説明

電磁連結装置及び自動扉装置

【課題】ツースブレーキにおいて,アーマチュア釈放時に発生する「叩き音」と称する騒音の発生を低コストで抑制しうる電磁連結装置を提供する。
【解決手段】固定部Bのヨーク1と回転部Cのアーマチュア2とを接離可能に対向させ,その対向面にそれぞれ設けられた歯部11と歯部21とが磁路の一部を形成しつつ噛み合うことによって固定部と回転部とのトルク伝達を実現する場合において,電磁連結時に歯部11と歯部21とが隙間部を有したまま完全結合するように,歯部11が有する複数の山形形状の歯先部111,112,・・・または歯部21が有する複数の山形形状の歯先部211,212,・・・の歯先部同士の間に平坦部121,122,・・・または221,222,・・・を設けることとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,歯部(ツース)同士の噛み合わせによりトルク伝達を行う電磁連結装置及び電磁連結装置を用いた自動扉装置に関し,特に電磁連結装置を励磁状態から非励磁状態に切り替えた際すなわちアーマチュアの釈放時に発生する「叩き音」と称する騒音の発生を低コストで抑制しうる電磁連結装置及び電磁連結装置を用いた自動扉装置に関する。
【背景技術】
【0002】
歯部同士の噛み合わせによりトルク伝達を行う電磁連結装置を利用したものとして,たとえば励磁作動形のツースブレーキまたはツースクラッチが知られている。
【0003】
たとえば特許文献1に示されるように,ツースクラッチは,ヨークと,ヨークに対して回転可能なロータと,ヨークの励磁時にロータに対して回転軸方向に移動してロータと電磁連結するアーマチュアとを備え,ヨークを励磁した際にロータとアーマチュアとの対向面に設けられたツース同士が噛み合うことによって,ロータとアーマチュア間のトルク伝達を可能にしている。また,ツースブレーキは,固定されたヨークと,ヨークに対して回転し,ヨークの励磁時にヨークに対して回転軸方向に移動してヨークと電磁連結するアーマチュアとからなり,ヨークを励磁した際にヨークとアーマチュアとの対向面に設けられたツース同士が噛み合うことによって,アーマチュアに制動トルクを伝達することが可能となっている。
【0004】
たとえば図8(a)に示すように,ツースブレーキのヨーク91およびアーマチュア92の歯部の歯先部が台形形状である場合,不完全噛み合いとなるおそれがある。すなわち,ヨークに対するアーマチュアの相対角度によっては,励磁時に台形の上辺である平坦面同士が吸着し,噛み合う相対角度までアーマチュアが滑りを生じるという問題がある。この問題は,ツースブレーキであればアーマチュアが停止状態で励磁する場合,またはツースクラッチであればロータおよびアーマチュアがともに停止状態で励磁する場合,いわば静止連結時に発生しやすい。そこで静止連結時であってもヨークとアーマチュアとを完全噛み合いできるようにするため,ヨークおよびアーマチュアの歯先部を平坦面のない山形形状にする対策が取られている。たとえば図8(b)に,山形形状のヨーク91について示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−36834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが,歯先部を平坦面のない山形形状にした場合,歯先部の形状によっては励磁状態から非励磁状態に切り替えたとき,すなわちアーマチュアの釈放時に衝突音が発生するという問題がある。以下,詳細についてツースブレーキを例に挙げて説明する。
【0007】
たとえば歯先部を切削加工により製作する場合,ヨークおよびアーマチュアの円周面に,断面が山形形状の切削工具93を当てて歯切りを行い,歯先部の1つ1つを形成していく。すると,既に切削された方向に向かって,新しく形成された歯先部の先端部が切削工具によって押し出され,結果として図8(b)に示すように,凹部9111および凸部9112を有し,先端部が全て同じ向きで折れ曲がったような歯先部911が形成される。こうして複数の歯先部からなる歯部が形成されたヨークおよびアーマチュアを対向させてツースブレーキを外周から見た様子を図9(a)、(b)および図10(a)、(b)に示す。以下の説明のため,アーマチュアの電磁連結方向をZ軸,ツースブレーキの外周面の接線方向をX軸と定義する。また,アーマチュアは図示しない他の負荷からの制動力によってヨークに対して静止状態であるとする。なお,外周から見たヨークの歯先部911と912の間の谷9113はZ軸上にあり,アーマチュアの歯先部921の先端部9210は非励磁状態では図9(a)に示すようにX軸の正の方向にあるとする。また,各部の記号は図9および図10に示す通りである。
