説明

電磁アクチュエータおよびそれを用いた電磁リレー

【課題】電磁リレーに搭載される電磁アクチュエータにおいて、非対称系構造の電磁アクチュエータは駆動方向に寄与しない吸引力が発生するため、駆動性能の低下が生じる。
【解決手段】磁性材からなり相対向する一対の接極片を有するヨーク51と、ヨークの一対の接極片間に配置されたボビン52に巻装され励磁電流通電時には所望の電磁力を発生する励磁コイル53と、ボビン内に貫挿された磁性材からなり励磁コイルに通電される電流極性により一対の接極片のどちらか一方に吸着する可動子55と、ヨークに磁界を与えると共に接極片に吸着した可動子を保持する永久磁石56と、永久磁石と可動子間の磁束経路を確保するための磁性体プレート57とを備え、磁性体プレートは可動子へ流入する磁束経路が複数経路となる形状とし、駆動性能の低下を引き起こす吸引力を削減するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は励磁コイルへの通電の断続により可動子の往復動を行う電磁アクチュエータおよびその電磁アクチュエータを用いた電磁リレーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の例えば電磁リレーなどに使用される電磁アクチュエータは、磁性材からなり相対向する一対の接極片を有するヨークと、磁性材からなり励磁コイルの通電による発生する磁界により駆動されて相対向する接極片に当接する可動子と、可動子に磁界を与える永久磁石とを備え、励磁コイルに流す電流極性により可動子を所要の接極片方向に動作させて可動子を永久磁石により吸引して保持させるように構成されている。(例えば特許文献1第1図参照)
【0003】
また同じような電磁アクチュエータとして、図11に示すように、磁性材からなり相対向する一対の接極片を有する第1のヨーク51と、第1のヨーク51の一対の接極片51a、51b間に配置されるボビン(図示省略)に巻装され励磁電流通電時には所望の電磁力を発生する励磁コイル53a、53bと、ボビン内に貫挿された磁性材からなり励磁コイルの磁界により駆動されて往復動され接極片に接触して吸着される可動子55と、第1のヨーク51とボビンとの間に配置され第1のヨーク51に磁束を発生させるとともに可動子55を吸引して保持する永久磁石56と、永久磁石56とともに磁気回路を構成する第2のヨーク57とを備え、接極片51a、51bの可動子55が接触される位置に形成され、永久磁石56により吸引される方向と直交する方向に長い孔からなる当接孔51a1を設けたものもある。(例えば特許文献2 第3図参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭61−30209号公報
【特許文献2】特開2010−93948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上下左右対称系の電磁アクチュエータであれば、電磁力の偏りは小さく駆動性能を脅かすことはない。しかし、非対称系で構成される電磁アクチュエータは、磁気回路を片側にしか配置しておらず、励磁コイルによる電磁力や永久磁石による保持力に対して可動子が側面方向(90°方向)に吸着されながら駆動することになる。
【0006】
例えば、図11(b)に示すように、可動子55が第1の接極片51aに当接している場合について説明すると、保持状態は永久磁石56が発生する磁束が可動子55、第1の接極片51aを通過するような図中磁束経路Aとなる。可動子55を保持するための磁力はZ方向に発生しているが、磁束経路Aによって可動子55には永久磁石56との間にY方向の吸着力が発生することになる。この場合、永久磁石56と可動子55間の磁束経路は1つしかなく、Y方向の吸着力が強くなって引き外し時の駆動性能悪化の主原因となる。さらにこの現象により可動子55にはZ方向の保持力とY方向の吸着力との合力により、角度θ方向の力Fで状態が保持されていることになり保持状態が不安定である。
【0007】
