説明

電磁ブレーキ式操作感触付与型回転入力装置

【課題】操作者に良好な操作感を与える、電磁ブレーキ式操作感触付与型回転入力装置を提供する。
【解決手段】電磁ブレーキ式操作感触付与型回転入力装置の制御部は、回転位置の変化に伴い目標値が増大方向及び減少方向のうち一方向に複数回に渡って変化するときに、各回における変化前の目標値を前回目標値とし、各回における変化後の目標値を現在目標値とすると、現在目標値に対応する電流をコイルに定常的に流すためにコイルに印加することが必要な必要印加電圧に比べて、コイルを流れる電流の変化率が大きくなるように設定される過剰電圧を、前回目標値と現在目標値の差に応じて設定される過剰電圧印加時間tnだけ、目標値が変化するたびにコイルに印加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁ブレーキ式の操作感触付与型回転入力装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、カーステレオシステム、カーナビゲーションシステム、カーエアコンシステム等の車載機器に適用される入力装置には、一軸の回りに回転させられる回転操作部を有する回転入力装置がある。操作者は、回転操作部を回転させることによって、車載機器に対する命令を選択することができる。そして、回転入力装置には、回転操作部を回転させたときに、操作者にクリック感を与えるクリック機構を有するものがある。
【0003】
最も単純なクリック機構は、ボール、スプリング、及び、周期的に設けられた凹凸部を有する回転部材によって構成することができる。回転部材は例えば回転操作部と一体に回転可能に設けられ、ボールが、回転部材の凹凸部に対し、付勢されながら当接する。このクリック機構では、回転部材の回転に伴い、ボールが凹凸部を乗り越えることで、回転操作部に機械的なクリック感が与えられる。
【0004】
他のクリック機構を採用した例として、特許文献1が開示する操作感触付与型回転入力装置では、制御部が、回転操作部の回転位置に応じて、電磁ブレーキの制動力を変化させることによって、操作者にクリック感が与えられる。
具体的には、特許文献1が開示する操作感触付与型回転入力装置では、目標のフォースカーブに一致するように摩擦板に摩擦力が作用させられる。そのために、制御部は、電磁ブレーキのコイルに印加する電圧を調整する。
【0005】
一方、特許文献2は、電磁クラッチ・ブレーキ用電源盤を開示しており、この電磁クラッチ用電源盤によれば、クラッチ及びブレーキの各々のコイルに対し、電圧の印加を開始及び終了するときに、過励磁電圧及び逆励磁電圧がそれぞれ印加される。過励磁電圧及び逆励磁電圧を印加することによって、クラッチ及びブレーキが迅速にオン及びオフされるものと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−128763号公報
【特許文献2】特開平10−281182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1が開示する操作感触付与型回転入力装置では、コイルへの印加電圧の変化に対し、電流の変化やコアの磁化等が遅れなければ、摩擦力がフォースカーブに一致する。しかしながら、実際には、印加電圧の変化に対し電流の変化やコアの磁化等は遅れるため、摩擦力は、目標のフォースカーブからずれてしまう。
【0008】
具体的には、摩擦力を増大させるべきときに、フォースカーブに摩擦力の増大が追い付かず、摩擦力を減少させるべきときに、フォースカーブに摩擦力の減少が追い付かない。
このような目標のフォースカーブからの現実の摩擦力のずれは、操作感触に影響を与えるため、小さいことが望ましい。
【0009】
一方、特許文献2には、クラッチ及びブレーキをオン及びオフすることが記載されているものの、摩擦力を連続的若しくは段階的に変化させることは記載されていない。
本発明は上記した事情に鑑みてなされ、その目的とするところは、操作者に良好な操作感を与える、電磁ブレーキ式操作感触付与型回転入力装置及び該回転入力装置を備える車載機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、本発明は以下の解決手段を採用する。
【0011】
