説明

電磁波イメージングシステム及び移動型電磁波照射・検知装置

【課題】コンクリート構造物の表層内部に生じたクラックや剥離などの劣化状態を、ターゲットに対する適用範囲を拡大しつつ高い空間解像度でリアルタイムによる非破壊検査を行うことを課題とする。
【解決手段】送信アンテナ12で放射されたミリ波が、媒質を透過した後にターゲットで反射し、受信アンテナ13及び検波器14により検知された反射波の強度を、ロックインアンプ3で数値化することで、コンクリート16で表面反射した反射波と、コンクリート16表層内部のミリオーダーのクラック17で散乱反射した反射波の反射強度の違いから、クラック17が検出可能になる。さらに、車輪付き筐体7でコンクリート16の表面に沿って走査することで、距離センサ8により検知した距離情報に基づいて、広範囲に渡ってコンクリート16表面の二次元画像データをリアルタイムに形成することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波を利用して媒質を透視するイメージング技術に関し、特に、建物やトンネルなどのコンクリート構造物内部の非破壊検査に応用可能な電磁波イメージング技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、世の中の建造物に広く用いられているコンクリートには、製造過程や歳月の経過に伴い腐朽や欠陥が生じることが少なくない。このような腐朽や欠陥はコンクリートの強度を著しく劣化させ、建造物を危険な状態に陥らせる。例えば、コンクリートの構造物内部でクラックや剥離が発生すると、構造の強度が低下し、ついには倒壊する危険性が生じることがある。地震による建造物の倒壊やトンネル覆工コンクリート塊の落下などがその例である。
【0003】
このような事故を防止するためには、コンクリート内部のクラックや剥離を早期の段階で検知することが必要になる。簡易な手段としてはコンクリートの劣化を外部から目視によって検査する方法が考えられるが、実際にはコンクリートの表面は壁紙クロスや塗装などの可視光が透過しない媒質によって覆われている場合が多く、このような場合には目視では劣化を発見できない。
【0004】
これに対し、従来のX線CT、超音波イメージング、熱分布イメージング、マイクロ波イメージングを、建物やトンネルなどのコンクリート構造物内部の非破壊検査技術に応用することが考えられる。
【0005】
X線CTは、X線の透過能が高いことを利用して、X線発生装置とX線検知装置を対向して配置し、ターゲットを透過して検知されたX線のデータからターゲット内部を映像化する技術である。
【0006】
超音波イメージングは、パルス状に超音波をコンクリートの表面から入射させ、コンクリート中を伝播する弾性波を検知し、腐朽や欠陥を見通す技術である(例えば、特許文献1参照)。この場合も、基本的には超音波発生装置と検知装置とを検査対象を挟んで対向配置させる。
【0007】
熱分布イメージングは、建造物の表面から放射される赤外線を検知し、表面の温度分布を可視化する技術であり、健全部位と腐朽・欠陥部位とで熱伝導特性が異なることを利用するものである。
【0008】
マイクロ波イメージングは、レーダシステムを採用して、マイクロ波をコンクリート内部に送信し、電気的特性の異なる物質の境界面で反射したマイクロ波を受信する技術であり、コンクリート内部に埋没された金属管などの探査を行う用途などに用いられている(例えば、非特許文献1参照)。
【特許文献1】国際公開第WO00/52418号パンフレット
【非特許文献1】小原治之「コンクリート床版検査用3次元映像化レーダの開発」,第7回 地下電磁計測ワークショップ論文集,2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、X線CTや超音波イメージングにおいては、ターゲットとなるトンネルや高層ビルの外壁などといったコンクリート面の後ろ側に検知装置を配置する必要があるため、ターゲットに対する適用範囲が限定されることや測定時間が長くかかってしまうという問題がある。
【0010】
これに対し、熱分布イメージングやマイクロ波イメージングでは、ターゲットからの電磁波を検知する構成であるので簡素なシステム構成によりターゲットに対する適用範囲の拡大が可能である。
【0011】
しかしながら、熱分布イメージングは、ターゲット表面が媒質で覆われている場合には媒質表面の温度分布のみしか可視化できないことや、熱拡散が速やかに広がるために空間解像度が問題となる場合がある。
