説明

電源装置及びアーク加工用電源装置

【課題】トランスの巻線タップ数を少なくしつつも出力電圧調整の微調整を可能にし、且つその調整を容易に行うことができる電源装置を提供する。
【解決手段】溶接トランスWTの一次側巻線Pu,Pv,Pwに備えられるタップTの接続位置を切替スイッチSW2にて切り替えることでトランスWTの電圧変換率が変更され、アーク加工用出力電圧の電圧値が段階的に調整される。また、点弧角制御回路12による二次側整流回路DR2のサイリスタSCR1〜SCR3の点弧角制御により、トランス変換後の交流電圧から整流回路DR2にて直流出力電圧を生成する際のその出力電圧、即ちアーク加工用出力電圧の電圧値が連続的に調整される。これにより、一次側巻線Pu,Pv,Pwのタップ数を少ない構成としても整流回路DR2でのサイリスタSCR1〜SCR3の点弧角制御により、アーク加工用出力電圧の連続調整(微調整)が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランスに備えられるタップを切り替えて出力電圧調整を行う例えばアーク加工用の電源装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アーク加工機等に用いられる電源装置は、例えば特許文献1に示されているように、溶接トランスの一次側に商用電源等から単相交流電圧が入力され、その入力交流電圧から溶接トランスの二次側においてアーク加工に適したアーク加工用出力電圧を生成している。アーク加工用出力電圧の調整には、溶接トランスの一次側巻線の複数箇所にタップが設けられ、該タップの接続位置をスイッチで切り替えることで、溶接トランスの二次側で生成されるアーク加工用出力電圧の電圧値がそのタップ接続位置に応じて段階的に調整されるようになっている。
【0003】
また、特許文献2及び特許文献3に示されている電源装置は、入力が三相交流電源用であり、三相の溶接トランスが用いられて構成されている。このように入力交流電圧が三相の電源装置において、上記特許文献1のように出力電圧調整を行うべく溶接トランスの一次側巻線に複数のタップを設置する際、U相・V相・W相の各巻線に複数のタップがそれぞれ設けられ、各相のタップの接続をスイッチにて連動して切り替えることで、出力電圧の電圧値の調整が可能となる。
【特許文献1】特公昭62−30871号公報
【特許文献2】特開2006−223031号公報
【特許文献3】特開2005−66603号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、出力電圧の細かな調整を可能とするには、タップ数をより多くする必要があり、特許文献2,3の電源装置のように三相の入力交流電圧を扱うものにおいては、一次側の各相の巻線のそれぞれにタップを設ける関係上、総数はその3倍となる。例えば、11段階で出力電圧の電圧値を調整する場合、各相にはタップが11個必要で、総数はその3倍の33個必要となる。
【0005】
そのため、タップ自身の配置やタップへの配線の取り回しが煩雑となり、溶接トランスの構造が複雑化して、溶接トランス、ひいては電源装置の組み立てに多大な手間がかかってしまう。また、タップ数を多くして更なる微調整を可能に構成しても、その組み立ての問題以外にも段階的な出力電圧調整となることは否めず、漸次変化させるような微調整は行えない。更に、タップの接続を切り替えるスイッチの接点保護のため、タップ切り替えのためのスイッチ操作を全て電源装置を停止させて行う必要があり、調整も煩雑であった。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、トランスの巻線タップ数を少なくしつつも出力電圧調整の微調整を可能にし、且つその調整を容易に行うことができる電源装置及びアーク加工用電源装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、入力された三相交流電圧を所定電圧値の交流電圧に変換する三相トランスと、該三相トランスにて変換された変換後の三相交流電圧を直流出力電圧に変換する整流回路とを備えてなる電源装置であって、前記三相トランスの各相の一次側巻線又は二次側巻線にそれぞれ巻数の異なる箇所から引き出された複数のタップを有し、該タップの接続位置を切り替えることで前記出力電圧の電圧値を段階的に調整する第1電圧調整手段と、前記整流回路は、各相で少なくとも1個のサイリスタを用いた全波又は半波整流回路で構成され、該サイリスタの点弧角制御に基づいて前記出力電圧の電圧値を連続的に調整する第2電圧調整手段とを備えたことをその要旨とする。