また、例えば接点間を開く動作(OFF動作)時に、励磁コイル53(OFF動作時は励磁コイル53b)に電圧を印加し、可動子55が駆動する際の動作過程においても前記Y方向の吸着力によって動作性能が悪化する。図11(b)は動作プロセスに併せて磁束
の変化を示した図である。保持状態において永久磁石56が発生する磁束Aがあり、OFF動作時に励磁コイル55bへ電圧を印加することで励磁コイル55bから磁束Bが発生し、磁束Aを消磁することで保持状態がキャンセルされる。保持状態がキャンセルされると可動子55がOFF動作方向へ動き始め、可動子55が動き出すことで励磁コイル53bが発生する磁束は磁束Cの経路へと切り替わり、磁束Cによって可動子55は電磁駆動力を供給され、もう一方の接極片へ到達する。
【0008】
磁束Cに切り替わることで可動子55にはOFF動作のための駆動力を供給されるが、従来構造だと磁束Cによって−Z方向への駆動力と同時にY方向に大きな吸着力が発生する。これによって可動子55は−Z方向の駆動力とY方向の吸着力との合力の影響を受けながら−Z方向へと動作する。この合力により可動子55はボビンに衝突しながら駆動することになり、想定以上の摩擦が可動子55へ発生することから駆動性能低下が生じることになる。
【0009】
この発明は、上記のような課題を解決するために、非対称系で構成される電磁アクチュエータでありながら、駆動性能を低下させる主要因となるY方向の側面吸着力を削減し、駆動性能を向上させた電磁アクチュエータおよびそれを用いた電磁リレーを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明の電磁アクチュエータは、磁性材からなり相対向する一対の接極片を有するヨークと、ヨークの一対の接極片間に配置されたボビンと、ボビンに巻装され励磁電流通電時には所望の電磁力を発生する励磁コイルと、ボビン内に貫挿された磁性材からなり励磁コイルに通電される電流極性により一対の接極片のどちらか一方に吸着する可動子と、ヨークに磁界を与えると共に接極片に吸着した可動子を保持する永久磁石と、永久磁石と可動子間の磁束経路を確保するための磁性体プレートとを備え、磁性体プレートは可動子へ流入する磁束経路が複数経路となる形状としたものである。
【発明の効果】
【0011】
この発明の電磁アクチュエータは、ヨークに磁界を与えると共に接極片に吸着した可動子を保持する永久磁石と可動子間の磁束経路を確保するための磁性体プレートの形状を、可動子へ流入する磁束経路が2つ以上に分流する複数経路となるようにしているから、可動子を永久磁石側に引張る側面吸着力を削減することができ、駆動性能を向上させる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明の実施の形態1、2に係わる電磁アクチュエータを内蔵した電磁リレーの内部構造を示す分解斜視図である。
【図2】この発明の実施の形態1、2に係わる電磁アクチュエータの外観図である。
【図3】この発明の実施の形態1、2に係わる電磁アクチュエータの構成部品図である。
【図4】この発明の実施の形態1に係わる電磁アクチュエータの主要構成を示す斜視図である。
【図5】この発明の実施の形態1に係わる電磁アクチュエータの第1のヨークを省略した側面図とその磁気回路を示す図である。
【図6】この発明の実施の形態1に係わる電磁アクチュエータの上面図とその磁気回路を示す図である。
【図7】この発明の効果を示す図である。
【図8】この発明におけるデメリットと最適化した場合の駆動力を示す図である。
【図9】この発明の実施の形態2に係わる電磁アクチュエータの主要構成を示す斜視図である。
【図10】この発明の実施の形態2に係わる電磁アクチュエータの第1のヨークを省略した側面図とその磁気回路を示す図である。
【図11】従来の電磁アクチュエータの構成部品図を示し、(a)は主要構成を示す斜視図、(b)は磁気回路を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施の形態1.
