説明

電磁誘導加熱式電気炊飯器の内鍋

【課題】内周面側に非粘着層を設け、ご飯のこびりつき、焦げつきを防止するようにしてなる電磁誘導加熱式電気炊飯器の内鍋の外周面に設けられる加熱材の剥離を防止するとともに、その加熱効率および熱拡散性を向上させる。
【解決手段】焼物よりなり、その内周面側に非粘着層を形成するとともに、その底壁部外周面側に電磁誘導加熱用の加熱材を設けてなる電磁誘導加熱式電気炊飯器の内鍋であって、上記加熱材をポーラスな構造の金属溶射層により形成し、加熱材の発熱効率を向上させるとともに、底壁部から側壁部側への伝熱性能、熱の拡散性を良好にし、かつ厚さの薄い底壁部の強度の補強も可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、電磁誘導加熱式電気炊飯器用の内鍋、特に一般に土鍋と呼ばれる焼物タイプの電磁誘導加熱式電気炊飯器の内鍋の構成に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近では、内鍋と、該内鍋が収納される炊飯器本体と、上記内鍋の底壁部外周面に対向するように配置され、上記内鍋を誘導加熱する誘導加熱コイルとを備えた電磁誘導加熱式電気炊飯器であって、上記内鍋を蓄熱性の高い焼物(セラミック材)で構成するとともに、同内鍋の上記炊飯器本体内に収納された時の上記誘導加熱コイルに対向する外周面部分に、上記誘導加熱コイルによって電磁誘導加熱可能な金属材料からなる銀ペースト等の厚さの薄いシート状の内鍋加熱材を接合した電磁誘導加熱式電気炊飯器が提供されている(例えば特許文献1を参照)。
【0003】
また、このような電磁誘導加熱式電気炊飯器において使用される内鍋では、その内周面側には、光沢を出して滑らかにするとともに、ご飯のこびりつきや焦げつきを生じさせないために、ガラス質の釉薬やフッ素樹脂の塗布を施すようにしている(例えば特許文献2を参照)。
【0004】
このような構成の内鍋では、炊飯動作が開始されると、所定の手順に従って上記炊飯器本体側の誘導加熱コイルに高周波電流が供給される。そして、同誘導加熱コイルに発生する交番磁界により、同誘導加熱コイルに対向する上記内鍋外周面部分のシート状の内鍋加熱材が電磁誘導可能に結合して渦電流が流れる。
【0005】
すると、同内鍋加熱材は、この渦電流によるジュール熱により発熱し、その熱が内鍋へ伝達され、上記内鍋の内周面側に施されたガラス質の釉薬層、又は上記フッ素樹脂コート層を介して米と水を加熱する。このとき、熱の一部は上記セラミック製の内鍋基材を通して内鍋の底面部から側壁部の全体へと伝わり、内鍋全体が温められて米と水が均一に加熱されて炊飯が行われる。
【0006】
また、内鍋の内周面にガラス質の釉薬層又はフッ素樹脂層のコーティングが施されていることから、発水性が確保され、ご飯の付着しにくい非粘着性の内鍋が得られる。
【0007】
ところで、上記のようにフッ素樹脂をコーティングした構成の内鍋の場合、釉薬層だけの場合に比べて、遥かに焦げつき等防止効果が高いが、そのままではコーティングされたフッ素樹脂がセラミック製の基材表面から剥がれやすく、耐久性、信頼性に欠ける問題がある。
【0008】
そこで、上記セラミック製の内鍋の表面をサンドブラスト処理して粗化した上で、その上部に金属および金属酸化物を含むアルミナ膜を形成し、該アルミナ膜を介して上面側にフッ素樹脂を塗布することによって、安定したフッ素樹脂膜を形成する構成も提案されている(例えば特許文献3を参照)。
【0009】
このような構成によると、セラミック鍋の表面をサンドブラストすることにより粗化した上で、アルミナ膜を形成しているので、セラミック製の鍋に対するアルミナ膜の密着性が高くなるので、セラミック鍋とフッ素樹脂との密着性をも或る程度向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−252624号公報