【0008】
非励磁状態から励磁状態に切り替えた場合,アーマチュアの歯先部とヨークの歯先部とを通る磁路が形成されてアーマチュアはヨーク側すなわちZ軸の負の方向に吸引される。このとき,たとえばアーマチュアの歯先部の先端9210がヨークの歯先部の凹部9121を滑りながら移動し,結果として図9(b)に示すように完全噛み合い状態で電磁連結する。すなわち,制動力によって静止状態にあったアーマチュアはX軸の負の方向に付勢された状態となるため,アーマチュアにはF1に示すX軸の正の方向の反力が作用する。
【0009】
次に励磁状態から非励磁状態に切り替えた場合,図9(b)に示すようにアーマチュアの歯先部の凸部9211とヨークの歯先部の凸部9122との隙間が狭いため,アーマチュアの歯部の凸部9211は,残留磁束による吸引力によって図10(a)に示すようにヨークの歯先部の凸部9112を滑りながらZ軸の正の方向に離間する。このとき,アーマチュアは(b)の状態よりも更にX軸の負の方向に付勢された状態となるため,アーマチュアにはF2に示すX軸の正の方向の反力が作用する(F1<F2)。
【0010】
そして反力F2が残留磁束による吸引力を上回ると,図10(b)の破線に示すようにアーマチュアの歯先部の先端9210はヨークの歯先部911の先端9110から離間してX軸の正の方向に戻り,ヨークの歯先部912の先端と衝突する。このとき,アーマチュアは叩き音を発生する。そのため,たとえば建物内に設けられた自動扉の開閉用などにこのツースブレーキが用いられた場合には,ツースブレーキが耳障りな音を発生するため,建物内の静音性を低下させる原因となっていた。
【0011】
以上の不都合は,切削加工などの歯部の製作方法が原因で発生するのではなく,主に歯先部の山形形状がツースブレーキの外周面から見て左右非対称形状である場合に発生する。すなわち,アーマチュアの釈放時において,歯先部の左右で残留磁束の偏りが生じることによって,アーマチュアに作用している制動力とは異なる向きに不要な力が生じる場合に発生する。なお,同様の不都合はツースクラッチでも起こりえる。こうした不都合は,たとえば残留磁束に偏りが生じないように加工精度を高くして歯先部を製作することによって解消できると考えられるが,製造コストが高くなるという問題が生じる。また,折れ曲がった歯先部の折れ曲がりを追加工により修正することも考えられるが,歯先部の山の高さが小さい場合(たとえば0.2〜0.3mm)には,修正は容易ではなく,また修正にかかるコストが高くなるという問題が生じる。
【0012】
本発明は,このような課題に着目してなされたものであって,励磁作動形のツースブレーキやツースクラッチ等の電磁連結装置について,アーマチュアの釈放時に生じる「叩き音」と称される騒音の発生を低コストで抑制しうる電磁連結装置と,この電磁連結装置を用いた低騒音の自動扉装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は,かかる目的を達成するために,次のような手段を講じたものである。
【0014】
すなわち,本発明の電磁連結装置は,第1のトルク伝達部と,該第1のトルク伝達部に回転軸方向で対向し該第1のトルク伝達部に対して前記回転軸の回転方向に制止した状態で電磁連結される第2のトルク伝達部とを備え,前記第1のトルク伝達部と前記第2のトルク伝達部との対向面にそれぞれ設けられた第1の歯部と第2の歯部とが前記電磁連結時に磁路の一部を形成しつつ一体的に噛み合うことにより前記第1のトルク伝達部と前記第2のトルク伝達部とのトルク伝達を行う電磁連結装置であって,前記第1の歯部が複数の山形形状の第1の歯先部を有し,前記第2の歯部が複数の山形形状の第2の歯先部を有し,前記電磁連結時に,前記第1の歯先部に隣り合う2つの前記第2の歯先部のうちいずれか一方のみが前記第1の歯先部と当接するように,前記第1の歯先部と他方の前記第2の歯先部との間に隙間部を有することを特徴とする。
【0015】
