説明

電界強化構造、及び該構造を利用した検出装置

本発明の種々の態様は、電界強化構造(100)、及び該電界強化構造を使用した検出装置(600, 700, 800)に関する。本発明の実施形態において、電界強化構造(100)は、表面(104)を有する基板(102)を含む。基板(102)は、平面モード周波数を有する平面モード(114)を有することができる。複数のナノ構造(106)が表面(104)に関連し、各ナノ構造(106)は、平面モード周波数にほぼ等しい局在表面プラズモン周波数を有する局在表面プラズモンモード(116)を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、概して、検出装置のような多数の異なる用途に使用される電界強化構造に関する。
【背景技術】
【0002】
金属粒子の周りにおける電界の強化は、現在の科学的、及び技術的に関心のある一つの話題である。例えば、表面増強ラマン分光法(SERS)は、特別に作成された粗面化された金属表面、又は金属粒子の付近の強化電界を使用し、検体から非弾性的に散乱されたラマン放射光の量を増加させる一つの周知の分光法である。SERSでは、検体は、活性化された金属表面、又は構造に吸収され、又は、その金属表面に隣接して置かれる。特定周波数の電磁波(EMR)を受けた検体、及び金属表面、又は粒子からの放射光は、金属表面、又は粒子に表面プラズモンポラリトン(SPP)を励起する。
【0003】
表面増強ラマン分光法においては、検体は、SPPの非常に強い局所的な電界を受け、検体のラマン光子特性は、検体から非弾性的に散乱される。電界の強化は、金属表面、又は粒子を使用せずにラマン分光法を実施する場合に比べてラマン放射を相対的に増加させるための、一つの重要な要素であると考えられる。例えば、金属表面からの電界の強化は、ラマン散乱の強度を10倍から10倍まで増強する場合がある。
【0004】
近年、ラマン分光法は、電界を増強するために、単純な粗面化された金属表面ではなく、ナノスケールの針状部材、島状部材、及びワイヤのような不規則な向きを有する金属ナノ粒子を使用して実施されている。そうした金属表面に吸収される分子からのラマン散乱光子の強度は、10倍を上回る倍率で増強される場合がある。この程度の感度において、ラマン分光法は、微量の種の検出に使用することができ、ナノ増強ラマン分光法(NERS)と呼ばれることがある。
【0005】
SERS、及びNERSに関する上記の記載から分かるように、金属粒子の周囲における電界の増強は、非常に有用な場合がある。電界の強化は、SERS、及びNERSの他に、赤外線分光法、センサ、ラマン撮像装置、ナノアンテナ、及び他の用途といった他の用途にも使用されることがある。従って、電界強化構造の研究者、及び開発者は、センサ、ラマン分光システム、及び他の用途のような広く様々な用途において使用可能な改良型電界強化構造の必要性をよく理解している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の種々の態様は、電界強化構造、及び該電界強化構造を利用した検出装置に関する。本発明の一態様において、電界強化構造は、表面を有する基板を含む。基板は、平面モード周波数を有する平面モードを有することができる。複数のナノ構造が、表面に関連し、各ナノ構造は、平面モード周波数にほぼ等しい局在表面プラズモン周波数を有する局在表面プラズモンモードを示す。励起電磁放射により励起されると、ナノ構造の局在表面プラズモンモードと、平面モードとが、互いに建設的に干渉し、強化磁界を生成する。
【0007】
図面は、本発明の種々の実施形態を示し、図中、異なる図面における同じ符号は、同じ要素、又は特徴を指している。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1A】本発明の一実施形態による電界強化構造を示す略等角図である。
【図1B】図1Aに示した電界強化構造を示す略平面図である。
【図1C】ライン1C−1Cに沿って切断して見たときの、図1Bに示す電界強化構造を示す略断面図である。
【図2】本発明の他の実施形態による電界強化構造を示す略平面図である。
【図3A】本発明のさらに別の実施形態による、ナノ粒子の周期的配置を利用した電解強化構造を示す略平面図である。
【図3B】ライン3B−3Bに沿って切断して見たときの、図3Aに示す電界強化構造を示す略断面図である。
【図4】本発明の他の実施形態による、誘電体材料を含む電界強化構造を示す略等角図である。
【図5】本発明の更に別の実施形態による、誘電体表面モードを支持するように構成された電界境界基板を示す略等角図である。
