説明

電界強磁性共鳴励起方法及びそれを用いた磁気機能素子

【課題】電界を駆動力とする低消費電力な電界駆動型強磁性共鳴励起方法を実現し、この方法を用いたスピン波信号生成素子、スピン流信号生成素子、及びこれらを用いた論理素子、また、この方法を用いた高周波検波素子及び磁気記録装置等の磁気機能素子を提供する。
【解決手段】伝導電子による電界シールド効果が起きない程度に十分薄い超薄膜強磁性層2と、磁気異方性制御層1とを直接積層し、超薄膜強磁性層側に絶縁障壁層3及び電極層4を順に配置した積層構造体に対し、特定の磁界印加角度及び磁界強度を有する磁界を印加する。そして、磁気異方性制御層と電極層との間に、磁性共鳴周波数の高周波成分を有する電界を印加することにより、効率的に超薄膜強磁性層に強磁性共鳴を励起する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電界駆動型の強磁性共鳴励起方法の提案を基本とし、この強磁性共鳴励起方法を用いて、スピン波信号を生成するスピン波信号生成素子及びスピン流信号を生成するスピン流信号生成素子、さらには、これらの方法及び素子を使用した、機能素子、論理素子、高周波検波素子及び磁気記録装置等の磁気機能素子等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在の電子情報処理デバイスの根幹を成す技術がCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)テクノロジーであり、時代が求める高性能化、大容量化に応えるべく継続的な製造プロセスの開発、素子の微細化が進められてきた。これらの努力により、いわゆるムーアの法則が保たれてきたが、近年ではCMOSトランジスタの動作原理の微細化限界が現実的な問題となり、そのロードマップの見直しが求められている。この中でも従来のCMOS技術を超える、新原理に基づく技術を目指す分野を総称して”Beyond CMOS”と呼ぶ。Beyond CMOS技術として特に注目されているのが、電子の”電荷”だけではなく、”スピン”自由度を利用し、新規デバイスの創製を目指す、スピントロニクスと呼ばれる分野である。
【0003】
スピントロニクスにおける代表的なデバイスの例が磁気抵抗効果型固体磁気メモリ(MRAM:Magnetic Random Access Memory)である(例えば非特許文献1を参照)。MRAMでは、磁性素子を含む積層構造体がマトリックス状に配置され、個々の素子記録情報が磁性素子の有する磁気抵抗効果を利用して読み出される。情報の書込みは磁性素子の磁化方向を制御することにより行われる。磁化状態を記録状態に置き換えるため、原理的に不揮発性であることから、低消費電力性、高速性、大容量性、書込み耐性、及び半導体との整合性などすべての条件を満たし得る不揮発性メモリとして期待されている。特に磁性を利用することによる不揮発性は、理想的には情報保持に必要とする待機電力をゼロにすることが可能であることから、グリーンテクノロジーを実現する革新的な技術として重要視されている。
【0004】
最近では、上記の積層構造において、スピン偏極電流注入によるスピン角運動量移行効果(非特許文献2を参照)を利用し、より直接的に強磁性体の磁化をダイナミックに制御することが可能となり、MRAMなどにおける磁化反転制御だけでなく、トンネル磁気抵抗素子における巨大な磁気抵抗効果(非特許文献3)を積極的に利用した高周波発振素子(非特許文献4を参照)や高周波検波素子(非特許文献5を参照)なども提案・実験実証されている。
一方、連続強磁性体内において、交換相互作用、若しくは双極子相互作用を媒介してスピンの歳差運動が異なる位相を有して波動として伝搬する、「スピン波」を用いて新しいデバイスの創製を目指す”マグノニクス”も注目を集めている(特許文献1、2及び非特許文献6を参照)。
さらに、電荷の流れを伴わないスピン角運動量の流れである、「純スピン流」を利用した信号伝送や磁気機能素子も検討され始めている(特許文献3、4)。純スピンの流れはジュール熱の発生を伴わないため、低損失な情報伝送が可能であると期待されている。
【0005】
以上のような電子が有するスピン自由度を利用したデバイスへの期待が高まるにつれて、スピン状態を高効率で制御する、強磁性共鳴ダイナミクスの制御法の確立が重要となっている。強磁性共鳴は、強磁性体に対し、静磁界印加下において、それと直交する方向に高周波磁界を印加することにより励起される。印加高周波磁界の周波数が強磁性体が有する固有の共鳴周波数と一致する場合に、印加エネルギーが高効率で吸収され、共鳴ダイナミクスが励起される。
こうした磁気デバイスのうち、特にスピン波や純スピン流は、このFMRダイナミクス励起によって生成することが可能であり、その制御法が応用技術化において重要な鍵となる。
また、最近では磁気記録分野においても、共鳴運動を用いた磁化反転磁場低減の試みがなされており、次世代の磁気記録方式として注目を集めている(非特許文献7)。
【0006】
これまで、この強磁性共鳴励起に必要な高周波磁界は、Cavityを用いた電磁界印加や、基板上に作製したコプレーナウェーブガイドなどの伝送路への高周波電流印加によって発生する電流磁界が利用されてきた。しかしながら、これらの方法によって発生する磁界は空間的な分布を有するため、例えば素子スケールが数百nm以下のオーダーに至った場合に、隣接素子間での干渉などが問題となる。上記に述べた、スピン角運動量トランスファー効果を利用した共鳴励起法(非特許文献5を参照)を利用すれば、素子内に制限した局所的な共鳴励起が可能となる。しかしながら、電流磁界やスピン角運動量トランスファー効果といった、電流を駆動力とする手法は高消費電力となることが問題となっている。
例として磁化反転制御に必要な電力を考える。室温のエネルギーkBT(kBはボルツマン定数、Tは温度)を指標として表わすと、100nm角オーダーの磁性薄膜素子の磁化反転に必要なエネルギーは、電流磁界の場合で106〜107BT、スピン角運動量トランスファー効果の場合で105〜106BTオーダーで必要となる。一方、10年以上の情報保持に必要なエネルギーは60kBT程度であり、電流をベースとしたスピン制御法がいかに低効率な技術であるかが分かる。
【0007】
これらの問題を解決する大きなブレークスルーの1つが、電界によるスピン状態制御法を確立することである。電界による磁化状態制御、特に磁化反転制御の試みはさまざまな形態で成されている。例えば代表的なものとして、磁性薄膜をピエゾ素子と接合させ、ピエゾ素子への電圧印加による歪を利用し、磁性薄膜の磁歪効果を制御する方法(特許文献5を参照)、強磁性半導体のキャリア濃度制御によって磁性を制御する方法(非特許文献8を参照)、単相マルチフェロイック材料(特許文献6を参照)及び強磁性/マルチフェロイック複合構造(非特許文献9)における電気磁気効果を利用する方法などがある。
【0008】
しかしながら、いずれの手法においても、応用上必要とされる、
(1)室温動作が可能であること。
(2)高い繰り返し動作耐性を有すること。
(3)作製プロセスが単純であること。
などの要件をすべて満たす技術は確立されていない。
これらの3条件をすべて満たし得る技術として、数原子層オーダーの超薄膜金属磁性層の磁気異方性を電圧印加によって直接制御する方法があり、この現象を用いた磁化容易軸制御方法や磁化反転制御方法が提案されている(特許文献7)。この技術の重要な特徴として、応用上重要なスピントロニクスデバイスである強磁性トンネル接合素子と基本構造が同じであり、比較的容易に既存のプロセスへの導入が可能である点が挙げられる。
しかしながら、こうした電界制御法は、すべて静電界印加効果に限られており、高周波電界印加による強磁性共鳴ダイナミクス励起制御方法の提案はなされていない。
高周波電圧印加による電界駆動型の強磁性共鳴励起が可能となれば、電子スピン共鳴を利用したデバイスの信号入力構成を根本的に置き換える重要な技術となり、さまざまな低消費電力磁気機能素子の提供が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開WO2007/037625
【特許文献2】特開2010-205975号公報
【特許文献3】特開2009-295824号公報
【特許文献4】国際公開 WO2011/004891
【特許文献5】特開2001-93273号公報
【特許文献6】国際公開 WO2007/135817
【特許文献7】国際公開 WO2009/133650
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】C. Chappertet al. Naturematerials、6、813 (2007).
【非特許文献2】J. C. Slonczewski、J. Magn. Magn. Mater. 159、L1 (1996).
【非特許文献3】S. Yuasa et al. Nature Materials 3、868(2004).
【非特許文献4】A. Deac et al. Nature Phys. 4、803 (2008).
【非特許文献5】A. A. Turapurkar et al. Nature 438、339(2005).
【非特許文献6】V. V. Kruglyak et al. J. Phys. D: Appl.Phys. 43、264001 (2010).
