電着合金と電力パルスを利用したその製造法
電流パルスのような電力パルスは、非水性電解質で電着する金属および合金の化学構造を制御するために使用される。異なる種類のパルスを含む波形を使用し、陰極、オフタイム、陽極と、粒子サイズなどの内部微細構造と、位相成分組成、位相領域サイズ、位相配置あるいは位相分布と、堆積合金の表面形態と、を調整することができる。さらに、これらの合金は強度、硬度、延性、密度において、優れた巨視的機械特性を有する。波形成形の方法によって、鋼鉄と同等の硬度を有するが、同時にアルミニウムとほぼ同等の軽さを有するアルミニウム合金、もしくは言い方を変えれば、同等の延性において、アルミニウム合金よりも硬いが鋼鉄よりも軽いアルミニウム合金を製造することができる。Al-Mn系合金はこれまでこのような強度対重量比で製造されてきた。追加される特性は、電流波形の成形を用いることにより制御可能である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
機械的、磁気的、電子的、光学的、あるいは生物学的な、望ましい性質を有する金属と合金は、多くの産業を通じて幅広く適用されている。強度、硬度、延性、靭性、電気抵抗などの、多くの物理的および/または機械的特性は、金属あるいは合金の内部形態構造に依存している。
【背景技術】
【0002】
“微細”という接頭辞が、決して構造の規模を制限するものではないが、金属あるいは合金の内部構造は微細構造(microstructure)といわれる。本明細書では、合金の微細構造は合金の内部構造を構成する様々な位相、粒子、粒界及び欠陥と、金属あるいは合金の内部におけるそれらの組み合わせによって定義される。おそらく1つ以上の位相が存在し、また、粒子や位相あるいは位相領域はナノメーター(nm)から、例えばミリメーター(mm)まで、特有の大きさを示す可能性がある。単相結晶性金属および合金に関しては、もっとも重要な微細構造的特徴は粒子サイズである。多重位相を見せる金属および合金に関しては、その性質もまた、位相成分、位相領域サイズ、そして位相の空間的配置あるいは位相分布といった、内部形態的性質に依存している。従って、マイクロメーター(μm)からナノメーター(nm)までの幅広い範囲の金属および合金の粒子サイズ、そして、位相成分、位相領域サイズ、そして位相の空間的配置あるいは位相分布を調整することは、大きな実際的関心事である。しかし、多くの場合、位相成分あるいは微細構造といった内部形態的特性における変化が、そのような物理的性質にどのような影響を与えるかということについて、正確には、あるいは一般的にでさえ、理解されていない。それゆえ、位相成分あるいは微細構造の調整方法を単に把握するだけでは不十分である。
【0003】
微細構造の特性を示す際、特徴的な微細構造の長さスケールを定義することは非常に有益である。多結晶の金属および合金の場合、ここで使用される特徴的な長さスケールは、平均的な粒子サイズで表される。亜結晶粒を含む微細構造部(つまり、結晶の中で互いの配向性がわずかに異なる領域)に関しては、特徴的な長さスケールはまた、亜結晶粒サイズでも表される。また、金属および合金は双晶欠陥を含むこともあり、隣接した粒子あるいは亜結晶粒が、特有の対称的な形態でずれて配向されている。このような金属および合金の場合、ここで使用される特徴的な長さスケールは、これらの双晶欠陥の間の間隔で表される。また、金属および合金は、異なる種類の結晶相(面心立方、体心立方、六方最密、あるいは固有の規則的な金属間構造)や、非晶相および準結晶相といった、多数の異なる位相を含む場合がある。このような金属および合金の場合、ここで使用される特徴的な長さスケールは、異なる位相間の平均間隔、あるいはそれぞれの位相領域の平均的な特徴的寸法で表される。
【0004】
さらに、金属および合金の表面形状に依存する、光学的光沢、多様な液体での湿潤性、摩擦係数、耐食性といった多数の性質が存在する。このように、金属および合金の表面形態(surface morphology)を調整する能力は適切かつ重要である。しかし、多くの場合、表面形態における変化が、これらその他の性質にどのような影響を与えるかということについて、正確には、あるいは一般的にでさえ、理解されていない。一般に、ここで使われている形態的特性(morphological properties)という用語は表面形態と内部形態を表すために使用されることがある。
【0005】
異なる微細構造の金属および合金を製造することができる既存の技術は数多く存在し、そこには、大きな力を加えることによる変形塑性加工法、機械粉砕、新規の再結晶、結晶化経路、気相堆積、電気化学析出(ここでは電着と呼ぶ)が含まれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、これらの加工技術には欠点がある。一部のものは望む形状の製品を製造できず、むしろシート、ロール、板、スラグといった、比較的単純な形状に限定される。過度のエネルギーを用いなければ、比較的大きな部品の製造に使用できないものもある。なかには最終製品の微細構造を作り出す加工技術もあるが、既存のプロセスに対する可変の変数が非常に少なく、このような微細構造の制御は比較的拙劣で、不正確である。
【0007】
望ましい性質の具体例としては、基板に合金塗装を施すのが有効である。多くの場合、このような塗装は比較的硬いか頑丈で、比較的延性があり、かつ単位体積当りの重量が比較的軽いことが有用である。
【0008】
その他の場合、基板と連結していないか、あるいは電鋳プロセスのように基板から取り外した一体構造の合金片を、製造するのが有用である。これらの場合では、このような合金片、あるいはこのような電鋳製造物が比較的硬いか頑丈で、比較的延性があり、かつ単位体積当りの重量が比較的軽いと有用であることが多い。
【0009】
鉄は、一般的には鉄よりも軽いが鉄ほど頑丈ではないアルミニウム合金と同様に、特徴的な強度対重量比を有している。そのため、鉄と同等、あるいはほぼ同等に硬く、一方で単位体積当りの重量がアルミと同等に軽い、あるいはほぼ同等に軽い合金を製造することが望ましいだろう。言い換えれば、それに関連する望ましい目的は、アルミニウム合金よりも硬く、単位体積当りの重量が鉄よりも軽い合金を製造することと言えよう。
【0010】
これに関して発明者は、下記の利点から、電着がとりわけ魅力的であると考えている。電着は、増強された耐腐食性や耐磨耗性といった格別な性質を生み出すべく、事実上いかなる形状の導電体上にも金属を堆積させるのに使用することができる。電着は比較的少ないエネルギーを必要とするだけであり、また、製品の性質に影響を及ぼすように、多くの作業変数(例えば温度、電流密度、浴組成)が調整可能であることから、より正確な微細構造の制御を行うことができるため、産業規模の運用に容易にスケールアップすることが可能である。同様に、基板の上に残すことを目的とした塗装、あるいはめっきされた基板から一部を取り除かれた電鋳部品を形成するために、電着を使用することもできる。
【0011】
これらの利点に加えて、適切な電解質を選択することにより、電着を用いて幅広い種類の金属および合金を製造することができる。鋼鉄、コバルト、金、銀、パラジウム、亜鉛、クロム、スズ、ニッケルを含む、数多くの合金系が水性電解質で電着することができ、水が溶剤として使用される。しかし、アルミニウムやマグネシウムといった、水よりも遥かに低い還元電位を示す金属は、従来の方法を使って、水性電解質で電着させることはできない。それらの金属は、溶融塩、トルエン、エーテル、イオン液体といった、非水性電解質で電着することが可能である。非水性電解質で電着される金属および合金の構造を制御するために採用される典型的な変数には、電流密度、浴温および浴組織が含まれる。しかし、これらの変数では、製造される微細構造の範囲は限られる。現状では、既知の手法では鉄と同等あるいはほぼ同等の硬度と延性を有するが、アルミニウムと同等あるいはほぼ同等の軽さを有する非鉄合金、別の言い方をすると、アルミニウムよりも硬くて延性があるが、単位体積あたりで鉄よりも軽い非鉄合金を製造することはできない。
【0012】
ナノ結晶アルミニウム(Al)の電着は、別の研究者が直流(DC)を利用して、ニコチン酸、塩化ランタン、安息香酸といった添加剤を用いて、塩化アルミニウムベースの溶液で実現されている。添加剤は効果的に粒子サイズを微細化することができるが、得られる粒径は制限される;例えば、ごく少量の安息香酸(0.02mol/L)はAl粒径を20nmにまで小さくするが、安息香酸濃度のさらなる増加が粒径をさらに縮小することはない。添加剤は、一般的に結晶微細化剤として知られる分類の有機質でよく、また、漂白剤やレベラーとも呼ばれる。
【0013】
ナノ結晶アルミニウム(Al)の電着は別の研究者が添加剤を使用せずに、パルス状堆積電流(on/off形態)を使用して実現しているが、やはり得られる粒径の範囲は狭い。
【0014】
加工温度は電着されたAlの粒径に作用することもまたすでに発見されている。しかし、粒径を制御するために温度を利用することは、ある加工運転から次の運転に向けて電解質温度を変更するのに要する、長時間かつ大量のエネルギー消費の点で、あまり実用的ではない。
【0015】
機械的、磁気的、電子的、光学的、あるいは生物学的な性質を、電解質組成を変える必要のないプロセスのパラメータを操作することで調整することが望ましいと言えよう。例えば、本来なら不要な添加剤、あるいは加工温度、あるいは調整に時間やエネルギーを消費するその他のパラメータ、あるいは使用にエネルギーを大量消費するその他のパラメータ、あるいはモニタリングが難しいその他のパラメータを使用するなどの方法である。添加剤とは一般に結晶微細化剤や漂白剤、およびレベラーを意味しており、それらは他のものに加えてニコチン酸、塩化ランタン、あるいは安息香酸や、結晶微細化剤や漂白剤、およびレベラーを含んでいる。
【0016】
粒径、位相領域サイズ、位相成分、位相配置あるいは位相分布といった、微細構造的特徴あるいは内部形態的特徴と、上記の物質的および/または機械的性質との関係を必ずしも理解しなくとも、物質的性質を制御できることも、望ましいと言えよう。同様に、表面形態あるいは光学的光沢、多様な液体での湿潤性、摩擦係数、耐食性といった表面性質を、同様に便利なパラメータを操作することにより、なおかつ上記の表面形態と表面性質との関係を必ずしも理解しなくとも、調整することが望ましい。
【0017】
また、例えば15nmからおよそ2500nmまで、幅広い粒径を有する合金を製造でき、またこの範囲で粒径を効果的に制御できたりすることも望ましいだろう。加えて、ある単一の電解質組成物を、異なる微細構造と表面形態の電着合金に連続して使用することができれば、非常に大きな恩恵に浴することになる。最後に、堆積厚さを通じて、粒径、化学成分、位相成分、位相領域サイズ、位相配置あるいは位相分布のうちの1つあるいはすべてが制御される、格付けされた微細構造を提供できることは、極めて有益である。
【課題を解決するための手段】
【0018】
より詳細な部分的要点を以下に記載する。ここで開示される新技術は非水性電解質にて電着された金属および合金の構造を制御するための異なる可変要素の利用である。適用される電力の波形の形状は、一般的には電流波形である。異なる種類のパルスを有する波形、すなわち陰極、“オフタイム”、そして陽極パルスを含んだ波形を用いることにより、粒径、位相成分、位相領域サイズ、位相配置あるいは位相分布といった微細構造と、堆積時の合金の表面形状が調整可能である。さらに、これらの合金は、強度、硬度(通常、強度に比例する)、延性および密度といった、優れた巨視的な機械的性質を示す。実際、波形成形法は比較的硬く(約5GPa)、鉄と同様の延性を持つ(断面で約13%の伸長度)が、アルミニウムとほぼ同等に軽量なアルミニウム合金、あるいは、言い換えれば、同様の延性を有しながら、アルミニウム合金よりも硬いが鉄よりも軽いアルミニウム合金の製造に使われている。ひとつの事例として、Al-Mn合金はそのような強度対重量比で製造されている。追加の性質は、電流波形の形状を用いて制御することが可能である。
【0019】
さらに、前記の他の目的はすべて、有機質の微細化添加剤を使わず、ほぼ一定の温度において、波形形状および非水性電解質を用いて実現されている。
【0020】
本発明における、上記の、また、その他の目的は、図面を参照することで最良に理解できるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、4種類の電着電流波形を示した概略図であり、陰極電流は正と定義される。(a)は一定の電力密度を表す。(b)はひとつの陰極パルスとひとつの陽極パルスのモジュールを表す。(c)はひとつの陰極パルスとひとつの“オフタイム”パルスのモジュールを表す。(d)はふたつの陰極パルスのモジュールを表す。
【図2】図2は、A(直流)とB(陰極と陽極)の波形を用いて電着された合金のMn含有量に対する、電解質組成の変更による影響を表すグラフである。
【図3】図3は、リニアインターセプト法を用いて、AおよびBの波形を使って堆積させた合金に対して、走査電子顕微鏡(SEM)画像から決定された表面形状の平均サイズを、グラフで示している。
【図4】図4Aから4Bは、(A) 波形Aと(B) 波形Bとを使用し、両方のパネルの間で示される合金の組成物で堆積させた合金のX線ディフラクトグラムのグラフを示している。
【図5】図5は、図4Aおよび4Bで示されているように、波形AおよびBを使用して堆積させた合金の、X線ディフラクトグラムで見られた総合算強度に対するFCCピークの寄与率をグラフで示している。
【図6】図6Aから6Fは、波形Aを使用して電着させた合金のブライトフィールドトランスミッション電子顕微鏡(TEM)のデジタル画像と、挿入された電子回析パターンであり、各合金の全体的なMn含有量が各パネルの左下に示されている。
【図7】図7Aから7Iは、波形Bを使用して電着させた合金のブライトフィールドトランスミッション電子顕微鏡(TEM)のデジタル画像と、挿入された電子回析パターンであり、各合金の全体的なMn含有量が各パネルの左下に示されている。
【図8】図8は、AおよびBの波形を用いて堆積させた合金に対して、TEMのデジタル画像から決定された、特徴的な微細構造の長さスケールのグラフである。
【図9】図9は、波形Bを用いて堆積された合金の硬度とMn含有量の関係のグラフである。
【図10】図10は、0.08および0.15mol/LのMnCl2を含む電解質において電着された合金の、Mn含有量に対するi2の影響を示すグラフである。
【図11】図11は、i1 = 6mA/cm2 かつ i2 = −3mA/cm2 である、0.08および0.15mol/LのMnCl2を含む電解質において電着された合金の、Mn含有量に対するtnの影響を示すグラフである。
【図12】図12は、本発明のA、B、EおよびHのAl - Mn 合金の強度と延性との関係を、市販のAl合金および鉄と比較したグラフである。右方向を示す矢印はE合金の延性は13%よりも大きいことを示している。
【図13】図13は、機能別に配列された堆積物の断面を図式で示しており、それぞれの層は異なる性質を有する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
電着設定の基本的な構成要素には、電力供給装置あるいは整流器が含まれる。これは電解質に沈められるふたつの電極(陽極および陰極)に連結される。定電流電着において、電力供給装置は陽極と陰極の間を流れる電流を制御し、一方で定電位電着においては、電力供給装置はふたつの電極の間に加えられる電圧を制御する。両方のタイプの電着においては、電解液の金属イオンが陰極に引き寄せられ、金属イオンは金属原子に還元され、陰極表面に堆積する。定電流電着はより実用的で広く使用されているため、以降の説明は定電流電着に焦点を当てて行われる。しかし、一般的な発明概念は定電位電着にも適用される。
【0023】
従来の定電流電着では、電力供給装置は図1 (a)に見られるとおり、電着プロセスにおいて、終始電極に一定電流を供給する。ここでは、陰極電流(すなわち、金属イオンを陰極表面上の金属原子に還元させる方向に流れる電流)は正と定義される。技術の進歩にともない、現在では電力供給装置は図1(b) - (d) で見られるように、モジュール(module)を構成する電流波形を供給することができる。同様に、それぞれのモジュールはセグメントあるいはパルスを含んでいる。それぞれのパルスは決められたパルス電流密度(例えば「i1」)と、パルス幅(例えば「t1」)を有している。図1 (b) - (d) は電着プロセスの間、終始周期的に反復される、ただひとつの独特なモジュールを有する波形を図示しているが、適用事例によっては、それぞれのモジュールが別のモジュールと異なる場合もある。また、図1 (b) - (d)に示されたそれぞれのモジュールが2つのパルスのみで構成されているが、実際には、1つのモジュールは使用者が希望する数のパルス、あるいは電力供給装置が供給できる数のパルスを有することができる。本説明では、ひとつの独特の、かつ反復性のモジュールを有する波形を採用する。そしてそれぞれのモジュールは、図1で表されているように、ふたつのパルスで構成される。しかし、ここで開示される発明は、上述のものに限定するものではない。
【0024】
図1において、波形(b) はひとつの陰極パルス(i1>0)とひとつの陽極パルス(i2<0)を有する。波形(c) のモジュールはひとつの陰極パルス(i1>0)とひとつの“オフタイム”パルス(i2 = 0)を有する。“オフタイム”パルスの間、電極間には電流が流れない。波形(d)のモジュールは、i1>0とi2>0であるため、ふたつの陰極パルスを有するモジュールによって特徴付けられている。(b)で示される陽極パルスの間、陰極表面上の原子は酸化されて金属イオンとなり、電解質内に溶解する。
【0025】
図1で表される波形は水性電解質で金属および合金を電着する際に使用される。近年では、図1 (b) - (d) に記されているような、異なる種類のパルスの組み合わせを有する波形(すなわち、陰極、陽極、オフタイム)は、オフタイムパルスが堆積における内部応力を減少することや、陽極パルスが粒径に顕著に影響すること、そして堆積物の表面外観と内部応力を改善することが発見されたため、注目を集めている。単相合金の場合、陽極パルスは、最も高い酸化電位の要素を優先的に除去することができ、それゆえ合金の組成を制御できる。多位相合金系においては、状況はより複雑である。陽極パルス中に除去されるそれぞれの位相の程度は、各位相の関連する電気陰性度だけではなく、さまざまな位相の配置および分布にも依存する。
【0026】
アルミニウム−マンガン(Al-Mn)の二元合金による特定のケースにおいて、本発明者は非水性電解質の中で電着される金属あるいは合金の構造を制御する、異なる種類のパルスを有する波形の使用を実施した。一般的には、少なくとも2つの異なる大きさを持つパルスが使用されている。例えば、陰極パルスは2つの異なる正電流レベルで使用されている。あるケースでは、パルスは異なる代数符号も有している。例えば陽極パルスが後に続く陰極パルス、あるいはオフタイムパルスが後に続く陰極パルス(ゼロサインパルス)である。このようなパルス形態は以前より使用されており、既知の技術より優れていた。一般的に、それぞれのパルス形態は、振幅i1の陰極電流を有し、正で、時間t1の間適用されるパルスと、そして振幅i2の電流を有し、時間t2の間に適用される別パルスを特徴としており、t1とt2が約0.1msよりも長く、持続時間が約1sよりも短く、さらにi2/ i1の比が約0.99よりも小さく、約−10よりも大きい。
