説明

電磁波透過光輝性塗料及び塗装製品

【課題】 レーダー波等の電磁波透過性と光輝性に優れるだけでなく、第3成分としての着色剤を用いなくても光輝材の調整だけで多彩なカラーバリエーションを持たせることができ、該カラーバリエーションから所望の光輝性カラーを得ることができるようにする。
【解決手段】 サイドモール11は、塗膜主材2に細片状の光輝材3が分散した光輝性塗膜1が製品基材10の表面に形成されたものである。光輝材3は、透明な金属化合物よりなり表面の十点平均粗さが50nm以下である母材4と、該母材4に被覆された透明な金属化合物よりなる被覆材5とからなるものであり(積層タイプ)、被覆材5の屈折率と母材4の屈折率との差が0.9以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波を送受するレーダー等のアンテナを覆う製品の塗装に適する電磁波透過光輝性塗料と、該塗装を施した電磁波透過光輝性塗装製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車が周囲の物に接近したことを運転者に警告するために、距離測定用のレーダーを自動車の各部に設けることが検討されている。例えば特許文献1には、樹脂板とクロム装飾条片とからなるフロントグリルの背後にレーダーアンテナを設け、レーダーアンテナの直前部分は、電磁波を反射又は散乱するクロム装飾条片に代えてインジウムの蒸着層を有する被覆部材とすることが記載されている。
【0003】
しかし、蒸着やその他スパッタリング等の成膜法には専用設備が必要であり、大掛かりな工程になりコストもかかる。そこで、特許文献2では、ラジエターグリル等の光輝性塗膜を、光輝材としてのパールマイカ等を含有する塗料により簡単に塗布形成することが提案されている。この塗膜は、電磁波透過性であるとともに、パールマイカにより光輝性を有する。
【特許文献1】特開2000−159039号公報
【特許文献2】特開2004−244516号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
最近は、自動車のラジエターグリルだけでなく、図3に示すように、サイドモール11やバックパネル等の背後にもレーダーアンテナ12を設けることが検討されている。しかし、サイドモール11やバックパネルをボディ13と同一の光輝性カラーにする場合に、特許文献2のパールマイカ含有の塗料では対応が難しいという問題がある。
【0005】
すなわち、ボディ13を光輝性カラーに塗装するには、アルミニウムと顔料とを合わせたメタリック塗料を用いている。これに対し、サイドモール11を仮に同じメタリック塗料で塗装すれば、ボディ13と同一の光輝性カラーは得られるが、電磁波透過性が低くなってしまう。そこで、図4(a)に示すように、サイドモール11に前記パールマイカ51含有の塗料で塗膜54を形成すると、電磁波透過性は得られるが、ボディ13と同一の光輝性カラーは得られない。なぜなら、図4(b)に示すように、パールマイカ51はマイカ52(天然雲母の粉砕物)を酸化チタンからなる被覆材53で被覆したものであり、被覆材53の膜厚でカラーが決まる。ところが、マイカ52の表面は凹凸が大きいため、被覆材53の膜厚を均一にコントロールすることが難しく、所望のカラーが出せない(カラーバリエーションが狭い)のである。
【0006】
また、塗膜54への入射光は、マイカ52の表層と被覆材53の表層における凹凸により乱反射を起こすため、塗膜外観上、メタリック塗装ほどの光輝性が得られない。
【0007】
また、被覆材53の膜厚の大きい部位で、透過させたい周波数領域の電磁波を多少干渉(反射)させてしまう結果、電磁波透過性が多少劣るという問題もある。
【0008】
本発明の目的は、レーダー波等の電磁波透過性と光輝性に優れるだけでなく、第3成分としての着色剤を用いなくても光輝材の被覆材の調節だけで多彩なカラーバリエーションを持たせることができ、該カラーバリエーションから所望の光輝性カラーを得ることができる電磁波透過光輝性塗料及び塗装製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1群の発明は、次の手段を採ったものである。
(1A)塗料主材に細片状の光輝材を配合した光輝性塗料において、光輝材が、透明な金属化合物よりなり表面の十点平均粗さが50nm以下である母材と、該母材に被覆された透明な金属化合物よりなる被覆材とからなるものであり、被覆材の屈折率と母材の屈折率との差が0.9以上であることを特徴とする電磁波透過光輝性塗料。被覆材の屈折率と母材の屈折率とは、前者が後者より大きくてもよいし、後者が前者より大きくてもよい。