ここで山形形状とは,山の先端部が鋭角あるいは丸みを帯びた形状いずれをも含む概念であり,隣り合う歯先部同士をつなぐ谷と歯先部の山すなわち先端とを結ぶ線が,直線あるいは曲線や不連続な線であっても良い。
【0016】
このような構成によると,第1のトルク伝達部と第2のトルク伝達部とが電磁連結する際に,第1の歯部と第2の歯部とが当接して滑りながら噛み合いした場合には,歯部が当接していない側に隙間部が形成される。すなわち,第1の歯先部と第2の歯先部とがバックラッシュを有したまま電磁連結することになる。そのため,釈放時には残留磁束が隙間部よりも第1および第2の歯部同士が当接している部分に集中し,第1および第2の歯部が電磁連結時と同じように当接したまま離間するので,第1または第2のトルク伝達部に不要な力が作用することなく,第1のトルク伝達部と第2のトルク伝達部とが離間する。その結果,第1および第2の歯部同士が衝突する際の叩き音を抑制することができる。
【0017】
特に好ましい適用対象としては、前記山形形状の第1または第2の歯先部の少なくともどちらか一方が,非対称形状であるものが挙げられる。
【0018】
ここで歯先部が非対称形状とは,歯部を外周側から見て,歯先部の先端から回転軸と平行な線を延ばしたときに,その線に対して歯先部が非対称という意味である。なお,非対称な形状は,製作の結果として形成されていても良いし,意図的に設計して形成しても良い。また,経年変化や電磁連結装置の繰り返し動作の結果,非対称形状となった場合でも良い。
【0019】
このような構成によると,歯先部が非対称形状であっても,第1および第2の歯部同士が衝突する際の叩き音を抑制することができる。たとえば従来のように切削加工によって歯先部を形成した際に,歯先部が折れ曲がった形状となった場合でも叩き音を抑制できる。そのため,折れ曲がった先端部を修正する必要がないので,修正にコストを不要とすることができる。
【0020】
前記隙間部は,前記第1または第2の歯部の少なくとも一方において,当該歯部を構成する歯先部間に回転方向に伸びる平坦部によって形成されることが望ましい。
【0021】
ここで平坦部とは,回転方向に一直線上に形成されるものであっても良いし,第1および第2の歯部同士の連結・離間を妨げないのであれば少なくとも一部に凹部または凸部を有していても良い。
【0022】
このような構成によると,積極的に設けた平坦部によって隙間部が形成されるので,歯先部を製作する際の加工精度が低い場合であっても叩き音を抑制することができる。
【0023】
また,前記隙間部は,前記第1のトルク伝達部と前記第2のトルク伝達部の間に,前記第1の歯先部と前記第2の歯先部が完全に噛み合う前に優先的に当接する当接部によって形成されることが望ましい。
【0024】
ここで当接部は,第1または第2のトルク伝達部に一体的に設けられていても良いし,第1あるいは第2のトルク伝達部とは別部材で構成されていても良い。
【0025】
この構成によると,第1のトルク伝達部と第2のトルク伝達部とが電磁連結する際に,第1の歯部と第2の歯部とが当接して滑りながら噛み合いした場合には,第1の歯部と第2のトルク歯部とが完全に噛み合う前に当接部が当接するので,歯部が当接していない側に隙間部が形成される。すなわち,歯先部の加工精度を上げることなく歯先部以外の構成によってバックラッシュを確実に設けることができるので,低騒音かつ低コストな電磁連結装置を安定した品質で得ることができる。
【0026】
本発明の電磁連結装置は,以上の構成であるから,自動扉装置に適用して叩き音が抑制された励磁作動形の電磁ブレーキまたは電磁クラッチとして利用することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明は,以上説明した構成であるから,電磁連結装置を励磁状態から非励磁状態に切り替えた際に発生する叩き音を低減ないし抑制することができる。したがって,騒音の発生を低コストで抑制しうる電磁連結装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1の実施形態に関わる電磁連結装置を適用した励磁作動形のツースブレーキを示す正面図および側面図。
【図2】本発明の第1の実施形態の動作を示す図。
【図3】本発明の第1の実施形態の動作を示す図。
