説明

電磁調理器用アルミニウム箔容器

【課題】電磁調理器による発熱効率を向上させたアルミニウム箔容器を提供する。
【解決手段】底板部2とその周縁から立ち上がる周壁部3とを備えるアルミニウム箔からなる電磁調理器用の容器1であって、底板部2に、その外底面を内側に向けて凹状に窪ませてなるエンボス部11が形成されるとともに、エンボス部11は、線条又は複数の線条の組み合わせからなり、底板部2の中心に対して放射状に形成される放射エンボス部12と、底板部2の周縁部に沿う方向に形成される周エンボス部13とを備え、これらエンボス部を除く底板部2の平面部14によって占められる平面積が、底板部2全体の平面積の20〜95%の比率となるように形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁調理器用アルミニウム箔容器に係り、特に、底板部にエンボス加工が施されてなるアルミニウム箔容器に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁調理器は、内部に埋め込んだコイルによる電磁誘導加熱の原理を利用して鍋等の金属容器を加熱して調理する装置であり、IH調理器とも呼ばれている。この場合、電磁調理可能な金属容器としては、強磁性で電気抵抗の大きい鉄、鉄鋳物、マルテンサイト系ステンレス鋼などが適している。アルミニウムやアルミニウム合金は、非磁性で鉄等に比べて電気抵抗が小さいので、電磁調理器用には不適とされていたが、加熱コイルの周波数の増大等によって電磁調理できるようになってきた。
【0003】
このような電磁調理器用アルミニウム箔容器として、従来では特許文献1〜3に記載のものがある。
特許文献1記載のアルミニウム箔容器は、底壁とその周縁から立ち上る周壁からなり、底壁の面積が約70cm〜255cmとされ、かつ底壁にエンボスが形成されている。70cm未満では電磁調理による加熱ができず、255cmを超えると強度が不充分になるとされている。また、そのアルミニウム箔は、必要な電気抵抗を得るために、0.15〜0.35重量%のSiと、2.2〜2.8重量%のMgと、0.10〜0.35重量%のCrと、合計で1.5重量%以下の微量元素と、残部がAlより成る組成とされている。
【0004】
また、特許文献2記載のアルミニウム箔容器は、その少なくとも底部が厚み20〜80μmの2枚以上の箔を積層して構成されており、これら積層された箔同士は、底部の一部において互いに接触し、箔同士が接触した接触部と、非接触部とが形成されている。その接触部面積は、底部面積の60%以下とされ、電磁誘導加熱時の電流の表皮効果を高めるようにしている。
【0005】
特許文献3記載のアルミニウム箔容器は、100質量%中に、93質量%以上のAlと、2〜5質量%のMgと、0.2〜1.0質量%のCrと、0.01〜3.0質量%のMnと、0.005〜0.6質量%のTiと、0.005質量%以下のCuと、0.1質量%以下のSiと、0.2質量%以下のFeとを含有し、電気比抵抗値が5〜10μΩcmであるアルミニウム合金からアルミニウム箔を形成し、このアルミニウム箔をプレス成形して、底壁と周壁とフランジとを有する容器としている。アルミニウム箔単体で、成形性、耐食性に優れ、電磁調理器による加熱に好適であるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−153802号公報
【特許文献2】特開2004−379号公報
【特許文献3】特開2007−270351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
いずれの特許文献記載の技術も、アルミニウム合金の組成や容器の底面積の大きさ、厚さ等により、電磁調理器での加熱を良好にする工夫がなされているが、さらなる改良が求められている。
【0008】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたもので、電磁調理器による発熱効率を向上させたアルミニウム箔容器の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、底板部とその周縁から立ち上がる周壁部とを備えるアルミニウム箔からなる電磁調理器用の容器であって、前記底板部に、その外底面を内側に向けて凹状に窪ませてなるエンボス部が形成されるとともに、該エンボス部は、線条又は複数の線条の組み合わせからなり、前記底板部の中心に対して放射状に形成される放射エンボス部と、前記底板部の周縁部に沿う方向に形成される周エンボス部とを備え、これらエンボス部を除く前記底板部の平面部によって占められる平面積が、前記底板部全体の平面積の20〜95%の比率となるように形成されていることを特徴とする。