【非特許文献7】J. -G. Zhu et al. IEEE Trans. Magn. 44、125 (2008).
【非特許文献8】H. Ohno et al. Nature 408、944 (2007).
【非特許文献9】Y. -H. Chu et al. Nature Materials 7、478 (2008).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、以上の事情を考慮してなされたものであって、究極的に低消費電力な電界駆動型強磁性共鳴励起手法、及び、この電界駆動型強磁性共鳴励起手法を用いたスピン波・スピン流信号生成素子、及び、それを用いた論理素子、また、高周波検波素子及び磁気記録装置等の磁気機能素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この技術課題を解決するため、本発明による電界強磁性共鳴励起方法では、次のような技術的手段を講じた。すなわち、
(1)伝導電子による電界シールド効果が起きない程度に十分薄い超薄膜強磁性層と、磁気異方性制御層とを直接積層し、前記超薄膜強磁性層側に絶縁障壁層及び電極層を順に配置した積層構造体に対し、特定の磁界印加角度及び磁界強度を有する磁界を印加した上で、前記磁気異方性制御層と前記電極層との間に、磁性共鳴周波数の高周波成分を有する電界を印加することにより、前記超薄膜強磁性層に強磁性共鳴を励起する。
【0013】
(2)前記超薄膜強磁性層の膜厚が、該超薄膜強磁性層の材質及び膜厚、前記磁気異方性制御層の材質並びに前記絶縁障壁層の材質及び膜厚に応じて、伝導電子による電界シールド効果が起きない程度に十分薄い膜厚に設定されるようにした。
【0014】
(3)前記超薄膜強磁性層の膜厚は、前記高周波成分を有する電界を印加することによって誘起される最大の垂直磁気異方性磁界変化量が、前記磁気異方性制御層、前記絶縁障壁層及び前記超薄膜強磁性層の組み合わせによって決定される、前記超薄膜強磁性層の垂直磁気異方性の5%以上となるように決定した。
【0015】
(4)前記磁気異方性制御層及び前記絶縁障壁層との界面磁気異方性若しくは結晶磁気異方性を選定することにより、前記超薄膜強磁性層の膜面直方向の有効反磁界が1000(Oe)以下になるようにした。
【0016】
(5)前記磁気異方性制御層として、Au、Ag、Cu、Al、Ta、Ru、Cr、Pt、Pdまたはそれらの合金を用いた。
【0017】
(6)前記積層構造体に、前記電極層の反対側に、バイアス磁界を印加するためのバイアス磁性層を設け、該電極層とバイアス磁性層の間に、直流電界と前記磁性共鳴周波数の高周波成分を有する電界を重畳させて印加することにより、任意の平衡磁化方向周りにおける強磁性共鳴を励起するようにした。
【0018】
(7)前記絶縁障壁層の抵抗面積値が10Ωμm2以上であり、電圧印加時において該絶縁障壁層を介して流れるトンネル電流密度が1×109A/m2以下とした。
【0019】
また、上記電界強磁性共鳴励起方法を利用した本発明のスピン波信号生成素子では、次のような技術的手段を講じた。すなわち、
(8)伝導電子による電界シールド効果が起きない程度に十分薄い超薄膜強磁性層と、磁気異方性制御層とを直接積層し、前記超薄膜強磁性層側に絶縁障壁層、及び電極層を順に配置した積層構造体と、該積層構造体に対し、特定の磁界印加角度及び磁界強度を有する磁界を印加する手段と、前記磁気異方性制御層と前記電極層との間に、磁性共鳴周波数の高周波成分を有する電界を印加する手段とを備え、前記超薄膜強磁性層に強磁性共鳴を励起して局所的に発生させたスピン波を、前記強磁性超薄膜あるいは前記磁気異方性制御層と連続して形成した少なくとも1つ以上のスピン波導波路から取り出すようにした。
【0020】
(9)前記スピン波導波路上にスピン波信号検出部を有するようにした。
【0021】
(10)前記スピン波信号検出部は、前記超薄膜強磁性層上に前記絶縁障壁層を介して設置された高周波信号伝送路により形成され、スピン波により発生する誘導起電力を用いて信号を検出するようにした。
【0022】
(11)前記スピン波信号検出部は、前記超薄膜強磁性層上に形成された、前記絶縁障壁層及び強磁性層からなる積層構造から形成され、信号の検出に前記絶縁障壁層を介したトンネル磁気抵抗効果を用いるようにした。
【0023】
(12)前記積層構造体に、前記電極層の反対側に、バイアス磁界を印加するためのバイアス強磁性層を設け、該電極層とバイアス強磁性層の間に、直流電界及び磁性共鳴周波数の高周波成分を有する電界を重畳させて印加することにより、任意の平衡磁化方向周りにおける強磁性共鳴を励起させ、伝搬するスピン波の周波数を任意に制御するようにした。
【0024】
(13)前記スピン波導波路の一部に前記絶縁障壁層及び前記電極層からなる積層構造を設け、前記直流電界及び前記磁性共鳴周波数の高周波成分を有する電界の印加によって、前記スピン波導波路を形成する超薄膜強磁性層の磁気異方性を局所的に直接制御することで、該スピン波導波路を伝搬するスピン波の周波数、波長、振幅、位相などの波動性を変化させるようにした。
【0025】
また、上記電界強磁性共鳴励起方法を利用した本発明のスピン流信号生成素子では、次のような技術的手段を講じた。すなわち、
(14)伝導電子による電界シールド効果が起きない程度に十分薄い超薄膜強磁性層と、磁気異方性制御層とを直接積層し、前記超薄膜強磁性層側に絶縁障壁層及び電極層を順に配置した積層構造体と、該積層構造体に対し、特定の磁界印加角度及び磁界強度を有する磁界を印加する手段と、前記磁気異方性制御層と前記電極層との間に、磁性共鳴周波数の高周波成分を有する電界を印加する手段とを備え、前記超薄膜強磁性層に強磁性共鳴を励起して局所的に発生させた純スピン流を、前記磁気異方性制御層内に生成し、該前記磁気異方性制御層をスピン流伝送路とした。
【0026】
(15)前記積層構造体に、前記電極層の反対側に、バイアス磁界を印加するためのバイアス強磁性層を設け、該電極層とバイアス強磁性層の間に、直流電界及び磁性共鳴周波数の高周波成分を有する電界を重畳させて印加することにより、任意の平衡磁化方向周りにおける強磁性共鳴を励起させ、伝搬するスピン流の強度を任意に制御するようにした。
【0027】
(16)前記磁気異方性制御層として、Au、Ag、Cu、Al、Ta、Ru、Cr、Pt、Pdまたはそれらのうち少なくとも1つを含む合金のいずれかを使用した。
【0028】
(17)前記スピン流を伝送信号とし、前記磁気異方性制御層をスピン流伝送路とし、該磁気異方性制御層に逆スピンホール効果を用いたスピン流検出部を備えるようにした。
【0029】
(18)前記スピン流を伝送信号とし、前記磁気異方性制御層からなるスピン流伝送路上に形成された、強磁性層、非磁性スぺーサー層及び強磁性層を順次積層してなるトンネル磁気抵抗素子を、前記スピン流検出部として備えるようにした。
【0030】
(20)前記スピン流機能素子を複数組み合わせ、スピン流の合成により、前記強磁性層の磁化方向を制御するようにした。
【0031】
また、上記のスピン波信号生成素子を利用して、本発明では、次のようなスピン波及びスピン流論理素子を構成した。すなわち、
(21)上記のスピン波信号生成素子を複数組み合わせ、前記磁性共鳴周波数の高周波成分を有する電界を印加する手段のそれぞれを介して入力された信号により、前記のスピン波導波路を伝搬するスピン波の波動性を制御することで論理演算を行うスピン波論理素子を構成した。
【0032】
また、上記の電界強磁性共鳴励起方法を利用した、本発明による高周波検波素子及び磁気記録素子では次のような技術的手段を講じた。すなわち、
(22)伝導電子による電界シールド効果が起きない程度に十分薄い超薄膜強磁性層と、磁気異方性制御層とを直接積層し、前記超薄膜強磁性層側に絶縁障壁層、及び強磁性層からなる電極層を順に配置した積層構造体と、該積層構造体に対し、特定の磁界印加角度及び磁界強度を有する磁界を印加する手段と、前記磁気異方性制御層と前記電極層との間に、磁性共鳴周波数の高周波成分を有する電界を印加する手段とを備え、前記超薄膜強磁性層の磁気異方性を直接制御することによって強磁性共鳴を励起し、前記強磁性層からなる電極層によるトンネル磁気抵抗効果を組み合わせることによって発生する直流電圧により検波を行う高周波検波素子を構成した。
【0033】
(23)上記の高周波検波素子において、前記積層構造体がバイアス磁界を印加するためのバイアス強磁性層を備え、該積層構造体に直流電界と前記磁性共鳴周波数の高周波成分を有する電界を重畳させて印加することにより、検波周波数を任意に制御できるようにした。