【図6】本発明の一実施形態による未公開の電界強化構造をいずれも使用することが可能な検出装置を示す機能ブロック図である。
【図7】本発明の一実施形態による多重回折格子を利用する電界効果構造を含む検出装置を示す略等角図である。
【図8】本発明の一実施形態による開示した検出装置のいずれかとして構成される複数の検出装置サブユニットを含む検出装置を示す機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の種々の実施形態は、電界強化構造、及び該電界強化構造を利用した検出装置に関する。電界強化構造に関して開示する実施形態は、基板の表面に関連する複数のナノ構造を含む。各ナノ構造の局在表面プラズモン(LSP)モード、及びその構造の平面モードは、所定周波数のEMRによって励起され、表面の付近に強化電界を生成する。強化電界は、例えば、SERS、赤外線分光法、及び多くの他の用途に使用することができる。
【0010】
図1A〜図1Cは、本発明の一実施形態による電界強化構造100を示す。電界強化構造100は、表面104を有する基板102を含む。ナノ粒子106のような複数のナノ構造が、表面104上に形成される場合がある。各ナノ粒子106の一般的サイズは、約2nm〜約200nmである。また、ナノ粒子106の形状は、図示したものとは異なる場合もある。例えば、各ナノ粒子106は、概ね球形、半球形、円筒形、又は他の適当な形状を有する場合がある。本明細書において、「ナノ構造」とは、ナノ粒子、又はナノホールを意味する。ナノ粒子106は、回折格子を形成するように、ある周期的な配置を成して基板104上に分布している。図面では、例えば、ナノ粒子106は、格子定数dを有する正方格子構成を成すものとして示されている。ただし、複数のナノ粒子106は、これに制限されることなく、他の周期的構成を有する場合もある。距離dの一般的範囲は、約50nm〜数マイクロメートルである。
【0011】
各ナノ粒子106は、表面プラズモンを有することが可能な金属、合金、又は縮退ドープされた半導体材料のようなプラズモン活性材料から形成される。例えば、各ナノ粒子106は、銅、金、パラジウム、銀、又はそれらの金属の任意の合金、あるいは、他の適当なプラズモン活性材料から構成される場合がある。各ナノ粒子106において、局在表面プラズモンは、特定周波数の励起EMRに応答して励起される場合がある。表面プラズモンとは、固体表面付近における自由電子群の振動である。LSPは一般に、表面形電磁共振、粒子プラズモン、及びギャップ・プラズモンとも呼ばれる。複数のナノ構造(例えば、ナノ粒子、又はナノホール)においてLSPを励起させることが可能な周波数(複数の場合もあり)は、表面プラズモンが束縛される相手先のナノ構造のサイズ、及び形状、ナノ構造の誘電率、並びにナノ構造間の間隔の関数である。ナノ粒子106のような複数のナノ構造は、一般に、個々のナノ粒子106のサイズ、及び形状に影響されるだけでなく、格子定数dにも強く影響されるLSPモードのスペクトルを示す。従って、各ナノ粒子106においてEMRがLSPモードを励起させることが可能な周波数(複数の場合もあり)は、ナノ粒子106のサイズ、形状、及び間隔を調節することによって、調節することができる。
【0012】
基板102、及び基板の表面104は、SPPを励起させることが可能な金属、合金、又は縮退ドープされた半導体材料のような材料から形成される。例えば、基板102は、銅、金、パラジウム、銀、それらの金属の任意の合金、又は他の適当な材料から形成される場合がある。ただし、本発明の他の実施形態において、基板102は、例えばガラス基板から形成される基板、及び該基板上に蒸着された上記のプラズモン活性材料のうちの任意のものから形成された薄膜を含む場合がある。
【0013】
SPPとは、金属のような負の誘電率を有する材料と、実際の正の誘電率を有する媒体との間の境界に沿って進む電磁界による電磁励起である。SPPは、負の誘電率を有する材料の表面プラズモンに光子が結合する結果として生成される。従って、表面104は、少なくともある範囲のEMR周波数において、負の実誘電率を示し、表面104に隣接する媒体(例えば、空気)は、前記表面104が正の実誘電率を示すEMR周波数の範囲の少なくとも一部において、正の実誘電率を示す。表面104は、表面104に沿って伝搬するSPPモードを支持することができる。SPPモードは、表面104、及びその直ぐ隣りの領域に制限されるため、SPPモードの電界の強度は、SPPモードを励起させるために使用されるEMRに対して、相対的に強化される。SPPモードの周波数は、主に表面104、及び隣接媒体の誘電率の選択によって調節することができる。SPPモードは、例えば、約1μm〜約200μmの長さを伝搬する場合がある。