【図4】本発明の第2の実施形態に関わる電磁連結装置を適用した励磁作動形のツースブレーキのヨークおよびアーマチュアの断面を示す図。
【図5】本発明の第2の実施形態の動作を示す図。
【図6】本発明の第2の実施形態の動作を示す図。
【図7】本発明を適用した励磁作動形のツースクラッチを示す図。
【図8】従来のツースブレーキの歯先部を示す図。
【図9】従来のツースブレーキの動作を示す図。
【図10】従来のツースブレーキの動作を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下,本発明の実施形態について,図面を参照して説明する。
【0030】
第1の実施形態の電磁連結装置は,図1の励磁作動形ツースブレーキAに適用される。このツースブレーキAは,第1のトルク伝達部である固定部Bと,第2のトルク伝達部である回転部Cとからなる。
【0031】
固定部Bは,鉄などの強磁性体からなるヨーク1と,ヨーク1に固定された回転軸13と,軸心0回りに巻回された励磁コイル14と,緩衝部材15と,アルミなどの非磁性体からなる防塵カバー16とからなる。固定部Bは図示しない他の機器に固定される。なお,緩衝部材15は,アーマチュアをヨークに吸引した際にアーマチュアとヨークとの衝突を緩和するための部材であり,衝撃を吸収できるものであればゴムやコイルバネ,板バネなどの弾性部材でもよいし,樹脂などの粘弾性部材であっても良い。また,防塵カバー16は歯部と歯部との間に埃や油などの異物の混入を防ぐためのカバーであり,非磁性体であればアルミ以外の金属だけでなく,樹脂やゴムシートなどでも構わない。
【0032】
ヨーク1は,端面部の円周上に形成された第1の歯部11と,ヨーク中央部12とを有する。
【0033】
回転軸13は,ヨーク1より突出する回転軸突出部131を有する。
【0034】
励磁コイル14は,リード線141によって図示しない外部電源により励磁あるいは非励磁が切り替えられる。
【0035】
回転部Cは,軸心0回りに回転して図示しない他の機器などにより外部の回転トルクが伝達されるプーリ5と,プーリ5に固定されてプーリ5を回転軸突出部131に対して回転自在にするためのベアリング6と,プーリ5に固定されてプーリ5と一体的に回転するプレート51と,鉄などの強磁性体からなるアーマチュア2と,プレート51に固定されてアーマチュア2をプーリ5側に付勢しプーリ5およびプレート51と一体的に回転させるための板バネ52とからなる。この回転部Cは,回転軸突出部131から軸方向に抜け落ちるのを防ぐためにストッパ7によって軸方向の移動が拘束されている。なお,プーリ5は,他の機器とたとえばベルトなどの伝達部材によって他の機器と連結されている。勿論,プーリの代わりに歯車によって他の機器と直接連結されていても良い。また,ベアリング6は軸方向に2つ直列に設けられているが,1つあるいは2つ以上設けられていても良い。板バネ52は,アーマチュア2をプーリ5側に付勢する弾性部材の一例として採用したものであり,他の弾性部材として、たとえばプレート51に対するアーマチュアの回転を別部材で拘束するなどしてコイルバネを用いるようにしても良い。
【0036】
アーマチュア2は,ヨーク1の第1の歯部11に対抗する位置に第2の歯部21と,ヨーク中央部12に対して突出したアーマチュア突出部22とを有する。このアーマチュアは,内周23に回転軸突出部131が遊嵌状態で挿通されるとともに,前述した板バネ52によって,常時,ヨーク1の第1の歯部11からアーマチュア2の第2の歯部21が離間する方向に弾性力の作用を受けている。
【0037】
カラー8はアルミなどの非磁性体からなり,固定部Bに対する回転部Cの軸方向位置,すなわち非励磁時におけるヨーク1の第1の歯部11とアーマチュア2の第2の歯部21との間隔(ギャップ)を一定に保つ役割を持つ。
【0038】
すなわち,図1の状態から励磁されることによって,ヨーク1の第1の歯部11,アーマチュアの第2の歯部21,アーマチュア2,アーマチュア中央部22,そしてヨーク中央部12を通る磁路が形成されるため,アーマチュア2は板バネ52の反力に打ち勝ってヨーク1側に吸引され,第1の歯部11と第2の歯部21とで噛み合いを生じる。なお,第1の実施形態では,電磁連結状態においてヨーク中央部12とアーマチュア中央部22とは離間したままである。アーマチュア2は,電磁連結状態では固定部Bより制動トルクを伝達されて回転部Bに制動トルクを作用させる。そして,消磁されることによって,アーマチュア2が板バネ52の反力の作用によりヨーク1から離間し,第1および第2の歯部11,21とは噛み合い状態から開放されて釈放状態となる。その結果,回転部Cへの制動トルクが解除される。
