説明

電磁ポンプ及び此れを用いた電磁ポンプシステム

【課題】土砂や汚泥が詰まった場合でも、此れを容易に取り除く事ができ、また採取地点ごとに、ポンプで流動体を汲み上げる際に、当該流動体が接触する領域の大部分を簡易に交換したり、或いは簡易に清掃する事のできる電磁ポンプを提供する。
【解決手段】 中空筒状に形成された筒状部材と、当該筒状部材の周方向に巻き回されて電磁石として機能するコイル部材と、当該筒状部材の中空部を軸方向に摺動自在に内装された磁性を有するピストン部材とからなり、前記筒状部材の軸方向端部の少なくとも何れか一方には第一逆止弁が設けられており、前記ピストン部材は摺動方向に沿う向きに貫通する貫通孔と、当該貫通孔に設けられる第二逆止弁を具備することを特徴とする、電磁ポンプとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁ポンプ及び此れを用いた電磁ポンプシステムに関し、特にポンプを構成する部品の交換乃至は洗浄を簡易に行う事のできる電磁ポンプ及び此れを用いた電磁ポンプシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
土壌汚染調査や地下水環境調査を行う場合には、調査対象となる土壌や地下水を取得する為に、土壌を掘削し、土壌中の水(地下水など)を汲み取る事が行われている。また、河川や湖沼等の水質検査を行う場合にも、水面付近の水のみならず、深層域の水を取得する事も行われている。
【0003】
そして、このような地下水や深層域の水を取得する為に、従前において様々なポンプが利用されている。そのようなポンプの1つとして、ピストンの往復運動により流体をシリンダ内に取り込んで押し出すようにした往復形ポンプが知られている。この種の往復形ポンプは、駆動シャフトの回転運動をクランク機構により水平方向の往復運動に変換し、前記クランク機構に連結されたピストンロッドによりシリンダ内のピストンを往復動させるよう構成されている。
【0004】
また、磁力を利用してシリンダ内のピストンを往復運動させるように構成したポンプも提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1(特開2004−183638号公報)では、シリンダー、シリンダーキャップ、逆流防止手段を有する吸入口、逆流防止手段を有する吐出口、振動子、シリンダーの両端に装着された電磁石を備え、両端の電磁石に同一方向の交流電流を印加することにより、振動子が高速で往復運動を開始して、振動子の中空部にある非磁性球体の加速度方向も交互に反転し、振動子が吸入口に向かう時には、ピン状ストッパー側に移動して、流体をロート口より吐出口側に導引し、振動子が吐出口に向かう時には非磁性球体がロート口を塞ぐことにより流体に吐出圧力をかけ、ライナーに設けられた複数の溝によって、あえて完全なシールをおこなわず、一往復あたりの吐出効率よりも、高速な連続吐出を重視して、吐出圧力の平準化を図った電磁振動ポンプが提案されている。
【0006】
更に、特許文献2(特開平9−151841号公報)では、非磁性材質から成るシリンダの両端部に、一対の電磁石を絶縁材により絶縁された状態で保持させ、両電磁石間には流体給排室を形成し、この流体給排室内には、磁性材質から成るピストンを摺動自在に内嵌し、各電磁石に対しては、所定時間毎に交互に給電し得るよう給電装置を接続し、流体給排室内における各電磁石に近接したストロークエンド部には、入口逆止弁を介し流体を導入し得るよう流体導入管を接続すると共に、出口逆止弁を介して流体を排出し得るよう流体排出管を接続した電磁ポンプが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−183638号公報
【特許文献2】特開平9−151841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の通り、地下水または湖沼や河川の深層域の水、或いはその他の流動体を汲み取る為に様々なポンプが使用されており、また水を汲み上げる為のポンプとして、磁力を利用した電磁ポンプも提案されていた。
