異なる。このため、各単電池11でSOCにバラツキがあると、SOCの低い単電池11とSOCが高い単電池11それぞれの電圧検出値の間にSOC差に応じた差分値が含まれるので、誤検出などの検出精度の低下を招く要因となる。これに対しは、電流センサによって測定された電流値を用いて単電池11間のSOCのバラツキによる誤差を補正することが考えられるが、別途電流センサが必要となり、部品点数の増加を抑制することができない。
【0038】
本実施例では、電圧センサ21によって検出された検出結果から所定期間の電圧変動量を算出することで、単電池11間にSOCのバラツキがあっても電流センサによる計測によらずに各単電池11に実際に流れた電流に対してSOCの影響を低減した電圧、すなわち、各単電池11に実際に流れた電流に対してSOCの影響が抑制された単電池11の抵抗を単電池11間で比較し、単電池11間のSOCのバラツキによる検出精度の低下を抑制している。
【0039】
本実施例では、図2及び図3に示す2通りの方法で電圧変動量を算出することができる。図2は、単電池11の正常時及び異常時の電圧挙動の一例を示す図であり、縦軸が電圧(V)、横軸が時間tである。
【0040】
異常検出部31は、電圧センサ21の検出結果から組電池10を構成する単電池11の一定時間の電圧検出期間T(電圧挙動検出期間)内の最大電圧及び最小電圧を取得する。
【0041】
異常検出部31は、時間t1からt2までの電圧検出期間Tにおける最大電圧と最小電圧を取得し、最大電圧と最小電圧との電圧差を電圧変動値として算出する。異常検出部31は、少なくとも2つの単電池11それぞれの同じ電圧検出期間Tにおける最大電圧と最小電圧との電圧差に基づく電圧変動値を算出する。
【0042】
図2の例では、一定時間内の電圧挙動における最大電圧及び最小電圧の電圧差を算出するので、電圧検出期間Tは、後述する図3の例の所定期間よりも長い時間(例えば、数十秒、数分)とすることができる。
【0043】
単電池11の電圧変動値ΔIRは、電圧検出期間Tの最大電圧(MaxCCV)から最小電圧(MinCCV)を減算して算出することができる。
(式1)ΔIR=MaxCCV−MinCCV
【0044】
CCVは、電圧センサ21によって検出された電圧検出値である。電圧センサ21によって検出された単電池11のCCVとOCVは、下記に示す式2の関係を有するので、式1は下記に示す式3に変形できる。
(式2)CCV=OCV+IR
(式3)ΔIR=OCV+MaxIR−(OCV+MinIR)
ここで、Rは単電池11の抵抗、ΔIは電流センサ等の機器で検出した値ではなく、電圧センサ21によって検出された電圧値に基づく実際に単電池11に流れた電流値である。
【0045】
単電池11のOCVは、電圧検出期間Tが短時間である場合、その間の単電池11のOCVの変動は、極めて小さく、最大電圧及び最小電圧それぞれの各OCVを同じ値とみなすことができる。このため、上記式3において最大電圧と最小電圧それぞれに含まれるOCVは互いに相殺され、電圧検出期間Tにおける単電池11の電圧変動量ΔIRは、以下の式4で表すことができる。
(式4)ΔIR=MaxIR−MinIR
【0046】
このように異常検出部31は、電圧センサ21によって検出される検出値のみを用いて、単電池11それぞれの電圧検出期間Tにおける電圧変動値ΔIRを算出することができる。
【0047】
図3は、単電池11の正常時及び異常時の電圧挙動の一例を示す図であり、縦軸が電圧(V)、横軸が時間tである。また、正常時の電圧挙動を太線で、異常時の電圧挙動を点線で示している。
【0048】
異常検出部31は、電圧センサ21の検出結果から組電池10を構成する単電池11の所定の時間間隔(電圧検出周期ts)で検出された各電圧値を取得する。すなわち、電圧センサ21は、例えば、秒間隔で各単電池11の電圧を検出する。
【0049】
異常検出部31は、電圧検出周期tsで今回検出された時間tbの電圧検出値と前回検出された電圧検出値とを取得し、少なくとも2つの単電池11それぞれの時間taから時間tb間の電圧変化量を電圧変動量として算出する。
【0050】
図3の例における単電池11の電圧変動値ΔIRは、電圧検出周期tsで今回検出された時間tbの電圧検出値(CCV(t))から前回検出された時間taの電圧検出値(CCV(t−1))を減算することで、算出することができる。tは、電圧検出周期tsで検出された時系列順を示している。
(式5)ΔI(t)R=CCV(t)−CCV(t−1)
【0051】