【0039】
このような構成において,制動状態から制動解除状態,すなわち励磁状態から非励磁状態へ切り替えた際に,歯部の左右に残留磁束の偏りが生じてアーマチュア2に作用している制動力とは異なる向きに不要な力が生じることによって,アーマチュア2の歯部21がヨーク1の歯部11に衝突して「叩き音」と称する騒音を発生するおそれがある。
【0040】
そこで本実施形態は,山形形状の歯先部が複数連続して並ぶ従来のヨークおよびアーマチュアの歯部の構成から,図2(a)に示すように隣り合う歯先部111,112,113,114,・・・および211,212,213,・・・の間に平坦部121,122,123,124,・・・および221,222,223,・・・を有する歯部の構成としている。なお,第1の歯先部111,112,113,・・・は,従来技術と同様に,歯先部の先端を通る二等分線に対して凸部1112,1122,1132,・・・と凹部1111,1121,1131,・・・を有する非対称形状であり、第2の歯先部211,212、・・・も,従来技術と同様に,歯先部の先端を通る二等分線に対して凸部2111,2121・・・と凹部2112,2122・・・を有する非対称形状である。
【0041】
このように構成すると,ツースブレーキを励磁状態から非励磁状態に切り替えた際に,アーマチュア2の歯部21がヨーク1の歯部11に衝突して発生する叩き音を抑制することができる。以下,図2(a)、(b)および図3(a)、(b)を参照しながらその作用について述べる。
【0042】
図2(a)は,電磁連結前におけるヨーク1の歯部11とアーマチュア2の歯部21を示す図である。なお,以下の説明のため,従来技術の説明と同様にアーマチュア2の電磁連結方向をZ軸,ツースブレーキの外周面の接線方向をX軸と定義する。また,アーマチュア2は図示しない他の負荷からの制動力によってヨーク1に対して回転軸の回転方向に制止した状態であるとする。なお,外周から見たヨーク1の平坦部122はその略中央部がZ軸上にあり,ヨークの歯部の先端部2120は非励磁状態では図2(a)に示すようにX軸の正の方向にあるとする。
【0043】
非励磁状態から励磁状態に切り替えた場合,アーマチュア2の歯部21とヨーク1の歯部11とを通る磁路が形成されてアーマチュア2はヨーク1側すなわちZ軸の負の方向に吸引される。そして,アーマチュア2の歯部21の先端,たとえば歯先部212の先端2120は,ヨーク1の歯部11の凹部である歯先部113の左側の凹部1131を滑りながら移動し,結果として図2(b)に示すように先端2120がヨーク1の平坦部122と当接した状態となる。このとき,たとえばヨーク1の歯先部112の凸部1122,平坦部122,アーマチュア歯先部212の凸部2121,平坦部221とで囲まれた領域のように,ヨーク1の歯先部111、112、113・・・とアーマチュア2の歯先部211,212,213・・・との間に31,32,33,・・・からなる隙間部3が形成される。なお,従来技術の時と同様に,制動力によって静止状態にあったアーマチュア2はX軸の負の方向に付勢された状態となるため,アーマチュアにはF3に示すX軸の正の方向の反力が作用する。
【0044】
次に励磁状態から非励磁状態に切り替えた場合,たとえばアーマチュア2の歯先部212の先端2120がヨーク1の平坦部122と当接しており,かつ歯先部212の凸部2121とヨーク1の歯先部112の凸部1122との間には隙間部32が形成されているため,残留磁束は先端2120と平坦部112あるいは凹部2122と凹部1131とを通りやすく,凸部2121と凸部1122とを通りにくくなる。そのため,図3(a)に示すように,アーマチュア2の歯先部212はヨーク1の歯先部113の凹部1131を滑りながらZ軸の正の方向に離間する。このとき,アーマチュア2は(b)の状態で付勢されたX軸負の向きとは逆に移動し,歯先部212,113の先端同士が当接する状態では(a)の状態よりもX軸正の方向へ付勢される。このとき,アーマチュア2にはF4に示すX軸の負の方向の反力が作用する(F3>F4)。