【0009】
しかしながら、水質検査や地質検査を目的として地下水や深層域の水を汲み取る場合には、水中に土砂や汚泥などが混ざり込む事があった。そして土砂や汚泥が入り込んだ水をポンプで汲み上げた場合には、流路や稼動部分に当該土砂や汚泥が入り込み、当該ポンプが動作しないこともあった。更に土砂や汚泥が詰まった場合には、分解清掃などを行って詰まった土砂や汚泥を取り除かなければならず、その作業に多大な労力を要していた。
【0010】
よって本発明は、土砂や汚泥が詰まった場合でも、容易に此れを取り除く事のできる電磁ポンプを提供する事を第一の課題とする。
【0011】
また、地下水、深層域の水、或いは工業用液状油脂類などの液体や、し尿、汚泥、その他の流動体を汲み上げて、これを検査する場合には、検査結果の正確性を考慮すれば、各測定地点ごとに異なるポンプを使用し、検査対象となる場所の流動体に、他の場所で採取した流動体が混入する事が無いようにする事が望ましい。
【0012】
そこで本発明では、各採取地点においてポンプで流動体を汲み上げる際に、当該流動体が接触する領域の大部分を簡易に交換したり、或いは簡易に清掃する事のできる電磁ポンプを提供する事を第二の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題の少なくともいずれかを解決する為に、本発明では電磁ポンプであって、実際に水や、その他の流動体に接触する部分の大部分を、簡易に交換および洗浄することのできる電磁ポンプを提供する。
【0014】
即ち本発明では、中空筒状に形成された筒状部材と、当該筒状部材の周方向に巻き回されて電磁石として機能するコイル部材と、当該筒状部材の中空部を軸方向に摺動自在に内装された磁性を有するピストン部材とからなり、前記筒状部材の軸方向端部の少なくとも何れか一方には第一逆止弁が設けられており、前記ピストン部材は摺動方向に沿う向きに貫通する貫通孔と、当該貫通孔に設けられる第二逆止弁を具備する電磁ポンプを提供する。
【0015】
係る電磁ポンプでは、前記ピストン部材は磁性を帯びており、一方でコイル部材は電磁石として機能することから、当該ピストン部材は電磁石によって筒状部材内を摺動し、前記第一および第二逆止弁により水などの流動体をくみ上げることができる。そして前記コイル部材を筒状部材に巻いて両者を一体化すれば、コイル部材が巻かれた筒状部材と、ピストン部材とに分解することができることから、当該電磁ポンプを簡易に分解し、また組み立てる事ができる。よって、土砂や汚泥が詰まった場合でも、容易に此れを取り除く事のできる電磁ポンプ、および当該流動体が接触する領域の大部分を簡易に交換したり、或いは簡易に清掃する事のできる電磁ポンプを提供する事ができる。
【0016】
前記コイル部材を筒状部材に巻いて一体化する場合、例えば前記筒状部材を、周方向に沿って存在する(外部から液密に区画された)空隙部を具備するものとして形成し、この空隙部内に前記コイル部材を巻き回すことが望ましい。筒状部材に周方向に沿う空隙部を形成する為には、例えば当該筒状部材を二層構造とし、内周面を形成する筒と外周面を形成する筒との間を当該空隙部とすることができる。この場合、前記コイル部材は内周面を形成する筒の外周面に巻き回すことができる。
【0017】
また、本発明に係る電磁ポンプにおいて、前記第一逆止弁は、記筒状部材の軸方向端部の少なくとも何れか一方に設けられる。具体的には筒状部材の中空部内か或いはこの中空部と連通する空間(流動体の流路)内に設けられる。係る第一逆止弁は、ピストン部材の摺動によって流動体を輸送する際に、送り出した流動体が再びポンプ内、特に筒状部材内に入り込む、所謂逆流が発生するのを阻止する為である。送り出した流動体の逆流を阻止する事で、効率よく流動体を送り出す事ができる。
【0018】