【0008】
この発明では、第1電圧調整手段では、三相トランスの各相の一次側巻線又は二次側巻線に備えられるタップの接続位置を切り替えることでトランスの電圧変換率が変更され、これにより出力電圧の電圧値が段階的に調整される。第2電圧調整手段では、各相で少なくとも1個のサイリスタを用いた全波又は半波整流回路のそのサイリスタの点弧角制御により、トランス変換後の交流電圧から直流出力電圧を生成する際のその出力電圧の電圧値が連続的に調整される。これにより、第1電圧調整手段においてタップ数を少ない構成としても第2電圧調整手段におけるサイリスタの点弧角制御により、出力電圧の連続調整(微調整)が可能である。しかも、このサイリスタの点弧角制御による電圧調整は電源装置が動作中でも行えることから、その電圧調整は容易である。また、サイリスタの点弧角制御のみによる電圧調整は広い範囲の電圧調整には不向きであるが、第1電圧調整手段との組み合わせにより、広い範囲の電圧調整にも対応可能である。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の電源装置において、前記第2電圧調整手段では、前記サイリスタの点弧角制御による電圧調整幅が前記第1電圧調整手段における前記タップの切替接続による段階的な調整電圧にラップさせるように設定されていることをその要旨とする。
【0010】
この発明では、第2電圧調整手段では、第1電圧調整手段におけるタップの切替接続による段階的な調整電圧にラップするように、サイリスタの点弧角制御による電圧調整幅が設定される。これにより、広い範囲の連続した出力電圧の電圧調整ができるようになる。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の電源装置において、前記第2電圧調整手段では、前記サイリスタの点弧角制御が実施される半波整流部分のピーク前部分がその制御対象部分に設定されていることをその要旨とする。
【0012】
この発明では、第2電圧調整手段では、サイリスタの点弧角制御が実施される半波整流部分のピーク前部分が制御対象とされ、このピーク前部分のサイリスタの整流動作(電圧生成動作)が制御されて、出力電圧の電圧値が調整される。これにより、出力電圧のリップル増加が低減され、この出力電圧の安定化が図られる。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の電源装置において、前記第2電圧調整手段では、可変抵抗器の抵抗値の変化に基づいて前記サイリスタの点弧のためのトリガ信号の位相が変更されることをその要旨とする。
【0014】
この発明では、第2電圧調整手段では、可変抵抗器の抵抗値の変化に基づいてサイリスタの点弧のためのトリガ信号の位相が変更される。つまり、可変抵抗器の抵抗値を変化させるだけで、容易にサイリスタの点弧角の調整が行える。
【0015】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の電源装置を用い、加工対象物のアーク加工を行うアーク加工用出力電圧を生成するように構成されているアーク加工用電源装置である。
【0016】
この発明では、請求項1〜4のいずれか1項に記載の電源装置が用いられてアーク加工用電源装置が構成されるため、上記各請求項の作用効果が得られるアーク加工用電源装置を提供できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、トランスの巻線タップ数を少なくしつつも出力電圧調整の微調整を可能にし、且つその調整を容易に行うことができる電源装置及びアーク加工用電源装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1は、本実施形態のアーク加工用電源装置11を備えたアーク加工機10を示す。アーク加工機10は、その電源装置11から出力されるアーク加工用出力電圧をトーチTHに供給し、そのトーチTHから加工対象物Mに向けてアークを発生させることで、加工対象物Mに対して溶接や切断等のアーク加工を行う装置である。
【0019】