【0014】
自由空間光と、SPPモードとの間の分散関係が原因で、自由空間光を使用してSPPモードを直接励起することは出来ない場合がある。表面104にSPPモードを励起させるためには、自由空間光のエネルギー、及び運動量を、SPPモードのエネルギー、及び運動量に一致させる必要がある。従って、複数のナノ粒子106によって規定される電界強化構造100の回折格子108は、励起源112によって放射される励起周波数ω、及び励起波長λを有するEMR110を、表面104に沿って伝搬するSPPモード114(すなわち、平面モード)に結合するように構成される。SPPモード114は、励起周波数ωにほぼ等しいSPP周波数ωSPPを有する。波長λは概ね、回折格子108の格子定数dの整数倍(すなわち、n・λ、ただし、nは整数、λはEMR110の波長)である。また、各ナノ粒子106は、サイズ、形状、及び組成を調節することにより、各ナノ粒子106が、励起周波数ωにほぼ等しいLSP周波数ωLSPを有するLSPモード116を示し、励起周波数ωのEMR110を使用して、各ナノ粒子106を励起させることができるように構成される場合がある。
【0015】
使用の際には、励起周波数ωを有するEMR110が、電界強化構造100に照射され、LSP周波数ωLSPを有する複数のナノ粒子106に関連するLSPモード116が励起される。前述のように、LSP周波数ωLSPは、EMR110の励起周波数ωにほぼ等しい。ナノ粒子106によって規定される回折格子108は、EMR110も回折させ、回折されたEMRは、SPPモード114の波動ベクトルに一致する波動ベクトルを有するものとなる。従って、EMR110は、各ナノ粒子106のLSPモード116、SPPモード114の両方を励起する。LSPモード116とSPP14は同相であるから、LSPモード116とSPP114は、互いに建設的に干渉し、LSPモード116、又はSPPモード114のいずれかの単独によって生成される強化電界よりも大きな電界を有する電磁波を生成する。さらに、強化電界は、主に基板102の表面104の全面積にわたって分配される場合がある。
【0016】
図1A〜図1Cに示した回折格子108は、単に、本発明の一実施形態を表すものである。本発明の他の実施形態では、複数の回折部材が設けられ、各回折部材が、複数のナノ粒子を含む場合がある。例えば、図2は、本発明の一実施形態による電界強化構造200を示している。電界強化構造200は、回折格子を形成するように基板102の表面104に分布する複数のナノ粒子201を含む。ナノ粒子201は、図1A〜図1Cに示したナノ粒子106と同じ材料から形成される場合がある。回折格子202は、距離Dだけ互いに周期的間隔を空けて配置された複数の回折部材203〜206を含む。回折部材203〜206はそれぞれ、距離aだけ互いに間隔を空けて配置された複数のナノ粒子201を含む場合がある。例えば、回折部材203は、ナノ粒子201の行207、及び列208を含む場合がある。距離Dは、約0.1μm以上であってよく、粒子間隔aは、約1nm〜約10nmであってよい。回折格子202は、前述のように、入射EMRを回折させ、回折されたEMRの一部を表面104に関連するSPPモードに結合する働きをする。
【0017】
上で示唆したように、図1A〜図1C、及び図2に示したナノ粒子106、又は201の代替、又は追加として、ナノホールを使用してもよい。例えば、図3A、及び図3Bは、本発明の他の実施形態による電界強化構造300を示している。電界強化構造300は、図1A〜図1Cに示した基板102に使用されたものと同じプラズモン活性化材料から形成されてもよい。基板302の表面304は、表面304から基板302内の中間深さまで延びる(すなわち、ブラインドホール)、又は基板302の厚みを完全に貫通して延びる(すなわち、スルーホール)ナノホール306の周期的配置を有している。図面では、ナノホール306は、格子定数dを有する正方格子を成すように配置されるものとして描かれている。ただし、ナノホール306の配置は、これに制限されることなく、他の周期的配置であってもよい。使用の際には、EMRが、ナノホール306の配置、及び間隔によって決まるLSPモードと、表面304に関連するSPPモードとの両方を励起し、図1A〜図1Cに示した電界強化構造100と同様の仕方で、強化電界を生成する。
【0018】