【0034】
(24)伝導電子による電界シールド効果が起きない程度に十分薄い超薄膜強磁性層からなる垂直磁化磁性媒体層と、磁気異方性制御層とを直接積層し、前記垂直磁化磁性媒体層側に絶縁障壁層となるギャップを介して高周波電界アシストヘッドを配置し、書き込み磁界ヘッドにより、特定の磁界印加角度及び磁界強度を有する磁界を印加した上で、前記高周波電界アシストヘッドの先端を電極層としてとり、前記磁気異方性制御層との間に、磁性共鳴周波数の高周波成分を有する電界を印加することにより、前記垂直磁化磁性媒体層に強磁性共鳴を励起して、該垂直磁化磁性媒体の磁化反転に必要なエネルギー障壁を見かけ上低減することによって、書き込み用磁化反転磁界を低減する磁気記録装置を構成した。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、積層構造体に特定の磁界印加角度及び磁界強度を有する磁界を印加した上で、磁気異方性制御層と電極層との間に、磁性共鳴周波数の高周波成分を有する電界を印加するだけで、効率よく強磁性共鳴ダイナミクスを励起することができ、先に説明した3つの条件を同時に満足することができる。
しかも、電界印加によるものであることから、きわめて微小の消費電力で強磁性共鳴を励起させることができるので、電界駆動を基本とした強磁性共鳴励起を行うスピン波信号生成素子、スピン流信号生成素子を信号入力・制御に用いた論理素子や、高周波検波素子及び磁気記録装置等、さまざまな磁気機能素子として利用することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の原理を説明するためのトンネル接合素子の構造模式図
【図2】実施例1における電界強磁性共鳴励起手法の基本構造例
【図3】実施例1におけるホモダイン検波測定回路模式図
【図4】(a)実施例1におけるホモダイン検波信号例、(b)実施例1における強磁性共鳴周波数の外部磁界強度依存性を示す図
【図5】(a)実施例1におけるホモダイン検波信号強度の外部磁界印加角度及び磁界強度依存性、(b)実施例1におけるホモダイン検波信号強度の磁界印加角度依存性を示す図
【図6】実施例1におけるホモダイン検波信号強度の印加高周波電圧依存性を示す図
【図7】実施例1におけるマクロスピンモデルシミュレーションに基づく電界強磁性共鳴ダイナミクスの計算例を示す図
【図8】実施例2におけるスピン波信号生成素子の基本構造例
【図9】実施例3におけるスピン波信号生成素子の基本構造例
【図10】実施例4におけるスピン波信号生成素子の基本構造例
【図11】実施例5におけるスピン波信号生成素子の基本構造例
【図12】実施例6におけるスピン波信号生成素子の基本構造例
【図13】実施例7におけるスピン波信号素子を使用した機能素子の基本構造例
【図14】実施例8におけるスピン波信号素子を使用した機能素子の基本構造例
【図15】実施例9における(a)スピン波信号生成素子を使用した機能素子の基本構造例、(b)スピン波信号を利用したOR論理回路の概念図、(c)スピン波信号を利用しAND論理回路の概念図
【図16】実施例10における(a)第10実施形態におけるスピン波信号生成素子を使用した機能素子の基本構造例、(b)スピン波信号生成素子を使用したXOR論理回路の概念図
【図17】実施例11における(a)第11実施形態におけるスピン波信号生成素子を使用した機能素子の基本構造例、(b)スピン波信号生成素子を使用したNOT論理回路の概念図
【図18】実施例12におけるスピン流信号生成素子の基本構造例
【図19】実施例13におけるスピン流信号生成素子の基本構造例
【図20】実施例14におけるスピン流信号生成素子の基本構造例
【図21】実施例15におけるスピン流信号生成素子の基本構造例
【図22】実施例16におけるスピン流信号生成素子の基本構造例
【図23】実施例17における(a)スピン流信号生成素子を使用した機能素子の基本構造例、(b)実施例18におけるスピン流信号生成素子を使用した機能素子の基本構造例
【図24】実施例19における高周波検波素子の基本構造例
【図25】実施例20における高周波検波素子の基本構造例
【図26】実施例21における磁気記録装置の概念図
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明による電界駆動強磁性共鳴励起手法、及びこれを用いた磁気機能素子について図面を用いて説明する。
【実施例】
【0038】
図1は、本発明の原理を説明するための基本構造を示しており、磁気異方性制御層1、超薄膜強磁性層2、絶縁障壁層3及び上部電極層4からなる積層構造を備え、外部に設置された磁界印加装置により、特定の磁界印加角度及び磁界強度で磁界を印加できるようになっており、磁気異方性制御層1と上部電極層4間に高周波電圧信号5を供給することによって、外部より印加した任意の磁界の周りに強磁性共鳴を励起する。なお、磁界は、積層構造の外部に、所定の磁界強度を有する永久磁石のN極とS極を対向配置させ、超薄膜強磁性層2の面方向に対する磁界印加角度を調整できるようにしてもよいし、後述するように、バイアス磁性層を配置して、磁気異方性制御層1と上部電極層4との間に直流電圧を印可することにより、超薄膜強磁性層2における有効磁界を調整できるようにしてもよい。
また、超薄膜強磁性層2と磁気異方性制御層1については、両者を直接積層することが必要であるが、絶縁障壁層3及び上部電極層4は、必ずしも超薄膜強磁性層2あるいは磁気異方性制御層1に直接する積層する必要はなく、上部電極層4として、超薄膜強磁性層2から微小空隙離隔した電極を使用し、この空隙を絶縁障壁層3としてもよい。
【0039】
ここで、高周波電圧信号には、連続波、パルス波状の高周波信号に加えて、パルス幅、若しくは立ち上がり時間が共鳴周波数の逆数程度の短い時間幅(具体的には数ns以下)を有する直流電圧パルスも含む。
また、磁気異方性制御層1には、超薄膜強磁性層2との界面において、強い界面磁気異方性を誘起する材料、若しくは超薄膜強磁性層2とのエピタキシャル関係を保持し、超薄膜強磁性層2に結晶磁気異方性に由来する強い垂直磁気異方性を誘起する材料が有効であり、超薄膜強磁性層2に使用する材料との組み合わせにより最適構造が決定される。具体的な材料としては、非磁性金属材料のAu、Ag、Cu、Al、Ta、Ru、Cr、Pt、Pdなどの貴金属や遷移金属元素からなる層、またはこれらのうち、少なくとも1つの元素を含む合金層、またはそれらの積層構造を挙げることができる。また、後述する絶縁障壁層3の膜厚、若しくは面積抵抗の条件値よりも十分に薄い膜厚、若しくは低い面積抵抗値を有する非磁性絶縁材料を用いることもできる。具体的な材料としては、アルミニウム、マグネシウム、ハフニウム、セリウム、ストロンチウム、タンタル、バリウム、ジルコニウム、及びチタンなどを含む酸化物、窒化物、並びにフッ化物などからなる層が挙げられる。
【0040】
超薄膜強磁性層2には、例えばFe、Co及びNi、若しくはこれらのうち、少なくとも1つの元素を含む合金層、または酸化物(フェライト、ガーネット等)、Nd、Sm、Tbなどの希土類元素を含む化合物及び合金等からなる層、若しくは上記材料を含む積層構造体を用いることができ、その膜厚は、伝導電子による電界シールドが発生しない程度に十分に薄くする必要があり、図1の基本構造では、数原子層オーダーとしている。
【0041】
絶縁障壁層3には面積抵抗値が10Ωμm2以上で、素子に流れる電流密度が1×109A/m2以下となるように設計された障壁層を用いることが有効である。
具体的な材料としては、アルミニウム、マグネシウム、ハフニウム、セリウム、ストロンチウム、タンタル、バリウム、ジルコニウム、及びチタンなどを含む酸化物、窒化物、並びにフッ化物などからなる層が挙げられる。
【0042】
上部電極層4には、非磁性金属材料であるAu、Ag、Cu、Al、Ta、Ruなど、あるいは、これらの非磁性金属材料のうち、少なくとも1つの元素を含む合金層、またはそれらの積層構造を挙げることができる。また、上部電極層4に強磁性電極層を用いることも可能であり、具体的な材料としては、超薄膜強磁性層2と同様の材料を用いることができる。
【0043】
効率的に電界によって強磁性共鳴を励起する、つまり同じ電界強度にてより大きな歳差運動角を励起するためには、超薄膜強磁性層2が有する垂直磁気異方性の設計が重要となる。
最も電界供給に対する磁化ダイナミクスの応答が高感度となる条件の1つは、膜面直方向の有効反磁界が零に近い状況であり、そこでは磁化容易軸の膜面内-面直間遷移が生じる。