以下、この発明の実施の形態1における電磁アクチュエータを図1〜図8により説明する。
図1はこの発明の実施の形態1における電磁アクチュエータを内蔵した電磁リレーの内部構造を示す分解斜視図、図2は図1に示す電磁アクチュエータの外観斜視図、図3は図2に示す電磁アクチュエータの分解斜視図である。
【0014】
図1において、電磁リレー100は、電磁アクチュエータ50と、第1のケース11とこの第1のケース11に圧入される第2のケース12とカバー13で構成される筐体と、第1の固定接触子1とこの第1の固定接触子1と開閉回路を形成する第1の可動接触子2と、第2の固定接触子3とこの第2の固定接触子3と開閉回路を形成する第2の可動接触子4が電磁リレー100の外部端子として取り付けられて構成されている。なお、カバー13はカバーネジ5により取り付けられる。
【0015】
図2および図3を用いて電磁アクチュエータ50の構成について説明する。
第1のヨーク51は磁性材からなり相対向する一対の第1の接極片51aと第2の接極片51bを有してコ字状に形成されている。ボビン52は第1のヨーク51の一対の第1の接極片51aと第2の接極片51b間に配置されており、後述する可動子55が貫挿される可動子挿入孔52aが形成されている。
【0016】
励磁コイル53はボビン52に巻装され、制御信号ケーブル54による励磁電流通電時には所望の電磁力を発生するものであり、励磁コイル53は第1の制御信号ケーブル54aを通じて制御信号である励磁電流が通電される第1の励磁コイル53aと、第2の制御信号ケーブル54bを通じて制御信号である励磁電流が通電される第2の励磁コイル53bとで構成されている。これら第1の励磁コイル53aと第2の励磁コイル53bによりいわゆる電磁石が形成される。
【0017】
可動子55はボビン52に設けられた可動子挿入孔52a内に貫挿された磁性材からなり、励磁コイル53の磁界により駆動されてZ軸方向に摺動可能に形成され、第1の接極片51aまたは第2の接極片51bに接触して吸着される。また、可動子55の例えば第2の接極片51b側にはネジ穴55aが形成されている。
なお、可動子55は、励磁コイル53の励磁電流の方向に従って移動されるので、第1の励磁コイル53aによる励磁電流の方向の場合はZ軸正方向に移動し、第2の励磁コイル53bによる励磁電流の方向の場合はZ軸負方向に移動する。
【0018】
永久磁石56は第1のヨーク51とボビン52との間に配置され、第1のヨーク51に磁束を発生させるとともに可動子55を吸引して保持する。第2のヨークである磁性プレート57は永久磁石56とともに磁気回路を構成する。
第1のヨーク51の第1の接極片51aおよび第2の接極片51bの可動子55が接触される位置には、当接孔51a1、51b1が形成され、例えば第1の接極片51aに形成された当接孔51a1は永久磁石56により吸引される方向と直交する方向に長い孔からなり、図は一例として四角形の多角形状の長孔で構成されている。また、第2の接極片51bに形成された当接孔51b1は、図は一例として丸孔で構成されている。
なお、当接孔51a1は多角形状の長孔に代えて丸孔にしてもよい。要するにこれら当接孔51a1、51b1の形状は、この発明では本質な部分ではないので、これ以上の説明は省略する。
【0019】
クロスバー58およびロッド59は第1のヨーク51の第2の接極片51b側に配置されており、ロッド59の一方はクロスバー58に係合され、かつEリング固定溝59aが形成されている。ロッド59の他方は第1のヨーク51の第2の接極片51bの当接孔51b1を貫通して可動子55のネジ穴55aに螺合されるロッドネジ部59bが形成されている。
【0020】
接圧バネ60はロッド59とクロスバー58の間に配置され、可動子55が第1のヨーク51の第2の接極片51bに当接すると、第1の固定接触子1と第1の可動接触子2との接触圧力、第2の固定接触子3と第2の可動接触子4との接触圧力を発生させるものである。ロッド59に設けられたEリング固定溝59aに係合されるEリング61が設けられ、クロスバー58がロッド59から外れないようにする。
なお、第1の可動接触子2と第2の可動接触子4はクロスバー58に取り付けられ、可動子55の往復動に応じて可動し、第1の固定接触子1と第2の固定接触子3に接触または非接触し、電磁リレーを構成する。
【0021】
次に、図3に基づいて電磁アクチュエータ50の動作について説明する。第1の励磁コイル53aおよび第2の励磁コイル53bが巻装されたボビン52に設けられた可動子挿入孔52aにZ軸方向に往復動する可動子55が挿入される。可動子55が挿入されたボビン52は略コ字形に形成された第1のヨーク51の接極片51a、51b間に配置され、第1のヨーク51に磁束を発生させる永久磁石56と、永久磁石56と共に磁気回路を構成する磁性プレート57を介して、ボビン52と第1のヨーク51を係合させる。