電界強化構造100、200、及び300は、SPPモードとLSPモードの組み合わせを使用し、強化電界を生成する。本発明の他の実施形態では、強化電界を生成するために、LSPモードが、複数のナノ粒子において励起されるとともに、導波モードが、基板に励起される場合がある。図4は、本発明の一実施形態による、そのような概念を利用した電界強化構造400の一実施形態を示している。電界強化構造400は、表面404を有する誘電体基板402を含む。誘電体基板402は、半導体材料のような種々の誘電体材料、及び絶縁体材料(例えば、シリコン、シリコン酸化物など)から形成される。複数のナノ粒子406が、周期的構成を成して基板404上に分布し、格子408を形成している。ナノ粒子406は、図1A〜図1Cに示したナノ粒子106と同じ材料から形成される場合がある。例えば、図面では、ナノ粒子406は、格子定数dを有する正方格子を成すものとして描かれている。しかしながら、複数のナノ粒子406は、これに限定されることなく、他の構成を成すように配置されてもよい。表面404に隣接する媒体は、基板402の屈折率nsubよりも小さい屈折率nを示す。
【0019】
基板402の屈折率nsubと、表面404に隣接する媒体の屈折率nとの間の差によって、基板402は、モード周波数ωGMを有する導波モード414(すなわち、平面モード)を有することが出来る。図面では、導波モード414の強度分布が、基板402の上に重ねて描かれている。誘電体表面モード114の周波数ωGMは、基板402の屈折率nsub、及び基板402の表面404に隣接する媒体の屈折率nの適当な選択によって、調節することができる。図1A〜図1Cに示す電界強化構造100を参照して前述したように、回折格子408は、励起源412から放射される励起周波数ωを有する入射EMR410を導波モード414に結合するように構成される場合がある。さらに、ナノ粒子406のサイズ、形状、及び組成は、各ナノ粒子406が、励起周波数ωと、誘電体表面モード周波数ωDSWとの両方にほぼ等しいLSP周波数ωLSPを有するLSPモード416を示すように選択される。従って、使用の際に、入射EMR410が、複数のナノ粒子406に関連するLSPモード416と、導波モード414との両方を励起し、それらが互いに建設的に干渉し、強化電界を有する電磁界が生成される。導波モード414は、基板402の幅方向に延在し、導波モード414の強度は、表面404から遠ざかるにつれて次第に減衰し、十分に距離では、導波モード414は、LSPモード416と相互作用し、LSPモード416と建設的に干渉し、強化電界を生成することができる。別の言い方をすれば、LSPモード416は、比較的高損失、及び高電界強度を示し、低損失、かつ低電界強度の導波モード414と混合され、LSPモード416の局所的な高電界特性を維持する複合共鳴を生成する。しかしながら、複合共振は、LSPモード416よりも低い総合損失を示し、LSPモード416単体の場合に比べて、数桁大きな電界強度を達成することができる。導波モード414のエネルギー密度は一般に、SPPモードのエネルギー密度に比べて数桁小さいが、その伝搬長は、約1mm〜約10mmにすることができる。
【0020】
図5は、本発明のさらに別の実施形態による電界強化構造500を示している。電界強化構造500は、表面504を有する基板502を含み、その上に、複数のナノ粒子406が形成される場合がある。基板502は、誘電体層503と505を交互に積み重ねた周期的スタックを含む。誘電体層503は、第1の屈折率nを有する誘電体材料であり、誘電体材料505は、nに等しくない第2の屈折率nを有する誘電体材料である。基板502内に導波モードを有する代わりに、表面504は、方向515へ伝搬し、かつ基板502の幅方向に延在する誘電体表面モード514(すなわち、平面モード)を有することができる。図面では、誘電体表面モード514の強度分布は、基板502に重ねて描かれている。図示のように、誘電体表面モード514の強度は、表面504から遠ざかるにつれて次第に減衰する。誘電体表面モード514についての分散特性は、第1の屈折率n、第2の屈折率n、及び交互に重なる層の数の選択によって調節することができる。従って、誘電体表面波514についてのモード周波数ωDSMは、上記パラメタ(例えば、n、n、及び交互に重なる層503、及び504の数)を変更することによって調節することができ、モード周波数ωDSMが、各ナノ粒子406のLSP周波数ωLSPに概ね等しくなるように調節される場合がある。誘電体表面モード514のエネルギー密度は一般に、SPPモードのエネルギー密度に比べて数桁小さいが、その伝搬長は、約1mm〜約10mmにすることができる。
【0021】