かかる逆止弁は、スイング式逆止弁、ウエハー式逆止弁、リフト式逆止弁、ボール式逆止弁、フート式逆止弁の何れでも良いが、望ましくはボール式逆止弁が採用される。分解および組み立ての容易性、ならびに清掃作業の容易性を考慮したものである。かかるボール式逆止弁は、それが設置される貫通孔の少なくとも一方の開口部分の内径を狭めた幅狭部分と、当該貫通孔内に収容されて当該貫通孔内を摺動すると共に、当該幅狭部分における開口を閉塞する球状体とで構成されるボール弁である事が望ましい。
【0019】
また当該逆止弁は、電磁ポンプにおける流動体の吸入側及び/又は吐出側の何れに設けられても良いが、望ましくは当該電磁ポンプにおける流動体の送り出し側(即ち「排出側」)に設置されることが望ましい。即ち、筒状部材の軸方向の端部に流動体を吐出させる為の貫通孔を具備する排出口を設ける場合、この貫通孔内に設けられることが望ましい。ただし、この場合であっても流動体の吸入側にも逆止弁を設置することもできる。
【0020】
また上記本発明の電磁ポンプにおいて、前記筒状部材の軸方向一端部には、中空部内に流動体を導入する吸入口を設けると共に、当該吸入口には、着脱自在なフィルターを設け、前記第一逆止弁は筒状部材の軸方向の他端部に設けられた排出口に設ける事が望ましい。この着脱自在なフィルターは、湖沼や河川等の水を汲み上げ場合に、土砂やゴミなどがポンプ内に流入してしまうのを阻止する為である。土砂やゴミが流入してしまうと、逆止弁の機能に支障を来たしたり、あるいはポンプを詰まらせたりするおそれがあるためである。かかるフィルターは、筒状部材の一端部側に、螺着、係合等により着脱自在に設けられることが望ましい。当該電磁ポンプの分解/修理を容易に行うことができるようにする為である。
【0021】
かかる電磁ポンプで揚水を行う為には、コイル部材に対して電流を供給し、当該コイル内に磁界を生じさせる必要がある。そして電流の向きを一定の間隔で反転させるか、或いは任意に設定した周期で電流を断続的に供給することで、コイル内を通る磁界の向きが反転するか或いは磁界が無くなり、これにより当該磁界内に存在する磁性を有するピストン部材を摺動させることができる。この摺動によりピストン部材は筒状部材内の流動体を移動させ、かつ第二逆止弁により流動体を一定の方向に移動させることができる。
【0022】
よって、上記本発明に係る電磁ポンプを使用する際には、コイル部材に対して、任意に設定した周期で電流を逆向きに変え(反転させ)るか、或いは任意に設定した周期で電流を断続的に供給するコントローラを使用することになる。
特に本発明では、上記電磁ポンプに、当該電力を供給するコントローラーとを組み合わせた電磁ポンプシステムとして提供することもでき、当該コントローラとしては、コイル部材に供給する電力量および電流の向きの反転周期を任意に調整可能なものが使用される。
【0023】
かかるコントローラに供給する電力としては、摺動するピストン部材のストロークや質量との関係から電磁石に要求される磁力にもよるが、作業場所への運搬時の利便性を考慮して、12Vや100Vの電源である事が望ましい。
【0024】
また当該コントローラでは、電磁ポンプに要求される揚程に応じて、電磁石によって発生する磁力をコントロールする事ができるように、当該電磁石に対して供給する電力をも調整可能に形成されていることが望ましい。
【0025】
更に、上記本発明の電磁ポンプでは、汲み上げられる流動体の量や、揚程、或いは汲み上げる流動体の流動性などに応じて、ピストン部材の摺動幅(即ちストローク)を調整可能に形成される事が望ましい。これを実現するには、前記筒状部材の長さ(軸心の長さ)を変えたり、当該筒状部材内に、ピストン部材の移動幅を規制する詰め物または突起物を設ける等により、ピストン部材の摺動範囲(ストローク長)を調整する事ができる。特に、筒状部材の長さ(軸心の長さ)を変える場合には、当該筒状部材を軸方向に2つ以上に分割すると共に、これを連結させた構造として、任意に継ぎ足して長さを調整できるように構成する事も望ましい。
【0026】
而して上記本発明に係る電磁ポンプでは、前記筒状部材に、前記ピストン部材の摺動幅を規制する支持部を設ける事が望ましい。