【0012】
一方で、コンクリートのクラックや剥離などの欠陥を早期診断するには最低でもミリメートル単位の精度が必要であるが、この大きさはマイクロ波の波長よりも小さいため、マイクロ波イメージングにおいては、微細クラックの正確な形状を知るためには空間解像度が問題となる。
【0013】
本発明は、上記問題点に鑑み、コンクリート構造物の表層内部に生じたクラックや剥離などの劣化状態を、ターゲットに対する適用範囲を拡大しつつ高い空間解像度でリアルタイムによる非破壊検査を行うことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
第1の本発明に係る電磁波イメージングシステムは、ミリ波帯の電磁波を発生する電磁波発生手段と、電磁波をターゲットに放射する送信アンテナと、ターゲットで反射した電磁波を受信する受信アンテナと、受信アンテナにより受信された電磁波の反射強度を電気信号に変換する検波器と、少なくとも送信アンテナ及び受信アンテナをターゲットに沿って走査可能な筐体と、筐体が走査した距離を検知する距離検知手段とを備えた移動型電磁波照射・検知装置と、検波器からの出力が入力されるロックインアンプと、ロックインアンプの出力信号及び距離検知手段により検知された距離情報に基づいて画像データを生成する画像データ生成手段と、を有することを特徴とする。
【0015】
本発明におけるターゲットとは、建物やトンネルなどの構造物に使用されるコンクリートなどをさし、ミリ波帯の電磁波とは、周波数が30GHzから300GHzの電磁波をさす。また、媒質とはアンテナとターゲットとの間に介在しミリ波帯の電磁波を伝達可能な仲介物をさす。ミリ波帯の電磁波は、可視光が透過する空気などの媒質だけでなく、人間が身にまとう衣類、住宅建材として使用される木材などの可視光では透過しない媒質も透過し、例えばターゲットであるコンクリートに対しては、周波数が100GHzの場合、10mm程度の深さまでコンクリートの表層を透過する。
【0016】
本発明にあっては、送信アンテナで放射されたミリ波帯の電磁波が、ターゲットで反射し、受信アンテナ及び検波器により検知された反射波の強度をロックインアンプで数値化することで、ターゲットで表面反射した反射波とターゲット表層内部のミリオーダーの欠陥部分で散乱反射した反射波の反射強度の違いから上記欠陥部分を検出する。さらに、筐体でターゲットに沿って走査することで、上記反射波の強度及び距離検知手段により検知した距離情報に基づいて、広範囲に渡ってターゲット表面の二次元画像データを形成する。
【0017】
上記電磁波イメージングシステムにおける移動型電磁波照射・検知装置の検波器は、複数配列されたものであって、各々の検波器からの出力信号を順次切り換えて出力するスイッチを更に有し、スイッチからの出力がロックインアンプに単一チャネルで入力されることを特徴とする。
【0018】
本発明にあっては、複数配列された検波器の各々からの出力信号を、スイッチにより出力信号を順次切り換えるようにしたことで、各検波器からの複数の並列信号を高速に単一出力し、一方向の走査でターゲットの二次元画像データをリアルタイムに生成する。また、単一チャネルで入力されるロックインアンプにより、設計が容易且つ安価なシステムを構築することができる。
【0019】
上記電磁波イメージングシステムにおける移動型電磁波照射・検知装置の送信アンテナの主軸とターゲットに対して垂直な垂直軸とのなす角度は、受信アンテナの主軸と垂直軸とのなす角度と異なることを特徴とする。
【0020】
本発明にあっては、送信アンテナの主軸とターゲットに対して垂直な垂直軸とのなす角度を、受信アンテナの主軸と垂直軸とのなす角度と異なるようにしたことで、ターゲットで表面反射した電磁波成分が受信アンテナに入るのが抑制され、所望信号であるターゲット表層の欠陥部分で散乱反射した電磁波成分のSN比が向上し、上記欠陥部分の検出精度が向上する。
【0021】
上記電磁波イメージングシステムにおける移動型電磁波照射・検知装置の送信アンテナ及び受信アンテナは、主軸が同一である送受信アンテナであって、送受信アンテナの主軸は前記ターゲットに対して垂直な垂直軸と平行でないことを特徴とする。
【0022】