【0027】
異なる種類のパルスを有する波形を用いることにより、合金堆積物の別の特徴を制御できることが発見された。あるケースでは、目的である性質、例えば延性などが、パルスの振幅および/または持続時間といった、パルスパラメータとの直接的な関係を帯びているので、直接制御が可能であることが発見されている。別のケースでは、直流あるいは非パルス形態が用いられる場合の、突然変移を伴う非段階的、あるいは非継続的な関係とは対照的に、構成相の大きさや体積分率といった目的の性質が、1つのパルス形態を用いる場合に、堆積物内の含有元素(例えばMn)といった、別の可変要素との直接的、段階的、そして継続的な関係を帯びることが発見されているので、制御が可能である。このように、このパルス形態を使用することによって、そして、継続的な関係に基づくその他のパラメータを選択することにより、構成相の大きさ、体積分率といった目的の性質の制御が実施可能となる。
【0028】
本発明者は、そのような他の目的となる性質に関して、異なるパルス形態が異なる結果をもたらすことを確認するために十分な実験を行ってきた。そのため、例えば硬度や強度といった延性以外の目的となる機械的性質、そして粒径や表面性状といった形態的性質に関して、i2/ i1の比あるいはi2/ i1の比の正負(つまり0、1あるいは−1)といった、目的の性質の程度とパルスパラメータとの関係を特定することにより、制御が達成されると考えてられている。パルス形態に基づき、目的となる性質の変化が存在する確率が非常に高いため、上記は可能であると考えられる。これに当てはまらない場合、直流めっきは、目的の性質のために1つの値を有する堆積を施し、すべてのパルス形態は目的の性質のための異なる値を有する堆積を施すことが必要となるであろう。特にそれに伴う延性とパルス形態の関連を示す、明白な結果を得られるので、これが起こりうる確率は極めて低い。後述のように、合金組成はパルスの持続パラメータと関連していることもまた発見されている。
【0029】
これらの、製造された合金の性質を制御の利点に加え、パルス電流(あるいは電圧)を用いて製造された合金は、延性と組み合わせて、大変有利な強度対重量の比の性質を有することも発見されている。要するに、硬度や引っ張り降伏強度、延性および密度の組み合わせの実現された範囲は、既知のアルミニウム合金や鋼鉄のそれよりも遥かに優れている。既知のアルミニウム合金に関して、本発明の合金は、硬度および延性の優れた組み合わせを有する。鋼鉄に関しては、本発明の合金は、密度がそれよりかなり低いが、同程度の硬度および/または延性を有している。
【0030】
Al-Mn合金が大気温度(すなわち室温)にて、表1に要約されている成分のイオン液体電解質内で電着された。この電解質を調合するために用いられる手順は、本項の後に詳細が記述されている。すべてのケースにおいて、前述の漂白剤やレベラーといった添加物は使用されていない。
【表1】
【0031】
電解研磨された銅(99%)が陰極として、純アルミニウム(99.9%)が陽極として使用された。電着は低電流条件の下、室温にて実施された。使用された波形は図1に記載されている。変数はi1、i2、t1、t2である。初めに、2つの種類の電流波形、すなわちAとBが、Mn含有量が0から16%の合金を電着するために使用された。これら2つの種類の波形の詳細は表2に記載されている。波形Aの形状は直流電流波形である図1(a)に示されているものと同様であることに留意されたい。波形Bは図1(b)と同様である。これは陽極パルスと陰極パルスを有する波形である。従って、波形Aのi2/i1の比の値は1であり、波形Bの比の値は−1/2である。
【表2】
【0032】
(電解質調合の手順)
すべての化学物質は窒素雰囲気下のグローブボックスに入れられ、H2OとO2の含有量は1ppm以下であった。有機塩、1-エチル-3-メチル-イミダゾリウムクロライド(EMIm)Cl(>98%の純度、IoLiTec社製)を、使用する前の数日間、60℃の真空状態で乾燥させた。電着浴の調合に、無水AlCl3粉末(>99.99%の純度、Aldrich社製)とEMImClを2:1のモル比で混合した。堆積に先立ち、純粋アルミニウム箔(99.9%)をイオン液体に加え、酸化不純物と塩化水素の残留物を除去するために、溶液を数日間撹拌した。細孔径1.0μmのシリンジフィルターでろ過した後、淡い帯黄色の液体が得られた。塩化マンガン(MnCl2)の公称濃度はイオン液体への無水MnCl2(>98%の純度、Aldrich社製)の制御した添加により変えられた。
【0033】
厚さ約20μmの合金シートを電着した。合金の化学成分は走査型電子顕微鏡(SEM)を用いたエネルギー分散型X線分析(EDX)によって数値で表された。合金の表面形態も、ここで検査された。合金の位相成分はX線回析(XRD)を使って検査された。粒子形態と位相分布は透過型電子顕微鏡(TEM)を使用して検査された。荷重10グラムで、15秒のホールディングタイムにて、波形Bで製造された選択合金に、標準ビッカース微小押込試験が実施された。すべてのケースにおける押込深さは、膜厚さの1/10を遥かに下回り、明確な正味計測を保証した。単軸引張り状態の合金の延性を評価するために、ASTM(米国材料試験協会)E290-97a(2004)で詳述されているとおり、型曲げ試験が実施された。試験サンプルの厚みt(すなわち、膜と銅基板を合わせた厚み)はマイクロメータを使って計測され、0.220±0.02mmから0.470±0.02mmの範囲であった;また、心棒先端の半径rは0.127mmから1.397mmの範囲であった。型曲げ試験の後、走査型電子顕微鏡(SEM)を使用して、膜の凸状曲面のひびや亀裂の検査が行われた。
【0034】
それぞれの曲面サンプル(すなわち、膜と銅基板を合わせたもの)に関して、膜厚は基板厚の10%以下であった。従って、好ましい近似値のために、膜は被検査用曲面の外繊維に配置され、単軸引張り状態が検査された。また、曲面サンプルの上半分は伸長状態にあり、一方で下半分は圧縮状態にあり、中立面は凸面と凹面のおよそ中間にある。凸面の厳密な引っ張り歪みは、ε = ln (l / l0) で概算される。ここでは、lは凸面のアーク長を表し、l0は中立面のアーク長を表す。幾何学考察で
となる。よって、〜0.6、3および5.5のr/t比の値は、それぞれ〜37%、13%、8%の歪み値に対応する。
【0035】
(合金成分)
図2は堆積合金のMn含有量に対する電解質成分と電流波形の影響を要約している。〜0.1から0.16mol/LのMnCl2を含有する電解質で電着された合金に関して、波形Bで製造された合金は、波形Aを用いて堆積された合金と比較してMnの含有量が少ない。そのため、図2では、表2で要約された堆積パラメータに基づき、陽極パルスが堆積合金からMnを優先的に除去する証拠を示している。ここでは、電着浴の成分を参照する替わりに、使用される波形名(すなわちA、B、Cなど)および合金成分がサンプルに標識される(図2を参照することにより、合金成分から浴組成が判明する)。
【0036】
(表面形態)
堆積合金の表面形状を描写したSEM画像が作成および分析された。A合金の表面形態は0.0原子%〜7.5原子%の範囲の硬度に切子状となった構造から、8.2原子%から13.6原子%の範囲の丸みを帯びた結節構造への突然変移を見せている。一方B合金の表面形態は、0.0原子%〜4.3原子%の範囲の高度に切子状となった構造から、6.1原子%から7.5原子%の範囲の角張りが少なく、より細かい構造への段階的移行を見せる。そして、8.0原子%で滑らかでほとんど凹凸のない表面へと移行し、11原子%から13.6原子%の範囲の丸みを帯びた結節構造が表れる。
【0037】
A(直流)合金とB(陰極/陽極)合金の表面形状部の平均的な特徴的サイズを決定するために、リニアインターセプト法が用いられ、図3はその結果をグラフ化して要約している。試験された組成物範囲全体では、B合金の表面形状部のサイズはA合金のそれよりも小さい。A合金のMn含有量が増えるに従って、表面形状部のサイズが継続的に減少する一方で、B合金の表面形状部のサイズは〜8原子%の局所的最小値を示す。
【0038】
光学的には、同等のMn含有量のA合金と比較して、B合金はより滑らかに見える。加えて、B合金は外観において興味深い変化を見せている:Mn含有量が0から7.5原子%に増加すると、くすんだ灰色の外観が灰白色になる。8.0原子%以上のMnを含む合金の外観は明るい銀色である;そして、8.0原子%のMnはもっとも光沢のある外観となる。
【0039】
(位相成分組成)
図4は(a) A合金と(b) B合金のX線ディフラクトグラムを表している。AおよびB合金は位相成分組成において同様の傾向を示している。低いMnの含有量では、合金はFCC Al(Mn) 固溶体相を示す。中間的なMnの含有量では、〜42°2θでの回析図で広範な暈を表す非晶相がFCC相と共存する。高いMnの含有量では、合金は非晶相を有する。さらに、AおよびB合金は〜8%のMnのほぼ同一の成分組成において、FCC単相から二重構造へと変化する。
【0040】
図5は堆積合金のXRDパターンにおいて観察された、全合算強度のFCCピークの百分率分布をグラフ化している。合金が二相構造を表す成分組成範囲はA合金の方が広く(Mn含有量8.2から12.3原子%の間)、B合金の成分範囲は比較して狭い(Mn含有量8.0から10.4原子%の間)。加えて、図4 (A)および4 (B)をさらに詳しく見てみると、二相合金においては、同等のMn含有量で、A合金のFCCピークはB合金のFCCピークよりも幅広いことを示唆している。それゆえ、XRDの結果は、陽極電流のパルスは合金の位相成分組成を変え、FCC相領域サイズや位相分布をも変える可能性があることを示唆している。これら2つの特徴は、次項でさらに論じられる。
【0041】
(特徴的な微細構造的長さスケールおよび位相分布)
図6はA(直流)サンプルの透過型電子顕微鏡(TEM)によるデジタル画像を表している。これらサンプルの特徴的な微細構造の長さスケールは、平均的FCC粒径あるいは平均的FCC相領域である。Aサンプルの特徴的な微細構造の長さスケールは、Mn含有量が7.5原子%から8.2原子%へとわずかに増加する際に、〜4μm(図6(a))から〜40μm(図6(b))と急激な移行を見せている。さらに、二相合金(図6(b)から(e))は直径約20〜40nmの凸領域から成り、ネットワーク構造で包囲されている。8.2原子%においては、FCC相が凸領域を占めている;一方で、非晶相がネットワークを占めている。Mn9.2〜12.3原子%では、反対の現象が見られる:非晶相が凸領域に存在し、一方でFCC相がネットワークを占めている。従って、図6は2層合金の相分離が、結果的に凸領域−ネットワーク構造をもたらすと思われる。
【0042】
図7はB(陰極/陽極)合金のTEMデジタル画像である。特徴的な微細構造的長さスケールは、Mn含有量が0から10.4原子%に上昇するにつれ、〜2μmから15nmまで、徐々に減少している。さらに、二相合金(図7(g)から(i))はA合金に見られたような、特徴的な凸領域−ネットワーク構造を見せていない。その代わり、FCC粒子が均一的分散を見せ、非晶相は粒間領域に分布していると考えられる。一般的に、波形Bは異なる位相のより均質な分布をもたらすと思われる。
【0043】
図8は、Mn含有量に応じて変化する、AおよびB合金の特徴的な微細構造的長さスケールをグラフ化している。A合金がマイクロメータスケールからナノメータスケールまでの粒子あるいはFCC相領域の突然変移を表しているのに対して、B合金の特徴的な微細構造的長さスケールはミクロンからナノメータまで徐々に変移する。このように、図8は陰極および陽極パルスの適用により、微結晶Al-Mn合金およびナノ結晶Al-Mn合金のFCC粒子あるいは位相領域サイズを小さくすることが可能であることを立証している。陰極/陽極パルスは、微結晶合金およびナノ結晶合金形態において、特徴的な微細構造の長さスケールの、より連続的な領域が統合されることを可能にする。陰極/陽極パルスを用いて、粒径と対応するMn含有量を選ぶことにより、所望のFCC位相領域あるいは粒径が実現されうる。これは直流を用いては実現できない。というのも、異なる特徴的な微細構造的長さスケール形態の間の変移は、小さくするには急激過ぎるからである。さらに、陰極/陽極パルスは二相合金における凸領域−ネットワーク構造の形成を妨害し、結果としてより均質な二相内部形態をもたらすように思われる。
【0044】
(硬度)
図9は、B合金のMn含有量に応じて変化する硬度の値をグラフ化している。硬度は一般的にはMn含有量の増加に伴って高くなる。この、硬度の増加は固溶強化と微粒化の組み合わせに起因すると考えられる。
【0045】
(延性)
型曲げ試験後、AおよびB波形の合金の曲げられた表面のデジタル画像が撮られ、分析された。同等のMn含有量のAおよびB合金のイメージが比較された。SEM画像は、すべての組成物において、A(直流)合金の方が、B(陰極/陽極)合金よりもより深刻なひび割れが生じたことを示した。A合金に関しては、純粋Alのみ、ひび割れが見られなかった。B合金に関しては、Mn6.1原子%の組成物にはひび割れが見られなかった。さらに、Mn含有量が8.2原子%を超えるすべてのA合金には、サンプル幅全体に広がるひびが見られる反面、Mn含有量13.6原子%のB合金のみ、サンプル幅に広がるひびが見られた。AおよびB波形で製造された、Mn含有量13.6原子%の合金の比較では、B合金は、A合金のひびの数密度よりも低い数密度を示す。表3は今回の結果を要約しており、試験されたすべての組成物の範囲を通じて、B合金はA合金よりも延性が高いことを立証している。
【表3】
【0046】
Mn含有量8.0原子%および13.6原子%の、B波形によって製造された合金に対して、追加の型曲げ試験が実施された。これらの曲げられたサンプルのSEMデジタル画像が作成され、比較された。B波形で、Mn含有量8.0原子%のサンプルはr/t比 0.6および3で曲げられた。r/tが〜0.6に曲げられたサンプルには、全体にひびが見受けられたが、r/tが〜3で曲げられたサンプルにはほんの少しのひびしか見られなかった。そのため、これらの観察により、B波形、Mn含有量8.0原子%の合金の破砕部位における引張りは、おそらく13%近くであると考えられる。
【0047】
B波形、Mn含有量13.6原子%のサンプルが、r/t比0.6と5.5で曲げられ、それらのサンプルのSEMデジタル画像が作成および分析された。r/t比〜0.6で曲げられたサンプルの幅全体に、複数のひびが広がっていた一方で、r/t比〜5.5で曲げられたサンプルでは、サンプル幅の1/4の部分に、ひとつのひびしか入っていなかった。従って、これらの観察により、B波形、8.0原子%の合金の破砕部位における引張りは、おそらく8%近くであると考えられる。
【0048】
ここまで、直流波形と比較して、陰極および陽極パルスを含むパルス波形の、ある特定のタイプを適用することの、Al-Mn系の微細構造および性質への影響について詳しく検証してきた。次に、異なるパルスパラメータを使用して電着されたAl-Mn合金の結果を記載する。また、異なる電解液と、異なる温度で電着されたAl-Mn-Ti合金の結果も記載されている。
【0049】
合金成分組成の電流密度i2を変更することによる効果を調査するために、同量のMnCl2が含まれる電解槽からのAl-Mn合金の電着に波形A、C、D、E、B、Fが使用された。表4はこれら6つの波形のパルスパラメータをまとめたものである。
【表4】
【0050】
このように、C波形はi2/i1比が1/2、D波形は1/6、E波形は0、F波形は3.75/6(=−0.625)である。図10は、MnCl2 を0.08mol/L および0.15 mol/Lを含有する電解液で電着された合金の合金成分組成におけるi2の影響を表している。結果は、MnCl2 を0.08mol/L含む溶液で堆積された合金では、i2は合金成分組成には(実験に基づく成分測定の不確実性の範囲で)何の影響も与えなかったことを示している。しかし、0.15 mol/Lを含む溶液で堆積された合金では、i2 = 6mA/cm2(波形A)においては、合金のMn含有量は13.1原子%であり、それに反してi2 = 0 mA/cm2(波形E)においては、−9.3原子%以下であった。
【0051】
表4に示された、6つの波形により製造されたMn含有量約8原子%の合金に型曲げ試験が実施された。延ばされた表面のSEM画像が作成および分析された。いくつかの合金はr/t比〜0.6で曲げられた。その他はr/t比〜3で曲げられた。電流密度i2は試験対象の合金の範囲で、正から負へと低下した。さらに合金A、C、Dを比較するために、r/t比〜5.5 で追加の型曲げ試験が実施され、結果のSEM画像が作成および分析された。表5はその結果を要約している。
【表5】
【0052】
SEM画像と表5の分析は、i2の大きさを減少させると、合金の延性の上昇につながることを示している。A合金にはサンプル幅に渡りひびが入った一方で、その他の大部分の波形で製造された合金は、ひびが入らなかった。正のi2(すなわち波形A、C、D)に関しては、陽極パルス電流の大きさを減少させると、延性の上昇につながる。AおよびC合金は、r/t比〜0.6および3で曲げられた場合、サンプル幅に渡りひびが見られ、D合金では、サンプル幅に沿ったひびは見られなかった。A合金はr/t比〜5.5で曲げられた場合にサンプル幅に渡りひびが見られた。一方、CおよびD合金ではサンプル幅にひびは入らなかった。興味深いことに、E、B、F合金では、i2が大きな負数になるにつれて、合金の延性が低下する。合金がr/t比〜0.6で曲げられた場合、波形Fで製造された合金は、i2= −3.75 mA/cm2の時、比較的長く、かつ幅広くひび割れを起こす(〜300μm×〜10μm)。一方で、波形Eで製造された合金は、i2 = 0 mA/cm2の時、最も小さいひびを示す(〜40μm×〜10μm)。合金がr/t比3で曲げられた場合、“F”合金には1本のひびが見られ、その寸法はB合金に見られたものよりも大きかった。E合金はr/t比〜3で曲げられた場合、ひびは見られなかった。従って、i2が+1と−3の間、おそらくゼロに近い値の波形を用いることによって得られる延性の最大値が存在する。
【0053】
(パルス持続時間 t2)
合金成分組成へのパルス持続時間t2を変化させることによる影響を調査するために、同量のMnCl2が含まれる電解槽からの合金を電着するために、陰極/陽極波形G、H、Bが使用された。表6はこれら4つの波形のパルスパラメータを要約したものである。この表はt1とt2を掲載しているだけでなく、負電流が適用された時間tnを基にして波形を比較している。これは、波形Aが負電流のパルスと無関係(そして、tnの値はゼロであることから)であることから行われた。それに対して、その他すべての波形は負電流に関与している(−3 mA/cm2)。