また上記電磁ポンプにおいては、その重力(質量)の中心が、筒状部材における軸心長の何れか一方の端部側に偏在している事が望ましい。即ち、筒状部材の上端部側および下端部側の何れか一方が、他方よりも重く、望ましくは1.5倍以上の質量に形成される。このように重く形成されるのは、当該電磁ポンプにおける吸入側に存在する部材(例えばフィルター部材)である事が望ましい。このように吸入側に存在する部材の質量を大きくする事で、水等の流動体内に当該電磁ポンプを投入した場合であっても、自ずと吸入側が下に存在し、下から上に向けて当該流動体を汲み上げる事ができる為である。
【0027】
また前記筒状部材は、望ましくは樹脂を用いて形成される。磁力を用いて揚水するものであるから、磁力で摺動するピストンが筒状部材内に付着する事が無い様にする為である。さらに、当該筒状部材は、その軸方向端部に前記排出口を具備する部材やフィルター部材を取り付けることのできる構造、例えば螺合構造の場合には螺子溝などの構造を有する限り、単なる筒として形成されることが望ましい。更に、当該電磁ポンプの分解や組み立て、或いは使用により磨耗した場合の交換容易性を考慮し、汎用性を有し、簡易に入手可能な筒、例えば樹脂製のパイプなどを用いて形成されることが望ましい。
【発明の効果】
【0028】
以上のように構成された本発明に係る電磁ポンプによれば、流動体を汲み上げる時に当該流動体が接する部分を簡易に分解して、交換または洗浄することができることから、土砂や汚泥が詰まった場合でも、容易に此れを取り除く事のできる電磁ポンプとなる。
【0029】
よって、例えば、水質検査や地質検査を目的として地下水や深層域の水を汲み取る場合に、水中に土砂や汚泥などが混ざり込んでいても、ポンプ内に当該土砂や汚泥が入り込んだ時に簡易に分解して、清掃または交換する事ができるから、その作業に供する多大な労力や時間を削減する事ができる。
【0030】
また、地下水、深層域の水、或いは工業用液状油脂類などの液体や、し尿、汚泥、その他の流動体を汲み上げて、これを検査する場合であっても、これ等流動体が接する部分、特に筒状部材を簡易に交換、清掃することができることから、採取地点ごとに、当該流動体が接触する領域の大部分を簡易に交換または清掃する事ができ、より正確な検査結果を得る事のできる電磁ポンプが提供される。
【0031】
しかも、筒状部材の軸心長さを変更するなど、ピストン部材の摺動幅を調整自在に形成すれば、汲み上げる流動体の粘度、質量、或いは汲み上げる高さなどにより、最適な揚力を得る事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本実施の形態に係る電磁ポンプを分解して示す部分透視図
【図2】本実施の形態に係る電磁ポンプの使用状態を示す全体略図
【図3】本実施の形態に係る電磁ポンプにおける動作状態を示す縦断面図
【図4】(A)は他の実施の形態に係る電磁ポンプを示す分解斜視図、(B)は組み合わせた状態における縦断面図
【図5】ボール弁の他の実施の形態を示す(A)平面図、(B)縦断面図、(C)底面図
【図6】ボール弁の更に他の実施の形態を示す縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面に基づいて本発明に係る電磁ポンプ10の実施の形態を説明する。図1は本実施の形態に係る電磁ポンプ10を分解して示す部分透視図であり、図2は本実施の形態に係る電磁ポンプ10の使用状態を示す全体略図であり、図3は本実施の形態に係る電磁ポンプ10における動作状態を示す縦断面図であり、図4における(A)は他の実施の形態に係る電磁ポンプ10を示す分解斜視図、(B)は組み合わせた状態における縦断面図であり、図5はボール弁25の他の実施の形態を示す(A)平面図、(B)縦断面図、(C)底面図であり、図6はボール弁25の更に他の実施の形態を示す縦断面図である。
【0034】
先ず、本実施の形態に係る電磁ポンプ10の構成を、図1を参照しながら説明する。この図1に示す電磁ポンプ10は、周面に沿った空隙部22を具備する筒状部材20と、この空隙部22内に収容される渦巻状に巻いたコイル部材30と、筒状部材20の中空部24内に内装されるピストン部材40と、ピストン部材40を内装した筒状部材20の下端開口26を閉塞するフィルター部材50とで構成されている。
