説明

電磁弁

【課題】 オンオフ制御による2段階の流量切替を簡易な構成で実現する電磁弁を提供する。
【解決手段】 電磁弁10は、第1弁座16に当接可能な第1弁部材60と第2弁座17に当接可能な第2弁部材70とを有する。電磁駆動部20に通電オンすると、第1弁部材60は、電磁吸引力により、係合リブ65の端面が第2弁部材70の底部内壁751に当接する切替位置までリフトする。切替位置において、入口流路13の圧力と出口流路14の圧力との差圧が所定値以上の場合、第2弁部材70は受圧力により閉弁し、入口流路13と出口流路14とは連通路77を経由して連通する。差圧による受圧力が所定値より小さくなると、第2弁部材70は、第1弁部材60に作用する電磁吸引力によって第1弁部材60に連動してリフトし、入口流路13と出口流路14とは第2開弁流路82および第1開弁流路81を経由して連通する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、小流量と大流量とを切替可能な電磁弁が知られている。例えば特許文献1に記載の電流比例制御弁は、通路中に2つの弁座を同軸上に直列に設けている。上流側の弁は、電磁駆動部と共にスライドする。下流側の弁は、電磁駆動部に対してフリーにスライドし、上流側の弁の開弁から遅れて開弁する。上流側の弁が開き下流側の弁が閉じている状態では、バイパス通路を経由して小流量の流体が下流側へ流れる。下流側の弁が開いている状態では、電磁駆動部のスライド量に応じて中〜大流量の流体が下流側へ流れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平5−32888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車両等の蒸発燃料処理装置において燃料タンクとキャニスタとを連通または遮断するタンク密閉弁では、開弁時に燃料タンクからの蒸発燃料が急激に流出することを防止することが求められる。この要求に対して、開弁の程度に応じて流量が切り替わる特許文献1に記載の電流比例制御弁は適用が可能である。
しかしながら、特許文献1に記載の電流比例制御弁は、リニア出力または多段階出力の電流制御回路を必要とし、オンオフ制御によって制御することができない。また、タンク密閉弁に適用する場合、燃料タンクの圧力を検出する圧力検出手段を設け、検出圧力に応じて電磁弁の駆動電流を制御する必要がある。そのため、装置が複雑で高価になるという問題がある。
【0005】
本発明は、このような点に鑑みて創作されたものであり、その目的は、圧力検出手段等を必要とせず、オンオフ制御による2段階の流量切替を簡易な構成で実現する電磁弁を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の電磁弁は、弁ハウジング、第1弁部材、第2弁部材、第1付勢部材、第2付勢部材および電磁駆動部を備える。
弁ハウジングは、弁収容室、当該弁収容室に開口する入口通路および出口通路、弁収容室の出口通路との接続部に形成される環状の第1弁座、並びに、接続部の第1弁座の周囲に形成される環状の第2弁座を有する。
第1弁部材は、弁収容室に収容され、第1弁座に当接可能である。
第2弁部材は、弁収容室の第1弁部材の径外方向に収容され、第1弁部材との間に形成される中間室と入口通路とを連通する連通路を有し、入口通路の圧力と出口通路の圧力との差圧によって第2弁座に当接する閉弁方向に押圧され、第1弁部材が所定の切替位置を超えてリフトするとき当該第1弁部材に連動して第2弁座からリフトする。
【0007】
第1付勢部材は、第1弁部材を第1弁座に当接する閉弁方向に付勢する。
第2付勢部材は、一端が第2弁部材に当接し、他端が第1弁部材に結合して設けられる座板に当接し、第1弁部材を開弁方向に、第2弁部材を閉弁方向に付勢する。
電磁駆動部は、通電することにより発生する電磁吸引力により第1弁部材を開弁方向に駆動する。
電磁駆動部、第2弁部材および第1弁部材は、例えばこの順に直列に設けられる。第1弁部材は、例えば、シャフトを介して電磁駆動部の可動コアに連結され、可動コアと共に往復移動する。一方、第2弁部材は、シャフトと分離して設けられ、第1弁部材が所定の切替位置までリフトしたとき第1弁部材と当接する。
