説明

電磁界空間分布測定装置

【課題】 一定空間内での電磁界強度の分布を簡便かつ短時間に求めることのできる小型化された電磁界空間分布測定装置を提供する。
【解決手段】 電磁界空間分布測定装置は、電界強度と磁界強度の少なくとも一方を検出するセンサと、前記センサの極座標を取得する位置決め装置とを備え、位置決め装置は、当該位置決め装置と前記センサとを接続する糸状部材と、糸状部材の延びる方向に基づいて角度情報を取得する角度情報取得部と、位置決め装置から前記センサまでの糸状部材の長さに比例した距離情報を取得する距離情報取得部とを含み、前記角度情報および距離情報に基づいて、センサの極座標を取得する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波強度の空間分布測定装置に関し、特に、屋内で電磁界強度の空間分布を簡便に測定することのできる電磁界空間分布測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話システム、無線LANシステム等、屋内での無線システムの利用が進むにつれ、屋内での電波強度評価が重要になってくる。
【0003】
電磁界強度の空間分布を測定する従来の方法として、図1に示すように、センサを駆動装置で駆動しながら電磁界強度を測定する測定装置が知られている(たとえば、特許文献1参照)。このような測定装置は、センサ101と、センサ101の位置を決定する位置決め装置102と、各位置でセンサ101が測定した強度情報を読み取るパーソナルコンピュータ103から構成される。位置決め装置102は、センサ101を固定支持するロッド102bと、センサ101をXY平面内で駆動する駆動装置102aとを有する。パーソナルコンピュータ103は、センサ101のXY平面内での位置を指定する命令を、駆動装置102aに与える。センサ101をXY平面内で次々と移動し、対応する位置での強度情報を取得することによって、電界または磁界の分布を得ることができる。
【0004】
一方、室内における電界強度の分布を測定地点の座標とともに取得する装置として、室内を走行して電界強度を測定する測定用車輌と、室内に配置された超音波発生器とを組み合わせる方法が提案されている(たとえば特許文献2参照)。この方法では、測定用車輌は、通信電波を受信する受信アンテナと、超音波受信用のマイクロフォンとを備え、同期された個別の超音波信号を受信、処理することで、測定車輌の現在座標を取得する。取得した座標と、受信アンテナで受信した電界強度とを用いて強度分布のグラフを作成する。
【特許文献1】特開2001−13182号公報
【特許文献2】特開平9−189732号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示される方法は、センサを所定の位置に駆動するための駆動装置が必要である。特に、開示される構成では、X方向およびY方向に延びるレールを設置し、レールに沿ってセンサを駆動するので大掛かりな駆動機構が必要となる。
【0006】
特許文献2に開示される方法では、測定車輌は自動あるいはオペレータによる操作で走行し、その位置を互いに同期して発信された超音波の受信時間差に基づいて検出する。したがって、室内に複数の超音波発生装置を取り付ける必要がある。
【0007】
個人レベルでの無線システムの屋内利用の普及を考えると、複雑な装置を必要とせずに、より簡便かつ短時間に、所定空間での電波強度分布を測定できる装置が望まれる。
【0008】
そこで、本発明は、位置決め用の駆動装置や、位置取得用の超音波発生装置を必要とせずに、一定空間内での電磁界強度の分布を容易に求めることのできる小型化された電磁界空間分布測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明では、センサを位置決め装置から延びる糸状部材で接続し、糸状部材の延びた方向と長さによって、センサの現在位置を簡便に求める構成とする。
【0010】
より具体的には、電磁界空間分布測定装置は、電界強度と磁界強度の少なくとも一方を検出するセンサと、センサの極座標を取得する位置決め装置とを備え、位置決め装置は、当該位置決め装置と前記センサとを接続する糸状部材と、糸状部材の延びる方向に基づいて角度情報を取得する角度情報取得部と、位置決め装置からセンサまでの糸状部材の長さに比例した距離情報を取得する距離情報取得部とを含み、角度情報および距離情報に基づいて、前記センサの極座標を取得する。
【0011】