【0035】
本実施の形態における筒状部材20は円筒状であって、その周面は二層構造に形成されている。そして二層構造に形成された周面の間には空隙部22が確保されており、当該空隙部22にコイル部材30が収容されている。またこの筒状部材20は、上端が閉塞されると共に、当該上端面21から突出すると共に、筒状部材20の中空部24に貫通している排出口23が形成されており、当該排出口23には流体物の移動方向を規制するボール弁25が設けられている。一方、この筒状部材20の下端は開口状に形成されると共に、この開口26に対してフィルター部材50が係合(特に本図では螺合)されている。
【0036】
この下端開口26に設けられるフィルター部材50は、本実施の形態では円盤状(ディスク状)に形成され、これは筒状部材20内に螺合する外溝が設けられたフレーム52と、このフレームに展開して設置されたフィルター54とから成っている。なお、このフィルター部材50は、当該電磁ポンプ10を使用する環境にあわせて、適宜目の荒さ(空隙の大きさ)を変更して使用することができる。
【0037】
また、筒状部材20の上端面に突起して設けられる排出口23は、略円筒状であり、その軸心部分に軸方向に貫通して筒状部材20の内部空間(中空部24)に連通する貫通孔27が設けられている。そしてこの貫通孔27には、弦巻バネなどの弾性部材で球体を下向きに付勢したボール弁25が設けられており、このボール弁25により排出口23を通過する流動体の移動方向を規制している。
【0038】
本実施の形態において、コイル部材30は、二層構造に形成された筒状部材20の空隙部22に、筒状部材20の周方向に弦巻状に巻いて配置されている。このコイル部材30に対しては、図2に示すようなコントローラ60から、一定の周期で正逆反転された電荷、または一定の間隔で電荷が印加されることにより、電磁石として機能することになる。
【0039】
そして筒状部材20の中空部24内には、ピストン部材40が軸方向に摺動自在に収容される。このピストン部材40は筒状に形成されており、その外周面には、当該筒状部材20の内周面との隙間を埋めるOリング42が設けられている。またピストン部材40の軸心部分には貫通孔44が設けられており、当該貫通孔44には、流動体を一方向にのみ通過させるボール弁45が設置されている。即ち、このピストン部材40に形成される貫通孔44にも、ボール弁45を下向きに付勢する事のできる弦巻バネなどの弾性部材が設けられている。かかるピストン部材40は、少なくとも磁性を有するものを用いて形成されるか、或いは磁性を有する部材を具備して形成される。例えば永久磁石を用いて形成することができる。かかるシリンダ部材は、少なくとも摺動方向における一方の面と、他方の面とが磁性において対極を成すように形成される。すなわち、本図において上面側がN極であれば下面側はS極に形成され、上面側がS極であれば下面側はN極に形成される。
【0040】
かかるピストン部材40における外径は、前記筒状部材20の内径と同じか、それよりも僅かに小さく形成される必要がある。一方、その軸心方向に貫通する貫通孔44の内径は、特に制限されるものではないが、当該ピストン部材40の外径の1/3以上、望ましくは1/2以上の内径で貫通するように形成されることが望ましい。流動体を汲み上げた後、下方に沈降する場合に流動体における抵抗を可能な限り小さくする為である。
【0041】
また、このピストン部材40の軸心に形成される貫通孔44は、本実施の形態において、下端側の内径を狭くし、前記ボール弁45を支持する支持部分41が形成されている。この支持部分41は、内向きフランジ状に形成する他、当該貫通孔44の内周面から突起する突起部として形成することもできる。ただし、ボール弁45と支持部分41との当接により、当該貫通孔44を閉塞し、流動体を汲み上げる事ができるように形成されることが望ましい。なお、かかるボール弁45の構成は、前記した排出口23の内部に設置されるボール弁25にも適用する事ができる。