アーク加工用電源装置11は、三相200V又は三相400Vの商用電源等から入力される三相交流電圧をアーク加工に適したアーク加工用出力電圧に変換する三相用の溶接トランスWTを備えている。溶接トランスWTの一次側では、開閉スイッチSW1がそれぞれ備えられU相、V相及びW相の入力交流電圧の供給を受けるU相、V相及びW相入力線L11〜L13を有し、U−V相入力線L11,L12間にはU相一次側巻線Puが、V−W相入力線L12,L13間にはV相一次側巻線Pvが、W−U相入力線L13,L11間にはW相一次側巻線Pwがそれぞれ備えられ、これら一次側巻線Pu,Pv,PwがΔ結線により接続されてなる。各相の入力線L11〜L13上の各開閉スイッチSW1は連動してオンオフされ、各相の一次側巻線Pu,Pv,Pwへの入力交流電圧の供給・遮断を行うものである。
【0020】
各相の一次側巻線Pu,Pv,Pwの他端側には、一定巻数ずつ段階的に増加する箇所から引き出された5個のタップTがそれぞれ備えられており、各相の一次側巻線Pu,Pv,Pwの他端側と接続される入力線L12,L13,L11の接続を各タップTの接点のいずれか1つに切り替える切替スイッチSW2がそれぞれ備えられている。各相の切替スイッチSW2は連動して動作され、各相それぞれで同位置のタップTに切替接続する。つまり、切替スイッチSW2によるタップTの選択にて一次側巻線Pu,Pv,Pwの巻数が5段階で変更され、溶接トランスWTの電圧変換率が5段階で変更される。これにより、溶接トランスWTの二次側で生成されるアーク加工用出力電圧の電圧値はこの一次側においては5段階で調整されるようになっている。
【0021】
溶接トランスWTの二次側では、Δ結線よりなる前記一次側巻線Pu,Pv,Pwに対し、Δ結線にてU相、V相及びW相二次側巻線S1u,S1v,S1wが接続されてなり、これら二次側巻線S1u,S1v,S1wはその頂点(各巻線S1u,S1v,S1w間の接続点)がそれぞれU相、V相及びW相出力線L21〜L23を介して二次側整流回路DR2に接続されている。
【0022】
二次側整流回路DR2は、3個のダイオードD1〜D3及び3個のサイリスタSCR1〜SCR3を用いた全波整流ブリッジ回路で構成されている。具体的には、ダイオードD1〜D3のアノードとサイリスタSCR1〜SCR3のカソードとが接続された3つの直列回路に対し、対応する出力線L21〜L23がダイオードD1〜D3とサイリスタSCR1〜SCR3との間にそれぞれ接続されるとともに、ダイオードD1〜D3のカソードが直流リアクトルDCLを有するプラス側出力線L31に、サイリスタSCR1〜SCR3のアノードがマイナス側出力線L32にそれぞれ接続されて構成されている。このプラス側出力線L31にはトーチTHが接続されるとともに、マイナス側出力線L32には加工対象物Mが接続され、トーチTHへのアーク加工用出力電圧の供給に基づいて該トーチTHから加工対象物Mに向けて加工のためのアークが生じるようになっている。
【0023】
また、各相のサイリスタSCR1〜SCR3のゲートは、それぞれ抵抗R11〜R13、ダイオードD11〜D13及びパルストランスPT1〜PT3の二次巻線部PT1b〜PT3bを介して自身のカソードにそれぞれ接続されている。サイリスタSCR1〜SCR3は、パルストランスPT1〜PT3を通じて後述の点弧角制御回路12による点弧角制御がなされ、溶接トランスWTの二次側でもアーク加工用出力電圧の電圧値が調整、この場合、連続調整(リニア調整)ができるようになっている。
【0024】
サイリスタSCR1〜SCR3の点弧角制御を行う点弧角制御回路12は、溶接トランスWTの二次側に備えられ、Δ結線よりなる前記一次側巻線Pu,Pv,Pwに対し、Y結線(スター結線)にて接続されるU相、V相及びW相補助巻線S2u,S2v,S2wを有している。これら補助巻線S2u,S2v,S2wは、各相の交流電圧の位相を検出する位相検出用電圧信号V1u,V1v,V1wを得るために設けられている。各相の補助巻線S2u,S2v,S2wの一端は中点としてグランドGND(ゼロボルト電位)に接続されるとともに、各相の補助巻線S2u,S2v,S2wの他端は、それぞれ位相シフタ13u,13v,13wを介してコンパレータ14u,14v,14wのプラス側入力端子に接続されている。各相の位相シフタ13u,13v,13wは、それぞれ抵抗及びコンデンサ等で構成されており、各相の補助巻線S2u,S2v,S2wで得られる位相検出用電圧信号V1u,V1v,V1wに対して60°遅延させた制御用電圧信号V2u,V2v,V2wを生成し(図2参照、但しU相のみ代表で図示)、各相のコンパレータ14u,14v,14wのプラス側入力端子にはこの制御用電圧信号V2u,V2v,V2wがそれぞれ入力される。各相のコンパレータ14u,14v,14wのマイナス側入力端子はともに可変抵抗器VRに接続されており、該マイナス側入力端子には可変抵抗器VRにて抵抗を変化させることで電圧調整可能な比較電圧Vaが入力されている。