このような構成により、測定者がセンサを手に持って自由に空間を移動させると、センサの移動に応じてセンサの極座標(r,θ,φ)が求まり、センサが測定した電界/磁界強度と、対応するセンサの位置とに基づいて、電磁界強度の空間分布を容易に求めることができる。
【0012】
好ましい構成例として、位置決め装置は、距離情報取得部が取得した距離情報の微分を求める距離情報微分回路と、微分結果に基づいて、前記糸状部材の張りを調整する張力制御部とをさらに有する。
【0013】
この構成では、センサまでの距離の微分を求めることにより、センサの移動速度に応じて糸状部材の張りを適切に制御することができる。たとえば、室内などのように、電磁界の分布が不均一で局所的に分布が急激に変化する空間では、センサが急激に動くと、電磁界の強度変化に応答しきれなくなり、電磁界強度の正しい読み取りができなくなる。そこで、半径方向へのセンサの移動が速い場合に、糸の張りを強くするなどして、センサの急激な移動を防止し、電磁界強度の読み取りエラーを低減する。
【発明の効果】
【0014】
センサの駆動装置や、位置取得のための複雑な機構が不要となり、簡単な構成で、一定空間内の電磁界強度分布を容易に測定することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の良好な実施形態について説明する。
【0016】
図2は、本発明の第1実施形態に係る電磁界空間分布測定装置の概略構成図、図3は、図2の測定装置で用いられる位置決め装置の内部構成を示す図である。
【0017】
電磁界空間分布測定装置は、電界と磁界の少なくとも一方を測定するセンサ11と、センサ11の現在位置を表わす極座標(r,θ,φ)を求める位置決め装置20を含む。センサ11および位置決め装置20は、パーソナルコンピュータ40と信号の送受信が可能である。
【0018】
センサ11は、支持棒11aとグリップ11bと検出部11cを有し、測定者が手に持って測定空間で自由に動かせる構成となっている。センサ11で検出された電界/磁界の強度は、強度信号としてパーソナルコンピュータ40に入力される。
【0019】
極座標位置決め装置20は、回転自在な球殻部材21と、球殻部材21から接線方向と垂直に伸びるパイプ22と、θ信号取得部28と、φ信号取得部29と、センサ11に接続される糸状部材23を含む。糸状部材23は、球殻部材21の中心から、パイプ22を通って延び、センサ11に結合されている。糸状部材は、それ自体で直線状態を維持できるだけの剛性を有する任意の糸、弦、強化コードなどである。
【0020】
θ信号取得部28とφ信号取得部29で、糸状部材23が延びる方向、すなわちセンサ11の方向を決定する角度情報取得部を構成する。図2の例では、θ信号取得部28は、球殻部材21の表面に接触してθ方向(経度方向)に回転するθ用ローラ24と、θ用ローラ24の回転に応じたθ信号を生成するθ用エンコーダ26とを有する。また、φ信号取得部29は、球殻部材21の表面に接触してφ方向(緯度方向)に回転するφ用ローラ25と、φ用ローラ25の回転に応じたφ信号を生成するφ用エンコーダ27を有する。θ用ローラ24とθ用エンコーダ26を一体化して、θ信号取得部28を構成してもよい。同様に、φ用ローラ25とφ用エンコーダ27を一体化して、φ信号取得部29としてもよい。
【0021】
測定者がグリップ11bを持って自由にセンサ11を動かすと、糸状部材23が引っ張られ、糸の動きに応じて、パイプ22の方向が変わり、球殻部材21が回転する。パイプ22は、球殻部材21を回転させるためのトルクに寄与する。球殻部材21の回転量は、θ用ローラ24の回転と、φ用ローラの回転によって検出され、それぞれθ用エンコーダ25と、φ用エンコーダ27によって角度信号(θ信号およびφ信号)に変換される。θ信号とφ信号は、パーソナルコンピュータ40に入力される。また、糸状部材23の長さに基づいて、球殻部材21とセンサ11の間の距離に比例したr信号が、パーソナルコンピュータ40に入力される。
【0022】
図3は、球殻部材21の内部構造を示す図である。球殻部材21の内部には、球の中心を通る固定軸31と、固定軸の周りに支持されて球の中心部に位置するボビン33と、糸状部材23の張りを一定に維持する張力制御部34が設けられている。またボビン33には、r用エンコーダ32が接続される。r用エンコーダは、距離情報取得部として機能し、ボビン33の回転量(あるいは糸状部材23の巻き取り/巻き戻し量)に応じて、球殻部材21からセンサ11までの距離に比例した距離信号(r信号)を生成する。生成されたr信号は、パーソナルコンピュータ40に入力される。