本発明にあっては、主軸が同一である送受信アンテナの主軸が、ターゲットに対して垂直な垂直軸と平行でないようにしたことで、ターゲットで表面反射した電磁波成分が受信アンテナに入るのが抑制され、所望信号であるターゲット表層内部の欠陥部分で散乱反射した電磁波成分のSN比が向上し、上記欠陥部分の検出精度が向上する。
【0023】
上記電磁波イメージングシステムにおける移動型電磁波照射・検知装置の筐体は、ターゲットの表面に接するように備え付けられた車輪を有するものであって、車輪により少なくとも送信アンテナ及び受信アンテナをターゲットの表面に沿って走査可能であることを特徴とする。
【0024】
本発明にあっては、筐体においてターゲットの表面に接するように備え付けられた車輪により、ターゲット表面に沿った移動走査が容易になり、移動型電磁波照射・検知装置の操作性が向上する。
【0025】
第2の本発明に係る移動型電磁波照射・検知装置は、ミリ波帯の電磁波を発生する電磁波発生手段と、電磁波をターゲットに放射する送信アンテナと、ターゲットで反射した電磁波を受信する受信アンテナと、受信アンテナにより受信された電磁波の反射強度を電気信号に変換する検波器と、少なくとも送信アンテナ及び受信アンテナをターゲットに沿って走査する筐体と、筐体が走査した距離を検知する距離検知手段と、を有することを特徴とする。
【0026】
本発明にあっては、送信アンテナで放射されたミリ波帯の電磁波が、ターゲットで反射し、受信アンテナ及び検波器により検知された反射波の強度を外部のロックインアンプで数値化することで、ターゲットで表面反射した反射波とターゲット表層内部のミリオーダーの欠陥部分で散乱反射した反射波の反射強度の違いから上記欠陥部分が検出される。さらに、筐体でターゲットに沿って走査することで、上記反射波の強度及び距離検知手段により検知した距離情報に基づいて、広範囲に渡ってターゲット表面の二次元画像データが形成される。
【0027】
上記移動型電磁波照射・検知装置における検波器は、複数配列されたものであって、各々の検波器からの出力信号を順次切り換えて出力するスイッチを更に有することを特徴とする。
【0028】
本発明にあっては、複数配列された検波器の各々からの出力信号を、スイッチにより出力信号を順次切り換えるようにしたことで、各検波器からの複数の並列信号を高速に単一出力し、一方向の走査でターゲットの二次元画像データがリアルタイムに生成される。
【0029】
上記移動型電磁波照射・検知装置における送信アンテナの主軸とターゲットに対して垂直な垂直軸とのなす角度は、受信アンテナの主軸と垂直軸とのなす角度と異なることを特徴とする。
【0030】
本発明にあっては、送信アンテナの主軸とターゲットに対して垂直な垂直軸とのなす角度を、受信アンテナの主軸と垂直軸とのなす角度と異なるようにしたことで、ターゲットで表面反射した電磁波成分が受信アンテナに入るのが抑制され、所望信号であるターゲット表層の欠陥部分で散乱反射した電磁波成分のSN比が向上し、上記欠陥部分の検出精度が向上する。
【0031】
上記移動型電磁波照射・検知装置における送信アンテナ及び受信アンテナは、主軸が同一である送受信アンテナであって、送受信アンテナの主軸はターゲットに対して垂直な垂直軸と平行でないことを特徴とする。
【0032】
本発明にあっては、主軸が同一である送受信アンテナの主軸が、ターゲットに対して垂直な垂直軸と平行でないようにしたことで、ターゲットで表面反射した電磁波成分が受信アンテナに入るのが抑制され、所望信号であるターゲット表層内部の欠陥部分で散乱反射した電磁波成分のSN比が向上し、上記欠陥部分の検出精度が向上する。
【0033】
上記移動型電磁波照射・検知装置の筐体は、ターゲットの表面に接するように備え付けられた車輪を更に有し、車輪により少なくとも送信アンテナ及び受信アンテナをターゲットの表面に沿って走査することを特徴とする。
【0034】
本発明にあっては、筐体においてターゲットの表面に接するように備え付けられた車輪により、ターゲット表面に沿った移動走査が容易になり、装置の操作性が向上する。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、建物やトンネルなどのコンクリート構造物の表層内部に生じたクラックや剥離などの劣化状態を、ターゲットに対する適用範囲を拡大しつつ高い空間解像度でリアルタイムによる非破壊検査を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。本発明においてターゲットとは、建物やトンネルなどの構造物に使用されるコンクリートなどをさし、ミリ波帯の電磁波(以下、ミリ波と称する)とは、周波数が30GHzから300GHzの電磁波をさす。また、媒質とはアンテナとターゲットとの間に介在しミリ波を伝達可能な仲介物をさす。ミリ波は、可視光が透過する空気などの媒質だけでなく、人間が身にまとう衣類、住宅建材として使用される木材などの可視光では透過しない媒質も透過し、例えばターゲットであるコンクリートに対しては、周波数が100GHzの場合、10mm程度の深さまでコンクリートの表層を透過する。