【0025】
ここで、各相の補助巻線S2u,S2v,S2wの他端は、それぞれダイオードD21〜D23を介してカソード側で互いに接続され、そのカソードが平滑コンデンサC1を介してグランドGNDに接続されている。つまり、補助巻線S2u,S2v,S2wで生じる相電圧(位相検出用電圧信号V1u,V1v,V1w)からこれらダイオードD21〜D23と平滑コンデンサC1とで直流電圧VDCを生成する直流電圧生成部15が構成され、生成された直流電圧VDCは抵抗R21を介して前記可変抵抗器VRに供給される。可変抵抗器VRは、供給された直流電圧VDCから比較電圧Vaを生成し、抵抗値を漸次変化させることでその比較電圧Vaの電圧値が漸次変化するようになっている。
【0026】
各相のコンパレータ14u,14v,14wの出力端子は、それぞれコンデンサC11〜C13を介してトリガ生成用トランジスタTr1〜Tr3のベースに接続されている。各コンパレータ14u,14v,14wは、各相の制御用電圧信号V2u,V2v,V2wと比較電圧Vaとの入力に基づいて、制御用電圧信号V2u,V2v,V2wの電圧値が比較電圧Vaを越える期間でHレベルとなる出力信号をコンデンサC11〜C13を介して各トランジスタTr1〜Tr3のベースにそれぞれ出力する。各トランジスタTr1〜Tr3のコレクタは、それぞれ各相の前記パルストランスPT1〜PT3を構成する一次巻線部PT1a〜PT3a及び共通の起動/停止用リレー接点CRを介して直流電圧生成部15に接続されており、エミッタはそれぞれダイオードD31〜D33を介してベースに接続されるとともに、それぞれグランドGNDに接続されている。
【0027】
このように構成された点弧角制御回路12では、図2を参照しつつU相を中心に説明すると、可変抵抗器VRの抵抗値の変化に基づいて、コンパレータ14u,14v,14wに入力される比較電圧Vaの電圧値がゼロボルトと所定電圧との間で上下し、これにより例えばU相では、コンパレータ14uの出力信号のHレベルへの立ち上がりがU相の制御用電圧信号V2uの0°〜30°の範囲で変化する。
【0028】
コンパレータ14uの出力信号がHレベルに立ち上がると、後段のコンデンサC11はその立ち上がりの短い時間にオンのためのベース電流をトランジスタTr1に出力し、該トランジスタTr1はこのベース電流に基づいてオンされる。U相のトランジスタTr1のコレクタ電位の変化から分かるように、該トランジスタTr1のオンに基づいてコレクタ電位がコンパレータ14uの出力信号の立ち上がりから短い時間だけゼロ(グランドGNDレベル)となり、これによりパルストランスPT1の一次巻線部PT1aにてひげ状のトリガ信号が生成される。
【0029】
生成されたU相のトリガ信号は、パルストランスPT1を介してU相のサイリスタSCR1のゲートに入力され、該サイリスタSCR1は、コンパレータ14uの出力信号の立ち上がり、即ち制御用電圧信号V2uの0°〜30°の範囲のいずれかに立ち上がるトリガ信号に基づいてオン状態に切り替えられる。V相及びW相のトリガ信号についても同様にして生成される。生成されたV相及びW相のトリガ信号は、それぞれV相及びW相のサイリスタSCR2,SCR3のゲートに入力され、該サイリスタSCR2,SCR3は、コンパレータ14v,14wの出力信号の立ち上がり、即ち制御用電圧信号V2v,V2wの0°〜30°の範囲のいずれかに立ち上がるトリガ信号に基づいてそれぞれオン状態に切り替えられる。
【0030】
これらU相、V相及びW相の制御用電圧信号V2u,V2v,V2wの0°〜30°を含む60°までの範囲は、各相のサイリスタSCR1〜SCR3の点弧角制御が実施される半波整流部分であり、その制御にて整流回路DR2の出力電圧に変化が生じる部分である。特に、制御用電圧信号V2u,V2v,V2wの0°は、直前の整流部分から上回る境目点である。従って、可変抵抗器VRの抵抗値を漸次変化させることで各相のサイリスタSCR1〜SCR3の点弧角が0°〜30°の範囲で変更され、その半波整流部分のピーク前部分のサイリスタSCR1〜SCR3の整流動作(電圧生成動作)が制御され、出力電圧の電圧値が調整される。因みに、サイリスタSCR1〜SCR3の点弧角を30°から0°に向かって変更させることで、出力電圧の電圧値が上昇するようになっている。
【0031】
尚、サイリスタSCR1〜SCR3の点弧角制御は、0°〜60°の範囲まで拡大可能であり、このようにすればより広い電圧調整も可能となる。これに対し本実施形態では、その点弧角制御を0°〜30°に限定することにより点弧角制御が30°以降になった場合の整流回路DR2の出力電圧、即ちアーク加工用出力電圧のリップル増加を低減することができ、アーク加工用出力電圧の安定化が図られている。