【0008】
そして、電磁駆動部が通電オフのとき、第1弁部材および第2弁部材は、第1弁座および第2弁座に当接する。
電磁駆動部が通電オンのとき、第1弁部材は第1弁座からリフトし、さらに、差圧による受圧力、並びに第1付勢部材および第2付勢部材の付勢力に基づいて決まる力が電磁吸引力より小さい場合、第2弁部材は、第1弁部材に連動して第2弁座からリフトする。
【0009】
このように、本発明の電磁弁は、電磁駆動部の通電オンオフ、及び、通電オン時の差圧の大きさによって3段階の作動状態を遷移する。すなわち、「第1弁部材、第2弁部材とも閉弁している状態」、「第1弁部材が開弁し、第2弁部材が閉弁している状態」、「第1弁部材、第2弁部材とも開弁している状態」の3段階の作動状態である。
ここで、第2弁部材に形成される連通路を経由して流体が入口通路から中間室に流れることにより入口通路の圧力が徐々に低下し差圧が減少すると、第2弁部材が開弁し、「第1弁部材のみが開弁している状態」から「第1弁部材、第2弁部材とも開弁している状態」へ移行する。
【0010】
そこで、「第1弁部材のみが開弁している状態」の流量が相対的に少なく、「第1弁部材、第2弁部材とも開弁している状態」の流量が相対的に多くなるように通路面積を調整することで、2段階の流量切替が可能となる。すなわち、本発明の電磁弁によれば、圧力検出手段等を必要とせず、オンオフ制御による2段階の流量切替を簡易な構成で実現することができる。したがって、本発明の電磁弁は、例えば、燃料タンク密封システムのタンク密閉弁として好適である。
【0011】
さらに、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の電磁弁の作用を具体的に示す。
ここで、第1付勢部材の閉弁方向の付勢力と第2付勢部材の開弁方向の付勢力との合力を「付勢合力」とする。また、付勢合力と、入口通路の圧力と出口通路の圧力との差圧によって第2弁部材の受圧面積に作用する「受圧力」との合力を「複合閉弁力」とする。
【0012】
電磁駆動部が通電オフのとき、第1弁部材は、付勢合力によって第1弁座に当接し、第2弁部材は、第2付勢部材の付勢力によって第2弁座に当接する。
一方、電磁駆動部が通電オンのとき、第1弁部材は切替位置までリフトする。
そして、切替位置において、複合閉弁力が電磁吸引力以上の場合、第2弁部材が第2弁座に当接した状態で第2弁部材の連通路および中間室を経由して入口通路と出口通路とが連通する。
また、切替位置において、複合閉弁力が電磁吸引力より小さい場合、第2弁部材は第1弁部材に連動して全開位置までリフトし、第2弁部材と第2弁座との間の第2開弁通路、及び、第1弁部材と第1弁座との間の第1開弁通路を経由して入口通路と出口通路とが連通する。
【0013】
これにより、上述の「通路面積の調整」は、具体的に「第1弁部材のみが開弁している状態」すなわち切替位置における連通路の通路面積と、「第1弁部材、第2弁部材とも開弁している状態」すなわち全開位置における第1開弁通路および第2開弁通路の通路面積とを調整することで実現される。
【0014】
請求項3に記載の発明によると、全開位置での第1開弁通路の通路面積および第2開弁通路の通路面積は、いずれも連通路の通路面積より大きい。
これにより、全開位置での流量が切替位置での流量よりも多くなる。したがって、電磁弁は、切替位置では「小流量弁」として機能し、全開位置では「大流量弁」として機能する。よって、例えば、燃料タンク密封システムのタンク密閉弁として好適である。
【0015】
請求項4に記載の発明によると、第2弁部材は、カップ状に形成され、第1弁部材を往復移動可能に収容する。
第2弁部材の具体的な形状は、例えば、筒部と底部とを有するカップ状に形成される。そして、筒部の端部が第2弁座に当接可能となる。また、連通路は、筒部または底部の内壁側と外壁側とを連通するように設けられる。
【0016】
請求項5に記載の発明によると、切替位置を決める部材は、第1弁部材に結合され、第1弁部材と共にリフトしたとき第2弁部材の底部内壁に当接する係合部材である。