【0045】
そして反力F4が残留磁束による吸引力を上回ると,図3(b)に示すようにアーマチュア2の歯先部212の先端はヨーク1の歯先部113の先端から離間する。このとき,アーマチュア2に作用していた反力F4は,従来技術におけるF2よりも小さいので,従来技術のようにアーマチュア2の歯先部212がヨーク1の歯先部113と衝突するのを防ぐことができる。あるいは,衝突した場合でも騒音の発生を抑制することができる。
【0046】
次に,第2の実施形態について図4,図5(a)、(b)および図6(a)、(b)を参照しながら説明する。第2の実施形態の電磁連結装置もまた,励磁作動形ツースブレーキAに適用される。なお,第1の実施形態と同様の構成については同じ符号を振り,説明を省略する。
【0047】
第2の実施形態は,ヨークおよびアーマチュアの構成のみが第1の実施例と異なる。図4は,第2の実施形態におけるヨーク1’およびアーマチュア2’の詳細を示す。
【0048】
ヨーク1’は,端面側の円周上に形成された第1の歯部11’と,ヨーク中央部12’とを有する。
【0049】
アーマチュア2’は,ヨーク1’の第1の歯部11’に対抗する位置に第2の歯部21’と,ヨーク中央部12’に対して突出したアーマチュア突出部22’とを有する。
【0050】
第1の歯部11’および第2の歯部21’は,図5(a)に示すように第1の実施例とは異なり平坦部を有しておらず,従来技術と同様に複数の山形形状の歯先部111’,112’,113’,・・・および211’,212’,213’,・・・が連続して形成されている。そして,外周から見て,ヨーク中央部12’の端面は,ヨーク歯先部の先端1110’,1120’,1130’,・・・と谷1210,1220,・・・との間に位置し,アーマチュア突出部22’の端面はアーマチュア歯先部の先端2110’,2120’,2130’,・・・と谷2210,2220,2230,・・・との間に位置している。すなわち,ヨーク中央部12’およびアーマチュア突出部22’は,第1の歯部11’と第2の歯部21’とが完全に噛み合う前に優先的に当接する当接部である。
【0051】
このように構成しても,ツースブレーキを励磁状態から非励磁状態に切り替えた際に,アーマチュア2’の歯部21’がヨーク1’の歯部11’に衝突して発生する叩き音を抑制することができる。以下,図5(a)、(b)および図6(a)、(b)を参照しながらその作用について述べる。
【0052】
図5(a)は,電磁連結前におけるヨーク1’の歯部11’とアーマチュア2’の歯部21’を示す図である。なお,以下の説明のため,従来技術の説明と同様にアーマチュア2’の電磁連結方向をZ軸,ツースブレーキの外周面の接線方向をX軸と定義する。また,アーマチュア2’は図示しない他の負荷からの制動力によってヨーク1’に対して静止状態であるとする。なお,外周から見たヨーク1’の谷1210はZ軸上にあり,アーマチュア2’の歯部21’の先端部2120’は非励磁状態では図5(a)に示すようにX軸の正の方向にあるとする。
【0053】
非励磁状態から励磁状態に切り替えた場合,アーマチュア2’の歯部21’とヨーク1’の歯部11’とを通る磁路が形成されて,アーマチュア2’はヨーク1’側すなわちZ軸の負の方向に吸引される。そして,アーマチュア2’の歯部21’の先端,たとえば歯先部212’の先端2120’は,ヨーク1’の歯部11’の凹部である歯先部112’の左側の凹部1121’を滑り,ヨーク中央部12’とアーマチュア突出部22’とが当接するまで移動する。結果として,図5(b)に示すように,先端2120’が歯先部112’の左側の凹部1121’に当接したまま電磁連結状態となる。すなわち,第1の実施形態と同様に,たとえばヨーク1の歯先部111’の先端1110’,凸部1122’,谷1210,アーマチュア歯先部212’の先端2120’,凸部2121’,谷2210とで囲まれた領域のように,ヨーク1の歯先部111’
、112’、113’・・・とアーマチュア2’の歯先部211’ ,212’,213’・・・との間に31’,32’,33’,・・・からなる隙間部3’が形成される。なお,制動力によって静止状態にあったアーマチュア2’はX軸の負の方向に付勢された状態となるため,アーマチュアにはF3’に示すX軸の正の方向の反力が作用する。
【0054】