【特許文献2】特開2008−194111号公報
【特許文献3】特開2008−279083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、上述のようなセラミック製の内鍋は、熱拡散性が悪く、また発熱体である銀ペースト等のシート状の加熱材は、薄く、金属材の量も少ないので、熱伝導量も少ない上、高台部には発熱体がない。したがって、発熱体がある部分のみが局部的に発熱して高温になり、高台部とその両側内外周面部との間に大きな温度差が生じて、内鍋にヒビや割れが生じたり、また加熱材が剥がれる、おこげにムラが生じるなどの問題が発生する。
【0012】
また、銀ペースト等のシート状の加熱材は、貼設時に内鍋外周面との間に異物が侵入したり、皺が形成されやすく、均一な接合が難しい。
【0013】
また、上記内鍋の厚さは、一般に加熱材を設けた底壁部分では薄く、蓄熱の必要な側壁部分では厚く形成されているため、厚さの薄い底壁部分の強度をアップする必要もある。
【0014】
さらに、内鍋内周面の非粘着層の形成に関し、上記特許文献3の構成の場合、たしかにアルミナ膜とセラミック製の鍋基材との密着性は向上するとしても、あくまでもアルミナはセラミックであり、仮に金属を混合したとしても金属と同等の特性は生じ得ない。したがって、セラミック鍋との密着性が十分に高くなるとは言い難い。したがって、やはり付着状態の安定性に欠け、剥がれやすいという問題が残されている。
【0015】
しかも、セラミック鍋の表面にアルミナ等のセラミック膜を形成するためには、プラズマ溶射機やメタリコン溶射機等の高価で大がかりな溶射機を用いて、狭い幅で溶射して行く必要があり、簡易かつ安価なアーク溶射機を用いて溶射することができない。
【0016】
加えて、金属を含有させたアルミナ膜は高価であり、それによって内鍋本体の非通水性を実現しようとした場合、内鍋自体が高価にもなる。また、それのみの場合、必ずしも十分な非通水性機能を確保することができない。
【0017】
そこで、例えば上記金属および酸化金属を多く含むアルミナの溶射膜に変えて、アルミニウム等による金属溶射膜を形成することも考えられている(例えば特願2009−96007号を参照)。
【0018】
このようなアルミニウム等の金属溶射膜は、上述のセラミック膜などと違って、簡易かつ安価なアーク溶射機によって容易に溶射して行くことができる。
【0019】
また、同金属溶射膜は、上述のセラミック膜に比べて硬度が低く、その表面の平滑化処理も容易である。
【0020】
したがって、上記フッ素樹脂コート層を、同金属溶射膜を所定のレベルに平滑化処理した上で形成するようにすれば、従来に比べて密着度が大きく向上して、より剥がれが生じにくくなり、しかも非通水性も高いので、特許文献3のフッ素樹脂コート層の場合に比べて、遥かに信頼性の高いものとなる。
【0021】
ところが、このように内鍋の内周面にアルミニウム等の金属溶射層を形成し、これに上述の銀ペーストのような厚さの薄いシート状の加熱材を対応させて誘導加熱した場合、当該金属溶射層が炊飯器本体側の誘導加熱コイルに結合し、IGBTやIGBT駆動回路を含めた電磁誘導回路(共振回路)の共振条件が崩れ、加熱材に対する設計値通りの電磁誘導加熱効率を実現することができなくなる問題がある。
【0022】