【0042】
特にこの実施の形態に示す電磁ポンプ10は、流動体を汲み上げる際に、フィルター部材50側から筒状部材20の中空部24内に流動体を流入させ、これをピストン部材40で搬送して筒状部材20の上端に形成された排出口23から排出するように構成されている。このような構成において、流入口となるフィルター部材50には、当該筒状部材20内への汚泥や土砂、あるいはゴミなどの固形物が混入するのをできるだけ阻止する為に、メッシュその他のフィルター54が設けられている。
【0043】
以上のように構成された電磁ポンプ10では、筒状部材20の周方向にまかれたコイル部材30に対して、図2に示す様に外部に設置されたコントローラー60から電力を供給する。この電力の供給により、ファラデーの法則におけるローレンツ力が発生し、磁性材料からなるピストン部材40を移動させ、揚水を行うことができる。
【0044】
即ち本実施の形態において、ピストン部材40における磁力線の方向は一定であることから、コイル部材30に供給する電流の向きを所定の周期で反転させるか、或いはピストン部材40が上方に移動する一定の向きの電流を所定の周期で流すことにより、当該ピストン部材40は上下方向に摺動し、揚水の為のポンピング動作を行うことができる。なお、一定の向きの電流を所定の周期でコイル部材30に供給してピストン部材40を上向きに移動させる場合、当該ピストン部材40の下降は電流の供給を止めた時に、その自重により自然落下することになる。
【0045】
そして、このような汲み上げ動作を断続的に行う為に、当該コントローラー60は、一定の周期で、コイル部材30に対して所定の電力を供給することが必要であり、望ましくは供給する電力量や、電流の向きの変更周期を調整できるように構成される。また、コイル部材30の巻数はファラデーの法則により、ピストン部材40の移動に必要となるローレンツ力を考慮した上で決定することができる。
【0046】
特にこの実施の形態においては、電流を供給するコイル部材30を筒状部材20の空隙部22内に設置し、摺動運動(ポンピング動作)を行うピストン部材40には永久磁石を使用している。即ち、電源の供給を必要とするコイル部材30は、ポンピング動作において動かない筒状部材20内に設置していることから、電源供給の為の配線の困難性を解消する事ができる。
【0047】
次に図3を参照しながら、この実施の形態に係る電磁ポンプ10の動作を説明する。この図3中、(A)で示す図面は、当該電磁ポンプ10における汲み上げ時の動作を示しており、(B)で示す図面は汲み上げ後において、筒状部材20内に汲み上げ対象となる流動体を案内する時の動作を示している。
【0048】
この電磁ポンプ10の動作において、コイル部材30を流れる電流の向きにより、磁性を有するピストン部材40はファラデーの法則におけるローレンツ力により引き上げられる。その際、ピストン部材40の貫通孔は、図3(A)に示す様にボール弁45で閉塞され、かつ当該ピストン部材40の上昇によって、筒状部材20内の流動体(正確にはピストン部材40よりも上方に存在する流動体)は排出口23内の弾性部材に抗してボール弁25を押し上げ、当該排出口23から排出されることになる。この時、ピストン部材40の上昇に伴い、筒状部材20の下方にはフィルター部材50から流動体が引き込まれる事になる。
【0049】
一方、図3(A)に示す汲み上げ動作が完了した後は、コイル部材30に対してこれまでとは逆向きの電荷を印加するか、或いは電流の供給を中断させることにより、上まで上昇したピストン部材40を下方(フィルター部材50側)に移動させる。特に逆向きの電荷を印加する場合には、これまでとは逆向きの力でピストン部材40を押し下げることができる。この場合において、ピストン部材40に空気を収容した空間などの浮力を調整する領域を設け、水等の流動体中の浮力を調整し、例えば流動させる流動体の比重に一致するような体積および質量にすれば、当該流動体中におけるピストン部材40の移動を円滑に行う事ができる。またコイル部材30に対する電流の供給を中断させた場合には、ピストン部材40は自然落下することになる。このようなピストン部材40の下方への移動に際しては、ピストン部材40の下方に存在する流動体の抵抗により、ピストン部材40の貫通孔内に存在するボール弁45は、弾性部材に抗して押し上げられ、当該ピストン部材40内の貫通孔44が開口する事になる。そして、ピストン部材40の下方に存在している流動体は、当該ピストン部材40の貫通孔44から、当該ピストン部材40の上方に移動し、これが次の汲み上げ動作で汲み上げられる流動体となる。