【0022】
励磁コイル53からは可動子55を往復動させるために制御信号が入力可能なように制御信号ケーブル54が引出されている。ここで、可動子55は励磁コイル53から発生する電磁力によりZ軸方向に往復動する構造となっているが、励磁コイル53の励磁が解消された後も永久磁石56の発生する磁力により、第1のヨーク51の第1の接極片51aまたは第2の接極片51bに吸着されて保持されるようになっている。
【0023】
ボビン52に形成された可動子挿入孔52aは可動子55のスムーズな往復動を実現させるためにY軸方向に対してはクリアランスが設けられている。なお、可動子55は常に永久磁石56の発生する磁力によりX軸負方向に吸引されて引き付けられており、また、回転防止構造を備えているためZ軸を中心に回転することはない。
【0024】
可動子55はネジ穴55aが形成されており、クロスバー58と接圧バネ60を固定するロッド59に設けられたロッドネジ部59bを可動子55のネジ穴55aに螺合させることにより、可動子55とロッド59とは一体的に固着される。ロッド59とクロスバー58の間には接圧バネ60が配設されており、可動子55が第1のヨーク51の第2の接極片51bに当接すると、第1の固定接触子1と第1の可動接触子2との接触圧力、第2の固定接触子3と第2の可動接触子4との接触圧力を発生させる。クロスバー58はロッド59に設けられたEリング固定溝59bにEリング61を係合してロッド59から外れないようにしている。
【0025】
次に、この発明の実施の形態1における電磁アクチュエータの主要構成部分について図4〜図6に基づいて説明する。図4は電磁アクチュエータを構成するヨークと永久磁石と可動子を示す斜視図、図5は第1のヨークを省略した側面図とその磁気回路を示す図、図6は電磁アクチュエータの上面図とその磁気回路を示す図である。なお、図4〜図6にお
いては励磁コイル53を巻装するボビン52は省略して示している。
【0026】
図4〜図6において、第1のヨーク51は磁性材からなり相対向する一対の第1の接極片51aと第2の接極片51bを有してコ字状に形成されている。励磁コイル53(図6のみ図示)はボビン52(図示省略)に巻装され、励磁電流の通電時には所望の電磁力を発生するものであり、励磁コイル53はON動作方向に駆動するときに励磁電流が通電される第1の励磁コイル53aと、OFF動作方向に駆動するときに励磁電流が通電される第2の励磁コイル53bとで構成されている。これら第1の励磁コイル53aと第2の励磁コイル53bによりいわゆる電磁石が形成される。
【0027】
可動子55はボビン52に設けられた可動子挿入孔52a内に貫挿された磁性材からなり、励磁コイル53の磁界により駆動されてZ軸方向に摺動可能に形成され、第1の接極片51aまたは第2の接極片51bに接触して吸着される。
なお、可動子55は、励磁コイル53の励磁電流の方向に従って移動されるので、第1の励磁コイル53aによる励磁電流の方向の場合はZ軸正方向に移動し、第2の励磁コイル53bによる励磁電流の方向の場合はZ軸負方向に移動する。
【0028】
永久磁石56は第1のヨーク51と可動子55との間に配置され、第1のヨーク51に磁束を発生させるとともに可動子55を吸引して保持する。第2のヨークである磁性プレート57は永久磁石56と可動子55間の磁束経路を確保するために、永久磁石56と可動子55との間に配置され、永久磁石56から可動子55へ流入する磁束経路が図5に示すように少なくとも2つに分流した複数経路φ1、φ2となるようコ字状またはU字状に形状された磁極片57aを有している。
【0029】
また、永久磁石56から可動子55へ流入する磁束経路を複数経路にする場合、磁束経路は可動子55の軸に対して対称となるように偶数の経路にする必要がある。このように磁束経路を複数経路にすることにより、永久磁石56と可動子55間に発生する吸引力をキャンセルすることが可能となり、可動子55を永久磁石56側に引張るY方向の側面吸着力Fを低減することができる。
なお、複数の磁束経路を有する第2のヨークである磁性プレート57は、磁気効率の高い磁性材(例えば、電磁軟鉄SUYなど)の平板をY方向に積層して構成され、可動子55側の1枚を曲げ加工などを行うことにより2つの磁極片57aを有した形状にすることで実現できる。
【0030】
次に、永久磁石56から可動子55へ流入する磁束経路を複数経路にしたことによる、メリットおよびデメリットの発生原因とその対策について説明する。
図7は可動子55を第1の接極片51a側に保持した状態における永久磁石56と可動子55間に発生するY方向の吸着力の変動を示したグラフで、従来構造と本願発明とを対比して示している。図7のそれぞれの左側の棒グラフは投入保持力、右側の棒グラフはY方向の吸着力を示し、従来構造と本願発明は同じ投入保持力に対して、Y方向の吸着力は本願発明の方が従来構造に比較して80%減少している。