本願発明は、このような問題を解決するためになされたもので、内鍋の底壁部外周面の加熱材をポーラスな構造の金属溶射層により所望の厚さで密着性良く形成することにより、剥離を生じさせることなく内鍋底壁部から側壁部側への熱の伝熱性、拡散性を可及的に向上させるとともに、誘導加熱コイルの誘導磁界が内鍋内面側の金属溶射層に影響しないようにして有効な共振条件を確保し、かつ同時に厚さが薄い内鍋底壁部の補強効果をも得られるようにした電磁誘導加熱式電気炊飯器の内鍋を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本願発明は、上記の目的を達成するために、次のような課題解決手段を備えて構成されている。
【0024】
(1) 請求項1の発明
この発明は、焼物よりなり、その内周面側に非粘着層を形成するとともに、その底壁部外周面側に電磁誘導加熱用の加熱材を設けてなる電磁誘導加熱式電気炊飯器の内鍋であって、上記加熱材は、ポーラスな構造の金属溶射層により形成されていることを特徴としている。
【0025】
このような構成によれば、セラミック等の焼物よりなる内鍋の内周面に非粘着が形成されているので、内鍋内周面のご飯に対する非粘着性が高くなり、ご飯のこびりつき、焦げつきが生じにくくなる。
【0026】
そして、同内鍋の底壁部外周面には、所望の厚さのポーラスな構造の金属溶射層(例えばステンレス層等)よりなる加熱材が設けられている。
【0027】
したがって、従来の銀ペースト等の厚さの薄いシート状の加熱材を貼設しただけのものと異なって、内鍋底壁部の基材表面への密着度が極めて高くなり、確実に剥離を阻止できるとともに、容易に十分な厚さの金属層を形成することができ、表皮抵抗が大きく渦電流の浸透深さの大きな加熱部を実現することができる。
【0028】
したがって、同加熱部の発熱効率が向上し、底壁部から側壁部側への伝熱性、熱の拡散性も良好になるとともに、厚さの薄い底壁部の強度の補強も可能となる。
【0029】
(2) 請求項2の発明
この発明は、上記請求項1の発明の構成において、内鍋の底壁部は、下方側に向けて部分的に突出した高台部を有し、金属溶射層よりなる加熱材は、同高台部をも含めた底壁部外周面の全体に亘って設けられていることを特徴としている。
【0030】
このような構成によると、従来のような高台部の内外周面側と高台部との温度差が殆どなくなり、同温度差に起因した、ヒビや割れ発生の問題が確実に解消される。
【0031】
(3) 請求項3の発明
この発明は、上記請求項1又は2の発明の構成における内鍋底壁部外周面の金属溶射層よりなる加熱材の厚さは、当該金属溶射層を形成している金属特有の渦電流の浸透深さよりも厚く形成されていることを特徴としている。
【0032】
このような構成によると、加熱材部分における十分な深さの渦電流の誘起が可能となり、当該金属材料での最大限の発熱量を実現することが可能となる。また、内鍋内周面の非粘着層側への誘導加熱コイルの誘導磁界の影響を阻止することができる。
【0033】
(4) 請求項4の発明
この発明は、上記請求項1,2又は3の発明の構成において内鍋内周面の非粘着層は、アルミ金属溶射層を介してフッ素樹脂層をコーティングした構成のものよりなっていることを特徴としている。
【0034】
このように、内鍋内周面の非粘着層として、アルミ金属溶射層を介してフッ素樹脂層をコーティングした構成の場合、フッ素樹脂コート層の内鍋内周面に対する結合度が高くなり、剥離が生じにくくなる一方、すでに述べたように、従来の銀ペーストのように加熱材が薄い場合には、誘導加熱コイルからの誘導磁界が同加熱材を透過して内鍋内周面側の金属溶射層にまで及んでしまい共振条件を超えて誘導負荷が大きくなるなど、共振回路の共振条件が狂ってしまい、適切な電磁誘導加熱作用が実現されなくなり、加熱効率が大きく低下する。
【0035】
ところが、上記請求項1,2又は3の発明の構成のように内鍋底壁部外周面の加熱材を、ポーラスな構造の金属溶射層により形成するようにすると、アーク溶射機等の安価な溶射機で加熱材部分の厚さを容易に所望の厚さに形成することができ、同加熱材の厚さを、当該溶射層を形成している金属特有の渦電流の浸透深さよりも厚くすることなどにより、作用する磁界の強さに応じた最適な電磁誘導加熱作用を実現することができる。