【0023】
パーソナルコンピュータ40は、入力された強度信号、θ信号、φ信号、およびr信号を読み取り、極座標(r,θ,φ)の各々における電磁界強度に基づいて、電界/磁界強度の空間分布を生成する。検出部11cに電界センサを用いる場合は電界分布を、磁界センサを用いる場合は磁界分布を得ることができる。
【0024】
図4は、張力制御機構の変形例を示す図である。図4の例では、r用エンコーダ32に、センサ11の速度を検出するr信号微分回路35が接続されている。r信号微分回路35は、球殻部材21からセンサ11までの距離rの時間変化、すなわちセンサ11の移動速度を表わすr微分信号(dr/dt)を生成し、これを張力制御部34にフィードバックする。
【0025】
一般に、建物の壁等が存在する空間において、電磁界の分布は複雑である。このため、強度分布が局所的に強くなったり、弱くなったり、場所的に著しく変化する場合がある。このように不均一な電磁界の中で、センサ11を急激に移動させると、センサ11は、電磁界の強度分布の変化に応答できなくなり、正しい電磁界強度の読み取りができなくなる。そこで、r微分信号の絶対値が所定の値を超えた場合に、張力制御部34は糸状部材23の張りを強くして、センサ11がr方向にそれ以上速く動けないようにする。張力制御部34は、たとえばボビン33に接続されたモータであり、モータに印加する電流を上げることによって、糸状部材23の張力を強くすることができる。
【0026】
図示はしないが、同様のフィードバックループをθ用ローラ24とφ用ローラ25に設けてもよい。すなわち、θ微分回路をθ用エンコーダ26に接続して、その出力をθ用ローラ24にフィードバックさせ、θ用ローラ24の球殻部材21に対する摩擦力を調整する。同様に、φ微分回路をφ用エンコーダ27に接続して、その出力をφ用ローラ25に供給し、φ用ローラ25の球殻部材21に対する摩擦力を調整することも可能である。
【0027】
このような構成により、センサ11の急激な移動を防止できるので、電磁界強度の読み取り誤差を低減することができる。
【0028】
次に、図5を参照して本発明の第2実施形態を説明する。図5(a)は第2実施形態に係る電磁界空間分布測定装置の位置決め装置50の上面図、図5(b)は側面図である。第1実施形態では、位置決め装置に球殻部材を用いたが、第2実施形態では、半円弧を描く1対の短冊部材を組み合わせて、θ方向の位置とφ方向の位置を定義する。
【0029】
図5の例では、一対の短冊部材は、θ用金具61とφ用金具63として構成されている。θ用金具61は、長手方向の中心線に沿った溝62を有する。φ用金具63は、長手方向の中心線に沿った溝64を有する。半円弧形状のθ用金具61とφ用金具63の交差する箇所に、パイプ52がそれぞれの溝62、63に沿って移動可能に位置する。θ用金具61とφ用金具63は、その両端位置が互いに直交するように配置され、それぞれの両端を結ぶ揺動軸の周りに揺動可能な状態で固定される。これにより、パイプ52は、その基部を2つの半円弧で定義される半球状の空間の中心に置いたまま、溝62、64に沿ってθ方向およびφ方向に移動可能となる。
【0030】
θ用金具61とφ用金具63には、それぞれの金具の傾きによって決まる交差点のθ位置およびφ位置を取得するθ用エンコーダ56およびφ用エンコーダ57が接続されている。また、第1実施形態と同様に、糸状部材53がパイプ52に案内されて、一端側でセンサ11に接続される。糸状部材53の他端側は、固定軸31に支持されるボビン33に巻き取られている。ボビン33には、センサ11の放射方向の位置情報、すなわち位置決め装置50とセンサ11との間の距離に比例するr信号を生成するr用エンコーダ32と、糸状部材53の張りを制御する張力制御部34が接続される。
【0031】
この構成で、測定者がセンサ11を手に持って測定空間を移動させると、センサ11の移動にしたがって十分な剛性を有する糸状部材53も移動する。糸状部材53の動きにつれて、パイプ52が、θ用金具61とφ用金具63を揺動軸の回りに傾かせながら、それぞれの溝62、64に沿って移動する。θ用エンコーダ56とφ用エンコーダ58は、パイプ52の動きで決まるθ用金具61とφ用金具63の交差部の位置情報(θ信号およびφ信号)を取得する。一方、r用エンコーダ32は、ボビン33の回転量あるいは糸状部材53の巻き取り量に応じて、位置決め装置50とセンサ11との間の距離に比例するr信号を取得する。