【0032】
こうして、整流回路DR2の出力電圧、即ちトーチTHに供給するアーク加工用出力電圧の電圧値が溶接トランスWTの二次側でも調整できるようになっており、本実施形態では、一次側のタップTによる段階的な調整電圧にラップさせるようにこの二次側では出力電圧の連続調整が可能となっている。つまり、このアーク加工用電源装置11では、一次側のタップTの切り替えと二次側の点弧角制御との組み合わせにより、アーク加工用出力電圧の連続調整を広い範囲で行うことが可能な構成となっている。
【0033】
しかも、二次側の点弧角制御でのアーク加工用出力電圧の調整は、アーク加工中でも調整可能であることからその調整が容易であり、また電源装置11の起動・停止を繰り返さなくても済むことから、電源装置11の開閉スイッチSW1の接点保護に寄与できる。また、サイリスタSCR1〜SCR3を用いていることから電源装置11の停止制御も容易であり、トーチTHにアークを生じさせる電極としてワイヤを自動送り装置により送られるものにおいては、サイリスタSCR1〜SCR3の停止制御にてアンチスティック時限(自動送り装置によるワイヤの慣性分、トーチTHへの電圧供給の停止を遅らせ、加工後にワイヤが加工対象物Mに接合されてしまうことを防止するための時限)の設定も容易となる。
【0034】
次に、本実施形態の特徴的な作用効果を記載する。
(1)本実施形態では、溶接トランスWTの各相の一次側巻線Pu,Pv,Pwに備えられるタップTの接続位置を切替スイッチSW2にて切り替えることで該溶接トランスWTの電圧変換率が変更され、これによりアーク加工用出力電圧の電圧値が段階的に調整される(第1電圧調整手段)。また、点弧角制御回路12による二次側整流回路DR2のサイリスタSCR1〜SCR3の点弧角制御により、トランス変換後の交流電圧から該整流回路DR2にて直流出力電圧を生成する際のその出力電圧、即ちアーク加工用出力電圧の電圧値が連続的に調整される(第2電圧調整手段)。これにより、一次側巻線Pu,Pv,Pwに備えられるタップTの数を本実施形態のように5個と少ない構成としても整流回路DR2でのサイリスタSCR1〜SCR3の点弧角制御により、アーク加工用出力電圧の連続調整(微調整)を行うことができる。しかも、このサイリスタSCR1〜SCR3の点弧角制御による電圧調整は電源装置11が動作中でも行えることから、その電圧調整は容易である。また、サイリスタSCR1〜SCR3の点弧角制御のみによる電圧調整は広い範囲の電圧調整には不向きであるが、タップTの切替接続による電圧調整との組み合わせにより、広い範囲の電圧調整にも対応することができる。
【0035】
(2)本実施形態では、タップTの切替接続による段階的な調整電圧にラップするように、サイリスタSCR1〜SCR3の点弧角制御による電圧調整幅が設定されている。これにより、広い範囲の連続したアーク加工用出力電圧の電圧調整を行うことができる。
【0036】
(3)本実施形態では、サイリスタSCR1〜SCR3の点弧角制御が実施される半波整流部分のピーク前部分が制御対象とされ、このピーク前部分のサイリスタSCR1〜SCR3の整流動作(電圧生成動作)が制御されて、出力電圧の電圧値が調整される。これにより、整流回路DR2の出力電圧、即ちアーク加工用出力電圧のリップル増加を低減することができ、アーク加工用出力電圧の安定化を図ることができる。
【0037】
(4)本実施形態では、可変抵抗器VRの抵抗値の変化に基づいてサイリスタSCR1〜SCR3の点弧のためのトリガ信号の位相が変更される。つまり、可変抵抗器VRの抵抗値を変化させるだけで、容易にサイリスタSCR1〜SCR3の点弧角の調整を行うことができる。
【0038】
尚、本発明の実施形態は、以下のように変更してもよい。
・上記実施形態では、一次側巻線Pu,Pv,Pwに複数のタップTを設け、タップTの切替接続による出力電圧の調整を溶接トランスWTの一次側で行う構成としたが、二次側巻線S1u,S1v,S1wにタップを設け、トランスWTの二次側で出力電圧の調整を行うようにしてもよい。
【0039】
・上記実施形態では、一次側巻線Pu,Pv,Pw及び二次側巻線S1u,S1v,S1wをともにΔ結線したΔ−Δ変換型の溶接トランスWTを用いたが、Δ−Y変換やY−Δ変換、更にはY−Y変換型の三相トランスを用いて電源装置を構成してもよい。また、トランスの二次側をY結線の巻線で構成した場合、上記実施形態のように全波整流回路でなく、半波整流回路を用いることもできる。