解決手段1:本発明の一態様によれば、回転操作部と、前記回転操作部の回転位置を検出する回転位置検出器と、前記回転操作部とともに回転する回転駆動体と、コイル及びコアを含み、前記コイルを流れる電流に応じて発生する制動力を前記駆動体に与える電磁ブレーキと、前記回転操作部の回転位置に応じて設定される、前記コイルを流れる電流と相関を有する量の目標値に基づいて、前記コイルに印加される電圧を調整する制御部とを備え、前記制御部は、前記回転位置の変化に伴い前記目標値が増大方向及び減少方向のうち一方向に複数回に渡って変化するときに、各回における変化前の目標値を前回目標値とし、各回における変化後の目標値を現在目標値とすると、前記現在目標値に対応する電流を前記コイルに定常的に流すために前記コイルに印加することが必要な必要印加電圧に比べて、前記コイルを流れる電流の変化率が大きくなるように設定される過剰電圧を、前記前回目標値及び前記現在目標値に応じて設定される過剰電圧印加時間だけ、前記目標値が変化するたびに前記コイルに印加することを特徴とする電磁ブレーキ式操作感触付与入力装置が提供される。
【0012】
第1の解決手段の電磁ブレーキ式操作感触付与型回転入力装置によれば、目標値が変化するたびに、前回目標値、現在目標値及び過剰電圧に基づいて設定される過剰電圧印加時間だけ、過剰電圧が印加される。
過剰電圧を印加することによって、コイルを流れる電流が速く変化するとともにコアが迅速に磁化される。この結果として、この電磁ブレーキ式操作感触付与型回転入力装置によれば、回転操作部の回転位置に応じて所望の制動力が的確に発生させられ、操作者に良好な操作感が与えられる。
【0013】
解決手段2:好ましくは、前記制御部は、前記回転位置の変化に伴い前記目標値が増大方向に変化するときに、前記過剰電圧として、前記必要印加電圧よりも高い過励磁電圧を前記コイルに印加する。
【0014】
第2の解決手段の電磁ブレーキ式操作感触付与型回転入力装置では、目標値が増大するときに、目標値に対応する必要印加電圧よりも高い過剰電圧をコイルに印加することによって、コイルを流れる電流が速く増大する。これにより、コイルを流れる電流が速く変化するとともにコアが迅速に磁化され、操作者に良好な操作感が与えられる。
【0015】
解決手段3:好ましくは、前記過励磁電圧が印加される前記過剰電圧印加時間は、前記前回目標値と前記現在目標値との差が大きければ長く、前記差が小さければ短く設定される。
【0016】
第3の解決手段の電磁ブレーキ式操作感触付与型回転入力装置では、回転操作部の回転位置に応じて所望の制動力が的確に発生させられる。
【0017】
解決手段4:好ましくは、前記制御部は、前記回転位置の変化に伴い前記目標値が減少方向に変化するときに、前記過剰電圧として、前記必要印加電圧とは極性が異なる逆励磁電圧を前記コイルに印加する。
【0018】
第4の解決手段の電磁ブレーキ式操作感触付与型回転入力装置では、目標値が減少するときに、必要印加電圧とは極性が異なる過剰電圧をコイルに印加することによって、コイルを流れる電流が速く減少する。これにより、コイルを流れる電流が速く変化するとともにコアの磁力が迅速に変化し、操作者に良好な操作感が与えられる。
【0019】
解決手段5:好ましくは、前記逆励磁電圧が印加される過剰電圧印加時間は、前記前回目標値と前記現在目標値の差が大きければ長く、前記差が小さければ短く設定される。
【0020】
第5の解決手段の電磁ブレーキ式操作感触付与型回転入力装置では、回転操作部の回転位置に応じて所望の制動力が的確に発生させられる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、良好な操作感を有する、電磁ブレーキ式操作感触付与型回転入力装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態の電磁ブレーキ式操作感触付与型回転入力装置を概略的に示す断面図である。
【図2】図1の電磁ブレーキ式操作感触付与型回転入力装置における回路構成を説明するための概略的なブロック図である。
【図3】図1の電磁ブレーキ式操作感触付与型回転入力装置における、操作ノブの回転位置と、吸引力の目標値との関係を概略的に示すグラフである。
【図4】図2中の第1マップデータの内容を示す表である。
【図5】図2中の第2マップデータの内容を示す表である。
【図6】図1の電磁ブレーキ式操作感触付与型回転入力装置における、(A)コイルを流れる電流の目標値、(B)コイルに印加される電圧、及び、(C)吸引力のそれぞれの経時変化を示す概略的なタイムチャートである。