【0032】
第1実施形態と同様に、センサ11で測定された電磁界強度と、位置決め装置50で取得された極座標は、図示しないパーソナルコンピュータに入力され、各位置で測定された電磁界強度に基づいて、電磁界強度の空間分布が生成される。
【0033】
θ用金具61とφ用金具62は、金属材料に限定されず、半円弧の形状を維持できる剛性を有する限り、任意の材料で形成することができる。
【0034】
また、図4に示した張力制御機構を第2実施形態と組み合わせてもよい。この場合も、センサ11の放射方向への急激な移動を防止して、電磁界強度の測定を簡便かつ正確に行うことができる。
【0035】
以上、特定の実施形態に基づいて本発明を説明してきたが、本発明は上記の実施形態に限定されない。センサ11は、図2および図5の形状に限定されず、測定者が簡便に動かせる形態であれば、どのような形態でもよい。たとえば、支持棒とグリップのかわりに、U字型の取手を設けてもよいし、伸縮自在のアームを設けてもよい。位置決め装置についても、球殻部材や半円弧状の短冊部材に限定されず、θ位置とφ位置が定義できる任意の部材を用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】従来の電磁界空間分布測定装置を示す図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る電磁界空間分布測定装置の概略構成図である。
【図3】図2の電磁界空間分布測定装置で用いられる球殻部材の内部構成を示す図である。
【図4】図2の電磁界空間分布測定装置で用いられる張力制御機構の変形例を示す図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係る電磁界空間分布測定装置の概略構成図であり、図5(a)は、位置決め装置の上面図、図5(b)は測定装置の側面図である。
【符号の説明】
【0037】
11 センサ
20、50 位置決め装置
21 球殻部材
22、52 パイプ
23、53 糸状部材
26、56 θ用エンコーダ(角度情報取得部)
27、57 φ用エンコーダ(角度情報取得部)
32 r用エンコーダ(距離情報取得部)
34 張力制御部
35 r信号微分回路(距離情報微分回路)
40 パーソナルコンピュータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電界強度と磁界強度の少なくとも一方を検出するセンサと、
前記センサの極座標を取得する位置決め装置と
を備え、前記位置決め装置は、
当該位置決め装置と前記センサとを接続する糸状部材と、
前記糸状部材の延びる方向に基づいて角度情報を取得する角度情報取得部と、
前記位置決め装置から前記センサまでの糸状部材の長さに比例した距離情報を取得する距離情報取得部と
を含み、前記角度情報および距離情報に基づいて、前記センサの極座標を取得することを特徴とする電磁界空間分布測定装置。
【請求項2】
前記位置決め装置は、当該位置決め装置から放射方向に延びて前記糸状部材を案内するパイプをさらに有することを特徴とする請求項1に記載の電磁界空間分布測定装置。
【請求項3】
前記位置決め装置は、前記糸状部材の張りを制御する張力制御部をさらに有することを特徴とする請求項1に記載の電磁界空間分布測定装置。
【請求項4】
前記位置決め装置は、距離情報取得部が取得した距離情報の微分を求める距離情報微分回路と、
前記微分結果に基づいて、前記糸状部材の張りを調整する張力制御部と
をさらに有することを特徴とする請求項1に記載の電磁界空間分布測定装置。
【請求項5】
前記位置決め装置は、当該位置決め装置の中心に位置して、前記糸状部材を巻き取る巻取り部をさらに有し、
前記距離情報取得部は、前記巻取り部の回転に基づいて、前記距離情報を取得することを特徴とする請求項1に記載の電磁界空間分布測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−17631(P2006−17631A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−197059(P2004−197059)
【出願日】平成16年7月2日(2004.7.2)
【出願人】(392026693)株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ (5,876)
【Fターム(参考)】