これにより、簡易な構成で切替位置を決めることができる。係合部材は、第1弁部材と別体に設けられてもよい。或いは、請求項6に記載の発明のように第1弁部材と一体に形成されてもよい。その場合、係合部材を別体に設ける構成に比べて部品点数を低減することができる。また、係合部材を第1弁部材に接合するための工程が不要となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施形態による電磁弁の全閉位置の断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態による電磁弁が適用される燃料タンク密閉システムの概略構成図である。
【図3】本発明の第1実施形態による電磁弁の第1弁部材および第2弁部材の図である。
【図4】本発明の第1実施形態による電磁弁の切替位置の断面図である。
【図5】本発明の第1実施形態による電磁弁の全開状態の断面図である。
【図6】本発明の第1実施形態による電磁弁の作動を説明する説明図である。
【図7】本発明の第2〜第4実施形態による電磁弁の全閉位置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態による電磁弁を用いた燃料タンク密封システムを図2に示す。蒸発燃料処理システムの一種である燃料タンク密封システムは、例えば、車両の運転状態に応じて、電気モータまたは内燃機関のいずれかを選択して走行するいわゆるハイブリッドエンジンを搭載する車両に用いられる。
【0019】
電磁弁10は、燃料タンク300とキャニスタ310とを接続する配管350途中に設けられる。キャニスタ310には、蒸発燃料を吸着する吸着材312が収容される。
電磁弁314は、キャニスタ310に接続される配管352途中に設けられており、電磁弁314が開弁すると、キャニスタ310は、配管352を経由して大気開放される。電磁弁314の大気開放側にはフィルタ316が設けられる。
パージ弁320は、キャニスタ310と吸気管330とを接続する配管350途中に設けられる。パージ弁320および電磁弁314を開弁すると、キャニスタ310に吸着された蒸発燃料は、スロットル弁332の下流に発生する負圧によって吸気管330内に排出される。
【0020】
ただし、車両が電気モータで走行しているときには吸気管330内に負圧が発生しないため、キャニスタ310が吸着した蒸発燃料を吸気管330内に排出することができない。すると、キャニスタ310の吸着材312が蒸発燃料を過剰に吸着し、オーバーフローするおそれがある。そこで、これを防止するために、燃料タンク密封システムでは、燃料タンク300とキャニスタ310との間に設置した電磁弁10を閉弁し燃料タンク300を密封する。
【0021】
また燃料タンク密封システムでは、燃料タンク300に燃料を給油するとき、運転者が給油口開口レバー(図示しない)を操作すると、給油口開口レバーに設けられた開口スイッチ等からエンジン制御装置(ECU、図示しない)に開口信号が入力される。そして、開口信号を受けたECUは電磁弁10を開弁する。その結果、燃料タンク300とキャニスタ310とが連通するため、燃料タンク300の圧力が大気圧まで低下する。これにより、燃料給油口のキャップ302を開口したとき、燃料タンク300から給油口を通して蒸発燃料が外気に放出されることを防止する。
【0022】
次に電磁弁10の構成を、図1、図3〜図6を参照して説明する。
図1に示すように、電磁弁10の外郭は、弁ハウジング11とコイルハウジング21とから構成される。弁ハウジング11は、弁部を収容するとともに通路を形成する。コイルハウジング21は、中心軸O方向に弁を駆動する電磁駆動部20を収容する。弁ハウジング11とコイルハウジング21とは、かしめ部材19によって固定されている。
【0023】
弁ハウジング11には、中心軸Oに直交する方向に入口通路13を形成する入口管130が形成され、中心軸Oに沿って出口通路14を形成する出口管140が形成されている。入口管130は燃料タンク300側と接続し、出口管140はキャニスタ310側と接続している。