CCVは、電圧センサ21によって検出された電圧検出値であり、上述のように電圧センサ21によって検出された単電池11のCCVとOCVは、上記式2の関係を有するので、式5は下記に示す式6に変形できる。
(式6)ΔI(t)R={OCV+I(t)R−(OCV+I(t−1)R)}
Rは単電池11の抵抗、ΔI(t)は図2の例と同様に、電圧センサ21によって検出された電圧値に基づいて電圧検出周期tsにおいて実際に単電池11に流れた電流値である。
【0052】
図2に例と同様に、図3の例においても単電池11のOCVは、電圧検出周期tsが短時間である場合、その間の単電池11のOCVの変動は、極めて小さく、時間t及び時間t−1それぞれの各OCVを同じ値とみなすことができるので、時間taから時間tbの電圧検出周期tsにおける単電池11の電圧変動量ΔI(t)Rは、以下の式6で表すことができる。
(式6)ΔI(t)R=I(t)R−I(t−1)R
【0053】
このように異常検出部31は、電圧センサ21によって検出される検出値のみを用いて、単電池11それぞれの電圧検出周期tsにおける所定の時間間隔での電圧変化量を電圧変動値ΔI(t)Rとして算出することができる。
【0054】
異常検出部31は、図2及び図3に示した一方の算出方法で、少なくとも2つの単電池11(1)の電圧変動値ΔIR、単電池11(2)の電圧変動値ΔIR2を求めて、さらに2つの単電池11の一方の単電池11に対する他方の単電池11の電圧変動値の比率を求める。
(式7)ΔI(t)R/ΔI(t)R2(=R/R2
【0055】
式7に示すように、単電池11それぞれは直列に接続されているので、各単電池11に流れる電流値は一定であり、単電池11間の電圧変動値の比率は、各単電池11間の抵抗倍率(抵抗比率)を表している。
【0056】
本実施例では、所定期間における各電圧変動量を単電池11間で比較して単電池11の抵抗異常を検出することで、組電池10の異常を検出する。具体的には、上記式7のように少なくとも2つの単電池11間での抵抗倍率を算出し、抵抗倍率が所定の閾値を超える場合に単電池11の異常を検出することができる。
【0057】
単電池11が正常である場合、直列に接続された単電池11それぞれは、同じ電圧挙動を示すので、単電池11間の抵抗倍率は、1又は1に近い値となる。一方、他方の単電池11に抵抗異常がある場合、電圧挙動が正常時に比べてより大きく(又はより小さく)なり、抵抗異常が発生していない単電池11と抵抗異常が発生した単電池11との間の抵抗倍率は、数倍又は数分の1となる。本実施例では、所定期間における各電圧変動量を単電池11間で比較して抵抗倍率が所定の閾値を超えるか否か、又は所定の閾値よりも小さいか否かを判別し、単電池11の抵抗異常を検出することで、単電池11の異常を検出する。
【0058】
なお、少なくとも2つの単電池11は、直列に接続された隣り合う2つの単電池11や任意の接続位置における2つの単電池11(例えば、単電池11(1)と単電池11(3)や単電池11(1)と単電池11(n))とすることができる。
【0059】
また、図3の例における電圧変動値(電圧検出周期tsにおける所定の時間間隔での電圧変化量)を用いた抵抗倍率の算出では、過去に算出された抵抗倍率を今回算出された抵抗倍率に反映させる重み付け処理を適用することができる。
【0060】
例えば、式6において今回時間tの電圧変動量ΔI(t)R=I(t)R−I(t−1)Rに、前回時間t−1の電圧変動量ΔI(t−1)R=I(t−1)R−I(t−2)Rを重み値として反映させることができる。
【0061】
今回時間tの電圧変動量ΔI(t)Rを、今回時間tの電圧変動量ΔI(t)Rと前回(電圧検出周期で1つ前の)時間t−1の電圧変動量ΔI(t−1)Rを所定の割合で加算して算出したり、前回時間t−1,前々回時間t−2、・・・・の複数の過去の電圧変動量を平均した値と今回時間tの電圧変動量ΔI(t)Rとを所定の割合で加算した値を、今回時間tの電圧変動量ΔI(t)Rとして算出することができる。また、今回時間tから順に前の時間t−1、時間t−2、時間t−3・・・・それぞれを所定の割合で今回時間tの電圧変動量ΔI(t)Rに反映させたり、今回時間tから前の任意の時間t−n(t>n)の電圧変動量を1つ又は複数選択して反映させることができる。
【0062】
図3の例における電圧検出周期tsで検出された電圧検出値を用いて算出される抵抗倍率を、それ以前に算出された過去の抵抗倍率で評価するように重み付け処理を行うことで、電圧検出時のノイズの影響を小さくすることができ、異常検出精度をさらに向上させることができる。