【図7】図1の電磁ブレーキ式操作感触付与型回転入力装置における、(A)コイルを流れる電流の目標値、(B)コイルに印加される電圧、及び、(C)吸引力のそれぞれの経時変化を示す概略的なタイムチャートである。
【図8】比較例の電磁ブレーキ式操作感触付与型回転入力装置における、吸引力の目標、その実際、及び、コイルに印加される電圧のそれぞれの経時変化を示す概略的なタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、一実施形態の電磁ブレーキ式操作感触付与型回転入力装置10の概略的な縦断面図である。電磁ブレーキ式操作感触付与型回転入力装置10は、例えば、カーエアコンシステムの入力装置として使用され、車室内のインストルメントパネルやセンターコンソールに設置される。
なお、以下では、電磁ブレーキ式操作感触付与型回転入力装置10のことを単に回転入力装置10ともいう。
【0024】
〔回転操作部〕
回転入力装置10は、例えば、箱形状又は円筒形状のハウジング12を有し、ハウジング12の外部に、回転操作部として、例えば円柱形状の操作ノブ14を有する。操作ノブ14は、ハウジング12によって回転自在に支持された回転軸16の先端に一体に回転可能に固定されている。カーエアコンシステムを操作しようとする者は、回転軸16の軸線を中心として操作ノブ14を回転させることによって、カーエアコンシステムの種々の設定を変更することができる。
【0025】
本実施形態では、好ましい態様として、回転軸16は、駆動軸部18、従動軸部20、及び、駆動軸部18と従動軸部20とを弾性をもって連結する連結部22からなり、駆動軸部18の先端に操作ノブ14が固定されている。
連結部22は、例えばゴムからなり、操作ノブ14を回転させた場合、従動軸部20が自由状態のときには、駆動軸部18及び従動軸部20は略一体に回転し、従動軸部20に負荷が掛かっている状態では、連結部22が捻れることにより、駆動軸部18の回転が従動軸部20の回転に先行する。
【0026】
操作者が操作ノブ14を離せば、連結部22の捻れが解消され、駆動軸部18の回転位置(回転角度)は従動軸部20の回転位置に一致する。
つまり、駆動軸部18の回転位置は、従動軸部20の回転位置と異なることがある。そこで本実施形態において、操作ノブ14及び回転軸16の回転位置θとは、特に断らない限り、駆動軸部18の回転位置をさすものとする。
【0027】
〔回転駆動体及び電磁ブレーキ〕
回転軸16の従動軸部20は、略円筒形状のソレノイドユニット(電磁ブレーキ)24を相対回転可能にて貫通している。ソレノイドユニット24は、鉄等の磁性材料からなる、例えば2重の円筒形状のコア26を有し、コア26の内部には、管状に巻回された電線からなる円筒状のコイル(ソレノイド)28が同軸にて収容されている。
【0028】
コア26は、ブラケット30を介してハウジング12によって回転不能に支持され、従動軸部20の外周面とコア26の内周面との間には、例えば樹脂製のすべり軸受32が設置されている。従って、従動軸部20は、すべり軸受32を介して、コア26及びハウジング12によって相対回転可能に支持されている。
【0029】
コア26の一方の端面は、アーマチュアロータ34と対向している。アーマチュアロータ34は鉄等の磁性材料からなり、円盤形状の本体部36を有する。本体部36の中央には中央孔38が形成され、従動軸部20は、遊びをもって中央孔38を貫通している。なお、従動軸部20の外周面と中央孔38の内周面との間には、従動軸部20に沿うアーマチュアロータ34の移動を許容するすべり軸受が設けられていてもよい。
【0030】
アーマチュアロータ34は、従動軸部20と一体に回転可能であるとともに、従動軸部20の軸線方向に移動可能に設けられており、本体部36はコア26の一方の端面に当接可能である。
そのために、アーマチュアロータ34は、例えば2つのロッド部40を有する。ロッド部40は、コア26とは反対側の本体部36の面から軸線方向に突出し、本体部36の直径方向にて相互に離間している。そして、本体部36からみてコア26とは反対側には、円盤形状の支持ディスク42が配置され、ロッド部40は、支持ディスク42に形成された挿通孔44に滑動自在に挿通されている。
【0031】