加えて、膜面内における磁気異方性(結晶磁気異方性、形状磁気異方性等)に関しても、これらが等方的である場合、磁化は理想的な円軌道をとることが可能となり、高効率な共鳴励起が可能となり得る。膜面直方向の有効反磁界の制御は、磁気異方性制御層1、絶縁障壁層3、及び超薄膜強磁性層2に使用する材料と、その膜厚によって設計することが可能であり、これらの材料の組み合わせによってその最適値が決定される。
【0044】
具体的な設計値の例としては、電界による界面磁気異方性変化の傾きが30fJ/Vm程度の場合、膜面直方向の有効反磁界を1000(Oe)以下とすることで、一般的なトンネル絶縁障壁層の絶縁破壊電圧である1V/nm以下の電界によっても、歳差運動角が数十度を超える非線形強磁性共鳴の励起が可能となる。さらに、外部より印加する磁界の強度、角度に応じて、その最適値制御が可能である。
以上は歳差運動角を最大化するための条件であるが、いわゆる線形応答領域の強磁性共鳴の場合、歳差運動の開き角は数度程度であり、高周波磁界による励起の場合、異方性磁界の5%程度の磁界印加で十分である。同様の議論は、電界励起においても適用可能であり、この場合必要な開き角に応じて超薄膜強磁性層の膜厚の厚膜化が可能となる。
例えば、前記の界面磁気異方性変化の傾きを30fJ/Vm、印加電界強度を1V/nmとした場合を仮定すると、超薄膜強磁性層の飽和磁化が1Tの場合、電界印加による異方性磁界変化の最大値は、超薄膜強磁性層の膜厚をt(nm)とすると、約750/t(Oe)と表わされる。
この場合、例えば膜厚5nmにおいても、約150(Oe)の異方性変化が誘起され、この変化量が5%に相当する有効反磁界を考えると、有効反磁界が3k(Oe)程度に設計されていれば線形強磁性共鳴の励起が可能となる。ただし、通常界面磁気異方性の場合は、膜厚の増加とともに有効反磁界が大きくなるため、前記同様、磁気異方性制御層1、絶縁障壁層3、及び超薄膜強磁性層2に使用する材料と、その膜厚、及び、外部から印加される磁界の条件により最適値が決定される。
【0045】
[実施例1]
図2は、実験に用いた実施例1のトンネル接合素子の構造模式図である。分子線エピタクシー法を用いてMgO(001)基板上に順に、バッファー層6、磁気異方性制御層としてのAu層7(50nm)、超薄膜強磁性層としての超薄膜FeCo層8(0.54nm)、MgO絶縁障壁層9(1.9nm)、上部Fe層10(10nm)、電極層を兼ねるキャップ層11を積層し、キャップ層11と上部Fe層10の側面を、MgO障壁層9に至るまでエッチングすることで微細加工を施し、断面積が1×1μm2の微小トンネル接合素子としている。
抵抗面積値(RA)は約9.2kΩμm2であり、電流による影響(電流磁場若しくはスピン角運動量移行効果)による共鳴励起への影響が十分無視できるように設計されている。
【0046】
図3に示されるように、高周波電界印加による強磁性共鳴励起の検出にはホモダイン検波法を利用している。
シグナルジェネレーター12より印加された高周波電圧(Vrf=VPcos(ωt):周波数はω/2π)により、特定の外部磁場印加下において超薄膜FeCo層8に強磁性共鳴が励起される。
MgO絶縁障壁層9を介したトンネル磁気抵抗は、超薄膜FeCo層8と上部Fe層10の磁化相対角に依存するため、発生する位相差をφとしたとき、上記共鳴ダイナミクスは素子抵抗の時間変動成分δR(t)=δRcos(ωt+φ)を生む。
【0047】
一方、高周波電圧信号の印加によって、キャップ層11とバッファー層5との間に微小に流れるトンネル電流は、磁化方向の平衡点(高周波電圧が印加されていない状態での磁化方向、すなわち超薄膜FeCo層と上部Fe層の磁化相対角)でのトンネル磁気抵抗をR(θ0)として、Irf=Vrf/R(θ0)で表わされる。
抵抗振動成分とトンネル電流の積(オームの法則)により素子両端に直流電圧及び2ω成分を有する付加電圧成分が発生する。このうち、直流電圧成分を電圧計13により測定する方法がホモダイン検波法である。
【0048】
図4(a)は印加する高周波電圧信号の電力を40μW(−14dBm)とし、外部磁界を膜面内から55度傾けて500(Oe)印加した場合のホモダイン検波信号例であり、約1.4GHzを共鳴周波数とする分散型のスペクトルが観測されている。スペクトルの形状は共鳴ダイナミクスを励起するトルクの方向と、超薄膜FeCo層8−上部Fe層10間の磁化配置に依存して決定され、本実験の場合、分散型のスペクトルは電界による磁気異方性変化が共鳴励起の起源であると考えることで説明できる。
さらに、強磁性共鳴の重要な特徴である外部磁界強度依存性について調べた結果が図4(b)である。強磁性共鳴周波数の外部磁界依存性は、Kittelの式で表わされることがよく知られており、本実験で得られた結果に関しても黒線で示す理論式でよく再現される。このことからも観測されているスペクトルが強磁性共鳴ダイナミクスに起因するものであることが裏付けられる。
【0049】
図5(a)は図2で示した素子と同じ素子に関して、外部磁界印加角度を30度から60度の範囲で変化させ、各外部磁界印加角度毎に外部磁界強度を変化させることにより、信号強度の外部磁界強度依存性を調べた結果である。印加角度を固定した場合に、磁界強度が小さいほど信号強度が大きくなる(共鳴歳差運動角が大きい)傾向が共通として見られる。
さらに、信号強度の大きさは印加角度に大きく依存し、特定の角度(本結果の場合55度)において最大値を取ることが分かる。
【0050】
図5(b)は、この傾向を磁界強度が500(Oe)の場合を例として示したものである。この角度は磁気異方性制御層、絶縁障壁層の材料及び超薄膜強磁性層の材料及び膜厚、さらには界面状態によって決定される、超薄膜強磁性層が有する垂直磁気異方性の大きさ、及び超薄膜強磁性層の膜面内方向の磁気異方性、素子形状等によってその最適値が決定される。
【0051】
図6は外部磁界強度、及び印加角度をそれぞれ500(Oe)、55度に固定した条件において調べた、ホモダイン検波信号強度の印加高周波電力(横軸はピーク電圧値の2乗としている)依存性を示している。共鳴歳差運動角は信号強度に比例することから、入力される高周波電圧信号の電力によって歳差運動角を連続的に制御できることを示している。
【0052】
図7はマクロスピンモデルシミュレーションにより計算した電界強磁性共鳴励起の軌道例である。基本式はLandau-Lifshitz-Gilbert方程式であり、電界による磁気異方性変化を膜面垂直方向(Z軸)の有効磁界変化として導入した。計算に用いたパラメータは以下のとおりであり、すべて実験より得られた数値である。
ゼロ電圧下における膜面垂直方向の有効反磁界: 45(Oe)
X軸方向を容易軸とする膜面内の異方性磁界: 15(Oe)
飽和磁化: 1.44T
ダンピング定数: 0.025
g因子:2.08
面内からの磁界印加角度: 55度(ただし、外部磁界の膜面内成分はX−Z平面に平行)
印加磁界強度:500(Oe)、2000(Oe)、3000(Oe)
高周波電圧信号の印加による有効反磁界変化量の最大値:75(Oe)
【0053】
実験結果の傾向と同様に、印加磁界が小さいほど歳差運動角は増大し、500(Oe)の条件下においては、約50度を超える歳差運動角が得られている。本結果は膜面垂直方向の有効反磁界を小さく、かつ面内の異方性磁界と同程度となるように設計することにより、円形に近く大きな歳差運動角を有する軌道を高効率で励起可能であることを示している。大きな歳差運動角を得るための素子設計では、磁気異方性制御層、絶縁障壁層の材料及び超薄膜強磁性層の材料及び膜厚、さらには界面状態によって決定される超薄膜強磁性層が有する垂直磁気異方性の大きさ、及び超薄膜強磁性層の膜面内方向の磁気異方性、素子形状、外部印加磁界強度及び角度が重要なパラメーターとなり、これらの設定により各素子での最適値が決定される。
【0054】
[実施例2]
図8は本発明の実施例2による電界駆動型強磁性共鳴励起方法を実施するための基本構造である。図1の基本構造に加えて、磁気異方性制御層1の下部にバイアス磁性層14を有している。このバイアス磁性層14からの漏れ磁界を利用することにより、外部から磁界を印加することなく、超薄膜強磁性層2に一定の固定磁界を印加することが可能となる。
このバイアス磁性層14は必ずしも磁気異方性制御層1と隣接する必要はなく、絶縁障壁層3を挟んで素子上部側に設けることも可能である。バイアス磁性層14に適用可能な具体的な材料としては、Fe、Co及びNi、若しくはこれらの内少なくとも1つの元素を含む合金層、Nd、Sm、Tbなどの希土類元素を含む化合物及び合金等からなる層、若しくは上記材料を含む積層構造体などが挙げられる。