【表6】
【0054】
図11はMnCl2 0.08mol/Lおよび0.15mol/Lを含有する電解液で電着された合金の合金成分組成に対するtnの影響を表している。結果は0.08mol/Lを含む溶液で堆積された合金では、tnは合金成分組成に何の影響も与えなかった(実験に基づく成分測定の不確実性の範囲で)ことを示している。しかし、0.08mol/Lを含む溶液で堆積された合金では、tnが0ms(波形A)から10ms(波形H)に上昇するに従い、合金のMn含有量は13.1原子%から9.3原子%まで減少した。しかし、tnがさらに増加しても、合金成分に顕著な変化は見られなかった。
【0055】
波形A、G、H、Bによって製造されたMn含有量約8原子%の合金に、型曲げ試験が実施された。一部のサンプルはr/t比〜0.6で曲げられた。その他のサンプルはr/t比〜3で曲げられた。延ばされた表面のSEM画像が取得されて、分析された。表7は結果を要約している。
【表7】
【0056】
SEM画像と表7は、同一のパルス電流密度i2(すなわち−3 mA/cm2)において、パルス持続時間tnの増加が合金の延性を増加につながっていることを示している。AおよびG合金(それぞれ、tn = 0および5ms)は、r/t比〜0.6および〜3で曲げられた場合、サンプル幅に渡りひびが見られた。一方、HおよびB合金は曲げられた時、サンプルの幅全体においてひびは見られなかった。tnが10ms(波形H)から20ms(波形B)に増加するにつれ、ひび長さおよび幅はともに減少した。
【0057】
一定の持続時間i2において、直流合金が最も延性が低いことを実証した上述の研究とこの研究を併せると、陰極パルスを供給し、次にもうひとつのパルス、すなわち異なる持続時間(波形G、H)の陰極(波形C、D)、陽極(波形B、F)あるいはオフタイム(波形E)のいずれかを供給することにより、直流(波形A)を使った場合より、さらに延性のある合金を作りだすことがわかる。
【0058】
先述の実験は0から20msのパルスによって実施された。しかし、パルスは約0.1msと約1sの間での持続時間を有したものが使用できると考えられる。Al-Mn-Ti合金は表8に示された電解槽組成を使用して電着された。電着実験中、電解質の温度を80℃に保つよう、シリコンオイル槽が使用された。
【表8】
【0059】
Al-Mn-Tiの電着に2種類の波形が使用された。これらはすなわち波形I(直流波形)と波形J(陰極/陽極波形)である。表9はこれらの波形のパルスパラメータを、合金成分組成とともに要約している。
【表9】
【0060】
I波形はi2/i1比が1で、B波形は−1/12である。表9では、陽極パルスは電着合金のMn含有量を減少させるが、Ti含有量を増加させることが示唆されている。IおよびJ合金の溶質の含有量合計はそれぞれ8.2および8.5原子%である。I(直流)およびJ(陽極/陰極)波形で製造された合金がr/t比〜0.6で曲げられた。これらの合金の延ばされた表面のSEM画像が作成された。表10は結果を要約している。
【表10】
【0061】
SEMデジタル画像と表10は、陽極パルスの適用により、Al-Mn-Ti合金の延性が改善されることを示している。波形I(直流波形)で製造された合金には、陰極/陽極の波形Jで製造された合金に見られるひびよりも長く、かつ幅広いひびが見られた。この事例は陽極パルスの適用により、その他のAl系合金(二成分系のAl-Mn以外)の延性を改善する可能性があることを表している。
【0062】
従って、これらの事例はAl-Mn-Ti合金が非水性溶液で、上昇温で、所望の性質を備えて堆積できるだけでなく、例えば、直流を使って製造された合金よりも増強された延性を備えつつ、堆積できることをも示している。
【0063】
(強度および質量)
波形Al-Mn合金の強度は、微小押込による硬度結果と、関係式
を使って算出されており、ここで、σyは降伏強度でHは硬度である。延性に関する上述の説明では、Mn含有量が6.1、8.0、13.6原子%のB(陰極/陽極)合金の延性はそれぞれ約37%、13%、8%である。図12はこれらのB合金の強度と延性の関係を、A合金(直流)、既知の市販Al合金、および鉄との比較により表している。E合金(陰極とオフタイム)とH合金(さらに短い陽極パルス維持時間のBのような陰極/陽極)も示されている。図12は波形B、EおよびHで電着されたAl-Mn合金が高い強度と良好な延性を示していることを表している(E合金が13%引っ張られた際にひびが入らないため、右向きの矢印は、E合金が13%よりも高い延性を示すことがある)。Al-Mn合金の密度(〜3g/cm3)は典型的な鋼鉄の密度(〜8g/cm3)の半分以下であるため、図12は、同一の延性において、本発明で開示されている合金が鋼鉄の2倍の比強度を持つことを示している。このように、これらのAl-Mn合金は構造的応用の可能性を有しており、例えば航空宇宙産業やスポーツ用品、あるいは輸送用途などで、軽量性、強度、延性の最適な組み合わせが求められている。
【0064】
(既存手法に優る利点と改善点)
前述は極めて便利な強度と重量特性を持つ、新しい組成の物質を説明している。新しい物質はASTM E290-97a (2004)を用いて計測された約5%から約40%あるいはそれ以上の延性を持ち、密度が約2 g/cm3と約3.5 g/cm3の間であり、約1から約6GPの間のビッカース微小硬度、あるいは約333から約2000MPaの間の引張り降伏強度を有すると考えられている。本発明のいくつかの実施態様では、硬度は約1から約10GPaの範囲に含まれる。あるケースでは、約3から約10GPa、あるいは約4から約10GPa、あるいは約5から約10GPa、あるいは約6から約10GPaに含まれる。その他の実施態様においては、約4から約7GPa、あるいは約5から約6GPaなどの間に含まれる。このように、本発明の特徴は、約1GPaから約10GPa以内の硬度、また、その範囲内での部分範囲の硬度で表された堆積物である。一般的に、エンジニアリングの立場からは、コストを含むその他の要素を犠牲にすることなく達成できるのなら、高い硬度がより好ましい。
【0065】
同様に、本発明のいくつかの実施態様において、堆積延性は破砕時の延伸度約5%から、破砕時の延伸度約100%までの範囲に含まれる。従って、本発明による堆積は、その範囲内の延性を有する。さらに、本発明の実施態様のための有益な延性の範囲は、約15%から約100%、約25%から約100、約35%から約100%、約5%から約50%、約25%から約60%、あるいはその範囲における部分範囲を含む。一般的に、エンジニアリングの立場からは、コストを含むその他の要素を犠牲にすることなく達成できるのなら、高い延性がより好ましい。
【0066】
最後に、密度に関して、本発明のいくつかの実施態様において、密度は約2g/cm3から約3.5/cm3の範囲に含まれる。あるケースでは、約2.25 g/cm3から3.5 g/cm3、あるいは2.5 g/cm3から3.5 g/cm3、あるいは約3 g/cm3から約3.5 g/cm3、あるいは2〜3 g/cm3に含まれる。このように、本発明の態様は、約2g/cm3から約3.5/cm3以内、また、その範囲内での部分範囲の密度で表された堆積のことである。一般的に、エンジニアリングの立場からは、コストを含むその他の要素を犠牲にすることなく達成できるのなら、低密度(それゆえ、低重量)がより好ましい。
【0067】
硬度、引張り降伏強度、延性、密度のこれらの範囲は、これらの新しい合金に、既知のアルミニウム合金よりも遥かに高い強度と延性の組合せを与え、同時に新しい合金は鋼鉄よりも遥かに軽量である。これらの合金の高い硬度は、それらが見せる極めて小さい、約100nm以下の特徴的な微細構造の長さスケールによると考えられている。微小な特徴的微細構造の長さスケールは一般的に金属および合金の硬度を上昇させる。
【0068】
これらの極めて有利な強度および重量の特徴に加え、ここで示される手法は、細かな操作により調整が可能な、付加的特徴を有する合金をもたらすことができる。
【0069】
例えば、アルミニウム合金の電着に関する既知の手法と対照的に、本発明では陽極、陰極、オフタイムといったパルスを利用することにより、制御された特徴的な微細構造の長さスケールの幅広い範囲、すなわち〜15nmから〜2500nmまで合成が可能であることが判明している。そして、特徴的な微細構造の長さスケールに対するMn含有量の影響は、DC波形を使用した場合よりもより穏やかである(図8)。従って、波形と異なる種類のパルスを使用することにより、設計者が、微結晶アルミニウム合金およびナノ結晶アルミニウム合金の両方に対する堆積の特徴的な微細構造の長さスケールを効果的に制御できる。本発明のいくつかの実施態様において、特徴的な微細構造の長さスケールは、約15nmから約2500nmまでの範囲に含まれる。あるケースでは、約50nmから約2500nm、あるいは約100nmから約2500nm、あるいは約1000nmから約2500nmの範囲に含まれる。その他の実施態様において、約15nmから約1000nm、あるいは約15nmから約100nmなどの範囲に含まれる。従って、本発明の態様は、約15nmから約2500nmの範囲、また、その範囲内での部分範囲の特徴的な微細構造の長さスケールで表された堆積のことである。一般的に、エンジニアリングの立場からは、コストを含むその他の要素を犠牲にすることなく達成できるのなら、小さい特徴的な微細構造の長さスケールがより好ましい。
【0070】
さらに、特徴的な微細構造の長さスケールに影響する加工温度の使用と比較し、図2と11はパルスパラメータ(i1、i2とその比、i2/ i1あるいはt1とt2とその比、そしてtn)を変えることにより、異なる微細構造および表面形態の合金を連続して電着するために単一の電解質組成物を使うことが可能である。図11はtnを変更することにより、組成を制御できることを示している。また、特徴的な微細構造の長さスケールは組成によって変動することは知られている。このことは図8に関して示されている。例えば、Mn含有量9.5原子%のB合金は30nmの粒径である;他方、Mn含有量10.4原子%の「B」合金は15nmの粒径である。このように、tnを変更することにより、組成、ひいては特徴的な微細構造の長さスケールが制御可能となる。
【0071】
さらに、グレード化した(品質的に分類した)微細構造を生成するために、パルス電流密度といった堆積パラメータを変えることも可能である。すなわち、延性、硬度、化学成分、特徴的な微細構造の長さスケール、位相成分組成あるいは位相配置、あるいはそれらの組み合わせのうちのいずれもが堆積厚を通じて制御されている。それぞれの機械的あるいは形態的な特性に関して、特性と、前述のごとく、パルス形態と波形維持時間によって特徴付けられる、波形形状の片方、あるいは両方のパラメータとの間には関連性が存在する。この関連性は使用されている物質形で、比較的定められた通りの試験によって確立することができる。一度確立すると、所望の程度の性質の材料を電着するのに使用することができる。電着合金の微細構造を変えるために、異なる種類のパルスを有する波形を使用することは、明らかに用途が広く実用的で、特に産業スケールにおいては既知の手法と比較してそれらの点で優れている。
【0072】
さらに、試験されたすべての成分組成範囲(Mn含有率0から14原子%)において、合金はさまざまな表面形態を示している;高度に切子状である構造から、角張りが少ない形状、滑らかな表面、そして丸みを帯びた結節状までが含まれている。表面形態の可変性は、光学的光沢、摩擦係数、液体による湿潤性、そして亀裂伝播への耐性といった性質に関連する。
【0073】
前述の概説のように、異なる種類のパルスを有する波形を使用することにより、モノリシック構造の堆積のための目標とする性質を特定できるだけでなく、そのようなプロセスにより、層状複合体とグレード化された物質を設計することが可能となろう。例えば、図13に概略的に示されているように、堆積物1302は、基板1301との界面でナノメータスケールの特徴的な微細構造の長さスケールを有し、表面1320でマイクロメータの特徴的な微細構造の長さスケール構造を有することができ、その他の構造物を層1304、1306、および1308の間に配して有することができた。このような堆積は、高い強度(基板界面近くの1302における、ナノメータスケールの特徴的な微細構造の長さスケールによるもの)と亀裂伝播への高い耐性(1320におけるナノメータスケールの特徴的な微細構造の長さスケールによるもの)との優れた組み合わせを示すだろう。このような機能的に層化された物質、あるいはグレード化された物質は、その他の堆積では達成不可能な性質を示すと思われる。設計者が考えるであろう理由がいかなるものであっても、粒径を変更するよりも、ひとつの層、例えば1302から、別の層、例えば1306へ、延性の特異的な変更が行われうる。独立して、あるいは特徴的な微細構造の長さスケールと組み合わせて、グレード化できる別の性質は、位相分布である。例えば、いくつかの層はその他の層よりも、広範な非晶質物質を有する可能性がある。
【0074】
異なる種類のパルスを有する波形による電着は、Al-Mn およびAl-Mn-Ti系での実施が利用されてきたが、別の多成分のアルミニウム電着合金への幅広い適用も可能と考えられていることに留意する重要性がある。可能な合金化元素は、La、Pt、Zr、Co、Ni、Fe、Cu、Ag、Mg、Mo、Ti、W、Co、Li、Mnおよび専門家が指定するその他のさまざまな元素を含む。
【0075】
上述では直流電流の電着について考察してきた。この中で、電流は堆積を引き起こすために採用された。加えて、定電位電着の場合に同様の結果が得られると考えられている。この場合、i1とi2の代わりに、関連する処理変数はv1とv2を使用することがあり、vは適用された電圧を意味する。このように、上記で説明したいかなる結果においても、パルス電流ではなく、同じような波形のパルス電圧を使用することが可能である。一般的に、同一の性質は同一の形態で影響を受けると考えられる。
【0076】
また、上述の説明では、イオン液EmImClと関与する特定の電解質からの堆積が具体的に述べられている。その説明は、有機電解質、芳香族溶剤、トルエン、アルコール、液体塩化水素、あるいは融解塩浴を含む、その他の非水性電解質からの堆積に対しても同様に適用される。さらに、プロトン性、非プロトン性、あるいは両性イオンのイオン液を含む、適した電解質として使用されることもある多くのイオン液が存在する。実例として、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムN、N-ビス(トリフルオロメタン)スルホンアミドが含まれており、あるいはイミダゾリウム、ピロリジニウム、第4級アンモニウム塩、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、ビス(フルオロスルホニル)イミド、あるいはヘキサフルオロリン酸塩といった液体が含まれる。上記の説明はこのような電解質に当てはまり、また既知あるいは未発見の、その他多くの適した電解質にも当てはまる。
【0077】
上述の説明は、塩種としての塩化アルミニウムの使用に当てはまり、この塩化アルミニウムからAlイオンが溶液槽に供給される。また、塩種としての塩化マンガンの使用にも当てはまり、この塩化マンガンからMnイオンがめっき浴に供給される。そして、この説明は金属硫酸塩、金属スルファミン酢酸、金属含有シアン化物溶液、金属酸化物、金属水酸化物、そして類似したものにも当てはまるが、限定はされない。Alの場合、ALFx化合物が使用されることがあり、xは整数である(通常4あるいは6)。
【0078】
また、上述の説明は、電流の特異値のパルスを含むか、あるいは、波形が方形波であったが、それぞれのパルスが一定時間の一定適用電流に関与するパルス形態と波形モジュールについて具体的に述べている。この説明は一定電流ではなく、例えば、傾斜、のこぎり状、振動性、正弦曲線、あるいはその他の形状のセグメントあるいはパルスが関与する波形にも同様に適用される。このような波形では、t1の持続時間にわたる平均電流i1と、第2の持続時間t2にわたる別の平均電流i2を計測することが可能で、また上述のように、電流値i1とi2が使用されるのと同じような方法でこれらの平均電流の値を使用することも可能である。上記の説明はこのようなケースにまで及び、同様の一般的な傾向が見られる結果となると考えられる。
【0079】
この項は上記の特定事例のいくつかを要約するものである。
【0080】
A合金の表面形態は高度に切子状となった構造から〜8原子%の丸みのある結節まで、突然変移を見せている。B合金の表面形状は高度に切子状となった構造から角張りが取れ、より小さな構造に段階的変移を見せている;そして、滑らかでほとんど凹凸のない表面に変化し、丸みのある結節が現れる。このように、電解質のMn含有量を変えながら使用する場合、Bのタイプの波形を使用することにより、表面形状に対して緩やかな制御が可能である。
【0081】
陰極/陽極パルスは、直流を使用した場合と比べて、マイクロメータとナノメータのいずれの状態においても、より連続的な範囲の、特徴的な微細構造の長さスケールの合成を可能にする。陰極/陽極パルスの使用において、特徴的な微細構造の長さスケールに対応したMn含有量を選ぶことにより、所望の特徴的な微細構造の長さスケールを実現することが可能である。
【0082】
説明されている合金の硬度は、Bタイプの波形を使用したパルスについてはMn含有量の増加に伴って増強される。これは、硬度もパルス形態を使用することで、特徴的な微細構造の長さスケールと同様に調整可能であることを示している。
【0083】
一般的に、合金組成と電解質組成とは直接的な関係性があることは、電解質におけるMnCl2含有量のある範囲において、陰極/陽極あるいは陰極/オフタイムのパルス形態が、堆積されたAl-Mn合金のMn含有量を減少させるとする、一般的なルールとともに発見されている。
【0084】
i2の正の値(すなわち、波形A(DC(6および6mA/cm2))、6および3mA/cm2の波形Cの陰極パルス、そして6および1mA/cm2の波形Dの陰極パルス)については、正のパルス電流の大きさを減少させると、延性の増加につながる。陰極およびオフタイムの6および0mA/cm2の波形Eと、陰極/陽極の6および−3mA/cm2の波形Bと、6および0mA/cm2の波形Fの合金に関しては、i2が大きな負の値になると、合金の延性は減少する。従って、この系では、i2=0(陰極とオフタイム)に近い値で、最大延性が存在する。パルス持続時間に関しては、陰性/陽性パルスについて、同一のパルス電流密度i2(すなわち−3mA/cm2)で負数の電流パルスtnの持続時間を増加すると合金の延性が増強されることが見つかっている。陰性パルスと様々な持続時間の、もうひとつのパルス、つまり陰性、陽性あるいはオフタイムのいずれかを、利用することで、直流よりもより延性の高い合金を提供することができる。
【0085】
特定の実施態様が示され、また記述されているが、当業者は、その拡張された範囲の開示内容から逸脱することなく、様々な変更や改良が可能であることを理解するであろう。上記の記載に含まれ、関連図面で示されたすべての事項は、説明のためであると解釈されるべきで、限定の意味で解釈されるべきではない。