支持ディスク42は、従動軸部20に同軸且つ一体に回転可能に取り付けられ、アーマチュアロータ34は、支持ディスク42を介して、従動軸部20と一体に回転可能である。そして、支持ディスク42とコア26との間隔は、アーマチュアロータ34が従動軸部20の軸線方向に移動可能なように設定されている。従って、ロッド部40が挿通孔44内を滑動することによって、アーマチュアロータ34は、従動軸部20の軸線方向にて移動可能であり、コア26の端面に当接可能である。
【0032】
コイル28に電流を流すと、コイル28は磁力を発生させ、アーマチュアロータ34は、コア26の端面に引き寄せられて、磁力に応じた接触圧にて当接する。アーマチュアロータ34がコア26に当接した状態で、従動軸部20が回転すると、接触圧に応じた摩擦力が、アーマチュアロータ34及び従動軸部20に制動力として作用する。
【0033】
〔回転位置の検出手段〕
回転軸16の駆動軸部18には、操作ノブ14の回転位置θを検出するための被検出体として、コード板46が同軸にて且つ一体に回転可能に取り付けられている。コード板46は、薄い円盤形状の外形を有し、コード板46の外周部には、周方向に一定の間隔で、それぞれ径方向に延びる複数のスリットが形成されている。
【0034】
コード板46の外周部近傍には、2つのフォトインタラプタ検出器48がコード板46の周方向に相互に離間して配置されている。なお、図1では、1つのフォトインタラプタ検出器48のみが示されている。
各フォトインタラプタ検出器48は、1組の発光素子50及び受光素子52を有し、発光素子50及び受光素子52は、コード板46の外周部を厚さ方向にて挟むように配置されている。
【0035】
各受光素子52は、コード板46の回転に伴い、発光素子50が出射した光をスリットを通じて間欠的に受光し、受光した光の強度に対応する回転角度信号(エンコーダパルス)を出力する。このとき、2つの受光素子52から出力される回転角度信号同士の間に位相差が生じるように、2つのフォトインタラプタ検出器48は相互に離間している。
なお、2つのフォトインタラプタ検出器48に代えて、同じ機能を有するパルスエンコーダを用いることもできる。
【0036】
〔制御部〕
また、回転入力装置10は、例えばMCU(マイクロコンピュータユニット)を用いて構成される制御部54を有し、MCUは、CPU(中央演算処理装置)やメモリ(記憶装置)等によって構成される。
図2に示したように、制御部54には、フォトインタラプタ検出器48,48、及び、コイル28を含む電気回路に電圧を印加するための電源部56が電気的に接続されている。そして、制御部54には、カーエアコンのメインコントローラ58も電気的に接続されている。
【0037】
制御部54は、フォトインタラプタ検出器48,48の出力に基づいて、操作ノブ14の回転位置θを演算により求める。そして、制御部54は、演算された回転位置θに応じて、電源部56がコイル28を含む電気回路、例えばLR回路に印加する出力電圧を調整する。なお以下では、コイル28を含む電気回路に印加される電圧のことを、単に、コイル28に印加される電圧ともいう。
【0038】
具体的には、制御部54は、操作ノブ14の回転位置θに応じて設定される目標値に対応する電流が流れるように、コイル28に印加する電圧を調整する。
目標値として採用される量は、コイル28を流れる電流と相関を有する量であればよく、本実施形態では、コア26がアーマチュアロータ34を吸引する力(吸引力F)が目標値として採用される。吸引力Fの目標値は、例えば図3のフォースカーブに示されるように、回転位置θの変化に伴い周期的に適当な変化率にて増減するように設定される。
【0039】
吸引力Fは、コイル電流に略比例して変化する。具体的には、図3のフォースカーブの場合、所定の回転位置(極小位置)θmin0,θmin1,θmin2,θmin3,θmin4にてコイル電流が極小値になるのに合わせて、吸引力Fは極小値になり、所定の回転位置(極大位置)θmax0,θmax1,θmax2,θmax3,θmax4にてコイル電流が極大値になるのに合わせて、吸引力Fは極大値になる。
【0040】
そして、吸引力Fは、操作ノブ14の回転位置θが例えば極小位置θmin1から極大位置θmax1に向けて変化するとき、所定の傾きにて増大し、極大位置θmax1から隣の極小位置θmin2に向けて変化するとき、所定の傾きにて減少する。
図3のフォースカーブによれば、操作者には、操作ノブ14を回転させたときに、極小位置θmin0,θmin1,θmin2,θmin3,θmin4に引き込まれるような操作感、いわゆるクリック感が吸引力Fによって与えられる。