【0037】
図1は本実施の形態に係る電磁波イメージングシステムの概略的な構成を示す図である。同図に示すように、電磁波イメージングシステム1は、移動型電磁波照射・検知装置2と、ロックインアンプ3と、制御パソコン(以下、制御PC4と称する)で構成される。
【0038】
移動型電磁波照射・検知装置2は、電磁波照射部5からミリ波をターゲットに照射し、ミリ波のターゲットに対する応答性を電磁波検知部6で測定する。測定された検知信号をロックインアンプ3へ伝送する。一方で、車輪付き筐体7が走査した距離を距離センサ8で検知し、検知された距離情報を制御PC4へ伝送する。
【0039】
ロックインアンプ3は、単一チャネルで入力される検知信号を位相感応検波し、ミリ波の反射強度を出力する。単一チャネル入力式のロックインアンプはマルチチャネル入力のロックインアンプを実現するよりもはるかに設計が容易であり且つ安価な計測器である。
【0040】
制御PC4は、ロックインアンプ3で位相感応検波された強度信号及び距離センサ8により検知された距離情報に基づいてターゲットの画像データを生成し、画像表示する。
【0041】
次に、移動型電磁波照射・検知装置の具体的な構成について図2を用いて説明する。同図に示すように、移動型電磁波照射・検知装置2は、電磁波照射部5と、電磁波検知部6と、距離センサ8とを車輪付き筐体7に備える。
【0042】
電磁波照射部5は、電磁波発生器9と、低周波信号器10と、変調器11と、送信アンテナ12で構成される。
【0043】
電磁波発生器9は、ミリ波を発生する。ここでは例えばGUNN発振器を使用し、94〜120GHzのミリ波を発生する。
【0044】
低周波信号器10は、外部のロックインアンプ3が位相感応検波可能な範囲の周波数信号を出力する。一方で、変調器11に周波数信号を出力する。ここでは例えばシンセサイザを使用する。
【0045】
変調器11は、低周波信号器10の出力信号を用いて電磁波発生器9の出力信号を変調する。ここでは例えば、PINスイッチを使用する。
【0046】
送信アンテナ12は、ミリ波をターゲットであるコンクリート16に放射する。ここでは例えばホーンアンテナを使用し、コンクリートにミリ波を拡散照射させる。
【0047】
電磁波検知部6は、受信アンテナ13と、検波器14と、スイッチ15で構成される。
【0048】
受信アンテナ13は、コンクリート16で反射したミリ波を受信する。ここで例えば平面スロットアンテナを使用する。
【0049】
検波器14は、例えば一列に16個配列されるものとし、受信アンテナ13により受信されたミリ波の反射強度を電気信号に変換する。ここで例えば検波器14には、各々が受信アンテナ13に接続されたショットキーダイオードを使用し、ミリ波の反射強度を検知する。
【0050】
スイッチ15は、各々の検波器14からの出力を順次切り換えて外部のロックインアンプ3へ出力する。ここではスイッチ15には400マイクロ秒以下の切り換え速度が可能な電子回路式のPINダイオードスイッチを使用する。これにより16個の検波器14の各々から出力された並列信号が単一入力式のロックインアンプ3に高速出力される。
【0051】
車輪付き筐体7は、移動型電磁波照射・検知装置2をコンクリート16に沿って走査する。ここではコンクリート16の表面に接するように車輪が備え付けられた筐体を使用し、コンクリート16表面に沿った移動走査を容易にしている。車輪付き筐体7のサイズは、例えば数十センチ四方程度の大きさのハンディ型とし、操作者が片手での操作を可能にしている。
【0052】
距離センサ8は、車輪付き筐体7により走査された移動距離を検知し、距離情報を外部の制御PC4へ伝送する。ここでは例えば、車輪付き筐体7の車輪の回転軸に備え付けられロータリーエンコーダにより車輪の移動量を検知し、距離センサ8内部のマイコンにより距離情報を計算し、制御PC4へ伝送する。
【0053】