【0086】
(まとめ)
本発明の重要な実施態様は、アルミニウムを含む合金の堆積方法である。この方法は、アルミニウムの溶解種から成る非水性電解質を準備するステップと、電力供給装置と連結して液体内に第1電極と第2電極を設置するステップと、電極へ少なくとも2つのパルスを含むモジュールを有した波形を有する電力を送るために電力供給装置を稼動するステップと、を含む。第1のパルスは、正のi1の大きさを持ち、t1の持続時間にわたり適用される陰極の電力を有し、第2のパルスはt2の持続時間にわたり適用される、値i2の電力を有する。さらに、t1とt2は約0.1ミリ秒よりも大きく、1秒よりも小さい持続時間であり、加えてi2/i1比は約0.99よりも小さく、約−10よりも大きい。結果として、アルミニウムを含む堆積物は、第2電極から発生する。
【0087】
ある重要な実施態様では、電力供給装置は陽極パルスから成るモジュールの波形を有する電力を供給する。関連する実施態様によると、電力供給装置はオフタイムおよび陰極パルスを含むモジュールの波形を有する電力を供給する。あるいは、電力供給装置は異なる大きさの少なくとも2つの陰極パルスを含むモジュールの波形を有する電力を供給する。
【0088】
供給された電力はパルス電流あるいはパルス電圧、あるいはそれらの組み合わせとなる。
【0089】
ある有益な実施態様では、その他の少なくともひとつの要素はマンガンを含む。
【0090】
パルス電力は約0.2msから約2000msの持続時間を有するモジュールの反復波形を有する。
【0091】
極めて有益な実施態様は、約100nm以下の特徴的な微細構造の長さスケールを有する堆積を行うための方法である。
【0092】
さらに、少なくともひとつの別の要素に関する電解質組成物と、形成された合金の性質との間に相互関係が存在し、そしてこの相互関係が堆積の実用的な使用の範囲にわたって継続的である、別の実施態様が得られる。方法の実施態様は、その相互関係に基づき、目標とする程度の性質に対応する少なくともひとつの、他の要素に関する組成を明示するステップをさらに含み、非水性電解質が対応する組成の液体を含む。液体はイオン性液体であり、例えば1-エチル-3-メチル-イミダゾリウムクロライドである。
【0093】
関連する方法の実施態様は、形成された合金の性質は面の形状部の特徴的平均サイズを含む。別の関連する実施態様では、形成された合金の性質は表面形態を含む。表面形態は高度に切子状となった構造から、角張りの取れた形状部、滑らかな表面、そして丸みのある結節にまで及ぶ。
【0094】
さらに、別の関連する方法の実施態様は、形成された合金の性質は、平均の特徴的な微細構造の長さスケールを含む。
【0095】
平均の特徴的な微細構造の長さスケールの、目標である程度は約15nmと約2500nmとの間で、一般的には約15nmと約100nmの間、あるいは約100nmと約2500nmの間である。
【0096】
別の重要な実施態様の分野では、パルス振幅、振幅比、パルスの持続時間のうち、少なくともひとつの値と、形成された合金の性質の程度との相互関係が存在する。相互関係は堆積の実用的な使用の範囲において継続的である。この方法はさらに、相互関係に基づき、目標とする性質の程度に対応する振幅、振幅比あるいは持続時間のうち、少なくともひとつの要素に関する値を明示するステップを含む。このステップの後、電力供給装置は、目標とする性質の程度に対応する振幅、振幅比あるいは持続時間のうち、少なくともひとつの明示された値を持つパルスのモジュールを有する電力を供給する。このように、第2電極における堆積は、目標とする性質の程度を有している。
【0097】
この実施態様と直接関連する方法において、振幅、振幅比、持続時間のうち少なくともひとつの値を明示するステップは、第2の目標となる性質の程度に対応する、振幅、振幅比、持続時間のうち少なくともひとつの、第2の値を明示するステップを含み、電力供給装置を稼動させるステップは、交互に、目標となる第1の性質のものの程度に対応する、少なくともひとつの振幅、振幅比、持続時間の値を有したパルスを持つモジュールの電力を供給するステップと、目標となる第2の性質の程度に対応する、少なくともひとつの、第2のものの振幅、振幅比、持続時間の値を有するパルスを持つモジュールの電力を供給するステップと、を含む。このように、製品は第1の目標となる程度を示す領域を持つ構造を有して製造され、また第2の目標となる程度を示す領域を持つ構造を有して製造される。
【0098】
同様の方法の実施態様において、上記のとおり、電力供給装置は第1の一定期間、それぞれ電流i1とi2を、持続時間t1とt2の間有するパルスの、電力を電極に供給し、その結果、パルスは陰極において、第1の程度の硬度、延性、組成、特徴的な微細構造の長さスケール、位相配置によって構成される群から選ばれた、少なくともひとつの性質を有する堆積物の第1の部分を製造する。そして、電力供給装置は第2の期間、持続時間t1*にわたって正の振幅i1*の陰極電力を持つ第1のパルスと、持続時間t2*にわたって値i2*の電力を持つ第2のパルスの、少なくとも2つのパルスからなるモジュールの波形を備えた、電力を供給する。t1*およびt2*は、約0.1ミリ秒より大きく、約1秒より小さい持続時間である。i2*/ i1*比は0.99よりも小さく、−10よりも大きい。i1≠i1*;i2≠i2*;t1≠t1*;t2≠t2*の不等式のうち、少なくともひとつが真である。堆積の第2の部分は、第2の、異なる程度を有する、少なくともひとつの性質を備えた、陰極で製造される。
【0099】
本発明のさらに別の重要な実施態様は、水よりも低い還元電位を有する少なくともひとつの元素と、少なくともひとつの追加元素の合金である物質の組成物である。第1の層は第1パラメータの程度を備えた性質を有する。少なくとも一つの追加の層が、第2の、異なるパラメータの程度を備えた性質を有する。これら性質は、硬度、延性、組成、特徴的な微細構造の長さスケール、位相配置によって構成される群から選ばれる。第1の層に隣接し、そこに接触しているのは、第2のパラメータの程度の性質を持つ結晶構造や、第1のパラメータの程度とは異なる第2のパラメータを備えた平均粒度といった、上記の性質を有する第2の層である。
【0100】
本発明のさらに別の有益な実施態様は、少なくとも約50原子%のアルミニウム、好ましくは少なくとも約70原子%のアルミニウム、そして少なくともひとつの追加元素から成る合金の物質の組成である。この合金は、約1GPaと約10GPaの間のビッカース微小硬度、あるいは約333MPaから約3333MPaの間の引っ張り降伏強さ、約5%と約100%の間の延性、そして約2g/cmと約3.5g/cm3の間の密度を備えている。
【0101】
この実施態様により、少なくともひとつの追加元素はマンガンを含む。さらに、それは少なくとも部分的に非晶構造である。
【0102】
関連する実施態様は、約100nm以下の、特徴的な微細構造の長さスケールを含んでいる。
【0103】
関連する有益な実施態様では、その少なくとも1つの追加元素は、La、Pt、Zr、Co、Ni、Fe、Cu、Ag、Mg、Mo、Ti、Mnから成る群から選ばれる。
【0104】
ビッカース硬度は約3Gpa、あるいは約4Gpa、あるいは約5Gpaを超えることがある。
【0105】
延性は約20%あるいは約35%を超えることがある。
【0106】
ここで、本発明の多くの技術および態様を記述した。当業者は、これらの技術の多くは、たとえ具体的な使用に関して書かれていなくても、その他の開示済みの技術と併せて使用することが可能と理解するだろう。
【0107】
この開示内容は、ひとつ以上の発明を記述および開示している。本発明は、本願の請求項および関連文書のみならず、本開示に基づいた特許出願の審査中に開発されるものに記載されている。発明者らは、先行技術が許す範囲で、可能な限りすべての発明の保護を請求するつもりである。本願明細書で述べられる特徴は、一切ここで開示される各発明にとって不可欠な要素ではない。従って、発明者らはこのなかで説明されているいかなる特徴も、本開示内容に基づいた特許の特定の請求項にて請求されていないものは、そのような請求項に組み入れるつもりはない。
【0108】
製品の組み立て品、あるいはステップの群がここでは発明として言及されている。しかし、このような組み立て品あるいは群が、ひとつの特許出願で審査されるだろう発明の数、あるいは発明の単一性に関する法律および法令によって特に想定されるように、必ずしも特許的に独立した発明であるとは主張しない。発明の単なる実施態様であると述べることを目的としたものである。
【0109】
要約書をここに提出する。この要約書は、審査官およびその他のサーチャーに、技術的開示内容の主題を素早く確認させる要約書を要求する規則を遵守して提供するものである。要約書は、特許庁の規則で規定されているように、請求項の範囲あるいは意味を解釈、あるいは制限するために使用されない、との認識により提出するものである。
【0110】
上述の説明は、本発明の解説として理解されるべきであり、限定するものとは一切考えられるべきではない。本発明が、好ましい実施態様に関連して示され、記述されているが、当業者であれば、特許請求の範囲で定義されたような発明の意図や範囲から逸脱することなく、形式や詳細の様々な変更は可能と考えるであろう。
【0111】
特許請求の範囲のすべての手段あるいはステッププラスファンクション要素の、対応する構造、素材、行為、および均質物は、特定して請求されているその他の要素と組み合わせて、それらのファンクションを実行するための、すべての構造、素材、あるいは行為をも含んでいる。
【技術分野】
【0001】
機械的、磁気的、電子的、光学的、あるいは生物学的な、望ましい性質を有する金属と合金は、多くの産業を通じて幅広く適用されている。強度、硬度、延性、靭性、電気抵抗などの、多くの物理的および/または機械的特性は、金属あるいは合金の内部形態構造に依存している。
【背景技術】
【0002】
“微細”という接頭辞が、決して構造の規模を制限するものではないが、金属あるいは合金の内部構造は微細構造(microstructure)といわれる。本明細書では、合金の微細構造は合金の内部構造を構成する様々な位相、粒子、粒界及び欠陥と、金属あるいは合金の内部におけるそれらの組み合わせによって定義される。おそらく1つ以上の位相が存在し、また、粒子や位相あるいは位相領域はナノメーター(nm)から、例えばミリメーター(mm)まで、特有の大きさを示す可能性がある。単相結晶性金属および合金に関しては、もっとも重要な微細構造的特徴は粒子サイズである。多重位相を見せる金属および合金に関しては、その性質もまた、位相成分、位相領域サイズ、そして位相の空間的配置あるいは位相分布といった、内部形態的性質に依存している。従って、マイクロメーター(μm)からナノメーター(nm)までの幅広い範囲の金属および合金の粒子サイズ、そして、位相成分、位相領域サイズ、そして位相の空間的配置あるいは位相分布を調整することは、大きな実際的関心事である。しかし、多くの場合、位相成分あるいは微細構造といった内部形態的特性における変化が、そのような物理的性質にどのような影響を与えるかということについて、正確には、あるいは一般的にでさえ、理解されていない。それゆえ、位相成分あるいは微細構造の調整方法を単に把握するだけでは不十分である。
【0003】
微細構造の特性を示す際、特徴的な微細構造の長さスケールを定義することは非常に有益である。多結晶の金属および合金の場合、ここで使用される特徴的な長さスケールは、平均的な粒子サイズで表される。亜結晶粒を含む微細構造部(つまり、結晶の中で互いの配向性がわずかに異なる領域)に関しては、特徴的な長さスケールはまた、亜結晶粒サイズでも表される。また、金属および合金は双晶欠陥を含むこともあり、隣接した粒子あるいは亜結晶粒が、特有の対称的な形態でずれて配向されている。このような金属および合金の場合、ここで使用される特徴的な長さスケールは、これらの双晶欠陥の間の間隔で表される。また、金属および合金は、異なる種類の結晶相(面心立方、体心立方、六方最密、あるいは固有の規則的な金属間構造)や、非晶相および準結晶相といった、多数の異なる位相を含む場合がある。このような金属および合金の場合、ここで使用される特徴的な長さスケールは、異なる位相間の平均間隔、あるいはそれぞれの位相領域の平均的な特徴的寸法で表される。
【0004】
さらに、金属および合金の表面形状に依存する、光学的光沢、多様な液体での湿潤性、摩擦係数、耐食性といった多数の性質が存在する。このように、金属および合金の表面形態(surface morphology)を調整する能力は適切かつ重要である。しかし、多くの場合、表面形態における変化が、これらその他の性質にどのような影響を与えるかということについて、正確には、あるいは一般的にでさえ、理解されていない。一般に、ここで使われている形態的特性(morphological properties)という用語は表面形態と内部形態を表すために使用されることがある。
【0005】
異なる微細構造の金属および合金を製造することができる既存の技術は数多く存在し、そこには、大きな力を加えることによる変形塑性加工法、機械粉砕、新規の再結晶、結晶化経路、気相堆積、電気化学析出(ここでは電着と呼ぶ)が含まれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、これらの加工技術には欠点がある。一部のものは望む形状の製品を製造できず、むしろシート、ロール、板、スラグといった、比較的単純な形状に限定される。過度のエネルギーを用いなければ、比較的大きな部品の製造に使用できないものもある。なかには最終製品の微細構造を作り出す加工技術もあるが、既存のプロセスに対する可変の変数が非常に少なく、このような微細構造の制御は比較的拙劣で、不正確である。
【0007】
望ましい性質の具体例としては、基板に合金塗装を施すのが有効である。多くの場合、このような塗装は比較的硬いか頑丈で、比較的延性があり、かつ単位体積当りの重量が比較的軽いことが有用である。
【0008】
その他の場合、基板と連結していないか、あるいは電鋳プロセスのように基板から取り外した一体構造の合金片を、製造するのが有用である。これらの場合では、このような合金片、あるいはこのような電鋳製造物が比較的硬いか頑丈で、比較的延性があり、かつ単位体積当りの重量が比較的軽いと有用であることが多い。
【0009】
鉄は、一般的には鉄よりも軽いが鉄ほど頑丈ではないアルミニウム合金と同様に、特徴的な強度対重量比を有している。そのため、鉄と同等、あるいはほぼ同等に硬く、一方で単位体積当りの重量がアルミと同等に軽い、あるいはほぼ同等に軽い合金を製造することが望ましいだろう。言い換えれば、それに関連する望ましい目的は、アルミニウム合金よりも硬く、単位体積当りの重量が鉄よりも軽い合金を製造することと言えよう。
【0010】
これに関して発明者は、下記の利点から、電着がとりわけ魅力的であると考えている。電着は、増強された耐腐食性や耐磨耗性といった格別な性質を生み出すべく、事実上いかなる形状の導電体上にも金属を堆積させるのに使用することができる。電着は比較的少ないエネルギーを必要とするだけであり、また、製品の性質に影響を及ぼすように、多くの作業変数(例えば温度、電流密度、浴組成)が調整可能であることから、より正確な微細構造の制御を行うことができるため、産業規模の運用に容易にスケールアップすることが可能である。同様に、基板の上に残すことを目的とした塗装、あるいはめっきされた基板から一部を取り除かれた電鋳部品を形成するために、電着を使用することもできる。
【0011】
これらの利点に加えて、適切な電解質を選択することにより、電着を用いて幅広い種類の金属および合金を製造することができる。鋼鉄、コバルト、金、銀、パラジウム、亜鉛、クロム、スズ、ニッケルを含む、数多くの合金系が水性電解質で電着することができ、水が溶剤として使用される。しかし、アルミニウムやマグネシウムといった、水よりも遥かに低い還元電位を示す金属は、従来の方法を使って、水性電解質で電着させることはできない。それらの金属は、溶融塩、トルエン、エーテル、イオン液体といった、非水性電解質で電着することが可能である。非水性電解質で電着される金属および合金の構造を制御するために採用される典型的な変数には、電流密度、浴温および浴組織が含まれる。しかし、これらの変数では、製造される微細構造の範囲は限られる。現状では、既知の手法では鉄と同等あるいはほぼ同等の硬度と延性を有するが、アルミニウムと同等あるいはほぼ同等の軽さを有する非鉄合金、別の言い方をすると、アルミニウムよりも硬くて延性があるが、単位体積あたりで鉄よりも軽い非鉄合金を製造することはできない。
【0012】
ナノ結晶アルミニウム(Al)の電着は、別の研究者が直流(DC)を利用して、ニコチン酸、塩化ランタン、安息香酸といった添加剤を用いて、塩化アルミニウムベースの溶液で実現されている。添加剤は効果的に粒子サイズを微細化することができるが、得られる粒径は制限される;例えば、ごく少量の安息香酸(0.02mol/L)はAl粒径を20nmにまで小さくするが、安息香酸濃度のさらなる増加が粒径をさらに縮小することはない。添加剤は、一般的に結晶微細化剤として知られる分類の有機質でよく、また、漂白剤やレベラーとも呼ばれる。
【0013】
ナノ結晶アルミニウム(Al)の電着は別の研究者が添加剤を使用せずに、パルス状堆積電流(on/off形態)を使用して実現しているが、やはり得られる粒径の範囲は狭い。
【0014】
加工温度は電着されたAlの粒径に作用することもまたすでに発見されている。しかし、粒径を制御するために温度を利用することは、ある加工運転から次の運転に向けて電解質温度を変更するのに要する、長時間かつ大量のエネルギー消費の点で、あまり実用的ではない。
【0015】
機械的、磁気的、電子的、光学的、あるいは生物学的な性質を、電解質組成を変える必要のないプロセスのパラメータを操作することで調整することが望ましいと言えよう。例えば、本来なら不要な添加剤、あるいは加工温度、あるいは調整に時間やエネルギーを消費するその他のパラメータ、あるいは使用にエネルギーを大量消費するその他のパラメータ、あるいはモニタリングが難しいその他のパラメータを使用するなどの方法である。添加剤とは一般に結晶微細化剤や漂白剤、およびレベラーを意味しており、それらは他のものに加えてニコチン酸、塩化ランタン、あるいは安息香酸や、結晶微細化剤や漂白剤、およびレベラーを含んでいる。
【0016】
粒径、位相領域サイズ、位相成分、位相配置あるいは位相分布といった、微細構造的特徴あるいは内部形態的特徴と、上記の物質的および/または機械的性質との関係を必ずしも理解しなくとも、物質的性質を制御できることも、望ましいと言えよう。同様に、表面形態あるいは光学的光沢、多様な液体での湿潤性、摩擦係数、耐食性といった表面性質を、同様に便利なパラメータを操作することにより、なおかつ上記の表面形態と表面性質との関係を必ずしも理解しなくとも、調整することが望ましい。
【0017】