【0041】
再び図2を参照すると、制御部54は、図3のフォースカーブに示される吸引力Fを発生させるためのコイル電流をコイル28に流すために、メモリに読み出し可能に予め格納された、目標値データ60、第1マップデータ62及び第2マップデータ64を有する。
【0042】
目標値データ60では、操作ノブ14の回転位置θ毎に、図3のフォースカーブに示される吸引力Fを発生させるためにコイル28に流す必要があるコイル電流の目標値、及び、目標値にてコイル電流を定常的に流すためにコイル28に印加することが必要な電圧(必要印加電圧)が規定されている。
なお、必要印加電圧は、充分な時間コイル28に印加したときに、コイル電流が目標値にて飽和する電圧である。
【0043】
〔第1マップデータ及び第2マップデータ〕
第1マップデータ62は、コイル電流の目標値が増大方向に変化するときに参照され、第2マップデータ64は、コイル電流の目標値が減少方向に変化するときに参照される。
【0044】
図4及び図5は、第1マップデータ62及び第2マップデータ64の内容をそれぞれ例示する表である。第1マップデータ62及び第2マップデータ64では、現在のコイル電流の目標値Inと、前回のコイル電流の目標値In−1と、過剰電圧印加時間tnとの関係が規定されている。
なお、図4及び図5中の現在及び前回の目標値In,In−1の単位はA(アンペア)であり、過剰電圧印加時間tnの単位はms(ミリ秒)である。
【0045】
過剰電圧印加時間tnは、回転位置θの変化に伴い目標値を変化させる時点を始期として、コイル28に過剰電圧が印加される時間の長さである。過剰電圧印加時間tnは、現在のコイル電流の目標値In、前回のコイル電流の目標値In−1、及び、過剰電圧に基づいて設定される。
【0046】
過剰電圧は、コイル電流の目標値が増大方向に変化するとき(In>In−1)、即ち、第1マップデータ62が参照されるときには、現在の目標値Inに対応する必要印加電圧よりも充分に高い電圧(過励磁電圧Eov)である。
この場合の電圧が高いとは、電圧の極性が同じであって、電圧の絶対値が大きいことをいう。
【0047】
一方、過剰電圧は、コイル電流の目標値が減少方向に変化するとき(In<In−1)、即ち、第2マップデータ64が参照されるときには、必要印加電圧よりも充分に低い電圧(逆励磁電圧Ere)である。なおこの場合の電圧が低いとは、電圧の極性が逆である場合も含む。
【0048】
過励磁電圧Eov及び逆励磁電圧Ereは、本実施形態では毎回一定であるが、これに限られるものではない。
そして、本実施形態では、好ましい態様として、過剰電圧印加時間tnは、現在のコイル電流の目標値Inと前回のコイル電流の目標値In−1の差に基づいて設定される。つまり、好ましい態様では、過励磁電圧Eov及び逆励磁電圧Ereは、過剰電圧印加時間と目標値の差が比例するようにそれぞれ設定される。
【0049】
以下、上述した回転入力装置10の動作について説明する。
車の乗員が、操作ノブ14を回転させた場合、制御部54は、操作ノブ14の回転位置θに応じた命令を、カーエアコンメインコントローラ58に入力する。これにより、乗員の希望に応じてカーエアコンが作動する。
【0050】
一方、制御部54は、乗員が操作ノブ14を回転させるときに命令を選択し易いよう、適当な制動力を発生させる。例えば、制御部54は、図3のフォースカーブに示される吸引力Fを発生させるようにコイル28に電流を流し、制動力を発生させる。この場合、極小位置θmin0,θmin1,θmin2,θmin3,θmin4のうち何れかに操作ノブ14の回転位置θを合わせると、例えば、エアコンの風量が所定の値に設定される。
【0051】
より詳しくは、制御部54は、フォトインタラプタ検出器48の出力に基づいて、操作ノブ14の回転位置θの変化を検出する。制御部54は、操作ノブ14の回転位置θの変化を検出すると、目標値データ60に基づいて、変化後(現在)のコイル電流の目標値In、変化前(前回)のコイル電流の目標値In−1、及び、変化後の目標値Inに対応する必要印加電圧を読み込む。
【0052】
そして、制御部54は、変化後の目標値Inが変化前の目標値In−1よりも増大している場合には、第1マップデータ62を参照して過剰電圧印加時間tnを読み込む。なお、本実施形態では、変化後の目標値Inと変化前の目標値In−1の差から、過剰電圧印加時間tnを読み込むことができる。