【0010】
この電磁調理器用アルミニウム箔容器においては、底板部に形成したエンボス部により、電磁調理中の渦電流に対する電気抵抗が大きくなり、特に、放射エンボス部は電気抵抗の増大効果が大きく、発生するジュール熱を大きくすることができる。また、これらエンボス部が底板部の外底面を窪ませる凹状に形成され、そのエンボス部を除く平面部が、底板部全体の平面積の20〜95%の面積比率で形成されているので、その比較的広い面積の平面部によって電磁調理器への密着性を高めるとともに、ビビり振動の発生も防止し、発熱効率をより高くすることができる。
【0011】
本発明の電磁調理器用アルミニウム箔容器において、前記アルミニウム箔は、質量%で、Siが0.14%以下、Feが0.4%以下、Cuが0.006〜0.1%、Mgが2〜5%、Crが0.1〜0.4%含有し、残部がAl及び不可避不純物からなる組成であるとよい。
このような組成のアルミニウム箔を用いることにより、耐食性、容器としての剛性、成形性が向上するとともに、電気抵抗も大きく、電磁調理器用容器として発熱性の高い容器とすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の電磁調理器用アルミニウム箔容器によれば、電磁調理中の渦電流に対する電気抵抗が大きく、発生するジュール熱を大きくすることができ、また、電磁調理器への密着性も高いので、発熱効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1実施形態の電磁調理器用アルミニウム箔容器を示す平面図である。
【図2】図1の電磁調理器用アルミニウム箔容器のA−A矢視部分の半分を端面図とした側面図である。
【図3】図2の要部の拡大図である。
【図4】図1の容器の底面における渦電流とエンボス部との関係を示すモデル図である。
【図5】本発明の第2実施形態の電磁調理器用アルミニウム箔容器を示す平面図である。
【図6】図5の電磁調理器用アルミニウム箔容器のB−B矢視部分の半分を端面図とした側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る電磁調理器用アルミニウム箔容器の実施形態を図面を参照しながら説明する。
図1〜図4は、本発明の第1実施形態を示している。この実施形態の電磁調理器用アルミニウム箔容器1は、底板部2と、その周縁から立ち上がる周壁部3と、周壁部3の上端から水平に延びるフランジ部4とを備えた上方を開放状態とした容器である。図1及び図2に示す例では、底板部2が円形に形成され、周壁部3は、全体としては円形の底板部2の周縁から立ち上がる円筒形状に形成されるが、若干外側に膨らんだ状態で上方に向けて漸次内径を大きくするように延びており、上下方向に沿う多数の縦リブ5が全周にわたって形成されている。フランジ部4は、周壁部3の上端から水平に広がっており、その外周部には、その端縁を丸めてなるカール部6が全周に形成されている。また、周壁部3とフランジ部4との間には、補強のため、断面が1/4円弧状で外方に突出する環状リブ7が形成されている。
【0015】
そして、底板部2には、その中心部を除き半径のほぼ半分より外側の領域に、エンボス部11が形成されている。このエンボス部11は、図3に示すように、底板部2の外底面を容器1の内側に向けて凹状に窪ませることにより形成されている。また、いずれも線条に形成されるか、複数の線条の組み合わせによって形成されており、その線条の方向が、底板部2の中心に対して放射状に沿う放射エンボス部12と、周方向に沿う周エンボス部13とから構成されている。
図示例では、放射エンボス部12は周方向に等間隔で8個設けられており、それぞれの両端には、周エンボス部13が連続して形成されている。また、この放射エンボス部12の間には、外周部付近と、これより半径方向内側に寄った位置に、1本ずつの周エンボス部13が、放射エンボス部12とは単独で配置されている。
【0016】