入口通路13および出口通路14は、弁収容部12に開口している。弁収容部12の出口通路14との接続部15には、出口通路14の開口の外側に環状の第1弁座16が形成されている。また、接続部15の第1弁座16の周囲には、環状の第2弁座17が第1弁座16と略同心円状に形成されている。
【0024】
弁収容部12には、第1弁部材60および第2弁部材70が収容される。
第1弁部材60は、軸部61と大径部63とを有している。軸部61には、シャフト50が挿入される軸穴62が形成される。大径部63には、弁ハウジング11の第1弁座16に対向して端面から突出する環状の第1当接部64が形成される。
軸部61の径外方向には、周方向に複数の係合リブ65が設けられる。係合リブ65は、大径部63と反対側の端面が中心軸Oに略直交する平面であって、複数の端面の高さが略同一に形成されている。係合リブ65は、軸部61と大径部63との変形を防止し、中心軸Oと第1当接部64との直角度を維持するとともに、後述する第2弁部材70の底部内壁751に端面が当接可能である。本実施形態において、係合リブ65は、特許請求の範囲に記載の「係合部材」に相当する。
【0025】
第2弁部材70は、底部75、筒部71およびツバ部73からなるカップ状であり、第1弁部材60の径外方向に略同軸に配置される。第2弁部材70の底部75の略中央には挿通穴753が形成されている。筒部71の内径は、第1弁部材60の大径部63の外径より大きく、挿通穴753の内径は、第1弁部材60の軸部61の外径よりも大きい。また、第2弁部材70のツバ部73には、弁ハウジング11の第2弁座17に対向して端面から突出する環状の第2当接部74が形成される。第2当接部74は、組付後、第1弁部材の第1当接部64と略同心円状に配置される(図3(c)参照)。
第2弁部材70と第1弁部材60との間には中間室76が形成される。筒部71には、筒部71の内壁711側と外壁712側、すなわち中間室76と入口通路13とを連通する連通路77が形成される。
【0026】
図3に示すように、第2当接部74の直径をφD1とし、挿通穴753の内径をφD2として、下式1により受圧面積Srを定義する。
Sr=(D12−D22)×π/4 ・・・(式1)
受圧面積Srは、後述するように、入口通路13の圧力と出口通路14の圧力との差圧ΔPが第2弁部材70に作用する面積である。
【0027】
座板55は、第1弁部材60の軸部61の電磁駆動部20側の端面に当接して設けられ、第2弁部材70の底部71の外壁712との間に第2スプリング52を支持している。これにより、「第2付勢部材」としての第2スプリング52は、第1弁部材60を開弁方向に、第2弁部材70を閉弁方向に付勢する。
【0028】
次に、電磁駆動部20は、固定コア22、可動コア28、第1スプリング51、コイル40等を含む。固定コア22は、可動コア28との間に磁気吸引力を発生する吸引部23と、可動コア28を往復移動可能に収容する収容部24とを有している。吸引部23と収容部24との間には、磁気的な短絡を防止するための薄肉部が設けられている。
固定コア22の吸引部23内には係止部材25が設けられている。係止部材25の可動部材28側の端面には、磁気吸引力による可動コア28の衝突を緩衝するためのゴム製のストッパ26が取り付けられている。
【0029】
「第1付勢部材」としての第1スプリング51は、一端が係止部材25に係止され、他端が可動コア28に係止される。第1スプリング51は、可動コア28およびシャフト50を介して第1弁部材60を閉弁方向に付勢する。
ここで、第1スプリング51の付勢力をFs1、第2スプリング52の付勢力をFs2とする。また、第1スプリング51の閉弁方向の付勢力Fs1と第2スプリング52の開弁方向の付勢力Fs2との合力を「スプリング合力Fst」(特許請求の範囲に記載の「付勢合力」に相当する。)とする。
【0030】
ここで、閉弁方向の力を正とし、開弁方向の力を負として表すとすれば、スプリング合力Fstは、下式2のように「第1スプリング51の付勢力Fs1から第2スプリング52の付勢力Fs2の『絶対値』を差し引いた力」として表される(図6参照)。
Fst=Fs1−|Fs2|・・・(式2)