このように磁束経路を複数経路に分流することで、状態保持力は同等のままでY方向に発生する吸着力は約80%低減可能であり、これにより駆動性能を向上させることができる。
【0031】
次に、図8は磁束経路を複数経路にした場合、保持状態を引き外す能力が低下することと、その対策としてギャップGaを最適化することにより引き外す能力が増加することを示している。ここで、ギャップGaとは、図6に示す第1のヨーク51の第1の接極片51aおよび第2の接極片51bと磁性プレート57とのZ方向の隙間のことである。
図8(a)(b)(c)の横軸はギャップGaの距離を示し、図8(a)の縦軸は駆動
力、図8(b)(c)の縦軸はOFFおよびON時の保持力を示している。図中の最適化なしの場合は駆動力が小さく、最適化有りの場合は駆動力が大きくなっている。
【0032】
適化なしの場合に駆動力が小さくなる原因は、磁束経路を複数経路にすることで磁気経路上の磁気抵抗が減少されるためである。一般に磁気抵抗RはR=μ×L/Sで示されるように、磁束断面積に反比例している。
式中、Lは磁性プレート57と可動子55間の距離、Sは磁性プレート57と可動子55間の磁束断面積(磁束通過面積)、μは透磁率である。
磁束経路を複数経路にすることで磁束断面積Sは大きくなり、その結果、磁束経路の磁気抵抗Rは減少される。
【0033】
磁気抵抗Rが減少されると、図6に示す永久磁石56から磁性プレート57、可動子55へ流入して第1のヨーク51を通過する磁束Aと磁束Cの磁界強度が増加する。これにより保持状態を引き外すために、第2の励磁コイル53bに通電される励磁電流によって発生する磁束Bによる磁束Aの消磁率が減少する。
かつ、磁束Cの磁界強度が増加することから、第2の励磁コイル53bが発生する磁束Bに対して磁束Cの割合が増加してしまい、ますます引き外し能力が低下する懸念がある。
【0034】
この原因について図6に基づいて詳しく説明する。図6に示すように、第2の励磁コイル53bが発生する磁束B(磁気回路に関わらずアンペアターンのみに依存する)は、磁束Aと反対方向の磁気経路を通過する磁束B1と、磁束Cと同方向の磁気経路を通過する磁束B2の2つに分けられ、磁束BはB=B1+B2となる。ここで、磁束B1は可動子55の引き外しに必要な磁束で、磁束B2は引き外しに関係ない磁束ロス分となる。
磁束Cと同じ磁気経路を通過する磁束B2は、磁気抵抗Rの減少により磁界強度が増加することから、可動子55の引き外しに必要な磁束B1は減少し、引き外し能力が低下する。
【0035】
この課題について図6に示すギャップGaを最適化し、磁気回路を構成することで引き外し能力を確保しつつ、Y方向吸着力を低減できるような構成が可能となる。
即ち、引き外しに関係ない磁束ロス分B2を極力小さくすることで、可動子55の引き外しに必要な磁束B1を確保できる。そのためにはギャップGaの距離を大きく取ることで磁気抵抗Rが増加するため、引き外しに関係ない磁束ロス分B2を削減することができる。但し、ギャップGaの距離を大きく取りすぎると、可動子55の保持力に必要な磁束Aも減少してしまうことから、最適化が必要となってくる。
【0036】
ギャップGaの最適化について、図8に基づき詳しく説明する。まず、従来構造に対して、実現可能な構成であることを条件として保持力、駆動力共に同等になるような構成を狙う。図8ではギャップGaと駆動力および各状態の保持力の関係について、近似直線で評価している。
最適なx(=Ga)は以下の条件で決定される。
y2(=−0.6994x+14.196)>=OFF保持力
y3(=−0.3829x+34.496)>=ON保持力
を満たすxで、かつy1(=3.9849x−25.765)>=現行駆動力を満たすxを抽出する必要がある。
そして上記3式(y1、y2、y3)と上記の決定条件で最適なギャップGaを決定する。
【0037】
なお、磁性体プレート57と可動子55の接極片との当接部との距離(ギャップGa)を、可動子55の移動距離よりも大きくして磁束経路からみたリラクタンス(磁気抵抗)
を大きく設定でき、状態開始に必要な駆動磁束の漏れを防ぐことが可能になる。
また、第2のヨークである磁性プレート57と可動子55のY方向ギャップを広げ、X方向ギャップを狭くすることで、吸着力のさらなる低減が可能となるが、製品の許容寸法や組立誤差などを考慮することで最適化が可能となる。
即ち、磁性体プレート57と可動子55との間の磁気ギャップは、可動子55を永久磁石56側に吸引するY方向の磁気ギャップに対して、複数経路に分流した磁束経路上の磁気ギャップの方を小さくするようにする。
【0038】
実施の形態2.