複数のナノ粒子106、201、及び406は、多数の周知の製造技術を使用して形成することができる。例えば、ナノ粒子は、プラズモン活性材料から成る薄膜を表面に堆積し、その薄膜を十分な温度で、かつ十分な時間をかけて焼きなまし、プラズモン活性材料の凝集を生じさせることによって形成される場合がある。必要であれば、図2に示した回折格子202のように、そのように形成されたナノ粒子の一部を、リソグラフィ法(例えば、電子ビームリソグラフィ、又はフォトリソグラフィ)、又は集束イオンビームミリングを使用して除去してもよい。比較的大きなサイズのナノ粒子、又はナノホールの場合、ナノ粒子、又はナノホールは、ナノインプリントリソグラフィ、電子ビームリソグラフィ、集束イオンビームミリング、又は他の適当な技術を使用して、薄膜、又は基板に直接形成される場合がある。
【0022】
図1A〜図5を参照して上で図示説明した電界強化構造に関する上記の実施形態はいずれも、多数の異なる検出装置において使用することができる。例えば、開示した電界強化構造は、センサ、及び分析装置(例えば、ラブオンチップ、又はより大きなデスクトップ分析装置)として使用される検出装置において使用される場合がある。図6は、本発明緒一実施形態による検出装置600を示す機能ブロック図である。検出装置600は、ラマン分光システム、又は赤外線分光システムとして動作する場合がある。検出装置600は、前述の電界強化構造100、200、300、400、及び500のいずれかとして構成される電界強化構造602を含む。ただし、例示のために、電界強化構造600は、ナノ粒子として表現された複数のナノ構造604を有する基板603を有するものとして描かれている。本発明の特定の幾つかの実施形態では、ナノ粒子、及び/又は基板603に対する特定の検体の結合を促進するために、ナノ粒子、及び/又は基板603は、官能性分子によって覆われる場合がある。検出装置600は、励起EMR放射源606、及び検出器608をさらに有する。検出装置600は、励起EMR放射源606と電界強化構造602の間に配置された種々の光学部品610、並びに電界強化構造602と検出器608の間に配置された種々の光学部品612をさらに含む場合がある。
【0023】
励起EMR放射源606は、所望の波長/周波数のEMRを放射する任意の適当な放射源を含む場合があり、また、調節可能な波長/周波数のEMRを放射する機能を有する場合がある。例えば、市販の半導体レーザ、ヘリウム−ネオンレーザ、炭酸ガスレーザ、発光ダイオード、白熱灯、及び多数の他の既知のEMR放射源が、励起EMR放射源606として使用される場合がある。励起EMR放射源606によって放射されるEMRは、ラマン分光法、又は赤外線分光法を使用する検体の分析、並びに、複数のナノ構造604のLSPモード、及び基板603の平面モードの励起に適した、任意の適当な波長/周波数を有する場合がある。例えば、励起EMR606は、約350nm〜約1000nmの波長範囲を有するEMRを放射する場合がある。励起EMR放射源606によって放射される励起EMRは、EMR放射源606から電界強化構造602へ直接導かれる場合がある。あるいは、励起EMRが電界強化構造602に衝突する前に、光学部品610により、励起放射のコリメーション、フィルタリング、及びその後の商店調節が実施される場合がある。光学部品610は、励起EMRの偏光方向を選択的に制御するための1以上の偏光板をさらに含む場合がある。
【0024】
検出装置600が、ラマン分光システムとして使用される場合、電界強化構造602は、検体のラマン信号を増強することができる。換言すれば、複数のナノ構造604、及び基板603の放射は、複数のナノ構造604のLSPモードと、基板603の平面モードとを同時に励起し、それらが、互いに建設的に干渉し、上で説明したような強化電界が生成される。強化電界は、複数のナノ構造604、及び基板604の近くに、又はそれに隣接して配置された検体614によって非弾性的に散乱される光子の数を増加させることができる。
【0025】
ラマン散乱された光子は、光学部品612を使用してコリメートされ、フィルタリングされ、又は焦点調節される。例えば、フィルタ、又は複数のフィルタが、検出器608の構造の一部として、又は励起放射の波長をフィルタリングするように構成された独立ユニットとして使用され、ラマン散乱された光子のみを検出器608によって受け取ることが可能となる。検出器608は、ラマン散乱された光子を受け取り、検出し、単色分光器(又は、ラマン散乱された光子の波長を判定するのに適した任意の適当なデバイス)、及び、例えばラマン散乱された光子の質(強度)を判定するための光電子倍増管のようなデバイスを含む場合がある。
【0026】