【0036】
したがって、共振回路の共振条件が狂う問題を確実に回避することができる。
【発明の効果】
【0037】
以上の結果、本願発明によると、加熱材の剥離の恐れがなく、強度が高くて、しかも内鍋内周面側の金属溶射層の影響を受けることなく、有効に加熱効率を向上させ得る高性能の電磁誘導加熱式電気炊飯器の内鍋を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本願発明の実施の形態1に係る電磁誘導加熱式電気炊飯器の内鍋および誘導加熱コイル部の全体的な断面構造を示す図である。
【図2】同内鍋の底壁部の要部(図1のA部)の構造を拡大して示す断面図である。
【図3】本願発明の実施の形態2に係る電磁誘導加熱式電気炊飯器の内鍋および誘導加熱コイル部の全体的な断面構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
(実施の形態1)
先ず図1および図2は、本願発明の実施の形態1に係る電磁誘導加熱式電気炊飯器の内鍋および誘導加熱コイル部の構成を示している。
【0040】
この内鍋1は、すでに述べたような一般に土鍋と呼ばれる前述した電磁誘導加熱式電気炊飯器用の内鍋であって、例えば図1に示す内鍋本体(基体部)1a〜1d部分は、焼結時の耐熱温度が高く、保温時の蓄熱性が良い例えばコーディエライト系の焼物材料よりなり、図示のような高台部1eおよび口縁部1fを備えた有底断面形状のものに形成されている。
【0041】
そして、図1に示す内鍋1の底壁部中央のフラット面部1aから、コーナー面部1b、側壁部1c、開口部1d、口縁部1fに亘る素焼状態の内鍋本体(基体部)の内周面に(または必要に応じて外周面にも)、先ず所望の厚さのリチア系の釉薬層2aを形成し、それによって安価に内鍋本体部分の非通水性を実現する。その後、同内周面側部分(少なくとも米と水が収容される部分)に、所定のサンドブラスト処理を行って同釉薬層2aの表面を所定の粗さに粗化する。
【0042】
そして、その上に、後述するフッ素樹脂コート層2c,2d形成のための第1の下地処理として、アーク溶射機等の簡易な溶射機を用いて、アルミ金属の溶射(吹き付け)を行ない、上記釉薬層2a表面の上記サンドブラストによって形成された凹凸面(粗面)に沿った凹凸のある所望の厚さのアルミ溶射層2bを形成する。このアルミ溶射層2bは、上記サンドブラストにより形成された釉薬層2a表面の凹凸面部分に効果的に付着係合して密着性良く生成される。
【0043】
そして、その上で、さらに第2の下地処理として同凹凸のあるアルミ溶射層2bの表面に、例えばガラスビーズショット加工による平滑処理を施し、その表面を所定の平滑レベル、例えば上記のようにサンドブラスト処理された内鍋本体側釉薬層2a上の凹凸に沿った凹凸のあるアルミ溶射層2bの当該凹凸面の凸部の頂点付近のみを削ってランダムな突起部を無くすとともに頂部の曲率を大きく(極端に言うと、フラットに近く)し、後にコーティングされるフッ素樹脂層のプライマーコート層2cに対して必要な係合力(凹部によるアンカー効果)は与えるが、突き抜けによる不要なピンホールの発生を生じさせず、かつ水目盛印刷時の印刷インクの乗りが良くなる程度に平滑化する。
【0044】
そして、該ガラスビーズショットにより、そのようなレベルに平滑化されたアルミ溶射層2bの上部に、先ずフッ素樹脂プライマーコート層(第1のフッ素樹脂コート層)2cを形成し、同プライマーコート層2cの凸部表面に必要な水目盛(図示省略)をパッド印刷する。
【0045】