また、例えば15nmからおよそ2500nmまで、幅広い粒径を有する合金を製造でき、またこの範囲で粒径を効果的に制御できたりすることも望ましいだろう。加えて、ある単一の電解質組成物を、異なる微細構造と表面形態の電着合金に連続して使用することができれば、非常に大きな恩恵に浴することになる。最後に、堆積厚さを通じて、粒径、化学成分、位相成分、位相領域サイズ、位相配置あるいは位相分布のうちの1つあるいはすべてが制御される、格付けされた微細構造を提供できることは、極めて有益である。
【課題を解決するための手段】
【0018】
より詳細な部分的要点を以下に記載する。ここで開示される新技術は非水性電解質にて電着された金属および合金の構造を制御するための異なる可変要素の利用である。適用される電力の波形の形状は、一般的には電流波形である。異なる種類のパルスを有する波形、すなわち陰極、“オフタイム”、そして陽極パルスを含んだ波形を用いることにより、粒径、位相成分、位相領域サイズ、位相配置あるいは位相分布といった微細構造と、堆積時の合金の表面形状が調整可能である。さらに、これらの合金は、強度、硬度(通常、強度に比例する)、延性および密度といった、優れた巨視的な機械的性質を示す。実際、波形成形法は比較的硬く(約5GPa)、鉄と同様の延性を持つ(断面で約13%の伸長度)が、アルミニウムとほぼ同等に軽量なアルミニウム合金、あるいは、言い換えれば、同様の延性を有しながら、アルミニウム合金よりも硬いが鉄よりも軽いアルミニウム合金の製造に使われている。ひとつの事例として、Al-Mn合金はそのような強度対重量比で製造されている。追加の性質は、電流波形の形状を用いて制御することが可能である。
【0019】
さらに、前記の他の目的はすべて、有機質の微細化添加剤を使わず、ほぼ一定の温度において、波形形状および非水性電解質を用いて実現されている。
【0020】
本発明における、上記の、また、その他の目的は、図面を参照することで最良に理解できるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、4種類の電着電流波形を示した概略図であり、陰極電流は正と定義される。(a)は一定の電力密度を表す。(b)はひとつの陰極パルスとひとつの陽極パルスのモジュールを表す。(c)はひとつの陰極パルスとひとつの“オフタイム”パルスのモジュールを表す。(d)はふたつの陰極パルスのモジュールを表す。
【図2】図2は、A(直流)とB(陰極と陽極)の波形を用いて電着された合金のMn含有量に対する、電解質組成の変更による影響を表すグラフである。
【図3】図3は、リニアインターセプト法を用いて、AおよびBの波形を使って堆積させた合金に対して、走査電子顕微鏡(SEM)画像から決定された表面形状の平均サイズを、グラフで示している。
【図4】図4Aから4Bは、(A) 波形Aと(B) 波形Bとを使用し、両方のパネルの間で示される合金の組成物で堆積させた合金のX線ディフラクトグラムのグラフを示している。
【図5】図5は、図4Aおよび4Bで示されているように、波形AおよびBを使用して堆積させた合金の、X線ディフラクトグラムで見られた総合算強度に対するFCCピークの寄与率をグラフで示している。
【図6】図6Aから6Fは、波形Aを使用して電着させた合金のブライトフィールドトランスミッション電子顕微鏡(TEM)のデジタル画像と、挿入された電子回析パターンであり、各合金の全体的なMn含有量が各パネルの左下に示されている。
【図7】図7Aから7Iは、波形Bを使用して電着させた合金のブライトフィールドトランスミッション電子顕微鏡(TEM)のデジタル画像と、挿入された電子回析パターンであり、各合金の全体的なMn含有量が各パネルの左下に示されている。
【図8】図8は、AおよびBの波形を用いて堆積させた合金に対して、TEMのデジタル画像から決定された、特徴的な微細構造の長さスケールのグラフである。
【図9】図9は、波形Bを用いて堆積された合金の硬度とMn含有量の関係のグラフである。
【図10】図10は、0.08および0.15mol/LのMnCl2を含む電解質において電着された合金の、Mn含有量に対するi2の影響を示すグラフである。
【図11】図11は、i1 = 6mA/cm2 かつ i2 = −3mA/cm2 である、0.08および0.15mol/LのMnCl2を含む電解質において電着された合金の、Mn含有量に対するtnの影響を示すグラフである。
【図12】図12は、本発明のA、B、EおよびHのAl - Mn 合金の強度と延性との関係を、市販のAl合金および鉄と比較したグラフである。右方向を示す矢印はE合金の延性は13%よりも大きいことを示している。
【図13】図13は、機能別に配列された堆積物の断面を図式で示しており、それぞれの層は異なる性質を有する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
電着設定の基本的な構成要素には、電力供給装置あるいは整流器が含まれる。これは電解質に沈められるふたつの電極(陽極および陰極)に連結される。定電流電着において、電力供給装置は陽極と陰極の間を流れる電流を制御し、一方で定電位電着においては、電力供給装置はふたつの電極の間に加えられる電圧を制御する。両方のタイプの電着においては、電解液の金属イオンが陰極に引き寄せられ、金属イオンは金属原子に還元され、陰極表面に堆積する。定電流電着はより実用的で広く使用されているため、以降の説明は定電流電着に焦点を当てて行われる。しかし、一般的な発明概念は定電位電着にも適用される。
【0023】
従来の定電流電着では、電力供給装置は図1 (a)に見られるとおり、電着プロセスにおいて、終始電極に一定電流を供給する。ここでは、陰極電流(すなわち、金属イオンを陰極表面上の金属原子に還元させる方向に流れる電流)は正と定義される。技術の進歩にともない、現在では電力供給装置は図1(b) - (d) で見られるように、モジュール(module)を構成する電流波形を供給することができる。同様に、それぞれのモジュールはセグメントあるいはパルスを含んでいる。それぞれのパルスは決められたパルス電流密度(例えば「i1」)と、パルス幅(例えば「t1」)を有している。図1 (b) - (d) は電着プロセスの間、終始周期的に反復される、ただひとつの独特なモジュールを有する波形を図示しているが、適用事例によっては、それぞれのモジュールが別のモジュールと異なる場合もある。また、図1 (b) - (d)に示されたそれぞれのモジュールが2つのパルスのみで構成されているが、実際には、1つのモジュールは使用者が希望する数のパルス、あるいは電力供給装置が供給できる数のパルスを有することができる。本説明では、ひとつの独特の、かつ反復性のモジュールを有する波形を採用する。そしてそれぞれのモジュールは、図1で表されているように、ふたつのパルスで構成される。しかし、ここで開示される発明は、上述のものに限定するものではない。
【0024】
図1において、波形(b) はひとつの陰極パルス(i1>0)とひとつの陽極パルス(i2<0)を有する。波形(c) のモジュールはひとつの陰極パルス(i1>0)とひとつの“オフタイム”パルス(i2 = 0)を有する。“オフタイム”パルスの間、電極間には電流が流れない。波形(d)のモジュールは、i1>0とi2>0であるため、ふたつの陰極パルスを有するモジュールによって特徴付けられている。(b)で示される陽極パルスの間、陰極表面上の原子は酸化されて金属イオンとなり、電解質内に溶解する。
【0025】
図1で表される波形は水性電解質で金属および合金を電着する際に使用される。近年では、図1 (b) - (d) に記されているような、異なる種類のパルスの組み合わせを有する波形(すなわち、陰極、陽極、オフタイム)は、オフタイムパルスが堆積における内部応力を減少することや、陽極パルスが粒径に顕著に影響すること、そして堆積物の表面外観と内部応力を改善することが発見されたため、注目を集めている。単相合金の場合、陽極パルスは、最も高い酸化電位の要素を優先的に除去することができ、それゆえ合金の組成を制御できる。多位相合金系においては、状況はより複雑である。陽極パルス中に除去されるそれぞれの位相の程度は、各位相の関連する電気陰性度だけではなく、さまざまな位相の配置および分布にも依存する。
【0026】
アルミニウム−マンガン(Al-Mn)の二元合金による特定のケースにおいて、本発明者は非水性電解質の中で電着される金属あるいは合金の構造を制御する、異なる種類のパルスを有する波形の使用を実施した。一般的には、少なくとも2つの異なる大きさを持つパルスが使用されている。例えば、陰極パルスは2つの異なる正電流レベルで使用されている。あるケースでは、パルスは異なる代数符号も有している。例えば陽極パルスが後に続く陰極パルス、あるいはオフタイムパルスが後に続く陰極パルス(ゼロサインパルス)である。このようなパルス形態は以前より使用されており、既知の技術より優れていた。一般的に、それぞれのパルス形態は、振幅i1の陰極電流を有し、正で、時間t1の間適用されるパルスと、そして振幅i2の電流を有し、時間t2の間に適用される別パルスを特徴としており、t1とt2が約0.1msよりも長く、持続時間が約1sよりも短く、さらにi2/ i1の比が約0.99よりも小さく、約−10よりも大きい。
【0027】
異なる種類のパルスを有する波形を用いることにより、合金堆積物の別の特徴を制御できることが発見された。あるケースでは、目的である性質、例えば延性などが、パルスの振幅および/または持続時間といった、パルスパラメータとの直接的な関係を帯びているので、直接制御が可能であることが発見されている。別のケースでは、直流あるいは非パルス形態が用いられる場合の、突然変移を伴う非段階的、あるいは非継続的な関係とは対照的に、構成相の大きさや体積分率といった目的の性質が、1つのパルス形態を用いる場合に、堆積物内の含有元素(例えばMn)といった、別の可変要素との直接的、段階的、そして継続的な関係を帯びることが発見されているので、制御が可能である。このように、このパルス形態を使用することによって、そして、継続的な関係に基づくその他のパラメータを選択することにより、構成相の大きさ、体積分率といった目的の性質の制御が実施可能となる。
【0028】
本発明者は、そのような他の目的となる性質に関して、異なるパルス形態が異なる結果をもたらすことを確認するために十分な実験を行ってきた。そのため、例えば硬度や強度といった延性以外の目的となる機械的性質、そして粒径や表面性状といった形態的性質に関して、i2/ i1の比あるいはi2/ i1の比の正負(つまり0、1あるいは−1)といった、目的の性質の程度とパルスパラメータとの関係を特定することにより、制御が達成されると考えてられている。パルス形態に基づき、目的となる性質の変化が存在する確率が非常に高いため、上記は可能であると考えられる。これに当てはまらない場合、直流めっきは、目的の性質のために1つの値を有する堆積を施し、すべてのパルス形態は目的の性質のための異なる値を有する堆積を施すことが必要となるであろう。特にそれに伴う延性とパルス形態の関連を示す、明白な結果を得られるので、これが起こりうる確率は極めて低い。後述のように、合金組成はパルスの持続パラメータと関連していることもまた発見されている。
【0029】
これらの、製造された合金の性質を制御の利点に加え、パルス電流(あるいは電圧)を用いて製造された合金は、延性と組み合わせて、大変有利な強度対重量の比の性質を有することも発見されている。要するに、硬度や引っ張り降伏強度、延性および密度の組み合わせの実現された範囲は、既知のアルミニウム合金や鋼鉄のそれよりも遥かに優れている。既知のアルミニウム合金に関して、本発明の合金は、硬度および延性の優れた組み合わせを有する。鋼鉄に関しては、本発明の合金は、密度がそれよりかなり低いが、同程度の硬度および/または延性を有している。
【0030】
Al-Mn合金が大気温度(すなわち室温)にて、表1に要約されている成分のイオン液体電解質内で電着された。この電解質を調合するために用いられる手順は、本項の後に詳細が記述されている。すべてのケースにおいて、前述の漂白剤やレベラーといった添加物は使用されていない。
【表1】
【0031】
電解研磨された銅(99%)が陰極として、純アルミニウム(99.9%)が陽極として使用された。電着は低電流条件の下、室温にて実施された。使用された波形は図1に記載されている。変数はi1、i2、t1、t2である。初めに、2つの種類の電流波形、すなわちAとBが、Mn含有量が0から16%の合金を電着するために使用された。これら2つの種類の波形の詳細は表2に記載されている。波形Aの形状は直流電流波形である図1(a)に示されているものと同様であることに留意されたい。波形Bは図1(b)と同様である。これは陽極パルスと陰極パルスを有する波形である。従って、波形Aのi2/i1の比の値は1であり、波形Bの比の値は−1/2である。
【表2】
【0032】
(電解質調合の手順)
すべての化学物質は窒素雰囲気下のグローブボックスに入れられ、H2OとO2の含有量は1ppm以下であった。有機塩、1-エチル-3-メチル-イミダゾリウムクロライド(EMIm)Cl(>98%の純度、IoLiTec社製)を、使用する前の数日間、60℃の真空状態で乾燥させた。電着浴の調合に、無水AlCl3粉末(>99.99%の純度、Aldrich社製)とEMImClを2:1のモル比で混合した。堆積に先立ち、純粋アルミニウム箔(99.9%)をイオン液体に加え、酸化不純物と塩化水素の残留物を除去するために、溶液を数日間撹拌した。細孔径1.0μmのシリンジフィルターでろ過した後、淡い帯黄色の液体が得られた。塩化マンガン(MnCl2)の公称濃度はイオン液体への無水MnCl2(>98%の純度、Aldrich社製)の制御した添加により変えられた。
【0033】
厚さ約20μmの合金シートを電着した。合金の化学成分は走査型電子顕微鏡(SEM)を用いたエネルギー分散型X線分析(EDX)によって数値で表された。合金の表面形態も、ここで検査された。合金の位相成分はX線回析(XRD)を使って検査された。粒子形態と位相分布は透過型電子顕微鏡(TEM)を使用して検査された。荷重10グラムで、15秒のホールディングタイムにて、波形Bで製造された選択合金に、標準ビッカース微小押込試験が実施された。すべてのケースにおける押込深さは、膜厚さの1/10を遥かに下回り、明確な正味計測を保証した。単軸引張り状態の合金の延性を評価するために、ASTM(米国材料試験協会)E290-97a(2004)で詳述されているとおり、型曲げ試験が実施された。試験サンプルの厚みt(すなわち、膜と銅基板を合わせた厚み)はマイクロメータを使って計測され、0.220±0.02mmから0.470±0.02mmの範囲であった;また、心棒先端の半径rは0.127mmから1.397mmの範囲であった。型曲げ試験の後、走査型電子顕微鏡(SEM)を使用して、膜の凸状曲面のひびや亀裂の検査が行われた。
【0034】
それぞれの曲面サンプル(すなわち、膜と銅基板を合わせたもの)に関して、膜厚は基板厚の10%以下であった。従って、好ましい近似値のために、膜は被検査用曲面の外繊維に配置され、単軸引張り状態が検査された。また、曲面サンプルの上半分は伸長状態にあり、一方で下半分は圧縮状態にあり、中立面は凸面と凹面のおよそ中間にある。凸面の厳密な引っ張り歪みは、ε = ln (l / l0) で概算される。ここでは、lは凸面のアーク長を表し、l0は中立面のアーク長を表す。幾何学考察で
となる。よって、〜0.6、3および5.5のr/t比の値は、それぞれ〜37%、13%、8%の歪み値に対応する。
【0035】
(合金成分)
図2は堆積合金のMn含有量に対する電解質成分と電流波形の影響を要約している。〜0.1から0.16mol/LのMnCl2を含有する電解質で電着された合金に関して、波形Bで製造された合金は、波形Aを用いて堆積された合金と比較してMnの含有量が少ない。そのため、図2では、表2で要約された堆積パラメータに基づき、陽極パルスが堆積合金からMnを優先的に除去する証拠を示している。ここでは、電着浴の成分を参照する替わりに、使用される波形名(すなわちA、B、Cなど)および合金成分がサンプルに標識される(図2を参照することにより、合金成分から浴組成が判明する)。
【0036】
(表面形態)
堆積合金の表面形状を描写したSEM画像が作成および分析された。A合金の表面形態は0.0原子%〜7.5原子%の範囲の硬度に切子状となった構造から、8.2原子%から13.6原子%の範囲の丸みを帯びた結節構造への突然変移を見せている。一方B合金の表面形態は、0.0原子%〜4.3原子%の範囲の高度に切子状となった構造から、6.1原子%から7.5原子%の範囲の角張りが少なく、より細かい構造への段階的移行を見せる。そして、8.0原子%で滑らかでほとんど凹凸のない表面へと移行し、11原子%から13.6原子%の範囲の丸みを帯びた結節構造が表れる。
【0037】
A(直流)合金とB(陰極/陽極)合金の表面形状部の平均的な特徴的サイズを決定するために、リニアインターセプト法が用いられ、図3はその結果をグラフ化して要約している。試験された組成物範囲全体では、B合金の表面形状部のサイズはA合金のそれよりも小さい。A合金のMn含有量が増えるに従って、表面形状部のサイズが継続的に減少する一方で、B合金の表面形状部のサイズは〜8原子%の局所的最小値を示す。
【0038】
光学的には、同等のMn含有量のA合金と比較して、B合金はより滑らかに見える。加えて、B合金は外観において興味深い変化を見せている:Mn含有量が0から7.5原子%に増加すると、くすんだ灰色の外観が灰白色になる。8.0原子%以上のMnを含む合金の外観は明るい銀色である;そして、8.0原子%のMnはもっとも光沢のある外観となる。
【0039】
(位相成分組成)
図4は(a) A合金と(b) B合金のX線ディフラクトグラムを表している。AおよびB合金は位相成分組成において同様の傾向を示している。低いMnの含有量では、合金はFCC Al(Mn) 固溶体相を示す。中間的なMnの含有量では、〜42°2θでの回析図で広範な暈を表す非晶相がFCC相と共存する。高いMnの含有量では、合金は非晶相を有する。さらに、AおよびB合金は〜8%のMnのほぼ同一の成分組成において、FCC単相から二重構造へと変化する。
【0040】
図5は堆積合金のXRDパターンにおいて観察された、全合算強度のFCCピークの百分率分布をグラフ化している。合金が二相構造を表す成分組成範囲はA合金の方が広く(Mn含有量8.2から12.3原子%の間)、B合金の成分範囲は比較して狭い(Mn含有量8.0から10.4原子%の間)。加えて、図4 (A)および4 (B)をさらに詳しく見てみると、二相合金においては、同等のMn含有量で、A合金のFCCピークはB合金のFCCピークよりも幅広いことを示唆している。それゆえ、XRDの結果は、陽極電流のパルスは合金の位相成分組成を変え、FCC相領域サイズや位相分布をも変える可能性があることを示唆している。これら2つの特徴は、次項でさらに論じられる。
【0041】
(特徴的な微細構造的長さスケールおよび位相分布)