次に、コンクリートで反射したミリ波の特性について図3を用いて説明する。同図は、コンクリート表面とクラックにおけるミリ波の反射特性を示した図である。コンクリート16の表面からの反射波のビームパターンを実線で、クラック17からの反射波のビームパターンを破線でそれぞれ模式的に示している。
【0054】
同図に示すように、コンクリート16の表面が平らかつ滑らかである場合、コンクリート16に対して垂直な垂直軸Kに対して角度θで入射したミリ波は、垂直軸Kに対して入射側の逆側に表面反射する。このとき入射角と反射角の法則により、垂直軸Kに対して角度θで表面反射するミリ波の強度が最大となる。
【0055】
一方で、ミリ波が10mm程度の深さのコンクリート表層を透過して入射した場合、コンクリート16の内部に浸透したミリ波は、ミリオーダーのクラックが有する凹凸構造により、様々な角度方向に散乱反射する。
【0056】
これにより、受信アンテナ13によりコンクリートで反射したミリ波を受信し、コンクリートで表面反射するミリ波とコンクリート表層内部のクラックで散乱反射するミリ波の反射特性の違いから、クラックを検出することができる。
【0057】
次に、送信アンテナと受信アンテナの構成及び設置方法について図4、5を用いて説明する。
【0058】
図4は、送信アンテナと受信アンテナの構成を概略的に示した図である。電磁波照射部5と電磁波検知部6においては、異なるアンテナを用いたバイスタティック系の電磁波送受信方式により、ミリ波の送受信を行うこととし、同図(a)、(b)に示すように、電磁波照射部5における送信アンテナ12には主軸がB1で表されるホーンアンテナを使用し、電磁波検知部6における受信アンテナ13には主軸がB2で表される平面スロットアンテナを使用する。
【0059】
図5は、電磁波照射部と電磁波検知部のコンクリートに対する設置例を示す。同図に示すように、コンクリート16の表面に垂直な垂直軸Kとしたとき、送信アンテナ12の主軸B1及び垂直軸Kのなす角度θと、受信アンテナ13の主軸B2及び垂直軸Kのなす角度θとが異なるように設置する。同図では、受信アンテナ13の主軸B2及び垂直軸Kのなす角度θが、θよりも角度φだけ大きい状態を示している。
【0060】
このように送信アンテナ12と受信アンテナ13を設置することで、受信アンテナ13の方向とコンクリート16で表面反射したミリ波成分の進行方向とが異なるので、表面反射したミリ波成分が受信アンテナ13に入るのが抑制され、所望信号であるコンクリート16表層内部のクラック17で散乱反射したミリ波成分のSN比が向上し、クラック17の検出精度が向上する。
【0061】
このような構成としたことで、移動型電磁波照射・検知装置2の電磁波発生器9で発生したミリ波は、車輪付き筐体7底面の開口部からコンクリート16へ照射され、コンクリート16で反射した反射波が複数の受信アンテナ13で受信され、それぞれの受信アンテナ13に対応する検波器14によって検知される。検知された反射強度は、ダイオードの整流作用によって電圧値に変換され、ロックインアンプ3によりその強度が数値化され制御PC4の画面に表示される。このとき、コンクリート16で表面反射した反射波と、コンクリート表層内部のミリオーダーのクラック17で散乱反射した反射波の反射強度の違いから、クラック17を検知することができる。
【0062】
さらに、一列に配列された検波器14の各々から並列出力された出力信号を、電子回路式の切り換えスイッチ15により順次切り換えるようにしたことで、各検波器からの複数の並列信号が高速に出力され、一方向の走査で画像データを生成することができる。
【0063】
これにより、操作者が手で車輪付き筐体7をコンクリートの表面に沿って走査すると、距離センサ8によって移動距離情報が制御PC4に伝送される。一方で、制御PC4により、ロックインアンプ3で数値化されたスイッチ15からの出力信号の強度を、移動距離に合わせて次々に描画することで、広範囲に渡ってコンクリート16表面の二次元画像をリアルタイムに得ることができる。
【0064】
次に、本発明の効果を実証するために、電磁波イメージングシステムによる撮像実験について図6,7を用いて説明する。
【0065】
図6は電磁波イメージングシステムにより撮像を行ったコンクリートの外壁を示す平面図である。同図に示すように、コンクリート16の表層に、幅1mmのクラック17が生じており、コンクリート16の中央部分に不透明な厚さ5mmのABS樹脂板18が被せてある。クラック17は、ABS樹脂板18の下に位置するため、目視、CCDカメラなどによる可視光では観察することはできない。