その後、その上にフッ素樹脂トップコート層2d(第2のフッ素樹脂コート層)を上記フッ素樹脂プライマーコート層2cよりも厚い所望の厚さで形成し、さらに焼成することによって、ご飯のこびりつき、焦げつきがなく、しかもフッ素樹脂が剥がれにくくて、水目盛のクリアな極めて好適な非粘着層2を有する内鍋1が構成されている。
【0046】
一方、その底壁部下面側(外周面側)には、底壁部中央のフラット面部1aから半径方向外方の高台部1e、高台部1eから側壁部1cに連続するアール面形状のコーナー面部1bの全体に亘って誘導加熱用の加熱材3が設けられている。
【0047】
この加熱材3は、図示電気炊飯器本体5側の誘導加熱コイル(ワークコイル)C1,C2によって誘起される渦電流によって自己発熱が可能な、例えばステンレス(SUS430)等の金属材料をアーク溶射機を用いてポーラスな断面構造となるように溶射して所望の厚さに形成した金属溶射層3aとその上面側の凹凸面を所定のレベルに研磨平滑化した上で塗布された耐熱性、耐摩耗性の高いセラミック系はシリコン系のカバー材(塗装膜)3bよりなっている。
【0048】
この金属溶射層3aよりなる加熱材3の厚さt4(図2参照)は、当該金属溶射層3aを形成している金属(ステンレスSUS430)特有の渦電流の浸透深さt5(0.3mm)よりも厚く(0.5mmに)形成されている。
【0049】
そして、この内鍋1は、同内鍋1が収納される図示電気炊飯器本体5と、収納された内鍋1の上記加熱材3に対向するように配置され、同収納された内鍋1を加熱材3を介して誘導加熱する図示誘導加熱コイルC1,C2とを備えた電磁誘導加熱式電気炊飯器の上記電気炊飯器本体5内に収納セットして使用される。
【0050】
そして、同電気炊飯器本体5内へ内鍋1が収納セットされた状態において、例えば炊飯開始スイッチのON操作等によって炊飯動作が開始されると、所定の手順に従って上記誘導加熱コイルC1,C2に高周波電流が供給され、上記誘導加熱コイルC1,C2に発生する交番磁界により、同誘導加熱コイルC1,C2と対向する上記加熱材3の金属溶射層3a部分が電磁誘導可能に結合して渦電流が流れる。
【0051】
そして、同加熱部材3の金属溶射層3aは、この渦電流によるジュール熱によって発熱し、その熱が同加熱材3の内側の内鍋1へ伝達され、同内鍋1内の米と水を加熱する。このとき、熱の一部は上記内鍋1の本体(基体部)を通して内鍋1の底壁部中央のフラット面部1aからコーナー面部1b、コーナー面部1bから側壁部1c、側壁部1cから開口部1dへと伝わり、内鍋1の全体が温められて、同内鍋1内の米と水とが均一に加熱される。
【0052】
なお、上記側壁部1cの外周には、必要に応じて保温ヒータが設けられる。そして、この側壁部1cは、上記底壁部中央のフラット面部1aの壁厚t3(4.5mm)およびコーナー面部1bの壁厚t2(4.5mm)よりも壁厚t1が厚くなっており(t1=7.0mm)、保温時の蓄熱性が高くなるように構成されている。
【0053】
以上のように、この発明の実施の形態では、セラミック等の焼物よりなり、その内周面側に非粘着層2を形成するとともに、その底壁部1a,1b外周面側に電磁誘導加熱用の加熱材3を設けてなる電磁誘導加熱式電気炊飯器の内鍋1において、上記加熱材3は、所望の厚さステンレス等のポーラスな構造の金属溶射層3aにより形成されている。
【0054】
このような構成によれば、セラミック等の焼物よりなる内鍋1の内周面に非粘着層2が形成されているので、内鍋内周面のご飯に対する非粘着性が高くなり、ご飯のこびりつき、焦げつきが生じにくくなる。
【0055】
そして、同内鍋1の底壁部1a,1b外周面には、例えばステンレス等の所望の厚さのポーラスな構造の金属溶射層3aよりなる加熱材3が設けられている。
【0056】