【0040】
・上記実施形態では、整流回路DR2を3個のサイリスタSCR1〜SCR3と3個のダイオードD1〜D3とで構成したが、6個のサイリスタで構成してもよく、この場合、サイリスタの点弧角制御による電圧調整幅を拡大することができる。
【0041】
・上記実施形態では、サイリスタSCR1〜SCR3の点弧角制御が実施される半波整流部分のピーク前部分をその制御対象としたが、そのピーク後部分もその制御対象としてもよい。このようにすれば、サイリスタSCR1〜SCR3の点弧角制御による電圧調整幅を拡大することができる。
【0042】
・上記実施形態の点弧角制御回路12の構成を適宜変更してもよい。例えば、補助巻線S2u,S2v,S2wをY結線としたものを用いたが、Δ結線で構成したものを用いて制御回路を構成してもよい。また、バイポーラ型のトランジスタTr1〜Tr3を用いたが、その他のスイッチング素子を用いて構成してもよい。また、サイリスタSCR1〜SCR3の点弧角の調整(トリガ信号の位相調整)を可変抵抗器VRにて行う構成としたが、可変抵抗器以外で調整する態様としてもよい。
【0043】
・上記実施形態では、アーク加工用電源装置11に実施したが、アーク加工用以外の用途の電源装置に実施してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本実施形態のアーク加工用電源装置を示す回路図である。
【図2】電源装置各所の波形図である。
【符号の説明】
【0045】
11…電源装置
12…点弧角制御回路(第2電圧調整手段)
DR2…二次側整流回路(整流回路)
Pu,Pv,Pw…一次側巻線
S1u,S1v,S1w…二次側巻線
SCR1〜SCR3…サイリスタ(第2電圧調整手段)
SW2…切替スイッチ(第1電圧調整手段)
T…タップ(第1電圧調整手段)
VR…可変抵抗器
WT…溶接トランス(三相トランス)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力された三相交流電圧を所定電圧値の交流電圧に変換する三相トランスと、該三相トランスにて変換された変換後の三相交流電圧を直流出力電圧に変換する整流回路とを備えてなる電源装置であって、
前記三相トランスの各相の一次側巻線又は二次側巻線にそれぞれ巻数の異なる箇所から引き出された複数のタップを有し、該タップの接続位置を切り替えることで前記出力電圧の電圧値を段階的に調整する第1電圧調整手段と、
前記整流回路は各相で少なくとも1個のサイリスタを用いた全波又は半波整流回路で構成され、該サイリスタの点弧角制御に基づいて前記出力電圧の電圧値を連続的に調整する第2電圧調整手段と
を備えたことを特徴とする電源装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電源装置において、
前記第2電圧調整手段では、前記サイリスタの点弧角制御による電圧調整幅が前記第1電圧調整手段における前記タップの切替接続による段階的な調整電圧にラップさせるように設定されていることを特徴とする電源装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電源装置において、
前記第2電圧調整手段では、前記サイリスタの点弧角制御が実施される半波整流部分のピーク前部分がその制御対象部分に設定されていることを特徴とする電源装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の電源装置において、
前記第2電圧調整手段では、可変抵抗器の抵抗値の変化に基づいて前記サイリスタの点弧のためのトリガ信号の位相が変更されることを特徴とする電源装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の電源装置を用い、加工対象物のアーク加工を行うアーク加工用出力電圧を生成するように構成されていることを特徴とするアーク加工用電源装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−171684(P2009−171684A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−4728(P2008−4728)
【出願日】平成20年1月11日(2008.1.11)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)
【Fターム(参考)】