検出装置600を使用してラマン分光法を実施するために、ユーザは、電界強化構造602の複数のナノ構造604に隣接して検体614を配置する場合がある。検体614、及び電界強化構造602は、励起EMR放射源606からの励起EMRの照射を受ける。ラマン分光法の場合、励起EMRの波長は通常、紫外線領域にある。そして、検体によってラマン散乱された光子は、検出器608によって検出される。励起EMRに応答し、電界強化構造602により生成された強化電界により、ラマン散乱される光子の強度は、10倍から単一の分子、又は他の非常に低密度の検体の検出が可能な1016倍まで増強される。
【0027】
検出装置600は、反射吸収赤外線分光(RAIRS)システムとして動作させることもできる。そのような一実施形態において、電界強化構造602は、EMR放射源600からの特定周波数のEMRに応答し、強化電界を生成するように設計される。また、EMR放射源600から放射される励起EMRの具体的な周波数は、一般に、検体614の振動形式に対応する。使用の際に、励起EMR放射源600から、検体612の振動形式に対応する特定周波数を含む広範囲、又は狭範囲の周波数にわたって、赤外線EMRが放射される。入射赤外線EMRは、検体614、及び電界強化構造602に照射される。特定周波数の赤外線EMRの場合、強化電界は、前述のように、電界強化構造602によって生成される。強化電界は、検体614の振動形式における、検体614による赤外線EMRの吸収を促進する。検出器608が、電界強化構造602から反射された赤外線EMRを検出すると、検体614の振動モードにおいて、反射スペクトルの中に特定タイプの分子の存在を意味する明白なくぼみが観察される場合がある。電界強化構造602によって生成された強化電界によって、特定周波数、又はその付近の周波数における検体614による赤外線EMRの吸収は、約10倍から約1010倍まで増加される場合がある。そのような吸収の強化によれば、検出装置600は、単一の分子、又は他の低密度の検体を検出することが可能になる。
【0028】
図7は、本発明の更に別の実施形態による検出装置700を示している。検出装置700は、電界強化構造702、励起EMR放射源704、及び検出器706を含む。電界強化構造702は、表面710を有する基板708を含み、その上に、複数のナノ構造7112が形成される。例えば、図示の実施形態において、各ナノ構造712は、プラズモン活性材料から作られたナノ粒子である。しかしながら、ナノ構造712の全部、又は一部は、基板708の表面710に形成されたナノホールであってもよい。上で説明した電界強化構造を使用する場合、複数のナノ構造612、及び基板708は、各ナノ構造712のLSPモードと、基板708の平面モード(例えば、SPPモード、誘電体表面モード、又は導波モード)とが、EMR放射源704によって放射される周波数ωのEMR714によって、実質的に同時に励起されるように設計される。本発明の特定の実施形態では、ナノ粒子、及び/又は基板710に対する特定の検体の結合を促進するために、ナノ粒子、及び/又は基板708の表面710が、機能性分子によって覆われる場合がある。
【0029】
電界強化構造702は、複数のナノ構造712の一方の側に配置され、周波数ωのEMR714を基板708が有する平面モードへと回折する第1の回折格子716をさらに含む。第2の回折格子718は、複数のナノ構造712の他方の側に配置され、基板708の平面モードに結合されたEMRを回折するように構成される。本発明の種々の実施形態によれば、第1の回折格子714と第2の回折格子716は、異なる周波数のEMRを回折するように構成される場合もあれば、同じ周波数のEMRを回折するように構成される場合もある。第1の回折格子716、及び第2の回折格子718は、適当なサイズのアレイから形成され、粒子、又はホール(例えば、ナノ粒子、及び/又はナノホール)として構成される場合がある。
【0030】
本発明の特定の実施形態において、励起EMR放射源704は、第1の回折格子716に近接して基板708に形成され、又は基板708に取り付けられたレーザダイオード(例えば、面発光レーザダイオード、又は端面発光レーザダイオード)であってもよい。そのような一実施形態において、検出器706は、同様に、第2の回折格子718に近接して基板708に形成され、又は基板708に取り付けられたフォトダイオード(例えば、PINフォトダイオード)であってもよい。
【0031】