したがって、従来の銀ペースト等の厚さの薄いシート状の加熱材を貼設しただけのものと異なって、加熱材3の内鍋底壁部1a,1bの基材表面への密着度が極めて高くなり、確実に剥離を阻止できるとともに、十分な厚さの金属層3aを形成することができ、表皮抵抗が大きく渦電流の浸透深さの大きな加熱部を実現することができる。
【0057】
したがって、同加熱部の発熱効率が向上し、底壁部1a,1bから側壁部1c側への伝熱性、熱の拡散性も極めて良好になるとともに、同加熱材3による厚さの薄い底壁部1a,1bの強度の補強も可能となる。
【0058】
また、上記内鍋1の底壁部1a,1bは、下方側に向けて部分的に突出した高台部1eを有し、上記金属溶射層3aよりなる加熱材3は、同高台部1eをも含めた底壁部1a,1b外周面の全体に亘って設けられている。
【0059】
したがって、このような構成によると、従来のような高台部1eの内外周面側と高台部1eとの温度差(例えば50℃以上)が殆どなくなり、同温度差に起因した、ヒビや割れ、焦げムラ、加熱材3の剥離等発生の問題が確実に解消される。例えば実際の設計では、同温度差が吸水終了から沸騰開始までの昇温工程において50℃を超えないように設計される。
【0060】
しかも、同構成における上記内鍋底壁部1a,1b外周面の金属溶射層3aよりなる加熱材3の厚さt4は、図2に示すように、当該金属溶射層3aを形成しているステンレス等の金属特有の渦電流の浸透深さt5よりも十分に厚くなるように形成されている(t4>t5)。
【0061】
したがって、このような構成によると、加熱材3部分における十分な深さの渦電流の誘起が可能となり、当該金属材料での最大限の発熱量を実現することが可能となる。
【0062】
この場合、上記底壁部コーナー面部1bの加熱材3は、対応する炊飯器本体5側の誘導加熱コイルC2の上端よりも、所定の寸法H上方側にまで連続するように設け、厚さの厚い側壁部1cに有効に熱が伝達、拡散されるようにしている。また、同加熱材3の上方側境界面の高さは、最小炊飯量に該当する米および水を入れた時の水面高さL0よりも高くなっている。
【0063】
さらに、この実施の形態の場合、上記内鍋内周面の非粘着層2は、先ず内鍋内周面の釉薬層2aの表面にアルミ金属を溶射し、同アルミ金属溶射層2bを介してフッ素樹脂コート層2c,2dをコーティングした構成のものよりなっている。
【0064】
このように、内鍋内周面の非粘着層として、釉薬層2aの上面にアルミニウム金属溶射層2bを介してフッ素樹脂コート層2c,2dをコーティングした構成の場合、フッ素樹脂コート層2c,2dの内鍋内周面2aに対する結合度が十分に高くなり、剥離が生じにくくなる一方、すでに述べたように、従来の銀ペーストのように加熱材3が極めて薄い場合には、誘導加熱コイルC1,C2からの誘導磁界が同加熱材3を透過して内鍋内周面側の金属溶射層3aにまで及んでしまい、共振条件を超えて誘導負荷が大きくなるなど、共振回路の共振条件が狂ってしまい、適切な電磁誘導加熱作用が実現されてなくなり、誘導加熱効率が大きく低下する。
【0065】
ところが、上記のように内鍋底壁部1a,1b外周面の加熱材3を、ポーラスな構造の金属溶射層3aにより形成するようにすると、アーク溶射機等の安価な溶射機で加熱材3部分の厚さを容易に所望の厚さに形成することができ、同加熱材3の金属溶射層3aの厚さt4を、当該金属溶射層3aを形成している金属特有の渦電流の浸透深さt5よりも厚くすることなどにより、作用する磁界の強さに応じた最適な電磁誘導加熱作用を実現することができる。
【0066】
また、上述のように内鍋1の底壁部底壁部1a,1bの全体がポーラスな構造の加熱材3で覆われていると、同加熱材3部分がクッション作用を果たし、内鍋1を落とした時の衝撃を吸収し、割れにくいものとなる。