【0066】
ここで測定条件は、媒質をABS樹脂板、ターゲットをコンクリート、電磁波発生器の中心周波数を100GHz、電磁波強度を40mW、平面スロットアンテナの間隔を5mm毎とし、検波器であるショットキーダイオードを16素子、ショットキーダイオードの感度を100mV/mWとした。
【0067】
以上のような条件下で、移動型電磁波照射・検知装置2をABS樹脂板18の表面に沿って走査し、撮像領域19を撮像した。その結果、図7に示すような撮像画像を得た。縦軸はショットキーダイオードが配列された方向を示し、横軸は走査方向を示している。撮像画像において白い部分は反射強度が大きいことを示し、黒い部分は反射強度が小さいことを示している。
【0068】
撮像画像においては、コンクリート16で表面反射したミリ波の反射強度は大きく、コンクリート表層で生じたクラック17で散乱反射したミリ波の反射強度はより小さい値となっており、両者の違いが判別できる。
【0069】
これにより、媒質であるABS樹脂を透過して、ターゲットであるコンクリート表層のクラックを明瞭に検出可能であることがわかる。
【0070】
以上のことから、電磁波イメージングシステムにおいて、ミリ波により媒質を透視し、隠匿された危険物の察知や媒質内部のターゲットの非破壊検査に応用することが可能であることを示している。
【0071】
また、ミリ波の波長はX線に比べて格段に小さいので、例えば、コンクリートの表面が壁紙クロスや塗装などの媒質によって覆われている場合には、媒質をイオン化し損傷させるなどの危険性はない。
【0072】
したがって、本実施の形態によれば、送信アンテナ12で放射されたミリ波が、媒質を透過した後にターゲットで反射し、受信アンテナ13及び検波器14により検知された反射波の強度を、ロックインアンプ3で数値化することで、コンクリート16で表面反射した反射波と、コンクリート16表層内部のミリオーダーのクラック17で散乱反射した反射波の反射強度の違いから、クラック17が検出可能になる。さらに、車輪付き筐体7でコンクリート16の表面に沿って走査することで、距離センサ8により検知した距離情報に基づいて、広範囲に渡ってコンクリート16表面の二次元画像データを形成することが可能となる。
【0073】
また、一列に配列された検波器14の各々から並列出力された出力信号を、電子回路式の切り換えスイッチ15により出力信号を順次切り換えるようにしたことで、各検波器からの複数の並列信号が高速に出力処理され、一方向の走査で画像データを生成することができる。これにより、ロックインアンプ3で数値化されたスイッチ15からの出力信号の強度を、移動距離に合わせて次々に描画することで、コンクリート16表面の二次元画像をリアルタイムに得ることができる。
【0074】
さらに、送信アンテナ12と受信アンテナ13を、送信アンテナ12の主軸B1及び垂直軸Kのなす角度θと受信アンテナ13の主軸B2及び垂直軸Kのなす角度θとが異なるように設置することで、ターゲットで表面反射したミリ波成分が受信アンテナに入るのが抑制され、所望信号であるコンクリート16の表層のクラック17で散乱反射したミリ波成分のSN比が向上し、クラック17の検出精度が向上する。
【0075】
よって、本実施の形態によれば、コンクリート構造物の表層内部に生じたクラックや剥離などの劣化状態を、ターゲットに対する適用範囲を拡大しつつ高い空間解像度でリアルタイムによる非破壊検査を行うことができる。
【0076】
その他、電磁波イメージングシステム1において、ロックインアンプ3には、単一チャネルで入力される信号を位相感応検波する単一チャネル入力式のロックインアンプを使用することで、設計が容易且つ安価なシステムを構築することができる。
【0077】
また、移動型電磁波照射・検知装置2において、ターゲットの表面に接するように車輪が備え付けられた車輪付き筐体7を使用することで、ターゲット表面に沿った移動走査が容易になり、操作性が向上する。
【0078】
[その他の形態について]