一方、制御部54は、変化後の目標値Inが変化前の目標値In−1よりも減少している場合には、第2マップデータ64を参照して過剰電圧印加時間tnを読み込む。なおこの場合も、本実施形態では、変化後の目標値Inと変化前の目標値In−1の差から、過剰電圧印加時間tnを読み込むことができる。
【0053】
その上で、制御部54は、電源部56を介してコイル28に、回転位置θの変化を検出して目標値を変化させる時点を始期として過剰電圧印加時間tnだけ過剰電圧を印加し、過剰電圧印加時間tnの経過後に、変化後の目標値Inに対応する必要印加電圧を印加する。
なお、過剰電圧は、変化後の目標値Inが変化前の目標値In−1よりも増大している場合には過励磁電圧Eovであり、変化後の目標値Inが変化前の目標値In−1よりも減少している場合には逆励磁電圧Ereである。
【0054】
図6(A),(B),(C)は、コイル電流の目標値が増大する方向にて回転位置θが極小位置θminから隣の極大位置θmaxまで変化したときの、コイル電流の目標値、コイル28に印加された電圧、及び、吸引力Fのそれぞれの経時変化を概略的に示している。
図6に示したように、コイル電流の目標値が変化するたびに、過励磁電圧Eovが、過剰電圧印加時間t1,t2,t3,t4,t5,t6,t7だけ印加され、その後、必要印加電圧が印加されている。
【0055】
図7(A),(B),(C)は、コイル電流の目標値が減少する方向にて、回転位置θが極大位置θmaxから隣の極小位置θminまで変化したときの、コイル電流の目標値、コイル28に印加された電圧、及び、吸引力Fのそれぞれの経時変化を概略的に示している。
図7に示したように、コイル電流の目標値が変化するたびに、逆励磁電圧Ereが、過剰電圧印加時間t1,t2,t3だけ印加され、その後、必要印加電圧が印加されている。
【0056】
一方、図8は、比較例として、コイル電流の目標値が増大する方向にて、回転位置θが極小位置θminから隣の極大位置θmaxまで変化した場合に、過剰電圧を印加せずに、必要印加電圧を単にコイル28に印加したときの、吸引力Fの目標、その実際及び、コイル28に印加された電圧のそれぞれの経時変化を概略的に示している。
【0057】
上述した一実施形態の回転入力装置10によれば、コイル電流の目標値が変化するたびに、現在の目標値In、前回の目標値In−1及び過剰電圧に基づいて設定される過剰電圧印加時間tnだけ、過剰電圧が印加される。
図6と図8を比較すると明らかなように、過剰電圧を印加することによって、コイル電流が速く変化するとともにコア26が迅速に磁化される。この結果として、この回転入力装置10によれば、操作ノブ14の回転位置θに応じて所望の制動力が的確に発生させられ、操作者に良好な操作感が与えられる。
【0058】
具体的には、回転入力装置10では、コイル電流の目標値が増大するときに、過剰電圧として、変化後の目標値Inに対応する必要印加電圧よりも高い過励磁電圧Eovをコイル28に印加することによって、コイル電流が速く増大するとともにコア26が迅速に磁化される。これにより、操作者に良好な操作感が与えられる。
【0059】
また、回転入力装置10では、コイル電流の目標値が減少するときに、過剰電圧として、変化後の目標値Inに対応する必要印加電圧とは極性が異なる逆励磁電圧をコイル28に印加することによって、コイル電流が速く減少するとともにコア26の磁力が迅速に小さくなる。これにより、吸引力Fが迅速に目標に近くなり、操作者に良好な操作感が与えられる。
【0060】
また、回転入力装置10では、過励磁電圧Eov及び逆励磁電圧Ereがそれぞれ毎回一定であり、且つ、コイル電流の差と過剰電圧印加時間が比例するように設定されている。このようにシンプルにしてもよいが、それに限られるものではない。
【0061】
そして、上述した回転入力装置10を備えるカーエアコンシステムによれば、乗員は、操作ノブ14の操作感触によって、カーエアコンシステムに対して命令を的確、迅速且つ容易に入力することができる。
【0062】
本発明は上述した一実施形態に限定されることはなく、種々の変更を加えた実施形態も含む。
上述した一実施形態では、図4及び図5に示されるように、現在のコイル電流の目標値Inと前回のコイル電流の目標値In−1の組に対応して、過剰電圧印加時間tnが規定されていたが、コイル電流の目標値の差に限らず、印加電圧の目標値の差等に応じて、過剰電圧印加時間tnを規定するようにしてもよい。