【0067】
また、同加熱材3部分は、その表面が必要な平滑面レベルに研磨され、セラミック系又はシリコン系の耐熱性、耐摩耗性のあるカバー材3b(塗料)でカバーされているので、洗米時等にシンクの表面を損傷するなどの問題も生じない。同時に腐食や変色(サビ色の発生)も生じない。
【0068】
また、そのように加熱材3の表面を平滑化すると、表面積が縮小されるので表面からの無用の放熱量が減少し、熱効率の向上につながる。
【0069】
それらの結果、同実施の形態によると、加熱材3の剥離の恐れがなく、底壁部1a,1bの強度が高くて、しかも内鍋内周面のアルミニウム等金属溶射層2bの影響を受けることなく、有効に誘導加熱効率を向上させ得る高性能の電磁誘導加熱式電気炊飯器の内鍋を提供することが可能となる。
【0070】
(実施の形態2)
この実施の形態では、上記実施の形態1における内鍋1の高台部1eを底壁部の全周に亘って連続するものではなく、例えば120°間隔で最低3ケ所に配置するなどの構成により、実質的に無くしたのと同様の構成としたものである。
【0071】
このような構成によると、高台部1eと高台部1e両側間の底壁部1a,1bとの間の温度差が無くなることから、底壁部中央のフラット面部1aからコーナー面部1b、コーナー面部1bから側壁部1cへの熱の伝達性、拡散性が大きく向上する。
【0072】
(他の実施の形態)
以上の各実施の形態では、加熱材3を形成する金属溶射材として、ステンレス(SUS430)を用いたが、同金属溶射材としては、その他の各種表皮抵抗の大きい金属材等を採用しても良いことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0073】
1は内鍋、1aは底壁部中央、1bは底壁部コーナ面部、1cは側壁部、1eは高台部、2は非粘着層、2aは釉薬層、2bはアルミ金属溶射層、2cはフッ素樹脂プライマーコート層、2dはフッ素樹脂トップコート層、3は加熱材、3aはポーラスな構造の金属溶射層、3bはカバー材である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼物よりなり、その内周面側に非粘着層を形成するとともに、その底壁部外周面側に電磁誘導加熱用の加熱材を設けてなる電磁誘導加熱式電気炊飯器の内鍋であって、上記加熱材は、ポーラスな構造の金属溶射層により形成されていることを特徴とする電磁誘導加熱式電気炊飯器の内鍋。
【請求項2】
内鍋の底壁部は、下方側に向けて部分的に突出した高台部を有し、金属溶射層よりなる加熱材は、同高台部をも含めた底壁部外周面の全体に亘って設けられていることを特徴とする請求項1記載の電磁誘導加熱式電気炊飯器の内鍋。
【請求項3】
内鍋底壁部外周面の金属溶射層よりなる加熱材の厚さは、当該金属溶射層を形成している金属特有の渦電流の浸透深さよりも厚く形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の電磁誘導加熱式電気炊飯器の内鍋。
【請求項4】
内鍋内周面の非粘着層は、アルミ金属溶射層を介してフッ素樹脂層をコーティングした構成のものよりなっていることを特徴とする請求項1,2又は3記載の電磁誘導加熱式電気炊飯器の内鍋。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−259632(P2010−259632A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−113188(P2009−113188)
【出願日】平成21年5月8日(2009.5.8)
【出願人】(000003702)タイガー魔法瓶株式会社 (509)
【Fターム(参考)】