【0050】
以上のように、コイル部材30に対する周期的な電力の供給又は電荷の位相の反転を繰り返し、磁性を有するピストン部材40を摺動させ、そして各ボール弁25による流動体の向きの規制を行うことにより、当該電磁ポンプ10は、継続的に流動体を汲み上げる事ができる。
【0051】
上記の実施の形態では、筒状部材20の上端側を閉塞するように形成しているが、此れに限らず、図4に示すように、筒状部材120の上端面を別部材として形成することもできる。図4(A)は他の実施の形態に係る電磁ポンプ110の分解斜視図であり、(B)は当該電磁ポンプ110の縦断面図である。この図4に示す実施の形態において、筒状部材120は径の異なる2つの筒部材129,127を用いて二層構造の壁面が形成され、その上端は排出口123を具備する蓋部材128で閉塞されている。この筒状部材120の周壁面を構成する筒部材129は、外側に存在する外筒部材129と、この外筒部材の内側に収容され、外筒部材の内周面との間に所定の幅の間隙部122を形成する内筒部材127とで構成され、面一に合わされた外筒部材129及び内筒部材127の上部端面は排出口123を具備する蓋部材128で閉塞されている。
【0052】
このような構成において、前記コイル部材30は内筒部材127の外周に巻きつけることができ、コイル部材30を巻きつけた内筒部材127を外筒部材129内に収容することにより、コイル部材30を簡易に間隙部122に存在させることができる。また、内筒部材127と外筒部材129の下端側開口には、間隙部122を液密に閉塞すると共に、内筒部材120の中空部24に開口するフィルター154を具備するフィルター部材150が設けられる。そして内筒部材127の中空部124内には、前記したようなボール弁125を具備するピストン部材140が軸方向に摺動自在に収容されている。なお、蓋部材128に形成される排出口123は当然のことながら内筒部材127の中空部124内に開口すると共に、その中の流動体の流路には前述したようなボール弁(図示せず)が設けられている。
【0053】
このような部材で形成された電磁ポンプ110は、筒状部材120を内筒部材127、外筒部材129および蓋部材128で構成していることから、内筒部材127と蓋部材128、及び外筒部材129と蓋部材128とを液密で且つ着脱自在な構造、例えば螺着などで係合することにより、これらを分解することもでき、かつ簡易に組み立てることができる。その結果、製造容易でありかつ何れかの部分にゴミ等が詰まった場合でも、これを簡易に取り除くことができる。
【0054】
図5及び図6は、ピストン部材240に設けられるボール弁225の他の実施の形態を示している。ただし、この構成は前記図1に示したピストン部材40に設けられるボール弁45に限らず、排出口23内に設けられるボール弁25の構造にも採用する事ができる。
【0055】
図5(A)は平面図、同(B)は縦断面図、同(C)は底面図であり、この図に示すボール弁225の構造は、特に当該ボール弁225を付勢する弾性部材を使用せず、当該ボール弁225の球体を支持する板状の多孔部材229を、当該貫通孔244における内向きフランジ状の支持部241と対向状に設置して両者間にボール弁225を収容する。この多孔部材229は、その開口で流動体の通過を許容すると共に、ボール弁225の球体が貫通孔244から抜け出るのを阻止ために機能することができる。かかる多孔部材229に形成される開口の開口面積は特に制限されるものではないが、流動体の通過をスムーズに行う為には、可能な限り広く、かつ確実に球体を支持できる構造に形成されることが望ましい。この様に形成したボール弁225では、球体は何ら付勢されていないが、その上下方向への移動(弁の開閉動作)は、流動体から受ける抵抗により円滑に行う事ができる。また、この様に形成したボール弁225では、弾性部材内に、泥や汚泥などの固形物の付着をなくすことができ、洗浄も容易に行う事ができることから、この様な固形物が混入した流動体を汲み上げる際に好適に使用することができる。