本発明の一実施形態において、検出装置700は、ラマン分光システムとして動作する場合がある。そのような一実施形態において、励起EMR放射源704は、周波数ωのEMR714を放射する。EMR714は、第1の回折格子716により、複数のナノ構造712の上、又はそれらの近くに置かれた検体(図示せず)に照射されるビームとして回折され、各ナノ構造712のLSP、及び基板708の平面モードを励起し、強化電界を生成する。検出装置600を参照して前述したように、強化電界は、検体から散乱されるラマンEMRの量を増加させ、ラマンEMRの少なくとも一部を、基板708の平面モードに結合する。弾性的に散乱されるラマンEMRの周波数は、EMR714の周波数ωよりも僅かに大きいか(反ストークス線)、又は僅かに小さく(ストークス線)、ストークス線、反ストークス線、又はそれら両方の周波数拡散は、一般に、平面モードの周波数拡散の範囲内に収まる。第2の回折格子718は、回折ビーム720として図示されている平面モードに結合されたラマンEMRを優先的に回折するように構成され、回折ビーム720は、検出器706によって受光される場合もある。ラマンEMRは、分析中の検体の化学成分の特性である。第2の回折格子718は、平面モードに結合されたストークス線、又は反ストークス・ラマンEMRのみを回折するために、強い選択性を有するように構成される場合があるので、信号対雑音比を向上させることができる。
【0032】
本発明の他の実施形態において、検出装置700は、赤外線分光システムとして動作する場合がある。そのような一実施形態において、励起EMR放射源704は、赤外線周波数範囲内の周波数ωのEMR414を放射する。EMR714は、第1の回折格子716によって、複数のナノ構造712の上に置かれた検体(図示せず)を照射するビームとして回折され、各ナノ構造712のLSPモード、及び基板708の平面モードを励起し、効果電界を生成する。ただし、検体が存在する場合、回折ビームの一部は、検体によって吸収され、回折ビームの一部は、基板708の平面モードに結合される。第2の回折格子718は、回折ビーム720として示された平面モードに結合された周波数ωのEMRを回折するように構成される場合があり、回折ビーム720は、検出器706によって検出される場合がある。従って、赤外線分光システムとして動作させる場合、第2の回折格子718は、第1の回折格子716とほぼ同じ周波数のEMRを回折するように構成される。検体が存在するときは、回折ビーム720の強度は弱まる。なぜなら、第1の回折格子716によって回折されたビームの特定の一部が、検体(図示せず)によって吸収されるからである。従って、検体が存在しない場合と比べたときの回折ビーム720の強度の低下から、特定タイプの検体の存在が分かる。
【0033】
図8は、本発明のさらに別の実施形態による検出装置800を示している。検出装置800は、複数の検出装置サブユニット801〜820を含み、各検出装置サブユニットが、前述の検出装置実施形態のいずれかとして構成される。検出装置サブユニット801〜820は、共通基板上に形成される場合もあれば、検出装置サブユニット801〜820のそれぞれが別個のユニットとして形成され、一つに組み立てられる場合もある。検出装置サブユニット801〜820はそれぞれ、異なる特定の周波数の入射電界を増強するように構成された電界強化構造を含む場合がある。従って、検出装置800は、検出装置サブユニット801〜820を制御し、検出装置サブユニット801〜820によって生成されたデータを受信する働きをするシステムコントローラ822をさらに含む。システムコントローラ822は、検出装置サブユニット801〜820によって生成されたデータを表示し、そのデータをさらに処理、及び/又は操作するための適当なユーザインタフェース(図示せず)をさらに含む場合がある。本発明の特定の実施形態において、検出装置80は、検出装置サブユニット801〜820の一部が、ラマン分光法を実施するように構成され、検出装置サブユニット801〜820の一部が、赤外線分光法を実施するように構成される場合がある。
【0034】
図示されていないが、開示した検出装置の電界強化構造の基板上に、又は基板内に、μ流体通路が形成される場合がある。また、他の周知のマイクロ流体部品が設けられる場合もある。例えば、分析、及び/又は検出の際に検体を電界強化構造の複数のナノ構造の上へ、又はその近くへ送り込むために使用されるマイクロポンプが設けられる場合がある。
【0035】
上記の説明では、本発明を完全に理解してもらうために、説明の目的で、特定の用語を使用している。しかしながら、当業者には明らかなように、本発明を実施するために、そうした特定の詳細は必要とされない。本発明の特定の幾つかの実施形態に関する上記の説明は、例示、及び説明の目的で提供される。それらは、本発明を網羅するためのものでも、本発明を開示した形態に厳密に制限するためのものでもない。上記の教示に照らして、種々の変更、及び変形が可能である。実施形態は、本発明の原理を最もよく説明し、それによって、当業者が、意図する特定の用途に合わせて種々の変更を加え、本発明、及び種々の実施形態を最も良好に実施できるようにするために図示され、説明されている。上記の説明は、本発明の範囲を添付の特許請求の範囲、及びその均等によって規定することを目的としている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面(104)を有する基板(102)であって、平面モード周波数を有する平面モード(114)を有することが可能な基板(102)と、