【0055】
さらにもう1つの特徴は、高周波電圧信号5に加えて、直流電圧信号23を重畳することである。この直流電圧信号23の強度、符号を制御することによって、バイアス磁性層14から印加されるバイアス磁界と超薄膜強磁性層2の磁気異方性の強度関係を制御し、外部より磁界を印加することなく超薄膜強磁性層2の磁化方向を任意に制御することが可能となる。
これにより、任意の磁化方向状態で電界による強磁性共鳴を励起することができる。また、バイアス磁性層14に反強磁性材料を用い、交換結合磁界を利用することも可能である。この場合、バイアス磁性層14は超薄膜強磁性層2に隣接するように配置する必要がある。
【0056】
[実施例3]
図9は実施例3による電界駆動型強磁性共鳴励起方法を用いたスピン波信号生成素子の基本構造である。素子の一部のみに上部電極層4を有し、前記の電界による強磁性共鳴励起をこの上部電極層4と磁気異方性制御層1間にて行う。これにより、上部電極層4直下の超薄膜強磁性層2の領域にのみ強磁性共鳴が励起される。この強磁性共鳴励起は交換相互作用、双極子相互作用、若しくはそれらが組み合わさった相互作用を介してスピン波として超薄膜強磁性層2内を伝搬する。つまり、強磁性共鳴励起部と連続する超薄膜強磁性層2がスピン波伝送路となる。このスピン波信号生成素子を基本として、後述するさまざまな磁気機能素子の構成が可能となる。
【0057】
[実施例4]
図10は本発明の実施例4による電界駆動型強磁性共鳴励起方法を用いたスピン波信号生成素子の基本構造の第2例である。図9の基本構造に加えて、前記のバイアス磁性層14を備え、また、高周波電圧信号5に加えて、図8と同様に、直流電圧信号23を重畳している。
バイアス磁性層14からの漏れ磁界強度と、直流電圧信号23の印加による超薄膜強磁性層2の垂直磁気異方性強度を制御することによって、超薄膜強磁性層2の平衡磁化配置を任意に制御し、これにより超薄膜強磁性層2内を伝搬するスピン波の周波数、強度、伝搬モード等を制御することが可能となる。
【0058】
[実施例5]
図11は本発明の実施例5によるスピン波信号生成素子の基本構造例である。図9のスピン波信号生成素子による入力部4としての上部電極層4−1、及び超薄膜強磁性層2に形成されたスピン波伝送路を有し、加えて、入力部で生成されたスピン波信号を検出する検出部としての上部電極層4−2を少なくとも1つ有する。検出方法としては、スピン波によって発生する誘導起電力を検出する方法や、スピン整流効果(Spin rectification effect) 、絶縁障壁層を介した磁気抵抗効果を用いる方法などが挙げられる。
図11では検出部を単一層で表記しているが、コプレーナウェーブガイド等、検出に適した形状をとる。上部電極層4−1、4−2を形成する材料としては前記の電極層形成材料と同様の材料を適用できる。ただし、電極層4−1、4−2が必ずしも同じ材料である必要はなく、上部電極層4−1を非磁性金属材料、上部電極層4−2を強磁性材料で形成するといったように、用途に応じで設計することができる。
【0059】
[実施例6]
図12は本発明の実施例6によるスピン波信号生成素子の基本構造例である。図10のスピン波信号生成素子による入力部4としての上部電極層4−1、及び超薄膜強磁性層2に形成されたスピン波伝送路、バイアス磁性層14を有し、加えて、入力部で生成されたスピン波信号を検出する検出部としての上部電極層4−2を少なくとも1つ有する。図10の構造と同様に、高周波電圧信号5に加えて、直流電圧信号23を重畳し、バイアス磁性層14からの漏れ磁界強度と直流電圧印加による超薄膜強磁性層2の垂直磁気異方性強度を制御することによって超薄膜強磁性層2の平衡磁化配置を任意に制御し、これにより超薄膜強磁性層2内を伝搬するスピン波の周波数、強度、伝搬モード等を制御できるようにする。検出部の構成は図11と同様である。
【0060】
[実施例7]
図13は本発明の実施例7によるスピン波信号生成素子を使用した機能素子の基本構造例である。図11のスピン波信号生成素子に加えて、入力部-検出部間のスピン波伝送路上の一部にゲート制御部用の上部電極層4−3を備えている。
ゲート制御部用の上部電極層4−3に用いる材料としては、上部電極4−2と同様の材料を適用することができる。ゲート制御部の上部電極層4−3に直流、若しくは交流電圧信号を供給し、上部電極層4−3直下のスピン波伝送路を形成する超薄膜強磁性層2の一部の磁気異方性を局所的に制御し、伝送するスピン波の周波数、波長、振幅、位相などの波動性を変化させることができる。これにより、検出部としての上部電極層4−2にて検出される伝送スピン波を入力部としての上部電極4−1において生成されたスピン波と異なる波動性を有するスピン波に変換することが可能となる。
【0061】
[実施例8]
図14は本発明の実施例8によるスピン波信号生成素子を使用した機能素子の基本構造例である。図12のスピン波信号生成素子に加えて、入力部-検出部間のスピン波伝送路上の一部にゲート制御部用の上部電極層4−3を備えている。
ゲート制御部の上部電極層4−3に用いる材料としては、図13の形態と同様の材料が適用できる。高周波電圧信号5に加えて、直流電圧信号23を重畳し、バイアス磁性層14からの漏れ磁界強度と直流電圧信号23の印加による超薄膜強磁性層2の垂直磁気異方性強度を制御することによって、超薄膜強磁性層2の平衡磁化配置を任意に制御し、これにより超薄膜強磁性層内を伝搬する入力スピン波信号の周波数、強度、伝搬モード等を制御することが可能となる。さらに、ゲート制御部の上部電極層4−3に直流、若しくは交流電圧信号を供給し、ゲート制御部直下のスピン波伝送路を形成する超薄膜強磁性層の一部の磁気異方性を制御することで、入力部としての上部電極4−1で生成されたスピン波の周波数、波長、振幅、位相などの波動性を変化させることができる。これにより、検出部にて検出される伝送スピン波を入力部としての上部電極4−1において生成されたスピン波と異なる波動性を有するスピン波に変換することが可能となる。
【0062】
[実施例9]
図15(a)は、本発明の実施例9によるスピン波信号生成素子を使用した機能素子の構造を示し、OR論理回路の構成例である。
2つの電界スピン波信号生成素子に対して、それぞれ、入力1、2から、スイッチング素子やトリガー信号により入力される高周波電圧信号5―1、5−2を基本信号としてそれぞれ入力し、検出部においてスピン波が検出される場合を1、検出されない場合を0と定義する。ここではより現実的に制御性の高い、直流電圧パルスの符号を入力とし、例えば負電圧パルスを1、正電圧パルスを0とする場合を例として示している。電界による垂直磁気異方性変化を最適に設計することにより、負電圧パルスの場合のみ強いスピン波を生成することが可能である。これにより、図15(b)の真理値表に示すOR演算が可能となる。一方、同一の回路において、検出部におけるスピン波検出強度をOR回路よりも高く設定し、入力1と2の波の重ね合わせの信号のみを検出することにより、図15(c)の真理値表に示すAND演算が可能となる。このようにスピン波の波動性を利用することにより、同一の回路で異なる論理演算構成も可能となる。
【0063】
[実施例10]
図16(a)は、本発明の実施例10によるスピン波信号生成素子を使用した機能素子の構造を示し、XOR論理回路(排他的論理和回路)の構成例である。
図15(a)のOR回路とほぼ同じ構成であるが、入力1側(若しくは2側どちらでも良い)のスピン波伝送路上にゲート制御部を備えており、入力1側において生成された伝搬スピン波の位相を180度変換する機能を有する。入力直流電圧パルスの符号を入力とし、例えば負電圧パルスを1、正電圧パルスを0とすると、入力1ではスピン波が生成され、入力0ではスピン波は生成されない。検出部においてスピン波が検出される場合を1、検出されない場合を0と定義する。どちらか一方のみが入力1である場合には検出部においてスピン波が検出されるため出力が1となり、両方が0の場合はスピン波が入力されないため、出力が0となる。さらに、入力がともに1の場合は両方入力からスピン波が生成されるが、入力1側のみ位相が180度変化されるため、合成されたスピン波は消失し、検出部にてスピン波は検出されない。これにより、図16(b)の真理値表に示すXOR演算が可能となる。
【0064】
[実施例11]