そして、このエンボス部11が形成された底板部2において、エンボス部11を除く平面部14によって占められる平面積が、底板部2の全体の平面積の20〜95%の比率となるように形成されている。逆に言えば、底板部2には、その全体の平面積の5%を超え80%未満の比率でエンボス部11が形成されていることになる。
【0017】
また、この容器1に使用されているアルミニウム箔は、質量%で、Siが0.14%以下、Feが0.4%以下、Cuが0.006〜0.1%、Mgが2〜5%、Crが0.1〜0.4%含有し、残部がAl及び不可避不純物からなる組成とされている。不可避不純物中には、Mn,Zn,Tiが0.2質量%以下の範囲で含まれていてもよい。
なお、この実施形態では底板部2の中央部に取り扱い上の注意を示す文字がエンボス部11と同様のエンボス加工(容器の内側に窪む凹状となるエンボス加工)によって形成されている。前述のエンボス部を除く平面部14の平面積の割合は、このような文字をエンボス加工する場合は、その文字によるエンボス部も除くものとする。
【0018】
このように構成したアルミニウム箔容器1を電磁調理器において誘導加熱すると、底板部2に渦電流が流れ、その渦電流に対する底板部2の電気抵抗によってジュール熱が発生し、その熱によって容器1内部に収容した食品を加熱することができる。
この場合、底板部2には、エンボス部が形成されて、底板部2が図3に示すように屈曲していることにより、その表面を流れる渦電流の電流路長さが長くなり、その分、渦電流に対する電気抵抗が大きくなって、発生するジュール熱も大きくなるのである。エンボス部11のうち、放射状エンボス部12及び周エンボス部13のいずれもが、電流路長さを長くする効果があるが、特に、放射状エンボス部12は、図4にモデル化して示したように底板部2の周方向に沿う渦電流の電流路(二点鎖線の矢印で示す)を遮断するようにかつ複数配置されているので、周方向に沿って生じる渦電流に対する電気抵抗がより大きく効果的である。
【0019】
また、底板部2のエンボス部11を容器1の内側に窪ませた形状とし、そのエンボス部11を除く平面部14の平面積を底板部2の全面積の20〜95%としたことにより、広い面積の平面部14が確保されており、電磁調理器の上に底板部2を密接させることができ、効率的に誘導加熱することができる。逆に、底板部2のエンボス部11が容器1の外側に突出している場合は、電磁調理中にビビり振動が生じ易いが、本実施形態の容器1の場合は内側に窪んでいるので、ビビり振動も生じにくい。
以上述べた種々の作用により、この容器1は、電磁調理器用として、アルミニウム箔を用いていながら発熱効率の高いものとなる。
なお、底板部2に放射エンボス部12及び周エンボス部13を形成したことにより、容器1としての剛性も高くなり、取り扱い性も良好である。もちろん、この容器1は、電磁調理器用としてだけでなく、通常の直火による調理用としても使用可能である。
【0020】
また、この容器1のアルミニウム箔として前述の組成としたが、その理由は以下の通りである。Siは質量%で0.14%を超えると耐食性が低下するおそれがあるため、0.14%以下が好ましい。Feも、0.4%を超えると耐食性が低下するおそれがあるため、0.4%以下が好ましい。このFeは、より好ましくは0.21〜0.4%が良く、0.21%未満であると、容器としての剛性が低下するおそれがある。Cuは、0.006%未満だと剛性が低下し、0.1%を超えると耐食性が低下するおそれがあるので、0.006〜0.1%が好ましい。Mgは、2%未満だと剛性が低下し、5%を超えると容器として絞り加工等するときの成形性が低下するため、2〜5%が好ましい。Crは、0.1%未満だと渦電流に対する電気抵抗が小さく、0.4%を超えると成形性が低下するので、0.1〜0.4%が好ましい。
【0021】
図5及び図6は本発明の第2実施形態を示している。これらの図において、第1実施形態と共通部分を同一符号で示している。この実施形態のアルミニウム箔容器21は、角皿状に形成されており、底板部2が平面視で若干の丸みを帯びているがほぼ正方形に形成され、周壁部3が底板部2の周縁から漸次内寸を広げながら立ち上がる角筒状に形成されている。周壁部3が多数の縦リブ5を有すること、周壁部3の上端に環状リブ7を介してフランジ部4が連続して形成され、その外周端部にカール部6が形成されていること等、第1実施形態と同様であるので、同一符号を付している。また、底板部2のエンボス部11も底板部2を容器21の内側に窪ませる凹状に形成され、放射エンボス部12と周エンボス部13とが形成されている。この場合も、エンボス部11を除く平面部14の平面積は底板部2の全体の平面積の20〜95%の比率とされる。