図6はA(直流)サンプルの透過型電子顕微鏡(TEM)によるデジタル画像を表している。これらサンプルの特徴的な微細構造の長さスケールは、平均的FCC粒径あるいは平均的FCC相領域である。Aサンプルの特徴的な微細構造の長さスケールは、Mn含有量が7.5原子%から8.2原子%へとわずかに増加する際に、〜4μm(図6(a))から〜40μm(図6(b))と急激な移行を見せている。さらに、二相合金(図6(b)から(e))は直径約20〜40nmの凸領域から成り、ネットワーク構造で包囲されている。8.2原子%においては、FCC相が凸領域を占めている;一方で、非晶相がネットワークを占めている。Mn9.2〜12.3原子%では、反対の現象が見られる:非晶相が凸領域に存在し、一方でFCC相がネットワークを占めている。従って、図6は2層合金の相分離が、結果的に凸領域−ネットワーク構造をもたらすと思われる。
【0042】
図7はB(陰極/陽極)合金のTEMデジタル画像である。特徴的な微細構造的長さスケールは、Mn含有量が0から10.4原子%に上昇するにつれ、〜2μmから15nmまで、徐々に減少している。さらに、二相合金(図7(g)から(i))はA合金に見られたような、特徴的な凸領域−ネットワーク構造を見せていない。その代わり、FCC粒子が均一的分散を見せ、非晶相は粒間領域に分布していると考えられる。一般的に、波形Bは異なる位相のより均質な分布をもたらすと思われる。
【0043】
図8は、Mn含有量に応じて変化する、AおよびB合金の特徴的な微細構造的長さスケールをグラフ化している。A合金がマイクロメータスケールからナノメータスケールまでの粒子あるいはFCC相領域の突然変移を表しているのに対して、B合金の特徴的な微細構造的長さスケールはミクロンからナノメータまで徐々に変移する。このように、図8は陰極および陽極パルスの適用により、微結晶Al-Mn合金およびナノ結晶Al-Mn合金のFCC粒子あるいは位相領域サイズを小さくすることが可能であることを立証している。陰極/陽極パルスは、微結晶合金およびナノ結晶合金形態において、特徴的な微細構造の長さスケールの、より連続的な領域が統合されることを可能にする。陰極/陽極パルスを用いて、粒径と対応するMn含有量を選ぶことにより、所望のFCC位相領域あるいは粒径が実現されうる。これは直流を用いては実現できない。というのも、異なる特徴的な微細構造的長さスケール形態の間の変移は、小さくするには急激過ぎるからである。さらに、陰極/陽極パルスは二相合金における凸領域−ネットワーク構造の形成を妨害し、結果としてより均質な二相内部形態をもたらすように思われる。
【0044】
(硬度)
図9は、B合金のMn含有量に応じて変化する硬度の値をグラフ化している。硬度は一般的にはMn含有量の増加に伴って高くなる。この、硬度の増加は固溶強化と微粒化の組み合わせに起因すると考えられる。
【0045】
(延性)
型曲げ試験後、AおよびB波形の合金の曲げられた表面のデジタル画像が撮られ、分析された。同等のMn含有量のAおよびB合金のイメージが比較された。SEM画像は、すべての組成物において、A(直流)合金の方が、B(陰極/陽極)合金よりもより深刻なひび割れが生じたことを示した。A合金に関しては、純粋Alのみ、ひび割れが見られなかった。B合金に関しては、Mn6.1原子%の組成物にはひび割れが見られなかった。さらに、Mn含有量が8.2原子%を超えるすべてのA合金には、サンプル幅全体に広がるひびが見られる反面、Mn含有量13.6原子%のB合金のみ、サンプル幅に広がるひびが見られた。AおよびB波形で製造された、Mn含有量13.6原子%の合金の比較では、B合金は、A合金のひびの数密度よりも低い数密度を示す。表3は今回の結果を要約しており、試験されたすべての組成物の範囲を通じて、B合金はA合金よりも延性が高いことを立証している。
【表3】
【0046】
Mn含有量8.0原子%および13.6原子%の、B波形によって製造された合金に対して、追加の型曲げ試験が実施された。これらの曲げられたサンプルのSEMデジタル画像が作成され、比較された。B波形で、Mn含有量8.0原子%のサンプルはr/t比 0.6および3で曲げられた。r/tが〜0.6に曲げられたサンプルには、全体にひびが見受けられたが、r/tが〜3で曲げられたサンプルにはほんの少しのひびしか見られなかった。そのため、これらの観察により、B波形、Mn含有量8.0原子%の合金の破砕部位における引張りは、おそらく13%近くであると考えられる。
【0047】
B波形、Mn含有量13.6原子%のサンプルが、r/t比0.6と5.5で曲げられ、それらのサンプルのSEMデジタル画像が作成および分析された。r/t比〜0.6で曲げられたサンプルの幅全体に、複数のひびが広がっていた一方で、r/t比〜5.5で曲げられたサンプルでは、サンプル幅の1/4の部分に、ひとつのひびしか入っていなかった。従って、これらの観察により、B波形、8.0原子%の合金の破砕部位における引張りは、おそらく8%近くであると考えられる。
【0048】
ここまで、直流波形と比較して、陰極および陽極パルスを含むパルス波形の、ある特定のタイプを適用することの、Al-Mn系の微細構造および性質への影響について詳しく検証してきた。次に、異なるパルスパラメータを使用して電着されたAl-Mn合金の結果を記載する。また、異なる電解液と、異なる温度で電着されたAl-Mn-Ti合金の結果も記載されている。
【0049】
合金成分組成の電流密度i2を変更することによる効果を調査するために、同量のMnCl2が含まれる電解槽からのAl-Mn合金の電着に波形A、C、D、E、B、Fが使用された。表4はこれら6つの波形のパルスパラメータをまとめたものである。
【表4】
【0050】
このように、C波形はi2/i1比が1/2、D波形は1/6、E波形は0、F波形は3.75/6(=−0.625)である。図10は、MnCl2 を0.08mol/L および0.15 mol/Lを含有する電解液で電着された合金の合金成分組成におけるi2の影響を表している。結果は、MnCl2 を0.08mol/L含む溶液で堆積された合金では、i2は合金成分組成には(実験に基づく成分測定の不確実性の範囲で)何の影響も与えなかったことを示している。しかし、0.15 mol/Lを含む溶液で堆積された合金では、i2 = 6mA/cm2(波形A)においては、合金のMn含有量は13.1原子%であり、それに反してi2 = 0 mA/cm2(波形E)においては、−9.3原子%以下であった。
【0051】
表4に示された、6つの波形により製造されたMn含有量約8原子%の合金に型曲げ試験が実施された。延ばされた表面のSEM画像が作成および分析された。いくつかの合金はr/t比〜0.6で曲げられた。その他はr/t比〜3で曲げられた。電流密度i2は試験対象の合金の範囲で、正から負へと低下した。さらに合金A、C、Dを比較するために、r/t比〜5.5 で追加の型曲げ試験が実施され、結果のSEM画像が作成および分析された。表5はその結果を要約している。
【表5】
【0052】
SEM画像と表5の分析は、i2の大きさを減少させると、合金の延性の上昇につながることを示している。A合金にはサンプル幅に渡りひびが入った一方で、その他の大部分の波形で製造された合金は、ひびが入らなかった。正のi2(すなわち波形A、C、D)に関しては、陽極パルス電流の大きさを減少させると、延性の上昇につながる。AおよびC合金は、r/t比〜0.6および3で曲げられた場合、サンプル幅に渡りひびが見られ、D合金では、サンプル幅に沿ったひびは見られなかった。A合金はr/t比〜5.5で曲げられた場合にサンプル幅に渡りひびが見られた。一方、CおよびD合金ではサンプル幅にひびは入らなかった。興味深いことに、E、B、F合金では、i2が大きな負数になるにつれて、合金の延性が低下する。合金がr/t比〜0.6で曲げられた場合、波形Fで製造された合金は、i2= −3.75 mA/cm2の時、比較的長く、かつ幅広くひび割れを起こす(〜300μm×〜10μm)。一方で、波形Eで製造された合金は、i2 = 0 mA/cm2の時、最も小さいひびを示す(〜40μm×〜10μm)。合金がr/t比3で曲げられた場合、“F”合金には1本のひびが見られ、その寸法はB合金に見られたものよりも大きかった。E合金はr/t比〜3で曲げられた場合、ひびは見られなかった。従って、i2が+1と−3の間、おそらくゼロに近い値の波形を用いることによって得られる延性の最大値が存在する。
【0053】
(パルス持続時間 t2)
合金成分組成へのパルス持続時間t2を変化させることによる影響を調査するために、同量のMnCl2が含まれる電解槽からの合金を電着するために、陰極/陽極波形G、H、Bが使用された。表6はこれら4つの波形のパルスパラメータを要約したものである。この表はt1とt2を掲載しているだけでなく、負電流が適用された時間tnを基にして波形を比較している。これは、波形Aが負電流のパルスと無関係(そして、tnの値はゼロであることから)であることから行われた。それに対して、その他すべての波形は負電流に関与している(−3 mA/cm2)。
【表6】
【0054】
図11はMnCl2 0.08mol/Lおよび0.15mol/Lを含有する電解液で電着された合金の合金成分組成に対するtnの影響を表している。結果は0.08mol/Lを含む溶液で堆積された合金では、tnは合金成分組成に何の影響も与えなかった(実験に基づく成分測定の不確実性の範囲で)ことを示している。しかし、0.08mol/Lを含む溶液で堆積された合金では、tnが0ms(波形A)から10ms(波形H)に上昇するに従い、合金のMn含有量は13.1原子%から9.3原子%まで減少した。しかし、tnがさらに増加しても、合金成分に顕著な変化は見られなかった。
【0055】
波形A、G、H、Bによって製造されたMn含有量約8原子%の合金に、型曲げ試験が実施された。一部のサンプルはr/t比〜0.6で曲げられた。その他のサンプルはr/t比〜3で曲げられた。延ばされた表面のSEM画像が取得されて、分析された。表7は結果を要約している。
【表7】
【0056】
SEM画像と表7は、同一のパルス電流密度i2(すなわち−3 mA/cm2)において、パルス持続時間tnの増加が合金の延性を増加につながっていることを示している。AおよびG合金(それぞれ、tn = 0および5ms)は、r/t比〜0.6および〜3で曲げられた場合、サンプル幅に渡りひびが見られた。一方、HおよびB合金は曲げられた時、サンプルの幅全体においてひびは見られなかった。tnが10ms(波形H)から20ms(波形B)に増加するにつれ、ひび長さおよび幅はともに減少した。
【0057】
一定の持続時間i2において、直流合金が最も延性が低いことを実証した上述の研究とこの研究を併せると、陰極パルスを供給し、次にもうひとつのパルス、すなわち異なる持続時間(波形G、H)の陰極(波形C、D)、陽極(波形B、F)あるいはオフタイム(波形E)のいずれかを供給することにより、直流(波形A)を使った場合より、さらに延性のある合金を作りだすことがわかる。
【0058】
先述の実験は0から20msのパルスによって実施された。しかし、パルスは約0.1msと約1sの間での持続時間を有したものが使用できると考えられる。Al-Mn-Ti合金は表8に示された電解槽組成を使用して電着された。電着実験中、電解質の温度を80℃に保つよう、シリコンオイル槽が使用された。
【表8】
【0059】
Al-Mn-Tiの電着に2種類の波形が使用された。これらはすなわち波形I(直流波形)と波形J(陰極/陽極波形)である。表9はこれらの波形のパルスパラメータを、合金成分組成とともに要約している。
【表9】
【0060】
I波形はi2/i1比が1で、B波形は−1/12である。表9では、陽極パルスは電着合金のMn含有量を減少させるが、Ti含有量を増加させることが示唆されている。IおよびJ合金の溶質の含有量合計はそれぞれ8.2および8.5原子%である。I(直流)およびJ(陽極/陰極)波形で製造された合金がr/t比〜0.6で曲げられた。これらの合金の延ばされた表面のSEM画像が作成された。表10は結果を要約している。
【表10】
【0061】
SEMデジタル画像と表10は、陽極パルスの適用により、Al-Mn-Ti合金の延性が改善されることを示している。波形I(直流波形)で製造された合金には、陰極/陽極の波形Jで製造された合金に見られるひびよりも長く、かつ幅広いひびが見られた。この事例は陽極パルスの適用により、その他のAl系合金(二成分系のAl-Mn以外)の延性を改善する可能性があることを表している。
【0062】
従って、これらの事例はAl-Mn-Ti合金が非水性溶液で、上昇温で、所望の性質を備えて堆積できるだけでなく、例えば、直流を使って製造された合金よりも増強された延性を備えつつ、堆積できることをも示している。
【0063】
(強度および質量)
波形Al-Mn合金の強度は、微小押込による硬度結果と、関係式
を使って算出されており、ここで、σyは降伏強度でHは硬度である。延性に関する上述の説明では、Mn含有量が6.1、8.0、13.6原子%のB(陰極/陽極)合金の延性はそれぞれ約37%、13%、8%である。図12はこれらのB合金の強度と延性の関係を、A合金(直流)、既知の市販Al合金、および鉄との比較により表している。E合金(陰極とオフタイム)とH合金(さらに短い陽極パルス維持時間のBのような陰極/陽極)も示されている。図12は波形B、EおよびHで電着されたAl-Mn合金が高い強度と良好な延性を示していることを表している(E合金が13%引っ張られた際にひびが入らないため、右向きの矢印は、E合金が13%よりも高い延性を示すことがある)。Al-Mn合金の密度(〜3g/cm3)は典型的な鋼鉄の密度(〜8g/cm3)の半分以下であるため、図12は、同一の延性において、本発明で開示されている合金が鋼鉄の2倍の比強度を持つことを示している。このように、これらのAl-Mn合金は構造的応用の可能性を有しており、例えば航空宇宙産業やスポーツ用品、あるいは輸送用途などで、軽量性、強度、延性の最適な組み合わせが求められている。
【0064】
(既存手法に優る利点と改善点)
前述は極めて便利な強度と重量特性を持つ、新しい組成の物質を説明している。新しい物質はASTM E290-97a (2004)を用いて計測された約5%から約40%あるいはそれ以上の延性を持ち、密度が約2 g/cm3と約3.5 g/cm3の間であり、約1から約6GPの間のビッカース微小硬度、あるいは約333から約2000MPaの間の引張り降伏強度を有すると考えられている。本発明のいくつかの実施態様では、硬度は約1から約10GPaの範囲に含まれる。あるケースでは、約3から約10GPa、あるいは約4から約10GPa、あるいは約5から約10GPa、あるいは約6から約10GPaに含まれる。その他の実施態様においては、約4から約7GPa、あるいは約5から約6GPaなどの間に含まれる。このように、本発明の特徴は、約1GPaから約10GPa以内の硬度、また、その範囲内での部分範囲の硬度で表された堆積物である。一般的に、エンジニアリングの立場からは、コストを含むその他の要素を犠牲にすることなく達成できるのなら、高い硬度がより好ましい。
【0065】
同様に、本発明のいくつかの実施態様において、堆積延性は破砕時の延伸度約5%から、破砕時の延伸度約100%までの範囲に含まれる。従って、本発明による堆積は、その範囲内の延性を有する。さらに、本発明の実施態様のための有益な延性の範囲は、約15%から約100%、約25%から約100、約35%から約100%、約5%から約50%、約25%から約60%、あるいはその範囲における部分範囲を含む。一般的に、エンジニアリングの立場からは、コストを含むその他の要素を犠牲にすることなく達成できるのなら、高い延性がより好ましい。
【0066】
最後に、密度に関して、本発明のいくつかの実施態様において、密度は約2g/cm3から約3.5/cm3の範囲に含まれる。あるケースでは、約2.25 g/cm3から3.5 g/cm3、あるいは2.5 g/cm3から3.5 g/cm3、あるいは約3 g/cm3から約3.5 g/cm3、あるいは2〜3 g/cm3に含まれる。このように、本発明の態様は、約2g/cm3から約3.5/cm3以内、また、その範囲内での部分範囲の密度で表された堆積のことである。一般的に、エンジニアリングの立場からは、コストを含むその他の要素を犠牲にすることなく達成できるのなら、低密度(それゆえ、低重量)がより好ましい。
【0067】
硬度、引張り降伏強度、延性、密度のこれらの範囲は、これらの新しい合金に、既知のアルミニウム合金よりも遥かに高い強度と延性の組合せを与え、同時に新しい合金は鋼鉄よりも遥かに軽量である。これらの合金の高い硬度は、それらが見せる極めて小さい、約100nm以下の特徴的な微細構造の長さスケールによると考えられている。微小な特徴的微細構造の長さスケールは一般的に金属および合金の硬度を上昇させる。
【0068】
これらの極めて有利な強度および重量の特徴に加え、ここで示される手法は、細かな操作により調整が可能な、付加的特徴を有する合金をもたらすことができる。
【0069】
例えば、アルミニウム合金の電着に関する既知の手法と対照的に、本発明では陽極、陰極、オフタイムといったパルスを利用することにより、制御された特徴的な微細構造の長さスケールの幅広い範囲、すなわち〜15nmから〜2500nmまで合成が可能であることが判明している。そして、特徴的な微細構造の長さスケールに対するMn含有量の影響は、DC波形を使用した場合よりもより穏やかである(図8)。従って、波形と異なる種類のパルスを使用することにより、設計者が、微結晶アルミニウム合金およびナノ結晶アルミニウム合金の両方に対する堆積の特徴的な微細構造の長さスケールを効果的に制御できる。本発明のいくつかの実施態様において、特徴的な微細構造の長さスケールは、約15nmから約2500nmまでの範囲に含まれる。あるケースでは、約50nmから約2500nm、あるいは約100nmから約2500nm、あるいは約1000nmから約2500nmの範囲に含まれる。その他の実施態様において、約15nmから約1000nm、あるいは約15nmから約100nmなどの範囲に含まれる。従って、本発明の態様は、約15nmから約2500nmの範囲、また、その範囲内での部分範囲の特徴的な微細構造の長さスケールで表された堆積のことである。一般的に、エンジニアリングの立場からは、コストを含むその他の要素を犠牲にすることなく達成できるのなら、小さい特徴的な微細構造の長さスケールがより好ましい。
【0070】
さらに、特徴的な微細構造の長さスケールに影響する加工温度の使用と比較し、図2と11はパルスパラメータ(i1、i2とその比、i2/ i1あるいはt1とt2とその比、そしてtn)を変えることにより、異なる微細構造および表面形態の合金を連続して電着するために単一の電解質組成物を使うことが可能である。図11はtnを変更することにより、組成を制御できることを示している。また、特徴的な微細構造の長さスケールは組成によって変動することは知られている。このことは図8に関して示されている。例えば、Mn含有量9.5原子%のB合金は30nmの粒径である;他方、Mn含有量10.4原子%の「B」合金は15nmの粒径である。このように、tnを変更することにより、組成、ひいては特徴的な微細構造の長さスケールが制御可能となる。
【0071】