図17(a)は、本発明の実施例11によるスピン波信号生成素子を使用した機能素子の構造を示し、NOT論理回路の構成例である。図16(a)に示すXOR回路と近い構成であるが、2つのスピン波信号生成素子に対して共通の高周波電界信号供給部を有し、基本信号をそれぞれのスピン波伝送路に与えている。この場合、入力電圧信号はパルス状高周波信号、若しくは直流パルス電圧信号のどちらでも良い。ゲート制御部24は入力2において生成されたスピン波信号の位相を180度制御するために設けられており、この部分の入力が有る場合を1、無い場合を入力値と定義する。検出部におけるスピン波信号の有無を出力とし、スピン波信号が検出される場合を1、検出されない場合を0と定義する。ゲート制御部24が入力0の場合、生成されたスピン波はそのまま合成されて検出されるため、出力は1となる。一方、ゲート制御部が入力1の場合、ゲート制御部において入力2の信号の位相が180度変換されるため、合成スピン波は打ち消しあい、出力は0となる。これにより図17(b)の真理値表に示すNOT演算が可能となる。
【0065】
[実施例12]
図18は、本発明の実施例12による電界駆動型強磁性共鳴励起方法を用いたスピン流信号生成素子の基本構造である。素子の一部のみに上部電極層4/絶縁障壁層3/超薄膜強磁性層2からなる積層構造を有し、前記の電界による強磁性共鳴励起を上部電極層4と磁気異方性制御層1間にて行う。これにより、上部電極層4の直下の超薄膜強磁性層2に強磁性共鳴が励起され、それにより純スピン流が拡散的に磁気異方性制御層1内に生成される。上記した積層構造の下から右方に連続する磁気異方性制御層1がスピン流伝送路となる。このスピン流信号生成素子を基本として、後述するさまざまな磁気機能素子の構成が可能となる。
【0066】
[実施例13]
図19は本発明の実施例13による電界駆動型強磁性共鳴励起方法を用いたスピン流信号生成素子の基本構造である。図18の基本構造に加えて、バイアス磁性層14を備え、また、高周波電圧信号5に加えて、直流電圧信号23を重畳している。バイアス磁性層14からの漏れ磁界強度と直流電圧信号23の印加による超薄膜強磁性層2の垂直磁気異方性強度を制御することによって、超薄膜強磁性層2の平衡磁化配置を任意に制御し、これにより磁気異方性制御層1内を伝搬するスピン流の強度等を制御することを特徴とする。
【0067】
[実施例14]
図20は本発明の実施例14によるスピン流生成素子の基本構造例である。図18のスピン流信号生成素子による入力部としての上部電極層4−1及び磁気異方性制御層1内に形成されるスピン流伝送路を有し、加えて、入力部で生成されたスピン流信号を検出する検出部としての上部電極層4−2を少なくとも1つ有する。検出方法としては、逆スピンホール効果などが挙げられ、高い検出信号強度を得るために、上部電極層4−2に用いる材料としては、Au、Pt、Pd、Ag、Biなど、若しくはそれらのうち、少なくともいずれか1つを含む合金が挙げられる。
【0068】
[実施例15]
図21は本発明の実施例15によるスピン流生成素子の第2の基本構造例である。図20の構造に加えて、バイアス磁性層14を備えており、バイアス磁性層14からの漏れ磁界強度と直流電圧印加による超薄膜強磁性層2の垂直磁気異方性強度を制御することによって超薄膜強磁性層2の平衡磁化配置を任意に制御し、これによりスピン流伝送路内を伝搬するスピン流の強度等を制御できるようになっている。なお、検出部の構成は図20と同様である。
【0069】
[実施例16]
図22は本発明の実施例16によるスピン流生成素子の基本構造例である。図20のスピン流信号生成素子と入力部、スピン流伝送路の構造は同様であるが、検出部に、スピン流伝送路である磁気異方性制御層1上に接するように強磁性層15/非磁性スペーサー層16/強磁性層17からなる接合構造を有している。
入力部に供給された電圧信号により生成されたスピン流は、スピン流伝送路を伝搬して強磁性層17中に吸収される。このスピン流吸収によるスピン角運動量移行効果を利用し、強磁性層17の磁化方向を超薄膜強磁性層2の磁化方向を反映させて制御することが可能であり、磁気記憶素子の基本構成としても利用できる。
強磁性層17の磁化方向は、非磁性スペーサー層16を介した強磁性層17との相対磁化角度を反映した磁気抵抗効果により検出することができる。強磁性層15、及び17に関しては、具体的な材料として超薄膜強磁性層2と同じ材料を用いることができる。非磁性スペーサー層16に関しては、巨大磁気抵抗効果を検出信号とする場合、Au、Ag、Cu、Al若しくはそれらのうち、少なくとも1つの元素を含む合金などを挙げることができる。トンネル磁気抵抗効果を検出信号とする場合、絶縁障壁層3と同じ材料を用いることができる。入力部側の超薄膜強磁性層2の磁化方向は入力電圧信号により制御できる。
【0070】
[実施例17]
図23(a)は本発明の実施例17によるスピン流信号生成素子を使用した機能素子の構造例である。図20に示したスピン流生成素子における入力部を2端子(入力1、2)備えている。超薄膜強磁性層2の磁化方向を例えば右向きで同一としておき、それぞれに独立に高周波電圧信号5−1、5−2を入力する。ここでは現実的に制御性の高い、直流電圧パルスの符号を入力とし、例えば負電圧パルスを1、正電圧パルスを0とした例を示す。電界による垂直磁気異方性変化を最適に設計することにより、負電圧パルスの場合のみ強い強磁性共鳴が励起され、スピン流を生成することが可能となる。検出部は、入力1及び2から伝送されるスピン流の合成信号をY字型に接続された磁気異方性制御層1を介して検出する。スピン流が検出されない場合を0、検出される場合を1とすると、図15(b)に示した真理値表を満たすOR演算が可能となる。また、スピン流が合成され、2倍の強度となる入力がともに1の条件のみ検出されるように検出部の感度を設定すれば、同一の素子によって図15(c)に示した真理値表を満たすAND演算が可能となる。
【0071】
[実施例18]
図23(b)は本発明の実施例18によるスピン流信号生成素子を使用した機能素子の構造例である。図23(a)と構造は同じであるが、入力1及び2部の磁化方向が反平行配置となっている。
この場合、図23(a)と同様の動作によって論理計算を行う場合、(入力1、入力2)の組み合わせが(0、0)、(0、1)、(1、0)の場合は図23(a)と同様の出力となるが、入力(1、1)に関しては、反平行状態から生成されるスピン流が合成された結果打ち消しあい、出力は0となる。その結果、本素子の場合、図16(b)に示した真理値表を満たすXOR演算が可能となる。このように、本素子は入力1及び2の相対磁化配置を制御することによって異なる演算素子に書き換えることができるようになっている。以上では磁化が面内方向に磁化されている状況を例としたが、用途に応じて任意の磁化方向を選択することが可能である。
入力部の状態は磁化方向を用いた不揮発性を有するため、待機電力を必要とせず、かつ入力部の書き換えはより大きな電圧信号の入力によって磁化反転を制御することができるため、低電力駆動で再構成可能な論理素子を提供することが可能である。
【0072】
[実施例19]
図24は本発明の実施例19による高周波検波素子の構造及び回路模式図である。素子構造は図1とほぼ同様であるが、電極層が強磁性層18からなる点で相違している。磁気異方性制御層1と強磁性層18間に、超薄膜強磁性層1の共鳴周波数に一致する周波数を有する高周波電圧信号5を印加し、それによって発生する電界信号を供給することによって、外部より印加した任意の磁界の周りに強磁性共鳴を励起する。磁気異方性制御層1、超薄膜強磁性層2、絶縁障壁層3に適用できる具体的な材料は、図1の説明で挙げた材料と同様であり、強磁性層18に関しては、超薄膜強磁性層2と同様の材料を適用できる。これまでの実施例で述べたように、高周波電圧信号5(周波数ω)、それによって発生する高周波電界により誘起される超薄膜強磁性層2の磁化の強磁性共鳴運動は、トンネル抵抗の時間振動(周波数ω)を生む。この抵抗振動と、微弱に素子に流れる高周波電流との積により、素子端には直流電圧と高周波電圧(周波数2ω)成分が発生する。この直流電圧を検出することにより高周波検波素子を提供できる。高周波電流によるスピン角運動量移行効果を利用した強磁性共鳴励起とトンネル磁気抵抗効果を組み合わせることによる検波素子は同様の構造、及び回路によって提案されている(非特許文献5)。しかしながら、背景技術で述べたように、電流による制御は効率が悪く、消費電力が大きくなる点が問題である。本発明は以下の構造的な特徴を有する強磁性トンネル接合素子を用いることにより、究極的には電力をほとんど消費することなく高い感度を有する高周波検波素子を提供する。