【0056】
図6は、本発明に係る電磁ポンプ10で使用することができる、更に他の実施形態におけるピストン部材340を示しており、特にこの実施の形態に示すピストン部材340では、前記図5に示したピストン部材240と同じように、弾性部材を使用せずに多孔部材329でボール弁325の球体の移動を押さえている。但し、この図6に示すピストン部材340では、球体が収容される領域が上方に向かって広がっており、これによりピストン部材340が上向きに移動した際に効率的に球体325を押さえつけることができるようになっている。その結果、揚水時に於ける揚水効率を高めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明に係る電磁ポンプは、流動体の汲み上げ等の移送に際して、流動体が接する大部分を簡易に交換乃至は清掃する事ができることから、必ずしも清浄(すなわち、異物が混入していない状態)とは限らない場所における流動体の汲み上げ等に効果的に使用することができる。これにより、水質検査や地質検査などにおいて有効に使用することができる。
【符号の説明】
【0058】
10 電磁ポンプ
20 筒状部材
21 上端面
22 空隙部
23 排出口
24 中空部
25 ボール弁
26 下端開口
27 貫通孔
30 コイル部材
40 ピストン部材
41 支持部分
42 リング
44 貫通孔
45 ボール弁
50 フィルター部材
52 フレーム
54 フィルター
60 コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空筒状に形成された筒状部材と、
当該筒状部材の周方向に巻き回されて電磁石として機能するコイル部材と、
当該筒状部材の中空部を軸方向に摺動自在に内装された磁性を有するピストン部材とからなり、
前記筒状部材の軸方向端部の少なくとも何れか一方には第一逆止弁が設けられており、
前記ピストン部材は摺動方向に沿う向きに貫通する貫通孔と、当該貫通孔に設けられる第二逆止弁を具備することを特徴とする、電磁ポンプ。
【請求項2】
前記筒状部材の軸方向一端部には、中空部内に流動体を導入する吸入口が設けられると共に、当該吸入口には、着脱自在なフィルターが設けられており、前記第一逆止弁は筒状部材の軸方向の他端部に設けられた吐出口に設けられる請求項1に記載の電磁ポンプ。
【請求項3】
当該筒状部材には、前記ピストン部材の摺動幅を規制する支持部が設けられている請求項1又は2に記載の電磁ポンプ。
【請求項4】
前記筒状部材は、周方向に沿って存在する空隙部を具備し、前記コイル部材は当該空隙部内に巻き回されている請求項1〜3の何れか1項に記載の電磁ポンプ。
【請求項5】
請求項1〜5の何れか一項に記載の電磁ポンプと、当該電磁ポンプに対して電力を供給するコントローラーとからなる電磁ポンプシステムであって、
当該コントローラは、コイル部材に供給する電力量および電流の向きの反転周期を任意に調整可能に形成されていることを特徴とする電磁ポンプシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−47339(P2011−47339A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−197489(P2009−197489)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(503292610)有限会社いどや (1)
【Fターム(参考)】