スプリング合力Fstは、コイル40への通電オフ中に燃料タンク300の圧力が負圧になったとき、その負圧によって第1弁部材60が開弁しない値に設定されている。
【0031】
固定コア22の径外方向には、ボビン42に巻回されたコイル40が設けられている。ターミナル44はコイル40と電気的に接続しており、コイル40に駆動電流を供給する。ヨーク46は、コイル40の径外方向に設けられ、吸引部23および収容部24と磁気回路を構成する。
【0032】
(作用)
次に、電磁弁10の作用について、図1、図3〜図6を参照して説明する。
(I)全閉位置
図1に示すように、コイル40への通電がオフのとき、可動コア28、シャフト50、座板55および第1弁部材60はスプリング合力Fstにより閉弁方向に付勢される。このとき、固定コア22の吸引部23と可動コア28との磁気ギャップMgは最大である。第1弁部材60は、第1当接部64が第1弁座16に当接し、入口通路13と出口通路14との連通が遮断される。
また、第2弁部材70の筒部71に形成される連通路77によって、入口通路13と中間室76との圧力は均衡する。したがって、第2弁部材70には第2スプリング52の付勢力Fs2のみが閉弁方向へ作用し、第2当接部74が第2弁座17に当接する。
【0033】
(II)全閉位置→切替位置
燃料タンク密閉システムでは、例えば燃料タンク300に燃料を給油するとき、コイル40への通電をオンし、電磁弁10を開弁する。
コイル40への通電をオンすると、スプリング合力Fstよりも大きい電磁吸引力Faが発生し、可動コア28が固定コア22に吸引される。すると、磁気ギャップMgが減少し、可動コア28と共に、シャフト50、座板55および第1弁部材60が開弁方向に吸引される。
ここで、図1(b)に示すように、第1弁部材60の係合リブ65の端面と第2弁部材70の底部75の内壁751との間には隙間dが形成されている。したがって、第1弁部材60は、隙間dに相当する距離については、他部材から拘束されずに移動することができる。
【0034】
第1弁部材60が開弁方向に移動すると、第1当接部64が第1弁座16から離間し、第1当接部64と第1弁座16との間に第1開弁通路81が形成される。その結果、入口通路13と出口通路14とが、連通路77、中間室76および第1開弁通路81を経由して連通する。これにより、燃料タンク密封システムにおいて、燃料タンク300とキャニスタ310とが連通する。よって、燃料給油口のキャップ302を開口したとき、燃料タンク300から給油口を通して蒸発燃料が外気に放出されることを防止する。
【0035】
まず、第1弁部材60のリフト量が全閉位置から切替位置(後述)に達するまでの挙動について説明する。第1弁部材60の開弁方向への移動(リフト)につれて、第1スプリング51は圧縮されて閉弁方向の付勢力Fs1が漸増する。また、第2スプリング52は伸張されて、座板55に作用する開弁方向の付勢力Fs2が漸減する。したがって、スプリング合力Fstは、第1スプリング51の付勢力Fs1の傾きよりも大きな傾きで漸増する(図6参照)。
【0036】
このとき、入口通路13と出口通路14とが連通することにより、第1開弁通路81の上流(入口通路13)側と下流(出口通路14)側との間に、「入口通路13の圧力と出口通路14の圧力との差圧ΔP」が発生する。差圧ΔPが第2弁部材70の受圧面積Srに作用する閉弁方向の力を「受圧力Fp」とすると、第2弁部材70は、第2スプリング52の付勢力Fs2と受圧力Fpとの合力によって閉弁方向へ付勢される。
【0037】
次に、第1弁部材60のリフト量が切替位置に達したときの挙動について説明する。
図4に示すように、切替位置とは、第1弁部材60の係合リブ65の端面と第2弁部材70の底部75の内壁751との隙間dがゼロとなる位置、すなわち、係合リブ65の端面が内壁751に当接する位置をいう。
【0038】
切替位置において、第1弁部材60は、開弁方向への移動が第2弁部材70によって拘束される。つまり、第1弁部材60が切替位置から全開位置に向かってさらにリフトするときには、第1弁部材60は第2弁部材70を伴って移動しなければならない。そのためには、スプリング合力Fstと受圧力Fpとの合計である「複合閉弁力FC」が、第1弁部材60を吸引する電磁吸引力Faよりも小さいことが必要となる。