次に励磁状態から非励磁状態に切り替えた場合,たとえばアーマチュア2の歯先部212’の先端2120’がヨーク1’の歯先部112’の左側の凹部1121’と当接しており,かつ歯先部212’の凸部2121’とヨーク1’の歯先部111’の凸部1112’との間には隙間部31’が形成されているため,残留磁束は先端2120’と凹部1121’とを通りやすく,凸部2121’と凸部1112’とを通りにくくなる。そのため,図6(a)に示すように,アーマチュア2’の歯先部212’はヨーク1’の歯先部113’の凹部1131’を滑りながらZ軸の正の方向に離間する。このとき,アーマチュア2’は(b)の状態で付勢されたX軸負の向きとは逆に移動し,歯先部212’,113’の先端同士が当接する状態では(a)の状態よりもX軸正の方向へ付勢される。このとき,アーマチュア2’にはF4’に示すX軸の負の方向の反力が作用する(F3’>F4’)。
【0055】
そして反力F4’が残留磁束による吸引力を上回ると,図6(b)に示すようにアーマチュア2’の歯先部212’の先端はヨーク1’の歯先部113’の先端から離間する。このとき,アーマチュア2’に作用していた反力F4’は,従来技術におけるF2’よりも小さいので,従来技術のようにアーマチュア2’の歯先部212’がヨーク1’の歯先部113’と衝突するのを防ぐことができる。あるいは,衝突した場合でも騒音の発生を抑制することができる。
【0056】
特に第2の実施形態の場合,第1の実施形態とは異なり,歯先部以外の構成によって容易に隙間部を設けることができるだけでなく,隙間部の大きさをヨーク中央部12’およびアーマチュア突出部22’すなわち当接部の寸法によって容易に調整することができるので,歯先部の加工精度を上げることなく,低騒音かつ低コストな電磁連結装置を安定した品質で大量に製造することができる。
【0057】
なお,第1および第2の実施形態において,非励磁状態から励磁状態に切り替えた際にアーマチュアの歯先部がヨークの歯先部に対してX軸の正の方向に向かって移動した場合についてのみ説明したが,アーマチュアの歯先部がヨークの歯先部に対してX軸の負の方向に向かって移動した場合についても,何ら問題はない。たとえば第1の実施形態において,非励磁状態におけるアーマチュア2の歯先部212の先端2120がX軸の負の方向にある場合には,励磁状態に切り替えるとアーマチュア2の歯先部212は,その凸部2121がヨーク1の歯先部112の凸部1122を滑った後に平坦部122に当接する。この場合,隙間部はアーマチュア21の歯先部212の凹部2122,平坦部222,ヨーク11の歯先部113の凹部1131,平坦部122とで囲まれた領域となる。そして,消磁状態に切り替えると凸部2121と凸部1122とが滑り,アーマチュアの歯先部の先端2120はヨークの歯先部の先端1120から離間するので,従来技術のようにアーマチュアの歯先部がヨークの歯先部と衝突するのを防ぐことが出来る。
【0058】
また,第1および第2の実施形態では,ヨークまたはアーマチュアの歯先部の向きは同じであったが,逆向きでも構わない。たとえば,実施例1のヨーク11の歯先部について,凸部が右側で凹部が左側として説明したが,凸部が左側で凹部が右側であっても良い。
【0059】
本発明の電磁連結装置は,以上のような構成であるから,可及的な静音性が求められる自動扉用の励磁作動形ツースブレーキやツースクラッチへの利用が好適である。
【0060】
以上,本発明の第1および第2の実施形態について説明したが,各部の具体的な構成は前述した実施形態のみに限定されるものではなく,本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【0061】
たとえば,実施形態ではツースブレーキについて説明したが,本発明をツースクラッチに適用しても構わない。ツースクラッチに適用する場合は,図7に示すように、第1のトルク伝達部はロータ4,回転軸13’’とからなり,第2のトルク伝達部はアーマチュア2’’,プーリ5’’,回転軸13’’’,プーリ5’’に固定されてアーマチュア2’’をプーリ5’’側に付勢して一体的に回転させるための図示しない板バネとからなる。すなわち,ツースクラッチにおけるヨークとアーマチュアの代わりに,図7に示すロータ4とアーマチュア2’’との対抗面にそれぞれ設けられた歯部41および21’’に本発明が適用可能である。