さらに、グレード化した(品質的に分類した)微細構造を生成するために、パルス電流密度といった堆積パラメータを変えることも可能である。すなわち、延性、硬度、化学成分、特徴的な微細構造の長さスケール、位相成分組成あるいは位相配置、あるいはそれらの組み合わせのうちのいずれもが堆積厚を通じて制御されている。それぞれの機械的あるいは形態的な特性に関して、特性と、前述のごとく、パルス形態と波形維持時間によって特徴付けられる、波形形状の片方、あるいは両方のパラメータとの間には関連性が存在する。この関連性は使用されている物質形で、比較的定められた通りの試験によって確立することができる。一度確立すると、所望の程度の性質の材料を電着するのに使用することができる。電着合金の微細構造を変えるために、異なる種類のパルスを有する波形を使用することは、明らかに用途が広く実用的で、特に産業スケールにおいては既知の手法と比較してそれらの点で優れている。
【0072】
さらに、試験されたすべての成分組成範囲(Mn含有率0から14原子%)において、合金はさまざまな表面形態を示している;高度に切子状である構造から、角張りが少ない形状、滑らかな表面、そして丸みを帯びた結節状までが含まれている。表面形態の可変性は、光学的光沢、摩擦係数、液体による湿潤性、そして亀裂伝播への耐性といった性質に関連する。
【0073】
前述の概説のように、異なる種類のパルスを有する波形を使用することにより、モノリシック構造の堆積のための目標とする性質を特定できるだけでなく、そのようなプロセスにより、層状複合体とグレード化された物質を設計することが可能となろう。例えば、図13に概略的に示されているように、堆積物1302は、基板1301との界面でナノメータスケールの特徴的な微細構造の長さスケールを有し、表面1320でマイクロメータの特徴的な微細構造の長さスケール構造を有することができ、その他の構造物を層1304、1306、および1308の間に配して有することができた。このような堆積は、高い強度(基板界面近くの1302における、ナノメータスケールの特徴的な微細構造の長さスケールによるもの)と亀裂伝播への高い耐性(1320におけるナノメータスケールの特徴的な微細構造の長さスケールによるもの)との優れた組み合わせを示すだろう。このような機能的に層化された物質、あるいはグレード化された物質は、その他の堆積では達成不可能な性質を示すと思われる。設計者が考えるであろう理由がいかなるものであっても、粒径を変更するよりも、ひとつの層、例えば1302から、別の層、例えば1306へ、延性の特異的な変更が行われうる。独立して、あるいは特徴的な微細構造の長さスケールと組み合わせて、グレード化できる別の性質は、位相分布である。例えば、いくつかの層はその他の層よりも、広範な非晶質物質を有する可能性がある。
【0074】
異なる種類のパルスを有する波形による電着は、Al-Mn およびAl-Mn-Ti系での実施が利用されてきたが、別の多成分のアルミニウム電着合金への幅広い適用も可能と考えられていることに留意する重要性がある。可能な合金化元素は、La、Pt、Zr、Co、Ni、Fe、Cu、Ag、Mg、Mo、Ti、W、Co、Li、Mnおよび専門家が指定するその他のさまざまな元素を含む。
【0075】
上述では直流電流の電着について考察してきた。この中で、電流は堆積を引き起こすために採用された。加えて、定電位電着の場合に同様の結果が得られると考えられている。この場合、i1とi2の代わりに、関連する処理変数はv1とv2を使用することがあり、vは適用された電圧を意味する。このように、上記で説明したいかなる結果においても、パルス電流ではなく、同じような波形のパルス電圧を使用することが可能である。一般的に、同一の性質は同一の形態で影響を受けると考えられる。
【0076】
また、上述の説明では、イオン液EmImClと関与する特定の電解質からの堆積が具体的に述べられている。その説明は、有機電解質、芳香族溶剤、トルエン、アルコール、液体塩化水素、あるいは融解塩浴を含む、その他の非水性電解質からの堆積に対しても同様に適用される。さらに、プロトン性、非プロトン性、あるいは両性イオンのイオン液を含む、適した電解質として使用されることもある多くのイオン液が存在する。実例として、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムN、N-ビス(トリフルオロメタン)スルホンアミドが含まれており、あるいはイミダゾリウム、ピロリジニウム、第4級アンモニウム塩、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、ビス(フルオロスルホニル)イミド、あるいはヘキサフルオロリン酸塩といった液体が含まれる。上記の説明はこのような電解質に当てはまり、また既知あるいは未発見の、その他多くの適した電解質にも当てはまる。
【0077】
上述の説明は、塩種としての塩化アルミニウムの使用に当てはまり、この塩化アルミニウムからAlイオンが溶液槽に供給される。また、塩種としての塩化マンガンの使用にも当てはまり、この塩化マンガンからMnイオンがめっき浴に供給される。そして、この説明は金属硫酸塩、金属スルファミン酢酸、金属含有シアン化物溶液、金属酸化物、金属水酸化物、そして類似したものにも当てはまるが、限定はされない。Alの場合、ALFx化合物が使用されることがあり、xは整数である(通常4あるいは6)。
【0078】
また、上述の説明は、電流の特異値のパルスを含むか、あるいは、波形が方形波であったが、それぞれのパルスが一定時間の一定適用電流に関与するパルス形態と波形モジュールについて具体的に述べている。この説明は一定電流ではなく、例えば、傾斜、のこぎり状、振動性、正弦曲線、あるいはその他の形状のセグメントあるいはパルスが関与する波形にも同様に適用される。このような波形では、t1の持続時間にわたる平均電流i1と、第2の持続時間t2にわたる別の平均電流i2を計測することが可能で、また上述のように、電流値i1とi2が使用されるのと同じような方法でこれらの平均電流の値を使用することも可能である。上記の説明はこのようなケースにまで及び、同様の一般的な傾向が見られる結果となると考えられる。
【0079】
この項は上記の特定事例のいくつかを要約するものである。
【0080】
A合金の表面形態は高度に切子状となった構造から〜8原子%の丸みのある結節まで、突然変移を見せている。B合金の表面形状は高度に切子状となった構造から角張りが取れ、より小さな構造に段階的変移を見せている;そして、滑らかでほとんど凹凸のない表面に変化し、丸みのある結節が現れる。このように、電解質のMn含有量を変えながら使用する場合、Bのタイプの波形を使用することにより、表面形状に対して緩やかな制御が可能である。
【0081】
陰極/陽極パルスは、直流を使用した場合と比べて、マイクロメータとナノメータのいずれの状態においても、より連続的な範囲の、特徴的な微細構造の長さスケールの合成を可能にする。陰極/陽極パルスの使用において、特徴的な微細構造の長さスケールに対応したMn含有量を選ぶことにより、所望の特徴的な微細構造の長さスケールを実現することが可能である。
【0082】
説明されている合金の硬度は、Bタイプの波形を使用したパルスについてはMn含有量の増加に伴って増強される。これは、硬度もパルス形態を使用することで、特徴的な微細構造の長さスケールと同様に調整可能であることを示している。
【0083】
一般的に、合金組成と電解質組成とは直接的な関係性があることは、電解質におけるMnCl2含有量のある範囲において、陰極/陽極あるいは陰極/オフタイムのパルス形態が、堆積されたAl-Mn合金のMn含有量を減少させるとする、一般的なルールとともに発見されている。
【0084】
i2の正の値(すなわち、波形A(DC(6および6mA/cm2))、6および3mA/cm2の波形Cの陰極パルス、そして6および1mA/cm2の波形Dの陰極パルス)については、正のパルス電流の大きさを減少させると、延性の増加につながる。陰極およびオフタイムの6および0mA/cm2の波形Eと、陰極/陽極の6および−3mA/cm2の波形Bと、6および0mA/cm2の波形Fの合金に関しては、i2が大きな負の値になると、合金の延性は減少する。従って、この系では、i2=0(陰極とオフタイム)に近い値で、最大延性が存在する。パルス持続時間に関しては、陰性/陽性パルスについて、同一のパルス電流密度i2(すなわち−3mA/cm2)で負数の電流パルスtnの持続時間を増加すると合金の延性が増強されることが見つかっている。陰性パルスと様々な持続時間の、もうひとつのパルス、つまり陰性、陽性あるいはオフタイムのいずれかを、利用することで、直流よりもより延性の高い合金を提供することができる。
【0085】
特定の実施態様が示され、また記述されているが、当業者は、その拡張された範囲の開示内容から逸脱することなく、様々な変更や改良が可能であることを理解するであろう。上記の記載に含まれ、関連図面で示されたすべての事項は、説明のためであると解釈されるべきで、限定の意味で解釈されるべきではない。
【0086】
(まとめ)
本発明の重要な実施態様は、アルミニウムを含む合金の堆積方法である。この方法は、アルミニウムの溶解種から成る非水性電解質を準備するステップと、電力供給装置と連結して液体内に第1電極と第2電極を設置するステップと、電極へ少なくとも2つのパルスを含むモジュールを有した波形を有する電力を送るために電力供給装置を稼動するステップと、を含む。第1のパルスは、正のi1の大きさを持ち、t1の持続時間にわたり適用される陰極の電力を有し、第2のパルスはt2の持続時間にわたり適用される、値i2の電力を有する。さらに、t1とt2は約0.1ミリ秒よりも大きく、1秒よりも小さい持続時間であり、加えてi2/i1比は約0.99よりも小さく、約−10よりも大きい。結果として、アルミニウムを含む堆積物は、第2電極から発生する。
【0087】
ある重要な実施態様では、電力供給装置は陽極パルスから成るモジュールの波形を有する電力を供給する。関連する実施態様によると、電力供給装置はオフタイムおよび陰極パルスを含むモジュールの波形を有する電力を供給する。あるいは、電力供給装置は異なる大きさの少なくとも2つの陰極パルスを含むモジュールの波形を有する電力を供給する。
【0088】
供給された電力はパルス電流あるいはパルス電圧、あるいはそれらの組み合わせとなる。
【0089】
ある有益な実施態様では、その他の少なくともひとつの要素はマンガンを含む。
【0090】
パルス電力は約0.2msから約2000msの持続時間を有するモジュールの反復波形を有する。
【0091】
極めて有益な実施態様は、約100nm以下の特徴的な微細構造の長さスケールを有する堆積を行うための方法である。
【0092】
さらに、少なくともひとつの別の要素に関する電解質組成物と、形成された合金の性質との間に相互関係が存在し、そしてこの相互関係が堆積の実用的な使用の範囲にわたって継続的である、別の実施態様が得られる。方法の実施態様は、その相互関係に基づき、目標とする程度の性質に対応する少なくともひとつの、他の要素に関する組成を明示するステップをさらに含み、非水性電解質が対応する組成の液体を含む。液体はイオン性液体であり、例えば1-エチル-3-メチル-イミダゾリウムクロライドである。
【0093】
関連する方法の実施態様は、形成された合金の性質は面の形状部の特徴的平均サイズを含む。別の関連する実施態様では、形成された合金の性質は表面形態を含む。表面形態は高度に切子状となった構造から、角張りの取れた形状部、滑らかな表面、そして丸みのある結節にまで及ぶ。
【0094】
さらに、別の関連する方法の実施態様は、形成された合金の性質は、平均の特徴的な微細構造の長さスケールを含む。
【0095】
平均の特徴的な微細構造の長さスケールの、目標である程度は約15nmと約2500nmとの間で、一般的には約15nmと約100nmの間、あるいは約100nmと約2500nmの間である。
【0096】
別の重要な実施態様の分野では、パルス振幅、振幅比、パルスの持続時間のうち、少なくともひとつの値と、形成された合金の性質の程度との相互関係が存在する。相互関係は堆積の実用的な使用の範囲において継続的である。この方法はさらに、相互関係に基づき、目標とする性質の程度に対応する振幅、振幅比あるいは持続時間のうち、少なくともひとつの要素に関する値を明示するステップを含む。このステップの後、電力供給装置は、目標とする性質の程度に対応する振幅、振幅比あるいは持続時間のうち、少なくともひとつの明示された値を持つパルスのモジュールを有する電力を供給する。このように、第2電極における堆積は、目標とする性質の程度を有している。
【0097】
この実施態様と直接関連する方法において、振幅、振幅比、持続時間のうち少なくともひとつの値を明示するステップは、第2の目標となる性質の程度に対応する、振幅、振幅比、持続時間のうち少なくともひとつの、第2の値を明示するステップを含み、電力供給装置を稼動させるステップは、交互に、目標となる第1の性質のものの程度に対応する、少なくともひとつの振幅、振幅比、持続時間の値を有したパルスを持つモジュールの電力を供給するステップと、目標となる第2の性質の程度に対応する、少なくともひとつの、第2のものの振幅、振幅比、持続時間の値を有するパルスを持つモジュールの電力を供給するステップと、を含む。このように、製品は第1の目標となる程度を示す領域を持つ構造を有して製造され、また第2の目標となる程度を示す領域を持つ構造を有して製造される。
【0098】
同様の方法の実施態様において、上記のとおり、電力供給装置は第1の一定期間、それぞれ電流i1とi2を、持続時間t1とt2の間有するパルスの、電力を電極に供給し、その結果、パルスは陰極において、第1の程度の硬度、延性、組成、特徴的な微細構造の長さスケール、位相配置によって構成される群から選ばれた、少なくともひとつの性質を有する堆積物の第1の部分を製造する。そして、電力供給装置は第2の期間、持続時間t1*にわたって正の振幅i1*の陰極電力を持つ第1のパルスと、持続時間t2*にわたって値i2*の電力を持つ第2のパルスの、少なくとも2つのパルスからなるモジュールの波形を備えた、電力を供給する。t1*およびt2*は、約0.1ミリ秒より大きく、約1秒より小さい持続時間である。i2*/ i1*比は0.99よりも小さく、−10よりも大きい。i1≠i1*;i2≠i2*;t1≠t1*;t2≠t2*の不等式のうち、少なくともひとつが真である。堆積の第2の部分は、第2の、異なる程度を有する、少なくともひとつの性質を備えた、陰極で製造される。
【0099】
本発明のさらに別の重要な実施態様は、水よりも低い還元電位を有する少なくともひとつの元素と、少なくともひとつの追加元素の合金である物質の組成物である。第1の層は第1パラメータの程度を備えた性質を有する。少なくとも一つの追加の層が、第2の、異なるパラメータの程度を備えた性質を有する。これら性質は、硬度、延性、組成、特徴的な微細構造の長さスケール、位相配置によって構成される群から選ばれる。第1の層に隣接し、そこに接触しているのは、第2のパラメータの程度の性質を持つ結晶構造や、第1のパラメータの程度とは異なる第2のパラメータを備えた平均粒度といった、上記の性質を有する第2の層である。
【0100】
本発明のさらに別の有益な実施態様は、少なくとも約50原子%のアルミニウム、好ましくは少なくとも約70原子%のアルミニウム、そして少なくともひとつの追加元素から成る合金の物質の組成である。この合金は、約1GPaと約10GPaの間のビッカース微小硬度、あるいは約333MPaから約3333MPaの間の引っ張り降伏強さ、約5%と約100%の間の延性、そして約2g/cmと約3.5g/cm3の間の密度を備えている。
【0101】
この実施態様により、少なくともひとつの追加元素はマンガンを含む。さらに、それは少なくとも部分的に非晶構造である。
【0102】
関連する実施態様は、約100nm以下の、特徴的な微細構造の長さスケールを含んでいる。
【0103】
関連する有益な実施態様では、その少なくとも1つの追加元素は、La、Pt、Zr、Co、Ni、Fe、Cu、Ag、Mg、Mo、Ti、Mnから成る群から選ばれる。
【0104】
ビッカース硬度は約3Gpa、あるいは約4Gpa、あるいは約5Gpaを超えることがある。
【0105】
延性は約20%あるいは約35%を超えることがある。
【0106】
ここで、本発明の多くの技術および態様を記述した。当業者は、これらの技術の多くは、たとえ具体的な使用に関して書かれていなくても、その他の開示済みの技術と併せて使用することが可能と理解するだろう。
【0107】
この開示内容は、ひとつ以上の発明を記述および開示している。本発明は、本願の請求項および関連文書のみならず、本開示に基づいた特許出願の審査中に開発されるものに記載されている。発明者らは、先行技術が許す範囲で、可能な限りすべての発明の保護を請求するつもりである。本願明細書で述べられる特徴は、一切ここで開示される各発明にとって不可欠な要素ではない。従って、発明者らはこのなかで説明されているいかなる特徴も、本開示内容に基づいた特許の特定の請求項にて請求されていないものは、そのような請求項に組み入れるつもりはない。
【0108】
製品の組み立て品、あるいはステップの群がここでは発明として言及されている。しかし、このような組み立て品あるいは群が、ひとつの特許出願で審査されるだろう発明の数、あるいは発明の単一性に関する法律および法令によって特に想定されるように、必ずしも特許的に独立した発明であるとは主張しない。発明の単なる実施態様であると述べることを目的としたものである。
【0109】
要約書をここに提出する。この要約書は、審査官およびその他のサーチャーに、技術的開示内容の主題を素早く確認させる要約書を要求する規則を遵守して提供するものである。要約書は、特許庁の規則で規定されているように、請求項の範囲あるいは意味を解釈、あるいは制限するために使用されない、との認識により提出するものである。
【0110】
上述の説明は、本発明の解説として理解されるべきであり、限定するものとは一切考えられるべきではない。本発明が、好ましい実施態様に関連して示され、記述されているが、当業者であれば、特許請求の範囲で定義されたような発明の意図や範囲から逸脱することなく、形式や詳細の様々な変更は可能と考えるであろう。
【0111】
特許請求の範囲のすべての手段あるいはステッププラスファンクション要素の、対応する構造、素材、行為、および均質物は、特定して請求されているその他の要素と組み合わせて、それらのファンクションを実行するための、すべての構造、素材、あるいは行為をも含んでいる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムを含んだ合金を堆積する方法であって、
a.溶解したアルミニウム種を含んだ非水性電解質を提供するステップと、
b.電力供給装置と連結された、前記電解質の中に第1の電極と第2の電極とを提供するステップと、
c.前記両電極に電力を伝送するように前記電力供給装置を稼動するステップであって、前記電力は、少なくともふたつのパルスを含んだモジュールを含む波形を有しており、前記第1のパルスは持続時間t1の正のi1の大きさの陰極電力であり、前記第2のパルスは持続時間t2の値i2の大きさの電力であり、前記t1とt2はいずれも約0.1ミリ秒よりも大きく、約1秒よりも小さい持続時間であり、i2/i1比は約0.99よりも小さく、約−10よりも大きい、ステップと、を含み、