次にこの発明の実施の形態2における電磁アクチュエータを図9、図10により説明する。
図9はこの発明の実施の形態1における電磁アクチュエータを構成するヨークと永久磁石と可動子を示す斜視図、図10は第1のヨークを省略し、図9の黒矢印方向から見た側面図とその磁気回路を示す図である。なお図中、実施の形態1を示す図4および図5と同じまたは相当する部分には同じ符号を付して、説明を省略する。
【0039】
実施の形態1では第2のヨークである磁性プレート57は、磁性材の平板をY方向に積層して構成し、可動子55側の1枚を曲げ加工などを行なうことにより実現していたが、実施の形態2の発明では図9、図10に示すように、第2のヨークである磁性プレート57は、コ字状またはU字状に形成された磁気効率の高い磁性材(例えば、電磁軟鉄SUYなど)をZ方向に積層して構成したものである。
この構成によっても永久磁石56から可動子55へ流入する磁束経路は図10に示すように少なくとも2つに分流した複数経路φ1、φ2となり、実施の形態1と同じ効果が得られる。
【0040】
以上のように実施の形態2の構成であれば、第2のヨークである磁性プレート57の加工も簡易的になり、コスト面で有利になる。
またこの構成であれば、第2のヨークである磁性プレート57に鎖交する磁束による渦電流損を低減することが可能となり、構造全体の磁気効率が向上する。
なお、実施の形態1および2では、第2のヨークである磁性プレート57の形状は、コ字状またはU字状に形状された2つの磁極片57aを有して、可動子へ流入する磁束経路が2つの経路となるようにしたが、磁極片57aを4つに形成して4つの経路となるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0041】
1:第1の固定接触子、 2:第1の可動接触子、
3:第2の固定接触子、 4:第2の可動接触子、
50:電磁アクチュエータ、 51:第1のヨーク、
51a:第1の接極片、 51b:第2の接極片、
52:ボビン、 53:励磁コイル、
53a:第1の励磁コイル、 53b:第2の励磁コイル、
55:可動子、 56:永久磁石、
57:磁性プレート(第2のヨーク) 57a:磁性プレートの磁極片。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性材からなり相対向する一対の接極片を有するヨークと、前記ヨークの一対の接極片間に配置されたボビンと、前記ボビンに巻装され励磁電流通電時には所望の電磁力を発生する励磁コイルと、前記ボビン内に貫挿された磁性材からなり前記励磁コイルに通電される電流極性により前記一対の接極片のどちらか一方に吸着する可動子と、前記ヨークに磁界を与えると共に前記接極片に吸着した前記可動子を保持する永久磁石と、前記永久磁石と前記可動子間の磁束経路を確保するための磁性体プレートとを備え、前記磁性体プレートは前記可動子へ流入する磁束経路が複数経路となる形状とした電磁アクチュエータ。
【請求項2】
前記磁性体プレートはコ字状またはU字状に形成され、前記可動子へ流入する磁束経路が前記可動子の軸に対して対称となるようにした請求項1に記載の電磁アクチュエータ。
【請求項3】
前記磁性体プレートは磁束に対して垂直方向に積層配置されて構成されたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電磁アクチュエータ。
【請求項4】
前記磁性体プレートと前記可動子との間の磁気ギャップは、前記可動子を永久磁石側に吸引する方向の磁気ギャップに対して、複数経路に分流した磁束経路上の磁気ギャップの方を小さくするようにした請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の電磁アクチュエータ。
【請求項5】
前記磁性体プレートと前記可動子の接極片との当接部との距離を、前記可動子の移動距離よりも大きくして磁束経路からみたリラクタンス(磁気抵抗)を大きく設定できるようにした請求項4に記載の電磁アクチュエータ。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の電磁アクチュエータと、前記電磁アクチュエータの可動子に連結された可動接触子と、この可動接触子に接触する固定接触子とを備えた電磁リレー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−257396(P2012−257396A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−129108(P2011−129108)
【出願日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】