すなわち、超薄膜強磁性層2に求められる特性は、図7における説明と同様であり、磁気異方性制御層1、絶縁障壁材料3、及び超薄膜強磁性層2の材料、及び膜厚制御によって膜面垂直方向の有効反磁界が1000(Oe)以下となるように制御する。絶縁障壁層3のトンネル障壁としての特性に関しても図1における説明と同様であり、面積抵抗値が10Ωμm2以上で、素子に流れる電流密度が1×109A/m2以下となるように設計された絶縁障壁層3を用いている。
【0073】
[実施例20]
図25は本発明の実施例20による高周波検波素子の構造及び回路模式図である。図24の構造、及び回路に加えてバイアス磁性層19を有し、また、高周波電圧信号5に加えて直流電圧信号23を印加している。各層に用いる材料は、図24の構成材料と同様の材料が適用できる。バイアス磁性層19からの漏れ磁界と、直流電圧信号5の印加による超薄膜強磁性層2の磁気異方性制御を組み合わせることによって、超薄膜強磁性層2の平衡磁化方向を任意に制御することができる。その結果、外部から磁界を印加することなく、共鳴励起条件を任意に制御することが可能となる。これは同時に検波周波数を電圧で制御できることに相当し、電界のみを駆動力とし、周波数可変な超低電力高周波検波素子を提供できる。
【0074】
図26は本発明の実施例21による磁気記録装置の模式図である。ここで垂直磁化磁性媒体20は、超薄膜強磁性層が絶縁層により分離された孤立微粒子の形態を採り、1粒子、若しくは複数の粒子群により1記録ビットを形成する。この構造に対し、高周波電界アシストヘッド21を用いて、その先端を電極層、垂直磁化磁性媒体20とのギャップを絶縁障壁層として、超薄膜強磁性層の共鳴周波数に一致する高周波電界、若しくは共鳴周波数の逆数程度のパルス幅を有する直流パルス電界を印加することで、垂直磁化磁性媒体20の超薄膜強磁性層に局所的に強磁性共鳴を励起し、同時に書き込み磁界ヘッドより印加される直流磁界により磁化反転制御を行う。強磁性共鳴励起により、超薄膜強磁性層の磁化反転に必要なエネルギー障壁を見かけ上低減することで、通常のハードディスクで採用されている書き込み磁化ヘッド22からの磁界印加による磁化反転磁界を低減した磁気記録方式を実現することができる。望ましい形態としては、高周波電界アシストヘッド21への入力は連続的に行い、複数bitに対して電界誘起強磁性共鳴を励起した状態で、書き込みが必要なbitに対してのみ、より局所的に直流磁界を印加することで磁化反転制御を行う。そのため、高周波電界アシストヘッド21の先端径は1bit記録領域よりも十分大きい設計(例えば数百nm程度)も可能である。直流磁界の印加強度、および角度は、電界印加によって誘起される超薄膜強磁性層の磁気異方性変化量によってその最適値が決定される。
【0075】
垂直磁化磁性媒体20の超薄膜磁性層に印加される電界が1V/nm以下となるように制御するため、高周波電界アシストヘッド21と垂直磁化磁性媒体2020間のギャップは3nm以下に設計されることが望ましい。垂直磁化磁性媒体20の超薄膜強磁性層20用の材料としてはすでに応用されているCoを主成分とする合金から形成される材料(例えばCoCrPt)が好ましいが、Fe、Co及びNi、若しくはこれらの内少なくとも1つの元素を含む合金層、または酸化物(フェライト、ガーネット等)、Nd、Sm、Tbなどの希土類元素を含む化合物及び合金等からなる層、若しくは上記材料を含む積層構造体など、幅広い材料系を用いることができる。
【0076】
高周波電界アシストヘッド21で消費される電力は電流制御型と比較して1/1000以下と非常に小さいため、従来の直流電流磁界のみによる磁化反転制御、及び高周波スピントルク発振を利用した高周波アシスト磁化反転制御と比較すると、共鳴励起による磁化反転磁界の減少分そのものに相当する大幅な低消費電力化が期待される。一方、高周波電界アシストヘッド21により、実効的な反転磁界を低減することが可能になれば、電界を印加していない状態、つまり記録保持状態における磁気異方性は高く設計することができるため、1ビットのサイズ縮小、つまり記録媒体の大容量化が可能となる。
【0077】
本発明の電界による強磁性共鳴励起を基本とする磁気機能素子は電界のみを駆動力とする低消費電力な論理演算素子や磁気記憶素子、高周波検波素子、さらには磁気記録方式を提供することが可能である。
【0078】
以上、本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明はこれらの記述に限定されるものではない。前述の実施形態に関して、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備える限り、本発明の範囲に包含される。
また、前述した各実施形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明によれば、伝導電子による電界シールド効果が起きない程度に十分薄い超薄膜強磁性層と、磁気異方性制御層とを直接積層し、超薄膜強磁性層側に絶縁障壁層及び電極層を順に配置した積層構造体に対し、特定の磁界印加角度及び磁界強度を有する磁界を印加した上で、磁気異方性制御層と電極層との間に、磁性共鳴周波数の高周波成分を有する電界を印加するだけで、効率よく強磁性共鳴ダイナミクスを励起することができる。
これにより、室温での動作、高い繰り返し動作耐性、単純な作製プロセスによる製造コストを低減することができる。
さらに、電界印加によるものであることから、きわめて微小の消費電力で強磁性共鳴を励起させることができるので、電界駆動を基本とした強磁性共鳴励起を行うスピン波信号生成素子、スピン流信号生成素子を信号入力・制御に用いることにより、論理素子、高周波検波素子、及び、磁気記録装置等の磁気機能素子として利用されることが期待できる。
【符号の説明】
【0080】
1 磁気異方性制御層
2 超薄膜強磁性層
3 絶縁障壁層
4 上部電極層
5 高周波電圧信号
6 バッファー層
7 Au磁気異方性制御層
8 超薄膜FeCo層
9 MgO絶縁障壁層
10 上部Fe層
11 キャップ層
12 シグナルジェネレータ
13 電圧計
14、19 バイアス磁性層
15、17、18 強磁性層
20 垂直磁化媒体
21 高周波電界アシストヘッド
22 書き込み磁化ヘッド





【特許請求の範囲】
【請求項1】
伝導電子による電界シールド効果が起きない程度に十分薄い超薄膜強磁性層と、磁気異方性制御層とを直接積層し、前記超薄膜強磁性層側に絶縁障壁層及び電極層を順に配置した積層構造体に対し、特定の磁界印加角度及び磁界強度を有する磁界を印加した上で、前記磁気異方性制御層と前記電極層との間に、磁性共鳴周波数の高周波成分を有する電界を印加することにより、前記超薄膜強磁性層に強磁性共鳴を励起することを特徴とする電界駆動型強磁性共鳴励起方法。
【請求項2】
請求項1に記載の電界駆動型強磁性共鳴励起方法において、
前記超薄膜強磁性層の膜厚が、該超薄膜強磁性層の材質及び膜厚、前記磁気異方性制御層の材質並びに前記絶縁障壁層の材質及び膜厚に応じて、伝導電子による電界シールド効果が起きない程度に十分薄い膜厚に設定されていることを特徴とする電界駆動型強磁性共鳴励起方法。
【請求項3】
請求項2に記載の電界駆動型強磁性共鳴励起方法において、
前記超薄膜強磁性層の膜厚は、前記高周波成分を有する電界を印加することによって誘起される最大の垂直磁気異方性磁界変化量が、前記磁気異方性制御層、前記絶縁障壁層及び前記超薄膜強磁性層の組み合わせによって決定される、前記超薄膜強磁性層の垂直磁気異方性の5%以上となるように決定することを特徴とする電界駆動型強磁性共鳴励起方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の電界駆動型強磁性共鳴励起方法において、
前記磁気異方性制御層及び前記絶縁障壁層との界面磁気異方性若しくは結晶磁気異方性を選定することにより、前記超薄膜強磁性層の膜面直方向の有効反磁界が1000(Oe)以下であることを特徴とする電界駆動型強磁性共鳴励起方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに1項に記載の電界駆動型強磁性共鳴励起方法において、
前記磁気異方性制御層として、Au、Ag、Cu、Al、Ta、Ru、Cr、Pt、Pdまたはそれらの合金を用いることを特徴とする電界駆動型強磁性共鳴励起方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の電界駆動型強磁性共鳴励起方法において、