【0039】
図6に、受圧力Fpが比較的大きいときの複合閉弁力FCH、及び、受圧力Fpが比較的小さいときの複合閉弁力FCLを破線で示す。
切替位置における複合閉弁力FCが電磁吸引力Faより大きい場合(FCH)には、第1弁部材60は全開位置まで開弁することができず、切替位置に維持される。この切替位置での第1開弁通路81の通路面積をT1とすると、通路面積T1は、例えば連通路77の通路面積Sと同等以上に設定される。
【0040】
切替位置では第1弁部材60は開弁し、第2弁部材70は閉弁している。この状態で、燃料タンク300の蒸発燃料が入口通路13から連通路77、中間室76および第1開弁通路81を経由して出口通路14へ流出することで、入口通路13の圧力は徐々に低下する。すると、差圧ΔPが減少し受圧力Fpが減少する結果、複合閉弁力FCが減少する。
そして、燃料タンク300の蒸発燃料は、複合閉弁力FCが電磁吸引力Faと同等以下になるまで、後述のように通路面積の比較的小さい連通路77を経由して流出する。したがって、電磁弁10は、差圧ΔPが比較的大きいとき、燃料タンク300の蒸発燃料が急激に流出することを防止するための「小流量弁」として機能する。
【0041】
(III)切替位置→全開位置
上記の蒸発燃料の流出の結果、切替位置における複合閉弁力FCが電磁吸引力Faを下回った場合、もしくは、第1弁部材60の開弁直後から切替位置における複合閉弁力FCが電磁吸引力Faより小さい場合(FCL)、第1弁部材60は第2弁部材70を伴って、切替位置(図4)から全開位置(図5)にリフトする。
第2弁部材70は、第2当接部74が第2弁座17から離間し、第2当接部74と第2弁座17との間に第2開弁通路82が形成される。その結果、入口通路13と出口通路14とは、第2開弁通路82および第1開弁通路81を経由して連通する。
【0042】
このとき、第1スプリング51はさらに圧縮されて閉弁方向の付勢力Fs1が漸増する。また、第2スプリング52は圧縮伸張されず、第1弁部材60に対する付勢力Fs2はゼロとなる。したがって、スプリング合力Fstは、第1スプリング51の付勢力と同一となる(図6参照)。
【0043】
固定コア22の吸引部23と可動コア28との間の磁気ギャップMgが小さくなるにつれて電磁吸引力Faは急激に増大し、第1弁部材60および第2弁部材70の開弁作動が加速される。そして、図5に示す位置が第1弁部材60および第2弁部材70の全開位置となる。
【0044】
全開位置での第1開弁通路81の通路面積をU1とし、全開位置での第2開弁通路82の通路面積をU2とする。全開位置での第1開弁通路81の通路面積U1は、切替位置での第1開弁通路81の通路面積T1よりも大きい。
また、全開位置での第1開弁通路81の通路面積U1および第2開弁通路82の通路面積U2は、いずれも連通路77の通路面積Sよりも大きく設定される。通路面積U1、U2は、周長に軸方向の離間高さを乗じたものである。したがって、第1当接部64および第2当接部74の直径が連通路77の穴径に比べて充分に大きければ、通路面積U1、U2は、連通路77の通路面積Sより大きくなる。
【0045】
よって、全開位置では、燃料タンク300の蒸発燃料は、切替位置での通路面積よりも大きな通路面積を有する通路を経由して流出する。すなわち、電磁弁10は、差圧ΔPが比較的小さいとき、第2弁部材70が開弁することにより、「大流量弁」として機能する。
【0046】
まとめると、電磁弁10は、オンオフ制御される電磁弁でありながら、入口通路13の圧力と出口通路14の圧力との差圧ΔPが比較的大きいときには「小流量弁」として機能し、当該差圧ΔPが比較的小さいときには「大流量弁」として機能する。これにより、燃料タンク密封システムにおいて、電磁弁10の開弁時、開弁直後の燃料タンク300の圧力が比較的高いときには蒸発燃料の急激な流出を抑制し、燃料タンク300の圧力が所定値以下に下がったら蒸発燃料を迅速に流出させることができる。