【0063】
次に、本実施例の抵抗倍率を用いた抵抗異常を判別するための基準値である閾値について説明する。本実施例の閾値は、組電池10の温度及びSOCの少なくとも一方に応じて変化する。
【0064】
組電池10の温度が低いと、単電池11の抵抗が大きくなり、また、単電池11のSOCが低いと単電池11の抵抗が大きくなる。正常な単電池11であっても単電池11の状態及び環境に応じて内部抵抗が相違するので、電圧変動量に基づく抵抗倍率も温度とSOCの一方又は両方の影響を受けて相違する。本実施例では、閾値と抵抗倍率との関係を組電池10の温度とSOCに応じて変化させることで、異常検出の精度をさらに向上させている。
【0065】
図4は、組電池10の温度及びSOCに応じて予め作成された閾値マップの一例であり、異常検出部31は、組電池10の温度又はSOCのいずれか一方、又は温度及びSOCに基づいて、図4に示した閾値マップから該当の閾値を選択し、選択された閾値と抵抗倍率とを比較して抵抗倍率が閾値を超えている場合、又は閾値よりも小さい場合に、単電池11の異常を検出する。図4の閾値マップは、記憶部32に格納することができる。
【0066】
図4の縦軸は温度(℃)、横軸はSOC(%)であり、異常検出部31は、温度センサ22によって検出された組電池10の温度に該当する閾値を選択したり、組電池10のSOCに該当する閾値を選択することができる。また、温度及びSOCに該当する閾値を選択することができる。図4の閾値マップでは、組電池10の温度が低く、かつSOCが低い場合に閾値が大きくなり、組電池10の温度及びSOCが高い場合に閾値が低くなるように閾値が設定されている。
【0067】
また、本実施例では、2つの閾値それぞれと抵抗倍率とを比較し、単電池11間の抵抗異常を判別することができる。例えば、閾値Aは、抵抗倍率が1以上の場合の閾値、閾値Bは抵抗倍率が1未満の閾値として用いることができる。すなわち、本実施例の組電池10の異常検出では、単電池11間での電圧変動量の比率が閾値Aと閾値Bとの間(閾値の上限値と下限値との間)であれば単電池11は正常であると判別し、単電池11間での電圧変動量の比率が閾値Aを超えている場合、又は閾値Bを下回る場合には、単電池11は異常であると判別する。
【0068】
図5は、本実施例の電流センサの異常検出の動作を示すフローチャートである。図5に示す処理は、コントローラ30の異常検出部31によって実行される。異常検出部31は、例えば、車両のイグニッションスイッチがオフからオンに切り替わり、システムメインリレーSMR−B,SMR−Gがオンされて充放電制御が開始されることに伴って、組電池10の異常検出処理を開始することができる(S101)。
【0069】
ステップS102において、異常検出部31は、組電池10の直列に接続された各単電池11それぞれの電圧検出値を、電圧監視IC20を介して取得する。
【0070】
ステップS103において、異常検出部31は、電圧センサ21によって検出された所定期間の電圧値を用いて、図2及び図3に示した一方の算出手法で電圧変動量ΔIR(ΔV)を算出する。電圧電動量ΔIRの算出については上述した通りであり、予め一方の算出プログラムが記憶部32に記憶され、異常検出部31は、記憶部32に記憶された算出プログラムに従って、図2又は図3に示した一方の算出方法を用いて所定期間における各単電池11それぞれの電圧変動量ΔIRを算出する。
【0071】
ステップS104において、異常検出部31は、ステップS103で算出した所定期間における各電圧変動量を単電池11間で比較した抵抗倍率を算出する。抵抗倍率は、上記式7のように求めることができる。
【0072】
ステップS105において、異常検出部31は、組電池10の温度とSOCに応じて閾値を変化させる閾値選択処理を行う。異常検出部31は、温度センサ22によって検出された組電池10の温度及びコントローラ30で管理されている組電池10のSOC情報を取得し、取得した組電池10の温度及びSOC情報に応じた閾値を図4に示した閾値マップから選択する。
【0073】
ステップS106、S107において、異常検出部31は、ステップS104で算出された抵抗倍率とステップS105で選択された閾値を用いて、比較対象の単電池11に抵抗異常があるか否かを判別する。
【0074】