(1B)塗膜主材に細片状の光輝材が分散した光輝性塗膜が製品基材の表面に形成された光輝性塗装製品において、光輝材が、透明な金属化合物よりなり表面の十点平均粗さが50nm以下である母材と、該母材に被覆された透明な金属化合物よりなる被覆材とからなるものであり、被覆材の屈折率と母材の屈折率との差が0.9以上であることを特徴とする電磁波透過光輝性塗装製品。被覆材の屈折率と母材の屈折率とは、前者が後者より大きくてもよいし、後者が前者より大きくてもよい。
【0010】
第2群の発明は、次の手段を採ったものである。
(2A)塗料主材に細片状の光輝材を配合した光輝性塗料において、光輝材が、透明な金属化合物よりなり表面の十点平均粗さが50nm以下である母材のみからなるものであり、光輝材の屈折率が塗料主材が乾燥して形成される塗膜主材の屈折率より0.9以上大きいことを特徴とする電磁波透過光輝性塗料。
(2B)塗膜主材に細片状の光輝材が分散した光輝性塗膜が製品基材の表面に形成された光輝性塗装製品において、光輝材が、透明な金属化合物よりなり表面の十点平均粗さが50nm以下である母材のみからなるものであり、光輝材の屈折率が塗膜主材の屈折率より0.9以上大きいことを特徴とする電磁波透過光輝性塗装製品。
【0011】
上記の各発明における各要素の態様を例示する。
1.塗料主材(塗膜主材の原料)
塗料主材としては、特に限定されないが、ウレタン系、アクリル系、ポリエステル系、ラッカー系等を例示できる。これらのうち好ましくはウレタン系塗料であり、アクリルウレタン、ポリエステルウレタン等を例示できる。ウレタン系塗料の硬化剤としてはイソシアネートを使用するが、無黄変タイプのイソシアネートが適している。無黄変タイプとしてHDI(ヘキサメチレンジイソシアネート)、IPDI(イソホロンジイソシアネート)などがある。
【0012】
2.光輝材
2−1.母材
母材の材料は、特に限定されないが、第1群の発明と第2群の発明とで次のように異なる。
第1群の発明における母材を形成する透明な金属化合物としては、その屈折率が被覆材より小さい場合、それを満たしやすいものとして酸化ケイ素(SiO2)、酸化アルミニウム(Al23)等の金属酸化物を例示でき、その屈折率が被覆材より大きい場合、それを満たしやすいものとして酸化チタン(TiO2)、酸化鉄(Fe23)、酸化セレン(CeO)、酸化ジルコン(ZrO)等の金属酸化物や、硫化亜鉛(ZnS)等を例示できる。
第2群の発明における母材を形成する透明な金属化合物は、屈折率が塗膜主材の屈折率より0.9以上大きい必要があり、それを満たせば特に限定されないのであるが、それを満たしやすいものとしてTiO2、Fe23、CeO、ZrO等の金属酸化物や、ZnS等を例示的できる。これらの各材料の屈折率を次の表1に示す。
【0013】
【表1】

【0014】
母材の表面性状は、平滑であるほど好ましく、表面の十点平均粗さは50nm以下とするが、20nm以下が好ましく、10nm以下がより好ましい。表面の十点平均粗さが50nmを越えると、電磁波透過性上は特に問題ないが、所望のカラーが得られにくく、また、十分な輝度が得られにくい。
母材の平面寸法(平均片径)は、特に限定されないが、2〜60μmが好ましく、10〜30μmがより好ましい。
母材の厚さについては、第1群の発明と第2群の発明とで次のように異なる。第1群の発明における母材の厚さは、電磁波透過性上は特に限定されないが、外観成立上は平均厚さ1000nm以下が好ましく、300〜700nmがさらに好ましい。第2群の発明における母材の厚さは、これを調整することにより特定波長の可視光を選択的に干渉して所望のカラーを帯びさせる意義を有し、特に限定されないが、140〜400nmの範囲で調整すれば、不足のない多種のカラーから所望のカラーを選択的に得ることができる。
【0015】
2−2.被覆材
第1群の発明において、被覆材を形成する透明な金属酸化物は、特に限定されないが、その屈折率が母材より大きい場合、それを満たしやすいものとしてTiO2、Fe23、CeO、ZrO等の金属酸化物や、ZnS等を例示でき、その屈折率が母材より小さい場合、それを満たしやすいものとしてSiO2、Al23等の金属酸化物を例示でき、る。
被覆材の厚さは、これを調整することにより特定波長の可視光を選択的に干渉して所望のカラーを帯びさせる意義を有し、特に限定されないが、140〜400nmの範囲で調整すれば、不足のない多種のカラーから所望のカラーを選択的に得ることができる。