前記積層構造体に、前記電極層の反対側に、バイアス磁界を印加するためのバイアス磁性層を設け、該電極層とバイアス磁性層の間に、直流電界と前記磁性共鳴周波数の高周波成分を有する電界を重畳させて印加することにより、任意の平衡磁化方向周りにおける強磁性共鳴を励起することを特徴とする電界駆動型強磁性共鳴励起方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の電界駆動型強磁性共鳴励起方法において、
前記絶縁障壁層の抵抗面積値が10Ωμm2以上であり、電圧印加時において該絶縁障壁層を介して流れるトンネル電流密度が1×109A/m2以下としたことを特徴とする電界駆動型強磁性共鳴励起方法。
【請求項8】
伝導電子による電界シールド効果が起きない程度に十分薄い超薄膜強磁性層と、磁気異方性制御層とを直接積層し、前記超薄膜強磁性層側に絶縁障壁層及び電極層を順に配置した積層構造体と、該積層構造体に対し、特定の磁界印加角度及び磁界強度を有する磁界を印加する手段と、前記磁気異方性制御層と前記電極層との間に、磁性共鳴周波数の高周波成分を有する電界を印加する手段とを備え、前記超薄膜強磁性層に強磁性共鳴を励起して局所的に発生させたスピン波を、前記強磁性超薄膜あるいは前記磁気異方性制御層と連続して形成した少なくとも1つ以上のスピン波導波路から取り出すようにしたことを特徴とするスピン波信号生成素子。
【請求項9】
請求項8に記載のスピン波信号生成素子において、
前記スピン波導波路上にスピン波信号検出部を有することを特徴とするスピン波生成素子。
【請求項10】
請求項9に記載のスピン波生成素子において、
前記スピン波信号検出部は、前記超薄膜強磁性層上に前記絶縁障壁層を介して設置された高周波信号伝送路により形成され、スピン波により発生する誘導起電力を用いて信号を検出することを特徴するスピン波生成素子。
【請求項11】
請求項9に記載のスピン波生成素子において、
前記スピン波信号検出部は、前記超薄膜強磁性層上に形成された、前記絶縁障壁層及び強磁性層からなる積層構造から形成され、信号の検出に前記絶縁障壁層を介したトンネル磁気抵抗効果を用いることを特徴とするスピン波生成素子。
【請求項12】
請求項8から11のいずれか1項に記載のスピン波信号生成素子において、
前記積層構造体に、前記電極層の反対側に、バイアス磁界を印加するためのバイアス強磁性層を設け、該電極層とバイアス強磁性層の間に、直流電界及び磁性共鳴周波数の高周波成分を有する電界を重畳させて印加することにより、任意の平衡磁化方向周りにおける強磁性共鳴を励起させ、伝搬するスピン波の周波数を任意に制御することを特徴とするスピン波信号生成素子。
【請求項13】
請求項8に記載のスピン波信号生成素子において、
前記スピン波導波路の一部に前記絶縁障壁層及び前記電極層からなる積層構造を設け、前記直流電界及び前記磁性共鳴周波数の高周波成分を有する電界の印加によって、前記スピン波導波路を形成する超薄膜強磁性層の磁気異方性を局所的に直接制御することで、該スピン波導波路を伝搬するスピン波の周波数、波長、振幅、位相などの波動性を変化させることを特徴とするスピン波信号生成素子。
【請求項14】
伝導電子による電界シールド効果が起きない程度に十分薄い超薄膜強磁性層と、磁気異方性制御層とを直接積層し、前記超薄膜強磁性層側に絶縁障壁層及び電極層を順に配置した積層構造体と、該積層構造体に対し、特定の磁界印加角度及び磁界強度を有する磁界を印加する手段と、前記磁気異方性制御層と前記電極層との間に、磁性共鳴周波数の高周波成分を有する電界を印加する手段とを備え、前記超薄膜強磁性層に強磁性共鳴を励起して局所的に発生させた純スピン流を、前記磁気異方性制御層内に生成し、該前記磁気異方性制御層をスピン流伝送路としたことを特徴とするスピン流信号生成素子。
【請求項15】
請求項14に記載のスピン流信号生成素子において、
前記積層構造体に、前記電極層の反対側に、バイアス磁界を印加するためのバイアス強磁性層を設け、該電極層とバイアス強磁性層の間に、直流電界及び磁性共鳴周波数の高周波成分を有する電界を重畳させて印加することにより、任意の平衡磁化方向周りにおける強磁性共鳴を励起させ、伝搬するスピン流の強度を任意に制御することを特徴とするスピン波信号生成素子。
【請求項16】
請求項14または15に記載のスピン流信号生成素子において、
前記磁気異方性制御層がAu、Ag、Cu、Al、Ta、Ru、Cr、Pt、Pdまたはそれらのうち少なくとも1つを含む合金のいずれかからなるスピン流信号生成素子。
【請求項17】
請求項14から16のいずれか1項に記載のスピン流信号生成素子において、
前記スピン流を伝送信号とし、前記磁気異方性制御層をスピン流伝送路とし、該磁気異方性制御層に逆スピンホール効果を用いたスピン流検出部を備えることを特徴とするスピン流信号生成素子。
【請求項18】
請求項17に記載のスピン流信号生成素子において、
前記スピン流を伝送信号とし、前記磁気異方性制御層からなるスピン流伝送路上に形成された、強磁性層、非磁性スぺーサー層及び強磁性層を順次積層してなるトンネル磁気抵抗素子を、前記スピン流検出部として備えることを特徴とするスピン流信号生成素子。
【請求項19】
請求項18に記載のスピン流信号生成素子において、
前記磁気異方性制御層からなるスピン流伝送路上に接するように前記強磁性層を形成し、該強磁性層の磁化方向を制御することを特徴とするスピン流信号生成素子。
【請求項20】
請求項19に記載のスピン流信号生成素子において、
前記スピン流機能素子を複数組み合わせ、スピン流の合成により、前記強磁性層の磁化方向を制御することを特徴とするスピン流信号生成素子。
【請求項21】
請求項8から13のいずれか一項に記載のスピン波信号生成素子を複数組み合わせ、前記磁性共鳴周波数の高周波成分を有する電界を印加する手段のそれぞれを介して入力された信号により、前記のスピン波導波路を伝搬するスピン波の波動性を制御することで論理演算を行うことを特徴とするスピン波論理素子。
【請求項22】
伝導電子による電界シールド効果が起きない程度に十分薄い超薄膜強磁性層と、磁気異方性制御層とを直接積層し、前記超薄膜強磁性層側に絶縁障壁層、及び強磁性層からなる電極層を順に配置した積層構造体と、該積層構造体に対し、特定の磁界印加角度及び磁界強度を有する磁界を印加する手段と、前記磁気異方性制御層と前記電極層との間に、磁性共鳴周波数の高周波成分を有する電界を印加する手段とを備え、前記超薄膜強磁性層の磁気異方性を直接制御することによって強磁性共鳴を励起し、前記強磁性層からなる電極層によるトンネル磁気抵抗効果を組み合わせることによって発生する直流電圧により検波を行うことを特徴とする高周波検波素子。
【請求項23】
請求項20に記載の高周波検波素子において、
前記積層構造体がバイアス磁界を印加するためのバイアス強磁性層を備え、該積層構造に直流電界と前記磁性共鳴周波数の高周波成分を有する電界を重畳させて印加することにより、検波周波数を任意に制御できることを特徴とする高周波検波素子。
【請求項24】
伝導電子による電界シールド効果が起きない程度に十分薄い超薄膜強磁性層からなる垂直磁化磁性媒体層と、磁気異方性制御層とを直接積層し、前記垂直磁化磁性媒体層側に絶縁障壁層となるギャップを介して高周波電界アシストヘッドを配置し、書き込み磁界ヘッドにより、特定の磁界印加角度及び磁界強度を有する磁界を印加した上で、前記高周波電界アシストヘッドの先端を電極層として、前記磁気異方性制御層との間に、磁性共鳴周波数の高周波成分を有する電界を印加することにより、前記垂直磁化磁性媒体層に強磁性共鳴を励起して、該垂直磁化磁性媒体の磁化反転に必要なエネルギー障壁を見かけ上低減することによって、書き込み用磁化反転磁界を低減することを特徴とする磁気記録装置。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2013−45840(P2013−45840A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−181654(P2011−181654)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度、独立行政法人科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業個人型研究(さきがけ)「ナノ構造スピン系の電界制御」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】