本実施例では、直列に接続された隣り合う単電池11間の抵抗異常を判別したり、任意の単電池11間の抵抗異常を判別することで、単電池11の異常が検出するが、さらに検出精度を向上させるために、1つの単電池11を他の異なる2つの単電池11それぞれと比較することで、単電池11の異常を検出するように構成できる。
【0075】
なお、抵抗倍率を求める各単電池11の選択は、任意であり、異常検出部31は、例えば、異常検出処理を開始する際に比較対象の単電池11を決定し、決定された単電池11のみの電圧変動量ΔIRを求めるようにしたり、複数の各単電池11それぞれの電圧変動量ΔIRを求めてから、比較対象の単電池11それぞれをランダムに又は所定のルールに従って決定するようにしてもよい。また、図5の例では、1つの単電池11を他の異なる2つの単電池11それぞれと比較することで、単電池11の異常を検出しているが、上述のように、後述するステップS106及びステップS107の少なくとも一方を含む異常検出によって組電池10の異常を検出するようにしてもよい。
【0076】
まず、ステップ106において、異常検出部31は、第1単電池11及び第2単電池11間の電圧変動量に基づく抵抗倍率を閾値と比較して抵抗異常を判別する。抵抗異常があると判別された場合には、ステップS110に進み、組電池10に異常があると判別して異常処理を遂行する。
【0077】
一方、ステップS106において、第1単電池11及び第2単電池11間の電圧変動量に基づく抵抗倍率が抵抗異常ではないと判別された場合、異常検出部31は、ステップS107に進む。
【0078】
ステップS107において、異常検出部31は、ステップS106で比較対象の第2単電池11と第1単電池11を除く他の第3単電池11との間の電圧変動量に基づく抵抗倍率を閾値と比較して抵抗異常を判別する。抵抗異常があると判別された場合には、ステップS110に進み、組電池10に異常があると判別して異常処理を遂行する。
【0079】
一方、ステップS107において、第2単電池11及び第3単電池11間の電圧変動量に基づく抵抗倍率が抵抗異常ではないと判別された場合、異常検出部31は、ステップS108に進み、組電池10が正常であると判別してステップS109に進む。
【0080】
ステップS109において、異常検出部31は、組電池10が正常であると判別されている間は、イグニッションスイッチがオフされるまで、ステップS102からステップS109を繰り返し行い、組電池10の異常検出を行う。
【0081】
このように、1つの単電池11を他の異なる2つの単電池11それぞれと比較することで、少なくとも一方の単電池11間での抵抗比率に異常が検出された場合に、単電池11の異常を判別する、言い換えれば、1つの単電池11と他の異なる2つの単電池11それぞれとの間で各抵抗比率に異常が検出されない場合に、組電池10が正常であると判別することで、2つの単電池11間での抵抗比率の異常検出に比べてさらに精度よく異常検出を行うことができる。
【0082】
ステップS110の異常処理としては、例えば、ユーザなどに対して異常が発生していることを通知することができる。この通知は、ユーザの視覚又は聴覚で認識できるものであればよく、例えば、異常検出ランプを点灯させたり、スピーカを用いて異常が発生していることを示す情報を出力したり、異常が発生していることを示す情報をディスプレイに表示させることができる。
【0083】
また、組電池10の異常を検出した場合に、本実施例の組電池10を搭載するハイブリッド車両では、エンジンのみを駆動源とする走行モードに設定したり、電気自動車では、走行を中止する通知を行うなど、組電池10からの電力を用いた走行や機器の駆動を行わないようにすることもできる。ステップS109を遂行した後、異常検出部31は、異常検出処理を終了する。
【0084】
本実施では、電圧センサ21の検出値のみで単電池11の異常を検出できるので、電圧センサ21以外の電流センサ等の機器類が不要となり、部品点数の増加を抑制できる。さらに、所定期間における各電圧変動量を単電池11間で比較して単電池11の異常、すなわち、組電池10の異常を検出するので、電圧センサ21の電圧検出値を単に比較した異常検出に比べて精度よく単電池11の異常を検出することができる。
【0085】
また、電圧センサ21によって検出された検出結果から所定期間の電圧変動量を算出することで、単電池11間にSOCのバラツキがあっても電流センサによる計測によらずに各単電池11に実際に流れた電流に対してSOCの影響を低減した電圧、すなわち、各単電池11に実際に流れた電流に対してSOCの影響が抑制された単電池11の抵抗を単電池11間で比較して異常を検出するので、検出精度が向上する。