それによってアルミニウムを含む合金堆積物は、前記第2の電極から生成されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記電力供給装置の稼動ステップは、陽極パルスを含むモジュールの波形を有する電力を供給するように前記電力供給装置を稼動させることを含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記堆積物は、少なくとも約50重量%のAlを含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記電力供給装置を稼動するステップは、オフタイムと陰極パルスを含むモジュールの波形を有する電力を供給するように前記電力供給装置を稼動させることを含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記電力供給装置を稼動するステップは、少なくとも2つの、異なる大きさの陰極パルスを含むモジュールの波形を有する電力を供給するように前記電力供給装置を稼動させることを含む、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記堆積物はマンガンを含む、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記電力供給装置を稼動するステップは、約0.2msから約2000msの間の持続時間を有するモジュールの反復波形を有する、非定常電力で前記電力供給装置を稼動させることを含む、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記堆積物は、約100nm未満の特徴的な微細構造の長さスケールを有する、請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記電解質を供給するステップが、アルミニウム以外の少なくともひとつの他の元素の溶解種を含む非水性電解質を供給するステップをさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記少なくともひとつの他の元素に関わる前記電解質の組成と、形成された合金の性質との間に相関関係が存在し、前記相関関係は前記堆積の実用的な使用の範囲において継続的であり、
a.前記相関関係に基づき、前記性質の目標である程度に対応する、前記少なくともひとつの他の元素に関わる組成を明示するステップと、
b.前記非水性電解質を供給するステップが、対応する組成の電解質を供給するステップと、
をさらに含む、請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記形成された合金の性質は、表面形状部の平均的な特徴寸法を含む、請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記形成された合金の性質は、表面形態を含む、請求項10記載の方法。
【請求項13】
前記性質は、表面形態を含んでおり、前記目標である程度は高度の切子状構造から、さらに小さく角張った形状、滑らかな表面、そして丸みを帯びた結節に至る表面形態を含む、請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記形成された合金の性質は、平均特徴的微細構造の長さスケールを含む、請求項10記載の手法。
【請求項15】
前記平均特徴的微細構造の長さスケールの目標である程度は、約15nmと約2500nmの間である、請求項14記載の方法。
【請求項16】
パルス振幅、振幅比、およびパルスの持続時間のうちの、少なくともひとつの値と、形成された合金の性質の程度との間に相関関係が存在し、その相関関係が前記堆積の実用的な使用の範囲において継続的であり、本方法は
a.前記相関関係に基づき、前記性質の目標である程度と対応する、パルス振幅、振幅比、およびパルスの維持時間のうちの少なくともひとつの値を明示するステップをさらに含み、
b.前記電力供給装置を稼動するステップは、前記性質の目標である程度を持つ前記第2の電極で堆積を実現するために、目標である程度に対応するパルス振幅、振幅比、およびパルスの持続時間のうちの少なくともひとつの明示すべき値を有するパルスのモジュールの電力を供給するように前記電力供給器を稼動させるステップを含む、請求項1記載の方法。
【請求項17】
前記パルス振幅、振幅比、およびパルスの持続時間のうちの少なくともひとつの値を明示するステップが、前記目標である第2の程度に対応するパルス振幅、振幅比、およびパルスの持続時間のうちの少なくともひとつの第2の値を明示するステップを含み、前記電力供給装置を稼動するステップは、前記性質の目標である第1の程度に対応するパルス振幅、振幅比、およびパルスの持続時間のうちの少なくともひとつの、第1の値を有するパルスを持つモジュールの電力を供給するために、前記電力供給装置を稼動し、続いて前期性質の目標である第2の程度と対応するパルス振幅、振幅比、およびパルスの持続時間のうちの少なくともひとつの、第2の値を有するパルスを持つモジュールの電力を供給するように、前記電気供給装置を稼動するステップを交互に実行し、これにより、製品が第1の目標である程度と、第2の目標である程度を示す領域とを持つ構造を有する、請求項16記載の方法。
【請求項18】
前記電力供給装置を稼動するステップは、第1の一定期間、電力を前記電極に供給し、その結果、前記陰極において、硬度、延性、組成、特徴的な微細構造の長さスケール、および第1の程度を有した位相配置によって構成される群から選ばれた、少なくともひとつの性質を有した堆積の第1の部分を生成するように前記電力供給装置を稼動させるステップと、
第2の一定期間、持続時間t1*にわたり正の振幅i1*の陰極電力を持つ第1のパルスと、維持時間t2*にわたり値i2*の電力を持つ第2のパルスとの、少なくとも2つのパルスを含むモジュールの波形を有した、電力を前記両電極に供給するステップとを含んでおり、t1*およびt2*は、約0.1ミリ秒より大きく、1秒より小さい持続時間であり、i2*/ i1*比は0.99よりも小さく、−10よりも大きく、i1≠i1*;i2≠i2*;t1≠t1*;t2≠t2*の不等式のうち、少なくともひとつが真であり、第2の、異なる程度を有する、少なくともひとつの性質を有した前記堆積の第2の部分を前記陰極で生成する、請求項1記載の方法。
【請求項19】
前記電力は電流を含む、請求項1記載の方法。
【請求項20】
前記非水性電解質は、イオン液体を含む、請求項1記載の方法。
【請求項21】
前記非水性電解質は1−エチル−3−メチル−イミダゾリウムクロライドを含む、請求項20記載の方法。
【請求項22】
少なくとも、約50原子%のアルミニウムと、少なくともひとつの追加的元素とを含む合金であって、該合金は
a.約1GPaと約10GPaの間のビッカース微小硬度と、
b.約5%と約100%の間の延性と、
c.約2g/cm3と約3.5g/cm3の間の密度と、
を有する、物質組成物。
【請求項23】
少なくともひとつの追加的元素がマンガンを含む、請求項22記載の組成物。
【請求項24】
少なくとも約70原子%のアルミニウムを含む、請求項22記載の組成物。
【請求項25】
少なくとも部分的に非晶構造を含む、請求項22記載の組成物。
【請求項26】
約100nmより小さい特徴的な微細構造の長さスケールを含む、請求項22記載の組成物。
【請求項27】
前記少なくともひとつの追加元素は、La、Pt、Zr、Co、Ni、Fe、Cu、Ag、Mg、Mo、Ti、Mnから成る群から選ばれる、請求項22記載の組成物。
【請求項28】
前記ビッカース硬度が約3Gpaを超える、請求項22記載の組成物。
【請求項29】
前記ビッカース硬度が約4Gpaを超える、請求項22記載の組成物。
【請求項30】
前記ビッカース硬度が約5Gpaを超える、請求項22記載の組成物。
【請求項31】
前記延性が約20%を超える、請求項28記載の組成物。
【請求項32】
前記延性が約35%を超える、請求項31記載の組成物。
【請求項33】
前記延性が約20%を超える、請求項29記載の組成物。
【請求項1】
アルミニウムを含んだ合金を堆積する方法であって、
a.溶解したアルミニウム種を含んだ非水性電解質を提供するステップと、
b.電力供給装置と連結された、前記電解質の中に第1の電極と第2の電極とを提供するステップと、
c.前記両電極に電力を伝送するように前記電力供給装置を稼動するステップであって、前記電力は、少なくともふたつのパルスを含んだモジュールを含む波形を有しており、前記第1のパルスは持続時間t1の正のi1の大きさの陰極電力であり、前記第2のパルスは持続時間t2の値i2の大きさの電力であり、前記t1とt2はいずれも約0.1ミリ秒よりも大きく、約1秒よりも小さい持続時間であり、i2/i1比は約0.99よりも小さく、約−10よりも大きい、ステップと、を含み、
それによってアルミニウムを含む合金堆積物は、前記第2の電極から生成されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記電力供給装置の稼動ステップは、陽極パルスを含むモジュールの波形を有する電力を供給するように前記電力供給装置を稼動させることを含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記堆積物は、少なくとも約50重量%のAlを含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記電力供給装置を稼動するステップは、オフタイムと陰極パルスを含むモジュールの波形を有する電力を供給するように前記電力供給装置を稼動させることを含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記電力供給装置を稼動するステップは、少なくとも2つの、異なる大きさの陰極パルスを含むモジュールの波形を有する電力を供給するように前記電力供給装置を稼動させることを含む、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記堆積物はマンガンを含む、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記電力供給装置を稼動するステップは、約0.2msから約2000msの間の持続時間を有するモジュールの反復波形を有する、非定常電力で前記電力供給装置を稼動させることを含む、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記堆積物は、約100nm未満の特徴的な微細構造の長さスケールを有する、請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記電解質を供給するステップが、アルミニウム以外の少なくともひとつの他の元素の溶解種を含む非水性電解質を供給するステップをさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記少なくともひとつの他の元素に関わる前記電解質の組成と、形成された合金の性質との間に相関関係が存在し、前記相関関係は前記堆積の実用的な使用の範囲において継続的であり、
a.前記相関関係に基づき、前記性質の目標である程度に対応する、前記少なくともひとつの他の元素に関わる組成を明示するステップと、
b.前記非水性電解質を供給するステップが、対応する組成の電解質を供給するステップと、
をさらに含む、請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記形成された合金の性質は、表面形状部の平均的な特徴寸法を含む、請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記形成された合金の性質は、表面形態を含む、請求項10記載の方法。
【請求項13】
前記性質は、表面形態を含んでおり、前記目標である程度は高度の切子状構造から、さらに小さく角張った形状、滑らかな表面、そして丸みを帯びた結節に至る表面形態を含む、請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記形成された合金の性質は、平均特徴的微細構造の長さスケールを含む、請求項10記載の手法。
【請求項15】
前記平均特徴的微細構造の長さスケールの目標である程度は、約15nmと約2500nmの間である、請求項14記載の方法。
【請求項16】
パルス振幅、振幅比、およびパルスの持続時間のうちの、少なくともひとつの値と、形成された合金の性質の程度との間に相関関係が存在し、その相関関係が前記堆積の実用的な使用の範囲において継続的であり、本方法は
a.前記相関関係に基づき、前記性質の目標である程度と対応する、パルス振幅、振幅比、およびパルスの維持時間のうちの少なくともひとつの値を明示するステップをさらに含み、
b.前記電力供給装置を稼動するステップは、前記性質の目標である程度を持つ前記第2の電極で堆積を実現するために、目標である程度に対応するパルス振幅、振幅比、およびパルスの持続時間のうちの少なくともひとつの明示すべき値を有するパルスのモジュールの電力を供給するように前記電力供給器を稼動させるステップを含む、請求項1記載の方法。
【請求項17】
前記パルス振幅、振幅比、およびパルスの持続時間のうちの少なくともひとつの値を明示するステップが、前記目標である第2の程度に対応するパルス振幅、振幅比、およびパルスの持続時間のうちの少なくともひとつの第2の値を明示するステップを含み、前記電力供給装置を稼動するステップは、前記性質の目標である第1の程度に対応するパルス振幅、振幅比、およびパルスの持続時間のうちの少なくともひとつの、第1の値を有するパルスを持つモジュールの電力を供給するために、前記電力供給装置を稼動し、続いて前期性質の目標である第2の程度と対応するパルス振幅、振幅比、およびパルスの持続時間のうちの少なくともひとつの、第2の値を有するパルスを持つモジュールの電力を供給するように、前記電気供給装置を稼動するステップを交互に実行し、これにより、製品が第1の目標である程度と、第2の目標である程度を示す領域とを持つ構造を有する、請求項16記載の方法。
【請求項18】
前記電力供給装置を稼動するステップは、第1の一定期間、電力を前記電極に供給し、その結果、前記陰極において、硬度、延性、組成、特徴的な微細構造の長さスケール、および第1の程度を有した位相配置によって構成される群から選ばれた、少なくともひとつの性質を有した堆積の第1の部分を生成するように前記電力供給装置を稼動させるステップと、
第2の一定期間、持続時間t1*にわたり正の振幅i1*の陰極電力を持つ第1のパルスと、維持時間t2*にわたり値i2*の電力を持つ第2のパルスとの、少なくとも2つのパルスを含むモジュールの波形を有した、電力を前記両電極に供給するステップとを含んでおり、t1*およびt2*は、約0.1ミリ秒より大きく、1秒より小さい持続時間であり、i2*/ i1*比は0.99よりも小さく、−10よりも大きく、i1≠i1*;i2≠i2*;t1≠t1*;t2≠t2*の不等式のうち、少なくともひとつが真であり、第2の、異なる程度を有する、少なくともひとつの性質を有した前記堆積の第2の部分を前記陰極で生成する、請求項1記載の方法。
【請求項19】
前記電力は電流を含む、請求項1記載の方法。
【請求項20】
前記非水性電解質は、イオン液体を含む、請求項1記載の方法。
【請求項21】
前記非水性電解質は1−エチル−3−メチル−イミダゾリウムクロライドを含む、請求項20記載の方法。
【請求項22】
少なくとも、約50原子%のアルミニウムと、少なくともひとつの追加的元素とを含む合金であって、該合金は
a.約1GPaと約10GPaの間のビッカース微小硬度と、
b.約5%と約100%の間の延性と、
c.約2g/cm3と約3.5g/cm3の間の密度と、
を有する、物質組成物。
【請求項23】
少なくともひとつの追加的元素がマンガンを含む、請求項22記載の組成物。
【請求項24】
少なくとも約70原子%のアルミニウムを含む、請求項22記載の組成物。
【請求項25】
少なくとも部分的に非晶構造を含む、請求項22記載の組成物。
【請求項26】
約100nmより小さい特徴的な微細構造の長さスケールを含む、請求項22記載の組成物。
【請求項27】
前記少なくともひとつの追加元素は、La、Pt、Zr、Co、Ni、Fe、Cu、Ag、Mg、Mo、Ti、Mnから成る群から選ばれる、請求項22記載の組成物。
【請求項28】
前記ビッカース硬度が約3Gpaを超える、請求項22記載の組成物。
【請求項29】
前記ビッカース硬度が約4Gpaを超える、請求項22記載の組成物。
【請求項30】
前記ビッカース硬度が約5Gpaを超える、請求項22記載の組成物。
【請求項31】
前記延性が約20%を超える、請求項28記載の組成物。
【請求項32】
前記延性が約35%を超える、請求項31記載の組成物。
【請求項33】
前記延性が約20%を超える、請求項29記載の組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図6E】
【図6F】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図7D】
【図7E】
【図7F】
【図7G】
【図7H】
【図7I】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図6E】
【図6F】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図7D】
【図7E】
【図7F】
【図7G】
【図7H】
【図7I】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公表番号】特表2013−508541(P2013−508541A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−534225(P2012−534225)
【出願日】平成22年10月6日(2010.10.6)
【国際出願番号】PCT/US2010/051630
【国際公開番号】WO2011/046783
【国際公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(506365393)マサチューセッツ インスティテュート オブ テクノロジー (11)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月6日(2010.10.6)
【国際出願番号】PCT/US2010/051630
【国際公開番号】WO2011/046783
【国際公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(506365393)マサチューセッツ インスティテュート オブ テクノロジー (11)
【Fターム(参考)】
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