【0062】
第1の実施形態について,平坦部はヨーク1またはアーマチュア2のどちらか一方に設けられていても良い。たとえば,第1の歯部11および第2の歯部21のそれぞれについて歯先部のピッチが等しく,ヨーク1側に平坦部があり,アーマチュア2側には平坦部がなく従来と同じような複数の山形形状の歯先部が連続して設けられている構成でも良いし,あるいはその逆でも構わない。
【0063】
第2の実施形態について,当接部はヨーク中央部12’と,ヨーク12’に向けて突出したアーマチュア突出部22’から構成されていたが,ヨーク中央部12’とアーマチュア突出部22’の少なくとも一方が相手側に向けて突出しても良い。また,緩衝部材15が当接部を兼ねていても良い。
【0064】
また,第1と第2の実施形態を併用しても構わない。すなわち,ヨークまたはアーマチュアの歯部に平坦部およびヨークとアーマチュアに当接部が同時に設けられる構成としても良い。このように構成することにより,より確実に釈放時の叩き音を抑制することができる。
【符号の説明】
【0065】
A…励磁作動形ツースブレーキ
B…第1のトルク伝達部(励磁作動形ツースブレーキの固定部)
C…第2のトルク伝達部(励磁作動形ツースブレーキの回転部)
1,1’…ヨーク
2,2’…アーマチュア
3,3’…隙間部
5…プーリ
6…ベアリング
11,11’…第1の歯部
12,12’…第2の実施形態における当接部(ヨーク中央部)
13…回転軸
14…励磁コイル
21,21’…第2の歯部
22,22’…第2の実施形態における当接部(アーマチュア突出部)
51…プレート
52…板バネ
111,112,113,114,111’,112’,113’,114’…第1の歯先部
211,212,213,214,211’,212’,213’,214’…第2の歯先部
121,122,123,124…第1の実施形態における平坦部(ヨーク側)
221,222,223,224…第1の実施形態における平坦部(アーマチュア側)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のトルク伝達部と,該第1のトルク伝達部に回転軸方向で対向し該第1のトルク伝達部に対して前記回転軸の回転方向に制止した状態で電磁連結される第2のトルク伝達部とを備え,前記第1のトルク伝達部と前記第2のトルク伝達部との対向面にそれぞれ設けられた第1の歯部と第2の歯部とが前記電磁連結時に磁路の一部を形成しつつ一体的に噛み合うことにより前記第1のトルク伝達部と前記第2のトルク伝達部とのトルク伝達を行う電磁連結装置であって,
前記第1の歯部が複数の山形形状の第1の歯先部を有し,
前記第2の歯部が複数の山形形状の第2の歯先部を有し,
前記電磁連結時に,前記第1の歯先部に隣り合う2つの前記第2の歯先部のうちいずれか一方のみが前記第1の歯先部と当接するように,前記第1の歯先部と他方の前記第2の歯先部との間に隙間部を有する
ことを特徴とする電磁連結装置
【請求項2】
請求項1に記載の電磁連結装置であって,
前記山形形状の第1または第2の歯先部の少なくともどちらか一方が,非対称形状である
ことを特徴とする電磁連結装置
【請求項3】
請求項1または2に記載の電磁連結装置であって,
前記隙間部は,前記第1または第2の歯部の少なくとも一方において,当該歯部を構成する歯先部間に回転方向に伸びる平坦部によって形成される
ことを特徴とする電磁連結装置
【請求項4】
請求項1乃至3に記載の電磁連結装置であって,
前記隙間部は,前記第1のトルク伝達部と前記第2のトルク伝達部の間に,前記第1の歯先部と前記第2の歯先部が完全に噛み合う前に優先的に当接する当接部によって形成される
ことを特徴とする電磁連結装置
【請求項5】
請求項1乃至4に記載の電磁連結装置を備えたことを特徴とする自動扉装置



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−164175(P2010−164175A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−8802(P2009−8802)
【出願日】平成21年1月19日(2009.1.19)
【出願人】(000002059)シンフォニアテクノロジー株式会社 (1,111)
【Fターム(参考)】