【符号の説明】
【0086】
10 組電池(電源装置)
11 単電池(蓄電素子)
20 電圧監視IC
21 電圧センサ
22 温度センサ
23 昇圧コンバータ
24 インバータ
25 モータ・ジェネレータ
30 コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載され、複数の蓄電素子が直列に接続された電源装置の異常検出システムであって、
前記蓄電素子の電圧を検出する電圧センサと、
所定期間における少なくとも2つの前記蓄電素子それぞれの電圧変動量を算出し、前記蓄電素子間で各電圧変動量を比較して前記蓄電素子の異常を検出する制御装置と、
を含むことを特徴とする異常検出システム。
【請求項2】
前記制御装置は、前記蓄電素子間での前記電圧変動量の比率を算出し、前記比率が所定の閾値を超える場合に前記蓄電素子の異常を検出することを特徴とする請求項1に記載の異常検出システム。
【請求項3】
前記制御装置は、一定の電圧挙動検出時間内に検出された最大電圧と最小電圧との電圧差を前記電圧変動量として算出することを特徴とする請求項1又は2に記載の異常検出システム。
【請求項4】
前記制御装置は、所定の時間間隔で検出された各電圧値の変化量を前記電圧変動量として算出することを特徴とする請求項1又は2に記載の異常検出システム。
【請求項5】
前記制御装置は、前記電源装置の温度及びSOCの少なくとも一方に応じて前記所定の閾値を変化させることを特徴とする請求項2に記載の異常検出システム。
【請求項6】
前記電源装置の温度を検出する温度センサをさらに含み、
前記制御装置は、前記電源装置の温度とSOCに応じて予め設定された閾値の中から前記温度センサによって検出された温度及び前記電源装置のSOC情報に応じた閾値を選択し、前記比率が前記選択された閾値を超える場合に前記蓄電素子の異常を検出することを特徴とする請求項5に記載の異常検出装置。
【請求項7】
前記制御装置は、第1蓄電素子及び第2蓄電素子の間で前記電圧変動量を比較し、さらに前記第2蓄電素子と第3蓄電素子の間で前記電圧変動量を比較して、少なくとも一方の蓄電素子間での比較で異常が検出された場合に、前記蓄電素子の異常を検出することを特徴とする請求項1から6のいずれか1つに記載の異常検出システム。
【請求項8】
複数の蓄電素子が直列に接続され、車両に搭載される電源装置の異常検出装置であって、
前記蓄電素子の電圧を検出する電圧センサによって検出される検出値を用いて所定期間における少なくとも2つの前記蓄電素子それぞれの電圧変動量を算出し、前記蓄電素子間で各電圧変動量を比較して前記蓄電素子の異常を検出する制御部、を含むことを特徴とする異常検出装置。
【請求項9】
複数の蓄電素子が直列に接続され、車両に搭載される電源装置の異常検出方法であって、
前記蓄電素子の電圧を検出する電圧センサによって検出される検出値を用いて所定期間における少なくとも2つの前記蓄電素子それぞれの電圧変動量を算出するステップと、
前記蓄電素子間で各電圧変動量を比較して前記蓄電素子の異常を検出するステップと、
を含むことを特徴とする異常検出方法。
【請求項10】
前記電圧変動量を算出するステップは、一定の電圧挙動検出時間内に検出された最大電圧と最小電圧との電圧差、又は所定の時間間隔で検出された各電圧値の変化量を前記電圧変動量として算出することを特徴とする請求項9に記載の異常検出方法。
【請求項11】
前記異常を検出するステップは、前記蓄電素子間での前記電圧変動量の比率を算出して、前記比率が所定の閾値を超える場合に前記蓄電素子の異常を検出するとともに、
前記電源装置の温度及びSOCの少なくとも一方に応じて前記所定の閾値を変化させるステップをさらに含み、
前記所定の閾値を変化させるステップは、
前記電源装置の温度を検出する温度センサによって検出される検出値と前記電源装置のSOC情報に基づいて、前記電源装置の温度とSOCに対して予め設定された閾値の中から該当する閾値を選択することを特徴とする請求項9又は10に記載の異常検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−88183(P2013−88183A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−227002(P2011−227002)
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】