【0063】
上述した一実施形態では、図6によれば、回転位置θの検出間隔Tsが6msであり、6ms毎に目標値を変化させていたが、検出間隔Tsは適宜変更可能であり、例えば1msに設定してもよい。そして、検出間隔Tsに応じて、過剰電圧や過剰電圧印加時間tnを変更してもよい。目標値を変化させる間隔が短いほど、操作者に対し、より滑らかな操作感触が与えられる。
【0064】
その他、図示とともに示した各種部材の形状や配置、更に制御処理は、いずれも好ましい例であり、本発明の実施に際してこれらを適宜変更可能であることはいうまでもない。
【0065】
最後に、本発明はカーエアコンシステムのための入力装置に好適であるが、これ以外の機器、例えば、カーオーディオシステムやカーナビゲーションシステム等の車載機器、及び、他の電子機器にも好適であることは勿論である。
【符号の説明】
【0066】
10 電磁ブレーキ式操作感触付与型回転入力装置
14 操作ノブ(回転操作部)
24 ソレノイドユニット(電磁ブレーキ)
26 コア(電磁ブレーキ)
28 コイル(電磁ブレーキ)
34 アーマチュアロータ(回転駆動体)
42 支持ディスク(回転駆動体)
48 フォトインタラプタ検出器(回転位置検出器)
54 制御部
tn 過剰電圧印加時間
Eov 過励磁電圧(過剰電圧)
Ere 逆励磁電圧(過剰電圧)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転操作部と、
前記回転操作部の回転位置を検出する回転位置検出器と、
前記回転操作部とともに回転する回転駆動体と、
コイル及びコアを含み、前記コイルを流れる電流に応じて発生する制動力を前記駆動体に与える電磁ブレーキと、
前記回転操作部の回転位置に応じて設定される、前記コイルを流れる電流と相関を有する量の目標値に基づいて、前記コイルに印加される電圧を調整する制御部とを備え、
前記制御部は、
前記回転位置の変化に伴い前記目標値が増大方向及び減少方向のうち一方向に複数回に渡って変化するときに、
各回における変化前の目標値を前回目標値とし、
各回における変化後の目標値を現在目標値とすると、
前記現在目標値に対応する電流を前記コイルに定常的に流すために前記コイルに印加することが必要な必要印加電圧に比べて、前記コイルを流れる電流の変化率が大きくなるように設定される過剰電圧を、前記前回目標値及び前記現在目標値に応じて設定される過剰電圧印加時間だけ、前記目標値が変化するたびに前記コイルに印加する
ことを特徴とする電磁ブレーキ式操作感触付与型回転入力装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記回転位置の変化に伴い前記目標値が増大方向に変化するときに、前記過剰電圧として、前記必要印加電圧よりも高い過励磁電圧を前記コイルに印加する
ことを特徴とする請求項1に記載の電磁ブレーキ式操作感触付与型回転入力装置。
【請求項3】
前記過励磁電圧が印加される前記過剰電圧印加時間は、前記前回目標値と前記現在目標値との差が大きければ長く、前記差が小さければ短く設定される
ことを特徴とする請求項2に記載の電磁ブレーキ式操作感触付与型回転入力装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記回転位置の変化に伴い前記目標値が減少方向に変化するときに、前記過剰電圧として、前記必要印加電圧とは極性が異なる逆励磁電圧を前記コイルに印加する
ことを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の電磁ブレーキ式操作感触付与型回転入力装置。
【請求項5】
前記逆励磁電圧が印加される過剰電圧印加時間は、前記前回目標値と前記現在目標値の差が大きければ長く、前記差が小さければ短く設定される
ことを特徴とする請求項4に記載の電磁ブレーキ式操作感触付与型回転入力装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−43321(P2012−43321A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−185795(P2010−185795)
【出願日】平成22年8月23日(2010.8.23)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】