【0022】
この実施形態のアルミニウム箔容器21も、底板部2のエンボス部(放射エンボス部12及び周エンボス部13)が形成されていることから、渦電流に対する電気抵抗が大きく、発生するジュール熱が大きい。また、底板部2の平面部14の面積も大きく、電離調理器への密接状態も良好である。したがって、電磁調理器用のアルミニウム箔容器として、発熱効率が向上する。また、容器としての剛性も高い。
【実施例】
【0023】
次に、実施例として、質量%で、Siが0.1%、Cuが0.02%、Mgが2.5%、Crが0.2%、Mnが0.05%、Znが0.02%、Tiが0.01%含有するアルミニウム合金によって容器を成形した。
そして、その容器内に500mlの水を入れ、市販されている電磁調理器(株式会社日立製作所製IHクッキングヒーターHT−B6S)を用い、3.0kwの電力で電磁誘導加熱を行った。容器内の水温が27℃から90℃まで上昇する間の所要時間を測定した。
【0024】
また、容器内に500mlの水を入れた状態で、容器の周壁部のみを上端部及び下端部で支持するように片手で1分間持ち上げた後、台の上に降ろして容器を離したときの容器の座屈の有無も確認した。
【0025】
容器としては、図1及び図2に示す形状のもの(放射エンボス部及び周エンボス部の両方を有するもの:試料1)、図1に示すエンボス部11の形成領域に放射方向に沿う放射エンボス部のみを16本周方向に等間隔に形成したもの(試料2)、同領域に周方向に断続的に配置される周エンボス部のみを同心状に3周分形成したもの(試料3)の三種類とした。いずれもエンボス部と平面部の面積比率は50%とした。また、周壁部及びフランジ部の形状についてはいずれも図1及び図2に示す形状と同じにした。
これらの結果を表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
この表1の結果から明らかなように、本発明に係る試料1のアルミニウム箔容器は、電磁調理器により速やかに加熱することができ、強度的にも優れていることが確認された。
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0028】
1 容器
2 底板部
3 周壁部
4 フランジ部
5 縦リブ
6 カール部
7 環状リブ
11 エンボス部
12 放射エンボス部
13 周エンボス部
14 平面部
21 容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底板部とその周縁から立ち上がる周壁部とを備えるアルミニウム箔からなる電磁調理器用の容器であって、
前記底板部に、その外底面を内側に向けて凹状に窪ませてなるエンボス部が形成されるとともに、該エンボス部は、線条又は複数の線条の組み合わせからなり、前記底板部の中心に対して放射状に形成される放射エンボス部と、前記底板部の周縁部に沿う方向に形成される周エンボス部とを備え、これらエンボス部を除く前記底板部の平面部によって占められる平面積が、前記底板部全体の平面積の20〜95%の比率となるように形成されていることを特徴とする電磁調理器用アルミニウム箔容器。
【請求項2】
前記アルミニウム箔は、質量%で、Siが0.14%以下、Feが0.4%以下、Cuが0.006〜0.1%、Mgが2〜5%、Crが0.1〜0.4%含有し、残部がAl及び不可避不純物からなる組成であることを特徴とする請求項1記載の電磁調理器用アルミニウム箔容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−104176(P2011−104176A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−263397(P2009−263397)
【出願日】平成21年11月18日(2009.11.18)
【出願人】(595180017)株式会社エムエーパッケージング (23)
【出願人】(000176707)三菱アルミニウム株式会社 (446)
【Fターム(参考)】