【0016】
2−3.屈折率差
第1群の発明における被覆材と母材との屈折率差は0.9以上とするが、0.97以上が好ましく、1.2以上がさらに好ましい。
第2群の発明における光輝材と塗膜主材との屈折率差は0.9以上とするが、0.97以上が好ましい。
【0017】
2−4.配合量
光輝材の配合量は、特に限定されないが、3〜20質量%(塗料主材100質量%に対し)が適しており、塗装製品の物性、外観、電磁波透過性を考慮すると5〜15質量%さらに好ましい。
【0018】
3.塗膜
塗膜厚は、特に限定されないが、5〜30μmが好ましく、外観性能と諸物性を考慮すると10〜25μmがより好ましい。
【0019】
4.製品基材
塗装製品の基材としては、特に限定されないが、熱可塑性樹脂が好ましく、ポリカーボネート、ABS、AES、PP、ポリウレタン等を例示できる。
【0020】
5.塗装製品
本発明の適用可能な製品の種類は、特に限定されないが、自動車の外装塗装製品への適用が好ましく、特にサイドモール、バックパネル、ラジエータグリル、グルルカバー、バンパー、エンブレム等に適する。
【発明の効果】
【0021】
本発明の電磁波透過光輝性塗料及び塗装製品によれば、レーダー波等の電磁波透過性と光輝性に優れるだけでなく、第3成分としての着色剤を用いなくても光輝材の被覆材の調節だけで多彩なカラーバリエーションを持たせることができ、該カラーバリエーションから所望の光輝性カラーを得ることができることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1(a)に示す光輝性塗装製品の一例としてのサイドモール11は、塗膜主材2(例えばアクリル系塗料)に細片状の光輝材3が分散した光輝性塗膜1が製品基材10の表面に形成されたものである。光輝材3は、図1(b)に示すように、透明な金属化合物(例えばSiO2)よりなり表面の十点平均粗さが20nm以下である母材4と、該母材4に被覆された透明な金属化合物(例えばTiO2)よりなる被覆材5とからなるものであり(以下、積層タイプという)、被覆材5の屈折率が母材4の屈折率より0.9以上大きい。
【0023】
被覆材5の厚さを140〜400nmの範囲で調整し、特定波長の可視光を選択的に干渉して所望のカラーを帯びさせることにより、不足のない多種のカラーから所望のカラーを選択的に得ることができる。この被覆材5は、その他の波長(周波数)の電磁波、例えば波長1〜10mmのレーダー波等については干渉せずに透過させる。その他、母材4及び塗膜主材2もレーダー波等の電磁波をよく透過する。
【0024】
図2(a)に示す光輝性塗装製品の一例としてのサイドモール11は、塗膜主材2(例えばアクリル系塗料)に細片状の光輝材6が分散した光輝性塗膜1が製品基材10の表面に形成されたものである。光輝材6は、図2(b)に示すように、透明な金属化合物(例えばZnS)よりなり表面の十点平均粗さが20nm以下である母材のみからなるものであり(以下、単層タイプという)、光輝材6の屈折率が塗膜主材2の屈折率より0.9以上大きい。
【0025】
光輝材6の厚さを140〜400nmの範囲で調整し、特定波長の可視光を選択的に干渉して所望のカラーを帯びさせることにより、不足のない多種のカラーから所望のカラーを選択的に得ることができる。この光輝材6は、その他の波長(周波数)の電磁波、例えば波長1〜10mmのレーダー波等については干渉せずに透過させる。その他、塗膜主材2もレーダー波等の電磁波をよく透過する。
【実施例】
【0026】
150mm×150mm×5mmのポリカーボネート基材の表面に、次の表2に示す実施例1〜5及び比較例1〜4の光輝性塗料を塗布し(室温×3分でセッティング)した後、80℃×30分で乾燥及び焼き付けし、膜厚12〜13μmの光輝性塗膜を形成して、サンプルとした。何れの例も、光輝材を配合した塗料(塗料主剤)は、1液性アクリル系塗料(オリジン電気株式会社の商品名「プラネットPX−8」)である。実施例1〜3,5の光輝材は前述した図1(b)の積層タイプであり、母材の十点平均粗さは20nm以下、被覆材と母材の屈折率差は1.2〜1.58である。実施例4の光輝材は前述した図2(b)の単層タイプであり、母材の十点平均粗さは20nm以下、光輝材と塗膜主材との屈折率差は0.97である。比較例1,2の光輝材は図4(b)のものであり、比較例3,4の光輝材は図1(b)の被覆材を金属に変更したものである。塗料中の光輝材の濃度(PWC* )は、塗料全固形分中の光輝材の重量濃度である。
【0027】