前記基板の表面に関連する複数のナノ構造(106)であって、各ナノ構造が、前記平面モード周波数にほぼ等しいLSP周波数を有する局在表面プラズモン(LSP)モード(116)を示す、複数のナノ構造(106)と
を含み、前記ナノ構造のそれぞれのLSPモードと、前記平面モードとが、励起されたときに、互いに建設的に干渉するように構成される、電界強化構造(100)。
【請求項2】
前記複数のナノ構造は、
前記基板の表面に形成されたナノホール(306)と、
前記基板の表面にわたって分布するナノ粒子(106)と
の少なくとも一方を含む、請求項1に記載の電界強化構造(100)。
【請求項3】
前記基板の表面は、金属材料を含み、前記表面が、誘電体媒体に隣接して配置され、
前記平面モードは、表面プラズモン偏光モード(116)からなる、請求項1に記載の電界強化構造(100)。
【請求項4】
前記基板(402, 502)は、1以上の誘電体層(503, 505)を含み、
前記平面モードは、誘電体表面モード(514)、又は導波モード(414)からなる、請求項1に記載の電界強化構造(100)。
【請求項5】
前記複数のナノ構造は、回折格子(108)に入射する電磁放射を平面モードに結合するように構成された回折格子(108)を規定する、請求項1に記載の電界強化構造。
【請求項6】
前記回折格子は、複数の回折要素(203-206)を含み、各回折要素が、前記複数のナノ構造のうちの2以上のナノ構造を含む、請求項5に記載の電界強化構造。
【請求項7】
第1の回折格子(710)に入射する励起電磁放射を前記平面モードに結合するように構成された第1の回折格子(710)と、
前記第1の回折格子から間隔を空けて配置された第2の回折格子(718)と
をさらに含み、前記第1の回折格子と前記第2の回折格子の間に、前記複数のナノ構造が配置され、前記第2の回折格子は、前記励起電磁放射の周波数とは異なる周波数の電磁放射を回折するように構成される、請求項1に記載の電界強化構造。
【請求項8】
第1の回折格子(710)に入射する励起電磁放射を前記平面モードに結合するように構成された第1の回折格子(710)と、
前記第1の回折格子から間隔を空けて配置された第2の回折格子(718)と
をさらに含み、前記第1の回折格子と前記第2の回折格子の間に、前記複数のナノ構造が配置され、前記第2の回折格子は、前記平面モードに結合された前記励起電磁放射を回折するように構成される、請求項1に記載の電界強化構造。
【請求項9】
励起電磁放射を放射するように構成された少なくとも1つの励起放射源(606, 704)と、
請求項1に記載の電界強化構造(602, 702)であって、前記LSPモード、及び前記平面モードが、前記励起電磁放射に応答して励起可能である、請求項1に記載の電界強化構造(602, 702)と、
前記電界強化構造に結合された少なくとも1つの検出器(608,706)と
を含む検出装置(600, 700, 800)。
【請求項10】
強化電界を生成する方法であって、
励起電磁放射を使用して、基板(102)の表面(104)に関連する複数のナノ構造(106)に光を照射するステップと、
前記複数のナノ構造に応答し、前記ナノ構造のそれぞれにおいて、局在表面プラズモン(LSP)モード(116)を励起するステップと、
前記複数のナノ構造への光の照射に応答し、前記基板の前記表面に平面モード(114)を励起するステップと、
前記ナノ構造のそれぞれにおいて励起されたLSPモードと、前記表面に励起された平面モードとを、建設的に干渉させ、強化電界を生成するステップと
を含む方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2010−531995(P2010−531995A)
【公表日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−514805(P2010−514805)
【出願日】平成20年6月25日(2008.6.25)
【国際出願番号】PCT/US2008/007934
【国際公開番号】WO2009/002524
【国際公開日】平成20年12月31日(2008.12.31)
【出願人】(503003854)ヒューレット−パッカード デベロップメント カンパニー エル.ピー. (1,145)
【Fターム(参考)】