このように、本実施形態の電磁弁10は、燃料タンクの圧力検出手段等を必要とせず、オンオフ制御による2段階の流量切替を簡易な構成で実現することができる。
【0047】
また、本実施形態では、第1弁部材60に係合リブ65を一体に形成している。そのため、次の第2実施形態のように、第1弁部材60と別体の係合部材を設ける構成に比べて部品点数を低減することができる。また、係合部材を第1弁部材60に接合するための工程が不要となる。
【0048】
(第2実施形態)
図7(a)に示す第2実施形態は、第1実施形態における第1弁部材60の係合リブ65に代えて、第1弁部材60とは別体の環状の係合部材67を設けている。係合部材67は、第1弁部材60の軸部61の外壁に圧入、溶着、接着等により接合される。係合部材67は、第1弁部材60と共に往復移動し、第1弁部材60のリフト量が切替位置を超えたとき、第2弁部材70の底部内壁751に当接して第2弁部材70を開弁させる。
【0049】
例えば、電磁弁10を複数の機種に適用するに当たり機種毎に切替位置の設定を変えたい場合や、要求仕様に基づき切替位置を設計変更する場合などが想定される。このような場合、係合部材67を別体とすることで、第1弁部材60を共通に使用し、あるいは形状等の変更を伴わず、係合部材67の接合位置を変更するだけで容易に対応が可能となる。
【0050】
(第3、第4実施形態)
図7(b)に示す第3実施形態、及び図7(c)に示す第4実施形態は、第1実施形態に対し、連通路が形成される位置が異なる。第3実施形態では、連通路78は、第2弁部材70の底部75の内壁751側(中間室76)と外壁752側とを連通する。第4実施形態では、第2弁部材70の挿通穴753の内壁と第1弁部材60の軸部61の外壁との間のクリアランスが連通路79を構成する。ここで、切替位置において第1弁部材60の係合リブ65が第2弁部材70の底部内壁751に当接したとき、底部75の内壁751側と外壁752側とは周方向の係合リブ65が無い部分を経由して連通可能である。
第2弁部材70を樹脂成形で形成する場合、第3、第4実施形態とも金型の抜き方向に連通路を形成するため、金型構造が単純となる。
【0051】
(その他の実施形態)
(ア)第1実施形態における第1弁部材60の係合リブ65の個数や形状、第2実施形態における係合部材67の形状は、上記の形態に限らず、切替位置で第2弁部材70に係合可能であれば、どのような形態であってもよい。
(イ)上記実施形態と異なり、連通路77等の通路面積Sを、第1開弁通路81の全開時通路面積U1、又は、第2開弁通路82の全開時通路面積U2の少なくとも一方より大きくしてもよい。
【0052】
(ウ)第2スプリングは、上記実施形態のような圧縮スプリングの他、第2弁部材70の底部内壁751と第1弁部材60とを接続する引っ張りスプリングを中間室76内に設けてもよい。
(エ)本発明の電磁弁は、上記実施形態のようにタンク密閉弁に限らず、入口通路の圧力と出口通路の圧力との差圧が所定の閾値以上のとき通過流量を相対的に小さくし、当該差圧が所定の閾値未満のとき通過流量を相対的に大きくする2段階流量の弁として、種々の用途の弁に適用可能である。
【0053】
以上、本発明はこのような実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の形態で実施することができる。
【符号の説明】
【0054】
10 ・・・電磁弁、
11 ・・・弁ハウジング、
13 ・・・入口通路、
14 ・・・出口通路、
15 ・・・接続部、
16 ・・・第1弁座、
17 ・・・第2弁座、
20 ・・・電磁駆動部、
22 ・・・固定コア、
28 ・・・可動コア、
40 ・・・コイル、
50 ・・・シャフト、
51 ・・・第1スプリング(第1付勢部材)、
52 ・・・第2スプリング(第2付勢部材)、
55 ・・・座板、
60 ・・・第1弁部材、
65 ・・・係合リブ(係合部材)、
67 ・・・係合部材、
70 ・・・第2弁部材、
75 ・・・底部、
751・・・内壁、
76 ・・・中間室、
77、78、79・・・連通路、
81 ・・・第1開弁通路、
82 ・・・第2開弁通路、
Fa ・・・電磁吸引力、