そして、これらのサンプルに対して次の測定を行った。
1.電磁波透過減衰率: 財団法人ファインセラミックスセンター所有の電磁波吸収測定装置(自由空間法)を使用し、室温にてWバンド(76.575GHz)の電磁波を入射角度0°にてサンプルに入射させ、電磁波透過減衰率を求めた。
2.色調: サンプルに白色光を当て、目視により、光輝性塗膜の呈する色調を調べた。
3.光輝感: 関西ペイント株式会社の半導体レーザー式非接触測定装置(商品名「ALCOPE LMR−200」)を使用し、SV値**(シェードバリュー)を測定した。この値が小さいほど光輝感が高い。
4.塗膜性能: 碁盤目粘着テープテストを行った。
【0028】
【表2】

【0029】
表2に測定結果を示すとおり、76.575GHzの電磁波の減衰率は、比較例1〜4に対して実施例1〜5の方が小さく、これは透過性がよいことを示している。また、比較例1〜4では色調がいずれもシルバーであり、カラーバリエーションが狭いのに対して、実施例1〜3,5では、被覆材の厚さを調整することにより種々の色調が得られており、カラーバリエーションが広い。また、実施例4の単層タイプでもシルバー以外のブルーの色調が得られており、その光輝材(母材)の厚さを変えれば色調も変化する。また、実施例1〜4,6では高い光輝感が得られている。塗膜性能は何れも合格であった。
【0030】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】積層タイプの光輝材を用いた実施例を示し、(a)は電磁波透過光輝性塗装製品の断面図、(b)は光輝材の断面図である。
【図2】単層タイプの光輝材を用いた実施例を示し、(a)は電磁波透過光輝性塗装製品の断面図、(b)は光輝材の断面図である。
【図3】自動車のサイドモールを示す側面図である。
【図4】従来の光輝材を用いた例を示し、(a)は電磁波透過光輝性塗装製品の断面図、(b)は光輝材の断面図である。
【符号の説明】
【0032】
1 光輝性塗膜
2 塗膜主材
3 光輝材
4 母材
5 被覆材
10 製品基材
11 サイドモール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗料主材に細片状の光輝材を配合した光輝性塗料において、光輝材が、透明な金属化合物よりなり表面の十点平均粗さが50nm以下である母材と、該母材に被覆された透明な金属化合物よりなる被覆材とからなるものであり、被覆材の屈折率と母材の屈折率との差が0.9以上であることを特徴とする電磁波透過光輝性塗料。
【請求項2】
塗膜主材に細片状の光輝材が分散した光輝性塗膜が製品基材の表面に形成された光輝性塗装製品において、光輝材が、透明な金属化合物よりなり表面の十点平均粗さが50nm以下である母材と、該母材に被覆された透明な金属化合物よりなる被覆材とからなるものであり、被覆材の屈折率と母材の屈折率との差が0.9以上であることを特徴とする電磁波透過光輝性塗装製品。
【請求項3】
塗料主材に細片状の光輝材を配合した光輝性塗料において、光輝材が、透明な金属化合物よりなり表面の十点平均粗さが50nm以下である母材のみからなるものであり、光輝材の屈折率が塗料主材が乾燥して形成される塗膜主材の屈折率より0.9以上大きいことを特徴とする電磁波透過光輝性塗料。
【請求項4】
塗膜主材に細片状の光輝材が分散した光輝性塗膜が製品基材の表面に形成された光輝性塗装製品において、光輝材が、透明な金属化合物よりなり表面の十点平均粗さが50nm以下である母材のみからなるものであり、光輝材の屈折率が塗膜主材の屈折率より0.9以上大きいことを特徴とする電磁波透過光輝性塗装製品。
【請求項5】
被覆材の厚さを140〜400nmの範囲で調整することにより、特定波長の可視光を選択的に干渉して所望のカラーを帯びさせる請求項1記載の電磁波透過光輝性塗料又は請求項2記載の電磁波透過光輝性塗装製品。
【請求項6】
母材の厚さを140〜400nmの範囲で調整することにより、特定波長の可視光を選択的に干渉して所望のカラーを帯びさせる請求項3記載の電磁波透過光輝性塗料又は請求項4記載の電磁波透過光輝性塗装製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−282886(P2006−282886A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−105540(P2005−105540)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】