また、本実施の形態において、移動型電磁波照射・検知装置におけるアンテナは、異なる送信アンテナと受信アンテナを使用したバイスタティック系の電磁波送受信方式により電磁波を送受信するようにし、送信アンテナの主軸とターゲットに対して垂直な垂直軸とのなす角度が、受信アンテナの主軸とターゲットに対して垂直な垂直軸とのなす角度と異なるような構成としたが、これに限られるものではない。例えば、送信アンテナと受信アンテナの主軸が同一である送受信アンテナを使用したモノスタティック系の電磁波送受信方式により電磁波を送受信するようにしてもよい。
【0079】
このような場合は、主軸が同一である送受信アンテナの主軸が、ターゲットに対して垂直な垂直軸と平行でないようにすることで、ターゲットで表面反射した電磁波成分が受信アンテナに入るのが抑制され、所望信号であるターゲット表層内部の欠陥部分で散乱反射した電磁波成分のSN比が向上し、欠陥部分の検出精度が向上する。
【0080】
尚、本実施の形態においては、検波器14を一列に16個配列し、電子回路式のPINダイオードスイッチにより検波器14の各々から出力された並列信号をロックインアンプ3に出力するような構成としたが、これに限られるものではなく、例えば、検波器14を100個並列に並べて、PINダイオードスイッチによりロックインアンプ3に出力するような構成にしてもよい。
【0081】
この構成においては、本実施の形態による効果に加えてPINダイオードスイッチは400マイクロ秒以下の切り換え速度が可能であるので、40ミリ秒程度の時間で全ての検波器14の出力を測定することができ、画像データの解像度が向上する。
【0082】
また、本実施の形態においては、車輪付き筐体により移動型電磁波照射・検知装置をターゲットの表面に沿って走査するような構成としたが、これに限られるものではなく、車輪付き筐体により、少なくとも送信アンテナと受信アンテナを走査する構成であれば、本実施の形態と同等な効果を奏することができる。
【0083】
また、本実施の形態においては、移動型電磁波照射・検知装置の車輪付き筐体のサイズは、数十センチ四方程度の大きさのハンディ型とし、操作者が片手で操作を行うことができるようにしたが、これに限られるものではない。
【0084】
例えば、車輪付き筐体のサイズを大きくし、筐体内部にロックインアンプや制御PCを組み込むことで、操作者が移動型電磁波照射・検知装置を乗用可能とし、検査領域が広い環境下などにおいて、操作者がターゲット上を乗用型の移動型電磁波照射・検知装置を運転しながら、検査を行うシステム構成にしてもよい。この場合においては、本実施の形態と同等な効果に加え利便性が向上する。
【0085】
また、本実施の形態においては、車輪付き筐体により走査された距離情報を検知する距離センサは、車輪付き筐体の車輪の回転軸に備え付けられロータリーエンコーダにより車輪の移動量を検知するようにしたが、これに限られるものではなく、例えば、筐体の底面に発光器と受光器を備え、ターゲット上に光を反射しやすい専用のパッドを配置し、発光器からの光をパッド上で反射させ、受光器で受光した反射光の強度から移動量を光学的に検知するような構成にしてもよい。これにより本実施の形態と同等な効果に加え、距離センサによる距離情報の測定精度が向上する。また、所望ターゲット信号のS/N比が良好な場合は、ロックインアンプは不要である。
【0086】
その他、移動型電磁波照射・検知装置においてターゲットであるコンクリート表面のごみや埃、水分などを測定前に取り除くことが可能なクリーナ機能を備えるようにしてもよい。これにより本実施の形態と同等な効果に加え、クラックなどの微細な欠陥部分からの反射波に影響するごみや、反射波の減衰に影響する水分などを除去することができ、所望信号である反射波のSN比を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本実施の形態に係る電磁波イメージングシステムの概略的な構成を示す図である。
【図2】図1の電磁波イメージングシステムにおける移動型電磁波照射・検知装置の構成を示す概略図である。
【図3】コンクリート表面とクラックにおけるミリ波の反射特性を示した図である。
【図4】図2の移動型電磁波照射・検知装置における送信アンテナと受信アンテナの概略的な構成を示した図である。
【図5】図2の移動型電磁波照射・検知装置における電磁波照射部と電磁波検知部の訓句リートに対する設置例を示す。
【図6】電磁波イメージングシステムにより撮像を行ったコンクリートの外壁を示す平面図である。
【図7】図6の電磁波イメージングシステムによる撮像結果である。
【符号の説明】
【0088】
1…電磁波イメージングシステム
2…移動型電磁波照射・検知装置
3…ロックインアンプ