Fst・・・スプリング合力(付勢合力)、
Fp ・・・受圧力、
FC ・・・複合閉弁力。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁収容室、当該弁収容室に開口する入口通路および出口通路、前記弁収容室の前記出口通路との接続部に形成される環状の第1弁座、並びに、前記接続部の前記第1弁座の周囲に形成される環状の第2弁座を有する弁ハウジングと、
前記弁収容室に収容され、前記第1弁座に当接可能な第1弁部材と、
前記弁収容室の前記第1弁部材の径外方向に収容され、前記第1弁部材との間に形成される中間室と前記入口通路とを連通する連通路を有し、前記入口通路の圧力と前記出口通路の圧力との差圧によって前記第2弁座に当接する閉弁方向に押圧され、前記第1弁部材が所定の切替位置を超えてリフトするとき当該第1弁部材に連動して前記第2弁座からリフトする第2弁部材と、
前記第1弁部材を前記第1弁座に当接する閉弁方向に付勢する第1付勢部材と、
一端が前記第2弁部材に当接し、他端が前記第1弁部材に結合して設けられる座板に当接し、前記第1弁部材を開弁方向に、前記第2弁部材を閉弁方向に付勢する第2付勢部材と、
通電することにより発生する電磁吸引力により前記第1弁部材を開弁方向に駆動する電磁駆動部と、
を備え、
電磁駆動部が通電オフのとき、前記第1弁部材および前記第2弁部材は、前記第1弁座および前記第2弁座に当接し、
電磁駆動部が通電オンのとき、前記第1弁部材は前記第1弁座からリフトし、さらに、前記差圧による受圧力、並びに前記第1付勢部材および前記第2付勢部材の付勢力に基づいて決まる力が前記電磁吸引力より小さい場合、前記第2弁部材は、前記第1弁部材に連動して前記第2弁座からリフトすることを特徴とする電磁弁。
【請求項2】
前記電磁駆動部が通電オフのとき、前記第1弁部材は、前記第1付勢部材の閉弁方向の付勢力と前記第2付勢部材の開弁方向の付勢力との合力である付勢合力によって前記第1弁座に当接し、前記第2弁部材は、前記第2付勢部材の付勢力によって前記第2弁座に当接し、
前記電磁駆動部が通電オンのとき、前記第1弁部材は前記切替位置までリフトし、
前記切替位置において、前記付勢合力と前記差圧による受圧力との合力である複合閉弁力が前記電磁吸引力以上の場合、前記第2弁部材が前記第2弁座に当接した状態で前記第2弁部材の前記連通路および前記中間室を経由して前記入口通路と前記出口通路とが連通し、
前記切替位置において、前記複合閉弁力が前記電磁吸引力より小さい場合、前記第2弁部材は前記第1弁部材に連動して全開位置までリフトし、前記第2弁部材と前記第2弁座との間の第2開弁通路、及び、前記第1弁部材と前記第1弁座との間の第1開弁通路を経由して前記入口通路と前記出口通路とが連通することを特徴とする請求項1に記載の電磁弁。
【請求項3】
全開位置での前記第1開弁通路の通路面積および前記第2開弁通路の通路面積は、いずれも前記連通路の通路面積より大きいことを特徴とする請求項2に記載の電磁弁。
【請求項4】
前記第2弁部材は、カップ状に形成され、前記第1弁部材を往復移動可能に収容することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の電磁弁。
【請求項5】
前記切替位置を決める部材は、前記第1弁部材に結合され、前記第1弁部材と共にリフトしたとき前記第2弁部材の底部内壁に当接する係合部材であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の電磁弁。
【請求項6】
前記係合部材は、前記第1弁部材と一体に形成されることを特徴とする請求項5に記載の電磁弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−219868(P2012−219868A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−84474(P2011−84474)
【出願日】平成23年4月6日(2011.4.6)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】