4…制御PC
5…電磁波照射部
6…電磁波検知部
7…車輪付き筐体
8…距離センサ
9…電磁波発生器
10…低周波信号器
11…変調器
12…送信アンテナ
13…受信アンテナ
14…検波器
15…スイッチ
16…コンクリート
17…クラック
18…ABS樹脂カバー
19…撮像領域


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミリ波帯の電磁波を発生する電磁波発生手段と、当該電磁波をターゲットに放射する送信アンテナと、前記ターゲットで反射した電磁波を受信する受信アンテナと、前記受信アンテナにより受信された電磁波の反射強度を電気信号に変換する検波器と、少なくとも前記送信アンテナ及び前記受信アンテナを前記ターゲットに沿って走査可能な筐体と、当該筐体が走査した距離を検知する距離検知手段とを備えた移動型電磁波照射・検知装置と、
前記検波器からの出力が入力されるロックインアンプと、
当該ロックインアンプの出力信号及び前記距離検知手段により検知された距離情報に基づいて画像データを生成する画像データ生成手段と、
を有することを特徴とする電磁波イメージングシステム。
【請求項2】
前記検波器は、複数配列されたものであって、各々の検波器からの出力信号を順次切り換えて出力するスイッチを更に有し、
前記スイッチからの出力が前記ロックインアンプに単一チャネルで入力されることを特徴とする請求項1に記載の電磁波イメージングシステム。
【請求項3】
前記送信アンテナの主軸と前記ターゲットに対して垂直な垂直軸とのなす角度は、前記受信アンテナの主軸と前記垂直軸とのなす角度と異なることを特徴とする請求項1又は2に記載の電磁波イメージングシステム。
【請求項4】
前記送信アンテナ及び前記受信アンテナは、主軸が同一である送受信アンテナであって、当該送受信アンテナの主軸は前記ターゲットに対して垂直な垂直軸と平行でないことを特徴とする請求項1又は2に記載の電磁波イメージングシステム。
【請求項5】
前記筐体は、前記ターゲットの表面に接するように備え付けられた車輪を有するものであって、当該車輪により少なくとも前記送信アンテナ及び前記受信アンテナを前記ターゲットの表面に沿って走査可能であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の電磁波イメージングシステム。
【請求項6】
ミリ波帯の電磁波を発生する電磁波発生手段と、
当該電磁波をターゲットに放射する送信アンテナと、
前記ターゲットで反射した電磁波を受信する受信アンテナと、
当該受信アンテナにより受信された電磁波の反射強度を電気信号に変換する検波器と、
少なくとも前記送信アンテナ及び前記受信アンテナを前記ターゲットに沿って走査可能な筐体と、
当該筐体が走査した距離を検知する距離検知手段と、
を有することを特徴とする移動型電磁波照射・検知装置。
【請求項7】
前記検波器は、複数配列されたものであって、各々の検波器からの出力信号を順次切り換えて出力するスイッチを更に有することを特徴とする請求項6に記載の移動型電磁波照射・検知装置。
【請求項8】
前記送信アンテナの主軸と前記ターゲットに対して垂直な垂直軸とのなす角度は、前記受信アンテナの主軸と前記垂直軸とのなす角度と異なることを特徴とする請求項6又は7に記載の移動型電磁波照射・検知装置。
【請求項9】
前記送信アンテナ及び前記受信アンテナは、主軸が同一である送受信アンテナであって、当該送受信アンテナの主軸は前記ターゲットに対して垂直な垂直軸と平行でないことを特徴とする請求項6又は7に記載の移動型電磁波照射・検知装置。
【請求項10】
前記筐体は、前記ターゲットの表面に接するように備え付けられた車輪を有するものであって、当該車輪により少なくとも前記送信アンテナ及び前記受信アンテナを前記ターゲットの表面に沿って走査可能であることを特徴とする請求項6乃至9のいずれかに記載の移動型電磁波照射・検知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−121214(P2007−121214A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−316793(P2005−316793)
【出願日】平成17年10月31日(2005.10.31)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】